説明

光音響画像化方法および装置

【課題】互いに光吸収特性が異なる2つの生体部分を区別して高速で画像化する。
【解決手段】光音響画像化装置10において、被検体に、互いに波長が異なる第1の光および第2の光を選択的に照射可能する波長可変光源13と、第1の光、第2の光を照射したときに各々被検体から発せられた音響波を検出して、それぞれ第1の光音響データ、第2の光音響データを作成する手段11,21,22と、第1の光音響データおよび第2の光音響データの一方を実部とし他方を虚部とした複素数データを作成する複素数化手段25とを設ける。さらに上記複素数データからフーリエ変換法により再構成画像を得る画像再構成手段26と、再構成画像から位相情報を抽出する位相情報抽出手段71と、位相情報に基づいた画像を画像表示手段14に表示させる表示制御手段73とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光音響画像化方法すなわち、生体組織等の被検体に光を照射し、光照射に伴って発生する音響波に基づいて被検体を画像化する方法に関するものである。
【0002】
また本発明は、光音響画像化方法を実施する装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、例えば特許文献1や非特許文献1に示されているように、光音響効果を利用して生体の内部を画像化する光音響画像化装置が知られている。この光音響画像化装置においては、例えばパルスレーザ光等のパルス光が生体に照射される。このパルス光の照射を受けた生体内部では、パルス光のエネルギーを吸収した生体組織が熱によって体積膨張し、音響波を発生する。そこで、この音響波を超音波プローブなどで検出し、それにより得られた電気的信号(光音響信号)に基づいて生体内部を可視像化することが可能となっている。光音響画像化方法は、特定の吸光体から放射される音響波のみに基づいて画像を構築するようにしているので、生体における特定の組織、例えば血管等を画像化するのに好適である。
【0004】
ところで、生体組織の多くは光吸収特性が光の波長に応じて変わり、また一般に、その光吸収特性も組織毎に特有のものとなっている。例えば図5には、ヒトの動脈に多く含まれる酸素化ヘモグロビン(酸素と結合したヘモグロビン:oxy-Hb)と、静脈に多く含まれる脱酸素化ヘモグロビン(酸素と結合していないヘモグロビンdeoxy-Hb)の光波長毎の分子吸収係数を示すが、動脈の光吸収特性は酸素化ヘモグロビンのそれに対応したものとなり、静脈の光吸収特性は脱酸素化ヘモグロビンのそれに対応したものとなる。そこで従来、このことを利用して、互いに異なる2種の波長の光を血管部分に照射し、動脈と静脈とを区別して画像化する光音響画像化方法が知られており、例えば特許文献2にはその一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−21380号公報
【特許文献2】特開2010−046215号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A High-Speed Photoacoustic Tomography System based on a Commercial Ultrasound and a Custom Transducer Array, Xueding Wang, Jonathan Cannata, Derek DeBusschere, Changhong Hu, J. Brian Fowlkes, and Paul Carson, Proc. SPIE Vol. 7564, 756424 (Feb.23, 2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献2に示される従来技術においては、動脈と静脈とを区別して画像化するために、相異なる波長の光を各々照射して得た2通りの再構成画像間で、対応画素毎に画素値の比や差を求める処理が必要になる。そのためこの従来技術においては、画像再構成を2回行う必要があり、そこで、演算のための大容量の記憶手段が必要になったり、あるいは演算処理に時間が掛かる、といった問題が認められている。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、生体の動脈と静脈等、波長に対する光吸収特性が互いに異なる2つの組織を区別して、効率良く高速で画像化することができる光音響画像化方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
