説明

全反射照明型センサチップ、その製造方法およびそれを用いたセンシング方法

【課題】エバネッセント波を利用した生体物質の検出において、研磨に起因して測定光を全反射させる金属膜形成面に生じる研磨痕により、光が漏れるのを防止する。
【解決手段】誘電体プリズム10と、該誘電体プリズム10の一面に形成された金属膜14aとを備え、金属膜14aに被検出物質Aを含む試料Sを供給し、誘電体プリズム10と金属膜14aとの界面10aに対し全反射条件を満たすように測定光Lを照射し、測定光Lの照射により発生したエバネッセント波Ewを利用して被検出物質Aを検出する検出方法に用いられる全反射照明型センサチップにおいて、金属膜14aが形成された上記一面である金属膜形成面10aの研磨痕が、一定の方向に指向性を有するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エバネッセント波を利用して試料中の物質を検出する方法に用いられる全反射照明型センサチップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンパク質やDNA等を検出するバイオ測定において、全反射照明によって誘起するエバネッセント波または表面プラズモンを利用した検出方法が注目されている。表面プラズモンとは、金属表面の自由電子が集団的に振動することによって生じる自由電子の粗密波である。このような検出方法は、例えば、表面プラズモンの電場増強効果を利用した表面プラズモン電場増強蛍光分光(surface plasmon−field enhanced fluorescence spectroscopy:SPFS)測定が知られている。
【0003】
SPFS測定は、誘電体プリズムに配された金属膜上に発生せしめたエバネッセント波によって、試料中に含まれる被検出物質あるいはこの被検出物質に付けられている蛍光標識を励起して、これらからの蛍光を検出することにより、被検出物質を検出する測定である。エバネッセント波は、誘電体プリズムとこの誘電体プリズムに配された金属膜との界面において測定光を全反射させることにより、金属膜上に発生せしめられる。SPFS測定は、取り扱いが容易でかつ同時に複数のサンプルに対して測定できる方法であり、さらにエバネッセント波と金属膜中の自由電子とが共鳴することによって生じる表面プラズモンの電場増強効果によってエバネッセント波が増強されるため、大きな蛍光信号を検出することができるとして広く用いられている。
【0004】
上記したSPFS測定では、一般的に所定領域に金属膜を形成した誘電体プリズムをセンサチップとして用いている(特許文献1)。現在、誘電体プリズムは、ガラスに比べて安価かつ成型が容易なプラスチック製のものも多く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−96605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SPFS測定において検出限界を決めているのは、(i)背景光(装置の遮光漏れなど)、(ii)測定光の散乱光、(iii)測定光の散乱光に起因する光学系の自家蛍光、(iv)センサチップの自家蛍光で形成される蛍光標識に起因しないバックグラウンド光である。(i)の影響は装置設計で比較的容易に低減可能であり、また(ii)の影響も測定光カットフィルタを挿入することで容易に低減できる。(iv)の影響は、センサチップ上の金属膜を介して励起を行うため比較的小さい。
【0007】
しかしながら、センサチップにコストをかけられない検体検査用途では、成形工程中に生じるキズや突起構造(研磨痕)のないセンサチップの安定製造が困難であるため、上記(iii)の影響を回避することは難しい。これは、金属膜を形成する面(金属膜形成面)の研磨痕の部分から測定光の一部が漏れることによってノイズの上昇を招いていることによる。
特に、SPFS測定の”金属膜近傍の信号のみ強く励起する”という特性を活かし、洗浄を行わずに蛍光検出を行い、蛍光信号の変化量(レート)から被検出物質の量を検出するホモジーニアスアッセイ系においては、(v)測定光の散乱光に起因する浮遊標識からの蛍光の影響も加わり、より深刻な問題である。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、エバネッセント波を利用した試料中の物質の検出において、研磨に起因して金属膜形成面に生じる研磨痕により、測定光が漏れるのを防止し、より定量性の高い検出を可能とする全反射照明型センサチップ、その製造方法およびそれを用いたセンシング方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る全反射照明型センサチップは、
誘電体プリズムと、誘電体プリズムの一面に形成された金属膜とを備え、金属膜に被検出物質を含む試料を供給し、誘電体プリズムと金属膜との界面に対し全反射条件を満たすように測定光を照射し、測定光の照射により発生したエバネッセント波を利用して被検出物質を検出する検出方法に用いられる全反射照明型センサチップにおいて、
上記一面である金属膜形成面の領域であって金属膜が形成されている領域の研磨痕が、一の方向に指向性を有するものであることを特徴とするものである。
【0010】
ここで、「被検出物質を検出する」とは、被検出物質の存在の有無を含み定性的な量のみならず、定量的な量、および活性の程度を検出することも意味するものとする。
【0011】
「金属膜形成面」とは、金属膜が形成される誘電体プリズムの一面を意味するものとする。
【0012】
「研磨痕」とは、研磨に起因して誘電体プリズムの金属膜形成面上に形成される痕跡キズ或いは痕跡構造を意味するものとする。つまり研磨痕は、直接金属膜形成面を研磨することにより形成される痕跡キズのみではなく、成型用の型を研磨することにより形成される研磨痕が成型工程により転写された痕跡構造も含むものである。この場合、通常前者の研磨痕は筋状(細長く一続きになっている形状)の凹構造となり、後者の研磨痕は筋状の凸構造となる。
【0013】
研磨痕が「一の方向に指向性を有する」とは、研磨痕がほぼ一の方向に沿って形成されていることを意味する。つまり、複数の研磨痕が完全に平行状態のまま一の方向に沿って形成されていることのみならず、実質的な作用効果が得られる程度に複数の研磨痕が交わりながら全体として一の方向に沿って形成されていることも含むものとする。したがってより詳細には、本明細書内において「指向性を有する」とは、実施形態で詳細に述べる空間周波数分析法により算出された研磨痕の指向性の度合が、絶対値で3%以上
【0014】
さらに、本発明に係る全反射照明型センサチップにおいて、
誘電体プリズムは、測定光を透過させるための透過面を有するものであり、
