説明

免疫ミルク組成物を有効成分とする単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物

【課題】単純ヘルペスウイルスを原因とする病態の治療・予防のために十分な効果を有する組成物を提供する。
【解決手段】単純ヘルペスウイルスを原因とする病態を治療し及び/又は予防するために用いられる組成物であって、免疫ミルク組成物を有効成分として含有し、該免疫ミルク組成物は免疫原性物質で感作した哺乳動物から搾乳した乳又は該乳を原料とする乳加工組成物であることを特徴とする単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫ミルク組成物の利用に関し、免疫ミルク組成物を有効成分とする単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトにおいて最もよく見られるウイルス性の感染病原体である1型単純ヘルペス(疱疹)ウイルスおよび2型単純ヘルペス(疱疹)ウイルス(HSV-1およびHSV-2)は、それぞれ15万塩基長の二本鎖DNAウイルスであり、近縁ウイルスである。
【0003】
単純ヘルペスウイルス(HSV-1又はHSV-2ウイルス)を原因とする病態は表在性の疱疹等であるが、その発症する部位によって、単純疱疹、角膜炎、結膜炎、髄膜炎、脳炎、口唇ヘルペス、性器ヘルペス、新生児ヘルペス等に分けられる。主に上半身に発症するものはHSV-1ウイルスに起因し、下半身に発症するものはHSV-2ウイルスに起因することが知られるが、下半身性症状がHSV-1ウイルスによって引き起こされることもあり、その区別は厳密ではない。そして、ゲノムレベルでも近縁ウイルスであることから、その病態発症メカニズムにおいても1型2型間で共通するものと考えられている。
【0004】
単純ヘルペスウイルスに一旦感染すると、ウイルスは神経細胞内に潜伏感染状態を維持し生存し続けるため、個体はそのウイルスを潜伏状態で生涯保有することになる。したがって、感染した個体は、ストレス、環境要因及び/又は宿主免疫系低下により引き起こされる感染症状再発の可能性のリスクを負うこととなる。
【0005】
個体に症状があるときはウイルスを大量に排出しており、また、単純ヘルペスウイルスは感染力が強く、患部への直接的な接触のほかに、ウイルスがついた食器やタオルなどを介して感染することもある。したがって、恋人同士又は家族内で感染することが多く、上述のとおり潜伏感染するため、世界中のヒトに広く蔓延している。
【0006】
従来、上記のような単純ヘルペスウイルス感染症に適用する抗ウイルス剤としては、アシクロビル、バラシクロビル、ビラダビン等のヌクレオシド誘導体を用いるのが一般的であった。
【0007】
一方、哺乳動物の初乳には、タンパク質等の栄養素の他に、免疫グロブリン、ラクトフェリン、カゼイン、リゾチーム等の感染免疫防御物質が豊富に含まれており、生まれたばかりの赤ちゃんを病原菌等の感染から保護していることが知られている。
【0008】
従来から、上記のような母子免疫継承システムに着目して、牛乳等の免疫グロブリンに富む乳を医薬品や健康食品等に利用しようとする試みがなされている。そして、例えば、アメリカ合衆国のストールミルク バイオロジクス社の先駆的な研究開発努力により、弱毒化した病原菌で感作した乳牛からの免疫ミルク組成物(脱脂粉乳、乳清たんぱく質濃縮物)が機能性食品として商品化されている(下記非特許文献1参照)。
【0009】
また、その技術を応用するものとして、下記特許文献1には、細菌性抗原で感作した乳牛から搾乳した乳を有効成分として成る免疫機能低下抑制用組成物が開示されている。
【非特許文献1】大谷等 機能性食品と薬理栄養 Vol. 2, No. 4 (2005) p241-247
【特許文献1】特開平4−283519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の抗ウイルス剤による方法では、副作用の問題があった。
【0011】
