光選択透過フィルター、樹脂シート及び固体撮像素子
【課題】光選択透過性に特に優れ、かつ光遮断特性の入射角依存性を低減するとともに、充分な薄膜化を実現することもできる光選択透過フィルター、該光選択透過フィルターに用いられる樹脂シート及び該光選択透過フィルターを有する固体撮像素子を提供する。
【解決手段】樹脂シートと、その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを含む光選択透過フィルターであって、該樹脂シートは、色素及び樹脂成分を含む吸収層を有し、該色素は、分子内にπ電子結合を有する色素を含み、該分子内にπ電子結合を有する色素の含有割合は、吸収層を構成する色素及び樹脂成分の総量100質量%に対し、1質量%以上である光選択透過フィルター。
【解決手段】樹脂シートと、その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを含む光選択透過フィルターであって、該樹脂シートは、色素及び樹脂成分を含む吸収層を有し、該色素は、分子内にπ電子結合を有する色素を含み、該分子内にπ電子結合を有する色素の含有割合は、吸収層を構成する色素及び樹脂成分の総量100質量%に対し、1質量%以上である光選択透過フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光選択透過フィルター、樹脂シート及び固体撮像素子に関する。より詳しくは、光学部材やオプトデバイス部材の他、表示デバイス部品、機械部品、電気・電子部品等として有用な光選択透過フィルター、それに用いられる樹脂シート、及び、光選択透過フィルターを有する固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光選択透過フィルターは、特定波長の光の透過率を選択的に低減するフィルターであり、例えば、光学部材やオプトデバイス部材の他、表示デバイス部品、機械部品、電気・電子部品等として用いられる光フィルター部材として有用なものである。例えば、代表的な光学部材の1つである固体撮像素子(カメラモジュールとも称す)においては、光学ノイズとなる赤外線(特に波長>780nm)を遮断する赤外線カットフィルター(IRカットフィルター)が用いられている。
【0003】
このような用途の中でも、光学部材等においては、近年、デジタルカメラモジュールが携帯電話に搭載される等、小型化が進みつつあり、光学部材の小型化が一層求められている。これに伴って、デジタルカメラモジュール等に用いられる光選択透過フィルター(赤外線カットフィルター等)の薄膜化が望まれている。光選択透過フィルターは、主に、基材に金属等を蒸着させ無機多層膜とし、各波長の屈折率を制御したものが用いられており、その基材として、従来、ガラス板が用いられてきたが、薄膜化の要望の高まりを受けて樹脂を基材とする技術が検討されている。近年ではまた、携帯電話、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等の屋外でも使用できる用途への適用も検討されている。
【0004】
基材に樹脂を用いた光選択透過フィルターとしては、例えば、厚みが200μm未満であり、かつ基材が耐リフロー性機能フィルムを含んで構成された光選択透過フィルターが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この光選択透過フィルターは、充分に薄くても耐熱性に優れるため、各種用途に極めて有用なものである。特許文献1の実施例には、基材上に反射型のIRカット膜(誘電体多層膜)を蒸着した形態の光選択透過フィルター、すなわち反射型フィルターが開示されている。
【0005】
また、反射型フィルターと、光吸収剤を含有する透明材料から構成される吸収型フィルターとの、特性の異なる2種のフィルターを併用することによって、光学フィルターをより優れた性能を有するものとする試みも行われている。例えば、特許文献2には、ガラス基板上に、近赤外吸収剤を含む顔料インクを塗布・乾燥して得られる光吸収膜と、該光吸収膜よりも高屈折率の膜とを、交互に多層積層した光吸収フィルターが開示されている。特許文献2の光吸収フィルターは、角度依存性を低減しつつ薄型化をも実現しようとするものである。また、特許文献3には、ガラス基板上に光学多層膜からなる熱線反射膜及び熱線吸収膜が形成された熱線カットフィルターが開示されている。特許文献3に開示された熱線カットフィルターは、ランプから発生する、近赤外線領域から遠赤外線領域に亙って広帯域に熱線をシャープに且つほぼ完全にカットできる広帯域の熱線カットフィルターを提供することを目的とし、短波長領域(例えば波長2μm以下)の赤外線を熱線反射膜で遮断し、長波長領域(例えば波長2μm以上)の赤外線を熱線吸収膜で遮断しようとするものである。
【0006】
ところで、近年、固体撮像素子等の光学部材の高性能化に伴い、遮断したい波長域(例えば、近赤外領域)をよりシャープに遮断でき、かつ透過させたい波長域(例えば、可視領域)では高い透過率を示す光選択透過フィルターの開発が望まれている。そこで、例えば、ガラス基板上に多層膜を蒸着形成してなる光選択透過フィルターにおいて、多層膜の層数を多くする手法が検討されているが、ガラス基板上に多層膜を蒸着形成する場合には、蒸着工程における加熱・冷却によって、層間に応力が生じクラックや割れが発生するおそれがある。この点から、吸収ガラスを基材に用いることによって多層膜の層数を減らすことも提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、吸収ガラスは吸収イオン濃度(吸収を示す金属イオンの濃度)を高めるとクラックが発生し、ガラスとして成形できないため、吸収イオン濃度を低くせざるを得ない。このため、充分な吸収性能を発揮するためには、相当な厚み(例えば、2mm程度)の吸収ガラスを用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−181121号公報
【特許文献2】特開2006−106570号公報
【特許文献3】特開平8−329719号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】小檜山光信著、「光学薄膜フィルターデザイン」、オプトロニクス社、2006年10月5日、p.213−219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、種々の光選択透過フィルターが検討されているが、一般に、反射型フィルターは、光の遮断性能には優れるものの、光の入射角によって反射特性が変化する入射角依存性(視野角依存性とも称す)を有しており、その低減が課題であった。入射角依存性のないフィルターとしては、例えば、光吸収剤を含有する透明材料から構成される吸収型フィルターが挙げられるが、充分な吸収特性を実現するためには相当な厚みが必要であった。また、ガラス基材を用いる場合には、薄くすると割れやすくなる等の課題があり、薄膜化には限界があった。このように、遮断性能の入射角依存性を低減して特定波長の光をより効果的に遮断するとともに、薄膜化の要請にも充分に応えることができる光選択透過フィルターは、未だ開発されていないのが現状である。また、固体撮像素子等の光学部材の高性能化により充分に対応できるようにすべく、光選択透過フィルターには、遮断したい波長域をよりシャープに遮断でき、かつ透過させたい波長域では高い透過率を示すといった光選択透過性に特に優れることも求められている。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、光選択透過性に特に優れ、かつ光遮断特性の入射角依存性を低減するとともに、充分な薄膜化を実現することもできる光選択透過フィルター、該光選択透過フィルターに用いられる樹脂シート、及び、該光選択透過フィルターを有する固体撮像素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、光の透過率を選択的に低減する光選択透過フィルターについて種々検討したところ、吸収層を有する樹脂シートと、反射層(反射膜)とを含む形態とすることで、入射角依存性の低減と充分な遮断性能とを達成できることに着目し、吸収層を、色素及び樹脂成分を含有する樹脂層とすると、色素を高濃度としても均一に層中に分散でき、吸収ガラスのようにガラスを用いる場合と比較して、吸収層を大幅に薄膜化することができることを見いだした。
【0012】
またこのような吸収層において、色素として分子内にπ電子結合を有する色素を用いた場合、この特定色素の吸収層に占める濃度の違いにより、可視光の長波長側(600nm以上)の吸収領域における吸収特性に違いが生じることを見いだした。具体的には、所定濃度未満の低濃度では、吸収率が最大となる吸収極大と、それよりも600nmに近い短波長側にショルダー(2番目の吸収ピーク)とが観測されるのに対し、所定濃度以上の高濃度では、吸収極大がより600nmに近い短波長側にシフトし、しかも透過率が低く、かつシャープな吸収特性となることを見いだした。また、高濃度での400〜600nm領域の可視光透過率は、低濃度でのそれと同等以上であることも見いだした。これらは、分子内にπ電子結合を有する色素が吸収層中に高密度に含有されることによって、当該色素の分子間の共役が生じ、吸収層の特定波長領域での透過吸収特性が変化することに起因するものと推測される。このような吸収層の特異な透過吸収特性は、光選択透過フィルターに適用する場合に、中でも撮像レンズ等のレンズ用光選択透過フィルターに適用する場合に特に有効である。また、このような吸収層を反射層と組み合わせることにより、視野角依存性が充分に低減され、可視領域から近赤外領域にかけてシャープな透過吸収特性を有する光選択透過フィルターが得られることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、このような光選択透過フィルターが、固体撮像素子(カメラモジュール)等の光学用途やオプトデバイス用途等に好適に適用できることを見いだし、本発明に到達した。
【0013】
すなわち本発明は、樹脂シートと、その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを含む光選択透過フィルターであって、該樹脂シートは、色素及び樹脂成分を含む吸収層を有し、該色素は、分子内にπ電子結合を有する色素を含み、該分子内にπ電子結合を有する色素の含有割合は、吸収層を構成する色素及び樹脂成分の総量100質量%に対し、1質量%以上である光選択透過フィルターである。
本発明はまた、上記光選択透過フィルターに用いられる樹脂シートである光選択透過フィルター用樹脂シートでもある。
本発明は更に、上記光選択透過フィルター、レンズユニット部、及び、センサー部を少なくとも有する固体撮像素子でもある。
以下に本発明を詳述する。なお、以下において段落に分けて記載される本発明の好ましい形態の2つ又は3つ以上を組み合わせたものも本発明の好ましい形態である。
【0014】
本発明の光選択透過フィルターは、樹脂シートと、その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを有する。なお、本発明の作用効果を損なわない限りにおいて、更に他の層を1又は2以上有していてもよい。
【0015】
〔樹脂シート〕
上記光選択透過フィルターにおける樹脂シートは、色素及び樹脂成分を含有する吸収層(樹脂層とも称す)を有し、分子内にπ電子結合を有する色素を特定割合で含有するものである。これにより、特異な透過吸収特性を示すことができるうえ、この樹脂シートを反射膜と組み合わせることで、視野角依存性(入射角依存性とも称す)が充分に低減され、可視領域から近赤外領域にかけてシャープな透過吸収特性を有する光選択透過フィルターを与えることができる。また、反射膜として好適な光学多層膜と組み合わせると、光学多層膜の層数を減らすことができ、該多層膜における応力を緩和できるため、多層膜のクラックや割れを充分に防止することもできる。このような本発明の光選択透過フィルターに用いられる光選択透過フィルター用樹脂シートもまた、本発明の1つである。
【0016】
上記樹脂シートの構成(形態)は、吸収層を含む限り、特に限定されず、必要に応じて更に他の層を含むものであってもよい。中でも、支持体を更に有することが好ましい。樹脂シートを支持体と吸収層(樹脂層)とを含む構成とすることで、色素の分散困難な支持体であっても、この表面に樹脂層をコートすることによって本発明の効果を付与することができる。また、樹脂層の厚みを変更することで、吸収特性を更に制御することができるため、例えば、樹脂層を極薄コートすることにより支持体(好ましくは支持体フィルム)の膜厚をほとんど変えずに本発明の効果を付与したり、支持体の厚み調整に利用したり、樹脂層を支持体の表面傷削減等の表面改質に利用したりすることもできる。
【0017】
上記樹脂シートの形態としてより好ましくは、支持体の一方又は両面に吸収層が形成された形態であり、更に好ましくは、支持体の両面に吸収層が形成された形態である。また、吸収層を支持体フィルムで挟み込んだ樹脂シートとしてもよい。
なお、樹脂シートを構成する吸収層や、支持体等の他の層は、各々、一層又は二層以上であってもよい。
【0018】
<支持体>
上記樹脂シートは、上述したように支持体を更に有することが好ましいが、支持体としては、フィルム形状のもの(支持体フィルム)が好適である。支持体フィルムとしては、透明性に優れる樹脂を用いることが好ましい。具体的には、例えば、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂(シクロオレフィン樹脂ともいう)等を用いることができる。これらの中でも、反射膜を蒸着形成する際の耐熱性に優れる点で、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂が好ましい。このように上記支持体が、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂により形成されるものである形態は、本発明の好適な実施形態の1つである。特に、ポリ(アミド)イミド樹脂を少なくとも用いることが好ましい。
【0019】
上記支持体フィルムを構成する樹脂としてはまた、溶剤可溶性樹脂、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料のうちの少なくとも1種より形成される樹脂に該当するものが好適である。中でも、可撓性、耐光性等に優れる点で、溶剤可溶性樹脂に該当するものが特に好ましい。溶剤可溶性樹脂、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料については、後述する。
【0020】
上記支持体フィルムの材質と、後述する吸収層の樹脂成分との好適な組み合わせとしては、例えば、支持体フィルム:ポリ(アミド)イミド樹脂/樹脂成分:ポリ(アミド)イミド樹脂、支持体フィルム:ポリ(アミド)イミド樹脂/樹脂成分:アクリル樹脂、支持体フィルム:ポリ(アミド)イミド樹脂/樹脂成分:フッ素化芳香族ポリマー、支持体フィルム:ポリアミド樹脂/樹脂成分:アクリル樹脂、支持体フィルム:アラミド樹脂/樹脂成分:アクリル樹脂、支持体フィルム:シクロオレフィン樹脂/樹脂成分:アクリル樹脂等が挙げられる。中でも、支持体フィルム:ポリ(アミド)イミド樹脂/樹脂成分:ポリ(アミド)イミド樹脂が好ましく、より好ましくは、支持体フィルム:ポリイミド樹脂/樹脂成分:ポリイミド樹脂、支持体フィルム:ポリイミド樹脂/樹脂成分:ポリアミドイミド樹脂、又は、支持体フィルム:ポリアミドイミド樹脂/樹脂成分:ポリアミドイミド樹脂であり、更に好ましくは、支持体フィルム:ポリイミド樹脂/樹脂成分:ポリイミド樹脂である。
【0021】
<吸収層>
上記樹脂シートにおいて、吸収層は、色素及び樹脂成分を含有するものであるが、色素が吸収層中に分散又は溶解されてなることが好ましい。すなわち、樹脂成分と色素とを含む組成物中に色素が分散又は溶解された形態の組成物により、吸収層が形成されることが好適である。このような形態の組成物では、樹脂成分として、後述する溶剤可溶性樹脂、溶剤可溶性樹脂原料及び/又は液状樹脂原料を用いることが好適である。
なお、色素及び樹脂成分としては、各々、1種又は2種以上を使用することができる。
【0022】
(i)色素
上記色素とは、特定波長の光を吸収する物質を意味し、樹脂成分と混合又は混練可能な色素を用いることができる。例えば、600〜800nmの波長域に吸収極大を有するものが好適である。これにより、光選択透過フィルターを、特に780nm〜10μmの赤外光を低減させる赤外線カットフィルターに好適に適用することが可能になる。より好ましくは、650〜750nmの波長域に吸収極大を有するものである。上記色素はまた、400nm以上、600nm未満の波長域には実質的に吸収極大を持たないものであることが好ましい。
【0023】
上記色素は、分子内にπ電子結合を有する色素を含むが、このような分子内にπ電子結合を有する色素としては、芳香環を含む化合物であることが好適である。より好ましくは、1分子内に2個以上の芳香環を含む化合物である。
なお、上記分子内にπ電子結合を有する色素が、上述した好適な波長域に吸収極大を有するものであることが特に好ましい。
【0024】
上記分子内にπ電子結合を有する色素としては、例えば、フタロシアニン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、クアテリレン系色素、スクアリリウム系色素、ナフタロシアニン系色素、ニッケル錯体系色素、銅イオン系色素等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0025】
上記吸収層における分子内にπ電子結合を有する色素の濃度(含有量)としては、吸収層を構成する色素及び樹脂成分の総量100質量%に対して、1質量%以上であることが適切である。1質量%未満では、遮断したい波長域(色素の吸収領域)をシャープに遮断することができず、また、当該波長域の透過率も充分に低減できないおそれがある。好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上、特に好ましくは5質量%以上である。また、本発明の効果の発現には、分子内にπ電子結合を有する色素濃度の下限値が重要であり、上限値は特に限定されないが、例えば、20質量%以下であることが好適である。より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。色素濃度が高すぎると成膜により吸収層を形成した場合の膜厚均一性が低下する場合があるためである。
【0026】
本発明の好ましい形態としては、上記分子内にπ電子結合を有する色素として、双性イオン構造及びカチオン性構造のいずれも有さない色素を用いることである。双性イオン構造又はカチオン性構造を有する色素を用いると、耐熱性や耐光性が充分なものとはならないおそれがある。また、有機溶媒や有機樹脂への溶解性が充分なものとはならないおそれがあり、高濃度にかつより均一に色素を溶解又は分散させることが困難である。このように、上記分子内にπ電子結合を有する色素が、双性イオン構造及びカチオン性構造のいずれも有さない形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
なお、双性イオン構造とは、1つの分子内に正電荷と負電荷の両方を持つ分子構造のことである。双性イオンは、分子内塩と呼ばれることもある。また、カチオン性構造とは、正の電荷を帯びた分子構造である。カチオン性とは、陽イオン性とも呼ばれる。
【0027】
上記双性イオン構造及びカチオン性構造のいずれも有さない色素としては、フタロシアニン系色素及び/又はポルフィリン系色素が好適である。より好ましくは、金属フタロシアニン錯体及び/又は金属ポルフィリン錯体である。
上記フタロシアニン系色素としては、金属フタロシアニン錯体が好適であり、例えば、銅、亜鉛、コバルト、バナジウム、鉄、ニッケル、錫、銀、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、鉛等の金属元素を中心金属とする金属フタロシアニン錯体が挙げられる。これらの金属元素の中でも、溶解性、可視光透過性、耐光性がより優れることから、銅、バナジウム及び亜鉛のいずれか1以上を中心金属とするものが好ましい。中心金属としてより好ましくは銅及び亜鉛であり、更に好ましくは銅である。銅を用いたフタロシアニンは、どのようなバインダー樹脂に分散させても光による劣化がなく、非常に優れた耐光性を有する。
上記ポルフィリン系色素としては、テトラアザポルフィリン等の金属ポルフィリン錯体が好適である。
【0028】
上記吸収層はまた、上述した双性イオン構造又はカチオン性構造を有する色素(他の色素とも称す)を含んでいてもよい。他の色素としては、例えば、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、銅イオン系色素等が挙げられる。
上記他の色素の含有量は、上述した双性イオン構造及びカチオン性構造のいずれも有さない色素による効果を充分に発揮させるため、色素の全量100質量%に対し、30質量%以下であることが好適である。より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは、他の色素を実質的に含まないことである。
