説明

光触媒体層付製品および光触媒体層付壁紙

【課題】酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子から構成される光触媒体層を非黒色系製品の表面に使用すると製品の表面である光触媒体層が青く着色するという問題があった。
【解決手段】本発明は、分散媒中に光触媒酸化チタン粒子と、光触媒酸化タングステン粒子とが分散され、鉄化合物が溶解されてなる光触媒体分散液を非黒色系製品の表面に塗布してなる光触媒体層付製品を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒体層付製品および光触媒体層付壁紙に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導体に励起され、価電子帯に正孔が生成する。このようにして生成した正孔は強い酸化力を有し、励起した電子は強い還元力を有することから、半導体に接触した物質に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用は光触媒作用と呼ばれており、かかる光触媒作用を示し得る半導体は光触媒体と呼ばれている。このような光触媒体としては、酸化チタン粒子や酸化タングステン粒子が挙げられ、それらを互いに接触させて使用することにより、光励起における相乗効果により、光触媒作用が向上することが知られている[特許文献1]。
【0003】
そこで酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とからなる光触媒体分散液を室内で使用される製品表面に塗布すると、室内の悪臭防止が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-265954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子から構成される光触媒体層を非黒色系製品の表面に使用すると製品の表面である光触媒体層が青く着色するという問題があった。この問題は、製品が壁紙の場合には特に意匠性を重視するため顕著な問題になった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、非黒色系製品の着色問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、分散媒中に光触媒酸化チタン粒子と、光触媒酸化タングステン粒子とが分散され、鉄化合物が溶解されてなる光触媒体分散液を非黒色系製品の表面に塗布してなる光触媒体層付製品を提供するものである。
【0008】
本発明は、前記光触媒層付製品であって、前記非黒色系製品が壁紙である光触媒体層付壁紙を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子とから構成される光触媒体層を非黒色系製品の表面に使用しているにもかかわらず、青く着色する問題が起こりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で得られた結果を示したデータである。
【図2】実施例2で得られた結果を示したデータである。
【図3】比較例1で得られた結果を示したデータである。
【図4】比較例2で得られた結果を示したデータである。
【図5】比較例3で得られた結果を示したデータである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(光触媒体層付製品)
本発明の光触媒体層付製品は、光触媒酸化チタン粒子と、光触媒酸化タングステン粒子とが分散され、鉄化合物が分散媒に溶解された光触媒体分散液を非黒色系製品の表面に塗布してなるものである。
【0012】
(光触媒体分散液)
本発明における光触媒体分散液は、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子とが分散され、鉄化合物が分散媒に溶解されたものをいう。その他にリン酸(塩)、電子吸引性物質またはその前駆体を含有することが好ましく、本発明の効果を損なわない範囲で各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0013】
(光触媒酸化チタン粒子)
本発明における光触媒体分散液を構成する光触媒酸化チタン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化チタンであれば特に制限はされないが、例えばメタチタン酸粒子または二酸化チタン(TiO)であって、結晶型がアナターゼ型、ブルッカイト型もしくはルチル型のものが用いられる。なお、光触媒酸化チタン粒子は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
メタチタン酸粒子は例えば、硫酸チタンの水溶液を加熱して加水分解させる方法により得ることができる。
【0015】
二酸化チタン粒子は、例えば(i)硫酸チタニルまたは塩化チタンの水溶液を加熱することなく、これに塩基を加えることにより沈殿物を得、得られた沈殿物を焼成する方法、(ii)チタンアルコキシドに酸性水溶液または塩基性水溶液を加えて沈殿物を得、得られた沈殿物を焼成する方法、(iii)メタチタン酸を焼成する方法によって得ることができる。これらの方法で得られる二酸化チタン粒子は、焼成する際の焼成温度や焼成時間を調整することにより、アナターゼ型、ブルッカイト型またはルチル型などの所望の結晶型にすることができる。
【0016】
