免疫原性PcpAポリペプチドおよびその使用
本明細書は、Streptococcus pneumoniaeに対する免疫反応を惹起する組成物および方法を提供する。より詳細には、組成物および方法は、PcpAのフラグメントおよびその変異体を含む免疫原性ポリペプチド、ならびに該ポリペプチドをコードするかまたは発現する核酸、ベクターおよびトランスフェクト細胞に関する。免疫原性ポリペプチドを製造および使用する方法についても記載する。該組成物および方法を用いれば、肺炎球菌感染症を軽減または防止するように設計された現在入手可能な組成物および方法と比べ、有効性および効率が向上し、費用が削減される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願への相互参照)
本願は、2006年8月17日に出願された米国特許出願第60/822,715号、2006年9月28日に出願された同第60/827,348号、および2007年5月10日に出願された同第60/917,178号に対する優先権を主張し、米国特許出願第60/822,715号、同第60/827,348号、および同第60/917,178号は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(連邦政府により助成された研究に関する申告)
本発明は、国立衛生研究所からの助成金第R01 AI053749号、同第R01 AI21548号、および同第T32 HL 07553号のもと政府の支援によりなされた。政府は、本発明に一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0003】
Streptococcus pneumoniaeはかなり広範囲に存在するヒト病原体であり、肺、中枢神経系(CNS:central nervous system)、中耳および鼻道(nasal tract)などのいくつかの器官に感染する場合がある。感染すると、気管支炎、肺炎、髄膜炎、副鼻腔感染症および敗血症など様々な症状を引き起こす。S.pneumoniaeは、ヒトの細菌性髄膜炎の主な原因であり、抗生物質による処置を行っても死亡率および罹患率が高いことと関係がある(非特許文献1)。
【0004】
現在、2種類の肺炎球菌ワクチンが利用できる。1つは23種の莢膜多糖類からなる成人用ワクチンで、この23種を合わせると、肺炎球菌感染症の原因となる菌の約90%の莢膜型を占める。しかしながら、このワクチンは、小児、すなわち、肺炎球菌感染症に対する感受性が高い年齢群には免疫原性がない。成人にあっては、このワクチンは、菌血症性の肺炎に対して有効性が約60%であるがことが明らかになってはいるものの、年齢または基礎的な医学的状態が原因で肺炎球菌感染症の危険性が高まると、成人でも有効性が低下する(非特許文献2;非特許文献3)。このワクチンは、最も一般的な感染形態である非菌血症性の肺炎球菌性肺炎に対して効果的であることが明らかにされていない。
【0005】
利用可能なもう1つのワクチンは、2歳未満の小児の菌血症性肺炎球菌感染症に対して有効な7価コンジュゲートワクチンである。このワクチンは、肺炎に対する有効性も証明されている(非特許文献4;非特許文献5)。このワクチンは、7種のコンジュゲートを製造する必要があるため製造が複雑であることから、高価なものになっている(小児1人当たり約$200)。さらに、非ワクチン型Streptococcus pneumoniaeが非常に多い発展途上国世界の感染症をカバーするのにあまり役に立たない(非特許文献6;非特許文献7)。このワクチンは、中耳炎および定着に対しては侵襲性疾患に対してほど効かない。また、7価コンジュゲートワクチンを使用すると定着が促進され、ワクチンに含まれる7多糖類でない莢膜型の菌による疾患が増加することも明らかになっている(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10)。故に、Streptococcus pneumoniaeの効果的な処置剤が依然として求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Quagliarello et al,(1992)N.Eng.J.Med.327:864−872
【非特許文献2】Fedson,and Musher.2004.「Pneumococcal Polysaccharide Vaccine,」pp.529−588.In Vaccines,S.A.Plotkin and W.A.Orenstein(eds.),W.B.Saunders and Co.,Philadelphia,PA
【非特許文献3】Shapiro et al.,N.Engl.J,Med.325:1453−1460(1991)
【非特許文献4】Black et al,Pediatr.Infect.Dis.21:810−5(2002)
【非特許文献5】Black et al.,Arch.Pediatr.ll(7):843−53(2004)
【非特許文献6】Di Fabio et al.,Pediatr.Infect.Dis.J.20:959−967(2001)
【非特許文献7】Mulholland,Trap.Med.Int.Health 10:497−500(2005)
【非特許文献8】Bogaert et al.,Lancet Infect.Dis.4:144−154(2004)
【非特許文献9】Eskola et al.,N.Engl J.Med.344:403−409(2001)
【非特許文献10】Mbelle et al.,J.Infect Dis.180:1171−1176(1999)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
Streptococcus pneumoniaeに対する免疫反応を惹起する組成物および方法について説明する。より詳細には、本開示は、PcpAのフラグメントおよびその変異体ならびにポリペプチドをコードする核酸など、免疫原性PcpAポリペプチドに関する。本開示はさらに、免疫原性ポリペプチドの製造および使用の方法にも関する。こうした組成物および方法を用いれば、肺炎球菌感染症を軽減または防止するように設計された現在入手可能な組成物および方法と比べ、有効性および効率が向上し、費用が削減される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、PCRによるpcpAの確認を示す。様々なS.pneumoniae株のゲノムDNAをPCR解析した。プライマー対(BGP1(配列番号50)およびBGP2(配列番号51))を用いてPcpAのN末端部分(LRR領域を含む)をコードする核酸を増幅した。レーン1は、TIGR4;レーン2は、L82013;レーン3は、D1091B;レーン4は、BG12730;レーン5は、TJ0893;レーン6は、R6;レーン7は、BG10752;レーン8は、V175;レーン9は、EF3030;レーン10は、陰性対照(鋳型DNAなし)である。
【図2】図2は、低Mn2+条件下でのPcpAの存在に関するウエスタンブロット解析を示す。バクテリアを中間対数期まで低Mn2+培地で培養し、全細胞タンパク質サンプルを調製した。サンプルをSDS−PAGEで分離し、ニトロセルロースにトランスファーして、rPcpAポリクローナル抗血清でプローブした。レーン1は、JEN11(pcpA−ミュータント);レーン2は、JEN7(pcpAの構成的ミュータント);レーン3は、D1091B;レーン4は、EF5668;レーン5は、BG10752;レーン6は、V175;レーン7は、L82013;レーン8は、BG12730;レーン9は、TJ0893である。
【図3A】図3は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpAの免疫により得られる保護作用がアジュバント単独の場合と比べて統計学的に有意であることを示す。CBA/Nマウスに、水酸化アルミニウムに吸着したrPcpAまたは水酸化アルミニウムを単独で皮下免疫した。軽麻酔下でマウスにEF3030を5×106CFU鼻腔内チャレンジした。感染から7日後、マウスを屠殺し、肺ホモジネート(図3A)および鼻洗浄液(図3B)の細菌数を判定した。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。(**:p=0.0019、マンホイットニー)。
【図3B】図3は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpAの免疫により得られる保護作用がアジュバント単独の場合と比べて統計学的に有意であることを示す。CBA/Nマウスに、水酸化アルミニウムに吸着したrPcpAまたは水酸化アルミニウムを単独で皮下免疫した。軽麻酔下でマウスにEF3030を5×106CFU鼻腔内チャレンジした。感染から7日後、マウスを屠殺し、肺ホモジネート(図3A)および鼻洗浄液(図3B)の細菌数を判定した。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。(**:p=0.0019、マンホイットニー)。
【図4A】図4は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpA免疫により得られる他のS.pneumoniae莢膜血清型に対する保護作用が、アジュバント単独の場合に対して統計学的に有意であることを示す。マウスに、TJ0893株、血清型14株(図4A)(**:p=0.0209);L82016株、血清型6B(図4B)(**:p=0.0193);またはEF9303株、血清型23F(図4C)(**:p=0.0388、マンホイットニー)をチャレンジした。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。
【図4B】図4は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpA免疫により得られる他のS.pneumoniae莢膜血清型に対する保護作用が、アジュバント単独の場合に対して統計学的に有意であることを示す。マウスに、TJ0893株、血清型14株(図4A)(**:p=0.0209);L82016株、血清型6B(図4B)(**:p=0.0193);またはEF9303株、血清型23F(図4C)(**:p=0.0388、マンホイットニー)をチャレンジした。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。
【図4C】図4は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpA免疫により得られる他のS.pneumoniae莢膜血清型に対する保護作用が、アジュバント単独の場合に対して統計学的に有意であることを示す。マウスに、TJ0893株、血清型14株(図4A)(**:p=0.0209);L82016株、血清型6B(図4B)(**:p=0.0193);またはEF9303株、血清型23F(図4C)(**:p=0.0388、マンホイットニー)をチャレンジした。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。
【図5】図5は、pcpA不活性化がS.pneumoniaeの鼻腔内定着に与える作用を示す。マウスにEF3030またはその誘導体JEN18を106CFU鼻腔内チャレンジした。感染から7日後、マウスを屠殺し、鼻洗浄液の細菌数を判定した。水平線は、Log10CFU/Noseの中央値を示す。
【図6】図6は、致死性の敗血症のマウスモデルにおいて、rPcpA免疫により得られる保護作用がアジュバント単独の場合に対して統計学的に有意であることを示す。CBA/Nマウスに、水酸化アルミニウムに吸着したrPcpAまたは水酸化アルミニウムを単独で皮下免疫した。マウスにTIGR4を300CFU静脈内チャレンジし、生存時間を21日間モニターした。水平線は、生存時間の中央値を示す。(**:p=0.0067、マンホイットニー)。生存しているマウスを安楽死させ、検査したが、その血液中にS.pneumoniaeを検出できなかった。
【図7】図7は、敗血症のマウスモデルにおけるTIGR4およびそのpcpA不活化誘導体JEN11のビルレンスを示す。マウスにTIGR4またはJEN11を300CFU静脈内チャレンジし、生存時間を21日間モニターした。水平線は、生存時間の中央値を示す。(**:p=0.0299、マンホイットニー)。
【図8】図8は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpAの粘膜免疫によりアジュバント単独の場合と比較して保護作用が得られることを示す。CBA/NマウスにrPcpAとコレラ毒素Bサブユニット(CTB)、またはCTBを単独で鼻腔内免疫した。軽麻酔下で、マウスにEF3030を5×106CFU鼻腔内チャレンジした。感染から7日後、マウスを屠殺し、ホモジナイズした肺中の細菌数を判定した。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。(*:p=0.0001、マンホイットニー)。
【図9】図9は、ヒト肺上皮細胞へのpcpA+TIGR4株およびpcpA−TIGR4株(それぞれTIGR4およびJEN11)の付着を示す。A549ヒト肺上皮細胞の単層を、高マンガン(高Mn2+)または低マンガン(低Mn2+)の増殖条件下で増幅させておいたpcpA+TIGR4株およびpcpA−TIGR4株106CFUと150分間インキュベートした。この上皮細胞を洗浄し、溶解させた。各ライセート中の付着肺炎球菌の数を血液寒天プレートの定量プレーティングで判定した。回収Log10CFUとは、実験の終了時に肺上皮細胞に関連した肺炎球菌の数をいう。(**:p=0.0022、マンホイットニー)。
【図10】図10は、pcpA+TIGR4株およびpcpA−TIGR4株がヒト鼻上皮細胞に付着しなかったことを示す。Detroit562ヒト鼻上皮細胞の単層を、高マンガン(高Mn2+)または低マンガン(低Mn2+)増殖条件下で増幅させておいたpcpA+TIGR4株およびpcpA−TIGR4株106CFUと150分間インキュベートした。次に、この細胞を洗浄し、溶解させた。ライセート中の肺炎球菌の数を血液寒天プレートの定量プレーティングで判定した。回収Log10CFUとは、実験の終了時の肺炎球菌の数をいう。
【図11】図11は、A549細胞への肺炎球菌の付着が、PcpAに対する抗体により阻害されることを示す。A549ヒト肺上皮細胞の単層を、抗体なし、1/100に希釈したPcpA抗体または1/50に希釈したPcpA抗体を用いて高マンガン(高Mn2+)または低マンガン(低Mn2+)で増幅させたpcpA+TIGR4株およびpcpA−TIGR4株106CFUと150分間インキュベートした。この細胞を洗浄し、溶解させた。ライセート中の肺炎球菌の数を血液寒天プレートの定量プレーティングで判定した。
【図12】図12は、PcpAに対するウサギ血清による敗血症に対する保護作用を示す。完全フロインドアジュバントに加えた100μgのrPcpAでウサギを免疫して、続いて2週後および4週後に完全フロインドアジュバントに加えた100μgのrPcpAでウサギを免疫してウサギ血清を調製した。最終ブーストから2週間後に血清を採取し、ドットブロットアッセイを行ったところPcpAに対する抗体を含むことが示された。免疫の開始前に免疫前血清も採取しておいた。2つの群を用いてウサギ抗血清の希釈液が致死性の肺炎球菌感染症を防止できるかどうかマウスを検査した。TIGR4の静脈内チャレンジの1時間前にマウスの3つの群に1/10、1/100または1/1000に希釈した免疫血清を0.1mL腹腔内投与した。2匹のマウスに1/10免疫前(非免疫)ウサギ血清を投与し、2匹のマウスに希釈液(PBS)のみを投与した。マウスを500時間または死亡時まで観察した。1/10免疫血清を投与したマウス2匹は、実験を通して生存した。他のマウスはすべて、チャレンジ後40〜60時間後に死亡した。
【図13】図13は、PcpAおよびニューモリシン(Ply)による肺感染に対する保護作用を示す。マウスに5μgのrPcpA、5μgのニューモリシン(Ply)または5μgのrPcpAと5μgのPlyを3回免疫した。最初に2回の注射ではalumを用い、3回目の注射はタンパク質単独で行った。使用したPlyは、野生型Plyであった。マウスをイソフルラン(ミンラド,バッファロー,ニューヨーク州)で麻酔(anethesized)し、40μL容量に加えた莢膜型19F株EF3030を5×106CFU鼻腔内チャレンジした。この手順の結果、肺感染症および鼻腔定着が起きる。7日後、マウスを屠殺し、ホモジナイズした肺をプレーティングした。CFUを観察したところ、PcpAまたはPlyのどちらかを免疫しても保護作用のレベルは同等であった。PcpAとPlyで免疫したマウスにおいては、保護作用が対照マウスよりも100倍超、PlyまたはPcpA単独の場合よりも10倍高まった。
【図14】図14は、プラスミドpJMS87の構築を示す模式図である。このプラスミドは、プラスミドpET30aおよびPcpA(Streptococcus pneumoniae株B6由来のΔSPΔCBD PcpA)のフラグメントをコードする核酸のライゲーションにより形成される。
【図15A】図15Aおよび図15Bは、マウスの敗血症モデルにおいて、マウスに実施例8(10〜0.625μg/用量)の組換えPcpA(rPcpA)を免疫して得られる保護作用をグラフ化したものである。マウスにWUBM3株を300CFU腹腔内チャレンジした。図15Aは、一定期間にわたり、rPcpAを免疫したマウスがアジュバント対照群(PBS)と比較して各用量で有意な保護作用を受けたことを示す(フィッシャーの正確確率検定)。図15Bは、チャレンジから7日後の各群における保護作用のレベルを示す。
【図15B】図15Aおよび図15Bは、マウスの敗血症モデルにおいて、マウスに実施例8(10〜0.625μg/用量)の組換えPcpA(rPcpA)を免疫して得られる保護作用をグラフ化したものである。マウスにWUBM3株を300CFU腹腔内チャレンジした。図15Aは、一定期間にわたり、rPcpAを免疫したマウスがアジュバント対照群(PBS)と比較して各用量で有意な保護作用を受けたことを示す(フィッシャーの正確確率検定)。図15Bは、チャレンジから7日後の各群における保護作用のレベルを示す。
【図16】図16は、マウスの肺炎モデルにおいて、実施例8のrPcpAの免疫により得られる保護作用をグラフ化したものである。群1〜6にプラセボ(群1)、PspA(群2)またはrPcpA(群3〜6)を免疫した。0日目に1群当たり約14匹のCBA/Nマウスに初回用量の免疫原を皮下(s.c.)免疫した。21日目に2回目の免疫、43日目に3回目の免疫を行った。63日目にマウスにS.pneumoniae株EF3030を5.6×106CFU鼻腔内チャレンジした。感染から5日後、ホモジナイズした肺組織のCFUを判定した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書は、PcpAの免疫原性フラグメントおよび変異体、さらにはそのフラグメントおよび変異体の製造方法および使用方法について記載する。PcpAは、当初Streptococcus pneumoniaeのコリン結合タンパク質(CBP:choline binding protein)として同定されたが、CBPタンパク質であるPspAおよびPspCとは異なり(Sanchez−Beato et al.,FEMS Microbiol.Lett.164:207−214(1998))、PcpAの突然変異は、(1)変異株と野生株を競合させる競合モデルでマウスの肺、菌血症および鼻咽頭においてビルレンスを低下させる(Hava and Camilli,Mol Microbiol.45:1389−1406(2002));(2)肺での定着に関する非競合的な比較においてビルレンスおよび細菌負荷を低下させる(Johnston et al.,Infect.Immun.74:1171−1180(2006));(3)CBA/CaHN−Btkxid/Jマウスにおいて敗血症の原因となるS.pneumoniaeの侵襲性株TIGR4(莢膜型4)の能力を低下させる;および(4)野生株と競合して肺での定着を低下させることが明らかになっている。本開示は、PcpAに免疫原性があること、特にPcpAのフラグメントおよび変異体に免疫原性があるという最初の証拠を提供する。
【0010】
免疫原性ポリペプチドは、(シグナル配列の存在下または存在下での)全長PcpAアミノ酸配列、そのフラグメントおよびその変異体を含む。全長PcpAには、Streptococcus pneumoniae株B6由来のGenBank受託番号CAB04758、S.pneumoniae株TIGR4由来のGenBank受託番号NP_346554およびS.pneumoniae株R6由来のGenBank受託番号NP_359536がある。
【0011】
任意に、PcpAの免疫原性ポリペプチドは、1つまたは複数のロイシンに富んだ領域(LRR:leucine rich region)を含む。こうしたLLRは、天然型PcpAに存在し、あるいは、このLLRの天然型LRRに対する配列同一性は、たとえば、80%、85%、90%または95%など、約60〜約99%である。成熟PcpAタンパク質(すなわち、シグナルペプチドが存在しないタンパク質)のLRRは、配列番号1、2、41または45内で確認できる。
【0012】
PcpAの免疫原性ポリペプチドは任意に、天然型成熟PcpAタンパク質に一般に存在するコリン結合性のアンカー配列が認められない。天然型のコリン結合性アンカー配列は、成熟PcpAタンパク質の配列番号52である。より詳細には、免疫原性ポリペプチドは、1つまたは複数のアミノ酸置換を持ち、かつ天然型PcpAに対して配列同一性が約60〜約99%、すなわち任意の同一性が80、85、90および95%などである、天然型PcpAのN末端領域を含む。N末端領域は、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換の存在下または非存在下およびシグナル配列の存在下または存在下で配列番号1、2、3、4、41または45のアミノ酸配列を含んでもよい。N末端領域は、配列番号1、2、3、4、41または45に対する配列同一性が約60〜約99%(あるいは任意の同一性が80〜99%)のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0013】
配列番号1、2、3、4、41または45の免疫原性フラグメントは、配列番号1、2、3、4、41または45のアミノ酸残基を5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190および191個、すなわち5〜191個の任意の数のアミノ酸残基を含む。こうしたフラグメントの例として、たとえば、LEKIEDRAFD(配列番号5)、FSELEEIELP(配列番号6)、ASLEYIGTSA(配列番号7)、FSFSQKLKKL(配列番号8)、TFSSSSKLEL(配列番号9)、ISHEAFANLS(配列番号10)、NLEKLTLPKS(配列番号11)、VKTLGSNLFR(配列番号12)、LTTSLNMLML(配列番号13)、LTTSLKHVDV(配列番号14)、RGMIVASVDG(配列番号15)、EEGNESFASVDG(配列番号16)、VSFQSKTQLI(配列番号17)、VLFSKDKTQLI(配列番号18)、YYPSQKNDES(配列番号19)、YKTPKETKEL(配列番号20)、ASYSFNKNSY(配列番号21)、LKKLELNEGL(配列番号22)、QKIGTFAFAD(配列番号23)、EKIGTFAFAD(配列番号24)、ATKLEEISLP(配列番号25)、AIKLEEISLP(配列番号26)、NSLETIERLA(配列番号27)、FYGNLELKELIL(配列番号28)を含むアミノ酸が挙げられる。
【0014】
任意に、PcpAの免疫原性ポリペプチドは、LRRがない。LRRが認められない免疫原性ポリペプチドとして、配列番号29、配列番号30および配列番号31または5個以上のアミノ酸残基を含む配列番号29、30または31のいずれかの任意の免疫原性フラグメントがある。配列番号30および31は、PcpAのロイシンに富んだ領域のC末端側に残基を含む。
【0015】
本明細書に記載の免疫原性ポリペプチドの変異体は、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換を含んでもよい。免疫原性ポリペプチドの変異体は、配列番号1〜31、41および45またはこれらの任意のフラグメントに対する配列同一性が約60〜約99%(すなわち、任意の同一性が60〜99%)のアミノ酸配列を含む。変異体の選択については、本明細書に教示する方法を用いてその免疫原性能の観点から行う。
【0016】
本明細書に記載のPcpAの免疫原性ポリペプチドは、PcpAのフラグメントおよびそのフラグメントの変異体を含む。PcpAフラグメントの変異体は、アミノ酸配列の改変を含んでもよい。たとえば、アミノ酸配列の改変としては、置換、挿入または欠失による変化がある。変異体が免疫原性ポリペプチドである限り、置換、欠失、挿入またはこれらの任意の組み合わせを単一の変異体内で組み合わせても構わない。挿入は、アミノおよび/またはカルボキシル末端融合のほか、単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。挿入は一般に、アミノまたはカルボキシル末端融合の挿入よりも、たとえば、1〜4残基程度の小さな挿入になる。欠失は、1つまたは複数のアミノ酸残基をタンパク質配列から除去するものである。タンパク質分子内の任意の1部位で約2〜6残基以下を欠失させるのが一般的である。こうした変異体については通常、タンパク質をコードするDNAのヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発により作成して、それにより変異体をコードするDNAを製造し、その後、組換え細胞培養でDNAを発現させる。既知の配列を持つDNAの所定の部位で置換突然変異を製造する技法はよく知られており、M13プライマー突然変異誘発およびPCR突然変異誘発があるが、これに限定されるものではない。アミノ酸置換は一般に単一残基であるが、いくつかの異なる位置で同時に行ってもよい。置換変異体は、少なくとも1つの残基を除去し、その代わりに別の残基を挿入する変異体である。こうした置換は通常、以下の表1に準じて製造され、保存的置換と呼ばれる。一方、これ以外のものも当業者にはよく知られている。
【0017】
【表1】