【0029】
(ii)樹脂成分
上記吸収層において、樹脂成分は、上述した色素を充分に溶解又は分散できるものであることが好ましい。このような樹脂成分を適切に選択することにより、透過させたい波長域(例えば、可視領域)における高透過率と、遮断したい波長域(例えば、赤外領域)における高吸収性とを両立することが可能となる。
上記樹脂成分としては、例えば、溶剤可溶性樹脂、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。このような樹脂成分は、色素の分散性が高いため、光選択吸収性により優れた光吸収膜を形成することができるとともに、色素を高濃度で分散できるため、光選択透過フィルターの薄膜化も可能である。また、上記樹脂成分を用いると、後述する溶媒キャスト法によって吸収層を形成(成膜)することができるため、吸収層中に色素を高濃度で均一に分散できるとともに、比較的低温で吸収層を形成することができる。
なお、上記吸収層自体は、溶剤可溶性であっても不溶性であってもよい。
【0030】
ここで、「溶剤可溶性樹脂」とは、有機溶剤に可溶な樹脂を意味し、例えば、ジメチルアセトアミド又はN−メチルピロリドン100質量部に対し、1質量部以上溶解する樹脂であることが好適である。また、「溶剤可溶性樹脂原料」とは、溶剤可溶性の樹脂原料、すなわち樹脂原料であって溶剤可溶性であるものを意味し、例えば、ジメチルアセトアミド又はN−メチルピロリドン100質量部に対し、1質量部以上溶解するものが好適である。また、「液状樹脂原料」とは、液状の樹脂原料、すなわち樹脂原料であって液状であるものを意味する。物が「液状である」とは、その物自体の粘度が、常温(25℃)において100Pa・s以下であることを意味する。粘度は、B型粘度計により測定することができる。
なお、「樹脂原料」には、樹脂の前駆体や該前駆体の原料、更に、樹脂を形成するための単量体(硬化性モノマー等)が含まれるものとする。
【0031】
上記樹脂成分としては、上述したように、溶剤可溶性樹脂、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料からなる群より選択される少なくとも1種が好ましいが、これらの中でも、溶剤可溶性樹脂を用いることが好適である。溶剤可溶性樹脂を用いると、溶剤可溶性樹脂原料や液状樹脂原料を用いた場合に比べて、耐光性に優れる。これは、溶剤可溶性樹脂が溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料よりも、分散した色素の吸収性能の劣化を引き起こしにくいためである。理由として、溶剤可溶性樹脂は、そのモノマーや前駆体から調整し、重合や反応を完結させている。更に精製を行う場合もある。こうして得られた溶剤可溶性樹脂には、色素の劣化、分解を促進させる未反応物、反応性末端、イオン性基、触媒、酸・塩基性基等がほとんどないと考えられる。一方、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料は、このような色素の劣化、分解を促進させる因子が多く残っている。また、色素を分散させた状態で、色素の吸収性能や吸収スペクトルを保持したまま、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料の重合や反応を完結させることが難しい(未反応部位が多くなり、所望の物性も充分に得られない。)。そのため、同じ色素を分散させても、樹脂成分の違いにより、樹脂層の耐光性が異なる。したがって、耐光性の観点からは、少なくとも溶剤可溶性樹脂を用いることが好適である。
【0032】
上記溶剤可溶性樹脂として具体的には、例えば、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂等が挙げられる。中でも、耐光性により優れる観点から、フッ素化芳香族ポリマー及び/又はポリ(アミド)イミド樹脂が好ましい。より好ましくは、ポリ(アミド)イミド樹脂であり、更に好ましくはポリイミド樹脂である。
【0033】
上記溶剤可溶性樹脂はまた、架橋反応(硬化反応)することが可能な反応性基(例えば、エポキシ基やオキセタン環、エチレンスルフィド基等の開環重合性基や、アクリル基、メタクリル基、ビニル基等のラジカル硬化性基及び/又は付加硬化性基)を有するものであってもよい。
上記樹脂成分として溶剤可溶性樹脂を用いる場合、該溶剤可溶性樹脂がそのまま、上記吸収層を構成する樹脂成分となっていてもよいし、該溶剤可溶性樹脂が架橋反応等により変化したものが、上記吸収層を構成する樹脂成分となっていてもよい。
なお、架橋可能な反応性基の量や成膜時の架橋反応をどの程度進めるかは特に限定されるものではないが、樹脂の溶剤可溶性が維持できる程度であることが好ましい。
【0034】
上記フッ素化芳香族ポリマーとしては、少なくとも1以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合及びエステル結合の群より選ばれた少なくとも1つの結合とを含む繰り返し単位により構成された重合体等が挙げられ、具体的には、例えば、フッ素原子を有するポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドエーテル、ポリアミド、ポリエーテルニトリル、ポリエステル等が挙げられる。これらの中でも、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合とを含む繰り返し単位を必須部位として有する重合体であることが好ましく、下記一般式(1−1)又は(1−2)で表される繰り返し単位を含む、フッ素原子を有するポリエーテルケトンがより好ましい。中でも特に、フッ素化ポリエーテルケトン(FPEK)が好適である。
なお、一般式(1−1)又は(1−2)で表される繰り返し単位は、同一でも異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0035】
【化1】
【0036】
上記一般式(1−1)中、R1は炭素数1〜150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。Zは2価の鎖又は直接結合を表す。x及びyは0以上の整数であり、x+y=1〜8を満たし、同一又は異なって、芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。n1は、重合度を表し、2〜5000の範囲内が好ましく、5〜500の範囲内がより好ましい。
上記一般式(1−2)中、R2は、置換基を有していてもよい、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルチオ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数6〜20のアリールアミノ基又は炭素数6〜20のアリールチオ基を表す。R3は、炭素数1〜150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。zは、芳香族環に結合しているフッ素原子の数であり、1又は2である。n1は、重合度を表し、2〜5000の範囲内が好ましく、5〜500の範囲内がより好ましい。
【0037】
上記一般式(1−1)において、x+yは2〜8の範囲内が好ましく、4〜8の範囲内がより好ましい。また、エーテル構造部分(−O−R1−O−)が芳香族環に結合する位置としては、Zに対してパラ位であることが好ましい。
【0038】
上記一般式(1−1)及び(1−2)において、R1及びR3は2価の有機鎖であるが、例えば、下記の構造式群(2)で表されるいずれか一つ、又は、その組み合わせの有機鎖であることが好ましい。
【0039】
【化2】
【0040】
上記構造式群(2)中、Y1〜Y4は、同一若しくは異なって、水素基又は置換基を表し、該置換基は、ハロゲン原子、又は、置換基を有していてもよい、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアミノ基若しくはアリールチオ基を表す。
【0041】
上記R1及びR3のより好ましい具体例としては、下記の構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられる。
【0042】
【化3】
【0043】
上記一般式(1−1)において、Zは、2価の鎖又は直接結合していることを表す。当該2価の鎖としては、例えば、下記構造式群(4)(構造式(4−1)〜(4−13))で表される鎖であることが好ましい。
【0044】
【化4】
【0045】
上記構造式群(4)中、Xは、炭素数1〜50の2価の有機鎖であるが、例えば、上述した構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられ、その中でもジフェニルエーテル鎖、ビスフェノールA鎖、ビスフェノールF鎖、フルオレン鎖が好ましい。
【0046】
上記一般式(1−2)中のR2において、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基等が好適である。
上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、フルフリルオキシ基、アリルオキシ基等が好適である。
上記アルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基等が好適である。
上記アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、iso−プロピルチオ基等が好適である。
【0047】
上記アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o−、m−又はp−トリル基、2,3−又は2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、ピレニル基等が好適である。
上記アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、ヒドロキシ安息香酸及びそのエステル類(例えば、メチルエステル、エチルエステル、メトキシエチルエステル、エトキシエチルエステル、フルフリルエステル及びフェニルエステル等)由来の基、ナフトキシ基、o−、m−又はp−メチルフェノキシ基、o−、m−又はp−フェニルフェノキシ基、フェニルエチニルフェノキシ基、クレソチン酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記アリールアミノ基としては、アニリノ基、o−、m−又はp−トルイジノ基、1,2−又は1,3−キシリジノ基、o−、m−又はp−メトキシアニリノ基、アントラニル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記アリールチオ基としては、フェニルチオ基、フェニルメタンチオ基、o−、m−又はp−トリルチオ基、チオサリチル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
【0048】
上記R2としては、これらのうち、置換基を有していてもよい、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基が好ましい。但し、R2には、二重結合又は三重結合が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0049】
上記一般式(1−2)中のR2における置換基としては、上述のような炭素数1〜12のアルキル基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;シアノ基、ニトロ基、カルボキシエステル基等が好適である。また、これら置換基の水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよい。これらの中でも、好ましくは、ハロゲン原子、水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基及びカルボキシエステル基である。
【0050】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂とは、狭義のポリイミド樹脂(イミド結合を含み、アミド結合を含まない樹脂、ここでいうアミド結合とは、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合を意味する。)、及び、ポリアミドイミド樹脂(アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合とイミド結合とを含む樹脂)のいずれをも包含する。
なお、ポリイミド樹脂におけるイミド結合は、通常、アミド結合とそれに隣接するカルボキシル基とを有する結合鎖(本発明では、該結合鎖をアミック酸ともいう。通常は、アミド結合が結合した炭素原子に隣接する炭素原子にカルボキシル基が結合した構造である。)におけるアミド結合とカルボキシル基との脱水反応による形成される。
ポリアミック酸から脱水反応によりポリイミド樹脂を生成させる際、分子内に若干量のアミック酸は残存し得る。したがって、本発明で「ポリイミド樹脂」という場合は、イミド結合を含み、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合は含まないが、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合は含まないか若干量含んでいてもよい。
【0051】
本発明で用いる溶剤可溶性樹脂としては、ポリイミド樹脂におけるイミド結合含有率(イミド化反応によりイミド化し得るアミド結合数とイミド結合数の合計量100モル%に対するイミド結合数の割合)が80モル%以上であるポリイミド樹脂が好ましい。より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、特に好ましくは98モル%以上である。
【0052】
また本発明でいうポリアミドイミド樹脂とは、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合とイミド結合とを含むが、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合は含まないか若干量含んでいてもよい。アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合を含む場合、アミド結合数(脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合数と脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合数との和)とイミド結合数との合計量100モル%に対する、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合の含有率は、20モル%未満が好ましい。より好ましくは10モル%未満、更に好ましくは5モル%未満、特に好ましくは2モル%未満である。
【0053】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂は、多価カルボン酸化合物と、多価アミン化合物及び/又は多価イソシアネート化合物との反応により得られるポリ(アミド)イミド樹脂の原料(ポリ(アミド)イミド前駆体とも称す。)を、イミド化反応して得ることができる。
上記ポリ(アミド)イミド樹脂はまた、透明性を有することが好ましい。透明性向上のためには、芳香環が少ないほうが好ましい。中でも、芳香環を脂環又は脂肪鎖等で置き換えた構造を有することが好適である。より好ましくは、全重量100%中の芳香環の重量が65%以下、更に好ましくは45%以下、特に好ましくは30%以下である。
【0054】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂としては、イミド結合を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、下記一般式(5):
【0055】
【化5】
【0056】
(式中、R4は、同一又は異なって、有機基を表す。)で表される繰り返し単位を有する化合物が好適である。
上記一般式(5)におけるR4としては、2価の有機基が好ましく、中でも、炭素数2〜39の2価の有機基が好ましい。また、当該有機基は1種又は2種以上の炭化水素骨格を含むものが好ましい。炭化水素骨格としては、脂肪族鎖状炭化水素、脂肪族環状炭化水素又は芳香族炭化水素であることが好ましい。当該有機基はまた、複素環骨格を有するものであってもよい。
【0057】
上記一般式(5)におけるR4としてはまた、上記の炭化水素骨格及び/又は複素環骨格から選ばれる、同一又は異なる2種以上を有し、それらが炭素―炭素結合を介して、又は、炭素―炭素結合とは異なる結合基を介して、結合した骨格を含むものが好ましい。結合基としては、例えば、−O−、−SO2−、−CO−、−Si(CH3)2−、−C2H4O−、−S−等が挙げられる。
なお、上記一般式(5)で表される繰り返し単位におけるそれぞれのR4としては、同一であっても異なるものであってもよい。
【0058】
上記R4で表される有機基は窒素原子に直接結合していてもよいし、結合基として、−O−、−SO2−、−CO−、−CH2−、−C(CH3)2−、−Si(CH3)2−、−C2H4O−、−S−等を有していてもよい。
なお、一般式(5)におけるシクロヘキシル環における水素原子の一部又は全部が置換されていてもよいが、無置換(全て水素原子である形態)であるものが好ましい。
上記一般式(5)で表される繰り返し単位は、同一でも異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0059】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂の好ましい具体例としては、例えば、三菱ガス化学社製のネオプリムL−3430(厚さ50μm、100μm、200μm等)等が挙げられる。なお、この製品はフィルム形状であるが、有機溶剤に可溶であるので、上記溶剤可溶性樹脂として好ましく使用される。
【0060】
上記溶剤可溶性樹脂原料又は液状樹脂原料としては、例えば、エポキシ樹脂の原料となるエポキシ化合物、ビニル重合体樹脂の原料であるビニル系化合物((メタ)アクリル系化合物、スチレン系化合物等)、ポリ(アミド)イミド前駆体等が挙げられる。好ましくは、エポキシ化合物、ビニル系化合物である。
【0061】
上記エポキシ樹脂とは、エポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物)を含む硬化性組成物の硬化物である。硬化物の形態としてはエポキシ化合物をカチオン硬化触媒の存在下で光及び/又は熱硬化してなる形態、エポキシ化合物を付加的硬化剤と反応させることにより得られる硬化物の形態等が挙げられる。後者において硬化反応促進のため従来公知の硬化促進剤を併用することもできる。付加的硬化剤としては、例えば、酸無水物、多価フェノール化合物、多価アミン等が例示されるが、中でも酸無水物が好ましい。
【0062】
上記エポキシ化合物としては、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物等が好適であり、例えば、大阪ガスケミカル社製のフルオレンエポキシ(オンコートEX−1);ジャパンエポキシレジン社製のビスフェノールA型エポキシ化合物(エピコート828EL);ジャパンエポキシレジン社製の水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(エピコートYX8000);ダイセル工業社製の脂環式液状エポキシ化合物(セロキサイド2021)等が好ましく使用できる。
なお、本明細書中、エポキシ基とは、3員環のエーテルであるオキシラン環を含むものであり、狭義のエポキシ基の他、グリシジル基(グリシジルエーテル基及びグリシジルエステル基を含む)を含むものを意味する。
【0063】
上記エポキシ化合物を含む樹脂はまた、その硬化前の硬化性組成物が、可撓性を有する成分(可撓性成分)を含むことが好適である。可撓性成分を含むことにより、成形時や基板、型等からはずすときに割れない、形が崩れない、剥がれやすい、柔軟性がある等の一体感のある樹脂組成物とすることができる。
上記可撓性成分としては、上記エポキシ化合物とは異なる化合物であってもよいし、上記エポキシ化合物の少なくとも1種が可撓性成分であってもよい。
【0064】
上記ビニル重合体樹脂とは、重合原料としてビニル系化合物を(共)重合して得られる重合体であり、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル−スチレン樹脂等が例示される。
