説明

光記録媒体及び光記録媒体再生装置

【目的】 再生時の読出レーザ光波長と対物レンズ開口数により規定される空間周波数を越える情報が記録された光ディスクおよびその再生装置を提供する。
【構成】 第1の発明は、位相ピットによる情報記録媒体であって、外部から照射された読出光の強度分布、照射による温度分布に対応して、情報記録面上の読出光スポット内の高温領域と低温領域内の反射光または透過光の偏光状態が異なるような、補償温度が室温より高くかつキュリー温度より低い特性を有する偏光状態変化層を設ける。また、第2の発明は、第1の発明の光記録媒体に読出光の光照射手段と、読出光の反射光または透過光のうちから第1の領域もしくは第2の領域からの読出光のいずれか一方のみを分離する分離手段と、分離された読出光を受光し読出信号として出力する受光手段と、読出信号に基づいて光記録媒体の記録情報の再生動作を行う再生手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は位相ピットにより情報が記録された光記録媒体及びその再生装置に係り、特に再生時の読出光の波長および対物レンズの開口数により規定される空間周波数を越える空間周波数を有する情報を記録した光記録媒体及びその再生装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のCD(Compact Disk)やLD(Laser Disk)等に代表される光ディスクにおいて、読出レーザ光のビームスポットが(位相)ピットに照射された時に回折や散乱あるいはピット部分の光学定数の変化によって生じる反射光量の減少を光検出器で検出することにより、ピットの有無に対応した情報を取り出していた。より具体的には、ピット上に読出レーザ光のスポットが照射されている場合(図13(a)参照)には、散乱などにより反射による戻り光量(反射光量)が小さく、ピット間に読出レーザ光のスポットが照射されている場合(図13(b)参照)には戻り光量が大きいことを利用して情報を読み出している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来における光ディスクの再生分解能は、読出レーザ光の波長λと、対物レンズの開口数NAによって制限され、空間周波数fc =2NA/λを越える周波数成分を有する情報を再生することはできないという問題点があった。
【0004】そこで本発明の目的は、再生時の読出レーザ光の波長λと、対物レンズの開口数NAによって規定される空間周波数fc =2NA/λを越える空間周波数を有する情報が記録された光記録媒体及びその光記録媒体を分離度良く再生することが可能な光記録媒体再生装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、第1の発明は、位相ピットによって情報が保持された光記録媒体であって、外部から照射された読出光の強度分布あるいは読出光の照射に伴う温度分布に対応して、前記情報記録面上の読出光スポット内の第1の領域内の反射光または透過光の第1の偏光状態を当該読出光スポット内の他の領域である第2の領域内の反射光または透過光の第2の偏光状態とは異なるように変化させる磁性層を備え、この磁性層は補償温度が室温より高くかつキュリー温度より低い特性を有するフェリ磁性材料から成る光記録媒体である。
【0006】また、第2の発明は、第1の発明の光記録媒体から記録情報を再生する光記録媒体再生装置であって、光記録媒体に読出光を照射する光照射手段と、照射された読出光の光記録媒体の反射光または透過光のうちから、第1の偏光状態を有する読出光または第2の偏光状態を有する読出光のいずれか一方のみを分離する分離手段と、分離手段により分離された読出光を受光し読出信号として出力する受光手段と、読出信号に基づいて光記録媒体の記録情報の再生動作を行う再生手段とを備えて構成される。
【0007】
【作用】第1の発明によれば、偏光状態変化層は、外部から照射された読出光の強度分布あるいは読出光の照射に伴う温度分布に対応して、情報記録面上の読出光スポット内の第1の領域内の反射光または透過光の偏光状態である第1の偏光状態を当該読出光スポット内の他の領域である第2の領域の反射光または透過光の偏光状態である第2の偏光状態とは異なるように変化させる。
