説明

光触媒粒子及び光触媒層を備えた基材

【課題】 内部まで均一に活性化された光触媒層を備えた基材を提供する。
【解決手段】 イオンプラズマ処理により活性化されてなる光触媒粒子を用いて、基材上に光触媒層を形成する。このイオンプラズマ処理は、電圧100V〜600V、圧力5mTorr〜50mTorr、ガス流量10sccm〜50sccm、時間10分〜60分の条件下で行ない、光触媒粒子は酸化チタンからなる粒子を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物酸化分解活性及び超親水性といった光触媒の持つ活性機能をより活性化した光触媒粒子及びその粒子を用いて形成された光触媒層を備えた基材に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光に含まれる波長300nm〜400nmの紫外線を励起光として有機酸化分解活性及び超親水性といった活性機能を発揮する。基材上に形成した光触媒層に対してアルゴンイオンや酸素イオンなどでプラズマ処理を施すことにより、有機物酸化分解活性及び超親水性といった光触媒の持つ活性機能をより活性化できることが知られている。例えば、基材上に製膜した酸化チタンの光触媒層にイオンボンバード処理をし、活性機能を高める方法が開示されている(下記、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−170494号公報
【0004】
上記方法により光触媒が活性化するのは、光触媒表面の結晶中に格子欠陥を生じさせ、活性機能を発現する励起波長領域が可視光側にシフトしたり、有機物等の光触媒表面への接触表面積が大きくなり、光触媒表面における結晶構造の一部若しくは全部がアモルファス、或いはルチル型から活性の高いアナターゼ型へ転移したりするためであると解される。
また、格子欠陥やアナターゼ型結晶の周囲に異なる結晶(アモルファス、ルチル型、ブルックライト型)を形成することにより、ヤン−テーラー効果により活性化したためであると理解できる。つまり、格子欠陥若しくは別の結晶と接するアナターセ型結晶最外部のチタン原子の周りにある酸素原子の対称性が下がり、電子軌道が分裂するために2.3eV以下の低エネルギーにて遷移可能な軌道が生成したことによるものと解される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、基材上に光触媒層を製膜してからイオンボンバード処理をするため、イオンボンバード処理する処理面積が大きく、そのために活性化処理するための装置も大きくなり、処理がし難いという問題の他、表面上の光触媒のみしか処理できず層の内部まで活性化できないという問題を抱えていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、小さな装置により活性化でき、光触媒層を全体に渡り活性化させた基材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明は、基材上に光触媒層を形成するのに用いる光触媒粒子にイオンプラズマ処理を施して活性化することを提案するものである。
イオンプラズマ処理は、電圧100V〜600V、圧力5mTorr〜50mTorr、ガス流量10sccm〜50sccm、時間10分〜60分の条件下で行なうのが好ましく、イオンプラズマ処理の対象とする光触媒粒子としては酸化チタンを用いるのがよい。
また、光触媒層は、ゾル−ゲル法により形成するのがよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、従来のように光触媒層を形成する前の光触媒粒子に対してイオンプラズマ処理をするものなので、活性化処理する装置を小規模のものとすることができる。また粒子状態でイオンプラズマ処理を施すので、粒子全体を活性化でき、活性化された粒子を用いて光触媒層を形成するので、層の内部まで均一に活性化された光触媒層を形成することができ、例えば、安定性、耐久性が顕著に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
