説明

免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体の治療効果を高めるための方法

本発明は、免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体の治療効果を高めるための方法、改善された治療効果を有する免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体、および薬剤として、特に免疫療法のための薬剤としてのその使用に関する。具体的には、本発明は、突然変異した免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体を提供することを含み、この突然変異が、親免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体と比較して、C3ドメイン内の435位のアミノ酸アルギニン(R)のアミノ酸ヒスチジン(H)による置換を含む、免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体の治療効果を高めるための方法、ならびに本発明の方法によって得られる抗体および薬剤としてそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体の治療効果を高めるための方法、改善された治療効果を有する免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体、および薬剤として、特に免疫療法のための薬剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乳児は、自身の適応抗体を介した免疫を獲得するまで、母体から子に能動的に移行されるIgGクラスの母体抗体によって保護されている。ヒトにおいて、胎盤を介したこの子宮内IgG移行、または(たとえばげっ歯動物において)出生後の腸上皮を介した母乳からの移行は、新生児Fc受容体(FcRn)によって媒介される。
【0003】
FcRnは、β2Mと結合した、特異なHLAクラスI様α鎖から成るヘテロ二量体である。FcRnは、酸性pH(約6.5)において高い親和性でIgGに結合するが、生理的pH(約7.4)では結合がほぼ完全に排除される。
【0004】
インビボでは、結合は、IgGを含有する血漿の飲作用後に初期エンドソームにおいて起こると推測される。FcRn−IgG複合体が形成され、おそらくFcRnの細胞質側末端における様々なソーティングシグナルによって、リソソーム経路から離れる経路を辿る。
【0005】
これらの複合体は細胞表面に再循環されるかまたは細胞の反対側に輸送され、そこでFcRn−IgG複合体を含む小胞が一度にまたは一連の「キス・アンド・ラン」事象において細胞膜と融合する。これらの事象の間に、pHは生理的レベル(約7.4)に戻り、IgGに対するFcRnの親和性を大きく低下させる。これは複合体の解離を生じさせ、IgGは放出されるが、FcRnは再循環されてIgGと再結合すると推測される。
【0006】
IgG輸送の他にも、FcRnは様々な他の機能を媒介する。たとえば、FcRnはアルブミンをリソソーム分解から救済し、食作用において役割を果たすことが示された。
【0007】
IgGについてのサルベージ受容体として、FcRnは、IgG1、IgG2およびIgG4の高い血漿濃度(総IgGについて約10mg/ml)に関与すると考えられる。しかし、IgG3の血清半減期は他のIgGサブクラスの数分の一に過ぎず、他の血清タンパク質と同等であるので(IgG3は約7日間であるのに対し、IgG1、IgG2およびIgG4は約21日間)、FcRnが同じような方法でIgG3に結合し、輸送し、救済するか否かは明らかでない。IgG3について認められる血清半減期に関して少なくとも2つの可能な理論が存在する。
【0008】
第一に、IgG3の比較的長いヒンジ領域は、IgG3を、パパイン、プラスミン、トリプシンおよび/またはペプシンのようなタンパク質分解酵素の活性に対してよりアクセスしやすくする。
【0009】
第二に、FcRnによるIgG3の再循環は、存在するとすれば、他のIgGサブクラスの場合ほど効率的ではないと考えられる。
【0010】
免疫療法のために一般的に使用されるIgG1抗体と比較して、IgG3抗体は、中でも特に、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、食作用、および/またはIgG3を抗体ベースの治療のためのより適切な候補物質とする補体の活性化に関して、改善された治療効果を提供する。
【0011】
しかし、IgG1抗体と比較して、IgG3抗体の比較的短い半減期は、それらの治療上の有利な性質にもかかわらず、それらの治療適用を大きく制限してきた。
【発明の概要】
【0012】
従って、高い治療効果を有するIgG3抗体、特にIgG1抗体の血清半減期に匹敵する高い血清半減期を有するIgG3抗体を提供することが本発明の1つの目的である。
【0013】
この目的は、いくつかある目的の中でも特に、付属の請求項1に概説される方法によって達成される。
【0014】
具体的には、この目的は、突然変異した免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体を提供することを含み、この突然変異が、親免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体と比較して、C3ドメイン内の435位のアミノ酸アルギニン(R)のアミノ酸ヒスチジン(H)による置換を含む、免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体の治療効果を高めるための方法によって達成される。そのような突然変異はまた、抗体工学の技術分野においてR435H突然変異とも称される。
【0015】
本明細書で交換可能に使用される、「突然変異した免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体」または「突然変異IgG3」という用語は、天然では認められない、またはポリクローナルもしくはハイブリドーマ技術などの従来の抗体惹起および単離手法を使用して誘導し得るIgG3抗体を指示する。
