説明

光電変換装置及びその製造方法

【課題】変換効率が高く、低コストであり、かつ、既存のプロセスラインへの大幅な変更を要しない光電変換装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】光電変換装置1は、光電変換層2と、光電変換層2を覆う反射防止膜4と、反射防止膜4の上にAg微粒子7を含むコロイド溶液を塗布して形成されるAg微粒子層6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフォトダイオード、太陽電池、撮像素子等の光電変換装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトダイオード、太陽電池、撮像素子等の光電変換装置では、受け取った光を効率的に電流に変換することが望ましい。そこで、従来から、金属ナノ粒子を光電変換装置に組み込むことで、変換効率を向上させる試みがなされてきた。
【0003】
これは、金属ナノ粒子に光を照射すると、金属ナノ粒子中の電子が光と相互作用し、局在表面プラズモン共鳴が起こり、結果として、金属ナノ粒子表面における電場が著しく増強されるという現象を利用したものである。なお、増強された金属ナノ粒子の表面における電場は、局在表面プラズモン電場と呼ばれることがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、導電性基板上に金属ナノ粒子を薄膜状に堆積させ、このナノ粒子の表面に金属−イオウ結合を介して電子供与性色素分子および/または電子受容性色素分子を固定した光電変換装置が記載されている。なお、金属ナノ粒子の薄膜を導電性基板上に形成する手法として、金属ナノ粒子を含むコロイド溶液中に導電性基板を沈めて放置し、金属ナノ粒子を導電性基板に堆積させることが開示されている。
【0005】
また特許文献2には、金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴を利用して変換効率を向上させたものではないが、導電性高分子と金属ナノ粒子とからなる正孔輸送層を採用することで、陽極の材料としてアルミニウムなどの安価な金属を使用できるようにしたショットキー型の有機太陽電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−270865号公報
【特許文献2】特開2006−237283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の光電変換装置のように、金属ナノ粒子を用いることで変換効率が向上する。また、コロイド溶液を用いたウェットプロセスによって光電変換装置に金属ナノ粒子を組み込むことで、真空プロセスの場合に比べて大幅にコストを削減できる。
【0008】
ところが、既存のプロセスラインを大幅に変更することは、光電変換装置の歩留まりや品質にどのような影響が出るのか予想しにくいため、当業界では忌避される傾向にある。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、変換効率が高く、低コストであり、かつ、既存のプロセスラインへの大幅な変更を要しない光電変換装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光電変換装置は、光電変換層と、前記光電変換層を覆う反射防止膜と、前記反射防止膜の上にAg微粒子を含むコロイド溶液を塗布して形成されるAg微粒子層とを備えることを特徴とする。
【0011】
従来から、金属微粒子の局在表面プラズモン電場の影響は、金属微粒子の直径の1/2程度までしか及ばないと言われていた。そして、直径が100nmを超える金属微粒子は、局在表面プラズモン電場による変換効率の向上効果がほとんど得られないとされている。このため、局在表面プラズモン電場を利用して変換効率を向上させるためには、金属微粒子の表面から光電変換層(具体的には、光電変換層内の電子供与体)までの距離を数nm〜数十nm程度にする必要があると考えられていた。この点、特許文献1においても、光電変換層として機能する色素分子が金属微粒子の表面に固定されており、金属微粒子の表面から光電変換層までの距離は非常に小さい。
【0012】
ところが、本発明者らの実験結果によれば、光電変換装置の反射防止膜上に形成したAg微粒子層は、反射防止膜の下に形成された光電変換層との距離が少なくとも100nm程度あるにもかかわらず、変換効率を大幅に向上させることが分かった。この実験系では、Ag微粒子層と光電変換層との距離(少なくとも100nm程度)が、局在表面プラズモン電場の影響が及ぶと考えられてきた範囲を明らかに超えている。よって、この実験結果は、局在表面プラズモン電場のみによって合理的に説明できない現象である。
一方、本発明者らがAg微粒子に替えてAu微粒子を用いて同様な実験を行った結果、反射防止膜上に形成したAu微粒子層は、光電変換装置の変換効率を向上させるどころか、変換効率を逆に減少させることも明らかになった。ここで、Au微粒子は、Ag微粒子とともに、光照射によって局在表面プラズモン共鳴を生じる代表的な材料として知られている。よって、光電変換装置の反射防止膜上に金属微粒子を設けることで変換効率が向上する現象は、金属微粒子に普遍的にみられる現象ではなく、Ag微粒子に特有の現象である。
本発明者らは、このAg微粒子に特有の上記現象が、Au微粒子に比べて著しく大きいAg微粒子の散乱強度が何らかの形で寄与しているものと推察している。
【0013】
上記光電変換装置は、本発明者らによるこの知見に基づくものであり、光電変換装置の反射防止膜上にAg微粒子層を形成したので、変換効率を大幅に向上させることができる。
また、コロイド溶液の塗布によってAg微粒子層を形成するので、真空設備が不要であり、製造コストを削減できる。さらに、既存のプロセスラインにAg微粒子層を形成する工程を追加すれば足り、既存のプロセスラインの大幅な変更を要しない。
【0014】
