説明

免疫クロマトグラフィー測定装置

【課題】クロマトグラフィー試験片上に設けた固定化試薬部に測定成分以外のゴミや標識物質の流れ残りなどが残留している場合でも、正確な呈色度を求めて測定成分の濃度を判定できる免疫クロマトグラフィー測定装置を提供する。
【解決手段】クロマトグラフィー試験片上の複数の試薬固定化部のそれぞれを所定のサンプリング間隔で光学的に読み取り、読み取りデータを生成する呈色部読み取り手段1と、前記読み取りデータから前記試薬固定化部毎の呈色度を算出する呈色度算出手段2と、前記試薬固定化部毎の呈色度の時間的変化を呈色度データ列としてそれぞれ記憶する呈色度記憶手段3と、前記試薬固定化部毎の呈色度データ列から定常呈色度を求める定常値検出手段4と、前記試薬固定化部毎の定常呈色度を組み合わせて用いて前記被検査液中の測定成分の濃度を判定する濃度判定手段5とを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫クロマトグラフィー測定装置に関し、詳細には、免疫クロマトグラフィー試験片上に設けた固定化試薬部の呈色度を光学的に観測して測定対象物(以下、測定成分という)の濃度を判定する免疫クロマトグラフィー測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫クロマトグラフィーは、湿潤可能な展開層(クロマトグラフィー担体)を用い、抗原抗体反応を利用して、固定化試薬および標識試薬との複合体を形成させることにより、被検査液中の測定成分を定性もしくは定量する免疫測定系である。通常すべての試薬は乾燥状態にあり、展開層を被検査液が浸透していく過程でB/F分離が実施される。
【0003】
クロマトグラフィー試験片の一例を図6に示す。ニトロセルロースなどを材料とする多孔質担体201上に、導入部202、標識部203、第1試薬固定化部204、第2試薬固定化部205がこの順に設けられており、導入部202に点着された被検査液は、毛細管現象により引き込まれ、標識部203、第1試薬固定化部204、第2試薬固定化部205へと順に浸透していくようになっている。図示を簡略にするために、多孔質担体201を支持している基板や、毛細管現象を起こすために導入部202近傍に設けられている間隙形成材などは省略している。
【0004】
標識部203には、被検査液中の測定成分を標識するための標識試薬が予め塗布されて保持されており、この標識試薬が、浸透してきた被検査液中に溶出され測定成分と反応して複合体を形成する。第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205には、測定成分と特異的に結合する試薬が予め塗布され保持されており、この試薬が、浸透してきた被検査液中に含まれる測定成分と標識試薬との複合体を捕捉して固定化する。固定化に伴って第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205が呈色するので、その呈色度から測定成分を検出、測定する。
【0005】
従来の免疫クロマトグラフィー測定装置は、図7に示すようなもので、クロマトグラフィー試験片上の複数の試薬固定化部を呈色部読み取り手段1が光学的な機構で読み取り、読み取った試薬固定化部毎の反射光強度から呈色度算出手段2が呈色度としての吸光度を算出し、算出した複数の吸光度の組み合わせから濃度判定手段5が測定成分の濃度を判定するように構成されている。複数の吸光度の組み合わせで濃度を判断するのは、測定ダイナミックレンジを拡張するためであるが、これについて後述する。
【0006】
呈色部読み取り手段1は、光源からの光をレンズを通してクロマトグラフィー試験片に入射させ、その反射光を光検出器で受光するように構成されている。その際に、クロマトグラフィー試験片を光源からの光に対して相対的に移動させて、クロマトグラフィー試験片上の任意の場所に光を当て、その反射光を光検出器で受光する。
【0007】
ここで、強度Iの単色光が物質層を透過して強度Iになったとき、その波長における物質層の吸光度Aは下式で表される。この吸光度Aは、物質層が光学的に均一のとき、層厚さ、吸収物質の濃度に比例する(Lambert-Beerの法則)。このため、測定成分の濃度と吸光度との相関を実験的に求めておき、実際の検査対象物の吸光度を測定し、前記相関に基づいて、濃度を求めるという定量分析が一般に行われている。
【0008】
A=log10(I/I)・・・(1)
