説明

光電変換装置の製造方法

【課題】大面積基板上に結晶質シリコン光電変換層を製膜する場合でも、製膜中の基板温度の上昇を抑制し、発電効率の高い光電変換装置の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】p層、n層、及び結晶質シリコンi層を含む光電変換層をプラズマを用いて製膜する真空処理装置によって、基板1上に予め製膜されたp層またはn層上に結晶質シリコンi層を製膜するi層製膜工程を有する光電変換装置の製造方法であって、真空処理装置が、基板を加熱する基板テーブル204と、プラズマを形成するための放電電極203とを備え、i層製膜工程は、基板テーブル又は放電電極の少なくとも一方の設定温度プロファイルが、基板1を真空処理装置内に導入した時の基板導入時設定温度と、真空処理装置内でプラズマを消灯した時の製膜終了時設定温度とを含み、製膜終了時設定温度が基板導入時設定温度よりも低くなるように制御する工程を含む光電変換装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置を用いた光電変換装置の製造方法に関し、特にプラズマを用いて(製膜済の)基板に処理を行う真空処理装置を用いた光電変換装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光を受光して電力に変換する光電変換装置として、発電層(光電変換層)に薄膜シリコン系の層を積層させた薄膜系太陽電池が知られている。薄膜系太陽電池は、一般に、基板上に、透明電極層、シリコン系半導体層(光電変換層)、及び裏面電極層を順次積層して構成される。光電変換層は、ドーパントを添加されたp型シリコン系半導体(p層)、i型シリコン系半導体(i層)及びn型シリコン系半導体(n層)の薄膜をプラズマCVD法等で製膜して形成される。薄膜シリコン系太陽電池では、例えば、非晶質シリコンからなるi層(非晶質シリコンi層)を含む光電変換層と、結晶質シリコンからなるi層(結晶質シリコンi層)を含む光電変換層とが積層されたタンデム型太陽電池として、変換効率の向上が図られている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2は、プラズマCVD法を用いて製膜した結晶質i層を備えた光電変換装置の製造方法について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−208093号公報
【特許文献2】特開2002−246618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄膜シリコン系太陽電池の変換効率を向上させるためには、結晶質シリコン光電変換層、特に結晶質シリコンi層の膜質(結晶粒子径、結晶化率等)を向上させることが必要不可欠とされている。そのためには、製膜温度を適正な範囲にすることが有効である。
【0006】
従来、製膜温度は、基板を加熱する温度を設定することによって管理されており、実際の基板温度を反映したものではなかった。そのため、プラズマCVD法を用いて製膜した場合、基板テーブルの温度を一定値に設定しても、プラズマによる入熱などの影響で基板に温度変化が生じていた。小面積の基板を用いた場合、基板に対しての基板テーブルや放電電極の熱容量が相対的に大きいため、製膜中の基板温度変化は小さい。したがって、電池性能への影響もほとんどないことから、上述の基板温度変化は許容可能な適正範囲として扱っていた。一方、大面積の基板(面積1m以上)を用いた場合や、高速製膜のために高いパワーを印加した場合には、基板面内での温度分布が生じたり、製膜開始から製膜終了までに基板温度が大きく上昇したりして、膜質や膜厚分布に影響を与えるという問題が生じていた。特に、結晶質シリコンi層は、他の層(p層、n層)に比べて厚く、長い製膜時間を要するため、基板温度変化の影響を受けやすい。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、大面積であっても高い発電効率を有する光電変換装置を、真空処理装置を用いて製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、p層、n層、及び結晶質シリコンi層を含む光電変換層をプラズマを用いて製膜する真空処理装置によって、基板上に予め製膜されたp層またはn層上に結晶質シリコンi層を製膜するi層製膜工程を有する光電変換装置の製造方法であって、前記真空処理装置が、基板を加熱または冷却する基板テーブルと、プラズマを形成するための放電電極とを備え、前記i層製膜工程は、前記基板テーブル又は前記放電電極の少なくとも一方の設定温度プロファイルが、前記基板を前記真空処理装置内に導入したときの基板導入時設定温度と、前記真空処理装置内でプラズマを消灯したときまたは高周波電圧印加を終了した時の製膜終了時設定温度とを含み、前記製膜終了時設定温度が前記基板導入時設定温度よりも低くなるように制御する工程を含む光電変換装置の製造方法を提供する。
【0009】
本発明において、「基板温度」とは、基板を加熱する温度ではなく、基板自身の温度を意味する。「設定温度」とは、基板温度を目標温度に制御するために設定される温度を意味し、例えば、基板テーブル(基板テーブルと一体構造の均熱板をも含む)や放電電極に供給される熱媒体の温度を設定するアナログ値を意味する。
【0010】
本発明によれば、結晶質シリコンi層を含む光電変換層を製膜する際に、製膜終了時設定温度を基板導入時設定温度よりも低くする。これによって、製膜時の基板温度をあまり上昇させずに所望の温度とすることができる。製膜時の基板温度が高くなりすぎると、光電変換層のp/i界面及び/またはi/n界面、或いは、n/i界面及び/またはi/p界面で、光電変換層中のドーパントの拡散が進み、i層中のドーパントが欠陥となって、発電効率が低下する。また、基板温度が高くなりすぎると、結晶化率が高くなり、結晶粒径も大きくなる。適正値よりも結晶化率が増大して、結晶粒径が数百nmより大きくなると、結晶粒界の緩和が十分に進まず、結晶粒界に未結合手等の欠陥が生じる。この欠陥が電子や正孔の再結合中心として働き、その結果、結晶質半導体の特性が低下する。本発明によれば、プラズマなどからの入熱による基板温度の上昇を抑制し、上記のような粒界欠陥を低減させることができる。
一方、製膜初期の基板温度は、ある程度高温にすることにより、p/i界面活性又はn/i界面活性が高くなるため、結晶質シリコン光電変換層の発電効率が向上する。
