説明

光硬化型コーティング剤組成物、被膜形成方法及び被覆物品

【解決手段】(1)多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子(A)、
(2)下記ビスシラン化合物(B)の加水分解・縮合物及び/又はビスシラン化合物(B)と(B)成分以外の加水分解性有機ケイ素化合物(D)との共加水分解・縮合物、
n3-nSi−Y−SiR3-nn (B)
(式中、Yはフッ素原子で置換されてもよい2価の有機基又は芳香環を含んでもよい2価の有機基であり、Rは1価の有機基であり、XはOH基又は加水分解性基であり、n=1、2又は3である。)
(3)光を照射することにより酸を発生する化合物
を含有することを特徴とする光硬化型コーティング剤組成物。
【効果】本発明のコーティング剤組成物は、多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子を含有するため、樹脂中に空隙を有する。屈折率が最も低い空気を含むため、硬化物あるいは硬化被膜とすると、屈折率を低くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜を形成するのに有効な光硬化型コーティング剤組成物、このコーティング剤組成物を用いた被膜形成方法、及びこのコーティング剤組成物の硬化被膜が被覆された被覆物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューター、テレビ、プラズマディスプレイ等の各種ディスプレイ、液晶表示装置、透明プラスチックレンズ、各種計器のカバー、自動車、電車の窓ガラス等の光学物品に、視認性を向上させる目的から、反射防止膜を最外層に設けたものが使用されている。反射防止の原理から、反射防止膜は、低屈折率である必要がある。
【0003】
フッ素樹脂は、本質的に屈折率が低く、耐アルカリ性に優れる材料であるので、ディスプレイ等の反射防止用途にも適用されている。しかしながら、フッ素樹脂は、その分子構造からゴム材料として使用されることが多く、耐擦傷性に優れる硬質な保護コーティング剤とすることは難しい。
【0004】
近年、パーフルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物が開発され、その特性を活かして、耐アルカリ性、撥水性、撥油性、防汚性、反射防止性等に優れた各種コーティング剤が開発されている。しかしながら、その特性をもたらすパーフルオロアルキル基が嵩高く、不活性であるため、硬化被膜の架橋密度が低くなり、その結果、フッ素樹脂と比較するとかなり硬質となっているが、耐擦傷性はまだ不十分である。
【0005】
耐擦傷性を高める目的で、パーフルオロアルキル基含有シランとテトラアルコキシシラン等の各種シラン化合物とを共加水分解する方法(特開2000−119634号公報:特許文献1)、パーフルオロアルキレン基をスペーサーとして含有するビスシラン化合物を主成分とする材料(特開2004−315712号公報:特許文献2)等が提案されており、耐擦傷性、密着性は良好な水準に達しているが、屈折率が十分低下していないために反射防止性は不十分であった。
【0006】
屈折率が最も低い材料は空気であり、それを硬化物の構造中に取り込む目的で、粒子の内部に空隙を有する無機質微粒子が案出され、多孔質あるいは中空シリカゾルが提案されている(特開平7−133105号公報:特許文献3、特開2001−233611号公報:特許文献4)。この材料を、フッ素置換アルキル基含有シリコーンと混合して使用する方法(特開2002−79616号公報:特許文献5)、電離放射線硬化性モノマーを含むバインダー成分に分散して使用する方法(特開2004−272197号公報:特許文献6)が試みられている。本発明者らが確認してみたところ、中空シリカゾルを上記各種バインダーの有機溶媒溶液に混合すると均一に分散するが、有機溶媒が揮散すると、中空シリカゾルは内部に空隙を含むため塗膜表面に浮き上がっているのが観察された。その結果、硬化被膜全体としては良好な反射防止性を示すが、中空構造で強度的に弱い中空シリカ粒子が表面に多量に存在し、バインダー成分による固定が十分でないため、硬化被膜は十分な耐擦傷性が得られず、またシリカ成分の欠点である耐アルカリ性が不良であることが解った。
【0007】
中空シリカゾルの欠点を解消する目的で、フッ素置換アルキル基含有シラン化合物で表面処理を行った中空シリカゾルをテトラアルコキシシランから誘導されるバインダーに混合・分散させて使用する方法(特開2005−266051号公報:特許文献7)が試みられている。疎水性基で表面が被覆されたため、耐アルカリ性は改善されているが、この方法では混合しているだけなので、中空シリカ粒子の浮き上がりを防止できておらず、耐擦傷性は改善されていない。また、電離放射線重合性基含有シラン化合物で表面処理を行った中空シリカゾルを電離放射線硬化型樹脂中に分散させる試みもなされている(特開2005−99778号公報:特許文献8)。硬化時にはバインダーと粒子は結合するが、やはり硬化前の浮き上がりは防止できておらず、耐擦傷性は十分ではない。
【0008】
耐擦傷性を改良する目的で内部に空隙を有する無機酸化物微粒子と特定構造のビスシラン化合物の加水分解物を一体化させた複合樹脂とすることで、内部に空隙を有する無機酸化物微粒子を浮き上がらせることなく、硬化被膜中に均一分散することができ、優れた機械強度(耐擦傷性)及び低屈折率性(反射防止性)を両立できることが見出されている(特開2007−146106号公報:特許文献9)。しかし、硬化の際に100℃以上の温度が必要であり、基材が変形してしまうという問題があることから、100℃以上の温度を必要とせず、硬化するシステムを見出す必要があった。
【0009】
そのために、光硬化型にすることが考えられるが、光で架橋するためには、アクリル基やエポキシ基が必要となる。これらの官能基は屈折率を上げてしまうために、内部に空隙を有する無機酸化物微粒子をいれても、屈折率が低くならず、反射率を下げるには限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−119634号公報
【特許文献2】特開2004−315712号公報
【特許文献3】特開平7−133105号公報
【特許文献4】特開2001−233611号公報
【特許文献5】特開2002−79616号公報
【特許文献6】特開2004−272197号公報
【特許文献7】特開2005−266051号公報
【特許文献8】特開2005−99778号公報
【特許文献9】特開2007−146106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、優れた耐擦傷性及び低屈折率を有する硬化物を与え、反射防止膜形成用として好適な光硬化型コーティング剤組成物、被膜形成方法及び被覆物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子、特定構造のビスシラン化合物を含む有機ケイ素化合物の加水分解・縮合物、光を照射することにより酸を発生する化合物を混合した混合物を、90℃以下で3分以下の条件に保持した後、1,000mJ/cm2以下の光を照射することにより、優れた機械強度(耐擦傷性)及び低屈折率性(反射防止性)を両立した硬化物を形成できる上に、基材の変形を抑えることができること、また、光を照射することによって発生する酸により、シラノールを硬化させているので、屈折率を高くするような官能基を必要とせず、反射率を低く抑えることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
従って、本発明は、下記コーティング剤組成物、被膜形成方法及び被覆物品を提供する。
請求項1:
(1)多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子(A)、
(2)下記ビスシラン化合物(B)の加水分解・縮合物及び/又はビスシラン化合物(B)と(B)成分以外の加水分解性有機ケイ素化合物(D)との共加水分解・縮合物、
n3-nSi−Y−SiR3-nn (B)
(式中、Yはフッ素原子で置換されてもよい2価の有機基又は芳香環を含んでもよい2価の有機基であり、Rは1価の有機基であり、XはOH基又は加水分解性基であり、n=1、2又は3である。)
(3)光を照射することにより酸を発生する化合物