【0016】
本発明の「突然変異した免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体」または「突然変異IgG3」は、たとえば、従来の抗体惹起および単離手法を通して得られる、本明細書では「親」という用語によって指定される抗体を起源とする核酸物質に対して一般的な組換えDNA技術を使用して誘導される。しかし、本発明の抗体は、その治療効果、特にその血清半減期において、これらの「親」抗体と異なる。
【0017】
本発明の特に好ましい実施形態では、本発明の突然変異IgG3は、(本発明の突然変異IgG3を提供するために突然変異させる核酸物質のソースを提供する)親IgG3と比較して、親IgG3の、親和性および特異性などのすべての特徴的な性質を有し、治療効果、特に血清半減期が高いという点においてのみ異なる。
【0018】
驚くべきことに、本発明者は、IgG3重鎖の435位のヒスチジン(H)残基の存在が、IgG3抗体のインビボ血清半減期をIgG1、IgG2およびIgG4抗体のインビボ半減期に匹敵するレベル、すなわち約21日間に上昇させることを発見した。
【0019】
これまでの試験は、本発明の実施例のように、435位にヒスチジン残基を有するIgG1も、435位にアルギニン残基を有するIgG3も、いずれもFcRn受容体による個別の輸送効率が同等であることを示していたので、この作用は意外である。
【0020】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、本発明のIgG3抗体、すなわちIgG3(R435H)の基礎となる高い血清半減期は、FcRn受容体に対するIgG1とIgG3の競合を排除することによって提供されると推測される。インビボで、IgG1とIgG3の両方が血清中に存在するが、FcRn受容体に関して競合すること、およびIgG1に有利なその後のリソソーム分解の細胞救済により、IgG1は約21日間循環中にとどまるが、IgG3は他の血清タンパク質と同様の速度、すなわち約7日間で速やかに分解される。
【0021】
IgG3の435位のアルギニン(R)残基のヒスチジン(H)残基への変換は、IgG3と比較したIgG1のこの競合優位性を排除し、それによってIgG3の血清半減期をIgG1、IgG2および/またはIgG4に匹敵する半減期まで上昇させる。
【0022】
本発明によれば、IgG3抗体のアミノ酸位置435は、Kabatのアミノ酸残基位置定義によるIgG3抗体の重鎖C3ドメインのアミノ酸位置435である。
【0023】
しかし、本発明はまた、Kabatの定義によるIgG3抗体の重鎖C3ドメインの435位に対応するまたは等価の位置における他のアルギニン(R)のヒスチジン(H)への置換を包含する。
【0024】
本発明のIgG3抗体は、親IgG3抗体と比較して突然変異している。一般に、本発明の親IgG抗体は約7日間の血清半減期を示し、435位にアルギニンを含む。本発明のIgG3抗体は、好ましくは、R435H突然変異のためにその半減期が約7日間から約21日間に上昇していることを除き、親IgG3抗体と類似の親和性および特異性を示す。
【0025】
好ましい実施形態では、本発明のIgG3抗体は、R435H突然変異を除き、親IgG3抗体と実質的に類似のアミノ酸配列を有し、より好ましくは実質的に同一のアミノ酸配列、最も好ましくは同一のアミノ酸配列を有する。
【0026】
上記の最も好ましい実施形態のために、本発明はまた、突然変異したIgG3抗体を提供するための方法に関し、この突然変異は、親IgG3抗体と比較して、C3ドメイン内の435位のアミノ酸アルギニン(R)のアミノ酸ヒスチジン(H)による置換から成る。
【0027】
好ましい実施形態では、本発明の方法によるIgG3抗体はヒトIgG3抗体である。本発明の記述中、ヒト抗体は、完全ヒト抗体、キメラ抗体およびヒト化抗体などの、少なくともヒト由来の定常部分を含む抗体である。
【0028】
もう1つの好ましい実施形態では、本発明の方法によるIgG3抗体は、高いインビボ血清半減期、好ましくは約21日間、たとえば19、20、21、22または23日間の血清半減期を含む高い治療効果を有するIgG3抗体である。
【0029】
本発明によれば、本発明のIgG3抗体は、好ましくは、
(a)免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体の重鎖をコードする核酸配列を単離するステップと、
(b)アミノ酸位置435をコードするコドンを、アミノ酸残基ヒスチジン(H)をコードするように突然変異させ、突然変異した核酸配列を提供するステップと、
(c)前記突然変異核酸配列を作動可能な発現エレメントとともに提供するステップと、
(d)前記突然変異核酸および免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体の軽鎖をコードする核酸配列を適切な宿主において発現させ、それによって突然変異した免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体を提供するステップと、場合により
(e)前記突然変異免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体を単離するステップと
によって提供される。
【0030】
ステップ(b)は、アミノ酸位置435をコードするコドンを、アミノ酸残基ヒスチジン(H)をコードするように突然変異させ、突然変異した核酸配列を提供するステップを含む。
【0031】
ステップ(d)による適切な宿主の好ましいコドン使用頻度に依存して、当業者は、ヒスチジンをコードする435位の適切なコドンを容易に選択することができる。一般に、大部分の高等真核生物種またはメタノール資化酵母(ピキア・パストリス、Pichia pastoris)のような一部の酵母種に関しては、ステップ(b)は、アミノ酸位置435をコードするコドンをCACまたはCATに突然変異させ、突然変異した核酸配列を提供することを含む。
【0032】
