説明

光素子の制御方法

【課題】電気光学材料を用いた光素子において、外部から供給される制御信号の繰り返し周波数などの条件変更に関わらず光の制御出力が変化しにくい光素子の出現が望まれている。
【解決手段】電気光学効果を持つ電気光学材料からなる光部品を含む光素子の制御方法において、前記電気光学材料が強誘電的相転移温度を含む常誘電性を示す温度範囲で動作させる光素子の制御方法と、温度制御手段を含む光素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は外部から供給される電気信号により制御する光素子に関連し、特に電気信号の繰り返し周波数などの条件が変化しても光の制御出力が変化しにくい前記光素子の制御方法と、前記制御方法に好ましく用いられる光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外部から印加される電界によって屈折率などの光学的物性量が変化する特性を持つ電気光学材料からなる光部品を用いた光素子として、電気的に光の強度を制御することのできる光変調器が古くから知られている。例えば、非特許文献1に記載されている。また、前記電気光学材料の例は、非特許文献2に記載されている。
【非特許文献1】L.P.Kaminov and E.H.Turner,”Electooptic Light Modulator”,Appl.Optics 5[10](1966)pp.1612−1618
【非特許文献2】H.Jiang,et.al.,”Transparent Electro−Optic ceramics and Devices”,SPIE Photonics Asia, November 2004.
【0003】
図1を用いて光変調器1の構造と動作について説明する。図1において21および22は電気光学材料を加工した光部品で、長尺方向の端面は光が出入りするよう光学的に研磨されている。光部品21は光の伝搬路に対して平行な上下面に電極211、212が形成され、外部の電圧源4からこの電極に電圧を印加することにより光部品21内部の上下方向に電界が発生する。同様に、光部品22には光の伝搬路に対して平行な左右面に電極221、222が形成され、光部品22内部の左右方向に電界が発生する。光部品21の光11の入射側には光の偏波方向を電界の発生方向に対して45度傾斜する偏光子31が設置され、同様に光部品22の光12の出射側には偏光子31と偏波方向が直交するように偏光子32が設置されている。光部品21,22と偏光子31,32は光が伝搬する光学軸方向に直線的に配置されている。
【0004】
電気光学材料に電圧が印加されない状態では光部品21,22は入射光11に対して等方的であるため、光は光部品21,22の長さに対応する位相のずれを生ずるのみで何ら影響を受けない。このため、光部品から出射する光は入射側の偏光子31に直交する偏光子32を通過することができず、光変調器からは光は出力されない。
【0005】
光部品21,22の各電極に直流電圧が印加されると電気光学材料に歪みが生じ、光部品には異方性が生じるため上下方向と左右方向に電界が振動する2つの光成分(常光,異常光)で光伝達速度が変化し光部品から出射する光の偏光方向が回転する。この現象は一般に電気光学効果(Electo−optic effect)として知られている。光部品21,22の長さと加える電圧を調整すると入射光11に対して出射光12の偏波方向は90度回転することができ、入射光11は出射光12として損失なく通過することができる。
【0006】
一般に電気光学材料は複屈折の温度依存性が光の偏波成分により異なるが、二つの光部品21,22の電極位置を直交して縦続に配置することによりその影響を補償することができる。
【0007】
この原理を利用して光変調器1は光の強度を電気的に可変する可変減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)や損失切り替えるQスイッチとして利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以下図1に示す光変調器1を事例に従来の光素子の有する課題について説明する。光変調器1に代表される光素子においては、光部品21,22により大きな電気光学定数(Electro−optic constant)を有する材料を用いることにより、電気光学材料を光の伝搬軸方向により短くすることができ光素子を小型化すると同時に、電気光学材料に加える電圧をより低くすることが可能となる。
【0009】
