説明

光沢インクジェット記録媒体およびその製造方法

【課題】高い光沢性を有し、かつインク吸収性と発色性に優れた良好な画像品質を得られるインクジェット記録媒体とその製造方法を提供する。
【解決手段】支持体上に、合成シリカを主体とするアンダー層、コロイダルシリカを主成分とするインク受理層を順次設け、該インク受理層上にインク透過性ポリマー分散物を塗工してなるインクジェット記録媒体であり、必要に応じ常温でカレンダー処理を行う。上記インク透過性ポリマー分散物は、単量体成分として(メタ)アクリルアミド、スチレン、及びアクリル系単量体を反応性乳化剤の存在下に乳化重合したポリマー分散物である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の所属する技術分野】
本発明はインクジェット記録媒体に関し、高い光沢性を有し、インク吸収性や発色性にも優れた良好な画像品質を得られるインクジェット記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方式は、フルカラー化が容易なことや印字騒音が少ないことなどから近年急速に普及してきた。この方式はノズルから記録媒体に向けてインクの微小液滴を高速で飛翔、付着させて画像や文字などの記録を行うものであり、インク中には多量の溶媒を含む。従って、記録媒体としては速やかにインクを吸収する必要がある。また、最近のコンピューターやデジタルカメラの普及により、銀塩写真に近い画像が求められるようになってきている。そこで、インクジェット記録用紙には高い発色性、解像度及び色再現性が必要となり、これに対応するため表面にインク受理層を設けたいわゆる塗工紙が開発されている。
【0003】
高い発色性、解像度及び色再現性を持つ銀塩写真に近い画像をインクジェット記録方式で得るために、記録用紙に光沢を持たせることが従来から行われている。光沢のあるインクジェット記録用紙を得るための従来技術として、例えば特開平7−101142号公報には、インク受理層の上に粒子径が300nm以下のコロイド粒子の層を設け、75度鏡面光沢度が25%以上という光沢度を有するインクジェット記録用紙について開示されており、また特開平9−183265号公報には支持体上にコロイダルシリカと接着剤を含有するインク受理層を2層以上設ける方法が、あるいは特開平7−89220号公報には、インク受理層を2層以上にして上層を光沢発現層にする方法が開示されている。本発明者らも、支持体、及び該支持体上に順次設けたインク吸収層及びコロイダルシリカ層とからなるインクジェット記録用紙を既に提案した(特開2000−190626号公報)。
さらに、特開2001−277704号公報には、基紙上に微粒シリカ、微粒炭酸カルシウムよりなる顔料と親水性バインダーを主成分とするインク受理層を設け、基紙の最外層にポリマー粒子分散物を塗工し乾燥と熱カレンダー仕上げを施したインクジェット用光沢記録紙、ならびにその製造方法が開示されている。また、特開平7−25134号公報には、熱可塑性微粒子または熱可塑性の多層微粒子を部分融着させて光沢を付与したインクジェット記録媒体が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−101142号公報
【特許文献2】特開平9−183265号公報
【特許文献3】特開平7−89220号公報
【特許文献4】特開2000−190626号公報
【特許文献5】特開2001−277704号公報
【特許文献6】特開平7−25134号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
インクジェット記録媒体に光沢感を付与するためには、インク受理層の最外層に、粒子径の小さな顔料すなわちシリカなどのコロイド粒子とバインダーを用いることとなるが、粒子径が小さいコロイド粒子を用いると造膜後の空隙が小さくなるのでインク吸収速度が小さくなるという欠点がある。また、コロイダルシリカを使用する場合は、コロイダルシリカは合成非晶質シリカのような内部空隙を持たないので、必要とされるインク吸収容量を得るためにインク受理層を厚く塗布する必要がある。しかしながら、インク受理層を厚く塗布すると粉落ち現象が発生しやすくなる。そこでバインダーの配合量を増やして粉落ちを防止した場合には、特に表面での吸収速度が遅くなってブリード現象が発生し、高解像度の印字が出来ないという欠点があった。
【0006】