また本発明は、そのような光音響画像化方法を実施することができる光音響画像化装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光音響画像化方法は、
被検体に光を照射し、それにより被検体から発せられた音響波を検出して光音響データを得、この光音響データに基づいて前記被検体を画像化して画像表示手段に表示する光音響画像化方法において、
被検体に、互いに波長が異なる第1の光および第2の光を照射し、
前記第1の光、第2の光を照射したときに各々得られた第1の光音響データ、第2の光音響データの一方を実部とし他方を虚部とした複素数データを作成し、
前記複素数データからフーリエ変換法により再構成画像を得、
この再構成画像から位相情報を抽出し、
前記位相情報に基づいた被検体画像を画像表示手段に表示することを特徴とするものである。
【0011】
なお、本発明による光音響画像化方法においては、上記の再構成画像からさらに強度情報を抽出し、前記位相情報に基づいたカラーマップを前記強度情報に適用して画像表示手段に表示することが望ましい。
【0012】
また、本発明の光音響画像化方法は、前述したように生体の動脈と静脈とを区別して表示する場合に好適に利用されるものであり、その場合前記第1の光および第2の光の波長は、生体の動脈および静脈における吸収特性が互いに異なる波長とされる。
【0013】
そしてより詳しく、上記動脈と静脈とがヒトのものである場合は、前記第1の光の中心波長が798nmとされ、前記第2の光の中心波長が756nmとされる。
【0014】
また本発明の光音響画像化方法においては、被検体の超音波画像を取得し、その超音波画像と前記再構成画像とを、被検体上の同一点が同一位置に重なるように位置合わせした上で画像表示手段に重畳表示することがより好ましい。
【0015】
他方、本発明による光音響画像化装置は、
被検体に光を照射し、それにより被検体から発せられた音響波を検出して光音響データを得、この光音響データに基づいて前記被検体を画像化して画像表示手段に表示する光音響画像化装置において、
被検体に、互いに波長が異なる第1の光および第2の光を選択的に照射可能とされた波長可変光源と、
前記第1の光、第2の光を照射したときに各々被検体から発せられた音響波を検出して、それぞれ第1の光音響データ、第2の光音響データを作成する手段と、
前記第1の光音響データおよび第2の光音響データの一方を実部とし他方を虚部とした複素数データを作成する複素数化手段と、
前記複素数データからフーリエ変換法により再構成画像を得る画像再構成手段と、
前記再構成画像から、位相情報を抽出する位相情報抽出手段と、
前記位相情報に基づいた画像を前記画像表示手段に表示させる表示制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0016】
なお本発明の光音響画像化装置においては、上記再構成画像から強度情報を抽出する強度情報抽出手段がさらに設けられた上で、上記表示制御手段として、前記位相情報に基づいたカラーマップを前期強度情報に適用して表示させるものが用いられることが望ましい。
【0017】
また上記波長可変光源は、前記第1の光および第2の光として、生体の動脈および静脈における吸収特性が互いに異なる波長の光を発するものであることが望ましい。
【0018】
その場合、より詳しくは、前記第1の光の中心波長が798nmであり、前記第2の光の中心波長が756nmであることが望ましい。
【0019】
また、本発明の光音響画像化装置においては、
前記被検体の超音波画像を取得する手段がさらに設けられ、
前記表示制御手段が、前記超音波画像と前記再構成画像とを、被検体上の同一点が同一位置に重なるように位置合わせした上で前記画像表示手段に重畳表示させるものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明による光音響画像化方法によれば、被検体に、互いに波長が異なる第1の光および第2の光を照射し、前記第1の光、第2の光を照射したときに各々得られた第1の光音響データ、第2の光音響データの一方を実部とし他方を虚部とした複素数データを作成し、前記複素数データからフーリエ変換法により再構成画像を得、この再構成画像から位相情報を抽出し、前記位相情報に基づく画像を画像表示手段に表示するようにしたので、第1の光、第2の光に対する光吸収特性が互いに異なる被検体の部位を、位相情報に基づいて互いに区別して表示可能となる。