本発明における光触媒体分散液を構成する光触媒体酸化チタン粒子としては、前記のほかにも、特開2001−72419号公報、特開2001−190953号公報、特開2001−316116号公報、特開2001−322816号公報、特開2002−29749号公報、特開2002−97019号公報、WO01/10552パンフレット、特開2001−212457公報、特開2002−239395号公報)、WO03/080244パンフレット、WO02/053501パンフレット、特開2007−69093号公報、Chemistry Letters, Vol.32, No.2, P.196-197(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.4, P.364-365(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.8, P.772-773(2003)、Chem. Mater., 17, P.1548-1552(2005)等に記載の酸化チタン粒子を用いてもよい。また、特開2001−278625号公報、特開2001−278626号公報、特開2001−278627号公報、特開2001−302241号公報、特開2001−335321号公報、特開2001−354422号公報、特開2002−29750号公報、特開2002−47012号公報、特開2002−60221号公報、特開2002−193618号公報、特開2002−249319号公報などに記載の方法により得られる酸化チタン粒子を用いることもできる。
【0017】
前記酸化チタン粒子の粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常20〜150nm、好ましくは40〜100nmである。
【0018】
前記酸化チタン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常100〜500m2/g、好ましくは300〜400m2/gである。
【0019】
(光触媒酸化タングステン粒子)
本発明における光触媒体分散液を構成する光触媒酸化タングステン粒子は光触媒作用を示す粒子状の酸化タングステンであって、タングステンの価数が6価であれば特に制限はされないが、例えば三酸化タングステン(WO)粒子が挙げられる。なお、光触媒酸化タングステン粒子は単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
三酸化タングステン粒子は、例えば、(i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、得られたタングステン酸を焼成する方法、(ii)メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法によって得ることができる。
前記酸化タングステン粒子の粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常50〜200nm、好ましくは80〜130nmである。
前記酸化タングステン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常5〜100m2/g、好ましくは20〜50m2/gである。
【0020】
(光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との比率)
光触媒体分散液において、前記光触媒酸化チタン粒子と前記光触媒酸化タングステン粒子との比率(光触媒酸化チタン粒子:光触媒酸化タングステン粒子)は、質量比で、通常1:4〜4:1、好ましくは2:3〜3:2である。
【0021】
(鉄化合物)
本発明における光触媒体分散液を構成する鉄化合物は、分散媒に溶解しうる鉄化合物であれば特に制限はされないが、例えば、硝酸鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硫酸鉄、シュウ酸鉄、クエン酸鉄、安息香酸鉄、酒石酸鉄、ステアリン酸鉄、炭酸鉄が挙げられる。なお、これらの化合物はそれぞれ単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
光触媒体分散液中の鉄化合物の含有量は、金属原子換算で光触媒酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計量100質量部に対して好ましくは0.08〜0.25質量部、より好ましくは0.1〜0.2質量部である。
【0022】
(分散媒)
本発明における光触媒体分散液を構成する分散媒は、含有量として光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子との合計量に対して、通常5〜200質量部、好ましくは10〜100質量部である。
本発明における光触媒体分散液を構成する分散媒は、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子とが分散でき、前記鉄化合物が溶解できれば特に制限はなく、通常、水を主成分とする水性媒体が用いられる。具体的には、水単独であってもよいし、水と水溶性有機溶媒とを混合した分散媒を用いる場合は、水の含有量が50質量%以上であることが好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの水溶性アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。なお、分散媒は、単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(リン酸(塩))