近年大きな電気光学定数を持ち光学的にも透明な材料としてxPb(Mg1/3Nb2/3)O−(1−x)PbTiO(以下、PMN−PTと省略)セラミックスが例えば、非特許文献2に報告されている。
【0010】
この材料はリラクサ系フェロブスカイト型強誘電体(Ferroerectics)として知られており、Pb(Mg1/3Nb2/3)Oの組成成分が10%である場合、強誘電的相転移温度(Ferroelectric phase transition temperature、常誘電相(Paraelectric phase)から強誘電相(Ferroelectric phase)への相転移温度、以下Tcと略す)はおおよそ30℃付近となる。一般に強誘電体はTc付近で誘電率など電界の影響を受ける物性量が増大する特徴を持つ。このため、Tc付近では電気光学定数も大きな値を持ち、動作温度領域がTcに近い場合には光素子への応用に適していると考えられている。
【0011】
図1はxがおおよそ10%の場合のPMN−PTセラミックスの比誘電率(Relative Dielectric Constant)の温度依存性を示している。比誘電率のピークはおおよそ30℃付近にあるが、そのピーク位置は計測する周波数により大きく変化する。この現象は後述する強誘電相での分極ドメインの移動に関連し、誘電率の周波数分散と表現する。
【0012】
強誘電体材料ではTcよりも十分に高い温度Aでは誘電分極P(Dielectricpolarization)と電界強度Eの関係は図3の曲線A1に示す様にほぼ直線的で、電界の増大時と減衰時の誘電分極の値はほぼ一致する。これに対してTcよりも十分に低い温度Bでは誘電分極Pと電界強度Eの関係は図3の曲線B1に示す曲線となり、電界の増大時と減衰時の電気分極の値は一致せずいわゆるヒステレシスを示す。この現象もやはり分極ドメインの移動により生ずる。
【0013】
電気光学効果が現れる原因となる常光と異常光の屈折率の差Δnは誘電分極Pに起因し、次の数式で表せる。
【数1】

ここで、nは誘電分極がないときの等方的な光の屈折率を示し、Pは電気光学定数を示す。gはカー定数として知られている。
【0014】
強誘電相においては電気分極Pは自発分極P(Spontaneous polarization)と電界Eで励起される誘導分極の和で表され、次数式で表わされる。
【数2】

ここでεは真空中の誘電率、εは電気光学材料の比誘電率を示す。
【0015】
数式2を数式1に代入すると、次式のようになる。
【数3】

第1項は電気光学材料全体において平均的に存在する自発分極Pの総和によって変化する成分を示し、第3項は外部から印加する電界Eのみで変化する成分を示す。第2項は自発分極Pと電界Eの両方が寄与する項目を示す。
【0016】
一般に強誘電相での電気光学効果には第3項の寄与は十分に小さいとして、第2項のみ注目し、ポッケルス効果として取り扱われている。リラクサ系フェロブスカイト型強誘電体の場合には強誘電相の非常に広い温度範囲で比誘電率εが非常に大きいため第3項の寄与も無視できない。
【0017】
図1の光変調器1では数式3の常光と異常光の屈折率の差Δnにより、光部品21,22に電圧を印加しない状態では光変調器から光が出射せず、光部品21,22に適切な電圧Vπを印加すると常光と異常光の位相差が90°ずれ損失なく光が出射することができる。
【0018】
図4の模式図を用いて電気光学材料が常誘電相にある場合と強誘電相にある場合の光変調器1の動作特性の違いを説明する。図4において横軸は光部品21,22に印加する電圧を示し、縦軸は光変調器から出力される光強度を示す。
【0019】
曲線A2は電気光学材料が常誘電相にある場合、すなわち図2のAの温度または図3のA1のような電界−誘電分極特性が得られる温度である場合の光変調器の特性を示したものである。曲線A2において常光と異常光の位相差が90°ずれる電圧Vπで光の出射強度は最大値を示し、更に電圧が上昇すると再び減少する。電圧上昇とともに光の出射強度が最大となる電圧は何度も現れる。また、曲線A1に電圧上昇時と下降時にヒステレシスがないことに対応して光出力の曲線A2においてもヒステレシスは見られない。また、電圧の正負に対しても対称である。図5−1はこのとき実際に1/300Hzの非常に遅い繰り返し周期で計測された光の出力特性を示している。縦軸のスケールがdB表記であるため電圧上昇時と下降時にわずかにヒステレシスを持っている様に見えるが、概ねヒステレシスは小さく電圧の正負に対して対称である。
【0020】
