説明

光拡散性樹脂組成物及び成形体

【課題】 高い全光線透過率とヘイズを有し、耐衝撃性、耐熱性、耐候性に優れた光拡散性樹脂組成物及び成形体の提供。
【解決手段】 構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を35モル%以上、90モル%以下含有する脂肪族ポリカーボネート樹脂に、微粒子を含有してなる光拡散性樹脂組成物であって、当該光拡散性樹脂組成物を用いて作製した射出成形試験片のアイゾット衝撃強度が5kJ/m以上であることを特徴とする、光拡散性樹脂組成物の作製。


(但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散性樹脂組成物及び成形体であって、例えばLED信号灯器のレンズやカバー、照明カバー、照明看板、透過型スクリーン、各種ディスプレイ、液晶表示装置の光拡散板、導光板等の材料として有用な光拡散性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、透明性に優れた熱可塑性樹脂として幅広い用途があり、また、無機ガラスに比較して軽量で、生産性にも優れているので、照明カバー、照明看板、透過型スクリーン、各種ディスプレイ、液晶表示装置の光拡散板、導光板等の光拡散性を要求される用途において、その基材として好適に使用されてきた。
ポリカーボネート樹脂に光拡散性を付与するためには、ガラス、シリカ、水酸化アルミニウム等の無機化合物の添加が提案されているが、耐衝撃性等が低下するという課題があった。
【0003】
特に光源に発光ダイオード(以下、LEDとも言う)を用いた照明等においては、光束が狭く指向性が高いためギラつきや照度ムラが生じやすく、用いるカバーに高い光拡散性が求められる。一方従来の灯具に比べてLED照明は一般に製品重量が増えるため、落下や衝突の危険性が高くなるおそれがある。そのためカバーの耐衝撃性が求められる。更にLED光源は商品寿命が長くカバー等周辺部材の耐久性や耐候性も、従来に増して改良が求められる。
【0004】
特許文献1には、ポリカーボネート樹脂100重量%に、部分的に架橋したポリメチルメタクリレート微粒子0.05〜20重量%を含有してなる光拡散性ポリカーボネート樹脂が開示されている。
【0005】
特許文献2には、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量%に、架橋アクリル樹脂0.01〜1重量%を含有してなる光拡散性樹脂組成物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、ポリカーボネート樹脂100重量%に、炭酸カルシウム0.1〜5重量%、酸化チタン0.01〜0.3重量%、ポリオルガノ水素シロキサン0.0001〜2重量%を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【0007】
特許文献4には、ポリカーボネート樹脂99.7〜80重量%、透明微粒子0.3〜20重量%、蛍光増白剤0.0005〜0.1重量%からなる樹脂組成物より形成された、ポリカーボネート樹脂製直下型バックライト用光拡散板が開示されている。
【0008】
特許文献5には、下記一般式(ア)で表されるカーボネート構成単位を含有するポリカーボネート樹脂100重量%に、光拡散剤0.01〜30重量%を含有してなる光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。また、生物起源物質を原料として用いる比率を高めるために、カーボネート構成単位のうち下記一般式(ア)で表されるものが多い方が好ましく、最適には下記一般式(ア)のカーボネート構成単位のみからなるホモポリマーであると開示されており、現に実施例には該ホモポリマーを用いたものしか開示されていない。
【0009】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平03−143950号公報
【特許文献2】特開平10−046018号公報
【特許文献3】特開2000−169695号公報
【特許文献4】特開2004−029091号公報
【特許文献5】特開2009−191226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜4には、LED光源を用いた場合の記述が無く、これら開示技術をもってしてはLED光源から照射される光を十分に拡散させることは不可能だった。また各明細書に記載のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位がビスフェノール−Aを代表とした芳香族化合物であって、いずれも耐候性に課題があった。
【0012】
また、特許文献5に開示されているような、前記一般式(ア)で表されるカーボネート構造単位の比率が非常に高い共重合ポリカーボネート樹脂又はホモポリマーは、アイゾット衝撃強度等の指標で示される耐衝撃性が著しく低く、取扱いや加工性に課題があった。しかし当該文献にはこうした課題の抽出及び解決の指針、具体的な解決手段等についてなんら開示も示唆もされていなかった。
【0013】
本発明は、高いヘイズを有することで光源のギラつきを抑制することができ、しかも耐衝撃性や耐熱性、耐候性に優れた、光拡散性樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定構造の脂肪族ポリカーボネート樹脂に微粒子を含有してなる樹脂組成物からなる成形体が、前記課題を全て解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
第1の発明によれば、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を35モル%以上、90モル%以下含有する脂肪族ポリカーボネート樹脂に、微粒子を含有してなる光拡散性樹脂組成物であって、当該光拡散性樹脂組成物を用いて作製した射出成形試験片のアイゾット衝撃強度が5kJ/m以上であることを特徴とする、光拡散性樹脂組成物が提供される。
【0016】
【化2】

【0017】
(但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。

【0018】
第2の発明によれば、第1の発明において前記脂肪族ポリカーボネート樹脂が、脂環式
ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)を、10モル%以上、65モル%以下含有する。
【0019】
第3の発明によれば、第1または第2の発明において、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物である。
【0020】
【化3】

