説明

光感応性組成物

【課題】光で記録し、熱で消去する書き換え可能型記憶材料としての機能を発現する光感応性組成物を得る。記憶材料中にハロゲン化銀を生成させるのに塩化水素ガスを用いる方法では、その腐食性が強く、扱いが不便である。熱分解を用いる方法では、耐熱性の低い基板材料への適用が困難であり、ハロゲン化銀結晶が成長して粗大化してフォトクロミック特性が損なわれる。また、銀微粒子を担持させた酸化チタンを塗布し、銀の酸化を利用する方法では、得られる膜は半透明であり、基板との密着力が弱いなどの問題がある。
【解決手段】水に可溶な銀化合物と3官能オルガノアルコキシシランとチタン化合物との共加水分解・縮重合物からなる一般式Ag2O-RxSiO(4−x)/2-TiO2(R:有機官能基、xは、不等式0<x≦2を満たす数値)で表される光感応性組成物を提供することにより、上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光照射によって着色する光感応性組成物を基板に塗布し、成膜することによって、いわゆるフォトクロミック材料を作製することができる。得られたフォトクロミック材料は、サングラス、窓材としての応用だけではなく、ホログラム素子、光メモリー、調光素子への応用が期待されている。フォトクロミック性を示す材料としては、ハロゲン化銀を含むガラスなどの無機系材料と、スピロピランなどの有機系材料があるが、一般に、基板に均一に低温で成膜することは困難であった。また、フォトクロミック膜材料には、着色−消色の繰り返し安定性や応答速度と膜の機械的強度が求められている。

【背景技術】
【0002】
これまでに、ガラス基体上にハロゲン化銀系のフォトクロミック性を有する被膜を形成する方法がいくつか提案されている。例えば、1)アルコキシシランと可溶性銀塩とを含む溶液をガラス基体上に塗布した後、塩化水素ガス中でハロゲン化処理をする方法(非特許文献1)末端がハロゲンに置換された炭化水素基が結合したアルコキシシランを用い、膜を高温熱処理することによって熱分解によって遊離ハロゲンを発生させる方法(非特許文献2)、銀を含む超微粒子と、ケイ素化合物と、熱分解によりハロゲンを遊離する化合物を含む塗布液をガラス基体上に塗布して下層膜を形成し、さらにケイ素化合物と銅化合物とを含む塗布液を塗布加熱して上層膜を形成するフォトクロミックガラスの製造方法(特許文献1)、銀微粒子を担持させた酸化チタンを塗布する方法(特許文献2)などが報告されている。
【非特許文献1】SPIEProc.,1590,152−159(1991))、2
【非特許文献2】J.Sol−GelSci.Tech.,1,217−231(1994)
【特許文献1】特開2001−39739
【特許文献2】特開2004−018549
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
光で記録し、熱で消去する書き換え可能型記憶材料としての機能を発現する光感応性組成物を得るのに、塩化水素ガスを用いて塩化銀を生成させる方法では、その腐食性が強く、扱いが不便である。熱分解を用いる方法では、耐熱性の低い基板材料への適用が困難であり、ハロゲン化銀結晶が成長して粗大化してフォトクロミック特性が損なわれる。また、銀微粒子を担持させた酸化チタンを塗布し、銀の酸化還元を利用する方法では、得られる膜は半透明であり、基板との密着力が弱いなどの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意努力した結果、無機−有機複合体からなる光感応性組成物を工夫するに至り、上記課題の解決に至った。本発明は以下の[1]〜[4]に記載の手段により特定される。
【0005】
[1] 銀とオルガノシロキサンと酸化チタンを主たる構成成分とする光感応性組成物を提供する。
【0006】
[2] 前記オルガノシロキサンがビニル基、あるいはエポキシ基を有することを特徴とする[1]に記載の光感応性組成物を提供する。
【0007】
[3] 水に可溶な銀化合物とオルガノアルコキシシランとチタン化合物の共加水分解・縮重合物からなる[1]乃至[2]に記載の光感応性組成物を提供する。
【0008】
[4] 下記一般式(1)で表される[1]、[2]もしくは[3]に記載の光感応性組成物を提供する。
一般式(1)
[化2] AgO−RSiO(4−x)/2−TiO
一般式(1)中、R:有機官能基、xは、不等式0<x≦2、を満たす数値

【発明の効果】
【0009】
本発明における光感応性組成物を使用することにより、光で記録し、熱で消去する書き換え可能型記憶材料としての機能が発現する。また、銀ナノ粒子がプラズモン共鳴により粒子のサイズや形状に応じて様々な波長の光を吸収するので、特定波長の可視光を本発明の光感応性組成物に照射することによって、照射した光を選択的に透過するカラーフィルター特性が発現する。