透過面は、この透過面の法線ベクトルの、金属膜形成面への射影成分を表す射影ベクトルと、研磨痕の指向性を表す指向ベクトルとが略平行となるように形成されているものであることが好ましい。
【0015】
ここで、「射影ベクトル」とは、金属膜形成面への射影成分を表すベクトルを意味するものとする。また、透過面について法線ベクトルの取り方は任意である。
【0016】
研磨痕の指向性を表す「指向ベクトル」とは、実施形態で詳細に述べるように、空間周波数分析法により、研磨痕の画像の高速フーリエ変換(FFT)処理画像中におけるkx軸近傍領域の濃度とky軸近傍領域の濃度とから算出される、指向性の方向と程度を表すベクトルを意味するものとする。
【0017】
「空間周波数分析法」とは、研磨痕の画像のFFT処理画像中におけるkx軸近傍領域の濃度とky軸近傍領域の濃度とから、研磨痕の指向性の度合を算出する方法を意味するものとする。算出の詳細については、実施形態にて詳細に後述する
【0018】
「略平行となる」とは、完全な平行状態のみならず、実質的な作用効果が得られる程度に平行状態からずれた状態も含むことを意味するものとする。
【0019】
そして、測定光の金属膜形成面への射影成分を表す射影ベクトルと、研磨痕の指向性を表す指向ベクトルとが略平行となることが好ましく、或いは、エバネッセント波および金属膜の共鳴により生じる表面プラズモンの伝播方向と、研磨痕が指向性を有する方向とが略平行となることが好ましい。
【0020】
ここで、「測定光」とは、誘電体プリズムおよび金属膜の界面に入射する光を意味するものとする。
【0021】
さらに、空間周波数分析法により算出した研磨痕の指向性の度合は、+10%以上であることが好ましい。
【0022】
また、誘電体プリズムは、合成樹脂材料からなるものであることが好ましい。ここで、「合成樹脂材料からなる」とは、合成樹脂材料を主成分とするという意味であり、主成分とは重量比90%以上含有されている成分をいう。
【0023】
さらに、本発明に係る全反射照明型センサチップの製造方法は、
誘電体プリズムと、誘電体プリズムの一面に形成された金属膜とを備え、金属膜に被検出物質を含む試料を供給し、誘電体プリズムと金属膜との界面に対し全反射条件を満たすように測定光を照射し、測定光の照射により発生したエバネッセント波を利用して被検出物質を検出する検出方法に用いられる全反射照明型センサチップの製造方法において、
誘電体プリズムを成形し、
上記一面である金属膜形成面を、研磨痕が一の方向に指向性を有するように研磨することを特徴とするものである。
【0024】
ここで、「成形」とは、材料を型にはめ込んで造形する成型、および型を用いない光成形等を含むものである。
【0025】
そして、本発明に係る全反射照明型センサチップの製造方法において、
誘電体プリズムを成形すると共に、測定光を透過させるための透過面を誘電体プリズムに形成し、
透過面の法線ベクトルの、金属膜形成面への射影成分を表す射影ベクトルと、研磨痕の指向性を表す指向ベクトルとが略平行となるように、金属膜形成面を研磨することが好ましい。
【0026】
また、空間周波数分析法により算出した研磨痕の指向性の度合が、+10%以上となるように、金属膜形成面を研磨することが好ましく、誘電体プリズムの材料として合成樹脂材料を用いることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明に係る他の全反射照明型センサチップの製造方法は、
誘電体プリズムと、誘電体プリズムの一面に形成された金属膜とを備え、金属膜に被検出物質を含む試料を供給し、誘電体プリズムと金属膜との界面に対し全反射条件を満たすように測定光を照射し、測定光の照射により発生したエバネッセント波を利用して被検出物質を検出する検出方法に用いられる全反射照明型センサチップの製造方法において、
誘電体プリズムを成型するための型の部分であって上記一面である金属膜形成面に対応する部分を、研磨痕が一の方向に指向性を有するように研磨し、
上記型を用いて誘電体プリズムを成型することを特徴とするものである。
【0028】
ここで、誘電体プリズムを成型するための型の部分であって「上記一面である金属膜形成面に対応する部分」とは、誘電体プリズムを成型するための型の部分であって、誘電体プリズムの成型において金属膜形成面の形成に関与する部分を意味するものとする。つまり、金属膜形成面に対応する部分とは、型の内側の部分のうち金属膜形成面と接する部分である。
【0029】
そして、本発明に係る全反射照明型センサチップの製造方法において、
誘電体プリズムを成型すると共に、測定光を透過させるための透過面を、透過面の法線ベクトルの、金属膜形成面への射影成分を表す射影ベクトルと、研磨痕の指向性を表す指向ベクトルとが略平行となるように形成することが好ましい。
【0030】
また、空間周波数分析法により算出した研磨痕の指向性の度合が、+10%以上となるように、上記型の金属膜形成面に対応する部分を研磨することが好ましく、誘電体プリズムの材料として合成樹脂材料を用いることが好ましい。
【0031】
さらに、本発明に係るセンシング方法は、
金属膜が一面に形成された誘電体プリズム有する全反射照明型センサチップを用いて、金属膜に被検出物質を含む試料を供給し、誘電体プリズムと金属膜との界面に対し全反射条件を満たすように測定光を照射し、測定光の照射により発生したエバネッセント波を利用して被検出物質を検出する検出方法において、
上記一面である金属膜形成面の領域であって金属膜が形成されている領域の研磨痕が、一の方向に指向性を有するものであり、
上記指向性を表す指向ベクトルと、測定光の金属膜形成面への射影成分を表す射影ベクトルとが略平行となるように、測定光を上記界面に対し照射することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る全反射照明型センサチップおよびその製造方法は、測定光の金属膜形成面への射影成分方向と、金属膜形成面の研磨痕が有する指向性の方向とが略平行となるようにすることを特徴とするものである。これにより、誘電体プリズムと金属膜との界面における全反射条件を測定光が満たさなくなる領域が減少し、研磨痕から漏れる測定光の量が減少する。この結果、漏れた測定光に起因する光学系の自家蛍光や浮遊標識からの蛍光を低減することができ、より定量性の高い検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】第1の実施形態に係る全反射照明型センサチップを示す概略上面図
【図1B】第1の実施形態に係る全反射照明型センサチップを示す概略断面図
【図2】第1の実施形態に係る全反射照明型センサチップの製造方法を示す図
【図3】研磨痕の微分干渉画像を撮像する装置を示す概略図
【図4A】y軸に沿うように形成された研磨痕の微分干渉画像を示す図
【図4B】x軸に沿うように形成された研磨痕の微分干渉画像を示す図