【0021】
第4の発明によれば、第1から第3のいずれかの発明において、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂100重量%に対し、前記微粒子を0.1重量%以上、10重量%以下の割合で配合してなる。
【0022】
第5の発明によれば、第1から第4のいずれかの発明において、前記微粒子が、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、及び酸化チタンからなる群より選ばれた1種又は2種以上である。
【0023】
第6の発明によれば、第1から第5のいずれかの発明における光拡散性樹脂組成物を成形してなる光拡散性樹脂成形体が提供される。
【0024】
第7の発明によれば、第6の発明において、光源に発光ダイオードを用いる。
【0025】
第8の発明によれば、第6または第7の発明における光拡散性樹脂成形体が照明器具に用いられる。
【0026】
第9の発明によれば、第6または第7の発明における光拡散性樹脂成形体が表示装置に用いられる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の光拡散性樹脂組成物は、高いヘイズを有することから、照明カバー、照明看板、透過型スクリーン、各種ディスプレイ、液晶表示装置の光拡散板、導光板等に好適に幅広く用いることができ、特には光束が狭く指向性の高いLED光源を用いた信号灯器のレンズやカバーであっても、十分に光拡散させギラつき等を抑制することができ、しかも耐衝撃性や耐熱性、耐候性に優れている。
【0028】
ここで、本発明の光拡散性樹脂成形体のとり得る形態としては、特に限定されるものではないが、押出成形してなるフィルム状、シート状、板状、あるいは射出成形してなる板状、いずれも好適に選択される。
【0029】
また、本明細書において「主たる構成成分(以下「主成分」という)」と表現した場合、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含する。この際、当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分
(2成分以上が主成分である場合には、これらの合計量)は組成中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上(100質量%を含む)を占めるものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について詳細に説明する。
本実施形態に係る光拡散性樹脂組成物及び成形体は、特定のポリカーボネート樹脂と微粒子を主たる構成成分とする樹脂組成物から形成されたものである。
【0031】
<脂肪族ポリカーボネート樹脂>
本発明の主たる構成成分である脂肪族ポリカーボネート樹脂としては、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を含むポリカーボネート樹脂が用いられる。
【0032】
【化4】

【0033】
(但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
すなわち、前記ジヒドロキシ化合物は、二つのヒドロキシル基と、更に前記一般式(1)の部位を少なくとも含むものを言う。
【0034】
本発明における前記一般式(1)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物の主成分としては、分子内に一般式(1)で表される構造を有していれば特に限定されるものではないが、具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、下記一般式(3)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物が挙げられる。具体的には、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。また、下記一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカンなどが挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素数1から炭素数3のアルキル基である。)
【0038】
前記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物は、生物起源物質を原料として糖質から製造可能なエーテルジオールである。とりわけイソソルビドは澱粉から得られるD−グルコースを水添してから脱水することにより安価に製造可能であって、資源として豊富に入手することが可能である。これら事情により、イソソルビドが最も好ましい。
【0039】
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂に占める前記構造単位(a)の含有割合としては、35モル%以上、90モル%以下であることが重要である。構造単位(a)の割合の下限としては、より好ましくは50モル%であって、さらに好ましくは55モル%である。また、構造単位(a)の割合の上限としては、より好ましくは80モル%であって、さらに好ましくは75モル%である。このような範囲とすることによって、カーボネート構造に由来する着色、生物起源物質を原料に用いる故に微量に含有する不純物に由来する着色等を抑制することができるので、拡散板等の光学部材用途に好適に用いることができ、かつ前記構造単位(a)のみで構成される脂肪族ポリカーボネート樹脂等では達成が困難な、適当な成形加工性や機械強度、耐熱性等のバランスを取ることができる。
【0040】
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂の耐衝撃性を向上させるために、前記構造単位(a)以外の構造単位として、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)を含むことが好ましい。例としては、国際公開第2007/148604号パンフレットに記載の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を挙げることができる。
この時、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂中に占める構造単位(b)の割合が10モル%以上、65モル%以下であることが好ましい。構造単位(b)の割合の下限としては、より好ましくは20モル%であって、さらに好ましくは25モル%である。一方、構造単位(b)の割合の上限としては、より好ましくは50モル%であって、さらに好ましくは45モル%である。構造単位(b)の割合をかかる範囲内とすることで、本発明の光拡散性樹脂成形体の表面硬度と耐熱性を損なうことなく、耐衝撃性を付与することができる。
【0041】
前記脂環式ジヒドロキシ化合物の中でも、5員環構造又は6員環構造を含むものであることが好ましい。6員環構造は共有結合によって椅子形又は舟形に固定されていても良い。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環構造又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネートの耐熱性を高くすることができる。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。
【0042】
前記5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、上述の国際公開第2007/148604号パンフレットに記載のものを挙げることができ、中でも、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール及びペンタシクロペンタデカンジメタノールを好適に例示することができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0043】
これらのうち、特にシクロヘキサンジメタノールを用いることが、本発明の光拡散性樹脂成形体の表面硬度と耐熱性を損なうことなく、耐衝撃性を付与することができるため好ましい。また、シクロヘキサンジメタノールの中でも、工業的に入手が容易であることを理由として、1,4−シクロヘキサンジメタノールを用いることが好ましい。
【0044】
さらに、本発明に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂は、前記構造単位(a)、及び、前記構造単位(b)以外の構造単位を含むこともでき、例えば、国際公開第2004/111106号パンフレットに記載の脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を挙げることができる。
【0045】
前記脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の中でも、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、及び1,6−ヘキサンジオールから選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0046】
一般にポリカーボネート系樹脂の構造単位として、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位等が挙げられるが、通例、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を多量に用いると、ポリカーボネート樹脂の耐熱性が低下する傾向がある。
また、通例、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を多量に用いると、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が上昇して重合度を高めることが困難になり、その結果耐衝撃性が十分得られにくい傾向がある。また紫外線吸収する割合が増加して、耐候性も低下する傾向がある。
これに対し、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を用いることで、こうした一般的に想定される課題を回避することができるため、好適である。
【0047】
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定され、通常45℃以上、155℃以下であり、80℃以上、155℃以下であることが好ましい。尚、通常は単一のガラス転移温度を有する。前記ガラス転移温度は、前記構造単位(a)、前記構造単位(b)等の種類や含有量を適宜選択することで調整が可能である。このような範囲とすることで、光拡散性樹脂成形体に要求される耐熱性を付与することができる。
【0048】
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、ホスゲン法、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法のいずれでも良い。なかでも、重合触媒の存在下に、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、脂環式ジヒドロキシ化合物と、必要に応じて用いられる脂肪族ジヒドロキシ化合物等のその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを反応させるエステル交換法が好ましい。エステル交換法は、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、脂環式ジヒドロキシ化合物と、必要に応じて用いられる脂肪族ジヒドロキシ化合物等のその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、エステル交換反応を行う製造方法である。
【0049】
炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0050】
<脂肪族ポリカーボネート樹脂の着色の改善>
本発明に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂は、光拡散性樹脂成形体として利用可能な程度に好適な無色透明性を有するものであるが、以下のような特徴を持たせることにより更に着色を抑えることができる。
【0051】
具体的には脂肪族ポリカーボネート樹脂の、末端二重結合濃度、末端フェニル基濃度、フェノール残留量、蟻酸含有量、還元粘度、5%熱減量温度が特定範囲であること、あるいは、リン酸化合物や亜リン酸化合物又はこれらの金属塩を重合時に添加すること、熱安定剤等を配合することであり、それぞれについて以下で説明する。
【0052】
(末端二重結合濃度)
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂の末端には、副反応、恐らくは分子内脱水反応で生成した二重結合が存在することがあり、特に前記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物をモノマー成分の少なくとも1つとする場合、このユニットが脱水して生成すると考えられる下記一般式(5)で表される二重結合を有する末端が存在する。
【0053】
【化7】

