説明

免疫療法のための潜在性HLA−B7エピトープの同定、最適化及び使用

本発明は、ペプチド免疫療法の分野に関する。特に、本発明は、抗原中のHLA-B*0702制限潜在性エピトープを同定する方法、及びその免疫原性を増大させる方法に関する。本発明は、HLA-B*0702表現型を有する患者を効果的に治療するための新規な方法及び材料も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド免疫療法の分野に関する。特に、本発明は、HLA-B*0702表現型を有する患者を効果的に治療するための新規な方法及び材料を提供する。
【背景技術】
【0002】
免疫療法は、癌の治療の関係において現在の大きな興味対象の主題である治療的アプローチである。その原理は、腫瘍細胞の消去において主要な役割を演じる細胞傷害性Tリンパ球(CTL)により認識される腫瘍抗原のT細胞エピトープを再生するペプチドを用いる免疫化に基づく。
【0003】
CTLは、タンパク質抗原全体を認識するのではなく、細胞表面で発現されるクラスI主要組織適合複合体(MHC I)分子により提示される8〜11アミノ酸を通常は含むそのペプチドフラグメントを認識することが思い起こされる。これらのペプチドの提示は、以下の3つの工程を含む抗原のプロセシングの結果である:
- プロテアソームとよばれる多重酵素複合体による抗原の細胞質ゾルでの分解
- この分解により導かれるペプチドの、TAP輸送体による小胞体(ER)での移動
- これらのペプチドのMHC I分子との会合、及びペプチド/MHC I複合体の細胞表面への排出。
【0004】
ペプチド/MHC I複合体は、CTLの刺激及び増幅を誘導するCTL上の特異的T細胞受容体(TCR)と相互作用し、該CTLは、該ペプチドが由来する抗原を発現する標的細胞を攻撃できるようになる
【0005】
抗原のプロセシングの間に、ペプチド選択が起こり、このことによりペプチド提示の序列がもたらされる。MHC I分子により優先的に提示されるペプチドは、免疫優性と呼ばれるが、弱く提示されるペプチドは、潜在性(cryptic)と呼ばれる。免疫優性ペプチドは、MHC Iに対して高い親和性を示し、かつ免疫原性であるが、潜在性ペプチドは、MHC Iに対して低い親和性を示し、かつ非免疫原性である。
【0006】
免疫優性ペプチドは、前臨床及び臨床の研究における腫瘍ワクチンにより広く標的にされているが、結果は期待はずれである(Bowneら, 1999; Colellaら, 2000; Grossら, 2004; Hawkinsら, 2000; Naftzgerら, 1996; Overwijkら, 1998; Vierboomら, 1997; Weberら, 1998)。
腫瘍抗原は、腫瘍により過剰発現され、正常細胞及び組織によってより低いレベルで発現される自己タンパク質であることが多い。免疫系は、自己寛容プロセスのせいで、これらの自己抗原に対して反応できない。自己寛容は、免疫優性ペプチドに主に関係し(Cibottiら, 1992; Grossら, 2004; Hernandezら, 2000; Theobaldら, 1997)、よって、これらのペプチドが腫瘍免疫を誘導できないことを説明する。
【0007】
潜在性ペプチドは、自己寛容プロセスにより少なく関係し(Andertonら, 2002; Boisgeraultら, 2000; Cibottiら, 1992; Friedmanら, 2004; Grossら, 2004; Moudgilら, 1999; Overwijkら, 2003; Sinhaら, 2004)、よって、それらの免疫原性が増進されるという条件で、有効な腫瘍免疫を誘導できる(Disisら, 2002; Dyallら, 1998; Engelhornら, 2006; Grossら, 2004; Grossmannら, 2001; Lallyら, 2001; Moudgil及びSercarz, 1994a; Moudgil及びSercarz, 1994b; Palombaら, 2005)。
【0008】
低いMHC I親和性のために非免疫原性である潜在性ペプチドの免疫原性を増進させるための通常の方策は、アミノ酸置換によりMHC I分子に対するそれらの親和性を増加させることにある。MHC I分子についてのペプチド親和性は、よく規定された位置(1次アンカー位置)に、「1次アンカー残基」と呼ばれる残基が存在することに主に依存する。これらの残基は、MHC I対立遺伝子特異的である。1次アンカー残基の存在は、しばしば必要であるが、高いMHC I親和性を確実にするのに充分ではない。1次アンカー位置の外側に位置する残基(2次アンカー残基)は、MHC Iに対するペプチドの親和性に対して好ましいか又は好ましくない影響を奏し得る(Parkerら, 1994; Rammensee Hら, 1999)。これらの2次アンカー残基の存在は、1次アンカーモチーフを有するペプチド内に、結合親和性の大きな変動が存在することを説明することを可能にする。
【0009】
MHC I分子に対する親和性を増進させることを目的とするアミノ酸置換は、このような最適化されたペプチドの抗原性を保存するはずである。最適化ペプチドにより生じるCTLは、対応する天然ペプチドと交差反応するはずである。
【0010】
多くのチームは、既に免疫原性のペプチドの免疫原性を、HLA-A*0201に対するそれらの親和性を増加させることによりさらに増進させることに成功している(Bakkerら, 1997; Parkhurstら, 1996; Sarobeら, 1998; Valmoriら, 1998)。本発明者らは、以前に、HLA-A*0201制限(restricted)潜在性ペプチドの親和性及び免疫原性を増進させる一般的な方策について記載している(Scardinoら, 2002; Tourdotら, 2000)。
【0011】
HLA-B*0702は、頻繁に発現される分子である(集団の25%)。よって、HLA-B*0702制限腫瘍潜在性ペプチドの同定及び最適化は、HLA-B*0702を発現する患者についての効果的な癌ワクチンを開発するために、必要であろう。
【0012】
今日までに、HLA-B*0702により提示される腫瘍ペプチドはほとんど記載されていない。CEA (CEA632) (Luら 2000)及びTERT (TERT1123) (Cortez-Gonzalesら 2006)抗原に由来する2つのペプチドが同定されている。これらのペプチドは、HLA-B*0702に対して強い結合親和性を示し、HLA-B*0702トランスジェニックマウス及びヒト細胞を用いるインビトロ試験においてともに免疫原性であった。これらの実験結果は、これらのペプチドが免疫優性ペプチドであることを示す。