を含有することを特徴とする光硬化型コーティング剤組成物。
請求項2:
(1)多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子(A)の存在下に、
(2)下記ビスシラン化合物(B)又は該ビスシラン化合物(B)と(B)成分以外の加水分解性有機ケイ素化合物(D)とを(共)加水分解・縮合物させることにより得られる、(1)成分と(2)成分の加水分解・縮合物が一体化した複合樹脂、
n3-nSi−Y−SiR3-nn (B)
(式中、Yはフッ素原子で置換されてもよい2価の有機基又は芳香環を含んでもよい2価の有機基であり、Rは1価の有機基であり、XはOH基又は加水分解性基であり、n=1、2又は3である。)
(3)光を照射することにより酸を発生する化合物
を含有することを特徴とする光硬化型コーティング剤組成物。
請求項3:
無機酸化物微粒子(A)が、SiO2を主成分とするものであることを特徴とする請求項1又は2記載のコーティング剤組成物。
請求項4:
無機酸化物微粒子(A)の平均粒子径が、1〜100nmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
請求項5:
ビスシラン化合物(B)が、下記式で表されるものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
(CH3O)3Si−CH2CH2−Cm2m−CH2CH2−Si(OCH33
(式中、m=2〜20の整数である。)
請求項6:
(2)成分が、ビスシラン化合物(B)と、下記一般式(D−1)
F(CF2a24−SiR3-bb (D−1)
(式中、R、Xは上記の通り。aは1〜12、bは1〜3の整数である。)
で示されるフッ素置換パーフルオロアルキル基を含有するシラン化合物の共加水分解・縮合物である請求項1乃至5のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
請求項7:
(2)成分の(共)加水分解・縮合物が、シラノール基を3〜12質量%含むものである請求項1乃至6のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
請求項8:
(3)成分が下記式で示されるいずれかのオニウム塩である請求項1乃至7のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
42+-
43+-
425+-
452+-
4−S−R4+52-
43Se+-
44+-
42+-
(式中、R4は炭素数6〜30のアリール基、R5は炭素数1〜30のアルキル基、Z-はSbF6-、SbCl6-、AsF6-、PF6-、PFn(Rf)6-n-、BF4-、B(C654−HSO4-、ClO4-、Cl-、HSO4-又はCF3SO3-の陰イオンを示す。)
請求項9:
(1)成分と(2)成分との割合が(1)成分/(2)成分=10/90〜70/30(質量比)であり、(3)成分を(1),(2)成分の合計100質量部に対して0.1〜30質量部含有する請求項1乃至8のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
請求項10:
更に(4)ジアルコキシアントラセンを(1),(2)成分の合計100質量部に対し0.01〜5質量部含有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
請求項11:
更に(5)下記反応性ジメチルシロキサン(C)及び/又は該反応性ジメチルシロキサン(C)を含む有機ケイ素化合物の(共)加水分解・縮合物をコーティング剤中の固形分中1〜25質量%含有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
(R1O)3Si−R2−((CH32SiO)x−Si(CH33 (C)
(式中、R1はメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基、R2は酸素原子又はCH2CH2基、x=5〜50の整数である。)
請求項12:
(5)成分として、反応性ジメチルシロキサン(C)と加水分解性シラン化合物(D)を含む有機ケイ素化合物の共加水分解・縮合物を含有することを特徴とする請求項11記載のコーティング剤組成物。
請求項13:
反射防止膜形成用である請求項1乃至12のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
請求項14:
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物を基材に塗布し、90℃以下で3分以下の条件に保持した後、2,000mJ/cm2以下の光を照射することからなる被膜形成方法。
請求項15:
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物が基材の最外層に塗装されてなることを特徴とする被覆物品。
請求項16:
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物が基材の最外層に塗装されてなることを特徴とする低反射性を有する被覆物品。
請求項17:
基材が合成樹脂製透明基材である請求項15又は16記載の被覆物品。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコーティング剤組成物は、多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子を含有するため、樹脂中に空隙を有する。屈折率が最も低い空気を含むため、硬化物あるいは硬化被膜とすると、屈折率を低くすることができる。また、(1)成分と(2)成分の加水分解・縮合物を、光を照射すると酸を発生する化合物により硬化させることにより、100℃以上での処理がなくとも、硬化物あるいは硬化被膜は均一な高硬度被膜となり、耐擦傷性に優れる上に、基材の変形を抑えることができる。従って、コンピューター、テレビ、プラズマディスプレイ等の各種ディスプレイ、液晶表示装置に用いる偏光板、透明プラスチックレンズ、各種計器のカバー、自動車、電車の窓ガラス等の反射防止性と耐擦傷性の両特性を必要とする光学物品に好適に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の成分である多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子は、従来公知のものを使用することができる。屈折率をより低下させるためには空隙率を高める必要があり、その目的には、外殻層を有し、内部が空洞になっているタイプが適している。無機質としては、Si、Ti、Zn、Sb、Y、La、Zr、Al、In、Sn、Ce、Fe等の各種金属酸化物が可能であるが、屈折率を下げる目的からは、Si系が適しており、特にSiO2系を主成分とするもの(SiO2又はSiと他の金属との複合酸化物を微粒子中50〜100質量%、特に80〜100質量%であり、残部は他の金属の酸化物である)が好ましいが、この場合、SiO2を微粒子中50〜100質量%、特に80〜100質量%であり、残部が上記他の金属の酸化物、又はSiと上記他の金属との複合酸化物であることがより好ましい。
【0016】
このような空隙を有する微粒子としては、特開平7−133105号公報:特許文献3、特開2001−233611号公報:特許文献4等に開示された複合酸化物ゾル、又は中空シリカ微粒子が挙げられる。この空隙を有する無機酸化物微粒子の屈折率は、1.20〜1.44の範囲を満たしているものが好ましい。
【0017】
無機酸化物微粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜100nm、より好ましくは5〜80nm、更に好ましくは10〜60nmの範囲を満たすものである。平均粒子径が小さすぎると、粒子が凝集しやすく、不安定となるおそれがある。また、大きすぎると、硬化被膜の透明性が低下するおそれがある。また、上記無機酸化物微粒子は内部に空洞を有する外殻からなるが、この微粒子の外殻層は、0.1〜30nm、特に0.5〜20nmの厚さ範囲にあることが望ましい。外殻層の厚さが薄すぎると、均一な層を形成できず、穴が開き十分な強度が得られなかったり、また空隙が樹脂で充填されるため屈折率が低下する場合がある。また、厚すぎると、空隙率が低下するため、十分な屈折率の低減効果が得られない場合がある。
