説明

光電子増倍管の信号処理回路および信号処理システム

【課題】シンプルな回路構成でダイナミックレンジを拡大し得る光電子増倍管の信号処理回路や信号処理システムを提供する。
【解決手段】信号処理回路20では、オペアンプOp、トランジスタQ15、抵抗R11,R13等によりカレントミラー回路を構成することで、光電子増倍管11のアノード電流Iaに等しい電流ILをログアンプLgに入力し、このログアンプLgにより、トランジスタQ15から線形特性で出力される電流ILを対数特性をもつ信号電圧Vout に変換して出力する。これにより、光電子増倍管11のアノード電流Iaに対応した信号電圧Vout がログアンプLgから対数特性で出力されるので、線形特性のままこのような電圧が出力される場合に比べて、対数変換されて圧縮されるぶん、ダイナミックレンジを拡大できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電子増倍管(PhotoMultiplier Tube;PMT)に接続される光電子増倍管の信号処理回路および信号処理システムに関し、例えば、X線回折の強度測定装置やイメージングプレート(Imaging Plate;IP)の信号処理装置に好適な信号処理回路および信号処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イメージングプレートは、揮尽発光現象を示す特殊な蛍光体をプラスチック板等の担持体に塗布したもので、放射線画像センサの一種である。なお、揮尽発光(Photo-Stimulated Luminesence;PSL)とは、物質に放射線等の第1の刺激を与えた後、第2の刺激を励起光(第2の光)としてその物質に照射したときに、第2の光よりも波長が短くかつ最初の刺激に対応した第3の光を発する発光現象のことをいう。
【0003】
このようなイメージングプレートは、従来のX線フィルムに比べて高感度で桁違いに広い5桁以上のダイナミックレンジを持っていることから、二次元X線検出器として用いられている。このように広いダイナミックレンジは、例えば、光電子増倍管のアノード電流として表すと、数nA〜数100μAの範囲となることから、広範囲で変化する電流をそのまま電圧変換してリニアアンプで増幅をしようとしても、アンプの電源電圧が一般に高くても10V前後であることを考慮すると100μV前後の信号から10Vまでの信号をリニアティを保って増幅するというのは現実には困難であることがわかる。このため、このような広いダイナミックレンジを複数に分割してそれぞれのレンジに対応して光電子増倍管やリニアアンプを複数設けることによって、広範なダイナミックレンジのほぼ全域をカバーする技術が提案されていた。
【0004】
ところが、このような技術では、光電子増倍管やリニアアンプをそれぞれ複数系統持つ必要があることから製品コストの上昇を招いてしまう。このため、本願発明者は、下記特許文献1に開示される「光電子増倍管信号処理装置及びそれを用いたイメージングプレート信号処理装置」を提案して、1本の光電子増倍管で広いダイナミックレンジをカバーすることできるようにした。
【特許文献1】特開2005−276488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示される技術では、光電子増倍管のアノードとダイノードの双方から出力される出力信号を測定することにより、1本の光電子増倍管でダイナミックレンジの拡大を可能にしたが、アノードとダイノードから信号がそれぞれ出力されるため、信号処理回路ではやはり2系統の出力信号をそれぞれ処理する必要がある。このため、このような信号処理回路を構成する機能要素(例えば、信号分別回路、積分回路やA/D変換回路等)がそれぞれの系統ごとに必要となる結果、光電子増倍管の周辺回路の複雑化や製品コストの上昇を招いてしまうという新たなる問題が生じるに至った。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、シンプルな回路構成でダイナミックレンジを拡大し得る光電子増倍管の信号処理回路や信号処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載の請求項1記載の手段を採用する。この手段によると、オペアンプにより、アノードに流れるアノード電流に応じた電圧が入力される非反転入力と反転入力との電位差を所定のゲインで増幅して出力電圧として出力し、電界効果トランジスタにより、オペアンプの反転入力に接続された入力側から出力側に流れる電流値を、オペアンプの出力に接続される制御ゲートに印加される電圧により制御し、ログコンバータにより、電界効果トランジスタから線形特性で出力される電流を対数特性をもつ電流または電圧による電気信号に変換して出力する。そして、オペアンプおよび電界効果トランジスタは、非反転入力に入力される電圧に応じた電流と等しい電流が電界効果トランジスタから出力されるカレントミラー回路を構成する。
【0008】
また、特許請求の範囲に記載の請求項2記載の手段を採用する。この手段によると、アノード電流に所定のバイアス電流を加えるバイアス回路を備え、オペアンプの非反転入力には、所定のバイアス電流にアノード電流を加えた電流に応じた電圧が入力されて、電界効果トランジスタからは、所定のバイアス電流にアノード電流を加えた電流と等しい電流が出力される。
【0009】
さらに、特許請求の範囲に記載の請求項3記載の手段を採用する。この手段によると、制御装置により、レーザ光の照射ビーム幅よりも狭い距離を移動単位として相対移動を間欠して行うようにアクチュエータを制御するとともに相対移動している間にレーザ光の照射を行い相対移動していない間にレーザ光の照射を休止するようにレーザ光源を制御し、ピークホルダにより、制御装置によるレーザ光の照射期間に信号処理回路のログコンバータから出力される電気信号の最大値を保持し、A/Dコンバータによって、ピークホルダにより保持されたアナログの電気信号をレーザ光の休止期間にデジタルデータに変換し、コンピュータにより、A/Dコンバータから出力されるデジタルデータに基づいてイメージングプレートに蓄積されていた画像情報を処理する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明では、カレントミラー回路を構成するので、非反転入力に入力される電圧に応じた電流であるアノード電流と等しい電流が電界効果トランジスタから出力されて、この電流は、ログコンバータにより対数特性をもつ電気信号に変換して出力される。つまり、光電子増倍管のアノード電流がログコンバータから対数特性で出力されるので、線形特性のまま出力される場合に比べて、対数変換されるぶん、ダイナミックレンジを拡大することができる。
