説明

光硬化性樹脂組成物

【課題】得られる硬化物が、室温付近において低弾性率であり、形状変化後の復元性にも優れ、耐熱性や透明性にも優れる光硬化性組成物の提供。
【解決手段】1個の(メタ)アクリロイルオキシ基及びポリオレフィン骨格を有し数平均分子量500〜10,000の化合物(A)、2個の(メタ)アクリロイルオキシ基及び炭化水素骨格を有し炭素数25〜200の化合物(B)及び光ラジカル重合開始剤(C)を含む光硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性に優れ、得られる硬化物が、低弾性率で、耐熱性及び透明性に優れ、低屈折率及び低吸水性を有する光硬化性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性組成物は、種々の用途に使用されているが、その硬化物に要求される物性は、特に光学材料や電子材料の場合、益々厳しいものになってきている。例えば、光透過性タッチパネルの絶縁膜では、非常に低弾性率でありながら形状変化後の復元性にも優れた樹脂が必要とされている(例えば特許文献1)。
【0003】
硬化物を低弾性率とするためには、単独で重合させた場合に低いTgを与える成分を多く配合することが必要であり、そのための好適な化合物としてはポリブタジエン構造を有する(メタ)アクリレート〔以後ポリブタジエン(メタ)アクリレートという〕が挙げられる。ポリブタジエン(メタ)アクリレートを配合した樹脂組成物は、フィルムコンデンサ絶縁材、光ファイバ被覆材、電気・電子部品や液晶等の封止材や接着剤としても好適である(例えば特許文献2、特許文献3)。
【0004】
ポリブタジエン(メタ)アクリレートの構造として、水添したものであるか否かについて明確に言及した特許文献は数少ないが、特許文献2では、水添したものでは耐熱試験後の弾性率の変化や着色がほとんどない一方で、水添しない場合では大きく変化することが示されている。
【0005】
しかしながら水添ポリブタジエン(メタ)アクリレートは、各種(メタ)アクリレートとの溶解性が小さい。特にウレタン構造を含まないものは、ラウリル(メタ)アクリレートやイソボルニル(メタ)アクリレート等の非常に極性の小さい単官能(メタ)アクリレートには溶解するものの、市販されている二官能の(メタ)アクリレートには溶解しないか、溶解したとしても光重合開始剤を配合すると溶解しなくなるため使用することが困難である。
【0006】
又、硬化物を耐熱試験した場合の黄変性に着目すると、水添ポリブタジエン(メタ)アクリレートは未水添のものに比べると着色が小さいものの、ディスプレイやブルーレイディスクなどの高い透明性を必要とする光学材料としては不十分である。
【0007】
【特許文献1】特開2003−280821号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平1−113417号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭59−182259号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の課題は、得られる硬化物が、室温付近において低弾性率であり、形状変化後の復元性にも優れ、耐熱性や透明性にも優れる光硬化性組成物を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリオレフィンモノ(メタ)アクリレートと特定炭素数の炭化水素系ジ(メタ)アクリレートを併用した組成物が、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明を詳細に説明する。
尚、本明細書においては、アクリレート又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと表し、アクリロイル基又はメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と表す。
【0010】
1.(A)成分
(A)成分は、1個の(メタ)アクリロイルオキシ基及びポリオレフィン骨格を有し、数平均分子量500〜10,000である化合物である。
(A)成分におけるポリオレフィン骨格としては、ポリオレフィンであれば種々の単位が使用できる。具体的には、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポリイソプレン、エチレン−ブチレン共重合体及びポリブテン等が挙げられる。これらの中でも、水添ポリブタジエン及びエチレン−ブチレン共重合体が好ましく、硬化物の耐久性に優れ、黄変性が少なく、(メタ)アクリレートの原料となる水酸基含有化合物の入手が容易であるという理由で、エチレン−ブチレン共重合体がより好ましい。