【0054】
このような二重結合は、好まざる分岐反応の基点になったり、着色の原因になったりするため、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂の前記末端二重結合の濃度は10μeq/g以下、中でも8μeq/g以下、特には5μeq/g以下であることが好ましい。この副反応は、より低温、短時間、高真空で重合反応させることにより低減することができ、横型反応器を使用すれば、蒸発界面積が大きく取れ、表面更新性を向上することができ、より低温、短時間で重合反応が進行するため、このような末端二重結合の低減に有効である。
【0055】
(末端フェニル基濃度)
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂の末端フェニル基濃度は、小さすぎると、重合反応の速度が小さくなり、結果的に触媒を増やしたり、余計な熱履歴をかけたりする必要があるだけでなく、熱滞留時の着色が大きくなり、特に成型時に品質の悪化を招くため、通常30μeq/g以上、中でも50μeq/g以上、特には80μeq/g以上が好ましい。また、末端フェニル基濃度が大きすぎても、重合速度が小さくなる傾向にあり、結果的に熱履歴の増大を招き、ポリマー品質の悪化を招くことがあるため、好ましくは200μeq/g以下、より好ましくは150μeq/g以下、中でも120μeq/g以下が好適である。
【0056】
(フェノール残留量)
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂は、重合反応により副生するフェノールを微量含むが
、製品ペレット中のフェノール残留量が多いと、成形時の臭気や、着色の原因となるため、通常500重量ppm以下、好ましくは300重量ppm以下、より好ましくは100重量ppm以下、特に好ましくは50重量ppm以下である。バッチ式の重合反応ではフェノールを低減することが困難であるが、横型反応器を使用すれば、蒸発界面積が大きく取れ、表面更新性を向上することができるため、残留フェノールの低減に有効である。また、重合反応終了後に一軸または二軸の押出機を用いて脱揮処理することによっても低減できる。
【0057】
(蟻酸含有量)
イソソルビドは酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管時や取扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが必要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いて重合すると、得られる脂肪族ポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させたりする傾向がある。また、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともある。また、蟻酸の発生を防止するような安定剤を添加しても、安定剤の種類によっては、得られる脂肪族ポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させたりすることがある。安定剤としては還元剤や制酸剤が用いられ、このうち還元剤としては、ナトリウムボロハイドライド、リチウムボロハイドライドなどが挙げられ、制酸剤としては水酸化ナトリウム等のアルカリが挙げられる。このようなアルカリ金属塩の添加は、アルカリ金属が重合触媒にもなるので、過剰に添加し過ぎると重合反応を制御できなくなることがある。
【0058】
酸化分解物を含まないイソソルビドを得るために、必要に応じてイソソルビドを蒸留しても良い。また、イソソルビドの酸化や分解を防止するために安定剤が配合されている場合も、これらを除去するために、必要に応じてイソソルビドを蒸留しても良い。この場合、イソソルビドの蒸留は単蒸留であっても、連続蒸留であっても良く、特に限定されない。雰囲気はアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気にした後、減圧下で蒸留を実施する。
【0059】
例えばイソソルビドについて、このような蒸留を行うことにより、蟻酸含有量が20ppm未満、さらに10ppm以下、特に5ppm以下であるような高純度とすることができる。本発明においては、これら高純度のイソソルビドを用いることが好ましい。
【0060】
(還元粘度)
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂の粘度は、還元粘度として、通常0.20dl/g以上、好ましくは0.40dl/g以上、より好ましくは0.42dl/g以上であって、また、通常2.00dl/g以下、好ましくは1.60dl/g以下、より好ましくは1.00dl/g以下である。ここで「還元粘度」とは、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの重量比1:1混合溶媒を用い、温度30.0℃±0.1℃において、ポリカーボネート濃度1.00g/dlで測定した値(ηsp/c)である。
【0061】
(5%熱減量温度)
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂の5%熱減量温度は、好ましくは340℃以上、より好ましくは345℃以上である。5%熱減量温度が高いほど、熱安定性が高くなり、より高温での使用に耐えるものとなる。また、製造温度も高くでき、より製造時の制御幅が広くできるので、製造し易くなる。低くなるほど、熱安定性が低くなり、高温での使用がしにくくなる。また、製造時の制御許容幅が狭くなり作りにくくなる。従って、5%熱減量温度の上限は特に限定されず、高ければ高いほど良く、共重合体の分解温度が上限となる。
【0062】
(リン系化合物)
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂は、溶融重合法で製造する際に、着色を防止する目的で、リン系化合物であるリン酸化合物や亜リン酸化合物又はこれらの金属塩を重合時に添加することができる。
リン酸化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸トリアルキルの1種又は2種以上が好適に用いられる。これらは、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上、0.005モル%以下の割合で添加することが好ましく、0.0003モル%以上、0.003モル%以下の割合で添加することがより好ましい。リン化合物の添加量が前記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0063】
亜リン酸化合物を添加する場合は、下記に示す熱安定剤を任意に選択して使用できる。特に、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトの1種又は2種以上が好適に使用できる。
【0064】
これらの亜リン酸化合物は、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上、0.005モル%以下の割合で添加することが好ましく、0.0003モル%以上、0.003モル%以下の割合で添加することがより好ましい。亜リン酸化合物の添加量が前記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0065】