本発明における光触媒体は、光触媒酸化チタン粒子と光触媒タングステン粒子とをリン酸(塩)の存在下で分散媒中に分散したものが好ましい。
光触媒体分散液を構成するリン酸(塩)としては、リン酸、もしくはそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、リン酸やリン酸三アンモニウムでもよいが、好ましくは、リン酸二水素アンモニウムまたはリン酸水素二アンモニウム等のリン酸アンモニウム塩が好ましい。なお、リン酸(塩)は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
光触媒体分散液においては、前記リン酸(塩)の含有量は、前記光触媒酸化チタン粒子に対して、通常0.001〜0.2モル倍である。好ましくは、0.01〜0.1モル倍である。
【0024】
(電子吸引性物質またはその前駆体)
本発明における光触媒体分散液は、電子吸引性物質またはその前駆体をも含有することが好ましい。電子吸引性物質とは、光触媒体の表面に担持されて電子吸引性を発揮しうる化合物であり、電子吸引性物質の前駆体とは、光触媒体の表面で電子吸引性物質に遷移しうる化合物で、例えば、光照射により電子吸引性物質に還元されうる化合物である。電子吸引性物質が光触媒体の表面に担持されて存在すると、光の照射により伝導体に励起された電子と価電子帯に生成した正孔との再結合が抑制され、光触媒作用をより高めることができる。
前記電子吸引性物質またはその前駆体は、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoからなる群より選ばれる1種類以上の金属原子を含有してなるものであることが好ましい。より好ましくは、Cu、Pt、Au、およびPdのうち1種以上の金属原子を含有してなるものである。例えば、前記電子吸引性物質としては、前記金属原子からなる金属、もしくは、これらの金属の酸化物や水酸化物等が挙げられ、電子吸引性物質の前駆体としては、前記金属原子からなる金属の硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
電子吸引性物質の好ましい具体例としては、Cu、Pt、Au、Pd等の金属が挙げられる。また、電子吸引性物質の前駆体の好ましい具体例としては、Cuを含む前駆体として、硝酸銅〔Cu(NO3)2〕、硫酸銅〔CuSO4〕、塩化銅〔CuCl2、CuCl〕、臭化銅〔CuBr2、CuBr〕、沃化銅〔CuI〕、沃素酸銅〔CuI26〕、塩化アンモニウム銅〔Cu(NH4)2Cl4〕、オキシ塩化銅〔Cu2Cl(OH)3〕、酢酸銅〔CH3COOCu、(CH3COO)2Cu〕、蟻酸銅〔(HCOO)2Cu〕、炭酸銅〔CuCO3)、蓚酸銅〔CuC24〕、クエン酸銅〔Cu2647〕、リン酸銅〔CuPO4〕等が;Ptを含む前駆体として、塩化白金〔PtCl2、PtCl4〕、臭化白金〔PtBr2、PtBr4〕、沃化白金〔PtI2、PtI4〕、塩化白金カリウム〔K2(PtCl4)〕、ヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕、亜硫酸白金〔H3Pt(SO3)2OH〕、酸化白金〔PtO2〕、塩化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4Cl2〕、炭酸水素テトラアンミン白金〔C21446Pt〕、テトラアンミン白金リン酸水素〔Pt(NH3)4HPO4〕、水酸化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4(OH)2〕、硝酸テトラアンミン白金〔Pt(NO3)2(NH3)4〕、テトラアンミン白金テトラクロロ白金〔(Pt(NH3)4)(PtCl4)〕、ジニトロジアミン白金〔Pt(NO2)2(NH3)2〕等が;Auを含む前駆体として、塩化金〔AuCl〕、臭化金〔AuBr〕、沃化金〔AuI〕、水酸化金〔Au(OH)2〕、テトラクロロ金酸〔HAuCl4〕、テトラクロロ金酸カリウム〔KAuCl4〕、テトラブロモ金酸カリウム〔KAuBr4〕、酸化金〔Au23〕等が;Pdを含む前駆体として、例えば、酢酸パラジウム〔(CH3COO)2Pd〕、塩化パラジウム〔PdCl2〕、臭化パラジウム〔PdBr2〕、沃化パラジウム〔PdI2〕、水酸化パラジウム〔Pd(OH)2〕、硝酸パラジウム〔Pd(NO3)2〕、酸化パラジウム〔PdO〕、硫酸パラジウム〔PdSO4〕、テトラクロロパラジウム酸カリウム〔K2(PdCl4)〕、テトラブロモパラジウム酸カリウム〔K2(PdBr4)〕、テトラアンミンパラジウム硝酸塩〔Pd(NH(NO〕、テトラアンミンパラジウム塩化物〔Pd(NHCl〕、テトラアンミンパラジウム臭化物〔Pd(NHBr〕、テトラアンミンパラジウムテトラクロロパラジウム酸〔(Pd(NH)(PdCl)〕、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム〔(NHPdCl〕等が、それぞれ挙げられる。なお、電子吸引性物質またはその前駆体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、1種以上の電子吸引性物質と1種以上の前駆体とを併用してもよいことは勿論である。
前記電子吸引性物質またはその前駆体をも含有させる場合、その含有量は、金属原子換算で、酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子の合計量100質量部に対して、通常0.005〜0.6質量部、好ましくは0.01〜0.4質量部である。
【0025】
(添加剤)
