説明

免疫担当細胞指向型オリゴヌクレオチド・リポソーム複合体

【課題】静脈内投与により免疫担当細胞に特異的にオリゴヌクレオチドを送達できるオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体を提供する。
【解決手段】コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオマンノシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミド、および
コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオフコシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の糖脂質を含むリポソームと、オリゴヌクレオチドとを含むオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫担当細胞(Kupffer細胞、マクロファージ)に特異的にオリゴヌクレオチドを導入することができるオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体、その製造方法、およびそれを用いて免疫担当細胞にオリゴヌクレオチドを送達する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デコイオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、siRNAのようなオリゴヌクレオチドは特定の遺伝子の発現を抑制する医薬品として実用することが期待されている。
【0003】
しかし、オリゴヌクレオチドは血管内に投与されると、生体内の酵素により分解されたり、非標的細胞へ非特異的に移行したり、尿中に排泄されたりして、その薬理効果を十分に発揮できない。
【0004】
このため、例えば、非特許文献1には、オリゴヌクレオチドとカチオン性リポソームとの複合体を局所投与する方法が記載されている。しかし、臓器への局所投与は身体への侵襲が高い。またこの方法では、オリゴヌクレオチドを導入できる細胞が投与部位付近に限定される。したがって、関節の疾患のような局所疾患には適用できるが、肝臓疾患のような多数の細胞が対象となる臓器の疾患には適用し難い。
【0005】
一方、血管内に遺伝子を投与すれば広範囲な細胞へ送達できると考えられるが、非特許文献2には、膜融合リポソームであるHVJリポソームにオリゴヌクレオチドを内封し、門脈内に投与することにより、標的細胞において薬理効果が確認されたことが記載されている。しかし、この方法も身体への侵襲が大きく、また非特異的な遺伝子導入が避けられない。同文献には、マウスにオリゴヌクレオチドであるNFkBデコイを600μg/BALBcマウス10-12週齢と大量に門脈内投与して初めて薬理効果が認められたことが記載されている。
【0006】
このことから、非侵襲的な投与方法である静脈内投与により標的細胞を特異的に認識して取り込まれるようなキャリアの開発が望まれている。
【0007】
ここで、非特許文献3には、cholesten-5-yloxy-N-(4-((1-imino-2-β-D-thiomannosyl-ethyl)amino)buthyl)formamide(Man-C4-Chol)とdioleylphosphatidylethanolamine(DOPE)とを3:2で混合して作製したマンノース修飾カチオン性リポソームとルシフェラーゼ遺伝子をコードしたプラスミドDNAとの複合体をマウスに静脈内投与したところ、ルシフェラーゼ遺伝子が肝臓に効果的に送達されたことが記載されている。また、このプラスミドDNAによる遺伝子導入がマンノースレセプターを介して行われたことも記載されている。
【0008】
また、非特許文献4には、5%のMan-C4-Chol、又はFuc-C4-Cholと、中性脂質distearoylphophatidylchline(DSPC)と、コレステロール(Chol)とで作製したリポソームをマウスに静脈内投与したところ、速やかに肝臓に移行したことが記載されている。
【0009】
しかし、非特許文献3の方法は、約7,000塩基対からなるプラスミドDNAを対象としており、その複合体サイズの大きさから静脈内投与後初期の肺への非特異的な集積は避けられず、標的細胞への特異的送達は十分ではない。また、非特許文献4の方法は、低分子医薬品のデリバリーを対象とし、非特異的相互作用を極力避ける中性のリポソームであるために、核酸医薬品(プラスミドDNA, オリゴヌクレオチド)を内封することができない。
【特許文献1】Gene Ther.9: 518-526(2002)
【特許文献2】Hepatology,38: 335-344(2003)
【特許文献3】Gene Therapy7:292-299 (2000)
【特許文献4】Biochemica et Biophysica Acta 1524:258−265 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、静脈内投与により免疫担当細胞に特異的にオリゴヌクレオチドを送達できるオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体、その製造方法、及び免疫担当細胞へのオリゴヌクレオチドの送達方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明者は研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオマンノシル-アルキル)アミノ)アルキル)ホルムアミド((cholesten-5-yloxy-N-(4-((1-imino-2-β