リン酸化合物と亜リン酸化合物又はこれらの金属塩は併用して添加することができるが、その場合の添加量はリン酸化合物と亜リン酸化合物又はこれらの金属塩の総量で、先に記載した全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上、0.005モル%以下の割合とすることが好ましく、0.0003モル%以上、0.003モル%以下の割合とすることがより好ましい。この添加量が前記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0066】
なお、リン酸化合物、亜リン酸化合物の金属塩としては、これらのアルカリ金属塩や亜鉛塩が好ましく、特に好ましくは亜鉛塩である。また、このリン酸亜鉛塩の中でも、長鎖アルキルリン酸亜鉛塩が好ましい。
【0067】
(熱安定剤)
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂は、成形時等における分子量の低下や色調の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。
【0068】
かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸及びこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−
ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びベンゼンホスホン酸ジメチル等が好ましく使用される。
【0069】
これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。かかる熱安定剤は、溶融重合時に添加した添加量に加えて更に追加で配合することができる。即ち、適当量の亜リン酸化合物やリン酸化合物を配合して、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂を得た後に、後に記載する配合方法で、さらに亜リン酸化合物を配合すると、重合時のヘイズの上昇、着色、及び耐熱性の低下を回避して、さらに多くの熱安定剤を配合でき、色調の悪化の防止が可能となる。
【0070】
これらの熱安定剤の配合量は、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂100重量%に対し、0.0001重量%以上、1重量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005重量%以上、0.5重量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001重量%以上、0.2重量%以下の割合で配合することが最も好ましい。
【0071】
(末端二重結合、及び末端フェニル基の定量)
本発明に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂が有する末端二重結合及び末端フェニル基の量は、TMS(テトラメチルシラン)を添加した重クロロホルムを測定溶媒として使用し、H−NMRスペクトルを測定することで算出することができる。
【0072】
具体的には例えば、TMS基準にて化学シフト6.6〜6.7ppmに検出されるピークを前述した末端二重結合に帰属することとする。同様に、化学シフト7.3〜7.5ppmに検出されるピークを、前述した末端フェニル基に帰属することとする。
【0073】
その他の全末端についてそれぞれ帰属したピークの各面積比からポリマー繰り返しユニットあたりの各末端数を算出した後、全末端存在数に対する、末端二重結合の割合および末端フェニル基の割合を算出した。
【0074】
より具体的には、例えば共重合ジオールとしてトリシクロデカンジメタノール(以下、TCDDMということがある)を用いた場合を例にすると、以下の方法で定量することが可能である。
【0075】
[1:H−NMRの測定]
ポリマーを25〜30mg秤量し、重クロロホルム0.7mLに室温で溶解する。重クロロホルムは銀箔の安定剤が入っているものを使用し、基準物質としてTMS(テトラメチルシラン)を少量添加する。 溶液を外径5mmのNMR管に詰め、Bruker社製
NMR(AVANCE400)を用いて、400MHz、45°パルス、照射時間4秒、待ち時間6秒、積算256回で測定を行う。
【0076】
[2:解析]
4.70〜4.46ppmのイソソルビドの主鎖に由来するシグナルの積分値を100
とする。次に2.70〜0.50ppmのトリシクロデカンジメタノール(TCDDM)の主鎖に由来するシグナルの積分値を求め、積分値(1)とする。この領域に重なる水の積分値は補正する。
【0077】
6.63〜6.60ppmの末端二重結合に由来するシグナルの積分値を求め、積分値(2)とする。7.44〜7.34ppmの末端フェニル基に由来するシグナルの積分値を求め、積分値(3)とする。これらの積分値から次の式を用いて末端フェニル基および末端二重結合の量を算出する。
末端二重結合濃度={積分値(2)/(100×イソソルビド主鎖ユニットの式量+積分値(1)/14×TCDDM主鎖ユニットの式量+積分値(3)/2×末端フェニル基ユニットの式量+積分値(2)×末端二重結合ユニットの式量)}×10(単位:μe
q/g)
末端フェニル基濃度={(積分値(3)/2)/(100×イソソルビド主鎖ユニットの式量+積分値(1)/14×TCDDM主鎖ユニットの式量+積分値(3)/2×末端フェニル基ユニットの式量+積分値(2)×末端二重結合ユニットの式量)}×10(単位:μeq/g)
【0078】
(残留フェノールの定量)
本発明に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂が有する残留フェノールの量は、例えば以下の方法で定量することが可能である。
【0079】
試料1.25gを塩化メチレン7mlに溶解した後、総量が25mlになるようにアセトンを添加して再沈殿処理を行う。溶液を0.2μmディスクフィルターでろ過して、液体クロマトグラフィーにてフェノールの定量を行った後、残留量を算出する。
【0080】
用いた装置や条件は、次のとおりである。
・装置:島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AT
カラムオーブン:CTO−10Avp
検出器:SPD−10Avp
分析カラム:SUPELCO Ascentis Express C18
(5cm×3.0mm、粒子サイズ2.7μm)
オーブン温度:40℃
・検出器:UV213nm
・溶離液:A)0.1%リン酸水溶液/アセトニトリル=5/1
B)アセトニトリル
(B液を3%から95%までグラジエント)
・試料注入量:3μl
【0081】
(蟻酸の定量)
本発明に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂が有する蟻酸の量は、例えば以下の方法で定量することが可能である。
【0082】
試料1gを精秤した後、クロロホルム10mlに溶解し、純水20mlを添加して十分攪拌して得られた水相を、フェノールの定量同様の方法でイオンクロマトグラフィーにて蟻酸の定量を行った後、含有量を算出する。
【0083】
(還元粘度の測定)
本発明に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、例えば以下の方法で定量す
ることが可能である。
【0084】
中央理化社製DT−504型自動粘度計にてウベローデ型粘度計を用い、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの重量比1:1混合溶媒を用い、温度30.0℃±0.1℃で測定する。ポリカーボネート濃度は1.00g/dlになるように、精密に調製する。サンプルを120℃で30分攪拌して溶解し、冷却後測定に用いる。