アクリル樹脂とは、(メタ)アクリロイル基を有する化合物((メタ)アクリロイル基含有化合物又は(メタ)アクリル系化合物とも称す。)を含む硬化性組成物の硬化物であり、スチレン樹脂とは、スチレンやジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー(スチレン系化合物とも称す。)を含む硬化性組成物の硬化物であり、アクリル−スチレン樹脂とは、(メタ)アクリロイル基含有化合物及びスチレン系モノマーを含む硬化性組成物の硬化物である。上記ビニル重合体樹脂の中でも、アクリル樹脂、アクリル−スチレン樹脂が好ましい。
【0065】
上記(メタ)アクリロイル基含有化合物として好ましくは、(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等が例示される。(メタ)アクリレートモノマーを(共)重合した(メタ)アクリレート(共)重合体(ただし(メタ)アクリロイル基を有する)も好適に使用できる。フィルム化を容易にできる点で、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート(共)重合体等の重合性オリゴマーと、(メタ)アクリレートモノマーとを含む組成物をアクリル樹脂原料として用いることが好ましい。
上記アクリル−スチレン樹脂原料としては、上記アクリル樹脂原料の好適な形態において更にスチレン系モノマーを用いた組成物が好ましい。
【0066】
上記ポリ(アミド)イミド前駆体とは、ポリ(アミド)イミド樹脂を形成するための原料、すなわちイミド化反応に供される化合物であり、例えば、ポリアミック酸等が好適である。具体的には、例えば、日立化成工業社製のHPC−7000−30等が好ましく使用される。
【0067】
上記樹脂シートの形成方法としては特に限定されず、例えば、樹脂層を形成する樹脂組成物を、支持体表面(又は、支持体と樹脂層との間に他の層を有する場合は、当該他の層の表面)に塗布し、乾燥又は硬化することにより形成する方法(塗布法又はコーティング法、溶媒キャスト法と称す)や、支持体に対して、樹脂組成物から形成された樹脂フィルムを熱圧着することにより形成する方法の他、練込法等も挙げられる。中でも、支持体と樹脂層(吸収層)とを有する樹脂シートを得る場合には、溶媒キャスト法を採用することが好ましい。これによって上記吸収層と支持体等との密着性がより充分なものとなる。なお、支持体を有しない樹脂シートを得る場合にも、溶媒キャスト法を用いることが好ましく、例えば、仮の基材に、樹脂層を形成する樹脂組成物を塗布した後、該基材から剥離することにより当該樹脂シートを得ることができる。
【0068】
このように溶媒キャスト法を用いることが好適であるが、溶媒キャスト法を用いると、色素をより均一に分散できるため、光選択吸収性により優れた光吸収膜を形成することができる。また、色素を高濃度で分散可能であるため薄膜化が可能であり、固体撮像素子等の部材の低背化要求に応えることができる。更に、比較的低温で吸収層を形成することができるため、比較的耐熱性の低い色素も使用することができる。このように、上記吸収層が溶媒キャスト法によって形成されてなる形態は、本発明の好適な形態の1つである。一方、練込法においては、樹脂を高温(例えば、200℃以上)で溶融して用いることになるため、耐熱性の低い色素は分解してしまい、充分な光吸収性が得られないおそれがある。また、色素の分散性も充分に高くならないおそれがある。
【0069】
上記溶媒キャスト法において使用する溶媒(有機溶剤)としては、上記吸収層を形成するための樹脂成分を溶解できるものであれば特に限定されず、樹脂の種類に応じて適宜選択可能であるが、例えば、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;PGMEA(2−アセトキシ−1−メトキシプロパン)、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体(エーテル化合物、エステル化合物、エーテルエステル化合物等);N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;N−メチル−ピロリドン(より具体的には、1−メチル−2−ピロリドン等)等のピロリドン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプチルエーテル等のエーテル類;等が好適である。より好ましくは、メチルエチルケトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミドである。
【0070】
上記溶媒の使用量としては、上記樹脂成分の総量100質量%に対して、150質量%以上であることが好ましく、また、1900質量%以下が好ましい。より好ましくは、200質量%以上であり、また、1400質量%以下である。上記範囲とすることにより色素濃度の高い吸収層が得られ易い。
【0071】
上記溶媒キャスト法においては、溶媒に樹脂層を形成するための樹脂成分(バインダー樹脂)を溶解して得られる溶液に色素を均一に分散させた分散液を、支持体上に塗布・乾燥(硬化)することにより吸収層を製膜(成膜)することが好ましい。樹脂成分として、液状樹脂原料を用いる場合には、該樹脂原料に直接色素を分散させてもよく、該樹脂原料を溶媒で希釈したうえで色素を分散させてもよい。
【0072】
上記吸収層としては、吸収層の可視光領域におけるヘイズが10%以下であることが好ましい。より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。また、吸収層の可視光500nmにおける透過率は60%以上であることが好適である。より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。
上記吸収層はまた、上記色素の吸収極大波長における透過率が60%以下であることが好ましい。これにより、吸収極大波長付近の光を効果的に遮断することができる。透過率としてより好ましくは50%以下、更に好ましくは40%以下、特に好ましくは30%以下である。
透過率は、分光光度計(Shimadzu UV−3100、島津製作所社製)を用いて測定することができる。
なお、上記吸収層を含む樹脂シート又は光選択透過フィルターについても、可視光領域におけるヘイズ、可視光500nmにおける透過率、及び、色素の吸収極大波長における透過率が、夫々、吸収層のついての上述した範囲と同様の範囲にあることが好ましい。
【0073】
上記吸収層としてはまた、厚みが5μm以下であることが好適である。これにより、光選択透過フィルターを充分に薄膜化することができ、光学部材等の低背化要求に応えることができる。より好ましくは3μm以下である。また、0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm以上である。
なお、樹脂シートの厚みとしては、1mm以下であることが好ましい。より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下、より更に好ましくは80μm以下、より一層好ましくは50μm以下、特に好ましくは40μm以下、最も好ましくは30μm以下である。また、支持体の厚みは100μm以下であることが好ましい。
【0074】
〔反射膜〕
上記光選択透過フィルターにおいて、反射膜(反射層とも称す)としては、多層からなる膜であることが好適である。すなわち、上記反射膜は、光学多層膜であることが好ましい。また、光学多層膜としては、各波長の屈折率を制御できる無機多層膜等が、耐熱性に優れる点で好適である。無機多層膜としては、基材やその他の機能性材料層の上に、真空蒸着法、スパッタリング法等により、低屈折率材料及び高屈折率材料を交互に積層させた屈折率制御多層膜が好ましい。上記反射膜はまた、透明導電膜であることも好適である。透明導電膜としては、インジウム−スズ系酸化物(ITO)等の赤外線を反射する膜としての透明導電膜が好ましい。中でも、無機多層膜が好ましい。
【0075】
上記無機多層膜としては、誘電体層Aと、誘電体層Aが有する屈折率よりも高い屈折率を有する誘電体層Bとを交互に積層した誘電体多層膜が好適である。
上記誘電体層Aを構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を通常用いることができ、好ましくは、屈折率の範囲が1.2〜1.6の材料が選択される。このような材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が好適である。
【0076】
上記誘電体層Bを構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、好ましくは、屈折率の範囲が1.7〜2.5の材料が選択される。このような材料としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化インジウムを主成分とし酸化チタン、酸化錫、酸化セリウム等を少量含有させたもの等が好適である。
【0077】
上記誘電体層A及び誘電体層Bの各層の厚みは、通常、遮断しようとする光の波長をλ(nm)とすると0.1λ〜0.5λの厚みであることが好ましい。厚みが上記範囲外になると、屈折率(n)と膜厚(d)との積(n×d)がλ/4で算出される光学的膜厚と大きく異なって反射・屈折の光学的特性の関係が崩れてしまい、特定波長の遮断・透過をするコントロールができなくなるおそれがある。
【0078】
上記誘電体層Aと誘電体層Bとを積層する方法については、これら材料層を積層した誘電体多層膜が形成される限り特に制限はないが、例えば、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等により、誘電体層Aと誘電体層Bとを交互に積層することにより誘電体多層膜を形成することができる。
【0079】
上記無機多層膜等の反射膜は、上記方法等により好適に形成することができるが、蒸着によって光選択透過フィルターが変形しカールしたり、割れが生じたりする可能性を小さくするために、次の方法を用いることができる。すなわち具体的には、離型処理したガラス等の仮の基材に蒸着層を形成し、樹脂シートに、該蒸着層を転写して反射膜を形成する反射膜の転写方法が好適である。この場合、樹脂シートには、接着層を形成しておくことが好ましい。
また、樹脂シートが有機材料、具体的には樹脂組成物により形成される場合には、未硬化又は半硬化状態の樹脂シート(樹脂組成物)に、上記誘電体層等を蒸着した後、樹脂シートを硬化する方法が好適である。このような方法を用いると、多層蒸着後の冷却時に、基材が流動的となり、液状に近い状態となるために、樹脂組成物と誘電体層等との熱膨張係数差が問題にならず、光選択透過フィルターの変形(カール)を抑制することができる。
【0080】
このように樹脂シートへの反射膜(好ましくは光学多層膜、より好ましくは無機多層膜)の形成には、蒸着法を用いることが好適であるが、蒸着温度は、100℃以上とすることが好適である。より好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上である。このような高温で蒸着すると、無機膜(無機多層膜を構成する無機膜)が緻密で硬くなり、種々の耐性が向上し、歩留りが向上する等の利点がある。そのため、このような蒸着温度に耐える樹脂シート及び色素を用いることは、非常に意味がある。また、このような高温での蒸着には、樹脂シートを構成する樹脂層又は支持体フィルムとして、線膨張係数の低い樹脂層又は支持体フィルムを用いることが好適である。これにより、無機・有機の線膨張係数の差による無機層クラックを抑制することができる。また、線膨張係数が低い樹脂層又は支持体フィルムを用いると、高温で蒸着できるだけでなく、低温で蒸着したとしても、無機膜との線膨張係数の差が小さいため、本発明の光選択透過フィルターを含む固体撮像素子を製造する場合などに採用されるリフロー工程等の製造工程での加熱環境や過酷な使用環境においても、無機・有機の線膨張係数の差による無機層クラックが生じない。
【0081】
上記線膨張係数が低い樹脂層又は支持体フィルムとしては、線膨張係数が60ppm以下のものが好ましい。より好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下、最も好ましくは10ppm以下である。
上記線膨張係数が低い樹脂層又は支持体フィルムとして具体的には、例えば、ポリ(アミド)イミド樹脂、アラミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、有機無機ハイブリッド樹脂等が好適であり、上記樹脂層又は支持体フィルムが、これらからなる群より選択される少なくとも1種により形成されるものである形態は、本発明の好適な形態の1つである。また、樹脂を延伸する;無機微粒子等を分散させる;ガラスクロスを用いる;架橋密度を上げる;コンポジット化する;結晶化させる;等によっても線膨張係数を低下させることができる。
【0082】
上記反射膜は、上記樹脂シートの少なくとも一方の表面に形成されてなるものである。反射膜は、樹脂シートの一方の表面のみに形成されていてもよいし、樹脂シートの両面に形成されていてもよいが、両面に形成されることが好ましい。これにより、本発明に係る光選択透過フィルターの反りや反射膜の割れを低減することができる。なお、上記樹脂シートが吸収層と支持体とからなる形態においては、反射膜は、該吸収層の表面に形成されることが好ましい。
【0083】
また本発明の光選択透過フィルターの他の好ましい形態として、上述の樹脂シートとは異なる樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に反射膜が形成され、更に該反射膜の表面に、上述の樹脂シートが形成される形態も挙げられる。すなわち、上記樹脂フィルムの表面に、反射膜、上記樹脂シート(支持体と吸収層とを含む樹脂シート)の順に積層されてなる形態である。反射膜は樹脂フィルムの両面に設けられることが好ましい。その場合、樹脂シートは、一方の反射膜の表面に積層されていても、2つの反射膜の表面に積層されていてもよい。この場合、樹脂フィルムは、上述した支持体フィルムと同様のものを使用することができ、好適な形態についても支持体フィルムの場合と同様である。
【0084】
上述したように上記反射膜は光学多層膜であることが好ましいが、その積層数は、樹脂シートの一方の表面にのみ上記光学多層膜を有する場合は、10〜80層の範囲が好ましく、より好ましくは25〜50層の範囲である。一方、樹脂シートの両面に上記光学多層膜を有する場合は、上記光学多層膜の積層数は、樹脂シート両面の積層数の合計として、10〜80層の範囲が好ましく、より好ましくは25〜50層の範囲である。
また、上記反射膜の厚みは、0.5〜10μmであることが好ましい。より好ましくは、2〜8μmである。反射膜が上記樹脂シートの両面に形成される形態においては、両面の反射膜の合計の厚みが上記範囲内にあることが好ましい。
【0085】
〔光選択透過フィルターの好ましい形態等〕
本発明の光選択透過フィルターは、所望の光の透過率を選択的に低減させるという機能以外の種々の他の機能を有していてもよい。例えば、光選択透過フィルターとして好ましい形態の1つである赤外カットフィルターの場合、紫外線を遮蔽する機能等の赤外カット以外の各種機能を有する形態や、強靱性、強度等の赤外カットフィルターの物性を向上させる機能を有する形態を挙げることができる。このような、本発明の光選択透過フィルターが上記他の機能を有する形態においては、樹脂シートの一方の表面に上記反射膜を形成し、他方の表面に上記他の機能を付与するための機能性材料層を形成することが好ましい。
上記機能性材料層は、例えば、上述のCVD法、スパッタリング法、真空蒸着法により、直接、上記樹脂シート上に形成したり、離型処理された仮の基材上に形成された機能性材料層を樹脂シート上に接着剤で張り合わせたりすることにより得ることができる。また、原料物質を含有する液状組成物を樹脂シートに塗布、乾燥して製膜することによっても得ることができる。
【0086】
本発明の光選択透過フィルターはまた、厚み(樹脂シートと反射膜との合計の厚み)が1mm以下であることが好ましい。ここで、光選択透過フィルターの厚みとは、該光選択透過フィルターの最大厚みをいう。上記光選択透過フィルターの厚みとしてより好ましくは、薄膜化要求に対応し得る点で、200μm以下であり、更に好ましくは150μm以下、特に好ましくは120μm以下、最も好ましくは60μm以下である。また、耐リフロー性、特に260℃の温度における耐熱性に優れる点で、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは30μm以上である。また、光選択透過フィルターの厚みの範囲は、1〜150μmであることが好ましく、より好ましくは10〜120μm、更に好ましくは30〜120μm、特に好ましくは30〜60μmである。
【0087】
上記光選択透過フィルターの厚みを1mm以下とすることにより、光選択透過フィルターをより小型化、軽量化することができ、種々の用途に好適に用いることができる。特に、光学部材等の光学用途において好適に用いることができる。光学用途においては、他の光学部材と同様に光選択透過フィルターも小型化、軽量化が強く求められている。本発明の光選択透過フィルターは、厚みを1mm以下とすることで、薄膜化をより達成でき、特に撮像レンズ等のレンズユニットに用いた場合に、レンズユニットの低背化を実現することができる。言い換えると1mm以下の薄い光選択透過フィルターを光学部材として用いた場合に、光路を短縮することができ、該光学部材を小さくすることができる。具体的には、カメラモジュールにおいては、レンズと光選択透過フィルターとシーモスセンサーとを有することとなる。
【0088】
図9及び図10に、カメラモジュールの一例を、模式的に示す。なお、これらの図は、エレクトロニックジャーナル第81回テクニカルセミナー(Electronic Journal 第81回 Technical Seminar)資料を参照した。
図9に示すように、光選択透過フィルターは、所望の波長の光(カメラモジュールにおいては、例えば、700nm以上の波長の光)をカットし、シーモスセンサーの誤作動を防ぐ役割がある。カメラモジュールに光選択透過フィルターを入れると、焦点距離が伸びるため、バックフォーカスが伸張し、モジュールが大きくなる。光選択透過フィルターの厚みがtで屈折率nが1.5程度の場合、図10に示すように、バックフォーカスが約t/3伸張し、モジュールが大きくなるが、光選択透過フィルターを薄くして、焦点距離を短くし、モジュールを小さくすることができる。それにより、例えば、1/10インチの光学サイズの光路長としては、光選択透過フィルターなしの場合の120%以下とすることが好ましい。より好ましくは110%以下、更に好ましくは105%以下である。
【0089】
本発明の光選択透過フィルターは、光の透過率を選択的に低減するものである。低減させる光としては、10nm〜100μmの間のものであればよく、用いる用途により選択することができる。低減させる光の波長に応じて赤外線カットフィルター、紫外線カットフィルター、赤外・紫外線カットフィルター等とすることができるが、中でも、650nm〜10μmの赤外光と200〜350nmの紫外光とを低減し、それ以外の光を透過するものであることが好ましい。すなわち、上記光選択透過フィルターは赤外・紫外線カットフィルターであることが好ましい。これにより、光遮断特性の入射角依存性を低減するという本発明の作用効果をより充分に発揮することができる。
【0090】
赤外線カットフィルターは、赤外線領域である650nm〜10μmの波長を有する光のうち、いずれかの波長(範囲)の光を選択的に低減する機能を有するフィルターであればよい。選択的に低減する波長の範囲としては、650nm〜2.5μm、650〜1μm又は800nm〜1μmであることが好適である。これらの範囲の波長の少なくとも一つを選択的に低減するフィルターもまた、上記赤外線カットフィルターに含まれる。選択的に低減する波長の範囲としては、近赤外線領域である650nm〜1μmであることがより好ましい。
紫外線カットフィルターは、紫外線を遮断する機能を有するフィルターである。選択的に低減する波長の範囲としては、200〜350nmであることが好ましい。
赤外・紫外線カットフィルターは、紫外線及び赤外線の両方を遮断する機能を有するフィルターである。選択的に低減する波長の範囲は、上述と同様であることが好ましい。
【0091】
本発明の光選択透過フィルターが赤外線カットフィルターである形態においては、650〜1000nmの赤外線の透過率を選択的に5%以下に低減するものが好ましい。その他の波長域の透過率は、75%以上であることが好ましいが、フィルターの用途に応じて特定の波長域の透過率のみが高いものであってもよい。例えば、上記赤外線カットフィルターをカメラモジュールとして用いる場合には、赤外光の透過率が5%以下であり、可視光(400〜600nm)の透過率が80%以上であることが好適である。より好ましくは85%以上である。また、可視光の中でも450〜550nmの波長域の光の透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好適である。なお、上記赤外線カットフィルターにおいては、その他(赤外線領域以外)の波長の透過率としては、より好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。すなわち、上記光選択透過フィルターは、波長が400〜600nmにおける光の透過率が80%以上であり、かつ800〜1000nmにおける透過率が5%以下の赤外線カットフィルターであることが好ましい。より好ましくは750〜1000nmにおける透過率が5%以下、更に好ましくは700〜1000nmにおける透過率が5%以下である。