クロマトグラフィー試験片の場合は、呈色領域(第1試薬固定化部204または第2試薬固定化部205)での反射光の強度と、呈色領域近傍の多孔質担体での反射光の強度とを読み取り、吸光度を算出(以下測定という)する。このようにすることにより、血液中の抗体など、微量の物質を定量することができる(例えば、特許文献1を参照)。
【0009】
しかし、第1試薬固定化部204および第2試薬固定化部205に塗布されている試薬と測定成分との組み合わせによっては、プロゾーンと呼ばれる現象が発生し、呈色度から正確な濃度が測定できない。このことについて以下に説明する。
【0010】
図8に示す曲線701は、測定成分の濃度と吸光度との間の関係を濃度既知の溶液を用いて実験的に求めたもの、いわゆる検量線である。図から明らかなように、測定成分の濃度がある一定のレベルまでは、濃度と吸光度とは比例の関係にある(領域702)が、そのレベルを超えると、吸光度が飽和し、さらには濃度が大きくなるにつれて吸光度が減少するという現象が起こる(領域703)。これは、高濃度領域で試薬との反応が阻害されるために起こる現象であり、この現象がプロゾーン現象と呼ばれる。プロゾーン現象の大きな問題は、被検査液中の測定成分が実際には高濃度であるにも関わらず、それよりも低濃度の値が得られることにある。
【0011】
例えば、プロゾーン領域(領域703)にある濃度D3を有する被検査液を濃度未知であるとして検査する場合、得られる吸光度値はA2あるいはそれに近い値になるはずである。この吸光度値A2に対応する測定成分の濃度を曲線701を参照して求めるわけであるが、曲線701からは濃度がD2とD3のいずれであるのかは一意に決定することができない。本来の測定成分の濃度はD3であるのに、濃度D2であると低く判定してしまう可能性がある。正しく測定できる濃度範囲、すなわち測定ダイナミックレンジは、領域702に限定される。
【0012】
このようなプロゾーン現象の問題を解決するべく、上述のクロマトグラフィー試験片のように、複数の試薬固定化部を設け、それぞれに測定成分あるいは標識試薬に対する親和力が異なる試薬を塗布しておくことにより、高濃度の測定成分を含む被検査液であっても、各試薬固定化部から得られる呈色度値の組み合わせから、正しい濃度を判定する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この濃度判定方法について説明する。なお、親和力が異なるということは、プロゾーン領域に入る濃度が異なるということであり、複数の試薬固定化部に塗布する試薬を適切に選択すれば、測定したい任意の濃度の被検査液に対して、少なくとも一つの試薬固定化部は測定ダイナミックレンジに入っていることになる。
【0013】
図9に示す曲線801,802は、2つの試薬固定化部のそれぞれでの測定成分の濃度と吸光度との間の関係を実験的に求めたもの、いわゆる検量線である。曲線801が下流側の第1試薬固定化部に対応しており、曲線802が上流側の第2試薬固定化部に対応している。
【0014】
濃度未知の被検査液について、たとえば、第1試薬固定化部から吸光度A4の値が得られ、かつ、第2試薬固定化部では呈色がほとんど見られず、有意な吸光度値が得られなかった場合、曲線801を参照して、被検査液中の測定成分の濃度はD4であると一意に決定できる。
【0015】
一方、第1試薬固定化部から吸光度A5の値が得られ、かつ、第2試薬固定化部から吸光度B5の値が得られた場合、測定成分の濃度は、曲線801だけを参照すると、吸光度A5に対応する濃度D5と濃度D6の2通りに考えられるが、曲線802をも参照することで、吸光度B5の値に対応する濃度D5であると一意に決定できる。同様に、第1試薬固定化部から吸光度A5の値が得られ、かつ、第2試薬固定化部から吸光度B6の値が得られた場合、測定成分の濃度はD6であると一意に決定できる。
【0016】
以上のようにして、第1試薬固定化部についてプロゾーン領域にある濃度D5、D6であっても、第2試薬固定化部をも設けていることにより、正しく判定することができる。
つまり、第1および第2の試薬固定化部を設けた試験片を用いる場合、測定ダイナミックレンジは、第1試薬固定化部単独の測定ダイナミックレンジである領域803と、第2試薬固定化部単独の測定ダイナミックレンジである領域804との2領域を合成した領域805となる。単一の試薬固定化部を設けた場合よりも、一つの試験片において、かつ一度の測定において、広範囲な測定ダイナミックレンジの測定が可能になるのである。
【特許文献1】特開2002−98631公報