【図4C】丸く研磨された研磨痕の微分干渉画像を示す図
【図5】第1の実施形態における画像処理ソフトの設定画面を示す図
【図6A】y軸に沿うように形成された研磨痕の微分干渉画像のFFT画像を示す図
【図6B】x軸に沿うように形成された研磨痕の微分干渉画像のFFT画像を示す図
【図6C】丸く研磨された研磨痕の微分干渉画像のFFT画像を示す図
【図7】FFT画像における低周波数成分および高周波数成分を説明する図
【図8】FFT画像から指向性を定量する際に抽出する領域の取り方を説明する図
【図9】研磨痕から測定光が漏れている現象を示す図
【図10】研磨痕により全反射条件が満たされなくなる現象を説明する図
【図11A】第2の実施形態に係る全反射照明型センサチップを示す概略上面図
【図11B】第2の実施形態に係る全反射照明型センサチップを示す概略断面図
【図12】第2の実施形態に係る全反射照明型センサチップの製造方法を示す図
【図13】第2の実施形態に係るセンサチップを用いた蛍光検出装置の概略図
【図14】サンドイッチ法によるアッセイ手順を示す概略断面図
【図15A】実施例における検出信号全体に対する信号光およびノイズの構成比を示す図
【図15B】比較例における検出信号全体に対する信号光およびノイズの構成比を示す図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0035】
「全反射照明型センサチップおよびその製造方法」
<全反射照明型センサチップの第1の実施形態>
まず、本実施形態に係る全反射照明型センサチップC1の構成について説明する。図1Aおよび図1Bは、それぞれ本実施形態に係る全反射照明型センサチップC1の概略上面図および概略断面図である。ここで、図1Bは、図1AのAA’における断面図である。ただし、視認しやすくするため、図中、各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0036】
図1Aおよび図1Bに示すように、全反射照明型センサチップC1は、誘電体プリズム10と、誘電体プリズム10上に形成される流路13の側壁となる側壁材11と、この流路13の上面となるフタ材12と、流路13内の所定領域に形成された金属膜14aおよび14bとを備えている。
【0037】
誘電体プリズム10は、被検出物質を含む試料等を流すための流路13を形成するための基板となるものである。また、誘電体プリズム10は、測定光が誘電体プリズムと金属膜との界面へ向けて進行する際に透過するように設けられた透過面10b(測定光が誘電体プリズム内に入射する際に通る誘電体プリズムの面)を有している。ただし、透過面10bは必ずしもz−x平面に対して傾いている必要はない。また、透過面10bは必ずしも必要なものでもない。ここで、座標系は、図1Aにおいて下向きをx軸、右向きをy軸、そして右手座標系を形成するように紙面垂直向きをz軸とするものである。つまり、照射され得る測定光Lの金属膜形成面10a(金属膜が形成されている誘電体プリズムの一面)への射影成分の向きをy軸、金属膜形成面10aに対して垂直上方をz軸、そして右手座標系を形成するようにx軸をとっている(以下、本明細書において特に説明のない限り、座標系は上記の座標系とする。)。また、透過面10bは、この透過面10bの法線ベクトルの、金属膜形成面10aへの射影成分の向きと、y軸(後述する、研磨痕の指向性を表す指向ベクトル)とが略平行となるように形成されているものであることが好ましい。誘電体プリズム10の材料は、例えば透明樹脂やガラス等の透明材料から形成されたものである。誘電体プリズム10は、合成樹脂(プラスチック)材料から形成されたものが好ましく、この場合は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)、ZEONEX(日本ゼオン社)等の合成樹脂材料を用いることがより好ましい。そして、金属膜形成面10aは、研磨痕がy軸に沿うように研磨されている。
【0038】
流路13は、誘電体プリズム10上に形成された側壁材11とこの側壁材11上に装着されたフタ材12から形成されている。さらに、流路13の両端には液下用或いは廃液用の液溜めが形成されている。また、流路13の所定領域には、検出部となる金属膜14a・14bが形成されている。本実施形態では、測定用の検出部として金属膜14aを、リファレンス用の検出部として金属膜14bを設けている。ただし、検出部は、測定用の検出部が1つあればよく、上記のようなリファレンス用の検出部は必ずしも必要ではない。金属膜14a・14bの材料としては、特に制限されるものではなく、例えばプラズモンを効率よく誘起する観点から、Au,Ag,Cu,Pt,Ni,Ti等が挙げられ、電場増強効果の高いAu,Ag等が特に好ましい。金属膜14a・14bの厚みは、金属膜14a・14bの材料と、測定光の波長により表面プラズモンが強く励起されるように適宜定めることが好ましい。例えば、測定光として780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、金属膜14a・14bとして金(Au)膜を用いる場合、金属膜14a・14bの厚みは50nm±5nmが好適である。金属膜は、所定領域に開口を有するマスクを流路上に形成し、既知のスパッタ法・蒸着法等により成膜形成することができる。
【0039】
側壁材11は、誘電体プリズム10上に幅を設けて形成することにより、流路13の側壁を形成するためのものである。例えば、シール材として貼り付けることにより用意に形成することができる。側壁材11は、流路13の両端に液下用或いは廃液用の液溜めとしての空間を確保するために、流路13の幅よりも広くなるような空間を有するように形成されている。また、フタ材12は、上記側壁材11上に装着することにより流路13の上面を形成するためのものである。フタ材12は、液下用の液溜めに接続する試料等を流下するための注入口15a、および廃液用の液溜めに接続する空気等を抜くための空気孔15bを有している。側壁材11およびフタ材12の材料としては、前述した誘電体プリズム10と同様の材料を用いることができる。また、側壁材11およびフタ材12が一体となっている形状のギャップカバーグラスや成型分品等を用いることもできる。
【0040】
次に、全反射照明型センサチップC1の製造方法について、図2を用いて説明する。
全反射照明型センサチップC1の製造方法は、まず成形によりセンサチップの基板となる誘電体プリズム10を形成し(図2A)、誘電体プリズム10の金属膜形成面10aを研磨痕がy軸に沿うように研磨材50で図中の矢印方向へ研磨し(図2B)、流路の側壁を形成するように金属膜形成面10a上に側壁材11を配置し(図2C)、流路の所定領域に金属膜14aおよび14bを形成し(図2D)、フタ材12を側壁材11上に装着する(図2E)ものである。
