説明

光電場波形制御方法および制御装置

【課題】光パルスのパルス内光波位相制御、およびパルスエンベロープ制御を可能にする光電場波形制御方法および制御装置を提供する。
【解決手段】レーザーパルスを2光路に分離し一方の光路をパルス整形器を介してプローブ光を出力する光路とし他方の光路をリファレンスパルス光を出力する光路とし両光路を合成して分光器に入射し、スペクトル位相差を計測する光パルスの光電場波形制御装置において、パルス整形器にパルスのエンベロープの形を制御する任意の位相を与えてリファレンスパルス光と前記プローブ光とのスペクトル干渉信号から位相差Φ1(ω)を求めパルス整形器に位相差を与えリファレンス光とプローブ光との位相差の変化Φ2(ω)を求め、これらの値からパルス整形器を制御してパルス内光波位相変化特性と遅延の変化特性をパルスエンベロープ波形の制御を行い任意の値に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
レーザー装置、レーザー加工、計測装置、レーザーエネルギー応用、光電場に依存する現象(電子加速、電子運動制御、高次非線形現象)、光電場を利用した計測装置に用いるための光パルスの電場波形制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光パルスエンベロープのピーク位置における内部光電場の位相をキャリアエンベロープ位相(Carrier−envelope phase:CEP)あるいはパルス内光波位相とよび、高次高調波発生やアト秒パルス計測、制御にとって重要なパラメータとなっている。位相がそろったパルスに対してはCEPの値は周波数領域でのスペクトル位相の値に相当する。材料分散を用いたパルスストレッチャーとプリズムコンプレッサーを用いたCEP安定化チャープパルス増幅システム(例えば、非特許文献1参照)や、
回折格子を用いたパルスストレッチャーコンプレッサー、再生増幅器、マルチパル増幅器で構成される一般的なチャープパルス増幅システムにおいても安定化増幅が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
また受動的なCEP安定化を利用する光パラメトリック増幅器を用いた方法(例えば、非特許文献3参照)や、
差周波発生による安定化(例えば、非特許文献4参照)も報告されている。CEPの値を変化させるには何らかのCEPシフターが必要となる。従来技術は光路中に分散媒質を配置し角度を変えることで光路長を変化させ媒質通過によるCEPシフトを調整する方法、あるいは発振器のCEO制御の電気信号を調整する方法などがあるが、同時にパルス遅延の変化やパルス波形の変形を引き起こす。
また従来の波形整形技術ではスペクトル位相の相対値を制御することでパルスのエンベロープの制御は行われているが、パルス内光波位相の制御はされていない。
【0004】
【非特許文献1】A. Baltuska, Th. Udem, M. Ulberacker, M. Hentschel, E. Goullelmakis, Ch. Gohle, R. Holzwarth, V. S. Yakovlev, A. Scrinzi, T. W. Hansch and F. Krausz, “Attosecond control of electronic processes by intense light fields,” Nature. 421, 611−615(2003)。
【非特許文献2】M. Kakehata, H. Takada, Y. Kobayashi, K. Torizuka, H. Takamiya, K. Nishijima, T. Homma, H. Takahashi, K. Okubo, S. Nakamura, Y. Koyamada, “Carrier−envelope phase stabilized chirped−pulse amplification system scalable to higher pulse energies,” Optics Express 12, 2070−2080 (2004)。
【非特許文献3】A. Baltuska, T. Fuji, and T. Kobayashi, “Controlling the carrier−envelope phase of ultrashort light pulses with optical parametric amplifiers,” Phys. Rev. Lett. 88, 133901−133904 (2002)。
