説明

光空間通信装置

【課題】空間通信装置内の光量可変手段の耐久性を高める。
【解決手段】S1で光量調節絞りは光量制限を行わないように設定する。S2で光量調節絞りを通過した受信光を受光素子を介して電圧信号V1に変換する。
S3で受信光を受光素子を介して電圧信号V2に変換する。S4で高周波域成分のみに制限して電圧信号V3とし、S5で位相を反転し電圧信号V4とする。
S6で信号V1と信号V4を加算して電圧信号V5とする。S7で信号V5が規定の下限値以上か否かを判断し、下限値以上であればS8に進み、下限値以下であればS9に進む。S9で光量調節絞りを通過する受光量を制限する量を減少させる。S8で信号V5が規定の上限値以下か否かを判断し、上限値以下であればS10に進み、上限値以上ならばS11に進む。S10で光量調節絞りにおいて通過する受光量を制限する量を変化させず、S11で光量調節絞りを通過する光量を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離れた2地点間に対向設置して、自由空間中を伝搬する光ビームにより光信号通信を行う光空間通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光空間通信装置は、送信側において送信信号を光信号に変調し、この光信号を受信側に向けて大気空間中を伝送し、受信側においては送信側からの光信号を受光素子に導き、電気信号に復調することにより、情報信号の伝達を行っている。
【0003】
一般に、隔てた2点間を光信号により情報伝送を行う場合には、対向装置からの光信号が強すぎたり、太陽光が入射したりすることにより、受光素子の出力が上限を超える飽和現象が発生し、変調波の検出不能による通信不能の原因となることがある。
【0004】
そのために、特許文献1、2に示すように、受光素子の前に光量可変手段を備え、受光量検出手段の結果を基に、その受光量が所定値になるように光量可変手段を制御する装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平4−159829号公報
【特許文献2】特開2000−41005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光信号は大気空間中を伝送していく際に、大気の揺らぎによる位置的、時間的強度変動(シンチレーション)の影響を受けるため、受光素子に入射する光信号の強度が変動する。特に、気温の高い晴天の日中の伝送における受光量の変動が激しく、その変動は数100Hzまでの周波数成分を持っている。
【0007】
上述の従来例においては、光量可変手段は受光量が所定値になるように制御されるため、シンチレーションに追従して高速で光量可変手段は動作することになる。その結果、光量可変手段の耐久性の低下が発生する可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、上述の問題点を解消し、光量可変手段の耐久性の低下を軽減できる光空間通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る光空間通信装置の技術的特徴は、離れた地点間に対向設置して光ビームにより通信を行う光空間通信装置において、相手側装置からの光ビームを受信する受信光学系と、該受信光学系を経た前記光ビームからデータを得るデータ受信用受光素子と、該データ受信用受光素子に入射する光量を検出するデータ用受光量検出部と、前記光ビームから位置検出信号を得る位置検出用受光素子と、該位置検出用受光素子の出力により入射する光量を検出する位置検出用受光量検出部と、該位置検出用受光量検出部の位置検出信号を演算する演算手段と、前記受信光学系と前記データ受信用受光素子の間に設け前記光ビームの強度を可変とする光量可変手段と、前記データ用受光量検出部からの出力と前記演算手段からの出力とを加算する加算部と、該加算部による加算に基づいて前記光量可変手段を通過する光量を制御する制御部とを備えることにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る光空間通信装置によれば、光量可変手段の耐久性の低下を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は実施例における光軸ずれ補正機能を有する光空間通信装置の構成図を示し、この光空間通信装置と対向する図示しない相手側装置も、全く同じ構成とされている。
【0013】
