説明

免疫グロブリン製剤及び免疫グロブリン製剤のための貯蔵システム

この発明は、少なくとも4%の質量対体積百分率で免疫グロブリンを含む免疫グロブリン製剤であって、室温でこの製剤に溶解する酸素濃度が40μmol/l未満である、前記免疫グロブリン製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、貯蔵のための安定性を改善した免疫グロブリン(Ig)製剤に関する。
【0002】
本発明は、更に、Ig製剤のための貯蔵システム、そうした貯蔵システムを提供するための方法、及びIg製剤の貯蔵安定性を増加するための、20体積%(Vol-%:体積百分率)未満の酸素含量を有するガスの使用に関する。
【0003】
Ig補充療法、例えば、分類不能型免疫不全症(common variable immunodeficiency)(CVID)、及びX連鎖無ガンマグロブリン血症などの原発性免疫不全(PID)障害の処置のためのIg製剤は、当技術分野で広範囲に知られている。こうしたIg製剤は通例、ヒト血漿から得られ、そして更に使用するためにバイアルに貯蔵される。次いでこの製剤は、治療の必要のある患者に静脈内(IVIg)又は皮下(SCIg)に投与することができる。
【0004】
皮下経路を使用するときは、低濃度の製剤と比較して、より少ない頻度の投与及び/又はより少ない量の投与を可能にするので、比較的高いIg濃度を有するIg製剤が望ましい。
【0005】
何ヶ月にもわたって貯蔵する場合には、公知のIg製剤は帯黄色になる傾向にある。こうした作用は、比較的高いIg濃度を有し、そして光曝露のようなストレス条件及び/又は温度の上昇に曝されているIg製剤に特に顕著である;前記製剤は通例、2ヶ月の貯蔵の後既に、比較的強い、帯黄褐色の着色を示す。
【0006】
しかしながら、こうした着色は、Ig製剤の標準規格とは相いれない。例えば、欧州薬局方は、製剤が透明な黄色又は淡褐色に留まっていることを要求している。
【0007】
この問題に対処する1つの可能性のある対応策は、Ig製剤を暗い環境に貯蔵することである。別の対応策は、比較的低い温度、例えば、約5℃でIg製剤を貯蔵することである。双方の対応策は、帯黄色への着色を減少させることにはなるが、それぞれの環境を全貯蔵期間にわたって維持しなければならないので、取り扱いが不便であり、そして実行に移すにはかなり厄介である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
それ故、この発明の目的は、Ig補充療法のためのIg製剤であって、帯黄色着色の減少が示され、従って、光のもとで、及び室温のもとで長期間貯蔵した後でさえも着色に関する標準規格に適合することを可能にする上記Ig製剤を提供することにある。更なる目的は、帯黄色着色を減少させ、従って、光曝露及び/又は温度上昇のようなストレス条件の下での長期間貯蔵後でさえも、着色に関する標準規格に適合することを可能にするような方法で製剤を貯蔵するための貯蔵システムを提供することにある。
【0009】
この問題は、独立クレームによるIg製剤及び貯蔵システムによって解決される。好ましい実施形態は従属クレームのサブジェクトである。
【0010】
従って、第一の局面によれば、この発明はIgを少なくとも4%の質量対体積百分率(すなわち、4g/100ml)で含むIg製剤に関する。すなわち、天然起源の生物学的液体とは対照的に、この発明の液体Ig製剤は、Igが濃縮されている。その比較的高濃度のIgを考慮すると、この製剤はIg補充療法に適している。10%以上の製剤は患者自身によっておこなうことができる皮下投与に適している。
【0011】
