説明

光記録媒体の製造方法及び製造装置

【課題】 印刷受容層の外周近傍における膜厚分布の改善し、外観の良好な光記録媒体の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】 粘度が300cP以上の液状材料をスピンコートすることにより前記印刷受容層を形成する工程と、前記スピンコート後に前記光記録媒体の外周近傍における風速が3.0m/s以上となるように光記録媒体の外周下方から排気を行うことで前記印刷受容層の乾燥を行う工程とを有することを特徴とする光記録媒体の製造方法及び製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体の製造方法及び製造装置に関し、より詳しくは、印刷受容層を有する光記録媒体の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、市場に広く受け入れられ、光学的に情報を記録し、読み込みが可能な光情報記録層を有する光記録媒体としては、CD(Compact Disk)やDVD(Digital Versatile Disk)がある。CD、DVDとも読み出し専用のCD−ROM、DVD−ROM、1回限りの情報記録が可能な追記型のCD−R、DVD−R、DVD+R、何回でも情報記録の書き換えが可能な書き換え可能型のCD−RW、DVD−RW、DVD+RW、DVD−RAMがある。また、最近では、より高密度記録を行うために短波長の青色レーザを用いた大容量光記録媒体であるブルーレイディスク(BD)やHD−DVDディスクも実用化され始めている。
【0003】
これらの光記録媒体には、分類や保管を容易にするため、またはデータ内容を容易に確認できるようにするために、スクリーン印刷等の印刷方式により、光記録媒体のレーベル面(レーザ光を照射して情報の記録を行う場合のレーザ光の入射側とは反対側の面)に内容表示等が印刷されている場合がある。
【0004】
しかし、既存の印刷方式の場合、少量生産では印刷用刷版の作製が必要となるためコストアップになったり、印刷デザインの変更の場合に、その都度、刷版を交換し色合わせを行う必要があるために作業性が低下する等の課題がある。
【0005】
このような課題に対し、光記録媒体のレーベル面に、インクジェットプリンタや昇華型熱転写プリンタ等で文字や画像を印刷可能な印刷受容層を塗設した光記録媒体が開発され市販されている。
なお、このような印刷受容層を塗設した光記録媒体の他に、インクジェットプリンタ用として、ラベルに印刷した後、光記録媒体に貼り付ける方式がある。しかし、この方式はラベルの位置合わせ等が非常に煩雑である。
【0006】
そこで、近年、光記録媒体に直接印刷可能で安価なプリンタが数多く発売されている。特に、インクジェット印刷可能な光記録媒体は、作製が非常に簡便であることから、業務用だけでなく家庭用にも広く普及しつつある。
【0007】
このようなインクジェット印刷可能な光記録媒体の印刷受容層としては、主成分として紫外線硬化樹脂や、紫外線硬化型樹脂とインク膨潤性樹脂とを併用した混合処方が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、これらにおいて報告された印刷受容層は、主にインク膨潤性樹脂の膨潤を利用してインクを吸収させる膨潤タイプである。このような膨潤タイプの場合、所謂インクの乾燥性が不十分であり、印刷直後に、指で印刷箇所を触ると文字や画像がこすれて汚れる場合がある。
【0008】
一方、このようなインク膨潤性樹脂などを用いる以外に、印刷受容層の例としては、無機微粒子を用いた多孔質層を有する空隙タイプがある。空隙タイプは、多孔質層に生じる微細空隙の毛細管現象でインク吸収させるものである。無機微粒子としては、非晶質シリカやアルミナなどの顔料を用いる。たとえば、気相法アルミナ等の気相法無機粉末を含有した樹脂膜からなる多孔質層が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この印刷受容層は、光沢性が高く、印刷面が高い発色性を有するという利点がある。無機微粒子を用いた印刷受容層の形成方法としては、印刷受容層を形成する材料塗液を、スクリーン印刷やスピンコート法といった従来用いられている塗布方法により塗布し、その後塗液を乾燥させることにより印刷受容層を形成することが一般的である。特に、スピンコート法は生産効率が高く、膜厚の制御も容易であるという利点がある。
【0009】
一般にスピンコート法における膜厚は、スピン回転数を含めたスピンプログラムの条件やスピンコート時の周囲の温湿度等の環境、さらに塗布液の性質に大きく依存する。所望の膜厚を得るための条件はこれらの値を調整することで探すことができるが、塗布液の性質によっては、塗布直後に塗布液が流動性を有し、特に無機微粒子と親水性バインダーを組み合わせて用いたときは、この流動性が顕著な場合が多い。このため、特に光記録媒体の内周あるいは外周領域において、塗布液の移動により印刷受容層の膜厚が不均一になってしまうことがあった。
【0010】
このような印刷受容層のレーベル面における均一性を改善する手法としては、印刷受容層の内周及び外周の境界に凹溝を形成することにより印刷受容層全体の膜厚均一性を改善する手法等が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
しかしながら、上述の方法では、基板に特殊な溝を形成することが必要とされるというデメリットが存在し、より容易に印刷受容層の均一性を改善する手法が望まれている。
【0011】
【特許文献1】特開平5−182411号公報
【特許文献2】特開2007−250144号公報
【特許文献3】特開2004−355781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明においては、基板に特殊な工夫を施すことなく、光記録媒体の印刷受容層の、特に外周近傍における膜厚分布の改善を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かくして本発明によれば、以下の(1)〜(2)が提供される。