溶媒の通過時間t、溶液の通過時間tから、下記式:
ηrel=t/t
より相対粘度ηrelを求め、 相対粘度ηrelから、下記式:
ηsp=(η−η)/η=ηrel−1
より比粘度ηspを求める。
比粘度ηspを濃度c(g/dl)で割って、下記式:
ηred=ηsp/c
より還元粘度(換算粘度)ηredを求める。この数値が高いほど分子量が大きい。
【0085】
(5%熱減量温度の測定)
本発明に用・BR>「る脂肪族ポリカーボネート樹脂の5%熱減量温度は、例えば以下の
方法で定量することが可能である。
【0086】
セイコー電子社製「TG−DTA」(SSC−5200、TG/DTA220)を用い、試料10mgをアルミニウム製容器に載せ、窒素雰囲気下(窒素流量200ml/分)で昇温速度10℃/分で30℃から450℃まで測定し、5%重量が減少した際の温度を求める。この温度が高いほど、熱分解しにくい。
【0087】
本発明の光拡散性樹脂組成物及び成形体は、長期間にわたり白色光が照射される用途に用いられたり、屋外に設置して用いられたりする際にも、経時的な黄変劣化に伴って目視外観が損なわれることを最低限に抑制するために、後述の試験法によるYI値の初期値からの変化ΔYIを指標として、好ましくは3.0未満、より好ましくは1.0未満である。
【0088】
<微粒子>
本発明に用いることの好ましい微粒子としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、アルミナ、水酸化アルミニウム、ヒドロキシアパタイト、シリカ、マイカ、タルク、カオリン、クレー、ガラス粉、アスベスト粉、ゼオライト、珪酸白土等から選ばれた少なくとも一種の無機微粒子を挙げることができ、中でも炭酸カルシウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム及び酸化チタンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の組み合わせからなる混合物が、安価でかつ様々な表面処理を施したものが市販されているため好適に選択される。
【0089】
これらの無機微粒子は前記脂肪族ポリカーボネート樹脂との屈折率差が通常1.0より大きいが、配合量を適宜選択することで、全光線透過率や機械強度の低下は最低限に留めることができる。
【0090】
酸化チタンは、他の無機微粒子に比べて屈折率が顕著に高く、ベース樹脂との屈折率差が顕著に大きくなるため、酸化チタンを主成分として用いた場合は、他の無機微粒子を使用した場合よりも少ない配合量で高い光拡散性が発現する。あるいは成形体を薄肉化することができる。
【0091】
本発明に用いることができる酸化チタンとしては、アナターゼ型やルチル型のような結
晶型の酸化チタンが挙げられるが、ルチル型酸化チタンが好ましい。酸化チタンの中でも純度の高い高純度酸化チタンを用いるのが特に好ましい。ここで、高純度酸化チタンとは、可視光に対する光吸収能が小さい酸化チタン、すなわち、バナジウム、鉄、ニオブ、銅、マンガン等の着色元素の含有量が少ない酸化チタンの意である。
【0092】
高純度酸化チタンとしては、例えば塩素法プロセスにより製造されるものを挙げることができる。塩素法プロセスでは、酸化チタンを主成分とするルチル鉱を1000℃程度の高温炉で塩素ガスと反応させて、先ず四塩化チタンを生成させ、次いでこの四塩化チタンを酸素で燃焼させることにより、高純度酸化チタンを得ることができる。
酸化チタンの工業的な製造方法としては硫酸法プロセスもあるが、この方法によって得られる酸化チタンには、バナジウム、鉄、銅、マンガン、ニオブ等の着色元素が多く含まれるので、可視光に対する光吸収能が大きくなる。従って、硫酸法プロセスでは高純度酸化チタンは得られ難い。
【0093】
本発明に用いることができる酸化チタンとしては、不活性無機酸化物から形成された不活性無機酸化物層を表面に備えたものが好ましい。酸化チタンの表面を不活性無機酸化物で被覆処理することにより、酸化チタンの光触媒活性を抑制することができ、酸化チタンの光触媒作用によって部材が劣化するのを防ぐことができる。
【0094】
不活性無機酸化物としては、シリカ、アルミナ、及びジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1種類を用いるのが好ましい。これらの不活性無機酸化物を用いれば、酸化チタンを用いた場合に発揮する高い光拡散性を損なうことなく部材の耐光性を高めることができる。また、2種類以上の不活性無機酸化物を併用することがさらに好ましく、中でもシリカを必須とする組み合わせが特に好ましい。
【0095】
不活性無機酸化物層は、酸化チタン全体質量の0.5質量%以上、7質量%以下、特に1質量%以上、5質量%以下を占めるのが好ましい。不活性無機酸化物層が0.5質量%以上であれば、高い反射性を維持するのが容易となるので好ましい。また、不活性無機酸化物層が5質量%以下であれば、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂への分散性が良好となり、均質な反射材が得られるので好ましい。なお、不活性無機酸化物層が酸化チタン全体質量に占める割合は、表面処理後の酸化チタンの全質量中に占める、表面処理に使用した不活性無機酸化物の全質量の割合(百分率で示す)で求められる。
【0096】
さらに、無機微粒子、特に酸化チタンは、ベース樹脂への分散性を向上させるために、有機化合物から形成された有機化合物層を表面に備えているものが好ましい。
当該有機化合物層は、例えば、シロキサン化合物、シランカップリング剤、多価アルコール、チタンカップリング剤、アルカノールアミン又はその誘導体、及び高級脂肪酸又はその金属塩等の有機化合物などで、酸化チタンの表面或いは前記不活性無機酸化物層の表面を被覆処理するようにして形成することができる。特にシロキサン化合物、多価アルコール、及びシランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種類の有機化合物で被覆処理をするのが好ましい。これら2種類以上の化合物を組合せて使用してもよい。これらの有機化合物は、酸化チタン表面の水酸基と物理的吸着又は化学的に反応することにより、酸化チタンの疎水性、分散性及び樹脂との親和性を向上させることができる。
【0097】
有機化合物層は、酸化チタン全体質量の0.01質量%以上、5質量%以下、特に0.05質量%以上、3質量%以下、中でも特に0.1質量%以上、2質量%%以下を占めるのが好ましい。
有機化合物層が酸化チタン全体の0.01質量%以上を占めれば、酸化チタンの水分吸着を防いで酸化チタン粒子の凝集を妨げることができるので、酸化チタンの分散性を向上させることができる。酸化チタンの分散性が向上すれば、ベース樹脂と酸化チタンとの界
面の面積が充分に確保されるので、フィルムに高い光拡散性を付与することができる。一方、有機化合物層が酸化チタン全体の5質量%以下であれば、酸化チタン粒子の滑性が適切になり、安定した押出し及び製膜が可能になる。
【0098】
有機化合物層が酸化チタン全体質量に占める割合は、表面処理後の酸化チタンの全質量中に占める、表面処理に使用した有機化合物の全質量の割合(百分率で示す)で求められる。
なお、酸化チタン以外の無機微粒子を用いる場合には、ベース樹脂への分散性を向上させるために、無機微粒子の表面が、シリコーン系化合物、多価アルコール系化合物、アミン系化合物、脂肪酸、脂肪酸エステル等で表面処理が施されたものを使用するのが好ましい。
【0099】