室温で製剤中に溶解させた酸素濃度が、200μmol/l未満である場合には、帯黄色着色に対する高い安定性が長期間にわたって達成されうることが驚くべきことに見出された。帯黄色着色は、光曝露以外のストレスファクターによって引き起こされ、すなわち、暗所で起こり、光分解によっては引き起こされないことが好ましい。従って、特に、わずかに帯黄色着色を示すか、あるいは全く帯黄色着色を示さない安定なIg製剤は、24ヶ月の、更に36ヶ月又はそれ以上の長期間の貯蔵後でさえも、標準規格、例えば、欧州薬局方を満たして達成しうる。特に、標準規格を満たしている安定なIg製剤は、暗所中、室温で24ヶ月、更に36ヶ月の長期間の貯蔵後でさえも達成することができる。安定な免疫グロブリン製剤の吸光度A350-500nmは、暗所中、25℃で24ヶ月間貯蔵中に0.28未満に留まっており、好ましくは、安定な免疫グロブリン製剤は20%w/vの濃度を有している。本発明の好ましい実施形態では、暗所中、37℃で6ヶ月間貯蔵した後、20%Ig製剤の場合に測定したとき、吸光度A350-500nmは、0.355未満に留まっている。安定な免疫グロブリン製剤は、暗所中、36ヶ月間25℃で貯蔵したときに、0.18未満、好ましくは、0.17未満、更により好ましくは、0.16未満のA350-500nmの増加を示す。安定な免疫グロブリン製剤は、暗所中、6ヶ月間37℃で貯蔵したときに、0.22未満、好ましくは、0.20未満、更により好ましくは、0.19未満のA350-500nmの増加を示す。
【0012】
Ig製剤中に溶解させた酸素の濃度を決定する方法は、当業者に周知のことである。例えば、酸素濃度は、例えば、クラーク電極を用いてポーラログラフィー法によって決定することができる。あるいは、また、例えば、発光酸素センシング(luminescence oxygen sensing)を製剤中の酸素濃度を決定するために使用することができる。
【0013】
容器に含まれているときには、Ig製剤の酸素濃度は、容器及びその中に含まれているIg製剤に延びている電極を用いて決定することができる。あるいは、Ig製剤の酸素濃度は、容器を開けた後に測定することもできる。後者の場合には、この決定は、免疫グロブリン製剤に接触するガスの酸素含量の増加によるそれぞれの結果のデータ破壊(corruption)を回避するために容器を開けた後5分以内に行なわれる。
【0014】
理論によって拘束されることを望むわけではないが、従来使用されているIg製剤に通例見られる帯黄色着色は、製剤中に含まれているIgの酸化による変化によるものと想定される。この発明によれば、この酸化による変化は製剤中に溶解させた酸素の量を、この製剤が大気圧での空気のもとで貯蔵する場合に確立されている濃度より低い濃度で維持することによって減少される。
【0015】
この発明によれば、長期間貯蔵した後でさえも、わずかに帯黄色着色を示すか、あるいは全く帯黄色着色を示さないIg製剤を得ることができるという事実を考慮すると、患者及び医師の双方とも、製剤の中に含まれているIgが高品質であり、これはこの製剤の容認の増加の更なる一因となるということを容易に認めることができる。
【0016】
無色又はわずかに着色しただけの製剤は、おそらく酸化によるIgの変化の程度が低いであろうということを示すことのほかに、黄色又は黄褐色製剤と比較して視覚的に大いにアピールする。
【0017】
この発明のIg製剤の特に高い安定性は、室温で溶解させた酸素の濃度が、175μmol/l未満、好ましくは、150μmol/l未満、より好ましくは、125μmol/l未満、そして最も好ましくは100μmol/l未満である場合に、達成しうる。
【0018】
従来から使用されているIg製剤の場合に、帯黄色着色の影響は、高いIg濃度を有している製剤に特に顕著であるので、この発明は特に、少なくとも5%、好ましくは、少なくとも10%、より好ましくは、少なくとも12%、より好ましくは、少なくとも14%、より好ましくは少なくとも16%、より好ましくは、少なくとも18%、そして最も好ましくは少なくとも20%の質量対体積百分率で、Igを含む製剤に特に関連している。好ましくは、このIg製剤は、ポリクローナルIg製剤、より好ましくは、ポリクローナルIgG製剤である。
【0019】
このIg製剤の欧州薬局方のそれぞれの着色に関する規格に対する適合性は、その中に示されているそれぞれの方法によって決定することができる(Ph. Eur. 5.5, 2006, General methods 2.2.2 Degree of Coloration of Liquids)。
【0020】
あるいは、着色に関する規格に対する適合性はまた、その結果が欧州薬局方による方法の結果と相互関係があることが判明している、分光光度法(spectrophotometric method)によって決定することができる。具体的には、0.355未満の平均光学密度(mean optical density)A350-500nm(すなわち、350nmでの吸光度から参照波長500nmでの吸光度を差し引く)を有するIg製剤は、欧州薬局方のそれぞれの規格に十分に適合するということが示された。
