説明

光線治療器

【課題】治療部位となる照射面全体に均一に治療光を照射して治療効果を高める。
【解決手段】光線治療器は、平面ないし曲面上に配置された複数個の発光手段1a〜1e、切替制御手段2、及び光拡散板3を備える。切替制御手段2は、複数個の発光手段1a〜1eそれぞれを時分割に切り替えパルス駆動し、配置された位置に応じて複数個の発光手段1a〜1eの点灯時間ないし発光量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近赤外線光などによって炎症性疼痛の緩解などの治療を行うための光線治療器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近赤外線光が血管を拡張させて組織血流を増加させたり、交感神経系の興奮を抑制したり、細胞組織を活性化して創傷治癒を促進したり、炎症性サイトカインや発痛物質に働きかけて抗炎症作用や鎮痛作用をもたらしたりすることはよく知られている。特に水、ヘモグロビン、メラニンに対する吸収が少ない波長800nm〜900nm近傍の近赤外線領域は生体透過度に優れ、温熱効果とは異なる作用機序によって炎症抑制や疼痛緩和されることが明らかになってきた。近赤外線領域の治療光の光源としては半導体レーザ、キセノン、各種ランプを用いたものに加え、発光ダイオード素子を用いたものも商品化されている。
【0003】
特に治療光を生体深部に到達させるためにはより高出力な光を生体へ照射しなければならないが、皮膚表面温度上昇に伴う熱傷を避けるため、治療光を断続的にパルス発光させる提案がなされている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0004】
図4A及び図4Bは前記特許文献1に記載された従来の赤外線治療器の発光源部分の構成を示している。フレキシブル基板15の上に複数の近赤外線発光ダイオード14が所定間隔をおいてパネル状に実装されている。各近赤外線発光ダイオード14の先端形状は、人体への当接感を良くするために、それぞれ丸型に形成されている。近赤外線発光ダイオード14の先端を丸型としているのは、光の拡散を抑制して集光するレンズとして機能させるためと、先端を患部に押し付けることによって指圧効果をもたらすためである。これにより治療光の照射野を狭め、患部方向のみに効率的に照射できる。
【0005】
この近赤外線発光ダイオード14はフレキシブル基板15上に実装されているために、起伏のある患部にも適切に当接され、密着性が高まり、近赤外線の人体への浸透を良くすることができる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−192315号公報(図1〜図2)
【特許文献2】特開2000−254241号公報(図3〜図4)
【特許文献3】特開2003−159341号公報(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような光線治療器に求められる光出力や光出力密度は高ければ高いほどよいわけではない。患者安全の立場から、例えば医家向けの赤外線治療器は、JIS T 0601−2−203:2005で出力制限値が定められている。密着型アプリケータの場合の光出力は、1Wを超える場合に特別な注意を要し、必ず10W以下でなければならない。同様に、光出力密度は3W/cmを超える場合に特別な注意を要し、7W/cm以下でなければならない。
【0008】
しかるに従来のこの種の光線治療器では点光源である砲弾型の発光ダイオードを縦横に敷き詰め、直接人体に密着させる構成であったため、照射面領域における極端な光出力や光出力密度の粗密が生じていた。具体的には、狭視野角の発光手段を用いた場合、発光手段の光軸上は高い光出力密度となる一方、発光手段と発光手段の狭間には光照射されにくい構成になる。また、広視野角の発光手段を用いた場合、照射面の中央部が高い光出力密度となる一方、周辺部の光出力密度が低い正規分布様の光強度分布(配光プロファイル)となる。
【0009】
光出力や光出力密度と同様に、照射面における温度分布も、放熱性の低い中央部がより高温となり、発光手段の寿命にアンバランスが生じたり、患部へ過度な熱影響を与えたりする恐れもあった。
【0010】