本明細書で使用する場合、変異体は、pcpA相同遺伝子内の1つまたは複数の部位で多型性を示す、別の株に由来する天然型pcpAの対立遺伝子を含んでもよい。変異体は、従来の分子生物学的技法により製造することができる。本明細書では、変異体について天然型pcpAと比較した配列同一性との関連で記載する。当業者であれば、2つのポリペプチドまたは核酸の配列同一性の判定方法を容易に理解できる。たとえば、同一性が最高レベルになるように2つの配列を整列させた後、配列同一性を算出してもよい。アライメントについては、使用するアライメントプログラムの個々のアルゴリズムによってある程度異なる。これには、たとえば、Smith and Waterman Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所的相同性アルゴリズム、Needleman and Wimsch,J.MoL Biol.48:443(1970)の相同性アライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman,PNAS USA 85:2444(1988)の類似性検索法による、これらのアルゴリズムのコンピュータインプリメンテーション(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)による、BLASTおよびBLAST2.0ならびにAltschul et al,Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1977;Altschul,et al,J.Mol. Biol.215:403−410,1990;Zuker,M.Science 244:48−52,1989;Jaeger et al.PNAS USA 86:7706−7710,1989 and Jaeger et al.Methods Enzymol.183:281−306,1989に記載のアルゴリズムが挙げられる。これらの各参考文献については、少なくともアライメントに関連する材料および同一性の計算に関して参照によって援用する。一般に、これらの方法のどれを用いもよいが、場合によってこうした様々な方法による結果が異なる可能性があることが理解されるであろう。配列同一性を、たとえば、95%とする場合、その同一性は、受け入れられた計算方法の少なくとも1つで検出可能なものでなければならない。
【0018】
本明細書に記載の免疫原性ポリペプチドは、1種または複数種のアミノ酸アナログまたは非天然型立体異性体を含んでもよい。こうしたアミノ酸アナログおよび立体異性体については、tRNA分子に目的のアミノ酸を組み込み、たとえば、アンバーコドンを利用してそのアナログアミノ酸を部位特異的にペプチド鎖に挿入する遺伝子コンストラクトを設計することで容易にポリペプチド鎖に導入することができる(少なくともアミノ酸アナログに関する材料について参照によってすべて本明細書に援用するThorson et al.,Methods in Molec.Biol 77:43− 73(1991),Zoller,Current Opinion in Biotechnology,3:348−354(1992);Ibba,Biotechnology & Genetic Engineering Reviews 13:197−216(1995),Cahill et al.,TIBS,14(10):400−403(1989);Benner,TIB Tech,12:158−163(1994);Ibba and Hermecke,Biol technology,12:678−682(1994)を参照)。ペプチドには似ているものの天然のペプチド結合を介して連結されていない免疫原性フラグメントを製造してもよい。たとえば、アミノ酸またはアミノ酸アナログの結合は、CH2NH−−、−−CH2S−−、−−CH2−−CH2−−、−−CH=CH−−(シスとトランス)、−−COCH2−−、−−CH(OH)CH2−−および−−CHH2SO−−(これらおよび他のものについては、Spatola,A.F.「Peptide backbone modifications: A structure−activity analysis of peptides containing amide bond surrogates, conformational constraints, and related backbone modifications.」In Chemistry and Biochemistry of Amino Acids,Peptides,and Proteins,pp.267−357.Weinstein,B.editor,Marcel Dekker,New York,N.Y.(1983);Morley,Trends in Pharm.Sci,1(2):463−468(1980);Hudson,et al,Int J Pept Prot Res 14:177−185(1979)(−−CH2NH−−,CH2CH2−−);Spatola et al.Life Sci 38:1243−1249(1986)(−−CH H2−−S);Hann,Journal of the Chemical Society:Perkin Transactions 1 pp.307−314(1982)(−−CH−−CH−−,cis and trans);Almquist et al.,J.Med.Chem.23:1392−1398(1980)(−−COCH2−−);Jennings−White et al.,Tetrahedron Lett 23:2533(1982)(−−COCH2−−);欧州特許第0045665号 to Szelke,et al.(1982)(−−CH(OH)CH2−−);Holladay et al.,Tetrahedron.Lett 24:4401−4404(1983)(−−C(OH)CH2−−);およびHruby Life Sci 31:189−199(1982)(−−CH2−−S−−)で確認することができ、少なくとも結合に関する材料について、これらの各々を参照によって本明細書に援用する)を含んでもよい。
【0019】
アミノ酸アナログおよび立体異性体は、多くの場合、製造がより経済的であること、化学的安定性の強化、薬理学的特性(半減期、吸収、効力、有効性など)の改良、特異性(広範な生物活性など)の変化およびその他など、特性を改良できるか、望ましい特性を持っている。たとえば、Dアミノ酸は天然ペプチダーゼにより認識されないため、D−アミノ酸を用いてより安定なペプチドを得ることができる。コンセンサス配列の1種または複数種のアミノ酸と同じタイプのD−アミノ酸との網羅的な置換(L−リジンの代わりにD−リジンなど)を用いてより安定なペプチドを得ることができる。システイン残基を用いて2つ以上のペプチドを一緒に環化または結合させてもよい。これは、ペプチドを特定のコンフォメーションに限定するのに有益な場合がある。(参照によって本明細書に援用するRizo and Gierasch Ann.Rev.Biochem.61:387(1992)を参照)。
【0020】
本明細書は、PcpAの免疫原性ポリペプチドおよび薬学的に許容されるキャリアを含む組成物について記載する。任意に、この組成物は、アジュバントをさらに含む。免疫原性ポリペプチドを含む組成物は、たとえば、免疫原性StaphylococcusポリペプチドもしくはPspA、ニューモリシンの免疫原性フラグメントまたはこれらの組み合わせなど、他の免疫原性ポリペプチドの組み合わせを含んでもよい。
【0021】
任意に、本明細書に記載の組成物は、粘膜表面への投与に好適である。この組成物は、たとえば、点鼻薬、ネブライザー溶液またはエアロゾル吸入剤であってもよい。したがって、組成物は、容器内にあってもよく、容器は、鼻噴霧器、ネブライザーまたは吸入器であってもよい。
【0022】
薬学的に許容されるキャリアとは、生物学的またはその他の点で望ましい、すなわち、任意の好ましからぬ生物学的作用を引き起こしたり、それを含む医薬組成物の他の成分のいずれとも有害な相互作用を起こしたりせずに、PcpAの免疫原性フラグメントと一緒に被検体に投与できる材料をいう。当業者によく知られているように、キャリアについては当然ながら、被検体において活性成分の任意の分解および任意の有害な副作用を最小限にとどめるように選択することになる。
【0023】
好適なキャリアおよびその製剤については、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Edition,David B.Troy,ed.,Lippicott Williams & Wilkins(2005)に記載されている。一般に、製剤に適切な量の薬学的に許容される塩を用いて製剤を等張にする。薬学的に許容されるキャリアの例として、滅菌水、生理食塩液、リンゲル溶液のような緩衝液およびデキストロース溶液があるが、これに限定されるものではない。溶液のpHは通常、約5〜約8または約7〜約7.5である。他のキャリアとして、免疫原性PcpAポリペプチドを含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスなどの徐放性製剤がある。マトリックスは、たとえば、薄膜、リポソームまたは微小粒子のような形状製品の形をとる。たとえば、投与される組成物の投与経路および濃度に応じて、ある種のキャリアがより好ましくなる場合があることが当業者には明らかであろう。キャリアは、ヒトまたは他の被検体へのPcpA免疫原性フラグメントの投与に好適なものである。
【0024】
医薬組成物は、免疫原性ポリペプチドの他にキャリア、増粘剤、希釈薬、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、アジュバント、免疫賦活薬を含んでもよい。さらに、医薬組成物は、抗菌剤、抗炎症剤および麻酔薬など1種または複数種の活性成分を含んでもよい。
【0025】
アジュバントは、アルミニウム塩などの金属塩を含み、アジュバント活性を持つ安全な賦形剤を与えるものとして当該技術分野において周知である。こうしたアジュバントの作用機序には、投与から最大3週間注射部位にとどまることができるような抗原デポーの形成、さらに抗原提示細胞に取り込まれやすい抗原/金属塩複合体の形成があると考えられる。抗原の吸着には、アルミニウムばかりでなく、亜鉛、カルシウム、セリウム、クロム、鉄およびベリリウム(berilium)の塩など他の金属塩も用いられている。アルミニウムの水酸化物およびリン酸塩が、最も一般的である。アルミニウム塩、抗原および他の免疫賦活薬を含む製剤または組成物は、当該技術分野において公知である。免疫賦活薬の例として、3−デ−O−アシル化モノホスホリル脂質A(3D−MPL)が挙げられる。
【0026】
アジュバントおよび/または免疫賦活薬を、ポリペプチド組成物と同時に、組成物の投与の直前に、あるいは投与後に投与してもよい。任意に、組成物は、アジュバントをさらに含む。アジュバント製剤は、たとえば、粘膜誘導部位を標的にする薬を含む。アジュバントは任意に、以下に限定されるものではないが、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、血管形成因子、アポトーシス阻害剤およびこれらの組み合わせなどの群から選択されてもよい。サイトカインをアジュバントとして選択する場合、サイトカインは、以下に限定されるものではないが、IL−1、IL−3、IL−2、IL−5、IL−6、IL−12、IL−15およびIL−18などのインターロイキン;トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β:transforming growth factor−beta);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF:granulocyte macrophage colony stimulating factor);インターフェロンγ(IFN−γ:interferon−gamma);またはアジュバント活性を持つ他の任意のサイトカインなどの群から選択されてもよい。また、本発明の組成物および方法にアジュバント活性または他の生物活性を持つサイトカインの一部またはサイトカインのミュータントもしくは模倣体(またはこれらの組み合わせ)を用いてもよい。
【0027】
ケモカインをアジュバントとして用いる場合、ケモカインは任意に、以下に限定されるものではないが、リンホタクチン、RANTES(regulated on activation normal T cell expressed and secreted)、LARC(liverand activation−regulated chemokine)、PARC(pulmonary and activation−regulated chemokine)、MDC(macrophage−derived chemokine)、TAR C(thymus and activation−regulated chemokine)、SLC(secondary lymphoid tissue chemokine)およびFKN(fractalkine)などの群から選択してもよい。アポトーシス阻害剤をアジュバントとして選択した場合、アポトーシス阻害剤は任意に、以下に限定されるものではないが、カスパーゼ8の阻害剤およびその組み合わせなどの群から選択してもよい。血管形成因子をアジュバントとして選択した場合、血管形成因子は任意に、以下に限定されるものではないが、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF:fibroblast growth factor)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)、ヒアルロナン(HA:hyaluronan)フラグメントおよびこれらの組み合わせなどの群から選択してもよい。
【0028】
実質的に無毒の生物活性アジュバントの他の例としては、ホルモン、酵素、成長因子またはこれらの生物活性部分が挙げられる。そうしたホルモン、酵素、成長因子またはこれらの生物活性部分は、たとえば、ヒト、ウシ、ブタ、ヒツジ(ovine)、イヌ、ネコ、ウマまたはトリ由来であってもよく、腫瘍壊死因子(TNF:tumor necrosis factor)、プロラクチン、上皮増殖因子(EGF:epidermal growth factor)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF:granulocyte colony stimulating factor)、インスリン様成長因子(IGF(insulin−like growth factor)−1)、ソマトトロピン(成長ホルモン)もしくはインスリン、またはその受容体が免疫系の細胞に発現する他の任意のホルモンもしくは成長因子であってもよい。
【0029】
さらに、アジュバントは、たとえば、コレラ毒素(CT:cholera toxin)、E.coli易熱性毒素(LT:heat−labile toxin)、Clostridium difficileトキシンAおよび百日咳毒素(PT:pertussis toxin)またはこれらの組み合わせ、サブユニット、トキソイド、キメラまたはミュータントのような細菌毒素も含む。たとえば、天然のコレラ毒素サブユニットB(CTB:cholera toxin subunit B)の精製調製物を用いても構わない。フラグメント、ホモログ、誘導体およびこうしたトキシンのいずれかの融合物も好適なものであるが、アジュバント活性を保持していることが条件となる。アジュバントの好適なミュータントまたは変異体は、たとえば、国際特許第95/17211号(Arg−7−Lys CTミュータント)、国際特許第96/6627号(Arg−192−Gly LTミュータント)および国際特許第95/34323号(Arg−9−LysおよびGlu−129−Gly PTミュータント)に記載されている。本方法および組成物で使用できるさらなるLTミュータントには、たとえば、Ser−63−Lysミュータント、Ala−69−Glyミュータント、Glu−110−AspミュータントおよびGlu−112−Aspミュータントがある。さらに他のアジュバントとして、RH3リガンド;CpGモチーフオリゴヌクレオチド;たとえば、E.coli、Salmonella Minnesota、Salmonella typhimuriumまたはShigella exseriなどの細菌性モノホスホリルリピドA(MPLA:monophosphoryl lipid A);サポニン(QS21など)またはポリラクチドグリコリド(PLGA:polylactide glycolide)ミクロスフェアなどを用いてもよい。他に考えられるアジュバントとして、デフェンシンおよびCpGモチーフがある。
【0030】
本明細書に記載の免疫原性ポリペプチドの製造方法および使用方法とそうした方法に有用な組成物とを提供する。このポリペプチドについては、標準的な分子生物学的技法および発現系を用いて作製することができる。(たとえば、Molecular Cloning;A Laboratory Manual,Third Edition by Sambrook et al,Cold Spring Harbor Press,2001を参照)。たとえば、免疫原性ポリペプチドをコードするpcpA遺伝子のフラグメントを単離してもよく、免疫原性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、市販されている任意の発現ベクター(pBR322ベクターおよびpUCベクター(ニューイングランドバイオラボインク(New England Biolabs,Inc.),イプスウィッチ(Ipswich),マサチューセッツ州)など)または発現/精製ベクター(GST融合ベクター(ファイザーインク(Pfizer,Inc.),ピスカタウェイ(Piscataway),ニュージャージー州)など)にクローニングしてから、好適な原核生物、ウイルスまたは真核生物の宿主に発現させてもよい。その後、従来の手段により、あるいは、市販の発現/精製系の場合は製造者の指示に従って精製を行えばよい。
【0031】
本明細書は、配列番号1〜31、41および45のいずれか1つをコードする配列を含む核酸を提供する。本明細書は、全長PcpAタンパク質またはそのフラグメントをコードする配列番号32、33および47を含む核酸を提供する。また、配列番号32、33および47の縮重変異体およびこうした縮重変異体のフラグメントも提供する。
【0032】
配列番号1および2またはそのフラグメントをコードする核酸であって、それぞれ配列番号34および配列番号35またはその縮重変異体もしくはフラグメントを含む、核酸について記載する。
【0033】
配列番号3および4またはそのフラグメントをコードする核酸は、それぞれ配列番号36および37またはその縮重変異体もしくはフラグメントを含むが、これに限定されるものではない。
【0034】
配列番号42またはその縮重変異体もしくはフラグメントを含む、配列番号41またはそのフラグメントをコードする核酸について記載する。
【0035】
配列番号46またはその縮重変異体またはフラグメントを含む、配列番号45またはそのフラグメントをコードする核酸について記載する。
【0036】
配列番号29またはそのフラグメントをコードする例示的核酸は、配列番号38またはその縮重変異体もしくフラグメントを含む。
【0037】
さらに詳しくは、本明細書は、配列番号32〜38、42、46および47またはこれらの縮重変異体として示される配列のいずれか1つを含む核酸を提供する。
【0038】
さらに、配列番号32〜38、42、46および47または配列番号32〜38、42、46および47の相補体またはその配列もしくは相補体の任意のフラグメントを含むヌクレオチド配列を持つハイブリダイゼーションプローブの全部または任意の部分とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む単離された核酸も提供する。ハイブリダイズしている核酸のハイブリダイズしている部分の長さは一般に、少なくとも15(15、20、25、30、40またはそれ以上など)ヌクレオチドである。ハイブリダイズしている部分は、ハイブリダイズする配列部分と少なくとも80%(85%、90%または95%など)同一である。ハイブリダイズしている核酸は、たとえば、クローニングプローブ、プライマー(PCRプライマーなど)または診断プローブとして有用である。核酸二本鎖またはハイブリッドの安定性については、プローブが標的DNAから解離する温度である融解温度すなわちTmで表す。この融解温度を用いて必要なストリンジェント条件を決める。プローブと同一ではないが、プローブと関連があり実質的に同一である配列を同定する場合、まず特定の塩濃度(SSC(saline sodium citrate)またはSSPE(saline sodium phosphate EDTA)など)を用いて相同ハイブリダイゼーションのみが起こる最低温度を確立することが有用である。1%のミスマッチでTmが1℃低下すると想定する場合、それに合わせてハイブリダイゼーション反応の最終の洗浄温度を下げる(たとえば、同一性が95%を超える配列を探索する場合、最終洗浄温度を5℃下げる)。実際のミスマッチ1%当たりのTmの変化は、0.5〜1.5℃である可能性がある。ハイストリンジェントな条件では、5×SSC/5×デンハルト溶液/1.0%SDSにおいて68℃でハイブリダイズし、0.2×SSC/0.1%SDSで室温にて洗浄を行う。中ストリンジェントな条件では、3×SSCで42℃にて洗浄する。塩濃度および温度を変動させてプローブと標的核酸との同一性の最適レベルを達成してもよい。こうした条件に関するさらなるガイダンスは、当該技術分野において容易に入手することができ、たとえば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Edition by Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Press,2001に記載されている。
【0039】
したがって、前述のペプチド配列、その変異体およびフラグメントをコードできる核酸を開示することが理解されよう。この核酸には、個々のタンパク質配列に関係するすべての縮重配列、すなわち、特定のタンパク質配列をコードする配列を持つすべての核酸ばかりでなく、本開示のタンパク質配列の変異体および誘導体をコードする縮重核酸など、すべての核酸が含まれることになる。したがって、本明細書には1つ1つの核酸配列をすべて書き出していない場合もあるが、実際には、本開示のタンパク質配列により、ありとあらゆる配列が開示および記載されていることが理解されよう。
【0040】
また、本明細書に記載の核酸を含むベクターも開示する。したがって、免疫原性ポリペプチド(配列番号1〜31、41もしくは45またはそのフラグメントもしくは変異体など)をコードする核酸を含むベクターを提供する。このベクターは、配列番号32〜38、42および47またはその縮重変異体またはフラグメントの核酸配列のうちどれを含んでもよい。任意に、ベクターの核酸は、発現調節配列(プロモーターまたはエンハンサーまたはその両方など)に作動的に連結されている。好適な発現ベクターは、当業者によく知られており、ノバゲンインク(Novagen,Inc.),マディソン,ウィスコンシン州;インビトロジェンコーポレーション(Invitrogen Corporation),カールズバッド,カリフォルニア州;およびプロメガコーポレーション,マディソン,ウィスコンシン州など様々な供給源で市販されている。
【0041】
さらに、ベクターを含む培養細胞も提供する。培養細胞は、ベクターをトランスフェクトした培養細胞でも細胞の子孫でもよく、その細胞に免疫原性ポリペプチドが発現する。好適な細胞株は当業者に公知であり、たとえば、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC:American Type Culture Collection)から市販されている。
【0042】
トランスフェクト細胞を、免疫原性ポリペプチドを作製する方法に用いてもよい。この方法では、任意に発現配列の制御下、免疫原性ポリペプチドが発現する条件下でベクターを含む細胞を培養する。標準的なタンパク質精製法を用いて細胞または培地から免疫原性ポリペプチドを単離することができる。
【0043】
免疫原性ポリペプチドについては、比較的大きなポリペプチドまたはタンパク質を普通に酵素的に切断して作製してもよいし、タンパク質化学的技法で2つ以上のペプチドまたはポリペプチドを連結して作製してもよい。たとえば、ペプチドまたはポリペプチドをFmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)化学反応あるいはBoc(tert−ブチルオキシカルボノイル)化学反応。(アプライドバイオシステムズインク(Applied Biosystems,Inc.),フォスターシティー,カリフォルニア州)のどちらかにより、現在利用できる実験機器を用いて化学的に合成することができる。ペプチド縮合反応、ネイティブ化学ライゲーション、固相化学反応または酵素的ライゲーションにより、2つのフラグメントをそのカルボキシルおよびアミノ末端でペプチド結合により共有結合で結合させて、免疫原性PcpAポリペプチドを形成してもよい。(その中に記載されている方法についてすべてを参照によって本明細書に援用するSynthetic Peptides:A User Guide,,Grant,ed.,W.H.Freeman and Co.,New York,N.Y.(1992);Principles of Peptide Synthesis.,Bodansky and Trost,eds.Springer− Verlag Inc.,New York,N.Y.(1993);Abrahmsen L et al.,Biochemistry,30:4151(1991);Dawson et al.Science,266:776−779(1994);Solid Phase Peptide Synthesis,2nd Edition,Stewart,ed.,Pierce Chemical Company,Rockford,IL,(1984)を参照)。
【0044】
1種または複数種のポリペプチドを含む免疫原性ポリペプチドおよび組成物を用いて抗体を作製してもよい。したがって、被検体のPcpAに特異的な抗体を作製する方法は、本明細書に記載の免疫原性PcpAフラグメントを被検体に投与することを含む。さらに、本明細書は、PcpAポリペプチドに結合する抗体およびPcpAポリペプチドに結合する抗体フラグメントも提供する。
【0045】
抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、完全ヒト抗体またはヒト化抗体でもよく、天然抗体および一本鎖抗体を含む。抗体は、免疫原性PcpAポリペプチドを被検体に投与してインビボで作製してもよい。抗体の作製には、ハイブリドーマ法を用いたモノクローナル抗体の製造が含まれる。ハイブリドーマ法については、当該技術分野において周知であり、その中に記載されている方法について参照によってその全体を援用するKohler and Milstein,Nature,256:495(1975) and Harlow and Lane.Antibodies,A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Publications,New York,(1988)に記載されている。