また熱可塑性微粒子または熱可塑性の多層微粒子を部分融着させて光沢を付与したインクジェット記録媒体においては、微粒子を部分融着するのに狭い温度幅に乾燥条件を調整する必要があり、実際の乾燥条件では、乾燥装置の温度分布が必ず起こることから、一定のインク吸収性を備えた記録紙を安定して生産するのは非常に困難である。
【0007】
一方、インクジェット記録媒体に光沢を付与する目的で、溶解・膨潤によりインクを吸収する樹脂を塗布したインクジェット用記録シートが多く市販されているが、このような樹脂の溶解・膨潤によりインクを吸収させようとするものは、ある程度の光沢は得られるが、インクの乾燥速度が遅く、耐水性も良くないのが現状である。
【0008】
さらに、単純にスーパーカレンダーやグロスカレンダー方式により、圧力や温度をかけたロールに通紙することにより光沢を付与する方法が考えられるが、この方式では、表面の平滑化に伴って光沢は向上しても塗工層の空隙が減少してインク吸収性が遅くなり、逆に、速いインク吸収性を確保しようとすると、空隙が多くなって光沢が低下する。
【0009】
以上の理由から、インク吸収性、光沢性、粉落ち全てが良好なインクジェット記録媒体を得ることは、従来では極めて困難であった。そこで本発明の目的は、粉落ちがなく、高い光沢性を有し、かつインク吸収性や発色性にも優れた良好な画像品質を得られるインクジェット記録媒体とその製造方法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、支持体上にコロイダルシリカを主成分とするインク受理層を設け、該インク受理層上にポリマー粒子分散物を塗工することで、高い光沢性を有し、インク吸収性や発色性にも優れた良好な画像品質を有するインクジェット記録媒体を得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、支持体上にコロイダルシリカを主成分とするインク受理層を設け、該インク受理層上にポリマー粒子分散物を塗工してなるインクジェット記録媒体であり、上記ポリマー粒子分散物が、単量体成分として(メタ)アクリルアミド、スチレン、および(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体の共重合体からなる (メタ)アクリルアミド・スチレン・アクリル系ポリマー粒子分散物であることを特徴とするインクジェット記録媒体である。
【0012】
また、本発明においてはインク受理層に用いるコロイダルシリカを、一次粒子径が約3〜50nmのシリカ微粒子が複数個、鎖状に連結した鎖状コロイダルシリカでとすることで、更にインク吸収性を向上することが可能となる。
また、本発明は、上記インクジェット記録媒体のインク受理層のアンダー層として、支持体上に微粒合成シリカと結着剤を主成分とするアンダー層を設けたものである。
【0013】
また、本発明は支持体上にアンダー層を設けあるいは設けずに、コロイダルシリカを主成分とするインク受理層を塗工乾燥して設け、ついで(メタ)アクリルアミド・スチレン・アクリル系ポリマーからなるポリマー粒子分散物を塗工し、インク透過性ポリマー粒子が溶融して皮膜化しない条件で乾燥し、ついで必要に応じインク透過性ポリマー粒子が溶融して皮膜化しない条件でカレンダー処理することを特徴とする光沢インクジェット記録媒体の製造方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のインクジェット記録媒体の支持体は特に制限されるものではなく、木材繊維主体の紙、またはポリエチレンなどのプラスチック類、もしくは木材繊維や合成繊維を主体とした不織布のごときシート状物質が挙げられ、紙の場合は内添サイズ剤の添加又は無添加、填料の含有又は非含有で良く、サイズプレスの有無でも何等制限しない。インク吸収性の観点から、紙のようなインク吸収に優れた支持体を使用することが望ましい。
【0015】
支持体とする紙に使用される木材繊維(木材パルプ)としてはLBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプ等のパルプを含み、必要に応じて従来公知の填料やバインダー及びサイズ剤や定着剤、歩留まり向上剤、紙力増強剤等の各種添加剤を1種以上用いて混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等の各種抄紙機にて紙匹を形成した後に、乾燥させて支持体を得ることができる。
【0016】