また、上記特許文献1には、細菌性抗原で感作した乳牛から搾乳した乳を免疫賦活剤として用いることが記載されているが、その免疫賦活作用が単純ヘルペスウイルスを原因とする病態に対して有効であるか否かは不明であった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、飲み易く、副作用なく長期間安心して摂取できる組成物であって、単純ヘルペスウイルスを原因とする病態の治療・予防のために十分な効果を有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、免疫原性物質で感作した哺乳動物から搾乳した乳又は該乳を原料とする乳加工組成物(以下、これらの乳又は乳加工組成物を「免疫ミルク組成物」とする。)に着目し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物は、単純ヘルペスウイルスを原因とする病態を治療し及び/又は予防するために用いられる組成物であって、免疫ミルク組成物を有効成分として含有し、該免疫ミルク組成物は免疫原性物質で感作した哺乳動物から搾乳した乳又は該乳を原料とする乳加工組成物であることを特徴とする。
【0015】
本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物によれば、免疫ミルク組成物を有効成分として含有することにより、その摂取によって、ヒトに本来的に備わるHSV感染に対する免疫システムを有効に働かせて、単純ヘルペスウイルスを原因とする病態を治療し及び/又は予防することができる。
【0016】
本発明において、前記免疫原性物質は、病原菌由来の抗原物質であることが好ましい。これによれば、本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物を、病原菌由来の抗原物質に結合能を有する免疫グロブリン(IgG)を含有するものとすることができる。
【0017】
本発明において、前記乳加工組成物は、脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、又は乳たんぱく質濃縮物であることが好ましい。これによれば、現行の製造設備や流通システムを利用して乳加工食品等として製造・販売することが容易である。
【0018】
本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物は、単純ヘルペスウイルスを原因とするヘルペス性角膜炎、ヘルペス性結膜炎、ヘルペス性髄膜炎、ヘルペス性脳炎、ヘルペス性口内炎、ヘルペス性歯肉口内炎、口唇ヘルペス、性器ヘルペス、新生児ヘルペス等に好ましく適用される。
【0019】
本発明においては、前記哺乳動物は、ウシ、ヤギ、ヒツジ、又はウマから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。これによれば、免疫グロブリン(IgG)濃度の高い乳を用いて本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物を生産することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、免疫原性物質で感作した哺乳動物から搾乳した乳又は該乳を原料とする乳加工組成物である免疫ミルク組成物の新たな用途を提供するものであり、本発明によれば、ヒトに本来的に備わるHSV感染に対する免疫システムを有効に働かせて、単純ヘルペスウイルスを原因とする病態を治療し及び/又は予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において「免疫ミルク組成物」とは、任意の免疫原性物質、例えば、細菌性、ウイルス性、毒素等の抗原で感作した哺乳動物から搾乳した乳又は該乳を原料とする乳加工組成物を意味する。そのようにして得られる乳は、抗原で感作した哺乳動物が産生する免疫グロブリン(IgG)を含有するものであり、その乳を原料として低温殺菌処理、粉末乾燥処理等して得られる脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物等の乳加工組成物にも、抗原結合能等の活性を維持したまま前記免疫グロブリン(IgG)が含まれている。
【0022】
本発明において用いられる免疫原性物質は特に限定されないが、ヒトに対して病原性のある病原菌由来の抗原物質を好ましく用いることができる。
【0023】
また、本発明においては、哺乳動物としては畜産に適する産乳動物であればよく、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の反芻動物、好ましくは乳牛を用いることができる。
【0024】