【0046】
一本鎖抗体の製造方法は、当業者によく知られている。たとえば、米国特許第5,359,046号(その方法に関して参照によってその全体を本明細書に援用する)を参照されたい。一本鎖抗体を作製するには、短いペプチドリンカーを用いて重鎖と軽鎖の可変ドメインを一緒に融合し、それにより単一分子上に抗原結合部位を再構成する。抗原結合性または結合の特異性を大きく阻害することなく、一方の可変ドメインのC末端が他方の可変ドメインのN末端に15〜25アミノ酸ペプチドまたはリンカーにより連結される一本鎖抗体可変フラグメント(scFv)が開発されている。重鎖と軽鎖が適切な立体配座配向で一緒に結合できるようにリンカーを選択する。たとえば、リンカーに関する材料について参照によって本明細書に援用するHuston,J.S.,et al.Methods in Enzym.203:46−121(1991)を参照されたい。
【0047】
PcpAポリペプチドに対する完全ヒト抗体およびヒト化抗体を本明細書に記載の方法に用いてもよい。ヒト化抗体は、そのレシピエントの相補性決定領域(CDR:complementary determining region)由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を持つマウス、ラットまたはウサギなど非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基で置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)を含む。ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基で置換されている場合もある。免疫によりヒト抗体の完全なレパートリー(すなわち、完全ヒト抗体)を産生することができるトランスジェニックアニマル(マウスなど)を用いてもよい。生殖系列変異のキメラマウスにおいて抗体重鎖の結合領域(J(H))遺伝子を同系接合的に欠損させると、内因性抗体の産生が完全に阻害される。そうした生殖系列ミュータントマウスにヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイを転移すれば、抗原チャレンジによりヒト抗体が産生される(たとえば、Jakobovits et al.,PNAS USA,90:2551−255(1993);Jakobovits et al.,Nature,362:255−258(1993);Bruggemarm et al.,Year in Immuno.,7:33(1993)を参照)。また、ファージディスプレイライブラリーでヒト抗体を作製してもよい(Hoogenboom et al.,J.Mol,Biol,227:381(1991);Marks et al.,J,Mol.Biol,222:581(1991))。CoteらおよびBoernerらの技法には、ヒトモノクローナル抗体の調製方法について記載されている(Cole,et al.,「The EBV−hybridoma technique and its application to human lung cancer.」 In,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Volume 27,Reisfeld and Sell,eds.,pp.77−96,Alan R.Liss,Inc.,New York,N.Y.,(1985);Boerner et al.,J.Immunol,,147(l):86−95(1991))。こうした参考文献については、その中に記載されている方法のため参照によってその全体を援用する。
【0048】
本明細書で使用する場合、抗体フラグメントは、ハイブリッドフラグメントを含むF(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメントおよびFabフラグメントを含む。こうした抗体フラグメントは、特定のPcpAポリペプチドに対する結合能を保持している。各方法を用いて(ab)発現ライブラリーを構築(たとえば、Huse,et al.,1989 Science 246:1275−1281を参照)すれば、PcpAポリペプチドに対する所望の特異性を持つモノクローナルF(ab)フラグメントを迅速かつ効果的に同定することができる。ポリペプチドのイディオタイプを含む抗体フラグメントについては、当該技術分野において公知の技法で作製することができ、(i)抗体分子のペプシン消化により作製されるF(ab’)2フラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋の還元により作製されるFabフラグメント;(iii)抗体分子をパパインおよび還元剤で処理して作製されるF(ab)フラグメントおよび(iv)F(v)フラグメントがあるが、これに限定されるものではない。
【0049】
本明細書は、被検体において肺炎球菌感染症の危険性を低下させる方法であって、PcpAの免疫原性フラグメントまたはその組成物を被検体に投与することを含む、方法を記載する。肺炎球菌感染症には、たとえば、髄膜炎、中耳炎、肺炎、敗血症または溶血性尿毒症がある。したがって、本明細書に記載の方法より、こうした感染症の任意の1つまたは複数の危険性が低下する。この方法は、第2の免疫原性フラグメントを投与するステップをさらに含んでもよい。第2の免疫原性フラグメントは、PspA由来でも、ニューモリシン由来でも、これらの組み合わせ由来でもよい。第2の免疫原性フラグメントについては、PcpAの免疫原性フラグメントと同時、その前、あるいはその後に投与してもよい。
【0050】
PcpAポリペプチドまたはそのフラグメントを含む組成物は、経口投与、非経口投与(静脈内など)、筋肉内投与、腹腔内投与、経皮投与、または鼻腔投与もしくは呼吸器系の任意の部分への投与などの局所投与することができる。本明細書で使用する場合、呼吸器系への投与とは、エアロゾル化または挿管を介した噴霧機構または飛沫機構による送達など、外鼻孔の一方もしくは両方あるいは口を介して組成物を鼻部および鼻道に送達することをいう。
【0051】
組成物およびPcpAポリペプチドまたはフラグメントの正確な必要量は、被検体の種、年齢、体重および全身状態、使用するポリペプチドおよびその投与モードによって被検体ごとに異なるであろう。したがって、組成物の正確な量をすべて明らかにすることができるとは限らない。しかしながら、当業者であれば、本明細書の記載を考慮して適切な量を決定できる。さらに、たとえば、プライムブーストレジメンにおいて、PcpAポリペプチドまたはフラグメントの反復投与を用いてもよい。
【0052】
肺炎および敗血症に対する防御免疫を惹起する際、PspAとニューモリシンを組み合わせると、どちらかのタンパク質単独の場合であり有効性が高まる(Briles et al.,J.Infect.Immun,188:339−48(2003);Ogunniyi et al.,Infect.Immun.68:3028−33(2000))。したがって、PcpAまたは免疫原性フラグメントを含む組成物は任意に、PcpA、PspAまたはニューモリシンの第2の免疫原性フラグメントまたはその組み合わせを含んでもよい。これらの参考文献については、その中に教示されているタンパク質の組み合わせ方法および投与方法のため参照によってその全体を本明細書に援用する。
【0053】
本明細書に記載の組成物を組み合わせる際は、前述の処理のどれを用いてもよい。組み合わせる場合は、同時に(concomitantly)(混合剤などとして)、分離されているが同時に(simultaneously)(同じ被検体に異なる静脈ラインなどを介して)あるいは連続的に(化合物または薬の1つを最初に投与してから第2の化合物または薬を投与するなど)投与してもよい。したがって、組み合わせという語は、2種以上の薬を同時(concomitant)投与、同時(simultaneous)投与または連続投与することをいう。
【0054】
単数形a、anおよびtheは、本明細書および添付の特許請求の範囲に使用する場合、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数の対象を含むという点に留意しなければならない。したがって、たとえば、抗原性フラグメントという場合、抗原性フラグメントの混合物を含み、薬学的キャリアまたはアジュバントという場合、そうしたキャリアまたはアジュバントの2種以上の混合物を含む。
【0055】
本明細書で使用する場合、被検体とは、個体をいう。したがって、被検体は、ネコおよびイヌなどの飼い慣らされた動物、家畜(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ(sheep)およびヤギなど)、実験動物(マウス、ウサギ、ラット、モルモットなど)およびトリを含んでもよい。一態様では、被検体は、霊長類またはヒトなどの哺乳動物である。
【0056】
任意の(optional)または任意に(optionally)とは、その後に記載した事象または状況が起こることもあるが、起こらないこともあり、そう記載することで、その事象または状況が起こる場合と、それが起こらない場合が含まれることを意味する。たとえば、任意に組成物は組み合わせを含んでもよいといった場合、組み合わせとは、組成物が異なる分子の組み合わせを含んでもよいし、組み合わせを含まなくてもよいため、こう記載することで、組み合わせが存在する場合と組み合わせが存在しない場合(すなわち、組み合わせの個々の構成物)とが含まれる。
【0057】
本明細書では、範囲を、約を前置した1つの特定の値からおよび/または約を前置したもう1つの特定の値までと表すことができる。このように範囲を表す場合、1つの特定の値からおよび/またはもう1つの特定の値までは別の態様である。同様に、先行詞約を用いて値を近似値として表す場合、特定の値は別の態様を形成することを理解されたい。さらに、各範囲の端点はもう一方の端点との関連でも他の端点と切り離しても意味があることを理解されたい。
【0058】
本明細書では、ある症候に対する一定の処置(肺炎球菌感染症の防止など)との関連で防止する(prevent)、防止している(preventing)、および防止(prevention)という語を用いる場合、処置した患者がその症候を臨床的に観察できるレベルでまったく発症しないか、処置を受けない場合と比べて発症が遅くなる、および/またはその程度が軽くなることをいう。こうした語は、患者がその症候をまったく経験しない状況のみに限定されるものではない。たとえば、一定の症候を発現させると予想された刺激を患者に曝露しているさなかに処置を施して、その結果、本来予想されるよりも患者の症候の症状が減少および/または緩和する場合、その処置は症候を防止したと言えよう。処置の結果、患者が感染症の軽い症状しか明確に示さずに、その感染症が防止される場合があっても、これは、感染している微生物が細胞にまったく侵入しなかったことを意味するものではない。
【0059】
同様に、感染症の危険性との関連で本明細書において使用する場合、所定の処置により軽減する、軽減している(reducing)、および軽減(reduction)(肺炎球菌感染症の危険性の軽減など)とは、処置(免疫原性ポリペプチドの投与など)を行わない感染症発症の対照レベルまたは基準レベルと比較して被検体の感染症の発症が遅くなる、またはその程度が軽くなることをいう。感染症の危険性が軽減された結果、患者が感染の軽い症状しか明確に示さずに、感染症の症状が遅延する場合があっても、これは、感染している微生物が細胞にまったく侵入しなかったことを意味するものではない。
【0060】
当然のことながら、開示されている方法および組成物は、他に記載がない限り、特定の合成方法、特定の解析技法または特定の試薬に限定されるものではなく、したがって、異なってもよい。また、本明細書に使用する用語は、特定の実施形態を記載するためのものにすぎず、限定的であることを意図するのではないことは言うまでもない。
【0061】
本発明の多くの実施形態について記載してきた。しかしながら、様々な改変が可能であることが理解されるであろう。さらに、ある特徴またはステップについて記載する場合、組み合わせについて明示的に記載していなくても、本明細書の他の任意の特徴またはステップと組み合わせてもよい。したがって、他の実施形態も、特許請求の範囲内にある。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
PcpAは、肺感染症および致死性の敗血症に対する保護作用を惹起する。
【0063】
材料および方法。
【0064】
菌種、培地および増殖条件。本研究では、S.pneumoniae株TIGR4およびEF3030ならびにその誘導体を用いた。他に記載がない限り、0.5%酵母エキスを含むトッドヒューイット(Todd−Hewitt)ブロス(THY)または血液寒天プレートで肺炎球菌を37℃で増殖させた。適切な場合、エリスロマイシンを濃度0.3μg/mlで培地に加えた。S.pneumoniae(表2)の臨床分離株および主要なクローン群の分離株(表3)を用いた。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
これらの研究に使用した臨床菌株は、過去25年以内に単離されたものである。あり得べきPcpAの多様性を調べるため、Streptococcus pneumoniaゲノム多様性プロジェクト(Genome Diversity Project)(http://genome.Microbio.uab.edu/strep/info)で用いた菌株の群から分離株を選択した。
【0067】
菌株の構築の間、1.5%寒天を含むルリア−ベルターニ(LB:Luria−Bertani)ブロスまたはLBプレートで増殖させたEscherichia coli TOP10細胞(インビトロジェン,カールズバッド,カリフォルニア州)内でプラスミドを維持した。増殖培地に、pCR2.1系、pCR4系およびpET−20b系プラスミドにはアンピシリン(50μg/ml)を、pJY4164系プラスミドにはエリスロマイシン(400μg/ml)を加えた。
【0068】
高マンガン培地でのバクテリアの増殖にはTHY培地を用いた。低マンガン条件での増殖では、マンガンを除去したTHYを調製した。製造者の指示に従ってオートクレーブ処理の前にChelex−100(2%w/v)(シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich),セントルイス,ミズーリ州)を加えてTHY培地を調製した。オートクレーブ処理後、このTHY/Chelex混合物を室温で一晩撹拌し、続いて濾過滅菌した。使用前にZnCl2、MgCl2、CaCl2およびFeSC4をそれぞれ1mMの濃度まで加え、MnSO4を0.1μMの濃度まで加えた。増殖を600nmにおける光学密度でモニターした。
【0069】
菌株の構築。本研究に用いたE.coli株、プラスミドおよびプライマーを示す(表4)。突然変異誘発を用いて親株TIGR4およびEF3030のpcpAを不活化した。変異株の構築については、以前に行われて記載されている(Johnston,et al,Infect.Immun.74:1171−80(2006))。
【0070】
【表4】
組換えPcpAの発現および精製。本研究に使用した菌株、プラスミドおよびプライマーを表2に示す。プライマーDTG−16(5’−CGCGGATCCATATGTCCCTAATGAACC−3’(配列番号39))およびDTG−12(5’−GCGCTCGAGTTCCTTTAATGAATCTAAGACGCCACTTAGGAAGAAGGAC−3’(配列番号40))を、菌株TIGR4におけるpcpAの1126bpフラグメントを増幅するように設計した。このプライマーはそれぞれ、操作された制限エンドヌクレアーゼ部位BamHIおよびXhoIを含む。3.0mMのMgCl2、125μMのdNTP、各プライマー50ピコモルおよびTaq DNAポリメラーゼ2.5ユニットを含むカクテル(総容量50μl)において反応を30サイクル繰り返した。1サイクルは、94℃、1分;55℃、1分;72℃、5分であった。最初に、この増幅させた遺伝子フラグメントをT−テイルド(T−tailed)法でpTOPO4(インビトロジェンインク,カールズバッド,カリフォルニア州)にクローニングし、プラスミドpLMGを形成した。
【0071】
このフラグメントを、TOPO TAクローニングキット(インビトロジェン,カールズバッド,カリフォルニア州)を用いてpCR4にクローニングした。BamHIおよびXhoI(プロメガ(Promega),マディソン,ウィスコンシン州)を用いてエンドヌクレアーゼ消化により、精製したプラスミドをスクリーニングした。得られたプラスミドpDG−1にpcpAフラグメントが挿入されていることをアガロースゲル電気泳動、PCR解析およびDNAシークエンシングをすべて用いて確認した。pDG−1のインサートをpET−20b発現ベクター(ノバゲン(Novagen),マディソン,ウィスコンシン州)にサブクローニングした。得られたプラスミドpJM−1をタンパク質製造のためE.coli株RosettaBlue(DE3)pLysS(ノバゲン,マディソン,ウィスコンシン州)に形質転換した。この株は、誘導性UV5プロモーターの制御下にあるT7プロモーターの染色体コピーを含む。IPTGの誘導により、アミノ酸19〜391を含む切断タンパク質を発現させる。この過剰発現した切断タンパク質を、精製しやすくするためC−カルボキシ末端ヒスチジンタグを用いてノバゲンHIS−BIND(登録商標)精製キット(ノバゲン,マディソン,ウィスコンシン州)で精製を行った。その後クーマシーブルー(Comassie Blue)染色でSDS−PAGE解析を行ったところ、約41kDaの単一バンドが見られた。
【0072】
以下は、クローニングし発現させたrPcpAタンパク質の完全な配列である。下線を引いた部分はクローニングベクター由来である。
【0073】
【化1】
【0074】
【化2】
抗PcpAポリクローナル抗体の作製。精製したrPcpAを用いてニュージーランドホワイトウサギ(マートルズラビティー(Myrtle’s Rabbity),トンプソンステーション(Thompson Station),テネシー州)に皮下免疫し、抗PcpAポリクローナル血清を得た。このウサギに1mlの完全フロインドアジュバントに加えた100μgのrPcpAを総容量2ml皮下注射した。2週間後、完全フロインドアジュバントに加えた100μgのrPcpAで第2のブーストを行い、第2のブーストから2週間後、不完全フロイントアジュバントに加えた100μgのPcpAで第3のブーストを行った。最終ブーストから2週間後、麻酔下でウサギを心臓穿刺により脱血した。その血液を凝固させ、遠心分離により血清を得て−80℃で保存した。
【0075】
PCRによるS.pneumoniae株におけるpcpAの確認。PCRプライマー対BGP−1とBGP−2を用い種々のS.pneumoniae株におけるpcpAの有無を点検した。プライマー対を、TIGR4株におけるpcpAの1416bpのN末端フラグメントを増幅するように設計した。その後、PCR産物をT.A.E.(Tris Acetate EDTA)アガロースゲルで分離し、臭化エチジウムで染色して増幅したバンドの正確なサイズを調べた。
【0076】
S.pneumoniae細胞の分画。YotherおよびWhiteが記載した方法(Yother and White,J.Bacterial 176:2976−85(1994))をわずかに変更してプロトプラストを作製した。MTHYで増殖させた対数期細胞をペレットにし、PBS(phosphate−buffered saline)で洗浄した。次いで、この細胞を0.5mlの2%塩化コリンに再懸濁し、そのチューブを数回反転させた。次いで、細胞をペレットにし、上清を取り除き、−20℃で保存した(コリン溶出画分)。細胞をペレットにし、300μlのプロトプラスト緩衝液(20%スクロース、5mMのトリス[pH7.4]、2.5mMのMgSO4)で1回洗浄した。次いで、このペレットを1mlのプロトプラスト緩衝液に再懸濁してから、培養ペレット1ml当たり5Uのムタノリシン(シグマアルドリッチ,セントルイス,ミズーリ州)を加えた。この懸濁液を室温で一晩インキュベートした。細胞を6000rpmで10分間の遠心分離によりペレットにし、上清を−20℃で保存する(細胞壁画分)。次いで、このプロトプラストを1mlのプロトプラスト緩衝液で洗浄した。顕微鏡検査によりプロトプラストの形成を確認した。このプロトプラストをペレットにし、0.3〜1mlのdH2Oに溶解して、これを−20℃で保存する(細胞膜/細胞質画分)。PcpAが存在するかどうかウエスタンブロット解析により各画分のサンプルを調べる。
【0077】
S.pneumoniaeの抗体染色。高または低マンガン培地で増殖させた中間対数期細胞(OD6000.6)をペレットにし、PBSで洗浄して、1%ウシ血清アルブミンを含むPBS(PBSB)に再懸濁し、室温で20分インキュベートした。細胞をペレットにし、PBSBまたはPBSBで1:100になるように希釈した抗PcpA血清に再懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーションに続いてPBSで2回洗浄した。次いで、細胞を、PBSBで希釈したヤギ抗ウサギ免疫グロブリンG(重鎖と軽鎖)−フルオレセインイソチオシアナート(サザンバイオテクノロジーアソシエーツインク(Southern Biotechnology Associates, Inc.),バーミングハム,アラバマ州)と4℃で30分間インキュベートした。次に、この細胞をPBSで2回洗浄し、0.01mMの親油性膜色素TMA−DPH(インビトロジェン,カールズバッド,カリフォルニア州)を含む4%ホルムアルデヒドPBS溶液に再懸濁した。その後、細菌細胞をOlympus IX 70顕微鏡を用いて落射蛍光観察で検査した。
【0078】
ウエスタンブロット。細菌培養をTHYおよびMTHYで中間対数期OD6000.6まで増殖させた。同量の菌株をそれぞれリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、硫酸ドデシルナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)サンプル緩衝液を含むPBSで再懸濁して、5分間煮沸した。サンプルおよび着色タンパク質標準物質(インビトロジェン,カールズバッド,カリフォルニア州)を製造者の指示に従いNuPAGE10%ビス−トリスゲル(インビトルゲン,カールズバッド,カリフォルニア州)に流し、モルホリンエタンスルホン酸(MES:morpholineethanesulfonic acid)−SDS泳動用緩衝液(インビトロジェン,カールズバッド,カリフォルニア州)で電気泳動により分離した。次に、Trans−Blot SD semidry transfer cell(バイオラッド(Bio−Rad),ハーキュリーズ(Hercules),カリフォルニア州)を用いてタンパク質をニトロセルロース膜にトランスファーした。このブロットを、PBSBで1:1000に希釈した抗PcpAポリクローナル抗体でプローブした。ヤギ抗ウサギ免疫グロブリンG(重鎖と軽鎖)−アルカリホスファターゼおよびストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ(サザンバイオテクノロジーアソシエーツインク,バーミングハム,アラバマ州)を二次抗体として用いた。Sigma Fastニトロブルーテトラゾリウム−5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスファート(NBT−BCIP)錠剤(シグマアルドリッチ,スイス)を用いて比色検出を行った。
【0079】
マウスの全身免疫。最初に、6〜8週齢のCBA/CaHNBtkxid/J(CBA/N)マウス(ジャクソンラブズ(JacksonLabs),バーハーバー,メイン州)に、2μgの水酸化アルミニウムをアジュバントとして10μgのrPcpAを総容量200μl皮下注射した。2週間後、水酸化アルミニウムを用いて10μgのrPcpAで第2のブーストを行った。2週間後、水酸化アルミニウムを用いずに10μgのrPcpAを含む第3のブーストを行った。次に、このマウスを2週間放置しておき、その後S.pneumoniaeをチャレンジした。感染の24時間前にマウスを脱血した。
【0080】
敗血症のマウスモデル。前述の感染症の全身モデルを用いて肺炎球菌のビルレンスを調べた(Coats,et al,Vaccine 23:4257−62(2005);Ren et al.,Infect.Immun.71:75−85(2003))。6〜8週齢のCBA/Nマウスに、乳酸加リンゲルで希釈したバクテリアを300CFU(colony−forming unit)静脈内注射した。マウスを21間モニターした。触っても反応しなくなり、体温が正常未満まで低下したときマウスを瀕死状態としてスコア化し、その日時を記録した。瀕死状態のマウスをすべてCO2麻酔で安楽死させた。
【0081】
肺炎のマウスモデル。以前に記載されているように肺に感染させた(Balachandran et al.,Infect.Immun.70:2526−34(2002);Briles et al.,J.Infect.Dis.188:339−48(2003);Takashima et al.,Infect.Immun.65:257−260(1997))。6〜8週齢のCBA/Nマウスをイソフルラン(ミンラド(MinRAD),バッファロー,ニューヨーク州)で麻酔し、5×106個のバクテリアを含む40μlの乳酸加リンゲル溶液の懸濁液をマウスの外鼻孔に導入し、誤嚥性肺炎を誘発した。7日後、マウスを屠殺した。屠殺したマウスの鼻腔を、以前に記載されているように50μlの乳酸加リンゲルで洗浄した(Wu et al.,J.Infect.Dis.175:839−46(1997))。鼻洗浄液を連続希釈し、ゲンタマイシン(4μg/ml)を含む血液寒天培地に蒔いた。肺を摘出し、2mlの乳酸加リンゲルが入ったストマッカーバッグに入れ、ホモジナイズし、連続希釈して、3倍連続希釈液に加えたゲンタマイシンを含む血液寒天培地に蒔いた。
【0082】
