説明

光触媒分散体およびその製造方法

【課題】 菌体やカビ等の発生および増殖を抑制して長時間にわたり良好な保存安定性を保持する光触媒分散体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の光触媒分散体は、平均粒子径1000nm以下の光触媒粒子および水系溶媒を含む分散体であって、安息香酸および/またはp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)を含有し、pHが3〜6である。本発明の光触媒分散体の製造方法は、光触媒粒子と少なくともカルボン酸類を含有する水系溶媒とを混合してpH3以下の混合物を得、この混合物のpHをアルカリ溶液を用いてpH3〜6に調整するにあたり、安息香酸および/またはp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)を前記アルカリ溶液に溶解させておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒活性を示す塗膜の形成に有用な光触媒分散体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体に紫外線を照射すると強い還元作用を持つ電子と強い酸化作用を持つ正孔が生成し、半導体に接触した分子種を酸化還元作用により分解する。このような作用を光触媒作用と呼び、この光触媒作用を利用することによって水や大気中の有機物等の分解・無害化することができる。したがって、光触媒作用を示す物質すなわち光触媒は、近年、例えば、水処理、脱臭、排ガス処理、大気浄化、土壌処理、抗菌・抗カビ、防藻、防汚、防曇、防結露、防滴、防氷結など、様々な用途に普及し始めている。
【0003】
光触媒作用を示す物質すなわち光触媒としては、例えば酸化チタンが最も汎用的であり、酸化チタンからなる光触媒粉末や光触媒分散体が市販されている。これらのうち光触媒分散体は、保存容器内で光触媒機能を発現させないために金属容器や遮光ポリ容器で長時間保存する場合が多い。また、媒体中に有機物を含む場合に菌体やカビ等が発生・増殖しやすいため、保存中に、異臭が生じたり、平均粒子径の増大やpH上昇を招いたりして、光触媒分散体の性状が変化してしまうことがある。このような問題は、とりわけpH3〜6程度の光触媒分散体に顕著に起こりやすかった。
【0004】
そこで、従来、光触媒分散体中の菌体やカビ等の発生・増殖を抑制して保存安定性を向上させる技術として、防腐剤を添加する方法が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−89706号公報
【特許文献2】特開2003−261330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2で開示された技術もそうであるように、従来、防腐剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、フェノール類、アジ化ナトリウム、銅イオン化合物などが汎用されていた。しかしながら、これら従来の防腐剤は、毒性が強かったり臭気や着色を招きやすいなどの問題を有しており、必然的に使用量が限られる場合が多く、防腐効果が充分に得られないことがあった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、菌体やカビ等の発生および増殖を抑制して長時間にわたり良好な保存安定性を保持しうる光触媒分散体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、安息香酸および/またはp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)がpH3〜6の光触媒分散体において非常に優れた防腐効果を発揮し、該化合物を分散体中に含有させることによって長期間にわたり良好な保存安定性を保持させることが可能になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)平均粒子径1000nm以下の光触媒粒子および水系溶媒を含む分散体であって、安息香酸および/またはp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)を含有し、pHが3〜6である、ことを特徴とする光触媒分散体。
(2)安息香酸およびp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)以外のカルボン酸類をも含有する、前記(1)記載の光触媒分散体。
(3)前記カルボン酸類が蓚酸またはその塩である、前記(2)記載の光触媒分散体。
(4)光触媒粒子が酸化チタンである、前記(1)〜(3)記載の光触媒分散体。
(5)光触媒粒子と少なくともカルボン酸類を含有する水系溶媒とを混合してpH3以下の混合物を得、この混合物のpHをアルカリ溶液を用いてpH3〜6に調整するにあたり、安息香酸および/またはp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)を前記アルカリ溶液に溶解させておく、ことを特徴とする光触媒分散体の製造方法。