【0011】
(A)成分の分子量は、数平均分子量500〜10,000であり、好ましくは数平均分子量1,000〜5,000である。この値が500に満たないと、ポリオレフィン骨格に起因する硬化物の低吸水性等の長所が損なわれてしまい、一方10,000を超えると、(B)成分との相溶性が損なわれてしまう。
尚、本発明において数平均分子量とは、1HNMRスペクトルのプロトン比により算出される値を意味する。例えば、(A)成分が、片末端に水酸基を有するポリオレフィンを使用して製造されたものの場合、酸素原子に隣接するCH2の水素原子積算値を基準として、残りの水素原子の積算値に基づきに全体の水素原子数を計算して、この値からさらに計算することにより(A)成分の分子量を算出することができる。
【0012】
(A)成分としては、硬化性に優れる点で、アクリレートが好ましい。
【0013】
(A)成分は、種々の方法で得られたものが使用できる。例えば、片末端に水酸基を有するポリオレフィンと(メタ)アクリル酸を常法に従いエステル化する方法等が挙げられる。片末端に水酸基を有するポリオレフィンとしては、ラジカル重合ではなく、アニオン重合や配位重合で得られるものが好ましい。ラジカル重合では、1分子中に1個の水酸基を有するポリオレフィンを得ることが困難である。
【0014】
エステル化方法としては、酸触媒の存在下に、片末端に水酸基を有するポリオレフィンと(メタ)アクリル酸を加熱・攪拌し、脱水エステル反応させる方法等が挙げられる。
エステル化反応物の精製は、通常実施される反応液を水洗する方法では、エマルジョン様の状態となり明瞭な二層系にならないため、n−ヘキサン等の炭化水素とメタノールによる二層系で洗浄する方法が好ましい。この炭化水素層を脱溶媒することで、触媒等の不純物を含まない(A)成分を得ることができる。
片末端に水酸基を有するポリオレフィンとしては、片末端が水酸基の水添ポリブタジエン及び水酸基のエチレン−ブチレン共重合体が好ましい。片末端が水酸基のエチレン−ブチレン共重合体の市販品としては、例えばクレイトンポリマーズ社製L−1203がある。(A)成分は市販品があり、メタクリレートであるクレイトンポリマーズ社製のL−1253が挙げられる。
【0015】
2.(B)成分
(B)成分は、2個の(メタ)アクリロイルオキシ基及び炭化水素骨格を有する炭素数25〜200の化合物である。(B)成分は、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基及び炭化水素骨格のみから成る化合物、すなわち(メタ)アクリロイルオキシ基以外が炭素原子及び水素原子のみからなる化合物である。
(B)成分の炭素数が25未満の場合は、(A)成分との相溶性が悪くなり、均一透明な組成物が得られず好ましくない。組成物が不均一である場合、すなわち配合成分が分離していると、透明性の問題のみならず、液の染み出しや弾性率の不均一さの問題も生じる。一方、炭素数が200を超える場合は、(B)成分の割合を大部分にしなければ半液体状の硬化物となってしまう。炭素数としては、25〜60のものが好ましい。
【0016】
(B)成分における炭化水素骨格としては、炭化水素あれば種々の単位が使用でき、具体的には、ダイマージオール、水添ビスフェノールA、アルキル基置換水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールP、アルキル基置換水添ビスフェノールP及び水添ビス(o−フェニル)フェノールA、ブタジエンやイソプレンを重合させたオリゴマー等が挙げられる。
【0017】
(B)成分としては、ベンゼン環を含まない化合物が好ましく、特に好ましくはダイマージオールのジ(メタ)アクリレートである。
(B)成分がベンゼン環を有する場合、低弾性率化と低屈折率化が不十分となることがある。ダイマージオールのジ(メタ)アクリレートは、(A)成分との相溶性に優れ、又低弾性率でありながら耐熱性に優れた硬化物を与えるため、特に好ましい。さらに、原料であるダイマージオールは、工業的に容易に入手可能であり、この点からも好ましい。
【0018】
ダイマージオールは、ダイマー酸を水添還元して得られるものであり、炭素数36の脂肪族ジオールであり、分子中に長鎖分岐アルキル基を有するものである。ダイマー酸は、例えばオレイン酸やリノール酸等の炭素数18の不飽和脂肪酸を、加熱し2量化して得られる長鎖不飽和脂肪酸である。ダイマージオールは市販されており、ユニケマ社や荒川化学(株)等より入手可能である。
【0019】
ダイマージオールのジ(メタ)アクリレートは、ダイマージオールと(メタ)アクリル酸による脱水エステル化反応等により製造することができる。精製は、通常どおりの有機層と水層による洗浄により精製できる。
【0020】