【0011】
例えば、光電子増倍管のアノード電流が、数nA〜数100μAの範囲で変化する場合でも、変動幅が1桁または2桁で収まる電気信号(電流または電圧)に変換できる。したがって、このように圧縮された電気信号を信号処理(例えばA/Dコンバータによるデジタル変換)することで、光電子増倍管のアノードとダイノードの双方からの出力を信号処理する場合に比べ、シンプルな回路構成でダイナミックレンジを拡大することができる。
【0012】
請求項2の発明では、所定のバイアス電流にアノード電流を加えた電流と等しい電流が出力されるので、バイアス電流を加えたぶん、オペアンプによる差動増幅等の信号処理特性を向上することができる。したがって、オペアンプおよび電界効果トランジスタにより構成されるカレントミラー回路の特性を向上して、非反転入力に入力される電圧に応じた電流に、電界効果トランジスタから出力される電流をより近づけることができる。
【0013】
請求項3の発明では、アクチュエータは、レーザ光の照射ビーム幅よりも狭い距離を移動単位として、イメージングプレートおよびレーザ光源の少なくとも一方をイメージングプレートの所定の範囲または全部の範囲をレーザ光が走査可能に相対移動させ、レーザ光源は、アクチュエータによる相対移動のある間にレーザ光の照射を行い相対移動のない間はレーザ光の照射を休止する。つまり、レーザ光は、イメージングプレートおよびレーザ光源の相対移動に同期して間欠的に照射されているため、このような相対移動の有無にかかわらず非同期に(または連続して)照射される場合に比べて、無駄なレーザ照射を防止するとともにイメージングプレートに記録された信号成分が不要なレーザ照射によって損失することを抑制することができる。
【0014】
また、ピークホルダは、制御装置によるレーザ光の照射期間に信号処理回路のログコンバータから出力される電気信号の最大値を保持し、A/Dコンバータによって、ピークホルダにより保持されたアナログの電気信号をレーザ光の休止期間にデジタルデータに変換する。つまり、イメージングプレートおよびレーザ光源の相対移動に同期して間欠的に照射される、レーザ光の照射期間にピークホルダが電気信号の最大値を保持し、レーザ光の休止期間にA/Dコンバータがアナログの電気信号をデジタルデータに逐次変換されるので、メモリ等に蓄積してから変換する場合に比べてリアルタイムに高速に変換することができる。
【0015】
さらに、制御装置によるレーザ光の照射期間に信号処理回路のログコンバータから出力される信号電圧の最大値は、光電子増倍管のアノード電流がログコンバータから対数特性で出力されるから、線形特性のままで出力されてピークホルダにより保持される場合に比べA/Dコンバータによる処理対象となる情報量(ビット数)を削減することができる。
【0016】
さらにまた、光電子増倍管から出力された信号を処理するために必要な信号処理系を2系統持つ必要がないばかりか、ログコンバータから出力される電流信号は圧縮されているため、それを電圧変換してA/Dコンバータでデジタル変換しても変換に必要なデータ幅を狭くすることができ(例えば16ビット幅から14ビット幅に狭くできる)、これによってもデータ量を削減することができる。
【0017】
したがって、シンプルな回路構成でダイナミックレンジを拡大することができるほか、イメージングプレートに記録された信号成分が不要なレーザ照射により損失することの抑制、アナログからデジタルへの高速変換、デジタル変換後のデータ量の削減といった種々の技術的は効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の光電子増倍管の信号処理回路および信号処理システムの実施形態について図を参照して説明する。まず、本実施形態に係る光電子増倍管の信号処理システム10(以下、単に「信号処理システム10」という)の構成を図1を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、信号処理システム10は、X線等の放射線によってイメージングプレートIPに既に記録されている情報を読み出し得るもので、主に、光電子増倍管11、レーザ発振器13、X方向ステージ17、Y方向ステージ18、信号処理回路20、ピークホルダ22、A/Dコンバータ24、コンピュータ30、コントローラ42、モータドライバ44、タイミングジェネレータ46、レーザパワーサプライ48等から構成されている。
【0020】
光電子増倍管11は、入射光量に応じて光電子を放出するカソードKと、カソードKの電位よりも高電位かつ所定の電位勾配でそれぞれ異なるダイノード電圧が印加され光電子を増倍する複数のダイノードDy1〜Dy10と、複数のダイノードDy1〜Dy10により増倍された電子を収集するアノードAと、を備えており、後述する揮尽発光の光が入射し得る位置、即ちレザー発振器13によるレーザ光Lの照射位置に向けて固定されている。
【0021】
この光電子増倍管11は、後述する周辺回路によりダイノードDy1〜Dy10に高電圧(ダイノード電圧)が印加され、また信号処理回路20によりアノード電流Iaを検出されるため、図略のソケット付きハウジングに収容されている。なお、8段や9段構成あるいは11段やそれ以上の段数で光電子増倍管を構成しても本実施形態を適用できる。
【0022】
レーザ発振器13は、イメージングプレートIPに記録された情報を順次読み出すため、イメージングプレートIPにレーザ光Lを照射する半導体レーザ発振器で、本実施形態では予め設定された位置にレーザ光Lの焦点が合うように固定されている。本実施形態では、波長670μmのレーザ光Lを実効出力250mWで出力可能(公称出力500mW)に構成されている。
【0023】
このレーザ発振器13は、レーザパワーサプライ48から供給される駆動電力によってこのようなレーザ光Lをパルス状に発するように制御されている。本実施形態では、後述するように、タイミングジェネレータ46のタイミング信号Sync に同期して、円(例えば、直径100μm(FWHM;Full Width Half Maximum,半値全幅のこと))をなすスポット状のレーザビームを間欠的(パルス状)に発する。なお、このレーザ発振器13は、特許請求の範囲に記載の「レーザ光源」に相当し得るものである。
【0024】
