説明

光触媒物質付着方法

【課題】光触媒作用が効率よく得られる光触媒物質付着方法を提供する。
【解決手段】本発明の光触媒物質付着方法は、布帛に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着方法であって、布帛が、シート状の地組織部11と、地組織部11の表面から立毛する複数本の立毛糸2からなる立毛部12と、からなる立毛布帛10であれば、立毛部12の表層部22を毛羽立たせる毛羽形成工程と、立毛部12に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着工程と、を有することを特徴とする。
布帛が、織物、編物または不織布であれば、布帛の表面を毛羽立たせる毛羽形成工程と、その表面に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着工程と、を有することを特徴とする。
本発明の光触媒付着方法により得られた布帛は、光量の少ない条件下で使用されても光触媒作用が効率よく発現されるため、たとえば、自動車の内装材に好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛に光触媒作用を付与するための光触媒物質の付着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒物質は、光の照射によって活性化し、経時的に有機物質等を分解・除去する機能を有するものであり、酸化チタン(TiO)等が代表的なものである。このような光触媒物質は、防汚作用、親水性、環境浄化作用などの光触媒作用を有することが知られ、各種用途への利用が拡大してきている。たとえば、特許文献1には、汎用されているカーペット、人工芝またはテントの帆布に、ディッピング、塗装または噴霧により光触媒粒子を付着させて、光触媒作用を付与している。また、特許文献2では、パイル層に覆われた敷物のパイル立毛繊維の表面に存在する凹凸に粒径が10〜50nmの微細な光触媒微粒子を付着させた光触媒作用を有する敷物が開示されている。さらに、特許文献3には、光触媒物質が練り込まれた繊維からなる布が開示されている。
【0003】
ところが、光触媒物質は、太陽光下または紫外線光源下では光触媒活性が発現するものの、紫外線がほとんどない環境下では光触媒活性が発現せず、光触媒が作用しない。たとえば、パイル層を有するカーペットの立毛に光触媒物質を付着させても、立毛に光が遮られて立毛の根本付近(パイル層の内部)に付着した光触媒物質まで光が届き難く、付着させた光触媒物質の一部からしか光触媒作用を得ることができない。また、光触媒物質が練り込まれた繊維で形成された布では、繊維同士が交錯したり絡み合ったりする部位には光が届き難いため、光触媒物質を有効利用できない。さらに、屋内や自動車の車室内で用いられる場合には、遮光カーテンや紫外線カットガラスの使用により、光触媒物質に到達する光の量が少なくなる。そのため、このようなエネルギー的に不利な条件の下で使用されても、光触媒作用が効率よく得られるような付着方法が望まれている。
【特許文献1】特開2001−98458号公報
【特許文献2】特開2002−249979号公報
【特許文献3】特開2004−183116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点に鑑み、立毛を有する立毛布帛、また、立毛のない布帛に光触媒物質を付着させる方法において、光量が少ない条件下であっても、光触媒作用が効率よく得られる布帛を製造できる光触媒物質付着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の光触媒物質付着方法は、シート状の地組織部と、該地組織部の表面から立毛する複数本の立毛糸からなる立毛部と、からなる立毛布帛に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着方法であって、
前記立毛部の表層部を毛羽立たせる毛羽形成工程と、該立毛部に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着工程と、を有することを特徴とする。
【0006】