(B)成分としては、硬化性に優れる点で、アクリレートが好ましい。
【0021】
(A)及び(B)成分の配合割合は要求物性に応じて任意に調整できるが、低誘電率や低吸水性を必要とする場合、(A)及び(B)成分の合計量100質量部に対して、(A)成分が40〜95質量部で、(B)成分が60〜5質量部であることが好ましい。
【0022】
3.(C)成分
(C)成分は、光ラジカル重合開始剤であり、光照射でラジカルを発生する化合物であれば、種々の化合物が使用できる。
好ましい(C)成分としては、具体的には、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア184)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製ダロキュアー1173)、2−メチル−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノ−1−プロパノン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュアー907)、ベンジルジメチルケタール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュアー651)、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュアー2959)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュアー369)及びジエトキシアセトフェノン(ファーストケミカル製ファーストキュアーDEAP)等のアセトフェノン系光重合開始剤;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル及びベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系光重合開始剤;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド及び2,4,6−トリメチルベンゾフェノン等のベンゾフェノン系光重合開始剤;2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン及び1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン等のチオキサントン系光重合開始剤;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド及びビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤;並びにカンファーキノン等が挙げられる。
これらの中でも、アセトフェノン系の光重合開始剤が、硬化性や保存安定性等に優れるため好ましく、さらに2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンや1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンは、硬化物の黄変を小さくできるため特に好ましい。
【0023】
(C)成分の配合割合は、(A)及び(B)成分の合計量100質量部に対して、又後記するエチレン性不飽和化合物を配合する場合は、(A)、(B)成分及び当該不飽和化合物の合計量100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部、特に好ましくは1〜3質量部である。0.1質量部未満では重合の開始を促進する効果が不十分になり、10質量部を超えると硬化物の物性の低下や、開始剤の分解生成物からの臭気の問題を引き起こし、好ましくない。
以下、(A)及び(B)成分、又は(A)、(B)成分及び当該不飽和化合物を、硬化性成分という。
【0024】
本発明の組成物には、硬化性の向上等を目的として増感剤を併用することもできる。増感剤の例としては、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4−ジメチルアミノベンゾフェノン及び4,4−ジエチルアミノベンゾフェノン等が挙げられる。
配合割合は目的に応じて調整可能であるが、硬化性成分の合計量100質量部に対して0〜3質量部の範囲内にすることが好ましい。
【0025】
4.その他の成分
本発明の組成物には、前記必須成分の他、必要に応じてさらにその他の成分を配合することができる。
【0026】
耐候性の向上を目的として、紫外線吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤から選択される1種以上の耐候性向上剤を配合することができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール及び2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0027】
光安定剤としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート及び2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)等のヒンダードアミン系光安定剤、並びに2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系光安定剤等が挙げられる。
【0028】
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン等のヒンダードフェノール系、ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−4−セバケート)等のヒンダードアミン系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−ジチオプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
【0029】
耐候性向上剤の配合割合は、目的に応じて適宜設定すれば良いが、硬化性成分の合計量100質量部に対して0〜3質量部の範囲内にすることが好ましい。
【0030】
本発明の組成物には、必要に応じて、前記(A)及び(B)成分以外のエチレン性不飽和化合物(以下その他不飽和化合物という)を配合することができる。
その他不飽和化合物としては、(メタ)アクリレートが好ましい。
(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート及びラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のフェノールのアルキレンオキシド付加物のアクリレート類及びそのハロゲン核置換体;エチレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート及びトリプロピレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート等のグリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のポリオールの(メタ)アクリレート、並びにこれらポリオールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリレートとしては、オリゴマーも使用可能であり、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
その他不飽和化合物としては、粘度等の物性を調整する目的で、上記組成物に溶解可能な(A)成分以外の1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物〔以下単官能(メタ)アクリレートという〕を配合することが好ましい。
単官能(メタ)アクリレートとしては、炭素数が9〜30の単官能(メタ)アクリレートが好ましく、より好ましくは(メタ)アクリロイル基以外が炭素原子及び水素原子のみからなる化合物であり、特に好ましくはベンゼン環をも含まない化合物である。特に好適な化合物としては、ラウリル(メタ)アクリレートや、イソボルニル(メタ)アクリレートが例示できる。
【0032】
その他不飽和化合物の配合割合は、目的や要求物性等に応じて適宜選択すれ良いが、絶縁性や低吸水性を必要とする場合、硬化性成分の合計量100質量部に対して0〜50質量部であることが好ましい。
【0033】
本発明の組成物には、粘度上昇や密着性付与を目的として、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン及びポリブテン等のポリマーを配合しても良い。ポリマーの配合割合としては、硬化物の透明性や耐薬品性の点で、硬化性成分の合計量100質量部に対して0〜30質量部とすることが好ましい。
【0034】
本発明の組成物を粘着剤や接着剤として使用する場合には、水添石油樹脂やロジンエステル等のタッキファイヤーを配合することができる。タッキファイヤーの配合部数は、求められるタックの強さや使用温度に応じて適宜調整すれば良く、耐熱性や耐薬品性を考慮すると硬化性成分の合計量100質量部に対して0〜70質量部とすることが好ましい。
【0035】
本発明の組成物には、無機化合物に対する密着性向上等を目的としてシランカップリング剤を配合することも可能である。配合部数は特に限定されないが、硬化性成分の合計量100質量部に対して0〜5質量部とすることが好ましい。
【0036】
本発明の組成物には、チクソトロピー性の付与や、硬化物への光拡散性能の付与等を目的として、シリカやアルミナ等の無機微粒子を配合することも可能である。又、ITO等の導電性のある金属酸化物微粒子や、金、銀、白金等の金属微粒子を配合して、感圧導電性等の機能を付与することも可能である。
【0037】
5.光硬化性樹脂組成物及び用途
本発明の組成物は、上記必須成分及び必要に応じてその他の成分を常法に従い、攪拌・混合することにより得ることができる。本発明の組成物は、均一透明であるものが好ましい。
【0038】
本発明の組成物の使用方法としては、常法に従い、組成物に光照射し硬化させれば良い。
本発明の組成物を塗料及び接着剤等として使用する場合は、基材に組成物を塗布した後、光を照射する。又、成型材として使用する場合は組成物を空間部を有する型に流し込み、その後前記と同様にして硬化させる方法等が挙げられる。
光としては、紫外線又は可視光が挙げられ、好ましくは200〜380nmの紫外線である。紫外線照射装置としては、高圧水銀灯及びメタルハライドランプ等が挙げられる。
光の照射量及び照射時間等は、使用する組成物及び用途に応じて、適宜設定すれば良い。
【0039】
本発明では、硬化物の動的粘弾性のずり変形による貯蔵弾性率(G’)が、25℃、1Hzにおいて1×106Pa以下である軟らかい硬化物を容易に得ることができる。
【0040】
本発明の組成物の用途としては、フレキシブル基板の接着等の接着剤、インク、液晶シール材等のシール材、フィルムコンデンサ用の絶縁材等の絶縁材、高周波伝送用部品の被覆材等の被覆材及びレジスト等の種々の用途に使用することができる。
【0041】
本発明の組成物は、前記の通り、硬化物が透明性等に優れるため、低弾性率を必要とする部位の光学材料の用途に好ましく使用できる。又、形状変化後の復元性をも必要とする用途に対しても、好適に使用できる。
例えば、光ピックアップレンズの接着剤として使用すると、低弾性率であるため硬化収縮による位置ズレを生じ難く、好適である。
プラスチックフィルムと金属及び金属酸化物の薄膜を接着する場合には、熱膨張係数の違いなどによるソリの防止に効果的である。この点で、光ディスク等の光記録媒体の接着や、液晶ディスプレイ等のディスプレイ材料の接着にも好適に使用できる。
光導波路やLED等、微細な形状の金属やガラス等の部品を含む容器の中に樹脂を入れて硬化させる場合、すなわちこれらを封止する場合、通常の光硬化型樹脂では急速に硬化するためクラックや剥離を生じ易いが、本発明の組成物は柔軟であるため、クラックや剥離の防止に効果的である。ここで、本発明の組成物は低屈折率であるため、光導波路のクラッド剤兼封止剤として特に好適である。
タッチパネル内部の配線の絶縁膜やドットスペーサーなどには、低弾性率でかつ形状変化後の復元性にも優れるため、特に好適である。
【発明の効果】
【0042】
本発明の組成物によれば、得られる硬化物が、室温付近において低弾性率であり、形状変化後の復元性にも優れ、耐熱性や透明性にも優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の組成物は、(A)、(B)及び(C)を含む光硬化性樹脂組成物である。
前記(A)成分としては、エチレン−ブチレン共重合体のモノ(メタ)アクリレート化した化合物が好ましく、前記(B)成分としては、ダイマージオールのジ(メタ)アクリレートが好ましい。
組成物の硬化物は、G’が、25℃、1Hzにおいて1×106Pa以下であることが好ましい。
組成物の硬化物は、光学材料として好適に使用できる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。
尚、下記において「部」とは、質量部を意味する。
【0045】
<合成例1>
○(A)成分の製造
冷却管を取りつけたディーンスタークトラップ、温度計、ガス導入管、撹拌装置を取りつけた500mlの四つ口フラスコに、片末端水酸基のエチレン−ブチレン共重合体(クレイトンポリマーズ社製L−1203、(数平均分子量3,700)111.1g(水酸基として30mmol)、n−ヘプタン113.7g、アクリル酸2.6g(36mmol)、p−トルエンスルホン酸1水和物(以下PTSという)4.5g、ハイドロキノンモノメチルエーテル(以下HQという)0.023gを仕込み、空気を20ml/分で吹き込みながら、100℃で3時間反応させた。この間0.98mlの脱水が確認され、エステル化による理論量0.54gとPTSによる理論量0.43gの合計量にほぼ一致した。
反応終了後分液漏斗に移し、ヘプタン170gとメタノール110gを加え、振り混ぜて放置した後、下層のメタノール層を捨てて洗浄した。さらに、ヘキサン110gとメタノール80gを加えて同様の洗浄を2回実施した。この炭化水素溶媒の溶液にHQ0.023gを加え、80℃以下で減圧して溶媒を留去し、淡黄色透明の粘調液体102.5g(収率91%)を得た。