【0021】
暗所中、25℃で24ヶ月にわたって貯蔵すると、わずかに約0.1の光学密度(吸光度:absorbance)A350-500nmの平均増加(mean increase of the optical density(absorabance))をこの発明によって達成することができ、暗所中、25℃で36ヶ月にわたって貯蔵すると、わずかに約0.15の光学密度の平均増加を達成することができる(1ヶ月におよそ0.004の吸光度の増加に相当する)。5℃で3ヶ月にわたって光曝露の下で貯蔵すると、わずかに約0.04の光学密度A350-500nmの平均増加をこの発明によって達成することができ(1ヶ月におよそ0.01の吸光度の増加に相当する)、これは、酸素濃度がこの発明によって減少されないIg製剤の場合の平均増加とは明瞭に異なっており、前記増加は、約1.2である(1ヶ月におよそ0.40の吸光度の増加に相当する)。更に、暗所中、37℃で6ヶ月にわたって貯蔵すると、わずかに約0.18の光学密度A350-500nmの平均増加をこの発明によって達成することができ(1ヶ月におよそ0.03の吸光度の増加に相当する)、これは、酸素濃度がこの発明によって減少されないIg製剤の場合の平均増加とは明瞭に異なっており、前記増加は、約0.24である(1ヶ月におよそ0.04の吸光度の増加に相当する)。
【0022】
この発明のIg製剤は、PID又はCVIDの処置の場合に非限定的実施例によって、患者に静脈内及び皮下投与の双方のために使用することができる。しかしながら、皮下投与のための使用が好ましい。
【0023】
高い濃度のIgを考慮すると、この発明はより低いIg濃度を有する従来から利用可能な製剤に比べて、有効性を維持すると同時に、より少ない体積の製剤を患者に投与することを可能にする。
【0024】
この発明によるIg製剤は、好ましくは、ヒトに皮下投与するために使用されるので、この発明はまた、ヒトに皮下投与する薬剤を製造するためのIg製剤の使用に関する。例えば、S. Misbah et al, Clinical and Experimental Immunology, 158 (Suppl. 1); pp.
51 - 59によって報告されているように、製剤の皮下投与には静脈内投与を上回る種々の利点がある。特に、静脈アクセスは必要ではなく、そしてコルチコステロイド及び抗ヒスタミン薬に伴う前投薬の必要性が減じられる。
【0025】
また、皮下投与経路を使用すると、毎月のIVによるIg注入に関連して通例見られる顕著なピークが抑えられ、そしてIgレベルの永続的な上昇が得られ、全身の副作用の低下をもたらす。
【0026】
好ましくは、この発明のIg製剤に含まれるIgは、本質的にIgGから成っているが、それに限定されることは決してない。この発明の製剤の好ましい他の実施形態によれば、Igは、それぞれ、本質的にIgMを含んでなるか、又はこれから成り、あるいは本質的にIgAを含んでなるか、又はこれから成る。
【0027】
別の局面によれば、この発明は更に、Ig製剤、好ましくは、ポリクローナルIg製剤のための貯蔵システムであって、前記貯蔵システムは、内部(interior)を有する容器から成り、前記内部の第一部分は、Ig製剤によって占められており、そして前記内部の残りの第二部分は、ヘッドスペース(headspace)を形成し、そしてガスによって占められており、該ヘッドスペースのガス中、酸素含量は、20体積%未満である。この発明の関連では、用語“体積%(Vol-%:体積百分率)”とはこの技術分野で通例使用される意味を有し、そしてそれが含まれている、ガスの全体積に関連するそれぞれのガス成分の体積率を示す。
【0028】
従って、この発明の貯蔵システムのヘッドスペース中のガスは、周囲空気と比較して酸素含量は減少している。すなわち、こうした貯蔵システム中に貯蔵する場合には、Ig製剤中に溶解させた酸素は、長期間の貯蔵にわたって、200μmol/l未満の濃度、好ましくは、175μmol/l未満の濃度、より好ましくは、150μmol/l未満の濃度、更により好ましくは、125μmol/l未満の濃度、そして最も好ましくは、100μmol/l未満の濃度で維持することができ、そして帯黄色着色を、たとえ、このIg製剤が光及び室温のもとで貯蔵されていたとしても、大きく減じることができる。