(6)前記カルボン酸類が蓚酸またはその塩である、前記(5)記載の光触媒分散体の製造方法。
(7)光触媒粒子が酸化チタンである、前記(5)または(6)記載の光触媒分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、菌体やカビ等の発生および増殖を抑制して長時間にわたり良好な保存安定性を保持しうる光触媒分散体を容易に提供することができる、という効果がある。そして、その結果、本発明の光触媒分散体は、例えば繊維材料、建築材料、自動車材料等の各種材料に光触媒体を塗布することを容易にし、これらの材料に高い光触媒活性を付与することを可能とするのである。本発明の光触媒分散体により光触媒活性が付与された各種材料は、大気中のNOxを分解したり、居住空間や作業空間での悪臭物質(例えば、煙草臭)を分解したり、細菌(例えば、放射菌)、藻類、黴類等の増殖を抑制したりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[光触媒分散体]
本発明の光触媒分散体(以下「本発明の分散体」と称することもある)は、光触媒粒子および水系溶媒を含むものである。
本発明における光触媒粒子は、光触媒活性を示す成分を含む粉末であればよく、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceのような金属元素の1種または2種以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などを成分とする粉末が挙げられる。これらの中でも特に、本発明における光触媒粒子としては酸化チタンが好ましい。さらに詳しくは、酸化チタンにはアナターゼ型とルチル型とがあるが、光触媒活性の点ではアナターゼ型酸化チタンが好ましい。アナターゼ型酸化チタンの場合、そのアナターゼ化率は40%以上であるのが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上であるのがよい。なお、このときのアナターゼ化率は、X線回折法により回折スペクトルを測定し、このスペクトルにある酸化チタンの最強干渉線(面指数101)のピーク面積を求めることにより算出することができる。
【0012】
光触媒粒子として用いられる酸化チタンは、例えば、チタン化合物と塩基とを反応させ、生成物にアンモニアを添加して熟成した後、固液分離し、次いで固形分を焼成する方法(以下、この方法を「酸化チタン調製方法A」と称することもある)などで調製することができる。以下、この酸化チタン調製方法Aについて述べるが、本発明における光触媒粒子は、勿論この調製方法によって得られたものに限定されるわけではない。
【0013】
酸化チタン調製方法Aにおいては、チタン化合物として、例えば、三塩化チタン〔TiCl3〕、四塩化チタン〔TiCl4〕、硫酸チタン〔Ti(SO42・mH2O、0≦m≦20〕、オキシ硫酸チタン〔TiOSO4・nH2O、0≦n≦20〕、オキシ塩化チタン〔TiOCl2〕等を用い、チタン化合物と反応させる塩基として、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、モノエタノールアミン、非環式アミン化合物、環式脂肪族アミン化合物等を用いることができる。
【0014】
酸化チタン調製方法Aにおいて、チタン化合物と塩基との反応は、pH2以上、好ましくはpH3以上であり、pH7以下、好ましくはpH5以下の範囲で行うのがよい。チタン化合物と塩基との反応の温度は、通常90℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは55℃以下とするのがよい。また、チタン化合物と塩基との反応は、過酸化水素水存在下で行うこともできる。
【0015】
酸化チタン調製方法Aにおいて、チタン化合物と塩基との反応で得られた生成物にアンモニアを添加して熟成するに際し、添加するアンモニアの量は、前記反応の際に用いた塩基の量をも加えた合計量が、水存在下でチタン化合物を水酸化チタンに変えるのに必要となる塩基の化学量論量を超えることとなるよう設定することが好ましい。具体的には、前記化学量論量を基準に1.1モル倍以上が好ましく、より好ましくは1.5モル倍以上がよい。なお、このときの上限は、塩基の量があまりに多くても量に見合った効果は得られず経済的に不利になるだけなので、前記化学量論量を基準に20モル倍以下が好ましく、より好ましくは10モル倍以下がよい。
【0016】
酸化チタン調製方法Aにおいて、アンモニアを添加した生成物の熟成は、例えば、0℃以上、好ましくは10℃以上であり、110℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは55℃以下である範囲内の温度で、1分〜10時間、好ましくは10分〜2時間、攪拌しながら保持する方法で行うことができる。
【0017】
