説明

光OFDM通信システム

【課題】付加するサイクリック・プレフィクスを短くできる直交周波数分割多重光通信システムを提供する。
【解決手段】光通信システムは、直交周波数分割多重変調した光信号を光伝送路に送信する光送信装置と、該光伝送路より該光信号を受信する光受信装置と、光送信装置と光伝送路間、あるいは、光受信装置と光伝送路間に波長分散を補償する分散補償器を備えており、分散補償器における補償量として、直交周波数分割多重変調のサイクリック・プレフィクスの長さと、直交周波数分割多重変調で使用しているサブキャリアの波長差の最大値により決定した値を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調技術を使用する光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
直交周波数分割多重(OFDM)技術は、送信データを複数のサブキャリアを用いて並列に伝送する方式であり、各サブキャリアのシンボルレートが比較的低くなるためシンボル間干渉に強く、デジタル地上波放送や、無線LAN(Local Aera Network)システムで既に使用されており、光通信システムへの適用についても検討されている(例えば、非特許文献1、参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Arthur James Lowery、et al.、“Orthogonal−frequency−division multiplexing for dispersion compensation of long−haul optical systems”、2006 Optical Society of America、OPTICS EXPRESS 2079、Vol.14 No.6、2006年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
OFDM変調技術においては、シンボル間干渉にたいする耐力を向上させるために、サイクリック・プレフィクス(CP:Cyclic Prefix)が付加される。図6は、CPを説明する図である。図6に示す様に、あるシンボルで送信するデータから、離散フーリエ逆変換(IFFT)により64個の時間サンプル、T1〜T64が得られたとすると、例えば、最初のT1からT16のコピーがCPとして、T64のサンプルの後に追加される。離散フーリエ逆変換は、入力となる周波数成分を有する周期波形の1周期分のサンプルを出力するものであるため、CPを合わせた全80個のサンプルから得られる時間軸上の波形にも不連続点は生じない。
【0005】
したがって、この80個のサンプルから得られる、その長さがシンボル期間に等しい時間軸上の波形から、IFFTで得られた時間サンプルの長さの波形を取り出し、取り出した波形から64個の時間サンプルを得て、離散フーリエ変換することにより、元の周波数成分を得ることができる。これにより、たとえ、シンボル間干渉によりシンボルの境界付近の信号に影響がでたとしても、その影響を避けて復調することが可能になる。ただし、シンボル間干渉が強くなり、シンボル間干渉の影響を受けていない連続する64個の時間サンプルを取り出すことができなくなると、正しく復調することができなくなる。つまり、シンボル間干渉に対する耐力は、CPの長さに依存する。
【0006】
光ファイバの分散により、光ファイバ中を伝搬する信号の伝搬速度は波長により異なるため、光OFDM変調された信号の各サブキャリアは、それぞれ、異なる量の遅延を受け、これによりシンボル間干渉が発生する。シンボル間干渉に対する耐力を強くするためにはCPを長くすれば良いが、CPを長くすると、情報伝送に利用できる信号時間が短くなる、つまり、伝送できる情報量が減少することになる。
【0007】
このため、付加するCPをできるだけ短くできる光通信システムが望まれており、本発明は、その様な光通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における光通信システムによれば、
直交周波数分割多重変調された光信号を光伝送路に送信する光送信装置と、該光伝送路より該光信号を受信する光受信装置とを備えた光通信システムであって、光送信装置と光伝送路間、あるいは、光受信装置と光伝送路間に波長分散を補償する分散補償器を備えており、分散補償器における補償量として、直交周波数分割多重変調のサイクリック・プレフィクスの長さと、直交周波数分割多重変調で使用しているサブキャリアの波長差の最大値により決定した値を使用することを特徴とする。
【0009】
本発明の光通信システムにおける他の実施形態によれば、
分散補償器は、光受信装置の入力端における累積波長分散量が、前記サイクリック・プレフィクスの長さを前記波長差で除した値以下となる様に分散補償を行うことも好ましい。
【0010】
また、本発明の光通信システムにおける他の実施形態によれば、
分散補償器は、光送信装置と光伝送路間に設けられており、分散補償器における補償量が、光受信装置の入力端における累積波長分散量と等しいことも好ましい。
【0011】
さらに、本発明の光通信システムにおける他の実施形態によれば、
直交周波数分割多重変調された光信号を光伝送路に送信する光送信装置と、該光伝送路より該光信号を受信する光受信装置とを備えた光通信システムであって、直交周波数分割多重変調のサイクリック・プレフィクスの長さとして、該光伝送路の累積波長分散量と、使用するサブキャリアの波長差の最大値との積に、所定のマージンを加えた値を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