【0013】
MAGE-A1 (MAGE-A1289) (Luitenら, 2000)及びRU2 (腎細胞癌により発現される新しい抗原) (Van den Eyndeら 1999)に由来する2つのさらなるペプチドが、癌患者から単離されたHLA-B*0702 CTLの標的であることが同定されている。これらの2つのペプチドのHLA-B*0702親和性についての情報はないが、これらは、免疫優性であるとみなすことができる。なぜなら、癌患者で発達するCTLは、免疫優性ペプチドに対して常に指向されるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以下の実験部分に記載するように、本発明者らは、今回、HLA-B*0702制限潜在性ペプチドの親和性及び免疫原性を増進させる一般的な方策を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の態様において、本発明は、HLA-B*0702制限潜在性エピトープのN-末端残基をアラニン(A)で置換するか、又は該エピトープのC-末端残基をロイシン(L)で置換する工程を含む、HLA-B*0702制限潜在性エピトープの免疫原性を増大させる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】HLA-B*0702制限ペプチドの免疫原性。
【図2】最適化HLA-B*0702潜在性ペプチドの免疫原性。
【図3】最適化HLA-B*0702 Her2/neu1069L9 (A)及びHer2/neu1069 (B)ペプチドのHLA-B*0702トランスジェニックマウスでのインビボ免疫原性。
【図4】TERT4は、TERT特異的CTLを、HLA-B7マウス及び健常なドナーで誘導する。
【図5】TERT444特異的マウスCTLによる内因性TERTの認識。
【図6】TERT444A1特異的ヒトCTLの誘導。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、「HLA-B*0702制限潜在性エピトープ」の語は、HLA-B*0702に対して低い親和性を示し、免疫原性でなく、かつ配列X1PX3X4X5X6X7X8X9X10X11 (配列番号58) (式中、Pはプロリンであり、X3はR (アルギニン)又はK (リジン)又はH (ヒスチジン)又はM (メチオニン)であり、X1及びX4〜X7は独立して任意のアミノ酸であり、X8〜X10は独立して任意のアミノ酸であるか又は存在せず、C-末端アミノ酸X11は任意のアミノ酸であるが、但し、N-末端アミノ酸X1がA (アラニン)である場合、X11はL (ロイシン)でもAでもI (イソロイシン)でもV (バリン)でもMでもなく、X1がA以外のアミノ酸である場合、X11はL又はA又はI又はV又はMである)を有する8〜11アミノ酸、より好ましくは9又は10アミノ酸のペプチドのことをいうのに用いられる。
【0018】
本明細書において、用語「ペプチド」は、アミノ酸残基がペプチド(-CO-NH-)結合により連結されている分子だけでなく、特にタンパク質分解に対してより抵抗性になるようにペプチド結合が修飾され、かつこの修飾によりそれらの免疫原性が損なわれない合成擬似ペプチド(pseudopeptides)又はペプチド擬似物(peptidomimetics)のこともいう。
【0019】
本明細書において、アミノ酸残基は、それらの1文字コードで示す。
本明細書で用いる場合、語「置換する」は、潜在性エピトープのアミノ酸配列が適切なアミノ酸を含有しない場合に、ペプチドを得るために用いる技術的方法は何であれ、言及される置換により上記のHLA-B*0702制限潜在性エピトープの配列に由来する配列を有するペプチドを得ることであると理解される。例えば、ペプチドは、人工的ペプチド合成又は組換え発現により生成できる。
【0020】
HLA-B*0702に対するペプチドの親和性は、当該技術において知られる方法、例えばRohrlichら, 2003により記載されるアッセイにより決定できる。結果は、参照ペプチドに比較した場合の相対的親和性(RA)として表される。この方法の後に、RAが10を超える場合は、ペプチドは、HLA-B*0702についての低い親和性を有するといわれる。RAが10を超えるペプチドは、よって、潜在性ペプチド(又はエピトープ)であるとみなされる。
【0021】
本明細書で用いる場合、用語「非免疫原性」とは、HLA-B*0702を発現する対象(HLA-B*0702トランスジェニック動物を含む)に投与したときに、HLA-B*0702制限CTL免疫応答を開始できないペプチドのことをいう。
【0022】
別の実施形態において、2番目及び3番目のアミノ酸残基がPR又はPK又はPH又はPMであり、かつ最後の残基がL又はA又はI又はV又はMであるHLA-B*0702制限潜在性エピトープの免疫原性は、その最初のアミノ酸をA (アラニン)で置換することにより増大させ得る。実際に、選択されたHLA-B*0702制限潜在性エピトープの配列がX1PX3X4X5X6X7X8X9X10X11 (配列番号59) (式中、N-末端アミノ酸X1はA以外の任意のアミノ酸であり、X3はR又はK又はH又はMであり、C-末端アミノ酸X11はL又はA又はI又はV又はMであり、X4〜X7は独立して任意のアミノ酸であり、X8〜X10は独立して任意のアミノ酸であるか又は存在しない)である場合、X1のAによる置換は、その免疫原性を増大させるのに充分である。
【0023】
さらに別の実施形態において、最初の3つのアミノ酸残基がAPX3 (ここで、X3はR又はK又はH又はMである)であるHLA-B*0702限定潜在性エピトープの免疫原性は、その最後のアミノ酸をLで置換することにより(又はそのC-末端にロイシンを付加することにより、但し、ロイシンを付加した後のエピトープのアミノ酸配列が11アミノ酸以下であることを条件とする)、増大させ得る。実際に、選択されたHLA-B*0702制限潜在性エピトープの配列がAPX3X4X5X6X7X8X9X10X11 (配列番号60) (式中、X3はR又はK又はH又はMであり、X4〜X7は独立して任意のアミノ酸であり、X8〜X10は独立して任意のアミノ酸であるか又は存在せず、C-末端アミノ酸X11は、LでもAでもIでもVでもMでもないアミノ酸である)である場合、X11のLによる置換はその免疫原性を増大させるのに充分である。
【0024】