なお、本実施形態では、レーザ光Lの光軸上に、レンズ14,15およびフィルタ16が設けられている。これにより、レーザ発振器13から出射されたレーザ光Lは、前述した波長成分かつ所定の焦点距離で、イメージングプレートIPに照射される。なお、イメージングプレートIPは、例えば180mm×120mmの矩形状に形成されている。
【0025】
X方向ステージ17およびY方向ステージ18は、これらに載置されたイメージングプレートIPを二次元方向(イメージングプレートIPの平面方向)に移動可能に構成される駆動機構で、モータドライバ44等より駆動制御される図略のステッピングモータを備えている。本実施形態では、X方向ステージ17は、X方向(一方の方向)に20μS(マイクロ秒)間に距離10μmの移動速度で、またY方向ステージ18は、Y方向(一方の方向に直交する他方の方向)に1mS(ミリ秒)間に距離100μmの移動速度で、それぞれイメージングプレートIPを移動させる。なお、X方向ステージ17およびY方向ステージ18は、特許請求の範囲に記載の「アクチュエータ」に相当し得るものである。
【0026】
信号処理回路20は、光電子増倍管11のカソードKからアノードAに向かって流れるアノード電流Iaを検出しこれに従って線形(比例)に変化する信号電圧Vout に対数変換した後、ピークホルダ22を介してA/Dコンバータ24に出力する機能を有する。
【0027】
ピークホルダ22は、信号処理回路20から出力される信号電圧Vout (アノード電流Iaに従って対数的に変化するアナログ電圧)の最大値Vmax を保持してA/Dコンバータ24に出力する機能を有するものである。なお、ピークホールドのタイミングは、タイミングジェネレータ46から出力されるタイミング信号Sync に同期している。
【0028】
本実施形態では、後述するように、20μSごとにサンプルホールドし得るタイミング信号Sync がタイミングジェネレータ46から入力されている。これにより、この20μS間隔でサンプルホールドされる周期よりも短いパルス幅で入力されるノイズ成分をサンプルホールドしない区間で除去している。なお、20μS間隔は、後述するように、X方向ステージ17やY方向ステージ18が移動する移動単位(10μm)に関連する。
【0029】
A/Dコンバータ24は、ピークホルダ22から出力された信号処理回路20からの信号電圧Vout の最大値(アナログ信号)Vmax をデジタルデータVdat に変換する機能を有するもので、本実施形態では、0V〜+5Vの間で変化するアナログ信号を14ビットデータのデジタルデータVdat に変換する。
【0030】
なお、[背景技術]の欄で言及した特許文献1に開示される信号処理回路では、アノードAとダイノードDyの2系統から出力されるアナログ信号を、それぞれデジタルデータに変換する必要から、このようなピークホルダ22やA/Dコンバータ24を2セット設けざるを得なかったが、本実施形態に係る信号処理システム10では、後述するように、信号処理回路20から出力される電圧信号を1つにしたことからピークホルダ22およびA/Dコンバータ24はいずれも複数設ける必要がない。
【0031】
インタフェース26は、A/Dコンバータ24から出力されるデジタルデータVdat をコンピュータ30の入力インタフェースに適合させる機能を有するもので、例えば、デジタルI/Oインタフェースがこれに相当する。
【0032】
コンピュータ30は、インタフェース26を介して入力されたデジタルデータVdat を画像処理(情報処理)するもので、例えば、パーソナルコンピュータがこれに相当する。本実施形態では、画像処理の例として、後述するようにように、1周期20μSで構成される1ステップごとにA/Dコンバータ24から送られてくる画像データを10データ集めて1ピクセルを構成するように画像処理する。
【0033】
また、このコンピュータ30は、このような画像データに基づいてイメージングプレートIPに記録されている画像を生成する処理を行うほか、コンピュータ30がコントローラ42に対して、モータドライバ44を介してX方向ステージ17およびY方向ステージ18を駆動させる指令Mcmd を出力したり、タイミングジェネレータ46によるタイミング制御を介してレーザパワーサプライ48よりレーザ発振器13からレーザ光Lを所定のタイミングで出射させる指令Tcmd を出力する。
【0034】
具体的には、X方向ステージ17およびY方向ステージ18を駆動させる場合、例えば、所定端側(一端側)に予めセットされたX方向ステージ17およびY方向ステージ18に対して、他端側に所定距離だけ移動する指令Mcmd をコントローラ42にコマンド出力する。
【0035】
例えば、X方向ステージ17に対しては、1ステップ(移動単位)として、10μS間に10μmだけ移動した後、10μS間停止する指令Mcmd をイメージングプレートIPの所定範囲について移動するのに要するステップ分、コントローラ42からX方向ステージ17に繰り返し出力される。これにより、X方向ステージ17は、決められた距離だけ移動速度10μm/20μSで移動する。これに対して、Y方向ステージ18には、X方向ステージ17の移動速度の1/5にあたる移動速度100μm/1mSでほぼ連続的に移動する指令がコントローラ42から出力される。
【0036】
レーザ発振器13からレーザ光Lを出射させる指令Tcmd は、コントローラ42からタイミングジェネレータ46を介してレーザパワーサプライ48に出力される。例えば、コンピュータ30からコントローラ42を介してタイミングジェネレータ46に対しスタート信号が出力されると、タイミングジェネレータ46により、10μSごとに10μS間、レーザパワーサプライ48からレーザ発振器13に駆動電力が供給されるように制御が行われる。
【0037】
X方向ステージ17は、前述したように、レーザ光Lのビーム幅である100μm内においては、1ステップ当たり10μm移動する移動単位を10単位、つまり10ステップ繰り返し行うため、このX方向ステージ17が移動している間をレーザパワーサプライ48からレーザ発振器13に駆動電力が供給されるようにタイミングを同期させることで、図3に示すように、X方向ステージ17の移動期間をレザー発振器13によるレーザ光Lの照射を行う期間(レーザ光Lの照射期間)、X方向ステージ17の停止期間をレザー発振器13によるレーザ光Lの照射を休む期間(レーザ光Lの休止期間)に設定できる。
【0038】