本発明における光触媒体分散液は、各種添加剤を含んでいてもよい。
前記添加剤としては、例えば、光触媒作用を向上させる目的で添加されるものが挙げられる。このような光触媒作用向上効果を目的とした添加剤としては、具体的には、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、オルガノポリシロキサンなどの珪素化合物;非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物;ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩;アパタイト、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂;等が挙げられる。
さらに、前記添加剤としては、光触媒体分散液を基材表面に塗布した際に光触媒体(酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子)をより強固に基材の表面に保持させるためのバインダー等を用いることもできる(例えば、特開平8−67835号公報、特開平9−25437号公報、特開平10−183061号公報、特開平10−183062号公報、特開平10−168349号公報、特開平10−225658号公報、特開平11−1620号公報、特開平11−1661号公報、特開2004−059686号公報、特開2004−107381号公報、特開2004−256590号公報、特開2004−359902号公報、特開2005−113028号公報、特開2005−230661号公報、特開2007−161824号公報など参照)。
なお、添加剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
(光触媒体分散液の製造方法)
本発明における光触媒体分散液は、必要に応じてリン酸(塩)を溶解させた分散媒中に、光触媒酸化チタン粒子を分散させ、得られた光触媒酸化チタン粒子分散液と光触媒光触媒酸化タングステン粒子とを混合して得ることが光触媒体が凝集しにくく好ましい。
リン酸(塩)を溶解させた分散媒中に光触媒酸化チタン粒子を分散させて光触媒酸化チタン粒子分散液を得る際には、両者を混合した後、さらに分散処理を施すことが好ましい。分散処理には、例えば、媒体攪拌式分散機を用いるなどの方法を採用することができる。
【0027】
前記光触媒タングステン粒子は、そのまま前記光触媒酸化チタン粒子分散液に混合してもよいが、分散媒中に分散させて光触媒酸化タングステン粒子分散液とした後に前記光触媒酸化チタン粒子分散液と混合することが好ましい。光触媒酸化タングステン粒子を分散媒に分散させる際には、両者を混合した後さらに分散処理を施すことが好ましい。分散処理には例えば、前記の通り媒体攪拌式分散機を用いるなどの方法を採用することができる。
【0028】
なお、光触媒酸化チタン粒子分散液と光触媒酸化タングステン粒子分散液とを混合する場合、両分散液に用いる分散媒の種類は、混合後の分散媒が同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、両分散液における分散媒の使用量も最終的に得られる光触媒体分散液における分散媒の含有量が前記の通りであれば、特に限定されない。
【0029】
光触媒酸化チタン粒子分散液と光触媒酸化タングステン粒子分散液とを混合するに際しては、両者の使用量は光触媒酸化チタン粒子と光触媒タングステン粒子との比率が前記の範囲になるようにすればよい。
【0030】
鉄化合物は、そのまま、または、分散媒に溶解した状態で光触媒酸化チタン粒子分散液に添加してもよいし、光触媒酸化タングステン分散液に添加してもよいし、光触媒酸化チタン粒子分散液と光触媒酸化タングステン分散液とを混合した後に添加してもよい。また、次に述べる電子吸引性物質またはその前駆体を光触媒酸化チタン粒子分散液または光触媒酸化タングステン分散液に添加して光照射を行った後に添加してもよい。
【0031】
光触媒体分散液の製造方法としては、電子吸引性物質またはその前駆体を添加する工程を含むことが好ましい。ここで電子吸引性物質またはその前駆体の添加は、前記光触媒酸化チタン粒子分散液に対して行ってもよいし、前記光触媒酸化タングステン粒子分散液に対して行ってもよいし、前記光触媒酸化チタン粒子分散液と前記光触媒タングステン粒子分散液もしくは酸化タングステン粒子とを混合した後の分散液に対して行ってもよいが、高い光触媒活性を得る観点からは電子吸引性物質またはその前駆体は前記酸化タングステン粒子分散液に添加するのが好ましい。
【0032】
なお、電子吸引性物質またはその前駆体を添加する場合、その添加量は、最終的に得られる光触媒体分散液における電子吸引性物質またはその前駆体の含有量が前記範囲となるようにすればよい。
【0033】
前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、その添加後に光照射を行うことが好ましい。照射する光としては、特に制限はなく、可視光線でもよいし、紫外線でもよい。光照射を行うことにより、光励起によって生成した電子によって前駆体が還元されて電子吸引性物質となり、光触媒体粒子(酸化チタン粒子および酸化タングステン粒子)の表面に担持される。なお、前記前駆体を添加した場合に、たとえ光照射を行なわなくても、得られた光触媒体分散液により形成された光触媒体層に光が照射された時点で電子吸引性物質へ変換されることになるので、その光触媒能が損なわれることはない。
【0034】
