説明

光発泡硬化気泡保持組成物

【課題】液状で塗布することが可能であり、かつ、加熱することなく、発泡硬化し、硬化後も気泡が微細な状態のまま維持されるという効果を有する組成物を提供すること。
【解決手段】 感光性樹脂、光分解型ガス発生剤及び気泡安定剤からなる光発泡硬化性樹脂組成物とする。ガス発生剤としては、アジド基または、ジアゾ基を有する化合物を含むものが好ましく、例えば、合成のし易さ、取扱性(安全性)等からアジドメチル(Azidomethyl)基を有する有機化合物がより好ましい。例えば、GAP(Glycidyl Azido Polymer)、AMMO(3-azidomethyl-3 methyloxetane)、BAMO(3,3-bis azidomethyl oxetane)等が挙げられる。また、気泡安定剤としては、セルロース化合物が使用でき、特に結晶性セルロースが、分散性がよく好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化樹脂組成物を用い、電子機器、部品等に断熱性、衝撃吸収性を付与させるため、微細気泡を有した硬化体を得る技術領域に属する。
【背景技術】
【0002】
発泡硬化体としては発泡スチロールなどが広く知られている。発泡硬化体は、その軽量性、断熱性から、包装材、断熱材、衝撃吸収材など多様に用いられている。
従来のクッション、断熱材等の発泡硬化体は、固形物を所要の形状にした上で用いる必要があり、微細な加工には不向きであった。
さらに、発泡硬化体を得るには、高温下の環境で、樹脂を溶融した状態で成型する必要があるためり、微細加工をするのが困難であり、後付けでクッションなどの機能を付与するなどの目的の場合は、上記のように発泡後、冷却させ、固体にした後、後付する必要があった。
【0003】
また、感光性樹脂組成物にガス発生物を添加し、光を照射することによって発泡硬化させて発泡硬化体を得ることも知られている。例えば、特許文献1には、微細気泡を内在させた紫外線硬化樹脂組成物に紫外線により分解してガスを発生する紫外線照射ガス発生化合物を添加して紫外線を照射することにより、内在させた微細気泡の作用により、少ない紫外線照射ガス発生化合物の添加量で高発泡の成形品を得ることが記載されている。しかしながら、この方法では、発泡から硬化に至るまでの間、樹脂中に生成した気泡を微細な状態で安定的に保持することが困難であった。
【0004】
光照射によって樹脂中に微細気泡を均一に生成させるためには、次の(1)、(2)の要件が必須である。
(1)常温で液状のものであって、光の照射を受け硬化する機能を有する感光性樹脂
(2)光によって、分解する特性を有し、かつ、分解によってガスを放出する化合物
しかしながら、本発明者が実験した結果、上記(1)、(2)の要件のみでは、発生したガスによって多数の気泡が生成しても、感光性樹脂の硬化中に、これらの多数の気泡が徐々に合体し、ついには、大きな泡状になり、気泡形態、形状の安定をはかることが、極めて困難であった。
【0005】
特に、断熱性を保持するためには、樹脂組成物中に生成した気泡をその気泡サイズが微小のまま、維持することが必須であるが、紫外線照射の時間経過とともに、気泡が合体していき、例えば、スポイト等で一滴たらした状態で開始した場合は、気泡は、最悪の場合、ひとつに合体してしまう。図1に気泡が合体していく様子を模式図で示した(secは、照射時間である。但し照射時間は紫外線照射強度によって変わる)。
図について説明すると以下のとおりである。なお、図中のドットは微細気泡を、○は微細気泡が合体した合体気泡をそれぞれ模式的に表したものである。
0sec(紫外線照射前)
10sec(紫外線照射直後) : 特に変化なし
60sec(紫外線照射継続) : 微細気泡生成
120sec(紫外線照射継続) : 微細気泡増加、一部合体
300sec(紫外線照射継続) : 合体気泡増加
上記のように紫外線照射を継続すると硬化中に微細気泡が合体していくため、硬化中に気泡が合体していく挙動を抑えることが、極めて重要な課題であった。
【特許文献1】特開平7−278333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、液状で塗布することが可能であり、かつ、加熱することなく、発泡硬化し、硬化後も気泡が微細な状態のまま維持されるという効果を有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意研究を進めた結果、気泡安定剤を付与することによって、微細な気泡が均一に分散保持された発泡硬化体を得ることに成功した。
すなわち、本発明は次に記載するとおりの組成物及びその硬化物に係るものである。
(1)感光性樹脂、光分解型ガス発生剤及び気泡安定剤を含む光発泡硬化性樹脂組成物。
(2)光分解型ガス発生剤がアジドメチル基を有する化合物であり、気泡安定剤が結晶性セルロースであることを特徴とする上記(1)記載の樹脂組成物。
(3)上記(1)又は(2)の樹脂組成物を光照射によって硬化して得られる硬化物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物は、光照射によって、内部にガスを発生し、かつ、気泡保持効果を有し、かつ、硬化する特性を併せ持つ組成物であり、発泡と硬化とを光によって行うことが可能であるため、加熱の必要が無く、かつ、短時間で目的とする場所に形成できるので、精密部品間のクッションの形成、断熱層の形成等を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において用いる光分解型ガス発生剤としては、精密、電子部品等に対して機械的・熱的負荷が加わらないように、可視光線、紫外線、X線、γ線等の電磁波、若しくは電子線、若しくはα線によってガスを発生するものなら特に制限されない。特に、紫外線によってガスを発生するものが好ましい。
【0010】
かかるガス発生剤としては、アジド基または、ジアゾ基を有する化合物を含むものが好ましい。これら化合物は、前記特許文献1にも記載されているが、アジド基を持つ化合物としては、p−アジドベンズアルデヒド、p−アジドアセトフェノン等々が挙げられ、ジアゾ基をもつ化合物としては、p−ジアゾジフェニルアミン、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸イソブチルエステル等々が挙げられる。
特にアジド基を有するものは、電離性放射線、特に紫外線等を吸収すると、分解して安定な窒素分子をガスとして放出するので好ましい。
【0011】
特に本発明においては、合成のし易さ、取扱性(安全性)等からアジドメチル(Azidomethyl)基を有する有機化合物がより好ましい。例えば、GAP(Glycidyl Azido Polymer)、AMMO(3-azidomethyl-3 methyloxetane)、BAMO(3,3-bis azidomethyl oxetane)等が挙げられる。GAPについては、米国特許第4,268,450号明細書に記載される合成方法で製造することができる。
特に上記、GAP、および、AMMOの重合したものは、感光性樹脂に混合して用いる場合、ポリマーであるため揮発性が無く、さらに好ましい。
アジドメチルに限らず下記式(A)で表されるポリエーテルを挙げることができる。下記式でn=1がGAPである。
【0012】
【化1】


(xは10〜60程度の整数であり、Rは−(CH)nN又は−CHCHNCHで示されるアルキルアジド基、好ましくはアジドメチル基であり、nは1〜5の整数である。)
【0013】
アジドメチル基を有する有機化合物の紫外線による分解の機構は、本発明者等が、取り扱い安全性の面で検討した結果を公開している(「工業火薬」第51巻、第4号(工業火薬協会、1990年)第240〜245ページ)。
【0014】
使用する感光性樹脂は、基本的に光重合性オリゴマ、光重合性モノマ、光開始剤からなるものであり、公知のもの,かつ、市販のもの(例えば、旭化成の液状感光性樹脂APR)が使用できる。特に大気中で表面も完全に光硬化させることができる液状感光性樹脂組成物が好ましい。この場合、特別な装置あるいは雰囲気を必要とすることなく、感光性樹脂組成物の表面硬化阻害を生じずに光硬化させることができ、本発明を電子部品のクッションなどに使用する場合、有効である。
表面硬化型の光硬化樹脂は国際公開第2006/030537号に開示されている。
【0015】
気泡安定剤としては、セルロース化合物が使用できる。特に結晶性セルロースが、分散性がよく好ましい。
結晶性セルロースとは、パルプを原料とし加水分解によりセルロース結晶領域(セルロース分子鎖が緻密かつ規則的に存在する部分)を取り出して精製したもので、化学構造は、天然セルロースと同じものである(旭化成ケミカルズ 「セオラス」のカタログ参照)。
組成物の配合としては、使用目的によって、変更可能であるが、気泡安定剤が、比表面積が大きいため、感光性樹脂の液状の特性を維持させる場合は、感光性樹脂量が気泡安定剤の添加量を重量比較で上回る方がよい。実用的にチューブなどに組成物を注入するなどの場合は、感光性樹脂が気泡安定剤の3倍量以上がよい。気泡発生剤は、組成物中に10wt%以下で充分である。
【実施例】
【0016】
本発明の効果を実証するために、以下の実験を実施した。
[使用した材料]
<感光性樹脂>
旭化成ケミカルズ製液状感光性樹脂(K−11)
<光分解型ガス発生剤>
分子量約2500、両末端OH基含有のGAPポリマー(Glycidyl Azido Polymer)を使用した。
このGAPポリマーは、米国特許第4,268,450号の開示に従って合成した。
<気泡安定剤>
旭化成ケミカルズ製セオラスSC−900
【0017】
[比較例1]
旭化成ケミカルズ製液状感光性樹脂(K−11)1gにGAPを0.1g混合し、真空下で巻き込み気泡を除去し、紫外線照射装置で2000mJ紫外線を照射した。硬化することを確認した。内部を観察すると気泡径は1mm程度になっており、内部で発生した気泡が合体して大きくなっている様子が確認できた。
【0018】
[実施例1]
比較例1の組成に、旭化成ケミカルズ製セオラスSC−900を0.1g加えて混合し、真空下で巻き込み気泡を除去したものに2000mJ紫外線を照射した。得られた硬化物の内部には、微細な気泡(0.2mm程度以下)が均一に存在しており、1mm程度の大きな径のものはなく、気泡の合体が抑制されているのを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の組成物は、硬化後においても微細な気泡が均一に分散保持されるので、軽量かつ断熱性があり、包装材、断熱材、衝撃吸収材などの用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】光発泡硬化性樹脂組成物に光を照射した際に、生成した気泡が合体していく様子を模式的に示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光性樹脂、光分解型ガス発生剤及び気泡安定剤を含む光発泡硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
光分解型ガス発生剤がアジドメチル基を有する化合物であり、気泡安定剤が結晶性セルロースであることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を光照射によって硬化して得られる硬化物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−1729(P2009−1729A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165939(P2007−165939)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】