説明

光送受信装置の制御方法、光送受信装置、及び光通信システム

【課題】本発明は、部品の電源の立ち下げ、立ち上げ時に、素子が正常動作するまでに要する応答時間を短くすることができる光送受信装置の制御方法、光送受信装置、及び光通信システムを提供することを第一の目的とする。また、本発明は、伝送距離に応じた光強度の設定が容易である光送受信装置の制御方法、光送受信装置、及び光通信システムを提供することを第二の目的とする。
【解決手段】本発明は、光受信器が有する等化増幅器の自動利得制御機能で用いる制御電圧値を記憶しておくことにより、部品の再起動時における制御電圧再設定時間を短縮することとした。また、本発明は、光受信器が受信する光信号のパワーと光伝送路の損失に基づく光送信器の動作条件を記憶しておくことで、光送信器が出力する光信号のパワーを最適化することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送受信装置を省電力化する制御方法、その光送受信装置、及びこれを備える光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光アクセスシステムの代表的な網構成として、加入者側装置(Optical network unit:ONU)と局側装置(Optical line terminal:OLT)とが1対1で接続されるシングルスター構成(Single star:SS)と、複数のONUが1つのOLTに接続される受動光ネットワーク(Passive optical network:PON)構成とがある。
【0003】
SS方式においてはONUがOLTを占有できるので高速通信が可能であるが、装置コストが高いという欠点がある。一方PON方式においては複数のONUが1つのOLTや光ファイバ設備を共有するために経済性に優れるという理由から、多くの光アクセスシステムではPON方式が採用されている。
【0004】
PON方式の下り伝送は連続モードで、各ONUへの信号は時分割多重(Time division multiplexing:TDM)されて伝送される。下り信号は全てのONUにブロードキャストされ、各ONUは自分宛の信号のみ選択受信する。一方上り伝送では、時分割多元接続(Time division multiple access:TDMA)によって、信号の衝突を避けるために各ONUはOLTから指定されたタイミングで信号を伝送する。ONUとOLT間の伝送距離がONU毎に異なるために、各ONUからの上り信号は互いに強度と位相の異なる間欠的であるという特徴があり、上り信号はバーストモードと呼ばれる。
【0005】
ONUとOLTはそれぞれ、光信号を送受信するために光送受信装置を有する。光送受信装置は一般に、入力される光信号を受信する“光受信器”と、光信号を出力する“光送信器”とを有する。光受信器は一般にフォトダイオード(Photodiode:PD)、等化増幅器(Equalizing amplifier:EQA)、クロックデータ再生器(Clock and data recovery:CDR)を一般に有するが、伝送装置の機能分担という観点から、CDRを光受信器に持たせず、光受信器後段の論理回路部が有することもある。EQAはインピーダンス変換増幅器(Transimpedance amplifier:TIA)と振幅制限増幅器(Limiting amplifier:LIA)を有し、CDRはクロック再生回路(Clock recovery circuit:CRC)と識別再生回路(Decision circuit:DEC)を有する。
【0006】
光受信器への入力光信号はPDによって電流信号に、TIAにおいて電圧信号にそれぞれ変換される。LIAにおいては後段のCDRで識別再生可能なレベルに振幅制限されて増幅される。CDRにおいてはCRCが入力信号からクロック信号を抽出・再生し、その再生クロックによって与えられる識別タイミングでDECが入力信号を識別再生し、後段の論理回路部へと送られる。
【0007】
下り信号は連続モードであり、各ONUがOLTから受信する光信号強度は原理的に一定であるが、大抵はユーザ毎には異なる。例えば、互いにOLTからの距離が異なる加入者Aと加入者Bとが任意のPON網においてOLTに接続されている際、各々がOLTから受信する光信号強度をそれぞれP_down_A、P_down_Bとすると、P_down_A≠P_down_Bであるが、P_down_AおよびP_down_Bはそれぞれ原理的には変化しない。但し、光部品性能の経時変化によっては起こりえる。ONU用光受信器は、OLTからの伝送距離、すなわち伝送路損失が大きく異なる加入者全てに供される可能性があるため、入力光強度が大きく異なる光信号に対して動作することが要求される。
【0008】