上記光電変換装置において、前記Ag微粒子の表面に蛍光色素が吸着していることが好ましい。
【0015】
蛍光色素は、紫外領域等の短波長の光によって電子が励起され、これが基底状態に戻る際に長波長の光を放出する。この蛍光色素を光電変換装置に組み込めば、光電変換層によって吸収されにくい短波長の光を長波長の光に変換して、光電変換層の正味の応答波長領域を短波長側まで広げることができる。
そして、Ag微粒子の表面に蛍光色素を吸着させると、Ag微粒子の局在表面プラズモン電場によって蛍光色素の励起が促進され、蛍光色素による光電変換層の応答波長領域の拡大効果が倍増し、変換効率がより一層向上する。なお、ここでのAg微粒子は、Ag微粒子に特有の上記現象によって自らが変換効率の向上に直接的に寄与するとともに、局在表面プラズモン電場によって蛍光色素を助けて光電変換層の応答波長領域を大幅に拡大させることでも、変換効率の向上に間接的に寄与している。
【0016】
この場合、前記蛍光色素は、ポルフィリン、フタロシアニン、シアニン及びクマリンの少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0017】
上記光電変換装置では、前記コロイド溶液において、前記Ag微粒子は分散剤により安定化されていることが好ましい。
【0018】
これにより、コロイド溶液におけるAg微粒子の分散性が向上し、Ag微粒子の会合が抑制されるので、このコロイド溶液を塗布して形成されるAg微粒子層内のAg微粒子は適切な粒径を維持することができ、Ag微粒子の粗大化による変換効率の増強特性の低下を防止できる。
【0019】
上記光電変換装置において、前記Ag微粒子層の表面はラミネートコートされていることが好ましい。
【0020】
これにより、Ag微粒子層を反射防止膜上に確実に固定し、Ag微粒子の脱落を防止できる。
【0021】
上記光電変換装置において、前記コロイド溶液が誘電体粒子を含み、前記Ag微粒子層において、前記Ag微粒子の間に前記誘電体粒子が介在し、前記Ag微粒子の会合が抑制されていてもよい。
【0022】
このように、コロイド溶液に誘電体微粒子を含有させることで、Ag微粒子層内のAg微粒子の会合が反射防止膜上で徐々に進行してAg微粒子が経時的に変化(粗大化)することを防止できる。よって、Ag微粒子の粗大化による変換効率の増強特性の低下を、製品の製造直後のみならず、製品の製造後、長期に亘って防止しうる。
【0023】
上記光電変換装置において、前記コロイド溶液は有機高分子を含み、前記Ag微粒子層において、前記Ag微粒子は前記有機高分子をバインダとして前記反射防止膜上に固定化されていてもよい。
【0024】
これにより、Ag微粒子層を反射防止膜上に確実に固定し、Ag微粒子の脱落を防止できる。また、バインダとして機能する有機高分子をコロイド溶液に含有させることで、Ag微粒子層内のAg微粒子の会合が反射防止膜上で徐々に進行してAg微粒子が経時的に変化(粗大化)することを防止できる。よって、Ag微粒子の粗大化による変換効率の増強特性の低下を、製品の製造直後のみならず、製品の製造後、長期に亘って防止しうる。
【0025】
また、本発明の別の態様に係る光電変換装置は、透明電極と、金属ナノ粒子及びp型導電性高分子を含むコロイド溶液を前記透明電極上に塗布して形成されるホール輸送層と、前記ホール輸送層上に形成された光電変換層とを備え、前記金属ナノ粒子の平均粒径dと、前記金属ナノ粒子が存在しない場所における前記ホール輸送層の膜厚tとの間に、t<d≦100nmの関係が成立することを特徴とする。
【0026】
この光電変換装置によれば、金属ナノ粒子及びp型導電性高分子を含むコロイド溶液の塗布によりホール輸送層を形成するようにしたので、金属ナノ粒子はp型導電性高分子に覆われることになる。このため、金属ナノ粒子が光電変換層に露出していないので、金属ナノ粒子におけるキャリアの再結合が抑制される。
また、金属ナノ粒子がp型導電性高分子に覆われるので、ホール輸送層上に光電変換層を形成する際の影響により、金属ナノ粒子が会合することを防止できる。よって、金属ナノ粒子の粒径が会合によって過剰に大きくなることがないので、局在表面プラズモン電場による電子供与体の励起促進効果が確実に得られる。
さらに、金属ナノ粒子の平均粒径dがホール輸送層の膜厚tよりも大きいことから、金属ナノ粒子が存在する部分だけホール輸送層が盛り上がっている。この部分では、金属ナノ粒子を覆うp型導電性高分子の膜表面が表面張力によって平坦になろうとするから、金属ナノ粒子が存在する部分におけるp型導電性高分子の膜厚が薄くなる。よって、金属ナノ粒子が完全にホール輸送層に埋まっている場合に比べて、金属ナノ粒子と光電変換層中の電子供与体(pn接合面におけるp型半導体)との距離が小さくなり、金属ナノ粒子の局在表面プラズモン電場によって電子供与体の励起がより一層促進され、変換効率が大幅に向上する。
【0027】
上記光電変換装置において、前記p型導電性高分子はPEDOT:PSSであってもよい。
【0028】
また、上記光電変換装置において、前記ホール輸送層における前記金属ナノ粒子が前記透明電極の表面に占める割合である表面被覆率が60%以上であることが好ましい。
【0029】
このように金属ナノ粒子の被覆率が60%以上の場合、金属ナノ粒子間で表面プラズモンが面方向(すなわち、ホール輸送層の面方向)に伝播するから、金属ナノ粒子におけるキャリアの再結合に比べて金属ナノ粒子の表面プラズモンによる光電変換層内の電子供与体の励起を促進する効果が大きくなり、変換効率をより一層向上させることができる。
【0030】
本発明に係る光電変換装置の製造方法は、光電変換層を形成する工程と、前記光電変換層を覆う反射防止膜を形成する工程と、前記反射防止膜の上にAg微粒子を含むコロイド溶液を塗布して、Ag微粒子層を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0031】
この光電変換装置の製造方法によれば、反射防止膜上にAg微粒子層が形成され、変換効率が大幅に向上した光電変換装置を得ることができる。