【0011】
上記発明においては、前記設定温度プロファイルが、前記真空処理装置内でプラズマを点灯した時または高周波電圧を印加した時の製膜開始時設定温度を含み、前記製膜終了時設定温度が、前記製膜開始時設定温度よりも低くなるように制御することが好ましい。製膜終了時設定温度を製膜開始時設定温度よりも低くすることで、プラズマなどからの入熱による製膜中の基板温度の上昇を抑制し、上記のような粒界欠陥を低減させることができる。
【0012】
上記発明においては、前記設定温度プロファイルが、少なくとも前記基板テーブルから前記基板への熱流束と、前記基板から前記放電電極への熱流束と、前記放電電極から放電されたプラズマから基板への熱流束とを含む前記真空処理装置内における熱バランスに基づいて制御されることが好ましい。このような熱バランスに基づいて設定温度プロファイルが制御されるので、基板面上の温度を正確に決定することができる。これによって、製膜中の基板温度が上昇しすぎるのを防止することができる。
【0013】
上記発明においては、前記真空処理装置内でプラズマを消灯したときの基板温度が、前記真空処理装置内でプラズマを点灯した時の基板温度に対して+10℃以下―30℃以上であることが好ましく、−10℃以下−20℃以上であることがより好ましい。こうすることで、光電変換層でのドーパントの拡散を抑制し、結晶質シリコンi層の膜質(結晶粒子径、結晶化率等)の低下も防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、結晶質シリコン光電変換層の製膜終了時設定温度が、基板導入時、及び製膜開始時設定温度よりも低くなるように、真空処理装置内の温度プロファイルを制御することとしたので、例えば面積が1mを超える大面積基板上に結晶質シリコン光電変換層を製膜した場合でも、製膜中の基板温度が上昇しすぎるのを防止し、発電効率の高い光電変換装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の光電変換装置の製造方法により製造される光電変換装置の構成を表す概略図である。
【図2】光電変換装置の製造方法を用いて太陽電池パネルを製造する一実施形態を説明する概略図である。
【図3】光電変換装置の製造方法を用いて太陽電池パネルを製造する一実施形態を説明する概略図である。
【図4】光電変換装置の製造方法を用いて太陽電池パネルを製造する一実施形態を説明する概略図である。
【図5】光電変換装置の製造方法を用いて太陽電池パネルを製造する一実施形態を説明する概略図である。
【図6】光電変換装置の製造方法に用いる真空処理装置(プラズマCVD装置)の構成の一部を示す部分断面図である。
【図7】結晶質シリコンi層製膜時の熱バランスモデルである。
【図8】RFパワー密度を変化させた時の基板テーブル設定温度と製膜終了直後との基板温度との関係を示すグラフである。
【図9】製膜時間によるRFパワー密度と製膜終了直後の基板温度上昇との関係を示すグラフである。
【図10】実施例1に係る結晶質シリコンi層製膜時の温度プロファイルを示すグラフである。図10(a)は基板テーブル及び放電電極の熱媒設定温度プロファイル、図10(b)は基板テーブルと放電電極の実測温度プロファイル、及び、基板の計算温度プロファイルである。
【図11】実施例2に係る結晶質シリコンi層製膜時の温度プロファイルを示すグラフである。図11(a)は基板テーブル及び放電電極の熱媒設定温度プロファイル、図11(b)は基板テーブルと放電電極の実測温度プロファイル、及び、基板の計算温度プロファイルである。
【図12】実施例3に係る結晶質シリコンi層製膜時の温度プロファイルを示すグラフである。図12(a)は基板テーブル及び放電電極の熱媒設定温度プロファイル、図12(b)は基板テーブルと放電電極の実測温度プロファイル、及び、基板の計算温度プロファイルである。
【図13】実施例4に係る結晶質シリコンi層製膜時の温度プロファイルを示すグラフである。図13(a)は基板テーブル及び放電電極の熱媒設定温度プロファイル、図13(b)は基板テーブルと放電電極の実測温度プロファイル、及び、基板の計算温度プロファイルである。
【図14】比較例2に係る結晶質シリコンi層製膜時の温度プロファイルを示すグラフである。図14(a)は基板テーブル及び放電電極の熱媒設定温度プロファイル、図14(b)は基板テーブルと放電電極の実測温度プロファイル、及び、基板の計算温度プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の光電変換装置の製造方法により製造される光電変換装置の構成を示す概略図である。光電変換装置100は、タンデム型シリコン系太陽電池であり、基板1、透明電極層2、光電変換層3としての第1セル層91(非晶質シリコン系)及び第2セル層92(結晶質シリコン系)、中間コンタクト層5、及び裏面電極層4を備える。なお、ここで、シリコン系とはシリコン(Si)やシリコンカーバイト(SiC)やシリコンゲルマニウム(SiGe)を含む総称である。また、結晶質シリコン系とは、非晶質シリコン系以外のシリコン系を意味するものであり、微結晶シリコンや多結晶シリコンも含まれる。
【0017】
本実施形態に係る光電変換装置の製造方法を、太陽電池パネルを製造する工程を例に挙げて説明する。図2から図5は、本実施形態の太陽電池パネルの製造方法を示す概略図である。
【0018】
(1)図2(a)
基板1としてソーダフロートガラス基板(例えば1.4m×1.1m×板厚:3.5mmから4.5mm)を使用する。基板端面は熱応力や衝撃などによる破損防止にコーナー面取りやR面取り加工されていることが望ましい。
【0019】
(2)図2(b)
透明電極層2として、酸化錫(SnO)を主成分とする膜厚約500nm以上800nm以下の透明導電膜を、熱CVD装置にて約500℃で製膜する。この際、透明導電膜の表面には、適当な凹凸のあるテクスチャーが形成される。透明電極層2として、透明導電膜に加えて、基板1と透明導電膜との間にアルカリバリア膜(図示されず)を形成しても良い。アルカリバリア膜は、酸化シリコン膜(SiO)を50nmから150nm、熱CVD装置にて約500℃で製膜処理する。
【0020】
(3)図2(c)
その後、基板1をX−Yテーブルに設置して、YAGレーザーの第1高調波(1064nm)を、図の矢印に示すように、透明導電膜の膜面側から照射する。加工速度に適切となるようにレーザーパワーを調整して、透明導電膜を発電セルの直列接続方向に対して垂直な方向へ、基板1とレーザー光を相対移動して、溝10を形成するように幅約6mmから15mmの所定幅の短冊状にレーザーエッチングする。
