説明

免疫細胞活性化剤

【課題】免疫細胞を効率良く確実に活性化させる。
【解決手段】末梢血から抽出された有核細胞3とβリン酸三カルシウム3とが混合されてなる免疫細胞活性化剤1を提供する。本発明によれば、予めβリン酸三カルシウム3と混合された有核細胞3に含まれる十分な数の破骨細胞によってもβリン酸三カルシウム3が貪食されることにより、十分な量のカテプシンKを移植後迅速に発現させ、該カテプシンKによって免疫細胞を活性化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫細胞活性化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、βリン酸三カルシウム(β−TCP)によって破骨細胞の貪食能が活性化され、それによって免疫細胞が活性化されることを利用した癌細胞抑制剤が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−126434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の場合、体内に移植後に免疫細胞の活性化による治療効果が発揮されるためには周辺組織からマクロファージが移植部位に集まってくるのを待たなければならず、また、十分な細胞数のマクロファージが集まってくるとは限らない。すなわち、移植後に免疫細胞を効率良く確実に活性化させることが難しいという問題がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、免疫細胞を効率良く確実に活性化させることができる免疫細胞活性化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、末梢血から抽出された有核細胞とβ−TCPとが混合されてなる免疫細胞活性化剤を提供する。
本発明によれば、体内に移植されたβ−TCPが、周辺組織から集まってきたマクロファージによって貪食されることにより、同じく周辺組織から患部集まってきたリンパ球などの免疫細胞を活性化させることができる。
【0006】
この場合に、免疫細胞は、マクロファージの1種である破骨細胞がβ−TCPを貪食するときに発現するカテプシンKによって活性化される。ここで、予めβ−TCPと混合された有核細胞に含まれる十分な数の破骨細胞によってもβ−TCPが貪食されることにより十分な量のカテプシンKが移植後迅速に発現させられる。これにより、免疫細胞を効率良く確実に活性化させることができる。
【0007】
上記発明においては、前記β−TCPが、多孔体であることが好ましい。
このようにすることで、破骨細胞とβ−TCPとの接触面積を拡大して破骨細胞によるβ−TCPの貪食を促進させることによりカテプシンKの発現量をさらに増大させることができる。
【0008】
また、上記発明においては、前記β−TCPからなり75μm以下の粒径を有する顆粒を備え、前記有核細胞が、前記顆粒と混合されていることが好ましい。
このようにすることで、破骨細胞によるβ−TCPの貪食をさらに促進することができる。
【0009】
また、上記発明においては、β−TCPの多孔体からなりその表面に凹部を有するブロック体を備え、前記顆粒および前記有核細胞の混合物が、前記凹部内に充填されていてもよい。
このようにすることで、予め混合された破骨細胞および移植後に集まってきた破骨細胞が凹部内の顆粒から外側のブロック体へと貪食を進めることにより、これらの破骨細胞をβ−TCPの場所に留めてカテプシンKの発現をより長期間にわたって持続させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、免疫細胞を効率良く確実に活性化させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る免疫細胞活性化剤の全体構成図である。
【図2】図1の免疫細胞活性化剤の変形例を示す図である。
【図3】図1の免疫細胞活性化剤のもう1つの変形例を示す図である。
【図4】β−TCPの顆粒を貪食している破骨細胞を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例2の測定結果を示すグラフであり、(a)粒径75〜125μmの顆粒および(b)粒径25〜75μmの顆粒を用いたときの破骨細胞の貪食能を示している。
【図6】実施例3に係る免疫細胞活性化剤Iを8週間移植した後の凹部におけるHE染色画像である。
【図7】実施例3に係る免疫細胞活性化剤Iを8週間移植した後の凹部におけるカテプシンK染色画像である。
【図8】実施例3に係る免疫細胞活性化剤Iを8週間移植した後のブロック体におけるカテプシンK染色画像である。
【図9】実施例3に係る免疫細胞活性化剤IIを8週間移植した後の凹部におけるカテプシンK染色画像である。
【図10】比較例の移植材を8週間移植した後の移植部位におけるカテプシンK染色画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態に係る免疫細胞活性化剤1について図1〜図3を参照して説明する。
本実施形態に係る免疫細胞活性化剤1は、図1に示されるように、凹部2aを有するβ−TCP多孔体からなるブロック体2と、凹部2a内に充填された、有核細胞とβ−TCP多孔体の顆粒との混合物3とを備えている。
