説明

光硬化性樹脂組成物

【課題】大気下における硬化時に酸素による重合阻害を受けず、さらに、硬化物に対して耐擦傷性と可撓性を共に付与することが可能な光硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】分子中にチオール基を少なくとも2つ以上有する化合物(A)及び、分子中にメタクリロイル基を少なくとも2つ以上有する化合物(B)を含む光硬化性樹脂組成物であり、かつ(A)のチオール基と(B)のメタクリロイル基の官能基当量比が(A)/(B)=5/95〜45/55である光硬化性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性樹脂組成物、特にチオール/エン系光硬化性樹脂組成物に関し、得られる硬化物が十分な耐擦傷性を有しつつ、可撓性を有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線などの活性エネルギー線を使用して樹脂組成物を硬化させる光硬化は、従来の熱硬化に比べて省エネルギーであり、無溶剤で環境への負荷が小さい優れた技術である。当該技術で用いられる光硬化性樹脂組成物として、メタクリロイル基を有する化合物を成分とする、ラジカル重合性のものが知られている。
しかし、メタクリロイル基を有する化合物のラジカル重合性光硬化は、酸素による硬化阻害を受けやすく、脱気下であっても残存酸素の影響によりフィルム状の硬化物を得ることは困難であった(例えば、非特許文献1)。
酸素による硬化阻害の問題に対し、(1)光重合開始剤の添加量を増やす、(2)照射エネルギー量を増やす、あるいは(3)酸素による硬化阻害を受けない光硬化系への変更などの手法が考えられる。
しかし、上記(1)、(2)の手法は、エネルギー効率やコストの観点から好ましくない。
一方、上記(3)の手法の一つとして、複数のチオール基を有するポリチオールと、複数の炭素-炭素二重結合を有するポリエンによる光硬化系への変更は、酸素による硬化阻害を受けないことが知られており、大気下であってもフィルム状の硬化物を得ることができる。しかし、得られた硬化物における可撓性と耐擦傷性の両立は困難であった。
【0003】
例えば、特許文献1には、組成物の保存安定性に優れ、生産性が高く、保持力等の優れた粘着性を有し、粘着剤及び粘着シートの製造・使用分野に適する、多価チオール化合物及び多価エン化合物を含有する活性エネルギー線硬化型組成物が提案されている。
該特許文献1には、具体例として、p−ジアリルフタレートとブタンジオールビスチオプロピオネートを用いて光硬化を行っているが、得られる硬化物は十分な耐擦傷性を得ることができない。
【0004】
また、特許文献2には、ポリエンとポリチオールを主成分とし、高屈折率を有し、かつ屈折率を高い精度で調整可能な光硬化性樹脂組成物が提案されている。
該特許文献2には、具体例として、ポリエンとしてトリアリルトリイソシアヌレート、ポリチオールとしてトリメチロールプロパン−トリス−(β−チオプロピオネート)、さらに臭素置換された芳香環を有する化合物として、テトラブロモビスフェノールAを用いて光硬化を行っているが、得られる硬化物は、硬く、十分な可撓性が得られない。
【0005】
さらに、特許文献3には、光透過性及び耐水性に優れる樹脂硬化物が得られ組成物として、ノルボルネン等の骨格含有基を2個以上有する化合物と、チオール基を2個以上有する化合物を含み、光ラジカル発生剤を含有しない組成物が提案されている。
該特許文献3には、具体例として、ジシクロペンタジエンジメタノールのジノルボルネンカルボキシレートとペンタエリスリトールテトラ(3−メルカプトプロピオネート)を用いて熱硬化を行っている。しかしながら、得られる硬化物は硬く、十分な可撓性が得られない。
【0006】
【非特許文献1】加藤清視著、「紫外線硬化システム」43〜61頁、221〜259頁、337〜449頁(1989)
【特許文献1】特開2004−35734号公報
【特許文献2】特開2003−277505号公報
【特許文献3】特開2003―20334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、大気下における硬化時に酸素による重合阻害を受けず、更に、硬化物に対して耐擦傷性と可撓性を共に付与することが可能な光硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のポリチオールと特定のポリエン化合物を、所定の割合で含有する光硬化性樹脂組成物は、大気下における硬化時に酸素による重合阻害を受けず、その硬化物が耐擦傷性と可撓性を共に有するという特徴を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)分子中にチオール基を2つ以上有する化合物(A)及び、分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物(B)を含む光硬化性樹脂組成物であり、かつ化合物(A)のチオール基と化合物(B)のメタクリロイル基の官能基当量比が(A)/(B)=5/95〜45/55である光硬化性樹脂組成物、
(2)化合物(A)が一般式(I)で示される化合物である前記(1)に記載の光硬化性樹脂組成物、
【0010】
【化1】