送信信号端1に入力された送信信号Iは、駆動回路2及び発光源となる半導体レーザー等から成る発光素子3によって光信号に変調されるようになっている。発光素子3から発光されたレーザー光の進行方向には、送信光レンズ4、偏光ビームスプリッタ5、2つのミラーを有する光軸角度調整部6、送受信レンズ7、8が順次に配列されている。
【0014】
偏光ビームスプリッタ5の反射方向には、ハーフミラー9、光量可変手段としての光量調節絞り10、受信光レンズ11、光信号を電気信号に変換するPINフォトダイオードやAPD等から成るデータ受信用受光素子12が順次に配列されている。更に、ハーフミラー9の反射方向にはレンズ13を介して、位置検出用受光素子14が設けられている。
【0015】
データ受信用受光素子12の出力は、自動利得制御増幅部15及びデータ用受光量検出部16に接続されている。データ用受光量検出部16の出力は、加算部17、絞り量制御部18を経て光量調節絞り10に接続されている。
【0016】
また、位置検出用受光素子14の一方の出力は、角度誤差検出部19を経て光軸角度調整部6に接続されている。更に位置検出用受光素子14の他方の出力は位置検出用受光量検出部20にも接続され、ハイパスフィルタ部21を経て位相反転部22に接続されている。このようにして演算された位相反転部22の出力は、データ用受光量検出部16の出力と共に加算部17に接続される。
【0017】
送信信号端1に入力された送信信号Iは駆動回路2で変調され、発光素子3で光信号に変換されて送信される。この送信光ビームは送信光レンズ4で平行光束とされ、偏光ビームスプリッタ5を通過する。そして、光軸角度調整部6において相手側装置の方向に向けられ、送受信レンズ7、8で最適な広がり角に調整されて相手側装置に送信される。
【0018】
相手側装置から伝送されてきた受信光ビームは、受信光学系として機能する送受信レンズ7、8で整形された後に光軸角度調整部6を通り、偏光ビームスプリッタ5で反射され、ハーフミラー9に送られる。偏光ビームスプリッタ5では送信光ビームと受信光ビームの偏光を直交させることにより、送信光ビームと受信光ビームを分けることができる。
【0019】
ハーフミラー9で分岐された受信光ビームは、レンズ13により位置検出用受光素子14に集光され、検出された位置検出信号は、角度誤差検出部19及び位置検出用受光量検出部20に送られる。角度誤差検出部19では、送信光ビームの光軸と受信光ビームの光軸のずれを検出し、その角度誤差信号を光軸角度調整部6に出力する。光軸角度調整部6は角度誤差信号に従って内部の2つのミラーを駆動し、受信光ビームの光軸と送信光ビームの光軸を一致させることで、送信光ビームが相手側装置に伝送される。
【0020】
送信光学系と角度誤差検出部19の光学系の光軸は予め一致させてあるため、角度誤差検出部19の光学系の光軸と受信光ビームの光軸の角度ずれを検出することにより、送信光ビームの光軸と受信光の光軸を検出することができる。この角度誤差検出部19からの角度誤差信号に従って、光軸角度調整部6により送信光ビームの出射角度を傾けることにより、常に送信光学系の光軸が相手側装置の方向に追従するように制御している。
【0021】
ハーフミラー9を通過してデータ受信用受光素子12の方向に送られた受信光ビームは、受光素子12の出力が上限を超える飽和現象が発生しないように制御された光量調節絞り10によって光量が制限され、レンズ11により受光素子12に集光される。集光された受信光ビームは、受光素子12において電気信号に変換され、増幅部15で増幅され受信信号Sとして出力される。
【0022】
図2は光量調節絞り10の動作についてのフローチャート図である。先ずステップS1において、光量調節絞り10は光量制限を行わないように設定する。ハーフミラー9を通過し光量調節絞り10を通過した受光信号はデータ受信用受光素子12に入射し、ステップS2でデータ用受光量検出部16によって電圧信号V1に変換される。電圧信号V1は大気のシンチレーションの影響を受けて変動している。
【0023】
一方、ハーフミラー9で反射された受信光ビームは位置検出用受光素子14に入射し、その受光信号はステップS3において位置検出用受光量検出部20により電圧信号V2に変換される。この電圧信号V2も大気のシンチレーションの影響を受けて変動しており、その周波数特性と位相特性はデータ用受光量検出部16により検出された電圧信号V1と同様である。
【0024】
続いてステップS4において、ハイパスフィルタ部21によって高周波域成分のみに制限され、電圧信号V3として出力する。ステップS5において位相反転部22によって位相が反転され、電圧信号V4として出力する。
【0025】