上り光信号はバーストモードであるため、OLT光受信器を構成するTIA、LIAは強度の著しく異なるバースト信号を歪み無く増幅し、CRCは互いに異なる位相のバースト信号からクロック信号を抽出する必要がある。その際にはバースト信号毎に各々の受信回路は最適化される必要があるが、各回路はある一定の応答時間を必要とする。上り通信サービスを提供するという観点からは、広域収容のために大きな伝送路損失をサポートする必要があるため、等化増幅器には高感度かつ広ダイナミックレンジな受信性能が求められる。
【0009】
一方、昨今の通信機器に対する省電力化要求は厳しく、光アクセスにおいても同様である。その際には光通信ネットワークにおける消費電力の60%を占めると言われている、ONUの消費電力を削減することが有効である。任意のONUに対するトラヒックが無い時に、該ONUを構成する光トランシーバの電源を落とすことによって省電力化を達成するメカニズムが議論されている(例えば、非特許文献1を参照。)。議論されているのは、周期的に光送信器のみをシャットダウンする“Dozing”と、光送信器および光受信器双方をシャットダウンする“Cyclic sleep”である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“Study and Demonstration of Sleep and Adaptive Link Rate Control Mechanisms for Energy Efficient 10G−EPON” IEEE/OSA Journal of Optical Communications and Networking Vol.2, No.9, pp.716−729, September 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1のDozing、Cyclic sleepにおいて課題となるのは、電源の立ち下げおよび立ち上げ時に、素子が正常動作するまでに要する応答時間である。なぜならば、素子の応答時間中はOLT−ONU間通信ができないためにPONシステムにおける共有リソースを有効利用できず、利用効率が低下してしまうからである。また、応答時間が長すぎる場合、光送受信装置に入力されるトラヒック間隔によっては素子のシャットダウンすらできない。つまり、PONにおける省電力化の実現にあたっては、部品の応答時間短縮が大きな課題の1つであった。
【0012】
また、OLTとONUとの伝送距離に応じてONUおよびOLTが有する光受信器の受信パワーが変化することになる。OLTからの伝送距離が短いONUにおいては、送信光パワーを小さくし、該ONUが有する光送信器のLD駆動電流を削減することにより、該光送信器の消費電力を更に減らすことが可能である。なぜならば、OLTが有する光受信器は、伝送距離が長くて伝送路損失が大きいONUからの光信号を誤り無く受信するために、広い入力ダイナミックレンジを有しているからである。
【0013】
そこで、上記課題を解決するために、本発明は、部品の電源の立ち下げ、立ち上げ時に、素子が正常動作するまでに要する応答時間を短くすることができる光送受信装置の制御方法、光送受信装置、及び光通信システムを提供することを第一の目的とする。また、本発明は、伝送距離に応じた光強度の設定が容易である光送受信装置の制御方法、光送受信装置、及び光通信システムを提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第一の目標を達成するため、本発明は、光受信器が有する等化増幅器の自動利得制御機能で用いる制御電圧値を情報保持機能を有するテーブルに記憶しておくことにより、部品の再起動時における制御電圧再設定時間を短縮することとした。
【0015】
具体的には、本発明に係る光送受信装置の制御方法は、光伝送路に光信号を送信する光送信器と、前記光伝送路からの光信号をフォトダイオードで電気信号に変換し、前記フォトダイオードが出力する電気信号を増幅回路で増幅して受信する光受信器と、を備える光送受信装置の制御方法であって、
光信号を送受信可能である通常モードと光信号を送受信不可である省電力モードとを監視し、前記通常モードにおいて前記光受信器の増幅条件を光受信器動作条件テーブルに記憶させ、前記省電力モードから前記通常モードに切り換える時に前記光受信器動作条件テーブルが記憶する増幅条件を前記光増幅器に設定する起動制御を行う。
【0016】
また、本発明に係る光送受信装置は、光伝送路に光信号を送信する光送信器と、前記光伝送路からの光信号をフォトダイオードで電気信号に変換し、前記フォトダイオードが出力する電気信号を増幅回路で増幅して受信する光受信器と、前記起動制御を行う制御器と、を備える。
【0017】
光受信器は等化増幅器を持っていて、等化増幅器の自動利得制御器(Automatic gain controller:AGC)や自動オフセット補償器(Automatic offset compensation: AOC)の制御電圧をテーブルに記憶する。省電力モードから通常モードへ復帰する際、テーブルの値を等化増幅器に速やかに再設定できるので素子起動時間を短縮でき、したがって光受信器の省電力モードの時間を増やすことで省電力化が可能となる。