透過率は、分光光度計(Shimadzu UV−3100、島津製作所社製)を用いて測定することができる。
【0092】
本発明の光選択透過フィルターが紫外線カットフィルターである形態においては、200〜350nmの紫外線の透過率を選択的に5%以下に低減するものが好ましい。その他の波長域の透過率は、75%以上であることが好ましい。
【0093】
本発明の光選択透過フィルターが赤外・紫外線カットフィルターである形態においては、650nm〜10μmの赤外光と200〜350nmの紫外光とを選択的に5%以下に低減するものが好ましく、その他の波長域の透過率は、75%以上であることが好ましい。
【0094】
上記光選択透過フィルターとして好ましくは、600〜800nmの波長域に吸収極大を有し、かつ分子内にπ電子結合を有する色素を含有する吸収層を有する樹脂シートの少なくとも一方の表面に、反射膜が形成されてなる形態であるが、この構成によって、光遮断特性の入射角依存性をより充分に低減することができる。
光遮断特性の入射角依存性は、分光光度計(Shimadzu UV−3100、島津製作所社製)を用いて、入射角を変えた透過率(例えば0°、20°、25°、30°等。入射角0°における透過率とは、光選択透過フィルターの厚み方向から光が入射するようにして測定される透過率であり、入射角20°における透過率とは、光選択透過フィルターの厚み方向に対して20°傾いた方向から光が入射するようにして測定される透過率である。)を測定し、そのスペクトル変化量により評価できる。
なお、光遮断特性の入射角依存性は、樹脂シートの吸収により充分に低減されている必要があり、入射角の変化に対して透過率スペクトルが変化しないこと、又は、その変化の程度が小さいことが好ましい。具体的には、入射角0°を20°に変えても(より好ましくは25°に変えても)、透過率80%以上の領域において、透過率のスペクトルが変化しないことが好ましく、より好ましくは、透過率70%以上の領域において透過率のスペクトルが変化しないことであり、更に好ましくは、透過率60%以上の領域において透過率のスペクトルが変化しないことである。最も好ましくは、いずれの透過率領域においてもスペクトルが変化しないことである。
【0095】
上述したように、本発明の光選択透過フィルターは、光選択透過性に特に優れ、光遮断特性の入射角依存性を充分に低減することができるとともに、充分な薄膜化が可能であるため、自動車や建物等のガラス等に装着される熱線カットフィルター等として有用であるのみならず、カメラモジュール(固体撮像素子ともいう)用途における光ノイズを遮断し視感度補正するためのフィルターとして有用である。中でも、本発明の光選択透過フィルターは、薄型化・軽量化が進むデジタルスチルカメラや携帯電話用カメラ等のカメラモジュールに用いられるフィルターとして有用である。カメラモジュールは、通常、レンズユニット(撮像レンズ)部、光選択透過フィルター、及び、CCDやCMOS等のセンサー部を備えるが、本発明の光選択透過フィルターを用いたカメラモジュールは、通常、レンズユニット(撮像レンズ)部と、CCDやCMOS等のセンサー部との間に配置される。このように本発明の光選択透過フィルター、レンズユニット部、及び、センサー部を少なくとも有する固体撮像素子もまた、本発明の1つである。通常、反射型の光選択透過フィルターを用いた固体撮像素子では、入射角依存性に起因する影響(入射角による色むらの発生等)を抑制するために、多数のレンズを使用してレンズユニット部を構成するが、本発明の固体撮像素子では、上述した光選択透過フィルターを用いることによって、入射角依存性に起因する影響が充分に排除されるため、レンズユニット部を構成するレンズの枚数を少なくすることができ、薄型化・軽量化がより実現されることになる。
なお、レンズユニット部については、WO2008/081892に記載の形態が好ましく採用できる。
【0096】
上記固体撮像素子として具体的には、例えば、携帯電話、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等が挙げられる。このように本発明の光選択透過フィルターを用いてなる、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、及び、表示素子もまた、本発明の好適な形態に含まれる。
【発明の効果】
【0097】
本発明の光選択透過フィルターは、上述の構成よりなり、遮断したい波長域をよりシャープに遮断でき、かつ透過させたい波長域では高い透過率を示すといった特性に特に優れ、かつ光遮断特性の入射角依存性が充分に低減された光選択透過フィルターである。したがって、本発明の光選択透過フィルターを用いた固体撮像素子(カメラモジュール)は、反射型の光選択透過フィルターを用いることにより課題となった入射角による色むらの発生が、充分に抑制された画像を取り込むことができる。また、本発明の光選択透過フィルターは、充分な薄膜化も可能であるため、薄型化・軽量化が求められる用途において特に好適に用いることができる。具体的には、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品等の様々な用途に好適に用いることができ、特に、撮像レンズ等のレンズ用光選択透過フィルターとして有用であり、中でも、カメラモジュール用IRカットフィルターとして特に有用である。
【0098】
また本発明の樹脂シートは、吸収層における特定色素を特定濃度以上で含有するものとすることにより、色素分子が本来有する選択透過性よりも優れた選択透過性を発揮できる樹脂シートである。すなわち、400〜600nmの可視光に対する透過率は同等でありながら、600nm以上における吸収極大波長がより短波長側にシフトした、選択透過性に優れるものである。そのため、本発明の樹脂シートは、反射膜を更に備える光選択透過フィルター用の樹脂シートとして、上述した各種用途向けに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】実施例1で得た樹脂シート(1)の透過率スペクトルである。
【図2】実施例2で得た樹脂シート(2)の透過率スペクトルである。
【図3】比較例1で得た樹脂シート(3)の透過率スペクトルである。
【図4】比較例2で得た樹脂シート(4)の透過率スペクトルである。
【図5】実施例3で得た樹脂シート(5)の透過率スペクトルである。
【図6】実施例4で得た樹脂シート(6)の透過率スペクトルである。
【図7】比較例3で得た樹脂シート(7)の透過率スペクトルである。
【図8】本発明の光選択透過フィルターについて透過率及び入射角依存性を評価した透過率スペクトルの一例である。
【図9】カメラモジュールの構成を示す断面模式図である。
【図10】光選択透過フィルターの有無によるバックフォーカスの伸張を示す模式図である。
【図11】透過率測定方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0100】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
なお、下記合成例における数平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ−N 4.6*150を2本、溶離液:テトラヒドロフラン、標準サンプル:TSKポリスチレンスタンダード)により測定した。
【0101】
合成例1
<FPEK(フッ素化ポリエーテルケトン)の合成>
温度計、冷却管、ガス導入管、及び、攪拌機を備えた反応器に、BPDE(4,4’−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル)16.74部、HF(9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン)10.5部、炭酸カリウム4.34部、DMAc(ジメチルアセトアミド)90部を仕込んだ。この混合物を80℃に加温し、8時間反応した。反応終了後、反応溶液をブレンダーで激しく攪拌しながら、1%酢酸水溶液中に注加した。析出した反応物を濾別し、蒸留水及びメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して、フッ素化芳香族ポリマー(FPEK)を得た。
上記ポリマーのガラス転移点温度(Tg)は242℃、数平均分子量(Mn)が70770、表面抵抗値は1.0×1018Ω/cm2以上であった。
【0102】
実施例1
合成例1で得たFPEK10部に、TX−EX−609K(開発品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.3部、MIBK(メチルイソブチルケトン)を70部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(1)を得た。
支持体フィルムとしてのネオプリムL−3430(三菱ガス化学社製、50μm厚)上に、色素含有樹脂組成物(1)を30μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥して、樹脂シート(1)52.3μmを得た。
樹脂シート(1)の透過率スペクトルを図1に示した。
【0103】
実施例2
支持体フィルムとしてのネオプリムL−3430(三菱ガス化学社製、50μm厚)上に、実施例1で得られた色素含有樹脂組成物(1)を15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥後、裏面にも同様に15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥した。樹脂シート(2)52.2μmを得た。
樹脂シート(2)の透過率スペクトルを図2に示した。
【0104】
比較例1
合成例1で得たFPEK10部に、TX−EX−609K(開発品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.01部、MIBKを40部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(2)を得た。
色素含有樹脂組成物(2)をガラス板上に420μm厚で塗布し、150℃で180分間乾燥して、硬化物を剥離することにより樹脂シート(3)65μmを得た。
樹脂シート(3)の透過率スペクトルを図3に示した。
【0105】
比較例2
合成例1で得たFPEK10部に、TX−EX−609K(開発品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.0065部、MIBKを40部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(3)を得た。
色素含有樹脂組成物(3)をガラス板上に650μm厚で塗布し、150℃で180分間乾燥して、硬化物を剥離することにより樹脂シート(4)100μmを得た。
樹脂シート(4)の透過率スペクトルを図4に示した。
【0106】
実施例3
ネオプリムL−3430(三菱ガス化学社製、50μm厚)10部にDMAc90部を加え、120℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にTX−EX−609K(商品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.3部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(4)を得た。
色素含有樹脂組成物(4)を支持体フィルムとしてのネオプリムL−3430(三菱ガス化学社製、50μm厚)上に、15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥後、支持体フィルムの裏面に同様にして色素含有樹脂組成物(4)を15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥させることにより、樹脂シート(5)54μmを得た。
樹脂シート(5)の透過率スペクトルを図5に示した。
【0107】
実施例4
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸(アルドリッチ製、純度95%)5部と無水酢酸(和光純薬社製)44部とを、フラスコに仕込み、攪拌しながら反応器内を窒素ガスで置換した。窒素ガス雰囲気下で溶剤の還流温度まで昇温し、10分間溶剤を還流させた。攪拌しながら室温まで冷却し、結晶を析出させた。析出した結晶を固液分離し、乾燥して目的物(1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物)の結晶を得た。温度計、撹拌器、窒素導入管、側管付き滴下ロート、ディーンスターク、冷却管を備えたフラスコに、窒素気流下、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(和光純薬社製)0.89部と、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン7.6部を仕込んで溶解させた後、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物1部を室温にて固体のまま1時間かけて分割投入し、室温下2時間撹拌した。共沸脱水剤としてキシレンを2.6部添加して180℃で3時間反応を行い、ディーンスタークで還流して共沸する生成水を分離した。190℃に昇温しながらキシレンを留去した後、冷却し、ポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液、9.33部を得た(この溶液中のポリイミド濃度:18.5%)。この溶液に、TX−EX−609K(商品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.055部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(5)を得た。
色素含有樹脂組成物(5)を、支持体フィルムとしてのネオプリムL−3430(三菱ガス化学社製、50μm厚)上に、15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥後、支持体フィルムの裏面に同様にして色素含有樹脂組成物(5)を15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥させることにより、樹脂シート(6)54μmを得た。
樹脂シート(6)の透過率スペクトルを図6に示した。
【0108】
比較例3
実施例4において、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル0.89部の代わりに、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン(東京化成社製)1.08部及び4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(和光純薬社製)0.49部を用いること以外は、同様にして、ポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液、10.1部を得た(この溶液中のポリイミド濃度:23.9%)。この溶液に、TX−EX−609K(商品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.0060部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(6)を得た。
色素含有樹脂組成物(6)を、ガラス板上に、400μm厚で塗布し、200℃で60分間乾燥して、硬化物を剥離することにより樹脂シート(7)45μmを得た。
樹脂シート(7)の透過率スペクトルを図7に示した。
【0109】
図1〜7において、グラフの横軸は波長(nm)、縦軸は透過率(%)を示す。
各実施例及び比較例における、吸収層を構成する色素及び樹脂成分の総量100質量%に対する、分子内にπ電子結合を有する色素の濃度(含有量、質量%)、及び、樹脂シートにおける吸収層の厚み(μm)を、表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
上記実施例及び比較例から以下のことが分かる。
なお、樹脂成分としてフッ素化芳香族ポリマーを用いた例である、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2は、これらを対比しやすいように、吸収層の透過断面積あたりの色素濃度がほぼ等しくなるように設定している。つまり、実施例1及び実施例2は、吸収層における特定色素濃度を、本発明で規定した1質量%以上の高濃度にする一方で、吸収層の膜厚を薄く設定しているのに対し、比較例1及び比較例2は、吸収層における特定色素濃度を1質量%未満の低濃度にする一方で、吸収層の膜厚を厚く設定している。樹脂成分としてポリ(アミド)イミド樹脂を用いた例である、実施例3、実施例4、比較例3についても同様に、それぞれ対比しやすいように、吸収層の透過断面積あたりの色素濃度がほぼ等しくなるように設定している。
【0112】
図1(実施例1)と図3(比較例1)とを対比すると、図3では600〜800nm間に2つの吸収ピークが確認され、そのうちピークが最大となる吸収極大は長波長側に、2番目のピーク(ショルダー)は600nmに近い短波長側に、それぞれ観測される。これに対し、図1では、吸収極大が600nmに近い短波長側にシフトし、また、その吸収極大波長での透過率が、図3の同波長での透過率よりも低いことが分かる。一方、400〜600nmの可視光の透過率は、図3と同等又はそれ以上であることが分かる。また、これと同様のことが、図2(実施例2)と図4(比較例2)との対比、並びに、図5(実施例3)及び図6(実施例4)と図7(比較例3)との対比からも分かる。
すなわち、実施例においては、吸収層を、特定色素を1質量%以上で含有したものとすることにより、色素分子が本来有する選択透過性よりも優れた選択透過性を発揮できる樹脂シートが得られたのである。
【0113】
試験例
実施例1〜4で得た各樹脂シートを、幅60mm、長さ100mmの長方形にカッティングした。この両面に、蒸着基板温度150℃で赤外線を反射する多層膜〔シリカ(SiO2:膜厚120〜190nm)層とチタニア(TiO2:膜厚70〜120nm)層とが交互に積層されてなるもの、積層数は片面20層ずつ両面に蒸着:計40層〕を蒸着により形成し、光選択透過フィルター(光学フィルター)を製造した。
得られた各光選択透過フィルターについて、透過率及び入射角依存性を以下に示す方法にて測定・評価した。
【0114】
<透過率の測定・入射角依存性の評価>
Shimadzu UV−3100(島津製作所社製)を用いて200〜1100nmにおける透過率を測定した。透過率は、図11に示すように、入射光に対して垂直になるように光選択透過フィルターを設置した場合(このようにして測定された透過率スペクトルを0°スペクトルともいう。光選択透過フィルターの厚み方向から光が入射するようにして測定される。)と、入射光に対して25°光選択透過フィルターを傾けて設置した場合(このようにして測定された透過率スペクトルを25°スペクトルともいう。光選択透過フィルターの厚み方向に対して25°傾いた方向から光が入射するようにして測定される。)の夫々について測定した。
【0115】
その結果、実施例1〜4の樹脂シートを各々用いた各光選択透過フィルターでは、近赤外領域での透過率スペクトルのスロープは緩やかになるものの、透過率80%以上の領域において、0°と25°とのスペクトルに変化がなく、光遮断特性の入射角依存性は低減されることが確認された。一例として、本発明の樹脂シートに、多層膜を積層して形成した光選択透過フィルターにおける、透過率及び入射角依存性を評価したスペクトルを示す(図8)。
【符号の説明】
【0116】
1:レンズ
2:光選択透過フィルター
3:センサー
4:光源
5:光選択透過フィルター
6:受光部
【技術分野】
【0001】
本発明は、光選択透過フィルター、樹脂シート及び固体撮像素子に関する。より詳しくは、光学部材やオプトデバイス部材の他、表示デバイス部品、機械部品、電気・電子部品等として有用な光選択透過フィルター、それに用いられる樹脂シート、及び、光選択透過フィルターを有する固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光選択透過フィルターは、特定波長の光の透過率を選択的に低減するフィルターであり、例えば、光学部材やオプトデバイス部材の他、表示デバイス部品、機械部品、電気・電子部品等として用いられる光フィルター部材として有用なものである。例えば、代表的な光学部材の1つである固体撮像素子(カメラモジュールとも称す)においては、光学ノイズとなる赤外線(特に波長>780nm)を遮断する赤外線カットフィルター(IRカットフィルター)が用いられている。