【0013】
ブロック体2は、移植される部位の形状に応じた形状に形成される。凹部2aは、ブロック体2の外面に形成された窪みや溝などであり、ブロック体2の外側に開口している。図1に示されるブロック体2は円柱状であり、一方の端面に円柱状の凹部2aが形成されている。ブロック体2は、図2に示されるように、円筒状に形成され、その中空部分が凹部2aであってもよく、図3に示されるように、一方の平面が波状に形成された平板状であって、一方の平面の谷の部分が凹部2aであってもよい。ブロック体2は、有核細胞がその内部を容易に移動できるように、数百μmの孔径の連通孔が形成されており、約70%以上の気効率を有している。
【0014】
顆粒は、破骨細胞の大きさと略同等またはそれより小さい粒径を有しており、25〜75μmの粒径を有していることが好ましい。
【0015】
有核細胞は、末梢血から液体成分、赤血球および血小板を除去して得られた細胞、すなわち、白血球であり、単球、リンパ球、顆粒球およびマクロファージなどの免疫細胞を含んでいる。有核細胞は、例えば、免疫細胞活性化剤1が移植される患者から採取された末梢血からフィルタや遠心分離などによって抽出される。抽出された有核細胞は、抽出後迅速に顆粒と混合されて凹部2aに充填されてもよく、培養してから顆粒と混合されてもよい。また、有核細胞のうち単球は、マクロファージまたは樹状細胞に分化させた後に顆粒と混合されてもよい。
【0016】
次に、このように構成された免疫細胞活性化剤1の作用について説明する。
本実施形態に係る免疫細胞活性化剤1は、凹部2aが形成されている方の端面が、腫瘍などが形成された患部に接触するように、すなわち、混合物3が患部と直接接触するように患者の体内に移植される。移植後、予め凹部2a内に充填された有核細胞のうちマクロファージの1種である破骨細胞が顆粒を貪食する。一方、患部の周辺組織からも破骨細胞が免疫細胞活性化剤1へ遊走してきて顆粒を貪食する。顆粒を貪食したこれらの破骨細胞は引き続き凹部2aの外側に配置されたブロック体2を貪食する。
【0017】
このときに、β−TCPからなる顆粒およびブロック体2を貪食している破骨細胞が発現するカテプシンKにより、顆粒と混合されたリンパ球などの免疫細胞および周辺組織から患部に集まってきた免疫細胞が活性させられ、該免疫細胞によって患部の治癒を図ることができる。
【0018】
この場合に、本実施形態によれば、予め凹部2aに免疫細胞が顆粒と混合された状態で充填されているので、移植後迅速に十分な量のカテプシンKを発現させて、該カテプシンKによって、周辺に存在する十分な数の免疫細胞を効率良く確実に活性化させることができるという利点がある。また、これにより、移植部位の周辺組織から集まってきた免疫細胞のみを利用して患部の治癒を図る場合と比べて、治癒効果を向上することができるという利点がある。
【0019】
また、顆粒の周辺にブロック体2が存在することにより、顆粒を貪食した破骨細胞は、その場から移動して細胞数が減少したり貪食を止めたりすることなくβ−TCPの貪食を続け、カテプシンKを発現し続ける。これにより、免疫細胞が比較的長い期間にわたって活性化させられた状態に維持されるので、治癒効果を一層向上することができるという利点がある。
【実施例】
【0020】
次に、上述した本発明に係る一実施形態の実施例1〜3について、図4〜図10を参照して説明する。
[実施例1]
本発明の実施例1に係るβ−TCPのブロック体および顆粒を以下の方法により製造した。
まず、β−TCPの粉末120g、気泡安定剤としてポリアクリル酸アンモニウム系剤料(中京油脂製セルナー305)54mlおよび純水45mlを混合することにより均一なスラリを生成した。
【0021】
生成されたスラリに発泡剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル10mlを加えて混合することにより発泡体を生成した。生成された発泡体を室温で約1日乾燥させた後、30〜35℃でさらに約1日乾燥させた。十分に乾燥した発泡体を電気炉によって300℃で3時間焼成し、さらに100℃/時間で昇温して1050℃で1時間焼成した後、電気炉内で放冷した。
【0022】
これにより、75%の気孔率を有するβ−TCP多孔体の塊が得られた。得られた塊を切削することにより、一方の端面に直径1.3mm、深さ8mmの円柱状の凹部を有する、直径3.7mm、高さ10mmの円柱状の、本実施例に係るブロック体を製造した。また、塊を粉砕し、得られた粉をふるいにかけることにより、β−TCP多孔体からなる粒径25〜75μmの本実施例に係る顆粒を製造した。
【0023】
[実施例2]
次に、β−TCPの顆粒の粒径と破骨細胞の貪食能との関係を調べた。
まず、末梢血から抽出した有核細胞から、CD14 Cell−Adembeads Kit(ADEMTECH社製)を利用してCD14陽性細胞、すなわち、単球を分離した。分離したCD14陽性細胞を緩衝液で懸濁して細胞懸濁液を作成した。
【0024】
次に、各培養容器に、作成した細胞懸濁液と実施例1に係る粒径25〜75μmの顆粒とを収容し、ルミノールを添加し、37℃で培養した。ここで、顆粒は、β−TCPの最終濃度が0、0.01、0.1、0.5および1mg/mlになるように、各容器に収容した。また、本実施例に対する比較例として、実施例1と同じ方法で製造した75〜125μmの粒径の顆粒を用いて同じ実験を行った。