【0021】
(4)図2(d)
第1セル層91として、非晶質シリコン薄膜からなるp層、i層及びn層を、プラズマCVD装置により製膜する。SiHガス及びHガスを主原料にして、減圧雰囲気:30Pa以上1000Pa以下、基板温度:約200℃にて、透明電極層2上に太陽光の入射する側から非晶質シリコンp層31、非晶質シリコンi層32、非晶質シリコンn層33の順で製膜する。非晶質シリコンp層31は非晶質のBドープシリコンを主とし、膜厚10nm以上30nm以下である。非晶質シリコンi層32は、膜厚200nm以上350nm以下である。非晶質シリコンn層33は、非晶質シリコンに微結晶シリコンを含有するPドープシリコンを主とし、膜厚30nm以上50nm以下である。非晶質シリコンp層31と非晶質シリコンi層32の間には、界面特性の向上のためにバッファー層を設けても良い。
【0022】
次に、第1セル層91または中間コンタクト層5の上に、第2セル層92としての結晶質シリコンp層41、結晶質シリコンi層42、及び、結晶質シリコンn層43をプラズマCVD装置を用いて、順次製膜する。結晶質シリコンp層41はBドープした微結晶シリコンを主とし、膜厚10nm以上50nm以下である。結晶質シリコンi層42は微結晶シリコンを主とし、膜厚は1.2μm以上3.0μm以下である。結晶質シリコンn層43はPドープした微結晶シリコンを主とし、膜厚20nm以上50nm以下である。
【0023】
図6は、本実施形態の光電変換層の製膜に用いる真空処理装置201の構成の一部を示す部分断面図である。真空処理装置201は、製膜室202と、高周波電源205と、製膜室202に収容され高周波電源205と接続された放電電極203とを有する。放電電極203に対向するように基板テーブル204が配置されており、半導体膜が蒸着される被処理体としての基板1は、基板テーブル204上に保持される。基板テーブル204は、一方の面が均熱板(図示されず)の表面に密接し、製膜時に他方の面が基板1の表面と密接する。均熱板は、その内部に温度制御された熱媒体が循環するようになっている。または、均熱板に温度制御されたヒーターを組み込むことで、自身の温度を概ね均一な温度となるように制御して、接触している基板テーブル204の温度を所定温度に均一化する機能を有するようにしてもよい。ガス排気管207は、製膜室202の所定の場所に設置されている。反応ガス208は、ガス供給源(図示されず)からガス供給孔206を通して製膜室202に導入される。反応ガス208としては、シラン(SiH)ガスが例示される。図示されていない真空ポンプは、ガス排気管207を通してガスを排気し、製膜室202内の圧力を調整する。
【0024】
基板テーブル204は、基板1を保持可能な保持手段(図示されず)を有する非磁性材料の導電性の板である。セルフクリーニングを行う場合は耐フッ素ラジカル性からニッケル合金やアルミやアルミ合金の使用が望ましい。
熱媒体は、非導電性媒体であり、水素やヘリウムなどの高熱伝導性ガス、フッ素系不活性液体、不活性オイル、及び純水等が使用でき、中でも150℃から250℃の範囲でも圧力が上がらずに制御が容易であることから、フッ素系不活性液体(例えば商品名:ガルデン、F05など)の使用が好適である。
基板テーブル204及び基板1は、基板搬入搬出時は基板移動が可能なよう放電電極203との距離は広がっているのに対し、製膜時はこれら基板テーブル204及び基板1を放電電極203へ近づける。それにより、基板1と放電電極203との距離dを製膜に適した値、例えば、3mmから10mmとすることができる。
【0025】
放電電極203の温度調節は以下のように行われる。放電電極203へ高周波電力を供給する高周波給電伝送路(図示されず)は、例えば、その円管内に細管を設置し、この細管内に熱媒体を通す構造となっている。高周波電力は、その円管の周辺部を用いて電力を給電するようになっている。このような構成を用いて、放電電極203の各給電点(図示されず)側へ熱媒体を供給し、放電電極203の各給電点から熱媒体温度制御装置へ熱媒体を送出する。熱媒体の温度を熱媒体温度制御装置で制御することで、放電電極203の全体の温度を所望の温度に制御して製膜室202内のヒートバランスを適切に保つことができる。これにより、基板1の表裏温度差にともなうソリ変形を抑制することができる。
【0026】
ガス供給孔206からシランガスが反応ガス208として製膜室202に導入される。高周波電源205を用い放電電極203に高周波電圧(RF)を印加することによって、放電電極203と基板1との間の領域にプラズマ209が点灯される。
【0027】
第2セル層の製膜は、減圧雰囲気:3000Pa以下、プラズマ発生周波数:40MHz以上100MHz以下で行う。
【0028】
微結晶シリコンを主とする結晶質シリコンi層膜をプラズマCVD法で形成するにあたり、放電電極203と基板1の表面との距離dは、3mm以上10mm以下にすることが好ましい。3mmより小さい場合、大型基板に対応する製膜室内の各構成機器精度から距離dを一定に保つことが難しくなるとともに、近過ぎて放電が不安定になる恐れがある。10mmより大きい場合、十分な製膜速度(1nm/s以上)を得難くなるとともに、プラズマの均一性が低下しイオン衝撃により膜質が低下する。
【0029】
結晶質シリコンi層を製膜する際の基板温度は、上記工程で製膜を開始する(プラズマ点灯)ときの温度を170℃から190℃に、製膜終了(プラズマ消灯)時の温度を150℃から170℃にする。
上記基板温度の制御は、結晶質シリコンi層を製膜する際の基板テーブル204と放電電極203の設定温度プロファイルにより行う。上記工程で結晶質シリコンp層41まで製膜した基板1をi層製膜室に導入した時の基板導入時設定温度と、プラズマ消灯、又はRF印加を終了した時の製膜終了時設定温度において、基板導入時設定温度は最も高い温度とし、製膜終了時設定温度は、基板導入時設定温度よりも低く設定することが好ましい。基板テーブルの設定温度として、基板導入時設定温度は200℃から220℃、製膜終了時設定温度は、140℃から190℃に設定する。放電電極の設定温度として、基板導入時設定温度は130℃から150℃、製膜終了時設定温度は、80℃から120℃に設定する。基板導入時設定温度から製膜終了時設定温度への設定変更は、基板導入直後からでも、プラズマ点灯時からでも良い。各温度の遷移は、段階的であってよく、傾斜変化であってもよい。製膜終了時設定温度への遷移は、プラズマ消灯前に終了していてもよい。