(1)基板と、前記基板上に少なくとも光情報記録層及び印刷受容層とを有するディスク状の光記録媒体の製造法であって、粘度が300cP以上の液状材料をスピンコートすることにより前記印刷受容層を形成する工程(以下、「スピンコート工程」ということがある。)と、前記スピンコート後に前記光記録媒体の外周近傍における風速が3.0m/s以上となるように光記録媒体の外周下方から排気を行うことで前記印刷受容層の乾燥を行う工程(以下、「乾燥工程」ということがある。)とを有することを特徴とする光記録媒体の製造方法(請求項1)。
【0014】
(2)基板と、前記基板上に少なくとも光情報記録層及び印刷受容層とを有するディスク状の光記録媒体の製造装置であって、スピンコートすることにより前記印刷受容層を形成する手段と、前記スピンコート後に前記光記録媒体の外周近傍における風速が3.0m/s以上となるように光記録媒体の外周下方から排気を行うことで前記印刷受容層の乾燥を行う手段とを有することを特徴とする光記録媒体の製造装置(請求項2)。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特に外周部において、膜厚分布の均一な印刷受容層を実現する光記録媒体の製造方法及びその製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、使用する図面は、本実施の形態を説明するために使用するものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0017】
(本発明により製造される光記録媒体の形態1:)
図1は、本実施の形態が適用される光記録媒体の一例を説明する模式図である。図1に示された光記録媒体Iは、基板面入射型であって、基板10と、基板10上に積層された層として、データを記録する光情報記録層11と、基板10側から入射するレーザ光Lを反射させる光反射層12と、光反射層12及び光情報記録層11を保護するための保護層13と、印刷受容層15との接着性を高め、画像の発色性や光沢を向上させるための下地層14と、最外層としての印刷受容層15とを有する構造からなる。
【0018】
図1に示すように、光記録媒体Iは基板面入射型と呼ばれる構成であり、光情報記録層11に記録及び再生時に照射されるレーザ光Lは、印刷受容層15とは反対面の基板10方向から入射される。また、印刷受容層15上には、インクジェット記録ヘッドを有するインクジェットプリンタにより文字や画像が印刷記録される。
【0019】
(本発明により製造される光記録媒体の形態2:)
図2は、光記録媒体の他の実施の形態を説明する模式図である。図1に示す光記録媒体Iと同様な構成については同じ符号を用い、その説明を省略する。図2に示された光記録媒体IIは、膜面入射型であって、基板10と、基板10上に積層された光反射層12と、光情報記録層11と、保護層13とを有する。また、基板10に対してこれらの層と反対側の基板10上に、印刷受容層15との接着性を高め、画像の発色性や光沢を向上させるための下地層14と、最外層としての印刷受容層15とが積層形成された構造を有している。光情報記録層11に記録及び再生時に照射されるレーザ光Lは、印刷受容層15とは反対面の保護層13側から入射される点において、図1に示す基板面入射型の光記録媒体Iの場合と同様である。
【0020】
(印刷受容層15)
以下、印刷受容層15について説明する。
本実施の形態における印刷受容層15は、従来のレーベル面の印刷受容層に用いられている材料を適宜用いることが出来る。液状の塗布液を塗布乾燥することにより形成されるものであれば特に限定されないが、塗布時の塗布液の粘度は300cP以上であることが好ましい。
【0021】
印刷受容層15に用いられる材料としては、非晶質シリカやアルミナなど無機微粒子とポリビニルアルコールなどの水溶性バインダーからなる多孔質のインク吸収材が好適である。通常の紙やインクジェット記録用紙と称される支持体上においても、この多孔質のインク吸収材を用いた材料が、フォトライクな高い光沢性を有し、インク吸収性、インク色彩性に優れ、透明性もよいインクジェット記録材料として使用されている。
【0022】
無機微粒子としては、非晶質合成シリカ、アルミナ(酸化アルミニウム)、アルミナ水和物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタンなどが使われる。インクの吸収性と生産性では、シリカ微粒子が好ましく、また一般にシリカの場合、塗膜の表面強度が高い。
【0023】
インク吸収材として、高いインク吸収性を有するためには、空隙容量を大きくして用いることが好ましい。空隙容量を高めるために比較的多量の無機微粒子を塗布することが好ましい。印刷受容層15中の全固形分に対して、無機微粒子は50質量%以上含有することが好ましい。
【0024】
親水性バインダー量はバインダーとしての役割を保つ一方、空隙容量を高めるために、可能な範囲で減量することが好ましい。
【0025】
非晶質合成シリカは、製造方法によって湿式法シリカ、気相法シリカ及びその他に大別することができ、中でも湿式法シリカと気相法シリカが好ましい。
【0026】
気相法シリカは、湿式法シリカに対して乾式法シリカとも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には、四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られている。また、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは、日本アエロジル株式会社(製品名;アエロジル)、株式会社トクヤマ(製品名;QSタイプ)等から市販されている。
【0027】