本発明で用いる無機微粒子は、好適な光拡散性を発現させるために、平均粒子径が0.1μm以上、10μm以下の範囲のものが好ましい。重量平均粒子径は、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上であり、また、より好ましくは8μm以下、さらに好ましくは5μm以下であればよい。
平均粒子径が0.1μm以上であることによって、良好な隠蔽性と光拡散性を発現することが可能となり、とりわけLED光源を用いた場合のギラつきを防止できる。一方重量平均粒子径が10μm以下であることによって、部材表面の凹凸を生じさせず、さらに引張破断強度等の機械強度を好適に維持できる。
【0100】
なお、本発明において、無機微粒子の平均粒子径は、(株)島津製作所製の型式「SS−100」の粉体比表面測定器(透過法)を用いて測定した空気透過の時間より算出したものである。ここで、空気透過の時間は、断面積2cm、高さ1cmの試料筒に微粒子3gを充填して、500mm水柱で20ccの空気が透過するのに要する時間として測定した。
【0101】
本発明に用いる微粒子には、前記に加えて従来公知の有機微粒子を併用してもよい。有機微粒子の種類としては特に限定されるものではないが、具体的には木粉、パルプ粉等のセルロース系粉末や、ポリマービーズ、ポリマー中空粒子等の熱架橋性樹脂粉末や、脂肪族ポリカーボネート樹脂に非相溶な熱可塑性樹脂(以下非相溶樹脂という)から選ばれた少なくとも一種を挙げることができ、少なくとも非相溶樹脂を含む有機充填剤を用いるのが好ましい。ここで非相溶樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられ、中でもシクロオレフィン樹脂が好ましい。また2種類以上の非相溶樹脂を併用してもよい。
【0102】
シクロオレフィン樹脂としては、環状オレフィンからなるモノマーのユニットを有する樹脂であれば特に限定されるものではない。このような前記環状オレフィンからなるモノマーとしては、例えば、ノルボルネンや多環ノルボルネンモノマー等を挙げることができる。本発明に用いることのできるシクロオレフィン樹脂としては、シクロオレフィンポリマー(COP)またはシクロオレフィンコポリマー(COC)のいずれであってもよい。
【0103】
本発明の光拡散性樹脂組成物においては、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂からなる母相(マトリクス)内部に、非相溶樹脂が分散相として散在した状態になり、その際、当該分散相の平均径が、0.1μm以上、5μm以下の範囲であるのが好ましく、特に0.5μm以上、3μm以下の範囲であるのがさらに好ましい。
分散相の大きさが0.1μm以上であれば、延伸により光拡散性樹脂組成物内部に形成される空洞の大きさが可視光領域の光を反射するのに十分なものとなる。また、分散相の大きさが5μm以下であれば、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂との界面の面積を充分に確保できるので、本発明の光拡散性樹脂成形体に高い光拡散性を付与することができるの
で好ましい。さらに、分散相の大きさが5μm以下であれば、機械的強度とともに成形加工性や平滑性が向上するので好ましい。
【0104】
分散相の大きさは、樹脂組成物を溶融混練する際の押出機の押出温度や押出機のスクリュー回転数を調整することによっても制御でき、また相溶化剤の種類と量により制御することができる。
【0105】
本発明において、微粒子の総含有量は、樹脂成形体の光拡散性、機械強度等を考慮して、脂肪族ポリカーボネート樹脂100重量%に対し、0.1重量%以上、10重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以上、5重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以上、1重量%以下であることがさらに好ましい。
微粒子の含有量を0.1重量%以上とすることで、十分な光拡散性を付与することができ、一方10重量%以下とすることで、耐衝撃性等の機械物性を著しく低下させることなく各種性能のバランスを取ることができる。
【0106】
<その他の成分>
本発明の光拡散性樹脂組成物及び成形体は、発明の本質を損なわない範囲内で、これら以外の樹脂(「他成分樹脂」という)を含有してもよい。また、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、相溶化剤及びその他の添加剤を含有してもよい。
【0107】
本発明の光拡散性樹脂組成物及び成形体における耐衝撃性は、射出成形試験片のアイゾット衝撃強度を指標として、5kJ/m以上であり、6kJ/m以上であることが好ましい。アイゾット衝撃強度がかかる範囲にあることにより、本発明の光拡散性樹脂成形体やこれを用いた製品を搬送したり組み付けたりする際に、容易に壊れないようにすることができるため好適である。例えば、本発明における脂肪族ポリカーボネート樹脂において、前記構造単位(a)や前記構造単位(b)の含有量、または前記微粒子の添加量を、本明細書に記載の範囲において適宜調整することによって、アイゾット衝撃強度をかかる範囲に調整することができる。
【0108】
本発明の光拡散性樹脂組成物及び成形体において、全光線透過率は20%以上であることが好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。またヘイズは50%以上であることが好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。全光線透過率とヘイズがかかる範囲にあることにより、光源に光束が狭く指向性が高い発光ダイオードを用いても十分に光拡散性を示すことができ、かつ照明カバー等として使用できる程度に明るさを保つことができるため好適である。例えば、前記微粒子の粒径や添加量を、本明細書に記載の範囲において適宜調整することによって、全光線透過率とヘイズをかかる範囲に調整することができる。
【0109】
本発明の光拡散性樹脂組成物及び成形体における耐熱性は、荷重たわみ温度を指標として、85℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがさらに好ましい。荷重たわみ温度がかかる範囲にあることにより、光拡散性樹脂成形体やこれを用いた製品を高温多湿なコンテナや船倉で運搬する際や、連続して長時間灯火する照明の灯具カバー等に用いる際などで、昇温による熱変形が起こらないようにできるため好適である。例えば、本発明における脂肪族ポリカーボネート樹脂において、前記構造単位(a)や前記構造単位(b)の含有量を本明細書に記載の範囲において適宜調整することによって、荷重たわみ温度をかかる範囲に調整することができる。
【0110】
<製造方法>
本発明の光拡散性樹脂組成物及び成形体の製造方法について、以下に例を挙げて説明す
るが、それらの製造方法になんら限定されるものではない。
【0111】
まず、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂に、微粒子、その他の添加剤等を必要に応じて配合して樹脂組成物を製造する。具体的には、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂に微粒子と添加剤を必要に応じて加えて、リボンブレンダー、タンブラー、ヘンシェルミキサー等で混合した後、バンバリーミキサー、1軸又は2軸押出機等を用いて、樹脂の融点以上の温度で溶融混練することにより樹脂組成物を得ることができる。あるいは、脂肪族ポリカーボネート樹脂を溶融混練している混練機内に、微粒子や添加剤を別途フィーダから連続又は逐次供給して、目的とする配合量の樹脂組成物を得てもよい。混練機の加工条件を調整することによって、微粒子の分散状態を制御することができる。