また、コロイド溶液の塗布によってAg微粒子層を形成するので、真空設備が不要であり、製造コストを削減できる。さらに、既存のプロセスラインにAg微粒子層を形成する工程を追加すれば足り、既存のプロセスラインの大幅な変更を要しない。
【0032】
上記光電変換装置の製造方法において、前記Ag微粒子層を形成する工程では、前記コロイド溶液をスプレー法又はスピンコート法により塗布してもよい。
【0033】
このように、スプレー法又はスピンコート法を採用することで、大面積のAg微粒子層を短時間で形成することができる。なかでも、スプレー法は、コロイド溶液の溶媒量を少なくしても、Ag微粒子を会合させずに反射防止膜上に付与することができるから、溶媒の乾燥時間を短縮することができる。また、スプレー法の場合、重ね塗りにより、Ag微粒子が反射防止膜の表面に占める割合(表面被覆率)を容易に調節できる。
【0034】
また本発明の別の態様に係る光電変換装置の製造方法は、金属ナノ粒子及びp型導電性高分子を含むコロイド溶液を透明電極上に塗布して、ホール輸送層を形成する工程と、前記ホール輸送層上に光電変換層を形成する工程とを備え、前記金属ナノ粒子の平均粒径dと、前記金属ナノ粒子が存在しない場所における前記ホール輸送層の膜厚tとの間に、t<d≦100nmの関係が成立することを特徴とする。
【0035】
この光電変換装置の製造方法によれば、金属ナノ粒子及びp型導電性高分子を含むコロイド溶液の塗布によりホール輸送層を形成するようにしたので、金属ナノ粒子はp型導電性高分子に覆われることになる。このため、金属ナノ粒子が光電変換層に露出していないので、金属ナノ粒子におけるキャリアの再結合が抑制される。
また、金属ナノ粒子がp型導電性高分子に覆われるので、ホール輸送層上に光電変換層を形成する際の影響により、金属ナノ粒子が会合することを防止できる。よって、金属ナノ粒子の粒径が会合によって過剰に大きくなることがないので、局在表面プラズモン電場による電子供与体の励起促進効果が確実に得られる。
さらに、金属ナノ粒子の平均粒径dがホール輸送層の膜厚tよりも大きいことから、金属ナノ粒子が存在する部分だけホール輸送層が盛り上がっている。この部分では、金属ナノ粒子を覆うp型導電性高分子の膜表面が表面張力によって平坦になろうとするから、金属ナノ粒子が存在する部分におけるp型導電性高分子の膜厚が薄くなる。よって、金属ナノ粒子が完全にホール輸送層に埋まっている場合に比べて、金属ナノ粒子と光電変換層中の電子供与体(pn接合面におけるp型半導体)との距離が小さくなり、金属ナノ粒子の局在表面プラズモン電場によって電子供与体の励起がより一層促進され、変換効率が大幅に向上する。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、光電変換装置の反射防止膜上にAg微粒子層を形成したので、変換効率を大幅に向上させることができる。
また、コロイド溶液の塗布によってAg微粒子層を形成するので、真空設備が不要であり、製造コストを削減できる。さらに、既存のプロセスラインにAg微粒子層を形成する工程を追加すれば足り、既存のプロセスラインの大幅な変更を要しない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】フォトダイオードの構成例を示す断面図である。
【図2】フォトダイオードの別の構成例を示す断面図である。
【図3】有機薄膜太陽電池の構成例を示す断面図である。
【図4】実施例1におけるサンプル1〜4の光電流増強比を示すグラフである。
【図5】実施例1におけるサンプル5〜8の光電流増強比を示すグラフである。
【図6】実施例2における実験結果を示すグラフである。
【図7】実施例3における実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0039】
[第1実施形態]
第1実施形態では、光電変換装置がフォトダイオードである例について説明する。図1は、フォトダイオードの構成例を示す断面図である。同図に示すフォトダイオード1は、受け取った光を電流に変換する光電変換層2と、光電変換層2を覆う反射防止膜4と、反射防止膜4の上に形成されたAg微粒子層6とを備える。
【0040】
光電変換層2は、多数キャリアが電子であるn型半導体2Aと、多数キャリアが正孔であるp型半導体2Bとを有する。n型半導体2Aおよびp型半導体2Bは、例えば、単結晶シリコン、単結晶ゲルマニウム、多結晶シリコンなどの結晶系半導体材料や、アモルファスシリコンなどのアモルファス系半導体材料や、GaAs、InP、AlGaAs、CdS、CdTe、CuS、CuInSe、CuInSなどの化合物系半導体材料に不純物をドープしたものを用いることができる。なお、不純物は、ホウ素、アルミニウム、リン、ヒ素などを用いてもよい。
【0041】
n型半導体2Aとp型半導体とは、pn接合面3において互いに接しており、pn接合面3を含む空乏層には、n型半導体2Aからp型半導体2Bに向かう内部電界が形成される。光照射によってpn接合面3の近傍に電子と正孔が発生すると、空乏層に形成された内部電界によって、電子がn型半導体2A側に移動し、正孔がp型半導体2B側に移動する。これにより、表面電極8Aと裏面電極8Bとの間に起電力が発生する。
【0042】
本実施形態では、多数のAg微粒子7からなるAg微粒子層6は反射防止膜4上に設けられる。Ag微粒子層6は、Ag微粒子7を含むコロイド溶液を反射防止膜4の表面に塗布することで形成される。
【0043】
Ag微粒子を含むコロイド溶液は、銀イオンを含む液体に還元剤を添加して、Ag微粒子を析出させることで得られる。
銀イオンを還元する還元剤には、クエン酸、クエン酸ダイマー及びクエン酸オリゴマー等を用いることができる。