-D-thiomannosyl-alkyl)amino)buthyl)formamide)、
又は/及び
コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオフコシル-アルキル)アミノ)アルキル)ホルムアミド((cholesten-5-yloxy-N-(4-((1-imino-2-β
-D-thiofucosyl-alkyl)amino)buthyl)formamide)を含む脂質で構成したリポソームとオリゴヌクレオチドとで調製したオリゴヌクレオチド・糖修飾カチオン性リポソーム複合体は、免疫担当細胞上に特異的に発現するレセプターを認識して細胞選択的に効率良く取り込まれる。
(ii) オリゴヌクレオチドとして22塩基対からなるNFkBデコイと糖修飾カチオン性リポソームとの複合体をマウスに投与したところ、速やかに免疫担当細胞に集積し、オリゴヌクレオチド・HVJリポソーム複合体を用いた非特許文献2の方法よりはるかに少ない1mg/kgの投与量(20 mg/ICR 4週齢マウス)で薬理効果を十分に発揮できた。
(iii) オリゴヌクレオチドとリポソームとを、得られる複合体における電荷のモル比(−:+)が1:2〜3になるような比率で使用して調製したオリゴヌクレオチド・糖修飾リポソームは、免疫担当細胞への送達が一層効率的に行われる。即ち、上記電荷のモル比であることにより、非特異的な細胞との相互作用が回避される。
(iv) 免疫担当細胞が固有に発現するマンノースまたはフコースレセプター介在性エンドサイトーシスによる取り込み機構を利用してオリゴヌクレオチドを免疫担当細胞に送達するにあたり、上記糖脂質において、糖部分とコレステロールのアンカー部分との間に、イミノ基をスペーサー部分に挿入することにより、オリゴヌクレオチドとの結合に必要な正電荷を維持しながらリポソーム表面に高密度にリガンドとなる糖(マンノースまたはフコース)を導入することができ、それによりオリゴヌクレオチド・糖修飾カチオン性リポソーム複合体が効率的に免疫担当細胞上のレセプターに認識されて、オリゴヌクレオチドの免疫担当細胞への送達効率が向上する。
(v) オリゴヌクレオチド・糖修飾リポソーム複合体の平均粒径を100 nm以下にすることにより、生体内で分解され難く、また、標的細胞への特異的な送達が可能になる。
(vi) 上記糖修飾リポソームにおいて、pH感受性の脂質であるジオレイルフォスファチジルエタノールアミン(DOPE)を用いてリポソームを調製するときには、標的細胞にレセプター介在性エンドサイトーシスにより取り込まれた後に、薬理効果を発揮する標的部位である細胞質内にオリゴヌクレオチドを一層効率良く送達できる。
【0012】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下のオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体などを提供する。
【0013】
項1. コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオマンノシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミド、および
コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオフコシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の糖脂質を含むリポソームと、オリゴヌクレオチドとを含むオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体。
【0014】
項2. オリゴヌクレオチドが塩基数20〜80からなるものである項1に記載の複合体。
【0015】
項3. オリゴヌクレオチドがNFκBデコイである項1又は2に記載の複合体。
【0016】
項4. 電荷のモル比(−:+)が1:2〜3である項1〜3のいずれかに記載のオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体。
【0017】
項5. リポソームにさらにジオレイルフォスファチジルエタノールアミンが含まれる項1〜4のいずれかに記載の複合体。
【0018】
項6. アルキル基がエチル基又はブチル基である項1〜5のいずれかに記載の複合体。
【0019】
項7. 平均粒子径が100 nm以下である項1〜6のいずれかに記載の複合体。
【0020】
項8. 免疫担当細胞にオリゴヌクレオチドを送達するための項1〜7のいずれかに記載の複合体。
【0021】
項9. コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオマンノシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミド、および
コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオフコシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の糖脂質を含むリポソームとオリゴヌクレオチドとを非イオン性の等張溶液中で混合する工程を含むオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体の製造方法。
【0022】