酸化チタン調製方法Aにおいて、熟成された生成物の固液分離は、例えば、加圧濾過、減圧濾過、遠心分離、デカンテーションなどで行うことができる。また、固液分離では、得られた固形分を洗浄する操作をあわせて行うことが好ましい。
【0018】
酸化チタン調製方法Aにおいて、固液分離された固形分または任意の洗浄を行った固形分の焼成は、例えば、気流焼成炉、トンネル炉、回転炉などの装置を用いて、通常300℃以上、好ましくは350℃以上であり、600℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは400℃以下である範囲内の温度で行うことができる。焼成時間は、焼成温度や焼成装置等に応じて決定すればよく、一義的ではないが、通常10分〜30時間、好ましくは30分〜5時間とするのがよい。
【0019】
酸化チタン調製方法Aにおいては、焼成して得られた酸化チタンに、必要に応じて、タングステン酸化物、ニオブ酸化物、鉄酸化物、ニッケル酸化物のような固体酸性を示す化合物や、ランタン酸化物、セリウム酸化物のような固体塩基性を示す化合物や、インジウム酸化物、ビスマス酸化物のような可視光線を吸収する金属化合物等を担持させてもよい。
【0020】
本発明における光触媒粒子は、波長約430nm〜約830nmの光照射に対して光触媒活性を示すものであることが好ましい。具体的には、密閉式容器内に粉末状の光触媒とアセトアルデヒドを入れ、密閉した後、光触媒粒子から約15cm離れた位置にある光源(例えば500Wキセノンランプ)により波長約430nm〜約830nmの光を照射したとき、アセトアルデヒドの20分間(照射開始から20分後まで)の平均分解速度が、光触媒粒子1gあたり10μmol/h以上であるものが好ましく、20μmol/h以上であるものがより好ましい。
【0021】
本発明の分散体における光触媒粒子は、平均粒子径が1000nm以下であることが重要である。光触媒粒子の平均粒子径が1000nmを超えると、分散体中で粒子の沈降が起こりやすくなる。また、光触媒粒子の平均粒子径の下限については、特に制限はないが、あまりに小さすぎると粒子の作製が困難になるので、通常、10nm以上であるのが好ましい。より好ましくは、光触媒粒子の平均粒子径は40〜200nmであるのがよい。
【0022】
本発明の分散体中に占める光触媒粒子の含有量は、用途に応じて適宜設定すればよく特に制限されないが、通常、下限は0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、上限は30重量%以下になるように設定される。なお、光触媒粒子の含有量(すなわち分散体中の粉末の量)が多くなるほど、後述する混合(特に初期混合)を効率的に行うことができる。このことを考慮して、仕込み時には光触媒粒子の含有量が所定量よりも多くなるような設定にしておき、後工程で溶媒を添加して希釈することにより所望の含有量となるようにすることもできる。
【0023】
本発明における水系溶媒としては、好ましくは水が挙げられるが、例えば、水を主成分とし、過酸化水素水のような水性媒体や、エタノール、メタノール、2−プロパノール、ブタノールのようなアルコール性媒体等を一部に含有する混合溶媒であってもよい。
【0024】
本発明の分散体は、安息香酸および/またはp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)(以下「特定安息香酸類」と称することもある)を含有するものである。ここで、p−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステルの具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸iso−プロピル等が挙げられる。特定安息香酸類としては、安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−プロピルが好ましく、これらの中でも、安息香酸が特に好ましい。前述した特定安息香酸類は防腐効果を有するものであり、これを含有することにより、長期間にわたり良好な保存安定性を保持することができるのである。また、前述した特定安息香酸類を用いて防腐を図ることは、次亜塩素酸ナトリウム、フェノール類、アジ化ナトリウム、銅イオン化合物など従来の防腐剤を用いた場合と比べ、人体に影響がなく、無臭で、着色がないという利点がある。
【0025】
前述した特定安息香酸類の含有量は、特に制限されないが、光触媒分散体中200〜400ppmの範囲内であることが好ましい。特定安息香酸類の含有量が光触媒分散体中200ppm未満であると、防腐効果が不充分となり、所望の保存安定性が得られにくくなる傾向がある。一方、特定安息香酸類の含有量が光触媒分散体中400ppmを超えると、初期の光触媒活性が低下する傾向がある。つまり、前述した特定安息香酸類はいずれも有機物であるので、光触媒分散体を基材等に塗布して塗膜とした後、光の照射を受けると、光触媒作用により二酸化炭素と水に分解されることになる。光触媒分散体により塗膜が形成された初期には、本来分解されるべき有機物(例えば、大気中のNOxや悪臭物質など)よりも、塗膜中の特定安息香酸類の分解が先に起こり易くなり、そのため、初期には期待するだけの光触媒作用が得られないという問題が生じるのである。但し、塗膜中の特定安息香酸類が全て分解されてしまえば分解される有機物がなくなるので、一定期間が過ぎれば活性は向上することになる。