【0003】
このような用途の中でも、光学部材等においては、近年、デジタルカメラモジュールが携帯電話に搭載される等、小型化が進みつつあり、光学部材の小型化が一層求められている。これに伴って、デジタルカメラモジュール等に用いられる光選択透過フィルター(赤外線カットフィルター等)の薄膜化が望まれている。光選択透過フィルターは、主に、基材に金属等を蒸着させ無機多層膜とし、各波長の屈折率を制御したものが用いられており、その基材として、従来、ガラス板が用いられてきたが、薄膜化の要望の高まりを受けて樹脂を基材とする技術が検討されている。近年ではまた、携帯電話、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等の屋外でも使用できる用途への適用も検討されている。
【0004】
基材に樹脂を用いた光選択透過フィルターとしては、例えば、厚みが200μm未満であり、かつ基材が耐リフロー性機能フィルムを含んで構成された光選択透過フィルターが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この光選択透過フィルターは、充分に薄くても耐熱性に優れるため、各種用途に極めて有用なものである。特許文献1の実施例には、基材上に反射型のIRカット膜(誘電体多層膜)を蒸着した形態の光選択透過フィルター、すなわち反射型フィルターが開示されている。
【0005】
また、反射型フィルターと、光吸収剤を含有する透明材料から構成される吸収型フィルターとの、特性の異なる2種のフィルターを併用することによって、光学フィルターをより優れた性能を有するものとする試みも行われている。例えば、特許文献2には、ガラス基板上に、近赤外吸収剤を含む顔料インクを塗布・乾燥して得られる光吸収膜と、該光吸収膜よりも高屈折率の膜とを、交互に多層積層した光吸収フィルターが開示されている。特許文献2の光吸収フィルターは、角度依存性を低減しつつ薄型化をも実現しようとするものである。また、特許文献3には、ガラス基板上に光学多層膜からなる熱線反射膜及び熱線吸収膜が形成された熱線カットフィルターが開示されている。特許文献3に開示された熱線カットフィルターは、ランプから発生する、近赤外線領域から遠赤外線領域に亙って広帯域に熱線をシャープに且つほぼ完全にカットできる広帯域の熱線カットフィルターを提供することを目的とし、短波長領域(例えば波長2μm以下)の赤外線を熱線反射膜で遮断し、長波長領域(例えば波長2μm以上)の赤外線を熱線吸収膜で遮断しようとするものである。
【0006】
ところで、近年、固体撮像素子等の光学部材の高性能化に伴い、遮断したい波長域(例えば、近赤外領域)をよりシャープに遮断でき、かつ透過させたい波長域(例えば、可視領域)では高い透過率を示す光選択透過フィルターの開発が望まれている。そこで、例えば、ガラス基板上に多層膜を蒸着形成してなる光選択透過フィルターにおいて、多層膜の層数を多くする手法が検討されているが、ガラス基板上に多層膜を蒸着形成する場合には、蒸着工程における加熱・冷却によって、層間に応力が生じクラックや割れが発生するおそれがある。この点から、吸収ガラスを基材に用いることによって多層膜の層数を減らすことも提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、吸収ガラスは吸収イオン濃度(吸収を示す金属イオンの濃度)を高めるとクラックが発生し、ガラスとして成形できないため、吸収イオン濃度を低くせざるを得ない。このため、充分な吸収性能を発揮するためには、相当な厚み(例えば、2mm程度)の吸収ガラスを用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−181121号公報
【特許文献2】特開2006−106570号公報
【特許文献3】特開平8−329719号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】小檜山光信著、「光学薄膜フィルターデザイン」、オプトロニクス社、2006年10月5日、p.213−219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、種々の光選択透過フィルターが検討されているが、一般に、反射型フィルターは、光の遮断性能には優れるものの、光の入射角によって反射特性が変化する入射角依存性(視野角依存性とも称す)を有しており、その低減が課題であった。入射角依存性のないフィルターとしては、例えば、光吸収剤を含有する透明材料から構成される吸収型フィルターが挙げられるが、充分な吸収特性を実現するためには相当な厚みが必要であった。また、ガラス基材を用いる場合には、薄くすると割れやすくなる等の課題があり、薄膜化には限界があった。このように、遮断性能の入射角依存性を低減して特定波長の光をより効果的に遮断するとともに、薄膜化の要請にも充分に応えることができる光選択透過フィルターは、未だ開発されていないのが現状である。また、固体撮像素子等の光学部材の高性能化により充分に対応できるようにすべく、光選択透過フィルターには、遮断したい波長域をよりシャープに遮断でき、かつ透過させたい波長域では高い透過率を示すといった光選択透過性に特に優れることも求められている。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、光選択透過性に特に優れ、かつ光遮断特性の入射角依存性を低減するとともに、充分な薄膜化を実現することもできる光選択透過フィルター、該光選択透過フィルターに用いられる樹脂シート、及び、該光選択透過フィルターを有する固体撮像素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、光の透過率を選択的に低減する光選択透過フィルターについて種々検討したところ、吸収層を有する樹脂シートと、反射層(反射膜)とを含む形態とすることで、入射角依存性の低減と充分な遮断性能とを達成できることに着目し、吸収層を、色素及び樹脂成分を含有する樹脂層とすると、色素を高濃度としても均一に層中に分散でき、吸収ガラスのようにガラスを用いる場合と比較して、吸収層を大幅に薄膜化することができることを見いだした。
【0012】
またこのような吸収層において、色素として分子内にπ電子結合を有する色素を用いた場合、この特定色素の吸収層に占める濃度の違いにより、可視光の長波長側(600nm以上)の吸収領域における吸収特性に違いが生じることを見いだした。具体的には、所定濃度未満の低濃度では、吸収率が最大となる吸収極大と、それよりも600nmに近い短波長側にショルダー(2番目の吸収ピーク)とが観測されるのに対し、所定濃度以上の高濃度では、吸収極大がより600nmに近い短波長側にシフトし、しかも透過率が低く、かつシャープな吸収特性となることを見いだした。また、高濃度での400〜600nm領域の可視光透過率は、低濃度でのそれと同等以上であることも見いだした。これらは、分子内にπ電子結合を有する色素が吸収層中に高密度に含有されることによって、当該色素の分子間の共役が生じ、吸収層の特定波長領域での透過吸収特性が変化することに起因するものと推測される。このような吸収層の特異な透過吸収特性は、光選択透過フィルターに適用する場合に、中でも撮像レンズ等のレンズ用光選択透過フィルターに適用する場合に特に有効である。また、このような吸収層を反射層と組み合わせることにより、視野角依存性が充分に低減され、可視領域から近赤外領域にかけてシャープな透過吸収特性を有する光選択透過フィルターが得られることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、このような光選択透過フィルターが、固体撮像素子(カメラモジュール)等の光学用途やオプトデバイス用途等に好適に適用できることを見いだし、本発明に到達した。
【0013】
すなわち本発明は、樹脂シートと、その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを含む光選択透過フィルターであって、該樹脂シートは、色素及び樹脂成分を含む吸収層を有し、該色素は、分子内にπ電子結合を有する色素を含み、該分子内にπ電子結合を有する色素の含有割合は、吸収層を構成する色素及び樹脂成分の総量100質量%に対し、1質量%以上である光選択透過フィルターである。
本発明はまた、上記光選択透過フィルターに用いられる樹脂シートである光選択透過フィルター用樹脂シートでもある。
本発明は更に、上記光選択透過フィルター、レンズユニット部、及び、センサー部を少なくとも有する固体撮像素子でもある。
以下に本発明を詳述する。なお、以下において段落に分けて記載される本発明の好ましい形態の2つ又は3つ以上を組み合わせたものも本発明の好ましい形態である。
【0014】
本発明の光選択透過フィルターは、樹脂シートと、その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを有する。なお、本発明の作用効果を損なわない限りにおいて、更に他の層を1又は2以上有していてもよい。
【0015】
〔樹脂シート〕
上記光選択透過フィルターにおける樹脂シートは、色素及び樹脂成分を含有する吸収層(樹脂層とも称す)を有し、分子内にπ電子結合を有する色素を特定割合で含有するものである。これにより、特異な透過吸収特性を示すことができるうえ、この樹脂シートを反射膜と組み合わせることで、視野角依存性(入射角依存性とも称す)が充分に低減され、可視領域から近赤外領域にかけてシャープな透過吸収特性を有する光選択透過フィルターを与えることができる。また、反射膜として好適な光学多層膜と組み合わせると、光学多層膜の層数を減らすことができ、該多層膜における応力を緩和できるため、多層膜のクラックや割れを充分に防止することもできる。このような本発明の光選択透過フィルターに用いられる光選択透過フィルター用樹脂シートもまた、本発明の1つである。
【0016】
上記樹脂シートの構成(形態)は、吸収層を含む限り、特に限定されず、必要に応じて更に他の層を含むものであってもよい。中でも、支持体を更に有することが好ましい。樹脂シートを支持体と吸収層(樹脂層)とを含む構成とすることで、色素の分散困難な支持体であっても、この表面に樹脂層をコートすることによって本発明の効果を付与することができる。また、樹脂層の厚みを変更することで、吸収特性を更に制御することができるため、例えば、樹脂層を極薄コートすることにより支持体(好ましくは支持体フィルム)の膜厚をほとんど変えずに本発明の効果を付与したり、支持体の厚み調整に利用したり、樹脂層を支持体の表面傷削減等の表面改質に利用したりすることもできる。
【0017】
上記樹脂シートの形態としてより好ましくは、支持体の一方又は両面に吸収層が形成された形態であり、更に好ましくは、支持体の両面に吸収層が形成された形態である。また、吸収層を支持体フィルムで挟み込んだ樹脂シートとしてもよい。
なお、樹脂シートを構成する吸収層や、支持体等の他の層は、各々、一層又は二層以上であってもよい。
【0018】
<支持体>
上記樹脂シートは、上述したように支持体を更に有することが好ましいが、支持体としては、フィルム形状のもの(支持体フィルム)が好適である。支持体フィルムとしては、透明性に優れる樹脂を用いることが好ましい。具体的には、例えば、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂(シクロオレフィン樹脂ともいう)等を用いることができる。これらの中でも、反射膜を蒸着形成する際の耐熱性に優れる点で、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂が好ましい。このように上記支持体が、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂により形成されるものである形態は、本発明の好適な実施形態の1つである。特に、ポリ(アミド)イミド樹脂を少なくとも用いることが好ましい。
【0019】
上記支持体フィルムを構成する樹脂としてはまた、溶剤可溶性樹脂、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料のうちの少なくとも1種より形成される樹脂に該当するものが好適である。中でも、可撓性、耐光性等に優れる点で、溶剤可溶性樹脂に該当するものが特に好ましい。溶剤可溶性樹脂、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料については、後述する。
【0020】
上記支持体フィルムの材質と、後述する吸収層の樹脂成分との好適な組み合わせとしては、例えば、支持体フィルム:ポリ(アミド)イミド樹脂/樹脂成分:ポリ(アミド)イミド樹脂、支持体フィルム:ポリ(アミド)イミド樹脂/樹脂成分:アクリル樹脂、支持体フィルム:ポリ(アミド)イミド樹脂/樹脂成分:フッ素化芳香族ポリマー、支持体フィルム:ポリアミド樹脂/樹脂成分:アクリル樹脂、支持体フィルム:アラミド樹脂/樹脂成分:アクリル樹脂、支持体フィルム:シクロオレフィン樹脂/樹脂成分:アクリル樹脂等が挙げられる。中でも、支持体フィルム:ポリ(アミド)イミド樹脂/樹脂成分:ポリ(アミド)イミド樹脂が好ましく、より好ましくは、支持体フィルム:ポリイミド樹脂/樹脂成分:ポリイミド樹脂、支持体フィルム:ポリイミド樹脂/樹脂成分:ポリアミドイミド樹脂、又は、支持体フィルム:ポリアミドイミド樹脂/樹脂成分:ポリアミドイミド樹脂であり、更に好ましくは、支持体フィルム:ポリイミド樹脂/樹脂成分:ポリイミド樹脂である。
【0021】
<吸収層>
上記樹脂シートにおいて、吸収層は、色素及び樹脂成分を含有するものであるが、色素が吸収層中に分散又は溶解されてなることが好ましい。すなわち、樹脂成分と色素とを含む組成物中に色素が分散又は溶解された形態の組成物により、吸収層が形成されることが好適である。このような形態の組成物では、樹脂成分として、後述する溶剤可溶性樹脂、溶剤可溶性樹脂原料及び/又は液状樹脂原料を用いることが好適である。
なお、色素及び樹脂成分としては、各々、1種又は2種以上を使用することができる。
【0022】
(i)色素
上記色素とは、特定波長の光を吸収する物質を意味し、樹脂成分と混合又は混練可能な色素を用いることができる。例えば、600〜800nmの波長域に吸収極大を有するものが好適である。これにより、光選択透過フィルターを、特に780nm〜10μmの赤外光を低減させる赤外線カットフィルターに好適に適用することが可能になる。より好ましくは、650〜750nmの波長域に吸収極大を有するものである。上記色素はまた、400nm以上、600nm未満の波長域には実質的に吸収極大を持たないものであることが好ましい。
【0023】
上記色素は、分子内にπ電子結合を有する色素を含むが、このような分子内にπ電子結合を有する色素としては、芳香環を含む化合物であることが好適である。より好ましくは、1分子内に2個以上の芳香環を含む化合物である。
なお、上記分子内にπ電子結合を有する色素が、上述した好適な波長域に吸収極大を有するものであることが特に好ましい。
【0024】
上記分子内にπ電子結合を有する色素としては、例えば、フタロシアニン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、クアテリレン系色素、スクアリリウム系色素、ナフタロシアニン系色素、ニッケル錯体系色素、銅イオン系色素等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0025】
上記吸収層における分子内にπ電子結合を有する色素の濃度(含有量)としては、吸収層を構成する色素及び樹脂成分の総量100質量%に対して、1質量%以上であることが適切である。1質量%未満では、遮断したい波長域(色素の吸収領域)をシャープに遮断することができず、また、当該波長域の透過率も充分に低減できないおそれがある。好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上、特に好ましくは5質量%以上である。また、本発明の効果の発現には、分子内にπ電子結合を有する色素濃度の下限値が重要であり、上限値は特に限定されないが、例えば、20質量%以下であることが好適である。より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。色素濃度が高すぎると成膜により吸収層を形成した場合の膜厚均一性が低下する場合があるためである。
【0026】
本発明の好ましい形態としては、上記分子内にπ電子結合を有する色素として、双性イオン構造及びカチオン性構造のいずれも有さない色素を用いることである。双性イオン構造又はカチオン性構造を有する色素を用いると、耐熱性や耐光性が充分なものとはならないおそれがある。また、有機溶媒や有機樹脂への溶解性が充分なものとはならないおそれがあり、高濃度にかつより均一に色素を溶解又は分散させることが困難である。このように、上記分子内にπ電子結合を有する色素が、双性イオン構造及びカチオン性構造のいずれも有さない形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
なお、双性イオン構造とは、1つの分子内に正電荷と負電荷の両方を持つ分子構造のことである。双性イオンは、分子内塩と呼ばれることもある。また、カチオン性構造とは、正の電荷を帯びた分子構造である。カチオン性とは、陽イオン性とも呼ばれる。
【0027】
上記双性イオン構造及びカチオン性構造のいずれも有さない色素としては、フタロシアニン系色素及び/又はポルフィリン系色素が好適である。より好ましくは、金属フタロシアニン錯体及び/又は金属ポルフィリン錯体である。
上記フタロシアニン系色素としては、金属フタロシアニン錯体が好適であり、例えば、銅、亜鉛、コバルト、バナジウム、鉄、ニッケル、錫、銀、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、鉛等の金属元素を中心金属とする金属フタロシアニン錯体が挙げられる。これらの金属元素の中でも、溶解性、可視光透過性、耐光性がより優れることから、銅、バナジウム及び亜鉛のいずれか1以上を中心金属とするものが好ましい。中心金属としてより好ましくは銅及び亜鉛であり、更に好ましくは銅である。銅を用いたフタロシアニンは、どのようなバインダー樹脂に分散させても光による劣化がなく、非常に優れた耐光性を有する。
上記ポルフィリン系色素としては、テトラアザポルフィリン等の金属ポルフィリン錯体が好適である。
【0028】
上記吸収層はまた、上述した双性イオン構造又はカチオン性構造を有する色素(他の色素とも称す)を含んでいてもよい。他の色素としては、例えば、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、銅イオン系色素等が挙げられる。
上記他の色素の含有量は、上述した双性イオン構造及びカチオン性構造のいずれも有さない色素による効果を充分に発揮させるため、色素の全量100質量%に対し、30質量%以下であることが好適である。より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは、他の色素を実質的に含まないことである。
【0029】
(ii)樹脂成分
上記吸収層において、樹脂成分は、上述した色素を充分に溶解又は分散できるものであることが好ましい。このような樹脂成分を適切に選択することにより、透過させたい波長域(例えば、可視領域)における高透過率と、遮断したい波長域(例えば、赤外領域)における高吸収性とを両立することが可能となる。
上記樹脂成分としては、例えば、溶剤可溶性樹脂、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。このような樹脂成分は、色素の分散性が高いため、光選択吸収性により優れた光吸収膜を形成することができるとともに、色素を高濃度で分散できるため、光選択透過フィルターの薄膜化も可能である。また、上記樹脂成分を用いると、後述する溶媒キャスト法によって吸収層を形成(成膜)することができるため、吸収層中に色素を高濃度で均一に分散できるとともに、比較的低温で吸収層を形成することができる。
なお、上記吸収層自体は、溶剤可溶性であっても不溶性であってもよい。
【0030】
ここで、「溶剤可溶性樹脂」とは、有機溶剤に可溶な樹脂を意味し、例えば、ジメチルアセトアミド又はN−メチルピロリドン100質量部に対し、1質量部以上溶解する樹脂であることが好適である。また、「溶剤可溶性樹脂原料」とは、溶剤可溶性の樹脂原料、すなわち樹脂原料であって溶剤可溶性であるものを意味し、例えば、ジメチルアセトアミド又はN−メチルピロリドン100質量部に対し、1質量部以上溶解するものが好適である。また、「液状樹脂原料」とは、液状の樹脂原料、すなわち樹脂原料であって液状であるものを意味する。物が「液状である」とは、その物自体の粘度が、常温(25℃)において100Pa・s以下であることを意味する。粘度は、B型粘度計により測定することができる。
なお、「樹脂原料」には、樹脂の前駆体や該前駆体の原料、更に、樹脂を形成するための単量体(硬化性モノマー等)が含まれるものとする。
