説明

免疫バランス調節用組成物

【課題】コスト面に優れ、かつ極端なサイトカインバランスシフトによる弊害のない免疫バランス調節用組成物を提供する。
【解決手段】(A)ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)と(B)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の細菌を含有することを特徴とする免疫バランス調節用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギーの予防・治療さらには、自己免疫疾患の予防・治療に有用な、免疫バランス調節用組成物、特に、免疫調節活性を有する乳酸菌二種を有効成分とする免疫バランス調節用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫システムは生体防御において中心的な役割を果たしている。しかしながら、近年、アレルギーや自己免疫疾患などで見られるように、免疫システムの破綻を原因とする疾患が著しく増加している。アレルギーは本来生体にとって無害な抗原に対して生体側の免疫担当細胞が過剰に応答してしまうために生じる疾患である。また、免疫システムは自己と非自己を識別し、非自己のみ排除しようとする。しかしながら、この免疫システムが自己を排除する方向に働く場合があり、これが疾病となって現れたものを自己免疫疾患という(非特許文献1)。
【0003】
アレルギー、自己免疫疾患はそれぞれ免疫システムの破綻が原因であるが、中でもサイトカインバランスの破綻が大きな割合を占めると考えられる。サイトカインを産生し、免疫システムを制御するT細胞はヘルパーT細胞(Th)とされ、そのサイトカイン産生能からTh1細胞とTh2細胞に分類される。Th1細胞はIFN-γ、IL-2などを産生し、細胞性免疫応答を高める。それに対し、Th2細胞は、IL-4、IL-5などを産生し、液性免疫応答を高める。これらヘルパーT細胞から産生されたサイトカインは相互に作用しあって、免疫システムを制御する。健常な生体内ではTh1とTh2の均衡が保たれているが、一般にアレルギーが引き起こされる場合はTh2が優勢であり、自己免疫疾患ではTh1が優勢であると考えられている(非特許文献2)。
【0004】
これらアレルギー、自己免疫疾患について、いずれにおいても対症療法はあるものの、根本的な治療、すなわち予防法、完治法は未だ確立していない。
【0005】
ところで、乳酸菌の中には免疫バランスを調節し、抗アレルギー作用を有するものがあることが知られており(特許文献1〜3)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)KW3110株(FERM BP-08634)についても、抗アレルギー作用を有することが知られている(特許文献4)。一般に、乳酸菌の抗アレルギー作用はTh1免疫を増強し、Th2免疫を抑制することによると考えられている。
【0006】
一方、ビフィズス菌の一種であるビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属細菌については、IgE抗体産生抑制による抗アレルギー効果(特許文献5、6)、COX‐1 m-RNA量の増加作用による自己免疫疾患治療(特許文献7)が知られている。また、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)YIT4007株(FERM BP-791)については、その菌体成分が上皮成長因子や、繊維芽細胞成長因子を誘導することで、抗潰瘍効果を持つことがこれまでに知られている(非特許文献3)。さらに、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)YIT4007株(FERM BP-791)の菌体壁成分は、抗がん効果を持つことが示されている(特許文献8)。しかしながら、一部のアレルギーモデルを用いた検討では、投与してもその病態になんら影響を及ぼさないことから(非特許文献4)、アレルギー病態、もしくは自己免疫疾患に対する効果に関しては不明であった。
【0007】
現時点において、サイトカインバランスを制御するために行われているサイトカインの投与や免疫抑制剤の投与は、その副作用だけではなく、コストの面でも問題があり、長期間の療養を必要とし、アレルギー患者、自己免疫疾患患者への負担は大きい。そこでアレルギー、及び自己免疫疾患の治療、予防には、極端なサイトカインバランスシフトなどの副作用が少なく、なおかつ日常的に摂取できる安全な医薬品又は飲食品に利用できる組成物の開発が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開平9-2959号公報
【特許文献2】特開平10−309178号公報
【特許文献3】特開2000−95697号公報
【特許文献4】特開2005-137357号公報
【特許文献5】特開2007-91694号公報
【特許文献6】特開2006-273852号公報
【特許文献7】特表2007-507485号公報
【特許文献8】米国特許5601999号
【非特許文献1】免疫学イラストレイテッド第5版 南江堂,2000年
【非特許文献2】免疫学がわかる 小安重夫編,羊土社,2000年
【非特許文献3】Biol. Pharm. Bull. 1994 17: 1012-1017
【非特許文献4】Clin.Diagn. Lab. Immunol. 2001 8: 762-767
