説明

免疫アッセイのための免疫抑制剤薬剤抽出試薬

シロリムス、タクロリムスまたはシクロスポリンなどの免疫抑制剤薬剤を血液試料から抽出し、同時に、低い蒸気圧を有し免疫アッセイ構成要素に適合可能な検査試料抽出物を産するための、改善された抽出試薬組成物および方法。本発明の試薬組成物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、少なくとも1つの二価金属塩および水を含む。これらの組合せの各々の使用から結果として生じた試料抽出物は、低い蒸気圧を有し、免疫化学的アッセイに適合可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血液試料における免疫抑制剤薬剤の濃度レベルを判定するための診断免疫アッセイに関し、具体的には、改善された免疫抑制剤薬剤抽出試薬組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床目的の多くの分析物は、細胞により吸収されるまたは検査試料の1つもしくは複数の他の構成要素と複合体になる。したがって、試料中に存在する分析物の量の正確な測定を得るには、アッセイにおいて検出するため分析物が細胞または他の構成要素(複数可)から放出されるような条件下で、試料を処理するおよび/またはアッセイを実施することが好ましい。
【0003】
例えば、シロリムス(ラパマイシンとしても知られている。)、タクロリムス、エベロリムス、テムソロリムス(temsorolimus)およびシクロスポリンなどの免疫抑制剤薬剤は、ヒトにおける移植手術後の臓器または組織拒絶反応の治療、移植片対宿主病の治療、および自己免疫疾患の治療に効果的である。免疫抑制剤薬剤療法の間、免疫抑制剤の血中濃度レベルをモニターすることは、臨床ケアの重要な局面である。なぜなら、不十分な薬剤レベルは移植片(臓器または組織)の拒絶反応をもたらし、過剰レベルは望ましくない副作用および毒性をもたらすからである。したがって、免疫抑制剤の血中レベルが測定され、これにより薬物投与量が、適切な濃度で薬剤レベルを維持するように調節され得る。免疫抑制剤の血中レベルを判定するための診断アッセイは、故に、幅広い臨床使用を見出している。
【0004】
初めに、免疫抑制剤薬剤が患者試料の他の構成要素から、抽出および分離されなければならない。患者試料中の免疫抑制剤薬剤の大部分は、結合タンパク質などさまざまな「担体」分子との複合体に存在する。シロリムス、タクロリムスおよびシクロスポリンは、患者検体の赤血球に主に見出され、特異的結合タンパク質(シロリムスおよびタクロリムスに対するFKBP、シクロスポリンに対するシクロフィリン)に関連している。検体における総薬剤濃度の正確な測定を確保するには、好ましくは、結合タンパク質に結合した薬剤は定量前に遊離される。結合タンパク質からの抽出後、薬剤は、吸光度または質量分光光度検出による免疫アッセイまたはクロマトグラフィーを含む、幾つかの異なる方法において測定することができる。
【0005】
血中結合タンパク質からのシロリムスの抽出は、アセトニトリル、メタノールまたはジエチルエーテルなどの有機溶媒による処置により達成されることが多い。これらの溶媒は、結合タンパク質を変性させ、薬剤を遊離させる。しかし、結合タンパク質を迅速および完全に変性させるほとんどの有機溶媒は、免疫アッセイに適合しないことから、有機溶媒の使用は、この後、遊離された薬剤を検出するのに免疫アッセイが使用される場合問題がある。これらは厳しすぎるまたはこれらは二相試料を生成するかのいずれかである。メタノールは、典型的には、免疫アッセイ前に血液検体からシロリムス、タクロリムスまたはシクロスポリンを抽出するのに使用されている。しかし、メタノール濃度は、結合タンパク質から薬剤を遊離させるのに十分ではあるがこの後の免疫アッセイを妨げるほど高くはならないように、慎重なバランスが実現されなければならない。メタノールおよび他の典型的に使用される有機溶媒の使用は、これらの溶媒が水より蒸気圧が高いことから別の問題をもたらす。この結果、免疫抑制剤薬剤を含有する抽出上清は迅速に蒸発し、これが薬剤濃度の測定における不正確さの原因となる。広く使用されているメタノールまたはアセトニトリル溶媒もまた、検査室にとって取扱問題および廃棄問題をもたらす。
【0006】
免疫抑制剤薬剤に対する免疫アッセイは、さまざまなフォーマットで利用可能であるが、いずれもが、免疫抑制剤薬剤への抗体または結合タンパク質(例えば、FKBP)の結合を使用する。一般的に使用されている免疫アッセイは、免疫抑制剤への第1抗体の結合、および残りの遊離抗体結合部位への標識された免疫抑制剤(例えば、アクリジニウム−シロリムス)の結合、これに続く標識の検出による定量を伴うアッセイである。これらの免疫アッセイの有効性は、使用される免疫抑制剤に対する特定の抽出および変性溶媒の影響を受ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
免疫アッセイによる使用のため、低い蒸気圧、水との混和性、十分な免疫抑制剤薬剤変性力および免疫アッセイ試薬との適合性を有する、改善された免疫抑制剤薬剤抽出試薬組成物を提供することが本発明の目的である。このような抽出試薬組成物は、免疫アッセイ以外の方法(例えば、クロマトグラフ定量)に対しても同様に有利となる。なぜなら、より低い蒸気圧、十分な変性力および水混和性は、これらの方法を使用しやすくするからである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(要旨)
本発明は、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、テムソロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンまたはこれらの類似体などの免疫抑制剤薬剤を血液試料から抽出し、同時に、低い蒸気圧を有し免疫アッセイ構成要素適合可能な検査試料抽出物を産するための、改善された抽出試薬組成物および方法を提供する。本発明の試薬組成物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、少なくとも1つの二価金属塩および水を含む。本発明の好ましい試薬組成物は、DMSO、ならびに硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸カドミウム、硫酸銅およびこれらの金属塩のうちの2つ以上の混合物のうちの少なくとも1つを含む。より好ましい試薬組成物は、DMSO、金属塩および2個から6個の炭素原子を有する少なくとも1つグリコール(好ましくは、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)またはEGおよびPGの混合物の少なくとも1つである。)を含む。DMSO、EGおよびPGは、水に混和でき日常的に検査室で用いられている低蒸気圧溶媒であるが、これらは、タンパク質変性剤として使用されているのではなく、むしろ安定化剤としてタンパク質および細胞混合物に添加されることが多い。対照的に、発明者らは、二価金属カチオンの存在下ではより高濃度でのDMSOが、免疫抑制剤薬剤を遊離するのに有効なタンパク質変性剤としての役目を果たせることを見出した。加えて、二価カチオンの存在下では、EGまたはPGと混合される場合、より低濃度のDMSOも、上記濃度の上記溶液は独立に使用された場合は変性的でないものの、有効なタンパク質変性剤の役目を果たすことができる。これらの組合せの各々の使用から結果として生じた検査試料抽出物は、低い蒸気圧を有し、免疫化学的アッセイに適合可能である。
【0009】
本発明はまた、(a)DMSO、二価金属塩および水を含む抽出試薬組成物を検査試料と混合して検査試料抽出物を形成するステップ、(b)検査試料抽出物を、免疫抑制剤薬剤と免疫学的に反応する少なくとも1つの抗体またはタンパク質と混合してアッセイ混合物を形成するステップ、(c)抗体と免疫抑制剤薬剤(もしあるとすれば、試料中に存在する。)の間の複合体の形成に適した条件下でアッセイ混合物をインキュベートするステップ、および(d)形成されたいかなる複合体の存在も検出するステップを含む、検査試料における免疫抑制剤薬剤の濃度レベルを検出する方法も含む。ステップ(d)における複合体の存在の検出は、シグナル生成化合物が付着されている免疫抑制剤を、分析物上の残りの非結合抗体結合部位に結合するのに用いて行うことができる。さらなる実施形態は、ステップ(d)における複合体の存在の検出が、ステップ(c)において形成された複合体に結合する検出可能な抗体を用いて行われることを提供する。
【0010】
本発明はまた、DMSO、少なくとも1つの二価金属塩および水を含み、より好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、または任意の適切なグリコール類似体またはこれらの混合物も含む抽出試薬組成物を含有する容器を含む、免疫抑制剤薬剤の血中レベルに関するアッセイ用試薬キットも含む。好ましくは、試薬キットは、免疫抑制剤薬剤に特異的な少なくとも1つの抗体またはタンパク質を有する第2の容器をさらに含む。より好ましくは、試薬キットは、免疫抑制剤薬剤、例えば、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンおよびこれらの類似体から成る群から選択される免疫抑制剤を含む対照組成物を含有する第3の容器を含有する。