項10. 項1〜8のいずれかに記載の複合体をヒトの血管内に投与することにより、免疫担当細胞内にオリゴヌクレオチドを送達する方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体は、コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β-D-チオマンノシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミド、又はコレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β-D-チオフコシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミドを使用してマンノースまたはフコースなどの糖をリポソーム上に高密度に導入するため、静脈内投与においてオリゴヌクレオチド・リポソームを効率良くマンノースレセプターもしくはフコースレセプターを発現する免疫担当細胞に選択的に送達できる。
【0024】
また本発明のオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体において、オリゴヌクレオチドと糖修飾リポソームとの電荷のモル比(−:+)を1:2〜3にするときには、静脈内投与後、肺毛細血管などへの非特異的な相互作用が少なくなり、免疫担当細胞のレセプターに一層特異的に認識され易くなる。
【0025】
また本発明のオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体の平均粒子径を100 nm以下にするときには、静脈内投与後、肺毛細血管での非特異的な吸着を回避することができ、標的細胞への極めて特異的な送達が可能になる。
【0026】
さらに、pH感受性の脂質であるDOPEを用いてリポソームを調製するときには、免疫担当細胞にエンドサイトーシスを介して取り込まれた後に、標的部位である細胞質内にオリゴヌクレオチドを一層効率良く送達できる。
以上の発明の成果により、静脈内投与によりオリゴヌクレオチドを投与部位から免疫担当細胞、さらには細胞質までの送達までもが可能になり、従来のオリゴヌクレオチドの水溶液投与やカチオン性リポソーム複合体を用いた方法では不可能である、免疫担当細胞でのオリゴヌクレオチドの塩基配列認識による薬理効果発揮が可能になった。
本発明はオリゴヌクレオチドとの静電的な相互作用を基本としているため、様々な薬理効果を発揮する種々の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(デコイオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、リボザイム、siRNA)などにも適用可能と考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明のオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体は、コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β-D-チオマンノシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミド、及びコレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β-D-チオフコシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の糖脂質を含むリポソームと、オリゴヌクレオチドとを含む複合体である。
【0029】
上記糖脂質において、アルキル基としては、炭素数1〜4程度の低級アルキル基が挙げられる。中でも、ブチル基が好ましい。
【0030】
本発明においてオリゴヌクレオチドとは、ヌクレオチド数20〜80程度のものをいい、一般にポリヌクレオチドと称されるものも含まれる。オリゴヌクレオチドのヌクレオチド数は、20〜50程度がより好ましい。オリゴクレオチド数が少なすぎると複合体の形成が困難になり、逆に多すぎると複合体のサイズが大きくなって肺に移行し易くなるが、上記範囲であればこのような問題は生じず、免疫担当細胞に特異的に送達されるようになる。また、DNA及びRNAのいずれであってもよく、ホスホロチオエートDNA、H-ホスホネートDNA、2'-O-RNAのような修飾オリゴヌクレオチドも含まれる。また、1本鎖及び2本鎖の双方が含まれる。具体的には、デコイオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、リボザイム、siRNAなどが挙げられる。
【0031】
本発明の複合体は、特に免疫担当細胞への特異的に送達されるため、オリゴヌクレオチドとしては、免疫疾患を改善するためのものが好適である。このようなオリゴヌクレオチドとして、免役グロブリンκL鎖を始めとする種々の遺伝子の転写因子であるNFκBデコイがより好適である。NFkBデコイの免疫担当細胞内への特異的送達により、NFkBを介して過剰産生される炎症性サイトカインの抑制が可能になる。Kupffer細胞は、サイトカイン産生における主要な細胞であり、Kupffer細胞内へのNFkBデコイの送達により、NFkBを介したサイトカインの過剰産生の抑制が期待できる。
【0032】
本発明の複合体は、例えば、リポソーム構成物質を超音波処理してリポソームを調製した後、このリポソームとオリゴヌクレオチドとを非イオン性の等張溶液、例えば5%デキストロース中にて混合することにより作製することができる。