【0018】
従って、本発明は、第一の目的である、部品の電源の立ち下げ、立ち上げ時に、素子が正常動作するまでに要する応答時間を短くすることができる光送受信装置の制御方法及び光送受信装置を提供することができる。
【0019】
本発明に係る光送受信装置及びその制御方法の前記起動制御では、前記光受信器に光信号が入力したときから前記増幅回路の応答時間を経過した後の前記光受信器の増幅条件を前記光受信器動作条件テーブルに記憶させることを特徴とする。等化増幅器の安定化に要する時間を考慮することで正確なAGC及びAOCの制御電圧をテーブルに記憶させることができる。
【0020】
第二の目標を達成するため、本発明は、光受信器が受信する光信号のパワーと光伝送路の損失に基づく光送信器の動作条件を記憶しておくことで、光送信器が出力する光信号のパワーを最適化することとした。
【0021】
具体的には、本発明に係る光送受信装置の制御方法は、光伝送路に光信号を送信する光送信器と、前記光伝送路からの光信号をフォトダイオードで電気信号に変換し、前記フォトダイオードが出力する電気信号を増幅回路で増幅して受信する光受信器と、を備える光送受信装置の制御方法であって、
前記光受信器へ入力する光信号のパワー、前記光伝送路の伝送路損失、並びに前記パワー及び前記伝送路損失に対する前記光送信器の動作条件を光送信器動作条件テーブルに予め記憶しておき、前記光伝送路からの光信号のパワーを監視し、前記光伝送路からの光信号のパワーに対する前記光送信器の動作条件を前記光送信器動作条件テーブルから読み出して前記光送信器に設定する省電力制御を行う。
【0022】
また、本発明に係る光送受信装置は、光伝送路に光信号を送信する光送信器と、前記光伝送路からの光信号をフォトダイオードで電気信号に変換し、前記フォトダイオードが出力する電気信号を増幅回路で増幅して受信する光受信器と、前記省電力制御を行う制御器と、を備える。
【0023】
光送信器は自動パワー制御器を持つ。また、光受信器は入力信号強度通知器(Received signal strength indicator:RSSI)を持つ。さらに、光送受信装置は受信する光信号のパワーと伝送路損失依存性に関する光送信器のLD駆動条件の情報を記憶するテーブルも有している。伝送路損失に関する情報はRSSIから容易に取得できる。これにより、OLTから近いONUのLD送信パワー(=駆動電流)を削減できるので、ONUの省電力化が可能になる。
【0024】
従って、本発明は、第二の目的である、伝送距離に応じた光強度の設定が容易である光送受信装置の制御方法及び光送受信装置を提供することができる。
【0025】
なお、本発明に係る光送受信装置及びその制御方法は上述した起動制御と省電力制御を組み合わせて制御することができる。
【0026】
また、前記光送受信装置と、前記光送受信装置間を接続し、双方向通信を可能とする光伝送路と、を備える光通信システムとすれば、省電力化が可能なシステムとすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、部品の電源の立ち下げ、立ち上げ時に、素子が正常動作するまでに要する応答時間を短くすることができる光送受信装置の制御方法、光送受信装置、及び光通信システムを提供すること、並びに、伝送距離に応じた光強度の設定が容易である光送受信装置の制御方法、光送受信装置、及び光通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る光送受信器の構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る光送受信器の構成を説明する図である。
【図3】本発明に係る光受信器の動作を説明する図である。
【図4】本発明に係る光送受信器の構成を説明する図である。
【図5】本発明に係る光送信器の動作を説明する図である。
【図6】本発明に係る光送受信器を用いたOLTの光受信器入力光電流を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。また、枝番号を付さずに説明している場合は、当該符号の全ての枝番号に共通する説明である。
【0030】
(実施形態1)
本実施形態は、トラヒックが少ない時に構成部品をシャットダウンするといった省電力メカニズムを適用した光送受信装置に対して、部品の電源の立ち下げ、立ち上げ時に、素子が正常動作するまでに要する応答時間を短くする起動制御を行っている。
【0031】
図1は、実施形態1の光送受信装置301を説明する図である。光送受信装置301は、光伝送路100に光信号を送信する光送信器10と、光伝送路100からの光信号をフォトダイオード21で電気信号に変換し、フォトダイオード21が出力する電気信号を増幅回路22で増幅して受信する光受信器20と、起動制御を行う制御器31と、を備える。