上記哺乳動物を任意の免疫原性物質で感作して免疫グロブリンを含む乳を採取する方法は、特開昭52−1014号公報、特開昭54−113425号公報、特開昭57−188523号公報等に記載された方法にしたがって行うことができる。例えば、下記表1に示す26種類の細菌をそれぞれ常法にしたがって培養し、加熱殺菌した後、各菌体を回収して凍結乾燥する。各凍結乾燥菌体を等量ずつ採取して混合し、滅菌した生理的食塩水に懸濁し、4×10細胞/mlとなるように希釈してワクチンを調製する。雌乳牛に上記ワクチン5ml(20×10細胞)を1週間に1回、連続8週間以上筋肉注射し、乳中に十分な量の免疫グロブリンが含まれているのを確認してから、乳を採取すればよい。なお、免疫反応状態を誘導した後は、2週間毎に同一量の上記ワクチンをブースター注射すればよい。
【0025】
【表1】

【0026】
上記表1に示すヒトにおいて感染症の原因となる26種類の病原菌由来の抗原物質で感作した乳牛から採取した乳から調製された脱脂粉乳、あるいは乳清たんぱく質濃縮物は、例えば、脱脂粉乳として商品名「スターリミルク」、乳清たんぱく質濃縮物として商品名「スターリ乳清」、あるいは脱脂粉乳/乳清たんぱく質濃縮物混合物として商品名「スターリミルクゴールド」(いずれも兼松ウェルネス株式会社から販売)等が市販されており、本発明に好ましく用いることができる。
【0027】
本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物は、免疫ミルク組成物を有効成分として含有してなるものであるが、他の成分として、例えば、免疫調節作用を有するラクトフェリン、カゼイン、ラクトアルブミン等、又はそれらに由来するカゼインホスホペプチド、グリコマクロペプチド、パラ−κ−カゼイン等の生物活性ペプチド又はその誘導体等を含むことができ、後述する単純ヘルペスウイルスを原因とする病態を治療し及び/又は予防するための作用効果について、相乗効果を期待することができる。
【0028】
本発明において、単純ヘルペスウイルス(HSV-1又はHSV-2ウイルス)を原因とする病態は、ヘルペス性角膜炎、ヘルペス性結膜炎、ヘルペス性髄膜炎、ヘルペス性脳炎、ヘルペス性口内炎、ヘルペス性歯肉口内炎、口唇ヘルペス、性器ヘルペス、新生児ヘルペス等であって、痒み、痛み、痺れ等の自覚症状や、水疱、丘疹、紅斑、亀裂等の皮膚症状をともなうものを挙げることができるが、これらの病態、症状に限定されるものではない。そして、本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物を、例えば、発症患者に対してはその改善又は治療のため、無発症者に対してはその発症の予防のため、また、非感染者に対しても、初感染時の症状軽減のための予防のために用いることができる。
【0029】
本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物は、牛乳等の哺乳動物から搾乳した乳の構成成分からなるものであるので、全快に至るまで長期的に摂取するのに適している。また、悪性腫瘍等を患うことによって免疫不全の状態の患者であっても体に負担をかけることなく摂取することができる。
【0030】
本発明において、上記単純ヘルペスウイルス(HSV-1又はHSV-2ウイルス)を原因とする病態を治療し及び/又は予防するための作用効果を有効に得るためには、成人1日あたり免疫ミルク組成物に含有する免疫グロブリン(IgG)換算にして10〜1000mgを、経口的に摂取することが好ましく、50〜400mgを摂取することがより好ましい。
【0031】
一方、本発明の飲食品は、上記免疫原性物質で感作した哺乳動物から搾乳した乳又は該乳を原料とする乳加工組成物、すなわち免疫ミルク組成物を少なくとも含有してなるものであるが、そのような飲食品として、脱脂粉乳、乳清、ヨーグルト、ヨーグルト飲料、発酵乳、チーズ等が挙げられる。
【0032】
上記飲食品への免疫ミルク組成物の配合量は、飲食品の種類及び上述した有効摂取量に基いて適宜設定すればよく、また、食品衛生上許容される賦形剤、安定剤、防腐剤、保存剤、光沢剤、増粘剤、着色剤、ミネラル類、ビタミン類、糖類、香料、油脂、アミノ酸等の添加剤を適宜配合することができる。
【実施例】
【0033】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
<実施例>
免疫ミルク組成物として、米国ストール ミルク バイオロジクス社製の脱脂粉乳(商品名;「スターリミルク」(兼松ウェルネス株式会社から販売))を用いて以下の試験を行った。なお、前記脱脂粉乳は、上記表1に示す26種類の病原菌由来の抗原物質で感作した乳牛から採取した乳から、常法にしたがって調製した脱脂粉乳であり、飲用1回分の20〜40g当たりに96〜192mgの免疫グロブリン(IgG)を含む。