【0029】
ヘッドスペースのガス中の酸素濃度を決定する方法は、当業者に知られている。例えば、酸素含量は、レーザー吸収分光法、特に可同調ダイオードレーザー吸収分光法(tuneable diode laser absorption spectroscopy)によって決定することができ、これによってヘッドスペースガスに含まれている他の成分の干渉が除去される。詳細には、この酸素含量は、酸素の吸収線を単一モードダイオードによってスキャンするtype LaserGas(商標)II(LaserGas Oy, Finland)のデバイスによって決定することができる。酸素分子による光の吸収は、検出器によって測定され、ヘッドスペースのガスの酸素含量がそれに基づいて計算することができる。
【0030】
このヘッドスペースのガス中、酸素の含有量は、16体積%未満、好ましくは12体積%未満、より好ましくは、10体積%未満、そして最も好ましくは7体積%未満であることが好ましい。7体積%未満の酸素含量が特に好ましいことが判明しており、その理由は、容器中のそれぞれのヘッドスペースのもとで貯蔵されているIg製剤は、24ヶ月以上の長期の貯蔵期間の後でさえも、36ヶ月以上の貯蔵期間の後でさえも、25℃(暗所中)で貯蔵したときでさえも、欧州薬局方の規格に十分に適合していることが示されているからであり、このことは下記に詳細に示されている。
【0031】
非常に簡単な、従って好ましい実施形態によれば、このヘッドスペースのガスは、少なくともおよそ大気圧である。
【0032】
このヘッドスペースのガス中、不活性ガスの含量は、80体積%より多く、好ましくは、84体積%より多く、より好ましくは、88体積%より多く、より好ましくは、90体積%より多く、そして最も好ましくは、93体積%より多いことが更に好ましい。不活性ガスは、例えば、窒素、アルゴン、他の希ガス、又はその混合物でありうる。その可用性を考慮すると、窒素を使用するのが好ましい。
【0033】
気密貯蔵システムの容器は、バイアル、特にDIN/ISO 8362-1によって標準化されているバイアルを含んでなることが更に好ましい。
【0034】
更なる好ましい実施形態によれば、Ig製剤に対するヘッドスペースの体積比率は、使用されるバイアルにもよるが、0.1:1〜0.9:1の範囲である。例えば、6Rバイアルの場合には、この比率は通例、約0.9:1であり、一方、20Rバイアルの場合には、この比率は通例、約0.1:1である。
【0035】
特に、本発明の貯蔵システムによれば、暗室中、室温で24ヶ月の、更に36ヶ月もの長期の貯蔵期間後でさえ、Ig製剤の安定性が改善される。参照としての20%Ig製剤を用いると、本発明の貯蔵システムは、暗室中、25℃で24ヶ月間貯蔵中には、免疫グロブリン製剤の吸光度A350-500nmは、0.28未満に留まっており、好ましくは、暗室中、37℃で6ヶ月貯蔵した後、20%Ig製剤の場合に測定すると、吸光度A350-500nmは、0.355未満に留まっていることを可能にする。本発明の貯蔵システムは、暗室中、25℃で36ヶ月貯蔵したときは、0.18未満、好ましくは、0.17未満、更により好ましくは、0.16未満のA350-500nmで増加を示す安定な免疫グロブリン製剤を提供する。本発明の貯蔵システムは、暗室中、37℃で6ヶ月貯蔵したときは、0.22未満、好ましくは、0.20未満、更により好ましくは、0.19未満のA350-500nmで増加を示す安定な免疫グロブリン製剤を提供する。
【0036】