つまり、X方向ステージ17の移動タイミングに合わせてレーザ光Lをパルス状(間欠的)にイメージングプレートIPに向けて照射することができる。これにより、イメージングプレートIPには、間欠的にレーザ光Lが照射される。つまり、レーザ光Lは、イメージングプレートIPおよびレーザ光源13の相対移動に同期して間欠的に照射されているため、このような相対移動の有無にかかわらず非同期に(または連続して)照射される場合に比べて、無駄なレーザ照射を防止するとともにイメージングプレートに記録された信号成分が不要なレーザ照射によって損失することを抑制することができる。
【0039】
また、このように間欠的にレーザ光Lが出射されても、レーザ光L(波長670μm)がイメージングプレートIPに照射されて起きる揮尽発光(例えば波長390μm)は、約10mS間、生じることから、この間に光電子増倍管11により揮尽発光を検出することで、間欠的な照射による弊害はない。さらに、本実施形態では、レーザ光Lの照射ビーム幅100μmの1/10に当たる間隔10μmを移動単位(1ステップ)としていることから、レーザ照射範囲が前後2ステップで必ず重複するため、間欠的にレーザ光Lが照射されても照射漏れが発生しない。
【0040】
また、図3に示すように、レーザ光Lの照射がない10μS間の時間内に、A/Dコンバータ24によるデータ変換処理が行われる。即ち、イメージングプレートIPおよびレーザ光源13の相対移動に同期して間欠的に照射される、レーザ光Lの照射期間にピークホルダ22が信号処理回路20から出力される信号電圧Vout を最大値Vmax を保持し、レーザ光Lの休止期間にA/Dコンバータ24がアナログ電圧(Vmax )をデジタルデータVdat に逐次変換されるので、メモリに蓄積してから変換する場合に比べてリアルタイムに高速に変換することができる。
【0041】
コントローラ42は、マイクロコンピュータ、半導体メモリ等からなる情報処理装置であり、例えば、汎用のワンチップマイコンが用いられる。このコントローラ42は、前述したようなコンピュータ30からの各指令Mcmd ,Tcmd を受けて、モータドライバ44やタイミングジェネレータ46に対し所定の制御信号(スタートパルスPstr 、ストップパルスPstp やリセット信号Prst 等)出力する。なお、このコントローラ42は、特許請求の範囲に記載の「制御装置」に相当し得るものである。
【0042】
モータドライバ44は、コントローラ42から出力される制御信号Pstr 等に従って、前述したX方向ステージ17やY方向ステージ18を駆動する図略のステッピングモータに対して駆動電力を供給可能に構成されている。
【0043】
タイミングジェネレータ46は、コントローラ42からの制御信号を受けて、ピークホルダ22、A/Dコンバータ24やレーザパワーサプライ48に対しタイミング信号Sync を出力する機能を有するもので、本実施形態では、前述したように、20μS周期でオンオフ(10μS間オンの後に10μS間オフ)を繰り返すタイミング信号Sync を生成してこれらに出力している。
【0044】
レーザパワーサプライ48は、レーザ発振器13に対して駆動電力を間欠的に供給し得るもので、本実施形態では、タイミングジェネレータ46から出力されるタイミング信号Sync を受けて10μS間隔で10μSの間、レーザ発振器13に必要な電力を供給する。これにより、前述したように、レーザ発振器13による間欠的(パルス状)なレーザ光Lの出射が可能となる。
【0045】
このように信号処理システム10を構成することによって、レザー発振器13から出射されるレーザ光Lの照射位置(焦点)が1点に固定されていても、X方向ステージ17およびY方向ステージ18によりイメージングプレートIPが二次元空間を満遍なく移動するため、レーザ光LによるイメージングプレートIPの走査、つまりイメージングプレートIPのレーザスキャンが可能になる。
【0046】
これにより、レーザ光LがイメージングプレートIPのほぼ全面をスキャニングすることで、レーザ光Lが励起光として作用すると、イメージングプレートIPが揮尽発光することから、この光を光電子増倍管11が検出することによって、イメージングプレートIPに記録された情報を読み出することが可能となる。
【0047】
なお、例えば、固定されたイメージングプレートIPに対して、X方向ステージ17およびY方向ステージ18により光電子増倍管11やレザー発振器13をイメージングプレートIPの平面方向に可動に構成しても良い。また、イメージングプレートIP、光電子増倍管11およびレザー発振器13を、複数組のX方向ステージ17およびY方向ステージ18によりイメージングプレートIPの平面(X−Y)方向に可動に構成しても良い。
【0048】
次に、光電子増倍管11の周辺回路および信号処理回路20の構成例を図2を参照して説明する。図2に示すように、光電子増倍管11には、周辺回路と信号処理回路20とが接続されている。
【0049】
光電子増倍管11の周辺回路は、光電子増倍管11に対して、そのカソードKの電位よりも高電位かつ所定の電位勾配でそれぞれ異なるダイノード電圧をダイノードDy1〜Dy10に印加可能に構成されている。本実施形態では、例えば、基準電位であるアースGndに対して約1000V低い−HVを電流制限抵抗R0を介して光電子増倍管11のカソードKに印加するとともに、このカソード電位よりも高いダイノード電圧を光電子増倍管11の各ダイノードDy1〜Dy6に印加可能に、直列に接続された抵抗R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7からなるパッシブディバイダ(受動的な抵抗分圧回路)をカソードKとアースGndとの間に介在させている。なお、抵抗R0の−HV側には、不要な高周波ノイズをアースGnd側に逃がすバイパスコンデンサC11が接続されている。
【0050】
即ち、抵抗R1と抵抗(R2+R3+R4+R5+R6+R7)との分圧電位がダイノードDy1に、抵抗(R1+R2)と抵抗(R3+R4+R5+R6+R7)との分圧電位がダイノードDy2に、抵抗(R1+R2+R3)と抵抗(R4+R5+R6+R7)との分圧電位がダイノードDy3に、抵抗(R1+R2+R3+R4)と抵抗(R5+R6+R7)との分圧電位がダイノードDy4に、抵抗(R1+R2+R3+R4+R5)と抵抗(R6+R7)との分圧電位がダイノードDy5に、抵抗(R1+R2+R3+R4+R5+R6)と抵抗R7との分圧電位がダイノードDy6に、それぞれ印加されるように構成されている。なお、抵抗(Rn+Rm)は、抵抗Rnと抵抗Rmとの直列合成抵抗を意味する(以下同じ)。
【0051】