【特許文献2】国際公開WO2003/014740公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記したように複数の試薬固定化部を設けて各試薬固定化部を読み取る場合も、読み取りタイミングでいずれかの試薬固定化部の状態が不安定なときには、測定成分と標識試薬との複合体による本来の呈色状態を反映していない呈色度が算出され、正確な濃度が判定されない恐れがある。例えば、未反応の標識物質やゴミが下流側へ流れきらずに第2固定化試薬部上に残留しているときである。
【0018】
このことを、図10を参照して、先の図9と同じ曲線801,802を検量線として用いるものとして説明する。第1試薬固定化部上には未反応の標識物質の流れ残りは無く、第2試薬固定化部上に同標識物質の流れ残りがあるものと想定する。そして、第2試薬固定化部から本来は吸光度B7の値が得られるはずのところ、標識物質の流れ残りの影響で吸光度値B7´が得られたと想定する。
【0019】
この場合、第2試薬固定化部にかかる曲線802から吸光度値B7´に対応する濃度D7´であると判定される。その一方で、第1試薬固定化部から標識物質の流れ残りの影響のない吸光度A7の値が得られ、曲線801から、吸光度値A7に対応する濃度D7であると判定される。濃度がD7、D7´のいずれであるのか、一意に決定することができない。
【0020】
また、吸光度値B7´がB8に近い値であれば、第2試薬固定化部にかかる曲線802から、また第1試薬固定化部にかかる曲線801を参照して、濃度D8であると誤って判定してしまう恐れがある。
【0021】
本発明は、上記問題に鑑み、クロマトグラフィー試験片に設けた固定化試薬部にゴミや標識物質の流れ残りなどの測定対象外の物質が残留している場合でも、正確な呈色度を求めて測定成分の濃度を判定できる免疫クロマトグラフィー測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の免疫クロマトグラフィー測定装置は、クロマトグラフィー試験片上に被検査液中の測定成分もしくは前記測定成分を標識する標識試薬に対する親和力が各々異なる試薬が固定化された複数の試薬固定化部のそれぞれを、前記被検査液の展開開始後に所定のサンプリング間隔で光学的に読み取り、読み取りデータを生成する光学的読み取り手段と、前記読み取りデータから前記試薬固定化部毎の呈色度を算出する呈色度算出手段と、前記試薬固定化部毎の呈色度の時間的変化を呈色度データ列としてそれぞれ記憶する呈色度記憶手段と、前記試薬固定化部毎の呈色度データ列から定常呈色度を求める定常値検出手段と、前記試薬固定化部毎の定常呈色度を組み合わせて用いて前記被検査液中の測定成分の濃度を判定する濃度判定手段とを備えたことを特徴とする。
【0023】
光学的読み取り手段は、クロマトグラフィー試験片上の複数の試薬固定化部に光を照射する光源と、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を検出する光検出器とを備えており、前記光検出器で検出される光学信号を読み取りデータとするものであってよい。
【0024】
また光学的読み取り手段は、クロマトグラフィー試験片上の複数の試薬部固定化を撮像するイメージセンサを備えており、前記イメージセンサで撮像される画像を読み取りデータとするものであってよい。
【0025】
定常値検出手段は、試薬固定化部毎の呈色度データ列について、呈色度の最大値と最小値の差が所定値以下になる定常期間を求め、前記定常期間に含まれる部分データ列を抽出し、抽出した部分データ列を基に定常呈色度を決定することを特徴とする。
【0026】
定常呈色度は、抽出した部分データ列を構成している複数の呈色度値の平均値とすることができる。定常呈色度は、抽出した部分データ列を構成している複数の呈色度値の中央値とすることができる。
【0027】
定常値検出手段は、定常呈色度を求める呈色度データ列を、被検査液の展開開始から所定時間経過後の呈色度データ列に限定するように構成するのが好ましい。また定常値検出手段は、被検査液の展開開始後に初めて所定の閾値以上になる呈色度変化のピークを求め、定常呈色度を求める呈色度データ列を前記ピーク後の呈色度データ列に限定するように構成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の免疫クロマトグラフィー測定装置によれば、呈色度記憶手段及び定常値検出手段を備えて、各試薬固定化部について呈色度が安定した定常呈色度を求め、その定常呈色度を基に測定成分の濃度を判定するので、ゴミや未反応の標識物質などが試薬固定化部に残留する場合でも、正確な測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における免疫クロマトグラフィー測定装置の概略構成を示すブロック図である。この免疫クロマトグラフィー測定装置は、先に図7を用いて説明した従来のものと同様に、呈色部読み取り手段1と呈色度算出手段2と濃度判定手段5とを備えるほか、呈色度記憶手段3と定常値検出手段4とを備えている。