更なる局面によれば、この発明はまた、このIg製剤が容器に充填され、そして容器を密封する工程を含んでなる、Ig製剤のための貯蔵システムを提供する方法であって、密封する前に、ヘッドスペースのガス中の酸素含量が、20体積%未満、好ましくは、16体積%未満、より好ましくは、12体積%未満、更により好ましくは10体積%未満、そして最も好ましくは、7体積%未満になるように、容器のヘッドスペースにガスを充填させる、上記方法に関する。このヘッドスペースの“不活性ガス処理(inert gassing)”は、長期間の貯蔵期間にわたって、溶解させた酸素の濃度を、200μmol/l未満、好ましくは、175μmol/l未満、より好ましくは、150μmol/l未満、更により好ましくは、125μmol/l未満、そして最も好ましくは、100μmol/l未満の濃度で維持することを可能にする。好ましくは、長期の貯蔵期間は、暗室中、25℃(又は室温)で、24ヶ月より長く、好ましくは36ヶ月より更に長い。特に、本発明の方法によれば、暗室中、室温で、24ヶ月の、更に36ヶ月の長期の貯蔵期間後でも、Ig製剤の安定性が改善される。参照としての20%Ig製剤を用いると、本発明の方法は、暗室中、25℃で24ヶ月間貯蔵中には、免疫グロブリン製剤の吸光度A350-500nmは、0.28未満に留まっており、好ましくは、暗室中、37℃で6ヶ月貯蔵した後、20%Ig製剤の場合に測定すると、吸光度A350-500nmは、0.355未満に留まっていることを可能にする。本発明の方法は、暗室中、25℃で36ヶ月貯蔵したときは、0.18未満、好ましくは、0.17未満、更により好ましくは、0.16未満のA350-500nmで増加を示す安定な免疫グロブリン製剤を提供する。本発明の方法は、暗室中、37℃で6ヶ月貯蔵したときは、0.22未満、好ましくは、0.20未満、更により好ましくは、0.19未満のA350-500nmで増加を示す安定な免疫グロブリン製剤を提供する。
【0037】
好ましくは、得られる貯蔵システムのヘッドスペースのガスは、大気圧である。
【0038】
これに代わって、あるいは上記方法に加えて、溶解させた酸素の濃度が減少した上記に定義されたIg製剤は、Ig製剤またはその溶媒を、不活性ガスを用いて脱ガス工程及び/又はガス処理工程に付することによって得ることができる。その結果、Ig製剤の溶媒、通例、水をIg製剤の製剤化の前に脱ガス工程及び/又はガス処理工程に付することが好ましい。脱ガスは、例えば、上昇した温度で、又は減圧下で溶媒を貯蔵することによって得ることができる。不活性ガスを用いるガス処理は、例えば、不活性ガスをそれぞれの製剤又はその溶媒に導入することによって行うことができる。
【0039】
上記を踏まえて、この発明は、更なる局面によれば、また、少なくとも4%の質量対体積百分率で免疫グロブリンを含む免疫グロブリン製剤の貯蔵安定性を増加させるための20体積%未満の酸素含量を有するガスの使用に関する。上記に示した如く、その結果、ガスは、Ig製剤が貯蔵される容器のヘッドスペース中で使用されるのが好ましい。
【0040】
本発明の貯蔵システム、あるいは本発明の方法、あるいは本発明による20%未満の酸素含量を含むガスの使用では、暗所中、長期間貯蔵した時に、少なくとも10%のIg製剤の場合に、350nmでの吸光度の平均増加(mean increase)の減少が達成可能であり、好ましくは、12%、14%、16%、18%又は20%より多く、より好ましくは、25%、30%、35%、38%、40%、又は更に45%より多いIg製剤の場合の350nmでの吸光度の平均増加の減少を達成することができる。本発明の貯蔵システム又は方法では、このことは、少なくとも5%、好ましくは、少なくとも10%、より好ましくは、少なくとも12%、より好ましくは、少なくとも14%、より好ましくは、少なくとも16%、より好ましくは、少なくとも18%、そして最も好ましくは、少なくとも20%の質量対体積百分率でIgを含んでなる製剤の場合に達成することができる。
【0041】
この発明による方法の詳細な説明を以下の実施例で示す。
【0042】
実施例
Ig製剤
この発明によって達成される技術的効果を、IgPro20を用いて評価した。
IgPro20は、すぐに使用可能であり、皮下投与用の多価ヒトIgGの20%(200g/l)液体製剤であり、ヒト血漿・ラージプール(large pools of human plasma)から製造される。このタンパク質部分は、≧98%IgGであり、そのうちの90%以上は、単量体+二量体の形態である。IgPro20は、保存剤を加えずに、pH4.8で安定剤、L−プロリン(250mmol/L)と共に製剤化されている。
【0043】
Ig製剤の充填
バイアルにIgPro20を無菌充填する間、バイアルのヘッドスペースを窒素でガス処理した。