一方、曲線B2は電気光学材料が強誘電相にある場合、すなわち図2のBの温度または図3のB1のような電界−誘電分極特性が得られる温度である場合の光変調器の動作特性を示したものである。電圧の変化が1秒以上のゆっくりとした変化の場合、常誘電相と同様に電圧の変化とともに光出射強度が最大となる電圧は何度も現れるが、図3の曲線B1に電圧上昇時と下降時にヒステレシスが見られるのと同様に、光出力の曲線B2においてもヒステレシスは現れる。図5−2はこのとき実際に1/300Hzの繰り返し周期で計測された光の出力特性を示している。電圧上昇時と下降時に大きなヒステレシスを持っていることが分かる。
【0021】
次にこの強誘電相における高速な方形波信号を電気光学素子に印加した場合の問題点を、図6を用いて説明する。
【0022】
図6−1は図2のB点の温度すなわち強誘電相において、光変調器1の光部品21,22に100ns以下で高速に電圧(VOA電圧)が切り替わる方形波信号が印加され、その繰り替え周期が10kHzである場合の光出力の変化を示したものである。光変調器1からの光出力はほぼ印加した方形波信号にほぼ追従して高速に切り替わっているように見える。一方、図6−2は同じ電圧条件で5Hzの非常にゆっくりとした繰り返し周期の電圧を印加した場合の光の出力変化を示している。図から分かるように、電圧が切り替わると同時に急速に光の出力が増大するが、その後光の出力はゆっくり減衰していることが分かる。
【0023】
この現象は外部電界と光出力の関係を示す図4においては10kHzの方形波信号では曲線B3のようにヒステレシスを持たない変化を示すが、5Hzの方形波信号では曲線B4のようにヒステレシスを持つ変化を伴っていることを示している。すなわち、この現象は光
学部品21,22に外部から印加する電気信号に対して、光出力が追従する成分に、100nsオーダーで追従する非常に応答成分と10msオーダーで追従する非常に遅い成分が存在することを示している。
【0024】
次に電気光学材料内部の強誘電的ふるまいに注目して、この現象について説明する。リラクサ系フェロブスカイト型強誘電体は強誘電相において正負逆方向を含めて全部で8方位の自発分極方位が存在する。外部から電界が加わらない場合にはこれらの自発分極を有するドメイン(Domain、自発分極方位がそろった領域)が存在し、光部品21,22全体の平均的分極は0となっている。すなわち、光部品21,22全体は光学的に等方的に見える。
【0025】
図7−1を用いて、電気光学材料を光変調器として用いた場合、非常に早い応答成分と非常に遅い応答成分が存在する現象について説明する。ここでは、説明を簡略化するため自発分極の方向は紙面内の上下、左右方向と紙面に垂直な方向で正負の向きを合わせて6方向存在するとして説明する。電気光学材料がセラミックスである場合には、その内部は51,52で示すような10μmオーダーのセラミックスの粒子の集まりで構成されている。個々の粒子は電気光学材料の単結晶である。電気光学材料が強誘電相にある場合、この粒子内部にドメインが存在する。たとえば、粒子51の内部には紙面に対して上向きの自発分極を持つドメイン61と、紙面に対して右向きの自発分極を持つドメイン62が存在する。同様に粒子52の内部には紙面に対して下向きの自発分極を持つドメイン63と紙面に垂直な向きの自発分極を持つドメイン64が存在する。紙面の左から右に伝搬する光13にとってドメイン61,63,64の様に光13の伝搬方法に垂直な成分の分極が影響を受ける。光部品23全体では光の伝搬方向に垂直な分極成分の総和が光13の位相速度に影響を与える。外部電界Eがない場合には数式3の第1項のΔnの寄与として現れる。一般にセラミックス材料の場合外部電界Eがない場合にはこの自発分極の総和もほぼゼロである。
【0026】
光部品23の上下方向には電極231,232が設けられており、この電極に外部から電圧を印加することにより光部品23内部に電界Eが発生する。このとき電界Eに一致する向きの分極を持つドメイン61の分極の大きさは増大し、電界Eに逆向きの分極を持つドメイン63の分極の大きさは減少する。同時にドメイン同士を分けるドメイン壁71,72はドメイン61の量を増やす方向に、またドメイン63の量を減らす方向に移動する。その結果光部品全体では電界Eの向きの自発分極Pが発生し、数式3の第1項と第2項のΔnの寄与として光13の影響を与える。この寄与はポッケルス効果として知られている。
【0027】
61,63の様に一つのドメイン内部の誘電分極の大きさ変化は電気光学材料の結晶内部の原子もしくはイオンの配置が変化することにより現れるイオン分極寄与で、外部電界Eの変化に対して非常に早く追従する。一方のドメイン壁71,72が移動することにより各ドメインの量が変化する。この移動は一般に非常に遅く外部電界Eの変化に対して10ms以上遅れて変化が現れる。図6−1,図6−2で示した、外部電界の変化に対して速い応答成分と遅い応答成分が存在する理由については分極の大きさが変化する寄与とドメインの量が変化する寄与の2つが存在することによって理解できる。