鼻咽頭定着のマウスモデル:以前に記載されているように鼻腔内接種を行った(Balachandran et al.,Infect.Immun.70:2526−34(2002);Wu et al.,J.Infect.Dis.175:839−46(1997))。6〜8週齢のCBA/Nマウスに、麻酔なしで10μlの乳酸加リンゲル液に加えた106個のバクテリアを鼻腔内感染させた。次に、感染マウスを屠殺し、その鼻腔を50μlのリンゲル溶液で洗浄した。この鼻洗浄液を連続希釈し、ゲンタマイシンを含む血液寒天培地に蒔いた。キャンドルジャーで37℃にて一晩インキュベーションした後、血液寒天プレートから目視可能な数を判定した。
【0083】
統計解析。インスタット(Instat)(グラフパッドソフトウェアインク(GraphPad Software Inc.),サンディエゴ,カリフォルニア州)を用いて統計解析を行った。マンホイットニー(Mann−Whitney)の2標本順位検定を用いて、対照と実験群との瀕死状態になるまでの時間またはCFUの回収数を比較した。p値が0.05未満の場合に統計学的に有意と判定した。
【0084】
結果
S.pneumoniaeの臨床的に重要な菌株にはpcpAが存在する。pcpAのLRR領域をはさんだプライマー(BGP1とBGP2)を用いてPCRにより、pcpAの存在を調べた。調査対象の23株(表2および表3)それぞれで約1500bpフラグメントが得られた。これら菌株のうち8つは、過去25年以内に単離されている臨床菌株で、7価コンジュゲートワクチンがカバーする7種のよく見られる莢膜型の代表的な菌株である(図1)。残りの12株は、ゲノム多様性プロジェクト(http://genome.microbio.uab.edu/strep/info/)の一環として構築された一連の菌株から選択されたS.pneumoniaeのセットである。このプロジェクトは、S.pneumoniaeの幅広い多様性をカバーするため一連の菌株を選択している。これら12株については、MLSTデータに基づき広く多岐にわたるように選択した。4株は重篤な侵襲性疾患の患者由来、5株は無症候性保菌者由来で、2株については疾患/定着が不明であり、1株は世界的な抗生物質耐性クローン由来であった。これらの菌株は、世界の様々な領域における12種の莢膜型の典型である。
【0085】
すべての菌株でPcpAの発現を検査するため、低(≦0.1μM)マンガンで菌株を増殖させた。全細胞タンパク質サンプルを、低マンガン培地で培養した中間対数期細胞から調製した。(表2および表3)に示したすべての菌株を検査したが、7価ワクチンに含まれる莢膜型に相当する菌株のみを示してある(図2)。全細胞タンパク質サンプルをSDS−PAGEにより分離し、ニトロセルロースにトランスファーした。このブロットを抗PcpAポリクローナル抗血清でプローブすると、これら莢膜(capsulare)血清型4、6、9、14、18、19、23の野生株それぞれで約62kDaのバンドが検出された(図2)。この62kDaバンドは、pcpA不活化ミュータントJEN11では存在しなかった一方、7種の典型的な菌株では存在した。また、全細胞タンパク質サンプルについては、同じ菌株を高マンガン培地で増殖させた菌株からも調製したが、抗PcpA抗血清によりバンドは検出されなかった。PCR解析とウエスタンブロットデータの組み合わせから、表2および表3に示すS.pneumoniae株すべてでpcpAが存在することが明らかになった。
【0086】
PcpAは、低マンガン条件下でS.pneumoniaeの表面に露出している。マンガンは、レギュレーターPsaRの作用を介してpcpA遺伝子の転写をコントロールしていることが研究で明らかになっている(Johnston et al,Infect.Immun.74:1171−80(2006))。本明細書に記載のとおり、マンガン依存性制御は、S.pneumoniae表面上のPcpAの存在に直接影響を与え、表面PcpAは、莢膜を持つ肺炎球菌上でも抗体に接触できる。
【0087】
細胞分画を行って、PcpAがS.pneumoniaの細胞壁または細胞膜/サイトゾルと関係があるどうか判定した。これら細胞画分のウエスタンブロット解析から、PcpAは大部分が低マンガン培地で増殖させたバクテリアのS.pneumoniaeの細胞壁に存在することが明らかになった。PcpAの小さな画分は、細胞膜/サイトゾルとの関連性が認められたが、これは、おそらくPcpAがまだバクテリアの表面に運ばれていないのであろう。
【0088】
細胞分画ばかりでなく、野生型S.pneumoniae株TIGR4由来の対数期細胞を、高または低マンガン培地で増殖させ、抗PcpAポリクローナル抗血清、続いてフルオレセインイソチオシアナート(FITC:fluorescein isothiocyanate)コンジュゲート抗ウサギ免疫グロブリンで染色した。具体的には、TIGR4を中間対数期まで高または低Mn2+培地で培養した。バクテリアを、抗PcpAウサギ血清とインキュベートし、続いてFITCコンジュゲート抗ウサギIg抗体とインキュベートした。次に、細胞を、膜色素TMA−DPHを含む4%ホルムアルデヒドで固定した。その後、この標識バクテリアを免疫蛍光顕微鏡により調べた。PcpAに対する抗体は、低マンガンで増幅させたバクテリアの染色に関与できるが、高マンガンで増幅させたバクテリアには関与できない。
【0089】
こうした結果から、PcpAは、インビトロでの低マンガン条件下で培養した野生型S.pneumoniaeの表面に露出していることが明らかになる。これは、PcpAが宿主内の肺および血液などの低マンガン部位に感染しているバクテリアに発現し、表面に露出していることを示唆している。PcpAがこのように露出していることで感染において細菌と宿主上皮との間のPcpA−リガンド相互作用が亢進される。こうした結果からは、マンガン濃度によるPcpA産生の制御を大部分の肺炎球菌に一般化できることも示唆される。
【0090】
rPcpAを免疫すると、抗体が惹起され、肺および全身性感染症に対して保護作用が与えられるが、鼻咽頭定着には大きな作用を及ぼさない。感染症研究に使用する前、マウスを、水酸化アルミニウムを含むrPcpAで免疫するか、水酸化アルミニウムを単独投与した。マウスの2つの群についてELISA(enzyme linked immunosorbent assay)により全Ig(H+L)を定量した。免疫マウスの血清中の抗体特異的PcpAの幾何平均レベルは、0.465(±0.119)μg/ml、これに対してアジュバントを単独投与したマウスでは平均0.002(±0.002)μg/ml(±SEM)であった。これは、免疫経路が、rPcpAに対する免疫反応を惹起させるのに有効であったことを示唆している。
【0091】
免疫によりマウスが肺炎から保護されるかどうかを調べるため、免疫マウスおよびalumのみのマウスを軽麻酔し、外鼻孔にEF3030株を5×106CFU接種した。この手順では、限局性肺炎が認められたが、菌血症は認められなかった。したがって、このモデルにおける保護作用は肺炎自体とは関係があるものの、敗血症全般には無関係である可能性がある。感染から7日後、マウスをすべて屠殺した。ホモジナイズした肺組織および鼻洗浄液の細菌数を判定した。回収したCFUの中央値によれば、rPcpAで免疫したマウスの肺ホモジネートから回収した肺炎球菌数は、アジュバントを単独投与した場合に比べて1/100未満であった(図3A)(P=0.002)。こうした結果から、rPcpAの免疫により、S.pneumoniaeによる肺感染症に対する保護作用を惹起できることが示唆される。マウスの鼻洗浄液から回収した細菌数については、rPcpAで免疫した場合とアジュバントを単独投与した場合とで有意な差はなかった(図3B)。以下に詳述するように、S.pneumoniae株血清型6由来の組換えPcpAΔSPΔCBD(rPcpAΔSPΔCBD)も肺感染を防止するが、肺炎のマウスモデルの定着については防止しなかった。
【0092】
次に、S.pneumoniaeの他の菌株(TJ0893、血清型14;EF9303、血清型23F;およびL82016、血清型6B)による限局性肺感染に対して皮下免疫が保護作用を与えるかどうかを判定した。rPcpAを皮下免疫すると、アジュバントを単独免疫したマウスと比較して、各菌株に対して有意な保護作用が惹起された(図5)。
【0093】
最適な鼻腔定着にはPcpAの発現は必要ない。免疫を行っても肺炎モデルに使用したマウスの鼻洗浄液から回収したバクテリア数に影響がなかったため、鼻咽頭保菌のモデルを用いてpcpA不活性化の作用を調べた。このモデルでは、肺炎モデルのマウスの鼻洗浄液から収集した間接的な観察結果とは異なり、鼻腔保菌に対するPcpAの任意の作用を直接観察できる。マウスに、事前に麻酔せずにEF3030株またはそのpcpA不活化ミュータントJEN18株のどちらかを106CFU接種した。感染から7日後、このマウスを屠殺し、鼻洗浄液を採取して、肺炎球菌を検出するためプレーティングした。EF3030またはJEN18を接種したマウスの鼻洗浄液から回収したバクテリア数には、どちらも有意な差はなかった(図5)。
【0094】
インタクトなpcpAの遺伝子が存在しても、あるいは、rPcpAの皮下免疫を行っても、マウスの鼻洗浄液に回収された肺炎球菌数に影響がないということは、鼻咽頭のマンガン濃度(≧36μM)がpcpA転写を抑制するほど十分に高いことと整合する。こうした条件下では、鼻咽頭におけるpsaRによりpcpA転写が阻止されると考えられる。したがって、この宿主部位ではPcpAに対する免疫がバクテリアにほとんど作用しないことが予想されよう。
【0095】
PcpAおよびPcpAに対する免疫は、全身性感染症のマウスモデルにおけるビルレンスに作用する。敗血症を防止するPcpAに対する免疫能を評価するため、CBA/Nマウスに、水酸化アルミニウムに加えたPcpAを、または対照として水酸化アルミニウムを単独で皮下免疫し、静脈内に莢膜型4、TIGR4S.pneumoniaeをチャレンジした。マウスに菌血症および敗血症を発症させやすくするため、EF3030でなはなくこの菌株を用いた。免疫した動物に、TIGR4株S.pneumoniaeを300CFU静脈内(IV)注射した。生存状況を21日間モニターした。rPcpA免疫を受けたマウスが瀕死状態になるまでの経過時間中央値は、アジュバントを単独投与したマウスと比べて43.5時間伸びた(図6)。rPcpAで免疫したマウスの26パーセントが生存した一方、水酸化アルミニウム単独で免疫マウスはすべて死亡した。この生存の差は統計学的に有意であった(P=0.007)。
【0096】
静脈内接種後にマウスを瀕死状態にさせる肺炎球菌の能力に対するpcpAの不活性化の作用。pcpAを不活性化すると、肺炎マウスモデルおよび肺−敗血症モデルのビルレンスが低下した。本明細書に記載のように、未感染のマウスにTIGR4またはそのpcpA不活化ミュータントJEN11を300CFU感染させて、静脈内チャレンジ後の全身性感染症に対するpcpA不活性化の作用を調べた。pcpA−ミュータントに感染したマウスが瀕死状態になるまでの経過時間中央値は、野生型バクテリアで感染させた場合と比べて31.5時間の伸びた(P=0.0299)(図7)。これは、全身性疾患を発症させるS.pneumoniaeの能力にはPcpAが関与していることを示唆している。
【0097】
(実施例2)
PcpAの粘膜免疫は肺感染を防止する。
【0098】
図8に示すように、PcpAの粘膜免疫は、菌株EF3030による肺感染症を防止する。CBA/Nマウスに5μgのPcpAおよびアジュバントとしてコレラ毒素Bサブユニット(CTB)を鼻腔内免疫した。免疫後マウスを脱血し、次に、菌株EF3030を5×106CFU鼻腔内チャレンジした。図8は、感染から7日後の肺ホモジネートにおけるバクテリアのlogCFUを示す。
【0099】
粘膜免疫による保護作用は、皮下免疫の場合よりも若干高まることが観察された。こうしたデータと実施例1から、少なくとも粘膜経路または皮下経路の投与を用いれば、肺炎および敗血症に対する保護作用が得られることが示唆される。PcpAを粘膜免疫しても、この菌株による鼻腔定着を防止できない。PcpAは定着の過程で発現しないため、鼻腔定着を防止できないことが予想される。
【0100】
(実施例3)
PcpAの皮下または鼻腔内免疫により惹起される抗体。
【0101】
PcpAで免疫したマウスから得られた血清について、PcpAに対する抗体のレベルを調べた。CBA/Nマウスに、0日目および14日目にアジュバントとして水酸化アルミニウムまたはコレラ毒素Bサブユニット(CTB)のどちらかを皮下(SC)免疫し、21日目にPcpAを単独で皮下(SC)免疫した。35日目にマウスを脱血し、血清中の抗体レベルを判定した。判定には、PspAでコートしたマイクロ滴定プレートと反応する既知濃度のPspA抗体で観察される光学密度(OD)を標準として用いた。対照として、別のマウス群を希釈液およびアジュバントのみで免疫した。IgG抗体反応は、鼻腔内(IN)免疫よりもSC免疫で観察された方が1.3倍大きかった(表5)。
【0102】
【表5】
このタイプのアッセイにはつきものであるが、サブクラスの量の合計が全Igの量にならなかった。これは、抗IgG血清がIgGサブクラスのすべてを等しく認識するとは限らないことを示唆している。
【0103】
(実施例4)
肺細胞への付着にはPcpAが必要である。
【0104】
PcpAは、形質転換肺上皮細胞A549細胞株(図9)への付着には必要であるが、形質転換ヒト鼻上皮細胞Detroit562系(図10)への付着には必要ない。A549肺上皮細胞への付着には、PcpAを産生するように肺炎球菌が低Mn2+において増幅する必要があることも観察された。こうした研究のため肺炎球菌を、トッドヒューイットおよび酵素培地(高Mn2+)、あるいはChelex−100(シグマ(Sigma))に通して0.1μmのMnSO4および1mMのZnCl2、MgCl2、CaCl2およびFeSO4で再構成したトッドヒューイットおよび酵素培地(低Mn2+)で増殖させた。(Briles et al.,J.Infect.Dis,188:339−48(2003))。Detroit562またはA549細胞の単層を、TIGR4(pcpA+)またはJEN11(pcpA−TIGR4株)106CFUと150分間インキュベートした。この付着バクテリアを含む上皮細胞を洗浄し、0.5%ツイーン20で溶解した。血液寒天プレートの定量プレーティングでライセート中の肺炎球菌の数を判定した。
【0105】
肺炎球菌のA549細胞への付着は、PcpAに対する抗体で阻害される(図11)。こうしたデータは、肺炎球菌の肺上皮細胞への付着がPcpA依存性であることを示唆している。
【0106】
(実施例5)
受動防御モデル。
【0107】
PcpAによる能動免疫が肺感染に対する保護作用を惹起できることから、PcpAに対する抗体がマウスを肺感染から受動的に保護できるかどうかを判定した。しかしながら、肺炎モデルでは受動防御はまだ観察されていない。第2の受動免疫研究では、PcpAに対するウサギ免疫血清を用いて、TIGR4株による静脈内(IV)敗血症に対する受動防御を判定した。検査対象の最高濃度(1/10)の血清ではマウス2匹の死を予防できることが観察された(図12)。非免疫血清では、同じ濃度でも防止することができなかった。こうしたデータから、受動免疫は、予防が困難な場合がある菌株、TIGR4株を予防することができると考えられる(Roche et al,Infect,Immun,71:4498−505(2003))。
【0108】
(実施例6)
PcpAおよびニューモリシンによる保護作用
ニューモリシン(Ply)は、肺感染に対してある程度の保護作用を惹起し得るもう1つのタンパク質である(Briles et al.,J.Infect.Dis.188:339−48(2003))。ニューモリシンおよびPcpAはともに、タンパク質ベースの肺炎球菌ワクチンの候補物質であるため、この2つのタンパク質について、免疫源として併用した場合、どちらかを単独で使用するよりも肺感染に対する保護作用が高まるかどうかを判定した。マウスにPcpA5μg、ニューモリシン5μgまたはPcpA5μgとニューモリシン5μgを3回免疫した。最初の2回の注射ではalumを用い、3回目の注射ではタンパク質単独で行った。今回使用したニューモリシンは、野生型ニューモリシンであった。図13は、ニューモリシンが肺感染に対して、PcpAが惹起するのと類似の保護作用を惹起することを示す。PcpAとニューモリシンを組み合わせると、ニューモリシン単独の場合よりも保護作用が著しく高まった。こうしたデータから、PcpAおよびニューモリシンを併用することで保護作用が得られることが示唆される。
【0109】
(実施例7)
他の肺炎球菌に対する交差防御。
【0110】
PcpAが交差防御を惹起するかどうかを判定するため、上述の方法を用いて実施例1〜2に記載した以外の菌株を検査してもよい。敗血症の研究の場合、TIGR4の他にWU2、A66、BG7322、EF6796、D39などの菌株が検査対象となる。これらの菌株の莢膜型は、3、3、6B、6Aおよび2である。肺感染を調べるには、限局性肺感染のマウスモデルでうまく行く菌株を用いる。こうした菌株として、EF9309、TG0893、L82016、BG7322およびEF6796が挙げられる。これらの莢膜型は、23F、14、6B、6Bおよび6Aである。
【0111】
(実施例8)
Streptococcus pneumoniae血清型6由来の組換えPcpAのクローニングおよび発現。
【0112】
Streptococcus pneumoniae血清型6株、14453、アメリカンタイプカルチャーコレクション指定番号55987由来のpcpA遺伝子のフラグメントを以下のとおりクローニングした。このpcpA遺伝子は、PcpA C末端コリン結合ドメイン(CBD)のリピートをコードする部分と天然のシグナルペプチド(SP)配列をコードする部分とを欠損している。この遺伝子を、図14に示すようにNdeIとXhoIのクローニング部位の間のpET−30a(ノバゲンインク,マディソン,ウィスコンシン州)にクローニングした。内部pcpA遺伝子(ΔSPΔCBD1335bp)の遺伝子フラグメントを、Streptococcus pneumoniae血清型6株染色体(choromosomal)DNAからポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)で増幅した。オリゴヌクレオチドプライマーとして
5’−TAGCCTCGAGTTAACCTTTGTCTTTAACCCAACCAACTACTCCCTGATTAG−3’(配列番号43)および
5’−CTAATGAACCACATATGGCAGATACTCCTAGTTCGGAAGTAATC−3’(配列番号44)
を用いた。実施例1に記載されているようにPCR反応を行った。PCRプライマーに制限エンドヌクレアーゼ部位NdeIおよびXhoIを導入した。PcpAΔSPΔCBDをコードする得られた1335塩基対フラグメントは、どちらかの末端にNdeIおよびXhoI部位を含んでいた。増幅したフラグメントをゲル精製し、NdeIおよびXhoIで消化してから、このpcpA遺伝子フラグメントを、強力なT7プロモーターおよび翻訳シグナルを用いてpET−30aベクター(ノバゲンインク,マディソン,ウィスコンシン州)のNdeI部位とXhoI部位の間にライゲートした(図14)。DNAシーケンシングの結果、組換えプラスミドpJMS87は、pcpA遺伝子フラグメントΔSPΔCBD1335bpを含むことが確認された。プラスミドpJMS87をタンパク質製造のためE.coli株BL21(DE3)に形質転換した。IPTGで誘導して、このE.coli株に天然のシグナルペプチド(ΔSP)およびC末端コリン結合ドメイン(ΔCBD)を欠損しているPcpAタンパク質を発現させた。SDS−PAGE解析でこの発現タンパク質を確認した。
【0113】
rPcpAタンパク質(PcpAΔSPΔCBDとも呼ぶ)の配列は、以下のとおりである。下線で示す残基(M)は、クローニングベクター由来である。
【0114】
【化3】
(実施例9)
PcpAΔSPΔCBDの免疫は、敗血症モデルの肺炎に対して保護作用を惹起する。
【0115】
PcpAΔSPΔCBDがマウスの敗血症モデルにおいて感染症を防止するかどうかを判定するため、マウスに、精製した組換えPcpAΔSPΔCBD(rPcpAΔSPΔCBD)を1用量当たり10、5、2.5、1.25および0.625μg免疫し、S.pneumoniae株WUBM3を1匹当たり約300CFUチャレンジした。このrPcpAΔSPΔCBDについては、リン酸アルミニウムアジュバントで製剤化した。
【0116】
簡単に説明すると、マウスに、対照のPBSアジュバント、30μgの3価組換えPspAタンパク質を含むS.pneumoniae PspAタンパク質、あるいは1用量当たり10、5、2.5、1.25または0.625μgのrPcpAΔSPΔCBDを免疫した。健康なBALB/c K−72雌マウス(チャールスリバーラボラトリーズ(Charles River Laboratories),ウィルミントン,マサチューセッツ州)(各群およそ14匹)を0日目に皮下(s.c.)免疫した。21日目に2回目の免疫および43日目に3回目の免疫を行った。63日目に、このマウスにS.pneumoniae株WU2BM3バクテリア約300CFUを0.4ml用量腹腔内(IP)チャレンジした。生存率を時間(日数)に対してプロットして図15Aに示す。チャレンジから7日目の生存率を図15Bに示す。
【0117】
これらの結果は、rPcpAが1用量当たり少なくとも約0.625μgから少なくとも約10μgで保護作用を持つことを示す。rPcpAではアジュバント対照群と比較して統計学的に有意な保護作用が得られた(片側または両側のフィッシャーの正確確率検定)。
【0118】
【表6】
(実施例10)
PcpAΔSPΔCBDの免疫は、肺炎に対する保護作用を惹起する。
【0119】
マウス肺炎モデルにおいて実施例5のrPcpAタンパク質を用いて、S.pneumoniae株EF3030のチャレンジに対するこのタンパク質の保護作用の有効性も検査した。CBA/Nマウス10匹群に、表7に示すような免疫原製剤200μlを3週間おきに3回(0日目、21日目および42日目)皮下免疫した。3回目の免疫から3週間後(63日目)、このマウスに麻酔下でEF3030株を鼻腔内に5.6×106CFUチャレンジした。チャレンジから5日後(68日目)、マウスを屠殺し、肺組織および血液を摘出してCFUを回収するためプレーティングした。この免疫群をリン酸アルミニウムアジュバント3mg/mlで製剤化した。
【0120】
【表7】
3価PspA免疫原は、S.pneumoniae由来のPspA Rx1−M1、EF3296およびEF5668で構成した。
【0121】
結果を図16に示す。rPcpAタンパク質は、対照群(アジュバント単独は群1)と比較して保護作用が顕著であり(群3〜6)、陽性対照(群2がPspA)に対しては同等レベルであった。マンホイットニー検定によるp値を表8に示す。
【0122】
【表8】
本明細書に引用する刊行物および刊行物に記載の材料については、その全体を参照によって本明細書に明確に援用する。
【技術分野】
【0001】
(関連する出願への相互参照)
本願は、2006年8月17日に出願された米国特許出願第60/822,715号、2006年9月28日に出願された同第60/827,348号、および2007年5月10日に出願された同第60/917,178号に対する優先権を主張し、米国特許出願第60/822,715号、同第60/827,348号、および同第60/917,178号は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(連邦政府により助成された研究に関する申告)
本発明は、国立衛生研究所からの助成金第R01 AI053749号、同第R01 AI21548号、および同第T32 HL 07553号のもと政府の支援によりなされた。政府は、本発明に一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0003】
Streptococcus pneumoniaeはかなり広範囲に存在するヒト病原体であり、肺、中枢神経系(CNS:central nervous system)、中耳および鼻道(nasal tract)などのいくつかの器官に感染する場合がある。感染すると、気管支炎、肺炎、髄膜炎、副鼻腔感染症および敗血症など様々な症状を引き起こす。S.pneumoniaeは、ヒトの細菌性髄膜炎の主な原因であり、抗生物質による処置を行っても死亡率および罹患率が高いことと関係がある(非特許文献1)。
【0004】
現在、2種類の肺炎球菌ワクチンが利用できる。1つは23種の莢膜多糖類からなる成人用ワクチンで、この23種を合わせると、肺炎球菌感染症の原因となる菌の約90%の莢膜型を占める。しかしながら、このワクチンは、小児、すなわち、肺炎球菌感染症に対する感受性が高い年齢群には免疫原性がない。成人にあっては、このワクチンは、菌血症性の肺炎に対して有効性が約60%であるがことが明らかになってはいるものの、年齢または基礎的な医学的状態が原因で肺炎球菌感染症の危険性が高まると、成人でも有効性が低下する(非特許文献2;非特許文献3)。このワクチンは、最も一般的な感染形態である非菌血症性の肺炎球菌性肺炎に対して効果的であることが明らかにされていない。
【0005】
利用可能なもう1つのワクチンは、2歳未満の小児の菌血症性肺炎球菌感染症に対して有効な7価コンジュゲートワクチンである。このワクチンは、肺炎に対する有効性も証明されている(非特許文献4;非特許文献5)。このワクチンは、7種のコンジュゲートを製造する必要があるため製造が複雑であることから、高価なものになっている(小児1人当たり約$200)。さらに、非ワクチン型Streptococcus pneumoniaeが非常に多い発展途上国世界の感染症をカバーするのにあまり役に立たない(非特許文献6;非特許文献7)。このワクチンは、中耳炎および定着に対しては侵襲性疾患に対してほど効かない。また、7価コンジュゲートワクチンを使用すると定着が促進され、ワクチンに含まれる7多糖類でない莢膜型の菌による疾患が増加することも明らかになっている(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10)。故に、Streptococcus pneumoniaeの効果的な処置剤が依然として求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Quagliarello et al,(1992)N.Eng.J.Med.327:864−872
【非特許文献2】Fedson,and Musher.2004.「Pneumococcal Polysaccharide Vaccine,」pp.529−588.In Vaccines,S.A.Plotkin and W.A.Orenstein(eds.),W.B.Saunders and Co.,Philadelphia,PA
【非特許文献3】Shapiro et al.,N.Engl.J,Med.325:1453−1460(1991)
【非特許文献4】Black et al,Pediatr.Infect.Dis.21:810−5(2002)