【0112】
また、微粒子や添加剤の高濃度マスターバッチを予め製造しておき、成形体を製造する際に希釈用のポリカーボネート樹脂と適宜ブレンドして、目的とする配合量の樹脂組成物からなる成形体を得てもよい。
本発明の光拡散性樹脂成形体は、発明の本質を損なわない範囲で、単層構造であってもよいし、配合量や組成の異なる光拡散性樹脂組成物を複数積層したものでもよい。さらに、必要に応じて表面にハードコート層、耐候性層、防汚層、耐熱樹脂層等を積層してもよい。また意匠性を付与するために樹脂を着色したり、成形体表面に印刷又は塗装したりエンボス加工等を施したりしてもよい。
【0113】
本発明の光拡散性樹脂成形体を、フィルム状、シート状、板状、筒状等に押出成形によって製造する場合、前記樹脂組成物を押出機内で加熱溶融させ、Tダイスリットから押し出し、キャストロールから冷却ロールを経て製造することもできるし、異型ダイスリットから押し出し、水冷設備や空冷設備を経て製造することもできる。分解劣化や着色を抑制するために、押出温度は200〜270℃の範囲で適宜設定することが好ましい。また、必要に応じて、他の層を構成する樹脂組成物と共押出しすることもできる。
【0114】
本発明の光拡散性樹脂成形体を、板状等に射出成形によって製造する場合、前記樹脂組成物を加熱シリンダ内で溶融可塑化させ、板状に射出成形することができる。加熱温度は200〜270℃の範囲、金型温度は40〜80℃の範囲で適宜選択することが好ましい。また、必要に応じて、他の層を構成する樹脂組成物と2色成形したり、フィルム等を金型にインサートしておいて成形したりすることもできる。
【0115】
また、用途や要求性能により特段の必要がある場合は、さらにハードコート処理や、耐候処理、防汚処理、耐熱処理等を、従来公知の方法によって施すことができる。
【0116】
本発明の光拡散性樹脂成形体は、高いヘイズを有することから、照明カバー、照明看板、透過型スクリーン、各種ディスプレイ、液晶表示装置の光拡散板、導光板等に好適に利用することができる。
【0117】
特に、十分に光拡散させギラつき等を抑制することが可能であることから、光源に光束が狭く指向性の高いLEDを利用した前記の用途において、より好適に利用することができる。
また、耐衝撃性や耐熱性、耐候性に優れていることから、その光源に限定されることなく、特に照明カバー用途等の照明部材や、液晶等の光源内蔵型の表示装置の光拡散板等の部材として、より好適に利用することができる。
【実施例】
【0118】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、これらになんら限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。なお
、実施例に示す測定値及び評価は以下に示すようにして行った。
【0119】
(1)全光線透過率、ヘイズ
射出成形した厚さ1mmのシートを用いて、JIS K7361及びK7136に準拠して測定した。全光線透過率が20%以上、かつヘイズが50%以上のものを合格とした。
【0120】
(2)耐衝撃性(アイゾット衝撃強度)
射出成形した厚さ4mm、幅10mmの試験片を用いて、JIS K7110に準拠して、ノッチ切削したもので測定した。アイゾット衝撃強度が5kJ/m以上のものを合格とした。
【0121】
(3)耐熱性(荷重たわみ温度)
射出成形した厚さ4mm、幅10mmの試験片を用いて、JIS K7191に準拠して測定した。荷重たわみ温度が85℃以上のものを合格とした。
【0122】
(実施例1)
ジヒドロキシ化合物としてイソソルビドと、1,4−シクロヘキサンジメタノールを構造単位とする脂肪族ポリカーボネート樹脂(イソソルビドに由来する構造単位:1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=70:30(モル%)、Tg=126℃、末端二重結合濃度=4μq/g、末端フェニル基濃度=90μq/g、フェノール残留量=40ppm、蟻酸含有量=2ppm未満、還元粘度=0.77dl/g、5%熱減量温度=349℃、以下A−1という)100重量%と、ルチル型酸化チタン(KRONOS社製「KRONOS2230」、平均粒子径0.3μm、以下B−1という)0.1重量%を混合し、230℃に加熱した二軸押出機を用いて溶融混練し、ペレットを作製した。このペレットを用いて行なった前記の評価の結果を表3中に示した。
【0123】
(実施例2)
実施例1において、B−1の配合量を0.3重量%に変更した以外は、同様にペレットを作製した。このペレットを用いて行なった前記の評価の結果を表3中に示した。
【0124】
(実施例3)
実施例1において、B−1の配合量を0.5重量%に変更した以外は、同様にペレットを作製した。このペレットを用いて行なった前記の評価の結果を表3中に示した。
【0125】
(実施例4)
実施例1において、B−1の配合量を0.7重量%に変更した以外は、同様にペレットを作製した。このペレットを用いて行なった前記の評価の結果を表3中に示した。
【0126】
(実施例5)
実施例1において、A−1をイソソルビドに由来する構造単位:1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=50:50(モル%)である脂肪族ポリカーボネート樹脂(A−2)に変更した以外は、同様にペレットを作製した。このペレットを用いて行なった前記の評価の結果を表3中に示した。
【0127】
(比較例1)
実施例1において、B−1の配合量を0重量%に変更した以外は、同様にペレットを作製した。このペレットを用いて行なった前記の評価の結果を表4中に示した。
【0128】
(比較例2)
実施例1において、A−1をイソソルビドに由来する構造単位=100(モル%)である脂肪族ポリカーボネート樹脂(A−3)に変更した以外は、同様にペレットを作製した。このペレットを用いて行なった前記の評価の結果を表4中に示した。
【0129】
(比較例3)
実施例1において、A−1をイソソルビドに由来する構造単位:1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=30:70(モル%)である脂肪族ポリカーボネート樹脂(A−4)に変更した以外は、同様にペレットを作製した。このペレットを用いて行なった前記の評価の結果を表4中に示した。
【0130】
(比較例4)
実施例1において、A−1を、ビスフェノール−Aを構造単位とする芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンH4000」、A−5)に変更した以外は、同様にペレットを作製した。このペレットを用いて行なった前記の評価の結果を表4中に示した。
【0131】
(4)耐候性(UV照射試験)
下記の表1のポリカーボネート樹脂を230℃に加熱された二軸押出機を用いて押出し、設定温度100℃のキャストロールを用いて冷却し、厚さ300μmのシートを作製した。試験機として岩崎電気製アイスーパUVテスターSUV−W151を用いて、UV照射強度:75mW/cm 照射温度:63℃、照射湿度:50%の条件により前記のシートをサンプルとしてUVを照射した。UV照射前と照射50時間後のサンプルのYI値(黄色度)をJIS−K7103に基づいて分光測色計(「SC−T」、スガ試験機(株)製)を用いて測定し、測定前後の差であるΔYIを算出した。測定結果を表2に示す。この結果に基づいて、実施例及び比較例の耐候性を以下の基準で評価した。
○:ΔYIが0以上1.0未満
×:ΔYIが1.0以上
【0132】
【表1】