【0008】更に、当該磁性層は補償温度が室温より高くかつキュリー温度より低いため、磁性層の全体磁化が同じ向きになるようにしておけば前記第1の偏光状態と前記第2の偏光状態との偏光回転方向が相反する。
【0009】したがって、第1の偏光状態を有する読出光あるいは第2の偏光状態を有する読出光のいずれか一方のみを受光することにより、情報記録面上の読出光スポット内の第1の領域内あるいは第2の領域内のいずれか一方に記録されている位相ピット(記録情報)のみの情報を再生することが可能となる。
【0010】また、第2の発明によれば、光照射手段は、光記録媒体に読出光を照射し、分離手段は、この照射された読出光の光記録媒体の反射光または透過光のうちから、第1の偏光状態を有する読出光または第2の偏光状態を有する読出光のいずれか一方のみを分離する。
【0011】これにより、受光手段は、分離手段により分離された読出光を受光し読出信号として再生手段に出力し、再生手段は読出信号に基づいて光記録媒体の記録情報の再生動作を行う。
【0012】したがって、それぞれが読出光スポット内の一部分である第1の領域からの第1の偏光状態を有する読出光または第2の領域からの第2の偏光状態を有する読出光のいずれか一方のみに含まれる記録情報のみを精度良く再生することができ、読出光スポット内に記録ピットが複数個存在するような場合に高い空間周波数を有する情報を再生することが可能となる。
【0013】
【実施例】次に、本発明の好適な実施例による光記録媒体及び光記録媒体再生装置を、図面に基づいて説明する。
(i)第1実施例まず、本発明に係る光ディスクの構造について説明する。図1に光ディスクの断面図を示す。
【0014】光ディスク1は、図1(a)に示すように、位相ピットが形成された基板2と、入射した直線偏光である読出光の偏光状態を、読出光の照射に伴う温度分布に対応して回転させる偏光状態変化層としての材料層3と、材料層3を保護する保護層4a、4bと、を備えて構成されている。なお、以下の説明においては、材料層3、保護層4a及び保護層4bをまとめて光磁気層と呼ぶ。
【0015】光ディスク1の具体的な構成としては、基板側から見て、誘電体保護層であるSiN層4a(80nm)、磁気光学効果を示す材料層であるGdFeCo層3(90nm)、誘電体保護層であるSiN層4b(50nm)の順番で形成されている。なお、括弧内の数値は各層の厚さの一例を示している。また、この場合において、偏光状態の回転は、主として反射による磁気光学効果の偏光面回転であるカー効果による。
【0016】また、図1(b)に示す光ディスク1’も、図1(a)において示したディスク1と同様の層構成を持ち、基板2と、偏光状態変化層としての材料層3と、保護層4aおよび4bとを備えて構成されている。
【0017】光ディスク1’と光ディスク1との相違は、材料層3にGdFeCoの代わりにTbFeCo層が使われている点である。この場合における偏光状態の回転は、光ディスク1と同じカー効果による。
【0018】図1(a)および(b)に示す光ディスク1および1’は、材料層であるGdFeCo層3およびTbFeCo層3が厚くて反射率が高く、別に反射層を設ける必要がなかったが、光磁気層として薄く若しくは低反射率のものを用いて、反射型の光ディスク1”として用いるには、図1(c)に示すように、反射層5を設ける必要がある。好適には、反射層5として、AlTi、Al、Au等を用いることができる。この場合の偏光状態の回転は、カー効果及び透過偏光面に対する磁気光学的回転を行うファラデー効果による。
【0019】具体的には、光ディスク1”は、基板側からみて、誘電体保護層であるSiN層4a、磁気光学効果を示す材料層であるGdFeCo層3、誘電体保護層であるSiN層4bの順番で形成され、さらに保護層および反射層としてのAlTi層5を設けている。この場合、ディスク1で用いたGdFeCoは層厚が薄いので、低反射率の材料層となっている。
【0020】具体的には、本発明を適応できる補償点材料として、以下の式(1)〜(3)に挙げるものがある。
TbFe、TbFeCo (Tb > 23〔at% 〕) ……(1)
GdFe、GdFeCo (Gd > 24〔at% 〕) ……(2)
DyFe、DyFeCo (Dy > 26〔at% 〕) ……(3)