【0021】
そして、フーリエ変換法は元より複素数空間で実施されるものであって、1つの波長の光を被検体に照射して音響波を発生させる場合でも、画像再構成は複素数で処理されている。したがって、本発明方法のように2波長に関する音響波データから画像再構成を行う場合でも、その処理は基本的に、1波長に関する音響波データから画像再構成を行う場合と同じとなり、いわばその場合の無駄を無くして、効率良く高速で2つの部分を区別表示可能となる。
【0022】
また、本発明の光音響画像化方法において特に、被検体の超音波画像を取得し、その超音波画像と前記再構成画像とを、被検体上の同一点が同一位置に重なるように位置合わせした上で画像表示手段に重畳表示する場合は、再構成された被検体の部分が、被検体の他の部位とどういう相対位置関係になっているかを確認可能となる。
【0023】
一方、本発明による光音響画像化装置は前述した通り、
被検体に、互いに波長が異なる第1の光および第2の光を選択的に照射可能とされた波長可変光源と、
前記第1の光、第2の光を照射したときに各々被検体から発せられた音響波を検出して、それぞれ第1の光音響データ、第2の光音響データを作成する手段と、
前記第1の光音響データおよび第2の光音響データの一方を実部とし他方を虚部とした複素数データを作成する複素数化手段と、
前記複素数データからフーリエ変換法により再構成画像を得る画像再構成手段と、
前記再構成画像から、位相情報を抽出する位相情報抽出手段と、
前記位相情報に基づく画像を前記画像表示手段に表示させる表示制御手段とを備えたものであるので、この光音響画像化装置によれば前述した本発明の光音響画像化方法を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態による光音響画像化装置の概略構成を示すブロック図
【図2】図1の装置におけるデータ処理および、それによる画像表示を説明する図
【図3】複素数データを説明する図
【図4】本発明の第2実施形態による光音響画像化装置の概略構成を示すブロック図
【図5】酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)の光波長毎の分子吸収係数を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態による光音響画像化装置10の基本構成を示すブロック図である。この光音響画像化装置10は、一例として光音響画像と超音波画像の双方を取得可能とされたもので、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザ光源ユニット13、および画像表示手段14を備えている。
【0026】
上記レーザ光源ユニット13は、後述する2つの波長のレーザ光を適宜選択的に発するものとされている。レーザ光源ユニット13から出射したレーザ光は被検体に照射される。このレーザ光は、例えば複数の光ファイバなどの導光手段を用いてプローブ11まで導光され、プローブ11の部分から被検体に向けて照射されるのが望ましい。
【0027】
プローブ11は、被検体に対する超音波の出力(送信)、および被検体から反射して戻って来る反射超音波の検出(受信)を行う。そのためにプローブ11は、例えば一次元に配列された複数の超音波振動子を有する。またプローブ11は、被検体内の観察対象物がレーザ光源ユニット13からのレーザ光を吸収することで生じた超音波(音響波)を、上記複数の超音波振動子によって検出する。プローブ11は、上記音響波を検出して音響波検出信号を出力し、また上記反射超音波を検出して超音波検出信号を出力する。
【0028】
なお、このプローブ11に上述した導光手段が結合される場合は、その導光手段の端部つまり複数の光ファイバの先端部等が、上記複数の超音波振動子の並び方向に沿って配置され、そこから被検体に向けてレーザ光が照射される。以下では、このように導光手段がプローブ11に結合される場合を例に取って説明する。
【0029】
被検体の光音響画像あるいは超音波画像を取得する際、プローブ11は上記複数の超音波振動子が並ぶ一次元方向に対してほぼ直角な方向に移動され、それにより被検体がレーザ光および超音波によって二次元走査される。この走査は、検査者が手操作でプローブ11を動かして行ってもよく、あるいは、走査機構を用いてより精密な二次元走査を実現するようにしてもよい。
【0030】