【0044】
具体的には、窒素でのガス処理を2つの工程で行なった:
a)バイアル中にIg製剤を導入した直後に、滅菌ろ過した窒素ガスをヘッドスペースに延びているインフレーション針(inflation needle)によってヘッドスペースに充填した;
b)バイアルを密封するための栓を差し込む間、窒素ガスを、開口部の軸に対して角度方向に伸びている別のインフレーション針によってバイアルの開口部上に送風した。
【0045】
使用する窒素ガスを、type KA02PFRP8(Pall Corporation)の滅菌フィルターを用いて滅菌ろ過した。ガス処理装置の稼動圧力は、約0.5バールに設定した。
【0046】
上記の手順によって、バイアルを密封した直後に4.5体積%未満の酸素含量を有するヘッドスペースを持っている貯蔵システムが提供されうる。この製剤をバイアルに充填する前に、脱ガスしないか、あるいは不活性ガスでガス処理しないという事実を仮定すると、ヘッドスペースのガス中の酸素含量は免疫グロブリンとガスの間の平衡状態が確立するまで増加する。この場合でさえも、酸素含量は7体積%未満に留まった。
【0047】
貯蔵条件
IgPro20の場合の長期間安定性プログラムの貯蔵条件及び試験間隔を、ヒト使用ガイドラインのための医薬品登録の技術的要件の調和のための国際会議(ICH)(日米EU医薬品規制調和国際会議:the International Conference on Harmonization (ICH) of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use guideline Q1A(R2))に従って選択した。25℃で24ヶ月間までの長期貯蔵を下記の図3に示す。
【0048】
二次包装をシミュレーションするために、このバイアルを暗室中、37℃の温度で貯蔵した。
【0049】
容器の水平位置を、ICHガイドラインQ5Cに従って溶液と栓の接触した状態で維持した。
【0050】
帯黄色着色の数量化
Ig製剤の黄色化を数量化するために、350〜500nmの平均光学密度をいくつかの貯蔵間隔の後に決定した。これは、平均光学密度は、欧州薬局方に記載されている液剤の着色の標準化検討に相互に関連しうるという研究結果に基づいている(Ph. Eur. 5.6, 01/2005, General methods 2.2.2, Degree of Coloration of Liquids)。
【0051】
この発明によって達成された技術的効果は添付の図面によって図解されており、
図1は、それぞれ、ヘッドスペースの不活性ガス処理をしなかった場合(菱形)、16体積%(正方形)、12体積%(三角形)、10体積%(バツ印)、7体積%(星形)及び7体積%未満(丸印)の酸素含量を有するヘッドスペース中のガスを用いた場合の、光のもとで、5℃で貯蔵の後、貯蔵したIg製剤の貯蔵時間の関数としての光学密度(Absorbance:吸光度)(optical desity(absorbance))A350-500nmのグラフによる図であり;そして
図2は、それぞれ、ヘッドスペースの不活性ガス処理をしなかった場合(菱形)、及び最大で7体積%の酸素含量を有するヘッドスペース中のガスを用いた場合(正方形)の、暗所中、37℃で貯蔵の後、貯蔵したIg製剤の貯蔵時間の関数としての光学密度(Absorbance:吸光度)A350-500nmのグラフによる図であり;そして
図3は、7体積%未満の酸素含量を有するヘッドスペース中のガスを用いた場合、暗所中、25℃で貯蔵したとき、Ig製剤のいくつかの試料の貯蔵時間の関数としての平均光学密度(Absorbance:吸光度)(mean optical density(absorbance))A350-500nmのグラフによる図である。
【0052】
図1で理解できるように、時間の経過とともに免疫グロブリン製剤が黄色になることは、ヘッドスペース中に減少させた酸素含量(そして、更に酸素分圧の減少)を有するガスを使用することによって減少される。詳細には、7体積%未満の酸素含量を有するガスを用いることによって、光学密度A350-500nmは、6ヶ月間貯蔵した後でも、0.35未満であり、従って、長期貯蔵後、欧州薬局方の規格に十分適合している。室温でそれぞれの試料中に溶解させた酸素濃度は、100μmol/l未満である。