【0011】
本発明は、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、テムソロリムス、ゾタロリムスおよびシクロスポリンの血中濃度レベルを判定するためのより高感度の免疫アッセイを提供する際立った能力を有する。本発明の抽出試薬濃度は、薬剤レベルのより正確な測定を可能にすると同時に、臨床検査室用により良い使いやすさを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】DMSOおよび硫酸亜鉛を用いた血液試料からのシロリムスの抽出に関する実験結果を示す図である。
【図2】DMSOおよびさまざまな量の硫酸亜鉛を用いた血液試料からのシロリムスの抽出に関する実験結果を示す図である。
【図3】DMSO、EGおよび硫酸亜鉛を用いた血液試料からのシロリムスの抽出に関する実験結果を示す図である。
【図4】血液試料からの抽出混合物および本発明の抽出試薬組成物の加熱に関する実験結果を示す図である。
【図5】従来技術のメタノール変性剤の使用の結果、および本発明の使用の結果として生じた試料抽出物蒸発速度の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
I.全般
本発明は、血液試料からのシロリムスなどの免疫抑制剤薬剤の抽出および変性に有用な抽出試薬組成物、本発明の抽出試薬組成物を用いて免疫抑制剤薬剤レベルを定量化する方法、ならびに本発明の抽出試薬組成物を含む診断キットを含む。本発明の好ましい方法は、モノクローナルもしくはポリクローナル抗体などの免疫反応性の特異的結合メンバー、または免疫抑制剤薬剤分析物との複合体の形成に対して結合タンパク質(例えば、FKBP)を使用する免疫アッセイを含む。
【0014】
定義
特許請求の範囲および明細書に使用されている用語は、特に指定のない限り以下に記載のように定義される。
【0015】
「免疫抑制剤薬剤」または「免疫抑制剤」とは、本明細書では、ラパマイシン(シロリムス)、またはシクロスポリンAとしても知られているシクロスポリンのいずれかと同一のまたは類似した化学構造を有する治療化合物(小分子ベースまたは抗体ベースのいずれか)を指す。ラパマイシンもしくはシクロスポリンの任意の既知の類似体または今後開発される類似体は、本明細書では免疫抑制剤と見なされる。好ましい免疫抑制剤には、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、テムソロリムス、ゾタロリムスおよびシクロスポリンが含まれる。タクロリムスおよびシクロスポリンは、インターロイキン2などのサイトカインの阻害により免疫系のTリンパ球の初期活性化を抑制するカルシニューリン阻害剤である。対照的に、シロリムス、エベロリムスおよびゾタロリムスの第1の標的は、特定の細胞周期調節タンパク質である、ラパマイシンの哺乳類標的(mTOR;mammalian target of rapamycin)である。mTORの阻害は、サイトカイン誘導性Tリンパ球増殖の抑制をもたらす。
【0016】
シクロスポリンの化学式は、式Aにある。シロリムス(ラパマイシン)化学式は、式Bにある。シロリムスとエベロリムス(RAD)の構造差の化学式は、式Cにある。
【0017】
【化1】

【0018】
シクロスポリンの多くの誘導体または類似体が調製されている。本発明は、シクロスポリンまたは任意のこの類似体に対する抽出試薬、抽出方法、アッセイおよびアッセイキットを含む。抽出試薬は、溶解試薬としても文献に記載されている。
【0019】
ラパマイシンの多くの誘導体または類似体が調製されている。例えば、これらには、ラパマイシンのエステルモノエステル誘導体およびジエステル誘導体(PCT国際出願WO92/05179)、ラパマイシンの27−オキシム(欧州特許EP0467606)、ラパマイシンの42−オキソ類似体(米国特許第5,023,262号明細書)、二環式ラパマイシン(米国特許第5,120,725号明細書)、ラパマイシン二量体(米国特許第5,120,727号明細書)、ラパマイシンのシリルエーテル(米国特許第5,120,842号明細書)、ならびにアリールスルホン酸塩およびスルファミン酸塩(米国特許第5,177,203号明細書)の調製物が含まれる。ラパマイシンは、この自然発生のエナンチオマー形態において最近合成された(K.C.Nicolaouら、J.Am.Chem.Soc.、1993年、115巻、4419−4420頁;S.L.Schreiber、J.Am.Chem.Soc.、1993年、115巻、7906−7907頁;S.J.Danishefsky、J.Am.Chem.Soc.、1993年、115巻、9345−9346頁。本発明は、ラパマイシンまたは任意のこの類似体に対する抽出試薬、抽出方法、アッセイおよびアッセイキットを含む。
【0020】
ラパマイシンの別の免疫抑制剤類似体は、S.ツクバエンシス(S.tsukubaensis)株から単離された、タクロリムスとしても知られているFK−506である。FK−506の化学式は、欧州特許EP0293892 B1に公開されている。FK−506の類似体には、関連の天然産物FR−900520およびFR−900523が含まれ、これらは、C−21でのアルキル置換基においてFK−506と異なり、S.ハイグロスコピカス・ヤクシムナエンシス(S.hygroscopicus yakushimnaensis)から単離された。S.ツクバエンシスにより生成される別の類似体、FR−900525は、プロリン基とのピペコリン酸部分の置換においてFK−506と異なる。本発明は、FK−506または任意のこの類似体に対する抽出試薬、抽出方法、アッセイおよびアッセイキットを含む。テムソロリムスはシロリムスの別のエステル誘導体であり、上記誘導体は、本発明によりモニターすることができる。
【0021】
今日ではゾタロリムスとしてより知られているABT−578[40−エピ−(1−テトラゾリル)−ラパマイシン]は、ラパマイシン由来の半合成マクロライドトリエン抗生物質である。ゾタロリムスの構造は、式Dに示されている。
【0022】
【化2】

【0023】
本発明は、ゾタロリムスまたは任意のこの類似体に対する抽出試薬、抽出方法、アッセイおよびアッセイキットを含む。本明細書では免疫抑制剤薬剤に関して、用語「構造的に類似した」は、薬剤が少なくとも1つの共通の結合パートナー(例えば、結合タンパク質)に競合的に結合する、十分に類似した構造を薬剤が有することを示す。
【0024】
本明細書では、「抗体」とは、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子のフラグメントにより実質的にコードされる1つまたは複数のポリペプチドから成るタンパク質を指す。この用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体およびこれらのフラグメント、ならびに免疫グロブリン遺伝子配列から操作された分子を包含する。認識されている免疫グロブリン遺伝子には、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロンおよびミュー定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロンに分類され、これらが今度はそれぞれ、免疫グロブリンのクラス、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを規定する。
【0025】
典型的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位は、四量体を含むことが知られている。各々の四量体は、各対が1本の「軽」鎖(約25kD)および1本の「重」鎖(約50−70kDa)を有する、2対の同一のポリペプチド鎖から成る。各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与している約100個から110個以上のアミノ酸の可変領域を規定する。用語「可変軽鎖(VL)」および「可変重鎖(VH)」とは、それぞれこれらの軽鎖および重鎖を指す。
【0026】
抗体は、インタクトな免疫グロブリンとして存在し、またはさまざまなペプチダーゼによる消化により生成された、十分に特徴が明らかな幾つかのフラグメントとして存在する。故に、例えば、ペプシンは、ヒンジ領域におけるジスルフィド架橋より下の抗体を消化して、自身がジスルフィド結合によりVH−CH1に連結された軽鎖であるFabの二量体、F(ab’)2を生成する。F(ab’)2は、穏和な条件下で還元されてヒンジ領域におけるジスルフィド架橋を分解し、これにより(Fab’)2二量体をFab’単量体に変換することができる。Fab’単量体は、基本的に、ヒンジ領域の部分を有するFabである(他の抗体フラグメントのより詳細な記載については、Fundamental Immunology、W.E.Paul編、Raven Press、N.Y.(1993年)を参照のこと。)。さまざまな抗体フラグメントがインタクトな抗体の消化に関して定義されており、当業者であればこのようなFab’フラグメントが、化学的にまたは組換えDNA法の利用により新たに合成され得ることを理解する。
【0027】