ここで、「立毛部の表層部」とは、地組織部の表面から立毛する立毛糸の毛先側に相当する。「立毛部の表層部」の範囲は、立毛部において光触媒物質が触媒活性となる程度に十分な光量で光が到達する範囲を想定しているが、この範囲は立毛布帛の種類により異なるため一概には規定できない。あえて規定するならば、立毛糸の毛先からの長さが、立毛糸の長さの半分以下さらには3分の1以下の範囲であるのが好ましい。
【0007】
前記立毛部は、前記立毛糸が前記地組織に植毛されてなる植毛層、あるいは、前記立毛糸が前記地組織に編み込まれておよび/または織り込まれてなるループパイルおよび/またはカットパイルからなるパイル層、であるのが好ましい。
【0008】
この際、前記毛羽形成工程は、前記立毛糸の毛先側を複数本の繊維からなる繊維束および/または繊維に分離する工程であるのが望ましい。
【0009】
また、前記毛羽形成工程は、複数本の針状体が基材に植設された起毛機により前記立毛糸の毛先が捌かれる工程であるのが望ましい。
【0010】
前記光触媒物質付着工程は、主として前記立毛部の表層部に前記光触媒物質を付着させる工程であるのが望ましい。
【0011】
また、本発明の光触媒物質付着方法は、織物、編物または不織布に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着方法であって、
前記織物、前記編物または前記不織布の表面を毛羽立たせる毛羽形成工程と、該表面に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
ここで、光触媒物質が付着される織物、編物または不織布は、立毛のない平坦な面をもつ織物、編物または不織布を想定している。
【0013】
前記毛羽形成工程は、複数本の針状体が基材に植設された起毛機により前記織物、前記編物または前記不織布の表面を粗面とする工程であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光触媒物質付着方法では、光触媒物質付着工程において立毛布帛に光触媒物質を付着させる前に、毛羽形成工程にて立毛部の表層部を毛羽立たせる。立毛部の表層部を毛羽立たせることで、光触媒物質を付着させる立毛糸の表面積が広くなるため、多くの光触媒物質を立毛布帛に付着させることができる。さらに、毛羽立った表層部には、立毛部の内部よりも多くの光触媒物質が付着される。立毛部の表層部は、立毛部の内部よりも照射される光量が多いため、光触媒物質の触媒活性が良好に発現する。したがって、本発明の光触媒物質付着方法を用いて作製された光触媒作用をもつ立毛布帛は、光量の少ない条件下で使用されても、光触媒作用が効率よく得られる。
【0015】
光触媒物質付着工程において、光触媒物質が主として立毛部の表層部に付着するようにすれば、光触媒物質を有効活用できる。
【0016】
また、本発明の光触媒付着方法では、光触媒物質付着工程において立毛のない布帛(織物、編物または不織布)に光触媒物質を付着させる前に、毛羽形成工程にてその表面を毛羽立たせる。表面を毛羽立たせることで、立毛のない布帛であっても、光触媒物質が付着できる表面積が広くなるため、より多くの光触媒物質を布帛の表面に付着できるようになる。したがって、本発明の光触媒物質付着方法を用いて作製された光触媒作用をもつ布帛は、光量の少ない条件下で使用されても、光触媒作用が効率よく得られる。
【0017】
本発明の光触媒物質付着方法を用いて作製された光触媒作用をもつ立毛布帛や織物などは、光量の少ない条件下で使用されても光触媒作用が効率よく得られるため、たとえば、自動車の内装材に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の光触媒物質付着方法を実施するための最良の形態を図1〜図6を用いて説明する。
【0019】
本発明の光触媒物質付着方法は、シート状の地組織部と、地組織部の表面から立毛する複数本の立毛糸からなる立毛部と、からなる立毛布帛に光触媒物質を付着させる方法である。
【0020】