1H−NMRスペクトル(CDCl3;270MHz)(以下単にNMRという)により、目的物が生成していることを確認した。以下この化合物を、L1203−Aという。NMRによる数平均分子量は約3800であった。
【0046】
<合成例2>
○(B)成分の製造
合成例1と同様のフラスコに、ダイマージオール(ユニケマ社製)108.1g(水酸基として400mmol)、n−ヘプタン142.7g、アクリル酸34.6g(480mmol)、PTS5.7g、HQ0.029gを仕込み、空気を20ml/分で吹き込みながら、100℃で3時間反応させた。この間7.9mlの脱水が確認され、エステル化による理論量7.2gとPTSによる理論量0.5gの合計量に一致した。
反応終了後分液漏斗に移し、ヘキサン300gと水60gを加え、振り混ぜて放置した後、下層の水層を捨てて洗浄した。次に、ヘキサン300gと水酸化ナトリウム0.14gを含む水60gを加えて同様に洗浄後、ヘキサン300gと水60gによる洗浄を再度実施した。この炭化水素溶媒の溶液にHQ0.029gを加え、80℃以下で減圧して溶媒を留去し、淡黄色透明の液体を得た。
NMRにより、目的物が生成していることを確認した。以下この化合物を、DOH−Aという。
【0047】
<比較合成例1>
○両末端水酸基の水添ポリブタジエンのアクリレート化
容量が1000mlであること以外は合成例1と同様のフラスコに、両末端水酸基の水添ポリブタジエン〔三菱化学(株)製ポリテールHA、数平均分子量2,000)〕217.4g(水酸基として200mmol)、n−ヘプタン234.7g、アクリル酸17.3g(240mmol)、PTS9.4g、HQ0.047gを仕込み、空気を20ml/分で吹き込みながら、100℃で2時間反応させた。この間4.6mlの脱水が確認され、エステル化による理論量3.6gとPTSによる理論量0.9gの合計量にほぼ一致した。
反応終了後分液漏斗に移し、ヘキサン480gとメタノール200gを加え、振り混ぜて放置した後、下層のメタノール層を捨てて洗浄した。同様の洗浄をさらに2回実施した後、この炭化水素溶媒の溶液にHQ0.047gを加え、80℃以下で減圧して溶媒を留去し、淡黄色透明の粘調液体220g(収率96%)を得た。
NMRにより、目的物が生成していることを確認した。以下この化合物を、HA−Aという。
【0048】
<実施例1〜2、比較例1〜3>
表1に示す各成分を表1に示す割合使用し、常法に従って攪拌・混合し、組成物を製造した。得られた組成物は、すべて均一透明な液体であった。
得られた組成物を使用し、以下に示す方法により1mm厚の硬化物を試験体とし、粘弾性スペクトル、硬化物の屈折率(nD25)、耐熱試験(150℃×15時間)前後の色差を測定した。
【0049】
○試験体の作成
5cm×5cmの穴を開けた1mm厚のゴムシートを両面テープにてPETフィルム(東レ(株)製ルミラー50−T60、以下同じものを使用)に貼り付け、これをガラス板上に置き、型枠内に組成物を入れて上からPETフィルムでラミネートし、さらにガラス板を被せて四隅をクリップで挟んで固定した。
この組成物に、60W/cm高圧水銀ランプ、ランプ高さ30cmにて紫外線を片面より20秒間照射して硬化させ、硬化物からPETフィルムを取り外して評価した。
【0050】
○粘弾性スペクトル
各試験体について、ティーエーインスツルメント社製RDS−IIにて周波数1Hzで測定し、貯蔵弾性率(G’)及び損失正接(tanδ)の温度依存性を測定した。測定結果を図1及び図2に示す。本発明の組成物は、非常に低弾性率(室温でG’<1×106Pa)でありながら高温で流動することがなく、耐熱性にも優れた組成物である。又、実施例2では室温におけるtanδの値も小さく、形状変化後の復元性にも優れている。
【0051】
○硬化物の屈折率
各試験体について、(株)アタゴ製のアッベ屈折率計により、25℃におけるナトリウムD線での屈折率(nD25)を測定した。
それらの結果を表1に示す。本発明の組成物では、フッ素原子やシリコン原子を含まない組成物としては、かなり屈折率の低い硬化物が得られる。
【0052】
○色差
各試験体、及びこれらを空気下150℃×15時間放置したものについて、日本電色工業(株)製の色差計Σ80により、反射法にて測定した。
それらの結果を表2に示す。本発明の組成物は、150℃×15時間後の標準白色板に対する色差ΔEや黄色度ΔYIが比較例に比べると明らかに小さい。耐熱試験条件下においても着色が小さいことから、長期使用後も無色透明性が要求される光学材料においても好適に使用可能である。
【0053】
【表1】

【0054】
○表1の略号の説明