【0041】
誘電体プリズム10の成形は、特に制限されるものではなく、通常用いられる射出成型や光成形等によって実施することができる。また、市販の誘電体プリズムを使用することも可能である。
【0042】
金属膜形成面10aの研磨は、研磨痕がy軸に沿うように、つまり研磨痕がy軸方向に指向性を有するように行う。この研磨は、最終的に研磨痕がy軸方向に指向性を有するようになっていればよいため、例えば最初は円を描きながら全体的に均一に研磨し、その後y軸に沿って研磨するようにしてもよい。ここで、研磨を行う研磨材50は特に制限されるものではない。例えば、樹脂用の研磨剤として市販されている、柳瀬株式会社製樹脂研磨剤24P(商品名)や株式会社光陽社製ダンジーD−491(商品名)などを用い必要な時間手研磨することができ、さらには株式会社光陽社製樹脂用コンパウンド サンライトKFF−Wなどをポリッシャに取り付け研磨することもできる。
【0043】
研磨痕の指向性は下記に示す空間周波数分析法により数値化し定義する。
【0044】
(1)金属膜形成面の研磨痕の微分干渉画像を撮影する。
図3は、研磨痕の微分干渉画像(以下、単に画像と言う。)を撮像するために用いた装置を示す。ここで、顕微鏡はオリンパス株式会社製BX51WI(商品名)であり、対物レンズはオリンパス株式会社製LMPlanFI×50(商品名)であり、CCDは株式会社フローベル製ADT−100(商品名)である。CCDには、画像の保存および処理を行うためのパーソナルコンピューター(PC)が接続されている。そして、上記装置を用いて研磨痕の画像を撮像すると、例えば図4A〜Cに示すような画像が得られる。図4Aのimage−Aは研磨痕がy軸に沿うように研磨された誘電体プリズムの画像であり、図4Bのimage−Bは研磨痕がx軸に沿うように研磨された誘電体プリズムの画像であり、図4Cのimage−Cは丸く研磨された誘電体プリズムの画像である。
【0045】
(2)研磨痕の画像に高速フーリエ変換処理を行う。
次に、(1)で得たそれぞれの画像に対して高速フーリエ変換(FFT)処理を行いそれぞれの研磨痕のFFT画像を得る。FFT処理は、画像処理ソフトScion Imageを用いて行う。ここで、Scion Imageの設定画面において単位を実寸に設定しておく必要がある。例えば図5は、(1)で得た画像のサイズが、視野:100um角、pixel:512×512の場合における設定を示す。画像をFFT処理すると図6A〜Cに示すようなFFT画像が得られる。FFT−A、FFT−BおよびFFT−Cは、それぞれimage−A、image−Bおよびimage−CについてのFFT画像である。FFT画像は、元になる画像中に含まれる周波数成分のパワー(絶対値の二乗)を濃淡で表したものであり、FFT画像の中心に近いほど低周波数成分のパワーを表し、逆にFFT画像の中心から離れるほど高周波数成分のパワーを表している(図7)。
【0046】
(3)FFT画像からkx軸近傍領域の濃度とky軸近傍領域の濃度とを定量し、研磨痕の指向性の度合を算出する。
例えば、FFT画像のkx軸の近傍の濃度は、画像中のx軸方向に周期的な構造が存在することを示唆し、また同様にFFT画像のky軸の近傍の濃度は、画像中のy軸方向に周期的な構造が存在することを示唆している。つまり、FFT画像のkx軸の近傍に濃度が集中する場合は、画像中のy軸に沿った構造の存在を表し、また同様にFFT画像のky軸の近傍に濃度が集中する場合は、画像中のx軸に沿った構造の存在を表している。ここでkx軸およびky軸は、FFT画像における空間周波数での座標を表し、図8に示すようにFFT画像の右向きおよび上方を、それぞれkx軸およびky軸としている。本発明では、FFT画像のkx軸近傍領域の濃度とky軸近傍領域の濃度とを抽出および数値化し、この数値化されたそれぞれの濃度から研磨痕の指向性の度合を定義する。ここでkx軸近傍領域とは、kx軸の値の大きさが0.5um/cycle以上、かつky方向は10um/cycle以上の領域(図8中の領域X)とし、ky軸近傍領域とは、ky軸の値の大きさが0.5um/cycle以上かつkx方向は10um/cycle以上の領域とする。0.5um/cycleよりも低周波数成分としたのは、経験上0.5um以上の幅を持った研磨痕から光が漏れていることに基づく。FFT画像は、画像の中心でシンメトリとなっている(図7)ため、各軸のプラス側のみを定量してもいいが、本明細書では両方の濃度を定量するものとして説明する。
【0047】
そして、研磨痕の実空間における指向性の度合を次のように定義する。
研磨痕の指向性の度合(%)=(領域Xの濃さ(%))−(領域Yの濃さ(%))
ここで、領域Xの濃さ(%)とは、(領域Xの平均濃度−全体領域の平均濃度)/(全体領域の平均濃度)×100であり、領域Yの濃さ(%)とは、(領域Yの平均濃度−全体領域の平均濃度)/(全体領域の平均濃度)×100である。また、「全体領域」とはFFT画像の全領域を指すが、必ずしもこれに限られるものではなく、「全体領域」は領域Xおよび領域Yを含むように全体的に広く指定した領域としてもよい。各領域の平均濃度は、画像処理ソフトScion Imageの機能を用いて定量することができる。上記の研磨痕の指向性の度合は、その数値がプラスであれば実空間のx軸よりもy軸に沿った構造が多いこと、つまり研磨痕がy軸方向へ指向性を有することを示す。また逆にこの度合は、その数値がマイナスであれば実空間のy軸よりもx軸に沿った構造が多いこと、つまり研磨痕がx軸方向へ指向性を有することを示す。
【0048】
例えば、図6A〜Cに示す3つのFFT画像に対して上記空間周波数分析法を適用して指向性の度合を定量するとそれぞれ下記表1のようになる。
【表1】

【0049】
FFT−Aは、図4Aのimage−Aの画像についてのFFT画像であるため、その研磨痕のy軸方向への指向性は13.7%と高くなっている。また、FFT−Bは、image−Bの画像についてのFFT画像であるため、その研磨痕のx軸方向への指向性は8.7%と高くなっている。そして、FFT−Cは、image−Cが丸く磨いた場合の研磨痕を示すものであるため、その指向性は小さくなっている。指向性の度合は、測定感度の観点から+5%以上あることが好ましく、+10%以上あることがより好ましい。ここで、本発明において上記指向性の度合の大きさおよびその指向性の向きを持つベクトルを指向ベクトルという。つまり、+10%の指向性については、10という値を持つy軸方向へのベクトルを対応させることができる。
【0050】
以下、本発明に係るセンサチップの作用について説明する。