以下において、「最適化ペプチド」の表現は、上記の方法によりHLA-B*0702制限潜在性エピトープに由来し、かつ一般的な配列APX3X4X5X6X7X8X9X10X11 (配列番号61) (式中、X3はR又はK又はH又はMであり、X4〜X7は独立して任意のアミノ酸であり、X8〜X10は独立して任意のアミノ酸であるか又は存在せず、C-末端アミノ酸X11はL又はA又はI又はV又はMである)を有する免疫原性ペプチドのことである。
【0025】
本発明者らは、いくつかのHLA-B*0702制限潜在性エピトープを同定し、これらのいくつかを以下の表Iに示す。よって、本発明の別の態様は、表Iに示す配列番号1〜4のペプチドから選択される潜在性HLA-B*0702制限エピトープである。
【0026】
【表1】

【0027】
本発明により得られる免疫原性HLA-B*0702制限エピトープの例は、それらのN-末端アミノ酸のA (アラニン)での置換により潜在性HLA-B*0702制限エピトープ配列番号1、3、4から導かれるもの、及びC-末端アミノ酸のL (ロイシン)での置換により潜在性HLA-B*0702制限エピトープ配列番号2から導かれるものである。
よって、本発明は、本発明による方法により潜在性ペプチド配列番号1〜4から導かれる最適化ペプチドにも関する。最適化ペプチドの好ましい例は、APRSPLAPL (配列番号6)、APKANKEIL (配列番号7)、APKHSDCLA (配列番号8)及びAPRRLVQLL (配列番号5)である。
【0028】
本発明は、上記のような2、3若しくはそれより多いHLA-B*0702制限潜在性エピトープ、又は2、3若しくはそれより多い免疫原性HLA-B*0702制限エピトープを含むキメラポリペプチドにも関する。本発明によるキメラポリペプチドにおいて、エピトープは、互いに異なり得るか、又は同じエピトープを複数回(2、3又はそれより多い回数)反復させ得る。当業者は、このようなポリペプチドを生成する任意の既知の方法を選択できる。例えば、ポリペプチドは、化学合成により、又は遺伝子工学技術を用いることにより得ることができる。
【0029】
本発明の別の目的は、上記のような潜在性HLA-B*0702制限エピトープ又は免疫原性エピトープ又はキメラポリペプチドの発現をもたらすように設計された単離された核酸分子である。本明細書において、ペプチドの「発現をもたらすように設計された」とは、該ペプチド自体が、核酸を適切な細胞に導入した場合に、その配列が選択された(かつ、適切な場合には、上記のように最適化された)抗原全体から単離されて発現されることを意味する。エピトープ又はキメラポリペプチドについてのコード領域は、典型的には、適切なプロモーターの制御下のポリヌクレオチド内に位置する。細菌プロモーターは細菌における発現について好ましく、これは、ポリペプチドを、インビトロ又は特定の状況下ではインビボにおいて生成できる。本発明によるペプチド又はポリペプチドをインビボで直接生成するのに用い得る細菌の例は、能動食作用により専門の抗原提示細胞に侵入する通性細胞内細菌であるリステリア・モノシトゲネス(Listeria monocytogenes)である(Paterson及びMaciag, 2005)。或いは、本発明による核酸は、適切なベクターを用いて直接投与できる。この場合、組織特異的であるか、又は強く構成性であるか、又は内因性であるプロモーターを用いてペプチド発現を制御できる。適切なベクター系は、裸のDNAプラスミド、送達を増進させるリポソーム組成物、及び一過性発現をもたらすウイルスベクターを含む。その例は、特に非複製形式のアデノウイルス又はワクシニアウイルスベクター及びヘルペスファミリーのベクターである。
【0030】
本発明の別の実施形態は、有効成分として、少なくとも、上記のHLA-B*0702制限潜在性エピトープ、又は上記のようにしてそこから導かれた免疫原性エピトープポリペプチド、又は本発明によるキメラポリペプチド、又はこれらのいずれかをコードする核酸、及び/又は該核酸を有するベクターを含む医薬組成物である。医薬組成物の処方は、現代の基準及び技術に従う。ヒトへの投与を意図する医薬品は、適切に滅菌された条件下で調製され、ここで、活性成分は、等張溶液又は推奨される治療上の使用に適するその他の医薬担体と組み合わされる。適切な処方及び技術は、最新版のRemington's Pharmaceutical Sciences (Maack Publishing Co, Easton PA)に一般的に記載される。
【0031】
特に、HLA-B*0702制限潜在性エピトープ、又はそこから導かれる免疫原性エピトープポリペプチド、又はいくつかのこのような免疫原性若しくは潜在性エピトープを有するキメラポリペプチド、又はこれらのいずれかをコードするベクターに含まれるか若しくは含まれない核酸は、予防的又は治療的な免疫療法、特に抗ウイルス又は抗癌免疫療法用の組成物の調製のために用い得る。
【0032】
具体的な実施形態において、本発明による医薬組成物はワクチンである。後者の場合、本発明の組成物は、免疫応答を強化するアジュバントと組み合わせ得る。伝統的なアジュバントは、フロインドの不完全アジュバントのような油エマルジョン、及びミョウバンのような付着性表面である。特にTLRを介して樹状細胞を補充して活性化する(例えば細菌DNA又は細菌膜由来タンパク質)か、又は細胞傷害性T細胞の惹起を助けるアジュバントが、特に有用である。免疫応答をブーストするか、又は癌細胞のアポトーシス若しくは除去を促進するその他の因子も、組成物中に含み得る。
【0033】
本発明の免疫原性組成物の複数回用量及び/又は異なる組み合わせを、別々又は一緒の流通のために包装できる。各組成物又は以下に記載する要素のキット(kits of parts)のような一連の組成物は、癌の免疫応答及び/又は治療を惹起する組成物又は組み合わせの使用についての指示書(販売促進材料又は包装挿入物の形)を伴い得る。
【0034】
以前の特許出願(PCT/EP2006/005325)において、本出願人は、潜在性エピトープを標的にするT細胞応答の開始及び維持を可能にするワクチン接種プロトコルを記載している。PCT/EP2006/005325に報告される結果は、同族の最適化ペプチドでのワクチン接種の後の潜在性エピトープに相当する天然ペプチドの注射が、該最適化ペプチドにより開始された免疫応答を維持できることを示す。
【0035】