【0026】
本発明の分散体は、安息香酸およびp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)以外のカルボン酸類(以下「特定カルボン酸類」と称することもある)をも含有することが好ましい。このようなカルボン酸類は分散安定性を向上させる効果を有するのであり、これを含有することにより、光触媒粒子を水系溶媒中に分散させ易くなり、分散安定性が向上することになる。好ましくは、前記特定カルボン酸類は蓚酸またはその塩であるのがよい。より具体的には、前記蓚酸またはその塩は、蓚酸、蓚酸アンモニウム、蓚酸水素アンモニウム、蓚酸リチウム、蓚酸水素リチウム、蓚酸ナトリウム、蓚酸水素ナトリウム、蓚酸カリウム、蓚酸水素カリウム、蓚酸マグネシウム、蓚酸カルシウム、蓚酸ストロンチウムおよび蓚酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0027】
前述した特定カルボン酸類の含有量は、特に制限されないが、光触媒粒子1モルに対して0.005〜5モルであることが好ましい。特定カルボン酸類の含有量が光触媒粒子1モルに対して0.005モル未満であると、充分に分散安定性の向上効果が得られない恐れがあり、一方、5モルを超えると、分散体中の有機物が多くなるため、初期の光触媒活性が低下して、大気中の悪臭成分などに対する光触媒作用を発揮するまでに時間を要する恐れがある。
【0028】
本発明の分散体は、pHが3〜6である。より好ましくはpHが4〜5であるのがよい。本発明の分散体は、このように弱酸性領域のpHを有するので、光触媒粒子が良好な分散安定性で水系溶媒中に分散されやすいという利点がある。
【0029】
本発明の分散体には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、各種添加剤を含有させることができる。各種添加剤としては、例えば、非晶質シリカ、シリカゾルのような珪素酸化物、非晶質アルミナ、アルミナゾルのようなアルミニウム(水)酸化物、ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムおよび水酸化バリウムのようなアルカリ土類金属(水)酸化物、リン酸カルシウム、モレキュラーシーブまたは活性炭、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、LaまたはCeのような金属元素の水酸化物またはこれらの金属元素の非晶質酸化物などが挙げられる。これら添加物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0030】
本発明の光触媒分散体は、後述する本発明の光触媒分散体の製造方法によって容易に得ることができる。勿論、本発明の光触媒分散体は、後述の方法によって得られたものに限定されるわけではなく、例えば、光触媒粒子、特定安息香酸類、特定カルボン酸類など本発明の分散体に含まれる各成分を、本発明の製造方法とは異なる順序で混合するなどして本発明の分散体を得ることもできる。
【0031】
本発明の光触媒分散体を保管する際には、光が当たらない条件下で保管することが好ましく、例えば、暗室内に保管するか、もしくは、紫外線および可視光線の透過率が各々10%以下の遮光性容器に入れて保管することが好ましい。
本発明の光触媒分散体を用いて塗膜を形成するに際しては、例えば、スピンコート、ディップコート、ドクターブレード、スプレーまたはハケ塗りなど従来公知の方法により分散体を塗布し、その後、分散体中の水系溶媒を除去しうる温度で加熱する等すればよい。本発明の光触媒分散体による塗膜形成は、例えば、硝子、プラスチック、金属、陶磁器、コンクリートなど、あらゆる基材に対して行なうことができる。
【0032】
本発明の光触媒分散体により形成された塗膜(すなわち光触媒体)は、例えば、以下のようにして使用される。すなわち、可視光線を透過するガラス容器内に光触媒体と被処理物とを入れ、光源を用いて光触媒体に波長430nm以上である可視光線を照射する方法等が挙げられる。照射時間は、光源の光線強度および被処理物の種類や量により適宜選択すればよい。用いる光源は、波長が430nm以上である可視光線を照射できるものであれば制限されるものではなく、太陽光線、蛍光灯、ハロゲンランプ、ブラックライト、キセノンランプ、ネオンサイン、LED、水銀灯またはナトリウムランプ等が適用できる。
【0033】
本発明の光触媒分散体は、例えば繊維材料、建築材料、自動車材料等の各種材料に光触媒体を形成することを容易にし、これらの材料に高い光触媒活性を付与することを可能とする。本発明の光触媒分散体により光触媒活性が付与された各種材料は、大気中のNOxを分解したり、居住空間や作業空間での悪臭物質(例えば、煙草臭)を分解したり、細菌(例えば、放射菌)、藻類、黴類等の増殖を抑制したりすることができる。