また、析出したAg微粒子を安定化させるために分散剤を添加してもよい。これにより、コロイド溶液におけるAg微粒子の分散性が向上し、Ag微粒子の会合が抑制されるので、このコロイド溶液を塗布して形成されるAg微粒子層6内のAg微粒子7は適切な粒径を維持することができ、Ag微粒子7の粗大化による変換効率の増強特性の低下を防止できる。この場合、分散剤には、Ag微粒子の表面に吸着して粒子間の静電反発力を増大させるものや、界面活性剤などを用いることができる。
【0044】
Ag微粒子を含むコロイド溶液は、例えば、硝酸銀水溶液を沸騰させ、該硝酸銀水溶液にクエン酸-3-ナトリウムを添加することで得られる。ここでのクエン酸-3-ナトリウムは、Ag微粒子の析出させる還元剤、析出したAg微粒子の安定化させる分散剤、Ag微粒子の溶媒(水)への可溶化の促進する粒子可溶化剤という三つの役割を兼ねている。すなわち、クエン酸-3-ナトリウムは、クエン酸の水酸基(−OH)によって銀イオンを還元してAg微粒子の析出させるとともに、析出したAg微粒子の表面にカルボキシル基(−COONa)を外側に向けて吸着し、静電反発作用によってAg微粒子を安定化し、さらに、カルボキシル基の高い親水性によってAg微粒子の水への可溶化を促進する。
なお、有機溶媒にAg微粒子が分散したコロイド溶液を作製する場合、クエン酸等の還元剤によって析出したAg微粒子を安定化するために、アルキルアミン(例えば、オクチルアミン)を分散剤として用いてもよい。
【0045】
コロイド溶液に含まれるAg微粒子7は、平均粒子径が10nm以上1μm以下であってもよく、例えば平均粒子径が50〜100nmのものを用いることができる。
また、Ag微粒子7が反射防止膜4の表面に占める割合(表面被覆率)は、30%以上80%以下60%以上80%以下であることが好ましい。(→サンプル1が27%、サンプル3が81%だったので、好ましい範囲を広げました。)Ag微粒子7の表面被覆率を30%以上にすることで、Ag微粒子7に特有の上記現象によって変換効率を効果的に向上させることができる。また、Ag微粒子7の表面被覆率を80%以下にすることで、Ag微粒子層6がフィルタとして働き、光電変換層2に到達する光量が減少してしまうことを抑制できる。なお、Ag微粒子7の表面被覆率は、Ag微粒子層6がAg微粒子7の単粒子膜となるように調節されることが好ましい。
【0046】
コロイド溶液の反射防止膜4上への塗布は、スプレー法、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、ロールコート法等の任意の手法で行うことができる。このうち、スプレー法及びスピンコート法は、大面積のAg微粒子層6を短時間で形成することができ、製造コストを低減できる。なかでも、スプレー法は、コロイド溶液の溶媒量を少なくしても、Ag微粒子7を会合させずに反射防止膜4上に付与できるから、溶媒の乾燥時間を短縮することができる。また、スプレー法の場合、重ね塗りにより、Ag微粒子7が反射防止膜4の表面に占める割合(表面被覆率)を容易に調節できる。
【0047】
また、Ag微粒子7の脱落を防止するために、Ag微粒子層6の表面をラミネートコートしたり、Ag微粒子層6のAg微粒子7間をバインダで結合して反射防止膜4上に固定化したりしてもよい。なお、Ag微粒子7間をバインダで結合する場合、Ag微粒子を含むコロイド溶液に有機高分子を添加し、このコロイド溶液を反射防止膜4上に塗布してもよい。
【0048】
さらに、反射防止膜4上におけるAg微粒子7の会合を抑制する目的で、Ag微粒子層6におけるAg微粒子7の粒子間に誘電体微粒子や有機構分子を介在させてもよい。これにより、Ag微粒子層6内のAg微粒子7の会合が反射防止膜4上で徐々に進行してAg微粒子7が経時的に変化(粗大化)することを防止できる。よって、Ag微粒子7の粗大化による変換効率の増強特性の低下を、製品の製造直後のみならず、製品の製造後、長期に亘って防止しうる。
粒子間に誘電体微粒子を介在させる場合、Ag微粒子を含むコロイド溶液に誘電体粒子を添加し、このコロイド溶液を反射防止膜4上に塗布してもよい。同様に、粒子間に有機高分子を介在させる場合、Ag微粒子を含むコロイド溶液に有機高分子を添加し、このコロイド溶液を反射防止膜4上に塗布してもよい。なお、ここでの有効高分子は、Ag微粒子7間を結合するバインダであってもよい。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係るフォトダイオード1は、光電変換層2と、光電変換層2を覆う反射防止膜4と、反射防止膜4の上にAg微粒子7を含むコロイド溶液を塗布して形成されるAg微粒子層6とを備える。
【0050】
詳細は後述するが、本発明者らの実験結果から、光電変換装置の反射防止膜上に形成したAg微粒子層は、局在表面プラズモン電場の影響が及ぶと考えられてきた範囲を超えたところに光電変換層が存在するにもかかわらず、変換効率を大幅に向上させるという知見が得られた。
上記フォトダイオード1は、本発明者らによるこの知見に基づくものであり、反射防止膜4上にAg微粒子層6を形成したので、変換効率を大幅に向上させることができる。
また、コロイド溶液の塗布によってAg微粒子層6を形成するので、真空設備が不要であり、製造コストを削減できる。さらに、既存のプロセスラインにAg微粒子層6を形成する工程を追加すれば足り、既存のプロセスラインの大幅な変更を要しない。
【0051】
[第2実施形態]
図2は、第2実施形態に係るフォトダイオードの構成例を示す断面図である。同図に示すフォトダイオード10は、Ag微粒子層6を構成するAg微粒子7の表面に蛍光色素が吸着している点を除けば、第1実施形態のフォトダイオード1と同一である。したがって、ここではフォトダイオード1と共通する箇所には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0052】
蛍光色素12は、例えば、ポルフィリン、フタロシアニン、シアニン、クマリン等を用いることができ、これらの少なくとも一つを含んでいてもよい。