本発明によると、HLA-B*0702制限潜在性エピトープは、よって、その同族の最適化ペプチドにより開始されたCTL免疫応答を維持するための医薬組成物の製造のために用いることができる。HLA-B*0702制限潜在性エピトープに由来する最適化HLA-B*0702制限エピトープ配列を有する免疫原性ペプチドも、該HLA-B*0702制限潜在性エピトープに対するCTL免疫応答を開始するための医薬組成物の製造のために用いることができる。本発明は、腫瘍又はウイルス抗原に対して患者にワクチン接種する方法も含み、該方法は、該抗原の天然のHLA-B*0702制限潜在性エピトープと同族の最適化ペプチドを用いるワクチン接種の第1工程と、その後の該天然ペプチドでのワクチン接種の第2工程とを含む。このような方法において、第1工程及び/又は第2工程は、単一エピトープペプチドの代わりに、2、3又はそれより多い上記の最適化又は潜在性ペプチドを含むキメラポリペプチドを用いることにより行い得る。
【0036】
本発明は、HLA-B*0702制限潜在性エピトープの配列を有する第1ペプチドと、その同族のHLA-B*0702制限免疫原性エピトープに相当するペプチドとを別々の製剤として含む要素のキットにも関する。本発明によるキットの要素になり得るペプチドの例は、配列番号1〜4のペプチドであり、これらは第1ペプチドを構成でき、第2ペプチドは、上記のような免疫原性を増大する方法により上記の第1ペプチドから導かれる。
【0037】
本発明によるその他の要素のキットは、少なくともキメラポリペプチドを含む。このようなキットのいくつかの変形が構想される:第1の実施形態において、キットは、2、3又はそれより多いHLA-B*0702制限潜在性エピトープを含む第1キメラポリペプチドと、その同族のHLA-B*0702制限免疫原性キメラポリペプチドに相当する第2キメラポリペプチド(第1キメラポリペプチドに含まれる潜在性エピトープと同族の最適化HLA-B*0702制限免疫原性エピトープを含むことを意味する)とを別々の製剤で含む。第2の実施形態において、キットは、2、3又はそれより多いHLA-B*0702制限潜在性エピトープを含む第1キメラポリペプチドと、1又は複数のその他の別々の製剤で、第1キメラポリペプチドに含まれる潜在性エピトープと同族の最適化HLA-B*0702制限免疫原性エピトープに相当するペプチドとを含む。第3の実施形態において、キットは、1つの単独製剤中に混合されるか又はいくつかの製剤に分けられている、別々のHLA-B*0702制限潜在性エピトープに相当する2、3又はそれより多いペプチドと、別の製剤で、該潜在性ペプチドと同族の最適化HLA-B*0702制限免疫原性エピトープを含むキメラポリペプチドとを含む。
【0038】
本発明によるキットの以下の記載において、ペプチド(天然又は最適化)についてのみ言及するが、キメラポリペプチド(天然の潜在性エピトープ又は最適化エピトープを含む)が、単一エピトープペプチドの代わりにキットに封入され得ることが理解される。
【0039】
本発明の具体的な実施形態において、キットは、ワクチン接種キットであり、上記の第1(天然)及び第2(同族の最適化)のペプチドは、別々のワクチン接種用量にある。好ましい実施形態において、ワクチン接種キットは、最適化ペプチドの2又は3回用量、及び天然ペプチドの3、4、5又は6回用量を含む。本発明による具体的なワクチン接種キットは、6回の注射の一連の第1ワクチン接種に適合され、最適化ペプチドの2又は3回用量と、天然ペプチドの4又は3回用量とを含む。長期持続性の疾患の場合、この初回ワクチン接種(primo-vaccination)の後に、免疫のレベルを定期的な想起(regular recalls)により維持することが好ましい。このことは、例えば、1.5〜6ヶ月ごとに行われる注射により行うことができる。よって、少なくとも2回、及び40又は50回の用量までの天然ペプチドを含む相補キットも、本発明の一部分である。或いは、ワクチン接種キットは、2〜3回用量の最適化ペプチドと、3回から40又は50回までの用量の天然ペプチドとを含み得る。もちろん、該天然及び最適化ペプチドは、上記のようにキットに存在する。
【0040】
各用量は、0.5と10 mgの間のペプチド、好ましくは1〜5 mg、又は1と20 mgの間のペプチドを含む。好ましい実施形態において、各用量は、皮下注射用に処方される。例えば、各用量は、アジュバントとして用いられるモンタニド(Montanide)を用いて乳化した水溶液のエマルジョン0.3〜1.5 mlに処方され得る。当業者は、モンタニドの代わりに(又はモンタニドに加えて)任意のその他のアジュバントを選択できる。具体的な実施形態において、用量は、水溶液の形である。或いは、用量は、注射される液体溶液の即時調製のための凍結乾燥ペプチドの形であり得る。上記のキットのその他の可能な成分は、投与の前にペプチド組成物に加えられる1又は複数(several)のアジュバント、及び上記のキットをどのように使用するかを記載する注意書きである。
【0041】
本発明は、以下の図面及び実施例により、さらに説明される。
図1:HLA-B*0702制限ペプチドの免疫原性。CTLを、記載されるペプチドを載せたRMA-B7標的に対して試験した。
図2:最適化HLA-B*0702潜在性ペプチドの免疫原性。CTLを、記載されるペプチドを載せたRMA-B7標的に対して試験した。
【0042】
図3:最適化HLA-B*0702 Her2/neu1069L9 (A)及びHer2/neu1069 (B)ペプチドのHLA-B*0702トランスジェニックマウスでのインビボ免疫原性。CTLを、記載されるペプチドを載せたRMA-B7標的に対して試験した。誘導されたCTL集団を、3 (1)、10 (2)、30 (3)及び100 (4)倍に希釈した。
【0043】
図4:TERT4は、TERT特異的CTLを、HLA-B7マウス及び健常なドナーで誘導する。(A) HLA-B*0702トランスジェニックマウスでのTERT4免疫原性。CTLを、漸減用量のTERT4ペプチドを載せたRMA-B7標的に対して試験した。(B) TERT4特異的マウスCTLによる内因性TERTの認識。CTLを、記載されるHLA-B*0702及びTERTでトランスフェクションしたCOS細胞に対して試験した。(C) TERT4特異的ヒトCTLの誘導。CTLを、記載されるエフェクター/標的比率を用いてTERT4 (■)又は無関係の(●)ペプチドを載せたT2-B7標的(左のグラフ)、並びにHLA-B*0702陽性TERT陽性SK-MES-1 (■)、HBL-100 (●)、並びにHLA-B*0702陰性TERT陽性SW-480 (□)、HSS (○)ヒト腫瘍細胞系統(右のグラフ)に対して試験した。
【0044】
図5:TERT444特異的マウスCTLによる内因性TERTの認識。(A) CTLを、漸減用量の記載されるTERT444又はTERT444A1ペプチドを載せたRMA-B7標的に対して試験した。(B) CTLを、記載されるHLA-B*0702及び/又はTERTでトランスフェクションしたCOS細胞に対して試験した。
【0045】