【0032】
制御器31が行う起動制御は、光受信器20について光信号を送受信可能である通常モードと光信号を送受信不可である省電力モードとを監視し、通常モードにおいて光受信器20の増幅条件を光受信器動作条件テーブル41に記憶させ、省電力モードから通常モードに切り換える時に光受信器動作条件テーブル41が記憶する増幅条件を光増幅器20に設定する。すなわち、起動制御は、光受信器が有する増幅回路22の自動利得制御機能を動作させるための制御電圧値を記憶しておくことにより、部品の再起動時における制御電圧再設定時間を短縮する。
【0033】
図1に示すように、ONU用光送受信装置301は光送信器(Optical transmitter:Tx)10、光受信器(Optical receiver:Rx)20、WDMフィルタ50、光受信器動作条件テーブル(Operation condition table:Table_op)41、制御器(Controller:CTRL)31を有する。Tx10は上り光信号をOLTに対して送信し、Rx20はOLTからの下り光信号を受信する。
【0034】
Tx10はレーザダイオード(Laser diode:LD)11、LDドライバ(LD driver:LDD)12、自動パワー制御器(Automatic power controller:APC)13を有する。APC13はLD11の出力光強度を一定に制御する機能を有する。LDD12は上り信号に従ってLD11を駆動する機能を有する。
【0035】
Rx20はフォトダイオード(PD)21、増幅回路22を有する。増幅回路22は、例えば、等化増幅器(Equalizing amplifier:EQA)である。以下、増幅回路22をEQA22と記載する。EQA22はインピーダンス変換増幅器(Transimpedance amplifier:TIA)23、振幅制限増幅器(Limiting amplifier:LIM)24を有する。
【0036】
光受信器動作条件テーブル41は、例えば不揮発性メモリのような記憶素子であってEQA22と接続され、EQA22を構成するTIAやLIMの動作条件に関する情報が格納される。光受信器動作条件テーブル41の詳細な動作については別途説明する。
【0037】
図2に、本実施形態のTIA23およびLIM24の構成図を示す。TIA23はTIAコア61、利得制御部(Controller:CTRL)62、シングルバランス変換器(Single−to−balance converter:S/B)63、自動オフセット補償器(AOC)64を有する。TIAコア61は自動利得制御(AGC)機能を有し、TIAに入力される電流信号の強弱に応じて利得を制御することによって高感度受信かつ広入力ダイナミックレンジ化を実現する。利得制御は帰還抵抗値(Feedback resistor:Rf)65を利得制御部62によって変化させることで実現する。Rx20への入力光信号強度Pinが大きい時、すなわちTIA23への入力電流振幅Iinが大きい時はTIAコア61の出力電圧振幅Vout_tiaが大きくなるため、利得制御部62はVout_tiaが小さくなるようにTIAコア61のRf65をフィードバック制御する。Rx20への入力光信号強度Pinが小さい時、すなわちTIA23への入力電流振幅Iinが小さい時はTIAコア61の出力電圧振幅Vout_tiaが小さくなるため、利得制御部62はVout_tiaが大きくなるようにTIAコア61のRf65をフィードバック制御する。
【0038】
同相雑音耐性向上のため、S/B63によって信号のインターフェイスを差動化するが、その際にはAOC64を用いたフィードバック制御によって差動対間直流オフセット電圧をキャンセルする。LIM24はスケルチ(Squelch:SQH)25を有しており、LIM24に対する入力信号の有無を検出する機能を有する。図2の構成では、SQH25はLIM24の出力からRx20に光信号が入っているか否かを検出する。
【0039】
利得制御部62、AOC64はそれぞれ光受信器動作条件テーブル41と接続されており、AGC制御電圧であるVCTRL、AOC制御電圧であるVAOCがそれぞれ光受信器動作条件テーブル41に出力される。SQH25は遅延線26を介し、時間的な遅延tsqhの後光受信器動作条件テーブル41に接続される。遅延tsqhは、AGCやAOCの応答時間を考慮するものであり、tsqh>tresponse_AOC1である。ここで、tresponse_AOC1はONU1のAOCの安定化に要する時間を意味する。すなわち、SQH25がRx20に光信号が入ったことを検出した後、遅延線26で制御系の応答時間分の遅延を持たせ、光受信器動作条件テーブル41にVCTRL及びVAOCの書き込みを可能とする。
【0040】