【0030】
呈色部読み取り手段1は、図2に概略構成を示すように、光源11と、レンズ12と、光源11とクロマトグラフィー試験片13とを相対的に移動させる移動手段(図示せず)と、光検出器14とを備えている。これにより、光源11からの入射光15をレンズ12を通してクロマトグラフィー試験片13に入射し、その反射光16を光検出器14で受光することができる。その際に適宜にクロマトグラフィー試験片13を入射光15に対して矢印方向に相対的に移動させることで、クロマトグラフィー試験片13上の任意の場所の反射光16を光検出器14で受光することができる。
【0031】
クロマトグラフィー試験片13は、先に図6を用いて説明したものと同じ構成を有しているため、図6を援用して説明する。ニトロセルロースなどを材料とする多孔質担体201上に、導入部202、標識部203、第1試薬固定化部204、第2試薬固定化部205がこの順に設けられており、導入部202に点着された被検査液は、毛細管現象により引き込まれ、標識部203、第1試薬固定化部204、第2試薬固定化部205へと順に浸透していくようになっている。
【0032】
標識部203には、被検査液中の測定成分を検出するための標識試薬が予め塗布されており、この標識試薬が、浸透してきた被検査液中に溶出されて測定成分と反応して複合体を形成する。第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205には、測定成分と特異的に結合する試薬が予め塗布され流失しないよう固定化保持されており、この試薬が、浸透してきた被検査液中に含まれる測定成分と標識試薬との複合体と反応する。この反応に伴って第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205が呈色する。
【0033】
これはたとえば、第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205に、被検査液中の測定成分に対して特異的反応の可能な物質、抗体が固定化されるとともに、標識試薬として標識抗体が保持される、抗原抗体反応のサンドイッチ反応を測定原理としたものであるが、競合反応を測定原理としたものも使用される。標識物質としては、金コロイドに代表される、金属あるいは非金属コロイド粒子、酵素をはじめとするタンパク質、色素、蛍光色素、ラテックスなどの着色粒子などがあり、必要に応じて任意に選択可能である。標識物質が酵素等の場合は、使用者が測定操作として酵素基質や反応停止試薬を加える操作が含まれるが、金コロイド等の場合は、使用者が被検査液を点着する操作のみで測定を行うことも可能である。
【0034】
被検査液としては、血球成分を含む血液、血漿、血清、唾液、尿等の体液などの臨床分野で対象とされる液体試料のほか、水質検査の対象とされる液体試料などがある。かかる被検査液に含まれる測定成分としては、ホルモン等の蛋白質、細菌、ウイルスなどの生体物質、具体的には、尿中のヒト絨毛性性腺刺激ホルモンや、血液中のさまざまな抗体及び抗原、アルブミン、HbA1c、エストラジオール、エストリオール、黄体ホルモンなど、さらに唾液中の口腔内細菌やウイルスなどが挙げられる。
【0035】
以下、図1および図2に示す免疫クロマトグラフィー測定装置によって、図6のクロマトグラフィー試験片に点着された被検査液を検査する方法を具体的に説明する。
まず、呈色部読み取り手段1が、クロマトグラフィー試験片13上の第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205を読み取る。つまり、クロマトグラフィー試験片13を光源11からの入射光15に対して相対的に移動させて、クロマトグラフィー試験片13上の第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205の各々に入射光15を当て、各時の反射光16を光検出器14で受光する。
【0036】