【0033】
このとき、得られる複合体において、電荷のモル比(−:+)が好ましくは1:2〜3程度、より好ましくは1:2〜2.5程度、さらに好ましくは1:2.3程度になるような比率で、リポソーム構成物質とオリゴヌクレオチドとを使用すればよい。静脈内投与後、余りに負電荷が強いとオリゴヌクレオチドが生体内で分解され易く、逆に余りに正電荷が強いと非特異的な相互作用が強くなり、生体成分との相互作用を介してもしくは単独で肺毛細血管へ吸着し易いが、上記の範囲であればこのような問題は生じにくく、免疫担当細胞への特異性が高くなる。
【0034】
本発明において、複合体の電荷のモル比(−:+)は、核酸医薬品の1ヌクレオチドで1個の負電荷をもつ官能基を有するので、ヌクレオチドの平均分子量を1モル(−)と定義し、カチオン性リポソーム構成成分中のカチオン性脂質の正電荷を有する官能基を同様に1モル(+)として計算した値であり、近年の遺伝子医薬品を用いたデリバリー研究において汎用される方法である(Gene Ther.4:891-900(1997); Pharm.Res.17:306-313(2000))。これにより、種々のカチオン性脂質や遺伝子医薬品の組み合わせにおいてその電荷の割合を計算により簡便に表すことができる。
【0035】
リポソームを構成する脂質として、上記糖脂質に加えてジフォスファチジルエタノールアミン(dioleylphosphatidylethanolamine: DOPE)を使用することが好ましく、これにより、複合体が免疫担当細胞内にエンドサイトーシスにより取り込まれた後に、これを標的部位である細胞質に一層効率よく移行させることができる。
コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β-D-チオマンノシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミド、およびコレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β-D-チオフコシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の糖脂質とDOPEとを含むリポソームにする場合の両者の使用比率(糖脂質:DOPE)は、3:1〜3程度とすることが好ましく、3:2程度とすることがより好ましい。上記の脂質の使用比率の範囲であれば、リガンドの密度、ひいてはレセプターとの親和性が十分になるとともに、脂質2重膜であるリポソームを安定に形成することができる。
【0036】
この他、複合体の性質を損なわない範囲で、通常リポソーム構成材料として使用される公知の物質を使用してもよい。このような物質として、例えばDOTMA (N-[1-(2,3-dioleyloxy)propyl]-n,n,n-trimethylammonium chloride)、 DOTAP(1,2-dioleoyl-3-trimethylammoniopropane)などが挙げられる。いずれにしても、上記電荷モル比になるような比率で使用すればよい。
【0037】
本発明の複合体は、平均粒子径が200 nm以下であることが好ましく、100 nm以下であることがより好ましい。これにより、肺毛細血管壁での非特異的な相互作用を回避することができる。平均粒子径は、オリゴヌクレオチドと複合させる前の糖修飾リポソームの平均粒径を調整することにより上記範囲にすることができる。糖修飾リポソームの平均粒径は、脂質を超音波処理してリポソームを形成した後に特定孔径のフィルターを通すことにより調節することができる。
【0038】
本発明において、平均粒子径は、動的光散乱分光光度計により測定した値である。
【0039】
また、この複合体は、ヒトの静脈内に投与すれば、免疫担当細胞の表面のレセプターに認識され、レセプター媒介性エンドサイトーシスによる機構で細胞内に取り込まれ、さらに細胞質内にオリゴヌクレオチドが導入される。
【0040】
投与量は、オリゴヌクレオチドの種類によって異なるが、例えば、NFκBデコイの場合は、0.5〜1mg/kg/日程度とすればよい。
実施例
以下、本発明を実施例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<平均粒子径>
以下の実施例において、オリゴヌクレオチド・リポソーム複合体の平均粒子径は、動的光散乱分光光度計LS-900(Otsuka Elactronics)を用いて測定した。
実施例1(オリゴヌクレオチド・リポソーム複合体の作製)
オリゴヌクレオチドとして、NFκBデコイ5'-AGTTGAGGGGACTTTCCCAGGC-3'(配列番号1)および3'-TCAACTCCCCTGAAAGGGTCCG-5'(配列番号2)は、operonから購入した。)配列番号1及び2において下線部はNFkBによる認識配列を示す。
【0041】
リポソームは、構成脂質をクロロホルム中で混合し、混合物をエバポレーターにて蒸発させ、真空ポンプを用いて4時間以上乾燥させ、滅菌した5% デキストロース溶液に再懸濁して30分間水和後、チップ型ソニケーター(出力200 W, 大岳製作所)により10分間超音波処理し、220 nm の孔径を有するpolycarbonateフィルターを通すことにより調製した。リポソーム濃度は、DOPEを含有するものは、リン定量法(J. Biol. Chem., 234: 466-468 (1959))、コレステロールを含有するものはコレステロール定量法(コレステロールE-テストワコー、和光純薬株式会社)により測定した。以下の表1に示す脂質を用いて3種類のリポソームを調製した。
