説明

全同位体の正確なイオン質量測定値を用いた未知化合物の化学実験式の決定

【課題】メインピーク(A)及び1つ又は複数の同位体ピーク(A+1、A+2、・・・A+n)を含む測定質量スペクトルから検体の実験式を決定する方法を提供する。
【解決手段】当該方法は、測定同位体ピーク(A+1、A+2、・・・A+n)の相対同位体強度を、実験式案の同位体イオンの算出相対同位体強度と比較すること、並びに測定同位体ピークの相対質量欠損を、実験式案の同位体イオンの算出相対質量欠損と比較することを包含する。これらの比較に基づいて、検体イオンの有力候補である実験式案が決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析システムを用いる化学分析に関し、より詳細には、限定はしないが、全ての同位体の正確なイオン質量測定を用いて未知化合物の実験式を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置は、検体と呼ばれる未知の試料化合物に関する情報を提供するために使用し得る。質量分析試験から求められる質量/電荷比の情報(通常、質量スペクトルの形態)を用い、分析ソフトウェア(計算機)を用いて調査対象の検体の化学実験式が決定される。従来、この決定法は、一般に、化学元素の考えられ得るあらゆる組合せについての正確な質量の数学的計算を伴ってきた。大きい分子はほぼ無限の数の元素の組合せを包含し得るため、従来の計算機は、多くの場合、実験式の潜在的候補の数を制限すべく、ある特定のパラメータに対する制約(constraint)をユーザに入力させている。
【0003】
例えば、用いる元素、各元素の最少数及び/又は最大数、検査する質量が奇数/偶数か中性種(フラグメンテーションによる中性子損失のため)かどうか、考えられ得る付加物、例えば分子+陽子、分子+カリウム若しくはナトリウム(あらゆる陽イオン)、分子−陽子又は分子+酢酸イオン若しくはギ酸イオン(あらゆる陰イオン)が、全て、制約として指定され得る。また、従来の計算機は、計算の信頼限界又は公差をユーザに指定させている。
【0004】
また、一部の計算機は、スペクトル内に存在する同位体の相対存在度(abundance)を測定する機能をもたらす。相対存在度は、実験式内の各元素の各同位体の既知の天然存在度並びにこれらの元素数から計算される。次いで、相対比を測定された比と比較し、一致性を検討することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在のところ、計算ソフトウェアのあらゆる機能を用い、あらゆる妥当な制約を指定した場合であっても、検体イオンとしてあまりにも多くの潜在的候補がソフトウェアから出力される。質量スペクトルから入手可能な情報を用いて容易に潜在的候補の数を削減し、この手法以外では誤りがちな結果を検証する手段が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、メインピークと1つ以上の同位体ピークとを含む測定質量スペクトルから検体イオンの実験式を決定する方法を提供する。当該方法は、測定された同位体ピークの相対同位体強度と、実験式案の同位体イオンの算出相対同位体強度とを比較すること、並びに測定された同位体ピークの相対質量欠損と、実験式案の同位体イオンの算出相対質量欠損とを比較することを包含する。これらの比較に基づいて、検体イオンの有力候補である実験式案が決定される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、質量スペクトルには、A+2、A+3、A+4及びA+5ピークのうちの1つ又は複数をはじめとする、A+1ピークを超える付加的なピークが含まれ得る。これらの付加的な各ピークの相対質量欠損を、メインピークに対して、並びに互いに対して測定、計算し得る。この付加的な相対質量欠損情報は、種々の状況において、検体イオンの同定を容易にするため、又は妨害イオンの存在を確認するために有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
A.定義