地組織部は、シート状であれば、織物、編物、不織布またはフェルト等、特に限定はなく、地組織部を構成する繊維の材質や繊度、断面形状にも特に限定はない。また、立毛部は、地組織部の表面から立毛する複数本の立毛糸からなる。立毛糸を構成する繊維の材質や繊度、断面形状に、特に限定はない。立毛糸は、地組織部から、その少なくとも1面側に伸び出ているのが好ましい。すなわち、地組織部の片面にのみ立毛する他、地組織部の両面、また、表面の一部にのみ立毛してもよい。また、立毛部は、立毛糸が地組織に植毛されてなる植毛層、あるいは、立毛糸が地組織に編み込まれておよび/または織り込まれてなるパイル層の他、起毛層であってもよい。植毛層は、フロック加工などにより地組織に植毛された複数本の立毛糸からなるのが好ましい。また、パイル層は、ループパイルおよび/またはカットパイルからなるのが好ましい。パイル層は、地組織部が編物であれば、地組織を製編し、その上に伸び出るシンカーパイル、ポールトリコットパイル、ダブルラッセルパイルなどのループパイル組織を形成し、必要に応じてこのループパイルをカットする方法などにより得られる。また、地組織部が織物であれば、パイル層は、経パイル織物または緯パイル織物を製織する、または、モケット織物を製織した後パイル糸をセンターカットする方法などにより得られる。パイル層は、ループパイルまたはカットパイルのみからなる層であってもよいし、ループパイルとカットパイルとが混在してもよい。
【0021】
前述のように、地組織部および立毛部を構成する繊維の種類に特に限定はなく、綿、羊毛、麻、ビスコースレーヨン繊維、ポリエステル繊維、ポリエーテルエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維、セルロースアセテート繊維、アラミド繊維などの通常の繊維でよい。なかでも、リサイクル性の点でポリエステル系繊維が、特に好ましい。さらには、ポリ乳酸などの生分解性を有するポリエステル繊維でもよい。
【0022】
この際、立毛糸は、地組織部の略厚さ方向に立毛するのが好ましい。立毛糸が地組織部から略厚さ方向に伸び出ていれば、後述の毛羽形成工程にて、立毛糸の先端部に毛羽を良好に形成できる。具体的には、立毛角度(地組織の厚さ方向を90°とする)が60°〜90°であるとよい。
【0023】
そして、本発明の光触媒物質付着方法は、主として、毛羽形成工程と、光触媒物質付着工程と、を有する。毛羽形成工程は、立毛部の表層部を毛羽立たせる工程である。また、光触媒物質付着工程は、立毛部に光触媒物質を付着させる工程である。
【0024】
ここで、図1は、本発明の光触媒物質付着方法を説明する模式図である。図1Aは、シート状の地組織部11と、地組織部11の表面から立毛した複数本の立毛糸2からなる立毛部12と、を備える立毛布帛10の模式図である。本発明の光触媒物質付着方法によれば、毛羽形成工程において立毛部12の表層部(立毛糸2の毛先側)を毛羽立たせるため、立毛布帛10の表層部22では、立毛糸2の表面積が増大する(図1B)。その結果、光触媒物質付着工程後の立毛布帛10’の表層部22(毛羽2a)に、光触媒物質(図中○で示す)を多く付着させることができる(図1C)。また、光触媒物質付着工程では、多くの光触媒物質が毛羽2aに優先的に捕捉されるため、立毛部12の内部21(立毛糸2の毛元側)に光触媒物質が付着し難くなる。したがって、光触媒物質は、照射される光量の多い立毛布帛10’の表層部22にその多くが付着し、触媒活性を良好に発現する。
【0025】
また、比較のため、図2に、従来の光触媒物質付着方法を模式的に示す。図2Aは、シート状の地組織部11と、地組織部11の表面から立毛した複数本の立毛糸2からなる立毛部12と、を備える立毛布帛10の模式図である。毛羽を形成せずに光触媒物質を付着させると、立毛糸2の全体に光触媒物質が付着する(図2D)。そのため、光が到達し難い立毛部12の内部21にも光触媒物質が付着する。内部21に付着した光触媒物質には充分な光量が照射されないため、触媒作用が十分に発揮されない。また、従来法により得られる立毛布帛10”(図2D)および本発明の光触媒物質付着方法により得られる立毛布帛10’(図1C)の表層部22に付着する光触媒物質の量を比較すると、同じ量の光触媒物質を付着させた場合、立毛布帛10’のほうが表層部22への付着量が多くなる。すなわち、本発明の光触媒物質付着方法は、光の届きやすい立毛布帛の表層部に光触媒物質を付着させることができ、その結果、光量が少ない条件下であっても触媒活性を発揮する立毛布帛が得られる。
【0026】