故に、用語「抗体」には、本明細書では、抗体全体の修飾により生成される抗体フラグメント、または組換えDNA法を用いて新たに合成される抗体フラグメントのいずれかも含まれる。用語「抗体」はまた、一本鎖抗体(一本鎖ポリペプチドとして存在する抗体)、より好ましくは一本鎖Fv抗体(sFvまたはscFv)も包含する。一本鎖Fv抗体では、可変重鎖および可変軽鎖が(直接またはペプチドリンカーを介して)結合されて連続するポリペプチドを形成する。一本鎖Fv抗体は、共有結合されたVH−VLヘテロダイマーであり、共有結合されたVH−VLヘテロダイマーは、直接結合されたまたはペプチドをコードするリンカーにより結合されたVHコード配列およびVLコード配列を含む核酸から発現され得る(Hustonら、(1988年)Proc.Nat.Acad.Sci.USA、85巻:5879−5883頁)。VHおよびVLは一本のポリペプチド鎖として各々に連結されているが、VHドメインおよびVLドメインは非共有結合している。scFv抗体および幾つかの他の構造は、天然には凝集されているが化学的には分離されている、抗体V領域からの軽鎖ポリペプチドおよび重鎖ポリペプチドを、抗原結合部位の構造に実質的に類似した3次元構造に折りたたむ分子に変換することが、当業者に知られている(例えば、米国特許第5,091,513号明細書、第5,132,405号明細書および第4,956,778号明細書を参照のこと。)。
【0028】
「分析物」とは、本明細書では、検査試料に存在することが疑われ得る、検出されるべき物質を指す。分析物は、自然発生の特異的結合パートナーが存在する任意の物質、または特異結合パートナーが調製され得る任意の物質であってよい。故に、分析物は、アッセイにおいて1つまたは複数の特異的結合パートナーに結合することができる物質である。
【0029】
「結合パートナー」は、本明細書では、結合対のメンバー、すなわち、分子の一方が第2の分子に結合している1対の分子のメンバーである。特異的に結合している結合パートナーは、「特異的結合パートナー」と呼ばれる。免疫アッセイにおいて通常用いられる抗原結合パートナーおよび抗体結合パートナーに加えて、他の特異的結合パートナーには、ビオチンおよびアビジン、炭水化物およびレクチン、相補的ヌクレオチド配列、エフェクター分子およびレセプター分子、補因子および酵素、酵素阻害剤および酵素等が含まれ得る。免疫反応性の特異的結合パートナーには、組換えDNA法により形成されたものを含む、抗原、抗原フラグメント、抗体および抗体フラグメント、モノクローナルおよびポリクローナルの両方、ならびにこれらの複合体が含まれる。
【0030】
用語「特異的結合」は、特定の部位での、結合パートナーの、別のもの(例えば、ポリペプチドおよびリガンド(分析物)、2つのポリペプチド、ポリペプチドおよび核酸分子、または2つの核酸分子)への優先的な結合と本明細書では定義される。用語「特異的に結合する」は、標的分子/配列に対する結合優先性(例えば、親和性)が、非特異的標的分子(例えば特異的認識部位(複数可)を欠くランダムに生成された分子)と比べて少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも5倍、最も好ましくは少なくとも10倍または20倍であることを示している。
【0031】
免疫抑制剤薬剤に特異的に結合する抗体は、この免疫抑制剤薬剤に「特異的」であるといわれる。
【0032】
用語「捕捉剤」は、分析物に、好ましくは特異的に結合する結合パートナーを指すのに本明細書では使用されている。捕捉剤は固相に付着され得る。本明細書では、固相に固定された捕捉剤の分析物への結合は、「固相に固定された複合体」を形成する。
【0033】
用語「標識された検出剤」は、分析物に、好ましくは特異的に結合する結合パートナーを指すのに本明細書では使用されており、検出可能な標識で標識され、またはアッセイでの使用中に検出可能な標識で標識されるようになる。
【0034】
「検出可能な標識」は、検出可能である部分または検出可能にされ得る部分を含む。
【0035】
標識された検出剤に関して用いられる「直接標識」は、任意の手段により検出剤に付着された検出可能な標識である。
【0036】
標識された検出剤に関して用いられる「間接標識」は、検出剤に特異的に結合する検出可能な標識である。故に、間接標識は、検出剤の部分に対する特異的結合パートナーである部分を含む。ビオチンおよびアビジンは、例えば、標識されたアビジンとビオチン化抗体を接触させて間接的に標識抗体を生成することにより用いられるような部分の例である。
【0037】
本明細書では、用語「指示試薬」とは、標識と接触されて検出可能なシグナルを生成する任意の薬剤を指す。故に、例えば、従来の酵素標識では、酵素で標識された抗体は、着色された反応生成物など検出可能なシグナルを生成するのに基質(指示試薬)と接触され得る。
【0038】
用語「検査試料」とは、免疫抑制剤薬剤分析物の源である、動物の生体の構成要素、組織または液体を指す。これらの構成要素、組織および液体には、ヒトおよび動物の体液(全血、血清、血漿、滑液、脳脊髄液、尿、リンパ液、ならびに気道、腸管および尿生殖路のさまざまな外分泌物、涙、唾液、乳汁、白血球、骨髄腫等など)、生物学的液体(細胞培養上清など)、固定された組織検体および固定された細胞検体が含まれる。好ましくは、検査試料はヒト末梢血試料である。
【0039】
II.抽出試薬組成物
本発明の改善された抽出試薬組成物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、少なくとも1つの二価金属塩および水を含む。本発明の好ましい試薬組成物は、DMSOならびに硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸カドミウムおよび硫酸銅のうちの少なくとも1つを含む。より好ましい試薬組成物は、DMSO、エチレングリコールおよびプロピレングリコール、または任意の適切なグリコール類似体および少なくとも1つの金属塩を含む。本発明の好ましい組成物は、摂氏20度および1気圧で測定された場合、水蒸気圧より低い蒸気圧を有し、水に混和できる。
【0040】
本発明の試薬組成物から沈殿しない任意の適切な二価金属塩が使用され得、亜鉛の塩が好ましい。例示的な適切な二価金属には亜鉛、銅およびカドミウムが含まれる。出願人らは、可能性のある二価金属カチオン全てを徹底的に検査してはいないが、硫酸スズおよび硫酸マンガンは、検査濃度では適切でないことを突き止めた。金属塩のアニオンは、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、硫化物、リン酸塩および酢酸塩を含む、任意の適切なアニオンであってよい。好ましい金属塩は硫酸亜鉛である。
【0041】
抽出試薬組成物におけるDMSO濃度は、EGまたはPGなしで使用された場合、抽出試薬組成物の少なくとも約50容量%、好ましくは少なくとも約80容量%、最大約95容量%である。金属塩の濃度は少なくとも約5mMであり、最大約400mMの濃度が使用されてよい。亜鉛塩に対する好ましい濃度範囲は、約30mMから約75mMである。高い塩濃度(例えば約75mMを上回る)の使用は、過剰な金属を除去するのに、この後のアッセイステップにおいてエチレンジアミン4酢酸などのキレート化合物の使用を必要とする場合がある。抽出試薬組成物は、DMSOを水と十分に混合するおよび金属塩を溶解するための任意の適切な混合方法により作製される。
【0042】
出願人らは、EGまたはPGが抽出試薬組成物に含まれるとき、より低濃度のDMSOがより効果的であることを見出した。これらの好ましい組成物では、EG、PGまたはこれらの混合物は、抽出試薬組成物の少なくとも約18容量%、および好ましくは約25容量%から約33容量%の濃度で存在し、DMSOは、抽出試薬組成物の少なくとも約50容量%の濃度で存在する。
【0043】
II.検査試料抽出物の形成
本発明の方法は、一般に、動物、好ましくは哺乳類、およびより好ましくはヒト由来の検査試料に関して行われる。
【0044】
本発明の方法は、血液試料など、目的とする分析物(例えば、免疫抑制剤薬剤)を含有し得る任意の試料を用いて行うことができる。
【0045】
検査試料抽出物は、任意の選択された量の血液試料を抽出試薬組成物と接触させるのに任意の望ましい温度で、任意の混合法により形成される。一般的には、約100μLから約600μLの血液試料が、約200μLから約1200μLの抽出試薬組成物と最大約5分間混合される。好ましくは、免疫抑制剤の抽出は、血液試料150μLを組成物300μLと混合し、5−10秒間激しくボルテックスして達成される。出願人らは、約5分間から約60分間、摂氏約30度から約50度の範囲で室温を上回る温度まで抽出混合物を加熱して抽出を行うことを好む。混合後、得られた懸濁液は、上清相および沈殿剤相(precipitant phase)を生成するのに適切な回転速度で適切な時間、遠心分離される。好ましくは、混合物は、沈殿剤(precipitant)をペレット化するため5分間、13,000rpmで遠心分離される。遠心分離後、上清は任意の適切な方法を用いて分離される。上清は、次いで、クロマトグラフィーおよび免疫アッセイを含む任意の適切な技法を用いて免疫抑制剤に関してアッセイされる。
【0046】
III.免疫アッセイ