【非特許文献5】Black et al.,Arch.Pediatr.ll(7):843−53(2004)
【非特許文献6】Di Fabio et al.,Pediatr.Infect.Dis.J.20:959−967(2001)
【非特許文献7】Mulholland,Trap.Med.Int.Health 10:497−500(2005)
【非特許文献8】Bogaert et al.,Lancet Infect.Dis.4:144−154(2004)
【非特許文献9】Eskola et al.,N.Engl J.Med.344:403−409(2001)
【非特許文献10】Mbelle et al.,J.Infect Dis.180:1171−1176(1999)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
Streptococcus pneumoniaeに対する免疫反応を惹起する組成物および方法について説明する。より詳細には、本開示は、PcpAのフラグメントおよびその変異体ならびにポリペプチドをコードする核酸など、免疫原性PcpAポリペプチドに関する。本開示はさらに、免疫原性ポリペプチドの製造および使用の方法にも関する。こうした組成物および方法を用いれば、肺炎球菌感染症を軽減または防止するように設計された現在入手可能な組成物および方法と比べ、有効性および効率が向上し、費用が削減される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、PCRによるpcpAの確認を示す。様々なS.pneumoniae株のゲノムDNAをPCR解析した。プライマー対(BGP1(配列番号50)およびBGP2(配列番号51))を用いてPcpAのN末端部分(LRR領域を含む)をコードする核酸を増幅した。レーン1は、TIGR4;レーン2は、L82013;レーン3は、D1091B;レーン4は、BG12730;レーン5は、TJ0893;レーン6は、R6;レーン7は、BG10752;レーン8は、V175;レーン9は、EF3030;レーン10は、陰性対照(鋳型DNAなし)である。
【図2】図2は、低Mn2+条件下でのPcpAの存在に関するウエスタンブロット解析を示す。バクテリアを中間対数期まで低Mn2+培地で培養し、全細胞タンパク質サンプルを調製した。サンプルをSDS−PAGEで分離し、ニトロセルロースにトランスファーして、rPcpAポリクローナル抗血清でプローブした。レーン1は、JEN11(pcpA−ミュータント);レーン2は、JEN7(pcpAの構成的ミュータント);レーン3は、D1091B;レーン4は、EF5668;レーン5は、BG10752;レーン6は、V175;レーン7は、L82013;レーン8は、BG12730;レーン9は、TJ0893である。
【図3A】図3は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpAの免疫により得られる保護作用がアジュバント単独の場合と比べて統計学的に有意であることを示す。CBA/Nマウスに、水酸化アルミニウムに吸着したrPcpAまたは水酸化アルミニウムを単独で皮下免疫した。軽麻酔下でマウスにEF3030を5×106CFU鼻腔内チャレンジした。感染から7日後、マウスを屠殺し、肺ホモジネート(図3A)および鼻洗浄液(図3B)の細菌数を判定した。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。(**:p=0.0019、マンホイットニー)。
【図3B】図3は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpAの免疫により得られる保護作用がアジュバント単独の場合と比べて統計学的に有意であることを示す。CBA/Nマウスに、水酸化アルミニウムに吸着したrPcpAまたは水酸化アルミニウムを単独で皮下免疫した。軽麻酔下でマウスにEF3030を5×106CFU鼻腔内チャレンジした。感染から7日後、マウスを屠殺し、肺ホモジネート(図3A)および鼻洗浄液(図3B)の細菌数を判定した。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。(**:p=0.0019、マンホイットニー)。
【図4A】図4は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpA免疫により得られる他のS.pneumoniae莢膜血清型に対する保護作用が、アジュバント単独の場合に対して統計学的に有意であることを示す。マウスに、TJ0893株、血清型14株(図4A)(**:p=0.0209);L82016株、血清型6B(図4B)(**:p=0.0193);またはEF9303株、血清型23F(図4C)(**:p=0.0388、マンホイットニー)をチャレンジした。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。
【図4B】図4は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpA免疫により得られる他のS.pneumoniae莢膜血清型に対する保護作用が、アジュバント単独の場合に対して統計学的に有意であることを示す。マウスに、TJ0893株、血清型14株(図4A)(**:p=0.0209);L82016株、血清型6B(図4B)(**:p=0.0193);またはEF9303株、血清型23F(図4C)(**:p=0.0388、マンホイットニー)をチャレンジした。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。
【図4C】図4は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpA免疫により得られる他のS.pneumoniae莢膜血清型に対する保護作用が、アジュバント単独の場合に対して統計学的に有意であることを示す。マウスに、TJ0893株、血清型14株(図4A)(**:p=0.0209);L82016株、血清型6B(図4B)(**:p=0.0193);またはEF9303株、血清型23F(図4C)(**:p=0.0388、マンホイットニー)をチャレンジした。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。
【図5】図5は、pcpA不活性化がS.pneumoniaeの鼻腔内定着に与える作用を示す。マウスにEF3030またはその誘導体JEN18を106CFU鼻腔内チャレンジした。感染から7日後、マウスを屠殺し、鼻洗浄液の細菌数を判定した。水平線は、Log10CFU/Noseの中央値を示す。
【図6】図6は、致死性の敗血症のマウスモデルにおいて、rPcpA免疫により得られる保護作用がアジュバント単独の場合に対して統計学的に有意であることを示す。CBA/Nマウスに、水酸化アルミニウムに吸着したrPcpAまたは水酸化アルミニウムを単独で皮下免疫した。マウスにTIGR4を300CFU静脈内チャレンジし、生存時間を21日間モニターした。水平線は、生存時間の中央値を示す。(**:p=0.0067、マンホイットニー)。生存しているマウスを安楽死させ、検査したが、その血液中にS.pneumoniaeを検出できなかった。
【図7】図7は、敗血症のマウスモデルにおけるTIGR4およびそのpcpA不活化誘導体JEN11のビルレンスを示す。マウスにTIGR4またはJEN11を300CFU静脈内チャレンジし、生存時間を21日間モニターした。水平線は、生存時間の中央値を示す。(**:p=0.0299、マンホイットニー)。
【図8】図8は、肺炎のマウスモデルにおいて、rPcpAの粘膜免疫によりアジュバント単独の場合と比較して保護作用が得られることを示す。CBA/NマウスにrPcpAとコレラ毒素Bサブユニット(CTB)、またはCTBを単独で鼻腔内免疫した。軽麻酔下で、マウスにEF3030を5×106CFU鼻腔内チャレンジした。感染から7日後、マウスを屠殺し、ホモジナイズした肺中の細菌数を判定した。水平線は、Log10CFUの中央値を示す。(*:p=0.0001、マンホイットニー)。
【図9】図9は、ヒト肺上皮細胞へのpcpA+TIGR4株およびpcpA−TIGR4株(それぞれTIGR4およびJEN11)の付着を示す。A549ヒト肺上皮細胞の単層を、高マンガン(高Mn2+)または低マンガン(低Mn2+)の増殖条件下で増幅させておいたpcpA+TIGR4株およびpcpA−TIGR4株106CFUと150分間インキュベートした。この上皮細胞を洗浄し、溶解させた。各ライセート中の付着肺炎球菌の数を血液寒天プレートの定量プレーティングで判定した。回収Log10CFUとは、実験の終了時に肺上皮細胞に関連した肺炎球菌の数をいう。(**:p=0.0022、マンホイットニー)。
【図10】図10は、pcpA+TIGR4株およびpcpA−TIGR4株がヒト鼻上皮細胞に付着しなかったことを示す。Detroit562ヒト鼻上皮細胞の単層を、高マンガン(高Mn2+)または低マンガン(低Mn2+)増殖条件下で増幅させておいたpcpA+TIGR4株およびpcpA−TIGR4株106CFUと150分間インキュベートした。次に、この細胞を洗浄し、溶解させた。ライセート中の肺炎球菌の数を血液寒天プレートの定量プレーティングで判定した。回収Log10CFUとは、実験の終了時の肺炎球菌の数をいう。
【図11】図11は、A549細胞への肺炎球菌の付着が、PcpAに対する抗体により阻害されることを示す。A549ヒト肺上皮細胞の単層を、抗体なし、1/100に希釈したPcpA抗体または1/50に希釈したPcpA抗体を用いて高マンガン(高Mn2+)または低マンガン(低Mn2+)で増幅させたpcpA+TIGR4株およびpcpA−TIGR4株106CFUと150分間インキュベートした。この細胞を洗浄し、溶解させた。ライセート中の肺炎球菌の数を血液寒天プレートの定量プレーティングで判定した。
【図12】図12は、PcpAに対するウサギ血清による敗血症に対する保護作用を示す。完全フロインドアジュバントに加えた100μgのrPcpAでウサギを免疫して、続いて2週後および4週後に完全フロインドアジュバントに加えた100μgのrPcpAでウサギを免疫してウサギ血清を調製した。最終ブーストから2週間後に血清を採取し、ドットブロットアッセイを行ったところPcpAに対する抗体を含むことが示された。免疫の開始前に免疫前血清も採取しておいた。2つの群を用いてウサギ抗血清の希釈液が致死性の肺炎球菌感染症を防止できるかどうかマウスを検査した。TIGR4の静脈内チャレンジの1時間前にマウスの3つの群に1/10、1/100または1/1000に希釈した免疫血清を0.1mL腹腔内投与した。2匹のマウスに1/10免疫前(非免疫)ウサギ血清を投与し、2匹のマウスに希釈液(PBS)のみを投与した。マウスを500時間または死亡時まで観察した。1/10免疫血清を投与したマウス2匹は、実験を通して生存した。他のマウスはすべて、チャレンジ後40〜60時間後に死亡した。
【図13】図13は、PcpAおよびニューモリシン(Ply)による肺感染に対する保護作用を示す。マウスに5μgのrPcpA、5μgのニューモリシン(Ply)または5μgのrPcpAと5μgのPlyを3回免疫した。最初に2回の注射ではalumを用い、3回目の注射はタンパク質単独で行った。使用したPlyは、野生型Plyであった。マウスをイソフルラン(ミンラド,バッファロー,ニューヨーク州)で麻酔(anethesized)し、40μL容量に加えた莢膜型19F株EF3030を5×106CFU鼻腔内チャレンジした。この手順の結果、肺感染症および鼻腔定着が起きる。7日後、マウスを屠殺し、ホモジナイズした肺をプレーティングした。CFUを観察したところ、PcpAまたはPlyのどちらかを免疫しても保護作用のレベルは同等であった。PcpAとPlyで免疫したマウスにおいては、保護作用が対照マウスよりも100倍超、PlyまたはPcpA単独の場合よりも10倍高まった。
【図14】図14は、プラスミドpJMS87の構築を示す模式図である。このプラスミドは、プラスミドpET30aおよびPcpA(Streptococcus pneumoniae株B6由来のΔSPΔCBD PcpA)のフラグメントをコードする核酸のライゲーションにより形成される。
【図15A】図15Aおよび図15Bは、マウスの敗血症モデルにおいて、マウスに実施例8(10〜0.625μg/用量)の組換えPcpA(rPcpA)を免疫して得られる保護作用をグラフ化したものである。マウスにWUBM3株を300CFU腹腔内チャレンジした。図15Aは、一定期間にわたり、rPcpAを免疫したマウスがアジュバント対照群(PBS)と比較して各用量で有意な保護作用を受けたことを示す(フィッシャーの正確確率検定)。図15Bは、チャレンジから7日後の各群における保護作用のレベルを示す。
【図15B】図15Aおよび図15Bは、マウスの敗血症モデルにおいて、マウスに実施例8(10〜0.625μg/用量)の組換えPcpA(rPcpA)を免疫して得られる保護作用をグラフ化したものである。マウスにWUBM3株を300CFU腹腔内チャレンジした。図15Aは、一定期間にわたり、rPcpAを免疫したマウスがアジュバント対照群(PBS)と比較して各用量で有意な保護作用を受けたことを示す(フィッシャーの正確確率検定)。図15Bは、チャレンジから7日後の各群における保護作用のレベルを示す。
【図16】図16は、マウスの肺炎モデルにおいて、実施例8のrPcpAの免疫により得られる保護作用をグラフ化したものである。群1〜6にプラセボ(群1)、PspA(群2)またはrPcpA(群3〜6)を免疫した。0日目に1群当たり約14匹のCBA/Nマウスに初回用量の免疫原を皮下(s.c.)免疫した。21日目に2回目の免疫、43日目に3回目の免疫を行った。63日目にマウスにS.pneumoniae株EF3030を5.6×106CFU鼻腔内チャレンジした。感染から5日後、ホモジナイズした肺組織のCFUを判定した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書は、PcpAの免疫原性フラグメントおよび変異体、さらにはそのフラグメントおよび変異体の製造方法および使用方法について記載する。PcpAは、当初Streptococcus pneumoniaeのコリン結合タンパク質(CBP:choline binding protein)として同定されたが、CBPタンパク質であるPspAおよびPspCとは異なり(Sanchez−Beato et al.,FEMS Microbiol.Lett.164:207−214(1998))、PcpAの突然変異は、(1)変異株と野生株を競合させる競合モデルでマウスの肺、菌血症および鼻咽頭においてビルレンスを低下させる(Hava and Camilli,Mol Microbiol.45:1389−1406(2002));(2)肺での定着に関する非競合的な比較においてビルレンスおよび細菌負荷を低下させる(Johnston et al.,Infect.Immun.74:1171−1180(2006));(3)CBA/CaHN−Btkxid/Jマウスにおいて敗血症の原因となるS.pneumoniaeの侵襲性株TIGR4(莢膜型4)の能力を低下させる;および(4)野生株と競合して肺での定着を低下させることが明らかになっている。本開示は、PcpAに免疫原性があること、特にPcpAのフラグメントおよび変異体に免疫原性があるという最初の証拠を提供する。
【0010】
免疫原性ポリペプチドは、(シグナル配列の存在下または存在下での)全長PcpAアミノ酸配列、そのフラグメントおよびその変異体を含む。全長PcpAには、Streptococcus pneumoniae株B6由来のGenBank受託番号CAB04758、S.pneumoniae株TIGR4由来のGenBank受託番号NP_346554およびS.pneumoniae株R6由来のGenBank受託番号NP_359536がある。
【0011】
任意に、PcpAの免疫原性ポリペプチドは、1つまたは複数のロイシンに富んだ領域(LRR:leucine rich region)を含む。こうしたLLRは、天然型PcpAに存在し、あるいは、このLLRの天然型LRRに対する配列同一性は、たとえば、80%、85%、90%または95%など、約60〜約99%である。成熟PcpAタンパク質(すなわち、シグナルペプチドが存在しないタンパク質)のLRRは、配列番号1、2、41または45内で確認できる。
【0012】
PcpAの免疫原性ポリペプチドは任意に、天然型成熟PcpAタンパク質に一般に存在するコリン結合性のアンカー配列が認められない。天然型のコリン結合性アンカー配列は、成熟PcpAタンパク質の配列番号52である。より詳細には、免疫原性ポリペプチドは、1つまたは複数のアミノ酸置換を持ち、かつ天然型PcpAに対して配列同一性が約60〜約99%、すなわち任意の同一性が80、85、90および95%などである、天然型PcpAのN末端領域を含む。N末端領域は、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換の存在下または非存在下およびシグナル配列の存在下または存在下で配列番号1、2、3、4、41または45のアミノ酸配列を含んでもよい。N末端領域は、配列番号1、2、3、4、41または45に対する配列同一性が約60〜約99%(あるいは任意の同一性が80〜99%)のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0013】
配列番号1、2、3、4、41または45の免疫原性フラグメントは、配列番号1、2、3、4、41または45のアミノ酸残基を5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190および191個、すなわち5〜191個の任意の数のアミノ酸残基を含む。こうしたフラグメントの例として、たとえば、LEKIEDRAFD(配列番号5)、FSELEEIELP(配列番号6)、ASLEYIGTSA(配列番号7)、FSFSQKLKKL(配列番号8)、TFSSSSKLEL(配列番号9)、ISHEAFANLS(配列番号10)、NLEKLTLPKS(配列番号11)、VKTLGSNLFR(配列番号12)、LTTSLNMLML(配列番号13)、LTTSLKHVDV(配列番号14)、RGMIVASVDG(配列番号15)、EEGNESFASVDG(配列番号16)、VSFQSKTQLI(配列番号17)、VLFSKDKTQLI(配列番号18)、YYPSQKNDES(配列番号19)、YKTPKETKEL(配列番号20)、ASYSFNKNSY(配列番号21)、LKKLELNEGL(配列番号22)、QKIGTFAFAD(配列番号23)、EKIGTFAFAD(配列番号24)、ATKLEEISLP(配列番号25)、AIKLEEISLP(配列番号26)、NSLETIERLA(配列番号27)、FYGNLELKELIL(配列番号28)を含むアミノ酸が挙げられる。
【0014】
任意に、PcpAの免疫原性ポリペプチドは、LRRがない。LRRが認められない免疫原性ポリペプチドとして、配列番号29、配列番号30および配列番号31または5個以上のアミノ酸残基を含む配列番号29、30または31のいずれかの任意の免疫原性フラグメントがある。配列番号30および31は、PcpAのロイシンに富んだ領域のC末端側に残基を含む。
【0015】
本明細書に記載の免疫原性ポリペプチドの変異体は、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換を含んでもよい。免疫原性ポリペプチドの変異体は、配列番号1〜31、41および45またはこれらの任意のフラグメントに対する配列同一性が約60〜約99%(すなわち、任意の同一性が60〜99%)のアミノ酸配列を含む。変異体の選択については、本明細書に教示する方法を用いてその免疫原性能の観点から行う。
【0016】
本明細書に記載のPcpAの免疫原性ポリペプチドは、PcpAのフラグメントおよびそのフラグメントの変異体を含む。PcpAフラグメントの変異体は、アミノ酸配列の改変を含んでもよい。たとえば、アミノ酸配列の改変としては、置換、挿入または欠失による変化がある。変異体が免疫原性ポリペプチドである限り、置換、欠失、挿入またはこれらの任意の組み合わせを単一の変異体内で組み合わせても構わない。挿入は、アミノおよび/またはカルボキシル末端融合のほか、単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。挿入は一般に、アミノまたはカルボキシル末端融合の挿入よりも、たとえば、1〜4残基程度の小さな挿入になる。欠失は、1つまたは複数のアミノ酸残基をタンパク質配列から除去するものである。タンパク質分子内の任意の1部位で約2〜6残基以下を欠失させるのが一般的である。こうした変異体については通常、タンパク質をコードするDNAのヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発により作成して、それにより変異体をコードするDNAを製造し、その後、組換え細胞培養でDNAを発現させる。既知の配列を持つDNAの所定の部位で置換突然変異を製造する技法はよく知られており、M13プライマー突然変異誘発およびPCR突然変異誘発があるが、これに限定されるものではない。アミノ酸置換は一般に単一残基であるが、いくつかの異なる位置で同時に行ってもよい。置換変異体は、少なくとも1つの残基を除去し、その代わりに別の残基を挿入する変異体である。こうした置換は通常、以下の表1に準じて製造され、保存的置換と呼ばれる。一方、これ以外のものも当業者にはよく知られている。
【0017】
【表1】
本明細書で使用する場合、変異体は、pcpA相同遺伝子内の1つまたは複数の部位で多型性を示す、別の株に由来する天然型pcpAの対立遺伝子を含んでもよい。変異体は、従来の分子生物学的技法により製造することができる。本明細書では、変異体について天然型pcpAと比較した配列同一性との関連で記載する。当業者であれば、2つのポリペプチドまたは核酸の配列同一性の判定方法を容易に理解できる。たとえば、同一性が最高レベルになるように2つの配列を整列させた後、配列同一性を算出してもよい。アライメントについては、使用するアライメントプログラムの個々のアルゴリズムによってある程度異なる。これには、たとえば、Smith and Waterman Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所的相同性アルゴリズム、Needleman and Wimsch,J.MoL Biol.48:443(1970)の相同性アライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman,PNAS USA 85:2444(1988)の類似性検索法による、これらのアルゴリズムのコンピュータインプリメンテーション(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)による、BLASTおよびBLAST2.0ならびにAltschul et al,Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1977;Altschul,et al,J.Mol. Biol.215:403−410,1990;Zuker,M.Science 244:48−52,1989;Jaeger et al.PNAS USA 86:7706−7710,1989 and Jaeger et al.Methods Enzymol.183:281−306,1989に記載のアルゴリズムが挙げられる。これらの各参考文献については、少なくともアライメントに関連する材料および同一性の計算に関して参照によって援用する。一般に、これらの方法のどれを用いもよいが、場合によってこうした様々な方法による結果が異なる可能性があることが理解されるであろう。配列同一性を、たとえば、95%とする場合、その同一性は、受け入れられた計算方法の少なくとも1つで検出可能なものでなければならない。
【0018】
本明細書に記載の免疫原性ポリペプチドは、1種または複数種のアミノ酸アナログまたは非天然型立体異性体を含んでもよい。こうしたアミノ酸アナログおよび立体異性体については、tRNA分子に目的のアミノ酸を組み込み、たとえば、アンバーコドンを利用してそのアナログアミノ酸を部位特異的にペプチド鎖に挿入する遺伝子コンストラクトを設計することで容易にポリペプチド鎖に導入することができる(少なくともアミノ酸アナログに関する材料について参照によってすべて本明細書に援用するThorson et al.,Methods in Molec.Biol 77:43− 73(1991),Zoller,Current Opinion in Biotechnology,3:348−354(1992);Ibba,Biotechnology & Genetic Engineering Reviews 13:197−216(1995),Cahill et al.,TIBS,14(10):400−403(1989);Benner,TIB Tech,12:158−163(1994);Ibba and Hermecke,Biol technology,12:678−682(1994)を参照)。ペプチドには似ているものの天然のペプチド結合を介して連結されていない免疫原性フラグメントを製造してもよい。たとえば、アミノ酸またはアミノ酸アナログの結合は、CH2NH−−、−−CH2S−−、−−CH2−−CH2−−、−−CH=CH−−(シスとトランス)、−−COCH2−−、−−CH(OH)CH2−−および−−CHH2SO−−(これらおよび他のものについては、Spatola,A.F.「Peptide backbone modifications: A structure−activity analysis of peptides containing amide bond surrogates, conformational constraints, and related backbone modifications.」In Chemistry and Biochemistry of Amino Acids,Peptides,and Proteins,pp.267−357.Weinstein,B.editor,Marcel Dekker,New York,N.Y.(1983);Morley,Trends in Pharm.Sci,1(2):463−468(1980);Hudson,et al,Int J Pept Prot Res 14:177−185(1979)(−−CH2NH−−,CH2CH2−−);Spatola et al.Life Sci 38:1243−1249(1986)(−−CH H2−−S);Hann,Journal of the Chemical Society:Perkin Transactions 1 pp.307−314(1982)(−−CH−−CH−−,cis and trans);Almquist et al.,J.Med.Chem.23:1392−1398(1980)(−−COCH2−−);Jennings−White et al.,Tetrahedron Lett 23:2533(1982)(−−COCH2−−);欧州特許第0045665号 to Szelke,et al.(1982)(−−CH(OH)CH2−−);Holladay et al.,Tetrahedron.Lett 24:4401−4404(1983)(−−C(OH)CH2−−);およびHruby Life Sci 31:189−199(1982)(−−CH2−−S−−)で確認することができ、少なくとも結合に関する材料について、これらの各々を参照によって本明細書に援用する)を含んでもよい。