【非特許文献4】T. Fuji, A. Apolonski, F. Krausz, “Self−stabilization of carrier−envelope offset phase by use of difference−frequency generation,” Opt. Lett. 29, 632−634 (2004)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、光パルスの波形制御とはパルスエンベロープを制御することを指しており、光パルスに対する光電場位相(キャリアエンベロープ位相、あるいはパルス内光波位相)の制御は行われていなかった。近年パルス内光波位相を制御する技術が開発され、パルス内光波位相制御までをも含む光エンベロープの制御の開発が必要とされている。
従来、光パルスのパルス内光波位相を、レーザー発振器外部で制御する方法としては分散媒質(石英板など)の透過量を変化させる方法が知られていたが、この場合には波長による分散依存性があるため、波長帯域の狭いパルスに対しては近似的に有効であるが、広帯域なパルスに対してこの方法を用いる場合、パルス波形の変化をもたらしてしまう。つまり非常に広帯域なスペクトルに対し分散媒質の光路長変化でCEPをシフトさせる方法は、厳密には位相変化が波長依存性を有し結局エンベロープの変化やパルス遅延時間の変化を伴うため、良い方法ではない。また石英板などの分散媒質の光路長を変化させる方法は、パルス内光波位相を変化させる速度や精度などの可制御性が困難である。
パルス整形器を用いた本方式は、広帯域なスペクトル成分すべてに対して正確な位相変化を動的に与えることができる。従来、光パルスのパルス内光波位相を安定化する技術はあったが、これを動的に制御する装置はなかった。また、パルス整形器はパルス波形(エンベロープ)の制御装置として用いられていたが、パルス内光波位相を制御する装置として用いられていなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、光パルスのエンベロープ形状の制御を行うと同時にパルス内光波位相の制御を可能にする光電場波形制御方法および制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために以下の方法および装置を提供するものである。
入射パルスのパルス内光波位相を制御した状態で、パルス整形器を用いたパルス内光波位相シフターを組み合わせる本方式は、パルス整形器をパルスエンベロープの制御装置として動作するとともに、CEPを調整させる装置として動作できるため、光パルスの光電場波形制御が可能となる。
【0008】
具体的には、
(1) 制御されたパルス内光波位相を有するレーザーパルスを発生するパルス内光波位相制御レーザー装置と、分光器と、干渉計と、パルス整形器と、光パルスの位相変化を検出すると供に前記パルス整形器を制御する出力制御装置とを備え、
前記レーザーパルスを入力段のハーフミラーにより2光路に分離し、一方の光路をパルス整形器を介してプローブ光を出力する光路とし、他方の光路をリファレンスパルス光を出力する光路とし、前記両光路を合成して分光器に入射し、スペクトル位相差を計測する光パルスの光電場波形制御装置において、
前記パルス整形器にパルスのエンベロープの形を制御する任意の位相を与えて前記リファレンスパルス光と前記プローブ光とのスペクトル干渉から位相差Φ1(ω)を求め、
前記パルス整形器に位相差を与え、このときのスペクトル干渉からリファレンス光とプローブ光との位相差の変化Φ2(ω)を求め、前記位相差の変化Φ2(ω)の値から前記位相差Φ1(ω)の値を差し引き、変化した位相差Φs(ω)を求め、
前記位相差Φs(ω)をω−Φ平面で1次関数近似し、パルス内光波位相の変化量と遅延変化量を求め、前記出力制御装置により前記パルス整形器を制御してパルス内光波位相変化特性と遅延の変化特性をパルスエンベロープ波形の制御を行いながら任意の値に設定することを特徴とする。
【0009】
(2) 制御されたパルス内光波位相を有するレーザーパルスを発生するパルス内光波位相制御レーザー装置と、分光器と、干渉計と、パルス整形器と、光パルスの位相変化を検出すると供に前記パルス整形器を制御する出力制御装置とを備え、