図6:TERT444A1特異的ヒトCTLの誘導。CTLを、記載されるペプチドを載せたT2-B7標的に対して試験した。CTLの最大活性化は、PMA/イオノマイシン処理により得られる。
【実施例】
【0046】
実施例は、以下の材料及び方法を用いて行った。
トランスジェニックマウス。HLA-B7 H-2クラス-Iノックアウトマウスは、以前に記載されている(Rohrlichら, 2003)。
細胞。HLA-B*0702トランスフェクションされたマウスRMA-B7及びヒトT2-B7細胞は、以前に記載されている(Rohrlichら, 2003)。COS-7及びWEHI-164クローン13細胞は、F. Jotereau (INSERM 463, Nantes, France)により提供された。HLA-B*0702陽性のSK-MES-1 (肺癌)、HBL-100 (乳癌)、及びHLA-B*0702陰性のSW-480 (結腸癌)及びHSS (骨髄腫)細胞系統を、ヒトCTLの標的として用いた。全ての細胞系統を、FCS 10%を補ったRPMI1640培養培地で成長させた。
【0047】
ペプチド及びプラスミド。ペプチドは、Epytop (Nimes, France)により合成された。HLA-B*0702プラスミドは、Lemonnier博士(Institut Pasteur, Paris, France)から提供され(Rohrlichら, 2003)、TERTプラスミドは、Weinberg博士(MIT, Boston, MA)から提供された(Meyersonら, 1997)。
【0048】
HLA-B*0702へのペプチド相対的親和性の測定。用いたプロトコルは、以前に記載されている(Rohrlichら, 2003)。簡単に、T2-B7細胞を、100μM〜0.1μMの範囲の濃度のペプチドと37℃にて16時間インキュベートし、ME-1モノクローナル抗体(mAb)で染色して、HLA-B*0702の表面発現を定量した。各ペプチド濃度について、HLA-B*0702特異的染色を、100μMの参照ペプチドCMV265-274 (R10V; RPHERNGFTV, 配列番号9)を用いて得られた染色のパーセンテージとして算出した。相対的親和性(RA)は、RA = (20%のHLA-B*0702発現を誘導する各ペプチドの濃度 / 20%のHLA-B*0702発現を誘導する参照ペプチドの濃度)として決定した。
【0049】
HLA-B*0702トランスジェニックマウスでのインビボCTL誘導。マウスに、150μgのI-Ab制限HBVcore128 Tヘルパーエピトープ(TPPAYRPPNAPIL、配列番号10)の存在下でフロイントの不完全アジュバント(IFA)中で乳化した100μgのペプチドを皮下注射した。11日後に、5×107脾臓細胞を、ペプチド(10μM)を用いてインビトロで刺激した。培養6日目に、バルクレスポンダー集団を、特異的細胞傷害性について試験した。
【0050】
COS-7トランスフェクションされた細胞に対するペプチドプロセシングアッセイ。2.2×104サルCOS-7細胞を、平底96ウェルプレートで、DMEM+10% FCS中に各条件について3重で培養した。18時間後に、細胞に100 ngの各DNAプラスミドをDEAEデキストランとともに感染させた。4時間後に、PBS+10% DMSOを2分間加えた。トランスフェクションされたCOS細胞を、DMEM+10% FCS中で40時間の間インキュベートし、次いで、TNFα分泌アッセイにおいてマウスCTLを刺激するのに用いた。
【0051】
TNFα分泌アッセイ。4日目のトランスフェクションされたCOS-7細胞を、50μlのRPMI+10% FCSに懸濁し、刺激細胞として用いた。5×104マウスT細胞を、次いで、50μl RPMI 10% FCSに加え、6時間インキュベートした。各条件を、3重で試験した。50μlの上清を回収して、TNFαを測定した。標準物質の希釈を、104〜0 pg/mlの範囲のTNFα最終用量で50μl中に調製した。上清及び標準希釈物について、50μlの3×104 TNFα感受性WEHI-164c13細胞を加えた。これらを、37℃にて16時間インキュベートした。細胞増殖の阻害を、MTT比色法により評価した(Espevik及びNissen-Meyer, 1986)。
【0052】
ヒトPBMCからのCTLの作製。PBMCを、健常なHLA-B*0702有志から白血球除去血輸血により回収した。樹状細胞(DC)を、完全培地(10%熱不活化ヒトAB血清、2μM L-グルタミン及び抗生物質を補ったRPMI-1640)中の500 IU/ml GM-CSF及び500IU/ml IL-4 (R&D Systems, Minneapolis, MN)の存在下で7日間培養した接着細胞(2×106細胞/ml)から作製した。7日目に、DCを、10μMのペプチドで2時間パルスした。100 ng/mlの成熟化剤(maturation agent)ポリI:C (Sigma, Oakville, Canada)、及び2μg/mlの抗CD40 mAb (クローンG28-5, ATCC, Manassas, VA)を、培養物に加え、DCを37℃にて一晩又は48時間までインキュベートした。成熟DCを、次いで、照射した(3500ラド)。CD8+細胞を、CD8 MicroBeads (Miltenyi Biotec, Auburn, CA)を製造業者の指示に従って用いるポジティブ選択により精製した。2×105 CD8+細胞 + 6×104 CD8-細胞を、丸底96ウェルプレート中で、1000 IU/ml IL-6及び5 IU/ml IL-12 (R&D Systems, Minneapolis, MN)を補った完全培養培地中の2×104ペプチドでパルスしたDCで刺激した。7日目から、培養物を、20 IU/ml IL-2 (Proleukin, Chiron Corp., Emeryville, CA)及び10 ng/ml IL-7 (R&D Systems, Minneapolis, MN)の存在下で、ペプチドを載せたDCを用いて毎週再刺激した。3回目のインビトロ再刺激の後に、バルク細胞培養物を、細胞毒性(TERT4)又はIFNγ細胞内染色(TERT444A1)について試験した。
【0053】
細胞毒性アッセイ。標的を、96ウェルV底プレート中で、100μCiのCr51を用いて60分間標識し(100μLのRPMI 1640培地中のウェル当たり3×103細胞)、必要な場合に、ペプチド(1μM)を用いて37℃にて2時間パルスした。次いで、エフェクターをウェルに加え、37℃にて4時間インキュベートした。特異的溶解のパーセンテージを、%溶解 = (実験的放出 − 自発的放出) / (最大放出 − 自発的放出)×100として決定した。