【0019】
アミノ酸アナログおよび立体異性体は、多くの場合、製造がより経済的であること、化学的安定性の強化、薬理学的特性(半減期、吸収、効力、有効性など)の改良、特異性(広範な生物活性など)の変化およびその他など、特性を改良できるか、望ましい特性を持っている。たとえば、Dアミノ酸は天然ペプチダーゼにより認識されないため、D−アミノ酸を用いてより安定なペプチドを得ることができる。コンセンサス配列の1種または複数種のアミノ酸と同じタイプのD−アミノ酸との網羅的な置換(L−リジンの代わりにD−リジンなど)を用いてより安定なペプチドを得ることができる。システイン残基を用いて2つ以上のペプチドを一緒に環化または結合させてもよい。これは、ペプチドを特定のコンフォメーションに限定するのに有益な場合がある。(参照によって本明細書に援用するRizo and Gierasch Ann.Rev.Biochem.61:387(1992)を参照)。
【0020】
本明細書は、PcpAの免疫原性ポリペプチドおよび薬学的に許容されるキャリアを含む組成物について記載する。任意に、この組成物は、アジュバントをさらに含む。免疫原性ポリペプチドを含む組成物は、たとえば、免疫原性StaphylococcusポリペプチドもしくはPspA、ニューモリシンの免疫原性フラグメントまたはこれらの組み合わせなど、他の免疫原性ポリペプチドの組み合わせを含んでもよい。
【0021】
任意に、本明細書に記載の組成物は、粘膜表面への投与に好適である。この組成物は、たとえば、点鼻薬、ネブライザー溶液またはエアロゾル吸入剤であってもよい。したがって、組成物は、容器内にあってもよく、容器は、鼻噴霧器、ネブライザーまたは吸入器であってもよい。
【0022】
薬学的に許容されるキャリアとは、生物学的またはその他の点で望ましい、すなわち、任意の好ましからぬ生物学的作用を引き起こしたり、それを含む医薬組成物の他の成分のいずれとも有害な相互作用を起こしたりせずに、PcpAの免疫原性フラグメントと一緒に被検体に投与できる材料をいう。当業者によく知られているように、キャリアについては当然ながら、被検体において活性成分の任意の分解および任意の有害な副作用を最小限にとどめるように選択することになる。
【0023】
好適なキャリアおよびその製剤については、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Edition,David B.Troy,ed.,Lippicott Williams & Wilkins(2005)に記載されている。一般に、製剤に適切な量の薬学的に許容される塩を用いて製剤を等張にする。薬学的に許容されるキャリアの例として、滅菌水、生理食塩液、リンゲル溶液のような緩衝液およびデキストロース溶液があるが、これに限定されるものではない。溶液のpHは通常、約5〜約8または約7〜約7.5である。他のキャリアとして、免疫原性PcpAポリペプチドを含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスなどの徐放性製剤がある。マトリックスは、たとえば、薄膜、リポソームまたは微小粒子のような形状製品の形をとる。たとえば、投与される組成物の投与経路および濃度に応じて、ある種のキャリアがより好ましくなる場合があることが当業者には明らかであろう。キャリアは、ヒトまたは他の被検体へのPcpA免疫原性フラグメントの投与に好適なものである。
【0024】
医薬組成物は、免疫原性ポリペプチドの他にキャリア、増粘剤、希釈薬、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、アジュバント、免疫賦活薬を含んでもよい。さらに、医薬組成物は、抗菌剤、抗炎症剤および麻酔薬など1種または複数種の活性成分を含んでもよい。
【0025】
アジュバントは、アルミニウム塩などの金属塩を含み、アジュバント活性を持つ安全な賦形剤を与えるものとして当該技術分野において周知である。こうしたアジュバントの作用機序には、投与から最大3週間注射部位にとどまることができるような抗原デポーの形成、さらに抗原提示細胞に取り込まれやすい抗原/金属塩複合体の形成があると考えられる。抗原の吸着には、アルミニウムばかりでなく、亜鉛、カルシウム、セリウム、クロム、鉄およびベリリウム(berilium)の塩など他の金属塩も用いられている。アルミニウムの水酸化物およびリン酸塩が、最も一般的である。アルミニウム塩、抗原および他の免疫賦活薬を含む製剤または組成物は、当該技術分野において公知である。免疫賦活薬の例として、3−デ−O−アシル化モノホスホリル脂質A(3D−MPL)が挙げられる。
【0026】
アジュバントおよび/または免疫賦活薬を、ポリペプチド組成物と同時に、組成物の投与の直前に、あるいは投与後に投与してもよい。任意に、組成物は、アジュバントをさらに含む。アジュバント製剤は、たとえば、粘膜誘導部位を標的にする薬を含む。アジュバントは任意に、以下に限定されるものではないが、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、血管形成因子、アポトーシス阻害剤およびこれらの組み合わせなどの群から選択されてもよい。サイトカインをアジュバントとして選択する場合、サイトカインは、以下に限定されるものではないが、IL−1、IL−3、IL−2、IL−5、IL−6、IL−12、IL−15およびIL−18などのインターロイキン;トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β:transforming growth factor−beta);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF:granulocyte macrophage colony stimulating factor);インターフェロンγ(IFN−γ:interferon−gamma);またはアジュバント活性を持つ他の任意のサイトカインなどの群から選択されてもよい。また、本発明の組成物および方法にアジュバント活性または他の生物活性を持つサイトカインの一部またはサイトカインのミュータントもしくは模倣体(またはこれらの組み合わせ)を用いてもよい。
【0027】
ケモカインをアジュバントとして用いる場合、ケモカインは任意に、以下に限定されるものではないが、リンホタクチン、RANTES(regulated on activation normal T cell expressed and secreted)、LARC(liverand activation−regulated chemokine)、PARC(pulmonary and activation−regulated chemokine)、MDC(macrophage−derived chemokine)、TAR C(thymus and activation−regulated chemokine)、SLC(secondary lymphoid tissue chemokine)およびFKN(fractalkine)などの群から選択してもよい。アポトーシス阻害剤をアジュバントとして選択した場合、アポトーシス阻害剤は任意に、以下に限定されるものではないが、カスパーゼ8の阻害剤およびその組み合わせなどの群から選択してもよい。血管形成因子をアジュバントとして選択した場合、血管形成因子は任意に、以下に限定されるものではないが、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF:fibroblast growth factor)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)、ヒアルロナン(HA:hyaluronan)フラグメントおよびこれらの組み合わせなどの群から選択してもよい。
【0028】
実質的に無毒の生物活性アジュバントの他の例としては、ホルモン、酵素、成長因子またはこれらの生物活性部分が挙げられる。そうしたホルモン、酵素、成長因子またはこれらの生物活性部分は、たとえば、ヒト、ウシ、ブタ、ヒツジ(ovine)、イヌ、ネコ、ウマまたはトリ由来であってもよく、腫瘍壊死因子(TNF:tumor necrosis factor)、プロラクチン、上皮増殖因子(EGF:epidermal growth factor)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF:granulocyte colony stimulating factor)、インスリン様成長因子(IGF(insulin−like growth factor)−1)、ソマトトロピン(成長ホルモン)もしくはインスリン、またはその受容体が免疫系の細胞に発現する他の任意のホルモンもしくは成長因子であってもよい。
【0029】
さらに、アジュバントは、たとえば、コレラ毒素(CT:cholera toxin)、E.coli易熱性毒素(LT:heat−labile toxin)、Clostridium difficileトキシンAおよび百日咳毒素(PT:pertussis toxin)またはこれらの組み合わせ、サブユニット、トキソイド、キメラまたはミュータントのような細菌毒素も含む。たとえば、天然のコレラ毒素サブユニットB(CTB:cholera toxin subunit B)の精製調製物を用いても構わない。フラグメント、ホモログ、誘導体およびこうしたトキシンのいずれかの融合物も好適なものであるが、アジュバント活性を保持していることが条件となる。アジュバントの好適なミュータントまたは変異体は、たとえば、国際特許第95/17211号(Arg−7−Lys CTミュータント)、国際特許第96/6627号(Arg−192−Gly LTミュータント)および国際特許第95/34323号(Arg−9−LysおよびGlu−129−Gly PTミュータント)に記載されている。本方法および組成物で使用できるさらなるLTミュータントには、たとえば、Ser−63−Lysミュータント、Ala−69−Glyミュータント、Glu−110−AspミュータントおよびGlu−112−Aspミュータントがある。さらに他のアジュバントとして、RH3リガンド;CpGモチーフオリゴヌクレオチド;たとえば、E.coli、Salmonella Minnesota、Salmonella typhimuriumまたはShigella exseriなどの細菌性モノホスホリルリピドA(MPLA:monophosphoryl lipid A);サポニン(QS21など)またはポリラクチドグリコリド(PLGA:polylactide glycolide)ミクロスフェアなどを用いてもよい。他に考えられるアジュバントとして、デフェンシンおよびCpGモチーフがある。
【0030】
本明細書に記載の免疫原性ポリペプチドの製造方法および使用方法とそうした方法に有用な組成物とを提供する。このポリペプチドについては、標準的な分子生物学的技法および発現系を用いて作製することができる。(たとえば、Molecular Cloning;A Laboratory Manual,Third Edition by Sambrook et al,Cold Spring Harbor Press,2001を参照)。たとえば、免疫原性ポリペプチドをコードするpcpA遺伝子のフラグメントを単離してもよく、免疫原性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、市販されている任意の発現ベクター(pBR322ベクターおよびpUCベクター(ニューイングランドバイオラボインク(New England Biolabs,Inc.),イプスウィッチ(Ipswich),マサチューセッツ州)など)または発現/精製ベクター(GST融合ベクター(ファイザーインク(Pfizer,Inc.),ピスカタウェイ(Piscataway),ニュージャージー州)など)にクローニングしてから、好適な原核生物、ウイルスまたは真核生物の宿主に発現させてもよい。その後、従来の手段により、あるいは、市販の発現/精製系の場合は製造者の指示に従って精製を行えばよい。
【0031】
本明細書は、配列番号1〜31、41および45のいずれか1つをコードする配列を含む核酸を提供する。本明細書は、全長PcpAタンパク質またはそのフラグメントをコードする配列番号32、33および47を含む核酸を提供する。また、配列番号32、33および47の縮重変異体およびこうした縮重変異体のフラグメントも提供する。
【0032】
配列番号1および2またはそのフラグメントをコードする核酸であって、それぞれ配列番号34および配列番号35またはその縮重変異体もしくはフラグメントを含む、核酸について記載する。
【0033】
配列番号3および4またはそのフラグメントをコードする核酸は、それぞれ配列番号36および37またはその縮重変異体もしくはフラグメントを含むが、これに限定されるものではない。
【0034】
配列番号42またはその縮重変異体もしくはフラグメントを含む、配列番号41またはそのフラグメントをコードする核酸について記載する。
【0035】
配列番号46またはその縮重変異体またはフラグメントを含む、配列番号45またはそのフラグメントをコードする核酸について記載する。
【0036】
配列番号29またはそのフラグメントをコードする例示的核酸は、配列番号38またはその縮重変異体もしくフラグメントを含む。
【0037】
さらに詳しくは、本明細書は、配列番号32〜38、42、46および47またはこれらの縮重変異体として示される配列のいずれか1つを含む核酸を提供する。
【0038】
さらに、配列番号32〜38、42、46および47または配列番号32〜38、42、46および47の相補体またはその配列もしくは相補体の任意のフラグメントを含むヌクレオチド配列を持つハイブリダイゼーションプローブの全部または任意の部分とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む単離された核酸も提供する。ハイブリダイズしている核酸のハイブリダイズしている部分の長さは一般に、少なくとも15(15、20、25、30、40またはそれ以上など)ヌクレオチドである。ハイブリダイズしている部分は、ハイブリダイズする配列部分と少なくとも80%(85%、90%または95%など)同一である。ハイブリダイズしている核酸は、たとえば、クローニングプローブ、プライマー(PCRプライマーなど)または診断プローブとして有用である。核酸二本鎖またはハイブリッドの安定性については、プローブが標的DNAから解離する温度である融解温度すなわちTmで表す。この融解温度を用いて必要なストリンジェント条件を決める。プローブと同一ではないが、プローブと関連があり実質的に同一である配列を同定する場合、まず特定の塩濃度(SSC(saline sodium citrate)またはSSPE(saline sodium phosphate EDTA)など)を用いて相同ハイブリダイゼーションのみが起こる最低温度を確立することが有用である。1%のミスマッチでTmが1℃低下すると想定する場合、それに合わせてハイブリダイゼーション反応の最終の洗浄温度を下げる(たとえば、同一性が95%を超える配列を探索する場合、最終洗浄温度を5℃下げる)。実際のミスマッチ1%当たりのTmの変化は、0.5〜1.5℃である可能性がある。ハイストリンジェントな条件では、5×SSC/5×デンハルト溶液/1.0%SDSにおいて68℃でハイブリダイズし、0.2×SSC/0.1%SDSで室温にて洗浄を行う。中ストリンジェントな条件では、3×SSCで42℃にて洗浄する。塩濃度および温度を変動させてプローブと標的核酸との同一性の最適レベルを達成してもよい。こうした条件に関するさらなるガイダンスは、当該技術分野において容易に入手することができ、たとえば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Edition by Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Press,2001に記載されている。
【0039】
したがって、前述のペプチド配列、その変異体およびフラグメントをコードできる核酸を開示することが理解されよう。この核酸には、個々のタンパク質配列に関係するすべての縮重配列、すなわち、特定のタンパク質配列をコードする配列を持つすべての核酸ばかりでなく、本開示のタンパク質配列の変異体および誘導体をコードする縮重核酸など、すべての核酸が含まれることになる。したがって、本明細書には1つ1つの核酸配列をすべて書き出していない場合もあるが、実際には、本開示のタンパク質配列により、ありとあらゆる配列が開示および記載されていることが理解されよう。
【0040】
また、本明細書に記載の核酸を含むベクターも開示する。したがって、免疫原性ポリペプチド(配列番号1〜31、41もしくは45またはそのフラグメントもしくは変異体など)をコードする核酸を含むベクターを提供する。このベクターは、配列番号32〜38、42および47またはその縮重変異体またはフラグメントの核酸配列のうちどれを含んでもよい。任意に、ベクターの核酸は、発現調節配列(プロモーターまたはエンハンサーまたはその両方など)に作動的に連結されている。好適な発現ベクターは、当業者によく知られており、ノバゲンインク(Novagen,Inc.),マディソン,ウィスコンシン州;インビトロジェンコーポレーション(Invitrogen Corporation),カールズバッド,カリフォルニア州;およびプロメガコーポレーション,マディソン,ウィスコンシン州など様々な供給源で市販されている。
【0041】
さらに、ベクターを含む培養細胞も提供する。培養細胞は、ベクターをトランスフェクトした培養細胞でも細胞の子孫でもよく、その細胞に免疫原性ポリペプチドが発現する。好適な細胞株は当業者に公知であり、たとえば、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC:American Type Culture Collection)から市販されている。
【0042】
トランスフェクト細胞を、免疫原性ポリペプチドを作製する方法に用いてもよい。この方法では、任意に発現配列の制御下、免疫原性ポリペプチドが発現する条件下でベクターを含む細胞を培養する。標準的なタンパク質精製法を用いて細胞または培地から免疫原性ポリペプチドを単離することができる。
【0043】
免疫原性ポリペプチドについては、比較的大きなポリペプチドまたはタンパク質を普通に酵素的に切断して作製してもよいし、タンパク質化学的技法で2つ以上のペプチドまたはポリペプチドを連結して作製してもよい。たとえば、ペプチドまたはポリペプチドをFmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)化学反応あるいはBoc(tert−ブチルオキシカルボノイル)化学反応。(アプライドバイオシステムズインク(Applied Biosystems,Inc.),フォスターシティー,カリフォルニア州)のどちらかにより、現在利用できる実験機器を用いて化学的に合成することができる。ペプチド縮合反応、ネイティブ化学ライゲーション、固相化学反応または酵素的ライゲーションにより、2つのフラグメントをそのカルボキシルおよびアミノ末端でペプチド結合により共有結合で結合させて、免疫原性PcpAポリペプチドを形成してもよい。(その中に記載されている方法についてすべてを参照によって本明細書に援用するSynthetic Peptides:A User Guide,,Grant,ed.,W.H.Freeman and Co.,New York,N.Y.(1992);Principles of Peptide Synthesis.,Bodansky and Trost,eds.Springer− Verlag Inc.,New York,N.Y.(1993);Abrahmsen L et al.,Biochemistry,30:4151(1991);Dawson et al.Science,266:776−779(1994);Solid Phase Peptide Synthesis,2nd Edition,Stewart,ed.,Pierce Chemical Company,Rockford,IL,(1984)を参照)。
【0044】
1種または複数種のポリペプチドを含む免疫原性ポリペプチドおよび組成物を用いて抗体を作製してもよい。したがって、被検体のPcpAに特異的な抗体を作製する方法は、本明細書に記載の免疫原性PcpAフラグメントを被検体に投与することを含む。さらに、本明細書は、PcpAポリペプチドに結合する抗体およびPcpAポリペプチドに結合する抗体フラグメントも提供する。
【0045】
抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、完全ヒト抗体またはヒト化抗体でもよく、天然抗体および一本鎖抗体を含む。抗体は、免疫原性PcpAポリペプチドを被検体に投与してインビボで作製してもよい。抗体の作製には、ハイブリドーマ法を用いたモノクローナル抗体の製造が含まれる。ハイブリドーマ法については、当該技術分野において周知であり、その中に記載されている方法について参照によってその全体を援用するKohler and Milstein,Nature,256:495(1975) and Harlow and Lane.Antibodies,A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Publications,New York,(1988)に記載されている。
【0046】
一本鎖抗体の製造方法は、当業者によく知られている。たとえば、米国特許第5,359,046号(その方法に関して参照によってその全体を本明細書に援用する)を参照されたい。一本鎖抗体を作製するには、短いペプチドリンカーを用いて重鎖と軽鎖の可変ドメインを一緒に融合し、それにより単一分子上に抗原結合部位を再構成する。抗原結合性または結合の特異性を大きく阻害することなく、一方の可変ドメインのC末端が他方の可変ドメインのN末端に15〜25アミノ酸ペプチドまたはリンカーにより連結される一本鎖抗体可変フラグメント(scFv)が開発されている。重鎖と軽鎖が適切な立体配座配向で一緒に結合できるようにリンカーを選択する。たとえば、リンカーに関する材料について参照によって本明細書に援用するHuston,J.S.,et al.Methods in Enzym.203:46−121(1991)を参照されたい。
【0047】
PcpAポリペプチドに対する完全ヒト抗体およびヒト化抗体を本明細書に記載の方法に用いてもよい。ヒト化抗体は、そのレシピエントの相補性決定領域(CDR:complementary determining region)由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を持つマウス、ラットまたはウサギなど非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基で置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)を含む。ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基で置換されている場合もある。免疫によりヒト抗体の完全なレパートリー(すなわち、完全ヒト抗体)を産生することができるトランスジェニックアニマル(マウスなど)を用いてもよい。生殖系列変異のキメラマウスにおいて抗体重鎖の結合領域(J(H))遺伝子を同系接合的に欠損させると、内因性抗体の産生が完全に阻害される。そうした生殖系列ミュータントマウスにヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイを転移すれば、抗原チャレンジによりヒト抗体が産生される(たとえば、Jakobovits et al.,PNAS USA,90:2551−255(1993);Jakobovits et al.,Nature,362:255−258(1993);Bruggemarm et al.,Year in Immuno.,7:33(1993)を参照)。また、ファージディスプレイライブラリーでヒト抗体を作製してもよい(Hoogenboom et al.,J.Mol,Biol,227:381(1991);Marks et al.,J,Mol.Biol,222:581(1991))。CoteらおよびBoernerらの技法には、ヒトモノクローナル抗体の調製方法について記載されている(Cole,et al.,「The EBV−hybridoma technique and its application to human lung cancer.」 In,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Volume 27,Reisfeld and Sell,eds.,pp.77−96,Alan R.Liss,Inc.,New York,N.Y.,(1985);Boerner et al.,J.Immunol,,147(l):86−95(1991))。こうした参考文献については、その中に記載されている方法のため参照によってその全体を援用する。
【0048】
本明細書で使用する場合、抗体フラグメントは、ハイブリッドフラグメントを含むF(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメントおよびFabフラグメントを含む。こうした抗体フラグメントは、特定のPcpAポリペプチドに対する結合能を保持している。各方法を用いて(ab)発現ライブラリーを構築(たとえば、Huse,et al.,1989 Science 246:1275−1281を参照)すれば、PcpAポリペプチドに対する所望の特異性を持つモノクローナルF(ab)フラグメントを迅速かつ効果的に同定することができる。ポリペプチドのイディオタイプを含む抗体フラグメントについては、当該技術分野において公知の技法で作製することができ、(i)抗体分子のペプシン消化により作製されるF(ab’)2フラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋の還元により作製されるFabフラグメント;(iii)抗体分子をパパインおよび還元剤で処理して作製されるF(ab)フラグメントおよび(iv)F(v)フラグメントがあるが、これに限定されるものではない。