【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における光感応性組成物は、銀とオルガノシロキサンと酸化チタンを含むことを特徴とし、この光感応性組成物中の有機官能基がビニル基、あるいはエポキシ基の場合には、紫外光照射によって銀イオン(Ag)が効率的に還元され金属銀(Ag)ナノコロイドとして析出し、着色させることが可能となる。また、空気中100℃程度での加熱によってこの光感応性組成物中の非晶質状態の酸化チタン(TiO)成分が、金属銀(Ag)ナノコロイドを再び酸化して銀イオン(Ag)状態に戻して消色させることが可能となる。つまり、光で記録し、熱で消去する書き換え可能型記憶材料としての機能が発現する。また、銀ナノ粒子はプラズモン共鳴により粒子のサイズや形状に応じて様々な波長の光を吸収するが、この特徴を利用して、特定波長の可視光を本発明の光感応性組成物に照射することによって、照射した光を選択的に透過するカラーフィルター特性が発現する。
【0011】
本発明では、水に可溶な銀化合物とオルガノアルコキシシランとチタン化合物との共加水分解・縮重合物からなる、一般式(1)AgO−RSiO(4−x)/2−TiOで表される光感応性組成物を提供する。該光感応性組成物を塗布乾燥することによって種々の基体にフォトクロミック性能を付与することができる。一般式(1)中、R:有機官能基、xは、不等式0<x≦2、を満たす数値である。
【0012】
本発明で用いられる上記水に可溶な銀化合物としては、硝酸銀、酢酸銀などが挙げられる。またオルガノアルコキシシランとしては、ビニルトリエトキシシラン、γグリシドキシプロピルトリオエトキシシランなどが挙げられる。さらに、チタン化合物としてはチタンテトラブトシキドなどが挙げられる。

【0013】
本発明では、一般式AgO−RSiO3/2−TiOで表される無機−有機複合体とすること(すなわち、一般式(1)において、xを1とした場合)が好ましい。AgOは硝酸銀など水に可溶な銀化合物を原料に用いることよって導入することができる。RSiO3/2のRは、ビニル基もしくはエポキシ基を有するものが好ましく、ビニルトリエトキシシランあるいはγグリシドキシプロピルトリオエトキシシランなどの3官能オルガノアルコキシシランを用いて誘導することができる。TiOはチタンテトラブトシキドなどのチタン化合物を用いて誘導することができる。膜組成の成分比は、[AgO] / ([RSiO3/2]+[TiO])=1/10〜10/1(mol/mol)、[RSiO3/2] / [TiO]=95/5〜50/50(mol/mol)の範囲にすることが好ましい。

【0014】
本発明の光感応性組成物には、主たる構成成分である銀とオルガノシロキサンと酸化チタンの他に、必要に応じて、塗膜面のフォトクロミック性能を改良するために、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、非イオン系界面活性剤などのレベリング剤、あるいは、密着性等を向上させるために、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油用染料、蛍光染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン・ヒンダードフェノール系等の耐光・耐熱安定剤、耐候性剤、さらに本発明以外の有機ケイ素化合物やエポキシ樹脂、あるいは、液を安定させるためにpH調製剤を添加することも可能である。

【実施例1】
【0015】
本発明に基づく光感応性組成物を、以下のような手順で作製した。ビニルトリエトキシシラン6.13gにエタノールを3.22g加えた溶液に、硝酸銀を0.069g溶解させた硝酸(8.6 wt%)水溶液4.1gを加えて室温で撹拌しながら30分間加水分解し、得られたゾルに、アセト酢酸エチル1.04gで安定化したチタンテトラノルマルブトキシド2.74gにエタノール3.22gを添加した溶液を加え、さらに室温で2時間加水分解を行った。得られたゾルを無アルカリガラス基板にディップコーティングしてAg1mol%を含む80ViSiO3/2・20TiO膜を作製し1時間90℃で乾燥し、本発明に基づく光感応性組成物であるAgO−ViSiO3/2−TiO系組成物を得た。ここで、Viはビニル基を意味する。
【0016】
該AgO−ViSiO3/2−TiO系組成物を塗布、成膜して得られた無機−有機ハイブリッド膜に、超高圧水銀ランプを用いて膜に紫外光照射(中心波長365nm, 50mW/cm, 10min)を行い、続いて100℃で20分程度の熱処理をおこない、銀ナノ粒子の還元析出による着色と酸化による消色に伴う分光透過率の測定を行った。また、紫外光照射後の膜に、特定波長の可視光を照射して、膜の着色に伴う分光透過率の測定を行った。図1に紫外光照射前後の80ViSiO3/2・20TiO膜の吸収スペクトルを示す。紫外光照射後には420nm付近の吸収が増加し、膜は褐色を呈した。また紫外光照射、熱処理を繰り返し行い、420nmの吸収をプロットしたものを図2に示す。紫外光照射による吸収の増加、熱処理による吸収の減少が再現性よくおこっていることがわかる。紫外光照射前後における膜のFT−IRスペクトル測定結果を図3に示す。紫外光照射後は1650cm−1付近のビニル基に帰属されるピークが減少し、1700cm−1,3500cm−1付近のカルボン酸のピークの増加が観測された。生成したカルボン酸が銀ナノ粒子の還元析出に関与していると考えられる。

【実施例2】
【0017】
本発明に基づく光感応性組成物を、以下のような手順で作製した。3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン7.85gを2.82gのエタノールに加えたエタノール溶液に、硝酸銀0.06gを溶解させた硝酸(8.6 wt%)水溶液3.7gを加えて室温で撹拌しながら30分間加水分解し、得られたゾルにアセト酢酸エチル0.91gで安定化したチタンテトラノルマルブトキシド2.4gにエタノール2.82gを加えた溶液を加え、さらに室温で2時間加水分解を行った。得られたゾルを無アルカリガラス基板にディップコーティングしてAg1mol%を含む80GPSiO3/2・20TiO膜を作製し1時間90℃で乾燥し、本発明に基づく光感応性組成物であるAgO−GPSiO3/2−TiO系組成物を得た。ここで、GPはグリシドキシプロピル基を意味する。


【0018】
該AgO−GPSiO3/2−TiO系組成物を塗布、成膜して得られた無機−有機ハイブリッド膜に、超高圧水銀ランプを用いて膜に紫外光照射(中心波長365nm, 50mW/cm, 10min)を行い、続いて100℃で20分程度の熱処理をおこない、銀ナノ粒子の還元析出による着色と酸化による消色に伴う分光透過率の測定を行った。また、紫外光照射後の膜に、特定波長の可視光を照射して、膜の着色に伴う分光透過率の測定を行った。図4に紫外光照射前後の80GPO3/2・20TiO膜の吸収スペクトルを示す。紫外光照射後には420nm付近の吸収が増加し、膜は褐色を呈した。また紫外光照射、熱処理を繰り返し行い、420nmの吸収をプロットしたものを図5に示す。紫外光照射による吸収の増加、熱処理による吸収の減少が再現性よくおこっていることがわかる。紫外光照射前後における膜のFT−IRスペクトル測定結果を図6に示す。紫外光照射後は1630cm−1付近のエポキシに帰属されるピークが減少し、1700cm−1,3500cm−1付近のカルボン酸のピークの増加が観測された。生成したカルボン酸が銀ナノ粒子の還元析出に関与していると考えられる。

【産業上の利用可能性】
【0019】

フォトクロミック材料(サングラス、窓材)

ホログラム素子

光メモリー

調光素子

表示素子

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】紫外光照射前後の80ViSiO3/2・20TiO膜の吸収スペクトル
【図2】80ViSiO3/2・20TiO膜の波長420nmでの吸収変化
【図3】紫外光照射前後の80ViSiO3/2・20TiO膜のFT−IRスペクトル
【図4】紫外光照射前後の80GPSiO3/2・20TiO膜の吸収スペクトル
【図5】80GPSiO3/2・20TiO膜の波長420nmでの吸収変化
【図6】紫外光照射前後の80GPSiO3/2・20TiO膜のFT−IRスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀とオルガノシロキサンと酸化チタンを主たる構成成分とする光感応性組成物。
【請求項2】
前記オルガノシロキサンがビニル基、あるいはエポキシ基を有することを特徴とする請求項1に記載の光感応性組成物。
【請求項3】
水に可溶な銀化合物とオルガノアルコキシシランとチタン化合物の共加水分解・縮重合物からなる請求項1乃至2に記載の光感応性組成物。
【請求項4】
下記一般式(1)で表される請求項1、2もしくは3に記載の光感応性組成物。
一般式(1)
[化1] AgO−RSiO(4−x)/2−TiO
一般式(1)中、R:有機官能基、xは、不等式0<x≦2、を満たす数値

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−138114(P2009−138114A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316638(P2007−316638)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】