説明

免疫寛容機構の解除を用いる抗体の製造方法及び自己免疫疾患モデル動物の製造方法

【課題】従来は抗体の作製が困難であった自己抗原と類似性の高い抗原、特にノックアウトマウスが致死となるために使用できない抗原に対しても効率よく抗体を産生することができる抗体の製造方法、及び、自然発生では低い確率でしか得られない所望の病態を発現できる自己免疫疾患モデル動物の製造方法を提供すること。
【解決手段】制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞を、内在性T細胞を有さない非ヒト動物に移入し、該非ヒト動物に抗原を投与して該非ヒト動物に抗体を産生させることを含む、抗体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫動物における免疫寛容機構を解除することを特徴とする抗体の製造方法及び自己免疫疾患モデル動物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、免疫寛容機構を人為的に解除した動物に外来抗原を免疫することを特徴とする、抗体の製造方法及び自己免疫疾患モデル動物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体産生反応をはじめとする免疫反応は、微生物などの異物を排除するために生体に備わる防御機構である。その一方で免疫反応が自己を傷害しないように、生体には、自己由来の抗原に対する免疫反応を防ぐ免疫寛容の機構も備わっている。免疫寛容には大別して中枢性免疫寛容と末梢性免疫寛容の2つの機構が存在する。自己反応性T細胞はアポトーシスにより胸腺で除去される(中枢性免疫寛容)。しかしながら、一部の自己反応性T細胞は胸腺での除去を免れて末梢に現れる。末梢では制御性T細胞(Regulatory T-cells;Treg)と呼ばれるT細胞が自己反応性T細胞の活性化を抑制することにより、自己免疫反応の惹起を防いでいる(末梢性免疫寛容)(非特許文献1)。
【0003】
抗体は抗原の生体内分布の確認や作用機序の解明のツール、さらには治療、診断の試薬として重要である。マウス、ラット、ウサギ等の動物に蛋白質、ペプチドなどの抗原を投与して抗体を作成する技術は広く用いられている。しかしながら自己抗原と相同性の高い抗原に対しては異なる生物種由来の抗原であっても自己抗原と認識されて免疫寛容の機構が働くため、抗体が産生されにくい。生理的に重要な機能を持つ抗原の多くは動物種間で構造がよく保存されているため、抗体の作成が困難である。
【0004】
近年、中枢性免疫寛容を回避するために、目的抗原の遺伝子を発現しない遺伝子ノックアウトマウスを免疫動物として用いて抗体作成に成功した例が報告されている(非特許文献2)。 しかし、ノックアウトマウスの作製には多大な時間、労力、費用がかかり、また遺伝子によってはノックアウトマウスが胎生致死となるために使用不可能な場合も多い。
【0005】
特許文献1には、生体内の免疫寛容を人為的に抑制することによって従来方法では免疫寛容が成立しやすいペプチドや蛋白質の抗原に対する抗体を作製する方法として、GITRアゴニストを免疫動物に投与して当該免疫動物生体内の免疫寛容を抑制し、当該免疫動物に抗原を投与することを特徴とする当該抗原に対する抗体の作製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2006/132272号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sakaguchi et al., Cell 133, 775-787, 2008
【非特許文献2】Saitoh et al., J. Immunol.Methods, 322, 104-117, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来は抗体の作製が困難であった自己抗原と類似性の高い抗原、特にノックアウトマウスが致死となるために使用できない抗原に対しても効率よく抗体を産生することができる抗体の製造方法、及び任意の抗原の投与により所望の病態を発現できる自己免疫疾患モデル動物の製造方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞を、内在性T細胞を有さない非ヒト動物に移入し、該非ヒト動物に抗原を投与することによって、上記非ヒト動物において上記抗原に対する抗体を効率よく産生できること、及び上記非ヒト動物が自己免疫疾患の病態を示すことを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞を、内在性T細胞を有さない非ヒト動物に移入し、該非ヒト動物に抗原を投与して該非ヒト動物に抗体を産生させることを含む、抗体の製造方法。
(2) 制御性T細胞がCD25陽性細胞である、(1)に記載の方法。
(3) 制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞が、脾臓細胞から制御性T細胞を除去した細胞である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 非ヒト動物がげっ歯類である、(1)から(3)の何れかに記載の方法。
(5) 非ヒト動物がマウスである、(1)から(4)の何れかに記載の方法。
(6) 抗原が、該非ヒト動物で免疫寛容が成立しやすいペプチド又は蛋白質である、(1)から(5)の何れかに記載の方法。