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、コスト面に優れ、かつ安全な、すなわち極端なサイトカインバランスシフトによる弊害のない免疫バランス調節用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の細菌を組合せて使用したところ、アレルギー疾患を代表する気道過敏症モデル(Airway hypersensitivity response; AHR)及び自己免疫疾患を代表するコラーゲン誘導性関節炎モデル(Collagen-induced arthritis; CIA)の両者において、それぞれを単独で使用するよりも高い病態抑制効果が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の特徴を包含する。
(1)(A)ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)の菌体及び/又はその処理物と、(B)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の細菌の菌体及び/又はその処理物とを含有することを特徴とする免疫バランス調節用組成物。
(2)(A)ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)がラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)KW3110株(FERM BP-08634)であることを特徴とする(1)記載の組成物。
(3)(B)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の細菌がビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)であることを特徴とする(1)又は(2)記載の組成物。
(4)(B)ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)がビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)YIT4007株(FERM BP-791)であることを特徴とする(3)記載の組成物。
(5)抗アレルギー作用を有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか記載の組成物。
(6)抗アレルギー作用が好酸球浸潤抑制によることを特徴とする(5)に記載の組成物。
(7)抗アレルギー作用が気道抵抗抑制によることを特徴とする(5)に記載の組成物。
(8)抗アレルギー作用が抗気管支喘息作用であることを特徴とする(5)に記載の組成物。
(9)抗自己免疫疾患作用を有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか記載の組成物。
(10)抗自己免疫疾患作用が抗II型コラーゲンIgG2a抗体価の低下によることを特徴とする(9)に記載の組成物。
(11)抗自己免疫疾患作用が抗関節炎作用であることを特徴とする(9)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コスト面に優れた新規免疫調節用組成物が提供される。また本発明の組成物は、安全性には全く問題なく、長期に摂取しても副作用がない。したがって、健常者はもちろん、乳幼児、老齢者、病弱者、病後の人等も日常的にかつ継続的に摂取しうる飲食品として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書の全体にわたって、単数形の表現は、特に他に言及しない限り、その複数形の概念をも含むと理解されるべきである。また、本明細書中において使用される用語は、特に他に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられていると理解されるべきである。
【0014】
本明細書において、「免疫バランス」とは、細胞性免疫を活性化する1型ヘルパーT細胞(Th1細胞)と、液性免疫を活性化する2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)との間のバランスをいう。本明細書において、用語「免疫バランス」と用語「Th1/Th2(の)バランス」とは、特に言及しない限り、相互に交換可能に使用される。免疫性疾患に罹患していない正常な個体では、この免疫バランスが保たれているが、種々の免疫応答では、免疫バランスが崩れてTh1側又はTh2側へと異常な偏りが生じ、異常な免疫応答を示す。Th1側への異常な偏りにより生ずる疾患として、例えば自己免疫疾患、慢性関節リウマチ等を挙げることができ、Th2側への異常な偏りにより生ずる疾患として、例えば気管支喘息、じんましん、アナフィラキシーなどのアレルギー性疾患を挙げることができる。
【0015】
本発明において、「免疫バランス調節用組成物」とは、免疫バランスを正常な方向へ調節する機能を有する組成物をいい、Th1側及び/又はTh2側への免疫バランスの異常な偏りを改善し、正常な状態に戻す作用、及び改善された免疫バランス若しくは元々正常な免疫バランスを維持する作用をもつ組成物のことをいう。
【0016】
本発明の免疫バランス調節用組成物は、(A)ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)と、(B)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の細菌とを含有することを特徴とする。
【0017】