【0042】
【表1】

表1中の、Fuc-C4-Chol(cholesten-5-yloxy-N-(4-((1-imino-2-β
-D-thiofucosyl-ethyl)amino)buthyl)formamide), およびMan-C4-Chol((cholesten-5-yloxy-N-(4-((1-imino-2-β-D-thiomannosyl-ethyl)amino)buthyl)formamide)は、非特許文献3に記載の方法で合成した。DOTMA(N-[1-(2,3-dioleyloxy)propyl]-n,n,n-trimethylammonium chloride)は、Tokyo Kasei Organic Chemicalsから購入した、Chol(choleaterol),DOPEは一般試薬を購入した。
【0043】
Fuc-C4-Chol, およびMan-C4-Cholの化学式を図1に示す。
【0044】
オリゴヌクレオチド・リポソーム複合体は、室温下で、オリゴヌクレオチドおよびリポソーム溶液をそれぞれ5%デキストロースで希釈し、次いで電荷のモル比(−:+)=1:2.3になるように混合し、30分間放置した。これにより、NFκBデコイとリポソームとの複合体が得られた。
【0045】
得られた複合体の平均粒子径は約 80 nmであった。

実施例2
体内動態を解析するため、NFκBデコイを[32P]標識し、実施例1において作製したNFκBデコイ・マンノース修飾カチオン性リポソーム複合体、NFκBデコイ・フコース修飾カチオン性リポソーム複合体、NFκBデコイ・カチオン性リポソーム複合体、及びNFκBデコイ水溶液の各300 μl(1 mg/kg デコイ)を、5週齢のICRマウスの尾静脈投与した。投与1, 3, 5, 10, 30, 60, 90分後にマウスを安楽死させ、腎臓、肝臓、脾臓、肺、心臓、および筋肉を摘出した。また、血液、および尿を採取した。これらのサンプルについて、液体シンチレーションカウンターで放射活性を測定した。
【0046】
結果を図2に示す。図2から、NFκBデコイ水溶液投与群より、リポソームとの複合体にして投与する方が各臓器へ効率良く移行することが分かる。また、カチオン性リポソームに比べて、マンノース修飾カチオン性リポソーム、又はフコース修飾カチオン性リポソームを用いる方がNFκBデコイをより効率良く免疫担当細胞であるKupffer細胞が多く存在する肝臓に送達可能であることが分かる。また、投与後初期の肺での集積は小さいことが分かる。

実施例3
実施例2と同様にして、NFkBデコイの標的細胞内でのNFkBの抑制効果を調べる目的で、LPS(Lipopolysaccharide from Salmonella minnesota Re 595、Sigma)をマウスに5μg/kgの投与量で投与し、NFkBを活性化させた。その後、NFκBデコイ・フコース修飾カチオン性リポソーム複合体、NFκBデコイ・マンノース修飾カチオン性リポソーム、NFκBデコイ・ガラクトース修飾カチオン性リポソーム、NFκBデコイ・カチオン性リポソーム複合体、及びNFκBデコイ水溶液の各300 μl(1 mg/kg デコイ)をマウスに投与し、90分後に肝臓を摘出しホモジナイズしたものに対しNuclear/Cytosol Fractionation Kit(Bio Vision)を用いて核内タンパク質を抽出し、EMSA法により核内NFκB量を測定した。また、対照としてLPSのみをマウスに投与したNFκB活性化群との比較をおこなった。
【0047】
結果を図3に示す。フコース修飾リポソーム、又はマンノース修飾リポソームを用いることにおいてのみ、LPS投与による核内のNFκB量の増加が抑制されている。このことから、静脈内投与後、NFκBデコイが肝臓内のKupffer細胞に送達され、細胞質内に移行してNFκBの活性化を抑制したことが分かる。

実施例4
実施例2と同様にして、NFkBデコイ投与によるサイトカイン産生の抑制効果を調べることを目的に、LPSをマウスに5μg/kgの投与量で投与し、NFkBを活性化させた。その後、NFκBデコイ・フコース修飾カチオン性リポソーム複合体、NFκBデコイ・マンノース修飾カチオン性リポソーム、NFκBデコイ・ガラクトース修飾カチオン性リポソーム、NFκBデコイ・カチオン性リポソーム複合体を各300 μl(1 mg/kg デコイ)マウスに投与し、90分後に血液を採取し、血清中のTNFαの濃度をELISA(OptiEIATM Mouse TNFa Set, PHARMINGEN)により測定した。
【0048】
対照として、同量のフコース修飾リポソーム、マンノース修飾カチオン性リポソームをマウスに投与した場合の血清中TNFαの濃度も測定した。さらに、LPSのみをマウスに投与した場合の血清中TNFα濃度も測定した。
【0049】
また、NFκBデコイの塩基配列特異性を調べる目的で、ランダム配列デコイ・マンノース修飾カチオン性リポソーム、およびランダム配列デコイ・フコース修飾カチオン性リポソームについても同様にしてマウスに投与し、血清中TNFα濃度を測定し、それぞれNFκBデコイ・マンノース修飾カチオン性リポソーム、及びNFκBデコイ・フコース修飾リポソームと比較した。
【0050】
結果を図4に示す。図4から、NFκBデコイ・フコース修飾カチオン性リポソーム複合体投与群、及びNFκBデコイ・マンノース修飾カチオン性リポソーム投与群は、LPSのみの投与群に比べて有意に血清中TNFα濃度が低減した。
【0051】
一方、NFκBデコイ・カチオン性リポソーム投与群、NFκBデコイを含まない各修飾リポソーム投与群、ランダムデコイ・各修飾カチオン性リポソーム複合体投与群は、LPSのみの投与群との間で有意差が認められなかった。