【0133】
【表2】

【0134】
【表3】

【0135】
【表4】

【0136】
表3の実施例から明らかなように、本発明により得られる光拡散性樹脂組成物及びそれを用いて成形した光拡散性樹脂成形体は、高い全光線透過率とヘイズを有し、さらに耐衝撃性、耐熱性、耐候性にも優れていることがわかる。一方、表4の比較例においては、ヘイズ、アイゾット衝撃強度、耐熱性、耐候性のいずれかが実施例と比較して劣っていることがわかる。
【0137】
このことから、本発明の光拡散性樹脂組成物及び成形体は、高い全光線透過率とヘイズを有し、耐衝撃性、耐熱性、耐候性に優れた光拡散性樹脂組成物及び成形体であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を35モル%以上、90モル%以下含有する脂肪族ポリカーボネート樹脂に、微粒子を含有してなる光拡散性樹脂組成物であって、当該光拡散性樹脂組成物を用いて作製した射出成形試験片のアイゾット衝撃強度が5kJ/m以上であることを特徴とする、光拡散性樹脂組成物。
【化1】

(但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【請求項2】
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂が、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)を、10モル%以上、65モル%以下含有することを特徴とする、請求項1に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項3】
構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光拡散性樹脂組成物。
【化2】

【請求項4】
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂100重量%に対し、前記微粒子を0.1重量%以上、10重量%以下の割合で含有してなることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項5】
前記微粒子が、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、及び酸化チタンからなる群より選ばれた1種又は2種以上あることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物を成形してなる光拡散性樹脂成形体。
【請求項7】
光源に発光ダイオードを用いることを特徴とする請求項6に記載の光拡散性樹脂成形体。
【請求項8】
請求項6または7に記載の光拡散性樹脂成形体を用いてなる照明器具。
【請求項9】
請求項6または7に記載の光拡散性樹脂成形体を用いてなる表示装置。

【公開番号】特開2011−178949(P2011−178949A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46629(P2010−46629)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】