(7) 抗原が、該非ヒト動物に存在するペプチド又は蛋白質と高い相同性を有するものである、(1)から(6)の何れかに記載の方法。
(8) 抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、(1)から(7)の何れかに記載の方法。
(9) 前記非ヒト動物に前記抗原を投与後、前記非ヒト動物の免疫細胞を用いて作製したハイブリドーマで当該抗原に対する抗体を産生する、(1)から(7)の何れかに記載の方法。
(10) 制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞を、内在性T細胞を有さない非ヒト動物に移入し、該非ヒト動物に抗原を投与して該非ヒト動物に自己免疫反応を生じさせることを含む、自己免疫疾患モデル動物の製造方法。
(11) 制御性T細胞がCD25陽性細胞である、(10)に記載の方法。
(12) 制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞が、脾臓細胞から制御性T細胞を除去した細胞である、(10)又は(11)に記載の方法。
(13) 非ヒト動物がげっ歯類である、(10)から(12)の何れかに記載の方法。
(14) 非ヒト動物がマウスである、(10)から(13)の何れかに記載の方法。
(15) 抗原が、該非ヒト動物で免疫寛容が成立しやすいペプチド又は蛋白質である、(10)から(14)の何れかに記載の方法。
(16) 抗原が、該非ヒト動物に存在するペプチド又は蛋白質と高い相同性を有するものである、(10)から(15)の何れかに記載の方法。
(17) 自己免疫疾患モデル動物が甲状腺炎および/又は胃炎を発症している、(10)から(16)の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自己抗原と類似性の高い抗原、特にノックアウトマウスが致死となるために使用できない抗原に対しても効率よく抗体を製造することができる。さらに、本発明によれば、自然発生では低い確率でしか得られない所望の自己免疫疾患の病態を発現できる自己免疫疾患モデル動物を、自己抗原と類似性の高い抗原を投与することにより効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、T reg除去の確認(フローサイトメトリー)を示す。
【図2】図2は、マウスサイログロブリン(Tg)精製物のSDS-PAGE(ウシ Tg(シグマ社製標品)との比較)を示す。
【図3】図3は、マウスサイログロブリン免疫による血中抗体価の経時変化/ELISAによる測定を示す。
【図4】図4は、T reg除去脾臓細胞移入ヌードマウス(マウスサイログロブリン免疫を行なわなかった群)の血中抗体価の経時変化/ELISAによる測定を示す。
【図5】図5は、T reg除去脾臓細胞移入群(群1,群2)の胃および甲状腺のHE染色を示す。
【図6】図6は、陰性コントロール群(群3,群4)の胃および甲状腺のHE染色を示す。
【図7】図7は、T reg除去脾臓細胞移入/免疫なし群(群5)の胃および甲状腺のHE染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
末梢性免疫寛容を司る制御性T細胞はCD4陽性CD25陽性のフェノタイプを示す。正常マウス脾臓細胞よりCD25陽性細胞を除去し、内在性T細胞を持たないヌードマウスに移植すると、種々の臓器に対する自己免疫反応が惹起される。(Sakaguchi et al., J. Immunol. 155, 1151-1164, 1995)本発明ではこのシステムを抗体作成に応用し、外来性に免疫した自己抗原(又は自己抗原様抗原)に対して抗体を産生させることを目的とした。具体的には、CD25陽性細胞を除去したマウス脾臓細胞を移植したヌードマウスに自己抗原蛋白(マウスサイログロブリン)を免疫した。これらのマウスは、血中に抗マウスサイログロブリン抗体を産生し、更にサイログロブリン発現臓器である甲状腺への顕著な細胞浸潤がみられた。すなわち甲状腺にたいする自己免疫反応が惹起されていた。この技術は自己抗原と類似性の高い抗原に対する抗体作成に有効であるとともに、自己免疫疾患モデル動物の効率よい作成にも有用であることが示された。
【0014】
具体的には、本発明者らは、まず正常BALB/cマウス脾臓細胞から制御性T細胞であるCD25陽性細胞を除いた細胞を調製し、内在性T細胞を持たない同系ヌードマウスに移入した。この再構成ヌードマウスに、自己抗原蛋白であるマウスサイログロブリンをアジュバントと共に免疫し、経日的に採血して、血中抗マウスサイログロブリン抗体価をELISA法により測定した。また、約3ヶ月後に、甲状腺を採取し、病理組織学的解析を行った。その結果、CD25陽性細胞を除去した脾臓細胞を移入し、マウスサイログロブリンで免疫したヌードマウスでは、全例で血中に抗マウスサイログロブリン抗体価が検出された。CD25陽性細胞を除去しない脾臓細胞を移入し、マウスサイログロブリンで免疫した陰性コントロール群では、1例のみで軽微な一過性の上昇を認めた以外は、抗マウスサイログロブリン抗体価の上昇はみられなかった。また、CD25陽性細胞除去脾臓細胞を移入し、マウスサイログロブリンで免疫したヌードマウスでは、甲状腺に顕著な細胞浸潤が見られ、自己免疫性甲状腺炎が起こっていた。上記の結果から、本システムは自己抗原と類似性の高い抗原に対する抗体作製に有用であり、更に自己免疫病モデル動物の作製にも有用であることが示された。