この際、毛羽形成工程は、立毛糸の毛先側を複数本の繊維からなる繊維束および/または繊維に分離する工程であるのが望ましい。立毛糸は、複数の長繊維や短繊維といった繊維が線状に集合してなる。毛羽形成工程では、立毛糸が、繊維からなる繊維束および/または繊維に分離されるとよい。立毛布帛を構成する立毛部がループパイルからなるパイル層であれば、各ループパイルの毛先がループを形成したままの状態で分離される他、図3の下図に示すように、繊維が各ループパイルの毛先で切断されてもよい。具体的には、図3の上図に示す地組織部66と地組織部66に織り込まれてなる立毛糸7(ループパイル7)からなるパイル層67とを備える立毛布帛60において、パイル層67の表層部、すなわち、それぞれのループパイル7の先端に線状で存在する複数の繊維の一部が切断されて、パイル層67の表層部において立毛糸7の表面に切断されてできた繊維の先端部が表出して毛羽7bとなる(図3の下図)。また、図3の上図に示す立毛布帛60のループパイル7にシャーリング等を施すことによりカットパイル7’からなるパイル層67’が得られる(図4の中図)。シャーリング等によりループが切断されると、カットパイル7’は解れ易くなり、毛羽形成工程においてカットパイル7’の毛先側は複数本の繊維からなる繊維束および/または繊維に分離されて毛羽7aとなる。
【0027】
毛羽を形成する方法に特に限定はなく、立毛布帛の立毛部の表層部に対して摩擦などの物理的作用を加えて毛羽を形成するとよい。たとえば、毛羽形成工程は、複数本の針状体が基材に植設された起毛機(たとえば、針金起毛機)を用いるとよい。針状体により、立毛糸の毛先側が複数本の繊維からなる繊維束および/または繊維に捌かれる、または、捌かれるとともに切断されるのが望ましい。なお、基材や針状体の形状は問わない。その他にも、アザミ起毛機、エメリー起毛機、等の機械を用いることができる。
【0028】
また、光触媒物質付着工程で付着される光触媒物質に特に限定はない。TiO、TiO、CdS、CdSe、ZnS、WO、Fe、SrTiO、KNbO等から選択される1種以上の光触媒物質を単独で用いるか、または、金属微粒子や吸着材などとともに用いてもよい。なかでも、化学的に安定な酸化チタンを用いるのが好ましい。酸化チタンとしては、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、アモルファス型酸化チタン、また、ルチル型酸化チタンの表面に金属ナノ粒子を担持したものやマスクメロン型酸化チタン、金平糖型酸化チタン等の被覆型酸化チタン、などのいずれの酸化チタンを用いてもよい。
【0029】
光触媒物質の付着方法としては、塗布、印刷、静電塗装、低温溶射など、従来から用いられている方法を用いることができる。なかでも、塗料として光触媒物質を含有するコーティング液を用いた塗布法が望ましい。コーティング液は、分散剤に光触媒物質を分散させたり、分散剤に光触媒とバインダーとを分散させたりして調製できる。光触媒物質としては、上記の光触媒物質を粉末で用いる他、ゾルを用いることができる。バインダーとしては、シラン加水分解ゾル、アルキルシリケート、金属アルコラート、酸化珪素、シリコーン等を用いることができる。また、分散剤としては、水やエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類を用いることができる。
【0030】
付着させる光触媒粉末の大きさに特に限定はないが、その平均粒径が3〜10μmであるのが好ましい。平均粒径が3μm未満では、形成された毛羽の間をすり抜けて立毛布帛の立毛部の内部(立毛糸の毛元側)に多くの光触媒粉末が付着しやすくなるため、望ましくない。また、平均粒径が10μmを超えると、反応速度が遅くなるため望ましくない。
【0031】
また、立毛布帛の表面性状に応じて付着方法を適宜選択することにより、立毛部の内部に付着する光触媒物質の量をさらに低減できる。すなわち、光触媒物質付着工程は、主として立毛部の表層部に光触媒物質を付着させる工程であるのが望ましい。たとえば、図1Bに示すように、立毛布帛の下方から光触媒物質を含有するコーティング液を噴霧する方法や、コーティング液を泡状にして塗布する方法などが望ましい。
【0032】
以上、詳説したように、照射される光量の多い立毛布帛の表層部に光触媒物質が多く付着させることのできる本発明の光触媒物質付着方法は、光量の少ない条件下で用いられる立毛布帛、たとえば、マット、フロアカバーリング材、インシュレータ、シート表皮材、リアパッケージ材、天井表皮材、成形ドア表皮材、等の自動車の内装材に用いられる立毛布帛に対して好適である。自動車の内装材であれば、地組織部および立毛部を構成する繊維の種類は、ポリエステル繊維やアクリル繊維などであるのが好ましく、光触媒物質の付着性も高い。
【0033】