湿式法シリカは、さらに、製造方法によって、沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。沈降法シリカは、珪酸ソーダと硫酸とをアルカリ条件で反応させて製造される。粒子成長したシリカ粒子を、凝集・沈降し、その後、濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の行程を経て製品化される。沈降法シリカとしては、例えば、日本東ソー・シリカ株式会社(製品名;ニップシール)、株式会社トクヤマ(製品名;トクシール)等から市販されている。ゲル法シリカは、珪酸ソーダと硫酸とを酸性条件下で反応させて製造する。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子同士を結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。例えば、東ソー・シリカ株式会社(製品名;ニップゲル)、グレースジャパン株式会社(製品名;サイロイド、サイロジェット)等から市販さている。ゾル法シリカは、コロイダルシリカとも呼ばれ、ケイ酸ソーダの酸等による複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られ、例えば、日産化学工業株式会社(製品名;スノーテックス)等から市販されている。
【0028】
気相法による合成シリカ微粒子(気相法シリカ)、アルミナ、アルミナ水和物では、一次粒子の平均粒径が30nm以下の超微粒子が好ましい。30nm以下であれば、空隙へのインクの吸収がよく、光沢も高い傾向にある。従って気相法シリカは、粒径のサイズを最適な範囲に収めることが好ましく、10nm〜30nmの一次粒子を二次凝集させて使うことが好ましい。サイズが小さすぎると印刷用インクを吸収しにくくなる傾向があり、大きすぎると空隙が少なくなる傾向がある。
【0029】
気相法シリカは、カチオン性化合物の存在下で、平均凝集粒径が300nm以下になるまで分散したものが好ましい。カチオン性化合物としては、カチオン性ポリマーまたは、水溶性金属化合物が使用可能である。カチオン性ポリマーの分子量は、分散性及び分散溶液粘度の面で、2000〜10万が好ましい。カチオン性ポリマーの使用量は、無機微粒子に対して、0.1質量%〜20質量%が好ましい。水溶性金属化合物の印刷受容層15中の含有量は、無機微粒子に対して、0.1質量%〜10質量%が好ましい。
【0030】
また、湿式シリカでは、平均二次粒子径400nm以下が好ましく、特に、カチオン性化合物の存在下で平均二次粒子径400nm以下に粉砕した湿式シリカ粒子が好ましい。
シリカに対するカチオン性化合物の量は、シリカ粒子に対して、0.5質量%〜20質量%が好ましい。この範囲にすることで、シリカ予備分散液の粘度が高くなりすぎず、固形分濃度を高めることができる。シリカ予備分散液の固形分濃度は高いほうがこのましいが、あまり高濃度になると分散不可能になるため、好ましい範囲としては、15質量%〜40質量%である。
なお、平均一次粒子径及び平均二次粒子径は、電子顕微鏡で観察する公知の方法により測定可能である。
【0031】
無機微粒子のバインダーとして用いられる、親水性バインダーとしては、公知の各種バインダーを用いることができる。特に、透明性が高くより高い浸透性が得られる親水性バインダーが好ましく用いられる。親水性バインダーの使用にあたっては、インクの初期の浸透時に親水性バインダーが膨潤して空隙をふさいでしまわないことが好ましく、この観点から比較的室温付近での膨潤性が低い親水性バインダーが好ましい。特に好ましいバインダーとして、完全ケン化または、部分ケン化のポリビニルアルコール、若しくはカチオン変性ポリビニルアルコールが挙げられる。ポリビニルアルコールのなかでも特に好ましいのは、ケン化度が80%以上のもので、平均重合度200〜5000のものが好ましい。カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、第1〜3級アミノ基や第4級アンモニウム基をポリビニルアルコールの主鎖あるいは側鎖中に有するポリビニルアルコールである。たとえば、特開昭61−10483号公報に記載されているようなものがある。
【0032】
ポリビニルアルコールの含有量は、少ないほど、空隙容積が大きくなり、インク吸収性が高くなるので好ましいが、少なすぎると印刷受容層15が脆弱となり、ひび割れなどの表面欠陥が多くなったり、光沢が低下する傾向にある。このため、無機微粒子に対して、5質量%〜40質量%が好ましい。
【0033】
また、ポリビニルアルコールの架橋剤(硬膜剤)を用いることが好ましい。架橋剤の具体的な例としては、アルデヒド系化合物、ケトン化合物、反応性のハロゲンを有する化合物、反応性のオレフィンを有する化合物、N−メチロール化合物、イソシアナート化合物、アジリジン化合物、カルボジイミン化合物、エポキシ化合物、ハロゲンカルボキシアルデヒド、ジオキサン誘導体、クロム明ばん、硫酸ジルコニウム、ほう酸、ほう酸塩、ほう砂のごとき無機化架橋剤などがあり、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。中でも、特にほう酸、ほう砂、または、ほう酸塩が好ましい。
【0034】
架橋剤の使用量は、親水性バインダーの種類、架橋剤の種類、無機微粒子の種類、などにより変化するが、おおむね、親水性バインダー1gあたり5mg〜600mgである。
印刷受容層15では、皮膜の脆弱性を改良するため、たとえば油滴を含有するなどのことができる。
【0035】
本発明において、さらに、界面活性剤、硬膜剤、着色染料、着色顔料、インク染料の定着剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料の分散液、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、蛍光増白剤、粘度安定剤、pH調整剤など、公知の各種添加剤を含有させることもできる。
【0036】
本発明により製造される印刷受容層15の膜厚は、10μm以上が好ましく、さらに好ましくは15μm以上である。また、200μm以下が好ましく、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