もう1つの態様によれば、本発明は、突然変異した免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体、好ましくはヒト抗体に関し、この突然変異は、親免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体と比較して、C3ドメイン内の435位のアミノ酸アルギニン(R)のアミノ酸ヒスチジン(H)による置換を含む。
【0033】
この態様の好ましい実施形態によれば、本発明は、突然変異した免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体、好ましくはヒト抗体に関し、この突然変異は、親免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体と比較して、C3ドメイン内の435位のアミノ酸アルギニン(R)のアミノ酸ヒスチジン(H)による置換からなる。
【0034】
本発明のIgG3抗体の改善された治療効果、特にそれらの改善された血清半減期を考慮して、本発明は、第三の態様によれば、薬剤としての使用のため、好ましくは、免疫療法、たとえば、好ましくは関節リウマチ、多発性硬化症、乾癬、ならびに非ホジキンリンパ腫、結腸直腸がん、頭頸部がんおよび乳がんを含む多くの形態のがん、および免疫不全症などの免疫療法のための薬剤として使用のための、上記で定義した、突然変異免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体に関する。
【0035】
X連鎖無ガンマグロブリン血症や低ガンマグロブリン血症などの一部の免疫不全症は、部分的または完全な抗体の欠如を生じさせる。これらの疾患はしばしば、受動免疫と呼ばれる短期的な形態の免疫を誘導することによって治療される。受動免疫は、ヒトまたは動物の血清、プールされた免疫グロブリンまたはモノクローナル抗体の形態で既製抗体を罹患個体に移入することを介して達成される。本発明の高い血清半減期はこれらの疾患の治療に特に適する。
【0036】
本発明を、付属の図面を参照し、以下の実施例を使用してさらに詳述し、説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】JARおよびA375におけるIVIgのFcRnを介した輸送が、IgG1についてはZドメインによって阻害されるが、IgG3に関しては阻害されないことを示す。 図1A:FcRn陰性A375−WT細胞は特異的IgGトランスサイトーシス(IVIg)を示さず、HRP輸送によって測定した受動漏出と同等であった。FcRnのα鎖でのトランスフェクション後、A375−FcRnはIgGを頂端から側底側画分へと極めて効率的に輸送する。IVIgを、輸送の前に2:1のモル比(Zドメイン:IgG)でZドメイン(プロテインAの最小IgG結合ドメイン)と混合した場合、A375−FcRn細胞によるIgG1輸送は有意に低下したが、一方IgG3輸送は増強された。 図1B:天然にFcRnを発現するJAR細胞は、IVIgからIgG1とIgG3を等しく良好に輸送した。輸送の前に2:1のモル比でIVIgをZドメインと共にインキュベートすると、IgG1の輸送は阻害されたが、IgG3の輸送は増大した。 A)およびB)の両方において100μg/mlのIVIgを使用した。IgG1を白いバーで示し、IgG3は斜線を付けたバーで、そしてHRPは黒いバーで示した。Y軸は、頂端画分から側底側画分に輸送されたIgGのパーセンテージを示す。統計比較は、一方向ANOVAとそれに続くテューキーの多重比較検定によって実施し、有意性のレベルを「実験材料および方法」の章で定義するように示している。
【図2】IgG3の輸送が非飽和条件下でIgG1によって阻害されることを示す。 図2A:IgG3とIgG1は、頂端から側底側画分に別々に輸送された場合、A375−FcRn細胞において等しく良好にトランスサイトーシスされ、注入量を倍加した場合、どちらもそれら自体の輸送を阻害しなかった。しかし1:1混合物では、IgG1の存在下でIgG3の輸送が低下した。 図2B:JAR細胞では、IgG3は、単独で提供された場合、頂端から側底側画分へと効率的に輸送された。輸送されるIgG1またはIgG3の量も、頂端濃度を倍加することによって影響を受けなかったが、IgG3輸送は、等しい量のIgG1の存在によって阻害された。 図2C:1つのサブクラスだけが存在する場合、A375−FcRnは一定のパーセンテージのIgGを頂端から側底膜側へと輸送した。IgG1とIgG3の両方について、このパーセンテージは試験した範囲にわたって安定なままであった。 ミエローマIgG1およびIMIg由来のIgG3をすべての実験のために使用した。データは、各々3つのウェルの3回の独立した実験の平均および標準偏差である。IgG1とIgG3の両方が存在する場合は、両方を同じ試料において独立して測定した。IgG1の存在下でのIgG3の輸送を、角括弧で示すように両側t検定によってIgG3単独の輸送と比較した。
【図3】IgG1によるIgG3輸送の濃度依存的阻害を示す。 図3A:漸増量のIgG1の不在下または存在下での組換えIgG3(10μg/ml)の頂端から側底側への輸送。IgG3輸送は、1ng/ml超のIgGが存在する場合、プラトーまで阻害された。すべてのデータポイントを、一方向ANOVAおよびダネットの多重比較検定によってIgG1なしの試料と比較した。 図3B:組換えIgG3単独(点線)または1:1のモル比で漸増濃度のIgG1と混合したIgG3(実線)を頂端画分に添加し、側底側画分においてIgG3を測定した。1μg/mlより低い濃度では、IgG3の輸送は、IgG3を単独で輸送した場合に認められたのと同様のレベルまで上昇した。 IgG1とIgG3の混合輸送からのすべてのデータポイントを、t検定によってIgG1不在下での対応するIgG3輸送と比較した。
【図4】Fcと435位にモデリングしたアルギニンを伴うラットFcRnの結晶構造を示す。 図4A:IgGの結合アミノ酸位置435の配向を黄色で示す、IgG分子のFc部分を伴うFcRnの結晶構造。 図4B:FcRnにおける結合ポケットへのIgGのアミノ酸435の側鎖(ヒスチジン、緑色で示す)の結合を示す、結合ポケットの拡大図。アルギニンをこの位置にモデリングした場合(黄色で示す)、FcRn表面領域へと突出し、おそらく立体障害を引き起こす。17から得た結晶学的配位およびモデリングはVMD1.8.4を使用して実施した。