本出願人は、誘電体プリズムの金属膜形成面に研磨痕が存在すると、図9に示すようにx軸に沿った研磨痕から測定光が漏れるという現象を発見した。図9は、金属膜形成面の下方(誘電体プリズムの内部)において測定光を全反射させて、その様子を金属膜形成面の上方(誘電体プリズムの外部)から観察した様子である。図9中にはy軸に沿った研磨痕も存在しているが、x軸に沿った研磨痕から測定光が漏れているのがはっきりと示されている。これは、図10に示すように、研磨痕52が存在する部分において測定光Lが金属膜形成面10aでの全反射条件を満たさなくなることに起因していると考えられる。このように測定光Lが全反射条件を満たさなくなるのは、図10から分かるように測定光Lの金属膜形成面10aへの射影成分の方向(y軸方向或いはエバネッセント波の進行方向)と研磨痕52の方向(x軸方向)とがほぼ垂直となっているためである。したがって、本発明に係るセンサチップでは、測定光Lの金属膜形成面10aへの射影成分を表す射影ベクトルと、研磨痕52の指向性を表す指向ベクトルとが略平行となるように形成することにより、測定光Lが金属膜形成面10aでの全反射条件を満たさなくなることを防止し、測定光が漏れるという問題を解消することができる。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る全反射照明型センサチップC1は、測定光の金属膜形成面への射影成分方向と、金属膜形成面の研磨痕が有する指向性の方向とが略平行となるようにすることを特徴とするものである。これにより、誘電体プリズムと金属膜との界面における全反射条件を測定光が満たさなくなる領域が減少し、研磨痕から漏れる測定光の量が減少する。この結果、漏れた測定光に起因する光学系の自家蛍光や浮遊標識からの蛍光を低減することができ、より定量性の高い検出が可能となる。
【0052】
さらに、本発明に係るセンサチップC1によれば、研磨痕から測定光が漏れることを防止すると共に、表面プラズモンのエネルギーが漏れ出る測定光と共に逃げていくことも防止することができる。例えば波長630nmの測定光を金(Au)膜と水との界面に照射した場合、1点に全反射条件を満たさない領域が存在すると、そのプラズモン伝播長に相当する周囲半径3um内の金膜内に蓄えられていた表面プラズモンのエネルギーがその1点から逃げてしまうということが知られている(”Surface plasmon resonance sensors: review”, Sensors and Actuators B: Chemical, Vol. 54, No. 1-2. (25 January 1999), pp. 3-15)。さらに、波長が850nmの場合には、その半径は24umにもなる。つまりこれは、全反射条件を満たさない領域以上の大きい領域から蓄えられていた表面プラズモンのエネルギーが逃げることにより、表面プラズモンによる電場増強の効果も大きく減少することを意味する。したがって、本発明に係るセンサチップC1によれば、表面プラズモンのエネルギーが漏れ出る測定光と共に逃げていくことも防止することができるため、表面プラズモンによる電場増強の効果を効率よく利用することができる。その結果、信号光(標識の蛍光等)を効率よく検出することができ、より高感度の測定を行うことができる。
【0053】
<全反射照明型センサチップの第2の実施形態>
まず、本実施形態に係る全反射照明型センサチップC2の構成について説明する。図11Aおよび図11Bは、それぞれ本実施形態に係る全反射照明型センサチップC2の概略上面図および概略断面図である。ここで、図11Bは、図11AのBB’における断面図である。全反射照明型センサチップC2は、第1の実施形態に係るセンサチップC1と同様の構成であるが、型を用いた成型によって誘電体プリズム20に直接流路(上面を除く)が形成されるという点でセンサチップC1と大きく異なる。したがって、センサチップC1と同様の構成要素についての説明は、特に必要のない限り省略する。
【0054】
図11Aおよび図11Bに示すように、全反射照明型センサチップC2は、誘電体プリズム20と、誘電体プリズム20に形成された流路23(溝)と、この流路23を塞ぐように配置されたフタ材22と、流路23内の所定領域に形成された金属膜24aおよび24bとを備えている。
【0055】
次に、全反射照明型センサチップC2の製造方法について、図12を用いて説明する。
センサチップC2の製造方法は、まず成型用の型60を用意し、この型60の部分であって金属膜が形成される上記一面である金属膜形成面20a(流路の底面)に対応する部分62を、研磨痕が一の方向に指向性を有するように研磨材50で図中の矢印方向へ研磨し(図12A)、この型60を用いてセンサチップの基板となる誘電体プリズム20を成型し(図12B)、流路23の所定領域に金属膜24aおよび24bを形成し(図12C)、フタ材22を誘電体プリズム20上に装着する(図12D)ものである。
【0056】
成型用の型60は、例えばJIS規格(日本工業規格)SKD−11、SKD−61等のダイス鋼からなる焼入型金型である。例えば、大同特殊鋼株式会社製DC11(商品名)、日立金属株式会社製SLD(商品名)、日本高周波鋼業株式会社製KD11(商品名)等がこれに該当する。
【0057】
型60の研磨は、転写により生じる誘電体プリズムの研磨痕がy軸に沿うように、つまりこの研磨痕がy軸方向に指向性を有するように行う。より詳細には例えば型60の研磨は、フライス盤を用いた平フライスを行う或いは平削り盤を用いたフライス削りを行った後、平面研削盤を用いた平面研削を行い、その後超仕上を行い、最後の仕上げとしてラッピングを手作業で行うことにより実施する。「超仕上」とは、細かい砥粒の砥石を低い圧力で加工物表面に押し付けて加工物表面に平行な細かい振動(オシレーション)を与え、加工物を研磨方向と垂直な方向に動かすと同時に、優れた洗浄性を持つクーラントオイルを多量に注ぎながら、微細な切削を行わせて、滑らかに表面を仕上ると共に精度の高い仕上面を得る加工方法である。例えば、砥石の大きさ15×15mm、押し付け圧力0.25MPa、砥石の振動数30Hz、砥石の振動の幅(振幅の2倍)2mm、加工物の送り速さ28m/minの条件下で、30秒間超仕上を行えばその研磨面を1um以下の凹凸に仕上げることができる。ラッピングは、ラップ材(細かい目のやすり)に加工面を接触させて、その研磨痕が一の方向に指向性を有するように実施する。ここで、この一の方向は、型60の研磨痕が転写されることにより生じる誘電体プリズムの研磨痕がy軸に沿うように選択される。ラップ材は、粗い目(粒度300)のものから細かい目(粒度1000)のものまで粒度を上げていくことが好ましい。
【0058】
本実施形態のセンサチップC2は、流路23に対して垂直方向がy軸となるため、流路23の底面20aに対応する部分の研磨も、その流路23の底面20aに転写される研磨痕が流路23と垂直になるように行う。この研磨は、第1の実施形態と同様に、最終的に研磨痕がy軸方向に指向性を有するようになっていればよいため、例えば最初は円を描きながら全体的に均一に研磨し、その後流路の底面に転写される研磨痕が流路と垂直になるように研磨してもよい。