その他のものとして、NdTbFeCo、NdDyFeCo等が考えられる。なお、〔at% 〕は原子パーセントであり、全体に占める当該原子数量を示す。例えば、An m ……(4)
という表示では、n + m = 100 ……(5)
であり、式(4)の意味は、全原子の個数中n%のA原子およびm%のB原子によってこの物質が組成されるという意味である。
【0021】この表現によれば、本発明のディスク1における偏光状態変化層3の材質は、Gd25(Fe70Co3075 〔at% 〕 ……(6)
等で表され、光ディスク1’における偏光状態変化層3’は、Tb25(Fe80Co2075 〔at% 〕 ……(7)
等で表される。
【0022】次に、本実施例における光磁気ディスクに使われる光磁気材料の特性について図5乃至図7に基づいて説明する。最近、多くの光磁気記録材料として、希土類金属RE(Rare Earth)−遷移金属TM(Transition Metal)アモルファス合金が用いられている。その磁気的性質として、遷移金属と重希土類金属の持つ部分磁化が反平行になるフェリ磁性を示す。
【0023】図5に示すように、これらの部分磁化の大小関係によって全体の磁化の向きが、図5(a)のように遷移金属の部分磁化方向になったり(TM−rich)、図5(b)のように、希土類金属の部分磁化方向になったり(RE−rich)する。図5において、実線は遷移金属の部分磁化であり、破線は希土類金属の部分磁化である。また、矢印の向きは磁化の方向であり矢印の長さは磁化の強さを表す。
【0024】また、上記のようなフェリ磁性体の中には希土類金属の部分磁化が遷移金属の部分磁化よりも温度に対する依存性が大きいために、合金の組成によっては補償温度(Compensation Temperature:Tcomp)という磁化方向が逆転する温度を持つ場合もある。このような特性を持つ媒体を補償点材料といい、これを図6に示す。全体の磁化Msがキュリー温度Tcに近づく前に急激に減少し、補償温度Tcompにおいて見かけ上磁化がゼロになり、また保持力Hcが非常に大きくなる。
【0025】希土類REの原子磁気モーメントをμR 、遷移金属TMの原子磁気モーメントをμT とすると、希土類金属RE−遷移金属TM合金、RE1 −X TMx における平均原子磁気モーメントμRTは、式(8)となる。
【0026】
μRT = |(1−X )μR ± X μT | ……(8)
ここで、複合の+は軽希土類、−は重希土類に対して適用される。そのため、本発明に適応する光磁気媒体においては、RE、TM両者の磁化モーメントの結合である全体磁化の向きは補償温度Tcomp以下であっても、また、それ以上であっても変化しないが、部分磁化の向きのみが互いに反転するのである。これらの性質を示す媒体には、GdCoやTbCoのように遷移金属としてCoを用いたものが知られている(1986年12月:日本応用磁気学会セミナー 名古屋大内山晋氏論文)。これにより、合金全体の磁化Msは遷移金属の部分磁化と希土類金属の部分磁化との差として観測される。
【0027】図6下の矢印はこの時の部分磁化の様子を、図5の表現に基づいて示したものである。さて、本発明による光磁気媒体はこのような補償点材料において、室温TR および読出光照射時の低温領域温度Tlow が補償温度Tcomp以下と成るよう、また、読出光照射時の高温領域温度Thighが補償温度Tcomp以上になるように膜の特性を調節して構成される。図6において、この様子が室温点TR (*印)および読出光を照射した場合の高温領域温度Thighおよび低温領域温度Tlow の関係で示してある。 一方、上記した特性を有する光磁気媒体におけるフェリ磁性体は、図7に示すカー回転角の波長依存性を有することが知られている(博士論文:KDD 田中富士雄氏(早大))。図においては、カー回転角は希土類元素によらずほぼ同じ位の値で、いずれも波長に対して僅かに増加している。特に、このようなRE−TM系光磁気媒体におけるカー回転角は、波長の長いところ(波長600〔nm:ナノメートル〕)以上において遷移金属TMの磁化に依存している。このことにより、補償点材料を用いた光磁気媒体においては、読出光として波長の長いレーザーを用いた時、反射光によるカー回転角は遷移金属TMの部分磁化の向きにほぼ比例して変化することがわかる。