【0028】
現実に光変調器1を光通信システムに適用する場合、変調すべき光信号の時間幅は常に変化するものであり、一定の時間幅で固定的に繰り返されるものではない。電気光学材料が強誘電相にある場合、光変調器からの出力波形はある時には図6−1のよう応答波形から図6−2のような応答波形に変化することはあり得る。このことは図6−1,図6−2の動作を示す光変調器は光の通信システムの中では適用が困難であることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、電気光学材料を加工して得られた光部品21,22に印加する電気信号に対して、光出力が追従する成分に非常に早い応答成分と非常に遅い応答成分が含まれることにより、光素子を光通信システムに適用する場合のあらゆる変調信号に追従できないという問題を解決するものである。
【0030】
本発明の光素子の制御方法は光部品に使用する強誘電体材料が強誘電相において非常に早い応答成分と非常に遅い応答成分が含まれることよる不具合を避けるために、電気光学材料の動作温度領域を可能な限り常誘電相に設定する。ただし、リラクサ系フェロブスカイト型強誘電体においてはTc近傍では電気光学定数が大きいため、光素子の動作温度領域にTcを含ませることは有益である。本発明の光素子の制御方法は使用する電気光学材料の常誘電相と比誘電率の周波数分散が出ない下限温度の範囲を限定的に使用する。もしくは、繰り替えし周波数が10kHz以上の矩形信号を印加した場合と繰り返し周波数が5Hz程度の方形波信号を印加した場合とで、光素子の光の出力レベルがほとんど変化しない電気光学材料のTc近傍を含む常誘電相の温度範囲を限定的に使用する。
【発明の効果】
【0031】
本発明の光素子の制御方法は光部品に使用する電気光学材料のTc近傍と常誘電相を限定的に利用することにより、光出力が追従する非常に早い応答成分のみを利用でき、電気光学材料を用いた光変調器は光通信システムにおいてあらゆる時間間隔の光信号の変調を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】光変調器の構造とその動作原理を示す図である。
【図2】強誘電体PMN−PTの比誘電率の温度変化を示す図である。
【図3】強誘電体の外部電界Eと誘電分極Pの関係を示す図である。
【図4】光変調器の外部電界と光出力の関係を示す図である。
【図5−1】電気光学材料が常誘電相にある時に示す実際の光変調器の光出力を示す図である。
【図5−2】電気光学材料が強誘電相にある時に示す実際の光変調器の光出力を示す図である。
【図6−1】電気光学材料が強誘電相にある時に示す10kHzの方形波繰り返し信号に対する光変調器の出力時間応答波形である。
【図6−2】電気光学材料が強誘電相にある時に示す5Hzの方形波繰り返し信号に対する光変調器の出力時間応答波形である。
【図6−3】電気光学材料がTcにある時に示す10kHzの方形波繰り返し信号に対する光変調器の出力時間応答波形である。
【図6−4】電気光学材料がTcにある時に示す5Hzの方形波繰り返し信号に対する光変調器の出力時間応答波形である。
【図7−1】電気光学材料が強誘電相にある時のその内部状態と動作について説明した図である。
【図7−2】電気光学材料が常誘電相にある時のその内部状態と動作について説明した図である。
【図8】本発明の光素子に使用する電気光学材料の動作温度とそのTcの関係を示す図である。
【図9】本発明の光素子を温度制御する構成の一例を示す図である。
【図10】光素子のその他の事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の光素子の制御方法には例えば図1の光変調器1が使用される。
【0034】
本発明の実施の態様として、請求項1に記載のように電気光学効果を持つ電気光学材料からなる光部品を含む光素子の制御方法において、前記光部品を強誘電的相転移温度を含む常誘電性を示す温度範囲で動作させるよう制御することにより、前記光素子の光出力が追従する非常に早い応答成分のみを利用することができ、光通信などのシステムにおいてあらゆる時間間隔の光信号の変調を可能にすることができる。また、たとえば請求項2に記載のように前記電気光学材料の前記電気光学効果に単一の自発分極からなるドメインの移動による周波数分散が現れない温度範囲で動作させるよう制御することも可能である。また、たとえば請求項3に記載のように前記電気光学材料の比誘電率が100Hzから100kHzの周波数範囲で比誘電率が周波数分散を示さない温度範囲で動作させるよう制御することも可能である。また、たとえば請求項4に記載のように前記電気光学材料に方形波信号を印加したとき、その繰り返し周波数が10kHzと5Hzとで光素子からの光出力レベルが変化しない温度範囲で動作させるよう制御することも可能である。