そこで本発明は、治療部位となる照射面全体に均一に治療光を照射して治療効果を高めることを目的とする。加えて、本発明は、発光手段を長寿命化し、患部へ過度な熱影響を与えるリスクを回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光線治療器は、上記課題を解決するために、平面ないし曲面上に配置された複数個の発光手段と、前記複数個の発光手段それぞれを時分割に切り替えパルス駆動し、配置された位置に応じて前記複数個の発光手段の点灯時間ないし発光量を制御する切替制御手段とを備える。
【0012】
この構成により発光手段は配置された位置に応じて点灯時間や発光量が個別に制御されるため、治療光が特定領域だけ集中的に照射されることを回避できる。
【0013】
好ましくは、前記切替制御手段は光照射面の周辺部に配置された発光手段の点灯時間ないし発光量を中心部に配置された発光手段の点灯時間ないし発光量より多くする。
【0014】
この構成により例えば縦横マトリクス状に配置されたり、円形や多角形状に配置された複数の発光手段において、切替制御手段の動作により、光照射面の周辺部に配置された発光手段の点灯時間ないし発光量の方が中心部に配置された発光手段の点灯時間ないし発光量より多くなるため、照射面全体の光強度分布(配光プロファイル)は、中央部だけ突出した正規分布状ではなく、メキシカンハット状に均一化、平坦化することができる。
【0015】
前記複数個の発光手段からの照射光を拡散させる光拡散板を備えることが好ましい。
【0016】
この構成により複数個の点光源状の発光手段を敷き詰めても、その上に治療光を拡散させる光拡散板を設けることで光照射面全体の光強度分布(配光プロファイル)をより均一化、平坦化できる。
【0017】
切替制御手段による時分割発光や、光拡散板によって、患部への過度の熱影響を伴わず高い治療効果が得られる治療光として照射面内のどの位置でも、例えば、ピーク光出力10W、ピーク光出力密度7W/cm、平均光出力1W、平均光出力密度0.7W/cmに均一化させることもできる。
【0018】
照射面における温度分布についても、放熱性の低い中央部の温度上昇を抑制できるので、発光手段の寿命も位置によるアンバランスが生じにくい。照射面内の部分発熱により患部へ熱傷を与えるリスクも回避される。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、治療光照射面における光強度分布や温度分布を均一化、平坦化することによって患部への熱傷リスクを伴わずにより高い治療効果が得られる。治療光はパルス駆動によって、より深部へ光を到達できる。治療光照射の粗密がなくなるため、こまめに照射位置をずらすことなく、より短時間で治療を行える。発光手段の寿命も位置によるアンバランスが生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1から図3を用いて説明する。
【0021】
図1は本発明の実施の形態における光線治療器のブロック図である。この光治療器1は、発光手段1、切替制御手段2、及び光拡散板3を備える。
【0022】
発光手段1は、830nmの超高輝度近赤外線発光ダイオード素子モジュールからなる。図2Aは、本実施の形態における発光手段1の配置を示した図である。発光手段1は、平面ないし曲面上に配置された多数のチップ状の近赤外発光ダイオード素子4からなる。図2Bで概念的に示すように、近赤外発光ダイオード素子4を配置した面はドーナツ状ないしは同心円状の領域に分割されており、個々の領域に属する複数の近赤外発光ダイオード素子4がそれぞれ発光手段1a〜1eを構成する。本実施の形態では、説明を簡単化するために、発光手段1は、1a〜1eまでの5個からなるとし、最も中央部に発光手段1cが配置され、この発光手段1cから周辺部に向けて、発光手段1d,1b,1e,1aが順に配置されている。代案としては、図2Bや図2Cに示すように、最も中央部に発光手段1c、発光手段1の周囲に発光手段1b,1d、発光手段1b,1dの周囲(最も周辺部側)に発光手段1a,1eを配置してもよい。以下の説明では、図2Bに示す同心円状の配置を採用しているものとする。
【0023】
切替制御手段2は、発光手段1a〜1eそれぞれを時分割に順次切り替えてパルス駆動する。
【0024】
光拡散板3は、樹脂製で非球面形状を有し、発光手段1a〜1eから照射された治療光の光強度分布(配光プロファイル)を成形する。光拡散板3はフレネルレンズ系を構成している。発光手段1と光拡散板3は一体化され、発光手段1から治療光は入射面3aより光拡散板3に入射して照射面3より治療部位へ照射される。光拡散板3の照射面3aは凹状の曲面をなしている。