次に、光送受信装置301をPONシステムを構成する任意のONUに適用した時の動作を説明する。このPONシステムにおいては省電力メカニズムが実装されており、完全に光送受信装置301がアクティブな“通常モード”と、任意のONUにおいてトラヒックが少ない時に光送受信装置の一部もしくは全てをシャットダウンする“省電力モード”とを有する。なお、省電力モードから通常モードへの復帰は、ONUへの入力トラヒック発生をトリガとしても良い。上りならばユーザネットワークインタフェース(User−Network Interface:UNI)側からの上りトラヒックの入力をトリガとし、下りならばOLTに対して上位であるサービスノードインタフェース(Service Node Interface:SNI)側からの下りトラヒックの入力をトリガとしても良い。また、光通信システムのオペレータ側の指示・設定によって、省電力モードから通常モードに復帰することもある。
【0041】
図3は、Rx20を構成する各部品のノードにおける状態の時間的推移を示す。まず、初期状態である時刻tにおいてはRx20が省電力モードにあり、電源電圧が印加されていない状態にあるとする。時刻tにおいて通常モードに入る。Rx20に電源電圧が印加されると、時刻tになって動作に必要な電源電圧Vccに達する。その後、AGCの安定化に要する時間tresponse_AGC1後の時刻tにTIA23の利得がONUの最適値Ztに収束し、その際のAGC制御電圧はVCTRL1である。
【0042】
AGCが定常状態に収束しないとAOCも収束しない。AOC動作の安定化には時刻tからAOCの安定化に要する時間tresponse_AOC1経過後の時刻tまで要し、その際のAOC制御電圧はVAOC1であるとする。ただし、tresponse_AGC1<tresponse_AOC1とする。
【0043】
SQH25はLIM24の出力電圧振幅が閾値Vthを超えるとVout_sqhを出力する。制御器31はVout_sqhを読み出し、遅延tsqhの後tに、光受信器動作条件テーブル41が内部に有する特定のメモリ領域に、例えばfield_sqhの値が“0”であれば該領域に“1”を書き込み、光受信器動作条件テーブル41は書き込まれた情報を保持する。一方、field_sqhの値が既に“1”であるならば、制御器31は何もしない。また、tのタイミングでVCTRLおよびVAOCもそれぞれVout_sqh が内部に有する特定のメモリ領域、例えばfield_AGCおよびfield_AOCにそれぞれVCTRL1およびVAOC1をそれぞれ書き込み、保持する。
【0044】
次に、ONUが再び省電力モードに入り、時刻tにおいて電源がシャットダウンされ、時刻tにおいて電源電圧が0に収束するとする。次いで時刻tにおいて再び通常モードに入り、時刻tで電源電圧がVccに達する。この時、光受信器動作条件テーブル41は、ONUにおける最適なAGC制御電圧VCTRL1およびAOC制御電圧VAOC1を保持しているために、瞬時にRx20を最適条件に設定できる。
【0045】
本実施形態において、S/B63はTIA23が有しているが、LIM24がその入力段に有していても良いし、LIM24の入力段および出力段双方に有していても良い。また、今回は光アクセスシステムを構成するONUの光受信器について説明したが、本起動制御はONUに限らず、電源を繰り返しオン、オフするような光受信器にも適用できる。
【0046】
本実施形態の光送受信装置301においてTx10、Rx20が互いに異なる波長の光信号を送信および受信する際には、WDMフィルタ50によって各々の信号が干渉しないように分離しなければならないが、光通信システムによっては必ずしもWDMフィルタを有する必要はない。例えば方向多重(Direction Duplex Multiplexing:DDM)方式を用いた双方向光通信システムにおいてはWDMフィルタは不要となる。本実施例においてはPON方式を構成するONUへの適用例について説明したがそれに限定されるものではなく、Single starなどポイント・トゥ・ポイント型光通信ネットワークを構成する光送受信装置に対しても適用可能である。
【0047】
(実施形態2)
本実施形態は、光送信器の出力光パワーを最適化することによって光送信器のバイアス及び駆動電流を削減する省電力制御を行っている。
【0048】
図4は、実施形態2の光送受信装置302を説明する図である。光送受信装置302は、光伝送路100に光信号を送信するTx10と、光伝送路100からの光信号をフォトダイオード21で電気信号に変換し、フォトダイオード21が出力する電気信号をEQA22で増幅して受信するRx20と、省電力制御を行う制御器32と、を備える。
【0049】
制御器32が行う省電力制御は、光受信器に対する入力光パワー及び伝送路損失に対する光送信器の動作条件を光送信器動作条件テーブル42に予め記憶しておき、光伝送路100からの光信号のパワーを監視し、光伝送路100からの光信号のパワーに対するTx10の動作条件を光送信器動作条件テーブル42から読み出してTx10に設定する。すなわち、省電力制御は、光送信器動作条件テーブルを参照し、光受信器が受信する光信号に基づいて適切なパワーの光信号を出力することで省電力化を達成する。