別の態様では、本発明は、検査試料における免疫抑制剤薬剤の定性的同定および/または定量化に使用され得る免疫アッセイに関する。本発明は故に、(a)DMSO、少なくとも1つの二価金属塩を含む抽出試薬組成物を検査試料および水と結合させて検査試料抽出物を形成するステップ、(b)免疫抑制剤薬剤に結合することができる少なくとも1つの抗体またはタンパク質を、検査試料抽出物と結合させて検査混合物を形成するステップ、(c)抗体と免疫抑制剤薬剤(もしあるとすれば、試料中に存在し抗体と免疫学的に反応する。)の間の複合体の形成に適した条件下で検査混合物をインキュベートするステップ、および(d)形成されたいずれかの複合体の存在を検出するステップを含む、検査試料における免疫抑制剤薬剤の濃度レベルを検出する方法を含む。本発明の免疫アッセイは、サンドイッチフォーマット、競合的阻害フォーマット(フォワードまたはリバース両方の競合的阻害アッセイを含む。)または蛍光偏光フォーマットなど(ただし、これらに限定されない。)、当技術分野で既知の任意のフォーマットを用いて行うことができる。本発明者らは、優れた競合的阻害免疫アッセイは、本発明の抽出試薬組成物の使用後に行うことができることを発見した。
【0047】
検査試料における免疫抑制剤薬剤の定性的検出または定量的検出のための免疫アッセイでは、免疫抑制剤薬剤に結合する少なくとも1つの抗体またはタンパク質は、免疫抑制剤薬剤を含有することが疑われる、または免疫抑制剤薬剤を含有することが知られている少なくとも1つの検査試料もしくは検査試料抽出物と接触されて、抗体−薬剤またはタンパク質−薬剤の免疫複合体を形成する。特定の免疫抑制剤に結合する任意の適切な抗体または結合タンパク質(例えば、FKBP)が、本発明の免疫アッセイで使用され得る。シロリムス、タクロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンおよびエベロリムスの各々に対する抗体は、当技術分野で知られており、および/または市販されており、これらのいずれも使用することができる。シロリムスを測定するためのAbbott Laboratoriesから市販されているIMx(登録商標)Sirolimusアッセイ(Abbott Laboratories、Abbott Park、IL)またはAbbott Laboratoriesにより販売されている任意の他のSirolimusアッセイキット(例えば、さまざまな商業用自動化プラットホームで使用するための)の構成要素であるモノクローナル抗体を使用することが好ましい。
【0048】
シロリムスなどの免疫抑制剤薬剤に特異的な抗体を生成するための例示的なプロトコルは、以下のように生成され得る。メスのRBf/Dnjマウスに、シロリムス−27−CMO−破傷風トキソイド免疫原の追加免疫を1カ月に3回投与し、この後4カ月目にシロリムス−42−HS−破傷風トキソイド製剤で免疫化する。7カ月後、脾臓内の融合前追加免疫を、融合3日前にシロリムス−27−CMO−破傷風トキソイド免疫原を用いて動物に投与する。次いで、脾臓B細胞を単離し、SP2/0骨髄腫との標準ポリエチレングリコール(PEG)融合に使用する。10−14日後、コンフルエントな培養物を、マイクロタイターEIAにおいて抗シロリムス活性についてスクリーニングし、次いで陽性培養物を限界希釈クローニング法を用いてクローニングする。得られたクローンを単離し、IMDM w/FBS(Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)組織培養培地でスケールアップし、分泌された抗体はProtein Aを用いてアフィニティー精製する。上記の好ましいシロリムス抗体は、シロリムス、エベロリムスおよびゾタロリムスに対する免疫アッセイでの使用にも有効である。
【0049】
タクロリムスに対する免疫アッセイでの使用に例示的な好ましい抗体は、Grune&Stratton,Inc.、Philadelphia、PAにより出版された、A Transplantation Proceedings Reprint(補遺6、第XIX巻、1987年10月、T.Starzl、L.MakowkaおよびS.Todo編)、「FK−506 A Potential Breakthrough in Immunosuppression」23−29頁の、M.Kobayashiら、「A Highly Sensitive Method to Assay FK−506 Levels in Plasma」に記載されている。
【0050】
シクロスポリンに対する免疫アッセイでの使用に例示的な好ましい抗体は、シクロスポリン測定用の、Abbott Laboratoriesから市販されているAxSYM(登録商標)シクロスポリンアッセイの構成要素であるモノクローナル抗体である。
【0051】
抗体−薬剤免疫複合体は、次いで、任意の適切な技法を用いて検出することができる。例えば、抗体は、抗体−薬物複合体の存在を検出するため検出可能な標識で標識することができる。任意の適切な標識が使用されてよい。特定の標識を選択することに重要な意味はないが、選択された標識は、単独でまたは1つもしくは複数の追加の物質との併用により、検出可能なシグナルを生成することができなければならない。
【0052】
したがって、有用な検出可能な標識、これらの抗体または他の結合タンパク質への付着および検出技法は、当技術分野で知られている。当技術分野で既知の任意の検出可能な標識が使用されてよい。例えば、検出可能な標識は、H、125I、35S、14C、32P、33Pなどの放射性標識;西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ペルオキシダーゼ、グルコース6−リン酸脱水素酵素等などの酵素標識;アクリジニウム誘導体、ルミノール、イソルミノール、チオエステル、スルホンアミド、フェナントリジニウムエステル等などの化学発光標識;フルオレセイン(5−フルオレセイン、6−カルボキシフルオレセイン、3’6−カルボキシフルオレセイン、5(6)−カルボキシフルオレセイン、6−ヘキサクロロ−フルオレセイン、6−テトラクロロフルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート等)、ローダミン、フィコビリタンパク質、R−フィコエリトリン、量子ドット(硫化亜鉛キャップ化されたセレン化カドミウム)などの蛍光標識;温度測定標識(thermometric label);または免疫−ポリメラーゼ連鎖反応標識であってよい。標識、標識手順および標識の検出に対する入門書は、PolakおよびVan Noorden、Introduction to Immunocytochemistry、第2版、Springer Verlag、N.Y.(1997年)、ならびにMolecular Probes,Inc.、Eugene、Oregonにより発行されたハンドブックおよびカタログの合冊である、Haugland、Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemi(1996年)に見出され、各々が参照により本明細書に組み込まれる。本発明による使用に好ましい標識は、アクリジニウム−9−カルボキサミドなどの化学発光標識である。さらなる詳細は、Luminescence Biotechnology:Instruments and Applications(Dyke,K.V.編集)77−105頁、CRC Press、Boca Ratonの、Mattingly,P.G.およびAdamczyk,M.(2002年)、Chemiluminescent N−sulfonyl acridinium−9−carboxamides and their application in clinical assaysに見出すことができる。
【0053】
検出可能な標識は、直接またはカップリング剤を介して分析物、分析物類似体または抗体に結合され得る。使用され得るカップリング剤の例は、Sigma−Aldrich社(St.Louis、MO)から市販されているEDAC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、塩酸塩)である。使用され得る他のカップリング剤は、当技術分野で知られている。検出可能な標識を抗体に結合させるための方法は、当技術分野で知られている。さらに、検出可能な標識の抗体へのカップリングを促進する末端基を既に含有している多くの検出可能な標識(N10−(3−スルホプロピル)−N−(3−カルボキシプロピル)−アクリジニウム−9−カルボキサミド(さもなければCPSP−アクリジニウムエステルとして知られている。)またはN10−(3−スルホプロピル)−N−(3−スルホプロピル)−アクリジニウム−9−カルボキサミド(さもなければSPSP−アクリジニウムエステルとして知られている。)など)が、購入または合成され得る。
【0054】
或いは、免疫抑制剤に結合し、検出可能な標識を含有する第2抗体が検査試料または検査試料抽出物に添加されてよく、抗体−薬剤複合体の存在を検出するのに使用されてよい。任意の適切な検出可能な標識がこの実施形態で使用され得る。
【0055】
本発明の免疫アッセイは、サンドイッチフォーマット、競合的阻害フォーマット(フォワードまたはリバース両方の競合的阻害アッセイを含む。)または蛍光偏光フォーマットなど(ただし、これらに限定されない。)、当技術分野で既知の任意のフォーマットを用いて行うことができる。下記の例示的なフォーマットは、免疫抑制剤薬剤をアッセイする観点から記載されている。しかし、当業者であれば理解するように、記載されたフォーマットはいずれの分析物にも適用可能である。