【0028】よって、再生磁界により全体磁化の向きを常に一方向に揃えておけば、図6における室温点TR (*点)および照射光の低温領域温度Tlow における遷移金属TMの部分磁化の向きと読出光の高温領域温度Thighとなった媒体上での遷移金属TMの部分磁化の向きとは、互いに反転しており、したがって、カー回転の方向性も逆転していることになる。
【0029】次に、本発明による光磁気媒体の再生原理について説明する。図2(a)に示す初期状態においては、永久磁石等の磁化手段MG1により、光磁気ディスクの光磁気層のすべての領域の垂直磁化方向はすべて同一方向(図面中、下方向)となるようにする。この時、高温領域においての磁化は遷移金属TMによって担われ、光スポットが通過し常温に戻った場所での全体磁化は、希土類金属REによって担われている。
【0030】そして再生時に、図2(b)に示すように、読出光の出力を調整した光スポットが照射されると、少なくとも光スポットの照射されている領域のうちの高温領域の温度が補償温度Tcompを越えるとこの高温領域の部分磁化構成が変わり、全体磁化は遷移金属TMによって担われるようになる。
【0031】この結果、全体のカー効果もしくはファラデー効果の磁気光学効果による回転角は遷移金属TMのスピンによって決まることから、高温領域では−θkaの偏光状態が与えられ、その他の常温領域や低温領域では材料に依存した所定角度+θkbの偏光状態が与えられる。
【0032】したがって、入射した読出光は高温領域において、読出光と−θkaの偏光状態で検出器によって受光され、また、光スポット内の高温領域を除く低温領域では、+θkbだけ読出光の偏光状態が回転した偏光状態を有する再生光が検出器により受光される。
【0033】そこで、偏光状態の異なる2種の再生光を、偏光フィルタ、差動光学系等の分離手段を用いて分離すれば、読出光スポット内の一部分に存在するピットの情報を選択的に検出することができる。
【0034】このことは、光学的には読出光の波長λ及び対物レンズの開口数NAにより規定される読出光スポットの直径rよりも小さな開口を有するピンホールを光ディスクの情報記録面上に設けたことと等価となり、読出光スポット内に複数個存在するような微小サイズの位相ピット、すなわち、高い空間周波数f(f>fC )を有する位相ピットの情報を再生することが可能となる。
【0035】なお、必ずしも垂直磁気異方性を持つ必要は無く、垂直磁化が成されていない時には再生磁界Hrを印加することによる外部磁界で、幕の磁化を垂直に揃えられる。
【0036】図3に光ディスク再生装置の主要部の構成を示す。光ディスク再生装置10は、読出光であるレーザ光を出射するレーザダイオード11と、レーザダイオード11から入射したレーザ光を透過し、後述のミラーから入射したレーザ光を反射するビームスプリッタ12と、レーザ光を導くためのミラー13と、レーザ光を光ディスクDKの情報記録面上に集光する対物レンズ14と、ビームスプリッタ12により反射されたレーザ光(再生光)のうち非読出領域(低温領域)からのレーザ光の後述の偏光ビームスプリッタにおける反射光量と透過光量の比率を調整する二分の一波長板(halfwave plate)15と、所定の偏光状態を有する偏光のみを透過し、他の光を反射する偏光ビームスプリッタ16と、偏光ビームスプリッタにより反射された偏光を受光し、第1読出信号R1 (RF信号)として出力する第1受光素子17aと、偏光ビームスプリッタ16を透過した偏光を受光し、第2読出信号R2 (RF信号)として出力する第2受光素子17bと、デコーダ、アンプ等を含み読出信号Rを再生信号Sに変換して出力する再生回路18と、光ディスクDKの垂直磁化方向を一定方向に揃える磁石MG1 と、を備えて構成されている。
【0037】次に、図4を参照して本実施例の動作を説明する。まず、光ディスクDKの光磁気層に磁石MG1 を用いて外部磁界Hi を与え、記録情報読出前の垂直磁化方向を一定方向(初期化:図面では、下方向。)とする初期化を行なう。初期化は、ビームスポットを照射し媒体の保磁力が低くなったところで行っても良いし、また保磁力を越える強い外部磁界で行っても良い。
【0038】以下の説明においては、あらかじめ光ディスクDKの全ての領域の垂直磁化方向を磁石MG1 により初期化する場合について説明する。レーザダイオード11から出射された直線偏光である読出光(レーザ光)のスポットLBは、ミラー13、ビームスプリッタ12、対物レンズ14を介して光ディスクDKの情報記録面上に集光され、図4(a)に示すように、トラックT1 上に読出スポットLBを形成し、この読出スポットLBはディスクDKの回転によりトラックT1 上を移動する。
【0039】ところで、トラックT1 上には、読出光の波長λ及び対物レンズ14の開口数NAで規定される空間周波数fc =2NA/λを越える空間周波数f(f>fC)を有する位相ピットが形成されている。具体的には、読出光スポットLB内に複数個の位相ピットP2 、P3 が存在し、このままではそれらの位相ピットP2、P3 の情報を分離することができず、正しい再生を行なうことができない。同様にして、図4(b)に示すように、読出光スポットLB内に複数のトラックT0 ’、T1 ’、T2 ’が含まれるような場合にも正しい再生を行なうことができない。
【0040】そこで、読出光の出力を調整すると、図4(c)に示すように、材料層の温度は、読出光スポットLBの後方部分の領域ARにおいてキュリー温度Tc以下であって補償温度Tcomp以上(図6におけるThighの位置)に上昇し、例えば、図4(a)に示すような場合、位相ピットP2 が存在する領域ARの遷移金属TMの部分磁化の方向が反転する。
【0041】この結果、遷移金属TMの部分磁化が反転した領域AR内においては、読出光の情報記録面による反射光である再生光の偏光状態は読出光の偏光状態から磁気光学効果により材料に依存した角度(−θka)だけ回転した偏光状態で、受光素子側に戻ることとなる。一方、領域ARを除く読出光LB内の位相ピットP3 が存在する領域XARにおいては、再生光の偏光状態は読出光の偏光状態と比較して、磁気光学効果により材料層に依存したある角度(+θkb)だけ回転した状態で受光素子側に戻ることとなる。
【0042】領域AR及び領域XARからの再生光は混合状態で受光素子17a、17bに達するが、二分の一波長板15等を調節することにより、領域XARからの再生光量が第1受光素子17aと第2受光素子17bに等量づつ入射するように設定すると、第1読出信号R1 と第2読出信号R2 の差を取れば(差動出力)、領域XARからの再生光による信号成分は相殺され、領域XARはみかけ上遮蔽されることとなる。したがって、再生回路18においては、領域AR、すなわち、位相ピットP2 の情報のみを読み出すことが可能となり、再生信号Sは位相ピットP2 の情報のみを含むこととなる。
【0043】以上の説明のように、本第1実施例によれば、読出光の波長λと対物レンズ14の開口数NAによって規定される空間周波数fC (=2NA/λ)を越える空間周波数fを有する情報を再生することが可能となる。その上、領域ARの再生光と領域XARの再生光との間にはθka+θkbもの偏光状態の差が存在するので、C/N(Carrier to Noise ratio)特性がθkaのみの偏光角度差を有するシステムよりも良い。
【0044】また、上記実施例における光学系は、現在広く用いられている書換可能型光磁気ディスクの記録再生装置と等価であるため、装置を共用することが可能となる。
【0045】さらに、二分の一波長板15等の調節によって、見かけ上遮蔽される領域を設定することができるので、図4(b)に示すように、ピット列方向ばかりでなく、トラックピッチ方向にも高密度化された光ディスクであっても、トラック間クロストーク、ピット間クロストークの発生が減少し、あるいは無視できるため、所望の位相ピットのみの情報を正確に再生することが可能となる。
(ii)第2実施例上記第1実施例の光ディスク再生装置においては、2個の受光素子を有する差動光学系を用いて記録情報の再生を行っていたが、本第2実施例は、1個の受光素子を用いて光学系を構成した場合の実施例である。