本発明のインク受理層は、コロイダルシリカを主成分とする。コロイダルシリカとは、湿式法で合成された一次粒子径が数nm〜100nm程度の合成シリカである。コロイダルシリカは一般に塗工液中で一次粒子が孤立して存在するために、塗膜を形成した場合粒子が密な状態となる。このためインク定着性、発色性に影響を与えるインク定着効率は良く、密に詰まることにより耐擦過性は良好である。 また、インク受理層の凹凸形状は本発明の光沢インクジェット記録媒体その物の光沢にも反映されるため、本発明においては、インク受理層には粒子径の小さなコロイダルシリカをインク受理層として用いる。
【0017】
また一般に、コロイダルシリカ粒子はそれ自体がある程度の造膜性を有し、その傾向は粒子径が小さいものほど顕著であるが、粒子径の小さい球状コロイダルシリカは、造膜性は良い反面、造膜後の空隙が小さくインク吸収性は低下する傾向にある。また、粒子径の大きな球状コロイダルシリカを用いた場合には、造膜性が低下するため、これを確保するためにインク受理層にバインダー(結着剤)を配合することが必要となり、インク受理層のインク吸収性はかえって小さくなる。そこで一次粒子が数個ないし十数個鎖状に連結した鎖状コロイダルシリカを使用すると、造膜時にコロイダルシリカ同士が適度に絡み合い、バインダーを使用しなくてもシリカ粒子の脱落が抑制されるのみならず、特に大きなインク吸収速度を必要とするフォトタイプインクジェットプリンターへ使用する際に求められる、適度な大きさの空隙が得られる。
【0018】
前記鎖状コロイダルシリカは、一次粒子である平均粒子径3〜40nmの球状のシリカ粒子がある特定の個数、直列にあるいは一部分岐してつながったものである。その大きさ(長さ)は、レーザー散乱法で測定し、40〜200nmであることが好ましい。鎖状コロイダルシリカの一次粒子径および全体の大きさを上記範囲にすることで、インク吸収性が向上する。
インク受理層に用いられるコロイダルシリカとしては、球状あるいは鎖状など種々の形状のものを使用することが出来るが、上記のように特に鎖状コロイダルシリカを使用することが好ましい。さらに必要に応じ、2種以上のコロイダルシリカのブレンドも可能である。
【0019】
本発明のインクジェット記録媒体に用いるコロイダルシリカは、それ自体が結着力を有しているため、他に結着剤は必ずしも必要としないが、必要に応じて用いても良い。上記結着剤としては、例えばポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルアルコールやシリル変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類、変性澱粉類、ポリビニルピロリドン、カゼイン、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ゼラチンなどの水溶性高分子、またはSBラテックス、NBラテックス、アクリル系ラテックス、酢酸ビニル系ラテックス等の水分散性高分子を用いることが出来る。
【0020】
インク受理層における結着剤の配合部数は、コロイダルシリカ100重量部に対し、0〜10重量部であることが好ましく、0〜5重量部であることがより好ましい。結着剤の配合部数が10重量部より多いと表面強度は上昇するものの、反面インク吸収性や光沢度が低下する。インク吸収性を向上する観点においては、結着剤を用いないことが好ましい。
なお、本発明において、インク受理層中のコロイダルシリカは80重量%以上であることが好ましく、より好ましくは90重量%以上である。
【0021】
本発明において、インク受理層や、以下に述べるアンダー層には上記の他、カチオン性化合物を含有することが望ましい。本発明で使用されるカチオン性化合物とは、水性染料インク中に含有される水溶性直接染料や水溶性酸性染料中のスルホン酸基、カルボキシル基等と不溶な塩を形成する2級アミン、3級アミンあるいは4級アンモニウム塩を含有するいわゆる染料定着剤である。カチオン性化合物は単独または2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0022】
また、これらに添加剤として、サイズ剤、界面活性剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、保水剤などを適宜配合することもできる。
【0023】
インク受理層の塗工量としては、インク受理層のインク吸収容量及び実用に耐えられる程度のインク受理層と支持体の接着強度を基準に決定することができる。インク受理層1層あたりの乾燥塗工量は1〜10g/mであることが好ましく、より好ましくは2〜5g/mである。1層あたりの乾燥塗工量が1g/m未満であると、塗工面の均一性が不十分となる。一方、1層あたりの乾燥塗工量が10g/mを超えると、粉落ちが発生する上乾燥後の塗工層にひび割れが多くなり、印字の際にインクがひび割れの溝に沿って表面を流れる現象が発生し画像が乱れるので好ましくない。