【0059】
本実施形態に係るセンサチップC2の研磨痕は、型の研磨痕が転写されたものであるという点で、第1の実施形態に係るセンサチップC1の研磨痕と大きく異なる。つまり、センサチップC1の研磨痕は、誘電体プリズム10が削られた構造(筋状の凹構造)となり、センサチップC2の研磨痕は、誘電体プリズム20に盛られた構造(筋状の凸構造)となる。しかしながら、センサチップC2のような研磨痕であっても、測定光が漏れるという問題については第1の実施形態と同様に議論できる。つまり、センサチップC2についても、研磨痕がy軸方向に指向性を有するようにすることで、研磨痕から測定光が漏れることを防ぐことができる。また、センサチップC2の研磨痕についても、第1の実施形態で説明した空間周波数分析法を同様に適用することにより、その研磨痕の指向性の度合を定義することができる。
【0060】
以上のように、本実施形態に係る全反射照明型センサチップC2は、成型用の型の部分であって金属膜が形成される金属膜形成面に対応する部分を、研磨痕が一の方向に指向性を有するように研磨し、測定光の金属膜形成面への射影成分方向と、金属膜形成面の研磨痕が有する指向性の方向とが略平行となるようにすることを特徴とするものである。これにより、誘電体プリズムと金属膜との界面における全反射条件を測定光が満たさなくなる領域が減少すると共に、表面プラズモンのエネルギーを効率よく利用することができ、第1の実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0061】
「センシング装置およびセンシング方法」
図13は、第2の実施形態に係るセンサチップC2を用いた蛍光検出装置の概略図である。なお、本発明に係るセンサチップを用いるセンシング装置は、これに限られるものではない。
【0062】
図示の通り、この蛍光検出装置100は、前述した第2の実施形態例に係る全反射照明型センサチップC2と、蛍光標識Fを励起する波長657nmの測定光Lを発する光源121と、センサチップC2上に供給された蛍光標識Fから発せられる蛍光Lf等を検出する光検出器130と、光検出器130に蛍光等を導光するように配置された2つの平凸レンズ124と、2つの平凸レンズ124の間に配置された、増強電場Ewの散乱光Lsは遮断しかつ蛍光Lfは透過させる光学フィルタ123と、光検出器130が接続されたデータ処理部140からなる。ここで、光源121は、センサチップC2上で増強電場Ewを生じせしめるようにセンサチップC2の下方に配置されており、蛍光標識Fは、1次抗体B1、抗原Aおよび2次抗体B2を介して金属膜24aに固定されている。また、図13中の符号125は、2つの平凸レンズ124と光学フィルタ123とを含み、光検出器130が装着されている光学系保持部である。
【0063】
光源121は、例えばレーザ光源等でもよく、特に制限はないが、検出条件に応じて適宜選択することができる。また、光源121は、前述のように、センサチップC2の誘電体プリズムと金属膜との界面で、測定光Lが全反射すると共に金属膜で表面プラズモン共鳴する共鳴角で入射するように配置されている。ここで、光源121とセンサチップC2との間に必要に応じて導光部材を配置してもよい。本発明では、指向性を表す指向ベクトルと、測定光Lの金属膜形成面20aへの射影成分を表す射影ベクトルとが略平行となるように、測定光Lを誘電体プリズム20と金属膜24aとの界面に対し照射する。なお、測定光Lは、表面プラズモンを誘起するようにP偏向で界面に対して入射させることが好ましい。
【0064】
光検出器130は、試料S中に含まれる蛍光標識Fが発する蛍光Lfを定量的に検出するものであればよく、検出条件に応じて適宜選択することができ、CCD、PD(フォトダイオード)、光電子増倍管、c−MOS等を用いることができる。また、光検出器130は、検出条件に応じて光学フィルタや分光器等の分光手段と組み合わせて用いることができる。ここで、エバネッセント波の散乱光Lsは遮断しかつ蛍光Lfは透過させる光学フィルタ123を、2つの平凸レンズ124の間に配置することにより、ノイズを抑えて効率よく蛍光Lfを検出することができる。すなわち、蛍光Lfを散乱光Lsと分離して測定することができる。なお、このエバネッセント波の散乱光Lsと、前述した研磨痕から漏れた測定光とは異なるものである。そして、光学系保持部125は、2つの平凸レンズ124、光学フィルタ123および光検出器130を備えるものとして、例えば富士フイルム株式会社製 LAS-1000 plus(商品名)等を好適に用いることができる。
【0065】
データ処理部140は、光検出器130によって検出された蛍光信号等のデータを処理する役割を果たす。具体的にはパーソナルコンピュータが挙げられる。なお、上記データ処理と同様の役割を果たせば、特にパーソナルコンピュータに制限されず他の電子計算機等を用いてもよい。
【0066】
以下、上記蛍光検出装置100を用いて、被検出物質としての抗原Aを含む試料から、抗原Aを検出する場合における蛍光検出方法について、図14を用いて説明する。
【0067】
今、被検出物質としての抗原Aを含む試料から、抗原Aを検出する場合を考える。
本実施形態による蛍光検出方法は、後述するサンドイッチ法によるアッセイを行うことによって、1次抗体B1、抗原Aおよび2次抗体B2を介して金属膜24a上に蛍光標識Fを固定し、次に光源121より発せられる測定光Lを、センサチップC2の誘電体プリズムと金属膜との界面に対して全反射角以上の特定の入射角度となるように、かつ金属膜形成面の研磨痕の指向性を表す指向ベクトルと、この測定光の金属膜形成面への射影成分を表す射影ベクトルとが略平行となるように入射して、エバネッセント波を励起し、このエバネッセント波と金属膜24a中の自由電子とを共鳴させることにより金属膜24a中に表面プラズモンを発生させ、この表面プラズモンによる増強電場Ewで蛍光標識Fを励起して蛍光Lfを生じせしめ、この蛍光Lfを光検出器130で検出して、その蛍光量をデータ処理部140でデータ処理するものである。
【0068】
ここで、以上の例では、蛍光検出によって実際に存在が確認されるのは蛍光標識Fであるが、この蛍光標識Fは抗原Aがなければ金属膜24a上に固定されないものと考えて、この蛍光標識Fの存在を確認することにより、間接的に抗原Aの存在を確認している。
【0069】
1次抗体B1は、特に制限なく、検出条件(特に被検出物質)に応じて適宜選択することができる。例えば、抗原がCRP抗原(分子量11万 Da)の場合、この抗原と特異的に結合するモノクロナール抗体(2次抗体B2と少なくともエピトープが異なる)等を用いることができ、既存の技術を用いて金属膜24a上に固定することができる。
【0070】