印刷受容層15の膜厚が過度に薄いと、インクジェットインクの吸収量が不十分になり、発色性が低下する傾向がある。また、印刷受容層15の膜厚が過度に厚いと、製造コストが増大する傾向がある。
【0037】
(印刷受容層15の製造方法及び製造装置)
本実施の形態において、印刷受容層15は、スピンコート法により形成される。スピンコート法は、液状の塗布液を均一に効率よく塗布することが可能である。
【0038】
スピンコート法により印刷受容層15を形成する場合、塗布液の粘度は300cP以上であることが好ましい。さらに好ましくは400cP以上である。また、スピンコート振り切り時の回転数は500rpm以上、2000rpm以下が好ましい。上記の粘度及び振り切り時の回転数の範囲を外れた条件で所望の膜厚の印刷受容層15を形成しようとすると、特に基板10外周部分において膜厚が不均一になる可能性がある。
【0039】
本実施の形態において、印刷受容層15の塗布後に、所定の条件で乾燥を行うことが好ましい。乾燥工程自体は、大気中に印刷受容層15を塗布した光記録媒体を適当な時間放置することで行うが、乾燥中、光記録媒体の外周下方から排気を行うことが好ましい。図3は、本工程に用いられる乾燥装置の概略図である。
【0040】
図3に示される乾燥装置は、光記録媒体IIIを設置する略円形のテーブル1と回転軸であるスピンドル2、回転を駆動する駆動装置3を有する。さらに、光記録媒体IIIが設置されたテーブル1全体の下側及び側面を覆うようにフード4が設置され、フード4内部を排気する排気装置5を備える。前記フード4は、上方にテーブル1の外形よりもやや広い内径である略円形の開口部を備え、外径も略円形状の円筒状の構造を有している。開口部の内周端部とテーブル1には若干隙間が存在し(以下この隙間をギャップと記載する)、このような乾燥装置において、テーブル1の下方に設けられた排気口6により接続された排気装置5によりフード4内の空気を排気することにより、光記録媒体IIIの外周近傍、即ちギャップ部において風速3.0m/s以上の気流を発生させながら乾燥工程を行う。
【0041】
図3の構造は、印刷受容層15をスピンコートする際に用いられるスピンコート装置と同様の形態であり、本発明においては、スピンコート工程と乾燥工程を同じ装置で行うことも可能である。この装置を用いて、上記のように外周近傍を排気しながら乾燥を行うことで、光記録媒体IIIの外周近傍における、印刷受容層15の膜厚分布を改善することができる。
【0042】
ここで、外周近傍の排気が効率的で、均一になるよう、装置各部が配置されることが好ましい。例えば、図3に示すように、フード4内部のテーブル1の下の領域に、排気状態を制御し光記録媒体IIIの外周下方から大きな風速で均一に排気を行うためのカップ7を設けることが好ましい。テーブル1の下のカップ7とテーブル1の距離は、できる限り狭いほうが好ましい。また、排気口6は、排気がテーブル1外周に均一になるよう、少なくとも2つ以上、更には3つ以上あることが好ましい。本装置でスピンコートも同時に行う場合は、フード4下側に液のドレイン口8を設け、排気口6は液が入らないように、下側底面より高い位置に設けることが好ましい。
【0043】
光記録媒体IIIの印刷受容層15をスピンコート法で形成する場合、遠心力により、光記録媒体IIIの外周の縁部分に塗布液が溜まり、膜厚が厚くなる傾向にある。塗布直後は、外周縁約1mm付近をピークとして、厚さ50〜100μm程度の膜厚の厚い部分がリング状に形成されるが、乾燥が進むにつれ、表面張力により溜まった塗布液が光記録媒体III内周方向に移動し、膜厚の厚い部分が内周方向に広がる傾向にある。
【0044】
この広がった部分は、膜厚が不均一であるため、乾燥の進み具合も不均一であり、表面でひび割れがおこる可能性がある。このような部分に、画像を印刷すると、画像が乱れる。また、膜厚変動があると、画像に凹凸が生じ、やはり画像の乱れが生じる。
【0045】
印刷受容層15の塗布直後の状態であれば、厚膜部分が印刷領域にかからないため画像に悪影響を与えることはないが、乾燥時に塗布液が内周側に移動するほど、印刷画像に悪影響を与える可能性が高くなる。
【0046】
すなわち、本発明においては、塗布後の乾燥工程において、外周部近傍において所定の風速で外周方向に排気を行いながら乾燥を行うことによって、塗布液の内周側への移動を抑制し、膜厚の均一な領域を増加させることを目的とする。本発明において、塗布液の粘度を300cP以上とするのは、粘度が低すぎると、塗布液が内周側に移動しやすくなるためである。
【0047】
ここで、外周近傍の風速とは、光記録媒体IIIの外周縁の直上3mmの位置での、内周から外周へ向かう半径方向の風速を意味する。排気風速の測定は市販の風速計により測定可能である。
【0048】
本発明においては、この位置での風速が3.0m/s以上、好ましくは5.0m/s以上、更に好ましくは6.0m/s以上、特に好ましくは9.0m/s以上である。外周近傍の風速は、排気装置5の排気量と、ギャップの長さにより影響を受ける。外周近傍の風速を高くするためには、排気量を上げるか、ギャップを狭くすることによって実現可能である。
【0049】
ここで、ギャップの長さを定量的に議論するため、図4を用いる。図4は、図3のXで示された部分を拡大した図である。図4に示すように、テーブル1平面に対して垂直な断面における、フード4の内周端と光記録媒体IIIの外周端の距離をGapxとGapyと定義する。すなわち、フード4の内周端と光記録媒体IIIの外周端の水平方向の距離をGapx、垂直方向の距離をGapyとする。
【0050】
Gapxは1mm以上が好ましく、更に好ましくは2mm以上である。Gapxが狭すぎると、光記録媒体IIIをテーブル1に載置する際にフード4にぶつかり易くなるためである。また、5mm以下が好ましく、更に好ましくは4mm以下である。Gapxが小さいほど、大きな風速が得られるためである。