また、本発明の光触媒物質付着方法は、布帛が、織物、編物または不織布であれば、布帛の表面を毛羽立たせる毛羽形成工程と、その表面に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着工程と、を有する。
【0034】
布帛は、既に述べた地組織部に相当する。具体的には、平織物、綾織物、朱子織物などの織物、平編物、ゴム編物、トリコットなどの編物、ニードルパンチ布、スパンボンド布、フェルトなどの不織布、が挙げられ、これらを構成する繊維の材質や繊度、断面形状に特に限定はない。
【0035】
毛羽形成工程は、織物、編物または不織布の表面を毛羽立たせる工程である。織物、編物または不織布では、複数本の繊維からなる糸が、交錯されたり、編み込まれたり、複数本の繊維が絡み合ったりして平面状に構成されている。そのため、織物、編物または不織布の表面は、繊維が部分的に線状に表出して平坦な面を形成している。毛羽形成工程では、この平坦な表面を毛羽立たせ、粗面とする。平坦な面を粗面とするには、複数本の針状体が基材に植設された起毛機を用いるなど、布帛の表面に物理的作用を加えるとよい。起毛機を用いれば、平坦な面を引っ掻いて粗くすることができる。具体的には、織物や編物であれば、表面に線状に表出した糸を構成する繊維の一部を切断して毛羽立たせることができる。図5に織物の断面図を模式的に示す。織物80は複数本の繊維からなる糸81を縦横に交差してなり、繊維の束が織物表面に線状に表出する(図5上図)。線状に表出する繊維の一部が切断されると、切断されてできた繊維の先端部が表面から立ち上がって毛羽8aが形成される(図5下図)。また、図6に不織布の断面図を模式的に示す。不織布90は、短繊維91や長繊維92が絡み合った繊維の集合体からなる(図6上図)。繊維の先端9aや表面に線状に表出する繊維が切断されてできた繊維の先端92aが表面から引き出されることで毛羽が形成され、粗面化される(図6下図)。
【0036】
光触媒物質付着工程は、既に述べた方法により毛羽形成工程を経た織物、編物または不織布に光触媒物質を付着させればよい。毛羽形成工程により毛羽立たされた表面には、平坦な面よりも多くの光触媒物質を付着させることができる。また、多くの光触媒物質が毛羽に優先的に捕捉されるため、織物、編物または不織布の内部に光触媒物質が付着し難くなる。したがって、光触媒物質は、照射される光量の多い布帛の表面にその多くが付着し、触媒活性を良好に発現する。
【0037】
また、本発明の光触媒物質付着方法により得られた光触媒作用を有する織物、編物または不織布は、上述した立毛布帛と同様に、光量の少ない条件下で用いられる自動車の内装材として好適である。
【0038】
以上、本発明の光触媒物質付着方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の光触媒物質付着方法の実施例を図5を用いて説明する。本実施例では、自動車の内装材として用いられる立毛布帛および不織布に対し、光触媒物質を付着させた。
【0040】
立毛布帛として、自動車のフロアカバーリング材として用いられ、ポリエステル系合成繊維からなる糸条の編地に同様のポリエステル製の立毛糸を編み込んだカットパイル層を有するニットパイル表皮を準備した。このニットパイル表皮は、1200dtex単糸96本不撚、表皮目付450g/m、立毛長7.5mm、立毛角度80°、パイル層厚み7mm、であった。
【0041】
また、不織布として、自動車のフロアカバーリング材として用いられ、ポリエステル系合成繊維からなるニードルパンチ布を準備した。このニードルパンチ布は、6.6dtex、表皮目付300g/m、繊維長64mm、布厚み2mmであった。
【0042】
上記のニットパイル表皮およびニードルパンチ布に毛羽を形成した(毛羽形成工程)。毛羽の形成には、針金起毛機を使用した。針金起毛機の模式図を図7に示す。針金起毛機5は、外周に複数本の針金5nが植設された起毛ローラ51と、外周面に布帛5cを供給するとともに起毛された布帛5cを搬出する送りローラ52と、を備える。起毛ローラ51および送りローラ52は、互いに回転軸が平行となるように配置されている。
【0043】
送りローラ52に供給され外周面に巻き取られた布帛5cは、起毛ローラ51に植設された針金5nに引っ掛かる。
【0044】
この針金起毛機5により、ニットパイル表皮のカットパイル層の表層部において、毛先側で立毛糸が分離されて毛羽が形成された。また、ニードルパンチ布の表面においては、平坦であった表面に毛羽が形成されて粗面となった。