【0018】
なお、上記平均粒子径は、動的光散乱レーザードップラー法による測定で得ることができる。
【0019】
この無機酸化物微粒子は、水、あるいは有機溶媒に分散したものを用いるのがよい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチル等のエステル類、キシレン、トルエン等の芳香族類等を具体例として挙げることができる。
【0020】
次に、第2成分である、有機ケイ素化合物について説明する。必須成分であるビスシラン化合物(B)は、下記一般式で表すことができる。
n3-nSi−Y−SiR3-nn (B)
(式中、Yはフッ素原子で置換されてもよい2価の有機基又は芳香環を含んでもよい2価の有機基であり、Rは1価の有機基であり、XはOH基又は加水分解性基であり、n=1、2又は3である。)
【0021】
Yは、フッ素原子で置換されてもよい2価の有機基、あるいは芳香環を含んでもよい2価の有機基を表す。具体的には、−CH2−、−C24−、−C48−、−C612−、−C610−等の炭素数1〜10、特に1〜6の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基等の2価炭化水素基、−C24−(CF24−C24−、−C24−(CF26−C24−、−C24−(CF28−C24−、−C24−(CF210−C24−、−C24−(CF212−C24−、−C24−(CF216−C24−等のフッ素含有の炭素数6〜20、特に6〜16の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基等の2価の炭化水素基、−C64−、−CH2−C64−CH2−、−C24−C64−C24−等の炭素数6〜20、特に6〜10のアリーレン基、アリーレン基とアルキレン基とが結合した基等の芳香環含有2価炭化水素基を例示することができる。この中でも、硬化被膜の硬度と屈折率の低減効果を考慮すると、フッ素置換のアルキレン基が好ましく、特に下記一般式で表すことのできるフッ素置換の2価炭化水素基が好ましい。
−CH2CH2−Cm2m−CH2CH2
(m=2〜20の整数である。)
【0022】
mが1では十分な撥水性が得られず、良好な屈折率の低減効果が達成できない場合がある。また、mが20を超過すると、架橋密度が不十分となる結果、硬化被膜が柔軟になり、良好な耐擦傷性が得られないおそれがある。シラン化合物の沸点が著しく上昇する結果、精製が難しくなり、経済的にも不利となる場合がある。パーフルオロアルキレン基の鎖長は4〜12の範囲を満たすのがより好ましい。特に好ましくは4〜8の範囲を満たすのがよい。
【0023】
Rは、有機基で、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、フェニル基等のアリール基、その他の1価炭化水素基等を表し、炭素数1〜10のものが好ましい。
【0024】
Xは、OH基、又はハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基、アシルオキシ基、アルケノキシ基、−NCO基等の加水分解性基を表す。具体的には、OH基、Cl等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、イソプロペノキシ基等のアルケノキシ基、アセトキシ基等のアシルオキシ基、メチルエチルケトキシム基等のケトオキシム基、メトキシエトキシ基等のアルコキシアルコキシ基、−NCO基等を挙げることができる。これらの中でアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基のシラン化合物が取り扱いやすく、加水分解時の反応の制御もしやすいため、好ましい。
【0025】
シロキサン架橋可能な基Xの個数を示すnは、1、2、3のいずれでもとることが可能であるが、2、3が硬化性の観点から好ましい。架橋密度を上げて、耐擦傷性を良好なレベルにするためには、n=3とするのが好ましい。
【0026】
以上を満たすビスシラン化合物の具体例としては、
(CH3O)3Si−C24−Si(OCH33
(CH3O)3Si−C612−Si(OCH33
(CH3O)2(CH3)Si−C24−Si(CH3)(OCH32
(CH3O)(CH32Si−C24−Si(CH32(OCH3)、
(C25O)3Si−C24−Si(C25O)3
Cl3Si−C24−SiCl3
(C3COO)3Si−C24−Si(OCOCH33
(CH3O)3Si−C64−Si(OCH33
(CH3O)2(CH3)Si−C64−Si(CH3)(OCH32
(CH3O)(CH32Si−C64−Si(CH32(OCH3)、
(CH3O)3Si−C24−C64−C24−Si(OCH33
(CH3O)2(CH3)Si−C24−C64−C24−Si(CH3)(OCH32
(CH3O)(CH32Si−C24−C64−C24−Si(CH32(OCH3)、
(CH3O)3Si−C24−(CF22−C24−Si(OCH33
(CH3O)3Si−C24−(CF24−C24−Si(OCH33
(CH3O)3Si−C24−(CF26−C24−Si(OCH33
(CH3O)3Si−C24−(CF28−C24−Si(OCH33
(CH3O)3Si−C24−(CF210−C24−Si(OCH33
(CH3O)3Si−C24−(CF212−C24−Si(OCH33
(CH3O)3Si−C24−(CF216−C24−Si(OCH33
(CH3O)3Si−C24−(CF220−C24−Si(OCH33
(C25O)3Si−C24−(CF24−C24−Si(OC253
(C25O)3Si−C24−(CF26−C24−Si(OC253
(C25O)3Si−C24−(CF28−C24−Si(OC253
(C25O)3Si−C24−(CF210−C24−Si(OC253
(C25O)3Si−C24−(CF212−C24−Si(OC253
(C25O)3Si−C24−(CF216−C24−Si(OC253
(C25O)3Si−C24−(CF220−C24−Si(OC253
(C37O)3Si−C24−(CF24−C24−Si(OC373
(C37O)3Si−C24−(CF26−C24−Si(OC373
(C37O)3Si−C24−(CF28−C24−Si(OC373
(CH3O)2(CH3)Si−C24−(CF24−C24−Si(CH3)(OCH32
(CH3O)2(CH3)Si−C24−(CF26−C24−Si(CH3)(OCH32
(CH3O)2(C65)Si−C24−(CF24−C24−Si(C65)(OCH32
(CH3O)2(C65)Si−C24−(CF26−C24−Si(C65)(OCH32
【0027】
これらの中でも、好ましくは、
(CH3O)3Si−C24−(CF24−C24−Si(OCH33
(CH3O)3Si−C24−(CF26−C24−Si(OCH33
(CH3O)3Si−C24−(CF28−C24−Si(OCH33
及び上記式のメトキシ基をエトキシ基に変えたビスシラン化合物である。
【0028】
本発明においては、(2)成分のビスシラン化合物を含む有機ケイ素化合物において、上記ビスシラン化合物(B)に加えて、(B)成分以外の他の加水分解性有機ケイ素化合物(D)を共加水分解・縮合することもできる。このビスシラン化合物と共加水分解可能な有機ケイ素化合物について説明すると、ビスシラン化合物以外に、求める諸特性に影響を与えない範囲内で、下記化合物を併用することができる。具体的には、モノシラン類、例えば、テトラエトキシシラン等のシリケート類、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性アルコキシシラン類、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ官能性アルコキシシラン類、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル官能性アルコキシシラン類、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性アルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン類、フェニルトリメトキシシラン等のフェニルアルコキシシラン類、クロロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロブチルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン等のハロゲン置換アルキルアルコキシシラン類、