図1はイオンプラズマ処理を行なうための装置の模式図を示す。
【0010】
本実施形態では、光触媒粒子に対して、以下の要領でイオンプラズマ処理を行うようにすればよい。
【0011】
基材は、光触媒層を形成するためのものであり、ガラス、樹脂等を使用するのがよい。
【0012】
光触媒粒子は、自然光又は照明光中に含まれる波長300nm〜400nmの紫外線を励起光とし、有機物酸化分解活性及び超親水性といった活性機能を有する触媒粒子であり、光触媒粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、三酸化二ビスマス、三酸化タングステン、酸化第二鉄、チタン酸ストロンチウム等の金属酸化物の他、CdSのような金属硫化物、CdSeのような金属カルコゲナイトなどの粒子を挙げることができるが、中でも安全性、酸、塩基及び有機溶媒に侵されない化学的安定性などの観点から酸化チタンの粒子が好ましい。
光触媒粒子の粒径は、特に限定するものではなく、平均粒子径3nm〜30nm、好ましくは5nm〜30nmの範囲であるが、二酸化チタン粒子粉末の平均粒子径が3〜30nmの範囲であれば、透明性に優れた光触媒層を形成することができる。なお、ここでいう平均粒子径は、動的光散乱式粒径分布測定装置により求められる粒子径である。
【0013】
イオンプラズマ処理は、アルゴンイオンや酸素イオンなどを用いて光触媒粒子の表面を粗くする処理である。これは、加速した粒子を固体表面に衝突させ、運動量の交換により原子を空間へ放出するスパッタリングなどにより行なうことができる。例えば、イオンビームスパッタリングやグロー放電スパッタリングなどにより行なうことができる。具体的には、図1に示す装置を用いて行なうことができる。
【0014】
ここで、図1の装置を用いたイオンプラズマ処理の方法について説明する。但し、この方法に限定されるものではない。
この装置は、開閉自在の真空チャンバ1の一面に陰極2が設けられ、その対向する面にシャーレ11などの容器を保持するパレット3が設けられ、パレット3はアースされている。
【0015】
イオンプラズマ処理するには、エアシリンダ4によって真空チャンバ1を開き、光触媒粒子12を入れたシャーレ11をパレット3に取り付け、真空チャンバ1を閉じ、排気管5から真空チャンバ1内の空気を排気し、真空チャンバ1内の圧力を5mTorr〜50mTorrとする。
【0016】
次に、パレット3を所定回転数で回転させ、ガス流入管6から所定流量のアルゴンガス又は酸素ガスを真空チャンバ1内に流す。パレット3側をアースして、ステンレススチールからなる陰極2に所定電圧をかける。このとき、真空チャンバ1と陰極2とパレット3とは絶縁層7により絶縁しておく。所定電圧をかけることにより、真空チャンバ1内でプラズマ放電が生起し、アルゴンプラズマ、すなわちアルゴンイオン(Ar)又は酸素プラズマ、すなわち酸素イオン(O)が発生する。このプラズマは、電圧によってシャーレ11に引き寄せられ、光触媒粒子12に衝突し、これにより光触媒粒子12を活性化することができる。
【0017】
このとき、陰極2として金属イオンの少ないステンレススチールを使用することにより、金属イオンの発生が生じ難くすることができる。金属イオンが発生すると、光触媒粒子12に衝突した際、金属イオンが付着し、光触媒粒子12の活性が低下するので、ステンレススチールを用いるのがよい。
【0018】
イオンプラズマ処理の条件は、パレット回転数10rpm〜1000rpm、好ましくは20rpm〜500rpm、電圧100V〜600V、好ましくは150V〜500V、圧力5mTorr〜50mTorr、好ましくは10mTorr〜30mTorr、ガス流量10sccm〜50sccm、好ましくは15sccm〜45sccm、時間10分〜60分、好ましくは20分〜40分の条件下で行なうのがよい。なお、ガス流量の単位の「sccm」は、25℃、1atmでの1分間当たりの流量(standard cc per minute)を示す。
【0019】