【0050】
本実施形態の省電力制御を、PON方式を構成する任意のONU光送受信装置に適用したときの動作で説明する。図4に示すように、光送受信装置302はTx10、Rx20、WDMフィルタ50、光送信器動作条件テーブル(Operation condition table:Table_op)42、LD駆動条件の制御器(Controller:CTRL)32を有する。Tx10、Rx20はそれぞれ上り光信号をOLTに対して送信し、OLTからの下り光信号を受信する。Tx10はレーザダイオード(Laser diode:LD)11、LDドライバ(LD driver:LDD)12、自動パワー制御器(Automatic power controller:APC)13を有する。APC13はLD11の出力光強度を一定に制御する機能を有する。LDD12は上り信号に従ってLD11を駆動する機能を有する。
【0051】
Rx20はフォトダイオード(PD)21、等化増幅器(Equalizing amplifier:EQA)22、入力信号強度通知器(Received signal strength indicator:RSSI)27を有する。RSSI27はPD21に流れる光電流強度をモニタする機能を有する。
【0052】
光送信器動作条件テーブル42は、例えば不揮発性メモリのような記憶素子であって、PD21に流れる光電流値やLD駆動条件に関する情報が格納される。制御器32は光送信器動作条件テーブル42、APC13、RSSI27それぞれに接続されており、RSSI27から読み出したPD21の光電流値を光送信器動作条件テーブル42に書き込み、また、光送信器動作条件テーブル42にセットされたLD駆動条件を読み込み、LD11の駆動条件をAPC13に対して設定する。
【0053】
次に、PONシステムを構成する任意のONUに対して光送受信装置302を適用した時の動作について、図5、6に示すタイムチャートを用いて具体的に説明する。ここでは、OLTからの距離が互いに異なるONUとONUの動作を説明する。ここでONUの方がONUよりもOLTからの伝送距離が長く、伝送路損失が大きいものとする。
【0054】
時刻tが初期状態とし、時刻tでONUおよびONUに電源が入り、時刻tから正常動作し始めるものとする。ONUのRSSI27は時刻tからONUに対する入力光電流値Iin_1を出力し、制御器32によって読み出され、時刻tまでに光送信器動作条件テーブル42に書き込まれる。制御器32は光送信器動作条件テーブル42を参照し、LD11の最適バイアス電流Ibias_1および駆動電流idrv_1を、時刻tまでにLDD12及びAPC13に設定する。
【0055】
ONUの動作も同様で、ONUが有するRSSI27は時刻tからONUに対する入力光電流値Iin_2を出力し、制御器32によって読み出され、時刻tまでに光送信器動作条件テーブル42に書き込まれる。制御器32は光送信器動作条件テーブル42を参照し、ONUのLD11の最適バイアス電流Ibias_2および駆動電流idrv_2を、時刻tまでにLDD12及びAPC13に設定する。
【0056】
ONUは時刻tから上り信号の送信をOLTから許可されているとする。時刻tまでにONUのTx10がセットアップを終え、時刻tまで上りデータを送信し、時刻tまでの間にONUのLD11は発光を終える。
【0057】
ONUの動作もほぼ同様である。ONUは時刻tから上り信号の送信をOLTから許可されているとする。時刻tまでにONUのTx10がセットアップを終え、時刻tまで上りデータを送信し、時刻t10までの間にONUのLD11は発光を終える。
【0058】
次に、本発明の技術をONU、ONUに対して用いた際のOLT光送受信装置が有する光受信器の動作を図6を用いて説明する。時刻t12からONUの上りデータがOLT光受信器に入力され、一定の応答時間の後、t13からt14までの間、正味のデータを受信する。時刻t15からONUの上りデータがOLT光受信器に入力され、一定の応答時間の後、t17からt18までの間、正味のデータを受信する。OLT光受信器における入力光パワー、すなわち入力光電流は、ONU1からの光信号もONU2からの光信号もIrcv_1であり、いずれのONUからの上り光信号も誤り無く受信することができる。
【0059】
本発明によればOLTから伝送距離が短いONUのレーザバイアス電流および駆動電流を削減できるため、レーザ駆動器のみならず、光アクセスシステム全体での省電力化が可能である。
【0060】
光送受信装置302ではWDMフィルタ50を用いたが、光通信システムによっては必ずWDMフィルタを必要とするわけではなく、例えば方向多重(Direction Duplex Multiplexing:DDM)方式を適用する光通信システムの場合にはWDMフィルタが不要になる。また、ONU数としては2台を例に説明したが、3台以上でも可能である。