【0024】
本発明において、支持体上に設けられるインク受理層の総数及び構成については特に限定されるものではない。すなわち、インク受理層を支持体の片面あるいは両面に2層以上設けてもよい。また、本発明において、支持体の片面にインク受理層を設けた場合、その反対側の面にカール矯正あるいは搬送性改良等の目的で塗工層を設けることも可能である。
【0025】
また、本発明のインクジェット記録媒体のインク吸収性や画質の向上のためにインク受理層と支持体の間に、更にアンダー層を設けることが好ましい。アンダー層に用いる顔料としては合成シリカ、アルミナやアルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等)、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機顔料はもとより、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、尿素樹脂等の有機白色顔料等も使用することが出来る。これらの中では平均粒子径が5μm以下の微粒合成シリカが最も好ましい。また、アンダー層の結着剤としては、前述のインク受理層の場合と同様のものが好ましく用いられる。
【0026】
アンダー層の塗工量は、目的に応じて適宜決定できるが、本発明においては、乾燥塗工量は5〜40g/mの範囲にあることが好ましい。乾燥塗工量が5g/mに満たないと、アンダー層である塗工層が支持体表面を完全に覆うことが難しく、塗工層によるインクの吸収ムラが発生し、インクジェット印字性能に悪影響が生じる。また、乾燥塗工量が40g/mを超えると、インク受理層と支持体間の接着強度が実用に耐えられないレベルとなり、粉落ちと呼ばれる支持体からの塗工層の剥離等が発生し、重大な問題が生じる。
【0027】
さらに、本発明においてはインク受理層の上に、ポリマー粒子分散物を塗工する。本発明で言うポリマー粒子分散物とは、単量体成分として(メタ)アクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー粒子分散物である。その製造法は特開平2001−277704号公報に開示されており、概略以下の通りである。
【0028】
単量体の種類と重量割合は、(メタ)アクリルアミド2〜15%、スチレン35〜60%、メタクリル酸メチル30〜60%、その他のエチレン性単量体0〜20%で、これらの範囲で全体が100%になるようにする。その他のエチレン性単量体としては、(メタ)アクリル酸エチルなどの低級エステル、(メタ)アクリル酸、イタコン酸などカルボキシル基含有単量体、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有単量体などである。合成は、反応性乳化剤水溶液中に、アクリルアミドとチオグリコール酸などの連鎖移動剤を混合溶解し、この水溶液中に、スチレン、アクリル酸エステル、その他のエチレン性単量体の混合物を滴下、加温攪拌しながら重合させ、重合反応終了後に中和する。反応性乳化剤としては、アリルノニルフェノールポリエチレンオキシド付加体硫酸エステルアンモニウム(アクアロンHS、BCシリーズ;第一工業製薬社製)、ノニルフェノールプロピレンオキシド付加プロペニルポリエチレンオキシド付加体硫酸エステルアンモニウム(例えば、ラテムルSシリーズ;花王社製)などが挙げられる。攪拌を適当に選ぶことにより、平均粒子径40〜170nm程度のポリマー粒子の分散物が得られる。前記範囲の組成で重合して得られたポリマー粒子は、常温で非造膜性である。従って高い温度や無理な摩擦熱を掛けないで、乾燥あるいは処理すれば、親水性でかつ粒子間に空隙を保った、インク透過性の層とすることができる。
本発明においては、光沢性の観点から、ポリマー粒子の平均粒子径70〜100nmとすることが好ましい。
【0029】
上記ポリマー粒子分散物を用いてインクジェット記録媒体を製造するには、前記支持体上にコロイダルシリカを主成分とするインク受理層を塗工乾燥して設け、次いでポリマー粒子分散物として(メタ)アクリルアミド・スチレン・アクリル系ポリマー粒子分散物、さらに必要に応じて乾燥後のポリマー粒子層の強度をあげるための結着剤(インク受理層に用いることができる結着剤と同等のものが使用できる。)を0〜10重量%混合した液を、前記インク受理層の表面に塗工する。支持体上に通常微粒合成シリカと結着剤を含有するアンダー層を塗工し、その上にインク受理層を設け、その上にポリマー分散物を塗工しても良い。