【0015】
即ち、本発明は、制御性T細胞を除去して末梢性免疫寛容の機構を人為的に解除した免疫動物を作成して、(1)この動物に抗原を外来性に免疫することにより、従来は抗体作製が困難であった自己抗原と類似性の高い抗原、特にノックアウトマウスが致死となるために使用できない抗原に対しても効率よく抗体を産生させる技術、(2)この動物に自己(様)抗原を免疫することにより自己免疫疾患モデル動物を作成する技術を提供する。
【0016】
(1)内在性T細胞を有さない非ヒト動物への、制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞の移入
内在性T細胞を有さない非ヒト動物としては、抗原を免疫するための免疫動物として使用できるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、或いはトリ、ウサギ、サル等が使用される。内在性T細胞を有さないマウスとしては、ヌードマウスを使用することができる(Nehls et al., Nature 372: 103-107, 1994.)。また、内在性T細胞を有さないラットとしては、ヌードラットを使用することができる。
【0017】
制御性T細胞(Regulatory T-cells;Treg)とは、T細胞サブセットの一つであり、免疫抑制機能に関与している。制御性T細胞は、内在性制御性T細胞と、誘導性制御性T細胞の二つに分類されている。内在性制御性T細胞は、胸腺内で発生し、誘導性制御性T細胞はTGF−βの存在下における抗原刺激により末梢血中のナイーブT細胞から分化誘導され、いずれも免疫寛容に関与している。制御性T細胞としてはCD4陽性CD25陽性制御性T細胞、Vα14抗原を発現するNKT(natural killer T)細胞、CD8陽性CD122陽性T細胞、タイプI制御性T (T regulatory 1)細胞、Qa-1a拘束性CD8陽性制御性T細胞などを挙げることができる。
【0018】
また、制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞としては、脾臓細胞から制御性T細胞を除去した細胞を使用することができる。制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞は、CD25陽性細胞の除去により調製することができる。制御性T細胞のマーカーとしては、他にCD45RB低発現性、GITR高発現性、4型葉酸受容体陽性 (T Ymaguchi et al.,Immunity 27,1-5, July 2007)などが挙げられ、これらの1または2以上の組合せにより制御性T細胞を鑑別することができる。制御性T細胞の除去は、フローサイトメトリー、免疫磁気ビーズ分離法等の公知の方法を用いて行う。
【0019】
(2)本発明で用いる抗原
本発明においては、制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞を、内在性T細胞を有さない非ヒト動物に移入し、所望の抗原を当該非ヒト動物(免疫動物)に投与する。なお、所望の抗原を非ヒト動物に投与し、制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞を非ヒト動物に移入して、当該抗原に対する抗体を作製してもよい。上記により、免疫寛容を抑制した非ヒト免疫動物が所望の抗原に感作されて、所望の抗原に対する抗体を作製することができる。
【0020】
本発明における抗原は、いかなるペプチド又は蛋白質でもよい。好ましくは、免疫動物で免疫寛容が成立するペプチド又は蛋白質であり、免疫動物の体内、特に血球系・血管系に存在(由来)するペプチド又は蛋白質と高い相同性を有する抗原でもよい。免疫動物に存在するペプチド又は蛋白質のアミノ酸配列と高い相同性を有する抗原は免疫寛容が成立しているため当該抗原を投与しても抗体が産生されにくいためである。ここで、本発明において高い相同性とは、通常アミノ酸配列において70%以上の相同性、好ましくは90%以上の相同性、さらに95%以上の相同性である。この相同性の決定は、Wilbur,W.J.及びLipman D.J.が記載したアルゴリズムによる(Wilbur,W.J.and Lipman,D.J.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1983)80,726−730)。かかる免疫動物に内在性に存在する物質と同一または相同性が高い抗原を、本明細書では自己(様)抗原とする。
【0021】
本発明における血球系・血管系において存在の多いペプチド又は蛋白質とは、次のようなものを意味する。血球系についてはB細胞又はマクロファージ、樹状細胞等に発現されているペプチド又は蛋白質が挙げられ、血管系については内皮細胞等に発現されているペプチド又は蛋白質が挙げられる。具体的には、ケモカイン受容体等のGPCR並びに細胞接着因子が挙げられる。
【0022】
(3)抗原に対する抗体の製造
抗原に対する抗体の作製方法について説明する。本発明で製造される抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0023】
ポリクローナル抗体を製造する場合には、非ヒト動物に抗原を投与して、該動物から血液を採取し、採取した血液から抗体を分離・精製することにより得ることができる。免疫感作は、通常の免疫感作の方法に従い、例えば抗原を1回以上投与することにより行うことができる。