【0035】
また本発明の実施の態様として、請求項5に記載のように前記電気光学材料にリラクサ系のフェロブスカイト型強誘電体を用いた光部品を含む光素子の制御方法において電気光学材料が強誘電的相転移温度を含む常誘電性を示す温度範囲で動作させる制御することにより、前記光素子の光出力が追従する非常に早い応答成分のみを利用することができ、光通信などのシステムにおいてあらゆる時間間隔の光信号の変調を可能にすることができる。また、請求項6に記載のように前記電気光学材料にxPb(Mg1/3Nb2/3)O−(1−x)PbTiOを主成分とする強誘電体を用いることもできる。また、請求項7に記載のように前記電気光学材料にセラミックスを用いることもできる。また、請求項8に記載のように前記電気光学材料に単結晶を用いることもできる。
【0036】
また本発明の実施の態様として、請求項9に記載のように前記光素子を使用する外部の環境温度に関わらず、前記電気光学材料の温度が強誘電的相転移温度を含む常誘電性を示す温度範囲になるように温度制御することにより、前記光素子の光出力が追従する非常に早い応答成分のみを利用することができ、光通信などのシステムにおいてあらゆる時間間隔の光信号の変調を可能にすることができる。また、請求項10に記載のように前記光素子を使用する外部の環境温度が電気光学材料の強誘電的相転移温度よりも低い場合、光素子を加熱することにより電気光学材料が強誘電的相転移温度を含む常誘電相を示す温度範囲に温度制御することもできる。また、請求項11に記載のように前記光素子を使用する外部の環境温度の範囲内に電気光学材料の強誘電的相転移温度がある場合、光素子をペルチェ素子により冷却もしくは加熱することにより電気光学材料が強誘電的相転移温度を含む常誘電性を示す温度範囲に温度制御することもできる。
【0037】
また本発明の実施の態様として、請求項12に記載のように電気光学効果を有する電気光学材料からなる光部品を含む光素子において、前記光部品が強誘電的相転移温度を含む常誘電性を示す温度範囲で動作するように制御する温度制御手段を含むよう光素子を構成することにより、前記光素子の光出力が追従する非常に早い応答成分のみを利用することができ、光通信などのシステムにおいてあらゆる時間間隔の光信号の変調を可能にすることができる。また、請求項12の前記電気光学材料の好ましいものは、例えば、請求項13から16のいずれかに記載したようなものである。
【0038】
(第1実施形態)
図1の光変調器1において光部品21,22には例えばxが10%であるPMN−PTセラミックスを使用する。図2のCの比誘電率が周波数分散をほとんど持たなくなる温度で光変調器1を動作させた場合の光変調出力を図6−3,図6−4に示す。図6−3は光変調器1の光部品21,22に100ns以下の高速に電圧が切り替わる方形波信号
が印加され、その繰り替え周期が10kHzである場合の光出力の変化を示したものである。一方図6−2は同じ電圧条件で5Hzの非常にゆっくりとした繰り返し周期の電圧を印加した場合の光の出力変化を示したものである。図6−3と図6−4はともに応答波形の光出力レベルにはほとんど変化がない。
【0039】
図6−3と図6−4の結果は、図4においては10kHzと5Hzの方形波信号のいずれにおいても曲線C1のように外部信号に対してヒステレシスのない光出力の変化と対応している。このことは外部電界Eの印加に対して、光変調器1の光出力に遅い応答成分が含まれないことを意味している。本発明では、100Hzから100kHzの周波数で計測された誘電率が分散を持たなくなる下限温度、もしくは外部から光部品に印加する方形波信号の繰り返し周波数が10kHzと5Hzとで光変調素子からの光出力レベルが変化しなくなる下限温度を、強誘電的相転移温度Tcとして定義する。図2のTc以上の電気光学材料が常誘電相であるAの温度でも図6−3と図6−4と同様の結果が得られている。
【0040】
本発明の光素子の制御方法は、その動作温度範囲を電気光学材料のTcを含む常誘電相のみに限定することにより、光出力が追従する非常に早い応答成分のみを利用でき、電気光学材料を用いた光変調器において光通信システムでのあらゆる時間間隔の光信号の変調を可能にするものである。
【0041】