【0049】
本明細書は、被検体において肺炎球菌感染症の危険性を低下させる方法であって、PcpAの免疫原性フラグメントまたはその組成物を被検体に投与することを含む、方法を記載する。肺炎球菌感染症には、たとえば、髄膜炎、中耳炎、肺炎、敗血症または溶血性尿毒症がある。したがって、本明細書に記載の方法より、こうした感染症の任意の1つまたは複数の危険性が低下する。この方法は、第2の免疫原性フラグメントを投与するステップをさらに含んでもよい。第2の免疫原性フラグメントは、PspA由来でも、ニューモリシン由来でも、これらの組み合わせ由来でもよい。第2の免疫原性フラグメントについては、PcpAの免疫原性フラグメントと同時、その前、あるいはその後に投与してもよい。
【0050】
PcpAポリペプチドまたはそのフラグメントを含む組成物は、経口投与、非経口投与(静脈内など)、筋肉内投与、腹腔内投与、経皮投与、または鼻腔投与もしくは呼吸器系の任意の部分への投与などの局所投与することができる。本明細書で使用する場合、呼吸器系への投与とは、エアロゾル化または挿管を介した噴霧機構または飛沫機構による送達など、外鼻孔の一方もしくは両方あるいは口を介して組成物を鼻部および鼻道に送達することをいう。
【0051】
組成物およびPcpAポリペプチドまたはフラグメントの正確な必要量は、被検体の種、年齢、体重および全身状態、使用するポリペプチドおよびその投与モードによって被検体ごとに異なるであろう。したがって、組成物の正確な量をすべて明らかにすることができるとは限らない。しかしながら、当業者であれば、本明細書の記載を考慮して適切な量を決定できる。さらに、たとえば、プライムブーストレジメンにおいて、PcpAポリペプチドまたはフラグメントの反復投与を用いてもよい。
【0052】
肺炎および敗血症に対する防御免疫を惹起する際、PspAとニューモリシンを組み合わせると、どちらかのタンパク質単独の場合であり有効性が高まる(Briles et al.,J.Infect.Immun,188:339−48(2003);Ogunniyi et al.,Infect.Immun.68:3028−33(2000))。したがって、PcpAまたは免疫原性フラグメントを含む組成物は任意に、PcpA、PspAまたはニューモリシンの第2の免疫原性フラグメントまたはその組み合わせを含んでもよい。これらの参考文献については、その中に教示されているタンパク質の組み合わせ方法および投与方法のため参照によってその全体を本明細書に援用する。
【0053】
本明細書に記載の組成物を組み合わせる際は、前述の処理のどれを用いてもよい。組み合わせる場合は、同時に(concomitantly)(混合剤などとして)、分離されているが同時に(simultaneously)(同じ被検体に異なる静脈ラインなどを介して)あるいは連続的に(化合物または薬の1つを最初に投与してから第2の化合物または薬を投与するなど)投与してもよい。したがって、組み合わせという語は、2種以上の薬を同時(concomitant)投与、同時(simultaneous)投与または連続投与することをいう。
【0054】
単数形a、anおよびtheは、本明細書および添付の特許請求の範囲に使用する場合、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数の対象を含むという点に留意しなければならない。したがって、たとえば、抗原性フラグメントという場合、抗原性フラグメントの混合物を含み、薬学的キャリアまたはアジュバントという場合、そうしたキャリアまたはアジュバントの2種以上の混合物を含む。
【0055】
本明細書で使用する場合、被検体とは、個体をいう。したがって、被検体は、ネコおよびイヌなどの飼い慣らされた動物、家畜(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ(sheep)およびヤギなど)、実験動物(マウス、ウサギ、ラット、モルモットなど)およびトリを含んでもよい。一態様では、被検体は、霊長類またはヒトなどの哺乳動物である。
【0056】
任意の(optional)または任意に(optionally)とは、その後に記載した事象または状況が起こることもあるが、起こらないこともあり、そう記載することで、その事象または状況が起こる場合と、それが起こらない場合が含まれることを意味する。たとえば、任意に組成物は組み合わせを含んでもよいといった場合、組み合わせとは、組成物が異なる分子の組み合わせを含んでもよいし、組み合わせを含まなくてもよいため、こう記載することで、組み合わせが存在する場合と組み合わせが存在しない場合(すなわち、組み合わせの個々の構成物)とが含まれる。
【0057】
本明細書では、範囲を、約を前置した1つの特定の値からおよび/または約を前置したもう1つの特定の値までと表すことができる。このように範囲を表す場合、1つの特定の値からおよび/またはもう1つの特定の値までは別の態様である。同様に、先行詞約を用いて値を近似値として表す場合、特定の値は別の態様を形成することを理解されたい。さらに、各範囲の端点はもう一方の端点との関連でも他の端点と切り離しても意味があることを理解されたい。
【0058】
本明細書では、ある症候に対する一定の処置(肺炎球菌感染症の防止など)との関連で防止する(prevent)、防止している(preventing)、および防止(prevention)という語を用いる場合、処置した患者がその症候を臨床的に観察できるレベルでまったく発症しないか、処置を受けない場合と比べて発症が遅くなる、および/またはその程度が軽くなることをいう。こうした語は、患者がその症候をまったく経験しない状況のみに限定されるものではない。たとえば、一定の症候を発現させると予想された刺激を患者に曝露しているさなかに処置を施して、その結果、本来予想されるよりも患者の症候の症状が減少および/または緩和する場合、その処置は症候を防止したと言えよう。処置の結果、患者が感染症の軽い症状しか明確に示さずに、その感染症が防止される場合があっても、これは、感染している微生物が細胞にまったく侵入しなかったことを意味するものではない。
【0059】
同様に、感染症の危険性との関連で本明細書において使用する場合、所定の処置により軽減する、軽減している(reducing)、および軽減(reduction)(肺炎球菌感染症の危険性の軽減など)とは、処置(免疫原性ポリペプチドの投与など)を行わない感染症発症の対照レベルまたは基準レベルと比較して被検体の感染症の発症が遅くなる、またはその程度が軽くなることをいう。感染症の危険性が軽減された結果、患者が感染の軽い症状しか明確に示さずに、感染症の症状が遅延する場合があっても、これは、感染している微生物が細胞にまったく侵入しなかったことを意味するものではない。
【0060】
当然のことながら、開示されている方法および組成物は、他に記載がない限り、特定の合成方法、特定の解析技法または特定の試薬に限定されるものではなく、したがって、異なってもよい。また、本明細書に使用する用語は、特定の実施形態を記載するためのものにすぎず、限定的であることを意図するのではないことは言うまでもない。
【0061】
本発明の多くの実施形態について記載してきた。しかしながら、様々な改変が可能であることが理解されるであろう。さらに、ある特徴またはステップについて記載する場合、組み合わせについて明示的に記載していなくても、本明細書の他の任意の特徴またはステップと組み合わせてもよい。したがって、他の実施形態も、特許請求の範囲内にある。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
PcpAは、肺感染症および致死性の敗血症に対する保護作用を惹起する。
【0063】
材料および方法。
【0064】
菌種、培地および増殖条件。本研究では、S.pneumoniae株TIGR4およびEF3030ならびにその誘導体を用いた。他に記載がない限り、0.5%酵母エキスを含むトッドヒューイット(Todd−Hewitt)ブロス(THY)または血液寒天プレートで肺炎球菌を37℃で増殖させた。適切な場合、エリスロマイシンを濃度0.3μg/mlで培地に加えた。S.pneumoniae(表2)の臨床分離株および主要なクローン群の分離株(表3)を用いた。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
これらの研究に使用した臨床菌株は、過去25年以内に単離されたものである。あり得べきPcpAの多様性を調べるため、Streptococcus pneumoniaゲノム多様性プロジェクト(Genome Diversity Project)(http://genome.Microbio.uab.edu/strep/info)で用いた菌株の群から分離株を選択した。
【0067】
菌株の構築の間、1.5%寒天を含むルリア−ベルターニ(LB:Luria−Bertani)ブロスまたはLBプレートで増殖させたEscherichia coli TOP10細胞(インビトロジェン,カールズバッド,カリフォルニア州)内でプラスミドを維持した。増殖培地に、pCR2.1系、pCR4系およびpET−20b系プラスミドにはアンピシリン(50μg/ml)を、pJY4164系プラスミドにはエリスロマイシン(400μg/ml)を加えた。
【0068】
高マンガン培地でのバクテリアの増殖にはTHY培地を用いた。低マンガン条件での増殖では、マンガンを除去したTHYを調製した。製造者の指示に従ってオートクレーブ処理の前にChelex−100(2%w/v)(シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich),セントルイス,ミズーリ州)を加えてTHY培地を調製した。オートクレーブ処理後、このTHY/Chelex混合物を室温で一晩撹拌し、続いて濾過滅菌した。使用前にZnCl2、MgCl2、CaCl2およびFeSC4をそれぞれ1mMの濃度まで加え、MnSO4を0.1μMの濃度まで加えた。増殖を600nmにおける光学密度でモニターした。
【0069】
菌株の構築。本研究に用いたE.coli株、プラスミドおよびプライマーを示す(表4)。突然変異誘発を用いて親株TIGR4およびEF3030のpcpAを不活化した。変異株の構築については、以前に行われて記載されている(Johnston,et al,Infect.Immun.74:1171−80(2006))。
【0070】
【表4】
組換えPcpAの発現および精製。本研究に使用した菌株、プラスミドおよびプライマーを表2に示す。プライマーDTG−16(5’−CGCGGATCCATATGTCCCTAATGAACC−3’(配列番号39))およびDTG−12(5’−GCGCTCGAGTTCCTTTAATGAATCTAAGACGCCACTTAGGAAGAAGGAC−3’(配列番号40))を、菌株TIGR4におけるpcpAの1126bpフラグメントを増幅するように設計した。このプライマーはそれぞれ、操作された制限エンドヌクレアーゼ部位BamHIおよびXhoIを含む。3.0mMのMgCl2、125μMのdNTP、各プライマー50ピコモルおよびTaq DNAポリメラーゼ2.5ユニットを含むカクテル(総容量50μl)において反応を30サイクル繰り返した。1サイクルは、94℃、1分;55℃、1分;72℃、5分であった。最初に、この増幅させた遺伝子フラグメントをT−テイルド(T−tailed)法でpTOPO4(インビトロジェンインク,カールズバッド,カリフォルニア州)にクローニングし、プラスミドpLMGを形成した。
【0071】
このフラグメントを、TOPO TAクローニングキット(インビトロジェン,カールズバッド,カリフォルニア州)を用いてpCR4にクローニングした。BamHIおよびXhoI(プロメガ(Promega),マディソン,ウィスコンシン州)を用いてエンドヌクレアーゼ消化により、精製したプラスミドをスクリーニングした。得られたプラスミドpDG−1にpcpAフラグメントが挿入されていることをアガロースゲル電気泳動、PCR解析およびDNAシークエンシングをすべて用いて確認した。pDG−1のインサートをpET−20b発現ベクター(ノバゲン(Novagen),マディソン,ウィスコンシン州)にサブクローニングした。得られたプラスミドpJM−1をタンパク質製造のためE.coli株RosettaBlue(DE3)pLysS(ノバゲン,マディソン,ウィスコンシン州)に形質転換した。この株は、誘導性UV5プロモーターの制御下にあるT7プロモーターの染色体コピーを含む。IPTGの誘導により、アミノ酸19〜391を含む切断タンパク質を発現させる。この過剰発現した切断タンパク質を、精製しやすくするためC−カルボキシ末端ヒスチジンタグを用いてノバゲンHIS−BIND(登録商標)精製キット(ノバゲン,マディソン,ウィスコンシン州)で精製を行った。その後クーマシーブルー(Comassie Blue)染色でSDS−PAGE解析を行ったところ、約41kDaの単一バンドが見られた。
【0072】
以下は、クローニングし発現させたrPcpAタンパク質の完全な配列である。下線を引いた部分はクローニングベクター由来である。
【0073】
【化1】
【0074】
【化2】
抗PcpAポリクローナル抗体の作製。精製したrPcpAを用いてニュージーランドホワイトウサギ(マートルズラビティー(Myrtle’s Rabbity),トンプソンステーション(Thompson Station),テネシー州)に皮下免疫し、抗PcpAポリクローナル血清を得た。このウサギに1mlの完全フロインドアジュバントに加えた100μgのrPcpAを総容量2ml皮下注射した。2週間後、完全フロインドアジュバントに加えた100μgのrPcpAで第2のブーストを行い、第2のブーストから2週間後、不完全フロイントアジュバントに加えた100μgのPcpAで第3のブーストを行った。最終ブーストから2週間後、麻酔下でウサギを心臓穿刺により脱血した。その血液を凝固させ、遠心分離により血清を得て−80℃で保存した。
【0075】
PCRによるS.pneumoniae株におけるpcpAの確認。PCRプライマー対BGP−1とBGP−2を用い種々のS.pneumoniae株におけるpcpAの有無を点検した。プライマー対を、TIGR4株におけるpcpAの1416bpのN末端フラグメントを増幅するように設計した。その後、PCR産物をT.A.E.(Tris Acetate EDTA)アガロースゲルで分離し、臭化エチジウムで染色して増幅したバンドの正確なサイズを調べた。
【0076】
S.pneumoniae細胞の分画。YotherおよびWhiteが記載した方法(Yother and White,J.Bacterial 176:2976−85(1994))をわずかに変更してプロトプラストを作製した。MTHYで増殖させた対数期細胞をペレットにし、PBS(phosphate−buffered saline)で洗浄した。次いで、この細胞を0.5mlの2%塩化コリンに再懸濁し、そのチューブを数回反転させた。次いで、細胞をペレットにし、上清を取り除き、−20℃で保存した(コリン溶出画分)。細胞をペレットにし、300μlのプロトプラスト緩衝液(20%スクロース、5mMのトリス[pH7.4]、2.5mMのMgSO4)で1回洗浄した。次いで、このペレットを1mlのプロトプラスト緩衝液に再懸濁してから、培養ペレット1ml当たり5Uのムタノリシン(シグマアルドリッチ,セントルイス,ミズーリ州)を加えた。この懸濁液を室温で一晩インキュベートした。細胞を6000rpmで10分間の遠心分離によりペレットにし、上清を−20℃で保存する(細胞壁画分)。次いで、このプロトプラストを1mlのプロトプラスト緩衝液で洗浄した。顕微鏡検査によりプロトプラストの形成を確認した。このプロトプラストをペレットにし、0.3〜1mlのdH2Oに溶解して、これを−20℃で保存する(細胞膜/細胞質画分)。PcpAが存在するかどうかウエスタンブロット解析により各画分のサンプルを調べる。
【0077】
S.pneumoniaeの抗体染色。高または低マンガン培地で増殖させた中間対数期細胞(OD6000.6)をペレットにし、PBSで洗浄して、1%ウシ血清アルブミンを含むPBS(PBSB)に再懸濁し、室温で20分インキュベートした。細胞をペレットにし、PBSBまたはPBSBで1:100になるように希釈した抗PcpA血清に再懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーションに続いてPBSで2回洗浄した。次いで、細胞を、PBSBで希釈したヤギ抗ウサギ免疫グロブリンG(重鎖と軽鎖)−フルオレセインイソチオシアナート(サザンバイオテクノロジーアソシエーツインク(Southern Biotechnology Associates, Inc.),バーミングハム,アラバマ州)と4℃で30分間インキュベートした。次に、この細胞をPBSで2回洗浄し、0.01mMの親油性膜色素TMA−DPH(インビトロジェン,カールズバッド,カリフォルニア州)を含む4%ホルムアルデヒドPBS溶液に再懸濁した。その後、細菌細胞をOlympus IX 70顕微鏡を用いて落射蛍光観察で検査した。
【0078】
ウエスタンブロット。細菌培養をTHYおよびMTHYで中間対数期OD6000.6まで増殖させた。同量の菌株をそれぞれリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、硫酸ドデシルナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)サンプル緩衝液を含むPBSで再懸濁して、5分間煮沸した。サンプルおよび着色タンパク質標準物質(インビトロジェン,カールズバッド,カリフォルニア州)を製造者の指示に従いNuPAGE10%ビス−トリスゲル(インビトルゲン,カールズバッド,カリフォルニア州)に流し、モルホリンエタンスルホン酸(MES:morpholineethanesulfonic acid)−SDS泳動用緩衝液(インビトロジェン,カールズバッド,カリフォルニア州)で電気泳動により分離した。次に、Trans−Blot SD semidry transfer cell(バイオラッド(Bio−Rad),ハーキュリーズ(Hercules),カリフォルニア州)を用いてタンパク質をニトロセルロース膜にトランスファーした。このブロットを、PBSBで1:1000に希釈した抗PcpAポリクローナル抗体でプローブした。ヤギ抗ウサギ免疫グロブリンG(重鎖と軽鎖)−アルカリホスファターゼおよびストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ(サザンバイオテクノロジーアソシエーツインク,バーミングハム,アラバマ州)を二次抗体として用いた。Sigma Fastニトロブルーテトラゾリウム−5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスファート(NBT−BCIP)錠剤(シグマアルドリッチ,スイス)を用いて比色検出を行った。
【0079】
マウスの全身免疫。最初に、6〜8週齢のCBA/CaHNBtkxid/J(CBA/N)マウス(ジャクソンラブズ(JacksonLabs),バーハーバー,メイン州)に、2μgの水酸化アルミニウムをアジュバントとして10μgのrPcpAを総容量200μl皮下注射した。2週間後、水酸化アルミニウムを用いて10μgのrPcpAで第2のブーストを行った。2週間後、水酸化アルミニウムを用いずに10μgのrPcpAを含む第3のブーストを行った。次に、このマウスを2週間放置しておき、その後S.pneumoniaeをチャレンジした。感染の24時間前にマウスを脱血した。
【0080】
敗血症のマウスモデル。前述の感染症の全身モデルを用いて肺炎球菌のビルレンスを調べた(Coats,et al,Vaccine 23:4257−62(2005);Ren et al.,Infect.Immun.71:75−85(2003))。6〜8週齢のCBA/Nマウスに、乳酸加リンゲルで希釈したバクテリアを300CFU(colony−forming unit)静脈内注射した。マウスを21間モニターした。触っても反応しなくなり、体温が正常未満まで低下したときマウスを瀕死状態としてスコア化し、その日時を記録した。瀕死状態のマウスをすべてCO2麻酔で安楽死させた。
【0081】
肺炎のマウスモデル。以前に記載されているように肺に感染させた(Balachandran et al.,Infect.Immun.70:2526−34(2002);Briles et al.,J.Infect.Dis.188:339−48(2003);Takashima et al.,Infect.Immun.65:257−260(1997))。6〜8週齢のCBA/Nマウスをイソフルラン(ミンラド(MinRAD),バッファロー,ニューヨーク州)で麻酔し、5×106個のバクテリアを含む40μlの乳酸加リンゲル溶液の懸濁液をマウスの外鼻孔に導入し、誤嚥性肺炎を誘発した。7日後、マウスを屠殺した。屠殺したマウスの鼻腔を、以前に記載されているように50μlの乳酸加リンゲルで洗浄した(Wu et al.,J.Infect.Dis.175:839−46(1997))。鼻洗浄液を連続希釈し、ゲンタマイシン(4μg/ml)を含む血液寒天培地に蒔いた。肺を摘出し、2mlの乳酸加リンゲルが入ったストマッカーバッグに入れ、ホモジナイズし、連続希釈して、3倍連続希釈液に加えたゲンタマイシンを含む血液寒天培地に蒔いた。
【0082】
鼻咽頭定着のマウスモデル:以前に記載されているように鼻腔内接種を行った(Balachandran et al.,Infect.Immun.70:2526−34(2002);Wu et al.,J.Infect.Dis.175:839−46(1997))。6〜8週齢のCBA/Nマウスに、麻酔なしで10μlの乳酸加リンゲル液に加えた106個のバクテリアを鼻腔内感染させた。次に、感染マウスを屠殺し、その鼻腔を50μlのリンゲル溶液で洗浄した。この鼻洗浄液を連続希釈し、ゲンタマイシンを含む血液寒天培地に蒔いた。キャンドルジャーで37℃にて一晩インキュベーションした後、血液寒天プレートから目視可能な数を判定した。
【0083】
統計解析。インスタット(Instat)(グラフパッドソフトウェアインク(GraphPad Software Inc.),サンディエゴ,カリフォルニア州)を用いて統計解析を行った。マンホイットニー(Mann−Whitney)の2標本順位検定を用いて、対照と実験群との瀕死状態になるまでの時間またはCFUの回収数を比較した。p値が0.05未満の場合に統計学的に有意と判定した。
【0084】
結果
S.pneumoniaeの臨床的に重要な菌株にはpcpAが存在する。pcpAのLRR領域をはさんだプライマー(BGP1とBGP2)を用いてPCRにより、pcpAの存在を調べた。調査対象の23株(表2および表3)それぞれで約1500bpフラグメントが得られた。これら菌株のうち8つは、過去25年以内に単離されている臨床菌株で、7価コンジュゲートワクチンがカバーする7種のよく見られる莢膜型の代表的な菌株である(図1)。残りの12株は、ゲノム多様性プロジェクト(http://genome.microbio.uab.edu/strep/info/)の一環として構築された一連の菌株から選択されたS.pneumoniaeのセットである。このプロジェクトは、S.pneumoniaeの幅広い多様性をカバーするため一連の菌株を選択している。これら12株については、MLSTデータに基づき広く多岐にわたるように選択した。4株は重篤な侵襲性疾患の患者由来、5株は無症候性保菌者由来で、2株については疾患/定着が不明であり、1株は世界的な抗生物質耐性クローン由来であった。これらの菌株は、世界の様々な領域における12種の莢膜型の典型である。
【0085】
すべての菌株でPcpAの発現を検査するため、低(≦0.1μM)マンガンで菌株を増殖させた。全細胞タンパク質サンプルを、低マンガン培地で培養した中間対数期細胞から調製した。(表2および表3)に示したすべての菌株を検査したが、7価ワクチンに含まれる莢膜型に相当する菌株のみを示してある(図2)。全細胞タンパク質サンプルをSDS−PAGEにより分離し、ニトロセルロースにトランスファーした。このブロットを抗PcpAポリクローナル抗血清でプローブすると、これら莢膜(capsulare)血清型4、6、9、14、18、19、23の野生株それぞれで約62kDaのバンドが検出された(図2)。この62kDaバンドは、pcpA不活化ミュータントJEN11では存在しなかった一方、7種の典型的な菌株では存在した。また、全細胞タンパク質サンプルについては、同じ菌株を高マンガン培地で増殖させた菌株からも調製したが、抗PcpA抗血清によりバンドは検出されなかった。PCR解析とウエスタンブロットデータの組み合わせから、表2および表3に示すS.pneumoniae株すべてでpcpAが存在することが明らかになった。
【0086】
PcpAは、低マンガン条件下でS.pneumoniaeの表面に露出している。マンガンは、レギュレーターPsaRの作用を介してpcpA遺伝子の転写をコントロールしていることが研究で明らかになっている(Johnston et al,Infect.Immun.74:1171−80(2006))。本明細書に記載のとおり、マンガン依存性制御は、S.pneumoniae表面上のPcpAの存在に直接影響を与え、表面PcpAは、莢膜を持つ肺炎球菌上でも抗体に接触できる。
【0087】
細胞分画を行って、PcpAがS.pneumoniaの細胞壁または細胞膜/サイトゾルと関係があるどうか判定した。これら細胞画分のウエスタンブロット解析から、PcpAは大部分が低マンガン培地で増殖させたバクテリアのS.pneumoniaeの細胞壁に存在することが明らかになった。PcpAの小さな画分は、細胞膜/サイトゾルとの関連性が認められたが、これは、おそらくPcpAがまだバクテリアの表面に運ばれていないのであろう。
【0088】
細胞分画ばかりでなく、野生型S.pneumoniae株TIGR4由来の対数期細胞を、高または低マンガン培地で増殖させ、抗PcpAポリクローナル抗血清、続いてフルオレセインイソチオシアナート(FITC:fluorescein isothiocyanate)コンジュゲート抗ウサギ免疫グロブリンで染色した。具体的には、TIGR4を中間対数期まで高または低Mn2+培地で培養した。バクテリアを、抗PcpAウサギ血清とインキュベートし、続いてFITCコンジュゲート抗ウサギIg抗体とインキュベートした。次に、細胞を、膜色素TMA−DPHを含む4%ホルムアルデヒドで固定した。その後、この標識バクテリアを免疫蛍光顕微鏡により調べた。PcpAに対する抗体は、低マンガンで増幅させたバクテリアの染色に関与できるが、高マンガンで増幅させたバクテリアには関与できない。