上記条件でイオンプラズマ処理することにより、粒子表面における結晶構造の中からO2-を1個若しくは2個放出させて結晶格子中に約1Å〜3Å(約1Å3〜10Å3)の格子欠陥を生成させ、酸素欠損を持つ酸化チタン結晶を生成することができる。この格子欠陥は、有機物を捕捉しやすく、また、格子欠陥の生成により電荷分離効率が大きくなり、すなわちバンド構造における伝導帯と価電子帯間のバンドギャップが大きくなり、酸化力・還元力共に高くなることにより分解活性が高くなる。これにより、光触媒粒子の持つ有機物酸化分解活性及び超親水性等の活性機能をより活性化させることができる。
上記の条件より低い条件では原子の加速が不十分で、衝突エネルギーが低く結晶構造から酸素原子が放出されない。また、上記条件より高い条件ではTi等の光触媒を構成する金属までもが抜けてしまい、光触媒としての機能を失ってしまうので、酸素原子1個〜2個分に相当する格子欠陥として上記範囲が好ましい。
【0020】
また、酸化チタンをイオンプラズマ処理した場合は、粒子表面における結晶構造の中の一部若しくは全部をアモルファス若しくはルチル型の結晶構造からアナターゼ型の結晶構造へ相転移させることができる。
ルチル型及びアナターゼ型の結晶構造は、O2-が細密充填し、その隙間にTi4+等の光触媒を構成する金属イオンが入っている構造をしており、正方晶系の結晶構造をもつ。ユニットセルの体積はルチル型で62.4(Å3)、アナターゼ型で136.1(Å3)とされている。格子定数は、ルチル型ではa=4.593(Å),c=2.959(Å)、アナターゼ型ではa=3.785(Å),c=9.514(Å)となっている。
このため、イオンプラズマ処理することにより、結晶格子約1個分に相当する表面粗さを生成させ、付着有機物の接触面積を大きくでき、分解活性を活性化することができる。
上記処理により、ルチル型からアナターゼ型へ相転移させる必要な衝突エネルギーを与えることができ、これにより、光触媒粒子の持つ有機物酸化活性及び超親水性などの活性化機能を活性化できる。
【0021】
アナタ−ゼ型へ相転移を起こすことができるエネルギー値は閾値を持ち、上記の条件より低い条件では原子の加速が不十分で、衝突エネルギーが低く相転移が起こりにくい。また、上記条件より高い条件では粒子表面の結晶構造がアナタ−ゼ型ではなく、活性の低いブルックライト型へと相転移してしまい、活性化されにくくなる。このため、上記条件の範囲が好ましい。
【0022】
上記の如く、イオンプラズマ処理を施した光触媒粒子は、光触媒層を基材上に形成する用途に用いるのがよい。
光触媒層の形成方法としては、従来公知の方法で行なうことができ、例えば、ゾル−ゲル法、乾式法などにより形成するのが好ましい。
中でも、ゾル−ゲル法により形成する場合は、例えば、イオンプラズマ処理をした光触媒粒子とイソプロパノ−ルなどのアルコール類との反応によって得られるチタンのアルコキシドからゾル−ゲル法によってチタンイソプロポキシド;Ti(OC374などのゾルを作り、基材上に塗布することにより光触媒層を形成するようにすればよい。この際、塗布は、刷毛塗り、ロール塗り、浸漬法、グラビアコート、スプレーコート、ディップコート等で行なうことができる。
塗布した後は、50℃〜200℃、好ましくは60℃〜180℃で乾燥すれば、基材上に光触媒層を形成することができる。光触媒層の厚さは、0.05μm〜10μm、好ましくは0.1μm〜5μmとするのがよい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0024】
(実施例1)
酸化チタンゾル(多木化学(株);M−6:アナターゼ型、比表面積700m2/g、平均粒径25nm)を十分に乾燥させ、二酸化チタン粉末を得る。この二酸化チタン粉末をガラス製シャーレ(半径10cm、深さ2cm)に均一に入れる。このガラス製シャーレを、図1に示すようなイオンプラズマ装置(キーエンス社製;ST−7000)のパレットに載置し、以下の条件でプラズマ処理を行った。
・周波数:10kHz
・パレット回転数:30rpm
・電圧:300V
・圧力:20mTorr
・アルゴンガス流量:30sccm
・処理時間:30分
【0025】