前記レーザーパルスを入力段のハーフミラーにより2光路に分離し、一方の光路をパルス整形器を介してプローブ光を出力する光路とし、プローブ光を取り出すハーフミラーを配置しパルス内光波位相検出装置とパルスエンベロープ計測装置を設け、他方の光路をリファレンスパルス光を出力する光路とし、前記両光路を合成して分光器に入射し、スペクトル位相差を計測する光パルスの光電場波形制御装置において、
前記パルス整形器にパルスのエンベロープの形を制御する任意の位相を与えて前記リファレンスパルス光と前記プローブ光とのスペクトル干渉から位相差Φ1(ω)を求め、
前記パルス整形器に位相差を与え、このときのスペクトル干渉からリファレンス光とプローブ光との位相差の変化Φ2(ω)を求め、前記位相差の変化Φ2(ω)の値から前記位相差Φ1(ω)の値を差し引き、変化した位相差Φs(ω)を求め、
前記位相差Φs(ω)をω−Φ平面で1次関数近似し、パルス内光波位相の変化量と遅延変化量を求め、前記出力制御装置により前記パルス整形器を制御してパルス内光波位相変化特性と遅延の変化特性をパルスエンベロープ波形の制御を行いながら任意の値に設定することを特徴とする。
【0010】
(3) 上記(1)記載の光電場波形制御装置において、前記出力制御装置により前記パルス整形器を制御して、前記パルス内光波位相変化特性として、角周波数の値が変化しても位相差の値が変化しない、相対位相が保たれた変化特性を得ること、および任意の値に設定することを特徴とする。
(4) 上記(1)記載の光電場波形制御装置において、前記出力制御装置により前記パルス整形器を制御して、前記遅延の変化特性として、角周波数の値が変化したとき位相差の値が遅延量に応じて変化する角周波数変化特性を得ること、および任意の値に設定することを特徴とする。
【0011】
(5) 光電場波形制御方法は、制御されたパルス内光波位相を有するレーザーパルスを発生するパルス内光波位相制御レーザー装置と、分光器と、干渉計と、パルス整形器と、光パルスの位相変化を検出すると供に前記パルス整形器を制御する出力制御装置とを備え、
前記レーザーパルスを入力段のハーフミラーにより2光路に分離し、一方の光路をパルス整形器を介してプローブ光を出力する光路とし、他方の光路をリファレンスパルス光を出力する光路とし、前記両光路を合成して分光器に入射し、スペクトル位相差を計測する光パルスの光電場波形制御装置において、
前記パルス整形器にパルスのエンベロープの形を制御する任意の位相を与えて前記リファレンスパルス光と前記プローブ光とのスペクトル干渉から位相差Φ1(ω)を求め、
前記パルス整形器に位相差を与え、このときのスペクトル干渉からリファレンス光とプローブ光との位相差の変化Φ2(ω)を求め、前記位相差の変化Φ2(ω)の値から前記位相差Φ1(ω)の値を差し引き、変化した位相差Φs(ω)を求め、
前記位相差Φs(ω)をω−Φ平面で1次関数近似し、パルス内光波位相の変化量と遅延変化量を求め、前記出力制御装置により前記パルス整形器を制御してパルス内光波位相変化特性と遅延の変化特性をパルスエンベロープ波形の制御を行いながら任意の値に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光電場波形制御装置および方法において、出力制御装置によりパルス整形器を制御してパルスエンベロープの特性とパルス内光波位相特性と遅延特性を制御することができる、つまり、光パルスの光電場波形の制御ができる。
また、前記出力制御装置により前記パルス整形器を制御して、
前記パルス内光波位相変化特性として、角周波数の値が変化しても位相差の値が変化しない、相対位相が保たれた変化特性を得ること、および任意の値に設定することができる。
また、前記出力制御装置により
前記遅延の変化特性として、角周波数の値が変化したとき位相差の値が遅延量に応じて変化する角周波数変化特性を得ること、および任意の値に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の最良の実施例を以下図面に基いて説明する。
【実施例】
【0014】
(パルス整形器のCEPシフターとしての性能)
図1は本発明の光電場波形制御装置およびその特性を示す図である。
パルス整形器のCEPシフターとしての実用性を調べるためのスペクトル位相差計測実験装置としての光電場波形制御装置を図1(a)に示す。図1(b)は図1(a)の光電場波形制御装置によるスペクトル位相の相対値および絶対値と、CEP変化および遅延変化の関係を示す特性図である。
図1(a)のCEPシフターの特性評価のための光電場波形制御装置は、制御されたパルス内光波位相を有するレーザーパルスを発生するパルス内光波位相制御レーザー装置7と、分光器4と、干渉計と、パルス整形器1と、光パルスの位相変化を検出すると供に前記パルス整形器1を制御する出力制御装置6とを備え、前記レーザーパルスを干渉計を構成する入力段のハーフミラーにより2光路に分離し、一方の光路をパルス整形器1を介してプローブ光を出力する光路(干渉計を構成する)とし、他方の光路(干渉計を構成する)をリファレンスパルス光を出力する光路とし、前記両光路を合成して分光器4に入射し、スペクトル干渉を計測する。なお、分光器4を出力制御装置6中に組み込み一体化することもできる。
【0015】
パルス整形器1は、入出力段をプリズム5とし、両円筒面鏡(CM)2の中央部に空間位相変調器(SLM)3を設け、パルスエンベロープとパルス内光波位相を調整する。プリズム5の代わりに回析格子などの分散素子でもよい。又、両円筒面鏡(CM)2の代わりに球面鏡あるいはレンズでもよい。パルス整形器は、スペクトル位相成分の値を調整する機能があればよい、即ち、分散素子と、フーリエ変換用の結像光学素子、空間位相変調器またはデフォーマナルミラーで構成されるパルス整形器でもよい。
この装置によりリファレンスパルスとパルス整形器を通過したパルスとのスペクトル干渉(SI)を観測する。
チタンサファイアレーザー発振器(繰り返し80MHz, パルス幅35fs)の出力パルスを二つに分け、一方をリファレンスビーム、他方をプローブビームとし、プローブビームをパルス整形器に入射し、その後再合成して分光器に入射し、スペクトル干渉を計測した。パルス整形器1は空間位相変調器(例えば、SLM−S640/12, Jenoptic社製)3と4fの光学配置から構成される。(分散素子、フーリエ変換用光学素子、液晶空間位相変調器SLM3, フーリエ変換用光学素子、分散素子の配置になっており、フーリエ変換用光学素子の焦点距離をfとすると、各素子が距離fだけ離れて配置されている)。
【0016】
図1(a)のCEPシフターの特性評価のための実験配置は、制御されたパルス内光波位相を有するレーザーパルスを発生するパルス内光波位相制御レーザー装置7から発生されたレーザーパルスを入力段のハーフミラーを介して2光路に分離し、一方の光路をパルス整形器(CEPシフター)1を介してプローブ光を出力する光路とし、他方の光路をリファレンスパルス光を出力する光路とし、その後段で合成して分光器4に入射し、スペクトル干渉を計測する。
(計測手順)
【0017】
(キャリブレーション)
初めに、液晶の空間位相変調器SLM3にパルスエンベロープを制御する適当な位相を与えて、式1のリファレンスとプローブとの位相差
Φ1(ω)=Φprb,0(ω)−Φref(ω)・・・(式1)
を計測する。次に液晶の空間位相変調器SLM3でスペクトル位相に変調を与える。このときのスペクトル干渉から式2のリファレンスとプローブ間の位相変化を計測する。
Φ2(ω)=Φprb(ω)−Φref(ω)・・・・(式2)
次に、式3のように初めに計測した位相差をこの値から差し引くことで位相の変化
Φs(ω)=Φ2(ω)−Φ1(ω)・・・・(式3)
を求めた。したがって、CEPシフターとしての性能評価の計測では入射光のCEPが安定化されている必要がない。つぎに、この位相Φs(ω)をω−φ平面で一次関数により近似し、遅延の変化(傾きの変化)と相対的なCEP変化(切片の変化)を求めた。
【0018】
その際、以下のような処理を行う。
前記空間位相変調器3にパルスエンベロープを制御する任意の位相を与えて前記リファレンスパルス光と前記プローブ光との位相差Φ1(ω)を求め、
前記空間位相変調器3に位相変化を与え、このときのスペクトル干渉からリファレンス光とプローブ光との位相変化Φ2(ω)を求め、前記位相変化Φ2(ω)の値から前記位相差Φ1(ω)の値を差し引き変化する位相Φs(ω)を求め、
前記位相Φs(ω)をω−Φ平面で1次関数近似し、前記出力制御装置6により前記空間位相変調器3を制御して遅延の傾きの変化特性とパルス内光波位相変化特性を求める。
また、
前記出力制御装置6により前記空間位相変調器3を制御して、
前記パルス内光波位相変化特性として、角周波数の値が変化しても位相差の値が変化しない相対位相が保たれた変化特性を得る。
また、
前記出力制御装置6により前記空間位相変調器3を制御して、
角周波数の値が変化したとき位相差の値が遅延量に応じて変化する角周波数変化特性を得る。
【0019】