本発明の上記細菌(A)及び(B)は、細菌菌体(生菌)であってもその処理物であってもよく、その処理は特に限定されない。前記処理物としては、具体的には、加熱菌体(死菌体)、その凍結乾燥物、これらを含む培養物、細菌の超音波などによる破砕液、細菌の酵素処理液、それらを濾過ないし遠心分離など固液分離手段によって分離した固体残渣等が挙げられる。また、細胞壁を酵素もしくは機械的手段により除去した処理液、これらの濃縮物、これらの希釈物又はこれらの乾燥物なども含まれる。また、細菌を界面活性剤等によって溶解した後、エタノール等によって沈殿させて得られる核酸含有画分も含まれる。さらに、前記細菌の超音波などによる破砕液、細胞の酵素処理液などに対し、例えば各種クロマトグラフィーによる分離などの分離・精製処理をさらに行ったものも含まれる。さらに、細菌菌体は死菌体も含まれてよく、該死菌体は、例えば、加熱処理、抗生物質などの薬物による処理、ホルマリンなどの化学物質による処理、紫外線による処理、γ線などの放射線による処理により得ることができる。これら処理のうち、特に超音波処理、酵素処理、加熱処理が好ましい。これらの処理は常法に従って行うことができ、特別な方法を用いる必要はない。
【0018】
本発明の組成物は、上記(A)、(B)を各々1種、又は2種以上含むことができる。
本発明で使用することができるラクトバチルス・パラカゼイとしては、例えば、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)、ラクトバチルス・パラカゼイKW3926株(JCM8132)、ラクトバチルス・パラカゼイKW3925株(NRIC1917)等を挙げることができる。特にラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)を使用することが好ましい。
【0019】
本発明で使用することができる(B)ビフィドバクテリウム属の細菌としては、例えば、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・カテヌラタム(Bifidobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)等を挙げることができる。特に、ビフィドバクテリウム・ビフィダムを使用することが好ましい。
【0020】
本発明で使用することができるビフィドバクテリウム属の細菌の細菌株としては、例えば、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT10347株(FERM BP-10613)、ビフィドバクテリウム・ブレベYIT4065株、ビフィドバクテリウム・ブレベYIT10001株(FERM BP-8205)、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC 15707株、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティスATCC 15703株等を挙げることができる。特にビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)を使用することが好ましい。
【0021】
本発明の有効成分である成分(A)及び(B)の配合比率に厳格な制限はなく、例えば成分(A):成分(B)は、1〜10:1〜10、例えば1:1とすることができる。
【0022】
本発明の組成物は、上記成分(A)及び(B)を、一般的な方法により均質に混合して得ることができる。その形状は特に限定されるものではなく、例えば粉末状、顆粒状、ペレット状、液体状又はカプセル状とすることができる。
【0023】
本発明の組成物は、代替的に、成分(A)を含む組成物と(B)を含む組成物とからなる、複数の組成物の形態で提供することもできる。この場合、両組成物は、同時に投与してもよいし、或いは、どちらか一方を先に投与してもよい。両組成物を同時に投与することが好ましい。
【0024】
本発明の組成物の有効成分である成分(A)及び(B)の投与量は、投与対象、投与対象の年齢、体重、適用する疾患の重篤度など、様々な要因に依存して得られる効果が異なるため、適宜投与量を設定することが望ましい。成分(A)及び(B)が本発明の組成物において菌体の形態で使用される場合には、体重60kgのヒトに対し、成分(A)及び(B)それぞれの一日の摂取量が、1〜1000mg(菌体数では109〜1012cfu)、好ましくは10〜500mg(菌体数では1010〜5x1011cfu)、さらに好ましくは50〜300mg(菌体数では5x1010〜3x1011cfu)となるように摂取すればよい。また、成分(A)及び(B)が本発明の組成物において細菌処理物の形態で使用される場合には、体重60kgのヒトに対し、成分(A)及び(B)の摂取量が、1〜1000mg、好ましくは10〜500mg、さらに好ましくは50〜300mgとなるように摂取すればよい。
【0025】
本発明の組成物は、免疫バランスを調節することが望まれる任意の場面で使用することができる。例えば、本発明の組成物は、免疫バランスの気になるヒト、免疫バランスが崩れる疾患に罹患している疑いがあるヒト、過去もしくは現在にそれらの診断を受けたヒト、アレルギー又は自己免疫疾患などの気になるヒトのために用いることができる。
【0026】
本発明の組成物は、例えば自己免疫疾患、慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患症状を、成分(A)又は(B)をそれぞれ単独で含有する組成物に比べてより効果的に抑制することができる。また本発明の組成物は、例えば気管支喘息、じんましん、アナフィラキシーなどのアレルギー病態を、成分(A)又は(B)をそれぞれ単独で含有する組成物に比べてより効果的に抑制することができる。
【0027】
本発明の組成物はまた、上記成分(A)又は(B)をそれぞれ単独で含む組成物に比べて、より効率的にアレルギー及び自己免疫疾患の双方を、副作用を伴うことなく効率的に予防し、軽減し、治療等することができる。
【0028】
本発明において、自己免疫疾患抑制作用として、抗II型コラーゲンIgG2a抗体価の低下、抗関節炎作用などを挙げることができる。
【0029】
本発明において、抗アレルギー作用として、好酸球浸潤抑制作用、気道抵抗抑制作用、抗気管支喘息作用などを挙げることができる。