【0054】
IFNγ細胞内染色。T細胞(105)を、20μg/mlブレフェルディン-A (Sigma, Oakville, Canada)の存在下で刺激ペプチドを載せた2×105 T2細胞とインキュベートした。6時間後に、細胞を洗浄し、PBS中のr-フィコエリスリンコンジュゲート抗CD8抗体(Caltag Laboratories, Burlingame, CA, USA)を用いて4℃にて25分間染色し、再び洗浄し、4% PFAを用いて固定した。次いで、細胞をPBS、0.5% BSA、0.2%サポニン(Sigma, Oakville, Canada)で透過にし、アロフィコシアニンコンジュゲート抗IFNγmAb (PharMingen, Mississauga, Canada)を用いて4℃にて25分間標識した後に、FACSCalibur (登録商標)フローサイトメータを用いて分析した。
【0055】
実施例1:ペプチドの親和性
Hsp70 (Hsp70115、Hsp70137、Hsp70397)、TERT (TERT4及びTERT444)、及びMAGE-A (MAGE-A121.1、MAGE-A121.2及びMAGE-A121.4)抗原に属するHLA-B*0702特異的アンカーモチーフ、すなわちP2及び優先的にL/VをC-末端の位置に有する8つのペプチド(Sidneyら, 1996)を、HLA-B*0702分子への結合について試験した。TERT4のみが、HLA-B*0702と高い親和性で結合し、残りの7つのペプチドは、非常に弱く結合するか又は全く結合しないものであった(表II)。このことは、アンカーモチーフの存在が、HLA-B*0702への高い結合親和性を確実にするのに充分ではないことを示す。それらの低い親和性に鑑みて、ペプチドHsp70115、Hsp70137、Hsp70397、TERT444、MAGE-A121.1、MAGE-A121.2、MAGE-A121.4は、潜在性ペプチドとみなされる。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例2:選択されたペプチドの免疫原性
低親和性Hsp137、Hsp115、Hsp397、TERT444及び高親和性TERT4ペプチドを、HLA-B*0702トランスジェニックマウスにおいて特異的CTL免疫応答を誘導する能力について試験した。高親和性TERT4のみが、免疫原性であり、このことにより、ペプチドの免疫原性が、それらのHLAについての親和性に強く関連することが確かめられた(図1)。
【0058】
実施例3:低親和性ペプチドの親和性の増進
これらの潜在性ペプチドは全て、好ましい1次アンカーモチーフを有したので、それらの親和性の増進は、免疫原性であるために欠くことができない。このことは、不都合な(unfavorable) 2次アンカーモチーフの同定、及び好都合な(favorable)モチーフでのそれらの置換を必要とした。これらの置換は、しかし、TCRと相互作用するペプチドセグメントのコンホメーションを保持するはずである(4位〜8位)。よって、興味対象は、1位及び3位の2次アンカーに集中させた。脂肪族アミノ酸は、1位での好都合なモチーフである(Sidney, Southwoodら, 1996)。しかし、1位にY (チロシン)を有するペプチドHsp70115及びHsp70137は、結合しない。さらに、1位のアミノ酸の、この位置ではこれもまた好都合なA (アラニン) (Parkerら, 1994)での置換は、TERT444の親和性を増進するが、Hsp70115及びMAGE-A121.1ペプチドの親和性を増進しない(表II)。このことは、1位並びにアンカーの2位及び9/10位での好都合なアミノ酸の存在が、それ自体で、全てのペプチドの高い結合親和性を確実にできないことを示す。一方、正に荷電されたペプチド(R/H/K)は、3位にて好都合であることが記載されており(Sidneyら, 1996)、26個の同定された腫瘍及びHIV由来免疫原性ペプチドのうち10個は、3位にR/K/Hを有する(表III)。
【0059】
【表3】

【0060】
これらの全ての観察によると、配列APX3X4X5X6X7X8X9X10X11 (配列番号61)を有するペプチドは、HLA-B*0702について高い親和性を有するはずである。このことは、表IVに示す結果により確認される。上記の配列を有する18個全てのペプチドは、高い親和性を有し、かつ/又はHLA-B*0702トランスジェニックマウスにおいて免疫原性である。
【0061】
【表4】

【0062】
実施例4:増進された親和性を有するペプチドのインビボ免疫原性、及び天然の対応物の認識
HLA-B7トランスジェニックマウスに、選択されたペプチドをワクチン接種し、11日後に、それらの脾臓細胞を、ペプチドを用いてインビトロで刺激した。
【0063】
この関係において、Hsp70115、Hsp70397及びTERT444は、よって、1位(アミノ酸のAによる置換)、及び/又は3位(アミノ酸のRによる置換)で改変された。ペプチドHsp70397について、C末端位置に追加の改変(TのLによる置換)を導入した。改変ペプチド、すなわちHsp70115A1R3 (配列番号55)、Hsp70397R3L9 (配列番号56)、TERT444A1 (配列番号5)は、HLA-B*0702について強い親和性を示し(表IV)、ワクチン接種されたマウスの大多数において免疫応答を誘導した(図2)。しかし、TERT444A1以外のペプチドについて、生じたCTLは、最適化ペプチドを認識したが、対応する天然ペプチドを認識しなかった(図2)。このことは、3位のアミノ酸のRによる置換が、TCRと相互作用するペプチドセグメントのコンホメーションを変更し得ることを強く示唆し、TCR交差認識を確実にする。
【0064】
a) APX3X4X5X6X7X8X9X10X11を有する全ての試験したペプチドが、高い親和性を有し、かつ免疫原性であり(表IV及び図1、2)、かつb) 3位のアミノ酸のRによる置換が天然ペプチドの交差認識を破壊し得るので、本発明者らは、2位及び3位にそれぞれP及びRを有する天然ペプチドを選択し、最後のアミノ酸が好都合であれば(L、A、I、V又はM)、1位のアミノ酸をAで置換した。HLA-B*0702制限ペプチドの親和性とCTL認識との両方における3位の高い重要性に鑑みて、本発明者らは、配列X1PX3 (ここで、X1は任意のアミノ酸であり、X3はK、R、H又はMである;これらのアミノ酸は、3位で好都合な残基であることが記載されている)、及びC-末端位置に好都合なアミノ酸(A/I/L/V)を有するペプチドを選択した。この配列を有しかつHLA-B*0702に対して低い親和性を有するペプチドを、最初の残基をAで置換することにより改変した。これは、TERT444、Her-2/neu760及びHer-2/neu246の場合である。本発明者らは、配列APX3 (ここで、X3はK、R、H又はMである)、及びC-末端で不都合な残基(すなわち、LでもAでもIでもVでもMでもないアミノ酸)を有するペプチドも選択した。この配列を有しかつHLA-B*0702に対して低い親和性を有するペプチドを、C-末端位置の残基をLで置換することにより改変した。これは、Her-2/neu1069の場合である。これらの全ての改変ペプチドは、HLA-B*0702について強い親和性を有した。