呈色度算出手段2が、呈色部読み取り手段1で読み取られた第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205の反射光強度から、前述の(1)式で表される吸光度を呈色度として算出する。呈色度として吸光度を用いるのでなく、反射光強度をそのまま呈色度として用いることも可能である。
【0037】
呈色度記憶手段3が、呈色度算出手段2で算出された第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205の吸光度値を記憶する。
これら呈色部読み取り手段1と呈色度算出手段2と呈色度記憶手段3の一連の動作が一定時間おきに繰り返され、それにより、呈色度記憶手段3に、第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205の吸光度値が蓄積されて、吸光度の時間変化のデータ列として記憶される。
【0038】
これと並行にして、定常値検出手段4が、上記の吸光度の時間変化のデータ列から定常状態の吸光度を求める。濃度判定手段5が、その定常状態の吸光度を基に測定成分の濃度を判定、つまり定常状態の吸光度を検量線(たとえば図9に示す検量線)に当てはめることで判定し、判定結果を出力する。
【0039】
定常状態の吸光度を求める方法について説明する。
まず、定常状態の吸光度について、図3を用いて説明する。図3(a)は、第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205とも何ら不要な残留物がない場合の、正常な呈色状態を示す。曲線401(第1呈色部と併記している)は第1試薬固定化部204での吸光度の経時変化を示し、曲線402(第2呈色部と併記している)は第2試薬固定化部205での吸光度の経時変化を示している。
【0040】
かかる曲線401,402は、呈色度記憶手段3に記憶された吸光度のデータ列をプロットすることによって得られる。横軸に示す時間は、測定開始時から、すなわちクロマトグラフィー試験片13の導入部202に被検査液を点着して展開開始した時点からの経過時間を表す。曲線401,402にて表される吸光度の経時変化は、点着された被検査液が毛細管現象により引き込まれ、標識部203、第1試薬固定化部204、第2試薬固定化部205へと順番に浸透していくことにより起こる。
【0041】
曲線401では、吸光度が一度ピーク値a1(時間T1)を示した後は、ほぼ一定のレベルa2となっている。同様に、曲線402では、吸光度が一度ピーク値b3(時間T2)を示した後は、ほぼ一定のレベルb4となっている。ピーク値a1及びa2は、測定成分と結合しなかった未反応の標識試薬の影響による。
【0042】
つまり、測定成分と標識試薬との複合体は第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205の試薬で捕捉されるのに対し、未反応の標識試薬は第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205の試薬では捕捉されず、そのまま端部側へ流れていくのであるが、時間T1、T2およびその近傍では、未反応の標識物質が第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205上を通過している状態にあり、吸光度を大きくする方向に作用する結果、ピーク値a1及びB3が測定される。
【0043】
この未反応の標識物質の通過後は、第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205には、測定成分と標識試薬との複合体が捕捉された状態が維持されるので、捕捉された複合体の量に応じた一定の吸光度値を示すようになる。この例では、時間T3、T4以降で、定常的な吸光度a2及びb4となっている。
【0044】
図3(b)は、第2試薬固定化部25上にごみや未反応の標識物質が残留した場合の、異常な呈色状態を示す。曲線501は第1試薬固定化部204での吸光度の経時変化を示し、曲線502は第2試薬固定化部205での吸光度の経時変化を示している。上述の
曲線401,402と同様にして得られる。
【0045】
曲線501、502は、時間T14までは上述の曲線401、402と同様の変化であるが、時間T15、T16でピークP15、P16が表れている。これは、第1試薬固定化部204にピークP15をもたらした物質が、時間T16で第2試薬固定化部205に到達してピークP16をもたらし、そのまま第2試薬固定化部25上に残留していることを示している。この曲線501、502では、定常的な吸光度値はa12及びb14であるが、ピークP15、P16が存在することから、この値を得ることは難しい。