【0052】
このことから、NFκBデコイを各フコースまたはマンノース修飾カチオン性リポソームとの複合体にして静脈内に投与することにより、NFκBデコイがフコースやマンノースレセプターを介して免疫担当細胞に特異的に送達され、さらに細胞質内に到達して、配列特異的な結合を介してNFkBの活性化を抑制しTNFα産生を抑制したことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】Fuc-C4-Cholおよび Man-C4-Cholの化学式を示す図である。
【図2】[32P]標識NFκBデコイ水溶液、[32P]標識NFκBデコイ・マンノース修飾カチオン性リポソーム複合体、[32P]標識NFκBデコイ・フコース修飾カチオン性リポソーム複合体、[32P]標識NFκBデコイ・カチオン性リポソーム複合体をマウスに静脈内投与したときの各種臓器、血液、尿中への移行を比較したグラフである。
【図3】LPSを投与しNFkBを活性化させたあとの肝臓におけるNFkB量の定量。マウスにLPSのみ投与群、およびLPS 投与後、NFκBデコイ・マンノース修飾カチオン性リポソーム複合体、NFκBデコイ・フコース修飾カチオン性リポソーム複合体、NFκBデコイ・カチオン性リポソーム複合体、NFκBデコイ・ガラクトース修飾カチオン性リポソーム複合体を静脈内投与したときの肝臓における細胞の核内でのNFκB量を測定した結果を示す電気泳動パターンである。*過剰量のデコイによる阻害;過剰量のNFkBデコイを加えることにより、32P標識NFkBデコイとNFkBの結合が阻害される。このことにより、バンドが配列特異的な結合であることを確認する。
【0054】
*ガラクトース修飾カチオン性リポソーム;cholesten-5-yloxy-N-(4-((1-imino-2-β-D-thiogalactosyl-ethyl)amino)buthyl)formamide(Gal-C4-Chol)/DOPE=3:2リポソーム、マンノースまたはフコース修飾カチオン性リポソームとは糖鎖の部分だけ異なる。対照として使用。
【図4】NFκBデコイ・マンノース修飾カチオン性リポソーム複合体、NFκBデコイ・フコース修飾カチオン性リポソーム複合体、NFκBデコイ・カチオン性リポソーム複合体、およびNFκBデコイの配列特異的な効果を確認する為ランダム配列デコイとの複合体をマウスに静脈内投与したときの血清中TNFα濃度を測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオマンノシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミド、および
コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオフコシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の糖脂質を含むリポソームと、オリゴヌクレオチドとを含むオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体。
【請求項2】
オリゴヌクレオチドが塩基数20〜80からなるものである請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
オリゴヌクレオチドがNFκBデコイである請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
電荷のモル比(−:+)が1:2〜3である請求項1〜3のいずれかに記載のオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体。
【請求項5】
リポソームにさらにジオレイルフォスファチジルエタノールアミンが含まれる請求項1〜4のいずれかに記載の複合体。
【請求項6】
アルキル基がエチル基又はブチル基である請求項1〜5のいずれかに記載の複合体。
【請求項7】
平均粒子径が200 nm以下である請求項1〜6のいずれかに記載の複合体。
【請求項8】
免疫担当細胞にオリゴヌクレオチドを送達するための請求項1〜7のいずれかに記載の複合体。
【請求項9】
コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオマンノシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミド、および
コレステン-5-イロキシ-N-(4-((1-イミノ-2-β
-D-チオフコシル-エチル)アミノ)アルキル)ホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の糖脂質を含むリポソームとオリゴヌクレオチドとを非イオン性の等張溶液中で混合する工程を含むオリゴヌクレオチド・リポソーム複合体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の複合体をヒトの血管内に投与することにより、免疫担当細胞内にオリゴヌクレオチドを送達する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−193488(P2006−193488A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8307(P2005−8307)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】