基材としてのPETフィルム(三菱ポリエステルフィルム(株)製;H100)上に、下塗り層形成樹脂(多木化学(株)製;タイノックプライマーA)を、メイヤーバーコーター(ヨシミツ精機(株)製)により塗布し、135℃にて60秒オーブンで乾燥し、下塗り層を形成した。さらに、その上に前記イオンプラズマ処理した光触媒粒子をメイヤーバーコーター(ヨシミツ精機(株)製)により塗布した後、135℃にて60秒オーブンで乾燥させて光触媒層を形成した(実施例品)。
【0026】
(比較例)
基材としてのPETフィルム(三菱ポリエステルフィルム(株)製;H100)上に、下塗り層形成樹脂(多木化学(株)製;タイノックプライマーA)をメイヤーバーコーター(ヨシミツ精機(株)製)により塗布し、135℃にて60秒オーブンで乾燥し、下塗り層を形成した。さらに、その上に光触媒粒子(多木化学(株)製;タイノックCZP−223)を、メイヤーバーコーター(ヨシミツ精機(株)製)により塗布した後、135℃にて60秒オーブンで乾燥させて光触媒層を形成した。
【0027】
上記で得られた光触媒層付基材を、図1に示すようなイオンプラズマ装置(キーエンス社製;ST−7000)のパレットに載置し、光触媒層に対して以下の条件でプラズマ照射を行った(比較例品)。
・電極間隔:20mm
・不活性ガスN2:4000sscm
・反応性ガスO2:1000sscm
・周波数:10kHz
・処理時間:1分
・電力:100W
・処理圧力:760mmHg
【0028】
(光触媒活性の測定)
上記で得た実施例品及び比較例品の光触媒活性を、以下の方法により測定した。
実施例品及び比較例品を、10cm×10cmのサンプルとし、各サンプルの面上にn−オクタデカン(和光純薬工業(株)製)を0.1mg/cm2となるように滴下して均一に塗布した。
ブラックライトランプ(アズワン社製;LUV−16)により、各サンプルの面上から波長365nmの紫外線を1mWの強度となるように照射し、一定時間毎にn−オクタデカンの重量を測定して油(n−オクタデカン)の残存率を測定した。
その結果を、図2に示す。
【0029】
実施例品は、時間とともに残存率が低下し、30分経過後には、残存率はほぼ0%となり、光触媒活性により分解されたことがわかる。
一方、比較例品は、15分経過後は、ほとんど残存率の変化はなく、30分経過後でも約85%の残存率を示し、分解が進んでいないことがわかる。
以上の結果より、光触媒粒子に対してイオンプラズマ処理を行い、その後、基材上に光触媒層を形成した方が、基材上に光触媒層を形成し、その後、プラズマ照射するよりも、光触媒活性が優れていることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】イオンプラズマ処理を行うための装置の一例を示す模式図である。
【図2】光触媒活性を示すグラフであり、横軸は紫外線照射時間、縦軸は油残存率を示す。
【符号の説明】
【0031】
1真空チャンバ 2陰極 3パレット 4エアシリンダ 5排気管 6ガス流入管 7絶縁層 11シャーレ 12光触媒粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に光触媒層を形成するのに用いる光触媒粒子であって、イオンプラズマ処理により活性化されてなる光触媒粒子。
【請求項2】
イオンプラズマ処理は、電圧100V〜600V、圧力5mTorr〜50mTorr、ガス流量10sccm〜50sccm、時間10分〜60分の条件下で行なわれることを特徴とする請求項1に記載の光触媒粒子。
【請求項3】
光触媒粒子は酸化チタンからなる粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒粒子を用いて形成された光触媒層を備えた基材。
【請求項5】
ゾル−ゲル法により光触媒層を形成されてなる請求項4に記載の基材。
【請求項6】
光触媒粒子に対してイオンプラズマ処理することを特徴とする光触媒の活性化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−130357(P2006−130357A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318724(P2004−318724)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】