【0046】
このため、定常値検出手段4は、かかる吸光度の時間変化を含む、任意のデータ列から定常的な吸光度(定常値)を求めるように構成されている。その手順を図4を用いて説明する。ここでは、任意のデータ列として、先の図3(b)の曲線501に表されたデータ列を再び用いて説明するが、任意の試薬固定化部のデータ列についても同様の方法を使用できる。
【0047】
まず、データ列を最初のサンプルから(すなわち測定開始時から)順に走査し、少なくともサンプル数が所定の値N以上で、吸光度の最大値と最小値とが所定のAdiff以下となる部分データ列Sを求める。
【0048】
ここで、AdiffとNはそれぞれ、定常期間と認めるために予め実験によって決定した吸光度の最大の変化量と最小のサンプル数である。詳述すると、曲線501のデータ列において、期間0〜T17および期間T18〜T19は単位時間あたりの吸光度の変化量が大きく、定常状態とは言えないのであるが、Adiffが大きすぎると、期間0〜T17および期間T18〜T19であっても定常状態であると判定してしまう可能性がある。Nが小さすぎる場合でも同様の可能性がある。一方、期間T17〜T18は定常期間としてよいが、この期間においても標識物質の吸光度は完全に一定ではなく微量に変化する。これは主に標識物質の流れにむらが有ることが原因である。そのため、Adiffが小さすぎると、定常期間を検出できなくなってしまう可能性がある。同様に、Nが大きすぎても、期間T18〜T19などのようにゴミなどによって吸光度変化が小さい期間が分断されている場合に、全く定常期間を検出できなくなってしまう可能性がある。そこで、定常期間の部分データ列Sを検出するために、適切なAdiffとNの値を予め実験によって求めておくのである。
【0049】
したがって手順としては、サンプル数を予めNと決めるとともに、吸光度の最大値と最小値との差の許容値を予め実験的にAdiffと決めたうえで、走査していき、連続するN個のサンプルで許容値Adiff内となったときに、この連続するN個のサンプルを得た期間を定常期間とみなし、これらのN個のサンプルよりなる部分データ列Sを求める。許容値Adiff内という条件を満たす限り、後続するサンプルを含めたN以上のサンプルを部分データ列Sとしてもよく、そのようにサンプル数をできるだけ大きくとることが好ましい。そして、求めた部分データ列Sの全データの平均値を定常値とする。
【0050】
なお、定常値の決定方法は、図中に示した部分データ列Sのように、十分長く安定した期間から代表する値を取り出すという方法であれば、上記の方法に限定されない。例えば、上記のように部分データ列Sを許容値Adiff内という条件で求めるのでなく、隣接するサンプル間の変化量ΔAが所定のΔA0以下であるということを条件にしてもよい。この場合も、ΔA0の値が大きすぎると、期間0〜T17および期間T18〜T19であっても定常状態であると判定してしまう可能性があるし、ΔA0が小さすぎると、吸光度の微量変化によっても定常期間を検出できなくなってしまう可能性があるので、ΔA0として、定常期間の部分データ列Sを検出するために適切な値を予め実験によって求めておく。
【0051】
また、定常値を、上記のように部分データ列Sの全データの平均値とする代わりに、部分データ列Sの中央値としてもよい。
さらに、測定開始から未反応の標識物質が到達するまでの期間(0〜T17)のデータが部分データ列Sとして認識されるのを防ぐために、部分データ列Sの認識条件に、例えば、測定開始から所定の時間以上経過していること、という条件を加えてもよい。あるいは、吸光度が所定の閾値以上であるピーク時間(図4ではT17)以降である、という条件を加えてもよい。この所定の閾値は試薬固定化部ごとに異なった値を用いてもよい。
【0052】
以上のようにして、定常値検出手段4において、試薬固定化部毎の定常吸光度を求めるため、図3(b)におけるようなP15及びP16が表れた場合でも、実際の呈色反応を反映した吸光度を得ることができる。そして、このように求めた試薬固定化部毎の定常吸光度を基に濃度判定手段5で濃度を判定するので、具体的には試薬固定化部毎の定常吸光度の組み合わせから濃度を判定するので、信頼性が向上する。吸光度を呈色度として用いるのでなく、反射光強度をそのまま呈色度として用いる場合も同様である。
【0053】