次に電気光学材料内部の誘電的ふるまいに注目して、この現象を説明する。図7−2は常誘電相にある時の電気光学材料の分極状態を示す。電気光学材料がセラミックスである場合には、図7−1と同様にその内部は5で示すようなセラミックスの粒子の集まりで構成されている。外部電界Eが内場合には図6−1の強誘電相とは異なり、セラミックス粒子内には自発分極Pは存在せず、ドメイン壁も存在しない。ここに外部電界Eが印加すると電界方向に電気光学材料の比誘電率に対応して分極63が発生し、式1に示す常光と異常光の屈折率差が発生する。このとき図7−1で示した強誘電相のようなドメイン壁の移動もない。このためドメイン壁の移動に伴う光出力の遅い応答成分は含まれないため、電気光学材料の結晶内部の原子もしくはイオンの配置が変化するイオン分極の寄与による早い応答成分のみが利用できる。
【0042】
次に図8を用いて、本発明で用いられる電気光学材料のTcと光素子1の動作温度領域の関係を示す。本発明で使用する電気光学材料のTcは光素子の動作温度領域のほぼ下限に設定して利用する。
【0043】
一般に光関連機器は0℃〜70℃の動作保証を要求される。本発明の光素子1において光部品21,22に使用する電気光学材料はその相転移温度Tcが0℃となるようその組成や製造条件を調整する。例えばPMN−PTセラミックスの場合には組成をxを5%とすることによって実現できる。
【0044】
(第2実施形態)
本発明の光素子の制御方法は光素子自身を加熱制御するなどして、その動作温度領域を光部品に使用する電気光学材料のTc近傍と常誘電相を限定して利用することができる。例えば光変調器を組み込む光関連機器の動作温度が0℃〜70℃である場合、光変調器1に使用する電気光学材料のTcを70℃以上として光変調素子1を加熱制御することによってTc近傍と常誘電相を限定的に利用することができる。
【0045】
例えばPMN−PTセラミックスの場合には組成をxを13%以上とすることによって実現できる。
【0046】
次に図9を用いて光素子を加熱制御する方法を説明する。図9において8は本発明に使用する光素子201を搭載し利用または制御する電気回路基板である。101は光変調器201の光の入出力端子で、102は電気信号の入力端子である。この電気回路基板8内の光素子201の近傍には光素子を加熱するヒーター81と温度を検出するセンサー82が搭載されていて、本発明の温度制御手段の一実施例である。。加熱ヒーター81はセンサー82からの信号により光素子の電気光学材料が常にTc以上の温度となるよう加熱制御される。センサー82にはサーミスターや熱電対を利用することができる。
【0047】
前記説明では加熱することにより電気光学材料をTc以上となるようその動作温度制御したが、光素子の外部環境温度範囲に電気光学材料のTcが含まれる場合、加熱もしくは;冷却が可能な熱電素子であるペルチェ素子を用いて電気光学材料の温度が電気光学効果の大きいTc近傍もしくは以上の温度に光素子を制御することも可能である。
【0048】
また本発明の光素子の制御方法に関する前記説明では、図1に示す光変調器1を例にして示したが、光変調器はこれに限定されるものではなく例えば図10に示す様な光変調器に適用ができる。
【0049】
図10の光変調器2は偏光子33と電気光学材料を加工して得られた光部品24と光学反射膜9から構成されている。光部品24には電圧を印加するための電極241、242が形成されている。この光変調器2において、偏光子33と電気光学材料24と光学反射膜9は直線的に配置され、入射光14は偏光子33と電気光学材料24を通り、光学反射膜9で反射され、再び電気光学材料24と偏光子33を通り、出射光15として出力される。この光変調器2は電極241、242に電圧を印加することにより図1の光変調器1と同様の動作をし、図1よりも小型化でき構造を簡素化できるメリットがある。
【0050】
また、上記説明では電気光学材料に強誘電体セラミックスを用いた例を示したが、電気光学材料に強誘電体単結晶を用いることも可能である。セラミックスと異なり強誘電体単結晶にはセラミックス粒子のような境界がないため、強誘電相に現れる分極ドメインの移動に制限がなくセラミックス以上にドメインの移動を伴う比誘電率の周波数分散や光素子の非常に遅い応答成分の影響が顕著になる。しかし、強誘電体単結晶においてもTc近傍と常誘電相を限定的に利用することにより、光出力が追従する非常に早い応答成分のみを利用できる。
【0051】
この他、電気光学材料を利用するその他の光素子において、本発明を適用することにより、光出力が追従する非常に早い応答成分のみを利用でき、光通信システムにおいてあらゆる時間間隔の光信号の変調を可能にすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1、2、201 光変調器