【0034】
[光触媒分散体の製造方法]
本発明の光触媒分散体の製造方法(以下「本発明の製造方法」と称することもある)は、光触媒粒子と水系溶媒とを混合する混合工程と、該工程で得られた混合物のpHを調整するpH調整工程とを含むものである。
【0035】
前記混合工程では、光触媒粒子と、少なくともカルボン酸類を含有する水系溶媒とを混合し、pH3以下の混合物を得る。光触媒粒子については[光触媒分散体]の項で前述した通りであり、酸化チタンであることが好ましい(ただし、平均粒子径については最終的に分散体となった時点で1000nm以下であればよく、混合に供する時点では特に制限はされない。)。水系溶媒については[光触媒分散体]の項で前述した通りである。カルボン酸類は、安息香酸およびp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)以外のカルボン酸であり、[光触媒分散体]の項で前述した特定カルボン酸類と同様である(蓚酸またはその塩が好ましいこと、およびその具体例も同様である。)。このカルボン酸類を添加することにより、該混合工程で得られる混合物のpHは3以下となり、光触媒粒子が分散しやすく分散安定性の向上を図ることができるようになる。なお、光触媒粒子、水系溶媒およびカルボン酸類の各使用量は、それぞれ、[光触媒分散体]の項で前述した含有量となるように設定すればよい。
【0036】
前記混合に際しては、水系溶媒中に光触媒粒子を分散させることが可能な装置を用いればよく、例えば、媒体攪拌式分散機、転動ボールミル、振動ボールミルのような装置を採用することができる。これらの中でも特に媒体攪拌式分散機の適用が推奨される。また、これらの装置における媒体としては、例えば、材質がジルコニア、アルミナまたはガラスであり、直径が0.65mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下のビーズなどを用いればよい。
【0037】
前記混合は、2段階以上に分けて行ってもよく、例えば、1段目では、直径が相対的に大きい媒体を入れた装置を用い、2段目以降では、直径が順次小さいものを入れた装置を用いて行うことができる。このように混合を多段階で行うことにより、効率的に光触媒粒子を水系溶媒中に分散させることができ、光触媒粒子が均一に分散した分散体が得られることとなる。
前記混合は、90℃未満、好ましくは80℃以下、より好ましくは65℃以下であり、10℃以上、好ましくは20℃以上である範囲内の温度で行うのがよい。
【0038】
前記pH調整工程では、混合工程で得られたpH3以下の混合物を、アルカリ溶液を用いてpH3〜6に調整する。本発明の製造方法においては、このとき、安息香酸および/またはp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)(すなわち、[光触媒分散体]の項で前述した特定安息香酸類)を前記アルカリ溶液に溶解させておくことが重要である。
【0039】
例えば、光触媒粒子とカルボン酸類を含む水系溶媒とを混合する際に、特定安息香酸類を一緒に添加、混合することもできるが、特定安息香酸類は水に溶解しにくい上に、光触媒粒子と水系溶媒との混合物は懸濁しているため、特定安息香酸類が確実に溶解したかどうかを判断しにくいという問題が生じる。これに対し、本発明の製造方法のように、pH調整に用いるアルカリ溶液に特定安息香酸類を添加しておくと、特定安息香酸類は容易に溶解して均一な溶液となり、また該特定安息香酸類が溶解したかどうかも容易に判断できるという利点が得られるのである。
【0040】
また、光触媒粒子、水系溶媒、カルボン酸類および特定安息香酸類の全てを一括して混合することとし、かつ、カルボン酸類としてカルボン酸アンモニウム等の塩を用いるようにした場合、本発明の製造方法のようにアルカリ溶液によるpH調整工程を行なうことなく、混合工程において直接pH5程度の混合物を得ることが可能になる。しかし、このように混合する際のpHが中性に近い値であると、カルボン酸類による分散安定性向上効果が低減されることになり、例えば、同じ粒子径まで分散させるのに本発明の製造方法の場合に比べ2倍以上の時間を要する等といった不都合を生じる。したがって、本発明の製造方法においては、混合はpH3以下で行い、混合後にアルカリ溶液でpH3〜6に調整するのである。
【0041】
前記pH調整の際に用いられるアルカリ溶液としては、特に制限はないが、通常、アンモニア水等が好ましく用いられる。アルカリ溶液の濃度は、目標とするpH、溶解させる特定安息香酸類の量など諸条件に応じて設定すればよく、一義的ではないが、例えばアンモニア水の場合通常1重量%程度が好ましい。
【0042】
前記アルカリ溶液に特定安息香酸類を溶解させるに際し、特定安息香酸類の添加量は、pH調整が完了した時点で最終的な分散体中の特定安息香酸類含有量が[光触媒分散体]の項で前述した範囲内となるように、目標とするpH、アルカリ溶液の濃度、pH調整で添加するアルカリ溶液の量など諸条件を考慮して設定すればよい。