最初に、本明細書で使用又は定義する任意の用語について、単数形にて言及する場合、それが複数存在する場合も含むことに留意されたい。より詳細には、本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いるとき、単数形「a」、「an」、「said」及び「the」は、本文中で別途明確に記載のない限り、複数形を包含する。
【0009】
以下の技術用語の定義は、本文中で別途明確に記載のない限り、本明細書の記載全体にわたって適用される。
「A」ピーク 質量スペクトルにおける検体イオンの単一同位体(メイン)ピーク。検体イオンの単一同位体ピークは、その構成元素の最大存在度の同位体を含む。
A+n同位体 ある元素の単一同位体(A)の中性子+n個の中性子数(nは負の数でもあり得る)を有する同位体。例えば、炭素元素に関しては、炭素−12(12C)が単一同位体であり、1つの付加的な中性子を有する炭素−13(13C)がA+1同位体であり、2つの付加的な中性子を有する炭素−14(14C)が炭素のA+2同位体である。
A+nピーク 検体イオンの質量スペクトルは、Aピーク及び1つ以上の同位体ピークを含み得る。各同位体ピークは、「A+n」ピークという呼称と関連し、その各々は、Aピークよりほぼn原子質量単位大きい。「A+n」ピークは、「A+n」同位体と区別すべきである。この理由は、以下の例を用いることにより最もよく説明される。炭素及び塩素の両方を含有する検体イオンの質量スペクトルは、A+2ピークを示し得る。このピークは、A+2同位体である単一の塩素−37(37Cl)原子を含む検体イオンの質量測定値を表す場合があり、及び/又は、これは、炭素−13(13C)原子を2つ含有する検体イオンの測定値を表す場合もある。このことは、13CはA+1同位体であるため、なぜA+2ピークが必ずしもA+2同位体のみの測定値を表すのではないのかを説明している。
質量欠損 ある原子の質量とその構成成分(陽子、中性子、電子)の質量の合計との差。
相対質量欠損 最大存在度の同位体に対する或る同位体の相対的な質量欠損。有機系分子によく見られる原子の主要同位体の相対質量欠損を計算し、表2に示す。
(原子の)公称(nominal)質量 原子核内の陽子と中性子の数。
公称質量欠損 元素の公称質量と実際の質量との差。
B.質量スペクトルにおける情報
検体イオンの質量スペクトルは、通常、検体の実験式を決定する目的で調べられる。しかしながら、質量スペクトルによってもたらされるデータは、この決定が確実性を伴って為されるのに、常に充分であるとは限らない。したがって、得られたデータから、可能な限り多くの有用な情報を抽出することが重要である。図1に、検体イオンの質量スペクトルの一例を概略的に示す。見ると分かるように、質量スペクトルは、質量値X1を中心とするAピーク(厳密にいえば、質量スペクトルのx軸は、m/z比を含むが、ここでは、上記の値を指すための省略表現として用語「質量」を用いることとする)、質量値X2を中心とするA+1同位体ピーク、及び質量値X3を中心とするA+2同位体ピークを含む。3つのデータ点X1、X2及びX3は、本明細書において、調査対象の検体に関する「第1」レベルの情報と称されるであろうものを構成する。本明細書記載の質量値は、別途明確に記載のない限り、原子質量単位(u)であることに留意されたい。
【0010】
また、A、A+1及びA+2の各ピークは、存在度、即ち、量Q1、Q2及びQ3と関連する。図示するように、単一同位体ピークは、A+1及びA+2同位体ピークよりも相当程度高い存在度を有し、これが典型的な結果である。絶対存在度の値Q1、Q2及びQ3は、投入された検体試料のサイズ(size)に依存するため、それ自体は有意な情報を含まない。しかしながら、相対存在度、即ち、存在度の比Q2/Q1、Q3/Q1(またQ3/Q2)は、有用な情報を提供する。それは、一部の元素の同位体は他の同位体よりも一般的なものであるため、同位体種の相対存在度が、検体イオンの構成元素及び検体内の構成元素の各原子の数の解明を補助するからである。これは、「第2」レベルの情報を提供する。表1に、一般的な元素の安定な同位体の天然存在度を示す。表1に示すように、例えば、13Cの天然存在度(1.07%)は、Hの天然存在度(.01%)と比べてかなり高い。13Cの天然存在度が高いことにより、A+1ピークのAピークに対する存在度の比(Q2/Q1)が高いことは、例えば、検体が多くの炭素原子を含むことの表れであり得る。
【0011】