なお、基板テーブル設定温度と放電電極の設定温度は、真空処理装置の容積、熱容量、基板面積等で決まるものであり、本実施形態の真空処理装置では該値に設定したが、真空処理装置により基板温度の設定温度である所定値が変わることは言うまでもない。本発明は、基板温度が所定値となるように基板テーブルの設定温度、放電電極の設定温度を制御することにある。
【0030】
上記の設定温度プロファイルは、プラズマCVD装置のi層製膜室内での製膜中の熱バランスに基づいて制御することが好ましい。図7に、本実施形態における結晶質シリコンi層製膜時の熱バランスモデルを示す。本実施形態において、熱媒体温度の設定温度プロファイルは、基板テーブル204から基板1への熱流束Qと、基板1から放電電極203への熱流束Qと、放電電極203から放電されたプラズマから基板1への熱流束Qとを含む熱バランスに基づいて制御する。このような熱バランスに基づいて設定温度プロファイルが制御されるので、基板面上の温度を正確に決定することができる。これによって、製膜中に基板温度が上昇することを防止し、結晶質シリコンi層の膜質を向上させることができる。
【0031】
本実施形態における熱バランスは以下の式を用いて算出する。
/S=α×(T−T)・・・(1)
/S=α×(T−T)・・・(2)
Q=Q−Q+Q ・・・(3)
g=Q/c/ρ ・・・(4)
は基板テーブルから基板への熱流束、Qは基板から放電電極への熱流束、Qはプラズマから基板への熱流束、α、αは熱伝達係数、Sは基板面積、Tは基板テーブル温度(実測値)、Tは基板温度(実測値)、Tは放電電極温度(実測値)、gは単位時間当たりの上昇温度(℃)、cは基板の比熱、ρは基板の密度とする。
【0032】
具体的には、式(1)〜(3)を用いて、基板テーブル204と放電電極203の実測温度(T、T)、及び、製膜開始(プラズマ点灯)直前と製膜終了(プラズマ消灯)直後の基板の実測温度Tから、熱流束Qを算出する。
なお、Qは、基板テーブルから基板への熱流束Qと、基板から放電電極への熱流束Qと、プラズマから基板への熱流束Qが平衡となっているときの各実測温度(T、T、T)を用いて、式(1)〜(4)から算出する。基板テーブル温度は、例えば、基板テーブル204の厚さ方向の中央に設置した熱電対によって計測する。放電電極温度は、例えば、放電電極203の内部に設置した熱電対によって計測する。基板温度は、製膜開始直前、及び製膜終了直後に、例えば、放射温度計にて計測する。
ここで得られた熱流束を式(4)に代入し、単位時間あたりの基板の温度変化を算出して、上記の基板実測温度に内挿し、基板温度プロファイルを得る。
【0033】
製膜中の基板温度プロファイルは、製膜終了時の基板温度が製膜開始時の基板温度に対して+10℃から−30℃の範囲となることが好ましい。上記温度プロファイルとなるように、基板テーブル204及び放電電極203の熱媒体温度を設定し、製膜温度を制御する。
【0034】
第1セル層91と第2セル層92の間に、接触性を改善するとともに電流整合性を取るために半反射膜となる中間コンタクト層5を設ける。中間コンタクト層5として、膜厚:20nm以上100nm以下のGZO(GaドープZnO)膜を、ターゲット:GaドープZnO焼結体を用いてスパッタリング装置により製膜する。また、中間コンタクト層5を設けない場合もある。
【0035】
(5)図2(e)
基板1をX−Yテーブルに設置して、レーザーダイオード励起YAGレーザーの第2高調波(532nm)を、図の矢印に示すように、光電変換層3の膜面側から照射する。パルス発振:10kHzから20kHzとして、加工速度に適切となるようにレーザーパワーを調整して、透明電極層2のレーザーエッチングラインの約100μmから150μmの横側を、接続溝11を形成するようにレーザーエッチングする。またこのレーザーは基板1側から照射しても良く、この場合は光電変換層3の非晶質シリコン系の第1セル層91で吸収されたエネルギーで発生する高い蒸気圧を利用して光電変換層3をエッチングできるので、更に安定したレーザーエッチング加工を行うことが可能となる。レーザーエッチングラインの位置は前工程でのエッチングラインと交差しないように位置決め公差を考慮して選定する。
【0036】
(6)図3(a)
裏面電極層4としてAg膜/Ti膜を、スパッタリング装置により、減圧雰囲気、製膜温度:150℃から200℃にて製膜する。本実施形態では、Ag膜:150nm以上500nm以下、これを保護するものとして防食効果の高いTi膜:10nm以上20nm以下を、この順に積層する。あるいは、裏面電極層4を、25nmから100nmの膜厚を有するAg膜と、15nmから500nmの膜厚を有するAl膜との積層構造としても良い。結晶質シリコンn層43と裏面電極層4との接触抵抗低減と光反射向上を目的に、光電変換層3と裏面電極層4との間に、スパッタリング装置により、膜厚:50nm以上100nm以下のGZO(GaドープZnO)膜を製膜して設けても良い。
【0037】
(7)図3(b)
基板1をX−Yテーブルに設置して、レーザーダイオード励起YAGレーザーの第2高調波(532nm)を、図の矢印に示すように、基板1側から照射する。レーザー光が光電変換層3で吸収され、このとき発生する高いガス蒸気圧を利用して裏面電極層4が爆裂して除去される。パルス発振:1kHz以上10kHz以下として加工速度に適切となるようにレーザーパワーを調整して、透明電極層2のレーザーエッチングラインの250μmから400μmの横側を、溝12を形成するようにレーザーエッチングする。
【0038】
(8)図3(c)と図4(a)
発電領域を区分して、基板端周辺の膜端部をレーザーエッチングし、直列接続部分で短絡し易い影響を除去する。基板1をX−Yテーブルに設置して、レーザーダイオード励起YAGレーザーの第2高調波(532nm)を、基板1側から照射する。レーザー光が透明電極層2と光電変換層3で吸収され、このとき発生する高いガス蒸気圧を利用して裏面電極層4が爆裂して、裏面電極層4/光電変換層3/透明電極層2が除去される。パルス発振:1kHz以上10kHz以下として加工速度に適切となるようにレーザーパワーを調整して、基板1の端部から5mmから20mmの位置を、図3(c)に示すように、X方向絶縁溝15を形成するようにレーザーエッチングする。なお、図3(c)では、光電変換層3が直列に接続された方向に切断したX方向断面図となっているため、本来であれば絶縁溝15位置には裏面電極層4/光電変換層3/透明電極層2の膜研磨除去をした周囲膜除去領域14がある状態(図4(a)参照)が表れるべきであるが、基板1の端部への加工の説明の便宜上、この位置にY方向断面を表して形成された絶縁溝をX方向絶縁溝15として説明する。このとき、Y方向絶縁溝は後工程で基板1周囲膜除去領域の膜面研磨除去処理を行うので、設ける必要がない。