【0043】
本発明の製造方法おいては、さらに必要に応じて、粗大粒子の除去、光触媒粒子含有量の調整(希釈等)などの操作を施すことができる。これら操作の具体的手法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用すればよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における平均粒子径、pH、菌体数の測定および光触媒活性の評価は以下の方法で行った。
【0045】
<平均粒子径の測定>
サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製「N4Puls」)を用いて、試料の平均粒子径(nm)を測定した。
<pHの測定>
pH電極(堀場製作所製「9669−10D」)およびpHカウントメーター(堀場製作所製)を用いて、試料のpHを測定した。pH標準溶液としては、フタル酸塩標準液pH4.01、中性りん酸塩標準液pH6.86、ほう酸塩標準液pH9.18を用いた。
【0046】
<菌体数(相対発光量)の測定>
ルシフェールHSセットおよびルミテスター(キッコーマン社製)を用いて、試料の菌体数と良好な相関関係のある相対発光量(RLU:Relative Light Unit)を測定し、相対発光量の増減で菌体数の増減を判断した。すなわち、ルシフェールHSセット測定専用のルミチューブに試料とする分散体の100倍希釈液1.0mLをルミチューブに採取し、このルミチューブに0.1mLのATP抽出試薬を添加した。2分後に0.1mLの発光試薬を添加して攪拌した後、10秒以内にルミテスターにて相対発光量を測定した。なお、ルミテスターによる相対発光量測定は、得られる測定値にかなりバラつきがあるが(例えば数百程度の誤差は通常である)、この測定は菌体数の挙動(増減)を大まかに調べるためのものであり、具体的には、得られる測定値の桁数の増減を目安に菌対数増減を判断するといったものである。ちなみに、例えばモデル菌の場合で、相対発光量が1000RLUである時には1mLあたり10万個の菌体が存在することになる。
【0047】
<光触媒活性(アセトアルデヒド分解能)の評価>
外径70mm、内径66mm、高さ14mm、容量約48mLのガラス製シャーレ容器内に固形分で1.75±0.10g/m2となるように試料とする光触媒分散体を滴下し、シャーレ全体に均一にいきわたるように展開した。これを110℃の乾燥機で1時間乾燥させて、光触媒膜(酸化チタン膜)を形成し、得られた光触媒膜付きシャーレを測定サンプルとして用いた。
【0048】
1Lガスバッグに測定サンプルとして上記の光触媒膜付きシャーレを入れて密閉し、ガスバッグ内を真空にした後、酸素と窒素の混合ガス(酸素:窒素=1:4(体積比))を600mL封入した。このガスバックの中にさらにアセトアルデヒド6mL(100ppm相当量)を封入し、暗所で1時間安定化させた後、市販の蛍光灯を光源として光照射を開始してアセトアルデヒドの分解反応を行った。光照射は、測定サンプルの膜表面の照度が16000ルクスになるようにシャーレを設置して行った。光照射を開始してから1.5時間毎にガスバッグ内のガスをサンプリングし、アセトアルデヒドの残存濃度をガスクロマトグラフ(島津製作所製「GC−14A」)にて測定した。そして、照射時間に対し、照射時間毎のアセトアルデヒドの濃度減少を対数軸にプロットし、得られた直線の傾きを一次反応速度定数として求め、この値を以ってアセトアルデヒド分解能を評価した。一次反応速度定数が大きいほど、アセトアルデヒド分解能は優れ、光触媒活性が高いと言える。
【0049】
(製造例−光触媒合成)
pH電極と、該pH電極に接続され、25重量%アンモニア水を供給してpHを一定に調整する機構を有するpHコントローラーとを備えた反応容器に、イオン交換水30kgを入れ、pHコントローラーのpH設定値を4とした。この反応容器では、容器内の液のpHが設定値(4)より低くなるとアンモニア水が供給されはじめ、pHが設定値になるまで連続供給されることになる。
【0050】
オキシ硫酸チタン75kgをイオン交換水50kgに溶解させることにより調製したオキシ硫酸チタン水溶液に、冷却下で35%過酸化水素水30kgを添加して、混合溶液とした。この混合溶液を、イオン交換水が入った前述の反応容器に、42rpmで攪拌しながら530mL/分の速度で添加し、pHコントローラーにより反応容器に供給されるアンモニア水と反応させて、生成物を得た。このとき、反応温度は20℃〜30℃の範囲であった。混合溶液を全て添加した後、得られた生成物を攪拌しながら1時間保持し、次いで、pHが4となるまで25重量%アンモニア水を供給してスラリーを得、得られたスラリーを濾過した後リンス洗浄して、固形物(ケーキ)を得た。反応容器に供給された25重量%アンモニア水の合計量は90kgであり、オキシ硫酸チタンを水酸化チタンに変えるために必要な量の2倍であった。
【0051】