【0031】
上記樹脂成分としては、上述したように、溶剤可溶性樹脂、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料からなる群より選択される少なくとも1種が好ましいが、これらの中でも、溶剤可溶性樹脂を用いることが好適である。溶剤可溶性樹脂を用いると、溶剤可溶性樹脂原料や液状樹脂原料を用いた場合に比べて、耐光性に優れる。これは、溶剤可溶性樹脂が溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料よりも、分散した色素の吸収性能の劣化を引き起こしにくいためである。理由として、溶剤可溶性樹脂は、そのモノマーや前駆体から調整し、重合や反応を完結させている。更に精製を行う場合もある。こうして得られた溶剤可溶性樹脂には、色素の劣化、分解を促進させる未反応物、反応性末端、イオン性基、触媒、酸・塩基性基等がほとんどないと考えられる。一方、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料は、このような色素の劣化、分解を促進させる因子が多く残っている。また、色素を分散させた状態で、色素の吸収性能や吸収スペクトルを保持したまま、溶剤可溶性樹脂原料及び液状樹脂原料の重合や反応を完結させることが難しい(未反応部位が多くなり、所望の物性も充分に得られない。)。そのため、同じ色素を分散させても、樹脂成分の違いにより、樹脂層の耐光性が異なる。したがって、耐光性の観点からは、少なくとも溶剤可溶性樹脂を用いることが好適である。
【0032】
上記溶剤可溶性樹脂として具体的には、例えば、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂等が挙げられる。中でも、耐光性により優れる観点から、フッ素化芳香族ポリマー及び/又はポリ(アミド)イミド樹脂が好ましい。より好ましくは、ポリ(アミド)イミド樹脂であり、更に好ましくはポリイミド樹脂である。
【0033】
上記溶剤可溶性樹脂はまた、架橋反応(硬化反応)することが可能な反応性基(例えば、エポキシ基やオキセタン環、エチレンスルフィド基等の開環重合性基や、アクリル基、メタクリル基、ビニル基等のラジカル硬化性基及び/又は付加硬化性基)を有するものであってもよい。
上記樹脂成分として溶剤可溶性樹脂を用いる場合、該溶剤可溶性樹脂がそのまま、上記吸収層を構成する樹脂成分となっていてもよいし、該溶剤可溶性樹脂が架橋反応等により変化したものが、上記吸収層を構成する樹脂成分となっていてもよい。
なお、架橋可能な反応性基の量や成膜時の架橋反応をどの程度進めるかは特に限定されるものではないが、樹脂の溶剤可溶性が維持できる程度であることが好ましい。
【0034】
上記フッ素化芳香族ポリマーとしては、少なくとも1以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合及びエステル結合の群より選ばれた少なくとも1つの結合とを含む繰り返し単位により構成された重合体等が挙げられ、具体的には、例えば、フッ素原子を有するポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドエーテル、ポリアミド、ポリエーテルニトリル、ポリエステル等が挙げられる。これらの中でも、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合とを含む繰り返し単位を必須部位として有する重合体であることが好ましく、下記一般式(1−1)又は(1−2)で表される繰り返し単位を含む、フッ素原子を有するポリエーテルケトンがより好ましい。中でも特に、フッ素化ポリエーテルケトン(FPEK)が好適である。
なお、一般式(1−1)又は(1−2)で表される繰り返し単位は、同一でも異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0035】
【化1】
【0036】
上記一般式(1−1)中、R1は炭素数1〜150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。Zは2価の鎖又は直接結合を表す。x及びyは0以上の整数であり、x+y=1〜8を満たし、同一又は異なって、芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。n1は、重合度を表し、2〜5000の範囲内が好ましく、5〜500の範囲内がより好ましい。
上記一般式(1−2)中、R2は、置換基を有していてもよい、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルチオ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数6〜20のアリールアミノ基又は炭素数6〜20のアリールチオ基を表す。R3は、炭素数1〜150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。zは、芳香族環に結合しているフッ素原子の数であり、1又は2である。n1は、重合度を表し、2〜5000の範囲内が好ましく、5〜500の範囲内がより好ましい。
【0037】
上記一般式(1−1)において、x+yは2〜8の範囲内が好ましく、4〜8の範囲内がより好ましい。また、エーテル構造部分(−O−R1−O−)が芳香族環に結合する位置としては、Zに対してパラ位であることが好ましい。
【0038】
上記一般式(1−1)及び(1−2)において、R1及びR3は2価の有機鎖であるが、例えば、下記の構造式群(2)で表されるいずれか一つ、又は、その組み合わせの有機鎖であることが好ましい。
【0039】
【化2】
【0040】
上記構造式群(2)中、Y1〜Y4は、同一若しくは異なって、水素基又は置換基を表し、該置換基は、ハロゲン原子、又は、置換基を有していてもよい、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアミノ基若しくはアリールチオ基を表す。
【0041】
上記R1及びR3のより好ましい具体例としては、下記の構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられる。
【0042】
【化3】
【0043】
上記一般式(1−1)において、Zは、2価の鎖又は直接結合していることを表す。当該2価の鎖としては、例えば、下記構造式群(4)(構造式(4−1)〜(4−13))で表される鎖であることが好ましい。
【0044】
【化4】
【0045】
上記構造式群(4)中、Xは、炭素数1〜50の2価の有機鎖であるが、例えば、上述した構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられ、その中でもジフェニルエーテル鎖、ビスフェノールA鎖、ビスフェノールF鎖、フルオレン鎖が好ましい。
【0046】
上記一般式(1−2)中のR2において、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基等が好適である。
上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、フルフリルオキシ基、アリルオキシ基等が好適である。
上記アルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基等が好適である。
上記アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、iso−プロピルチオ基等が好適である。
【0047】
上記アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o−、m−又はp−トリル基、2,3−又は2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、ピレニル基等が好適である。
上記アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、ヒドロキシ安息香酸及びそのエステル類(例えば、メチルエステル、エチルエステル、メトキシエチルエステル、エトキシエチルエステル、フルフリルエステル及びフェニルエステル等)由来の基、ナフトキシ基、o−、m−又はp−メチルフェノキシ基、o−、m−又はp−フェニルフェノキシ基、フェニルエチニルフェノキシ基、クレソチン酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記アリールアミノ基としては、アニリノ基、o−、m−又はp−トルイジノ基、1,2−又は1,3−キシリジノ基、o−、m−又はp−メトキシアニリノ基、アントラニル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記アリールチオ基としては、フェニルチオ基、フェニルメタンチオ基、o−、m−又はp−トリルチオ基、チオサリチル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
【0048】
上記R2としては、これらのうち、置換基を有していてもよい、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基が好ましい。但し、R2には、二重結合又は三重結合が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0049】
上記一般式(1−2)中のR2における置換基としては、上述のような炭素数1〜12のアルキル基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;シアノ基、ニトロ基、カルボキシエステル基等が好適である。また、これら置換基の水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよい。これらの中でも、好ましくは、ハロゲン原子、水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基及びカルボキシエステル基である。
【0050】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂とは、狭義のポリイミド樹脂(イミド結合を含み、アミド結合を含まない樹脂、ここでいうアミド結合とは、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合を意味する。)、及び、ポリアミドイミド樹脂(アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合とイミド結合とを含む樹脂)のいずれをも包含する。
なお、ポリイミド樹脂におけるイミド結合は、通常、アミド結合とそれに隣接するカルボキシル基とを有する結合鎖(本発明では、該結合鎖をアミック酸ともいう。通常は、アミド結合が結合した炭素原子に隣接する炭素原子にカルボキシル基が結合した構造である。)におけるアミド結合とカルボキシル基との脱水反応による形成される。
ポリアミック酸から脱水反応によりポリイミド樹脂を生成させる際、分子内に若干量のアミック酸は残存し得る。したがって、本発明で「ポリイミド樹脂」という場合は、イミド結合を含み、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合は含まないが、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合は含まないか若干量含んでいてもよい。
【0051】
本発明で用いる溶剤可溶性樹脂としては、ポリイミド樹脂におけるイミド結合含有率(イミド化反応によりイミド化し得るアミド結合数とイミド結合数の合計量100モル%に対するイミド結合数の割合)が80モル%以上であるポリイミド樹脂が好ましい。より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、特に好ましくは98モル%以上である。
【0052】
また本発明でいうポリアミドイミド樹脂とは、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合とイミド結合とを含むが、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合は含まないか若干量含んでいてもよい。アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合を含む場合、アミド結合数(脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合数と脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合数との和)とイミド結合数との合計量100モル%に対する、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得るアミド結合の含有率は、20モル%未満が好ましい。より好ましくは10モル%未満、更に好ましくは5モル%未満、特に好ましくは2モル%未満である。
【0053】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂は、多価カルボン酸化合物と、多価アミン化合物及び/又は多価イソシアネート化合物との反応により得られるポリ(アミド)イミド樹脂の原料(ポリ(アミド)イミド前駆体とも称す。)を、イミド化反応して得ることができる。
上記ポリ(アミド)イミド樹脂はまた、透明性を有することが好ましい。透明性向上のためには、芳香環が少ないほうが好ましい。中でも、芳香環を脂環又は脂肪鎖等で置き換えた構造を有することが好適である。より好ましくは、全重量100%中の芳香環の重量が65%以下、更に好ましくは45%以下、特に好ましくは30%以下である。
【0054】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂としては、イミド結合を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、下記一般式(5):
【0055】
【化5】
【0056】
(式中、R4は、同一又は異なって、有機基を表す。)で表される繰り返し単位を有する化合物が好適である。
上記一般式(5)におけるR4としては、2価の有機基が好ましく、中でも、炭素数2〜39の2価の有機基が好ましい。また、当該有機基は1種又は2種以上の炭化水素骨格を含むものが好ましい。炭化水素骨格としては、脂肪族鎖状炭化水素、脂肪族環状炭化水素又は芳香族炭化水素であることが好ましい。当該有機基はまた、複素環骨格を有するものであってもよい。
【0057】
上記一般式(5)におけるR4としてはまた、上記の炭化水素骨格及び/又は複素環骨格から選ばれる、同一又は異なる2種以上を有し、それらが炭素―炭素結合を介して、又は、炭素―炭素結合とは異なる結合基を介して、結合した骨格を含むものが好ましい。結合基としては、例えば、−O−、−SO2−、−CO−、−Si(CH3)2−、−C2H4O−、−S−等が挙げられる。
なお、上記一般式(5)で表される繰り返し単位におけるそれぞれのR4としては、同一であっても異なるものであってもよい。
【0058】
上記R4で表される有機基は窒素原子に直接結合していてもよいし、結合基として、−O−、−SO2−、−CO−、−CH2−、−C(CH3)2−、−Si(CH3)2−、−C2H4O−、−S−等を有していてもよい。
なお、一般式(5)におけるシクロヘキシル環における水素原子の一部又は全部が置換されていてもよいが、無置換(全て水素原子である形態)であるものが好ましい。
上記一般式(5)で表される繰り返し単位は、同一でも異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0059】
上記ポリ(アミド)イミド樹脂の好ましい具体例としては、例えば、三菱ガス化学社製のネオプリムL−3430(厚さ50μm、100μm、200μm等)等が挙げられる。なお、この製品はフィルム形状であるが、有機溶剤に可溶であるので、上記溶剤可溶性樹脂として好ましく使用される。
【0060】
上記溶剤可溶性樹脂原料又は液状樹脂原料としては、例えば、エポキシ樹脂の原料となるエポキシ化合物、ビニル重合体樹脂の原料であるビニル系化合物((メタ)アクリル系化合物、スチレン系化合物等)、ポリ(アミド)イミド前駆体等が挙げられる。好ましくは、エポキシ化合物、ビニル系化合物である。
【0061】
上記エポキシ樹脂とは、エポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物)を含む硬化性組成物の硬化物である。硬化物の形態としてはエポキシ化合物をカチオン硬化触媒の存在下で光及び/又は熱硬化してなる形態、エポキシ化合物を付加的硬化剤と反応させることにより得られる硬化物の形態等が挙げられる。後者において硬化反応促進のため従来公知の硬化促進剤を併用することもできる。付加的硬化剤としては、例えば、酸無水物、多価フェノール化合物、多価アミン等が例示されるが、中でも酸無水物が好ましい。
【0062】
上記エポキシ化合物としては、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物等が好適であり、例えば、大阪ガスケミカル社製のフルオレンエポキシ(オンコートEX−1);ジャパンエポキシレジン社製のビスフェノールA型エポキシ化合物(エピコート828EL);ジャパンエポキシレジン社製の水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(エピコートYX8000);ダイセル工業社製の脂環式液状エポキシ化合物(セロキサイド2021)等が好ましく使用できる。
なお、本明細書中、エポキシ基とは、3員環のエーテルであるオキシラン環を含むものであり、狭義のエポキシ基の他、グリシジル基(グリシジルエーテル基及びグリシジルエステル基を含む)を含むものを意味する。
【0063】
上記エポキシ化合物を含む樹脂はまた、その硬化前の硬化性組成物が、可撓性を有する成分(可撓性成分)を含むことが好適である。可撓性成分を含むことにより、成形時や基板、型等からはずすときに割れない、形が崩れない、剥がれやすい、柔軟性がある等の一体感のある樹脂組成物とすることができる。
上記可撓性成分としては、上記エポキシ化合物とは異なる化合物であってもよいし、上記エポキシ化合物の少なくとも1種が可撓性成分であってもよい。
【0064】
上記ビニル重合体樹脂とは、重合原料としてビニル系化合物を(共)重合して得られる重合体であり、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル−スチレン樹脂等が例示される。
アクリル樹脂とは、(メタ)アクリロイル基を有する化合物((メタ)アクリロイル基含有化合物又は(メタ)アクリル系化合物とも称す。)を含む硬化性組成物の硬化物であり、スチレン樹脂とは、スチレンやジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー(スチレン系化合物とも称す。)を含む硬化性組成物の硬化物であり、アクリル−スチレン樹脂とは、(メタ)アクリロイル基含有化合物及びスチレン系モノマーを含む硬化性組成物の硬化物である。上記ビニル重合体樹脂の中でも、アクリル樹脂、アクリル−スチレン樹脂が好ましい。
【0065】
上記(メタ)アクリロイル基含有化合物として好ましくは、(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等が例示される。(メタ)アクリレートモノマーを(共)重合した(メタ)アクリレート(共)重合体(ただし(メタ)アクリロイル基を有する)も好適に使用できる。フィルム化を容易にできる点で、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート(共)重合体等の重合性オリゴマーと、(メタ)アクリレートモノマーとを含む組成物をアクリル樹脂原料として用いることが好ましい。
上記アクリル−スチレン樹脂原料としては、上記アクリル樹脂原料の好適な形態において更にスチレン系モノマーを用いた組成物が好ましい。
【0066】
上記ポリ(アミド)イミド前駆体とは、ポリ(アミド)イミド樹脂を形成するための原料、すなわちイミド化反応に供される化合物であり、例えば、ポリアミック酸等が好適である。具体的には、例えば、日立化成工業社製のHPC−7000−30等が好ましく使用される。
【0067】
上記樹脂シートの形成方法としては特に限定されず、例えば、樹脂層を形成する樹脂組成物を、支持体表面(又は、支持体と樹脂層との間に他の層を有する場合は、当該他の層の表面)に塗布し、乾燥又は硬化することにより形成する方法(塗布法又はコーティング法、溶媒キャスト法と称す)や、支持体に対して、樹脂組成物から形成された樹脂フィルムを熱圧着することにより形成する方法の他、練込法等も挙げられる。中でも、支持体と樹脂層(吸収層)とを有する樹脂シートを得る場合には、溶媒キャスト法を採用することが好ましい。これによって上記吸収層と支持体等との密着性がより充分なものとなる。なお、支持体を有しない樹脂シートを得る場合にも、溶媒キャスト法を用いることが好ましく、例えば、仮の基材に、樹脂層を形成する樹脂組成物を塗布した後、該基材から剥離することにより当該樹脂シートを得ることができる。