シンボル間干渉の影響を避けつつ、伝送できる情報量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による通信方法の説明図である。
【図2】本発明による光通信システムの構成図である。
【図3】本発明の光通信システムにおける他の実施形態の構成図である。
【図4】図2の構成における伝送距離と累積波長分散の関係を示す図である。
【図5】図3の構成における伝送距離と累積波長分散の関係を示す図である。
【図6】サイクリック・プレフィクスの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について、以下では図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明の基礎となる光波長分散量とCPの長さとの関係を説明する。図1(a)に示す様に、使用するサブキャリアのうち、最も波長の長いものと、最も短いものの波長差をΔλ、CPの長さをTgとする。図1(b)に示す様に、最も短い波長のサブキャリアと、最も長い波長のサブキャリアとの時間差がTgを超えた場合、シンボル間干渉の影響を避けることはできなくなるため、光伝送路の累積波長分散をD(秒/m)とすると、この光伝送路で伝送するために必要なCPの長さTgは、
Tg=|D|・Δλ (1)
となる。逆に、Tgが与えられた場合、許容できる光伝送路の累積波長分散値の絶対値は、
|D|=Tg/Δλ (2)
となる。なお、光OFDM信号の中心波長をλc、中心周波数をfcとすると、信号帯域Bd(Hz)と、波長差Δλには、
Δλ/λc=Bd/fc (3)
の関係があり、cを光速とすると、
λc・fc=c (4)
であるため、式(1)は、
Tg=c・|D|・Bd/fc (5)
と、式(2)は、
|D|=(Tg・fc)/(c・Bd) (6)
とも表現できる。
【0016】
本実施形態においては、付加するCPの値を式(1)、(5)で求めた値に所定のマージンを加えた値とする。また、本発明の他の実施形態においては、光伝送路の累積波長分散量を用いて式(1)又は(5)により求めた値より小さいCPを使用し、光受信装置の入力端における累積波長分散量が、使用するCP長より式(2)、(6)で決定される値以下となる様に分散を補償する分散補償器を、光伝送路と光受信装置の間、あるいは、光送信装置と光伝送路の間にのみ配置する。図2は、前者の構成図であり、図3は後者の構成図である。図4は、図2の構成における伝送距離と累積波長分散の関係を示す図であり、図5は、図3の構成における伝送距離と累積波長分散の関係を示す図である。図3及び図4において、Dcは分散補償器での補償量であり、Drは光受信装置の入力端での累積波長分散量であり、この値が式(2)、(6)の|D|の値以下となる様にDcを決定する。
【0017】
なお、図3の構成においては、図5に示す様に累積波長分散が0に近い区間が長くなるため、伝送信号が受ける非線形光学効果の影響が大きくなり、信号特性が劣化しやすくなるが、図2の構成ではその様なことが無いという利点がある。しかしながら、|Dc|=|Dr|、つまり、光伝送路全体の累積波長分散量の半分の値と上記式(1)、(5)よりCPの長さを決定し、光伝送路全体の累積波長分散量の半分を分散補償器で補償する場合、図3の構成では、光伝送路のいずれの位置においても累積波長分散の絶対値が|Dr|=|Dc|を超えなくなる。したがって、光伝送路のいずれの位置でもシンボル間干渉の影響を受けずに復調することができ、よって、光伝送路の任意の位置において品質管理のためのイン・サービス・モニタ等を行う場合や、波長分割多重技術を用いて複数のチャネルを伝送する光通信システムにおいて、特定チャネルについては光伝送路の途中で受信する場合には有利となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交周波数分割多重変調された光信号を光伝送路に送信する光送信装置と、該光伝送路より該光信号を受信する光受信装置とを備えた光通信システムであって、
光送信装置と光伝送路間、あるいは、光受信装置と光伝送路間に波長分散を補償する分散補償器を備えており、
分散補償器における補償量として、直交周波数分割多重変調のサイクリック・プレフィクスの長さと、直交周波数分割多重変調で使用しているサブキャリアの波長差の最大値により決定した値を使用する、
光通信システム。
【請求項2】
分散補償器は、光受信装置の入力端における累積波長分散量が、前記サイクリック・プレフィクスの長さを前記波長差で除した値以下となる様に分散補償を行う、
請求項1に記載の光通信システム。
【請求項3】
分散補償器は、光送信装置と光伝送路間に設けられており、
分散補償器における補償量が、光受信装置の入力端における累積波長分散量と等しい、
請求項1に記載の光通信システム。
【請求項4】
直交周波数分割多重変調された光信号を光伝送路に送信する光送信装置と、該光伝送路より該光信号を受信する光受信装置とを備えた光通信システムであって、
直交周波数分割多重変調のサイクリック・プレフィクスの長さとして、該光伝送路の累積波長分散量と、使用するサブキャリアの波長差の最大値との積に、所定のマージンを加えた値を使用する、
光通信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate