説明

入浴介護補助装置及び入浴介護用のシートフレーム

【課題】被介護者を入浴させる際に装置が支持すべき重量が軽減され、さらに、一個の大浴槽に複数の被介護者が入浴可能な設備にも適用容易な、入浴介護補助装置を提供する。
【解決手段】入浴介護補助装置1は、入浴者が着座した椅子2を保持しながら浴槽3内外で昇降自在および浴槽3内外間で搬送自在であって、椅子2を保持しながら浴槽3外と浴槽3上の間を移動自在な移動体4と、椅子2を移動体4に着脱自在な着脱機構5と、椅子2が着脱機構5を介して接続され椅子2を昇降自在な昇降機構6と、椅子2に設けられ、浴槽3の底面と接触することにより、浴槽3内で着脱機構5の操作によって移動体4から離脱した椅子2を浴槽3内で移動自在にさせる浴槽内走行機構7と、を有し、浴槽内走行機構7は、椅子2が浴槽3外で移動体4に保持又は着脱されている間は、接地不能である高さに位置し、浴槽3内に降下された際には、浴槽3の底面と接触する高さに位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入浴介護補助装置及び入浴介護用のシートフレームに関し、特に、一度に複数の被介護者を入浴させることができる入浴介護補助装置及びリクライニング機構を備えた入浴介護用のシートフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、特許文献1〜3などに示す入浴介護補助装置を提案している。本出願人は、さらに、商品名“バスラック”及び“バスラックミニ”という入浴介護補助装置を市販している。
【0003】
別に、特許文献4及び5には、複数の浴槽が対向して或いは放射状に配置された入浴設備において、被介護者(入浴者)が着座した車椅子を、浴槽外で車椅子用リフトに取り付けて持ち上げ、浴槽上へ向かって平行移動あるいは水平方向に旋回させ、浴槽内へ降下させた後、車椅子用リフトから取り外すことにより、被介護者を車椅子ごと入浴させる、車椅子用入浴装置がそれぞれ提案されている。なお、特許文献4の段落0029には、「車椅子の上記着座部が分離可能な車椅子を用いて、車椅子の上記着座部だけを車椅子用リフトに取り付けても構わない。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−118105号公報
【特許文献2】特開2009−201554号公報
【特許文献3】特開2009−254745号公報
【特許文献4】特開2000−225164号公報(段落0029)
【特許文献5】特開2004−97400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献4及び5に係る発明のように、被介護者を車椅子ごと持ち上げて入浴させる場合、車椅子用リフトに加わる負荷が大きくなり、車椅子用リフトを頑健に製作する必要があるため、入浴装置の構造が肥大化し、入浴装置の価格も上昇するという問題が生じる。また、浴槽外を走行する車椅子の車輪も浴槽内に漬かるため、この車輪に付着したゴミなどが浴槽内に付着するおそれもある。
【0006】
一方、特許文献4の段落0029に記載されているように、車椅子の車輪と着座部を分離し、車椅子の着座部だけを持ち上げて、被介護者を着座部ごと入浴させる場合、着座部は走行不能であるため、着座部及びそれに着座している被介護者は、浴槽内で移動不能となる。したがって、このような被介護者が着座した走行不能な着座部を入浴させる入浴装置は、一個の小浴槽に一人の被介護者が入浴する設備(これを「個浴」と称する)には適用できる。
【0007】
しかしながら、上記した走行不能な着座部を分離するタイプの入浴装置を、一個の大浴槽に複数の被介護者が入浴する設備(これを「複数浴」と称する)に適用する場合には、リフトの移動するライン上でしか、着座部及び被介護者を入浴させることができないため、浴槽の形状や大きさに対応して、リフトの移動距離や移動半径を可変する必要があり、リフト走行レールやリフト支持アームの長さや形状を、逐一、設計変更することが要求され、入浴装置の肥大化及び価格上昇を招来するという問題が生じる。
【0008】
本発明の目的は、入浴者ないし被介護者を入浴させる際に装置が支持すべき重量が軽減され、被介護者を可及的に清潔な環境で入浴させることが可能であり、さらに、一個の大浴槽に複数の被介護者が入浴可能な設備にも、コンパクトな構成でもって適用容易な、入浴介護補助装置を提供することである。
また、本発明の別の目的は、前記入浴介護補助装置の構成部品として適すると共に、浴槽を特別に深くしなくても、入浴者が安定した姿勢で十分に湯中に漬かることができる入浴介護用のシートフレームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1の視点において、入浴者が着座した椅子を保持しながら浴槽内外で昇降自在および該浴槽内外間で搬送自在な入浴介護補助装置であって、前記椅子を保持しながら前記浴槽外と該浴槽上の間を移動自在な移動体と、前記椅子を前記移動体に着脱自在な着脱機構と、前記椅子が前記着脱機構を介して接続され該椅子を昇降自在な昇降機構と、前記椅子に設けられ、前記浴槽の底面と接触することにより、該浴槽内で前記着脱機構の操作によって前記移動体から離脱した該椅子を、前記浴槽内で走行自在にさせる浴槽内走行機構と、を有し、前記浴槽内走行機構は、前記椅子が前記浴槽外で前記移動体に着脱される際には、接地不能であり、前記椅子が前記浴槽上に搬送され前記昇降機構によって該浴槽内に降下された際に、前記浴槽の底面と接触する高さに配置される、入浴介護補助装置を提供する。
本発明は、第2の視点において、少なくとも浴槽内で入浴者が着座する椅子のシート部が載置されると共に、該浴槽の底面に接地される入浴介護用のシートフレームであって、前記シートフレームの側部に取り付けられた操作部と、前記シートフレームの後部に取り付けられた安定部と、を備え、前記操作部は、揺動操作されて、該操作部と共に前記シート部が所定角度傾斜した際、前記安定部よりも前方で前記浴槽の底面に接地するよう配置され、前記安定部は、前記操作部が前記浴槽の底面に接地した際、前記シート部の後側で、該浴槽の底面と接地することにより、傾斜した該シート部の姿勢を安定させるよう配置される、入浴介護用のシートフレームを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の入浴介護補助装置によれば、入浴者が着座した状態で、移動体を介して、浴槽内外で支持、搬送又は昇降される椅子に、浴槽内で機能するが浴槽外で機能しない、浴槽内専用の走行機構が付設されている。介護者は、この走行機構を利用して、下記の操作を繰り返すことにより、一個の浴槽に複数の入浴者を入浴させることができる:
(a)浴槽外で、移動体に、入浴者が着座している椅子を支持させる。このとき、本発明の浴槽内走行機構は着地していない;
(b)浴槽外から浴槽内に、入浴者及び椅子と共に移動体を移動させる;
(c)浴槽内で移動体を降下させ、椅子に付設されている浴槽内走行機構を着地させる;
(d)椅子を移動体から切り離す;
(e)浴槽内走行機構を利用して、入浴者が着座している椅子を、浴槽内で移動させる;
(f)移動体を浴槽外に戻す。
介護者は、上記一連の操作を繰り返すことにより、浴槽内専用の走行機構を利用して、入浴者がそれぞれ着座した椅子を次々と、椅子の着地点から複数の任意の入浴地点まで、小さな操作力で移動させ、複数浴を達成することができる。
【0011】
さらに、本発明の入浴介護補助装置による効果を詳細に説明する。
(1)移動体は、浴槽外を走行するための車輪を保持しないため、移動体が支えるべき重量が軽減され、入浴介護補助装置が支持すべき重量ないし負荷も小さくなる。この結果、移動体を含めて、入浴介護補助装置全体をコンパクトに構成することができる;
(2)浴槽外で使用された台車(車椅子)の車輪は、浴槽内に搬入されないため、浴槽外のゴミなどが浴槽内に持ち込まれることが防止され、被介護者を可及的に清潔な環境で入浴させることができる;
(3)浴槽内で接地する本発明の浴槽内走行機構は、浴槽外では接地しないため、浴槽外のゴミなどが浴槽内に持ち込まれることが防止され、被介護者を可及的に清潔な環境で入浴させることができる;
(4)椅子は、該椅子に付設された浴槽内専用の走行機構によって、浴槽内で移動自在とされているため、椅子が支持される移動体の可動距離ないし可動半径が小さくて済み、例えば、移動体を走行させるためのレールの敷設距離を短縮することができ、或いは、移動体を支持するアームの長さを短縮することができる。かくして、本発明によれば、入浴介護補助装置がコンパクトに構成できる;
(5)椅子は、該椅子に付設された浴槽内専用の走行機構によって、浴槽内で移動自在とされているため、例えば、移動体を走行させるためのレール、或いは、移動体を支持するアームの形状等を汎用化することが容易であり。したがって、本発明の入浴介護補助装置は、大きさや形状の異なる様々な浴槽を有する入浴設備に、容易に低コストで適応させることができる;
(6)本発明によれば、浴槽内専用の浴槽内走行機構、或いは、リクライニング機構を活用して、浴槽内で椅子を傾斜させることにより、入浴者を十分な深さまで入浴させることができる。
【0012】
また、本発明は、簡素に構成され汎用性の高いリクライニング機構が付加された、椅子ないし椅子のシートフレームも提供する。介護者は、浴槽内で、椅子ないしシートフレームに付加されたリクライニング機構の操作部を操作して、シート部及び入浴者を後方へ向かって傾斜させることにより、入浴者の肩の位置を低くし、しかも、リクライニング機構の安定部によって、その姿勢が安定的に維持される。これによって、浴槽を特別に深くしなくても、入浴者は、安定した姿勢で十分に湯中に漬かることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)〜(C)は、本発明の実施例1に係る入浴介護補助装置の全体構成を説明する図である。
【図2】図1に示した入浴介護補助装置が有する椅子を台車に装着した様子を示す分解図である。
【図3】図2に示した、台車に装置された椅子の拡大図である。
【図4】(A)及び(B)は、図1に示した入浴介護補助装置が有するリクライニング機構を説明するための動作図である。
【図5】図1に示した入浴介護補助装置を用いて、複数の入浴者を一つの浴槽に入浴させる様子を示す動作図である。
【図6】図1に示した入浴介護補助装置に適用される、シート部とシートフレームが分離自在な椅子を台車に装着した様子を示す分解図である。
【図7】図6に示した、台車に装置された椅子の拡大図である。
【図8】本発明に基づく入浴介護補助装置を一部改造して、複数の浴槽にそれぞれ一人の入浴者を入浴させる個浴設備に適用する例を示す動作図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施の形態によれば、前記浴槽内走行機構は、前記椅子のシート部に設けられる。この形態によれば、椅子の部品点数を減少させて、椅子を安価に製作することができる。また、前記浴槽内走行機構は、前記シート部と分離して設けてもよく、好ましくは、前記浴槽内走行機構は、前記椅子のシート部が載置されるシートフレームに設けられる。このような形態によれば、浴槽内走行機構が要求される入浴設備、例えば、大浴槽に複数の入浴者が入浴する設備の場合には、浴槽内走行機構を活用し、一人分の浴槽に一人の入浴者が入浴するような設備の場合には、シートフレームを椅子から取り外せばよい。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態によれば、前記シート部は、前記シートフレームを介して、前記浴槽外で接地する車輪を備え該浴槽外を走行する台車上に載置自在である。この形態によれば、例えば、シートフレームに浴槽内走行機構を設け、要求に応じて、シートフレームを装着することにより、上記した様々な形態の入浴設備に、本発明による入浴介護補助装置を容易に適用することができる。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態に係る入浴介護補助装置は、前記椅子に取り付けられるリクライニング機構を有する。このリクライニング機構は、前記浴槽内で、入浴者が着座している前記椅子が前記移動体から分離され、該椅子を傾斜させる際、該浴槽の底面に接地して、入浴者及び該椅子が傾斜した状態を維持させるよう構成される。入浴者及び椅子が入浴した状態においては、入浴者及び椅子が浮力を受けるので、リクライニング機構を簡素な構成にすることが可能である。また、リクライニング機構の作動時、シート部の前が上がり、入浴者が後ろへ傾く。しかし、安定部によって、入浴者が傾斜した姿勢は安定するため、リクライニング時、入浴者に不安感を与えることが可及的に防止される。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態に係る入浴介護補助装置の椅子は、少なくとも浴槽内で入浴者が着座する椅子のシート部が載置されると共に、該浴槽の底面に接地される入浴介護用のシートフレームを有し、前記シートフレームの側部に取り付けられた操作部と、前記シートフレームの後部に取り付けられた安定部と、を備え、前記操作部は、揺動操作されて、該操作部と共に前記シート部が所定角度傾斜した際、前記安定部よりも前方で前記浴槽の底面に接地するよう配置され、前記安定部は、前記操作部が前記浴槽の底面に接地した際、前記シート部の後側で、該浴槽の底面と接地することにより、傾斜した該シート部の姿勢を安定させるよう配置される。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態によれば、移動体は水平方向に直線状に移動する。或いは、水平方向に旋回しながら移動する。前者の場合、例えば、水平方向に延在するレールを架設し、移動体を水平方向に移動自在に案内する。後者の場合、例えば、架設したポールに、アームを旋回及び昇降自在に取り付け、アームに脱着機構を介して椅子を分離自在に取り付ける。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態において、昇降機構は、移動体に設けることができる。或いは、昇降機構が、移動体を昇降駆動できるよう、入浴介護補助装置に設けてもよい。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態において、浴槽内走行機構は、浴槽底面の形状や摩擦状態に応じて、種々の走行機構のうちから選択される。例えば、浴槽内走行機構として、浴槽底面上で回動する車輪、コロ、或いは摺動ないし滑動する滑り板を、椅子の浴槽底面接触部、例えば、シート部底面やシートフレーム底部に設けることができる。
【実施例1】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の一実施例を説明する。図1(A)〜(C)は、本発明の実施例1に係る入浴介護補助装置1の全体構成を説明する図である。
【0022】
図1(A)〜(C)を参照すると、本発明の一実施例に係る入浴介護補助装置1は、入浴者(被介護者)が着座した椅子2を保持しながら浴槽3内外で昇降自在および浴槽3内外間で搬送自在である。この入浴介護補助装置1は、椅子2を保持しながら浴槽3外と浴槽3上の間を移動自在な移動体4と、椅子2を移動体4に着脱自在な着脱機構5と、椅子2が着脱機構5を介して接続され椅子2を昇降自在な昇降機構6と、椅子2に設けられ(好ましくは、椅子2のシート部2a又はシート部2aに隣接して付設され)、浴槽3の底面と接触することにより、浴槽3内で着脱機構5の操作によって移動体4から離脱した椅子2を、浴槽3内で移動自在にさせる浴槽内走行機構7と、を有している。
【0023】
浴槽内走行機構7は、椅子2が浴槽3外で移動体4に保持又は着脱されている間は、接地不能である高さに位置し、椅子2が浴槽3上に搬送されて浴槽3内に降下された際には、浴槽3の底面と接触する高さに位置するよう配置されている。
【0024】
入浴介護補助装置1は、さらに、浴槽3内外間に架設され、移動体4の水平移動を案内する水平レール1aを有している。浴槽3内で、椅子2が降下する地点は、一箇所で十分であるため、水平レール1aの架設長さを短縮することができる。
【0025】
[椅子2]
図2は、図1に示した入浴介護補助装置1が有する椅子2を台車10に装着した様子を示す分解図であり、図3は、図2に示す、台車10に装着された椅子2の拡大図である。特に、図2及び図3を参照すると、椅子2は、入浴者が浴槽3内外で着座するシート部2aと、背もたれ部2bと、昇降機構5に係合自在なハンガー部2cと、を含んで構成されている。シート部2a、背もたれ部2b及びハンガー部2cは、一体化されている。シート部2aの前部には、出没自在な脚載せ2eが取り付けられている。
【0026】
[浴槽3]
特に、図1(A)及び後述する図4(B)を参照すると、浴槽3は、多数の入浴者が同時に入浴可能な広さと、介護を必要としない入浴者が肩まで漬かれる程度の通常の深さと、を備えている。
【0027】
[移動体4]
特に、図1(A)を参照すると、移動体4は、水平レール1a上を共に水平移動する、昇降ガイドレール4a及び本体ケース4bと、を含んで構成されている。昇降ガイドレール4aと本体ケース4bは、一体化されている。本体ケース4bには、昇降機構6が揺動自在に取り付けられると共に、昇降機構6を操作する昇降ハンドル6aが回転操作自在に取り付けられている。本体ケース4bには、昇降機構6の昇降ハンドル6aとアーム6bとの間に接続され、入浴者及び椅子2の荷重に抗して昇降ハンドル6aの操作力を軽減する不図示のばね機構及び減速機構が内蔵されている。
【0028】
[着脱機構5]
特に、図1(A)及び図2を参照すると、着脱機構5は、椅子2側に設けられたハンガー部2cと、昇降機構6側に設けられ、ハンガー部2cと該ハンガー部2cを下から持ち上げるよう係合する吊フック6dと、を含んで構成される。吊フック6dの裏側には、昇降ガイドレール4aに案内される不図示の昇降ローラが取り付けられている。昇降機構6の昇降アーム6b及び吊下ロッド6cが下降すると、吊フック6dが下降して、吊フック6dとハンガー部2cの係合が解除されて、移動体4から椅子2が離脱可能となり、昇降機構6の昇降アーム6b及び吊下ロッド6cが上昇すると、吊フック6dが上昇して、吊フック6dとハンガー部2cが係合され、移動体4に椅子2が保持される。
【0029】
[昇降機構6]
特に、図1(A)を参照すると、昇降機構6は、介護者が回転操作する昇降ハンドル6aと、昇降ハンドル6aの回転操作に応じて揺動する昇降アーム6bと、昇降アーム6bに吊下ロッド6cを介して接続された吊フック6dと、を含んで構成されている。
【0030】
[浴槽内走行機構7]
特に、図1(A)及び図3を参照すると、浴槽内走行機構7は、椅子2のシート部2aに取り付けられている。すなわち、シート部2aには、回転及び旋回自在な左右の前輪7a,7aと、回転自在な左右の後輪7b,7bが取り付けられている。
【0031】
[リクライニング機構9]
図4(A)及び(B)は、図1に示した入浴介護補助装置1が有するリクライニング機構9を説明するための動作図である。特に、図4(A)及び(B)を参照すると、リクライニング機構9は、シート部2aの側部に取り付けられた操作部9aと、シート部2aの後部に取り付けられた安定部9bと、を備えている。ベルクランク状の操作部9aの中間部は、シート部2aに固定され、操作部9aの一端(接地レバー部92)は、図4(A)に示す非リクライニング状態で接地せず、図4(B)に示すリクライニング状態で接地し、操作部9aの他端(操作レバー部91)が介護者が操作する部分となる。安定部9bは、図4(A)に示す非リクライニング状態で接地せず、図4(B)に示すリクライニング状態で接地する。
【0032】
すなわち、操作部9aが介護者によって揺動操作されて、操作部9aがシート部2aないし椅子2と共に所定角度傾斜した際、操作部9aは、安定部9bよりも前方で、浴槽3底面に接地する。安定部9bは、操作部9aが浴槽3底面に接地した際、シート部2aの後側で、浴槽3底面と接地することにより、浮力を受けて後方に傾こうとする入浴者及び椅子2の姿勢を安定させる。このリクライニング機構9によって、入浴者を容易に傾けることができるため、浴槽3の深さを格別に深くしなくても、入浴者は湯中に十分に漬かることができる。
【0033】
なお、操作部9aにおいて、操作レバー部91と接地レバー部92の成す角度は、図中、直角以上となっているが、この角度を直角以下とし、操作レバー部91をコンパクトに構成すると共に、使い勝手を向上させてもよい。
【0034】
[台車10]
特に、図1(A)及び図3を参照すると、台車10は、浴槽3外で、入浴者、入浴者が着座するシート部2aを含む椅子2を、浴槽3そばの入浴介護補助装置1の前まで搬送するために使用され、シート部2aを含む椅子2が載置自在である。台車10は、浴槽外で接地する車輪10aと、浴槽内走行機構7が取り付けられている椅子2(シート部2a)が載置される載置枠10bと、載置枠10b上に載置されたシート部2aを載置枠10bにロックするロック機構10cと、を備えている。
【0035】
引き続き、図1〜図4を参照して、以上説明した本発明の一実施例に係る入浴介護補助装置1の操作方法を説明する。
【0036】
(1)浴槽3外を走行する台車10には、椅子2が載置されている。椅子2ないしそのシート部2aは、ロック機構10cによって、台車10に確実にロックされている。シート部2a上には最初の入浴者が着座している。
【0037】
(2)介護者は、浴槽3横に位置している入浴介護補助装置1の移動体4の直前まで、台車10を走行させ、昇降ハンドル6aを回転操作して昇降機構6を作動させ、詳細には、一旦、着脱機構5の構成部品である吊フック6dを下降させた後で上昇させ、吊フック6dを、着脱機構5の構成部品であるハンガー部2cに係合させる。これによって、入浴者が着座した椅子2が、移動体4に係合される。介護者は、ロック機構10cを解除して、台車10を退避させる。
【0038】
(3)介護者は、昇降ハンドル6aを回転操作して、入浴者が着座した椅子2を、入浴者の脚が浴槽3の浴壁を超える高さまで上昇させる。次に、介護者は、椅子2等を押して、入浴者、椅子2及び移動体4を水平移動させ、入浴者及び椅子2を、浴槽3上まで搬送する。
【0039】
(4)介護者は、昇降ハンドル6aを回転操作して、シート部2aに付設されている浴槽内走行機構7、すなわち、左右の前後輪7a,7bを浴槽3の底面に着地させる。次に、介護者は、昇降ハンドル6aを回転操作して吊フック6dを下降させ、吊フック6dとハンガー部2cの係合を解除して、椅子2を浴槽3内で移動可能な状態にする。
【0040】
(5)介護者が、椅子2の背もたれ部2b等を押すと、左右の前後輪7a,7bが浴槽3底面上を回動する。図5は、図1に示した入浴介護補助装置を用いて、複数の入浴者を一つの浴槽に入浴させる様子を示す動作図である。特に、図5を参照すると、介護者は、入浴者が着座した椅子2を、図4に示す第1の入浴地点P1まで移動させる。
【0041】
(6)介護者は、椅子2に付設されたリクライニング機構9の操作部9aを揺動操作して、操作部9a及び安定部9bを浴槽3底面に接地させ、椅子2を傾斜させる。このリクライニング操作によって、入浴者は十分に湯中に漬かることができる。
【0042】
以上(1)〜(6)の操作で、最初の入浴者の入浴が完了する。介護者は、空になった移動体4を浴槽3外へ戻し、次の入浴者を入浴させるため、再度(1)〜(6)の操作を繰り返す。但し、(5)の操作において、介護者は、次の入浴者を第2の入浴地点P2まで移動させて、入浴させる。同様に、その次の入浴者は、第3の入浴地点P3まで移動されて、入浴する。椅子2には、浴槽内走行機構7が付設されているため、介護者は、入浴者を浴槽3内の任意の地点で入浴させることができ、かくして、一つの浴槽3に多数の入浴者を同時に入浴させることができる。なお、入浴者が湯から上がるときには、介護者は、(1)〜(6)の操作を逆順で実行すればよい。
【実施例2】
【0043】
前記実施例1においては、浴槽内走行機構7が、椅子2のシート部2aに付設された例を説明したが、本実施例2においては、シート部2aが、それと分離自在なシートフレーム8に載置され、このシートフレーム8に浴槽内走行機構7が付設された例を説明する。なお、本実施例2においては、主として、実施例1と実施例2の椅子2の相違点について説明し、同様の点については、前記実施例1を参照するものとする。
【0044】
図6は、図1に示した入浴介護補助装置に適用される、シート部2aとシートフレーム8が分離自在な椅子を台車10に装着した様子を示す分解図である。図7は、図6に示した、台車10に装置された椅子2の拡大図である。
【0045】
図6及び図7を参照すると、椅子2は、シート部2aと、背もたれ部2bと、ハンガー部2cと、シート部2aが載置され係合されるシートフレーム8と、を含んで構成されている。シート部2a、背もたれ部2b及びハンガー部2cは、一体化されている。シート部2aの後部には、シートフレーム8と係合するフレームフック2dが設けられている。シート部2aの前部には、出没自在な脚載せ2eが取り付けられている。
【0046】
浴槽内走行機構7は、椅子2のシート部2aが載置されるシートフレーム8に取り付けられている。すなわち、シートフレーム8には、回転及び旋回自在な左右の前輪7a,7aと、回転自在な左右の後輪7b,7bと、出没操作自在でありシート部2aを解除可能にロックするプランジャ機構(シートロック機構)8cと、フレームフック2dが係合される水平バー8dと、リクライニング機構9と、が設けられている。シートフレーム8上に載置されたシート部2aは、フレームフック2dとプランジャ機構8cを介して、シートフレーム8と係合する。
【0047】
椅子2を、浴槽3外を走行する台車10に搭載する際、シート部2aは、シートフレーム8を介して台車10上に載置され、椅子2は、ロック機構10cによって、台車10に確実にロックされる。シートフレーム8も、ロック機構10cによって、シート部2aと台車10の載置枠10bの間で挟持される。
【0048】
介護者が、図1に示した入浴介護補助装置1を用いて、本実施例2のシートフレーム分離型の椅子2に着座した入浴者を入浴させる際、介護者は、プランジャ機構8c及びフレームフック2dによって一体化されたシート部2aとシートフレーム8を含む椅子2を、移動体4から分離し、シートフレーム8に付設された浴槽内走行機構7を利用して、入浴者を浴槽3内の任意の位置に移動することができる。その他の操作は、実施例1と同様である。
【実施例3】
【0049】
前記実施例1及び2においては、大きな浴槽に多数の入浴者を入浴させる例を説明したが、本発明に基づく入浴介護補助装置は、一つの浴槽に一人の入浴者が入浴する設備、いわゆる“個浴”に対しても、容易に適用することができる。本実施例3においては、本発明に基づく入浴介護補助装置を一部改造して、複数の浴槽にそれぞれ一人の入浴者を入浴させる例を説明する。なお、本実施例3においては、主として、前記実施例1又は実施例2との相違点について説明し、同様の点については、前記実施例1又は実施例2を参照するものとする。
【0050】
図8は、本発明に基づく入浴介護補助装置を一部改造して、複数の浴槽にそれぞれ一人の入浴者を入浴させる個浴設備に適用する例を示す動作図である。
【0051】
図8を参照すると、複数の浴槽3a〜3dが並置され、複数の浴槽3a〜3dに合わせて入浴介護補助装置1の水平レール1aが延長されている。入浴介護補助装置1の移動体4に脱着されて昇降及び搬送自在な椅子2においては、図3又は図7に示した左右の前後輪7a,7b(ないし図1(A)に示した浴槽内走行機構7)が取り外されている。図3に示した椅子2を本実施例3に適用する場合には、シート部2aから左右の前後輪7a,7b(浴槽内走行機構7)を取り外せばよく、図7に示した椅子2を本実施例3に適用する場合には、椅子2から、シートフレーム8ごと左右の前後輪7a,7b(浴槽内走行機構7)を取り外せばよい。
【0052】
次に、本実施例3に係る入浴介護補助装置1の操作方法を説明する。介護者は、浴槽3a〜3d外に位置している移動体4の前まで、入浴者が着座している椅子2が分離自在に載置された台車10を搬送する。介護者は、椅子2を台車10から移動体4側に乗せ変えて、浴槽3d上まで、水平レール1a上を移動させる。介護者は、昇降機構6を操作して、入浴者及び椅子2を降下させ、浴槽3d底面に着地させる。介護者は、移動体4を浴槽3a〜3d外の初期位置(図5の右側参照)に戻し、別の椅子2に着座して台車10により搬送されてきた次の入浴者を、最初の入浴者と同様の操作により、今度は、浴槽3cに入浴させる。このようにして、介護者は、複数の入浴者をそれぞれ、複数の浴槽3d〜3aに次々と入浴させることができる。なお、複数の入浴者がそれぞれ湯から上がるときには、介護者は、以上説明した操作を逆順で実行すればよい。
【0053】
なお、本実施例においては、移動体を逐一、図5の右側に示した一つの初期位置まで戻す操作方法を説明したが、台車10を浴槽3a〜3dのいずれか一の傍まで移動させれば、移動体4を上記一つの初期位置まで戻す必要はない。例えば、浴槽3dに入浴者を入浴させる場合、介護者は、入浴者が乗車している台車10を浴槽3dの傍らまで搬送し、以下、上記と同様に入浴及び湯上りの介護操作を行えば、入浴者を保持した状態における移動体4の移動距離(入浴者が吊り下げられて移動する距離)は、短縮される。すなわち、湯から上げたい浴槽の脇へ台車10を沿わせて、移動体4をその位置まで移動して、上げる方法を取ることもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明による入浴介護補助装置ないし椅子は、一つの大浴槽に複数の入浴者を入浴させる設備に好適に適用される他、複数の浴槽に一人の入浴者をそれぞれ入浴させる設備に、僅かな改造によって、容易に適用され、勿論、一つの浴槽に一人の入浴者が入浴する家庭内の入浴設備にも対応できる。また、本発明によるリクライニング機構は、あらゆる形態の入浴設備に対応している。
【符号の説明】
【0055】
1 入浴介護補助装置
1a 水平レール
2 椅子
2a シート部
2b 背もたれ部
2c ハンガー部
2d フレームフック
2e 脚載せ
3 浴槽
3a〜3d 複数の浴槽(個浴槽)
4 移動体
4a 昇降ガイドレール
4b 本体ケース
5 着脱機構
6 昇降機構
6a 昇降ハンドル
6b 昇降アーム
6c 吊下ロッド
6d 吊フック
7 浴槽内走行機構(浴槽内専用の走行機構)
7a,7a 左右の前輪
7b,7b 左右の後輪
8 シートフレーム
8c プランジャ機構(シートロック機構)
8d 水平バー
9 リクライニング機構
9a 操作部
91 操作レバー部
92 接地レバー部
9b 安定部
10 台車
10a 車輪
10b 載置枠(載置部)
10c ロック機構
P1〜P3 第1〜第3の入浴地点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入浴者が着座した椅子を保持しながら浴槽内外で昇降自在および該浴槽内外間で搬送自在な入浴介護補助装置であって、
前記椅子を保持しながら前記浴槽外と該浴槽上の間を移動自在な移動体と、
前記椅子を前記移動体に着脱自在な着脱機構と、
前記椅子が前記着脱機構を介して接続され該椅子を昇降自在な昇降機構と、
前記椅子に設けられ、前記浴槽の底面と接触することにより、該浴槽内で前記着脱機構の操作によって前記移動体から離脱した該椅子を、前記浴槽内で走行自在にさせる浴槽内走行機構と、
を有し、
前記浴槽内走行機構は、前記椅子が前記浴槽外で前記移動体に着脱される際には、接地不能であり、前記椅子が前記浴槽上に搬送され前記昇降機構によって該浴槽内に降下された際に、前記浴槽の底面と接触する高さに配置される、
ことを特徴とする入浴介護補助装置。
【請求項2】
前記浴槽内走行機構は、前記椅子のシート部に設けられることを特徴とする請求項1記載の入浴介護補助装置。
【請求項3】
前記浴槽内走行機構は、前記シート部と分離して設けられることを特徴とする請求項2記載の入浴介護補助装置。
【請求項4】
前記浴槽内走行機構は、前記シート部が載置されるシートフレームに設けられることを特徴とする請求項3記載の入浴介護補助装置。
【請求項5】
前記シート部は、前記シートフレームを介して、前記浴槽外で接地する車輪を備え該浴槽外を走行する台車上に載置自在である、ことを特徴とする請求項4記載の入浴介護補助装置。
【請求項6】
前記椅子に取り付けられ、前記浴槽内で、入浴者が着座している前記椅子が前記移動体から分離され、該椅子を傾斜させる際、該浴槽の底面に接地して、入浴者及び該椅子が傾斜した状態を維持させるリクライニング機構を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一記載の入浴介護補助装置。
【請求項7】
少なくとも浴槽内で入浴者が着座する椅子のシート部が載置されると共に、該浴槽の底面に接地される入浴介護用のシートフレームであって、
前記シートフレームの側部に取り付けられた操作部と、
前記シートフレームの後部に取り付けられた安定部と、
を備え、
前記操作部は、揺動操作されて、該操作部と共に前記シート部が所定角度傾斜した際、前記安定部よりも前方で前記浴槽の底面に接地するよう配置され、
前記安定部は、前記操作部が前記浴槽の底面に接地した際、前記シート部の後側で、該浴槽の底面と接地することにより、傾斜した該シート部の姿勢を安定させるよう配置される、
ことを特徴とする入浴介護用のシートフレーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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