蛍光標識Fは、測定光Lによって励起されて所定波長の蛍光Lfを発するものであり、特に制限なく、測定条件(被検出物質や励起光の波長)に応じて適宜選択することができる。例えば、測定光Lの波長が650nm程度の場合、Cy5色素(蛍光:680nm、蛍光量子収率:0.3)等を用いることができる。
【0071】
増強電場Ewは、金属膜24a中に発生する表面プラズモンによって形成される電場であって、金属膜24a上の局所的な領域に発生する、通常のエバネッセント波よりも増強された電場である。この増強電場Ewによって、標識から発せられる蛍光等の信号の強度を増幅することができる。表面プラズモンは、エバネッセント波と金属膜24a中の自由電子とを共鳴させることにより金属膜24a中に発生せしめられる。
【0072】
蛍光標識Fを金属膜24aに固定するためのサンドイッチ法によるアッセイは、以下に示す手順により行われる。血液(全血)中に被検出物質である抗原を含むか否について、サンドイッチ法によるアッセイを行う場合について図14を参照して説明する。また、以下の手順において、標識2次抗体BF(2次抗体B2と蛍光標識Fとの結合物質)が流路23の検出部上流側に乾燥状態で配置されたセンサチップC2を用いている。
step1:注入口25aから検査対象である血液(全血)Soを注入する。ここでは、この血液So中に被検出物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。図14において血液Soは網掛け領域で示している。
step2:血液Soはメンブレンフィルタ26により濾過され、赤血球、白血球などの大きな分子が残渣となる。引き続き、メンブレンフィルタ26で血球分離された血液S(血漿)が毛細管現象で流路23に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔にポンプを接続し、血漿Sをポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。図14において血漿Sは斜線領域で示している。
step3:流路23に染み出した血漿Sと、流路23の検出部上流側に乾燥状態で配置された標識2次抗体BFとが混ぜ合わされ、血漿S中の抗原Aが標識2次抗体BFと結合する。
step4:血漿Sは流路23に沿って空気孔25b側へと徐々に流れ、標識2次抗体BFと結合した抗原Aが、測定用のセンサ部28上に固定されている1次抗体B1と結合し、抗原Aが1次抗体B1と標識2次抗体BFで挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
step5:結合しなかった標識2次抗体BFの一部は、リファレンス用の検出部29上に固定されている1次抗体B0と結合する。さらに、1次抗体B0と結合しなかった標識2次抗体BFが検出部上に残っている場合があっても、後続の血漿が洗浄の役割を担い、検出部上に浮遊している標識2次抗体BFを洗い流す。
【0073】
このように、血液を注入口から注入し、抗原が1次抗体および2次抗体と結合するまでのstep1からStep5の後、前述したように上記の蛍光検出装置100において、測定用の検出部28からの検出信号を検出することにより、抗原の有無および/またはその濃度を高感度に検出することができる。その後、リファレンス用の検出部29からの検出信号を検出できるようにセンサチップC2を移動させ、同様に、リファレンス用の検出部29からの検出信号を検出する。標識2次抗体BFと結合する1次抗体B0を固定しているリファレンス用の検出部29からの検出信号は、標識2次抗体BFの流下した量、活性などの反応条件を反映した検出信号であると考えられる。したがって、この検出信号をリファレンスとして、測定用の検出部からの検出信号を補正することにより、より精度の高い検出結果を得ることができる。また、リファレンス用の検出部29に既知量の標識物質(蛍光物質、金属微粒子等)をあらかじめ固定しておき、リファレンス用の検出部29からの信号をリファレンスとして測定用の検出部からの検出信号を補正してもよい。
【0074】
ここで、前述のホモジーニアスアッセイの場合、上記step5は行わずに、検出を行う。また、抗原抗体反応終了後に測定を行うエンドポイント法について実施例を挙げたが、蛍光検出方法は、反応中(step4中)に一定時間間隔で測定を行い、蛍光信号の変化量を測定するレート法等の方法でもよい。
【0075】
以上のように、上記蛍光検出装置および蛍光検出方法では、全反射照明型センサチップとして、本発明に係る全反射照明型センサチップC2を用いている。したがって、誘電体プリズムと金属膜との界面における全反射条件を測定光が満たさなくなる領域が減少すると共に、表面プラズモンのエネルギーを効率よく利用することができ、より高感度の測定が可能となる。
【実施例】
【0076】
<実施例>
第2の実施形態に係る全反射照明型センサチップC2(誘電体プリズムの材料:PMMA、金属膜:Auの蒸着膜、金属膜の厚さ:50nm、研磨痕:y軸方向に指向性を有する(図4A))を用い、抗原としてhCG(抗原濃度:90pM)、抗体として抗hCGを反応させ、2次反応後PBSで洗浄し、図13に示す蛍光検出装置によりセンシング測定を行った。その結果、図15Aに示すような検出信号全体に対する信号光およびノイズの構成比が得られた。
【0077】
<比較例>
研磨痕がx軸方向に指向性を有する(図4B)点以外は実施例のセンサチップC2と同じ条件のセンサチップを用い、実施例と同様のセンシング測定を行った。その結果、図15Bに示すような検出信号全体に対する信号光およびノイズの構成比が得られた。
【0078】
<評価>
図15AおよびBにおけるNoise中のn1は標識の非特異的吸着によるノイズを表し、n2は装置或いは光学系の自家蛍光によるノイズを表し、そしてn3は電子機器を扱う際に生じる電子的なノイズを表している。実施例では、上記のn2を低減することができることが実証された。また全体的にも、実施例では検出信号全体に対するノイズの構成比が約26%であるのに対し、比較例ではそれが約33%となっていることから、本発明に係るセンサチップC2を用いることによりノイズを低減できていることがわかる。実施例および比較例のS/N比は、それぞれ2.8および2.0である。これは、測定系の検出限界が(S/N比>0.03)という場合には、実施例では1pMまで、比較例では1.5pMまで測定可能であることを示している。したがって、実施例では検出限界が1.5倍改善されたことが立証された。また、実施例および比較例においてPBSでの洗浄を行わない場合には、サンドイッチを形成していない浮遊標識を研磨痕から漏れた測定光が励起してしまうため、それぞれのS/N比の差が大きくなった。具体的には、実施例(洗浄なし)では検出限界が2倍改善された。
【符号の説明】
【0079】
A 抗原
C1 全反射照明型センサチップ