〔式中、Z1は2〜6の価数を有する有機残基であり、nは2〜6の整数であり、かつZ1の価数を超えることはない。Xは、−O−CO−、−O−または−HN−CO−の何れかを表し、Yは炭素数2〜8のアルキレン基または炭素数6〜20のアリーレン基であり、vは0または1の整数である。〕
【0011】
(3)化合物(B)が一般式(II)で示される化合物である前記(1)又は(2)に記載の光硬化性樹脂組成物、
【0012】
【化2】

(式中、Z2は2〜6価のアルコール残基であり、mは2〜6の整数であり、かつZ2の価数を超えることはない。)
【0013】
(4)更に一般式(III)で示されるニトロン化合物(C)を、化合物(A)と化合物(B)の合計100質量部に対して、0.0001〜1質量部含有する前記(1)〜(3)のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物、
【0014】
【化3】

(式中、R1及びR2は、それぞれt-ブチル基、フェニル基またはナフチル基のいずれかを表す。)
【0015】
(5)更に一般式(IV)で示されるニトロキシド基を有する化合物(D)を、化合物(A)と化合物(B)の合計100質量部に対して、0.0001〜1質量部含有する前記(1)〜(4)のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物、及び
【0016】
【化4】

(式中、R3は、OH、COOHまたはHの何れかを表す。)
【0017】
(6)更に一般式(V)で示されるニトロソ基を有する化合物(E)を、化合物(A)と化合物(B)の合計100質量部に対して、0.0001〜1質量部含有する前記(1)〜(4)のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物
4―NO (V)
(式中、R4は、アルキル基又はアリール基を表す。)
を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、大気下において酸素による重合阻害を受けることなく光硬化が可能であるため、酸素を除去するための不活性ガスの吹きつけや、真空中での作業を必要としない。そのため、不活性ガスの供給設備や、真空設備などの有無にかかわらず光硬化を行うことが可能となった。また、得られる硬化物に対して耐擦傷性と可撓性を共に付与することが可能となった。また、保存安定性を有する光硬化性樹脂組成物を提供できる。
また、本発明の光硬化性樹脂組成物は、保存安定剤を添加することによって、従来に比較して長期間の保存が可能なので、ハンドリング性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の光硬化性樹脂組成物は、分子中にチオール基を2つ以上有する化合物(A)〔以下、単に化合物(A)と称することがある。〕及び、分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物(B)〔以下、単に化合物(B)と称することがある。〕を含む光硬化性樹脂組成物であり、かつ化合物(A)のチオール基と化合物(B)のメタクリロイル基の官能基当量比が(A)/(B)=5/95 〜 45/55であることを特徴としている。
【0020】
本発明に用いる分子中にチオール基を2つ以上有する化合物(A)としては、下記一般式(I)で示される。
【0021】
【化5】

【0022】
式(I)において、Z1は2〜6の価数を有する有機残基、nは2〜6の整数であり、かつZ1の価数を超えることはない。Xは、エステル(−O−CO−)、エーテル(−O−)またはアミド(−HN−CO−)の何れかを表し、Yは炭素数2〜8のアルキレン基、または炭素数6〜20のアリーレン基であり、vは0または1の整数である。vが0のときは、例えば、エタンジチオール、プロパンジチオール、ブタン−1,4−ジチオール、ヘキサメチレンジチオール、デカメチレンジチオール、トリレン−2,4−ジチオール、1,4−フェニレンジチオール、キシリレンジチオール等が挙げられる。vが1で、Xがエステル(−O−CO−)のものとしては、例えばトリメチロールプロパン−トリス−(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−メルカプトプロピオネート)等が挙げられ、エーテル(−O−)のものとしては、例えば3,6−ジオキサオクタン−1,8−ジチオール等が挙げられ、アミド(−HN−CO−)のものとしては、例えば1,3,5−トリス(3−メルカプトプロピル)イソシアヌレートが挙げられる。
また、これらは1種又は2種以上の混合物として用いることができる。更に可撓性の面から、式(I)のZ1は3〜6価であることが好ましく、入手性の面から3〜4価がより好ましい。
【0023】
本発明に用いる分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物(B)としては、下記一般式(II)で示される2〜6価のアルコールのメタクリル酸エステルを挙げることができる。
【0024】
【化6】