同位体ピークから抽出し得る相対存在度情報は有用であるが、各同位体ピークは、存在する異元素の同位体を重複して含み得る。典型的なLC/TOF−MS機器のおよそ10,000という分解能は、通常3〜6mmu(原子質量単位の千分の1程度(thousandths))異なる種々のA+n同位体を分離するには、通常、不十分である。同位体を50%谷間(valley)で分離するためには、現在利用可能なものの約10倍大きい分解能が必要とされる。複数の異なる同位体の組合せのこの重複(overlap)は、図1では、Aピークに比べてA+1及びA+2ピークの広がりが比較的大きいこと(及び低分解)により示される。この広がりは、同位体ピークの正確な質量が各ピーク内に集団化(cluster)した種々の同位体の強度及び存在度に応じて異なるため、X2及びX3の正確な値を求めるのはより困難となる。
【0012】
したがって、本発明は、質量スペクトルデータから抽出し得る第3レベルの情報を利用する。一旦、式を、検体イオンの同定に関して最初の2つのレベルの情報から計算すると、その共通の同位体が決定され得る。換言すると、重複してピークA+1及びA+2をもたらす同位体の組合せが、計算ソフトウェアによって提案され得る。これらの同位体を、A+1ピーク同位体集団を構成すると推測される2種類の同位体に対応した点線ピーク曲線C1及びC2で示す。しかしながら、A+1ピークは、より多くの数又はより少ない数の同位体を含み得ること、並びに示した同位体の数は例示にすぎないことに留意されたい。曲線C1、C2で示す仮定の(posited)同位体の素性(identity)は、その正確な質量とAピークの測定値の質量との差(相対質量欠損データに相当する)に関する有用な情報を含む。この差を、破線D1及びD2で示す。同様の差D3、D4を、A+2ピークについて示す(対応する曲線は図示せず)。
【0013】
この第3レベルの情報である相対質量欠損データは、存在する元素及びそのイオン(分子イオン、擬似分子イオン又はフラグメントイオンのいずれか)の実験式の決定において、実際には、Aイオン及びそのA+1、A+2などの相対存在度の決定よりも大きな信頼性をもたらす。また、妨害イオンが存在する場合、理論に基づく質量と測定質量の測定、比較により、同位体集団の質量が広範に異なれば妨害が存在することが示される。
C.重複する同位体の質量及び相対質量欠損の計算
図2は、実験式C3045を有するノニルフェノール(陰イオン)の二量体の場合の質量スペクトルの一例を示す。表2を参照すると、一般的に安定な同位体の天然存在度が示されており、この式において重要な主要同位体は、1.07%の天然存在度を有する13C及び0.205%の天然存在度を有する18Oであることがわかる。図2は、437.3424にAピーク、438.3456にA+1ピーク、及び439.3486にA+2ピークを示す。前記分子中には30個の炭素原子があるため、これらの任意の1個が13Cであり得、A+1ピークは、存在度がAピークのおよそ32%である(30×1.078=32.3%)。表1の一覧から、13Cの正確な質量は13.00335である。A+1ピークとAピークとの間の質量差の主な要因は、1個の12C原子が1個の13C原子と置換されていることに由来する。質量差Δm(A+1)13Cは、
13C−12C=Δm(A+1)13C
13.00335−12.000=Δm(A+1)13C
1.0034=Δm(A+1)13C
である。
【0014】
A+1とAピークとの質量差(438.3456−437.3424=1.0032)は、この差とほぼ一致する。また、A+1ピークに対する少しの寄与が、0.58%及び0.076%のH及び17Oから合計でおよそ33%ある。本発明によれば、A+1ピークの正確な質量に対する各元素からの寄与の割合は、以下のように計算される。
【0015】
P13C=32.3/(32.3+0.076+0.58)=98.0%
H及び17Oの合計寄与は同様に計算される。次いで、関連する全同位体に関して、Aピークとの相対質量差と寄与割合との掛け算値の合計である全質量差Δm(A+1)を決定することができ、この場合、
Δm(A+1)=Σ(P13CΔm13C+P2HΔm2H+P170Δm170
である。
【0016】