超音波ユニット12は、受信回路21、AD変換手段22、受信メモリ23、データ分離手段24、複素数化手段25、光音響画像再構成手段26、この光音響画像再構成手段26の出力を受ける強度情報抽出手段70、同じく光音響画像再構成手段26の出力を受ける位相情報抽出手段71、上記強度情報抽出手段70の出力を受ける検波・対数変換手段72、この検波・対数変換手段72および上記位相情報抽出手段71の出力を受ける光音響画像構築手段73を有している。
【0031】
上記受信回路21は、プローブ11が出力した前記音響波検出信号および超音波検出信号を受信する。AD変換手段22はサンプリング手段であり、受信回路21が受信した音響波検出信号および超音波検出信号をサンプリングして、それぞれデジタル信号である光音響データおよび超音波データに変換する。このサンプリングは、例えば外部から入力されるADクロック信号に同期して、所定のサンプリング周期でなされる。
【0032】
また超音波ユニット12は、上記データ分離手段24の出力を受ける超音波画像再構成手段74、この超音波画像再構成手段74の出力を受ける検波・対数変換手段75、この検波・対数変換手段75の出力を受ける超音波画像構築手段76、この超音波画像構築手段76および前記光音響画像構築手段73の出力を受ける画像合成手段77を有している。この画像合成手段77の出力は、例えばCRTや液晶表示装置等からなる画像表示手段14に入力される。さらに超音波ユニット12は、送信制御回路30、および超音波ユニット12内の各部等の動作を制御する制御手段31を有している。
【0033】
レーザ光源ユニット13は、Ti:Sapphireレーザ等からなるQスイッチパルスレーザ32と、その励起光源であるフラッシュランプ33と、光パラメトリック発振器等からなる波長制御手段34とを含む波長可変レーザである。このレーザ光源ユニット13には、上記制御手段31から光出射を指示する光トリガ信号が入力されるようになっており、該光トリガ信号を受けると、フラッシュランプ33を点灯させてQスイッチパルスレーザ32を励起する。制御手段31は、例えばフラッシュランプ33がQスイッチパルスレーザ32を十分に励起させると、Qスイッチトリガ信号を出力する。Qスイッチパルスレーザ32は、Qスイッチトリガ信号を受けるとそのQスイッチをオンにし、パルスレーザ光を出射させる。
【0034】
また上記波長制御手段34には、制御手段31から波長制御信号が入力される。波長制御手段34はこの波長制御信号に応じて動作し、レーザ光源ユニット13から出射されるパルスレーザ光の波長(中心波長)を798nmと756nmのいずれかに設定する。本例では、まず波長を798nmとする1回目のパルスレーザ光出射(つまり光トリガ信号およびQスイッチトリガ信号の入力)がなされ、引き続きパルスレーザ光の波長を756nmとする2回目のパルスレーザ光出射(同じく光トリガ信号およびQスイッチトリガ信号の入力)がなされる。なお上記の波長798nmおよび756nmは、先に説明した図5の酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの光波長毎の分子吸収係数を考慮して、ヒトの動脈および静脈を画像化するために選択されたものである。
【0035】
ここで、フラッシュランプ33の点灯からQスイッチパルスレーザ33が十分な励起状態となるまでに要する時間は、Qスイッチパルスレーザ33の特性などから見積もることができる。なお、上述のように制御手段31からQスイッチを制御するのに代えて、レーザ光源ユニット13内において、Qスイッチパルスレーザ32を十分に励起させた後にQスイッチをオンにしてもよい。その場合は、Qスイッチをオンにしたことを示す信号を超音波ユニット12側に通知してもよい。
【0036】
また制御手段31は、送信制御回路30に、超音波送信を指示する超音波トリガ信号を入力する。送信制御回路30は、この超音波トリガ信号を受けると、プローブ11から超音波を送信させる。制御手段31は、先に前記光トリガ信号を出力し、その後、超音波トリガ信号を出力する。光トリガ信号が出力されることで被検体に対するレーザ光の照射、および音響波の検出が行われ、その後、超音波トリガ信号が出力されることで被検体に対する超音波の送信、および反射超音波の検出が行われる。
【0037】