11,14 入射光
12、15 出射光
13 光の進行方向
21、22、23、24 光部品
211、212,221、222、231、232、241、242 電極
31、32、33 偏光子
4 電圧源
5、51、52 セラミックス粒子
61、62、63,64 自発分極
71、72 ドメイン壁
8 電気回路基板
81 ヒーター
82 温度センサー
9 光学反射膜
101 光変調器の光入出力端子
102 光変調器の電気信号の入力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を持つ電気光学材料からなる光部品を含む光素子の制御方法において、
前記光部品を強誘電的相転移温度を含む常誘電性を示す温度範囲で動作させることを特徴とする光素子の制御方法。
【請求項2】
前記電気光学材料の前記電気光学効果に単一の自発分極からなるドメインの移動による周波数分散が現れない温度範囲で動作させることを特徴とする請求項1に記載の光素子の制御方法。
【請求項3】
前記電気光学材料の比誘電率が100Hzから100kHzの周波数範囲で比誘電率が周波数分散を示さない温度範囲で動作させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光素子の制御方法。
【請求項4】
前記電気光学材料に方形波信号を印加したとき、その繰り返し周波数が10kHzと5Hzとで光素子からの光出力レベルが変化しない温度範囲で動作させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光素子の制御方法。
【請求項5】
前記電気光学材料がリラクサ系のフェロブスカイト型強誘電体であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の光素子の制御方法。
【請求項6】
前記電気光学材料がxPb(Mg1/3Nb2/3)O−(1−x)PbTiOを主成分とする強誘電体であることを特徴とする請求項5に記載の光素子の制御方法。
【請求項7】
前記電気光学材料がセラミックスであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の光素子の制御方法。
【請求項8】
前記電気光学材料が単結晶であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の光素子の制御方法。
【請求項9】
前記光素子を使用する外部の環境温度に関わらず、前記電気光学材料の温度が強誘電的相転移温度を含む常誘電性を示す温度範囲になるように温度制御されたことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の光素子の制御方法。
【請求項10】
前記光素子を使用する外部の環境温度が前記電気光学材料の前記強誘電的相転移温度よりも低いとき、光素子を加熱することにより前記電気光学材料が前記強誘電的相転移温度を含む前記常誘電相を示す温度範囲に温度制御されたことを特徴とする請求項8または請求項9に記載の光素子の制御方法。
【請求項11】
前記光素子を使用する外部の環境温度の範囲内に前記電気光学材料の前記強誘電的相転移温度がある場合、光素子をペルチェ素子により冷却もしくは加熱することにより前記電気光学材料が前記強誘電的相転移温度を含む前記常誘電性を示す温度範囲に温度制御されたことを特徴とする請求項8に記載の光素子の制御方法。
【請求項12】
電気光学効果を有する電気光学材料からなる光部品を含む光素子において、前記光部品が強誘電的相転移温度を含む常誘電性を示す温度範囲で動作するように制御する温度制御手段を含むことを特徴とする光素子。
【請求項13】
前記電気光学材料がリラクサ系のフェロブスカイト型強誘電体であることを特徴とする請求項12に記載の光素子。
【請求項14】
前記電気光学材料がxPb(Mg1/3Nb2/3)O−(1−x)PbTiOを主成分とする強誘電体であることを特徴とする請求項13に記載の光素子。
【請求項15】
前記電気光学材料がセラミックスであることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の光素子。
【請求項16】
前記電気光学材料が単結晶であることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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