【0056】
好ましいサンドイッチ型のフォーマットなど、免疫抑制剤の定量的検出のための免疫アッセイでは、検査試料または検査試料抽出物における薬剤を分離および定量するのに少なくとも2つの抗体が使用される。より具体的には、少なくとも2つの抗体が薬剤の異なる部分に結合し、「サンドイッチ」と呼ばれる免疫複合体を形成する。一般的には、検査試料における免疫抑制剤を捕捉するのに1つまたは複数の抗体が使用されてよく(これらの抗体は、「捕捉」抗体(複数可)と呼ばれることが多い。)、検出可能な(すなわち、定量化可能な)標識をサンドイッチに結合するのに1つまたは複数の抗体が使用される(これらの抗体は、「検出」抗体(複数可)と呼ばれることが多い。)。サンドイッチアッセイでは、アッセイにおける任意の他の抗体がそれぞれの結合部位に結合することで、薬剤に結合している両抗体が減少されないことが好ましい。換言すれば、抗体は、免疫抑制剤を含有していると疑われる検査試料抽出物と接触させられた1つまたは複数の第1抗体が、第2抗体またはこれに続く抗体により認識される結合部位の全てまたは部分に結合せず、これにより1つまたは複数の第2検出抗体が薬剤に結合する能力を妨害するように選択されるべきである。サンドイッチアッセイでは、抗体、好ましくは、少なくとも1つの捕捉抗体が、検査試料または検査試料抽出物において期待される薬剤最大量のモル過剰量において使用される。例えば、固相含有溶液1mLあたり約5μg/mLから約1mg/mLの抗体が使用され得る。
【0057】
1つの実施形態では、少なくとも1つの第1捕捉抗体が、検査試料からの第1抗体−薬剤複合体の分離を促進する固体担体に結合されてよい。本発明の免疫アッセイで使用される固体担体または「固相」に重要な意味はなく、当業者により選択されてよい。固相または固体担体とは、本明細書では、不溶性であるまたは後の反応により不溶性にされ得る任意の材料を指す。有用な固相または固体担体は、当業者に知られており、反応トレイのウェルの壁、試験管、ポリスチレンビーズ、磁性ビーズ、ニトロセルロースストリップ、膜、ラテックス粒子などの微粒子、ヒツジ(または他の動物)の赤血球、ならびにピルビン酸アルデヒドおよびホルムアルデヒドにより「固定された」赤血球であるDuracytes(登録商標)(Abbott Laboratories、Abbott Park、Ill.の登録商標)等を含む。ペプチドを固相に固定化するのに適した方法には、イオン相互作用、疎水性相互作用、共有結合性相互作用等が含まれる。固相は、捕捉剤を引きつけ固定化する固有の能力に対して選択され得る。或いは、固相は、捕捉剤を引きつけ固定化する能力を有するさらなる受容体を含むことができる。さらなる受容体は、捕捉剤自体に関してまたは捕捉剤に結合された帯電物質に関して逆帯電された帯電物質を含むことができる。さらなる別の代替として、受容体分子は、固相上に固定化され(付着され)、特異的結合反応により捕捉剤を固定化する能力を有する任意の特異的結合メンバーパートナーであってよい。受容体分子は、アッセイの実施前またはアッセイの実施中に、捕捉剤の固相材料への間接結合を可能にする。
【0058】
当技術分野で既知の任意の固体担体(ウェル、管またはビーズ形態の、ポリマー材料でできた固体担体を含むが、これらに限定されない。)が使用されてよい。抗体(複数可)は、吸着により、化学カップリング剤を用いた共有結合によりまたは当技術分野で既知の他の手段により固体担体に結合されてよい(ただし、このような結合が、薬剤に結合する抗体の能力を妨害しないという条件で)。さらに、必要であれば、固体担体は、抗体上のさまざまな官能基との反応性を可能にするように誘導体化されてよい。このような誘導体化は、無水マレイン酸、N−ヒドロキシスクシンイミドおよび1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどの(ただし、これらに限定されない。)特定のカップリング剤の使用を必要とする。
【0059】
固相が、検出抗体による接近を可能にする十分な多孔性、および抗原に結合するのに適した表面親和性を有する任意の適切な多孔質材料を含むこともできることは、本発明の範囲内である。微孔構造が一般的に好ましいが、水和状態でのゲル構造を有する材料も同様に用いられ得る。このような有用な固体担体には、ニトロセルロースおよびナイロンが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは本明細書に記載されたこのような多孔性固体担体は、厚さ約0.01から0.5mm、好ましくは約0.1mmのシート形態であることが企図される。孔のサイズは、広い限界内で変わってよく、好ましくは約0.025から15ミクロン、特に約0.15から15ミクロンである。このような担体の表面は、抗原または抗体の担体への共有結合をもたらす化学プロセスにより活性化され得る。しかし、一般には、抗原または抗体の不可逆的結合は、疎水力による多孔質材料への吸着により得られる。
【0060】
免疫抑制剤を含有していると疑われるまたは含有している検査試料抽出物が、少なくとも1つの第1の捕捉抗体と接触させられた後、得られた混合物は、第1の捕捉抗体(複数可)−薬剤複合体の形成を可能にするためインキュベートされる。インキュベートは、約4.5から約10.0のpHを含む任意の適切なpHで、約2℃から約45℃を含む任意の適切な温度で、および少なくとも約1分から約18時間、好ましくは約4−20分、最も好ましくは約17−19分の適切な時間行われてよい。
【0061】
検出剤の添加および標識複合体の形成後、複合体における標識の量は、当技術分野で既知の技法を用いて定量化される。例えば、酵素標識が使用される場合、標識複合体は、色の発色など定量化可能な反応を提供する標識の基質と反応する。標識が放射性標識である場合、標識はシンチレーションカウンターを用いて定量化される。標識が蛍光標識である場合、標識は、1色の光(「励起波長」として知られている。)で標識を刺激すること、および刺激に反応して標識により発光される別の色(「発光波長」として知られている。)を検出することにより定量化される。標識が化学発光標識である場合、標識は、目視により、またはルミノメーター、X線フィルム、高速写真フィルム、CCDカメラ等を用いることにより、発光を検出して定量化される。複合体における標識の量が定量化されたら、検査試料における薬剤濃度は、例えば、既知濃度の免疫抑制剤薬剤の連続希釈を用いて生成された標準曲線を用いて判定することができる。薬剤の連続希釈を用いる以外に、標準曲線は、重量測定により、質量分析によりおよび当技術分野で既知の他の技法により生成することができる。
【0062】
好ましいフォワード競合フォーマットでは、抗体への結合をめぐって検査試料中に存在する薬剤と競合するのに、既知濃度の標識された薬剤またはこの類似体のアリコートが用いられる。フォワード競合アッセイでは、固定化された抗体が、検査試料および標識された薬剤またはこの薬剤類似体と、連続してまたは同時に接触されてよい。薬剤または薬剤類似体は、上記に論じられた検出可能な標識を含む任意の適切な検出可能な標識で標識されてよい。このアッセイでは、本発明の捕捉抗体は、本明細書で先に論じられた技法を用いて固体担体に固定化されてよい。或いは、捕捉抗体は、微粒子などの固体担体に固定化された抗体(抗種抗体など)にカップリングされてよい。
【0063】
標識された薬剤または薬剤類似体、検査試料抽出物および抗体は、サンドイッチアッセイフォーマットに関連して、上記のものと類似した条件下でインキュベートされる。次いで、2つの異なるタイプの抗体−薬剤複合体が生成される。具体的には、生成された抗体−薬剤複合体の一方が検出可能な標識を含有するのに対し、他方の抗体−薬剤複合体は検出可能な標識を含有しない。抗体−薬剤複合体は、検出可能な標識の定量化の前に試験試料抽出物の残りから分離されてよいが、必ずしも分離される必要はない。抗体−薬剤複合体が試験試料の残りから分離されたか否かにかかわらず、抗体−薬剤複合体における検出可能な標識の量が次いで定量化される。次いで、検査試料における薬剤濃度が、抗体−薬剤複合体における検出可能な標識の量を標準曲線と比較して判定され得る。標準曲線は、質量分析により、重量測定により、および当技術分野で既知の他の技法により、既知濃度の薬剤の連続希釈を用いて生成することができる。
【0064】
抗体−薬剤複合体は、サンドイッチアッセイフォーマットに関連して、抗体を上記に論じられた固体担体などの固体担体に結合させ、次いで試験試料の残りを固体担体との接触から除去して、試験試料から分離され得る。
【0065】
リバース競合アッセイでは、固定化された免疫抑制剤薬剤またはこの類似体が、検査試料または検査試料抽出物および少なくとも1つの標識抗体または標識タンパク質と、連続してまたは同時に接触されてよい。抗体またはタンパク質は、上記に論じられた検出可能な標識を含む、任意の適切な検出可能な標識で標識されてよい。薬剤または薬剤類似体は、サンドイッチアッセイフォーマットに関連して、先に論じられた固体担体などの固体担体に結合されてよい。
【0066】