【0039】
絶縁溝15は基板1の端より5mmから15mmの位置にてエッチングを終了させることにより、太陽電池パネル端部からの太陽電池モジュール6内部への外部湿分浸入の抑制に、有効な効果を呈するので好ましい。
【0040】
尚、以上までの工程におけるレーザー光はYAGレーザーとしているが、YVO4レーザーやファイバーレーザーなどの同様に使用できるものがある。
【0041】
(9)図4(a:太陽電池膜面側から見た図、b:受光面の基板側から見た図)
後工程のEVA等を介したバックシート24との健全な接着・シール面を確保するために、基板1周辺(周囲膜除去領域14)の積層膜は、段差があるとともに剥離し易いため、この膜を除去して周囲膜除去領域14を形成する。基板1の端から5から20mmで基板1の全周囲にわたり膜を除去するにあたり、X方向は前述の図3(c)工程で設けた絶縁溝15よりも基板端側において、Y方向は基板端側部付近の溝10よりも基板端側において、裏面電極層4/光電変換層3/透明電極層2を、砥石研磨やブラスト研磨などを用いて除去を行う。
研磨屑や砥粒は基板1を洗浄処理して除去した。
【0042】
(10)図4(a)(b)
端子箱23の取付け部分は、バックシート24に開口貫通窓を設けて集電板を取出す。この開口貫通窓部分には絶縁材を複数層で設置して、外部からの湿分などの浸入を抑制する。
直列に並んだ一方端の太陽電池発電セルと、他方端部の太陽電池発電セルとからCu箔を用いて集電して、太陽電池パネル裏側の端子箱23の部分から電力が取出せるように処理する。Cu箔は、各部との短絡を防止するためにCu箔幅より広い絶縁シートを配置する。
集電用Cu箔などが所定位置に配置された後に、太陽電池モジュール6の全体を覆い、基板1からはみ出さないようにEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)等による接着充填材シートを配置する。
EVAの上に、防水効果の高いバックシート24を設置する。バックシート24は本実施形態では防水防湿効果が高いようにPETシート/Al箔/PETシートの3層構造よりなる。
バックシート24までを所定位置に配置したものを、ラミネータにより減圧雰囲気で内部の脱気を行い約150から160℃でプレスしながら、EVAを架橋させて密着させる。
【0043】
(11)図5(a)
太陽電池モジュール6の裏側に端子箱23を接着剤で取付ける。
(12)図5(b)
Cu箔と端子箱23の出力ケーブルとをハンダ等で接続し、端子箱23の内部を封止剤(ポッティング剤)で充填して密閉する。これで太陽電池パネル50が完成する。
(13)図5(c)
図5(b)までの工程で形成された太陽電池パネル50について発電検査ならびに、所定の性能試験を行う。発電検査は、AM1.5、全天日射基準太陽光(1000W/m)のソーラシミュレータを用いて行う。
(14)図5(d)
発電検査(図5(c))に前後して、外観検査をはじめ所定の性能検査を行う。
【0044】
上記実施形態では太陽電池として、タンデム型太陽電池を用いたものについて説明したが、本発明は、この例に限定されるものではない。例えば、シングル型結晶質シリコン太陽電池、単層アモルファスシリコン太陽電池と結晶質シリコン太陽電池やシリコンゲルマニウム太陽電池とを各1から複数層に積層させた多接合型(トリプル型)太陽電池のような他の種類の薄膜太陽電池にも同様に適用可能である。
更に本発明は、金属基板などのような非透光性基板上に製造された、基板とは反対の側から光が入射するタイプの太陽電池にも同様に適用可能である。
【0045】
以下に、結晶質シリコンi層を製膜する際の温度プロファイルの決定根拠を説明する。
(RFパワー密度)
実施形態に従って透明電極層及び結晶質シリコン光電変換p層を製膜したガラス基板(1.4m×1.1m×板厚:3.5mmから4.5mm、以下基板と略称する)上に、微結晶シリコンを主とした結晶質シリコンi層を以下の条件でプラズマCVD装置にて製膜した。各層の膜厚は、透明電極層(730nm:酸化錫膜700nm+酸化亜鉛膜30nm)、結晶質シリコンp層(Bドープ微結晶シリコン):25nmとした。
【0046】
基板を190℃に予熱した後、i層製膜室に導入した。導入後30秒以内に0.01Pa以下まで真空排気し、SiHガス及びHガスを圧力2100Paまで導入した。該圧力になった後、調整を完了して、製膜を開始(RFを印加)した。RFパワー密度:0.5W/cm、1.0W/cm、1.5W/cm、基板テーブル設定温度:150℃、170℃、190℃、210℃、製膜時間:600秒とした。なお、RFパワー密度は、入力値と反射値が等しいものとして考える。製膜開始直前の基板温度は、ビューポートから放射温度計にて計測し、180℃とした。
【0047】
図8に、RFパワー密度を変化させた時の基板テーブル設定温度と製膜終了直後の基板温度との関係を示す。同図において、横軸は基板テーブル設定温度、縦軸は製膜終了直後の基板温度である。いずれのRFパワー密度においても、基板テーブル設定温度を上げると、製膜終了時(直後)の基板温度は上昇した。また、基板テーブル設定温度が同じ場合、印加するRFパワー密度の増加に伴い、製膜中の基板温度も上昇した。
【0048】
(熱バランス)
上記RFパワー密度の検討と同様の結晶質シリコンp層まで製膜済みガラス基板を用いて、その上に結晶質シリコンi層を製膜した。製膜条件は、製膜時間:120秒、240秒、600秒、RFパワー密度:0.5W/cm、1.0W/cm、1.5W/cmとした。製膜開始(RF印加)時の基板テーブル設定温度は210℃とし、製膜終了時まで一定とした。前述の製膜時間及び基板テーブル設定温度以外の製膜条件は、RFパワー密度の検討時と同様とした。結晶質シリコンi層製膜開始直前の基板温度を180℃とし、製膜終了直後の基板温度を計測した。基板温度は、基板を製膜室から搬送室に移動する際にビューポートから放射温度計を用いて計測した。
【0049】