【0068】
このように溶媒キャスト法を用いることが好適であるが、溶媒キャスト法を用いると、色素をより均一に分散できるため、光選択吸収性により優れた光吸収膜を形成することができる。また、色素を高濃度で分散可能であるため薄膜化が可能であり、固体撮像素子等の部材の低背化要求に応えることができる。更に、比較的低温で吸収層を形成することができるため、比較的耐熱性の低い色素も使用することができる。このように、上記吸収層が溶媒キャスト法によって形成されてなる形態は、本発明の好適な形態の1つである。一方、練込法においては、樹脂を高温(例えば、200℃以上)で溶融して用いることになるため、耐熱性の低い色素は分解してしまい、充分な光吸収性が得られないおそれがある。また、色素の分散性も充分に高くならないおそれがある。
【0069】
上記溶媒キャスト法において使用する溶媒(有機溶剤)としては、上記吸収層を形成するための樹脂成分を溶解できるものであれば特に限定されず、樹脂の種類に応じて適宜選択可能であるが、例えば、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;PGMEA(2−アセトキシ−1−メトキシプロパン)、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体(エーテル化合物、エステル化合物、エーテルエステル化合物等);N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;N−メチル−ピロリドン(より具体的には、1−メチル−2−ピロリドン等)等のピロリドン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプチルエーテル等のエーテル類;等が好適である。より好ましくは、メチルエチルケトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミドである。
【0070】
上記溶媒の使用量としては、上記樹脂成分の総量100質量%に対して、150質量%以上であることが好ましく、また、1900質量%以下が好ましい。より好ましくは、200質量%以上であり、また、1400質量%以下である。上記範囲とすることにより色素濃度の高い吸収層が得られ易い。
【0071】
上記溶媒キャスト法においては、溶媒に樹脂層を形成するための樹脂成分(バインダー樹脂)を溶解して得られる溶液に色素を均一に分散させた分散液を、支持体上に塗布・乾燥(硬化)することにより吸収層を製膜(成膜)することが好ましい。樹脂成分として、液状樹脂原料を用いる場合には、該樹脂原料に直接色素を分散させてもよく、該樹脂原料を溶媒で希釈したうえで色素を分散させてもよい。
【0072】
上記吸収層としては、吸収層の可視光領域におけるヘイズが10%以下であることが好ましい。より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。また、吸収層の可視光500nmにおける透過率は60%以上であることが好適である。より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。
上記吸収層はまた、上記色素の吸収極大波長における透過率が60%以下であることが好ましい。これにより、吸収極大波長付近の光を効果的に遮断することができる。透過率としてより好ましくは50%以下、更に好ましくは40%以下、特に好ましくは30%以下である。
透過率は、分光光度計(Shimadzu UV−3100、島津製作所社製)を用いて測定することができる。
なお、上記吸収層を含む樹脂シート又は光選択透過フィルターについても、可視光領域におけるヘイズ、可視光500nmにおける透過率、及び、色素の吸収極大波長における透過率が、夫々、吸収層のついての上述した範囲と同様の範囲にあることが好ましい。
【0073】
上記吸収層としてはまた、厚みが5μm以下であることが好適である。これにより、光選択透過フィルターを充分に薄膜化することができ、光学部材等の低背化要求に応えることができる。より好ましくは3μm以下である。また、0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm以上である。
なお、樹脂シートの厚みとしては、1mm以下であることが好ましい。より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下、より更に好ましくは80μm以下、より一層好ましくは50μm以下、特に好ましくは40μm以下、最も好ましくは30μm以下である。また、支持体の厚みは100μm以下であることが好ましい。
【0074】
〔反射膜〕
上記光選択透過フィルターにおいて、反射膜(反射層とも称す)としては、多層からなる膜であることが好適である。すなわち、上記反射膜は、光学多層膜であることが好ましい。また、光学多層膜としては、各波長の屈折率を制御できる無機多層膜等が、耐熱性に優れる点で好適である。無機多層膜としては、基材やその他の機能性材料層の上に、真空蒸着法、スパッタリング法等により、低屈折率材料及び高屈折率材料を交互に積層させた屈折率制御多層膜が好ましい。上記反射膜はまた、透明導電膜であることも好適である。透明導電膜としては、インジウム−スズ系酸化物(ITO)等の赤外線を反射する膜としての透明導電膜が好ましい。中でも、無機多層膜が好ましい。
【0075】
上記無機多層膜としては、誘電体層Aと、誘電体層Aが有する屈折率よりも高い屈折率を有する誘電体層Bとを交互に積層した誘電体多層膜が好適である。
上記誘電体層Aを構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を通常用いることができ、好ましくは、屈折率の範囲が1.2〜1.6の材料が選択される。このような材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が好適である。
【0076】
上記誘電体層Bを構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、好ましくは、屈折率の範囲が1.7〜2.5の材料が選択される。このような材料としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化インジウムを主成分とし酸化チタン、酸化錫、酸化セリウム等を少量含有させたもの等が好適である。
【0077】
上記誘電体層A及び誘電体層Bの各層の厚みは、通常、遮断しようとする光の波長をλ(nm)とすると0.1λ〜0.5λの厚みであることが好ましい。厚みが上記範囲外になると、屈折率(n)と膜厚(d)との積(n×d)がλ/4で算出される光学的膜厚と大きく異なって反射・屈折の光学的特性の関係が崩れてしまい、特定波長の遮断・透過をするコントロールができなくなるおそれがある。
【0078】
上記誘電体層Aと誘電体層Bとを積層する方法については、これら材料層を積層した誘電体多層膜が形成される限り特に制限はないが、例えば、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等により、誘電体層Aと誘電体層Bとを交互に積層することにより誘電体多層膜を形成することができる。
【0079】
上記無機多層膜等の反射膜は、上記方法等により好適に形成することができるが、蒸着によって光選択透過フィルターが変形しカールしたり、割れが生じたりする可能性を小さくするために、次の方法を用いることができる。すなわち具体的には、離型処理したガラス等の仮の基材に蒸着層を形成し、樹脂シートに、該蒸着層を転写して反射膜を形成する反射膜の転写方法が好適である。この場合、樹脂シートには、接着層を形成しておくことが好ましい。
また、樹脂シートが有機材料、具体的には樹脂組成物により形成される場合には、未硬化又は半硬化状態の樹脂シート(樹脂組成物)に、上記誘電体層等を蒸着した後、樹脂シートを硬化する方法が好適である。このような方法を用いると、多層蒸着後の冷却時に、基材が流動的となり、液状に近い状態となるために、樹脂組成物と誘電体層等との熱膨張係数差が問題にならず、光選択透過フィルターの変形(カール)を抑制することができる。
【0080】
このように樹脂シートへの反射膜(好ましくは光学多層膜、より好ましくは無機多層膜)の形成には、蒸着法を用いることが好適であるが、蒸着温度は、100℃以上とすることが好適である。より好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上である。このような高温で蒸着すると、無機膜(無機多層膜を構成する無機膜)が緻密で硬くなり、種々の耐性が向上し、歩留りが向上する等の利点がある。そのため、このような蒸着温度に耐える樹脂シート及び色素を用いることは、非常に意味がある。また、このような高温での蒸着には、樹脂シートを構成する樹脂層又は支持体フィルムとして、線膨張係数の低い樹脂層又は支持体フィルムを用いることが好適である。これにより、無機・有機の線膨張係数の差による無機層クラックを抑制することができる。また、線膨張係数が低い樹脂層又は支持体フィルムを用いると、高温で蒸着できるだけでなく、低温で蒸着したとしても、無機膜との線膨張係数の差が小さいため、本発明の光選択透過フィルターを含む固体撮像素子を製造する場合などに採用されるリフロー工程等の製造工程での加熱環境や過酷な使用環境においても、無機・有機の線膨張係数の差による無機層クラックが生じない。
【0081】
上記線膨張係数が低い樹脂層又は支持体フィルムとしては、線膨張係数が60ppm以下のものが好ましい。より好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下、最も好ましくは10ppm以下である。
上記線膨張係数が低い樹脂層又は支持体フィルムとして具体的には、例えば、ポリ(アミド)イミド樹脂、アラミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、有機無機ハイブリッド樹脂等が好適であり、上記樹脂層又は支持体フィルムが、これらからなる群より選択される少なくとも1種により形成されるものである形態は、本発明の好適な形態の1つである。また、樹脂を延伸する;無機微粒子等を分散させる;ガラスクロスを用いる;架橋密度を上げる;コンポジット化する;結晶化させる;等によっても線膨張係数を低下させることができる。
【0082】
上記反射膜は、上記樹脂シートの少なくとも一方の表面に形成されてなるものである。反射膜は、樹脂シートの一方の表面のみに形成されていてもよいし、樹脂シートの両面に形成されていてもよいが、両面に形成されることが好ましい。これにより、本発明に係る光選択透過フィルターの反りや反射膜の割れを低減することができる。なお、上記樹脂シートが吸収層と支持体とからなる形態においては、反射膜は、該吸収層の表面に形成されることが好ましい。
【0083】
また本発明の光選択透過フィルターの他の好ましい形態として、上述の樹脂シートとは異なる樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に反射膜が形成され、更に該反射膜の表面に、上述の樹脂シートが形成される形態も挙げられる。すなわち、上記樹脂フィルムの表面に、反射膜、上記樹脂シート(支持体と吸収層とを含む樹脂シート)の順に積層されてなる形態である。反射膜は樹脂フィルムの両面に設けられることが好ましい。その場合、樹脂シートは、一方の反射膜の表面に積層されていても、2つの反射膜の表面に積層されていてもよい。この場合、樹脂フィルムは、上述した支持体フィルムと同様のものを使用することができ、好適な形態についても支持体フィルムの場合と同様である。
【0084】
上述したように上記反射膜は光学多層膜であることが好ましいが、その積層数は、樹脂シートの一方の表面にのみ上記光学多層膜を有する場合は、10〜80層の範囲が好ましく、より好ましくは25〜50層の範囲である。一方、樹脂シートの両面に上記光学多層膜を有する場合は、上記光学多層膜の積層数は、樹脂シート両面の積層数の合計として、10〜80層の範囲が好ましく、より好ましくは25〜50層の範囲である。
また、上記反射膜の厚みは、0.5〜10μmであることが好ましい。より好ましくは、2〜8μmである。反射膜が上記樹脂シートの両面に形成される形態においては、両面の反射膜の合計の厚みが上記範囲内にあることが好ましい。
【0085】
〔光選択透過フィルターの好ましい形態等〕
本発明の光選択透過フィルターは、所望の光の透過率を選択的に低減させるという機能以外の種々の他の機能を有していてもよい。例えば、光選択透過フィルターとして好ましい形態の1つである赤外カットフィルターの場合、紫外線を遮蔽する機能等の赤外カット以外の各種機能を有する形態や、強靱性、強度等の赤外カットフィルターの物性を向上させる機能を有する形態を挙げることができる。このような、本発明の光選択透過フィルターが上記他の機能を有する形態においては、樹脂シートの一方の表面に上記反射膜を形成し、他方の表面に上記他の機能を付与するための機能性材料層を形成することが好ましい。
上記機能性材料層は、例えば、上述のCVD法、スパッタリング法、真空蒸着法により、直接、上記樹脂シート上に形成したり、離型処理された仮の基材上に形成された機能性材料層を樹脂シート上に接着剤で張り合わせたりすることにより得ることができる。また、原料物質を含有する液状組成物を樹脂シートに塗布、乾燥して製膜することによっても得ることができる。
【0086】
本発明の光選択透過フィルターはまた、厚み(樹脂シートと反射膜との合計の厚み)が1mm以下であることが好ましい。ここで、光選択透過フィルターの厚みとは、該光選択透過フィルターの最大厚みをいう。上記光選択透過フィルターの厚みとしてより好ましくは、薄膜化要求に対応し得る点で、200μm以下であり、更に好ましくは150μm以下、特に好ましくは120μm以下、最も好ましくは60μm以下である。また、耐リフロー性、特に260℃の温度における耐熱性に優れる点で、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは30μm以上である。また、光選択透過フィルターの厚みの範囲は、1〜150μmであることが好ましく、より好ましくは10〜120μm、更に好ましくは30〜120μm、特に好ましくは30〜60μmである。
【0087】
上記光選択透過フィルターの厚みを1mm以下とすることにより、光選択透過フィルターをより小型化、軽量化することができ、種々の用途に好適に用いることができる。特に、光学部材等の光学用途において好適に用いることができる。光学用途においては、他の光学部材と同様に光選択透過フィルターも小型化、軽量化が強く求められている。本発明の光選択透過フィルターは、厚みを1mm以下とすることで、薄膜化をより達成でき、特に撮像レンズ等のレンズユニットに用いた場合に、レンズユニットの低背化を実現することができる。言い換えると1mm以下の薄い光選択透過フィルターを光学部材として用いた場合に、光路を短縮することができ、該光学部材を小さくすることができる。具体的には、カメラモジュールにおいては、レンズと光選択透過フィルターとシーモスセンサーとを有することとなる。
【0088】
図9及び図10に、カメラモジュールの一例を、模式的に示す。なお、これらの図は、エレクトロニックジャーナル第81回テクニカルセミナー(Electronic Journal 第81回 Technical Seminar)資料を参照した。
図9に示すように、光選択透過フィルターは、所望の波長の光(カメラモジュールにおいては、例えば、700nm以上の波長の光)をカットし、シーモスセンサーの誤作動を防ぐ役割がある。カメラモジュールに光選択透過フィルターを入れると、焦点距離が伸びるため、バックフォーカスが伸張し、モジュールが大きくなる。光選択透過フィルターの厚みがtで屈折率nが1.5程度の場合、図10に示すように、バックフォーカスが約t/3伸張し、モジュールが大きくなるが、光選択透過フィルターを薄くして、焦点距離を短くし、モジュールを小さくすることができる。それにより、例えば、1/10インチの光学サイズの光路長としては、光選択透過フィルターなしの場合の120%以下とすることが好ましい。より好ましくは110%以下、更に好ましくは105%以下である。
【0089】
本発明の光選択透過フィルターは、光の透過率を選択的に低減するものである。低減させる光としては、10nm〜100μmの間のものであればよく、用いる用途により選択することができる。低減させる光の波長に応じて赤外線カットフィルター、紫外線カットフィルター、赤外・紫外線カットフィルター等とすることができるが、中でも、650nm〜10μmの赤外光と200〜350nmの紫外光とを低減し、それ以外の光を透過するものであることが好ましい。すなわち、上記光選択透過フィルターは赤外・紫外線カットフィルターであることが好ましい。これにより、光遮断特性の入射角依存性を低減するという本発明の作用効果をより充分に発揮することができる。
【0090】
赤外線カットフィルターは、赤外線領域である650nm〜10μmの波長を有する光のうち、いずれかの波長(範囲)の光を選択的に低減する機能を有するフィルターであればよい。選択的に低減する波長の範囲としては、650nm〜2.5μm、650〜1μm又は800nm〜1μmであることが好適である。これらの範囲の波長の少なくとも一つを選択的に低減するフィルターもまた、上記赤外線カットフィルターに含まれる。選択的に低減する波長の範囲としては、近赤外線領域である650nm〜1μmであることがより好ましい。
紫外線カットフィルターは、紫外線を遮断する機能を有するフィルターである。選択的に低減する波長の範囲としては、200〜350nmであることが好ましい。
赤外・紫外線カットフィルターは、紫外線及び赤外線の両方を遮断する機能を有するフィルターである。選択的に低減する波長の範囲は、上述と同様であることが好ましい。
【0091】
本発明の光選択透過フィルターが赤外線カットフィルターである形態においては、650〜1000nmの赤外線の透過率を選択的に5%以下に低減するものが好ましい。その他の波長域の透過率は、75%以上であることが好ましいが、フィルターの用途に応じて特定の波長域の透過率のみが高いものであってもよい。例えば、上記赤外線カットフィルターをカメラモジュールとして用いる場合には、赤外光の透過率が5%以下であり、可視光(400〜600nm)の透過率が80%以上であることが好適である。より好ましくは85%以上である。また、可視光の中でも450〜550nmの波長域の光の透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好適である。なお、上記赤外線カットフィルターにおいては、その他(赤外線領域以外)の波長の透過率としては、より好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。すなわち、上記光選択透過フィルターは、波長が400〜600nmにおける光の透過率が80%以上であり、かつ800〜1000nmにおける透過率が5%以下の赤外線カットフィルターであることが好ましい。より好ましくは750〜1000nmにおける透過率が5%以下、更に好ましくは700〜1000nmにおける透過率が5%以下である。
透過率は、分光光度計(Shimadzu UV−3100、島津製作所社製)を用いて測定することができる。
【0092】
本発明の光選択透過フィルターが紫外線カットフィルターである形態においては、200〜350nmの紫外線の透過率を選択的に5%以下に低減するものが好ましい。その他の波長域の透過率は、75%以上であることが好ましい。
【0093】
本発明の光選択透過フィルターが赤外・紫外線カットフィルターである形態においては、650nm〜10μmの赤外光と200〜350nmの紫外光とを選択的に5%以下に低減するものが好ましく、その他の波長域の透過率は、75%以上であることが好ましい。
【0094】
上記光選択透過フィルターとして好ましくは、600〜800nmの波長域に吸収極大を有し、かつ分子内にπ電子結合を有する色素を含有する吸収層を有する樹脂シートの少なくとも一方の表面に、反射膜が形成されてなる形態であるが、この構成によって、光遮断特性の入射角依存性をより充分に低減することができる。
光遮断特性の入射角依存性は、分光光度計(Shimadzu UV−3100、島津製作所社製)を用いて、入射角を変えた透過率(例えば0°、20°、25°、30°等。入射角0°における透過率とは、光選択透過フィルターの厚み方向から光が入射するようにして測定される透過率であり、入射角20°における透過率とは、光選択透過フィルターの厚み方向に対して20°傾いた方向から光が入射するようにして測定される透過率である。)を測定し、そのスペクトル変化量により評価できる。