【0025】
図3は、本発明の実施の形態1における発光手段1a〜1eの発光パターンを示すタイムチャートである。切替制御手段2から各発光手段1a〜1eへ供給される駆動信号のパルス幅は周辺部の発光手段1a,1eを長く、中央部の発光手段1cを短く設定している。具体的には、図2B、図3で示すように最も中央部側の発光手段1c、この発光手段1cの外側の発光手段1b,1d、これらの発光手段1b,1dの外側に位置する周辺部側の発光手段1a,1eの順でパルス幅が長くなる。また、駆動信号は発光手段1a〜1eのいずれかのみが発光するように(同時に発光するのは発光手段1a〜1eのうちのいずれか1つに含まれる近赤外発光ダイオード素子4のみとなるように)設定している。そのため、消費電流は1モジュール分だけで規定される。さらに、駆動信号は最も周辺部側の発光手段1a、最も周辺部から3番目(最も中央部側から3番目)の発光手段1b、最も中央部側の発光手段1c、最も中央部側から2番目(最も周辺部側から4番目)の発光手段1d、最も中央部側から
発光手段1e(最も中央部側から4番目)の順で発光を繰り返すように設定されている。
【0026】
発光手段1a〜1eの発光パターンは、周辺部と中心部の光強度分布が概略等しくなるようディーティ比が選択されている。これにより治療光の照射面からの光強度分布は、中央部だけが高かったり、各発光手段1の光軸上のみ突出するような分布ムラにはならず、図1の左側点線に示すような台形状となる。切替制御手段2による時分割発光や、光拡散板3によって、患部への過度の熱影響を伴わず高い治療効果が得られる治療光として照射面内のどの位置でも、例えば、ピーク光出力10W、ピーク光出力密度7W/cm、平均光出力1W、平均光出力密度0.7W/cmに均一化させることもできる。一般的に赤外線照射によって熱せられた最高温度から50%温度に戻るまでの表皮の熱緩和時間は3ms〜10ms、毛根は40ms〜100msであることが知られているため、各発光手段1の照射休止時間を100ms以上設けることで皮膚表面温度の上昇を防ぐことができる。
【0027】
また、中央部の発光時間を短くすることで、放熱しにくい中央部のみ温度上昇して発光手段1c及びその近傍の近赤外発光ダイオード素子4の低寿命化を招いたり、照射面の温度ムラによる患部への過度の熱影響のリスクも回避できる。パルス発光制御する発光手段1a〜1dを時分割に切り替えているので、平均消費電流は低く抑えられ、低消費電力化、装置の小型化を図ることができる。
【0028】
なお、図2Aでは、チップ状の近赤外発光ダイオード素子4を図面上縦横方向に等ピッチで配置したが、中央部は粗、周辺部は密に配置して、中央部の温度上昇を抑えるようにしてもよい。また、近赤外発光ダイオード素子4間に孔をあけるなどして、外気に触れやすくし、照射面中央部の温度上昇を抑えるために、自然放熱、または、強制的に放熱するようにしてもよい。この孔のピッチは、等間隔に設置する以外に、中央部は密に、周辺部は疎に配置してもよい。
【0029】
パルス発光は発光手段1a⇒発光手段1b⇒発光手段1c⇒発光手段1d⇒発光手段1e⇒発光手段1a⇒・・・の順に行われる。言い換えれば、発光手段1a〜1cのうち発光するものは周辺部側から中心部側へ切り替わり、続いて中心部側から周辺部側へ切り替わる。この発光パターンにより、発光に伴う蓄熱はより効率的に分散され、優れた放熱性が得られる。
【0030】
なお、発光手段1a、1b、1c・・の点灯の切換えタイミングは、それぞれの発光手段が順次切り替わって点灯することが好ましい。複数の発光手段の点灯時間が重なることなく、またいずれかの立ち下がりと別の発光手段の立ち上がりのタイミングが同時になるとノイズ発生の恐れがあることから同時にならないように設定することが好ましい。
【0031】
近赤外発光ダイオード素子4は、立ち上がり/立ち下がり応答性に優れる。また連続点灯動作時に比べ、パルス点灯させる場合の方が数倍以上の電流を流すことができるため、発光手段1として採用するのに好適である。また、近赤外発光ダイオード素子4半導体レーザ素子より安価であり、点照射ではなく面照射を容易に実現しやすい。よって疼痛部位が局在せず、広範囲にわたる疾患の場合に適している。
【0032】
近赤外発光ダイオード素子4の波長は中〜遠赤外線成分を含まず、光深達性に優れた830nmとしたので、皮膚表面が熱影響を受けにくい。