【0065】
実施例5:最適化ペプチドの免疫原性及び天然の対応物の交差認識
天然のHer2/neu246、Her2/neu760、Her2/neu1069及びTERT444ペプチドは免疫原性でなかったが、最適化ペプチドは、HLA-B*0702トランスジェニックマウスにおいて免疫原性であった。さらに、全てのこれらの最適化ペプチドにより誘導されたCTLは、対応する天然ペプチドと交差反応可能であった(図3及び表V)。
【0066】
【表5】

【0067】
結論として、本発明者らは、HLA-B*0702制限潜在性ペプチドの免疫原性(及び親和性も)を最適化する方法を記載した。これは、a) 配列X1PX3 (ここで、X1はA以外の任意のアミノ酸であり、X3はR又はK又はH又はMである)、C-末端位置での好都合なアミノ酸(すなわちL又はA又はI又はV又はM)、及びHLA-B*0702についての低い親和性を含む全てのペプチドにおいて1位の残基をAで置換するか、又はb) 配列APX3 (X3は上記で定義されるとおりである)、C-末端位置での不都合な残基(すなわちLでもAでもIでもVでもMでもないアミノ酸)、及びHLA-B*0702についての低い親和性を含むペプチドにおいてC-末端位置の残基をLで置換することである。
【0068】
実施例6:TERT4免疫優性ペプチドは、TERT特異的CTLを誘導する
次に、HLA-B7トランスジェニックマウスを、TERT4 (配列番号15)で免疫し、11日後にそれらの脾臓細胞を、ペプチドでインビトロ刺激した。生成されたCTLは、漸減濃度のTERT4ペプチドを載せたRMA-B7標的を死滅させた(図4A)。TERT4を載せた標的の最大溶解の半分が、1.5nMで得られた(図4A)。次いで、CTLを、HLA-B*0702及び内因性TERTを発現するCOS-7細胞を認識するそれらの能力について試験した。図4Bに示す結果は、CTLが、HLA-B*0702及びTERTの両方でトランスフェクションされたCOS-7細胞を認識したが、HLA-B*0702又はTERTのいずれかでトランスフェクションされたCOS-7細胞を認識しないことを示し、このことは、TERT4優性ペプチドが、内因性TERTから天然にプロセシングされるHLA-B*0702制限エピトープであることを示す。
【0069】
さらに、健常なドナーからのCD8細胞を、TERT4ペプチドを載せた自己樹状細胞を用いてインビトロで刺激した。4回の刺激の後に、CTLを、TERT4を載せたT2-B7標的に対する細胞傷害性について試験した。3人のドナーを試験し、CTLを、そのうち2人で誘導した。1人の応答するドナーからの結果を、図4Cに示す。CTLは、TERT4を提示するT2-B7標的を死滅させたが、無関係のNefペプチドを提示するT2-B7細胞を死滅させなかった(左のグラフ)。興味深いことに、CTLは、HLA-B*0702 TERT+ SK-MES-1及びHBL-100を死滅させたが、HLA-B*0702-TERT+ SW-480及びHSSヒト腫瘍細胞系統は死滅させず、このことにより、HLA-B*0702がTERT4エピトープの提示及び内因性のプロセシングを制限することが確認される(右のグラフ)。
【0070】
実施例7:TERT444A1ペプチドにより誘導されるCTLは内因性TERTを認識する
TERT444A1 (配列番号5)を、内因性TERTを認識できるCTLを誘導する能力及び健常なドナーにおいてCTLを誘導する能力について試験した(実施例6)。HLA-B*0702トランスジェニックマウスを、次いで、TERT444A1で免疫し、11日後にそれらの脾臓細胞を、天然TERT444ペプチド(配列番号1)でインビトロ刺激した。生成されたCTLは、漸減濃度のTERT444A1ペプチド及びTERT444ペプチドを載せたRMA-B7標的を死滅させた。TERT444を載せた標的及びTERT444A1を載せた標的の最大溶解の半分は、それぞれ5.5nM及び1nMで得られた(図5A)。次いで、CTLを、HLA-B*0702及び内因性TERTを発現するCOS-7細胞を認識する能力について試験した。図5Bに示す結果は、CTLが、HLA-B*0702及びTERTの両方でトランスフェクションされたCOS-7細胞を認識したが、HLA-B*0702又はTERTのいずれかでトランスフェクションされたCOS-7細胞を認識しないことを示し、このことは、TERT444が、内因性TERTから天然にプロセシングされるHLA-B*0702制限潜在性エピトープであることを示す。
【0071】
実施例8:TERT444A1は、健常なドナーからのCTLを刺激する
健常なドナーからのCD8細胞を、TERT444A1ペプチドを載せた自己樹状細胞を用いてインビトロで刺激した。4回の刺激の後に、増殖細胞を4つのプールに分けた。各プールを、次いで、最適化TERT444A1又は天然TERT444を載せたT2-B7細胞を用いる刺激の際の細胞内IFNg産生について試験した。D5609応答ドナーからの結果を、図6に示す。IFNg産生CTLは、TERT444又はTERT444A1を載せたT2B7細胞で刺激した後のプール2及び4で検出された(図6)。
【0072】
【表6】

【0073】
【表7】

【0074】
【表8】

【0075】
【表9】

【0076】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA-B*0702制限潜在性エピトープのN-末端残基をアラニンで置換するか、又は該エピトープのC-末端残基をロイシンで置換する工程を含む、HLA-B*0702制限潜在性エピトープの免疫原性を増大させる方法。
【請求項2】
最初の3残基がAPR又はAPK又はAPH又はAPMであるHLA-B*0702制限潜在性エピトープのC-末端残基をロイシンで置換する工程を含む、前記エピトープの免疫原性を増大させる方法。
【請求項3】
2番目及び3番目の残基がPR又はPK又はPH又はPMであり、かつC-末端位置のアミノ酸がL又はA又はI又はV又はMであるHLA-B*0702制限潜在性エピトープのN-末端残基をアラニンで置換する工程を含む、前記エピトープの免疫原性を増大させる方法。