次に、上記で得られた固形物(ケーキ)2.3kgを30cm×40cmのステンレス製バット12枚に分け入れた。このバット12枚を箱型乾燥機(旭科学製「スーパーテンプオーブン HP−60」、内容積:216L)に入れ、40m3/時間で乾燥空気を流通させ、115℃で5時間保持した後、続けて250℃で5時間乾燥を行ない、BET表面積18.0m2/gの乾燥粉末を得た。このときの乾燥機内最大水蒸気分圧は27.4kPaであった。次いで、得られた乾燥粉末を空気雰囲気下350℃で2時間焼成した後、室温まで冷却して、光触媒である酸化チタン粉末を得た。
【0052】
(実施例1)
イオン交換水20kgに蓚酸(和光純薬製、特級試薬)946gを溶解して蓚酸水溶液を調製した。この蓚酸水溶液と製造例で得られた光触媒(酸化チタン粉末)20kgとを媒体攪拌式分散機(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノーミルKDL−PILOT A型」)に入れ、直径0.3mmのジルコニア製ビーズ 4.2kgを媒体とし、攪拌速度は周速8m/秒とし、循環液量3Lで処理液循環して、合計処理時間252分間で混合した。ここで得られた分散体中の酸化チタンの平均粒子径は442nmであった。次に、この分散体を媒体攪拌式分散機(コトブキ技研製「ウルトラアペックスミル」)に入れ、直径0.05mmのジルコニア製ビーズ13kgを媒体とし、攪拌速度は周速8m/秒(2000rpm)として184分間混合した。ここで得られた分散体中の酸化チタンの平均粒子径は194nmであった。この分散体10kgを10Lポリ容器に入れ、60℃に昇温して同温度で12時間保持することにより加熱処理を施した。得られた分散体中の酸化チタンの結晶相はアナターゼとルチルであった。さらに、この分散体を1L用遠沈管に1L採取して1500rpmで30分間遠心分離を行うことにより粗粒分を除去したところ、分散体中の酸化チタンの平均粒子径は122nmであり、固形分濃度は18.6重量%となった。このようにして得られた分散体を酸化チタン分散体(A)とする。
前記酸化チタン分散体(A)134.46gに対し、1重量%アンモニア水に安息香酸0.05gを溶解させたアルカリ溶液9.63gをゆっくり滴下してpH4.5になるよう調整した。さらに、固形分濃度が10重量%になるように水105.91gを加えて、固形分濃度10重量%、安息香酸濃度190ppmである本発明の光触媒分散体250gを得た。
【0053】
得られた光触媒分散体のpHは4.3であり、該分散体中の酸化チタンの平均粒子径は122nmであり、初期のアセトアルデヒド分解能は0.40(1/h)であった。なお、該光触媒分散体は、酸化チタン1モルに対して0.03モルの蓚酸を含有するものである。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同様にして得られた酸化チタン分散体(A)134.46gに対し、1重量%アンモニア水に安息香酸0.1gを溶解させたアルカリ溶液10.06gをゆっくり滴下してpH4.5になるよう調整した。さらに、固形分濃度が10重量%になるように水105.48gを加えて、固形分濃度10重量%、安息香酸濃度380ppmである本発明の光触媒分散体250gを得た。
【0055】
得られた光触媒分散体のpHは4.3であり、該分散体中の酸化チタンの平均粒子径は122nmであり、初期のアセトアルデヒド分解能は0.07(1/h)であった。なお、該光触媒分散体は、酸化チタン1モルに対して0.03モルの蓚酸を含有するものである。
【0056】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られた酸化チタン分散体(A)134.46gに対し、1重量%アンモニア水にp−ヒドロキシ安息香酸メチル0.07gを溶解させたアルカリ溶液8.88gをゆっくり滴下してpH4.5になるよう調整した。さらに、固形分濃度が10重量%になるように水106.66gを加えて、固形分濃度10重量%、p−ヒドロキシ安息香酸メチル濃度280ppmである本発明の光触媒分散体250gを得た。
【0057】
得られた光触媒分散体のpHは4.4であり、該分散体中の酸化チタンの平均粒子径は121nmであり、初期のアセトアルデヒド分解能は0.25(1/h)であった。なお、該光触媒分散体は、酸化チタン1モルに対して0.03モルの蓚酸を含有するものである。
【0058】
(実施例4)
実施例1と同様にして得られた酸化チタン分散体(A)134.46gに対し、1重量%アンモニア水にp−ヒドロキシ安息香酸n−プロピル0.08gを溶解させたアルカリ溶液8.89gをゆっくり滴下してpH4.5になるよう調整した。さらに、固形分濃度が10重量%になるように水106.65gを加えて、固形分濃度10重量%、p−ヒドロキシ安息香酸n−プロピル濃度330ppmである本発明の光触媒分散体250gを得た。
【0059】
得られた光触媒分散体のpHは4.4であり、該分散体中の酸化チタンの平均粒子径は122nmであり、初期のアセトアルデヒド分解能は0.21(1/h)であった。なお、該光触媒分散体は、酸化チタン1モルに対して0.03モルの蓚酸を含有するものである。