【0030】
なお、本発明の組成物の適用対象はヒトに限られず、あらゆる哺乳動物に適用することができる。
【0031】
また本発明の成分(A)及び(B)がヒトの腸内フローラを構成するものであったり、酪農乳製品に古くから利用されてきた乳酸菌やビフィズス菌からなるものである場合は、長期間経口摂取しても安全であるだけでなく、整腸作用、抗腫瘍作用、抗変異作用、血圧低下作用、抗潰瘍作用、コレステロール低下作用等、乳酸菌やビフィズス菌に期待される周知の有用作用を複合的に作用させることができ、好適に利用することができる。
【0032】
本発明の組成物は、場合により、本発明の効果を阻害したり、健康上の問題を生じない範囲において、乳糖、マルチトール、ソルビトール、デキストリン、グルコース、果糖、スクラロース、ショ糖、異性化糖、パラチノース、トレハロース、キシロース、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴、アスパルテーム、ソーマチン、アセスルファムK、ステビアなどの甘味料;セルロース、微結晶セルロース、リン酸カルシウム、乳糖、糖、トウモロコシデンプン、ソルビトール、グリシンなどの充填剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、コハク酸などのpH調整剤;果糖、麦芽デキストリン、麦芽糖、メントール、はっか油、オレンジ油、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、ユーカリ油、サリチル酸メチル、バニラ抽出物、ガーリック油、アセト酢酸エチル、アニスアルデヒド、エチルバニリン、桂皮酸、酢酸シトロネリル、シトラール、バニリン、酢酸ブチル、エステル類などの香料;メチルセルロース、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、エチルセルロース、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン、トロガントゴム、乳糖、白糖などの結合剤;エリソルビン酸、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、トコフェロール、ルチンなどの抗酸化剤;硝酸カリウム、L−アスコルビン酸、硫酸第一鉄、亜硝酸ナトリウムなどの発色剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、硬化油、モノステアリン酸グリセリン、タルク、カオリン、ショ糖脂肪酸エステル、セタノール、糖類(乳糖、マンニトール等)、ポリエチレングリコール、ポリソルベート、酸化チタン、ベンガラなどのコーティング助剤、水などの他の成分を含んでもよい。
【0033】
さらに本発明の組成物は、医薬品又は飲食品として提供することもできる。
本発明の組成物を医薬品として提供する場合、免疫バランスを調節することによってアレルギーの諸症状を緩和、軽減し、アレルギーを予防、治療もしくは改善するための抗アレルギー剤として、及び/又は免疫バランスを調節することによって自己免疫疾患を緩和、軽減し、自己免疫疾患を予防、治療もしくは改善するための抗自己免疫疾患剤として使用することができる。
【0034】
本発明の医薬品は経口投与又は非経口投与のいずれも使用できるが、経口投与が好ましい。投与に関しては、有効成分である成分(A)及び(B)を投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬品製剤の形態で投与することができる。
【0035】
このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固体剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。これらの製剤は製法上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、澱粉、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0036】
また、本発明の組成物を飲食品として提供する場合、これらを日常的に摂取することにより、知らず知らずの内に無理なくアレルギー及び自己免疫疾患を予防、軽減、治療することができる。しかも本組成物は安全性にも問題がないので、有害な副作用を伴うことなく長期間摂取することができ、アレルギー及び自己免疫疾患の予防に極めて好適である。この場合、本発明の成分(A)及び(B)をそのまま、又は種々の栄養成分を加えて、飲食品中に含有せしめればよい。
【0037】
この飲食品は、自己免疫疾患、慢性関節リウマチ、アレルギー、気管支喘息、じんましん、アナフィラキシー等の改善、予防等に有用な保健用食品又は食品素材として利用でき、これらの飲食品又はその容器には、前記の効果を有する旨の表示を付してもよい。具体的に本発明の組成物を飲食品に配合する場合は、飲食品として使用可能な添加剤を適宜使用し、慣用の手段を用いて食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペースト等に成形してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージ等の食肉加工品、かまぼこ、ちくわ等の水産加工品、パン、菓子、バター、粉乳、発酵飲食品に添加して使用したり、水、果汁、牛乳、清涼飲料、茶飲料等の飲料に添加して使用してもよい。なお、飲食品には動物の飼料も含まれる。
【0038】