【0061】
(その他の実施形態)
実施形態1で説明した起動制御と実施形態2で説明した省電力制御は、組み合わせて実施できる。すなわち、図1の光送受信装置301の構成に図4のRSSI27、制御器32、及び光送信器動作条件テーブル42を接続することで、起動制御と省電力制御の双方が行える光送受信装置となる。
【0062】
このような光送受信装置を用いてSSやPONの光通信ネットワークを構成することで、光通信システム全体の省電力化を図ることができる。
【0063】
以下は、図1及び図4の光送受信装置の構成要素を説明したものである。
(1)
光受信器、光送信器を有する光送受信装置であって、該光受信器はフォトダイオード、等化増幅器を有し、該等化増幅器はインピーダンス変換増幅器、振幅制限増幅器を有し、
前記等化増幅器の自動利得制御電圧および自動オフセット補償制御電圧を電源オン時だけでなく電源オフ時にも保持しておくテーブルを有し、
前記等化増幅器の自動利得制御電圧値および自動オフセット補償制御電圧値を前記テーブルに書き込み、前記テーブルから読み出す制御器を有し、
該制御器は前記2つの制御電圧値を電源再投入時に速やかに前記テーブルから読み出して前記等化増幅器に対して再設定する機能を有することを特徴とする光送受信装置。
【0064】
(2)
ポイント・トゥ・マルチポイント型光通信ネットワークにおいて用いられる光送受信装置であって、光送受信装置は光受信器、光送信器を有し、該光受信器はフォトダイオード、等化増幅器、入力信号強度通知器を有し、前記光送信器はレーザダイオード、レーザダイオード駆動器、自動パワー制御器を有し、前記光送受信装置は受信光パワー、該光受信器が接続された伝送路損失、およびそれらに応じたレーザダイオード駆動器のバイアス電流および駆動電流値を保持しておくテーブルを有し、
該テーブルに記載の動作条件に基づき該レーザダイオード駆動器のバイアス電流および駆動電流値を前記テーブルから読み出し、前記自動パワー制御器に対して設定する制御器を有することを特徴とする光送受信装置。
【0065】
(3)
上記(2)に記載の光送受信装置であって、該光送受信装置が有する光受信器はフォトダイオード、等化増幅器を有し、該等化増幅器はインピーダンス変換増幅器、振幅制限増幅器を有し、
前記等化増幅器の自動利得制御電圧および自動オフセット補償制御電圧を電源オン時だけでなく電源オフ時にも保持しておくテーブルを有し、
前記等化増幅器の自動利得制御電圧値および自動オフセット補償制御電圧値を前記テーブルに書き込み、前記テーブルから読み出す制御器を有し、
該制御器は前記2つの制御電圧値を電源再投入時に速やかに前記テーブルから読み出して前記等化増幅器に対して再設定する機能を有することを特徴とする光送受信装置。
【0066】
(4)
光送受信装置の省電力化方法であって、該光送受信装置は光受信器、光送信器を有し、該光受信器はフォトダイオード、等化増幅器を有し、該等化増幅器はインピーダンス変換増幅器、振幅制限増幅器を有し、
前記等化増幅器の自動利得制御電圧および自動オフセット補償制御電圧を電源オン時だけでなく電源オフ時にも保持しておくテーブルを有し、
前記等化増幅器の自動利得制御電圧値および自動オフセット補償制御電圧値を前記テーブルに書き込み、前記テーブルから読み出す制御器を有し、
該制御器は前記2つの制御電圧値を電源再投入時に速やかに前記テーブルから読み出して前記等化増幅器に対して再設定することによって前記光送受信装置を省電力化することを特徴とする光送受信装置の省電力化方法。
【0067】
(5)
ポイント・トゥ・マルチポイント型光通信ネットワークにおいて用いられる光送受信装置の省電力化方法であって、該光送受信装置は光送信器および光受信器を有し、該光受信器はフォトダイオード、等化増幅器、入力信号強度通知器を有し、前記光送信器はレーザダイオード、レーザダイオード駆動器、自動パワー制御器を有し、前記光送受信装置は受信光パワー、該光受信器が接続された伝送路損失、およびそれらに応じたレーザダイオード駆動器のバイアス電流および駆動電流値を保持しておくテーブル、レーザ駆動条件制御器を有し、
該レーザ駆動条件制御器は、該テーブルに記載の動作条件に基づき該レーザダイオード駆動器のバイアス電流および駆動電流値を前記テーブルから読み出し、前記自動パワー制御器に対して設定することにより光送受信装置を省電力化する方法。
【0068】
(6)
上記(5)に記載の光送受信装置を省電力化する方法であって、該光送受信装置が有する光受信器はフォトダイオード、等化増幅器を有し、該等化増幅器はインピーダンス変換増幅器、振幅制限増幅器を有し、
前記等化増幅器の自動利得制御電圧および自動オフセット補償制御電圧を電源オン時だけでなく電源オフ時にも保持しておくテーブルを有し、