【0030】
本発明においてはポリマー分散物を塗工してなるインク透過性の層は極めて薄く塗工するのが好ましく、片面当りの塗布量が固形分0.3〜2.0g/m程度の条件で塗工、乾燥して行われる。均一に塗工した場合には、塗工量が少なくても光沢度は向上するが、0.3g/m程度以下では均一なポリマー粒子層が形成できない恐れがあり、逆に、塗工量が多すぎるとインク吸収性が悪化する。
【0031】
インク受理層もしくはポリマー分散物を塗工してなるインク透過性の層を支持体表面やインク受理層表面に設けるために、一般的な塗工装置である各種ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ゲートロールコーター、カーテンコーター、ショートドゥエルコーター、グラビアコーター、フレキソグラビアコーター、サイズプレス等の各種装置をオンマシン又はオフマシンで使用することができる。
【0032】
本発明においては、各層を塗工する前または塗工した後に、マシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置で表面処理することも可能であり、それにより一層光沢度が向上する。カレンダー処理に当たっては、ポリマー粒子層を溶融して皮膜化させない圧力や温度を選択することが必要である。本発明では、ニップを形成するロールの少なくとも一つがソフトポリマカバーロールである、ソフトニップカレンダーによる常温(40℃以下)での処理が特に好ましい表面処理である。常温でのソフトニップカレンダー処理においては、記録媒体のインク吸収性を低下させないで光沢を向上することができる。
【0033】
【作用】
本発明において上記構成を採ることにより、粉落ちがなく、高い光沢性を有し、インク吸収性や発色性にも優れた良好な画像品質を有するインクジェット記録媒体が得られる理由は定かではないが、以下のように推定される。コロイダルシリカのみを塗工した場合は、ある程度の光沢は得られるものの、コロイダルシリカ粒子自体に熱可塑性がなく、また乾燥により一次粒子同士が強く結合するため、一度皮膜化するとカレンダー処理・熱処理等を行っても変形が生じず、高光沢化には限界がある。
これに対し、(メタ)アクリルアミド、スチレン、アクリル系モノマーを必須成分として共重合したポリマー粒子分散物を、コロイダルシリカを主成分とするインク受理層上に塗工した本発明の場合、インク受理層に存在する微小な凹凸の隙間にポリマー粒子が入り込み、結果として高い光沢を得ることができると考えられる。
【0034】
また、本発明においては、特に重合時に反応性乳化剤を使用することにより、得られた共重合体の溶融温度以下でもポリマー粒子同士が点接着し、空隙を保った、インク透過性の層となるので、空隙を利用してインクの浸透が図られる。インク透過性の層におけるポリマー粒子同士の接着力はコロイダルシリカ粒子の場合ほど強固ではないので、常温以下のカレンダー処理を行うことによって、更に表面がならされ、光沢が高くなると考えられる。
また、コロイダルシリカもポリマー粒子も光の波長に比べ粒子径が小さく均一なため、光の反射率が改善され光沢度が高くなる。さらに、コロイダルシリカ層のアンダー層として微粒のシリカからなる層を設けることにより、コロイダルシリカ層の平滑度が高まり、インク吸収とともに、一層の光沢度の改善を図ることができるものと考えられる。
【0035】
また、コロイダルシリカを主成分とするインク受理層は塗工量が多くなると表面の強度が低下するが、本発明のようにポリマー粒子分散物を塗工することで、表面強度が向上し、粉落ちが防止できる。インク受理層のコロイダルシリカに鎖状コロイダルシリカを用いるとインク受理層の強度が向上し、更に粉落ちを軽減することができる。
【0036】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、実施例において示す「部」及び「%」は、特に明示しない限り重量部及び重量%を示す。
<インク透過性ポリマーの合成>
攪拌機、滴下槽及び温度計を具備した反応容器に、水300gと反応性乳化剤としてアリルノニルフェノールポリオキシエチレンオキシド(EO付加10モル)付加硫酸エステルアンモニウム(アクアロンHS−10:第一工業製薬製)9部と、50%アクリルアミド水溶液25部と、水溶性連鎖移動剤としてチオグリコール酸1部を混合した後、窒素ガスを吹き込みながら75℃に昇温して、スチレン140部、メタクリル酸メチル86部、アクリル酸エチル10部、アクリル酸1部の混合物を2時間かけて滴下した。同時に、2%過硫酸アンモニウム水溶液25部を2時間15分かけて滴下した。次いで、85℃で2時間保持して重合を終了し、アンモニア水を加えてpH8.0に中和し、固形分濃度38%、粘度110mPa・s、平均粒子径82nmのポリマー粒子分散物を得た。