なお、呈色度算出手段2において算出される呈色度(吸光度、反射光強度)は、被検査液の流れのむらや多孔質担体201の表面の凹凸に由来する微小なノイズを含んでいる場合がある。そのようなノイズを除去するために、定常値検出手段4において上記の方法で定常呈色度を求めるに先立って、呈色度記憶手段3に記憶されているデータ列に対してノイズ除去処理を施しておくとよい。例えば、近傍w個のサンプルの移動平均を取る、すなわちn番目のサンプルにおける吸光度AをA近傍の部分データ列{An−w,An−w+1,・・・,A}の平均値で置き換えるとよい。その他、近傍w個のサンプルの中央値で置き換える、すなわちn番目のサンプルにおける吸光度AをA近傍の部分データ列{An−w,An−w+1,・・・,A}の中央値で置き換えるといった方法でも同様の効果が得られる。
【0054】
以上説明したように、この実施の形態1の免疫クロマトグラフィー測定装置は、呈色度記憶手段3及び定常値検出手段4を備えたことにより、各試薬固定化部について、被検査液に含まれるごみや標識物質の流れ残りの影響を低減して定常呈色度を求めることが可能になっており、かかる定常呈色度を基に濃度判定手段5で濃度を判定できるため、測定の信頼性が向上する。
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2におけるクロマトグラフィー測定装置の一部である呈色部読み取り手段の概略構成を示す。呈色部読み取り手段以外の装置構成は実施の形態1と同様なので図1を援用する。対象のクロマトグラフィー試験片も既述したものと同様なので図6を援用する。
【0055】
この呈色部読み取り手段1において、光源21は、クロマトグラフィー試験片13の全体を照明するように配置されている。22はイメージセンサであり、クロマトグラフィー試験片13全体を撮像できるよう、イメージセンサ22上に結像するためのレンズ23が配置されている。
【0056】
したがって、本実施の形態2の免疫クロマトグラフィー測定装置においては、呈色部読み取り手段1のイメージセンサ22が、クロマトグラフィー試験片13上の第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205を画像データとして読み取る。
【0057】
そして、呈色部読み取り手段1にて読み取られた画像データから、呈色度算出手段2が、第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205の呈色度としての吸光度を求める。つまり、先の実施の形態1でも用いた(1)式を第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205に対応する画素毎に適用し、画素毎の吸光度を平均した値を用いる。このように吸光度を呈色度として用いるのでなく、反射光強度をそのまま呈色度として用いることもできる。その場合も、第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205の画素値を平均した値を用いる。
【0058】
この呈色度算出手段2で算出された第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205の吸光度を呈色度記憶手段3が記憶する。これら呈色部読み取り手段1と呈色度算出手段2と呈色度記憶手段3の一連の動作が一定時間おきに繰り返され、それにより、呈色度記憶手段3に、第1試薬固定化部204及び第2試薬固定化部205の吸光度値が蓄積され、吸光度の時間変化のデータ列として記憶される。
【0059】
以降の工程、すなわち、定常呈色度を求める工程およびその定常呈色度を基に測定成分の濃度を判定する工程は実施の形態1と同様である。よって実施の形態1と同様に測定の信頼性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明にかかる免疫クロマトグラフィー測定装置は、クロマトグラフィー試験片の試薬固定化部にゴミや未反応の標識物質などが残留する場合でも、正確な測定を行うことができるので、臨床分野等の医療診断現場に限らず、食品衛生関連分野、環境計測分野などの様々な分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態1における免疫クロマトグラフィー測定装置の概略構成を示すブロック図
【図2】図1の免疫クロマトグラフィー測定装置の一部である呈色部読み取り手段の概略構成図
【図3】図1の免疫クロマトグラフィー測定装置での測定原理を説明する図であって、(a)正常な呈色状態での吸光度の時間変化を示す図、(b)異常な呈色状態での吸光度の時間変化を示す図