【0025】
式(II)において、Z2は2〜6価のアルコールから水酸基を除いた残基であり、mは2〜6の整数であり、かつZ2の価数を超えることはない。
2〜6価のアルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。可撓性の面から2〜3価のアルコールがより好ましい。また、これらは1種又は2種以上の混合物として用いることができる。更に、可撓性の面から式(II)のZ2はポリアルキレングリコール鎖を有することが好ましい。
本発明に用いられる、1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物(B)としては、特に限定されるものではないが、例えば、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ビスフェノールAジエトキシジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリスメタクリロキシエチルイソシアヌレート等が挙げられる。これらは、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。
【0026】
化合物(A)のチオール基と化合物(B)のメタクリロイル基の官能基当量比は(A)/(B)=5/95〜45/55、更には(A)/(B)=20/80〜45/55であることが好ましい。
化合物(A)のチオール基と化合物(B)のメタクリロイル基の官能基当量比が(A)/(B)=5/95 〜 45/55の範囲であれば、表面が硬く十分な耐擦傷性を有し、かつ可撓性を備える硬化物を得ることができる光硬化性樹脂組成物を提供できる。
【0027】
さらに、本発明の光硬化性樹脂組成物は、ニトロン化合物(C)〔以下、単に化合物(C)と称することがある。〕を、前記(A)と(B)の合計100質量部に対して、0.0001〜1質量部含有せしめることで、保存安定性を高めることができる。ニトロン化合物(C)としては、下記一般式(III)で示される。
【0028】
【化7】

【0029】
式(III)において、R1及びR2は、それぞれt-ブチル基、フェニル基またはナフチル基のいずれかを表す。このニトロン化合物としては、例えば、α−フェニル−N−t−ブチルニトロン、α−ナフチル−N−t−ブチルニトロンが挙げられる。
また、他の化合物として、N−t−ブチル−α−(4−ピリジル−1−オキシド)ニトロン等を用いることができる。また、これらは1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0030】
さらに、本発明の光硬化性樹脂組成物は、ニトロキシド化合物(D)〔以下、単に化合物(D)と称することがある。〕を、前記(A)と(B)の合計100質量部に対して、0.0001〜1質量部含有せしめることで、保存安定性を高めることができる。ニトロキシド基を有する化合物(D)としては、下記一般式(IV)で示される化合物を挙げることができる。
【0031】
【化8】