【0025】
そして、培養中に、マイクロプレートリーダを用いてルミノールからの発光を経時的に測定した。破骨細胞がβ−TCPを貧食することにより活性酸素が産生され、該活性酸素とルミノールが反応することによりルミノールが発光する。すなわち、ルミノールの発光強度は、破骨細胞の貪食能に比例する。
培養中に、破骨細胞Aがβ−TCPの顆粒に付着して貪食している様子を撮影した走査型電子顕微鏡写真を図4に示す。図中、黒く表れている比較的小さな点は、β−TCPの微粉である。
【0026】
また、比較例の測定結果を図5(a)に、本実施例の測定結果を図5(b)に示す。図5(a),(b)は、横軸が培養(インキュベート)時間を示し、縦軸がルミノールの発光強度を相対光単位で示している。
図5(a),(b)から、顆粒の量の増加とともに破骨細胞の貪食能が増加することが確認された。また、粒径が75〜125μmの顆粒よりも、粒径が25〜75μmの顆粒を使用した方が効率良く破骨細胞によるβ−TCPの貪食が進むことが確認された。これにより、本発明において、25〜75μmの粒径の顆粒を使用することにより、破骨細胞によってカテプシンKを効率的に発現させることができることが示唆された。
【0027】
[実施例3]
次に、実施例1に係るβ−TCP多孔体のブロック体および顆粒を用いて免疫細胞活性化剤を製造し、製造された免疫細胞活性化剤を生体内に移植し、カテプシンKの発生に対する効果を評価した。
【0028】
まず、ハイブリット犬から血液50mlを採取し、採取した血液からフィルタによって有核細胞を分離した。分離した有核細胞と実施例1の顆粒とを、有核細胞の細胞数が顆粒1mgに対して5×10以上になるように混合して混合物を生成した。そして、生成した混合物をブロック体の凹部に充填することにより、本実施例に係る免疫細胞活性化剤Iを製造した。
また、実施例1の顆粒と有核細胞との混合物からなる本実施例に係る免疫細胞活性化剤IIを製造した。
【0029】
製造された免疫細胞活性化剤I,IIを、ハイブリット犬の顎骨に形成した骨欠損部に移植した。移植から8週間経過後に顎骨から移植部位の組織を採取し、採取した組織の病理切片を作成してカテプシンKを免疫染色し、光学顕微鏡により観察した。
本実施例に対する比較例として、実施例1の顆粒のみからなる移植材を移植した場合についても、同様にして移植部位の病理切片を作成してカテプシンKを染色し観察した。
【0030】
図6は、本実施例に係る免疫細胞活性化剤Iの凹部のHE染色画像である。全体にわたって有核細胞(黒い小さな点状のもの)の分布が確認された。画像中の比較的大きな球状のものが、顆粒である。図7は、図6と略同一部分のカテプシンK染色画像である。全体にわたってカテプシンK(図中、矢印参照。)の分布が確認された。図8は、免疫細胞活性化剤Iのブロック体のカテプシンK染色画像である。凹部に比べてカテプシンKが多く分布しており、凹部において顆粒を貪食した破骨細胞がブロック体に移動してさらにβ−TCPを貪食し続けることが確認された。
【0031】
図9は、本実施例に係る免疫細胞活性化剤IIの移植部位におけるカテプシンK染色画像である。顆粒の位置にカテプシンKの発現が多く確認されたが、その発現量は免疫細胞活性化剤Iの場合と比べると5〜6割程度に留まっていた。
図10は、比較例の移植材の移植部位におけるカテプシン染色画像である。カテプシンKの発現がわずかに確認されたが、本実施例に係る免疫細胞活性化剤I,IIと比べると優位に少なかった。
【0032】
以上の観察の結果から、有核細胞と顆粒とを混合して移植することにより移植後のカテプシンKの発現量が増大すること、さらに、有核細胞と顆粒との混合物の周辺にブロック体が存在することによりカテプシンKの発現量が一層増大することが確認された。
【符号の説明】
【0033】
1 免疫細胞活性化剤
2 ブロック体
2a 凹部
3 混合物(β−TCP、顆粒、有核細胞)
A 破骨細胞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢血から抽出された有核細胞とβリン酸三カルシウムとが混合されてなる免疫細胞活性化剤。
【請求項2】
前記βリン酸三カルシウムが、多孔体である請求項1に記載の免疫細胞活性化剤。
【請求項3】
前記βリン酸三カルシウムからなり75μm以下の粒径を有する顆粒を備え、
前記有核細胞が、前記顆粒と混合されている請求項1または請求項2に記載の免疫細胞活性化剤。
【請求項4】
βリン酸三カルシウムの多孔体からなりその表面に凹部を有するブロック体を備え、
前記顆粒および前記有核細胞の混合物が、前記凹部内に充填されている請求項3に記載の免疫細胞活性化剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−144439(P2012−144439A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1447(P2011−1447)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】