さらに飲食品としては、有効成分である細菌(A)及び(B)を含有する発酵乳、乳酸菌飲料、発酵豆乳、発酵果汁、発酵植物液等の発酵乳製品が好適に用いられる。これら発酵乳飲食品の製造は定法に従って製造することができる。例えば発酵乳は、殺菌した乳培地に成分(A)及び(B)を接種培養し、これを均質化処理して発酵乳ベースを得る。この時、他の微生物と同時に接種培養してもよい。次いで別途調製したシロップ溶液を添加混合し、ホモゲナイザー等で均質化し、更にフレーバーを添加して最終製品とすることができる。このようにして得られる発酵乳は、プレーンタイプ、ソフトタイプ、フルーツフレーバータイプ、固形状、液状等のいずれの形態の製品とすることもできる。
【0039】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
実施例1 気道過敏症モデルにおける乳酸菌組み合わせ効果の検定
アレルギー疾患に対する本発明の組成物の効果を検討するため、インビボでの投与実験を行い、アレルギー疾患モデルマウスへの効果を検討した。本実施例においては、アレルギー疾患モデルとして、Th2側への異常な偏りによって発症するAHR(気道過敏性モデル)を用いた。この病態モデルは、マウスを卵白アルブミンで免疫した後、抗原の連続経鼻投与により肺で炎症を誘起し、その後合成コリンエステル類の吸入により気道を収縮させることで、喘息様の病態を惹起するモデルである。このモデルにおいては、肥満細胞、リンパ球及び好酸球の気道壁への浸潤、Th2サイトカイン及びIgEの産生亢進が認められる( J. Exp. Med. 2000 192: 455-462)。このうち、炎症病態に関与する好酸球は、アレルギー性疾患において細胞内顆粒中に存在する塩基性蛋白質を放出すること(Immunol. Today 1992 13; 501-507)、及びそれらの顆粒蛋白質が種々の細胞を傷害する活性を持つこと(J. Immunol. 1979 123; 2925-2927)が報告されて以来、特に気管支喘息においては、炎症局所への好酸球の集積が病態の悪化に深く関与するという理論が確立されている(YAKUGAKU ZASSHI 2005 125 717-723)。好酸球の浸潤には、様々なサイトカインや分子が関与していることから、これらを阻害することにより、喘息や他のアレルギー病態を治療する試みが現在行われている(J. Allergy. Clin. Immunol. 2007 119; 1303-1310)。
【0041】
本実施例において、まずラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)KW3110株(FERM BP-08634)と、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)YIT4007株(FERM BP-791)をそれぞれ培養し、得られた培養液を100℃ 30分加熱後、凍結乾燥したものを乳酸菌粉末とした。これを水に懸濁し、基礎飼料に添加することで乳酸菌添加飼料とした。6週令のマウスに(1)基礎飼料(正常対照)、(2)基礎飼料(病態対照)、(3)ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)0.04%添加飼料、(4)ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)0.04%添加飼料、(5)ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)0.04%と、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)0.04%添加飼料を自由に摂取させ、以下記載する期間も継続して飼料を摂取させた。飼料摂取を始めてから3週間後に、100μgの卵白アルブミンと、2mgの水酸化アルミニウムの混合物を腹腔内に投与、免疫した。免疫から13日後、1%卵白アルブミン溶液をマウスに噴霧し、これを1日1回、合計4回行った。初回免疫から17日後にメサコリンを吸入させることで気道過敏性を測定し、さらに18日後に解剖を行い、気管支肺胞洗浄液を回収した。気管支肺胞洗浄液中の細胞分布はギムザ染色を行い、顕微鏡下にて観察した。その結果、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)及びビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)単独では、有意な好酸球の浸潤の抑制は認められなかったが、組み合わせによって肺胞への好酸球の浸潤の割合が有意に低下した(図1)。また、penh(メサコリン吸入に対する気道抵抗(気道過敏性))を測定した結果においては、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)及びビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)単独でpenhを低減する傾向を示し、両者を組み合わせることでさらに強い低減傾向を示した(図2)。
この結果から、本組成物は、肺におけるアレルギー性炎症を抑制し、ひいてはアレルギー病態を抑制するものと期待される。
【0042】
実施例2 慢性関節リウマチモデルにおける乳酸菌組み合わせ効果の検定