CF3(CF27SO2NH−C36−Si(OCH33
CF3(CF27CONH−C36−Si(OCH33
パーフルオロポリエーテル基含有メトキシシラン等のフッ素含有置換基を有するアルコキシシラン類、及びこれらの誘導体を挙げることができる。
【0029】
上記シラン化合物中、フッ素置換パーフルオロアルキル基を含有するシラン化合物が、屈折率を低下させる効果を有している点、及び耐アルカリ性を向上させる点から好ましい。このシランは、下記一般式(D−1)で表すことができる。
F(CF2a24−SiR3-bb (D−1)
(式中、R、Xは上記の通り。aは1〜12、bは1〜3の整数である。)
【0030】
パーフルオロアルキル基の鎖長を決定するaは、1〜12、好ましくは4〜12、特に好ましくは4、6、8、10又は12の値である。aが小さすぎると、硬化被膜中のフッ素原子の含有率が低くなり、耐アルカリ性が低下する場合がある。シロキサン架橋可能な基Xの個数を示すbは2又は3が好ましい。架橋密度を上げて、耐擦傷性を良好なレベルにするためには、b=3とするのが好ましい。
【0031】
以上を満たすフッ素原子置換有機基を含有する加水分解性シラン化合物の具体例としては、
CF3(CF2324−Si(OCH33
CF3(CF2324−Si(OC253
CF3(CF2324−Si(CH3)(OCH32
CF3(CF2524−Si(OCH33
CF3(CF2724−Si(OCH33
CF3(CF2724−Si(OC253
CF3(CF2724−Si(CH3)(OCH32
CF3(CF2924−Si(OCH33
CF3(CF21124−Si(OCH33
等を示すことができるが、上記例に限定されるものではない。
【0032】
この中でも、下記のものが特に好ましい。
CF3(CF2524−Si(OCH33
【0033】
また、ジメチルシロキサン鎖を含有する加水分解性オルガノポリシロキサン化合物も表面の滑り性、防汚性を向上させる効果を有している点から、併用するのに適している。
【0034】
しかし、構造中にジメチルシロキサン鎖が組み込まれると、膜が柔らかくなることから、片末端のみに反応性を有するものがより好ましく、このオルガノポリシロキサン化合物は、下記一般式(C)で表されるものが好ましい。
(R1O)3Si−R2−((CH32SiO)x−Si(CH33 (C)
(式中、R1はメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基、R2は酸素原子又はCH2CH2基、x=5〜50の整数である。)
【0035】
ジメチルシロキサン鎖の鎖長は、5〜50、特に7〜30が好ましい。この値より短いと、十分な滑り性、防汚性が得られず、長くなると、被膜の耐擦傷性が低下してしまうことがある。
共加水分解可能な有機ケイ素化合物は、1種または2種以上併用して用いてもよい。
【0036】
共加水分解可能な有機ケイ素化合物は、前記ビスシラン化合物と質量比で、ビスシラン化合物(B)/共加水分解可能な有機ケイ素化合物(D)=50/50〜100/0、特に75/25〜100/0であることが好ましい。(D)成分を配合する場合は、(B)/(D)=99以下/1以上である。
【0037】
共加水分解する有機ケイ素化合物の量が多すぎると、架橋密度が低下し、十分な耐擦傷性が得られない場合がある。また、アルキルシリケート、エポキシ官能性シラン、(メタ)アクリル官能性シラン、メルカプト官能性シラン、アミノ官能性シラン等の親水性シラン化合物の含有率は、少ないほうが好ましく、共加水分解する有機ケイ素化合物中に10質量%以下、特に好ましくは1質量%以下であることが好ましい。硬化物あるいは硬化被膜の表面が、水溶性のアルカリ性物質で濡れやすくなり、アルカリ性の攻撃を受けて劣化を起こすため、これ以上配合するのは避けたほうがよい。
【0038】
加水分解・縮合させる方法としては、従来公知の方法を適用することができる。
【0039】
この加水分解・縮合を行う際に、触媒として下記のものを使用することができる。塩酸、硝酸、酢酸、マレイン酸等の酸類、NaOH、KOH等のアルカリ金属水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン等のアミン化合物、及びアミン化合物の塩類、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩等の塩基類、フッ化カリウム、フッ化ナトリウムのようなフッ化塩、固体酸性触媒あるいは固体塩基性触媒(例えばイオン交換樹脂触媒等)、鉄−2−エチルヘキソエート、チタンナフテート、亜鉛ステアレート、ジブチル錫ジアセテート等の有機カルボン酸の金属塩、テトラブトキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン、ジブトキシ−(ビス−2,4−ペンタンジオネート)チタン、ジ−i−プロポキシ(ビス−2,4−ペンタンジオネート)チタン等の有機チタンエステル、テトラブトキシジルコニウム、テトラ−i−プロポキシジルコニウム、ジブトキシ−(ビス−2,4−ペンタンジオネート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ(ビス−2,4−ペンタンジオネート)ジルコニウム等の有機ジルコニウムエステル、アルミニウムトリイソプロポキシド等のアルコキシアルミニウム化合物、アルミニウムアセチルアセトナート錯体等のアルミニウムキレート化合物等の有機金属化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノアルキル置換アルコキシシランが例示され、これらを単独で又は混合して使用してもよい。
【0040】
この触媒の添加量は、有機ケイ素化合物100質量部に対し0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部である。この量が0.01質量部よりも少ないと、反応完結までに長時間がかかったり、反応が進行しない場合がある。また、10質量部より多いとコスト的に不利であり、得られる反応物が着色してしまったり、副反応が多くなったり、不安定化するおそれがある。
【0041】
加水分解・縮合反応は、有機溶剤で稀釈した系で実施するのがよい。この有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチル等のエステル類、キシレン、トルエン等が挙げられる。有機溶剤の添加量は任意だが、溶液中の有効成分の量が、0.5〜50質量%であるように調節するのがよい。好ましくは、1〜30質量%であるのがよい。
【0042】
加水分解・縮合反応は、多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子と、ビスシラン化合物を含む有機ケイ素化合物とを、上記有機溶媒中に分散・混合し、ここに必要に応じて前記加水分解・縮合触媒を添加し、更に加水分解用水を添加し、加水分解・縮合を行う。加水分解に使用する水の量は、全有機ケイ素化合物の加水分解性基(SiX)の合計モル数に対して、0.3〜10倍モルの水を使用するのがよい。この量未満では、加水分解が十分進行せず、無機微粒子と有機ケイ素化合物から誘導されるバインダーとの架橋が十分進行しないおそれがある。また、これを超えると、コーティング溶液とした場合、残存する水が十分揮発せず、被膜が白化してしまう危険性が発生する場合がある。より好ましくは、0.5〜5倍モルの水を使用するのがよい。有機ケイ素化合物は、無機酸化物微粒子の存在下に1度に全量加水分解してもよいし、多段階に分割して添加し、加水分解してもよい。
【0043】
加水分解・縮合物は、(3)成分によって架橋を行うために、シラノール基を有する必要がある。
【0044】
シラノール基の含有量としては、(2)成分の加水分解・縮合物中3〜12質量%であることが好ましく、3質量%未満では、架橋が不十分となり、十分な耐摩耗性が得られない場合がある。また12質量%を超えると、(1)成分のバインダー効果が不十分となるため、耐摩耗性が得られなかったり、透明性が損なわれてしまうおそれがある。