【0051】
排気装置5の排気量にもよるが、Gapyは15mm以下が好ましく、更に好ましくは10mm以下、特に好ましくは5mm以下である。Gapyが狭いほど、大きな風速が得られるためである。あまり狭すぎると、スピンコートも本装置で行う場合にスピンコート時の塗布液の跳ね返りが生じるため、1mm以上が好ましく、更に好ましくは2mm以上である。
【0052】
本発明の乾燥工程においては、光記録媒体の外周部においてより均一な排気状態を実現するために、光記録媒体を回転させながら乾燥を行うことが好ましい。ただし、装置の設計の工夫により、光記録媒体を回転させなくても外周部分での膜厚分布が均一に保てる場合は、必ずしも回転させる必要はない。その場合、乾燥装置に駆動装置3はなくてもよい。
【0053】
本発明の実施形態において、乾燥温度は好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上、また好ましくは60℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。乾燥温度が過度に低いと、乾燥時間が長くなり生産効率が低下する傾向がある。乾燥温度が過度に高いと、耐熱性の低い光情報記録層11の品質が悪化し、情報を記録又は再生する際にエラーが多発する傾向がある。
【0054】
(基板10)
本実施の形態において、基板10の材料としては、適度な加工性と剛性を有するプラスチック、金属、ガラス等を用いることができる。図1に示す基板面入射型の光記録媒体Iの場合は、通常、記録・再生用のレーザ光Lに対して透明性が求められる。一方、図2に示す膜面入射型の光記録媒体IIの場合は、記録・再生用のレーザ光Lに対して透明性や複屈折に対する制限がなくなる。
【0055】
基板10の厚みは、特に制限されないが、通常0.5mm以上、1.3mm以下の範囲とするのが好ましい。
【0056】
基板10には、通常、トラッキング用の案内溝が形成されている。トラッキング用の案内溝は、通常、同心円状又はスパイラル状の溝として基板10上に設けられる。案内溝のトラックピッチは、光記録媒体I,IIの記録再生に用いるレーザ光Lの波長によって異なる。具体的には、CD(Compact Disk)系の光記録媒体I,IIでは、トラックピッチは、通常、1.4μm以上、1.7μm以下である。DVD(Digital Versatile Disk)系の光記録媒体I,IIでは、トラックピッチは、通常、0.7μm以上、0.8μm以下である。青色レーザ用の光記録媒体I,IIでは、トラックピッチは、通常、0.1μm以上、0.6μm以下である。
【0057】
一方、案内溝の溝深さも、光記録媒体I,IIの記録・再生に用いるレーザ光Lの波長によって異なる。具体的には、CD系の光記録媒体I,IIでは、溝深さは、通常10nm以上、300nm以下である。DVD系の光記録媒体I,IIでは、溝深さは、通常10nm以上、200nm以下である。青色レーザ用の光記録媒体I,IIでは、溝深さは、通常10nm以上、200nm以下である。
【0058】
また、基板10の表面に案内溝を形成する場合には、以下のとおりである。具体的には、金属やガラスを基板10の材料として用いる場合は、通常、これらの材料の表面に光硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂の薄い樹脂層を設け、その樹脂層に溝を形成する。プラスチックを基板10の材料として用いる場合、射出成型によって、基板10の形状と表面の案内溝を一挙に形成する。射出成型に使用可能なプラスチック材料としては、従来、CDやDVD等で用いられているポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0059】
尚、基板10としては、一般的に、中心にセンターホールを有する環形状のものを用いる。環形状は特に制限されず、円盤形状、楕円形状、多角形等の様々な形状を考えることができる。但し、基板10は通常、円盤形状とする。この場合、基板10の直径を80mm又は120mm程度とするのが通常である。
【0060】
(光情報記録層11)
次に、光情報記録層11について説明する。
光情報記録層11は、レーザ光Lの照射により光学特性、物理特性等が変化し、その結果デジタル情報が記録可能な材料により構成される。光情報記録層11を構成する材料は、通常、追記型光記録媒体に用いられる有機色素材料と、書き換え可能型光記録媒体に用いられる無機物質と、に大別される。
【0061】
追記型光記録媒体に用いられる有機色素材料としては、例えば、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、ポルフィリン色素等の大環状アザアヌレン系色素;シアニン色素、メロシアニン色素、スクワリリウム色素等のポリメチン系色素;さらに、アントラキノン系色素、アズレニウム系色素、含金属アゾ系色素、含金属インドアニリン系色素等が挙げられる。特に、含金属アゾ系色素は、耐久性に優れるため好ましい。
【0062】
有機色素材料を用いて光情報記録層11を形成する場合、通常、有機色素材料を適当な溶媒に溶解した溶液を用い、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法等の塗布方法が採用される。この際、溶媒としては、通常、ジアセトンアルコール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトンアルコール溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ溶媒;テトロフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール等のパーフルオロアルキルアルコール溶媒;乳酸メチル、イソ酪酸メチル等のヒドロキシエチル溶媒等が挙げられる。
【0063】