C2 全反射照明型センサチップ
Ew 増強電場
F 蛍光標識
L 測定光
Lf 蛍光
Ls 散乱光
10 誘電体プリズム
10a 金属膜形成面
10b 透過面
11 側壁材
12 フタ材
13 流路
14a・14b 金属膜
15a・25a 注入口
15b・25b 空気孔
20 誘電体プリズム
20a 金属膜形成面
22 フタ材
23 流路
24a・24b 金属膜
26 メンブレンフィルタ
50 研磨材
52 研磨痕
60・61 成型用の型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体プリズムと、該誘電体プリズムの一面に形成された金属膜とを備え、前記金属膜上に被検出物質を含む試料を供給し、前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面に対し全反射条件を満たすように測定光を照射し、該測定光の照射により発生したエバネッセント波を利用して前記被検出物質を検出する検出方法に用いられる全反射照明型センサチップにおいて、
前記一面である金属膜形成面の領域であって前記金属膜が形成されている領域の研磨痕が、一の方向に指向性を有するものであることを特徴とする全反射照明型センサチップ。
【請求項2】
前記誘電体プリズムが、前記測定光を透過させるための透過面を有するものであり、
前記透過面が、該透過面の法線ベクトルの、前記金属膜形成面への射影成分を表す射影ベクトルと、前記研磨痕の指向性を表す指向ベクトルとが略平行となるように形成されているものであることを特徴とする請求項1に記載の全反射照明型センサチップ。
【請求項3】
前記測定光の前記金属膜形成面への射影成分を表す射影ベクトルと、前記研磨痕の指向性を表す指向ベクトルとが略平行となることを特徴とする請求項1または2に記載の全反射照明型センサチップ。
【請求項4】
前記エバネッセント波および前記金属膜の共鳴により生じる表面プラズモンの伝播方向と、前記研磨痕が指向性を有する方向とが略平行となることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の全反射照明型センサチップ。
【請求項5】
空間周波数分析法により算出した前記研磨痕の指向性の度合が、+10%以上であることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の全反射照明型センサチップ。
【請求項6】
前記誘電体プリズムが、合成樹脂材料からなるものであることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の全反射照明型センサチップ。
【請求項7】
誘電体プリズムと、該誘電体プリズムの一面に形成された金属膜とを備え、前記金属膜に被検出物質を含む試料を供給し、前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面に対し全反射条件を満たすように測定光を照射し、該測定光の照射により発生したエバネッセント波を利用して前記被検出物質を検出する検出方法に用いられる全反射照明型センサチップの製造方法において、
前記誘電体プリズムを成形し、
前記一面である金属膜形成面を、研磨痕が一の方向に指向性を有するように研磨することを特徴とする全反射照明型センサチップの製造方法。
【請求項8】
前記誘電体プリズムを成形すると共に、前記測定光を透過させるための透過面を該誘電体プリズムに形成し、
該透過面の法線ベクトルの、前記金属膜形成面への射影成分を表す射影ベクトルと、前記研磨痕の指向性を表す指向ベクトルとが略平行となるように、前記金属膜形成面を研磨することを特徴とする請求項7に記載の全反射照明型センサチップの製造方法。
【請求項9】
空間周波数分析法により算出した前記研磨痕の指向性の度合が、+10%以上となるように、前記金属膜形成面を研磨することを特徴とする請求項7または8に記載の全反射照明型センサチップの製造方法。
【請求項10】
前記誘電体プリズムの材料として合成樹脂材料を用いることを特徴とする請求項7から9いずれかに記載の全反射照明型センサチップの製造方法。
【請求項11】
誘電体プリズムと、該誘電体プリズムの一面に形成された金属膜とを備え、前記金属膜に被検出物質を含む試料を供給し、前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面に対し全反射条件を満たすように測定光を照射し、該測定光の照射により発生したエバネッセント波を利用して前記被検出物質を検出する検出方法に用いられる全反射照明型センサチップの製造方法において、
前記誘電体プリズムを成型するための型の部分であって前記一面である金属膜形成面に対応する部分を、研磨痕が一の方向に指向性を有するように研磨し、
前記型を用いて前記誘電体プリズムを成型することを特徴とする全反射照明型センサチップの製造方法。
【請求項12】
前記誘電体プリズムを成型すると共に、前記測定光を透過させるための透過面を、該透過面の法線ベクトルの、前記金属膜形成面への射影成分を表す射影ベクトルと、前記研磨痕の指向性を表す指向ベクトルとが略平行となるように形成することを特徴とする請求項11に記載の全反射照明型センサチップの製造方法。
【請求項13】
空間周波数分析法により算出した前記研磨痕の指向性の度合が、+10%以上となるように、前記型の前記金属膜形成面に対応する部分を研磨することを特徴とする請求項11または12に記載の全反射照明型センサチップの製造方法。
【請求項14】
前記誘電体プリズムの材料として合成樹脂材料を用いることを特徴とする請求項11から13いずれかに記載の全反射照明型センサチップの製造方法。
【請求項15】
金属膜が一面に形成された誘電体プリズム有する全反射照明型センサチップを用いて、前記金属膜に被検出物質を含む試料を供給し、前記誘電体プリズムと前記金属膜との界面に対し全反射条件を満たすように測定光を照射し、該測定光の照射により発生したエバネッセント波を利用して前記被検出物質を検出する検出方法において、
前記一面である金属膜形成面の領域であって前記金属膜が形成されている領域の研磨痕が、一の方向に指向性を有するものであり、
前記指向性を表す指向ベクトルと、前記測定光の前記金属膜形成面への射影成分を表す射影ベクトルとが略平行となるように、前記測定光を前記界面に対し照射することを特徴とするセンシング方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−210451(P2010−210451A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57319(P2009−57319)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】