【図4】図1の免疫クロマトグラフィー測定装置で定常呈色度を求める原理を説明するための、吸光度の時間変化を示す図
【図5】本発明の実施の形態2におけるクロマトグラフィー測定装置の一部である呈色部読み取り手段の概略構成図
【図6】本発明の免疫クロマトグラフィー測定装置で使用する従来よりあるクロマトグラフィー試験片の構成図
【図7】従来の免疫クロマトグラフィー測定装置の概略構成を示すブロック図
【図8】1つの試薬固定化部での測定成分の濃度と吸光度との相関を示す検量線およびそれから濃度を求める従来からの方法を説明する図
【図9】2つの試薬固定化部のそれぞれでの測定成分の濃度と吸光度との相関を示す検量線およびそれから濃度を求める従来からの方法を説明する図であって、両試薬固定化部が安定な場合を示す図
【図10】2つの試薬固定化部のそれぞれでの測定成分の濃度と吸光度との相関を示す検量線およびそれから濃度を求める従来からの方法を説明する図であって、一方の試薬固定化部が不安定な場合を示す図
【符号の説明】
【0062】
11 光源
12 レンズ
13 クロマトグラフィー試験片
14 光検出器
15 入射光
16 反射光
21 光源
22 イメージセンサ
23 レンズ
201 多孔質担体
202 導入部
203 標識部
204 第1試薬固定化部
205 第2試薬固定化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフィー試験片上に被検査液中の測定成分もしくは前記測定成分を標識する標識試薬に対する親和力が各々異なる試薬が固定化された複数の試薬固定化部のそれぞれを、前記被検査液の展開開始後に所定のサンプリング間隔で光学的に読み取り、読み取りデータを生成する光学的読み取り手段と、
前記読み取りデータから前記試薬固定化部毎の呈色度を算出する呈色度算出手段と、
前記試薬固定化部毎の呈色度の時間的変化を呈色度データ列としてそれぞれ記憶する呈色度記憶手段と、
前記試薬固定化部毎の呈色度データ列から前記被検査液の展開にしたがって定常化される定常呈色度を求める定常値検出手段と、
前記試薬固定化部毎の定常呈色度を組み合わせて用いて前記被検査液中の測定成分の濃度を判定する濃度判定手段とを有することを特徴とする、免疫クロマトグラフィー測定装置。
【請求項2】
光学的読み取り手段は、クロマトグラフィー試験片上の複数の試薬固定化部に光を照射する光源と、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を検出する光検出器とを備えており、前記光検出器で検出される光学信号を読み取りデータとすることを特徴とする、請求項1に記載の免疫クロマトグラフィー測定装置。
【請求項3】
光学的読み取り手段は、クロマトグラフィー試験片上の複数の試薬部固定化を撮像するイメージセンサを備えており、前記イメージセンサで撮像される画像を読み取りデータとすることを特徴とする、請求項1に記載の免疫クロマトグラフィー測定装置。
【請求項4】
定常値検出手段は、試薬固定化部毎の呈色度データ列について、呈色度の最大値と最小値の差が所定値以下になる定常期間を求め、前記定常期間に含まれる部分データ列を抽出し、抽出した部分データ列を基に定常呈色度を決定することを特徴とする、請求項1に記載の免疫クロマトグラフィー測定装置。
【請求項5】
定常呈色度は、抽出した部分データ列を構成している複数の呈色度値の平均値であることを特徴とする、請求項4に記載の免疫クロマトグラフィー測定装置。
【請求項6】
定常呈色度は、抽出した部分データ列を構成している複数の呈色度値の中央値であることを特徴とする、請求項4に記載の免疫クロマトグラフィー測定装置。
【請求項7】
定常値検出手段は、定常呈色度を求める呈色度データ列を被検査液の展開開始から所定時間経過後の呈色度データ列に限定することを特徴とする、請求項1に記載の免疫クロマトグラフィー測定装置。
【請求項8】
定常値検出手段は、被検査液の展開開始後に初めて所定の閾値以上になる呈色度変化のピークを求め、定常呈色度を求める呈色度データ列を前記ピーク後の呈色度データ列に限定することを特徴とする、請求項1に記載の免疫クロマトグラフィー測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−98080(P2009−98080A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271881(P2007−271881)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】