光情報記録層11の厚さは、記録方法等により適宜選択され特に限定されないが、十分な変調度を得るために、通常、1nm以上、好ましくは5nm以上、特に好ましくは10nm以上である。但し、光を透過させるという観点から、光情報記録層11の厚さは、通常1μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0064】
尚、追記型光記録媒体の光情報記録層11として、無機材料の薄膜を用いることも可能である。このような無機材料の薄膜としては、例えば、Ge・Te、Ge・Sb・Te等のカルコゲン系合金膜;Si/Ge、Al/Sb等の2層膜;BiGeN、SnNbN等の(部分)窒化膜;TeOx、BiFOx等の(部分)酸化膜等が挙げられる。これらの薄膜は、通常、スパッタリングによって形成される。
この場合、光情報記録層11の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは2nm以上であり、通常50nm以下、好ましくは20nm以下である。
【0065】
書き換え可能型光記録媒体に使用する無機物質としては、記録・消去を可逆的に行える材料が採用される。このような材料としては、例えば、SbTe系、GeTe系、GeSbTe系、InSbTe系、AgSbTe系、AgInSbTe系、GeSb系、GeSbSn系、InGeSbTe系、InGeSbSnTe系等の相変化材料が挙げられる。これらは通常、スパッタリングによって形成される。
【0066】
(光反射層12)
本実施の形態において、光反射層12を構成する材料には、記録再生光波長に対する反射率が高く、記録再生光波長に対して70%以上の反射率を有するものが好ましい。
【0067】
記録再生光として用いられる可視光、特に、青色波長域で高反射率を示すものとしては、Au、Ag、Al及びこれらを主成分とする合金が挙げられる。中でも、Agを主成分とする合金は、反射率が高く、吸収が小さいのでより好ましい。
【0068】
また、Agを主成分とする合金に他の元素を含有させ、光反射層12の水分、酸素、硫黄等に対する耐食性を高めることができる。含有させる他の元素としては、Au、Cu、希土類元素(特に、Nd)、Nb、Ta、V、Mo、Mn、Mg、Cr、Bi、Al、Si、Ge等が挙げられる。他の元素の量は、通常、0.01原子%〜10原子%である。Agは添加物を含有させることにより平坦性が向上する性質があることから、他の元素の添加量は、0.1原子%以上が好ましく、0.5原子%以上がさらに好ましい。
【0069】
尚、この他に、光反射層12として、誘電体層を複数積層した誘電体ミラーを用いることも可能である。
【0070】
光反射層12の膜厚は、通常300nm以下、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下とする。さらに、後述する積層型の光記録媒体を形成する場合を除き、光反射層12の膜厚の下限は、30nm以上が好ましく、より好ましくは40nm以上である。
【0071】
光反射層12の表面粗さRaは、5nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。
【0072】
光反射層12はスパッタリング法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法等で形成することができる。
【0073】
(保護層13)
保護層13は、図1に示す基板面入射型の光記録媒体Iの場合と、図2に示す膜面入射型の光記録媒体IIの場合とで、要求される特性が異なるため、以下、場合を分けて説明する。
【0074】
(基板面入射型の場合の保護層13)
図1に示す基板面入射型の光記録媒体Iの場合、保護層13を構成する材料は、光反射層12、光情報記録層11を外力から保護するものであれば特に限定されない。このような材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、紫外線(以下、適宜「UV」という。)硬化性樹脂等の有機材料;酸化ケイ素、窒化ケイ素、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化スズ(SnO)等の無機材料が挙げられる。
【0075】
保護層13を構成する材料として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いる場合は、これらの材料を適当な溶剤に溶解して調製した塗布液を光反射層12の上に塗布し、乾燥させることにより保護層13を形成する。
【0076】
保護層13を構成する材料として、UV硬化性樹脂を用いる場合は、UV硬化性樹脂をそのまま又は適当な溶剤に溶解して調製した塗布液を光反射層12の上に塗布し、UV光を照射して硬化させることによって保護層13を形成する。
【0077】
UV硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等のアクリレート系樹脂等が挙げられる。これらの材料は、単独又は複数種を混合して用いても良い。また、保護層13は、単一層又は多層として形成してもよい。
【0078】
保護層13の形成方法としては、スピンコート法、キャスト法等の塗布法;スパッタリング法、化学蒸着法等が挙げられる。中でもスピンコート法が好ましい。保護層13の膜厚は、その保護機能を果たすために、ある程度の厚みが必要とされるため、通常0.1μm以上であり、好ましくは3μm以上である。但し、保護層13の膜厚は、通常100μm以下であり、好ましくは30μm以下である。保護層13の膜厚が過度に厚いと、保護層13を設けることにより得られる効果が変わらないだけでなく、保護層13を形成するのに長時間を要し、コストが増大する傾向がある。
【0079】
(膜面入射型の場合の保護層13について)
図2に示す膜面入射型の光記録媒体IIの場合、保護層13を構成する材料には、光反射層12、光情報記録層11を外力から保護する強度と、記録再生用のレーザ光Lに対して透明且つ複屈折が少ない性質が求められる。
【0080】