【図5】435位にアルギニンを有するIgGの頂端から側底側への輸送が435位にヒスチジンを有するIgGによって阻害されるが、側底側から頂端への輸送は影響されないことを示す。 図5A:IgG1(H435)およびIgG3(R435)における435位のアミノ酸をアラニンに突然変異させることは輸送を低下させるが、互いの骨格上のIgG1にネイティブなヒスチジンとIgG3にネイティブなアルギニンを交換すると、FcRnでトランスフェクトしたA375細胞に別々に提供した場合、それらの輸送率に影響を及ぼさなかった。 図5B:IgG3−WTの輸送はIgG1−WTによって阻害されたが、435位にアラニンまたはアルギニンを担持するIgG1はIgG3の輸送に影響を及ぼさなかった。 図5C:435位にヒスチジンを有するIgG3の輸送はWTのIgG1によって阻害されなかった。IgG1とIgG3の435位に認められるアミノ酸を交換した場合、IgG1−H435Rの輸送はIgG3−R435Hによって阻害された。 図5D:IgG1とIgG3は、側底側から頂端方向に輸送される場合、両方が単独で輸送される場合、および1:1の比率で混合して輸送される場合は、等しいレベルで輸送された。 +/−(IgG/IgGなし)によって示すように、組換えIgG1およびIgG3を、A)およびD)の最も左側の2つのバーでは別々に使用し、またはB)、C)およびD)の最も右側の2つのバーでは等しい濃度で(10μg/ml/サブクラス)混合して使用した。突然変異体(435H、435A、435R)の存在は対応する文字で示している。WT IgGの輸送を、一方向ANOVAおよびダネットの多重比較検定によって突然変異IgGの輸送と比較し、有意性を「実験材料および方法」の章で述べるように示している。
【図6】インビボおよびインビトロでのIgG3の異化作用増強がR435によるものであることを示す。 図6A:集密的なA375−FcRn単層の頂端画分に添加した総IgGの約95%が、IgG1またはIgG3を個別に(10μg/ml)に添加した場合、24時間後に頂端画分と側底側画分の両方から回収された。しかし、IgG1とIgG3を等しい量で混合した場合、初期IgG3の約65%が検出でき、IgG3がIgG1の存在下で分解されたことを示唆した。IgG1の回収は、IgG3が存在しない場合に認められたのと同様であった。IgG3−R435Hは、IgG3単独と同様に、24時間後に約95%が検出できたので、IgG1の存在下でも分解されなかった。 図6B:IVIgによる最後の治療から4週間後の無ガンマグロブリン血症患者からの血清中のIgGサブクラスおよびヒスチジン−435を含有するIgG3アロタイプG3m(s、t)を、対応するIVIg製剤中で認められるIgGサブクラスおよびG3m(s、t)レベルと比較した相対的濃度。 データは、3名の患者からの血清において実施した測定から計算した平均プラス標準偏差を示す。統計比較は、一方向ANOVAとそれに続くテューキーの多重比較検定によって実施し、有意性のレベルは「実験材料および方法」の章で定義するように示している。簡潔さのために、有意差は、すべてのサブクラスと比較したIgG1について、および総IgG3とG3m(s、t)レベルの間でのみ提示している。
【実施例】
【0038】
<序論>
この実施例では、IgG1とIgG3のFcRnを介した輸送における相違を明らかにする。完全なヒトインビトロおよびインビボモデルを使用して、予想外に、IgG1とIgG3がFcRnを介した輸送および再循環に関して競合することが認められた。本発明のデータは、IgG3における435位のアルギニンの存在が、インビボで認められたその高い割合の異化作用を説明するのに十分であることを明らかにする。
【0039】
<実験材料および方法>
細胞培養
ヒト絨毛癌細胞(JAR、American Type Culture Collection,Manassas,VA,USA)をIMDM培地(Cambrex,Verviers,Belgium)において、および黒色腫細胞(A375、FcRn−β2m+、C.Sautes−FridmanおよびL.Cassardの好意により提供された)をRPMI 1640培地(Invitrogen/Gibco,Carlsbad,CA)において、どちらの培地にもL−グルタミン(300mg/ml、Invitrogen/Gibco)、ペニシリン(100U/ml、PAA Laboratories GmbH,Pasching,Germany)、ストレプトマイシン(100mg/ml、PAA)および10%ウシ胎仔血清(FCS、Bodinco,Alkmaar,The Netherlands)を添加して増殖させた。すべての培養は、飽和湿度および空気中5%COにおいて37℃で実施した。
【0040】
A375−FcRn
ヒトFcRnのcDNAを、正プライマー5’GGA TCC ACC ATG GGG GTC CCG CGG CCT CAG C 3’および逆プライマー5’GAA TTC TCA GGC GGT GGC TGG AAT CAC 3’を使用してPCRによって増幅した。生成物をpGEM−Tベクター(Invitrogen)に連結し、FcRn配列を自動DNAシークエンシング(ABI 373 Stretch自動配列決定装置、Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)によって確認した。
【0041】
完全なFcRnコード領域を含有するBamHI−EcoRIフラグメントをpMX−puroベクター(DNAX,Palo Alto,CA,USA)にサブクローニングし、パッケージングベクターと共に293T細胞42にトランスフェクトした。上清を使用してA375細胞をトランスフェクトした。FcRnの発現をMAb−1G3結合および定量的RT−PCRによって確認した。
【0042】
IgG
市販の静脈内免疫グロブリン(IVIg、Sanquin,Amsterdam,The Netherlands)を購入した。ミエローマIgG1は、多発性骨髄腫を有する3名の患者から血清タンパク質沈殿によって入手し、プールした。