図9に、製膜時間を変化させた時のRFパワー密度と製膜終了直後の基板温度上昇の関係を示す。同図において、横軸はRFパワー密度、縦軸は製膜開始時に対する製膜終了直後の温度上昇幅である。印加するRFパワー密度が増大するにともない、基板温度上昇幅も増加した。いずれのRFパワー密度を印加した場合においても、製膜時間が120秒のとき温度上昇は飽和に近づき、製膜時間が240秒を超えると、それ以上基板温度は上昇しなかった。上記結果によれば、製膜時間が240秒を超えると、プラズマから基板への熱流束と、基板テーブルから基板への熱流束と、基板から放電電極への熱流束とが平衡となる。すなわち、製膜中の基板温度の上昇を防止するためには、製膜開始後すぐ、遅くとも120秒後までに基板温度を低温に制御する必要があることがわかった。
【0050】
(設定温度と基板温度との関係)
実施形態に従って、シングル型結晶質シリコン太陽電池セルを作製した。各層の膜厚は、透明電極層:730nm、結晶質シリコンp層:25nm、結晶質シリコンi層:2μm、結晶質シリコンn層:25nm、裏面電極層:400nmとした。透明電極層は酸化錫膜、裏面電極層は酸化亜鉛膜および銀膜とした。
【0051】
SiHガス及びHガスを主原料とし、減圧環境下、RFパワー密度:0.5W/cm、1.0W/cm、1.5W/cmとしたとき、膜厚が2μmとなるよう製膜時間を1500秒、800秒、560秒として製膜した。
【0052】
製膜中の温度プロファイルを説明する。製膜開始時(直前)の基板温度は180℃、基板テーブル設定温度は210℃、放電電極設定温度は140℃とした。基板温度は、ビューポートから放射温度計を用いて計測し、各設定温度は入力値とした。製膜終了時(直後)に、基板が所望の温度となるように、基板テーブル設定温度及び放電電極設定温度を適宜変更した。
【0053】
結晶質シリコンi層を製膜後、結晶質シリコンn層、裏面電極層を実施形態に従い製膜し、シングル型結晶質シリコン太陽電池セルとして、発電効率を計測した。
【0054】
表1に、結晶質シリコンi層の製膜条件と、太陽電池セルとしたときの発電効率を示す。
【表1】

【0055】
いずれのRFパワー密度においても、製膜終了時の基板温度が150℃から190℃であったとき、発電効率が8.0%以上となった。製膜終了時の基板温度が160℃から170℃のときには、8.3%以上となり発電効率が更に向上した。上記結果によれば、製膜終了時の基板温度を製膜開始時程度に維持すると、高い発電効率が得られる。更に、製膜終了時の基板温度を製膜開始時よりも低下させると、より発電性能が向上する。
【0056】
結晶質シリコンi層製膜時の基板テーブル及び放電電極の設定温度と実測温度、及び、基板温度との関係を確認した。基板テーブルと放電電極の設定温度は、基板導入時の温度を基板導入時設定温度、プラズマ点灯またはRF印加時の温度を製膜開始時設定温度、プラズマ消灯時またはRF印加終了時の温度を製膜終了時設定温度とする。
【0057】
(実施例1)
大面積(1.4m×1.1m×板厚3.5mmから4.5mm)のガラス基板を用いて、シングル型結晶質シリコン太陽電池セルを作製した。各層の膜厚は、透明電極層:730nm、結晶質シリコンp層:25nm、結晶質シリコンi層:2μm、結晶質シリコンn層:25nm、裏面電極層(酸化亜鉛膜及び銀膜):400nmとした。
【0058】
結晶質シリコンi層の製膜条件を以下で説明する。
透明電極層及び結晶質シリコン光電変換p層を製膜した基板(以下、基板と略称する)を190℃に予熱した後、i層製膜室に導入した。導入後30秒以内に0.01Pa以下まで真空排気し、SiHガス及びHガスを圧力2100Paまで導入した。該圧力になった後、調整を完了して、製膜を開始(RFを印加)した。RFパワー密度は1.0W/cm、製膜時間は600秒とした。
【0059】
図10に、実施例1に係る結晶質シリコンi層製膜時の温度プロファイルを示す。図10(a)は基板テーブル及び放電電極の熱媒体設定温度プロファイルである。同図において、縦軸は設定温度、横軸はプラズマ点灯(RF印加)からの時間を表す。図10(a)に示すプロファイルのように、基板テーブルと放電電極の設定温度は、基板導入時設定温度から製膜開始時設定温度まで一定に温度を維持させ、製膜開始直後に、製膜開始時設定温度から製膜終了時設定温度に段階的に遷移させ、その後、製膜終了時まで一定に維持させた。基板テーブルと放電電極の基板導入時設定温度は、それぞれ210℃及び140℃とし、製膜開始時設定温度は、基板導入時設定温度と同じとした。基板テーブルと放電電極の製膜終了時設定温度は、それぞれ175℃及び110℃とした。
【0060】
(実施例2)
実施例1では、製膜開始直後に製膜開始時設定温度を製膜終了時設定温度へと段階的に遷移させた。実施例2では、製膜開始時設定温度から製膜終了時設定温度までの遷移段階に勾配をつけて緩やかに温度変化させた。前述の条件以外は実施例1と同じ工程でシングル型結晶質シリコン太陽電池セルを作製した。
図11に、実施例2に係る結晶質シリコンi層製膜時の温度プロファイルを示す。図11(a)は基板テーブル及び放電電極の熱媒体設定温度プロファイルである。同図において、縦軸は設定温度、横軸はプラズマ点灯(RF印加)からの時間を表す。図11(a)に示すプロファイルのように、基板テーブルと放電電極の設定温度は、基板導入時設定温度から製膜開始時設定温度まで一定に温度を維持させ、製膜開始直後に、製膜開始時設定温度から勾配をつけて緩やかに遷移させ、製膜開始後300秒で製膜終了時設定温度に到達するようにし、その後、製膜終了時まで一定に維持させた。
基板テーブルと放電電極の基板導入時設定温度は、それぞれ210℃及び140℃とし、製膜開始時設定温度は、基板導入時設定温度と同じとした。基板テーブルと放電電極の製膜終了時設定温度は、それぞれ175℃及び110℃とした。
【0061】
(実施例3)
実施例2では、製膜開始直後に設定温度を低下させた。実施例3では、基板導入直後から設定温度を低下させた。基板導入時設定温度から製膜開始時設定温度までの遷移段階に勾配をつけて、緩やかに温度変化させ、前述の条件以外は実施例2と同じ工程でシングル型結晶質シリコン太陽電池セルを作製した。
図12に、実施例3に係る結晶質シリコンi層製膜時の温度プロファイルを示す。図12(a)は基板テーブル及び放電電極の熱媒体設定温度プロファイルである。同図において、縦軸は設定温度、横軸はプラズマ点灯(RF印加)からの時間を表す。図12(a)に示すプロファイルのように、基板テーブルと放電電極の設定温度は、基板導入直後に基板導入時設定温度から勾配をつけて緩やかに遷移させ、製膜開始後300秒で製膜終了時設定温度に到達するようにし、その後、製膜終了時まで一定に維持させた。