図2は本発明の相対的なCEP変化と遅延の時間的変化を、異なる実験条件で計測した結果である。図2(a)は位相変調を何も与えないとき、図2(b)はパルス整形器で正弦波的な遅延変化を与えた結果であり、図2(c)はパルス整形器で正弦波的なCEP変化を与えた結果である。実験精度範囲内で、計測された値は与えた遅延変化およびCEP変化と一致した。この結果より遅延変化とCEP変化を明確に区別して計測できること、およびパルス整形器が遅延変化器およびCEPシフターとして動作することを実証したことになる。パルス整形器で時間的に異なる形(三角波、方形波、鋸波)、即ち、パルス内光波位相の時間変化特性が時間的に位相の値が連続的に異なる波形のCEP変調を与えた場合、与えた波形と同じ波形が観測された。
(パルス内光波位相制御レーザー装置とパルス整形器の組み合わせの例)
光パルスの光電場波形制御装置の構成例を図3に示す。
【0020】
図3は、図1(a)においてキャリブレーションが済んだ後の出力(a)を用いた計測処理を説明する。図1(a)の出力(a)は、図3で光電場波形制御パルスとして示されている。図3では、パルス波形計測装置11は、光電場波形制御パルスを取り込んで、パルス整形器1を制御してパルス波形を整形する。また、パルス内光波位相計測装置12は、光電場波形制御パルスを取り込んで、パルス整形器1を制御してパルス位相を整形する。
パルス内光波位相制御レーザー装置7は、具体的には、図4のパルス内光波位相変化安定化発振器21として構成され、構成要素はレーザー発振器、自己参照型パルス内光波位相変化計測装置、位相シフト調整装置、位相同期ループ制御装置からなる。レーザー発振器から放出される80MHzのパルス列の1パルス間隔でのパルス内光波位相変化量が2π/8になるように制御をし、8パルスごとに同じパルス内光波位相を有するパルスを発生する。このパルス列から8の倍数に等しい間隔でパルスを選択することで等しいパルス内光波位相を有するパルスのみを選択することができる。この制御はnパルスごとにパルス内光波位相が同じになるように1パルス間隔でのパルス内光波位相変化量が2π/nとなるように制御しても良い。ここでnは1以上の整数である。また、パルス内光波位相制御レーザー装置は等しいパルス内光波位相を持つパルス列、あるいはパルス間のパルス内光波位相が規則的に変化するような光パルスを発生する装置であれば、レーザー媒質がチタンサファイア以外でもよく、レーザー発振器でなくてもレーザー増幅装置、レーザーパルス圧縮装置でもよい。またレーザーパルスの繰り返しは、いくらでも良い。パルス整形器は図1で説明したので省略する。以上の構成により、出力パルスのパルスエンベロープとパルス内光波位相、すなわち光電場波形は制御される。さらに、出力パルスをパルス内光波位相計測装置とパルス波形計測装置を用いて計測し、設定したパルス波形からの誤差をフィードバック制御することにより精度を高めることも可能である。
【0021】
(パルス整形器を用いて、チャープパルス(Chirped−pulse)増幅後のCEPを制御した結果)
チャープパルス増幅システムに光電場波形制御装置を挿入し、増幅後のCEPがパルス整形器で制御できることを確認した。図4に実験構成を示す。
図4は、増幅システムに光電場波形制御装置を挿入した構成図である。
図4において、各部構成要素は図のとおりに接続されている。
パルス内光波位相変化安定化発振器21は、チタンサファイアレーザー発振器、自己参照型パルス内光波位相変化計測装置、位相シフト調整装置、位相同期ループ制御装置からなり、フィードバック制御を行う。パルス内光波位相変化安定化発振器21は、パルス内光波位相制御レーザー装置7と同じ機能とすることができる。
パルス選択部22は、ポッケルスセル駆動回路、同期回路、遅延回路、分周器からなる。
増幅段23は、パルス伸張器、再生増幅器、励起レーザー、マルチパス増幅器、パルス圧縮器からなる。
評価装置24は、中空ファイバー、2倍波発生装置、偏光子、分光器からなる。
以上の構成により、自己参照型スペクトル干渉法によるパルス内光波位相計測装置を構成する。
【0022】
パルス内光波位相シフター(パルス整形器)は図1で説明したので省略する。