保護層13の形成方法としては、通常、プラスチック板(以下、シート材と呼ぶ)を光情報記録層11上に接着剤を用いて貼り合せる接着法と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、UV硬化性樹脂等の硬化性材料を用いて調製した塗布液を光情報記録層11上に塗布した後、光、放射線または熱等により硬化性材料を硬化させる塗布法とが挙げられる。
【0081】
保護層13は、記録再生用のレーザ光Lの波長λに対して透過率70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0082】
前述したシート材として用いられるプラスチックとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリオレフィン、アクリル、三酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。接着剤としては、光硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、感圧性接着剤等が挙げられる。中でも、感圧性接着剤としては、アクリル系、メタクリレート系、ゴム系、シリコン系、ウレタン系の各種ポリマーからなる粘着剤が挙げられる。
【0083】
接着法により、シート材を光情報記録層11上に接着剤を用いて貼り合せる場合、例えば、接着剤である光硬化性樹脂を適当な溶剤に溶解して塗布液を調製し、この塗布液を光情報記録層11上に塗布して塗布膜を形成し、塗布膜上にシート材を重ね合わせる。その後、必要に応じ、シート材を重ね合わせた状態で媒体を回転させ、塗布液をさらに延伸展開した後、UVランプで紫外線を照射し、光硬化性樹脂を硬化させる。
【0084】
感圧性接着剤を用いる場合、あらかじめ感圧性接着剤を塗布したシート材を光情報記録層11上に重ね合わせた後、適度な圧力で押さえつけて圧着する。
感圧性接着剤として例示した粘着剤としては、透明性、耐久性の観点から、アクリル系、メタクリレート系のポリマー粘着剤が好ましい。より具体的には、ポリマー粘着剤は、主成分モノマー(例えば、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−オクチルアクリレート等)と、極性モノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド誘導体、マレイン酸、ヒドロキシルエチルアクリレート、グリシジルアクリレート等)とを共重合させて得られる。
【0085】
ポリマー粘着剤のガラス転移温度Tg、タック性能(低い圧力で接触させたときに直ちに形成される接着力)、剥離強度、せん断保持力等の物性は、主成分モノマーの分子量、主成分モノマーが有する短鎖成分の割合、アクリル酸による架橋点密度により制御することができる。
【0086】
アクリル系ポリマーを溶解するための溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等が挙げられる。さらに、ポリマー粘着剤は、ポリイソシアネート系架橋剤を含有することが好ましい。
【0087】
シート材を光情報記録層11上に上記粘着剤を用いて貼り合せる場合、シート材の光情報記録層11側に接する表面に所定量の粘着剤を均一に塗布し、溶剤を乾燥させた後、光情報記録層11側表面に貼り合わせローラー等により圧力をかけて硬化させる。粘着剤を塗布したシート材を光情報記録層11上に接着する際は、空気を巻き込み、泡を形成することを防止するため、真空中で貼り合せることが好ましい。
【0088】
また、離型フィルム上に上記粘着剤を塗布して溶剤を乾燥した後、これにシート材を貼り合わせ、さらに離型フィルムを剥離してシート材と粘着剤層を一体化した後、光情報記録層11上に貼りあわせても良い。
【0089】
次に、塗布法によって保護層13を形成する場合、スピンコート法、ディップ法等が用いられる。特に、ディスク状媒体に保護層13を形成する場合は、スピンコート法が好ましい。塗布法によって保護層13を形成する場合に使用する材料としては、前述した接着法の場合と同様に、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。塗布法の場合、これらの樹脂を用いて調製した塗布液を光情報記録層11上に塗布後、塗布層に紫外線、電子線、放射線等を照射し、ラジカル重合又はカチオン重合を促進させて硬化させ、保護層13を形成する。
【0090】
尚、必要に応じ、保護層13の入射光側表面に、厚さ0.1μm〜50μm程度のハードコート層をさらに設けることもある。ハードコート層を設けることにより、保護層13の耐擦傷性、耐指紋付着性等が向上する。
【0091】
保護層13の厚みは、記録再生用のレーザ光Lの波長λや対物レンズのNA(開口数)により適宜選択され特に限定されないが、0.01mm以上が好ましく、さらに0.05mm以上が好ましく、また0.3mm以下が好ましく、さらに0.15mm以下がより好ましい。この場合、接着層やハードコート層等の厚みを含む全体の厚みが、光学的に許容される厚み範囲となるようにするのが好ましい。例えば、いわゆるブルーレイディスク(Blu−ray)では、100μm±3μm程度に制御するのが好ましい。
【0092】
(その他の構成)
尚、本実施の形態で説明した光記録媒体I,IIは、上述の各層の他に、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の層を有していてもよい。例えば、上記各層の間に、相互の層の接触・拡散防止や、位相差及び反射率の調整のために、界面層を挿入することができる。
【0093】
また、2層以上の光情報記録層11を有する積層型の光記録媒体にも本発明を適用することが可能である。その場合、印刷受容層15及び下地層14以外の各層については、材料や膜厚等を適宜変更することで実現可能である。いずれにしろ、記録再生用のレーザ光Lの入射側と反対側の光記録媒体の最表面に、印刷受容層15及び下地層14を有する構成であれば良い。
【実施例】
【0094】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されない。