【0035】
(1)単純ヘルペスウイルス感染による症状の改善効果
以下の試験においては、25名のボランティア被験者に上記1回分20g(1名については40g)の脱脂粉乳を水又はお湯に溶かして1日1回1年間飲用してもらい、その飲用による単純ヘルペスウイルス感染による症状の改善効果及び単純ヘルペスに対する特異的な免疫増強効果について調べた。ボランティア被験者は、男性15名、女性10名で、平均年齢56歳(男61歳、女48歳)であり、そのうち、男性13名、女性7名についてはHSV抗体陽性者であり、その他は、HSV抗体陰性者であった。また、そのうち、男性12名、女性5名は、手指、体幹四肢、口唇、顔、鼻口唇、手関節、全身、陰嚢、ペニス、両腋窩、体幹、手背を患部とする皮疹の症状のある北里大学病院皮膚科の外来患者であり、そのうち2名はアシクロビルを有効成分とする「ゾビラックス」(商品名、塩野義製薬株式会社製)の服用者であった。これらボランティア被験者の内訳を表2に示す。なお、上記脱脂粉乳の1年間の飲用試験において有害事象はなかった。また、試験期間中3ヶ月おきに、上記25名の被験者の一般血液検査(末梢血血算、生化学及び免疫グロブリンGAM)を実施したが、飲用前に比しての異常値は見られず、身体の一般的な免疫力に変化がないことを確認した。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示すように、抗ウイルス剤を併用しない15名の外来患者のすべてにおいて、上記脱脂粉乳の1日1回1年間の飲用によって、単純ヘルペスウイルス感染による皮疹の症状の改善が認められた。また、そのうち12名の患者においては、いわゆる症状の全快状態にまで至った。したがって、上記脱脂粉乳の飲用により単純ヘルペスウイルスを原因とする皮疹の症状を改善できることが明らかとなった。
【0038】
(2)末梢血リンパ球幼若化に及ぼす影響
以下の試験においては、上記脱脂粉乳の飲用が単純ヘルペスに対する特異的な免疫増強効果を与えるかについて調べた。
【0039】
HSV特異的抗原、あるいは非特異的なリンパ球細胞分裂因子であるphytohemagglutinin(以下、PHAとする。)を刺激因子とする末梢血リンパ球幼若化について、それが上記脱脂粉乳の飲用によってどのように影響されるかを調べた。すなわち、上記被験者から、脱脂粉乳の飲用開始0、3、6、9、12ヶ月後に採血し、その全血35mlからFicoll-Paque 比重遠心法により分離して調製した末梢血リンパ球を含む末梢血単核球(PBMC)を用いて、常法に従って、トリチウム標識チミヂン(H−thymidine)の取り込みを指標にした末梢血リンパ球幼若化を調べた。なお、上記HSV特異的抗原としては、ウイルス濃度1010PFU/mlのHSV-1ウイルス上清、あるいはHSV-2ウイルス上清を調製し、超低温フリーザーに1mlずつ分注保存しておき、使用時に融解して1JのUV照射によりウイルス感染性を不活化したものを用いた。
【0040】
具体的には、上記末梢血単核球(PBMC)を10%FBS含有RPMI1640培地で5×10細胞個/mlの細胞濃度に調整した後、U底96wellプレートに1×10細胞個/wellとなるように分注した。そして、10μg/mlのPHAまたは、1000倍に希釈した各HSV特異抗原液の存在下、非存在下にて74時間培養するものとし、培養終了22時間前には1mCiのトリチウム標識チミヂン(H−thymidine)水溶液を各wellに添加した。74時間の培養終了後に細胞をグラスファイバーフィルター上に回収し、液体シンチレーションカウンターで細胞に取り込まれたトリチウム(H)の放射活性を測定した。
【0041】
なお、非特異的刺激によるリンパ球幼若化反応の影響を除くため、結果は各実測値を同一反応時の無刺激の実測値で除した比率である刺激指数として表わした。その結果を図1〜3に示す。
【0042】
図1(a)に示すようにすべての測定ポイントで測定値が得られた被験者23名についての比較を示す図1(b)から分かるように、HSV-1抗原刺激による末梢血リンパ球幼若化反応刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値1.8(標準偏差±1.1)から飲用後の平均値2.2(標準偏差±1.0)へと推移し、その有意差危険率は0.08であった。
【0043】