【0089】
こうした結果から、PcpAは、インビトロでの低マンガン条件下で培養した野生型S.pneumoniaeの表面に露出していることが明らかになる。これは、PcpAが宿主内の肺および血液などの低マンガン部位に感染しているバクテリアに発現し、表面に露出していることを示唆している。PcpAがこのように露出していることで感染において細菌と宿主上皮との間のPcpA−リガンド相互作用が亢進される。こうした結果からは、マンガン濃度によるPcpA産生の制御を大部分の肺炎球菌に一般化できることも示唆される。
【0090】
rPcpAを免疫すると、抗体が惹起され、肺および全身性感染症に対して保護作用が与えられるが、鼻咽頭定着には大きな作用を及ぼさない。感染症研究に使用する前、マウスを、水酸化アルミニウムを含むrPcpAで免疫するか、水酸化アルミニウムを単独投与した。マウスの2つの群についてELISA(enzyme linked immunosorbent assay)により全Ig(H+L)を定量した。免疫マウスの血清中の抗体特異的PcpAの幾何平均レベルは、0.465(±0.119)μg/ml、これに対してアジュバントを単独投与したマウスでは平均0.002(±0.002)μg/ml(±SEM)であった。これは、免疫経路が、rPcpAに対する免疫反応を惹起させるのに有効であったことを示唆している。
【0091】
免疫によりマウスが肺炎から保護されるかどうかを調べるため、免疫マウスおよびalumのみのマウスを軽麻酔し、外鼻孔にEF3030株を5×106CFU接種した。この手順では、限局性肺炎が認められたが、菌血症は認められなかった。したがって、このモデルにおける保護作用は肺炎自体とは関係があるものの、敗血症全般には無関係である可能性がある。感染から7日後、マウスをすべて屠殺した。ホモジナイズした肺組織および鼻洗浄液の細菌数を判定した。回収したCFUの中央値によれば、rPcpAで免疫したマウスの肺ホモジネートから回収した肺炎球菌数は、アジュバントを単独投与した場合に比べて1/100未満であった(図3A)(P=0.002)。こうした結果から、rPcpAの免疫により、S.pneumoniaeによる肺感染症に対する保護作用を惹起できることが示唆される。マウスの鼻洗浄液から回収した細菌数については、rPcpAで免疫した場合とアジュバントを単独投与した場合とで有意な差はなかった(図3B)。以下に詳述するように、S.pneumoniae株血清型6由来の組換えPcpAΔSPΔCBD(rPcpAΔSPΔCBD)も肺感染を防止するが、肺炎のマウスモデルの定着については防止しなかった。
【0092】
次に、S.pneumoniaeの他の菌株(TJ0893、血清型14;EF9303、血清型23F;およびL82016、血清型6B)による限局性肺感染に対して皮下免疫が保護作用を与えるかどうかを判定した。rPcpAを皮下免疫すると、アジュバントを単独免疫したマウスと比較して、各菌株に対して有意な保護作用が惹起された(図5)。
【0093】
最適な鼻腔定着にはPcpAの発現は必要ない。免疫を行っても肺炎モデルに使用したマウスの鼻洗浄液から回収したバクテリア数に影響がなかったため、鼻咽頭保菌のモデルを用いてpcpA不活性化の作用を調べた。このモデルでは、肺炎モデルのマウスの鼻洗浄液から収集した間接的な観察結果とは異なり、鼻腔保菌に対するPcpAの任意の作用を直接観察できる。マウスに、事前に麻酔せずにEF3030株またはそのpcpA不活化ミュータントJEN18株のどちらかを106CFU接種した。感染から7日後、このマウスを屠殺し、鼻洗浄液を採取して、肺炎球菌を検出するためプレーティングした。EF3030またはJEN18を接種したマウスの鼻洗浄液から回収したバクテリア数には、どちらも有意な差はなかった(図5)。
【0094】
インタクトなpcpAの遺伝子が存在しても、あるいは、rPcpAの皮下免疫を行っても、マウスの鼻洗浄液に回収された肺炎球菌数に影響がないということは、鼻咽頭のマンガン濃度(≧36μM)がpcpA転写を抑制するほど十分に高いことと整合する。こうした条件下では、鼻咽頭におけるpsaRによりpcpA転写が阻止されると考えられる。したがって、この宿主部位ではPcpAに対する免疫がバクテリアにほとんど作用しないことが予想されよう。
【0095】
PcpAおよびPcpAに対する免疫は、全身性感染症のマウスモデルにおけるビルレンスに作用する。敗血症を防止するPcpAに対する免疫能を評価するため、CBA/Nマウスに、水酸化アルミニウムに加えたPcpAを、または対照として水酸化アルミニウムを単独で皮下免疫し、静脈内に莢膜型4、TIGR4S.pneumoniaeをチャレンジした。マウスに菌血症および敗血症を発症させやすくするため、EF3030でなはなくこの菌株を用いた。免疫した動物に、TIGR4株S.pneumoniaeを300CFU静脈内(IV)注射した。生存状況を21日間モニターした。rPcpA免疫を受けたマウスが瀕死状態になるまでの経過時間中央値は、アジュバントを単独投与したマウスと比べて43.5時間伸びた(図6)。rPcpAで免疫したマウスの26パーセントが生存した一方、水酸化アルミニウム単独で免疫マウスはすべて死亡した。この生存の差は統計学的に有意であった(P=0.007)。
【0096】
静脈内接種後にマウスを瀕死状態にさせる肺炎球菌の能力に対するpcpAの不活性化の作用。pcpAを不活性化すると、肺炎マウスモデルおよび肺−敗血症モデルのビルレンスが低下した。本明細書に記載のように、未感染のマウスにTIGR4またはそのpcpA不活化ミュータントJEN11を300CFU感染させて、静脈内チャレンジ後の全身性感染症に対するpcpA不活性化の作用を調べた。pcpA−ミュータントに感染したマウスが瀕死状態になるまでの経過時間中央値は、野生型バクテリアで感染させた場合と比べて31.5時間の伸びた(P=0.0299)(図7)。これは、全身性疾患を発症させるS.pneumoniaeの能力にはPcpAが関与していることを示唆している。
【0097】
(実施例2)
PcpAの粘膜免疫は肺感染を防止する。
【0098】
図8に示すように、PcpAの粘膜免疫は、菌株EF3030による肺感染症を防止する。CBA/Nマウスに5μgのPcpAおよびアジュバントとしてコレラ毒素Bサブユニット(CTB)を鼻腔内免疫した。免疫後マウスを脱血し、次に、菌株EF3030を5×106CFU鼻腔内チャレンジした。図8は、感染から7日後の肺ホモジネートにおけるバクテリアのlogCFUを示す。
【0099】
粘膜免疫による保護作用は、皮下免疫の場合よりも若干高まることが観察された。こうしたデータと実施例1から、少なくとも粘膜経路または皮下経路の投与を用いれば、肺炎および敗血症に対する保護作用が得られることが示唆される。PcpAを粘膜免疫しても、この菌株による鼻腔定着を防止できない。PcpAは定着の過程で発現しないため、鼻腔定着を防止できないことが予想される。
【0100】
(実施例3)
PcpAの皮下または鼻腔内免疫により惹起される抗体。
【0101】
PcpAで免疫したマウスから得られた血清について、PcpAに対する抗体のレベルを調べた。CBA/Nマウスに、0日目および14日目にアジュバントとして水酸化アルミニウムまたはコレラ毒素Bサブユニット(CTB)のどちらかを皮下(SC)免疫し、21日目にPcpAを単独で皮下(SC)免疫した。35日目にマウスを脱血し、血清中の抗体レベルを判定した。判定には、PspAでコートしたマイクロ滴定プレートと反応する既知濃度のPspA抗体で観察される光学密度(OD)を標準として用いた。対照として、別のマウス群を希釈液およびアジュバントのみで免疫した。IgG抗体反応は、鼻腔内(IN)免疫よりもSC免疫で観察された方が1.3倍大きかった(表5)。
【0102】
【表5】
このタイプのアッセイにはつきものであるが、サブクラスの量の合計が全Igの量にならなかった。これは、抗IgG血清がIgGサブクラスのすべてを等しく認識するとは限らないことを示唆している。
【0103】
(実施例4)
肺細胞への付着にはPcpAが必要である。
【0104】
PcpAは、形質転換肺上皮細胞A549細胞株(図9)への付着には必要であるが、形質転換ヒト鼻上皮細胞Detroit562系(図10)への付着には必要ない。A549肺上皮細胞への付着には、PcpAを産生するように肺炎球菌が低Mn2+において増幅する必要があることも観察された。こうした研究のため肺炎球菌を、トッドヒューイットおよび酵素培地(高Mn2+)、あるいはChelex−100(シグマ(Sigma))に通して0.1μmのMnSO4および1mMのZnCl2、MgCl2、CaCl2およびFeSO4で再構成したトッドヒューイットおよび酵素培地(低Mn2+)で増殖させた。(Briles et al.,J.Infect.Dis,188:339−48(2003))。Detroit562またはA549細胞の単層を、TIGR4(pcpA+)またはJEN11(pcpA−TIGR4株)106CFUと150分間インキュベートした。この付着バクテリアを含む上皮細胞を洗浄し、0.5%ツイーン20で溶解した。血液寒天プレートの定量プレーティングでライセート中の肺炎球菌の数を判定した。
【0105】
肺炎球菌のA549細胞への付着は、PcpAに対する抗体で阻害される(図11)。こうしたデータは、肺炎球菌の肺上皮細胞への付着がPcpA依存性であることを示唆している。
【0106】
(実施例5)
受動防御モデル。
【0107】
PcpAによる能動免疫が肺感染に対する保護作用を惹起できることから、PcpAに対する抗体がマウスを肺感染から受動的に保護できるかどうかを判定した。しかしながら、肺炎モデルでは受動防御はまだ観察されていない。第2の受動免疫研究では、PcpAに対するウサギ免疫血清を用いて、TIGR4株による静脈内(IV)敗血症に対する受動防御を判定した。検査対象の最高濃度(1/10)の血清ではマウス2匹の死を予防できることが観察された(図12)。非免疫血清では、同じ濃度でも防止することができなかった。こうしたデータから、受動免疫は、予防が困難な場合がある菌株、TIGR4株を予防することができると考えられる(Roche et al,Infect,Immun,71:4498−505(2003))。
【0108】
(実施例6)
PcpAおよびニューモリシンによる保護作用
ニューモリシン(Ply)は、肺感染に対してある程度の保護作用を惹起し得るもう1つのタンパク質である(Briles et al.,J.Infect.Dis.188:339−48(2003))。ニューモリシンおよびPcpAはともに、タンパク質ベースの肺炎球菌ワクチンの候補物質であるため、この2つのタンパク質について、免疫源として併用した場合、どちらかを単独で使用するよりも肺感染に対する保護作用が高まるかどうかを判定した。マウスにPcpA5μg、ニューモリシン5μgまたはPcpA5μgとニューモリシン5μgを3回免疫した。最初の2回の注射ではalumを用い、3回目の注射ではタンパク質単独で行った。今回使用したニューモリシンは、野生型ニューモリシンであった。図13は、ニューモリシンが肺感染に対して、PcpAが惹起するのと類似の保護作用を惹起することを示す。PcpAとニューモリシンを組み合わせると、ニューモリシン単独の場合よりも保護作用が著しく高まった。こうしたデータから、PcpAおよびニューモリシンを併用することで保護作用が得られることが示唆される。
【0109】
(実施例7)
他の肺炎球菌に対する交差防御。
【0110】
PcpAが交差防御を惹起するかどうかを判定するため、上述の方法を用いて実施例1〜2に記載した以外の菌株を検査してもよい。敗血症の研究の場合、TIGR4の他にWU2、A66、BG7322、EF6796、D39などの菌株が検査対象となる。これらの菌株の莢膜型は、3、3、6B、6Aおよび2である。肺感染を調べるには、限局性肺感染のマウスモデルでうまく行く菌株を用いる。こうした菌株として、EF9309、TG0893、L82016、BG7322およびEF6796が挙げられる。これらの莢膜型は、23F、14、6B、6Bおよび6Aである。
【0111】
(実施例8)
Streptococcus pneumoniae血清型6由来の組換えPcpAのクローニングおよび発現。
【0112】
Streptococcus pneumoniae血清型6株、14453、アメリカンタイプカルチャーコレクション指定番号55987由来のpcpA遺伝子のフラグメントを以下のとおりクローニングした。このpcpA遺伝子は、PcpA C末端コリン結合ドメイン(CBD)のリピートをコードする部分と天然のシグナルペプチド(SP)配列をコードする部分とを欠損している。この遺伝子を、図14に示すようにNdeIとXhoIのクローニング部位の間のpET−30a(ノバゲンインク,マディソン,ウィスコンシン州)にクローニングした。内部pcpA遺伝子(ΔSPΔCBD1335bp)の遺伝子フラグメントを、Streptococcus pneumoniae血清型6株染色体(choromosomal)DNAからポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)で増幅した。オリゴヌクレオチドプライマーとして
5’−TAGCCTCGAGTTAACCTTTGTCTTTAACCCAACCAACTACTCCCTGATTAG−3’(配列番号43)および
5’−CTAATGAACCACATATGGCAGATACTCCTAGTTCGGAAGTAATC−3’(配列番号44)
を用いた。実施例1に記載されているようにPCR反応を行った。PCRプライマーに制限エンドヌクレアーゼ部位NdeIおよびXhoIを導入した。PcpAΔSPΔCBDをコードする得られた1335塩基対フラグメントは、どちらかの末端にNdeIおよびXhoI部位を含んでいた。増幅したフラグメントをゲル精製し、NdeIおよびXhoIで消化してから、このpcpA遺伝子フラグメントを、強力なT7プロモーターおよび翻訳シグナルを用いてpET−30aベクター(ノバゲンインク,マディソン,ウィスコンシン州)のNdeI部位とXhoI部位の間にライゲートした(図14)。DNAシーケンシングの結果、組換えプラスミドpJMS87は、pcpA遺伝子フラグメントΔSPΔCBD1335bpを含むことが確認された。プラスミドpJMS87をタンパク質製造のためE.coli株BL21(DE3)に形質転換した。IPTGで誘導して、このE.coli株に天然のシグナルペプチド(ΔSP)およびC末端コリン結合ドメイン(ΔCBD)を欠損しているPcpAタンパク質を発現させた。SDS−PAGE解析でこの発現タンパク質を確認した。
【0113】
rPcpAタンパク質(PcpAΔSPΔCBDとも呼ぶ)の配列は、以下のとおりである。下線で示す残基(M)は、クローニングベクター由来である。
【0114】
【化3】
(実施例9)
PcpAΔSPΔCBDの免疫は、敗血症モデルの肺炎に対して保護作用を惹起する。
【0115】
PcpAΔSPΔCBDがマウスの敗血症モデルにおいて感染症を防止するかどうかを判定するため、マウスに、精製した組換えPcpAΔSPΔCBD(rPcpAΔSPΔCBD)を1用量当たり10、5、2.5、1.25および0.625μg免疫し、S.pneumoniae株WUBM3を1匹当たり約300CFUチャレンジした。このrPcpAΔSPΔCBDについては、リン酸アルミニウムアジュバントで製剤化した。
【0116】
簡単に説明すると、マウスに、対照のPBSアジュバント、30μgの3価組換えPspAタンパク質を含むS.pneumoniae PspAタンパク質、あるいは1用量当たり10、5、2.5、1.25または0.625μgのrPcpAΔSPΔCBDを免疫した。健康なBALB/c K−72雌マウス(チャールスリバーラボラトリーズ(Charles River Laboratories),ウィルミントン,マサチューセッツ州)(各群およそ14匹)を0日目に皮下(s.c.)免疫した。21日目に2回目の免疫および43日目に3回目の免疫を行った。63日目に、このマウスにS.pneumoniae株WU2BM3バクテリア約300CFUを0.4ml用量腹腔内(IP)チャレンジした。生存率を時間(日数)に対してプロットして図15Aに示す。チャレンジから7日目の生存率を図15Bに示す。
【0117】
これらの結果は、rPcpAが1用量当たり少なくとも約0.625μgから少なくとも約10μgで保護作用を持つことを示す。rPcpAではアジュバント対照群と比較して統計学的に有意な保護作用が得られた(片側または両側のフィッシャーの正確確率検定)。
【0118】
【表6】
(実施例10)
PcpAΔSPΔCBDの免疫は、肺炎に対する保護作用を惹起する。
【0119】
マウス肺炎モデルにおいて実施例5のrPcpAタンパク質を用いて、S.pneumoniae株EF3030のチャレンジに対するこのタンパク質の保護作用の有効性も検査した。CBA/Nマウス10匹群に、表7に示すような免疫原製剤200μlを3週間おきに3回(0日目、21日目および42日目)皮下免疫した。3回目の免疫から3週間後(63日目)、このマウスに麻酔下でEF3030株を鼻腔内に5.6×106CFUチャレンジした。チャレンジから5日後(68日目)、マウスを屠殺し、肺組織および血液を摘出してCFUを回収するためプレーティングした。この免疫群をリン酸アルミニウムアジュバント3mg/mlで製剤化した。
【0120】
【表7】
3価PspA免疫原は、S.pneumoniae由来のPspA Rx1−M1、EF3296およびEF5668で構成した。
【0121】
結果を図16に示す。rPcpAタンパク質は、対照群(アジュバント単独は群1)と比較して保護作用が顕著であり(群3〜6)、陽性対照(群2がPspA)に対しては同等レベルであった。マンホイットニー検定によるp値を表8に示す。
【0122】
【表8】
本明細書に引用する刊行物および刊行物に記載の材料については、その全体を参照によって本明細書に明確に援用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Streptococcus pneumoniae血清型6由来の天然型PcpAの1つまたは複数のロイシンに富んだ領域を含む、PcpAの免疫原性フラグメント。
【請求項2】
前記フラグメントが配列番号45を含む、請求項1に記載の免疫原性フラグメント。
【請求項3】
請求項2に記載の免疫原性フラグメントおよび薬学的に許容されるキャリアを含む、組成物。
【請求項4】
アジュバントをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
免疫原性Staphylococcusポリペプチドをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
PspAの免疫原性フラグメント、ニューモリシンまたはこれらの組み合わせをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は、粘膜表面への投与に好適である、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、点鼻薬である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、ネブライザー溶液である、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物は、エアロゾル吸入剤である、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
請求項3に記載の組成物を含む、容器。
【請求項12】
前記容器は、鼻噴霧器である、請求項11に記載の容器。
【請求項13】
前記容器は、ネブライザーである、請求項11に記載の容器。
【請求項14】
前記容器は、吸入器である、請求項11に記載の容器。
【請求項15】
被検体においてPcpAに対する抗体を産生する方法であって、請求項2に記載の免疫原性フラグメントを前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項16】
被検体において肺炎球菌の鼻腔保菌を防止または抑制する方法であって、請求項2に記載の免疫原性フラグメントを前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項17】
被検体において肺炎球菌感染症の危険性を低下させる方法であって、2に記載の免疫原性フラグメントを前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項18】
前記肺炎球菌(pneucococcal)感染症は、髄膜炎である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記肺炎球菌(pneucococcal)感染症は、中耳炎である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記肺炎球菌(pneucococcal)感染症は、肺炎である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記肺炎球菌(pneucococcal)感染症は、溶血性尿毒症である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記免疫原性フラグメントを投与しても、肺炎球菌(peneumococcal)の鼻腔保菌が皆無にならない、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記配列番号45のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、単離されたポリペプチド。
【請求項1】
Streptococcus pneumoniae血清型6由来の天然型PcpAの1つまたは複数のロイシンに富んだ領域を含む、PcpAの免疫原性フラグメント。
【請求項2】
前記フラグメントが配列番号45を含む、請求項1に記載の免疫原性フラグメント。
【請求項3】
請求項2に記載の免疫原性フラグメントおよび薬学的に許容されるキャリアを含む、組成物。
【請求項4】
アジュバントをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
免疫原性Staphylococcusポリペプチドをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
PspAの免疫原性フラグメント、ニューモリシンまたはこれらの組み合わせをさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は、粘膜表面への投与に好適である、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、点鼻薬である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、ネブライザー溶液である、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物は、エアロゾル吸入剤である、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
請求項3に記載の組成物を含む、容器。
【請求項12】
前記容器は、鼻噴霧器である、請求項11に記載の容器。
【請求項13】
前記容器は、ネブライザーである、請求項11に記載の容器。
【請求項14】
前記容器は、吸入器である、請求項11に記載の容器。
【請求項15】
被検体においてPcpAに対する抗体を産生する方法であって、請求項2に記載の免疫原性フラグメントを前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項16】
被検体において肺炎球菌の鼻腔保菌を防止または抑制する方法であって、請求項2に記載の免疫原性フラグメントを前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項17】
被検体において肺炎球菌感染症の危険性を低下させる方法であって、2に記載の免疫原性フラグメントを前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項18】
前記肺炎球菌(pneucococcal)感染症は、髄膜炎である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記肺炎球菌(pneucococcal)感染症は、中耳炎である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記肺炎球菌(pneucococcal)感染症は、肺炎である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記肺炎球菌(pneucococcal)感染症は、溶血性尿毒症である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記免疫原性フラグメントを投与しても、肺炎球菌(peneumococcal)の鼻腔保菌が皆無にならない、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記配列番号45のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、単離されたポリペプチド。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【公表番号】特表2010−501012(P2010−501012A)
【公表日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524814(P2009−524814)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/076180
【国際公開番号】WO2008/022302
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(506385335)ザ ユーエービー リサーチ ファウンデーション (10)
【出願人】(509044671)サノフィ パステュール リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/076180
【国際公開番号】WO2008/022302
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(506385335)ザ ユーエービー リサーチ ファウンデーション (10)
【出願人】(509044671)サノフィ パステュール リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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