なお、抵抗R1の抵抗値は例えば200kΩに、また抵抗R2〜R6の抵抗値は例えば抵抗R1の1/2である100kΩに、抵抗R7の抵抗値は例えば600kΩに、それぞれ設定されている。また、抵抗R0は数kΩに設定されている。これらの抵抗のうち、抵抗R1〜R5は、光電子増倍管11が収容される図略のソケット付きハウジングに実装されており、他の抵抗R6,R7や後述する信号処理回路20等は、このハウジングとは別に設けられたシールドケース内に実装されている。これにより、光電子増倍管11の周囲温度が変動することに起因する光電子増倍管11の検出感度への影響を抑制している。
【0052】
このようにパッシブディバイダを構成することにより、光電子増倍管11のダイノードDy1〜Dy6には、ほぼ均等な電位勾配で増加するダイノード電圧がそれぞれ印加されることになるが、アノードAからカソードKに流れる電流(アノード電流Ia)の変化に伴って各ダイノードDy1〜Dy10に流れる電流も変化する。このため、このような抵抗R1〜R7等の受動素子からなる受動的な分圧回路では、各ダイノードDy1〜Dy6に印加される分圧(ダイノード電圧)も変動してしまうことから、このようなパッシブディバイダを高電位側のダイノードDy7〜Dy10に適用すると、光電子増倍管11のダイナミックレンジに影響を与える。
【0053】
そこで、本実施形態では、光電子増倍管11のダイノードDy7〜Dy10に対しては、抵抗R15,R16,R17,R18,R19,R20と、NチャネルMOS型FET(以下「MOSトランジスタ」という)Q11,Q12,Q13,Q14と、ダイオードD11,D12,D13,D14と、からなるアクティブディバイダ(能動的な抵抗分圧回路)を構成することによって、アノード電流Iaが変化してもほぼ定電圧を各ダイノードDy7〜Dy10に印加可能にしている。
【0054】
例えば、直列に接続された抵抗R11,R16,R17,R18,R19,R20をカソードKとアースGndとの間に介在させるとともに、高電位側(アースGnd側)から順番にカスケード接続されたMOSトランジスタQ14,Q13,Q12,Q11とMOSトランジスタQ11のソースに接続された抵抗R15とを、直列接続された抵抗R16,R17,R18,R19,R20に対して並列に接続して、ソースフォロア回路を構成するMOSトランジスタQ11〜Q14を介して抵抗R11,R16〜R20による各分圧電位(ダイノード電圧)をダイノードDy7〜Dy10に印加可能に構成する。
【0055】
即ち、MOSトランジスタQ11のソースにはダイノードDy7を接続されるとともに、抵抗(R11+R16)と抵抗(R17+R18+R19+R20)との分圧電位がこのMOSトランジスタQ11のゲートに印加されるようにそれぞれ接続されている。なお、MOSトランジスタQ11のドレインは、MOSトランジスタQ12,Q13,Q14を介してアースGndに接続されており、またソース−ゲート間には、MOSトランジスタQ11を保護するダイオードD11が接続されている。
【0056】
また、MOSトランジスタQ11よりも高電位側に位置するMOSトランジスタQ12のソースには、MOSトランジスタQ11のドレインとダイノードDy8とがそれぞれ接続されるとともに、そのゲートには、抵抗(R11+R16+R17)と抵抗(R18+R19+R20)との分圧電位が印加されるようにそれぞれ接続されている。MOSトランジスタQ12のドレインは、MOSトランジスタQ13,Q14を介してアースGndに接続されており、ソース−ゲート間には、MOSトランジスタQ12を保護するダイオードD12が接続されている。
【0057】
同様に、MOSトランジスタQ12よりも高電位側に位置するMOSトランジスタQ13のソースには、MOSトランジスタQ12のドレインとダイノードDy9とがそれぞれ接続されるとともに、そのゲートには、抵抗(R11+R16+R17+R18)と抵抗(R19+R20)との分圧電位が印加されるようにそれぞれ接続されている。MOSトランジスタQ13のドレインは、MOSトランジスタQ14を介してアースGndに接続されており、ソース−ゲート間には、MOSトランジスタQ13を保護するダイオードD13が接続されている。
【0058】
そして、最高電位側に位置するMOSトランジスタQ14のソースには、MOSトランジスタQ13のドレインとダイノードDy10とがそれぞれ接続されるとともに、そのゲートには、抵抗(R11+R16+R17+R18+R19)と抵抗R20との分圧電位が印加されるようにそれぞれ接続されている。また、MOSトランジスタQ14のドレインはアースGndに直接接続されており、ソース−ゲート間には、当該MOSトランジスタQ14を保護するダイオードD14が接続されている。なお、抵抗R11が接続されたカソードKには、不要な高周波ノイズをアースGnd側に逃がすバイパスコンデンサC12が接続されている。また、抵抗R15,R16にもバイパスコンデンサC13が接続されている。なお、抵抗R11の抵抗値は例えば350kΩに、また抵抗R15〜R20の抵抗値は例えば抵抗R1の1/2である100kΩに、それぞれ設定されている。
【0059】
このようにアクティブディバイダを構成することにより、光電子増倍管11のダイノードDy7〜Dy10には、ほぼ均等な電位勾配で増加するダイノード電圧で、アノード電流Iaが変化してもその影響を受けることなく安定した分圧電位がそれぞれ印加することができる。なお、本実施形態では、光電子増倍管11のアノードA側に近いダイノードのうち、4段について、このようなアクティブディバイダを接続したが、このようなアクティブディバイダを接続するダイノードの段数を3段(ダイノードDy8〜Dy10)に減少させたり、5段(ダイノードDy6〜Dy10)に増加させても良い。
【0060】
このような周辺回路によって所定の電位勾配で増加するダイノード電圧がダイノードDy1〜Dy10に印加されることによって、入射光量に応じてカソードKから放出される光電子がダイノードDy1〜Dy10間の電位差により加速されながら二次電子を次々と叩き出して増倍されてアノードAに到達する。このため、光電子増倍管11のアノード電流Iaは入射光量に比例したものになることから、このアノード電流IaをアノードAに接続される信号処理回路20により検出することで、入射光量、つまりイメージングプレートIPに記録された情報を読み出すことが可能になる。
【0061】
アノードAに接続される信号処理回路20は、抵抗R11,R12からなるバイアス回路と、オペアンプOpと、Pチャネル接合型FET(以下「トランジスタ」という)Q15と、ログアンプLgと、から構成される。この信号処理回路20は、電源ライン(+5V)から供給される駆動電圧によって動作するもので、図2に示す回路図には図示されていないが、オペアンプOpやログアンプLgはいずれもこの電源ライン(+5V)が供給されている。なお、この電源ライン(+5V)には、当該電源ラインに含まれ得るノイズ成分を除去するためのバイパスコンデンサC14が接続されている。