【0043】
簡単に述べると、タンパク質をDEAEサイズクロマトグラフィーによって分離し、その後セファデックス結合抗サブクラスIgGのカラムを通すことによってIgG2、IgG3およびIgG4を除去した。セファロースマトリックス上に固定化したプロテインAを使用して他のサブクラスを除去することにより、筋肉内Ig(IMIg、Sanquin)からIgG3を得た。
【0044】
野生型と突然変異型(IgG1−H453A、IgG1−H435R、IgG3−R435A、IgG3−R435H)の両方の組換えIgG1およびIgG3を、製造者の指示に従って293 Freestyle細胞(Invitrogen)において生産した。
【0045】
IgG1−H435Aは記述されているように作製した。IgG1−H435R、IgG3−R435AおよびIgG3−R435Hは、Quickchange部位指定突然変異誘発キット(Stratagene,La Jolla,CA,USA)および以下のオリゴヌクレオチドプライマーをそれらの相補的な逆プライマーと共に使用して作製した。
IgG1−H435R:GAG GCT CTG CAC AAC CGC TAC ACG CAG AAG AGC C
IgG3−R435A:GAG GCT CTG CAC AAC GCC TAC ACG CAG AAG AGC C
IgG3−R435H:GAG GCT CTG CAC AAC CAC TAC ACG CAG AAG AGC C
すべての突然変異を発現の前に配列決定によって確認した。
【0046】
Zドメイン
Zドメインをコードする遺伝子を、同時に制限部位(NotIおよびBamHI)を導入する、プライマーGGA TCC GTA GAC AAC AAA TTC AAC(正)およびCTG CAG TTA TTT CGG CGC CTG AGC ATC(逆)を使用してpThio−His−ZZ24ベクターからPCRによって増幅し、その後PCR生成物をpGEM−Tベクター(Promega,Madison,WI,USA)にクローニングした。
【0047】
BamHIおよびNotI制限部位を使用して、遺伝子をpGEX6.2発現ベクターにクローニングし、大腸菌(E.coli)における発現の前に結果を配列決定によって確認した。
【0048】
PreScisionプロテアーゼ(GE healthcare)を使用して精製の間にGSTタグを除去し、その後Zドメインを重力流によってグルタチオンセファロース4Bカラム(GE healthcare,Chalfont St Giles,UK)から溶出させた。最後に、溶出液をPBSに対して透析した。
【0049】
IgGトランスサイトーシス
IgG輸送実験のために、12mmのトランスウェルフィルター(細孔径0.4mm、Costar/Corning,Acton,MA,USA)に5×10細胞を接種した。細胞を一晩集密まで増殖させ、PBSで洗浄して、新たな12ウェルプレートにおいて側底側画分に培地1.5mlおよび頂端画分に培地0.5mlを入れた。充填画分中の培地は、輸送されるIgGおよび受容体を介さない輸送または漏出を評価するための125pg/mlのストレプトアビジン−HRP(Sanquin)を含んだ。
【0050】
100mlの試料を適切な画分から採取し、IgGを定量した。頂端から側底側への輸送を、([IgG]側底側×1.5ml)/([IgG]注入量×0.5ml)×100%に従って計算し、側底側から頂端への輸送を([IgG]頂端×0.5ml)/([IgG]注入量×1.5ml)×100%として計算した。すべての実験を3回ずつ実施した。
【0051】
無ガンマグロブリン血症患者
4週間の間隔を置いてIVIgで定期的に治療されている、無ガンマグロブリン血症に罹患している3名の患者からの血清試料を、IVIgを摂取した4週間後に採取し、以下で述べるようにIgGレベルを測定した。すべての患者からインフォームドコンセントを得た。
【0052】
IgGの定量
血清試料中のIgGサブクラス濃度を、製造者のプロトコールに従って比濁法(Behringer Nephelometer II、Behringer diagnostics,Deerfield,Illinois,USA)によって定量した。他のすべての場合に、IgG濃度はサンドイッチELISAによって定量した。
【0053】
G3m(s)とG3m(t)の両方がほとんど独占的に一緒に生じ、G3m(t)がG3m(s)を伴わずに認められることはまれであるため、サブクラス特異的マウスモノクローナル抗体(IgG1:MH161−1;IgG3:MH163−1、Sanquin)またはアロタイプ特異的モノクローナル抗G3m(t)(15A10、Sanquin)を使用してG3m(s,t)IgG3を捕捉した。マウスモノクローナル抗IgG−HRP(Southern Biotech,Birmingham,AL,USA)を、G3m(s,t)ELISAを除くすべてのアッセイにおいて検出のために使用し、G3m(s,t)ELISAでは、マウスモノクローナル抗IgG3−HRP(MH163−1、Sanquin)を使用した。
【0054】
3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)の変換を使用してHRP活性を定量し、450nmのGenios Proプレートリーダー(Tecan,Maennedorf,Switzerland)を使用して吸収を読み取った。輸送のためまたは患者を治療するために使用したのと同じIgG製剤を用いて標準曲線を作成した。
【0055】
統計解析およびデータセット
提示するすべてのデータは、各々3回の反復から成る少なくとも3つの独立した実験の平均および標準偏差を示す。Windows(登録商標)用のGraphPad Prismバージョン4.00(GraphPad Software,San Diego CA,USA)をすべての統計解析のために使用した。有意性はp=0.05に設定し、有意性のレベルをすべての数字上に:p=0.05;**:p=0.01;***:p=0.001として示している。
【0056】
<結果>
FcRnを介したIgG輸送