【0045】
前記多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子(1)と、(2)成分との質量比率は、(1)成分/(2)成分=10/90〜70/30の範囲を満たすのが好ましい。(2)成分が多すぎると、屈折率の低減効果が乏しく、良好な反射防止性が得られないおそれがある。また、(2)成分が少なすぎると、相対的なバインダー量が不足し、無機酸化物微粒子の固定が十分なされないため、良好な水準の耐擦傷性が得られないことがある。更に好ましくは、20/80〜50/50、特に好ましくは、30/70〜45/55の範囲を満たすのがよい。
【0046】
また、耐擦傷性及び低屈折率(反射防止性)に影響を与えない範囲で、各種加水分解性金属化合物を併用してもよい。具体的には、テトラブトキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン、ジブトキシ−(ビス−2,4−ペンタンジオネート)チタン、ジ−i−プロポキシ(ビス−2,4−ペンタンジオネート)チタン等の有機チタンエステル、テトラブトキシジルコニウム、テトラ−i−プロポキシジルコニウム、ジブトキシ−(ビス−2,4−ペンタンジオネート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ(ビス−2,4−ペンタンジオネート)ジルコニウム等の有機ジルコニウムエステル、アルミニウムトリイソプロポキシド等のアルコキシアルミニウム化合物、アルミニウムアセチルアセトナート錯体等のアルミニウムキレート化合物、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Zn、Ga、In、Ge、Sn等の加水分解性誘導体等を例示することができるが、これに限定されるものではない。特に、耐薬品性が課題の場合には、Zr、Hf等の金属誘導体を併用するのがよい。
【0047】
多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子(A)の存在下に、ビスシラン化合物(B)を含む有機ケイ素化合物を、加水分解・縮合させることにより、両者が一体化した複合樹脂とすることにより、内部に空隙を有する無機酸化物微粒子を浮き上がらせることなく、硬化被膜中に均一分散することができ、より好ましい。
【0048】
次に、(3)成分である、光を照射することにより酸を発生する化合物(光酸発生剤)について説明する。
【0049】
光を照射することにより酸が発生し、その酸により、(1),(2)中のシラノールの縮合やアルコキシ基の加水分解縮合などが進み、架橋していくことにより、強固な膜を形成する。
【0050】
かかる光酸発生剤としては、例えば、次の各式で示されるジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、モノアリールジアルキルスルホニウム塩、トリアリールセレノニウム塩、テトラアリールホスホニウム塩、アリールジアゾニウム塩等のオニウム塩が好適に使用される。
42+-
43+-
425+-
452+-
4−S−R4+52-
43Se+-
44+-
42+-
(式中、R4は炭素数6〜30のアリール基、R5は炭素数1〜30のアルキル基、Z-はSbF6-、SbCl6-、AsF6-、PF6-、PFn(Rf)6-n-、BF4-、B(C654−HSO4-、ClO4-、Cl-、HSO4-又はCF3SO3-等の陰イオンを示す。)
【0051】
具体的には、
【化1】

等が挙げられる。
【0052】
光酸発生剤(3)の添加量は、(1),(2)成分の合計100質量部に対して、通常0.1〜30質量部、好ましくは0.5〜20質量部程度の割合で添加される。開始剤の量が少なすぎると、架橋が十分に発揮されず、耐摩耗性が悪くなることがある。また、多すぎても、増量効果が認められず、経済的に不利であると共に、被膜の光学特性の低下をきたす可能性がある。
【0053】
これらの組成物には必要に応じて、有機溶剤を含有していてもよい。
その有機溶剤は、(1)〜(3)成分を溶解するものでなければならない。この有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチル等のエステル類、キシレン、トルエン等が挙げられる。
これらの中の1種もしくは、2種以上の有機溶剤を組み合わせて使用しても構わない。
【0054】
有機溶剤を添加することにより、(1)〜(3)成分の有効成分の量が、0.5〜50質量%、特に1〜30質量%であるように調節するのが好ましく。反射防止膜として利用する場合は、100nm程度の薄膜を形成する必要があるが、その場合1〜10質量%がより好ましい。
【0055】
本発明の光硬化型コーティング剤組成物は、(4)ジアルコキシアントラセンを添加することにより、よりシラノールの架橋が進行し、耐摩耗性が向上する。このジアルコキシアントラセンとしては、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジ−n−プロポキシアントラセン、9,10−ジ−n−ブトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジ−n−プロポキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジ−n−ブトキシアントラセン、9,10−ビス(2−エチルヘキシルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(2−メチルヘキシルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(2−プロピルヘキシルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(2−ブチルヘキシルオキシ)アントラセンが挙げられる。
これらの中でも9,10−ジ−n−ブトキシアントラセンが好ましい。
【0056】
ジアルコキシアントラセンの添加量は、(1),(2)成分100質量部に対して、通常0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜3質量部程度の割合で添加される。ジアルコキシアントラセンの量が少なすぎると、添加効果が十分に発揮されず、その量があまり多くなっても、増量効果が認められず、経済的に不利であると共に、被膜の光学特性の低下をきたす可能性がある。
【0057】
また、本発明の光硬化型コーティング剤組成物は、含ケイ素系、あるいは含フッ素系界面活性剤を添加することが好ましい。防汚性を更に向上させ、水性及び/又は油性の塗料、マジックインキ、油性汚れの代表である指紋等の、水性汚れ、並びに油性汚れのいずれも容易に除去できる表面にすることができ、しかもその効果が耐久性に優れるものとすることができる。
【0058】
具体的には、ジメチルシロキサン化合物、ポリエーテル変性シリコーン化合物、及び住友スリーエム社(商品名:フルオラード)、デュポン社(フルオロアルキルポリエーテル)、旭硝子社(商品名:サーフロン)から販売されている各種含フッ素系界面活性剤、及びパーフルオロシランを単独で加水分解・縮合したSiOH基末端のオリゴマーを挙げることができる。
【0059】
それらの中でも、シラノールやアルコキシ基を含有する化合物であれば、(3)成分の作用により、(1),(2)成分を架橋させると同時に架橋させることができるので、耐久性にも優れる。
【0060】
特に、(5)下記反応性ジメチルシロキサン(C)及び/又は該反応性ジメチルシロキサン(C)を含む有機ケイ素化合物の加水分解・縮合物を含有することにより、防汚性を付与することができる。
(R1O)3Si−R2−((CH32SiO)x−Si(CH33 (C)
(式中、R1はメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基、R2は酸素原子又はCH2CH2基、x=5〜50の整数である。)
【0061】
この化合物やこの化合物を含む加水分解物は、表面にブリードしやすい性質があることから、表面に防汚性を付与するには都合が良く、片末端のみに反応性基があることから、構造中に入ることがないので、耐摩耗性が悪化しにくい。
【0062】