Dc1173:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製ダロキュアー1173)。
TEAI:両末端水酸基の分子量約1000の水添ポリブタジエンとトリレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチルアクリレートからなるウレタンアクリレート〔日本曹達(株)製NISSO−PB TEAI−1000〕。
BAC−45:両末端水酸基の分子量約3000のポリブタジエンをアクリレート化した化合物〔大阪有機化学工業(株)製BAC−45〕。
LA:ラウリルアクリレート〔共栄社化学(株)製ライトアクリレートL−A〕
【0055】
【表2】

【0056】
<比較例4〜24>
L1203−Aの90部に対し、表3に示す多官能アクリレート化合物10部、及び光開始剤を2部配合し、溶解性を調べた。溶解したものを○、光開始剤を添加すると白濁したものを△、光開始剤添加以前から白濁又は分離したものを×と評価した。評価×のものについては、どの開始剤を添加しても均一透明に変化することがなかったため、表中の光開始剤の欄には「なし」と記載した。
【0057】
【表3】

【0058】
○表3の略号の説明
Irg184:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュア184)
Irg651:ベンジルジメチルケタール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガキュアー651)
Dc1173:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製ダロキュアー1173)。
【0059】
表3の結果から明らかなとおり、入手可能な多官能アクリレートは(A)成分に対する溶解性が悪く、光硬化性樹脂組成物として、特に光学材料用途として好適に使用することができない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の組成物は、接着剤、インク、シール材、絶縁材、被覆材及びレジスト等の種々の用途に使用することができ、特に低弾性率の光学材料の用途に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1〜2及び比較例1〜2の組成物を紫外線で硬化させた硬化物の動的粘弾性スペクトル〔貯蔵弾性率(G’)の温度依存性、周波数1Hz〕を表す図である。
【図2】実施例1〜2及び比較例1〜2の組成物を紫外線で硬化させた硬化物の動的粘弾性スペクトル〔損失正接(tanδ)の温度依存性、周波数1Hz〕を表す図である。
【符号の説明】
【0062】
図1及び図2の横軸:温度℃
図1の縦軸:貯蔵弾性率(G’)の値(Pa、対数目盛)
図2の縦軸:損失正接(tanδ)の値(対数目盛)
図1、図2の細い実線:実施例1の組成物の硬化物を示す曲線
図1、図2の太い実線:実施例2の組成物の硬化物を示す曲線
図1、図2の太い破線:比較例1の組成物の硬化物を示す曲線
図1、図2の太い一点破線:比較例2の組成物の硬化物を示す曲線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個の(メタ)アクリロイルオキシ基及びポリオレフィン骨格を有し数平均分子量500〜10,000の化合物(A)、2個の(メタ)アクリロイルオキシ基及び炭化水素骨格を有し炭素数25〜200の化合物(B)及び光ラジカル重合開始剤(C)を含むことを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、エチレン−ブチレン共重合体のモノ(メタ)アクリレートである請求項1記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が、ダイマージオールのジ(メタ)アクリレートである請求項1又は請求項2記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
硬化物の動的粘弾性のずり変形による貯蔵弾性率(G’)が、25℃、1Hzにおいて1×106Pa以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかの組成物の硬化物からなる光学材料。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−16549(P2006−16549A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197297(P2004−197297)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】