【0024】
抗原投与は、例えば、3日から30日、特に4から25日間隔で2または3回投与することが好ましく、投与量も適宜選択できる。抗原の投与経路も特に限定されず、皮下投与、皮内投与、腹膜腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与等を適宜選択することができるが、静脈内、腹膜腔内もしくは皮下に注射することにより投与することが好ましい。
【0025】
また、抗原は適当な緩衝液、例えば完全フロイントアジュバント、RAS〔MPL(Monophosphoryl Lipid A)+TDM(Synthetic Trehalose Dicorynomycolate)+CWS(Cell Wall Skeleton) アジュバントシステム〕 、百日咳毒素アジュバント(PTX)、水酸化アルミニウム等の通常用いられるアジュバントを含有する適当な緩衝液に溶解して用いることができるが、投与経路や条件等によっては、上記したアジュバントは使用しない場合もある。
【0026】
また、抗原を免疫動物に投与して免疫する際には、当該抗原を適当な担体と結合して使用することもできる。特に分子量の小さい部分ペプチドを感作抗原として用いる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体蛋白質と結合させて免疫することが望ましい。
【0027】
免疫感作した哺乳動物を、例えば0.5から4ケ月間飼育した後、該哺乳動物の血清を耳静脈等から少量サンプリングし、抗体価を測定する。抗体価が上昇してきたら、状況に応じて抗原の投与を適当回数実施する。例えば100μg〜1000μgの抗原を用いて追加免疫を行なう。最後の投与から1〜2ケ月後に免疫感作した哺乳動物から通常の方法により血液を採取して、該血液を、例えば遠心分離、硫酸アンモニウムまたはポリエチレングリコールを用いた沈澱、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の通常の方法によって分離・精製することにより、ポリクローナル抗血清として、所望のポリクローナル抗体を得ることができる。
【0028】
また、モノクローナル抗体を作製する場合には、例えば、抗体産生細胞とミエローマ細胞株との細胞融合によりハイブリドーマを作製することにより所望のモノクローナル抗体を得ることができる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、以下のような細胞融合法によって得ることができる。
【0029】
非ヒト動物への抗原の投与は上記と同様に行うことができる。血中抗体価の上昇を確認した後、当該動物から免疫細胞を採取する。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0030】
採取された免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、例えば、ケーラーとミルステイン等の方法(Kohler.G.and Milstein,C.、Methods Enzymol.(1981)73,3−46)等に準じて行うことができる。前記採取された免疫細胞と融合される他方の親細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞を用いる。このミエローマ細胞としては、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J.Immnol.(1979)123,1548−1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81,1−7)、NS−1(Kohler.G.and Milstein,C.Eur.J.Immunol.(1976)6,511−519)、MPC−11(Margulies.D.H.et al.,Cell(1976)8,405−415)、SP2/0(Shulman,M.et al.,Nature(1978)276,269−270)、FO(de St.Groth,S.F.et al.,J.Immunol.Methods(1980)35,1−21)、S194(Trowbridge,I.S.J.Exp.Med.(1978)148,313−323)、R210(Galfre,G.et al.,Nature(1979)277,131−133)等が挙げられる。
【0031】
より具体的には、前記採取された免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、さらに所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0032】
細胞融合の際、前記採取された免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定することができる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0033】
前記採取された免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液(例えば平均分子量1000〜6000程度)を通常30〜60%(w/v)の濃度で添加して混合することによって細胞融合させて目的とする融合細胞(以下、ハイブリドーマという。)を形成する。続いて、当該ハイブリドーマに適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。