【0032】
式(IV)において、R3は、OH、COOHまたはHの何れかを表す。
例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジノキシド(一般にTEMPOの名称で市販されているもの)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジノキシド等が挙げられる。
また、他の化合物として、例えば、2,2,2,5−テトラメチル−1−ピロリジニロキシ(PROXYL)、N−t−ブチル−1−フェニル−2−メチルプロピルニトロキシド、N−t−ブチル−1−(2−ナフチル)−2−メチルプロピルニトロキシド、N−t−ブチル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド、N−t−ブチル−1−ジベンジルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド、N−フェニル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド、N−フェニル−1−ジエチルホスホノ−1−メチルエチルニトロキシド、N−(1−フェニル−2−メチルプロピル)−1−ジエチルホスホノ−1−メチルエチルニトロキシド等を用いることができる。また、これらは1種又は2種以上の混合物として用いることができる。これらのうち、一般式(IV)で表される化合物、特にTEMPOを使用するのが好ましい。更には、前記化合物(C)と併用することで、保存安定性をより一層高めることができる。
【0033】
また、本発明の光硬化性樹脂組成物は、更にニトロソ化合物(E)〔以下、単に化合物(E)と称することがある。〕を、前記化合物(A)と化合物(B)の合計100質量部に対して、0.0001〜1質量部含有せしめることで、保存安定性を高めることができる。ニトロソ基を有する化合物(E)としては、下記一般式(V)で示される化合物を挙げることができる。
4―NO (V)
【0034】
式(V)において、R4は、アルキル基、又はアリール基を表す。
この化合物(E)としては、例えば、ニトロソベンゼン、2−ニトロソトルエン、1−ニトロソ−2−ナフトール、N−ニトロソフェニル・ヒドロキシルアミンアンモニウム塩、2−メチル−2−ニトロソプロパンダイマー、N,N−ジエチル−N−ニトロソアニリン、4−ニトロソジフェニルアミン、2−ニトロソ−1−ナフトール、5−ニトロソ−8−キノリノール、5−メトキシ−2−ニトロソフェノール、1,3,5−トリ−t−ブチル−2−ニトロソベンゼン等が挙げられる。また、これらは1種又は2種以上の混合物として用いることができる。更には、前記化合物(C)と併用することで、保存安定性をより一層高めることができる。
【0035】
本発明の光硬化性樹脂組成物の硬化は、紫外線等の活性エネルギー線の照射により行なわれ、光源には低圧キセノンランプ、高圧キセノンランプ、メタルハライドランプなどを用いることができる。
本発明の樹脂組成物を紫外線等の活性エネルギー線の照射にて硬化させる場合は、光重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤は、紫外線や可視光線等の活性エネルギー線によりラジカルを発生し、光硬化性樹脂組成物の光硬化を促進するために配合するものであり、公知の各種光重合開始剤が使用可能である。具体的には、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、p−クロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルサルファイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1、等が例示できる。
また、これらは1種又は2種以上の混合物として用いることができる。光重合開始剤の含有量は、化合物(A)と(B)の合計100質量部に対して、通常0〜10質量部程度、好ましくは0.5〜5質量部である。
【0036】
また、本発明の光硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、シランカップリング剤や酸性リン酸エステル等の密着性向上剤、酸化防止剤、硬化促進剤、染料、充填剤、顔料、チキソトロピー付与剤、可塑剤、界面活性剤、滑剤、帯電防止剤などの添加剤を加えることができる。
【0037】
本発明の組成物は、紫外線などの活性エネルギー線の照射によって硬化するものであり、硬化物は、耐擦傷性と可撓性を有するので、光学部品のフィルターや電子部品の被覆等において顕著な効果を示す。
【実施例】
【0038】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものでない。
なお、以下の実施例、比較例において、分子中にチオール基を少なくとも2つ以上有する化合物(A)をチオール化合物、分子中にメタクリロイル基を少なくとも2つ以上有する化合物(B)をエン化合物と称することがある。
【0039】
実施例1
チオール化合物として、ペンタエリスリトール−テトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を、エン化合物としてジエチレングリコールジメタクリレートを、チオール基とメタクリロイル基の官能基当量比が20/80となるように混合し、この100質量部に光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを1質量部混ぜ、光硬化性樹脂組成物とした。
この光硬化性樹脂組成物を、ガラス板上に塗布し、その上部にガラス板を載置して挟み、紫外線を1200mJ/cm2で照射して、厚み100μmのフィルム状硬化物を得た。
【0040】
実施例2
チオール基とメタクリロイル基の官能基当量比を30/70に変更した以外は、実施例1と同様にして硬化物を得た。
【0041】
実施例3
チオール基とメタクリロイル基の官能基当量比を40/60に変更した以外は、実施例1と同様にして硬化物を得た。
【0042】
実施例4
チオール化合物に1,4-ブタンジオール−ビス(3−メルカプトブチレート)を用い、チオール基とメタクリロイル基の官能基当量比を30/70に変更した以外は、実施例1と同様にして硬化物を得た。
【0043】
実施例5
エン化合物にポリエチレンオキサイド(6mol)変性ビスフェノールAジメタクリレートを用い、チオール基とメタクリロイル基の官能基当量比を40/60に変更した以外は、実施例1と同様にして硬化物を得た。
【0044】
比較例1
チオール基とメタクリロイル基の官能基当量比を50/50に変更した以外は、実施例1と同様にして硬化物を得た。
【0045】
比較例2
ジエチレングリコールジメタクリレート100質量部に、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを1質量部混ぜた。実施例1と同様に、紫外線を1200mJ/cm2で照射し、硬化物を得た。
【0046】
上記実施例1〜5及び比較例1、2で得られた硬化物について、下記の物性評価を行った。
(1)引っかき硬度
引っかき硬度(鉛筆法)をJIS K−5600−5−4に準じて測定した。
(2)貯蔵弾性率
動的粘弾性試験機(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製:DMSシリーズを使用し、昇温速度2℃/分、測定周波数1Hzの条件において、ダイナミックスキャンを行い、得られた硬化フィルムの温度150℃における貯蔵弾性率(MPa)を測定した。
なお、本発明の評価については、引っかき硬度2B以上、貯蔵弾性率1000MPa以下であることを、耐擦傷性と可撓性を両立する基準とした。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1より、各実施例の硬化物は、引っかき硬度が2B〜3H、貯蔵弾性率が23〜330MPaであり、耐擦傷性と可撓性を両立しているのに対して、(A)/(B)の官能基当量比が50/50の比較例1では、引っかき硬度が4Bと柔らか過ぎ、官能基当量比が0/100の比較例2では、引っかき硬度が4Hで、かつ貯蔵弾性率が1500MPaで
可撓性に欠けるものであることが判る。
【0049】
実施例6
ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を45質量部、ジエチレングリコールジメタクリレートを55質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを1質量部混ぜ、光硬化性樹脂組成物とした。この光硬化性樹脂組成物に対してニトロン化合物(C)として、α−フェニル−N−t−ブチルニトロンを無添加の試料及び0.1質量%、0.5質量%添加した試料を得た。
【0050】
実施例7
実施例6で使用した、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を45質量部、ジエチレングリコールジメタクリレートを55質量部の合計100質量部に対して、ニトロキシド基を有する化合物(D)として、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジノキシを0.1〜0.5質量%添加して試料を得た。更に、化合物(C)として、α−フェニル−N−t−ブチルニトロンを0.1質量%添加して試料を得た。
【0051】
実施例8
実施例6で使用した、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を45質量部、ジエチレングリコールジメタクリレートを55質量部の合計100質量部に対して、ニトロソ基を有する化合物(E)として、ニトロソベンゼンを0.1〜0.5質量%添加して試料を得た。更に、化合物(C)として、α−フェニル−N−t−ブチルニトロンを0.1質量%添加して試料を得た。
【0052】
保存安定性の評価
上記実施例6〜8で得られた試料を透明ガラス管に入れて室内で放置し、増粘、ゲル化を経て、硬化するまでの時間を目視で測定した。保存安定剤としての化合物(C)〜(E)の添加量は、無添加、0.1質量%添加、0.5質量%添加の場合で評価した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2において、実施例6では、保存安定剤として、ニトロン化合物(C)の添加、実施例7では、ニトロキシド基を有する化合物(D)の添加および、化合物(C)との併用、実施例8では、ニトロソ基を有する化合物(E)の添加及び化合物(C)との併用による、保存安定性、すなわち硬化までの時間(日数)の関係が把握できる。
これらの保存安定剤の使用により、耐擦傷性と可撓性を併せ持つ硬化物が得られる光硬化性樹脂組成物を、従来に比較して長期間、安定に保存できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、紫外線などの活性エネルギー線の照射によって硬化するものであり、硬化物は、耐擦傷性と可撓性を有するので、光学部品のフィルターや電子部品の被覆等に有効に利用できる。
また、本発明の光硬化性樹脂組成物は、保存安定剤を添加することによって、従来に比較して長期間の保存が可能なので、ハンドリング性にも優れ、極めて実用性の高い光硬化性樹脂組成物として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にチオール基を2つ以上有する化合物(A)及び、分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物(B)を含む光硬化性樹脂組成物であり、かつ化合物(A)のチオール基と化合物(B)のメタクリロイル基の官能基当量比が(A)/(B)=5/95 〜 45/55である光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
化合物(A)が一般式(I)で示される化合物である請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【化1】