【0062】
バイアス回路は、アノード電流Iaに所定のバイアス電流Ibを加える機能を有するもので、例えば、直列接続された抵抗R11,R12から構成されており、電源(+5V)−アースGnd間に介在している。この抵抗R11と抵抗R12との接続点には、光電子増倍管11のアノードAおよびオペアンプOpの非反転入力(+)がそれぞれ接続されている。
【0063】
本実施形態では、例えば、抵抗R11は20kΩ、抵抗R12は50MΩ、にそれぞれ設定されている。これにより、所定のバイアス電流Ibとして、約100nA(=5/(R11+R12))アノード電流Iaに加えることが可能になるとともに、アノード電流Iaに応じた電圧をオペアンプOpの非反転入力(+)に入力することが可能になる。本実施形態では、アノード電流Iaは、10nA〜100μAを想定していることから、アノード電流Iaとバイアス電流Ibとの和(Ia+Ib)は、約110nA〜約100μAとなる。またオペアンプOpの入力インピーダンスは、抵抗R11,R12に比べて十分に高い(例えば数100MΩ以上)ため、ここではオペアンプOpに流れ込む電流を無視している。
【0064】
オペアンプOpは、アノード電流Iaに応じた電圧が入力される非反転入力(+)と反転入力(−)との電位差を所定のゲインで増幅して出力電圧として出力する機能を有する演算増幅器で、オフセット電圧が例えば0.0025mVといった極めて低いものが用いられる。本実施形態では、例えば、+5V単一電源タイプのAD8033(アナログ・デバイセズ社製)を用いる。このオペアンプOpは、反転入力(−)をトランジスタQ15のドレインD、出力を同トランジスタQ15のゲートG、にそれぞれ接続する。
【0065】
トランジスタQ15は、ドレインDからソースSに流れる電流値をゲートGに印加されるゲート電圧により制御可能な低雑音小信号増幅用のPチャネルJFETで、前述したようにゲートGがオペアンプOpの出力に接続され、ドレインDはオペアンプOpの反転入力(−)に接続されるほか抵抗R13を介して電源(+5V)に接続されている。また、ソースSは、ログアンプLgの入力に接続されている。本実施形態では、トランジスタQ15として、例えば2SJ74が用いられる。
【0066】
これにより、トランジスタQ15の負荷RLに相当するログアンプLgに対して、定電流を供給し得る定電流回路が構成できる。即ち、オペアンプOpの入力電圧として入力される「アノード電流Iaに応じた電圧(=5−R11×(Ia+Ib))」と、抵抗R13に流れる電流ILにより生じる電圧(反転入力電圧)とが等しくなるようにオペアンプOpの出力電圧、つまりトランジスタQ15のゲート電圧(トランジスタQ15の内部抵抗)を当該オペアンプOpが制御する。
【0067】
本実施形態では、例えば、抵抗R13を抵抗R11と同値の20kΩに設定することにより、抵抗R11を流れる電流(Ia+Ib)と抵抗R13を流れる電流ILとが等しくなることから、オペアンプOpの非反転入力(+)に入力される電圧に応じた電流(アノード電流Ia+バイアス電流Ib)と等しい電流ILをトランジスタQ15から出力するカレントミラー回路が構成されることになる。
【0068】
なお、抵抗R13を抵抗R11と同値にすることなく、例えば、抵抗R13の値を抵抗R11の1/2に設定することで抵抗R13には、抵抗R11に流れる電流の2倍相当の電流が流れることから、2倍のゲインを得ることが可能となる。しかし、ゲインが増加したぶん、それに伴って光電子増倍管11を流れる暗電流等により不要なノイズ成分も増幅されるため、後段のログアンプLgによる信号処理に悪影響を与え得るという問題が生じる。このため、本実施形態では、敢えてオペアンプOpのゲイン(所定のゲイン)を「1」に設定して不要なノイズ成分による影響を抑制している。
【0069】
ログアンプLgは、線形入力を対数出力に変換する機能を有するもので、本実施形態では、トランジスタQ15から線形特性で入力される電流ILを対数特性を持つ電流に変換しさらにそれを信号電圧Vout として出力する。このログアンプLgは、入力電流の範囲として、広範なダイナミックレンジを有する仕様に設定されており、例えば、+5V単一電源タイプのAD8304(アナログ・デバイセズ社製)を用いることで、160dB(100pA〜10mA)の範囲で入力される線形電流を対数変換して電圧出力する。
【0070】
このAD8304は、同社のデータシート(日本語版:特性13 対数適合度誤差の分布(平均の両端3σ)、英語版:TPC 13. Logarithmic Conformance ErrorDistribution (3σ to Either Side of Mean)の記載から、ログアンプLgに入力される電流IL(=Ia+Ib)の約110nA〜約100μAの範囲では、誤差が0.2mV/dB以下であることがわかる。
【0071】
なお、本実施形態では、ログアンプLgによって、トランジスタQ15から線形特性で入力される電流ILを、対数特性を持つ信号電圧Vout に変換して出力しているが、電圧で出力することなく、対数特性を持つ電流として出力しそれを抵抗等で信号電圧Vout に変換して出力しても良い。
【0072】
このように本実施形態に係る信号処理回路20では、オペアンプOp、トランジスタQ15、抵抗R11,R13等によりカレントミラー回路を構成することで、光電子増倍管11のアノード電流Iaに等しい電流ILをログアンプLgに入力し、このログアンプLgにより、トランジスタQ15から線形特性で出力される電流ILを対数特性をもつ信号電圧Vout に変換して出力する。これにより、光電子増倍管11のアノード電流Iaに対応した信号電圧を線形特性のまま出力する場合に比べて、対数変換されて圧縮されるぶん、ダイナミックレンジを拡大可能にしている。
【0073】
このログアンプLgから出力された信号電圧Vout は、前述したように、ピークホルダ22を介してA/Dコンバータ24に入力されるので、このA/Dコンバータ24によりデジタルデータVdat に変換されてからコンピュータ30に入力される。例えば、コンピュータ30では、このデジタルデータVdat に基づいて揮尽発光(PSL)量をカウントする情報処理(所定の情報処理)を行う。
【0074】