チャープパルス増幅システムは、パルス内光波位相変化量(CEO)安定化発振器、等しいCEPを有するパルスを選択するシステム、回折格子を用いたパルス伸張器、再生増幅器、マルチパス増幅器、回折格子を用いたパルス圧縮器で構成される。伸張器後のパルス幅は220ps以上であり、数百ミリジュール以上のパルスエネルギーまで増幅するのに十分な条件となっている。発振器はプリズム対による分散補償を行う構成となっており、全反射鏡の角度制御によりCEOビート(周波数fceo)をリファレンス周波数(fref=fosc/8)に位相同期してCEOの安定化を行った。等しいCEPを有するパルスの選択は、CEOビート信号の位相をモニターする方法を用い、再生増幅器のパルス取り込み用ポッケルスセルの動作で行った。増幅されたパルスのスペクトル幅は20nm(半値全幅)であり、50fsのトランスフォームリミットパルスに相当する。励起光のエネルギーが十分であれば原理的にはこのシステムは数TWのレベルにまで出力を増大させることが可能である。
【0023】
増幅パルスのCEP変化は自己参照型スペクトル干渉方法で計測した。Krを封入したチャンバーに配置した内径150ミクロンのホローファイバーに増幅パルスを入射し、スペクトルを広帯域化させる。広帯域化されたスペクトルの長波長成分の二倍波をBBO結晶で発生し、ポラライザーで基本波と2倍波の同じ偏光成分を取り出し、分光器で同じ波長成分のスペクトル干渉を計測した。自己参照型(非線形)スペクトル干渉信号は400nm付近で観測した。計測CCDの露光時間は21msecであり一つのスペクトルトレースに増幅パルスが12パルス含まれている。
図5は本発明に関するパルス内光波位相変化の3秒間での143トレースの強度イメージである。図5(a)はパルス整形器で0.5Hzの方形波的なCEP変調を与えた結果、図5(b)は2Hzの三角波的なCEP変調を与えた結果である。パルス整形器で与えたCEP変調は増幅後のCEP計測でも確認され(フリンジ(自己参照スペクトル干渉縞)の位相シフトがCEPシフトに相当する)、パルス整形器がCEPシフターとして動作することを確認できた。
【0024】
これまで一般的に、CEPはトランスフォームリミットパルスに対して議論されてきた。これはスペクトル位相がCEPと等しくなる最もわかりやすい場合だからである。ところが、絶対位相と相対位相の関係をよく考えてみると、CEPはトランスフォームリミットパルスに対してだけ定義する必要はないことがわかる。これはCEPシフターの動作原理から考えるとわかりやすい。相対位相の形を固定したままで位相の値をずらすことがCEPシフターの動作原理であり、これはトランスフォームリミットパルスに限る必要がない。パルス整形器は時間波形を発生するのに必要とされる相対位相の形を自由に変えられると同時にCEPシフターとしても動作するため、CEPを安定化したシステム(あるいはパルス)とパルス整形器を組み合わせることで、複雑なエンベロープを有するパルス(つまり電場波形をすべて制御したパルス)のCEPを変化することが可能となる。
以上述べたとおりに構成することにより、パルス整形器を用いたCEPシフター動作を実現することができる。光電場波形制御装置をチャープパルス増幅システムと組み合わせて用いることにより、増幅パルスの光電場波形制御を行った。パルス内光波位相制御レーザーとパルス整形器との組み合わせにより、光エンベロープの形とパルス内光波位相の値および遅延特性を制御する、光電場波形制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の光電場波形制御装置およびその特性を示す図である。
【図2】本発明の相対的なCEP変化とディレイの時間的変化を、異なる実験条件で計測した結果である。
【図3】本発明の光電場波形制御装置の構成例である。
【図4】本発明の光電場波形制御装置を増幅システムに挿入した構成図である。
【図5】本発明に関するパルス内光波位相変化の3秒間での143トレースの強度イメージである。
【符号の説明】
【0026】
1 パルス整形器(CEPシフター)
2 円筒面鏡(CM)
3 空間位相変調器(SLM)
4 分光器(Spectrometer)
5 プリズム
6 出力制御装置
7 パルス内光波位相制御レーザー装置
11 パルス波形計測装置
12 パルス内光波位相計測装置
21 パルス内光波位相変化安定化発振器
22 パルス選択部
23 増幅段
24 評価装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御されたパルス内光波位相を有するレーザーパルスを発生するパルス内光波位相制御レーザー装置と、分光器と、干渉計と、パルス整形器と、光パルスの位相変化を検出すると供に前記パルス整形器を制御する出力制御装置とを備え、
前記レーザーパルスを入力段のハーフミラーにより2光路に分離し、一方の光路をパルス整形器を介してプローブ光を出力する光路とし、プローブ光を取り出すハーフミラーを配置し、他方の光路をリファレンスパルス光を出力する光路とし、前記両光路を合成して分光器に入射し、スペクトル位相差を計測する光パルスの光電場波形制御装置において、