【請求項4】
APRSPLAPS (配列番号2)、SPKANKEIL (配列番号3)、GPKHSDCLA (配列番号4)、DPRRLVQLL (配列番号1)からなる群より選択される潜在性HLA-B*0702制限エピトープ。
【請求項5】
潜在性HLA-B*0702制限エピトープAPRSPLAPS (配列番号2)から、そのC-末端アミノ酸をロイシンで置換することにより導かれる免疫原性HLA-B*0702制限エピトープ。
【請求項6】
SPKANKEIL (配列番号3)、GPKHSDCLA (配列番号4)、DPRRLVQLL (配列番号1)からなる群より選択される潜在性HLA-B*0702制限エピトープから、そのN-末端アミノ酸をアラニンで置換することにより導かれる免疫原性HLA-B*0702制限エピトープ。
【請求項7】
APRSPLAPL (配列番号6)、APKANKEIL (配列番号7)、APKHSDCLA (配列番号8)、APRRLVQLL (配列番号5)から選択される請求項5又は6に記載の免疫原性HLA-B*0702制限エピトープ。
【請求項8】
請求項4に記載のHLA-B*0702制限潜在性エピトープを2、3又はそれより多く含むキメラポリペプチド。
【請求項9】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の免疫原性HLA-B*0702制限エピトープを2、3又はそれより多く含むキメラポリペプチド。
【請求項10】
請求項4に記載の潜在性HLA-B*0702制限エピトープ、請求項5〜7のいずれか1項に記載の免疫原性エピトープ、又は請求項8若しくは9に記載のキメラポリペプチドの発現をもたらすように設計された単離された核酸分子。
【請求項11】
有効成分として、少なくとも、請求項4に記載のHLA-B*0702制限潜在性エピトープ、又は請求項5〜7のいずれか1項に記載の免疫原性エピトープポリペプチド、又は請求項8若しくは9に記載のキメラポリペプチド、又は請求項10に記載の核酸を含む医薬組成物。
【請求項12】
ワクチンである請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
別々の製剤で、HLA-B*0702制限潜在性エピトープの配列を有する第1ペプチドと、その同族HLA-B*0702制限免疫原性エピトープに相当する第2ペプチドとを含む要素のキット。
【請求項14】
前記第1ペプチドが請求項4に記載の潜在性エピトープであり、前記第2ペプチドが請求項5〜7のいずれか1項に記載の免疫原性ペプチドである請求項13に記載のキット。
【請求項15】
別々の製剤で、2、3又はそれより多いHLA-B*0702制限潜在性エピトープを含む第1キメラポリペプチドと、第1キメラポリペプチドに含まれるHLA-B*0702制限潜在性エピトープと同族のHLA-B*0702制限免疫原性エピトープを含む第2キメラポリペプチドとを含む要素のキット。
【請求項16】
前記第1キメラポリペプチドが請求項8に記載のキメラポリペプチドであり、前記第2ペプチドが請求項9に記載のキメラポリペプチドである請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記第1及び第2のペプチド又はキメラポリペプチドが、別々のワクチン接種用量にある、ワクチン接種キットである請求項13〜16のいずれか1項に記載のキット。
【請求項18】
第2ペプチド又はキメラポリペプチドの2又は3回用量と、第1ペプチド又はキメラポリペプチドの3、4、5、6回又は50回までの用量とを含む請求項17に記載のワクチン接種キット。
【請求項19】
各用量が、1〜5 mgのペプチド、又は1〜20 mgのキメラポリペプチドを含む請求項12に記載のワクチン又は請求項17若しくは18に記載のワクチン接種キット。
【請求項20】
ワクチン接種用量が、皮下注射用に処方される請求項12若しくは19に記載のワクチン、又は請求項16〜18のいずれか1項に記載のワクチン接種キット。
【請求項21】
予防的又は治療的免疫療法用の組成物の製造のための、請求項4に記載のHLA-B*0702制限潜在性エピトープ、又は請求項5〜7のいずれか1項に記載の免疫原性エピトープポリペプチド、又は請求項8若しくは9に記載のキメラポリペプチド、又は請求項11に記載の核酸の使用。
【請求項22】
抗ウイルス又は抗癌免疫療法のためである請求項21に記載の使用。
【請求項23】
ワクチンの製造のための請求項21又は22に記載の使用。
【請求項24】
HLA-B*0702制限潜在性エピトープの配列を有するペプチドの、その同族の最適化ペプチドにより開始されたCTL免疫応答を維持するための医薬組成物の製造のための使用。
【請求項25】
HLA-B*0702制限潜在性エピトープを2、3又はそれより多く含むキメラポリペプチドの、その同族の最適化キメラポリペプチド、又は該潜在性エピトープと同族の最適化ペプチドのいずれかにより開始されたCTL免疫応答を維持するための医薬組成物の製造のための使用。
【請求項26】
HLA-B*0702制限潜在性エピトープに由来する最適化HLA-B*0702制限エピトープ配列を有する免疫原性ペプチドの、前記HLA-B*0702制限潜在性エピトープに対するCTL免疫応答を開始するための医薬組成物の製造のための使用。
【請求項27】
HLA-B*0702制限潜在性エピトープに由来する最適化HLA-B*0702制限エピトープを2、3又はそれより多く含むキメラポリペプチドの、前記HLA-B*0702制限潜在性エピトープに対するCTL免疫応答を開始するための医薬組成物の製造のための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−542251(P2009−542251A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519005(P2009−519005)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際出願番号】PCT/IB2007/003054
【国際公開番号】WO2008/010098
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(507370817)
【氏名又は名称原語表記】VAXON BIOTECH
【住所又は居所原語表記】Genopole,2 rue Gaston Cremieux,F−91057 Evry Cedex,FRANCE
【Fターム(参考)】