FcRn陰性ヒト細胞株A375は、有意の量のIgGを頂端から側底側画分に輸送することができなかった(図1A)。FcRnのα鎖遺伝子での形質導入後(A375−FcRn)、これらの細胞は単層を越えてIgGを活発に輸送した。加えて、内因性FcRnを発現する、胎盤合胞体栄養細胞層由来のJAR細胞を横切るIgG輸送を検討した(図1B)。
【0057】
これらの試験のために、すべてのヒトIgGサブタイプの生理的比率(約60%のIgG1、33%のIgG2、3%のIgG3、3%のIgG4)でのポリクローナル混合物、IVIgを使用した。すべてのサブクラスの輸送が認められたが、A375−FcRnはIgG3より3〜4倍多いIgG1を輸送し、一方JARは両者の等しい量を輸送した。
【0058】
ブドウ球菌(Staphylococcus)のプロテインAは、FcRnと同じ部位でIgG3を除くすべてのIgGサブクラスに結合する。FcRnへの結合に関するIgG1、IgG2およびIgG4の競合的阻害剤を、プロテインAの最小結合ドメイン(Zドメイン、59アミノ酸の三重αらせん構造)を使用して作製した。
【0059】
輸送実験の前にIVIgをこのZドメインと共にインキュベートした場合、理論的最小値である2:1(Z:IgG)という低いモル比を使用して、A375−FcRn細胞によるIgG1の輸送がA375−WTに近いレベルまで低下することが認められた(図1A)。
【0060】
同様に、Zドメインの存在下で、JAR細胞によるIgG1輸送が非特異的輸送に関して認められたレベルまで低下し(図1B)、両方の細胞型においてIgG1輸送がFcRn依存性であることを明らかにした。
【0061】
注目すべきことに、Zドメインを使用して他のサブクラスのFcRnを介した輸送を阻害した場合、IgG3輸送はJAR細胞およびA375−FcRn細胞の両方において有意に上昇し(図1Aおよび1B)、その他のIgGサブクラスの活発な輸送がIgG3輸送を妨げることを指示しした。
【0062】
IgG1はIgG3の輸送を妨げる
この所見と一致して、骨髄腫IgG1またはIgG3を別々にA375−FcRnに提供した場合、IgG1とIgG3は等しい量で輸送されることが認められた(図2A)。JAR細胞は、さらに、個別に提供した場合、IgG1よりも最大で50%多いIgG3を輸送した(図2B)。しかし、IgG1とIgG3の等モル混合物を提供した場合、A375−FcRnおよびJARによるIgG3輸送は、IVIg輸送実験で見られたように同等のレベルまで低下した(図2Aおよび2B)。
【0063】
これがFcRnの飽和によるものであるかどうかを試験したが、精製IgG1またはIgG3の濃度を広い範囲にわたって(1μg/ml〜350μg/ml)低下または上昇させても、相対的輸送効率には影響を及ぼさなかったので、これについての証拠は見出せなかった(図2C)。
【0064】
IgG1によるIgG3輸送の濃度依存的阻害
V遺伝子を一致させた組換えIgG1およびIgG3を使用して同じ結果を得た。IgG3濃度を10μg/mlで一定に保持した場合、1ng/mlという低いIgG1濃度で頂端から側底側へのIgG3輸送が有意に(p<0.05)低下した(図3A)。IgG1とIgG3を等モル比で混合した場合、相対的IgG3輸送はIgG3単独の輸送と比較して有意に低下した。IgG3輸送の阻害は濃度依存的であり、10ng/ml/サブクラスのIgG濃度で失われた(図3B)。注目すべきことに、同じ濃度(10ng/ml)のIgG1は、1000倍過剰のIgG3(10μg/ml、図3A)を有意に阻害した。
【0065】
これらのデータは、頂端から側底側へのトランスサイトーシスの間にIgG1によってIgG3に及ぼされる阻害が濃度依存的であることを明らかにし、これら2つのサブクラスがFcRnを介した輸送に関して競合することを示唆した。
【0066】
IgG1によるIgG3輸送の阻害はR435によるものである
IgG3は、435位に、その他のIgGサブクラスで認められるヒスチジンの代わりにアルギニンを含む。これらの相違を既存の結晶構造にモデリングした場合、アルギニンのより長い側鎖がFcRn結合ポケットへのIgGの密接な適合を潜在的に破壊することは明らかであったが(図4)、同時に理論的には、ヒスチジンは中性であるがアルギニンが正に荷電するpH7.5でより有利な電荷を伝達し得る。
【0067】
435位のアミノ酸をアラニンに突然変異させた場合、ほとんどすべてのFcRn依存性輸送が排除され(図5A)、また310位のヒスチジンをアラニンに突然変異させた場合も、特異的IgG輸送は見られなかった(データは示していない)。
【0068】
IgG1も、IgG3由来のアルギニン残基を含むように、およびその逆にも突然変異させた(それぞれIgG1−H435RおよびIgG3−R435H)。これらの突然変異は、個別に輸送した場合、いずれのサブクラスの輸送効率にも有意の影響を及ぼさなかった(図5A)。
【0069】
IgG1−WTの存在はIgG3−WTの輸送効率の低下を生じさせたので、435位に突然変異を担持する様々なIgG1およびIgG3変異体を1:1の比率で混合した。
【0070】
FcRnに非効率的に結合するIgG1−H435Aは、FcRnによってほとんどトランスサイトーシスされず(図5A)、IgG3の輸送を阻害することもできなかった(図5B)。重要な点として、輸送コンピテントであるIgG1−H435R(図5A)がIgG3の輸送を阻害することができず(図5B)、IgG3とIgG1の間でのアルギニン/ヒスチジンの相違がIgG3輸送のIgG1を介した阻害のために重要であることを指示した。
【0071】
同様に、IgG3−R435H輸送のレベルは、等しい量のIgG1変異体(IgG1−WT、IgG1−H435AまたはIgG1−H435R)のいずれの存在によっても影響されなかった(図5C)。
【0072】
注目すべきことに、IgG3−R435Hは、IgG1−WTがIgG3−WTの輸送を阻害した(図5B)のと同程度にIgG1−H435Rの輸送を阻害し(図5C)、R435はFcRnを介した結合と効率的な輸送を可能にするが、H435を含有するIgGが存在する場合はこれに当てはまらないことを明らかにした。
【0073】
側底側から頂端方向では、しかしながら、IgG1はIgG3輸送に影響を及ぼさなかった(図5D)。従って、IgG1は、頂端から側底側へのFcRnを介したIgG3輸送だけを阻害した(図1〜5)。