固定化された薬剤または薬剤類似体、試験試料または検査試料抽出物、および少なくとも1つの標識抗体または標識タンパク質は、サンドイッチアッセイフォーマットに関連して、上記のものと類似した条件下でインキュベートされる。次いで、2つの異なるタイプの抗体−薬剤複合体またはタンパク質−薬剤複合体が生成される。具体的には、生成された抗体−薬剤(またはタンパク質−薬剤)複合体の一方が固定化され、検出可能な標識を含有するのに対し、他方の抗体−薬剤(またはタンパク質−薬剤)複合体は固定化されず、検出可能な標識を含有する。固定化されていない抗体−薬剤複合体、および検査試料または検査試料抽出物の残りは、洗浄などの当技術分野で既知の技法により、固定化された抗体−薬剤複合体の存在から除去される。固定化されていない抗体−薬剤複合体が除去されたら、固定化された抗体−薬剤複合体における検出可能な標識の量が次いで定量化される。次いで、検査試料における薬剤濃度が、抗体−薬剤複合体における検出可能な標識の量を標準曲線と比較して判定され得る。標準曲線は、質量分析により、重量測定により、および当技術分野で既知の他の技法により、既知濃度の薬剤の連続希釈を用いて生成することができる。
【0067】
蛍光偏光アッセイにおいて、1つの実施形態では、抗体または機能的に活性なこのフラグメントが、免疫抑制剤薬剤を含有する非標識検査試料と最初に接触されて、非標識の抗体−薬剤複合体を形成する。非標識の抗体−薬剤複合体は、次いで蛍光標識された薬剤またはこの類似体と接触される。標識された薬剤または薬剤類似体は、抗体または機能的に活性なこのフラグメントへの結合をめぐって、試験試料における任意の非標識薬剤と競合する。形成された標識された抗体−薬剤複合体の量が判定され、標準曲線を用いて検査試料における薬剤量が判定される。
【0068】
本発明のさらなる態様では、(a)DMSO、少なくとも1つの二価金属塩および水を含む抽出試薬組成物を検査試料と結合させて検査試料抽出物を形成するステップ、(b)免疫抑制剤薬剤に結合することができる少なくとも1つの抗体またはタンパク質を、検査試料抽出物と結合させて混合物を形成するステップ、(c)抗体と免疫抑制剤薬剤(もしあるとすれば、試料中に存在し抗体と免疫学的に反応する。)の間の複合体の形成に適した条件下で混合物をインキュベートするステップ、および(d)形成されたいずれかの抗体−免疫抑制剤薬剤複合体の存在を検出するステップを含む、検査試料における免疫抑制剤薬剤の濃度レベルを検出する方法が公開される。
【0069】
IV.他の免疫抑制剤アッセイ
免疫抑制剤濃度の任意の他の代替測定法も、本発明の抽出試薬組成物とともに使用されてよい。例えば、薬剤含量は、N.Brownら、「Low Hematocrit and Serum Albumin Concentrations Underlie the Overestimation of Tacrolimus Concentrations by Microparticle Enzyme Immunoassay versus Liquid Chromatography−Tandem Mass Spectrometry」、Clinical Chemistry.2005年;51:586−592頁に記載されている迅速液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析法などの質量分析ベースの方法により判定することができる。
【0070】
V.計測手段
任意の適切な計測手段または自動化が、血液試料との抽出試薬組成物の接触を実施するうえで、および薬剤濃度レベルのアッセイを実施するうえで使用され得る。サンドイッチハイブリダイゼーションおよび競合免疫アッセイの化学発光検出を用いる、ARCHITECT(登録商標)(Abbott Laboratories、Abbott Park、Ill.の登録商標)システムなどの自動化様式でアッセイを行うことが好ましい。アッセイはまた、ラボオンチップ装置およびシステムなどの小型フォーマットで行うこともできる。
【0071】
VI.免疫アッセイキット
別の態様では、本発明は、好ましくはシロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンおよびこれらの類似体から成る群から選択される、シロリムスまたはシクロスポリンのいずれかと同一のまたは類似した化学構造の免疫抑制剤薬剤を検出するための免疫アッセイキットを含み、キットは、本発明の抽出試薬組成物を含む。これらのキットは、サンドイッチ免疫アッセイを行うのに有用な抗体捕捉剤または抗体指示試薬を含むこともできる。好ましい本発明のキットは、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムスおよびシクロスポリンから成る群から選択される少なくとも1つの免疫抑制剤薬剤に特異的に結合することができる少なくとも1つの抗体またはタンパク質;抽出試薬組成物の50容量%のDMSO、抽出試薬組成物の30容量%−33容量%のEG、PGまたはこれらの混合物、水および少なくとも5mMの濃度で硫酸亜鉛を含む抽出試薬組成物;およびシロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンまたはこれらの類似体から成る群から選択される少なくとも1つ免疫抑制剤薬剤を含む対照組成物を、それぞれ含有する容器を含む。
【0072】
特定の免疫抑制剤薬剤アッセイに対する任意の適切な対照組成物は、本発明のキットに含まれ得る。対照組成物は、一般的に、アッセイされるべき実際の免疫抑制剤を任意の望ましい添加剤とともに含む。例えば、タクロリムスの対照組成物は、米国特許第5,338,684号明細書、Grenierらに記載されている対照組成物であってよい。
【0073】
本発明によるキットは、固相、および固相に付着された捕捉剤またはアッセイ中に固相に付着されるようになる捕捉剤を含むことができる。例示的な実施形態では、固相は、1つまたは複数の微粒子または電極を含む。このようなキットがサンドイッチ免疫アッセイの実施に使用される場合、キットはさらに標識された検出剤を含むことができる。特定の実施形態では、検査キットは、アクリジニウム−9−カルボキサミドなど、少なくとも1つの直接標識を含む。本発明による検査キットは、少なくとも1つの間接標識も含むことができる。使用される標識が、検出可能なシグナルを生成するための指示試薬を一般的に必要とする場合、検査キットは、好ましくは1つまたは複数の適切な指示試薬を含む。
【0074】
本発明によるキットは、好ましくは本発明の1つまたは複数の免疫アッセイを行うための指示書を含む。本発明のキットに含まれている指示書は、包装材料に貼付されてよくまたは添付文書として含まれてよい。指示書は典型的には書面による資料または印刷物であるが、指示書はそのようなものに限定されない。このような指示書を保管することができ、エンドユーザーにこれらを伝達することができる任意の媒体が、本発明により企図される。このような媒体には、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、磁気テープ、磁気カートリッジ、磁気チップ)、光学媒体(例えば、CD ROM)等が含まれるが、これらに限定されない。本明細書では、用語「指示書」は、指示書を提供するインターネットサイトのアドレスを含むことができる。
【0075】
当然ながら、例えば、米国特許第5,089,424号明細書および第5,006,309号明細書に記載されているように、ならびに例えば、Abbott LaboratoriesのARCHITECT(登録商標)、AxSYM(登録商標)、IMX(登録商標)、ABBOTT PRISM(登録商標)およびQuantum IIプラットホーム、および他のプラットホームを含むがこれらに限定されない、Abbott Laboratories(Abbott Park、IL)により市販されているもののように、本明細書における任意の例示的フォーマット、および本発明による任意のアッセイまたはキットは、自動化システムおよび半自動化システム(微粒子を含む固相が存在するものを含む。)での使用に適応または最適化され得ることは言うまでもない。
【0076】
さらに、本発明のアッセイおよびキットは、Abbott LaboratoriesのPoint of Care(i−STAT(登録商標))電気化学免疫アッセイシステムを含む、ポイントオブケアアッセイシステム(point of care assay system)に対し、場合によって適応または最適化され得る。免疫センサー、ならびにこの製造方法、および使い捨て検査装置における操作方法は、例えば、米国特許第5,063,081号明細書、ならびに公開された米国特許出願第20030170881号、第20040018577号、第20050054078号および第20060160164号(これらに関する教示に対し、参照により本明細書に組み込まれる。)に記載されている。
【0077】
(実施例)
以下の例は、請求された本発明を説明するのに提供されるものであり、限定するために提供されるものではない。
【実施例1】
【0078】
本例は、血液試料中の結合タンパク質からシロリムスを抽出するための硫酸亜鉛と併用したDMSOの使用を説明する。抽出されたシロリムスは、免疫アッセイにより測定される。
【0079】
抽出試薬組成物を、DMSO 86%、水14%および硫酸亜鉛40mMの最終濃度で調製した。血中シロリムス試料の抽出は、血液試料100μLを試薬組成物200μLと混合し、5−10秒間激しくボルテックスして達成した。得られた懸濁液は、沈殿剤をペレット化するため5分間、13,000rpmで遠心分離し、上清抽出物を以下のようにシロリムスに関してアッセイした。アッセイは、自動化ARCHITECT(登録商標)i2000(登録商標)アナライザー(Abbott Laboratories、Abbott Park、Illinois)において実施した。