より好ましい化合物としては、R1はメチル基もしくはエチル基で、x=10〜30の整数である。
【0063】
上記化合物(C)に加えて、他のシラン化合物を共加水分解・縮合することもできる。この化合物と併用可能なシラン化合物としては、上記(D)成分で例示した加水分解性シラン化合物と同様のものが例示され、具体的には、テトラエトキシシラン等のシリケート類、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性アルコキシシラン類、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ官能性アルコキシシラン類、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル官能性アルコキシシラン類、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性アルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン類、フェニルトリメトキシシラン等のフェニルアルコキシシラン類、クロロプロピルトリメトキシシラン、
F(CF2a24−SiR3-bb (D−1)
(式中、Rは、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基又はシクロヘキシル基等の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、フェニル基等のアリール基等の1価の有機基、Xは、OH基、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基、アシルオキシ基、アルケノキシ基、−NCO基を表す。aは1〜12、bは1〜3の整数で好ましく2又は3である。)
で表されるトリフルオロプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロブチルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン等のハロゲン置換アルキルアルコキシシラン類、
CF3(CF27SO2NH−C36−Si(OCH33
CF3(CF27CONH−C36−Si(OCH33
パーフルオロポリエーテル基含有メトキシシラン等のフッ素含有置換基を有するアルコキシシラン類、及びこれらの誘導体を挙げることができる。
【0064】
最も好ましい化合物としては、(CH3O)3SiO−((CH32SiO)9−Si(CH33(平均組成式)、及びその加水分解物、このジメチルシロキサンと(D−1)で表されるシランとの共加水分解物が挙げられる。
【0065】
なお、反応性ジメチルポリシロキサンとシラン化合物とを共加水分解・縮合する場合、反応性ジメチルポリシロキサンとシラン化合物との割合は、質量比で10:90〜90:10であることが好ましい。
【0066】
加水分解の方法は前述の(2)成分の加水分解方法と同様な方法を用いることができる。
添加量は、コーティング剤中の固形分中、1〜25質量%の範囲であればよく、塗装時のレベリング性を確保するためにも有効である。1質量%未満であると、十分な防汚性が得られず、25質量%より多いと、耐摩耗性が悪化してしまう。
【0067】
上記方法にて得られた本発明のコーティング剤組成物に、更に有機系及び無機系の紫外線吸収剤、系内のpHをシラノール基が安定に存在しやすいpH2〜7に制御するための緩衝剤、例えば、酢酸−酢酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム−クエン酸等の任意成分を含んでもよい。
【0068】
本発明のコーティング剤組成物によって基材表面に形成される反射防止膜の膜厚は、通常0.01〜0.5μmに制御するのがよい。特に、0.05〜0.3μm程度の光学膜厚に調整すると、良好な反射防止性が得られる。本組成物を基材表面にコーティングする方法としては、ディッピング法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法など特に限定されるものではないが、膜厚の制御を容易に行うことができることから、ディッピング法、スプレー法及びロールコート法で所定の膜厚になるように行うのが好ましい。
【0069】
本発明のコーティング剤組成物の塗装する基材は特に制限されないが、合成樹脂製透明基材に好適に塗装される。合成樹脂の具体例としては、光学的特性に優れるものであれば全て適用可能であるが、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリアルキレンテレフタレート樹脂、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート等の液晶性樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、トリメチルペンテン、ポリビニルノルボルネン、環構造含有ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン樹脂、及びこれらの複合化樹脂を例示することができるが、これに限定されるものではない。特に好ましくは、ポリカーボネート樹脂、PET等のポリアルキレンテレフタレート樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン系樹脂である。透明基材は、成型部品、板状、フィルム状いずれでもよい。塗装の作業性の容易さから、フィルム状のものがより好ましい。
【0070】
硬化させるためには、溶剤を揮発させた後、光を照射させることが好ましい。溶剤を揮発させるためには、90℃以下で3分以下の条件に放置することが好ましい。より好ましくは40〜80℃で、30秒〜2分である。その後、光を照射させて硬化させるが、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン等を用い、好ましくは2,000mJ/cm2以下、特に1,000mJ/cm2以下で、この場合、好適には200mJ/cm2以上で照射させ硬化させる。
【0071】
溶剤の揮発は、基材の素材の変形温度以下の条件で行わないと、基材がカールするなど、不具合が生じることがあるので、基材の素材の変形温度以下とすることが好ましい。
【0072】
本発明のコーティング剤組成物によって基材表面に形成される硬化被膜上に、各種撥油性防汚被膜を更に積層してもよい。本発明による反射防止性部品を使用する際付着する指紋等の油性汚れの付着防止、付着した汚れを容易に除去することを目的に、撥油性防汚被膜を設けることができる。
【0073】
本発明のコーティング剤組成物によって基材表面に形成される硬化被膜の下に、基材との間に、耐擦傷性を向上させる目的で硬質の保護膜、反射防止性を向上させる目的で高屈折率膜、埃などの付着防止あるいは帯電を防止する目的で導電性膜などの各種機能性膜を、単独あるいは複層設けてもよい。
【0074】
本発明のコーティング剤組成物を塗装・被覆した透明基材を、優れた耐擦傷性及び耐薬品性を備えた反射防止性部品として使用する際、別の透明基材に貼り付けて使用することも可能である。他の基材に貼付して使用するために、基材のコーティング剤を被覆した側と反対側に、従来公知のアクリル系、エポキシ系、ポリイミド系、あるいはシリコーン系接着剤、感圧接着剤を設けてもよい。特にアクリル系、シリコーン系が好ましい。この層の膜厚は1〜500μmの範囲が好ましい。薄すぎると良好な接着力が得られず、厚すぎると経済的に不利となることがある。更にこの上に表面保護用の保護プラスチックシートを設けてもよい。
【実施例】
【0075】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0076】
[合成例1]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えたフラスコに、下記ビスシラン化合物(A)を100g、陽イオン交換樹脂を1g仕込み、25℃で撹拌・混合した。ここに、水を40g、10分かけて滴下した。更に40℃で6時間攪拌し、加水分解・縮合を終了した。中空シリカ微粒子ゾル(平均粒子径60nm、外殻厚み10nmの中空シリカをイソプロパノールに分散させたシリカ濃度20%溶液)を200g加えた後、この溶液をエタノールで不揮発分4%まで稀釈し、陽イオン交換樹脂を濾別し、ポリエーテル変性シリコーンを0.1g加え、コーティング剤溶液(1)を調製した。
(A) (CH3O)3Si−C24−C48−C24−Si(OCH33
【0077】
[合成例2]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えたフラスコに、合成例1と同じビスシラン化合物(A)を100g、及び中空シリカ微粒子ゾル(平均粒子径60nm、外殻厚み10nmの中空シリカをイソプロパノールに分散させたシリカ濃度20%溶液)を200g、陽イオン交換樹脂を1g仕込み、25℃で撹拌・混合した。ここに、水を40g、10分かけて滴下した。更に40℃で6時間攪拌し、加水分解・縮合を終了した。この溶液をエタノールで不揮発分4%まで稀釈し、陽イオン交換樹脂を濾別し、ポリエーテル変性シリコーンを0.1g加え、コーティング剤溶液(2)を調製した。
【0078】
[合成例3]
シラン化合物(A)を下記シラン化合物(B)に代えて合成例2と同様な方法でコーティング剤溶液(3)を調製した。
(B) (CH3O)3Si−C24−C612−C24−Si(OCH33
【0079】
[合成例4]
シラン化合物(A)を下記シラン化合物(C)に代えて合成例2と同様な方法でコーティング剤溶液(4)を調製した。
(C) (C25O)3Si−C24−C48−C24−Si(OC253
【0080】
[合成例5]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えたフラスコに、合成例1と同じビスシラン化合物(A)を100g、及び中空シリカ微粒子ゾル(平均粒子径60nm、外殻厚み10nmの中空シリカをイソプロパノールに分散させたシリカ濃度20%溶液)を200g、陽イオン交換樹脂を1g仕込み、25℃で撹拌・混合した。ここに、水を40g、10分かけて滴下した。更に40℃で6時間攪拌し、加水分解・縮合を終了した。この溶液をエタノールで不揮発分4%まで稀釈し、陽イオン交換樹脂を濾別し、ポリエーテル変性シリコーンを0.1g、及びアルミニウム・アセトアセテートを0.2g加え、コーティング剤溶液(5)を調製した。
【0081】
[合成例6]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えたフラスコに、合成例1と同じビスシラン化合物(A)を100g、下記フッ素原子置換有機基を含有する有機ケイ素化合物(i)を5g、下記ジメチルシロキサン鎖を含有するシラン化合物(ii)を1g、及び中空シリカ微粒子ゾル(平均粒子径60nm、外殻厚み10nmの中空シリカをイソプロパノールに分散させたシリカ濃度20%溶液)を200g、陽イオン交換樹脂を1g仕込み、25℃で撹拌・混合した。ここに、水を40g、10分かけて滴下した。更に40℃で6時間攪拌し、加水分解・縮合を終了した。この溶液をエタノールで不揮発分4%まで稀釈し、陽イオン交換樹脂を濾別し、ポリエーテル変性シリコーンを0.1g加え、コーティング剤溶液(6)を調製した。
CF3(CF2524−Si(OCH33 (i)
(CH3O)3Si−C24−((CH32SiO)9−Si−C24−Si(OCH33(平均組成式) (ii)
【0082】
[合成例7]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えたフラスコに、合成例1と同じビスシラン化合物(A)を100g、上記フッ素原子置換有機基を含有する有機ケイ素化合物(i)を5g、及び中空シリカ微粒子ゾル(平均粒子径60nm、外殻厚み10nmの中空シリカをイソプロパノールに分散させたシリカ濃度20%溶液)を200g、陽イオン交換樹脂を1g仕込み、25℃で撹拌・混合した。ここに、水を40g、10分かけて滴下した。更に40℃で6時間攪拌し、加水分解・縮合を終了した。この溶液をエタノールで不揮発分4%まで稀釈し、陽イオン交換樹脂を濾別し、ポリエーテル変性シリコーンを0.1g加え、コーティング剤溶液(7)を調製した。
【0083】
[合成例8]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えたフラスコに、合成例1と同じビスシラン化合物(A)を100g、上記ジメチルシロキサン鎖を含有するシラン化合物(ii)を1g、及び中空シリカ微粒子ゾル(平均粒子径60nm、外殻厚み10nmの中空シリカをイソプロパノールに分散させたシリカ濃度20%溶液)を200g、陽イオン交換樹脂を1g仕込み、25℃で撹拌・混合した。ここに、水を40g、10分かけて滴下した。更に40℃で6時間攪拌し、加水分解・縮合を終了した。この溶液をエタノールで不揮発分4%まで稀釈し、陽イオン交換樹脂を濾別し、ポリエーテル変性シリコーンを0.1g加え、コーティング剤溶液(8)を調製した。
【0084】
[比較合成例1]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えたフラスコに、合成例1と同じビスシラン化合物(A)を100g、及び中空シリカ微粒子ゾル(平均粒子径60nm、外殻厚み10nmの中空シリカをイソプロパノールに分散させたシリカ濃度20%溶液)を200g、陽イオン交換樹脂を1g仕込み、25℃で撹拌・混合した。ここに、水を40g、10分かけて滴下した。更に40℃で6時間攪拌し、加水分解・縮合を終了した。この溶液をエタノールで不揮発分4%まで稀釈し、陽イオン交換樹脂を濾別し、ポリエーテル変性シリコーンを0.1g、及びアルミニウム・アセトアセテートを1g加え、コーティング剤溶液(9)を調製した。
【0085】
[比較合成例2]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えたフラスコに、合成例1と同じビスシラン化合物(A)を100g、及びシリカ微粒子ゾル(平均粒子径15nm、イソプロパノールに分散させたシリカ濃度20%溶液)を200g、陽イオン交換樹脂を1g仕込み、25℃で撹拌・混合した。ここに、水を40g、10分かけて滴下した。更に40℃で6時間攪拌し、加水分解・縮合を終了した。この溶液をエタノールで不揮発分4%まで稀釈し、陽イオン交換樹脂を濾別し、ポリエーテル変性シリコーンを0.1g加え、コーティング剤溶液(10)を調製した。
【0086】
[比較合成例3]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えたフラスコに、テトラエトキシシランを100g、及び中空シリカ微粒子ゾル(平均粒子径60nm、外殻厚み10nmの中空シリカをイソプロパノールに分散させたシリカ濃度20%溶液)を200g、陽イオン交換樹脂を1g仕込み、25℃で撹拌・混合した。ここに、水を40g、10分かけて滴下した。更に40℃で6時間攪拌し、加水分解・縮合を終了した。この溶液をエタノールで不揮発分4%まで稀釈し、陽イオン交換樹脂を濾別し、ポリエーテル変性シリコーンを0.1g加え、コーティング剤溶液(11)を調製した。
【0087】
[合成例A]
攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えたフラスコに、下記反応性ジメチルシロキサン(D)を50g、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン100g、t−ブタノール100g、メタノール20g、陽イオン交換樹脂1g、アルミニウム・アセトアセテート1gを仕込み、40℃で3時間攪拌し、加水分解・縮合を行った。陽イオン交換樹脂を濾別し、防汚剤(A)を合成した。
(D) (CH3O)3Si−C24−((CH32SiO)9−Si−C24−Si(OCH33(平均組成式)
【0088】
[合成例B]
シロキサン化合物(D)を下記シロキサン化合物(E)に代えて合成例Aと同様な方法で防汚剤(B)を合成した。
(E) (CH3O)3SiO−((CH32SiO)9−Si(CH33(平均組成式)
【0089】
[実施例、比較例]
上記合成例で得られた成分、及び後述する光酸発生剤(F),(G)、その他の成分を用い、表1〜3に示すコーティング剤組成物を調製し、下記の性能を調べた。結果を表1〜3に示す。
【0090】
〔塗装方法〕
・塗装方法:
表面を清浄化したアクリル系ハードコート処理がされたポリカーボネート基材に、下記の各層を、所定の膜厚となるようにバーコーターNo.3で塗布し、硬化させた。
【0091】
(I)高屈折率層
硬化被膜の屈折率が1.68になる信越化学工業(株)製のシリコーン系コーティング剤X−12−2491を使用して、硬化膜厚を0.1μmになるようにバーコーターNo.3で塗布し、80℃の熱風循環オーブン中で1分間保持し、高圧水銀灯で300mJ/cm2照射し硬化させた。
【0092】
(II)本発明のコーティング剤硬化層
(I)の層を形成後、本発明のコーティング剤溶液を用いて、バーコーターNo.3で塗布した。
硬化膜厚は約0.1μm付近で、分光光度計を用いて反射率を測定した場合に、波長500〜600nmの領域で反射率が最も低くなるような光学膜厚に調整した。
塗布後、80℃の熱風循環オーブン中で1分間保持し、高圧水銀灯で300mJ/cm2照射し硬化させた。
比較例2については、塗布後、120℃の熱風循環オーブン中で1分間保持し、硬化させた。
【0093】
・耐擦傷性:
(方式−1)
往復式引掻き試験機((株)ケイエヌテー製)にスチールウール#0000を装着し、荷重500g/cm2下で、10往復させた後のキズの本数を測定した。
<評価の水準>
0本 → ◎
1〜2本 → ○
3〜5本 → △
5本以上 → ×
【0094】
・耐薬品性:
被膜上に、0.1N(0.4%)NaOH水溶液を1滴滴下し、1昼夜放置後、薬剤を除去し、その表面状態を目視で観察した。
<評価の水準>
変化無し → ○
跡形が残る → △
被膜溶解 → ×
【0095】
・反射防止性:
分光光度計を用いて反射率を測定し、波長500〜600nmの領域で反射率が最も低い値を最小反射率とした。
【0096】
・防汚性:
表面に指紋を付着させ、ティッシュペーパーで往復10回擦り、その汚れを擦り取った際、その汚れの残存程度により、下記基準で防汚性として判定した。
<評価の水準>
残存無し → ○
一部残存 → △
大部分残存 → ×
【0097】
・撥油性:
JIS R 3257:1999に準じて、オレイン酸の接触角を測定した。
【0098】
・変形
フィルムの周辺部の浮き上がりで判定した。
<評価の水準>
浮き上がりほとんどなし → ○
浮き上がりが見られる → ×
【0099】
【化2】

【0100】
【化3】

【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子(A)、
(2)下記ビスシラン化合物(B)の加水分解・縮合物及び/又はビスシラン化合物(B)と(B)成分以外の加水分解性有機ケイ素化合物(D)との共加水分解・縮合物、
n3-nSi−Y−SiR3-nn (B)
(式中、Yはフッ素原子で置換されてもよい2価の有機基又は芳香環を含んでもよい2価の有機基であり、Rは1価の有機基であり、XはOH基又は加水分解性基であり、n=1、2又は3である。)
(3)光を照射することにより酸を発生する化合物
を含有することを特徴とする光硬化型コーティング剤組成物。
【請求項2】
(1)多孔質及び/又は内部に空隙を有する無機酸化物微粒子(A)の存在下に、
(2)下記ビスシラン化合物(B)又は該ビスシラン化合物(B)と(B)成分以外の加水分解性有機ケイ素化合物(D)とを(共)加水分解・縮合物させることにより得られる、(1)成分と(2)成分の加水分解・縮合物が一体化した複合樹脂、
n3-nSi−Y−SiR3-nn (B)
(式中、Yはフッ素原子で置換されてもよい2価の有機基又は芳香環を含んでもよい2価の有機基であり、Rは1価の有機基であり、XはOH基又は加水分解性基であり、n=1、2又は3である。)
(3)光を照射することにより酸を発生する化合物
を含有することを特徴とする光硬化型コーティング剤組成物。
【請求項3】
無機酸化物微粒子(A)が、SiO2を主成分とするものであることを特徴とする請求項1又は2記載のコーティング剤組成物。
【請求項4】
無機酸化物微粒子(A)の平均粒子径が、1〜100nmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項5】
ビスシラン化合物(B)が、下記式で表されるものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
(CH3O)3Si−CH2CH2−Cm2m−CH2CH2−Si(OCH33
(式中、m=2〜20の整数である。)
【請求項6】
(2)成分が、ビスシラン化合物(B)と、下記一般式(D−1)
F(CF2a24−SiR3-bb (D−1)
(式中、R、Xは上記の通り。aは1〜12、bは1〜3の整数である。)
で示されるフッ素置換パーフルオロアルキル基を含有するシラン化合物の共加水分解・縮合物である請求項1乃至5のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項7】
(2)成分の(共)加水分解・縮合物が、シラノール基を3〜12質量%含むものである請求項1乃至6のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項8】
(3)成分が下記式で示されるいずれかのオニウム塩である請求項1乃至7のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
42+-
43+-
425+-
452+-
4−S−R4+52-
43Se+-
44+-
42+-
(式中、R4は炭素数6〜30のアリール基、R5は炭素数1〜30のアルキル基、Z-はSbF6-、SbCl6-、AsF6-、PF6-、PFn(Rf)6-n-、BF4-、B(C654−HSO4-、ClO4-、Cl-、HSO4-又はCF3SO3-の陰イオンを示す。)
【請求項9】
(1)成分と(2)成分との割合が(1)成分/(2)成分=10/90〜70/30(質量比)であり、(3)成分を(1),(2)成分の合計100質量部に対して0.1〜30質量部含有する請求項1乃至8のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項10】
更に(4)ジアルコキシアントラセンを(1),(2)成分の合計100質量部に対し0.01〜5質量部含有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項11】
更に(5)下記反応性ジメチルシロキサン(C)及び/又は該反応性ジメチルシロキサン(C)を含む有機ケイ素化合物の(共)加水分解・縮合物をコーティング剤中の固形分中1〜25質量%含有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
(R1O)3Si−R2−((CH32SiO)x−Si(CH33 (C)
(式中、R1はメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基、R2は酸素原子又はCH2CH2基、x=5〜50の整数である。)
【請求項12】
(5)成分として、反応性ジメチルシロキサン(C)と加水分解性シラン化合物(D)を含む有機ケイ素化合物の共加水分解・縮合物を含有することを特徴とする請求項11記載のコーティング剤組成物。
【請求項13】
反射防止膜形成用である請求項1乃至12のいずれか1項記載のコーティング剤組成物。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物を基材に塗布し、90℃以下で3分以下の条件に保持した後、2,000mJ/cm2以下の光を照射することからなる被膜形成方法。
【請求項15】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物が基材の最外層に塗装されてなることを特徴とする被覆物品。
【請求項16】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のコーティング剤組成物が基材の最外層に塗装されてなることを特徴とする低反射性を有する被覆物品。
【請求項17】
基材が合成樹脂製透明基材である請求項15又は16記載の被覆物品。

【公開番号】特開2010−180375(P2010−180375A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27344(P2009−27344)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】