【0053】
図2に言及すれば、最高でも7体積%の酸素含量を有するヘッドスペース中のガスを用いることによって、暗所中、37℃で6ヶ月にわたって貯蔵したときに、わずかに約0.18の光学密度A350-500nmの平均増加(mean increase)をこの発明によって達成することができる。このことはヘッドスペースにガス処理を加えずに貯蔵したIg製剤の場合の平均増加とは明瞭に異なっており、前記増加は約0.24である。
【0054】
図3に示されているように、暗所中、25℃で24ヶ月にわたって貯蔵したときに、わずかに約0.1の平均光学密度(mean optical density)A350-500nmの平均増加をこの発明によって達成することができる。
【0055】
下記の表1に示されているように、暗所中、25℃で36ヶ月にわたって貯蔵した後でも、平均光学密度は依然として0.355未満であり、そして暗所中、5℃で貯蔵した場合は更に低い。6つの異なるロットの値を示した。
【0056】
【表1】

【0057】
表2は、異なった貯蔵条件での吸光度A350-500nmの月平均増加を示す。試験されたすべての条件の場合、100μmol/l未満の酸素濃度、又はヘッドスペース中、7%未満の酸素を維持すると、吸光度の増加が顕著により低くなり、IgG製剤は顕著なより高い安定性を示した。試料はすべて、暗所中に貯蔵した。データを24又は36ヶ月で回収し、この期間中、経時的な吸光度の増加はほとんど直線であった。
【0058】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】それぞれ、ヘッドスペースの不活性ガス処理をしなかった場合(菱形)、16体積%(正方形)、12体積%(三角形)、10体積%(バツ印)、7体積%(星形)及び7体積%未満(丸印)の酸素含量を有するヘッドスペース中のガスを用いた場合の、光のもとで、5℃で貯蔵の後、貯蔵したIg製剤の貯蔵時間の関数としての光学密度(Absorbance:吸光度)(optical desity(absorbance))A350-500nmのグラフによる図である。
【図2】それぞれ、ヘッドスペースの不活性ガス処理をしなかった場合(菱形)、及び最大で7体積%の酸素含量を有するヘッドスペース中のガスを用いた場合(正方形)の、暗所中、37℃で貯蔵の後、貯蔵したIg製剤の貯蔵時間の関数としての光学密度(Absorbance:吸光度)(optical desity(absorbance))A350-500nmのグラフによる図である。
【図3】7体積%未満の酸素含量を有するヘッドスペース中のガスを用いた場合、暗所中、25℃で貯蔵したとき、Ig製剤のいくつかの試料の貯蔵時間の関数としての平均光学密度(Absorbance:吸光度)(mean optical desity(absorbance))A350-500nmのグラフによる図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4%の質量対体積百分率で免疫グロブリンを含んでなる免疫グロブリン製剤であって、室温で製剤中に溶解させた酸素の濃度が200μmol/l未満であり、免疫グロブリン製剤の吸光度A350-500nmが、暗所中、25℃で24ヶ月間貯蔵した際、0.28未満のままである、上記免疫グロブリン製剤。
【請求項2】
室温で製剤中に溶解させた酸素濃度が175μmol/l未満、好ましくは、150μmol/l未満、より好ましくは、125μmol/l未満、そして最も好ましくは100μmol/l未満である、請求項1に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項3】
免疫グロブリン製剤が、少なくとも5%、好ましくは、少なくとも10%、より好ましくは、少なくとも12%、より好ましくは、少なくとも14%、より好ましくは、少なくとも16%、より好ましくは、少なくとも18%、そして最も好ましくは少なくとも20%の質量対体積百分率で免疫グロブリンを含んでなる、請求項1又は2に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項4】