また、図2(a)に示すようにすべての測定ポイントで測定値が得られた被験者23名についての比較を示す図2(b)から分かるように、HSV-2抗原刺激による末梢血リンパ球幼若化反応刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値1.7(標準偏差±0.8)から飲用後の平均値2.2(標準偏差±1.2)へと推移し、その有意差危険率は0.03であった。
【0044】
更にまた、図3(a)に示すようにすべての測定ポイントで測定値が得られた被験者23名についての比較を示す図3(b)から分かるように、PHA刺激による末梢血リンパ球幼若化反応刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値10.7(標準偏差±8.5)から飲用後の平均値10.1(標準偏差±6.6)へと推移し、その有意差危険率は0.38であった。
【0045】
(3)IFN―γ産生に及ぼす影響
HSV特異的抗原、あるいはPHAを刺激因子とする末梢血リンパ球からのIFN―γ産生について、それが上記脱脂粉乳の飲用によってどのように影響されるかを調べた。すなわち、上記と同様にして脱脂粉乳の飲用開始前と12ヶ月飲用後の被験者の全血から調製した末梢血リンパ球を含む末梢血単核球(PBMC)を用いて、末梢血リンパ球からのIFN―γ産生量を調べた。
【0046】
具体的には、上記末梢血単核球(PBMC)を10%FBS含有RPMI1640培地で2×10細胞個/mlの細胞濃度に調整した後、24wellプレートに2×10細胞個/wellとなるように分注した。そして、10μg/mlのPHAまたは、100倍に希釈した各HSV特異抗原液の存在下、非存在下にて96時間培養した。培養終了後に培養上清を回収し、常法に従って、ELISA法によりIFN―γ量を測定した。
【0047】
なお、非特異的刺激によるIFN―γ産生の影響を除くため、結果は各実測値を同一反応時の無刺激の実測値で除した比率である刺激指数として表わした。その結果を図4〜6に示す。
【0048】
図4から分かるように、測定値が得られた被験者22名についてHSV-1抗原刺激による末梢血リンパ球からのIFN―γ産生刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値1.4(標準偏差±0.5)から飲用後の平均値1.8(標準偏差±1.1)へと推移し、その有意差危険率は0.041であった。
【0049】
また、図5から分かるように、測定値が得られた被験者22名について、HSV-2抗原刺激による末梢血リンパ球からのIFN―γ産生刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値1.4(標準偏差±0.6)から飲用後の平均値1.7(標準偏差±0.7)へと推移し、その有意差危険率は0.024であった。
【0050】
更にまた、図6から分かるように、測定値が得られた被験者22名について、PHA刺激による末梢血リンパ球からのIFN―γ産生刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値160.1(標準偏差±115.3)から飲用後の平均値205.4(標準偏差±120.4)へと推移し、その有意差危険率は0.076であった。
【0051】
(4)HSV特異的IgG抗体価に及ぼす影響
上記脱脂粉乳の飲用開始前と12ヶ月飲用後の被験者の末梢血中のHSV特異的IgG抗体価を、常法に従い、HSV-1及びHSV-2の双方に特異的に結合する抗体を用いたELISA法により測定した。その結果を図7に示す。
【0052】
図7(a)に示すようにすべての測定ポイントで測定値が得られた被験者25名についての比較を示す図7(b)から分かるように、HSV特異的IgG抗体価の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値77.48(標準偏差±56.53)から飲用後の平均値81.26(標準偏差±57.70)へと推移し、その有意差危険率は0.47であった。
【0053】
(5)HSV抗体陰性者における影響
上記(1)末梢血リンパ球幼若化に及ぼす影響、及び、(2)IFN―γ産生に及ぼす影響について、HSV抗体陰性者における上記脱脂粉乳の飲用開始前と12ヶ月飲用後の結果を抽出して図8〜9に示す。
【0054】