【0080】
1.試料抽出物10−40μLを、ヤギ抗マウス抗体(Sigma−Aldrich、St.Louis、Missouri)およびマウス抗シロリムス抗体(以下に記載されているように調製)でコートした微粒子50μLと混合。
2.反応混合物を約18分間、33−38℃でインキュベート。試料中のシロリムスが微粒子上の抗シロリムス抗体に結合する。
3.アクリジニウム−シロリムス結合体20μLを反応混合物に添加。
4.反応混合物を約4分間、33−38℃でインキュベート。アクリジニウム−シロリムス結合体が空いている抗シロリムス結合部位に結合する。
5.微粒子をリン酸緩衝液で洗浄。
6.捕捉されたアクリジニウム−シロリムス標識を発光させるためプレトリガー(酸性溶液)およびトリガー(塩基性溶液)を添加。発光は機器により測定される。
【0081】
シロリムス結合抗体は以下のように生成した。メスのRBf/Dnjマウスに、シロリムス−27−CMO−破傷風トキソイド免疫原の追加免疫を1カ月に3回投与し、この後4カ月目にシロリムス−42−HS−破傷風トキソイド製剤で免疫化した。7カ月後、脾臓内の融合前追加免疫を、融合3日前にシロリムス−27−CMO−破傷風トキソイド免疫原を用いて動物に投与した。脾臓B細胞を単離し、SP2/0骨髄腫との標準PEG融合に使用した。10−14日後、コンフルエントな培養物を、マイクロタイターEIAにおいて抗シロリムス活性についてスクリーニングし、陽性培養物を限界希釈クローニング法を用いてクローニングした。単離したクローンを、IMDM w/FBS(Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)組織培養培地でスケールアップし、分泌された抗体はProtein Aを用いてアフィニティー精製した。
【0082】
反応曲線データは表1および図1に示されており、シロリムスがDMSO/硫酸亜鉛組成物により結合タンパク質から遊離されたことを示している。
【0083】
【表1】

【0084】
表1のシグナル測定はRLU(相対発光量)で示されている。RLUは、ARCHITECT(登録商標)システムで利用されている測定の光学単位の呼称である。ARCHITCT光学システムは、基本的に、化学発光反応による発光について光子計数を行う光電子倍増管(PMT)である。化学発光反応により生成された光の量は、反応混合物中に存在するアクリジニウムトレーサーの量に比例するため、化学発光反応が起こる時点で反応混合物中に残っているアクリジニウムの量に同じく比例する患者試料分析物の定量を可能にする。
【0085】
用語、相対発光量は、特定量のアクリジニウムとの光子計数の関係に由来する。各光学モジュールは、一連のアクリジニウム基準により較正される。化学発光反応が起こると、光が放出され、光子が3秒間にわたって測定される。PMTは、計数された光子をデジタルシグナルに変換し、デジタルシグナルは次いで処理のために回路基板に送られる。光学回路基板は、PMTからのデジタルシグナルを計数された光子に比例するアナログシグナルに変換し、アナログシグナルは同じく、存在するアクリジニウムの量に比例する。このアナログシグナルが、次いで、さらに処理されてRLU値を生成する。この関係は、光学モジュールを較正するための基準をもたらすために確立されており、さまざまなアクリジニウム基準がこれらに割り当てられたRLU値を有する。したがって、RLU単位自体は任意であるが、RLU単位は特定量のアクリジニウムに比例(すなわち、相対)する。
【実施例2】
【0086】
本例は、組成物中のさまざまな亜鉛濃度の有用性を説明する。
【0087】
組成物は、DMSO 90%および水10%において硫酸亜鉛のさまざまな最終濃度(0、10、20、40および80mM)で調製した。血中シロリムス試料の抽出は、血液試料400μLを組成物800μLと混合し、5−10秒間激しくボルテックスして達成した。得られた懸濁液は、沈殿剤をペレット化するため5分間、13,000rpmで遠心分離し、上清をシロリムスに関してアッセイした。シロリムスアッセイは実施例1のように実施した。検査データは表2および図2に示されており、結合タンパク質からのシロリムスの遊離が、亜鉛塩の添加により改善されたことを示している。出願人らは、塩化亜鉛、硝酸亜鉛および酢酸亜鉛も検査し、これらが有効であることを突き止めた。
【0088】
【表2】

【実施例3】
【0089】
本例は、組成物中のさまざまな二価カチオンの有用性を説明する。
【0090】
抽出組成物は、以下の表に示されているように(残りの値は水であった。)、金属塩(硫酸亜鉛、硫酸カドミウム、硫酸銅、 硫酸スズおよび硫酸マンガン)およびDMSOのさまざまな最終濃度で調製した。血中シロリムス試料の抽出は、血液試料200μLを組成物400μLと混合し、5−10秒間激しくボルテックスして達成した。得られた懸濁液は、沈殿剤をペレット化するため5分間、13,000rpmで遠心分離し、上清をシロリムスに関してアッセイした。シロリムスアッセイは実施例1のように実施した。本例のデータは表3に示されており、亜鉛以外の金属塩も利用できることを示している。
【0091】
【表3】

【実施例4】
【0092】
本例は、抽出試薬組成物中のDMSOおよびEGのさまざまな比の有用性を説明する。
【0093】
組成物は、DMSOおよびエチレングリコールのさまざまな最終濃度比(パーセントDMSOおよびパーセントエチレングリコールは、それぞれ80:18、75:23、70:28、65:33および60:33であった。)で調製した。全ての組成物は、水2%および硫酸亜鉛40mMを有した。血中シロリムス試料の抽出は、血液試料150μLを組成物300μLと混合し、5−10秒間激しくボルテックスして達成した。得られた懸濁液は、沈殿剤をペレット化するため5分間、13,000rpmで遠心分離し、上清をシロリムスに関してアッセイした。シロリムスアッセイは実施例1のように実施した。本例のデータは表4および図3に示されており、十分な変性力は、エチレングリコール濃度が上昇するならば、DMSO濃度が低下する場合に維持され得ることを示している。
【0094】
【表4】

【0095】
単独で使用される場合、全く有効でないまたはわずかにのみ有効であるDMSOまたはエチレングリコールの濃度(例えば、DMSO 65%またはエチレングリコール33%)は、併用ではきわめて有効である。プロピレングリコールは、DMSO:エチレングリコール混合物でのエチレングリコールの代わりとなり得る(データ不図示)。DMSO:エチレングリコール混合物は、硫酸亜鉛の可溶性の増大というさらなる利点を有する。
【実施例5】
【0096】
本例は、抽出混合物を加熱して達成されたシロリムス抽出効率の改善を説明する。
【0097】
DMSOベースの組成物は、DMSO 70%、エチレングリコール28%、水2%および硫酸亜鉛46mMの最終濃度で調製した。血中シロリムス試料の抽出は、血液試料150μLを組成物300μLと混合し、5−10秒間激しくボルテックスし、さまざまな温度で15分間インキュベートして達成した。得られた懸濁液は、沈殿剤をペレット化するため5分間、13,000rpmで遠心分離し、上清をシロリムスに関してアッセイした。シロリムスアッセイは実施例1のように実施した。
【0098】
本例のデータは表5および図4に示されており、抽出混合物が加熱される場合、シロリムスのより効率的な遊離が起こることを示している(すなわち0ng/mL基準物質と3ng/mL基準物質の間の差が温度の上昇とともに増大する。)。
【0099】
【表5】

【実施例6】
【0100】
本例は、典型的なメタノールベースの抽出組成物と比較したDMSOベースの抽出組成物の最低蒸発を説明する。
【0101】
DMSOベースの組成物は、DMSO 70%、エチレングリコール28%、水2%および硫酸亜鉛46mMの最終濃度で調製した。メタノールベースの組成物は、メタノール80%、エチレングリコール18%、水2%および硫酸亜鉛50mMの最終濃度で調製した。どちらかの組成物を有する血中シロリムス試料の抽出は、血液試料125μLを組成物250μLと混合し、5−10秒間激しくボルテックスして達成した。DMSOベースの組成物抽出混合物は10分間42℃でインキュベートし、メタノールベースの組成物抽出混合物は10分間室温でインキュベートした。抽出混合物は、沈殿剤をペレット化するため5分間、13,000rpmで遠心分離し、上清をARCHITECT(登録商標)i2000(登録商標)アナライザーで用いた試料カップにデカントした。一連の試料は、試料カップにデカント後直ちに(タイムゼロ)ならびに1、2および3時間後に蒸発について検査した(試料は室温、約22℃で置かれた。)。検査データは表6および図5に示されており、より高いシロリムス濃度として現れる、メタノールベースの組成物の急速な蒸発を示している。2時間未満では、シロリムス濃度の誤差はメタノールベースの組成物では10%を超えていたが、DMSO組成物では基本的に濃度の変化は生じなかった。シロリムス濃度の誤差は、湿度がより低い場合またはインキュベーション温度がより高い場合(免疫化学的アッセイアナライザーのなかには、37℃近い温度で試料をインキュベートするものもある。)に増大すると考えられる。
【0102】
【表6】

【0103】