【0037】
<実施例1>
・基紙
広葉樹漂白クラフトパルプ90%と針葉樹漂白クラフトパルプ10%を混合叩解して濾水度を350mlに調整したパルプに、炭酸カルシウム15部、カチオン化澱粉0.4部、及びアニオン化ポリアクリルアミド0.3部を添加し、長網抄紙機で抄造乾燥した後マシンカレンダー処理を行い、坪量157g/mの基紙を製造した。
・アンダー層
合成非晶質シリカ(ファインシールX−37B トクヤマ製)100部、ポリビニルアルコール(PVA−117 クラレ製)40部、スチレンブタジエンラテックス(LX438C 日本ゼオン製)5部、サイズ剤(ポリマロン360 荒川化学工業製)2部、染料定着剤(PAS−H−10L 日東紡績製)5部に希釈水を加え攪拌混合して、固形分濃度20%の塗料を得た。この塗料を、前記支持体上にバーブレードコーターを用いて塗工量が12g/mとなるように塗工し、アンダー層を塗工層として有する塗工紙を得た。
【0038】
・インク受理層
上記で製造した塗工紙に、コロイダルシリカ(スノーテックスPS−L 日産化学工業製)100部、染料定着剤(PF700 昭和高分子製)6部を混合した固形分濃度が16%の塗料を、バーブレードコーターを用いて塗工量が5g/mとなるように塗工した。
・ポリマー粒子層
先に合成したポリマー粒子分散物を固形分で100部、ポリビニルアルコール(PVA−217 クラレ製)3部添加した固形分が14%の塗工液を、前記インク受理層が形成された支持体上に、バーブレードコーターを用いて塗工量が1.2g/mとなるように塗工乾燥し、次に室温で線圧100kg/cmのソフトニップカレンダーでカレンダー処理を行い、実施例1のインクジェット記録媒体を得た。
【0039】
<実施例2>
ソフトニップカレンダー処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例2のインクジェット記録媒体とした。
【0040】
<実施例3>
インク受理層の塗工量を3g/mとし、ソフトニップカレンダー処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例3のインクジェット記録媒体とした。
【0041】
<実施例4>
インク受理層の塗工量を7g/mとし、ソフトニップカレンダー処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例4のインクジェット記録媒体とした。
【0042】
<比較例1>
実施例1で製造した塗工紙(基紙+アンダー層)上に、更に上記アンダー層の塗料を、バーブレードコーターを用いて5g/m、合計17g/m塗工した。それ以外は、実施例1と全く同様にして比較例1のインクジェット記録媒体を得た。
【0043】
<比較例2>
実施例1で製造したインク受理層まで塗工した塗工紙に、ポリマー粒子層を塗工せずに実施例1と同様にカレンダー処理を行って、比較例2のインクジェット記録媒体を得た。
【0044】
<評価方法>
上記実施例1〜4及び比較例1、2で得られた記録媒体の評価を、以下に示す方法により行った。各項目において、△以上の評価であれば実用することができる。
またインクジェット印字評価については、インクジェットプリンターとしてセイコーエプソン社製のPM−9000Cを用いて、半光沢フォト紙・きれいモードで印字を行った。
【0045】
・評価項目
<白紙光沢度>
塗工紙の75°鏡面光沢度をJIS−P−8142に準拠して、村上色彩技術研究所製鏡面光沢度計(GM−26 for 75°)により測定した。
○:75°鏡面光沢度が60%以上である。
△:75°鏡面光沢度が50%以上60%未満である。
×:75°鏡面光沢度が40%未満である。
【0046】
<発色性>
表計算ソフト『エクセル』でブラック、シアン、マゼンダ、イエローのベタ画像を作製し印字した。恒温恒湿室にて24時間放置した後、マクベス濃度計(RD915、Macbeth社製)を用いて各色の印字濃度を測定し、得られた測定値の合計により評価した。
○:4色合計が7.5以上である。
△:4色合計が7.0以上7.5未満である。
×:4色合計が7.0未満である。
【0047】
<インク吸収>
レッドとグリーン、及びブルーとイエローの各ベタ画像を隣り合わせにして印字して、その境界部の滲み具合を総合評価した。
○:境界部が鮮明でかつ滲みが認められない。
△:境界部がやや不鮮明だが滲みは認められない。
×:境界部が不鮮明で滲みが認められる。
評価の結果は表1に示した通りである。表中の○又は△の評価であれば実用上問題ないが、×の評価では実用上問題がある。
【0048】
<表面強度>
JIS−K6854に規定する方法に従い、インクジェット記録媒体塗工層表面にセロハンテープ(ニチバン製、幅18mm)を端部を残して貼り、テープ表面に自重5kgのローラを往復5回転転がしてテープを貼着させた後、貼着されていないテープ端部を側面視U字型となるように180度回頭させた。一方でインクジェット記録媒体の裏面に把持板を接着した。そして、上記テープ端部を定速引張試験機(ORIENTEC社製、TENSILON RTC−1210A)の移動ヘッドに取付け、上記把持板を固定ヘッドに取付け、移動ヘッドを100mm/分の速度でインク受理層表面と平行に移動させることにより、テープをインク受理層表面から剥離させ、その時の荷重を測定した。3.0N/cm以上であれば粉落ちがほとんどなく、2.5N/cm以上であれば実用上問題がない。
【0049】
【表1】



【0050】
表1から明らかなように、実施例1、2、3、4のインクジェット記録媒体は、発色性、インク吸収性が良好であると同時に高い光沢性を発現している。ポリマー粒子分散物を塗工後にカレンダー処理を行った実施例1では、白紙光沢度は非常に高くなるが、発色性が若干劣った。また、インク受理層の塗工量が多い実施例4においては発色性が若干劣り、また表面強度も小さかった。一方、比較例1では白紙光沢度が不足しており、さらに発色性も低いことから、通常の湿式シリカをインク受理層に用いた場合は、高光沢のインクジェット記録媒体は得られないことが分かる。また、インク受理層にコロイダルシリカを用い、その後カレンダー処理を施した比較例2では、比較的良好な白紙光沢度が得られるものの、インク受理層がカレンダーでつぶれされるために、インク吸収性が劣っている。さらに、比較例1、2共に表面強度が劣っていた。
【0051】
【発明の効果】
以上より、本発明により得られたインクジェット記録媒体は、粉落ちがなく高い光沢性を有し、かつインク吸収性や発色性にも優れた良好な画像品質を得られるものであり、実用上大変有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上にコロイダルシリカを主成分とするインク受理層を設け、該インク受理層上にポリマー粒子分散物を塗工してなるインクジェット記録媒体であり、上記ポリマー粒子分散物が、(メタ)アクリルアミド・スチレン・アクリル系ポリマー粒子分散物であることを特徴とする光沢インクジェット記録媒体。
【請求項2】
該インク受理層のコロイダルシリカが、一次粒子径が約3〜50nmのシリカ微粒子が複数個、鎖状に連結した鎖状コロイダルシリカであることを特徴とする請求項1記載の光沢インクジェット記録媒体。
【請求項3】
支持体上に微粒合成シリカと結着剤からなるアンダー層を設け、そのアンダー層上にインク受理層を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の光沢インクジェット記録媒体。
【請求項4】
支持体上にアンダー層を設けあるいは設けずに、コロイダルシリカを主成分とするインク受理層を塗工乾燥して設け、ついで(メタ)アクリルアミド・スチレン・アクリル系ポリマーからなるポリマー粒子分散物を塗工し、ポリマー粒子が溶融して皮膜化しない条件で乾燥し、カレンダー処理を行わないことを特徴とする光沢インクジェット記録媒体の製造方法。
【請求項5】
支持体上にアンダー層を設けあるいは設けずに、コロイダルシリカを主成分とするインク受理層を塗工乾燥して設け、ついで(メタ)アクリルアミド・スチレン・アクリル系ポリマーからなるポリマー粒子分散物を塗工し、ポリマー粒子が溶融して皮膜化しない条件で乾燥した後、インク透過性ポリマー粒子が皮膜化しない条件でソフトニップカレンダー処理することを特徴とする光沢インクジェット記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2004−42626(P2004−42626A)
【公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−140809(P2003−140809)
【出願日】平成15年5月19日(2003.5.19)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】