これにより、図4に示すような検出結果が得られる。即ち、図4に示すように、光電子増倍管11のカソードKに入射した入射光量(1秒間に入射した単位面積当たりのX線光子)と、デジタルデータVdat に基づく揮尽発光(PSL)のカウント数と、の関係を両対数グラフにプロットすると、両者の関係はほぼ直線状に増減していることがわかる。
【0075】
そして、このほぼ直線状に増減する関係は、入射光量が10から10を超えても維持されていることから(図4に示す楕円α内)、信号処理回路20のログアンプLgにより信号処理することなくオペアンプのようなリニアアンプで信号処理した場合の特性(図4に示す楕円β内)に比べて、ダイナミックレンジが拡大されていることがわかる。
【0076】
なお、信号処理回路20を構成したログアンプLgに代えて、オペアンプのようなリニアアンプを用いた構成によって、入射光量が10から10を超えても直線的な相関関係を維持しようとすると(図4に示す楕円α内)、100μV前後の信号から10Vまでの信号をリニアティを保って増幅可能なダイナミックレンジを持つオペアンプを用いる必要がある。しかし、アノード電流Iaの信号処理するオペアンプにおいては、前述したように、低雑音かつ低オフセット電圧であることが要求されるため、このような広いダイナミックレンジを持つオペアンプの実現は難しい。
【0077】
これに対し、本実施形態に係る信号処理回路20では、ログアンプLgにより、トランジスタQ15から線形特性で出力される電流ILを対数特性をもつ電流(電圧)に変換して出力するため、カレントミラー回路とログアンプLgとの組み合わせといった簡易な構成でありながら、図4に示すように、ダイナミックレンジを拡大することができる。
【0078】
以上説明したように本実施形態に係る信号処理回路20では、オペアンプOpにより、アノードAに流れるアノード電流Iaに応じた電圧が入力される非反転入力(+)と反転入力(−)との電位差を所定のゲイン(=1)で増幅して出力電圧として出力し、トランジスタQ15により、オペアンプOpの反転入力(−)に接続されたドレインD側からソースS側に流れる電流値ILを、オペアンプOpの出力に接続されるゲートGに印加されるゲート電圧により制御し、ログアンプLgにより、トランジスタQ15から線形特性で出力される電流ILを対数特性をもつ電流(電圧)に変換して出力する。そして、オペアンプOp、トランジスタQ15、抵抗R11,R13等により構成される定電流回路の、抵抗R11と抵抗R13を等しい値に設定することで、非反転入力(+)に入力される電圧に応じた電流と等しい電流がトランジスタQ15から出力されるカレントミラー回路を構成する。
【0079】
また、バイアス回路として、直列接続された抵抗R11,R12を電源(+5V)−アースGnd間に介在させて、バイアス電流Ibにアノード電流Iaを加えた電流に応じた電圧をオペアンプOpの非反転入力(+)に入力する。これにより、トランジスタQ15からは、バイアス電流Ibにアノード電流Iaを加えた電流と等しい電流が出力されるので、バイアス電流Ibを加えたぶん、オペアンプOpによる差動増幅等の信号処理特性を向上することができる。したがって、オペアンプOpやトランジスタQ15等により構成されるカレントミラー回路の特性を向上して、非反転入力(+)に入力される電圧に応じた電流に、トランジスタQ15から出力される電流をより近づけることができる。
【0080】
これにより、非反転入力(+)に入力される電圧に応じた電流であるアノード電流Iaと等しい電流ILがトランジスタQ15から出力されて、この電流ILは、ログアンプLgにより対数特性をもつ電流(電圧)に変換して出力される。つまり、光電子増倍管11のアノード電流Iaに対応した電圧がログアンプLgから対数特性で出力されるので、線形特性のままこのような電圧が出力される場合に比べて、対数変換されるぶん、ダイナミックレンジを拡大することができる。
【0081】
例えば、光電子増倍管11のアノード電流Iaが、数nA〜数100μAの範囲で変化する場合でも、変動幅が1桁あるいは2桁で収まる電流値に対応した電圧に変換することができる。したがって、光電子増倍管11のアノードAとダイノードDyの双方から電流を出力して信号処理する場合に比べ、シンプルな回路構成でダイナミックレンジを拡大することができる。
【0082】
本実施形態に係る信号処理システム10は、このような信号処理回路20を光電子増倍管11のアノードAに接続して構成する。そして、コントローラ42により、レーザ光Lの照射ビーム幅よりも狭い距離を移動単位として相対移動を間欠して行うようにX方向ステージ17およびY方向ステージ18を制御するとともに相対移動している間にレーザ光Lの照射を行い相対移動していない間にレーザ光Lの照射を休止するようにレーザ発振器13を制御し、ピークホルダ22により、コントローラ42によるレーザ光Lの照射期間に信号処理回路20のログアンプLgから出力される信号電圧Vout の最大値Vmax を保持し、A/Dコンバータ24により、ピークホルダ22により保持された信号電圧Vout の最大値Vmax (アナログ電圧)をレーザ光Lの休止期間にデジタルデータVdat に変換し、コンピュータ30により、A/Dコンバータ24からのデジタルデータVdat に基づいてイメージングプレートIPに蓄積されていた画像情報を処理する。
【0083】
これにより、X方向ステージ17およびY方向ステージ18は、レーザ光Lの照射ビーム幅よりも狭い距離を移動単位として、イメージングプレートIPおよびレーザ発振器13の少なくとも一方をイメージングプレートIPの所定の範囲または全部の範囲をレーザ光Lが走査可能に相対移動させ、レーザ光源13は、X方向ステージ17およびY方向ステージ18による相対移動のある間にレーザ光Lの照射を行い相対移動のない間はレーザ光Lの照射を休止する。つまり、レーザ光Lは、イメージングプレートIPおよびレーザ光源13の相対移動に同期して間欠的に照射されているため、このような相対移動の有無にかかわらず非同期に(または連続して)照射される場合に比べて、無駄なレーザ照射を防止するとともにイメージングプレートに記録された信号成分が不要なレーザ照射によって損失することを抑制することができる。
【0084】
また、ピークホルダ22は、コントローラ42によるレーザ光Lの照射期間に信号処理回路20のログアンプLgから出力される信号電圧Vout の最大値Vmax を保持し、A/Dコンバータ24によって、ピークホルダ22により保持された信号電圧Vout の最大値Vmax (アナログ電圧)をレーザ光Lの休止期間にデジタルデータVdat に変換する。つまり、イメージングプレートIPおよびレーザ光源13の相対移動に同期して間欠的に照射される、レーザ光Lの照射期間にピークホルダ22が信号電圧Vout の最大値Vmax を保持し、レーザ光Lの休止期間にA/Dコンバータ24が最大値Vmax をデジタルデータVdat に逐次変換されるので、メモリ等に蓄積してから変換する場合に比べてリアルタイムに高速に変換することができる。