〔式中、Z1は2〜6の価数を有する有機残基であり、nは2〜6の整数であり、かつZ1の価数を超えることはない。Xは、−O−CO−、−O−、または−HN−CO−の何れかを表し、Yは炭素数2〜8のアルキレン基または炭素数6〜20のアリーレン基であり、vは0または1の整数である。〕
【請求項3】
化合物(B)が一般式(II)で示される化合物である請求項1又は2に記載の光硬化性樹脂組成物。
【化2】

(式中、Z2は2〜6価のアルコールから水酸基を除いた残基であり、mは2〜6の整数であり、かつZ2の価数を超えることはない。)
【請求項4】
更に、一般式(III)で示されるニトロン化合物(C)を、化合物(A)+化合物(B)の合計100質量部に対して、0.0001〜1質量部含有する請求項1〜3のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
【化3】

(式中、R1及びR2は、それぞれt-ブチル基、フェニル基またはナフチル基のいずれかを表す。)
【請求項5】
更に、一般式(IV)で示されるニトロキシド基を有する化合物(D)を、化合物(A)+化合物(B)の合計100質量部に対して、0.0001〜1質量部含有する請求項1〜4のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
【化4】

(式中、R3は、OH、COOHまたはHの何れかを表す。)
【請求項6】
更に、一般式(V)で示されるニトロソ基を有する化合物(E)を、化合物(A)+化合物(B)の合計100質量部に対して、0.0001〜1質量部含有する請求項1〜4のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
4―NO (V)
(式中、R4は、アルキル基又はアリール基を表す。)