前記等化増幅器の自動利得制御電圧値および自動オフセット補償制御電圧値を前記テーブルに書き込み、前記テーブルから読み出す制御器を有し、
該制御器は前記2つの制御電圧値を電源再投入時に速やかに前記テーブルから読み出して前記等化増幅器に対して再設定することにより光送受信装置を省電力化する方法。
【0069】
(7)
上記(1)に記載の光送受信装置を用いて双方向通信を行うことを特徴とする光通信システム。
(8)
上記(1)〜(3)に記載の光送受信装置を用いて双方向通信を行うことを特徴とするスター型光通信システム。
【符号の説明】
【0070】
10:光送信器(Tx)
11:レーザダイオード(LD)
12:LDドライバ(LDD)
13:自動パワー制御器(APC)
20:光受信器(Rx)
21:フォトダイオード(PD)
22:増幅回路、等化増幅器(EQA)
23:インピーダンス変換増幅器(TIA)
24:振幅制限増幅器(LIM)
25:スケルチ(SQH)
26:遅延線
27:入力信号強度通知器(RSSI)
31、32:制御器
41:光受信器動作条件テーブル
42:光送信器動作条件テーブル
50:WDMフィルタ
61:TIAコア
62:利得制御部
63:シングルバランス変換器(S/B)
64:自動オフセット補償器(AOC)
65:帰還抵抗値(Rf)
100:光伝送路
301、302:光送受信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光伝送路に光信号を送信する光送信器と、
前記光伝送路からの光信号をフォトダイオードで電気信号に変換し、前記フォトダイオードが出力する電気信号を増幅回路で増幅して受信する光受信器と、
を備える光送受信装置の制御方法であって、
光信号を送受信可能である通常モードと光信号を送受信不可である省電力モードとを監視し、前記通常モードにおいて前記光受信器の増幅条件を光受信器動作条件テーブルに記憶させ、前記省電力モードから前記通常モードに切り換える時に前記光受信器動作条件テーブルが記憶する増幅条件を前記光増幅器に設定する起動制御を行う光送受信装置の制御方法。
【請求項2】
前記起動制御では、前記光受信器に光信号が入力したときから前記増幅回路の応答時間を経過した後の前記光受信器の増幅条件を前記光受信器動作条件テーブルに記憶させることを特徴とする請求項1に記載の光送受信装置の制御方法。
【請求項3】
光伝送路に光信号を送信する光送信器と、
前記光伝送路からの光信号をフォトダイオードで電気信号に変換し、前記フォトダイオードが出力する電気信号を増幅回路で増幅して受信する光受信器と、
を備える光送受信装置の制御方法であって、
前記光受信器へ入力する光信号のパワー、前記光伝送路の伝送路損失、並びに前記パワー及び前記伝送路損失に対する前記光送信器の動作条件を光送信器動作条件テーブルに予め記憶しておき、前記光伝送路からの光信号のパワーを監視し、前記光伝送路からの光信号のパワーに対する前記光送信器の動作条件を前記光送信器動作条件テーブルから読み出して前記光送信器に設定する省電力制御を行う光送受信装置の制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の省電力制御をさらに行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の光送受信装置の制御方法。
【請求項5】
光伝送路に光信号を送信する光送信器と、
前記光伝送路からの光信号をフォトダイオードで電気信号に変換し、前記フォトダイオードが出力する電気信号を増幅回路で増幅して受信する光受信器と、
請求項1又は2に記載の起動制御を行う制御器と、
を備える光送受信装置。
【請求項6】
光伝送路に光信号を送信する光送信器と、
前記光伝送路からの光信号をフォトダイオードで電気信号に変換し、前記フォトダイオードが出力する電気信号を増幅回路で増幅して受信する光受信器と、
請求項3に記載の省電力制御を行う制御器と、
を備える光送受信装置。
【請求項7】
前記制御器は、請求項3に記載の省電力制御も行うことを特徴とする請求項5に記載の光送受信装置。
【請求項8】
請求項5に記載の光送受信装置と、
前記光送受信装置間を接続し、双方向通信を可能とする光伝送路と、
を備えるポイント・トゥ・ポイント型の光通信システム。
【請求項9】
請求項5から7のいずれかに記載の光送受信装置と、
前記光送受信装置間を接続し、双方向通信を可能とする光伝送路と、
を備えるポイント・トゥ・マルチポイント型の光通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−62748(P2013−62748A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201141(P2011−201141)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】