蛍光色素12をAg微粒子7の表面に吸着させるには、蛍光色素12を含む溶液をスピンコートやディップコート等の任意の手法で塗布してもよい。この場合、蛍光色素12を含む溶液を反射防止膜4上に塗布した後、Ag微粒子7を含むコロイド溶液をその上に塗布してもよい。あるいは、Ag微粒子7を含むコロイド溶液を反射防止膜4上に塗布した後、蛍光色素12を含む溶液をその上に塗布してもよい。なお、図2には蛍光色素12を含む溶液を反射防止膜4上に塗布した後にAg微粒子7を含むコロイド溶液を塗布した例を示した。
【0053】
蛍光色素は、紫外領域等の短波長の光によって電子が励起され、これが基底状態に戻る際に長波長の光を放出する。この蛍光色素を光電変換装置に組み込めば、光電変換層によって吸収されにくい短波長の光を長波長の光に変換して、光電変換層の正味の応答波長領域を短波長側まで広げることができる。
そして、Ag微粒子7の表面に蛍光色素12を吸着させると、Ag微粒子7の局在表面プラズモン電場によって蛍光色素12の励起が促進され、蛍光色素12による光電変換層2の応答波長領域の拡大効果が倍増し、変換効率がより一層向上する。なお、ここでのAg微粒子7は、本発明者らによる実験結果から明らかになったAg微粒子に特有の上記現象によって自らが変換効率の向上に直接的に寄与するとともに、局在表面プラズモン電場によって蛍光色素12を助けて光電変換層2の応答波長領域を大幅に拡大させることでも、変換効率の向上に間接的に寄与している。
【0054】
[第3実施形態]
第3実施形態では、光電変換装置がバルクへテロ型の有機薄膜太陽電池である例について説明する。図3は、有機薄膜太陽電池の構成例を示す断面図である。同図に示す有機薄膜太陽電池20は、表面電極22A及び裏面電極22B、p型導電性高分子24中に金属ナノ粒子26が包埋されたホール輸送層23、並びに光電変換層28を有する。
【0055】
表面電極22Aは透明電極であり、例えば、In−Zn−O(IZO)、In−Sn−O(ITO)、ZnO−Al、Zn−Sn−O等の透明薄膜を透明基板上に成膜したものを用いることができる。一方、裏面電極22Bは、仕事関数が比較的小さい材料で構成されることが好ましく、例えば、Li,In,Al,Ca,Mg,Sm,Tb,Yb,Zr,LiF等を用いてもよい。なお、裏面電極22Bと光電変換層28との間に電子輸送層を設けてもよい。
【0056】
ホール輸送層23は、金属ナノ粒子26及びp型導電性高分子24を含むコロイド溶液を表面電極(透明電極)22A上に塗布して形成される。
【0057】
金属ナノ粒子26及びp型導電性高分子24を含むコロイド溶液は、金属イオンを含む液体に還元剤を添加して、金属ナノ粒子26を析出させた後、p型導電性高分子24をこの液体に分散させてもよい。
金属イオンを還元する還元剤には、クエン酸、クエン酸ダイマー及びクエン酸オリゴマー等を用いることができる。
また、析出した金属ナノ粒子26を安定化させるために分散剤を添加してもよい。これにより、コロイド溶液における金属ナノ粒子26の分散性が向上するので、このコロイド溶液を塗布して形成されるホール輸送層23における金属ナノ粒子26の会合も抑制される。よって、金属ナノ粒子26の粒子径が会合によって過剰となることを防止し、適切な粒子径の金属ナノ粒子26の局在電場プラズモンにより光電変換層28内の電子供与体の励起を効率的に促進できる。なお、還元剤として用いることができるクエン酸、クエン酸ダイマー及びクエン酸オリゴマー等は、金属ナノ粒子26の分散剤としての働きも兼ね備える。
【0058】
金属ナノ粒子26は、局在表面プラズモン電場を発生させるものであれば特に限定されないが、例えば、Au,Ag,Pt及びPdや、これらの金属の混合物や、これらの金属を含む合金を用いることができる。なかでも、Au及びAgは、強力な局在表面プラズモン電場を形成しうる金属材料であるため、金属ナノ粒子26として好適である。
一方、p型導電性高分子24は、例えば、PEDOT(ポリエチレンオキシチオフェン)、TPD(トリフェニルジアミン)、PSS(ポリスチレンスルフォン酸)、PEDOT:PSS(PEDOTとPSSとを共存させたポリマーコンプレックス)等を用いることができる。
【0059】
金属ナノ粒子26及びp型導電性高分子24を含むコロイド溶液の表面電極22A上への塗布は、スプレー法、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、ロールコート法等の任意の手法で行うことができる。このうち、スプレー法及びスピンコート法は、大面積のホール輸送層23を短時間で形成することができ、製造コストを低減できる。
また、スプレー法は、コロイド溶液の溶媒量を少なくしても、金属ナノ粒子26を会合させずに表面電極22A上に付与できるから、溶媒の乾燥時間を短縮することができる。また、スプレー法の場合、重ね塗りにより、金属ナノ粒子26が表面電極22Aの表面に占める割合(表面被覆率)を容易に調節できる。
これに対し、スピンコート法は、ホール輸送層を塗布するために一般的に用いられる方法であり、既存のプロセスを最大限に利用して、金属ナノ粒子26を内部に有するホール輸送層23を形成できる。
【0060】
光電変換層28は、p型有機半導体およびn型有機半導体の混合物からなる。光電変換層28に用いるp型有機半導体は、例えば、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)のようなポリチオフェン誘導体や、ポリ−2−メトキシ−5−(3’7’−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン(MDMO−PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン誘導体や、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)(PFO)のようなポリフルオレン誘導体などの可視光域に光吸収領域を有する共役高分子を用いることができる。一方、光電変換層28に用いるn型有機半導体は、例えば、[6,6]−フェニル−C61ブチルカルボン酸メチルエステル(PCBM)のようなフラーレン誘導体や、ペリレン誘導体などを挙げることができる。