【0095】
(印刷受容層以外の光記録媒体の製造方法)
トラックピッチ0.74μm、溝幅320nm、溝深さ160nmの案内溝を有する厚さ0.6mmのポリカーボネート製の基板上、含金アゾ系色素からなる記録層をスピンコート法により設けた。その上に、銀(Ag)をスパッタ法により堆積させ、120nmの厚みのAg反射層を形成した。さらにこの反射層上にUV硬化型接着剤を用いて、厚さ0.6mmのポリカーボネート製のダミー基板を張り合わせ、光記録媒体を作製した。その後、下地層として、紫外線硬化インクをスクリーンで印刷し、高圧水銀灯を用いて紫外線を照射させることで硬化し、膜厚10μmの白色下地層を形成した。
【0096】
(印刷受容層用塗布液の調整方法)
印刷受容層用塗布液は、多孔質層を形成するため、主材料として、シリカ分散液と、親水性バインダーとしてポリビニルアルコールを用い、粘度はブルックフィールド社製の粘度計であるビスコメーター(RVDV−II+)により、25℃にて測定した。
【0097】
(印刷受容層の形成方法)
上記印刷受容層用塗布液を用い、スピンコート法で塗布を行った。ここでは、印刷受容層の膜厚が、15〜20μm程度となるように、印刷受容層塗布液の塗布条件を以下のように制御した。実施例1、2、3、比較例1、3のスピンの振り切り回転数は、1200rpmで、1.0秒間振り切りを行った。実施例4、5はスピンの振り切り回転数は1200rpmで、振り切り時間は各々、1.0秒間、0.3秒間であった。比較例2は、スピンの振り切り回転数は、900rpmで、0.3秒間振り切りを行った。

【0098】
(外周排気による乾燥方法)
図3に示す乾燥装置に、上記塗布後の光記録媒体を載置し、後述する所定の外周排気条件において、25℃の室温に20分放置することで乾燥を行い、光記録媒体を作製した。Gapxはいずれも3mmで一定とした。
【0099】
(外周近傍の風速測定法)
外周近傍の風速の測定は、ギャップ部に風量計のセンサを配置することにより行った。風量計は市販のものを適宜使用可能であるが、ここでは、Testo社製(405−V1)を用いた。
【0100】
(膜厚均一性の評価方法)
膜厚の均一性の評価は、塗布乾燥後の印刷受容層表面を目視観察することにより行った。液戻りが印刷画像に及ぼす外観上の影響を、下記表1の基準により評価した。
【表1】

【0101】
上記評価指標において、×以外であれば実用に耐えうるものと判断する。
(実施例1〜5、比較例1〜2)
排気量を大、小の2段階、Gapyを5mm、12mmの2段階で変更し、外周近傍の風速の変化による外観評価への影響と、塗布液の粘度を変更して、粘度の変化による外観評価への影響を調べた結果を表2に示す。
【表2】

【0102】
実施例1〜3、比較例1において、塗布液の粘度を一定とし、排気量とGapyにより、Gap部での風速を1.4m/s〜6.4m/sの範囲で変更した場合、3m/s以上で、外観評価指標△以上の良好な結果が得られているが、1.4m/sでは×となっており、3m/s以上の風速が必要であることが判る。
【0103】
また、実施例4と実施例5、比較例2の場合は、Gapでの風速は一定とし、塗布液の粘度のみを202cP〜638cPの範囲で変更した場合の結果であるが、300cP以上の粘度において、外観評価指標△以上の良好な結果が得られている。
【0104】
(比較例3)
実施例1と同様の記録媒体を用いて、本発明の外周排気による乾燥方法の代わりに、装置下部からの排気を行わず、フードを取り外した状態で、光記録媒体の中心孔直上の位置から、ブロワーにより送風を行いながら乾燥を行った。この際の風速は、光記録媒体の中心孔の直上5mmの位置で5m/sとした。
【0105】
上記方法で乾燥を行った光記録媒体の外観を確認したところ、液戻り部にひび割れが発生し、外観評価指標では×であった。このことから、単に光記録媒体に大きな風速で風を当てるだけでは良好な乾燥状態が得られず、外周下部から排気を行うことが、液戻りに対して効果があることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本実施の形態が適用される光記録媒体(光記録媒体I)の一例を説明する模式図である。
【図2】本実施の形態が適用される光記録媒体(光記録媒体II)の一例を説明する模式図である。
【図3】本実施の形態における乾燥装置の概要を説明する概略図である。
【図4】図3のXで示された部分を拡大した概略図である。
【符号の説明】
【0107】
1 テーブル
2 スピンドル
3 駆動装置
4 フード
5 排気装置
6 廃棄口
7 カップ
8 ドレイン口
10 基板
11 光情報記録層
12 光反射層
13 保護層
14 下地層
15 印刷受容層
L レーザ光
I、II、III 光記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に少なくとも光情報記録層及び印刷受容層とを有するディスク状の光記録媒体の製造方法であって、
粘度が300cP以上の液状材料をスピンコートすることにより前記印刷受容層を形成する工程と、
前記スピンコート後に前記光記録媒体の外周近傍における風速が3.0m/s以上となるように光記録媒体の外周下方から排気を行うことで前記印刷受容層の乾燥を行う工程とを有する
ことを特徴とする、光記録媒体の製造方法。
【請求項2】
基板と、前記基板上に少なくとも光情報記録層及び印刷受容層とを有するディスク状の光記録媒体の製造装置であって、
スピンコートすることにより前記印刷受容層を形成する手段と、
前記スピンコート後に前記光記録媒体の外周近傍における風速が3.0m/s以上となるように光記録媒体の外周下方から排気を行うことで前記印刷受容層の乾燥を行う手段とを有する
ことを特徴とする、光記録媒体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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