免疫グロブリン製剤中に含まれる免疫グロブリンが本質的にIgGから成る、請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項5】
光学密度A350-500nmの平均増加が、暗所中、37℃で6ヶ月の貯蔵にわたって、0.2未満である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項6】
ヒトに皮下投与するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の免疫グロブリン製剤のための貯蔵システムであって、内部を有する容器を含み、該内部の第一部分は、免疫グロブリン製剤によって占められており、そして該内部の残りの第二部分は、ヘッドスペースを形成し、そしてガスによって占められており、ヘッドスペースのガス中の酸素含量は20体積%未満であり、免疫グロブリン製剤の吸光度A350-500nmは、暗所中、25℃で24ヶ月間貯蔵した際、0.28未満のままである、上記貯蔵システム。
【請求項8】
ヘッドスペースのガス中、酸素含量が、16体積%未満、好ましくは、12体積%未満、より好ましくは、10体積%未満、そして最も好ましくは、7体積%未満である、請求項7に記載の貯蔵システム。
【請求項9】
ヘッドスペースのガスは、少なくともおよそ大気圧である、請求項7又は8に記載の貯蔵システム。
【請求項10】
ヘッドスペースのガス中、不活性ガス、特に窒素の含量は、80体積%より多く、好ましくは、84体積%より多く、より好ましくは、88体積%より多く、より好ましくは、90体積%より多く、そして最も好ましくは、93体積%より多い、請求項7〜9のいずれか1項に記載の貯蔵システム。
【請求項11】
容器がバイアルである、請求項7〜10のいずれか1項に記載の貯蔵システム。
【請求項12】
免疫グロブリン製剤に対するヘッドスペースの体積比が、0.1:1〜0.9:1の範囲である、請求項7〜11のいずれか1項に記載の貯蔵システム。
【請求項13】
ヘッドスペース中、吸光度A350-500nmの月平均増加が空気での貯蔵と比較して少なくとも10%減少する、請求項7〜12のいずれか1項に記載の貯蔵システム。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の免疫グロブリン製剤のための貯蔵システムを提供する方法であって、免疫グロブリン製剤を容器に充填し、容器を密封する工程を含んでなり、ここで密封する前に容器のヘッドスペースに、ヘッドスペースのガス中、酸素含量が20体積%未満になるようにガスを充填する、上記貯蔵システムを提供する方法。
【請求項15】
容器に充填したガスが大気圧である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の免疫グロブリン製剤のための貯蔵システムを提供する方法であって、Ig製剤又はその溶媒を脱ガスする工程及び/又は不活性ガスを用いてガス処理する工程に付する工程を含んでなる、上記貯蔵システムを提供する方法。
【請求項17】
Ig製剤の溶媒を、Ig製剤の製剤化の前に脱ガスする工程及び/又はガス処理する工程に付する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも4%の質量対体積百分率で免疫グロブリンを含む免疫グロブリン製剤の貯蔵安定性を増加させるために、20体積%未満の酸素含量を有しているガスの使用であって、吸光度A350-500nmの月平均増加が少なくとも10%の差で減少する、上記使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−520469(P2013−520469A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554344(P2012−554344)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052770
【国際公開番号】WO2011/104315
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(510282088)ツエー・エス・エル・ベーリング・アクチエンゲゼルシヤフト (3)
【Fターム(参考)】