【0061】
本実施形態では、金属ナノ粒子26の平均粒径(直径)dと、金属ナノ粒子26が存在しない場所におけるホール輸送層23の膜厚tとの間に、t<d≦100nmの関係が成立している。すなわち、ホール輸送層23は、金属ナノ粒子26の存在する部分が他の部分に比べて盛り上がっている。
【0062】
また、ホール輸送層23における金属ナノ粒子26が表面電極(透明電極)22Aに占める割合である表面被覆率は1%以上90%以下の範囲内であることが好ましく、60%以上90%以下の範囲であることがさらに好ましい。
金属ナノ粒子26の表面被覆率を1%以上にすることで、局在表面プラズモン電場による電子供与体の励起が促進され、変換効率が効果的に向上する。なかでも、金属ナノ粒子26の被覆率が60%以上の場合、金属ナノ粒子26間で表面プラズモンが面方向(すなわち、ホール輸送層23の面方向)に伝播する(いわゆる、表面プラズモンポラリトン効果)から、金属ナノ粒子26におけるキャリアの再結合に比べて金属ナノ粒子26の表面プラズモンによる光電変換層28内の電子供与体の励起を促進する効果が大きくなり、変換効率をより一層向上させることができる。
一方、金属ナノ粒子26の表面被覆率を90%以下にすることで、金属ナノ粒子26がフィルタとして働き、光電変換層28に到達する光量が減少してしまうことを抑制できる。
なお、金属ナノ粒子26の表面被覆率は、金属ナノ粒子26の単粒子膜がホール輸送層23内に形成されるように調節することが好ましい。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の有機薄膜太陽電池20は、表面電極(透明電極)22Aと、金属ナノ粒子26及びp型導電性高分子24を含むコロイド溶液を表面電極22A上に塗布して形成されるホール輸送層23と、ホール輸送層23上に形成された光電変換層28とを備える。また、金属ナノ粒子26の平均粒径dと、金属ナノ粒子26が存在しない場所における前記ホール輸送層の膜厚tとの間に、t<d≦100nmの関係が成立する。
【0064】
有機薄膜太陽電池20では、金属ナノ粒子26及びp型導電性高分子24を含むコロイド溶液の塗布によりホール輸送層23を形成するようにしたので、金属ナノ粒子26はp型導電性高分子24に覆われることになる。このため、金属ナノ粒子26が光電変換層28に露出していないので、金属ナノ粒子26におけるキャリアの再結合が抑制される。
また、金属ナノ粒子26がp型導電性高分子24に覆われるので、ホール輸送層23上に光電変換層28を形成する際の影響により、金属ナノ粒子26が会合することを防止できる。よって、金属ナノ粒子26の粒径が会合によって過剰に大きくなることがないので、局在表面プラズモン電場による電子供与体の励起促進効果が確実に得られる。
さらに、金属ナノ粒子26の平均粒径dがホール輸送層23の膜厚tよりも大きいことから、金属ナノ粒子26が存在する部分だけホール輸送層23が盛り上がっている。この部分では、金属ナノ粒子26を覆うp型導電性高分子24の膜表面が表面張力によって平坦になろうとするから、金属ナノ粒子26が存在する部分におけるp型導電性高分子24の膜厚が薄くなる。よって、金属ナノ粒子26が完全にホール輸送層23に埋まっている場合に比べて、金属ナノ粒子26と光電変換層28中の電子供与体(pn接合面におけるp型半導体)との距離が小さくなり、金属ナノ粒子26の局在表面プラズモン電場によって電子供与体の励起がより一層促進され、変換効率が大幅に向上する。
【0065】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。
【0066】
例えば、上述の実施形態では、光電変換装置がフォトダイオード又は有機薄膜太陽電池からなる例について説明したが、本発明は、受け取った光を電流に変換する光電変換層を備えた、あらゆる種類の光電変換装置(フォトダイオード、太陽電池、撮像素子等)に適用できることは言うまでもない。
【0067】
[実施例1]
上述の第1実施形態に係るフォトダイオード1の変換効率を評価するために、以下のようなサンプルを作製して光電流を測定する実験を行った。
最初に、200mlの硝酸銀水溶液を沸騰させ、該硝酸銀水溶液にクエン酸-3-ナトリウムを4ml添加し、Ag微粒子を含むコロイド溶液を得た。Ag微粒子の粒子径を、日立社製透過型電子顕微鏡H-8100で測定したところ、平均粒径が約50nmであった。また、コロイド溶液中におけるAg微粒子の体積分率は、反応条件と平均粒径から算出したところ、0.0011%であった。
【0068】
このようにして得られたコロイド溶液1μLを、浜松ホトニクス株式会社製Siフォトダイオード(S2386−18K)の反射防止膜上に滴下し、サンプル1を作製した。同様に、コロイド溶液の滴下量を2μL,3μL,4μLとしたサンプル2〜4を作製した。作製したサンプル1〜4について、反射防止膜の表面に対するAg微粒子の被覆率を計算したところ、サンプル1が27%、サンプル2が54%、サンプル3が81%、サンプル4が108%であった。
なお、Siフォトダイオードの反射防止膜は、黒色であり、可視領域の光を干渉させるものである。可視領域の光を干渉させるためには、可視領域の光の波長の1/4程度は必要である。よって、Siフォトダイオードの反射防止膜は、その外観からすれば、少なくとも100nmの膜厚を有すると推察される。また、Siフォトダイオードのpn接合面は反射防止膜の下面からさらに深い位置に存在する。よって、サンプル1〜4において、Ag微粒子と電子供与体(pn接合面近傍のp型半導体)との距離は、少なくとも100nmはあるはずである。
【0069】
この後、作製したサンプル1〜4のそれぞれについて光電流を測定し、コロイド溶液を滴下しなかったSiフォトダイオードの光電流に対する比(光電流増強比)を求めた。
【0070】
図4は、サンプル1〜4の光電流増強比を示すグラフである。なお、このグラフには、Ag微粒子の吸収スペクトルも併せて示した。