基板テーブルと放電電極の基板導入時設定温度は、それぞれ210℃及び140℃とした。基板テーブルと放電電極の製膜終了時設定温度は、それぞれ175℃及び110℃とした。製膜開始時設定温度は、基板導入時設定温度から製膜終了時設定温度への遷移過程に含まれる。
【0062】
(実施例4)
実施例4では、実施例3の製膜終了時設定温度を更に低下させた。それ以外の条件は実施例3と同じ工程でシングル型結晶質シリコン太陽電池セルを作製した。
図13に実施例4に係る結晶質シリコンi層製膜時の温度プロファイルを示す。図13(a)は基板テーブル及び放電電極の熱媒体設定温度プロファイルである。同図において、縦軸は設定温度、横軸はプラズマ点灯(RF印加)からの時間を表す。図13(a)に示すプロファイルのように、基板テーブルと放電電極の設定温度は、基板導入直後に基板導入時設定温度から勾配をつけて緩やかに遷移させ、製膜開始後300秒で製膜終了時設定温度に到達するようにし、その後、製膜終了時まで一定に維持させた。
基板テーブルと放電電極の基板導入時設定温度は、それぞれ210℃及び140℃とした。基板テーブルと放電電極の製膜終了時設定温度は、それぞれ145℃及び100℃とした。製膜開始時設定温度は、基板導入時設定温度から製膜終了時設定温度への遷移過程に含まれる。
【0063】
(比較例1)
比較例1のみ、小面積(5cm×5cm×板厚3.5mmから4.5mm)のガラス基板を用いて、結晶質シリコン光電変換層を備えた結晶質シリコン光電変換層を備えたシングル太陽電池セルを作製した。結晶質シリコンi層の製膜は、プラズマCVD装置(要素試験用)を用いて行った。各層の膜厚は、透明電極層:730nm、結晶質シリコンp層:25nm、結晶質シリコンi層:2μm、結晶質シリコンn層:25nm、裏面電極層(酸化亜鉛膜及び銀膜):400nmとした。
【0064】
結晶質シリコンi層の製膜条件を以下で説明する。
透明電極層及び結晶質シリコン光電変換p層を製膜した基板(以下、基板と略称する)を190℃に予熱した後、i層製膜室に導入した。導入後30秒以内に0.01Pa以下まで真空排気し、SiHガス及びHガスを圧力2100Paまで導入した。該圧力になった後、調整を完了して、製膜を開始(RFを印加)した。RFパワー密度は1.0W/cm、製膜時間は600秒、基板ホルダー温度は180℃とし、製膜終了時まで一定値を維持させた。
【0065】
(比較例2)
図14に比較例2に係る結晶質シリコンi層製膜時の温度プロファイルを示す。図14(a)は基板テーブル及び放電電極の熱媒体設定温度プロファイルである。同図において、縦軸は設定温度、横軸はプラズマ点灯(RF印加)からの時間を表す。図14(a)に示すプロファイルのように、基板テーブルと放電電極の設定温度は、それぞれ210℃及び140℃とし、製膜終了時まで一定値を維持させた。それ以外の条件は実施例1と同じ工程でシングル型結晶質シリコン太陽電池セルを作製した。
【0066】
(比較例3)
比較例3では、基板テーブルと放電電極の設定温度を、それぞれ195℃及び125℃とし、製膜終了時まで一定値を維持させた。それ以外の条件は実施例1と同じ工程でシングル型結晶質シリコン太陽電池セルを作製した。
【0067】
(比較例4)
比較例4では、基板テーブルと放電電極の設定温度を、それぞれ175℃及び110℃とし、製膜終了時まで一定値を維持させた。それ以外の条件は実施例1と同じ工程でシングル型結晶質シリコン太陽電池セルを作製した。
【0068】
結晶質シリコンi層の製膜開始直前と製膜終了直後の基板温度、基板をi層製膜室に導入する前からプラズマ消灯までの間の基板テーブルと放電電極の実温度、及び、シングル型結晶質シリコン太陽電池セルとしたときの発電効率を計測した(実施例1〜4及び比較例1〜4)。基板温度は、プラズマ点灯直前、及びプラズマ消灯直後にビューポートから放射温度計で計測した。基板テーブル温度は、基板テーブルの厚さ方向の中央に設置した熱電対によって計測した。放電電極温度は、放電電極の内部に設置した熱電対によって計測した。計測した基板テーブル温度、放電電極温度、基板温度の値を用いて、上述の式(1)〜(4)から製膜中の基板温度を算出した。
【0069】
実施例1〜4及び比較例2の基板テーブル及び放電電極の実測温度と、計算によって導き出した製膜中の基板温度プロファイルを図10(b)、図11(b)、図12(b)、図13(b)、図14(b)に示す。比較例2では、プラズマ点灯開始直後からプラズマ消灯時まで基板温度は上昇し続けていた。実施例1では、基板温度がプラズマ点灯開始後に一旦174℃まで下がったが、その後緩やかに上昇した。実施例2及び実施例3では、製膜中の基板温度は、ほぼ一定だった。実施例4では、基板温度はプラズマ点灯開始後から緩やかに低下していた。
【0070】
表2に、結晶質シリコンi層の製膜開始直前と製膜終了直後の基板温度(実測値)と、シングル型結晶質シリコン太陽電池セルとしたときの発電効率の結果を示す。
【表2】

【0071】
小面積基板を用いた比較例1では、製膜中の基板温度の上昇幅は5℃、発電効率は8.3%であった。一方、大面積基板を用いた比較例2では、製膜開始直前の基板温度は同じであるが、製膜中の基板温度は40℃上昇し、発電効率は7.7%に低下した。比較例3では、基板テーブルと放電電極の設定温度を下げたが、製膜中の基板温度は33℃上昇し、発電効率はわずかに向上しただけであった。比較例4では、更に基板テーブルと放電電極の設定温度を下げたが、発電効率は向上せず、比較例3よりもわずかに低下した。上記結果によれば、製膜中に基板温度が上昇しすぎたり、製膜開始時の基板温度が一定値より低いと、発電効率が低下することが分かる。
【0072】
実施例1の発電効率は、8.2%であった。これは、製膜中の基板温度上昇を5℃程度に抑えたことによると考えられる。実施例2及び実施例3では、基板テーブル及び放電電極の設定温度(基板導入時設定温度、製膜開始時設定温度、製膜終了時設定温度)を変えずに、プロファイルを変えてみたが、いずれも発電効率は8.2%であった。一方、実施例4では、製膜中に基板温度が低下し、発電効率は8.4%に向上した。これは、実施例3よりも製膜終了時設定温度を低くしたことによると考えられる。
【0073】