制御手段31はさらに、AD変換手段22に対して、サンプリング開始を指示するサンプリングトリガ信号を出力する。このサンプリングトリガ信号は、前記光トリガ信号が出力された後で、かつ超音波トリガ信号が出力される前、より好ましくは被検体に実際にレーザ光が照射されるタイミングで出力される。そのためにサンプリングトリガ信号は、例えば制御手段31がQスイッチトリガ信号を出力するタイミングに同期して出力される。AD変換手段22は上記サンプリングトリガ信号を受けると、プローブ11が出力して受信回路21が受信した音響波検出信号のサンプリングを開始する。このサンプリングトリガ信号に基づく音響波検出信号のサンプリングは、まず、前記波長798nmのパルスレーザ光を出射させるためのQスイッチトリガ信号の出力と同期して行われ、引き続き、前記波長756nmのパルスレーザ光を出射させるためのQスイッチトリガ信号の出力と同期して行われる。
【0038】
制御手段31は、光トリガ信号を2回出力した後、音響波の検出(波長798nmのパルスレーザ光により発せられた音響波、および波長756nmのパルスレーザ光により発せられた音響波の検出)を終了するタイミングで超音波トリガ信号を出力する。このとき、AD変換手段22は音響波検出信号のサンプリングを中断せず、サンプリングを継続して実施する。言い換えれば、制御手段31は、AD変換手段22が音響波検出信号のサンプリングを継続している状態で、超音波トリガ信号を出力する。超音波トリガ信号に応答してプローブ11が超音波送信を行うことで、プローブ11の検出対象は、音響波から反射超音波に変わる。AD変換手段22は、検出された超音波検出信号のサンプリングを継続することで、音響波検出信号と超音波検出信号とを、連続的にサンプリングする。
【0039】
AD変換手段22は、サンプリングして得られた光音響データおよび超音波データを、共通の受信メモリ23に格納する。なお光音響データは、波長798nmのパルスレーザ光を被検体に照射したときの光音響データ並びに、波長756nmのパルスレーザ光を被検体に照射したときの光音響データとなる。受信メモリ23に格納されたサンプリングデータは、ある時点までは光音響データであり、ある時点からは超音波データとなる。データ分離手段24は、受信メモリ23に格納された光音響データと超音波データとを分離し、光音響データを複素数化手段25に入力し、超音波データを超音波画像再構成手段74に入力する。
【0040】
以下、超音波画像と光音響画像の生成、表示について説明する。まず超音波画像再構成手段74は、プローブ11の複数の超音波振動子毎のデータとなっている上記超音波データを加算して、1ライン分の超音波断層画像データを生成する。検波・対数変換手段75はこの超音波断層画像データの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げる。そして超音波画像構築手段76は、検波・対数変換手段75が出力した各ラインのデータに基づいて超音波断層画像(超音波エコー画像)を生成する。より詳しくは、この超音波画像構築手段76は、例えば前述した超音波検出信号のピーク部分の時間軸方向の位置が、断層画像における深さ方向の位置に変換されるようにして超音波断層画像を生成する。
【0041】
以上の処理は、プローブ11の走査移動に伴って逐次なされ、それにより、被検体の走査方向に亘る複数箇所に関する超音波断層画像が生成される。そしてこれらの超音波断層画像を担持する画像データは画像合成手段77に入力される。なお、超音波断層画像のみを単独で表示したい場合は、超音波断層画像を担持する上記画像データが画像合成手段77を素通りさせて画像表示手段14に送られ、この画像表示手段14に超音波断層画像が表示される。
【0042】
次に光音響画像の生成および表示について、図2も参照して説明する。前述した通り図1の複素数化手段25には、波長798nmのパルスレーザ光を被検体に照射して得られた光音響データ(以下、これを第1の光音響データという)並びに、波長756nmのパルスレーザ光を被検体に照射して得られた光音響データ(以下、これを第2の光音響データという)が入力される。
【0043】
図2の(1)、(2)は、上記第1の光音響データ、第2の光音響データの例を、プローブ11の一つの走査ラインに沿った断面について概略的に示すものである。同図(1)において、矢印xで示す横方向はプローブ11の複数の超音波振動子が並ぶ方向を示し、縦方向は音響波が検出される時刻を示している(同図(2)、(3)も同様)。すなわち、音響波が検出される場合は、これらの図に弧で示す時刻/位置関係で音響波が検出され、また各弧の頂点部分は光照射後に最も早くプローブ11に到達した音響波(つまり音響波発生部位から直接的にプローブ11の方向に進行する音響波)が検出された時刻を示すものとなる。この時刻は、音響波発生部位の光照射深さ方向位置と対応するものであるから、上記頂点部分は、音響波を発した部分の深さ方向位置を示すことになる。