【0060】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られた酸化チタン分散体(A)134.46gに対し、1重量%アンモニア水のみからなるアルカリ溶液9.05gをゆっくり滴下してpH4.5になるよう調整した。さらに、固形分濃度が10重量%になるように水106.49gを加えて、固形分濃度10重量%、安息香酸濃度0ppmである比較用の光触媒分散体250gを得た。
【0061】
得られた光触媒分散体のpHは4.4であり、該分散体中の酸化チタンの平均粒子径は122nmであり、初期のアセトアルデヒド分解能は0.46(1/h)であった。なお、該光触媒分散体は、酸化チタン1モルに対して0.03モルの蓚酸を含有するものである。
【0062】
次に、以上の実施例および比較例で得られた光触媒分散体の保存安定性について、以下のように評価した。すなわち、各光触媒分散体を遮光ポリ容器に入れ25℃〜30℃の温度下に保存した。そして、保存直後および所定日数経過後に、分散体中の光触媒粒子の平均粒子径、pH、菌体数(相対発光量)を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から、以下のことがわかった。すなわち、安息香酸を用いた実施例1および実施例2の光触媒分散体では、22日後までは平均粒子径、pH、相対発光量ともに全く変化なく、36日後においても相対発光量に極僅かな増加が見られるだけであり、異臭や目視による異変も認められなかった。また、実施例1および実施例2の光触媒分散体については、上記保存安定性の評価で36日経過後も同様の状態での保存を続け、少なくとも70日間はpHおよび平均粒子径が変化しないことを確認した。これらのことから、実施例1および実施例2の光触媒分散体はいずれも、長期間に良好な保存安定性を保持するものであることがわかった。
【0065】
p−ヒドロキシ安息香酸メチルを用いた実施例3の光触媒分散体では、相対発光量が22日後で119RLU、36日後で195RLUであったが、菌体数としては殆ど検出されないレベルであり、異臭や目視による異変も認められなかった。また、平均粒子径とpHは、ともに36日後まで殆ど変化がなかった。
【0066】
p−ヒドロキシ安息香酸n−プロピルを用いた実施例4の光触媒分散体では、相対発光量が22日後で49RLU、36日後で80RLUであったが、菌体数としては殆ど検出されないレベルであり、異臭や目視による異変も認められなかった。また、平均粒子径とpHは、ともに36日後まで殆ど変化がなかった。
【0067】
これに対し、比較例1の光触媒分散体では、18日後の時点で相対発光量が保存直後の140RLUから11600RLUにまで増大し、異臭が発生していた。また、比較例1の光触媒分散体は、平均粒子径とpHについても保存日数の経過とともに顕著に大きくなっていった。このことにより、保存安定性が悪い場合、まず分散体中の菌体数(相対発光量)が増え、それに伴いpHが上昇し、pHが中性領域に近づくにつれて光触媒粒子が凝集しやすくなり、平均粒子径が大きくなることが証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径1000nm以下の光触媒粒子および水系溶媒を含む分散体であって、安息香酸および/またはp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)を含有し、pHが3〜6である、ことを特徴とする光触媒分散体。
【請求項2】
安息香酸およびp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)以外のカルボン酸類をも含有する、請求項1記載の光触媒分散体。
【請求項3】
前記カルボン酸類が蓚酸またはその塩である、請求項2記載の光触媒分散体。
【請求項4】
光触媒粒子が酸化チタンである、請求項1〜3記載の光触媒分散体。
【請求項5】
光触媒粒子と少なくともカルボン酸類を含有する水系溶媒とを混合してpH3以下の混合物を得、この混合物のpHをアルカリ溶液を用いてpH3〜6に調整するにあたり、安息香酸および/またはp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(但し、アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基である)を前記アルカリ溶液に溶解させておく、ことを特徴とする光触媒分散体の製造方法。
【請求項6】
前記カルボン酸類が蓚酸またはその塩である、請求項5記載の光触媒分散体の製造方法。
【請求項7】
光触媒粒子が酸化チタンである、請求項5または6記載の光触媒分散体の製造方法。

【公開番号】特開2007−260480(P2007−260480A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85056(P2006−85056)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】