【0034】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培養液)で培養することにより、選択される。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。
【0035】
ハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅後、ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニング及び単一クローニングを行うことがきる。目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニング及び単一クローニングは、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法で行えばよい。例えば、ポリスチレン等でできたビーズや市販の96穴マイクロタイタープレート等の担体に抗原を結合させ、ハイブリドーマの培養上清と反応させ、担体を洗浄した後に酵素標識二次抗体等を反応させることにより、培養上清中に感作抗原と反応する目的とする抗体が含まれるかどうか決定できる。目的の抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングすることができる。この際、抗原としては免疫に用いたものを用いればよい。このようにして作製されたモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0036】
前記ハイブリドーマからモノクローナル抗体を産生する方法として、上記で得られたハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から抗体を採取する方法、又は上記で得られたハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として抗体を得る方法等が挙げられる。また、上記で得られたハイブリドーマから目的の抗体を発現する遺伝子をクローニングし、適当な発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いてモノクローナル抗体を産生させることができる。(例えば、Vandamme,A.M.et al.,Eur.J.Biochem.(1990)192,767−775,1990参照)。
【0037】
上記で産生された抗体は、通常の蛋白質の分離、精製法により、細胞や宿主動物から分離、精製する。蛋白質の分離、精製法として、例えば、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(GPC)、限外濾過膜、塩析、透析等の適宜選択、組み合わせが挙げられる(Antibodies A Laboratory Manual.Ed Harlow,David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)。このとき、抗体の検出は、抗原エライザ法、UV検出等を用いることができる。抗体を特異的に分離、精製することができるアフィニティーカラムクロマトグラフィーが好ましく、アフィニティーカラムクロマトグラフィーとして、例えば、プロテインAカラムとして、Hyper D、POROS、Sepharose F.F.(GE Healthcare Bioscience製)等が挙げられる。
【0038】
以上により、生体で免疫寛容が成立しやすい既知又は新規のペプチドや蛋白質の抗原に対する抗体を効率よく作製することができる。また、既知又は新規のペプチドや蛋白質の作用・生体内分布及び蛋白質相互作用を解明するツールを効率良く提供するばかりでなく、新規治療薬の開発も可能にすることができる。
【0039】
(4)自己免疫疾患モデル動物の製造方法
所望の抗原に対する抗体の製造の場合と同様に、制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞を、内在性T細胞を有さない非ヒト動物に移入し、該非ヒト動物に自己(様)抗原を投与することによって、該非ヒト動物に自己免疫反応を生じさせることができる。このような非ヒト動物は、自己免疫疾患モデル動物として有用である。自己免疫反応の結果として、甲状腺炎および/又は胃炎を発症する場合があり、本発明の自己免疫疾患モデル動物としては、このような甲状腺炎および/又は胃炎を発症しているものを挙げることが出来る。また、自己免疫疾患モデル動物の製造の際に用いることができる抗原としては、以下のものを挙げることができ、表1に示す抗原を投与することにより、抗原に対応する自己免疫疾患モデル動物を得ることができる。
【0040】
【表1】

【0041】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
<方法>
(1)制御性T細胞(以下T reg)除去マウスの作製方法