【0046】図8に光ディスク再生装置の主要部の構成を示す。図6の第1実施例と同一の部分には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。光ディスク再生装置10Aは、読出光であるレーザ光を出射するレーザダイオード11と、レーザダイオード11から入射したレーザ光を透過し、後述のミラーから入射したレーザ光を反射するビームスプリッタ12と、レーザ光を導くためのミラー13と、レーザ光を光ディスクDKの情報記録面状に集光する対物レンズ14と、ビームスプリッタ12により反射されたレーザ光(再生光)のうち読出領域からのレーザ光のみを透過させる偏光板と、偏光板を透過した偏光を受光し、読出信号R’(RF信号)として出力する受光素子17’と、デコーダ、アンプ等を含み読出信号Rを再生信号Sに変換して出力する再生回路18と、を備えて構成されている。
【0047】次に動作を説明する。レーザダイオード11を出射したレーザ光はビームスプリッタ12を透過し、ミラー13により反射され、さらに対物レンズ14によりレーザ光を光ディスクDKの情報記録面上に集光される。
【0048】この時、ビームスポット内の光ディスクDKの状態は、図9に示すように、ビームの進行方向前方の領域が低温領域AL となりカー回転角(+θkb)(ほぼ一定値)となり、進行方向後方の領域が高温領域AH となりカー回転角(−θka)(ほぼ一定値)となる。
【0049】そこで、偏光板15をレーザダイオード側からの入射光と角度(−θka)の偏光面を有する光を通すように設定すれば、低温領域AL からの反射光は偏光板15を透過しづらくなるので、高温領域AH からの反射光(カー回転角(−θka))のみが偏光板15を透過し、受光素子R’により受光され、再生回路18により、再生信号Sとして出力されることとなる。
【0050】すなわち、低温領域AL がマスク領域となり、高温領域AH が読出領域となる。したがって、トラックピッチ方向にも記録密度を向上させることができ、より高空間周波数を有する記録情報を再生することが可能となる。
(iii )第3実施例トラックピッチ方向にも高密度化された光ディスクにおいては、クロストークを低減し、良好な再生信号を得るためには、マスク領域を書換可能型光磁気ディスク再生装置における読出領域と反転させる必要があるため、二分の一波長板を調整する必要があり、従来の書換可能型光磁気ディスク再生装置の光学系と共用することは困難となっていた。
【0051】そこで、本実施例は光学系を書換可能型光磁気ディスク再生装置の光学系と共通とし、信号処理によりトラックピッチ方向にも高密度化された光ディスクを読取れるようにしたものである。
【0052】図10に光ディスク再生装置の主要部の構成を示す。光ディスク再生装置10Bは、読出光であるレーザ光を出射するレーザダイオード11と、レーザダイオード11から入射したレーザ光を透過し、後述のミラーから入射したレーザ光を反射するビームスプリッタ12と、レーザ光を導くためのミラー13と、レーザ光を光ディスクDKの情報記録面上に集光する対物レンズ14と、ビームスプリッタ12により反射されたレーザ光(再生光)のうち非読出領域からのレーザ光の後述の偏光ビームスプリッタにおける反射光量と透過光量の比率を調整する二分の一波長板(halfwave plate)15と、所定の偏光状態を有する偏光のみを透過し、他の光を反射する偏光ビームスプリッタ16と、偏光ビームスプリッタにより反射された偏光を受光し、第1読出信号R1 (RF信号)として出力する第1受光素子17aと、偏光ビームスプリッタ16を透過した偏光を受光し、第2読出信号R2 (RF信号)として出力する第2受光素子17bと、デコーダ、アンプ等を含み読出信号Rを再生信号Sに変換して出力する再生回路18aと、光ディスクDKの垂直磁化方向を一定方向に揃える磁石MG1 と、を備えて構成されている。
【0053】再生回路18aの主要部の構成を図11に示す。再生回路18aは、第1読出信号R1 及び第2読出信号R2 が入力され、両者を加算して加算信号SUM(=R1 +R2 )を出力する加算器30と、第1読出信号R1 及び第2読出信号R2 が入力され、第1読出信号R1 から第2読出信号を減算して減算信号DIFF(=R1 −R2 )を出力する第1減算器31と、減算信号DIFFに係数K(=1/tan(θka+θkb))を乗じて乗算信号MUL(=K×DIFF)を出力する乗算器32と、加算信号SUMから乗算信号MULを減算して再生信号Sを出力する第2減算器33と、を備えて構成されている。