前記光照射は、前記前駆体の添加後であれば、どの段階で行なってもよいが、好ましくは、酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子との混合前に行なうのがよい。
【0035】
また、前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、より効率よく電子吸引性物質を得る目的で、光照射の前に、本発明効果を損なわない範囲で、適宜、メタノールやエタノールや蓚酸等を加えることもできる。
【0036】
なお、本発明における光触媒体分散液の製造方法においては、各種添加剤を添加することもできる。その場合、それら添加剤の添加はどの段階で行なってもよいが、例えば、酸化チタン粒子分散液と酸化タングステン粒子分散液もしくは酸化タングステン粒子との混合後に行なうことが好ましい。
【0037】
(非黒色系製品)
本発明の光触媒体層付製品は前記光触媒体分散液を非黒色系製品の表面に塗布してなるものである。
本発明における非黒色系製品は、形成される光触媒体層が保持できる限り、特に制限はなく、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床等の建築資材、自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材等の自動車内装材、衣類やカーテン等の繊維製品が挙げられ、特に壁紙に好適に用いられる。
壁紙としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合体樹脂、エチレン−メチルメタクリレート共重合体樹脂、アクリル樹脂等を含むものが挙げられる。
ここで本発明における非黒色系とは、色相や彩度はいずれでもよく、国際照明委員会(Commission International de l'Eclairage)が定めるL***表示系での明度(L)が20以上の色彩を意味する。本発明において非黒色製品は前記明度が50以上であることが好ましく、また特に前記明度が80以上である白色系(淡色系)であることがさらに好ましい。
【0038】
(光触媒体層)
本発明の光触媒体層付製品は前記非黒色系製品の表面に前記分散液を塗布してなるものである。前記非黒色系製品の表面に光触媒体分散液を塗布することにより光触媒体層を形成する。塗布した後、通常は乾燥させる。塗布は、印刷法、シート形成法、スプレー吹き付け法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、バーコート法等で行うことができる。乾燥の条件としては、乾燥は、通常0.008〜0.12MPa、好ましくは0.009〜0.11MPaの圧力下で行われる。乾燥温度は、通常0〜120℃、好ましくは60〜100℃であり、乾燥時間は、通常1〜20分である。
光触媒体層の膜厚は、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜設定され、通常数百nm〜数mmである。
本発明の光触媒体層付製品は、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子から構成される光触媒体層を有するため、屋外においては勿論のこと、蛍光灯やナトリウムランプのような可視光源からの光しか受けない屋内環境においても、光照射によって高い光触媒作用を示し、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの揮発性有機物、アルデヒド類、メルカプタン類、アンモニアなどの悪臭物質、窒素酸化物の濃度を低減させ、さらには黄色ブドウ球菌や大腸菌の病原菌等を分解、除去することができる。その上で、光触媒体層が青く着色するという問題の発生が抑制される。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
なお、実施例および比較例における各物性の測定およびその光触媒活性の評価については、以下の方法で行った。
【0041】
<結晶型>
X線回折装置(リガク社製「RINT2000/PC」)を用いてX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから結晶型を決定した。
【0042】
<BET比表面積>
比表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製「モノソーブ」)を用いて窒素吸着法により測定した。
【0043】
<平均分散粒子径>
サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製「N4Plus」)を用いて粒度分布を測定し、この装置に付属のソフトにより自動的に単分散モード解析して得られた結果を、平均分散粒子径(nm)とした。
【0044】
<壁紙の着色評価>
明度(L)が94.8のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる壁紙(2.5cm×2.5cm)に、光触媒体分散液を約0.03g垂らして全面に広げ、室温・空気中にて乾燥後、さらに90℃で15分間乾燥した。得られた光触媒体塗布壁紙に、照度を10000ルクスに調整した白色蛍光灯〔照度計「T−10」(ミノルタ社製)で測定〕照射し、壁紙が青色に着色するかどうか観察した。
【0045】
<壁紙の着色評価>
色差計(商品名“Z−300A”、日本電色工業製)を用い、JIS Z−8729 1994に従って求めた。
【0046】
<光触媒活性の評価>
光触媒活性は、蛍光灯の光の照射下でのアセトアルデヒドの分解反応により評価した。