BALB/c マウス(日本クレア社製)から脾臓を摘出し、氷冷したRPMI1640(シグマ社製), 1%牛胎児血清(以下FBS)添加培地中でほぐし、メッシュで濾過して組織残査を除去後、遠心(1300回転5分間,4℃)で細胞を回収した。細胞ペレットに氷冷した溶血剤(シグマ社製)を加えてよく懸濁し、溶血剤の9倍容のRPMI1640, 1%FBS溶液を加えて溶血反応を停止させた。遠心(1300回転5分間,4℃)で溶血剤を含む上清を除去した。細胞ペレットに、RPMI1640, 1%FBS溶液を加えよく懸濁後再度遠心し、上清を除去、細胞を回収した。細胞ペレットに氷冷したPBS 2mM EDTA 1%FBS溶液(以下MACS buffer)を加えてよく懸濁し、細胞数をカウントし、細胞未処理時のフローサイトメトリー解析用パイロットサンプルを取り分けた(FACSサンプル−1)。遠心(1300回転5分間,4℃)で上清を除去して細胞を回収し、MACS bufferで1×108 cells/mLとなるように再懸濁し、細胞 懸濁液(A)とした。
【0043】
T reg除去は、CD25 MicroBeads Kit mouse(ミルテニーバイオテク社製)を用いて行なった。キットコンポーネントのPE標識抗CD25抗体溶液を、細胞1×107 cells当たり10uLの比率で細胞懸濁液(A)に添加し、4℃遮光条件下で15分間反応させた。反応後、遠心(1300回転5分間,4℃)で上清を除去し、細胞をMACS bufferで懸濁後、PE標識抗CD25抗体処理後/MACSビーズ添加前のフローサイトメトリー解析用パイロットサンプルを取り分けた(FACSサンプル−2)。遠心(1300回転5分間,4℃)で上清を除去し、細胞ペレットに、1×107 cells当たり90μLのMACS bufferと、10μLの抗PE抗体結合磁気ビーズ(キットコンポーネント,以下MACSビーズ)を添加し、4℃遮光条件下で15分間反応させた。反応後、遠心(1300回転5分間,4℃)で上清を除去し、細胞をMACS bufferで懸濁後、再遠心して細胞を洗浄した。細胞ペレットにMACS bufferを添加し、よく懸濁後メッシュを通して細胞の凝集塊を除去した。遠心(1300回転 5分間, 4℃)後上清を除去し、MACS bufferを1×108 cells/mLとなるように懸濁し、細胞 懸濁液(B)とした。
【0044】
細胞懸濁液(B)をMACS-LSカラム(ミルテニーバイオテク社製)にアプライし、素通り画分を回収した。遠心(1300回転 5分間, 4℃)後上清を除去し、細胞ペレットに生理的食塩水を添加してよく懸濁し、細胞数をカウントし、抗CD25抗体処理後/MACSビーズ・カラム処理後のフローサイトメトリー解析用パイロットサンプルを取り分けた(FACSサンプル-3)。細胞を遠心(1300回転 5分間, 4℃)後、上清を除去し、生理的食塩水に再懸濁し、細胞数が2×108 cells/mLになるように調製した。1mLディスポシリンジに細胞懸濁液を分注し、BALB/cヌードマウス(nu/nu)(日本クレア社製)に1匹当たり200μL静脈注射した。
【0045】
FACSサンプル−1,2,3については、PE標識を指標にFACS解析を行い、CD25+T細胞(T reg細胞)が、MACSビーズおよびMACS-LSカラム処理によって除去されていることを確認した(図1a)〜c))。陰性コントロール群としては、同様に採取した脾臓細胞をPE標識抗CD25抗体処理およびMACSビーズ処理を行なわずに、MACS-LSカラムにアプライし、素通り画分として回収した細胞をヌードマウスに静脈注射したものを用いた。
【0046】
(2)マウスサイログロブリンの調製
自己抗原として、マウスサイログロブリンをマウス甲状腺から抽出、調製した(Zhou et al, International Journal of Food Microbiology 103(2005)97-104)。マウス甲状腺(フナコシ株式会社製)100個を氷冷しながら解凍し、氷冷したPBS(プロテアーゼインヒビターカクテル;ロッシュ社製を添加したもの)2mLに縣濁した。氷上でホモジナイザーで破砕したのち、超音波破砕を10秒間10回行ない、超遠心(100,000g,60分間, 4℃)で上清を回収し、沈殿(組織残査)を除去した。ミリポアフィルター濾過の後、Hi load 16/60 superdex 200pgカラム(GEヘルスケア社製)にアプライし、ゲル濾過精製を行なった。回収したフラクションをSDS-PAGE解析し、マウスサイログロブリンが高純度に精製されていることを確認した(図2)。
【0047】
(3)免疫
マウスサイログロブリンの免疫は、通常の免疫方法で2回おこなった。免疫群として、下記の5群を設定し、各々マウス3匹ずつ免疫を行なった。
群1) T reg 除去脾臓細胞移入群に、初回免疫時にフロイント完全アジュバント(DIFCO社製)と混合したマウスサイログロブリン抗原を40ug、2回目免疫時にフロイント不完全アジュバント(DIFCO社製)と混合した同抗原を40ug、皮下投与した群。
群2) T reg 除去脾臓細胞移入群に、初回免疫時に百日咳毒素アジュバント(List Biological Laboratories社製)と混合したマウスサイログロブリン抗原を100ug、2回目免疫時に同抗原を40ug、腹腔内投与した群。
群3) T reg 除去処理を行なっていない脾臓細胞移入群に、群1と同様の免疫を行なった群 (群1の陰性コントロール)。
群4) T reg 除去処理を行なっていない脾臓細胞移入群に、群2と同様の免疫を行なった群 (群2の陰性コントロール)。
群5) T reg 除去脾臓細胞移入群に、免疫を行なわず、同環境でほぼ同期間飼育した群(群1,2の、免疫を行なわない陰性コントロール)
【0048】
(4)免疫マウスの採血と抗体価の評価
免疫開始日から群1),2),5)については84日目まで、群3),4)については91日目まで 1週間毎に採血を行い、抗サイログロブリン抗体価をELISA法で評価した。