【0074】
インビトロでの分解
FcRnはリソソーム分解からIgGを救済する責任を担うので、IgG1の存在下でのIgG3の輸送低下が、頂端から側底側への輸送の間にその分解増強を生じさせるか否かを試験した。24時間後、頂端画分と側底側画分からの種々のIgG変異体の回収率に大きな差が認められた(図6)。
【0075】
単独で輸送された場合、最大で95%までのIgG1−WTまたはIgG3−WTが回収できたが、等モル量(10μg/ml/サブクラス)で混合した場合は、すべてのIgG1が回収されたが、IgG3の初期量の60%だけしか検出できなかった。
【0076】
しかし、IgG1−WTとIgG3−R435Hを等しい濃度で提供した場合、IgG1−WTとIgG3−R435Hの両方の回収率は約95%であり(図6)、IgG1の存在下でのIgG3の輸送低下および損失増加はもっぱら435位のアルギニンによるものであることを指示した。
【0077】
低濃度のIgG1によるIgG3の輸送阻害の低下(図3)と一致して、IgG3を低濃度(10ng/ml/サブクラス、データは示していない)のIgG1と共に輸送した場合、IgG3の分解の濃度依存的低下が認められた。輸送効率の低下は、従って、おそらくFcRnを介した救済の喪失に起因する、より速やかな分解に関連する。
【0078】
ヒスチジン435を含有するIgG3のインビボでの半減期上昇
IgG3内に存在するR435が、同時にインビボでのIgG3の低い半減期の原因であるのかどうかを調べるため、種々のIVIg由来のIgG3アロタイプの血清中での持続性をX連鎖無ガンマグロブリン血症患者の血清において比較した。
【0079】
IVIgの最後の注射の4週間後に、IgG1およびIgG2の相対的量は、これらの患者において、IVIg製剤自体において認められる量と比較して不変であった(図6B)。予想されたように、総IgG3レベルは有意に低下したが、G3m(s,t)アロタイプのIgG3の残存する相対的量は有意に増加した。従って、435位にヒスチジンまたはアルギニンを含有するIgG3の天然変異体は、それぞれ低いまたは高い割合の異化作用を示す。
【0080】
これらのデータを合わせると、より一般的に認められるアロタイプ形態(G3m(b)、G3m(g))において存在するR435は、インビボでのそれらの高い割合の異化作用を説明するのに十分であることを指示する。
【0081】
<考察>
IgGはヒト胎盤を越えて効率的に輸送され、IgGの半減期は、FcRnという1つの受容体のおかげで、同程度の大きさの血清タンパク質と比較して長い。これに対する唯一の例外は、非FcRn結合タンパク質に匹敵する半減期を有すると記述されている、ヒトIgG3である。逆に、母体レベルに比べ、IgG1よりかなり低いレベルであるが、母体由来のIgG3が新生児において認められる。
【0082】
両方の現象を観察して、以下で論じるように、IgG1とIgG3の間の微妙な相違に説明を求めたが、明確な実験上の証拠は得られなかった。この実施例において、精製IgG3のFcRnを介した輸送は正常であることが認められたが、他のIgGサブクラスの存在下でIgG3輸送の予想外の阻害が認められた。この阻害は、IgG3とその他のIgGサブクラスとの間の1個のアミノ酸の相違によるものであることが判明し、それはインビトロでのIgG3の分解およびインビボでの異化作用増強と直接相関した。
【0083】
本実施例では、天然にFcRnを発現するヒト胎盤由来のJAR細胞、FcRn発現を欠くヒトA375細胞、およびヒトFcRnでトランスフェクトしたA375細胞を使用して、完全なヒト系において、従っていかなる種間不適合性も排除して、ヒトIgG輸送を検討した。
【0084】
特に、IgG1とIgG3のFcRnを介した輸送の相違、および435位のアミノ酸の相違の影響を検討した。様々なソースのIgGを使用した。IVIg、ミエローマIgG、ならびにV遺伝子がマッチする組換え野生型IgG1とIgG3および435位においてのみ異なるそれらの突然変異体。
【0085】
精製IgG1とIgG3の輸送率は、JAR細胞においてIgG3輸送が比較的高かったことを除き、両方の細胞株ですべてのIgGソースについて同様であり、輸送のためにはFcRnが必要であるが、別のFcRが関与している可能性があることを示唆した。しかし、IgG1とIgG3を同時に輸送した場合、両方の細胞型においてIgG3の輸送がIgG1によって阻害されることが認められた。
【0086】
この阻害は、IMIgから精製したIgG3と組み合わせたミエローマIgG1、V遺伝子適合IgG、ならびに阻害が、IgG1、IgG2およびIgG4に特異的なFcRn−IgG結合のプロテインAに基づく阻害剤(Zドメイン)によって軽減され得るIVIgに関して認められた。
【0087】
十分に定義された組換え抗体を使用することにより、認められた阻害が、可変領域、軽鎖アイソタイプにおける相違によって、または他のサブクラスの抗体製剤への混入によって引き起こされた人為的影響に関連する可能性が排除された。
【0088】
FcRn飽和は、輸送されたIgGの相対的量が、検討した両細胞型について精製IgG1およびIgG3の両方の広い範囲の注入濃度にわたって一定であったため、認められた阻害についての可能性のある説明としては除外された。
【0089】
IgG3の存在または不在も、IgG1輸送に影響を及ぼさなかった。IgG3輸送のIgG1誘導性阻害は用量依存的であり、S字型曲線に沿って上昇し、比較的低い量のIgG1を必要とした。
【0090】
435位のアミノ酸を、IgG1においてヒスチジンからアルギニンまたはアラニンに突然変異させること、またはIgG3においてアルギニンからヒスチジンに突然変異させることは、IgG1によるFcRnを介したIgG3輸送の阻害を無効にした。この阻害は、さらに、IgG1/IgG3の間で435位のアミノ酸(ヒスチジン/アルギニン)を交換することによって(IgG1−H435RおよびIgG3−R435Hを生じさせる)完全に逆転することができた。435位をアラニンに突然変異させると、IgG1とIgG3の両方について輸送をほとんどバックグラウンドレベルにまで低下させた。