まず、光触媒活性測定用の試料を作製した。すなわち、ガラス製シャーレ(外径70mm、内径66mm、高さ14mm、容量約48mL)に、得られた光触媒体分散液を、底面の単位面積あたりの固形分換算の滴下量が1g/m2となるように滴下し、シャーレの底面全体に均一となるように展開した。次いで、このシャーレを110℃の乾燥機内で大気中1時間保持することにより乾燥させて、ガラス製シャーレの底面に光触媒体層を形成した。この光触媒体層に、紫外線強度が2mW/cm2となるようにブラックライトからの紫外線を16時間照射して、これを光触媒活性測定用試料とした。
【0047】
次に、この光触媒活性測定用試料をシャーレごとガスバッグ(内容積1L)の中に入れて密閉し、次いで、このガスバッグ内を真空にし、その後、酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガス600mLを封入した。さらに1%アセトアルデヒドを含む窒素ガス3mLを封入し、暗所で室温下、1時間保持した。その後、市販の白色蛍光灯を光源とし、測定サンプル近傍での照度が1000ルクス〔照度計「T−10」(ミノルタ社製)で測定〕になるようにガスバッグを設置し、アセトアルデヒドの分解反応を行った。測定サンプル近傍の紫外光の強度は6.5μW/cm2〔トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定〕であった。蛍光灯照射後よりガスバッグ内のガスを1.5時間毎にサンプリングして、アセトアルデヒドの残存濃度をガスクロマトグラフ(島津製作所社製「GC−14A」)にて測定し、照射時間をx軸とし、アセトアルデヒド濃度(体積比率)をy軸として図を作成した。
【0048】
(製造例1−酸化チタン粒子分散液の調製)
リン酸二水素アンモニウム(和光特級試薬)20.7gを水5.39kgに溶解させ、得られたリン酸二水素アンモニウム水溶液に、硫酸チタニルの加熱加水分解により得られたメタチタン酸の固形物(ケーキ)(TiO2として固形分濃度46.2質量%)1.49kgを混合した。このとき、リン酸二水素アンモニウムの量は、メタチタン酸1モルに対して0.02モルであった。得られた混合物を、媒体攪拌式分散機(コトブキ技研社製「ウルトラアペックスミル UAM−1」)を用いて下記の条件で分散処理して、酸化チタン粒子分散液を得た。
媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ
処理温度:20℃
処理時間:約76分
回転数:3430rpm
流量:0.25L/min
【0049】
得られた酸化チタン粒子分散液中の酸化チタン粒子の平均分散粒子径は96nmであった。なお、分散処理前の混合物と分散処理後の分散液との一部を真空乾燥して固形分を得、各固形分のX線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、どちらも結晶型はアナターゼ型であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。
【0050】
(製造例2−酸化タングステン粒子分散液の調製)
イオン交換水4kgに、粒子状の酸化タングステン粉末(日本無機化学製)1kgを加えて混合して混合物を得た。この混合物を、媒体攪拌式分散機(コトブキ技研社製「ウルトラアペックスミル UAM−1」)を用いて下記の条件で分散処理して、酸化タングステン粒子分散液を得た。
分散媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg
攪拌速度:周速12.6m/秒
流速:0.25L/分
合計処理時間:約50分
【0051】
得られた酸化タングステン粒子分散液における酸化タングステン粒子の平均分散粒子径は118nmであった。また、この分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、得られた固形分のBET比表面積は40m2/gであった。なお、分散処理の前の混合物についても同様に真空乾燥して固形分を得、分散処理前の混合物の固形分と分散処理後の分散液の固形分について、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、どちらも結晶型はWO3であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。この時点で、得られた分散液を20℃で3時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
【0052】
この酸化タングステン粒子分散液にヘキサクロロ白金酸(HPtCl)の水溶液をヘキサクロロ白金酸が白金原子換算で酸化タングステン粒子の使用量100質量部に対して0.12質量部(0.12質量%)になるように加え、原料分散液としてヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を得た。この分散液100質量部中に含まれる固形分(酸化タングステン粒子の量)は、10質量部(固形分濃度10質量%)であった。
【0053】
次いで、水中殺菌灯[三共電気製「GLD15MQ」]を設置したガラス管(内径37mm、高さ360mm)からなる光照射装置で前記ヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液500gを毎分1Lの速度で循環させながら、ヘキサクロロ白金三含有酸化タングステン粒子分散液に光(紫外線)を1時間照射し、更にメタノールをその濃度が全溶媒の1.1質量%となるように加えて、循環させながら光(紫外線)を1時間照射して、白金含有酸化タングステン粒子分散液を得た。