上記の例示的な実施形態は、本発明の全ての点で、限定ではなく説明することが意図されている。故に、本発明は、当業者による、本明細書の記載から派生され得る多くの変形および修正を実施することができる。このような変形および修正は全て、以下の特許請求の範囲により定義されているように、本発明の範囲内および趣旨内であると見なされる。
【0104】
加えて、共同所有されている、同時係属出願の、2006年12月29日に出願された米国仮出願第60/882,732号は、全血における分子または薬剤を検出するための診断検査に関する教示に対し、この全体が参照により明らかに組み込まれる。
【0105】
共同所有されている、同時係属出願の、2006年12月29日に出願された米国仮出願第60/878,017号は、溶液中捕捉(capture−in−solution)免疫アッセイと共に使用するための非変性溶解試薬に関する教示に対し、この全体が参照により明らかに組み込まれる。
【0106】
共同所有されている、同時係属出願の、2006年12月29日に出願された米国本出願第11/618,495号は、非変性性の溶解試薬に関する教示に対し、この全文が参照により明らかに組み込まれる。
【0107】
共同所有されている、同時係属出願の、2006年7月21日に出願された米国本出願第11/490,624号は、抽出用試薬組成物に関する教示に対して、この全文が参照により明らかに組み込まれる。
【0108】
共同所有されている、同時係属出願の、2006年12月29日に出願された米国仮出願第60/882,863号は、免疫抑制剤薬剤に対する改善されたアッセイに関する教示に対し、この全文が参照により明らかに組み込まれる。
【0109】
加えて、本明細書に引用された他の出版物、特許および特許出願は全て、全ての目的において、これらの全文が参照により本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルスルホキシド、少なくとも1つの二価金属塩および水を含む抽出試薬組成物とヒト血液試料を接触させることを含む、ヒト血液試料における免疫抑制剤薬剤濃度の評価方法。
【請求項2】
抽出試薬組成物が、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリコール類似体またはこれらの混合物をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項3】
抽出試薬組成物とのヒト血液試料の接触から結果として生じるいかなる固相も、結果として生じるいかなる上清相からも分離すること、および免疫抑制剤薬剤に関して上清相を分析することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項4】
免疫抑制剤薬剤が、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンまたはこれらの類似体から成る群から選択される、請求項1の方法。
【請求項5】
抽出試薬組成物におけるジメチルスルホキシド濃度が、変性試薬組成物の少なくとも約50容量%である、請求項2の方法。
【請求項6】
抽出試薬組成物におけるジメチルスルホキシド濃度が、変性試薬組成物の少なくとも約30容量%である、請求項2の方法。
【請求項7】
二価金属塩が、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸カドミウム、硫酸銅またはこれらの金属塩のうちの2つ以上の混合物を含む、請求項1から6のいずれかの方法。
【請求項8】
抽出試薬組成物が、摂氏20度および標準大気圧で水蒸気圧より低い蒸気圧を有する、請求項1から6のいずれかの方法。
【請求項9】
抽出試薬組成物が、少なくとも摂氏約30度の温度で血液試料と接触させられる、請求項1から6のいずれかの方法。
【請求項10】
ジメチルスルホキシド、少なくとも1つの二価金属塩および水を含む、血液試料から免疫抑制剤薬剤を抽出するための抽出試薬組成物。
【請求項11】
エチレングリコール、プロピレングリコール、グリコール類似体またはこれらの混合物をさらに含む、請求項10の抽出試薬組成物。
【請求項12】
抽出試薬組成物におけるジメチルスルホキシド濃度が、抽出試薬組成物の少なくとも約50容量%である、請求項10の抽出試薬組成物。
【請求項13】
抽出試薬組成物におけるジメチルスルホキシド濃度が、抽出試薬組成物の少なくとも約50容量%である、請求項11の抽出試薬組成物。
【請求項14】
抽出試薬組成物におけるジメチルスルホキシド濃度が、抽出試薬組成物の少なくとも約30容量%である、請求項11の抽出試薬組成物。
【請求項15】
抽出試薬組成物が、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸カドミウム、硫酸銅またはこれらの金属塩のうちの2つ以上の混合物から成る群から選択される二価金属塩を含む、請求項10から14のいずれかの抽出試薬組成物。
【請求項16】
抽出試薬組成物が硫酸亜鉛を含む、請求項10から14のいずれかの抽出試薬組成物。
【請求項17】
抽出試薬組成物が酢酸亜鉛を含む、請求項10から14のいずれかの抽出試薬組成物。
【請求項18】
ジメチルスルホキシド、少なくとも1つの二価金属塩および水を含む抽出試薬組成物とヒト血液試料を接触させて固相および上清相を生成すること、上清相を分離すること、および免疫アッセイにより上清相を分析して免疫抑制剤薬剤濃度を判定することを含む、ヒト血液試料における免疫抑制剤薬剤濃度の評価方法。
【請求項19】
抽出試薬組成物が、エチレングリコール、プロピレングリコールまたはこれらの混合物をさらに含む、請求項18の方法。
【請求項20】
免疫抑制剤薬剤が、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンまたはこれらの類似体から成る群から選択される、請求項18の方法。
【請求項21】
抽出試薬組成物におけるジメチルスルホキシド濃度が、変性試薬組成物の少なくとも50容量%である、請求項18の方法。
【請求項22】
抽出試薬組成物におけるジメチルスルホキシド濃度が、変性試薬組成物の少なくとも約30容量%である、請求項18の方法。
【請求項23】
二価金属塩が、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸カドミウム、硫酸銅またはこれらの金属塩のうちの2つ以上の混合物を含む、請求項18から22のいずれかの方法。
【請求項24】
抽出試薬組成物が、少なくとも摂氏30度の温度で血液試料と接触させられる、請求項18から22のいずれかの方法。
【請求項25】
(a)シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムスおよびシクロスポリンから成る群から選択される少なくとも1つの免疫抑制剤薬剤に特異的に結合することができる少なくとも1つの抗体またはタンパク質、ならびに(b)ジメチルスルホキシド、少なくとも1つの二価金属塩および水を含む抽出試薬組成物、から選択される構成要素を各々が含有する別個の容器を含む検査キット。
【請求項26】
シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムスおよびシクロスポリンから成る群から選択される少なくとも1つの免疫抑制剤薬剤を含む対照組成物を含有する容器をさらに含む、請求項25の検査キット。
【請求項27】
二価金属塩が、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸カドミウムまたは硫酸銅を含む、請求項25または26の検査キット。
【請求項28】
抽出試薬組成物が、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリコール類似体またはこれらの混合物をさらに含む、請求項25または26の検査キット。
【請求項29】
(a)シロリムス、タクロリムス、エベロリムスおよびシクロスポリンから成る群から選択される少なくとも1つの免疫抑制剤薬剤に特異的に結合することができる少なくとも1つの抗体またはタンパク質、ならびに(b)抽出試薬組成物の約50容量%のジメチルスルホキシド、抽出試薬組成物の約30容量%−33容量%のエチレングリコール、プロピレングリコールまたはこれらの混合物、水および少なくとも5mMの濃度の硫酸亜鉛を含む抽出物試薬組成物から選択される構成要素、ならびにシロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムスおよびシクロスポリンから成る群から選択される少なくとも1つの免疫抑制剤薬剤を含む対照組成物を各々が含有する別個の容器を含む検査キット。
【請求項30】
検査キットが、シロリムスを含む、請求項29の検査キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−508209(P2011−508209A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539402(P2010−539402)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/088056
【国際公開番号】WO2009/078875
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】