【0044】
そして第1の光音響データ、第2の光音響データを得た際に照射されたパルスレーザ光の波長が、図5に示した酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの光波長毎の分子吸収係数を考慮して、両者の吸収が同じである798nmと、この798nmでの吸収と比べると酸素化ヘモグロビンについては吸収がより大きく、反対に脱酸素化ヘモグロビンについてはより吸収が小さくなる798nmとに設定されていることにより、両光音響データから後述のようにして動脈と静脈を分離することができる。
【0045】
すなわち複素数化手段25は、上述のような第1の光音響データを実部とし、第2の光音響データを虚部として複素数データを作成する(同図の(3)参照)。ここで、この複素数データについて図3に示すガウス平面で説明する。図中に黒丸で示す座標(X,Y)の複素数データについては、r=X+Yなるrの値が強度を示し、偏角θが位相を示す。そして、仮に照射光波長を798nmとしたときの第1の光音響データと、照射光波長を756nmとしたときの第2の光音響データとが同じ値を取るとすると、それらのデータによる複素数データは位相θが45度のものとなる。
【0046】
しかし図5の特性から分かるようにそのようなことは有り得ず、実際には、第1の光音響データ<第2の光音響データとなる場合(このときの位相θは45度を超える)と、第1の光音響データ>第2の光音響データとなる場合(このときの位相θは45度未満となる)だけが存在する。前者は、波長798nmに対する吸収よりも波長756nmに対する吸収の方が大きい酸素化ヘモグロビンを主に含む血液が流れている動脈からの音響波を検出した場合であり、それに対して後者は、波長798nmに対する吸収よりも波長756nmに対する吸収の方が小さい脱酸素化ヘモグロビンを主に含む血液が流れている静脈からの音響波を検出した場合である。したがって、上記複素数データの位相θが45度よりも大きいか、あるいは小さいかを分離基準として、動脈からの音響波を検出した光音響データと、静脈からの音響波を検出した光音響データとを分離可能となる。なお、以上述べた複素数データの作成はプローブ11の走査移動に伴って逐次なされ、それにより、被検体の走査方向に亘る複数の断面について各々複素数データが作成される。
【0047】
こうして作成された複素数データは、次に図1の光音響画像再構成手段26に入力される。光音響画像再構成手段26は入力された複素数データから、フーリエ変換法(FTA法)により画像再構成を行う。なお、フーリエ変換法による画像再構成については、例えば文献”Photoacoustic Image Reconstruction-A Quantitative Analysis”Jonathan I.Sperl et al. SPIE-OSA Vol.6631 663103 等に記載されている従来公知の方法を適用することができる。
【0048】
この再構成画像を示すフーリエ変換後のデータは強度情報抽出手段70に送られてそこで強度情報の抽出に供されるとともに、位相情報抽出手段71に送られてそこで位相情報の抽出に供される。検波・対数変換手段72は上記抽出された強度情報を示すデータの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げる。検波・対数変換手段72はこれらの処理後のデータを光音響画像構築手段73に入力する。またこの光音響画像構築手段73には、上記抽出された位相情報を示すデータも入力される。
【0049】
図2の(4)は、上述の再構成画像を概略的に示すものである。すなわちこの再構成画像は同図(1)、(2)に示した音響波データに対応するものであり、その縦方向位置はx方向に配置された各素子の検出時刻に対応している。このように各素子で検出した音響波データから実際に音響波が発生した位置の深さに再構成した結果が(4)中に示す点となる。ここで、点線で示している線は、再構成前のデータを示している。
【0050】
以上のことに基づいて光音響画像構築手段73は、上記強度情報に基づいて求めた音響波発生部分について、位相θが45度より小さい点は例えば青色で示し、また位相θが所定の閾値以上である点は例えば赤色で示すカラーマッピングを行う。そこでこのカラーマッピングされた画像は、赤色の部分が動脈を示し、青色の部分が静脈を示すものとなる。図2の(5)はこのカラーマッピング結果を示しており、図中の黒点が赤色にマッピングされた点を、そして白点が青色にマッピングされた点を示している。また図3においては、ハッチングを付して示す領域が赤色にマッピングされる領域であり、それよりも位相が小さいハッチング無しの領域が青色にマッピングされる領域である。以上のカラーマッピングは、プローブ11の走査移動に伴って逐次得られる各断面について全て同じようになされる。
【0051】
なお本実施形態では特に、上記赤色にマッピングされる領域内の点は位相が大きいほど赤色がより強調されて、位相θが45度に近い点では無色に近くなり、それに対して、青色にマッピングされる領域内の点は位相が小さいほど青色がより強調されて、位相θが45度に近い点では無色に近くなるように、グラデーションを掛けてカラーマッピングがなされる。
【0052】
こうして作成されたカラーマッピング画像は図1の画像合成手段17に送られ、この画像合成手段77において、前述した超音波エコー画像と合成される。この画像合成は、プローブ11の走査位置が同じである共通断面に関する両画像毎になされ、またそのとき両画像は、被検体上の同一点が同一位置に重なるように位置合わせされる。合成された画像は、図1の画像表示手段14に表示される。そこでこの表示画像を観察すれば、動脈および静脈が、超音波エコー画像で示される被検体部位に対してどのような相対位置に存在するかを知ることができる。また、複数の断面に関する上記合成画像から3次元画像を構築して、動脈および静脈の位置を立体的に表示することも可能である。
【0053】
また本実施形態では、赤色のカラーマッピングおよび青色のカラーマッピングが各々前述のようにグラデーションを掛けてなされているので、赤色や青色の色相の強さを目安にして、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンとの比率(酸素飽和度)も確認可能となる。
【0054】
以上説明したフーリエ変換法は元より複素数空間で実施されるものであって、1つの波長の光を被検体に照射して音響波を発生させる場合でも、画像再構成は複素数で処理されている。したがって、本実施形態のように2波長に関する音響波データから画像再構成を行う場合でも、その処理は基本的に、1波長に関する音響波データから画像再構成を行う場合と同じとなり、いわばその場合の無駄を無くして、効率良く高速で2つの部分を区別して表示可能となる。
【0055】
なお、以上の説明から明らかなように本実施形態では、光音響画像構築手段73が本発明における表示制御手段を構成している。
【0056】
次に、本発明の第2実施形態による光音響画像化装置について説明する。図4は、この第2実施形態の方法を実施する光音響画像化装置110を示すものである。この光音響画像化装置110は、図1に示した光音響画像化装置10と対比すると、超音波画像を生成するための構成と、超音波画像とカラーマッピングされた画像とを合成するための構成が省かれた点が異なるものである。したがってこの光音響画像化装置110においては、図2の(5)に示したカラーマッピング画像のみが画像表示手段14に表示される。
【0057】
カラーマッピングをして示す被検体の部位を、他の部位との位置関係も把握できるように表示する必要が特に無い場合は、このような構成を採用することにより、装置コストを低減することができ、またカラーマッピング画像を表示するまでの所要時間も短縮できるのでより好ましいと言える。
【0058】
なお、被検体の2つの部分を異なる表示状態として表示するには、前述したようにカラーマッピング(色分け)して表示する他、例えば濃度(輝度)の高低で差を付けて表示する、一方のみにハッチングを付して表示する、一方の部分のみ点滅表示する等、その他の態様を採用することも可能である。
【0059】
また以上は、ヒトの動脈と静脈とを互いに区別して表示するようにした実施形態について説明したが、本発明は動脈と静脈とを区別して表示する場合に限らず、2つの相異なる波長に対する光吸収特性が互いに異なる2つの対象物を区別して表示したい場合に全て有効に適用できるものである。
【0060】
また本発明の光音響画像化装置および方法は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正および変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
10、110 光音響画像化装置
11 プローブ
12 超音波ユニット
13 レーザ光源ユニット
14 画像表示手段
21 受信回路
22 AD変換手段
23 受信メモリ
24 データ分離手段
25 複素数化手段
26 光音響画像再構成手段
30 送信制御回路
31 制御手段
32 Qスイッチレーザ
33 フラッシュランプ
70 強度情報抽出手段
71 位相情報抽出手段
72、75 検波・対数変換手段
73 光音響画像構築手段
74 超音波画像再構成手段
76 超音波画像構築手段
77 画像合成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に光を照射し、それにより被検体から発せられた音響波を検出して光音響データを得、この光音響データに基づいて前記被検体を画像化して画像表示手段に表示する光音響画像化方法において、
被検体に、互いに波長が異なる第1の光および第2の光を照射し、
前記第1の光、第2の光を照射したときに各々得られた第1の光音響データ、第2の光音響データの一方を実部とし他方を虚部とした複素数データを作成し、
前記複素数データからフーリエ変換法により再構成画像を得、
この再構成画像から位相情報を抽出し、
前記位相情報に基づいた被検体画像を画像表示手段に表示することを特徴とする光音響画像化方法。
【請求項2】
前記再構成画像からさらに強度情報を抽出し、前記位相情報に基づいたカラーマップを前記強度情報に適用して画像表示手段に表示することを特徴とする請求項1記載の光音響画像化方法。
【請求項3】
前記第1の光および第2の光の波長を、生体の動脈および静脈における吸収特性が互いに異なる波長とすることを特徴とする請求項1または2記載の光音響画像化方法。
【請求項4】
前記第1の光の中心波長を798nmとし、前記第2の光の中心波長を756nmとすることを特徴とする請求項3記載の光音響画像化方法。
【請求項5】
前記被検体の超音波画像を取得し、その超音波画像と前記再構成画像とを、被検体上の同一点が同一位置に重なるように位置合わせした上で前記画像表示手段に重畳表示することを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の光音響画像化方法。
【請求項6】
被検体に光を照射し、それにより被検体から発せられた音響波を検出して光音響データを得、この光音響データに基づいて前記被検体を画像化して画像表示手段に表示する光音響画像化装置において、
被検体に、互いに波長が異なる第1の光および第2の光を選択的に照射可能とされた波長可変光源と、
前記第1の光、第2の光を照射したときに各々被検体から発せられた音響波を検出して、それぞれ第1の光音響データ、第2の光音響データを作成する手段と、
前記第1の光音響データおよび第2の光音響データの一方を実部とし他方を虚部とした複素数データを作成する複素数化手段と、
前記複素数データからフーリエ変換法により再構成画像を得る画像再構成手段と、
前記再構成画像から位相情報を抽出する位相情報抽出手段と、
前記位相情報に基づいた画像を前記画像表示手段に表示させる表示制御手段とを備えたことを特徴とする光音響画像化装置。
【請求項7】
前記再構成画像から強度情報を抽出する強度情報抽出手段をさらに備え、前記表示制御手段が、前記位相情報に基づいたカラーマップを前記強度情報に適用して表示させるものであることを特徴とする請求項6記載の光音響画像化装置。
【請求項8】
波長可変光源が、前記第1の光および第2の光として、生体の動脈および静脈における吸収特性が互いに異なる波長の光を発するものであることを特徴とする請求項6または7記載の光音響画像化装置。
【請求項9】
前記第1の光の中心波長が798nmであり、前記第2の光の中心波長が756nmであることを特徴とする請求項8記載の光音響画像化装置。
【請求項10】
前記被検体の超音波画像を取得する手段がさらに設けられ、
前記表示制御手段が、前記超音波画像と前記再構成画像とを、被検体上の同一点が同一位置に重なるように位置合わせした上で前記画像表示手段に重畳表示させるものであることを特徴とする請求項6から9いずれか1項記載の光音響画像化装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−231878(P2012−231878A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101186(P2011−101186)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】