【0091】
<結論>
IgG3は、IgG1(免疫療法のために最も一般的に使用されるアイソタイプ)と比較して同等またはより優れたエフェクター機能で知られるが、同時にその短いインビボ半減期でも知られる。
【0092】
後者の部分に関して、本発明のデータは、R435を含有するIgG3が、FcRn結合に関する競合に敗れて、リソソーム経路から離れることを示し、インビボでの高い異化作用および胎盤を越えるIgG3の相対的に低い輸送を説明する。
【0093】
本発明のデータは、両方のFcRnを介する作用がR435をヒスチジンで置換することによって軽減され得ることを明らかにする。これは、最大のエフェクター機能を目指す現在および将来の抗体ベースの治療のために重要な意味を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
突然変異した免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体を準備するステップを含み、前記突然変異が、親免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体と比較して、C3ドメイン内の435位のアミノ酸アルギニン(R)のアミノ酸ヒスチジン(H)による置換を含む、免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体の治療効果を高めるための方法。
【請求項2】
前記突然変異が、前記親免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体と比較して、前記C3ドメイン内の435位の前記アミノ酸アルギニン(R)の前記アミノ酸ヒスチジン(H)による置換である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体がヒト免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記治療効果を高めることが、インビボでの半減期を高めることを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
突然変異した免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体を準備するステップが、
a)免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体の重鎖をコードする核酸配列を単離するステップと、
b)突然変異した核酸配列を提供するために、アミノ酸位置435をコードするコドンを、前記アミノ酸残基ヒスチジン(H)をコードするように突然変異させるステップと、
c)前記突然変異核酸配列を作動可能な発現エレメントとともに提供するステップと、
d)前記突然変異核酸と免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体の軽鎖をコードする核酸配列とを適切な宿主において発現させ、それによって突然変異した免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体を提供するステップと、
任意選択的に、
e)前記突然変異免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体を単離するステップと
を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
突然変異した免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体であって、前記突然変異が、前記親免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体と比較して、前記C3ドメイン内の435位の前記アミノ酸アルギニン(R)の前記アミノ酸ヒスチジン(H)による置換を含む、突然変異免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体。
【請求項7】
前記突然変異が、前記親免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体と比較して、C3ドメイン内の435位の前記アミノ酸アルギニン(R)の前記アミノ酸ヒスチジン(H)による置換から成る、請求項6に記載の突然変異免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体。
【請求項8】
前記免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体がヒト免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体である、請求項6または請求項7に記載の突然変異免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法によって得られる突然変異免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体。
【請求項10】
薬剤としての使用のための、請求項6〜9のいずれか一項に記載の突然変異免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体。
【請求項11】
免疫療法のための、請求項6〜9のいずれか一項に記載の突然変異免疫グロブリンGクラス3(IgG3)抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−509951(P2011−509951A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−542516(P2010−542516)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000373
【国際公開番号】WO2009/089846
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(510197139)
【Fターム(参考)】