【0033】
本発明は前記実施形態に限定されず、例えば以下に列挙するような種々の変形ないし代案が考えられる。
【0034】
前記実施の形態では複数の複数の近赤外発光ダイオード素子4からなる各発光手段1a〜1eを一塊として取り扱ったが全素子を個別に制御してもよい。分割数は5領域には限らない。
【0035】
パルス発光制御は、ON時間とOFF時間のデューティ比ではなく、駆動電流で調整してもよい。
【0036】
個々の発光手段1a〜1eにおける近赤外発光ダイオード素子4の配置構成そのものを、中央部は隣接素子から離れた疎配列に、周辺部は隣接素子に近い密配列にしてもよい。
【0037】
光拡散板3の機能を各発光手段1の照射位置に設けてもよい。材質は樹脂でなくガラスでセルフォックレンズを構成してもよい。
【0038】
内部発熱を抑制するために、光拡散板3と患部間を密着させるのではなく一定距離を保つスペーサを設けてもよい。
【0039】
治療光の照射面形状は円形に限らず。四角でも多角形でも、平面でも曲面でもよい。
【0040】
光拡散板はフレキシブル性を持たせてもよい。完全に独立したモジュールからなる各発光手段1と切替制御手段2間を別々の接続コードでつなぎ、複数の治療部位に対し同時に照射する構成としてもよい。治療光照射面のモジュールをヒンジで連結し可動性を持たせてもよい。
【0041】
照射中であることを明示するため、発光手段1の中に可視の発光ダイオード素子を混在させたり、タイマーや報知音手段など安全機能を付加してもよい。
【0042】
発光手段1を操作するための、操作部または操作端末等で、どの近赤外発光ダイオード素子4を点灯させるかを個別に設定、あるいは近赤外発光ダイオード素子4の概略の配置図を備え、この配置図をタッチセンサー、あるいはスイッチと連動させることでON/OFFを設定してもよい。また、一方、現状の設定状態を操作部、操作端末等に表示するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように本発明にかかる光線治療器は治療光照射面における光強度分布や温度分布を均一化、平坦化することによって患部への熱傷リスクを伴わずにより高い治療効果が得られる。発光手段の寿命も配置によるアンバランスが生じにくく、近赤外線の治療光で炎症性疼痛を緩和する光線治療器として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の光線治療器の実施の形態1におけるブロック構成図。
【図2A】本発明の光線治療器の実施の形態1における発光手段1(近赤外線発光ダイオード素子4)の配置構成を示した図。
【図2B】同心円状の発光手段1の配置構成を示す概念図。
【図2C】発光手段1の配置構成の代案を示す模式図。
【図2D】発光手段1の配置構成の他の代案を示す模式図。
【図3】本発明の光線治療器の実施の形態1における発光手段1の発光パターンを示すタイムチャート。
【図4A】従来の光線治療器における発光源の構成を示した平面図。
【図4B】従来の光線治療器における発光源の構成を示した側面図。
【符号の説明】
【0045】
1,1a〜1e 発光手段
2 切替制御手段
3 光拡散板
4 近赤外線発光ダイオード素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面ないし曲面上に配置された複数個の発光手段と、
前記複数個の発光手段それぞれを時分割に切り替えパルス駆動し、配置された位置に応じて前記複数個の発光手段の点灯時間ないし発光量を制御する切替制御手段と
を備える光線治療器。
【請求項2】
前記切替制御手段は光照射面の周辺部に配置された発光手段の点灯時間ないし発光量を中心部に配置された発光手段の点灯時間ないし発光量より多くする請求項1に記載の光線治療器。
【請求項3】
前記複数個の発光手段からの照射光を拡散させる光拡散板を備える請求項1又は請求項2に記載の光線治療器。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2009−55969(P2009−55969A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223611(P2007−223611)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】