上記結果によれば、製膜終了時までの基板温度が、製膜開始時の基板温度に対して+10℃以下−30℃以上であるときに発電効率が8.0%以上となる。更に、−10℃以下−20℃以上である場合には、発電効率が8.3%以上となり、より発電効率の向上効果が得られる。
【0074】
実施例1、実施例4及び比較例2のシングル型結晶質シリコン太陽電池セルの結晶化率及び平均結晶粒子径を確認した。
【0075】
(結晶化率)
実施例1、実施例4及び比較例2のシングル型結晶質シリコン太陽電池セルを用いて、結晶質シリコンi層の結晶化率を計測した。「結晶化率」とは、ラマン分光法による測定で520cm−1の結晶性シリコンのピーク強度と480cm−1のアモルファスシリコンのピーク強度の比(結晶性シリコンのピーク強度/アモルファスシリコンのピーク強度)を意味する。結晶化率は、比較例2が7、実施例1が6、実施例4が5.5となった。上記結果によれば、製膜中の基板温度が製膜開始時に対して+10℃以下−30℃以上となるように、基板テーブル及び放電電極の設定値を制御すると、結晶質シリコンi層の結晶化率が低下することが分かる。
【0076】
(平均結晶粒子径)
X線回折(Scherrer法)によって、実施例1、実施例4及び比較例2のシングル型結晶質シリコン太陽電池セルを用いて、結晶質シリコンi層表面の平均結晶粒子径を計測した。平均結晶粒子径は、比較例2が0.3μm、実施例1が0.27μm、実施例4が0.26μmとなった。上記結果によれば、製膜中の基板温度が製膜開始時に対して+10℃以下−30℃以上となるように、基板テーブル及び放電電極の設定値を制御すると、結晶質シリコンi層表面の平均結晶粒子径が小さくなることが分かる。
【0077】
(タンデム太陽電池モジュール出力)
大面積(1.4m×1.1m×板厚3.5mmから4.5mm)のガラス基板を用いてタンデム太陽電池モジュールを作製した。透明電極層は、膜厚700nmのSnOとした。非晶質シリコンからなる第1のセル層は、p層の膜厚を12nm、i層の膜厚を200nm、n層の膜厚を25nmとした。中間コンタクト層は、膜厚60nmのGZO膜とした。結晶質シリコンからなる第2のセル層は、p層の膜厚を25nm、i層の膜厚を1.2〜3.0μm、n層の膜厚を25nmとした。裏面電極層は、膜厚50nmのGZO膜と膜厚350nmのAg膜した。結晶質シリコンi層は、実施例1、実施例4及び比較例2の条件で製膜し、結晶質シリコンi層製膜条件以外は、実施形態にしたがって製膜した。
【0078】
上記で作製したタンデム太陽電池モジュールのモジュール出力を計測した。モジュール出力は、比較例2が130W、実施例1が136W、実施例4が138Wとなった。上記結果によれば、膜中の基板温度が一定となるように、基板テーブル及び放電電極の設定値を制御すると、タンデム太陽電池モジュールとした場合でも、モジュール出力が向上することが分かる。タンデム太陽電池モジュール出力における結晶質シリコン光電変換層出力の寄与は、電圧比から全モジュール出力の1/3と考えられるが、上記結果によれば、シングル太陽電池モジュールでの効果と同等の効果が得られた。これは、従来のタンデム太陽電池モジュールの製膜方法では、第2セル層製膜時の基板温度が上昇するため、第1セルのp/i界面及びi/n界面での不純物の拡散を進展させ、電池性能を低下させていた。この基板温度の上昇を抑えたため、上記電池性能の低下を抑制できたものと考えられる。
【符号の説明】
【0079】
1 基板
2 透明電極層
3 光電変換層
4 裏面電極層
5 中間コンタクト層
6 太陽電池モジュール
10、12 溝
11 接続溝
14 周囲膜除去領域
15 絶縁溝
23 端子箱
24 バックシート
31 非晶質シリコンp層
32 非晶質シリコンi層
33 非晶質シリコンn層
41 結晶質シリコンp層
42 結晶質シリコンi層
43 結晶質シリコンn層
50 太陽電池パネル
91 第1セル層
92 第2セル層
100 光電変換装置(タンデム型シリコン系太陽電池)
201 真空処理装置
202 製膜室
203 放電電極
204 基板テーブル
205 高周波電源
206 ガス供給孔
207 ガス排気管
208 反応ガス
209 プラズマ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
p層、n層、及び結晶質シリコンi層を含む光電変換層をプラズマを用いて製膜する真空処理装置によって、基板上に予め製膜されたp層またはn層上に結晶質シリコンi層を製膜するi層製膜工程を有する光電変換装置の製造方法であって、
前記真空処理装置が、基板を加熱または冷却する基板テーブルと、プラズマを形成するための放電電極とを備え、
前記i層製膜工程は、
前記基板テーブル又は前記放電電極の少なくとも一方の設定温度プロファイルが、
前記基板を前記真空処理装置内に導入した時の基板導入時設定温度と、
前記真空処理装置内でプラズマを消灯した時または高周波電圧印加を終了した時の製膜終了時設定温度とを含み、
前記製膜終了時設定温度が前記基板導入時設定温度よりも低くなるように制御する工程を含む光電変換装置の製造方法。
【請求項2】
前記設定温度プロファイルが、前記真空処理装置内でプラズマを点灯した時または高周波電圧を印加した時の製膜開始時設定温度を含み、
前記製膜終了時設定温度が、前記製膜開始時設定温度よりも低くなるように制御する請求項1に記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項3】
前記設定温度プロファイルが、少なくとも前記基板テーブルから前記基板への熱流束と、前記基板から前記放電電極への熱流束と、前記放電電極から放電されたプラズマから基板への熱流束とを含む前記真空処理装置内における熱バランスに基づいて制御される請求項1または請求項2に記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項4】
前記真空処理装置内でプラズマを消灯したときの基板温度が、前記真空処理装置内でプラズマを点灯した時の基板温度に対して+10℃以下−30℃以上である請求項1から3のいずれかに記載の光電変換装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2011−49313(P2011−49313A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195751(P2009−195751)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】