図4から分かるように、サンプル1〜3の場合、400〜1000nmの波長領域において光電流が約1.2倍以上に増強されている。また、サンプル4の場合にも、サンプル1〜3ほどではないが、700〜1000nmの波長領域において光電流増強されている。また、被覆率が54%であったサンプル2が最も光電流増強比が大きかった。
【0071】
Ag微粒子をAu微粒子(平均粒径50nm)に替えて、同様の手順で、Siフォトダイオード上にコロイド溶液を滴下してサンプル5〜8を作製した。なお、サンプル5〜8のコロイド溶液の滴下量は、それぞれ、1μL、2μL、3μL、4μLである。
このようにして得られたサンプル5〜8のそれぞれについて光電流を測定し、コロイド溶液を滴下しなかったSiフォトダイオードの光電流に対する比(光電流増強比)を求めた。
【0072】
図5は、サンプル5〜8の光電流増強比を示すグラフである。なお、このグラフにはAg微粒子の吸収スペクトルも併せて示した。図5から、サンプル5〜8のいずれも、Auナノ粒子のプラズモン吸収帯に相当する波長域において、光電流が顕著に低下することが分かった。
【0073】
Ag微粒子をSiフォトダイオードの反射防止膜上に付与したサンプル1〜4では、Siフォトダイオードの反射防止膜が100nmであり、光電変換層内のpn接合面はさらに100nm(以上)の深さに位置しているから、Ag微粒子とpn接合面との間の距離は約200nm程度である。この距離は、局在表面プラズモン電場の影響が及ぶと考えられてきた範囲を明らかに超えている。にもかかわらず、サンプル1〜4では、Ag微粒子による光電流の増強がみられた。この実験結果は、局在表面プラズモン電場のみによって合理的に説明できない現象である。
一方、Ag微粒子に替えてAu微粒子を反射防止膜上に付与したサンプル5〜8では、光電流が増強されるどころか、逆に減少してしまった。ここで、Au微粒子は、Ag微粒子とともに、光照射によって局在表面プラズモン共鳴を生じる代表的な材料として知られている。よって、反射防止膜上に付与されると光電流を増強する現象は、金属微粒子に普遍的にみられる現象ではなく、Ag微粒子に特有の現象である。
なお、本発明者らは、このAg微粒子に特有の現象が、Au微粒子に比べて著しく大きいAg微粒子の散乱強度が何らかの形で寄与しているものと推察している。
【0074】
[実施例2]
上述の第2実施形態に係るフォトダイオード10の変換効率を評価するために、以下のようなサンプルを作製して光電流を測定する実験を行った。
浜松ホトニクス株式会社製Siフォトダイオード(S2386−18K)の反射防止膜(膜厚は少なくとも100nmと推察される。)上に、蛍光色素を含む溶液を滴下した。すなわち、蛍光色素であるテトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トルエンスルホナートのメタノール溶液にSiフォトダイオードの光電面を浸した後、速やかに取り出し、乾燥させた。
Ag微粒子を含むコロイド溶液は、実施例1と同様にして得た。このコロイド溶液1μlを、上記の色素を吸着させたフォトダイオードの光電面表面に滴下してサンプル9を作製した。
このようにして得られたサンプル9について光電流を測定し、コロイド溶液を滴下せずにテトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トルエンスルホナートのみを反射防止膜上に吸着させたSiフォトダイオードの光電流に対する比(光電流増強比)を求めた。
【0075】
図6は、サンプル9の光電流増強比を示すグラフである。なお、このグラフにはコロイド溶液を滴下せずにテトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トルエンスルホナートのみを吸着したガラスの光吸収スペクトルも併せて示した。
図6から、テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トルエンスルホナートを反射防止膜上に付与し、さらにその表面にAg微粒子を吸着させたサンプル9では、テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トルエンスルホナートのみを反射防止膜上に吸着させたSiフォトダイオードの光吸収帯に対応する波長域(400〜450nm)において、約1.1倍の光電流増強比が得られた。
【0076】
テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トルエンスルホナートのような蛍光色素は、紫外領域等の短波長の光によって電子が励起され、これが基底状態に戻る際に長波長の光を放出する。この蛍光色素を光電変換装置に組み込めば、光電変換層によって吸収されにくい短波長の光を長波長の光に変換して、光電変換層の正味の応答波長領域を短波長側まで広げることができる。
サンプル9は、このような蛍光色素(テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トルエンスルホナート)を反射防止膜上に吸着させたSiフォトダイオードに対して、紫外領域に近い短波長側の波長域において、さらに約1.1倍の光電流増強比が得られるのであるから、蛍光色素及びAg微粒子が付与されていないSiフォトダイオードに比べると変換効率は大幅に向上する。
なお、サンプル9において、紫外領域に近い短波長側の波長域において約1.1倍の光電流増強比が得られたのは、Ag微粒子の表面に蛍光色素(テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トルエンスルホナート)を吸着させたことにより、Ag微粒子の局在表面プラズモン電場によって蛍光色素(テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トルエンスルホナート)の励起が促進され、蛍光色素(テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トルエンスルホナート)による光電変換層の応答波長領域の拡大効果が倍増したためと考えられる。