同様の計算を、A+2ピーク及び、任意の存在する付加的なピークA+3、A+4などについて行なう。A+2ピークの相対存在度は5.8%であり、その大部分は、上記二量体内の30個の炭素原子のうち2個が13Cである(with be)確率が5.4%あるという事実に由来する。18Oによる寄与は、当該二量体内の酸素原子の数が少ないため小さい。質量差の合計計算値Δm(A+2)は、2.0066になり、これは、図2の質量スペクトルに示された実験値2.0062と非常に近い。
【0017】
質量差Δm(A+1)及びΔm(A+2)は、正確な実験式を明確に決定するための手段として使用できるため、非常に有益なツールである。Δm(A+2)値は、検体イオンがハロゲン原子を含有する場合、特に有用な照合基準(check)となり得る。例えば、図3は、5個の窒素原子と1個の塩素原子を含有するプロパジンの例示的な質量スペクトルを示している。このスペクトルは、230.1164にAピーク、231.1188にA+1ピーク、及び232.1134にA+2ピークを示す。11.7%のAピークにおいて、A+1ピークの相対存在度は、13C(1.07%で)及び15N (0.368%で)によるものである。15N−14Nが0.997uであるため、15Nの相対質量欠損は、Δm(A+1)ピークをやや減少させ、プロパジンのΔm(A+1)が1.0024uとなるという結果を伴い、これは、実験値の差(即ち、231.1188−230.1164)と全く一致する。A+2ピークに関して、その相対質量欠損は、主に、24.22%の相対存在度を有する塩素(37Cl)によるものである。この場合、計算値のΔm(A+2)は1.9971uとなり、これは、観察された質量差1.997u(=232.1134−230.1164)とほぼ一致する。したがって、プロパジンの実験式の同位体の算出質量差情報を、質量スペクトルの実験値と比較することは、正確な実験式が用いられていること、並びに検体が事実上プロパジンであることの優れた検証をもたらすことがわかろう。
【0018】
計算での質量差Δmを用いることに加え、相対質量欠損RΔmを、簡略的に代わりに使用し得る。A+1ピークは、Aピークよりほぼ1質量単位大きく、A+2ピークは2質量単位大きいため、A+1ピークで1単位、及びA+2ピークで2単位(並びに任意のnピーク高くなるごとにn単位)の公称質量の増加を差し引きし得る。例えば、
RΔm(A+1)=Δm(A+1)−1
及び
RΔm(A+2)=Δm(A+2)−2
である。これらの式をプロパジンにあてはめると、RΔm(A+1)=1.0024u−1、即ち0.0024uである。同様に、RΔm(A+2)=1.9971u−2、即ち−0.0029uである。表3は、プロパジンの組成の一例の一覧であり、本発明によるA+1及びA+2ピークの相対質量欠損の計算を含む。図示するように、プロパジン中の各元素を、原子数及び各元素の全質量と共に示す。
D.実験式の決定及び/又は確認
質量差の合計及び相対質量欠損の情報を用いることで、検体の実験式の候補を削減することができる。図4は、検体イオンの実験式を決定するために用いる解析ソフトウェアツールのグラフィカルユーザーインターフェースの一例を示している。本発明は、かかるソフトウェアツール、並びに当分野で既知の他のタイプの解析ツールと組み合わせて好都合に使用され得ることに留意されたい。図4には、2つの解析画面100a、100bがあり、各々は、検体イオンにおける各実験式案のリスト110a、110bを示している。候補案は、まず、104a、104bに入力され示された入力パラメーターによって制約され、また、考えられ得る元素120a、120bの一覧に入力された限界値(limitation)に制約される。見ると分かるように、解析画面100a内の元素一覧120aでは、122aの項目において、許容し得る塩素原子の最少数が0に、最大数が2に設定されている。精度(accuracy)3ppmの設定レベルにおいて、一覧110aは、質量スペクトルから得られた全てのレベルの情報を用いて、検体イオンの5つの考えられ得る候補を示す。画面100b内の対応する元素一覧120bでは、122bの項目において、塩素原子の許容し得る数が1に設定されており、潜在的候補案の一覧は1個の候補イオンに減らされている。
【0019】