【0085】
さらに、コントローラ42によるレーザ光Lの照射期間に信号処理回路20のログアンプLgから出力される信号電圧Vout の最大値Vmax は、光電子増倍管11のアノード電流IaがログアンプLgから対数特性で出力されるものであるから、線形特性のままで出力されてピークホルダ22により保持される場合に比べてA/Dコンバータ24による処理対象となる情報量(ビット数)を削減することができる。
【0086】
さらにまた、光電子増倍管11から出力されたアノード電流Ia等を処理するために必要な信号処理系を2系統持つ必要がないばかりか、ログアンプLgから出力される信号電圧Vout は圧縮されているため、それをA/Dコンバータ24でデジタル変換しても変換に必要なデータ幅を狭くすることができ(例えば16ビット幅から14ビット幅に狭くできる)、これによってもデータ量を削減することができる。
【0087】
したがって、シンプルな回路構成でダイナミックレンジを拡大することができるほか、イメージングプレートに記録された信号成分が不要なレーザ照射により損失することの抑制、アナログからデジタルへの高速変換、デジタル変換後のデータ量の削減といった種々の技術的は効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施形態に係る光電子増倍管の信号処理システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】本実施形態に係る光電子増倍管およびその信号処理回路等の構成例を示す回路図である。
【図3】X方向ステージの移動タイミングに対する、レーザ光の照射タイミングやA/D変換のタイミング等を示すタイミングチャートである。
【図4】光電子増倍管の入射光量(単位時間における単位面積当たりの光量)に対してA/Dコンバータから出力されるデジタルデータのデータ値を示す特性図である。
【符号の説明】
【0089】
10…信号処理システム(光電子増倍管の信号処理システム)
11…光電子増倍管
13…レーザ発振器(レーザ光源)
17…X方向ステージ(アクチュエータ)
18…Y方向ステージ(アクチュエータ)
20…信号処理回路(光電子増倍管の信号処理回路)
22…ピークホルダ
24…A/Dコンバータ
30…コンピュータ
42…コントローラ(制御装置)
48…レーザパワーサプライ
D…ドレイン(入力側)
Dy1〜Dy10…ダイノード
G…ゲート(制御ゲート)
Ia…アノード電流
Ib…バイアス電流
IP…イメージングプレート
L…レーザ光
Lg…ログアンプ(ログコンバータ)
Op…オペアンプ
Q11〜Q14…MOSトランジスタ
Q15…トランジスタ(電界効果トランジスタ)
S…ソース(出力側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光量に応じて光電子を放出するカソードと、前記カソードの電位よりも高電位かつ所定の電位勾配でそれぞれ異なる電圧が印加され前記光電子を増倍する複数のダイノードと、前記複数のダイノードにより増倍された電子を収集するアノードと、を有する光電子増倍管に接続される光電子増倍管の信号処理回路であって、
前記アノードに流れるアノード電流に応じた電圧が入力される非反転入力と反転入力との電位差を所定のゲインで増幅して出力電圧として出力するオペアンプと、
入力側から出力側に流れる電流値を制御ゲートに印加される電圧により制御する機能を有し、前記オペアンプの出力を前記制御ゲート、前記オペアンプの反転入力を前記入力側、にそれぞれ接続する電界効果トランジスタと、
線形入力を対数出力に変換する機能を有し、前記電界効果トランジスタから出力される電流を、対数特性をもつ電流または電圧による電気信号に変換して出力するログコンバータと、を備え、
前記オペアンプおよび前記電界効果トランジスタは、前記非反転入力に入力される電圧に応じた電流と等しい電流が前記電界効果トランジスタから出力されるカレントミラー回路を構成することを特徴とする光電子増倍管の信号処理回路。
【請求項2】
前記アノード電流に所定のバイアス電流を加えるバイアス回路を備え、
前記オペアンプの非反転入力には、前記所定のバイアス電流に前記アノード電流を加えた電流に応じた電圧が入力されて、
前記電界効果トランジスタからは、前記所定のバイアス電流に前記アノード電流を加えた電流と等しい電流が出力されることを特徴とする請求項1記載の光電子増倍管の信号処理回路。
【請求項3】
レーザ光の照射を受けて揮尽発光したイメージングプレートの当該発光が前記光電子増倍管に入射する、請求項1または2に記載の光電子増倍管の信号処理回路を含んで構成される光電子増倍管の信号処理システムであって、
前記レーザ光を発するレーザ光源と、
前記イメージングプレートの所定の範囲または全部の範囲を前記レーザ光が走査可能に前記イメージングプレートおよび前記レーザ光源の少なくとも一方を相対移動させるアクチュエータと、
前記レーザ光の照射ビーム幅よりも狭い距離を移動単位として前記相対移動を間欠して行うように前記アクチュエータを制御するとともに前記相対移動している間に前記レーザ光の照射を行い前記相対移動していない間に前記レーザ光の照射を休止するように前記レーザ光源を制御する制御装置と、
前記制御装置による前記レーザ光の照射期間に前記信号処理回路のログコンバータから出力される前記電気信号の最大値を保持するピークホルダと、
前記ピークホルダにより保持されたアナログの前記電気信号を前記レーザ光の休止期間にデジタルデータに変換するA/Dコンバータと、
前記A/Dコンバータから出力される前記デジタルデータに基づいて前記イメージングプレートに蓄積されていた画像情報を処理するコンピュータと、
を備えることを特徴とする光電子増倍管の信号処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−259728(P2009−259728A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109832(P2008−109832)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)