【0077】
[実施例3]
上述の第3実施形態に係る有機薄膜太陽電池20の変換効率を評価するために、以下のようなサンプルを作製して光電流を測定する実験を行った。
Agナノ粒子のコロイド溶液を、実施例1と同様の手法で作製した。このコロイド溶液を10倍に濃縮し、p型導電性高分子であるPEDOT:PSSの水溶液に対して20重量%の割合で添加した。このコロイド溶液を透明電極上に3ml滴下し、さらにその上にPCBM及びP3HTの混合溶液をスピンコートで塗布して、光電変換層を形成した。最後に、真空蒸着により表層にアルミニウム電極を形成して、サンプルを得た。
なお、このサンプルにおける透明電極の表面に対するAgナノ粒子の被覆率を算出したところ、70%であった。また、このサンプルにおいて、金属ナノ粒子の平均粒径dは50nmであり、金属ナノ粒子の存在しない場所におけるホール輸送層の膜厚tは40nmであった。
【0078】
図7は、このようにして得られたサンプルのIPCEの測定結果を示すグラフである。なお、このグラフには、比較例としてAgナノ粒子を含まないサンプルのIPCEを併せて示した。
図7から、Agナノ粒子をホール輸送層中に埋設することで、IPCEが約1.15倍に向上することが分かった。
【符号の説明】
【0079】
1 フォトダイオード
2 光電変換層
2A n型半導体
2B p型半導体
3 pn接合面
4 反射防止膜
6 Ag微粒子層
7 Ag微粒子
8A 表面電極
8B 裏面電極
10 フォトダイオード
12 蛍光色素
20 有機薄膜太陽電池
22A 表面電極
22B 裏面電極
23 ホール輸送層
24 p型導電性高分子
26 金属ナノ粒子
28 光電変換層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換層と、
前記光電変換層を覆う反射防止膜と、
前記反射防止膜の上にAg微粒子を含むコロイド溶液を塗布して形成されるAg微粒子層とを備えることを特徴とする光電変換装置。
【請求項2】
前記Ag微粒子の表面に蛍光色素が吸着してなる請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記蛍光色素が、ポルフィリン、フタロシアニン、シアニン及びクマリンの少なくとも一つを含む請求項2に記載の光電変換装置。
【請求項4】
前記コロイド溶液において、前記Ag微粒子は分散剤により安定化されている請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項5】
前記Ag微粒子層の表面をラミネートコートしてなる請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項6】
前記コロイド溶液が誘電体粒子を含み、
前記Ag微粒子層において、前記Ag微粒子の間に前記誘電体粒子が介在し、前記Ag微粒子の会合が抑制された請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項7】
前記コロイド溶液は有機高分子を含み、
前記Ag微粒子層において、前記Ag微粒子は前記有機高分子をバインダとして前記反射防止膜上に固定化されている請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項8】
透明電極と、
金属ナノ粒子及びp型導電性高分子を含むコロイド溶液を前記透明電極上に塗布して形成されるホール輸送層と、
前記ホール輸送層上に形成された光電変換層とを備え、
前記金属ナノ粒子の平均粒径dと、前記金属ナノ粒子が存在しない場所における前記ホール輸送層の膜厚tとの間に、t<d≦100nmの関係が成立することを特徴とする光電変換装置。
【請求項9】
前記p型導電性高分子がPEDOT:PSSである請求項8に記載の光電変換装置。
【請求項10】
前記ホール輸送層における前記金属ナノ粒子が前記透明電極の表面に占める割合である表面被覆率が60%以上である請求項8又は9に記載の光電変換装置。
【請求項11】
光電変換層を形成する工程と、
前記光電変換層を覆う反射防止膜を形成する工程と、
前記反射防止膜の上にAg微粒子を含むコロイド溶液を塗布して、Ag微粒子層を形成する工程とを備えることを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項12】
前記Ag微粒子層を形成する工程では、前記コロイド溶液をスプレー法又はスピンコート法により塗布する請求項11に記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項13】
金属ナノ粒子及びp型導電性高分子を含むコロイド溶液を透明電極上に塗布して、ホール輸送層を形成する工程と、
前記ホール輸送層上に光電変換層を形成する工程とを備え、
前記金属ナノ粒子の平均粒径dと、前記金属ナノ粒子が存在しない場所における前記ホール輸送層の膜厚tとの間に、t<d≦100nmの関係が成立することを特徴とする光電変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−124290(P2012−124290A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273025(P2010−273025)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援事業(A−STEP)[フィージビリティスタディ可能性発掘タイプ(起業検証)]、「高効率太陽電池の実現を加速するプラズモニック金属ナノ構造の創製」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(596134367)財団法人九州先端科学技術研究所 (12)
【出願人】(506158197)公立大学法人 滋賀県立大学 (29)
【Fターム(参考)】