【0054】次に動作を説明する。図12に示すように、読出信号(カー回転角=−θka)の成分を示すベクトルをa1 、その第1受光素子17aに入射する成分をa1 、その第2受光素子17bに入射する成分をa2 とし、マスクすべき信号(カー回転角=θkb)の成分を示すベクトルをb、その第1受光素子17aに入射する成分をb1 、その第2受光素子17bに入射する成分をb2 とすると、R1 =a1 +b12 =a2 +b2が成立する。
【0055】ここで、加算信号SUM及び減算信号DIFFを上記各成分で示すと、SUM=R1 +R2=(a1 +b1 )+(a2 +b2
DIFF=R1 −R2=(a1 +b1 )−(a2 +b2
=b1 −b2ここで、再生信号SをS=SUM−K×DIFFと定義すると、S=2(a1 +a2 )+b1 +b2 −K(b1 −b2
となり、読み出したい信号成分は2(a1 +a2 )であるので、b1 +b2 −K(b1 −b2 )=0を満たすように、定数Kを定めればよいこととなる。すなわち、 K=(b1 +b2 )/(b1 −b2 ) ……(A)
となる。
【0056】ところで、図12からわかるようにtan(θka+θkb+(π/4))=b1 /b2であるので、b1/b2 =(1+tan(θka+θkb))
/(1−tan(θka+θkb)) ……(B)
となる。
【0057】したがって、(A)式及び(B)式より、 K=1/tan(θka+θkb) ……(C)
となる。
【0058】これにより、(C)式で示される係数Kを用いて図11の再生回路を用いて再生を行えば、従来の書換可能型光磁気ディスク再生装置の光学系を用いてクロストークを生じることなく、確実に記録情報を再生することが可能となる。
【0059】この場合において、係数Kを最適化する方法としては、1) 光ディスク内の変動は無視できると仮定し、予めカー回転角θkaおよびθkbを測定し、係数Kを設定する。
【0060】2) 光ディスク内に無信号部を一定間隔で設け、これに同期してカー回転角θkaおよびθkbを測定して、係数Kを設定する。
3) 読出用のビームとは別個にカー回転角θK 測定用の補助ビームを設けて、カー回転角θkaおよびθkbを測定し、係数Kを設定する。
等の方法が考えられる。
【0061】なお、光学系によってθK を強調している場合には、係数Kにこの強調分を加味する必要がある。
他の変形例以上の各実施例においては、光磁気記録材料について述べたが、光磁気記録材料に限らず、照射する光の強度あるいは材料層の温度に依存して偏光状態が初期の偏光状態に対して変化を生じる材料(例えば、フォトクロミック材料等)であれば、本発明を適用することが可能である。
【0062】さらに、以上の各実施例においては、レーザダイオード11の出射レーザ光をビームスプリッタ12、ミラー13、対物レンズ14を介してそのまま光ディスクDKの情報記録面に照射していたが、直線偏光性をよくするために、レーザダイオード11とビームスプリッタ12の間の光路中に偏光板を設け、偏光板を介して光ディスクDKに照射させてもよい。
【0063】さらにまた、以上の各実施例においては、読出光を直線偏光とする場合について説明したが、楕円偏光を用いるように構成することも可能である。また、偏光状態は2種類に限らないので、複数の偏光状態の再生光から一の偏光状態を有する再生光を分離するように構成しても良い。
【0064】
【発明の効果】第1の発明によれば、偏光状態変化層は、外部から照射された直線偏光である読出光の強度分布あるいは読出光の照射に伴う温度分布に対応して、情報記録面上の読出光スポット内の第1の領域内の反射光または透過光の偏光状態である第1の偏光状態を当該読出光スポット内の他の領域である第2の領域の反射光または透過光の偏光状態である第2の偏光状態とは異なるように変化させるので、第1の偏光状態の偏光状態を有する読出光あるいは第2の偏光状態を有する読出光のいずれか一方のみを受光することにより、情報記録面上の読出光スポット内の第1の領域内あるいは第2の領域内のいずれか一方に記録されている位相ピット(記録情報)のみの情報を再生することが可能となる。
【0065】また、第2の発明によれば、それぞれが読出光スポット内の一部分である第1の領域からの第1の偏光状態を有する読出光または第2の領域からの第2の偏光状態を有する読出光のいずれか一方のみに含まれる記録情報のみを再生することができ、読出光スポット内に複数個存在するような場合に高い空間周波数を有する情報を再生することが可能となる。