なお、光遮断特性の入射角依存性は、樹脂シートの吸収により充分に低減されている必要があり、入射角の変化に対して透過率スペクトルが変化しないこと、又は、その変化の程度が小さいことが好ましい。具体的には、入射角0°を20°に変えても(より好ましくは25°に変えても)、透過率80%以上の領域において、透過率のスペクトルが変化しないことが好ましく、より好ましくは、透過率70%以上の領域において透過率のスペクトルが変化しないことであり、更に好ましくは、透過率60%以上の領域において透過率のスペクトルが変化しないことである。最も好ましくは、いずれの透過率領域においてもスペクトルが変化しないことである。
【0095】
上述したように、本発明の光選択透過フィルターは、光選択透過性に特に優れ、光遮断特性の入射角依存性を充分に低減することができるとともに、充分な薄膜化が可能であるため、自動車や建物等のガラス等に装着される熱線カットフィルター等として有用であるのみならず、カメラモジュール(固体撮像素子ともいう)用途における光ノイズを遮断し視感度補正するためのフィルターとして有用である。中でも、本発明の光選択透過フィルターは、薄型化・軽量化が進むデジタルスチルカメラや携帯電話用カメラ等のカメラモジュールに用いられるフィルターとして有用である。カメラモジュールは、通常、レンズユニット(撮像レンズ)部、光選択透過フィルター、及び、CCDやCMOS等のセンサー部を備えるが、本発明の光選択透過フィルターを用いたカメラモジュールは、通常、レンズユニット(撮像レンズ)部と、CCDやCMOS等のセンサー部との間に配置される。このように本発明の光選択透過フィルター、レンズユニット部、及び、センサー部を少なくとも有する固体撮像素子もまた、本発明の1つである。通常、反射型の光選択透過フィルターを用いた固体撮像素子では、入射角依存性に起因する影響(入射角による色むらの発生等)を抑制するために、多数のレンズを使用してレンズユニット部を構成するが、本発明の固体撮像素子では、上述した光選択透過フィルターを用いることによって、入射角依存性に起因する影響が充分に排除されるため、レンズユニット部を構成するレンズの枚数を少なくすることができ、薄型化・軽量化がより実現されることになる。
なお、レンズユニット部については、WO2008/081892に記載の形態が好ましく採用できる。
【0096】
上記固体撮像素子として具体的には、例えば、携帯電話、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等が挙げられる。このように本発明の光選択透過フィルターを用いてなる、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、及び、表示素子もまた、本発明の好適な形態に含まれる。
【発明の効果】
【0097】
本発明の光選択透過フィルターは、上述の構成よりなり、遮断したい波長域をよりシャープに遮断でき、かつ透過させたい波長域では高い透過率を示すといった特性に特に優れ、かつ光遮断特性の入射角依存性が充分に低減された光選択透過フィルターである。したがって、本発明の光選択透過フィルターを用いた固体撮像素子(カメラモジュール)は、反射型の光選択透過フィルターを用いることにより課題となった入射角による色むらの発生が、充分に抑制された画像を取り込むことができる。また、本発明の光選択透過フィルターは、充分な薄膜化も可能であるため、薄型化・軽量化が求められる用途において特に好適に用いることができる。具体的には、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品等の様々な用途に好適に用いることができ、特に、撮像レンズ等のレンズ用光選択透過フィルターとして有用であり、中でも、カメラモジュール用IRカットフィルターとして特に有用である。
【0098】
また本発明の樹脂シートは、吸収層における特定色素を特定濃度以上で含有するものとすることにより、色素分子が本来有する選択透過性よりも優れた選択透過性を発揮できる樹脂シートである。すなわち、400〜600nmの可視光に対する透過率は同等でありながら、600nm以上における吸収極大波長がより短波長側にシフトした、選択透過性に優れるものである。そのため、本発明の樹脂シートは、反射膜を更に備える光選択透過フィルター用の樹脂シートとして、上述した各種用途向けに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】実施例1で得た樹脂シート(1)の透過率スペクトルである。
【図2】実施例2で得た樹脂シート(2)の透過率スペクトルである。
【図3】比較例1で得た樹脂シート(3)の透過率スペクトルである。
【図4】比較例2で得た樹脂シート(4)の透過率スペクトルである。
【図5】実施例3で得た樹脂シート(5)の透過率スペクトルである。
【図6】実施例4で得た樹脂シート(6)の透過率スペクトルである。
【図7】比較例3で得た樹脂シート(7)の透過率スペクトルである。
【図8】本発明の光選択透過フィルターについて透過率及び入射角依存性を評価した透過率スペクトルの一例である。
【図9】カメラモジュールの構成を示す断面模式図である。
【図10】光選択透過フィルターの有無によるバックフォーカスの伸張を示す模式図である。
【図11】透過率測定方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0100】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
なお、下記合成例における数平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ−N 4.6*150を2本、溶離液:テトラヒドロフラン、標準サンプル:TSKポリスチレンスタンダード)により測定した。
【0101】
合成例1
<FPEK(フッ素化ポリエーテルケトン)の合成>
温度計、冷却管、ガス導入管、及び、攪拌機を備えた反応器に、BPDE(4,4’−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル)16.74部、HF(9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン)10.5部、炭酸カリウム4.34部、DMAc(ジメチルアセトアミド)90部を仕込んだ。この混合物を80℃に加温し、8時間反応した。反応終了後、反応溶液をブレンダーで激しく攪拌しながら、1%酢酸水溶液中に注加した。析出した反応物を濾別し、蒸留水及びメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して、フッ素化芳香族ポリマー(FPEK)を得た。
上記ポリマーのガラス転移点温度(Tg)は242℃、数平均分子量(Mn)が70770、表面抵抗値は1.0×1018Ω/cm2以上であった。
【0102】
実施例1
合成例1で得たFPEK10部に、TX−EX−609K(開発品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.3部、MIBK(メチルイソブチルケトン)を70部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(1)を得た。
支持体フィルムとしてのネオプリムL−3430(三菱ガス化学社製、50μm厚)上に、色素含有樹脂組成物(1)を30μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥して、樹脂シート(1)52.3μmを得た。
樹脂シート(1)の透過率スペクトルを図1に示した。
【0103】
実施例2
支持体フィルムとしてのネオプリムL−3430(三菱ガス化学社製、50μm厚)上に、実施例1で得られた色素含有樹脂組成物(1)を15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥後、裏面にも同様に15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥した。樹脂シート(2)52.2μmを得た。
樹脂シート(2)の透過率スペクトルを図2に示した。
【0104】
比較例1
合成例1で得たFPEK10部に、TX−EX−609K(開発品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.01部、MIBKを40部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(2)を得た。
色素含有樹脂組成物(2)をガラス板上に420μm厚で塗布し、150℃で180分間乾燥して、硬化物を剥離することにより樹脂シート(3)65μmを得た。
樹脂シート(3)の透過率スペクトルを図3に示した。
【0105】
比較例2
合成例1で得たFPEK10部に、TX−EX−609K(開発品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.0065部、MIBKを40部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(3)を得た。
色素含有樹脂組成物(3)をガラス板上に650μm厚で塗布し、150℃で180分間乾燥して、硬化物を剥離することにより樹脂シート(4)100μmを得た。
樹脂シート(4)の透過率スペクトルを図4に示した。
【0106】
実施例3
ネオプリムL−3430(三菱ガス化学社製、50μm厚)10部にDMAc90部を加え、120℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にTX−EX−609K(商品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.3部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(4)を得た。
色素含有樹脂組成物(4)を支持体フィルムとしてのネオプリムL−3430(三菱ガス化学社製、50μm厚)上に、15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥後、支持体フィルムの裏面に同様にして色素含有樹脂組成物(4)を15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥させることにより、樹脂シート(5)54μmを得た。
樹脂シート(5)の透過率スペクトルを図5に示した。
【0107】
実施例4
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸(アルドリッチ製、純度95%)5部と無水酢酸(和光純薬社製)44部とを、フラスコに仕込み、攪拌しながら反応器内を窒素ガスで置換した。窒素ガス雰囲気下で溶剤の還流温度まで昇温し、10分間溶剤を還流させた。攪拌しながら室温まで冷却し、結晶を析出させた。析出した結晶を固液分離し、乾燥して目的物(1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物)の結晶を得た。温度計、撹拌器、窒素導入管、側管付き滴下ロート、ディーンスターク、冷却管を備えたフラスコに、窒素気流下、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(和光純薬社製)0.89部と、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン7.6部を仕込んで溶解させた後、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物1部を室温にて固体のまま1時間かけて分割投入し、室温下2時間撹拌した。共沸脱水剤としてキシレンを2.6部添加して180℃で3時間反応を行い、ディーンスタークで還流して共沸する生成水を分離した。190℃に昇温しながらキシレンを留去した後、冷却し、ポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液、9.33部を得た(この溶液中のポリイミド濃度:18.5%)。この溶液に、TX−EX−609K(商品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.055部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(5)を得た。
色素含有樹脂組成物(5)を、支持体フィルムとしてのネオプリムL−3430(三菱ガス化学社製、50μm厚)上に、15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥後、支持体フィルムの裏面に同様にして色素含有樹脂組成物(5)を15μm厚で塗布し、150℃で60分間乾燥させることにより、樹脂シート(6)54μmを得た。
樹脂シート(6)の透過率スペクトルを図6に示した。
【0108】
比較例3
実施例4において、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル0.89部の代わりに、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン(東京化成社製)1.08部及び4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(和光純薬社製)0.49部を用いること以外は、同様にして、ポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液、10.1部を得た(この溶液中のポリイミド濃度:23.9%)。この溶液に、TX−EX−609K(商品名、フタロシアニン系色素、吸収極大波長650nm、日本触媒社製)を0.0060部加え均一に溶解させ、色素含有樹脂組成物(6)を得た。
色素含有樹脂組成物(6)を、ガラス板上に、400μm厚で塗布し、200℃で60分間乾燥して、硬化物を剥離することにより樹脂シート(7)45μmを得た。
樹脂シート(7)の透過率スペクトルを図7に示した。
【0109】
図1〜7において、グラフの横軸は波長(nm)、縦軸は透過率(%)を示す。
各実施例及び比較例における、吸収層を構成する色素及び樹脂成分の総量100質量%に対する、分子内にπ電子結合を有する色素の濃度(含有量、質量%)、及び、樹脂シートにおける吸収層の厚み(μm)を、表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
上記実施例及び比較例から以下のことが分かる。
なお、樹脂成分としてフッ素化芳香族ポリマーを用いた例である、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2は、これらを対比しやすいように、吸収層の透過断面積あたりの色素濃度がほぼ等しくなるように設定している。つまり、実施例1及び実施例2は、吸収層における特定色素濃度を、本発明で規定した1質量%以上の高濃度にする一方で、吸収層の膜厚を薄く設定しているのに対し、比較例1及び比較例2は、吸収層における特定色素濃度を1質量%未満の低濃度にする一方で、吸収層の膜厚を厚く設定している。樹脂成分としてポリ(アミド)イミド樹脂を用いた例である、実施例3、実施例4、比較例3についても同様に、それぞれ対比しやすいように、吸収層の透過断面積あたりの色素濃度がほぼ等しくなるように設定している。
【0112】
図1(実施例1)と図3(比較例1)とを対比すると、図3では600〜800nm間に2つの吸収ピークが確認され、そのうちピークが最大となる吸収極大は長波長側に、2番目のピーク(ショルダー)は600nmに近い短波長側に、それぞれ観測される。これに対し、図1では、吸収極大が600nmに近い短波長側にシフトし、また、その吸収極大波長での透過率が、図3の同波長での透過率よりも低いことが分かる。一方、400〜600nmの可視光の透過率は、図3と同等又はそれ以上であることが分かる。また、これと同様のことが、図2(実施例2)と図4(比較例2)との対比、並びに、図5(実施例3)及び図6(実施例4)と図7(比較例3)との対比からも分かる。
すなわち、実施例においては、吸収層を、特定色素を1質量%以上で含有したものとすることにより、色素分子が本来有する選択透過性よりも優れた選択透過性を発揮できる樹脂シートが得られたのである。
【0113】
試験例
実施例1〜4で得た各樹脂シートを、幅60mm、長さ100mmの長方形にカッティングした。この両面に、蒸着基板温度150℃で赤外線を反射する多層膜〔シリカ(SiO2:膜厚120〜190nm)層とチタニア(TiO2:膜厚70〜120nm)層とが交互に積層されてなるもの、積層数は片面20層ずつ両面に蒸着:計40層〕を蒸着により形成し、光選択透過フィルター(光学フィルター)を製造した。
得られた各光選択透過フィルターについて、透過率及び入射角依存性を以下に示す方法にて測定・評価した。
【0114】
<透過率の測定・入射角依存性の評価>
Shimadzu UV−3100(島津製作所社製)を用いて200〜1100nmにおける透過率を測定した。透過率は、図11に示すように、入射光に対して垂直になるように光選択透過フィルターを設置した場合(このようにして測定された透過率スペクトルを0°スペクトルともいう。光選択透過フィルターの厚み方向から光が入射するようにして測定される。)と、入射光に対して25°光選択透過フィルターを傾けて設置した場合(このようにして測定された透過率スペクトルを25°スペクトルともいう。光選択透過フィルターの厚み方向に対して25°傾いた方向から光が入射するようにして測定される。)の夫々について測定した。
【0115】
その結果、実施例1〜4の樹脂シートを各々用いた各光選択透過フィルターでは、近赤外領域での透過率スペクトルのスロープは緩やかになるものの、透過率80%以上の領域において、0°と25°とのスペクトルに変化がなく、光遮断特性の入射角依存性は低減されることが確認された。一例として、本発明の樹脂シートに、多層膜を積層して形成した光選択透過フィルターにおける、透過率及び入射角依存性を評価したスペクトルを示す(図8)。
【符号の説明】
【0116】
1:レンズ
2:光選択透過フィルター
3:センサー
4:光源
5:光選択透過フィルター
6:受光部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂シートと、その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを含む光選択透過フィルターであって、
該樹脂シートは、色素及び樹脂成分を含む吸収層を有し、
該色素は、分子内にπ電子結合を有する色素を含み、
該分子内にπ電子結合を有する色素の含有割合は、吸収層を構成する色素及び樹脂成分の総量100質量%に対し、1質量%以上であることを特徴とする光選択透過フィルター。
【請求項2】
前記分子内にπ電子結合を有する色素は、芳香環を含む化合物であることを特徴とする請求項1に記載の光選択透過フィルター。
【請求項3】
前記分子内にπ電子結合を有する色素は、双性イオン構造及びカチオン性構造のいずれも有さないことを特徴とする請求項1又は2に記載の光選択透過フィルター。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光選択透過フィルターに用いられる樹脂シートであることを特徴とする光選択透過フィルター用樹脂シート。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の光選択透過フィルター、レンズユニット部、及び、センサー部を少なくとも有することを特徴とする固体撮像素子。
【請求項1】
樹脂シートと、その少なくとも一方の表面に形成されてなる反射膜とを含む光選択透過フィルターであって、
該樹脂シートは、色素及び樹脂成分を含む吸収層を有し、
該色素は、分子内にπ電子結合を有する色素を含み、
該分子内にπ電子結合を有する色素の含有割合は、吸収層を構成する色素及び樹脂成分の総量100質量%に対し、1質量%以上であることを特徴とする光選択透過フィルター。
【請求項2】
前記分子内にπ電子結合を有する色素は、芳香環を含む化合物であることを特徴とする請求項1に記載の光選択透過フィルター。
【請求項3】
前記分子内にπ電子結合を有する色素は、双性イオン構造及びカチオン性構造のいずれも有さないことを特徴とする請求項1又は2に記載の光選択透過フィルター。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光選択透過フィルターに用いられる樹脂シートであることを特徴とする光選択透過フィルター用樹脂シート。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の光選択透過フィルター、レンズユニット部、及び、センサー部を少なくとも有することを特徴とする固体撮像素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−83915(P2013−83915A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−72028(P2012−72028)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】
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