【0054】
(実施例1)
製造例1で得た酸化チタン粒子分散液と、製造例2で得た白金含有酸化タングステン粒子分散液を、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との比率が1:1(質量比)となるように混合して(これにより、分散液中の白金の含有量は、白金原子換算で、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計使用量100質量部に対して0.06質量部(0.06質量%)となった)、酸化チタン粒子分散液と白金含有酸化タングステン粒子分散液の混合物を得た。次に、この混合物に鉄の濃度が1.05質量%の硝酸鉄(Fe(NO33)水溶液を、鉄の含有量が酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子の合計量100質量部に対して、0.12質量部(0.12質量%)となるように添加し、さらに混合物100質量部中に含まれる固形分(酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子)が5質量部(5質量%)となるように、水で濃度を調整して光触媒体分散液を得た。得られた光触媒体分散液を20℃で24時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
【0055】
この光触媒体分散液を壁紙に塗布し、白色蛍光灯を照射したところ、24時間経過しても壁紙は着色しなかった。また、光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、図1の結果となった。
【0056】
(実施例2)
鉄の含有量を、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計使用量100質量部に対して0.18質量部(0.18質量%)とした他は、実施例1と同じ方法で鉄含有光触媒分散液を得た。得られた光触媒体分散液を20℃で24時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。この光触媒体分散液を壁紙に塗布し、白色蛍光灯を照射したところ、24時間経過しても壁紙は着色しなかった。また、光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、図2の結果となった。
【0057】
(比較例1)
硝酸鉄水溶液を加えない以外は実施例1と同じ方法で、光触媒分散液を得た。得られた光触媒体分散液を20℃で24時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。この光触媒体分散液を壁紙に塗布し、白色蛍光灯を照射したところ、10分で壁紙は青色に変色した。また、光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、図3の結果となった。
【0058】
(比較例2)
鉄の含有量を、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計使用量100質量部に対して0.06質量部(0.06質量%)とした他は、実施例1と同じ方法で鉄含有光触媒分散液を得た。得られた光触媒体分散液を20℃で24時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。この光触媒体分散液を壁紙に塗布し、白色蛍光灯を照射したところ、1時間で壁紙は青色に変色した。また、光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、図4の結果となった。
【0059】
(比較例3)
鉄の含有量を、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計使用量100質量部に対して0.30質量部(0.30質量%)とした他は、実施例1と同じ方法で鉄含有光触媒分散液を得た。得られた光触媒体分散液を20℃で24時間保管したところ、保管中に固液分離が見られた。この光触媒体分散液を壁紙に塗布し、白色蛍光灯を照射したところ、24時間経過しても壁紙は着色しなかった。また、光触媒体分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、図5の結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒中に光触媒酸化チタン粒子と、
光触媒酸化タングステン粒子とが分散され、
鉄化合物が溶解されてなる光触媒体分散液を非黒色系製品の表面に塗布してなる光触媒体層付製品。
【請求項2】
前記鉄化合物の鉄原子換算の含有量が前記光触媒酸化チタン粒子のチタン原子換算含有量と前記光触媒タングステン粒子のタングステン原子換算の含有量の合計量100質量部に対して0.08〜0.25質量部である請求項1に記載の光触媒体層付製品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光触媒層付製品であって、前記非黒色系製品が壁紙である光触媒体層付壁紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−214234(P2010−214234A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60942(P2009−60942)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】