前記パルス整形器にパルスのエンベロープの形を制御する任意の位相を与えて前記リファレンスパルス光と前記プローブ光とのスペクトル干渉信号から位相差Φ1(ω)を求め、
前記パルス整形器に位相差を与え、このときのスペクトル干渉からリファレンス光とプローブ光との位相差の変化Φ2(ω)を求め、前記位相差の変化Φ2(ω)の値から前記位相差Φ1(ω)の値を差し引き、変化した位相差Φs(ω)を求め、
前記位相差Φs(ω)をω−Φ平面で1次関数近似し、パルス内光波位相の変化量と遅延変化量を求め、前記出力制御装置により前記パルス整形器を制御してパルス内光波位相変化特性と遅延の変化特性をパルスエンベロープ波形の制御を行いながら任意の値に設定することを特徴とする光電場波形制御装置。
【請求項2】
制御されたパルス内光波位相を有するレーザーパルスを発生するパルス内光波位相制御レーザー装置と、分光器と、干渉計と、パルス整形器と、光パルスの位相変化を検出すると供に前記パルス整形器を制御する出力制御装置とを備え、
前記レーザーパルスを入力段のハーフミラーにより2光路に分離し、一方の光路をパルス整形器を介してプローブ光を出力する光路とし、プローブ光を取り出すハーフミラーを配置しパルス内光波位相検出装置とパルスエンベロープ計測装置を設け、他方の光路をリファレンスパルス光を出力する光路とし、前記両光路を合成して分光器に入射し、スペクトル位相差を計測する光パルスの光電場波形制御装置において、
前記パルス整形器にパルスのエンベロープの形を制御する任意の位相を与えて前記リファレンスパルス光と前記プローブ光とのスペクトル干渉から位相差Φ1(ω)を求め、
前記パルス整形器に位相差を与え、このときのスペクトル干渉からリファレンス光とプローブ光との位相差の変化Φ2(ω)を求め、前記位相差の変化Φ2(ω)の値から前記位相差Φ1(ω)の値を差し引き、変化した位相差Φs(ω)を求め、
前記位相差Φs(ω)をω−Φ平面で1次関数近似し、パルス内光波位相の変化量と遅延変化量を求め、前記出力制御装置により前記パルス整形器を制御してパルス内光波位相変化特性と遅延の変化特性をパルスエンベロープ波形の制御を行いながら任意の値に設定することを特徴とする光電場波形制御装置。
【請求項3】
前記出力制御装置により前記パルス整形器を制御して、
前記パルス内光波位相変化特性として、角周波数の値が変化しても位相差の値が変化しない、相対位相が保たれた変化特性を得ること、および任意の値に設定することを特徴とする請求項1記載の光電場波形制御装置。
【請求項4】
前記出力制御装置により前記パルス整形器を制御して、
前記遅延の変化特性として、角周波数の値が変化したとき位相差の値が遅延量に応じて変化する角周波数変化特性を得ること、および任意の値に設定することを特徴とする請求項1記載の光電場波形制御装置。
【請求項5】
制御されたパルス内光波位相を有するレーザーパルスを発生するパルス内光波位相制御レーザー装置と、分光器と、干渉計と、パルス整形器と、光パルスの位相変化を検出すると供に前記パルス整形器を制御する出力制御装置とを備え、
前記レーザーパルスを入力段のハーフミラーにより2光路に分離し、一方の光路をパルス整形器を介してプローブ光を出力する光路とし、他方の光路をリファレンスパルス光を出力する光路とし、前記両光路を合成して分光器に入射し、スペクトル位相差を計測する光パルスの光電場波形制御装置において、
前記パルス整形器にパルスのエンベロープの形を制御する任意の位相を与えて前記リファレンスパルス光と前記プローブ光とのスペクトル干渉から位相差Φ1(ω)を求め、
前記パルス整形器に位相差を与え、このときのスペクトル干渉からリファレンス光とプローブ光との位相差の変化Φ2(ω)を求め、前記位相差の変化Φ2(ω)の値から前記位相差Φ1(ω)の値を差し引き、変化した位相差Φs(ω)を求め、
前記位相差Φs(ω)をω−Φ平面で1次関数近似し、パルス内光波位相の変化量と遅延変化量を求め、前記出力制御装置により前記パルス整形器を制御してパルス内光波位相変化特性と遅延の変化特性をパルスエンベロープ波形の制御を行いながら任意の値に設定することを特徴とする光電場波形制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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