図5は、妨害イオンが本発明に従ってどのように検出され得るかを示す質量スペクトルの別の例である。図5の上側のスペクトルは、殺虫剤ジメトモルフの質量スペクトルを示すが、これは、387.1802のm/z値に妨害イオンも含んでいる。ジメトモルフの正確な算出質量は383.131である。上側のスペクトルの第2のピーク(ジメトモルフのAピーク)のm/z測定値は、388.1413である。これは、正確な算出質量とかなり忠実に一致しているため、この情報単独から、妨害イオンの存在を証明するのは困難である。しかしながら、上側のスペクトルにおける相対質量欠損値は、A+1及びA+2ピークについて1.0及び−12.2である。図6に示す解析ソフトウェアツールを用いると、これらの相対質量欠損値が、ジメトモルフ又は他の実験式案のいずれとも相関しないことがわかる。実際、ジメトモルフは、誤差26ppmの25番目の選択肢(円で囲む)として示されている。この情報から、妨害イオンが存在することが証明され、また、妨害イオンが、ジメトモルフイオンと非常に近い質量を有する13C同位体を含むことが結論づけられる。
【0020】
下側のスペクトルは、より高濃度のジメトモルフ検体を含み、したがって、妨害イオンが測定値に影響しない。Aピークのm/z値は、388.1321であり、相対質量欠損の観察値2.2及び−3.2は、それぞれの計算値3.3及び−2.5と、より近接して一致する。対応する実験式の一覧(図示せず)では、ジメトモルフは、誤差2.8ppmの4番目の選択肢へと移動している。
【0021】
したがって、A+1及びA+2同位体集団の正確な質量を用いることは、妨害について実験式を検査し、その正確さを検証するための非常に有用な手順をもたらし、元素用の計算機において原子数を選択するための付加的情報源として、質量スペクトルデータと一致する正しい実験式の決定を補助する。
【0022】
上記の説明は、主にA+1及びA+2同位体集団から収集した情報を用いて記載してきたが、相対質量欠損値は、A+3、A+4及びそれ以降に由来するより多数のピークから収集し得ることに留意されたい。例えば、A+3ピークについて考慮される組合せは、AピークがCl、C、N及びHを含む場合、37Cl−13C、37Cl−H、37Cl−15N、13C−13C−13C、13C−13C−15N、13C−13C−H、13C−15N−15N、13C−H−H、13C−15N−H、15N−15N−15N、15N−15N−H、15N−H−H及びH−H−Hであり得る。これらの各組合せは、分子内の原子数、天然存在度の割合、及びその存在の確率によって寄与し、次いで、これを各組合せの同位体の合計の相対質量欠損に対して相関(factor)させる。A+4ピークでは、A+4に等しい同位体の全ての組合せは、37Cl−37Cl、37Cl−13C−13C、37Cl−13C−15Nなどであり得る。この計算が、正確な質量の丸め誤差によって影響を受け得ることを認識することが重要である。したがって、質量欠損に関与する原子のみをこの計算に含めることは重要である。最後に、一般的に、2個以上のハロゲンを含有するほとんどの低分子(500未満の分子量)では、A+5まで(out to)を考慮することが重要である。
【0023】
さらにまた、メインピークAに対してではなく、同位体ピーク間で得られる欠損であるところの第2の相対質量欠損を計算することも可能である。例えば、A+2−A+1、A+3−A+1、A+3−A+2間などで測定される欠損もまた有用な情報を含む。この場合、測定は、同位体集団の測定値m/zに対して行なわれることが理解されよう。
【0024】
特定の実施形態に関して本発明を説明してきたが、当業者には他の修正及び変更が自明であるか又は示唆され得るため、本記載に限定の意のないことは理解されよう。本発明は、添付の特許請求の範囲に包含される全てのかかる修正及び変更を包含するものとする。
【0025】
表1は、一般的な同位体とその天然相対存在度の一覧である。
【0026】
【表1】

【0027】
表2は、水素、炭素、窒素、酸素、硫黄、塩素及び臭素の主要同位体の正確な質量及び相対質量欠損の一覧である。
【0028】
【表2】

【0029】
表3は、本発明によるプロパジンイオンのA+1及びA+2同位体の相対質量欠損の計算の出力の一例を示す。
【0030】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】検体イオンの質量スペクトルの一例の概略図
【図2】ノニルフェノールの二量体の質量スペクトルの一例
【図3】プロパジンの例示的な質量スペクトル