ステップS6において、データ用受光量検出部16による電圧信号V1と位相反転部22の出力の電圧信号V4は加算され電圧信号V5として出力する。このように、電圧信号V4と電圧信号V1は加算部17により加算され、高周波域成分は互いに反転した位相の信号のため打ち消し合い、電圧信号V1の低周波成分のみが電圧信号V5として絞り量制御部18に送られる。続いて、ステップS7においては、電圧信号V5が設定されている規定の下限値以上か否かを判断し、下限値以上であればステップS8に進み、下限値以上でなければステップS9に進む。
【0026】
ステップS9においては、光量調節絞り10において通過する受光量を制限する量を減少させる。ステップS8においては、電圧信号V5が設定されている規定の上限値以下か否かを判断し、上限値以下であればステップS10に進み、上限値以下でなければステップS11に進む。
【0027】
ステップS10においては、光量調節絞り10において通過する受光量を制限する量を変化させない。ステップS11においては、光量調節絞り10において通過する受光量を制限する量を増加させる。
【0028】
ステップS9〜S11の後の何れにおいても、ステップS2に戻り、ステップS2からのフローを連続的に繰り返す。
【0029】
つまり、絞り量制御部18は電圧信号V4が設定された最大値以上であれば、光量調節絞り10において通過する光量を制限するように制御し、逆に電圧信号V4が設定された最大値未満であれば、光量調節絞り10を光量を制限しないように制御する。即ち、光量調節絞り10はデータ受信用受光素子12に受光する量が大きくなり、飽和現象によって通信不能になる前に、通過する光量を制限するように動作する。それ以外の場合は通過する光量を制限しないように動作する。
【0030】
このようにして、光量調節絞り10はシンチレーションの高速な周波数成分に追従して高速で動作することはない。その結果、光量調節絞り10の耐久性の低下を軽減することになる。
【0031】
以上の説明では、本発明の好ましい実施例について述べたが、本発明はこれらの実施例に限定されないことは云うまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例の光空間通信装置の構成図である。
【図2】光量調節絞りによる絞り動作のフローチャート図である。
【符号の説明】
【0033】
3 発光素子
5 偏光ビームスプリッタ
6 光軸角度調整部
7、8 送受信レンズ
9 ハーフミラー
10 光量調節絞り
12 データ受信用受光素子
14 位置検出用受光素子
16 データ用受光量検出部
17 加算部
18 絞り量制御部
19 角度誤差検出部
20 位置検出用受光量検出部
21 ハイパスフィルタ部
22 位相反転部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離れた地点間に対向設置して光ビームにより通信を行う光空間通信装置において、相手側装置からの光ビームを受信する受信光学系と、該受信光学系を経た前記光ビームからデータを得るデータ受信用受光素子と、該データ受信用受光素子に入射する光量を検出するデータ用受光量検出部と、前記光ビームから位置検出信号を得る位置検出用受光素子と、該位置検出用受光素子の出力により入射する光量を検出する位置検出用受光量検出部と、該位置検出用受光量検出部の位置検出信号を演算する演算手段と、前記受信光学系と前記データ受信用受光素子の間に設け前記光ビームの強度を可変とする光量可変手段と、前記データ用受光量検出部からの出力と前記演算手段からの出力とを加算する加算部と、該加算部による加算に基づいて前記光量可変手段を通過する光量を制御する制御部とを備えることを特徴とする光空間通信装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記位置検出用受光量検出部の位置検出信号の周波数特性をハイパスフィルタ部によって制限する制限手段と、前記位置検出信号の位相を反転する位相反転部とを有することを特徴とする請求項1に記載の光空間通信装置。
【請求項3】
前記位置検出用受光素子の出力を基に、角度誤差検出部により前記光ビームの角度誤差を検出することを特徴とする請求項1に記載の光空間通信装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−10444(P2009−10444A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167109(P2007−167109)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】