【0049】
(5)抗サイログロブリン抗体価評価用ELISA法
マウスサイログロブリン精製抗原を96穴ELISA用プレート(Greiner社製)に固相化し、40%ブロックエース(以下BA;大日本住友ファーマ社製)/Tris buffered saline(以下TBS) pH7.5でブロッキング後、血清サンプルを316倍希釈から3倍希釈列で4系列調製して室温1時間反応させた。2次抗体として西洋ワサビperoxidase標識(以下HRP標識)抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch社製)を室温で1時間反応させ、TMB試薬(ScyTek Laboratories社製)で室温30分発色後、反応停止液(ScyTek Laboratories社製)を添加して反応停止させ、450nmの吸光値(以下A450値)を測定した。血清の1000倍希釈濃度時のA450値を各々の抗体価と定め、経時的にプロットした(図3a〜d、図4)。
【0050】
(6)抗マウスサイログロブリンモノクローナル抗体の作製
群2)と同条件のマウスサイログロブリン免疫マウスを用いて、常法(Kohler & Milstein, Nature 256(1975),495-497)に従って細胞融合を行なった。すなわち、免疫マウスより脾臓細胞を採取し、マウスミエローマ細胞NS-1と10:1の細胞数比率で混合し、50% PEG(ロッシュ社製)で細胞融合を行なった。融合細胞を96穴プレートに播種し、HAT選択培地で10日間培養を行ない、良好なハイブリドーマ細胞のコロニー形成を確認した。前述の、抗サイログロブリン抗体価評価用ELISA法を用いて、96穴培養プレートの培養上清中の抗体価を評価した(表2)。
【0051】
(7)マウス甲状腺および胃組織の病理所見
免疫マウスの採血終了後、群1)〜群5)のマウス各々について、甲状腺および胃を摘出し、20%ホルマリン中和緩衝液(和光純薬社製)を用いて浸潤固定した。各々のホルマリン固定組織サンプルについて、パラフィン包埋後薄切し、組織染色用標本(以下パラフィン切片)を作製した。パラフィン切片は脱パラフィン処理後、常法に従いヘマトキシリンエオジン染色(以下HE染色)を行い、リンパ球浸潤(炎症反応)が観られるかどうかについて、病理学的観察を行なった(表3、図5a〜d、図6a〜d、図7a〜d)。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
<結果と考察>
(1)マウスサイログロブリン免疫による血中抗体価の上昇確認(実施例1)
T reg 除去脾臓細胞移入マウスにマウスサイログロブリンの免疫を行なった群においては、群1)群2)いずれにおいても3/3匹で抗体価上昇が確認され、初回免疫後50日目でプラトーに達した(図3a、b)。一方、T reg 除去を行なわない脾臓細胞を移入したマウスにマウスサイログロブリンの免疫を行なった群においては、群3)では2/3匹、群4)では3/3匹でいずれも抗体価は全く上昇しなかった(図3c,d)。群3)では1/3匹について抗体価が上昇したが、群1)の抗体価上昇と比較すると上昇の程度が低く、かつ群1)では、抗体価が50日目でプラトーに達した後、84日後まで維持されたが、群3)では50日目をピークに低下したので、一過性の弱い反応に過ぎないと考えられた。また、T reg 除去脾臓細胞移入マウスにマウスサイログロブリンの免疫を行なわなかった群(群5)においては、3/3匹で抗体価は全く上昇しなかった(図4)。以上により、T reg除去脾臓細胞移入マウス群に、自己抗原であるサイログロブリンを外来性に免疫することで、有意に抗体産生が認められたといえる。
【0055】
(2)抗マウスサイログロブリンモノクローナル抗体の作製(実施例2)
ハイブリドーマのコロニー形成が観られた480ウェルについて、培養上清中の抗マウスサイログロブリン抗体価をELISA法で評価した結果、ELISA系の感度以下のA450値しか示さなかったウェルの、平均+5SDをカットオフ値と定め、それ以上を陽性とした場合、陽性10ウェルを得た(陽性率2.08%)。これは、実用に応用できるレベルである。以上により、本免疫法により自己抗原に対して抗体産生ハイブリドーマを得ることが可能であり、モノクローナル抗体を作製可能であることが証明された(表2)。
【0056】
(3)マウス甲状腺および胃組織の病理所見(実施例-3)
T reg 除去脾臓細胞移入マウスにマウスサイログロブリンの免疫を行なった群においては、群1)群2)いずれにおいても各々3匹中全例で甲状腺と胃にリンパ球の浸潤を認め、甲状腺炎様と胃炎様の所見が観察された(表3、図5a〜d)。Sakaguchi et al.Journal of Immunology, 155(1995)1151-1164、及びKuniyasu et al, International Immunology,12(2000)1145-1155においては、T reg 除去脾臓細胞移入マウスでは脾臓細胞移入後約3ヶ月で(外来性に自己抗原の免疫を行なわなくとも)、100%自己免疫性の胃炎を発症すると記載されているが、本実験でも群1),2),および5) (T reg除去脾臓細胞を移入した群)では細胞移入の約3ヶ月後に100%胃炎を発症した。