【0066】以上の通り、本発明によれば、空間周波数の高い信号を大きな偏光回転角の差により分解能良く読出すことが出来る。また、読出光のマスクを1層のみで実現できるため、光磁気層を薄くして反射膜をつける構成が実現できる。このようにすれば、カー楕円率の利用が容易となり、したがって、円偏向を入射しマスクを反射率変化するものとして使うことができる。よって、通常のLD,CD用のピックアップを用いて本発明の超解像光ディスクをも再生できる。
【0067】また、光磁気膜を薄くして熱伝導率の大きな反射膜を媒体の間近に置け、熱マスクの成型をより良くおこない得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例の光ディスクの詳細構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例における光ディスクの再生原理を説明する図である。
【図3】第1実施例における光ディスク再生装置の主要部の構成図である。
【図4】第1実施例における再生動作の説明図である。
【図5】フェリ磁性体における部分磁化と全体磁化の向きの説明図である。
【図6】補償点材料における磁化曲線の変化を説明する図である。
【図7】フェリ磁性体に置けるカー回転角の波長依存性を説明する図である。
【図8】第2実施例における光ディスク再生装置の主要部の構成図である。
【図9】第2実施例における動作を説明する図である。
【図10】第3実施例における光ディスク再生装置の主要部の構成図である。
【図11】第3実施例における再生回路の詳細な構成図である。
【図12】第3実施例における動作を説明する図である。
【図13】従来の情報読出原理の説明図である。
【符号の説明】
1…光ディスク
2…基板(位相ピット付き)
3…光磁気層(GdFeCo層)
3’…光磁気層(TbFeCo層)
4a…誘電体層(SiN層)
4b…誘電体層(SiN層)
5…反射層(AlTi層)
10…光ディスク再生装置
11…レーザーダイオード
12…ビームスプリッタ
13…ミラー
14…対物レンズ
15…二分の一波長板
16…ビームスプリッタ
17a…第1受光素子
17b…第2受光素子
17’…受光素子
18、18a…再生回路
30…加算器
31…第1減算器
32…乗算器
33…第2減算器
H …高温領域
M …中温領域
L …低温領域
1 …第1読出信号
2 …第2読出信号
R’…読出信号
DIFF…減算信号
SUM…加算信号
MUL…乗算信号
MG1 …磁石
LB…読出光スポット
1 〜P4 …位相ピット
C …キュリー温度
comp…補償温度
low …低温領域温度
high…高温領域温度
R …室温

【特許請求の範囲】
【請求項1】 位相ピットによって情報が保持された光記録媒体であって、外部から照射された読出光の強度分布あるいは前記読出光の照射に伴う温度分布に対応して、前記情報記録面上の前記読出光スポット内の第1の領域内の反射光または透過光の第1の偏光状態を当該読出光スポット内の他の領域である第2の領域内の反射光または透過光の第2の偏光状態とは異なるように変化させる磁性層を備え、上記磁性層は補償温度が室温より高くかつキュリー温度より低い特性を有するフェリ磁性材料から成ること、を特徴とする光記録媒体。
【請求項2】 請求項1記載の光記録媒体から記録情報を再生する光記録媒体再生装置であって、前記光記録媒体に読出光を照射する光照射手段と、前記照射された読出光の前記光記録媒体の反射光または透過光のうちから、前記第1の偏光状態を有する読出光または前記第2の偏光状態を有する読出光のいずれか一方のみを分離する分離手段と、前記分離手段により分離された読出光を受光し読出信号として出力する受光手段と、前記読出信号に基づいて前記光記録媒体の記録情報の再生動作を行う再生手段と、を備えたことを特徴とする光記録媒体再生装置。

【図3】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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