【図4】本発明による検体イオンの実験式を決定するために使用した解析ソフトウェアツールのグラフィカルユーザーインターフェースの一例
【図5】妨害イオンが本発明に従ってどのように検出され得るかを示す質量スペクトルの別の例
【図6】妨害イオンの実験式案に対する影響を示す場合の解析ソフトウェアツールのグラフィカルユーザーインターフェースの一例の別の図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインピーク(A)と1つ以上の同位体ピーク(A+1、A+2、・・・A+n)とを含む測定質量スペクトルから検体イオンの実験式を決定する方法であって:
a) 測定同位体ピーク(A+1、A+2、・・・A+n)の相対同位体強度を、実験式案の同位体イオンの算出相対同位体強度と比較すること;
b) 前記測定同位体ピーク(A+1、A+2、・・・A+n)の相対質量欠損を、実験式案の同位体イオンの算出相対質量欠損と比較すること;及び
c) a)及びb)の比較に基づいて、検体イオンの有力候補である実験式案を同定すること、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記同位体ピークが、A+1ピークと、少なくとも1つのさらなる同位体ピークとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記質量スペクトルが、質量分析計から得られる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記質量スペクトルの同位体ピークが、A+1ピークと、少なくとも1つのさらなる同位体ピークとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記実験式案を同定することが:
前記質量スペクトルの少なくとも1つのさらなる同位体ピーク(A+2、A+3、・・・A+n)の質量欠損を、前記メインピーク(A)の質量に対して及び互いに対して決定すること;及び
前記質量スペクトルの前記さらなる少なくとも1つの同位体ピーク(A+2、A+3、・・・A+n)の相対質量欠損を、前記実験式案の対応するさらなる同位体イオンの算出相対質量欠損と比較することにより同定を検証すること、
をさらに包含する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記質量スペクトルの同位体ピークが、A+2、A+3、A+4及びA+5ピークのうち少なくとも1つを含む、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記比較する工程が:
前記質量スペクトルの同位体ピーク(A+1、A+2、・・・A+n)の相対質量欠損と、前記実験式案の対応する同位体イオンの相対質量欠損との差を計算すること;及び
前記差が、閾値未満であるか否かを判定すること、
を包含する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記比較の結果に基づいて、前記質量スペクトルにおける妨害イオンの存在を調べること、
をさらに包含する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記実験式案の対応する同位体イオンの相対質量欠損を計算することが:
相対的な存在度を、前記実験式案における個々の原子の同位体に割り当てること;及び
前記個々の原子の同位体の相対的な存在度及びそれら各々の質量欠損に基づいて、加重合計を決定すること、
を包含する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
存在する全ての同位体間の相対質量欠損を比較すること、
をさらに包含する、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−127652(P2007−127652A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−299945(P2006−299945)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】5301 Stevens Creek Boulevard Santa Clara California U.S.A.
【Fターム(参考)】