図8(a)から分かるように、HSV抗体陰性者5名について、HSV-1抗原刺激による末梢血リンパ球幼若化反応刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値1.1(標準偏差±0.2)から飲用後の平均値1.6(標準偏差±0.4)へと推移し、その有意差危険率は0.01であった。
【0055】
また、図8(b)から分かるように、HSV抗体陰性者5名について、HSV-2抗原刺激による末梢血リンパ球幼若化反応刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値1.1(標準偏差±0.3)から飲用後の平均値1.4(標準偏差±0.5)へと推移し、その有意差危険率は0.04であった。
【0056】
更にまた、図8(c)から分かるように、HSV抗体陰性者5名について、PHA刺激による末梢血リンパ球幼若化反応刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値13.0(標準偏差±8.1)から飲用後の平均値9.6(標準偏差±5.3)へと推移し、その有意差危険率は0.28であった。
【0057】
一方、図9(a)から分かるように、HSV抗体陰性者5名について、HSV-1抗原刺激による末梢血リンパ球からのIFN―γ産生刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値1.1(標準偏差±0.2)から飲用後の平均値1.2(標準偏差±0.4)へと推移し、その有意差危険率は0.31であった。
【0058】
また、図9(b)から分かるように、HSV抗体陰性者5名について、HSV-2抗原刺激による末梢血リンパ球からのIFN―γ産生刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値0.9(標準偏差±0.1)から飲用後の平均値1.3(標準偏差±0.3)へと推移し、その有意差危険率は0.039であった。
【0059】
更にまた、図9(c)から分かるように、HSV抗体陰性者5名について、PHA刺激による末梢血リンパ球からのIFN―γ産生刺激指数の平均値は、上記脱脂粉乳の飲用前の平均値115.2(標準偏差±53.9)から飲用後の平均値247.9(標準偏差±151.5)へと推移し、その有意差危険率は0.02であった。
【0060】
(6)まとめ
以上(2)〜(5)の結果を下記表3にまとめて示す。
【0061】
【表3】

【0062】
また、図10(a)〜(c)には、リンパ球幼若化反応刺激指数とIFN―γ産生刺激指数との相関プロットを示す。これらの相関プロットにおいて、(a)HSV-1抗原刺激及び(b)HSV-2抗原刺激によるものにおいて、ともに上記脱脂粉乳飲用前と12ヶ月後で、相関係数0.4〜0.5の相関傾向が認められた。一方、(c)PHA刺激によるものでは相関傾向は認められなかった。
【0063】
以上の結果をまとめると、上記脱脂粉乳の飲用によりHSV抗原刺激によるリンパ球幼若化反応およびIFN―γ産生の亢進が見られ、両者の間には相関傾向が認められた。一方、上記脱脂粉乳の飲用によってHSV特異的IgG抗体価の変動は起こらず、また、PHA刺激による非特異的なリンパ球幼若化反応およびIFN-γ産生の亢進は見られずその相関も認められなかった。
【0064】
上記の結果は、上記脱脂粉乳の飲用が、HSV抗原特異的な細胞障害性Tリンパ球(CTL)が誘起されている等、HSV感染に対して有効に働く免疫システムに正の影響を与えている可能性を示唆するものであり、その飲用者は、単純ヘルペスに対する特異的な免疫増強効果を期待できることが明らかとなった。なお、HSV抗体陰性例においては、低値ではあるがHSV抗原特異的免役が誘起され、PHA刺激によるIFN―γ産生の亢進が見られたことから非特異的免疫亢進の可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、単純ヘルペスウイルスを原因とする病態の治療予防に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物を飲用後、(a)HSV-1抗原刺激による末梢血リンパ球幼若化反応刺激指数の推移並びに(b)その飲用前後での比較を示す図である。
【図2】本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物を飲用後、(a)HSV-2抗原刺激による末梢血リンパ球幼若化反応刺激指数の推移並びに(b)その飲用前後での比較を示す図である。