一方、甲状腺炎については、Sakaguchi et al.Journal of Immunology, 155(1995)1151-1164、及びKuniyasu et al, International Immunology,12(2000)1145-1155では各々23/38例(60.5%), 14/33例(42,4%)で発症が認められている。本実験においても、T reg 除去脾臓細胞移入マウスに外来性にマウスサイログロブリンを免疫しない群(群5)においては、細胞移入の約3ヶ月後に、1/3例(33.3%)で甲状腺様の所見が観察された(表3、図7a〜d)。これは、Sakaguchi et al.Journal of Immunology, 155(1995)1151-1164、及びKuniyasu et al, International Immunology,12(2000)1145-1155の結果をほぼ再現したものとなった。一方、群1)群2)においては、外来性にマウスサイログロブリンを免疫することによって、合計6/6例(100%)で甲状腺炎様の所見が観られ、外来性の免疫を行なわなかった群に対して、高率に発症が観られた。
【0057】
さらに、T reg 除去を行なわない脾臓細胞を移入したマウスにマウスサイログロブリンの免疫を行なった群においては、群3)の1/3匹においてごくわずかに胃炎様の所見が観られた以外は、群3)群4)のいずれにおいても、甲状腺と胃にリンパ球の浸潤は観られなかった(表3、図6a〜d)。
【0058】
以上により、T reg 除去脾臓細胞移入マウスに、外来性にマウスサイログロブリンを免疫することにより、高率に甲状腺炎を発症させることができ、任意に自己免疫疾患モデル動物を作出する手法を確立した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞を、内在性T細胞を有さない非ヒト動物に移入し、該非ヒト動物に抗原を投与して該非ヒト動物に抗体を産生させることを含む、抗体の製造方法。
【請求項2】
制御性T細胞がCD25陽性細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞が、脾臓細胞から制御性T細胞を除去した細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
非ヒト動物がげっ歯類である、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
非ヒト動物がマウスである、請求項1から4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
抗原が、該非ヒト動物で免疫寛容が成立しやすいペプチド又は蛋白質である、請求項1から5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
抗原が、該非ヒト動物に存在するペプチド又は蛋白質と高い相同性を有するものである、請求項1から6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、請求項1から7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
前記非ヒト動物に前記抗原を投与後、前記非ヒト動物の免疫細胞を用いて作製したハイブリドーマで当該抗原に対する抗体を産生する、請求項1から7の何れかに記載の方法。
【請求項10】
制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞を、内在性T細胞を有さない非ヒト動物に移入し、該非ヒト動物に抗原を投与して該非ヒト動物に自己免疫反応を生じさせることを含む、自己免疫疾患モデル動物の製造方法。
【請求項11】
制御性T細胞がCD25陽性細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
制御性T細胞を除去した少なくともT細胞を含む細胞が、脾臓細胞から制御性T細胞を除去した細胞である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
非ヒト動物がげっ歯類である、請求項10から12の何れかに記載の方法。
【請求項14】
非ヒト動物がマウスである、請求項10から13の何れかに記載の方法。
【請求項15】
抗原が、該非ヒト動物で免疫寛容が成立しやすいペプチド又は蛋白質である、請求項10から14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
抗原が、該非ヒト動物に存在するペプチド又は蛋白質と高い相同性を有するものである、請求項10から15の何れかに記載の方法。
【請求項17】
自己免疫疾患モデル動物が甲状腺炎および/又は胃炎を発症している、請求項10から16の何れかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−252743(P2010−252743A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109233(P2009−109233)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度〜22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新機能抗体創製技術開発事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(503196776)株式会社ペルセウスプロテオミクス (25)
【Fターム(参考)】