自己免疫疾患に対する本発明の組成物の効果を検討するため、上記実施例1に記載した乳酸菌体を用いてインビボでの投与実験を行い、コラーゲン誘導性関節炎モデルマウスへの効果を検討した。本実施例においては、慢性関節リウマチモデルとして、Th1側への異常な偏りによって発症するCIA(コラーゲン誘導性関節炎)を用いた。CIAは、アジュバント存在下で、関節構成成分であるII型コラーゲンを免疫することにより誘導することができる。このモデルではII型コラーゲンに反応するCD4陽性T細胞及び抗体が検出され、両者が協働して関節炎を惹起すると考えられている(全てのバイオ研究に役立つ免疫学プロトコール 中内啓光編 羊土社)。このうち、抗II型コラーゲン抗体は、その病態形成に重要な役割を果たすと考えられている。事実、II型コラーゲンで免疫したマウスから得られた血清を、ナイーブなマウスに移入すると関節炎を発症すること(J. Exp. Med. 1983 158; 378-392)や、抗体を産生するのに重要なB細胞を欠損したマウスではCIAを誘導できない(Clin. Exp. Immunol. 1998 111; 521-526)ことから、このマウス病態モデルにおいて抗II型コラーゲン抗体がその病態形成に重要なことが明らかである。また、ヒトの関節リウマチ患者においても抗II型コラーゲン抗体が存在すること(Arthritis Rheum 1996 39; 1720-1727, Arthritis Rheum 1989 32; 139-145, Arthritis Rheum 1994 37; 1023-1029)から、ヒトにおいても抗II型コラーゲン抗体は病態形成に重要であると考えられる。
【0043】
本実施例において、まず9週令のマウスに(1)基礎飼料(正常対照)、(2)基礎飼料(病態対照)、(3)ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)0.04%添加飼料、(4)ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)0.04%添加飼料、(5)ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)0.04%と、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)0.04%添加飼料を自由に摂取させ、以下記述する期間も継続して飼料を摂取させた。飼料摂取を始めてから1週間後、200μgのII型コラーゲンを、フロイント完全アジュバントとともに、背部皮内に投与し、その3週間後に50μgのII型コラーゲンを、フロイント不完全アジュバントとともに尾部皮内に投与した。2回目の免疫以降、スコアリングを行い、初回免疫から48日後、採血を行い、血中の抗コラーゲン抗体価をELISAにて測定した。
【0044】
また、関節炎の判定は、ブラインドで2名が四肢を肉眼的に観察して行い、前肢、後肢の計四肢について一肢ごとに以下のような基準を用いて数値化し、数値を四肢分合計してマウスあたり0−20のスコアとした:
ポイント0:正常
ポイント1:四肢の指など小関節1本のみに腫脹や紅斑が認められる
ポイント2:小関節2本の関節に腫脹や紅斑が認められる
ポイント3:小関節3本以上の関節に腫脹や紅斑が認められる、あるいは甲が腫れている
ポイント4:手首、足首の関節に腫脹や紅斑が認められ、手や足の全体が発赤腫脹している
ポイント5:手や足の腫脹が最大限に達している
【0045】
その結果、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)単独、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)単独で摂取したものは抗コラーゲン抗体価が対照群に比べて低下傾向を示した。さらに、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)とビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)を組み合わせて摂取したものは、対照群に比べて有意に抗コラーゲン抗体価が低下した(図3)。
【0046】
また、各群10匹ずつのマウスの免疫後49日目の関節炎の平均スコアの結果においては、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株単独(FERM BP-08634)、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)単独で摂取したものは、対照群に比べて関節炎を抑制する傾向は認められなかったが、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)とビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)を組み合わせて摂取したものは、対照群に比べて関節炎を抑制する傾向を示した(図4)。
これらの結果から、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)とビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)とを含有する組成物は、ヒト慢性関節リウマチにおいて、その病態形成に重要である血中抗II型コラーゲン抗体価を低下させ、自己免疫病態を抑制することが期待できる。
【0047】
実施例3 錠剤の製造
下記の処方で各種成分を混合して造粒、乾燥、整粒した後に、打錠して錠剤を製造した。
(処方) (mg)
ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634) 10
ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791) 10
微結晶セルロース 100
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 0.5
メチルセルロース 12
【0048】
実施例4 清涼飲料の製造
下記の処方で処方したものを加熱殺菌後、褐色瓶にホットパック充填を行い、清涼飲料水を得た:
(処方) (g)
ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634) 0.4
ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791) 0.4