【図3】本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物を飲用後、(a)PHA刺激による末梢血リンパ球幼若化反応刺激指数の推移並びに(b)その飲用前後での比較を示す図である。
【図4】本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物の飲用前後での比較であって、HSV-1抗原刺激による末梢血リンパ球からのIFN―γ産生刺激指数の比較を示す図である。
【図5】本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物の飲用前後での比較であってHSV-2抗原刺激による末梢血リンパ球からのIFN―γ産生刺激指数の比較を示す図である。
【図6】本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物の飲用前後での比較であって、PHA刺激による末梢血リンパ球からのIFN―γ産生刺激指数の比較を示す図である。
【図7】本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物を飲用後、(a)HSV特異的IgG抗体価の推移並びに(b)その飲用前後での比較を示す図である。
【図8】HSV抗体陰性者における本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物の飲用前後での比較であって、(a)HSV-1抗原刺激、(b)HSV-2抗原刺激並びに(c)PHA刺激による末梢血リンパ球幼若化反応刺激指数についての比較を示す図である。
【図9】HSV抗体陰性者における本発明の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物の飲用前後での比較であって、(a)HSV-1抗原刺激、(b)HSV-2抗原刺激並びに(c)PHA刺激による末梢血リンパ球からのIFN―γ産生刺激指数についての比較を示す図である。
【図10】リンパ球幼若化反応刺激指数とIFN―γ産生刺激指数との相関を示す図であって、(a)HSV-1抗原刺激、(b)HSV-2抗原刺激並びに(c)PHA刺激についての結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単純ヘルペスウイルスを原因とする病態を治療し及び/又は予防するために用いられる組成物であって、免疫ミルク組成物を有効成分として含有し、該免疫ミルク組成物は免疫原性物質で感作した哺乳動物から搾乳した乳又は該乳を原料とする乳加工組成物であることを特徴とする単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物。
【請求項2】
前記免疫原性物質が、病原菌由来の抗原物質である請求項1記載の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物。
【請求項3】
前記乳加工組成物が、脱脂乳、脱脂粉乳、乳清、乳清たんぱく質濃縮物、又は乳たんぱく質濃縮物である請求項1又は2記載の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物。
【請求項4】
前記単純ヘルペスウイルスを原因とする病態が、ヘルペス性角膜炎、ヘルペス性結膜炎、ヘルペス性髄膜炎、ヘルペス性脳炎、ヘルペス性口内炎、ヘルペス性歯肉口内炎、口唇ヘルペス、性器ヘルペス又は新生児ヘルペスである請求項1〜3のいずれか1つに記載の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物。
【請求項5】
前記哺乳動物が、ウシ、ヤギ、ヒツジ、又はウマから選ばれた少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1つに記載の単純ヘルペスウイルス感染症治療予防用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−182408(P2007−182408A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2833(P2006−2833)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(598041566)学校法人北里学園 (180)
【出願人】(399072255)兼松ウェルネス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】