【0045】
次に、毛羽が形成されたニットパイル表皮およびニードルパンチ布に、光触媒粉末を付着させた(光触媒物質付着工程)。以下の3種類のコーティング液のいずれかをニットパイル表皮およびニードルパンチ布の表面に向けて噴霧することで、光触媒粉末を付着させた。コーティング液は、1:TiO粉末(平均粒径6μm)、TiOゾル、シラン加水分解ゾルを水に分散させた液、2:TiO粉末(平均粒径6μm)、TiOゾル、アルキルシリケート、金属アルコラートをイソプロピルアルコールに分散させた液、3:被覆型TiO粉末(平均粒径3μm)およびシリコーンを水に分散させた液、の3種類を調製した。いずれのコーティング液を使用した場合であっても、光触媒粉末は毛羽形成工程において形成された毛羽に良好に付着した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の光触媒物質付着方法を説明する模式図である。
【図2】従来の光触媒物質付着方法を説明する模式図である。
【図3】ループパイルからなるパイル層をもつ立毛布帛を毛羽立たせる毛羽形成工程を説明する模式図である。
【図4】カットパイルからなるパイル層をもつ立毛布帛を毛羽立たせる毛羽形成工程を説明する模式図である。
【図5】織物の表面を毛羽立たせる毛羽形成工程を説明する模式図である。
【図6】不織布の表面を毛羽立たせる毛羽形成工程を説明する模式図である。
【図7】毛羽形成工程で用いられる針金起毛機の模式図である。
【符号の説明】
【0047】
10、60:立毛布帛
11、66:地組織部
12:立毛部
2:立毛糸 2a:毛羽
67、67’:パイル層
7:ループパイル 7’:カットパイル 7a、7b:毛羽
5:針金起毛機 5n:針金
80:織物 8a:毛羽
90:不織布 9a、92a:毛羽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の地組織部と、該地組織部の表面から立毛する複数本の立毛糸からなる立毛部と、からなる立毛布帛に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着方法であって、
前記立毛部の表層部を毛羽立たせる毛羽形成工程と、該立毛部に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着工程と、を有することを特徴とする光触媒物質付着方法。
【請求項2】
前記立毛部は、前記立毛糸が前記地組織に植毛されてなる植毛層である請求項1記載の光触媒物質付着方法。
【請求項3】
前記立毛部は、前記立毛糸が前記地組織に編み込まれておよび/または織り込まれてなるループパイルおよび/またはカットパイルからなるパイル層である請求項1記載の光触媒物質付着方法。
【請求項4】
前記毛羽形成工程は、前記立毛糸の毛先側を複数本の繊維からなる繊維束および/または繊維に分離する工程である請求項2または3記載の光触媒物質付着方法。
【請求項5】
前記毛羽形成工程は、複数本の針状体が基材に植設された起毛機により前記立毛糸の毛先が捌かれる工程である請求項1記載の光触媒物質付着方法。
【請求項6】
前記光触媒物質付着工程は、主として前記立毛部の表層部に前記光触媒物質を付着させる工程である請求項1記載の光触媒物質付着方法。
【請求項7】
織物、編物または不織布に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着方法であって、
前記織物、前記編物または前記不織布の表面を毛羽立たせる毛羽形成工程と、該表面に光触媒物質を付着させる光触媒物質付着工程と、を有することを特徴とする光触媒物質付着方法。
【請求項8】
前記毛羽形成工程は、複数本の針状体が基材に植設された起毛機により前記織物、前記編物または前記不織布の表面を粗面とする工程である請求項1記載の光触媒物質付着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−321321(P2007−321321A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156178(P2006−156178)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】