香料 0.8
クエン酸 0.2
果糖 4
スクラロース 0.001
水 94.199
【0049】
実施例5 発酵乳製品の製造
15%脱脂乳に3%グルコースを添加し、120℃で3秒間殺菌した後、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)を1%接種し、37℃でpH 3.6まで培養してヨーグルトベース210gを得た。一方、砂糖97g、クエン酸鉄0.2g、ラクトバチルス・ビフィダムYIT4007株(FERM BP-791)を水に溶解し、水を加えて全量を790gとし、この溶液を110℃で3秒間殺菌し、シロップを得た。上記のようにして得られたヨーグルトベースとシロップを混合し、香料を1g添加した後、15Mpaで均質化し、容器に充填して発酵乳製品を得た。この発酵乳製品中のラクトバチルス・パラカゼイKW3110株の初発菌数は108cfu/mlであった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)KW3110株(KW)とビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)YIT4007株の組み合わせ摂取が、気管支肺胞洗浄液(BALF)中に検出される好酸球の割合に及ぼす影響を示す。
【図2】図2は、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)KW3110株(KW)とビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)YIT4007株の組み合わせ摂取が、メサコリンにより誘導される気道抵抗性(penh)に及ぼす影響を示す。
【図3】図3は、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)KW3110株(KW)とビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)YIT4007株の組み合わせ摂取が、血中の抗コラーゲンII抗体価(IgG2aサブクラス)の上昇に及ぼす影響を示す。図中の数字は、各群の抗体価の平均±標準偏差を示す。
【図4】ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)KW3110株(KW)とビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)YIT4007株の組み合わせ摂取が、関節炎のスコアに及ぼす影響を示す。図中の数字は、各群の関節炎のスコアの平均±標準偏差を示す。なお、(1)の非免疫群は発症しないので省略した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)の菌体及び/又はその処理物と、(B)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の細菌の菌体及び/又はその処理物とを含有することを特徴とする免疫バランス調節用組成物。
【請求項2】
(A)ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)がラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)KW3110株(FERM BP-08634)であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
(B)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の細菌がビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)であることを特徴とする請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
(B)ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)がビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)YIT4007株(FERM BP-791)であることを特徴とする請求項3記載の組成物。
【請求項5】
抗アレルギー作用を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
抗アレルギー作用が好酸球浸潤抑制によることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
抗アレルギー作用が気道抵抗抑制によることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
抗アレルギー作用が抗気管支喘息作用であることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
抗自己免疫疾患作用を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
抗自己免疫疾患作用が抗II型コラーゲンIgG2a抗体価の低下によることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
抗自己免疫疾患作用が抗関節炎作用であることを特徴とする請求項9に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−57346(P2009−57346A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227877(P2007−227877)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】