説明

全芳香族ポリアミド繊維

【課題】従来の機械的物性を損なうことなく少量の添加物を添加することにより高温収縮性に優れた全芳香族ポリアミド繊維を提供すること。
【解決手段】全芳香族ポリアミド繊維中に、二酸化チタンと二酸化ケイ素とを主成分とし、分散粒子平均相当径が10〜200nmの複合粒子を、5〜20重量%含有させた全芳香族ポリアミド繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族ポリアミド繊維に、無機を主体とする粒子をナノサイズで分散させた収縮性の改善された全芳香族ポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性および難燃性に優れていることは周知であり、また、これらの全芳香族ポリアミドはアミド系極性溶媒に可溶であり、全芳香族ポリアミドを該溶媒に溶解した重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸などの方法により繊維となし得ることもよく知られている。全芳香族ポリアミド繊維は、特に耐熱・難燃性繊維として特に有用なものであり、これらの特性を発揮する分野、例えば、フィルター、電子部品などの産業用途や、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される防護衣などの防災安全衣料用途などに用いられている。
【0003】
なかでも、防護衣は、溶鉱炉、電気炉、焼却炉などの高温炉前で着用する防護衣、消火作業に従事する人のための消防衣料、高温火花を浴びる溶接作業用の溶接防護衣、引火性の強い薬品を取り扱う人のための難燃作業服などとして幅広く使用されているが、メタ型全芳香族ポリアミド繊維はその優れた耐熱性、難燃性、自己消化性に加えて一般の糸質が衣料用繊維、例えば綿、羊毛などの天然繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維によく似ているため、加工性、着心地、洗濯性、衣裳性などの面で、従来防護衣に使用されていたガラス繊維、石綿繊維、フェノール樹脂繊維、金属箔コーティング素材などよりも防護衣素材として優れていることが認められている。
【0004】
しかし、現有のメタ型全芳香族ポリアミド繊維製の防護衣は、高温の炎または火の玉に接触した際に素材の収縮、さらには穴あき現象を生じることがあり、その防護性能、特に耐火性、に限界があるため、消火活動・人命救助活動の範囲にも限界が生じている。
【0005】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維製の防護衣素材の耐火性、耐炎性、耐熱性などが飛躍的に向上すれば、例えば消火活動において、火災の進行状況にかかわらず、火災現場内部へ進入して早期の消火・救出活動を可能とすることや、最盛期の火災であっても、火元に接近して直接注水して早期に消火することが可能となる。これにより、消火活動における水損を大幅に低減する、救助の迅速・早期化を実現する、消防隊員の安全性を向上する、などのメリットが期待される。このため、全芳香族ポリアミド繊維製の防護衣素材としての耐火性能を向上させること、特に高温の炎または火の玉に接触した際の素材の炭化による硬化現象を抑制することが望まれている。
【0006】
従来、全芳香族ポリアミド繊維の耐炎性を改善するため、ポリマーに有機リン化合物、含リンフェノール樹脂、ハロゲン化合物などを添加する方法が提案されており、ハロゲン原子含有の有機リン化合物を配合する方法が提案されている(下記特許文献1参照)。しかし、本方法では寸法安定性の改善は可能であるが、火炎暴露時に発現する炭化による硬化現象の改善は為されず、防護用衣料としての用途拡大に問題点を有する。
【0007】
また、全芳香族ポリアミドとポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリスルフィドスルホンなどの可溶性樹脂とのブレンドからなる、高温での寸法安定性に優れた繊維およびその製造方法が提案されている(下記特許文献2参照)。しかし、上記特許文献2では、高温の炎または火の玉に接触した際の素材の収縮つまり高温下での硬化現象については全く言及されておらず、現実に、該繊維の構成・製造方法では高温下での炭化による硬化現象を抑制できないことは容易に想像できる。
【0008】
さらに、別の手法として、火炎暴露時の耐火性を向上させることを目的として、全芳香族ポリアミド繊維をIV、VおよびVI族のハライドおよびオキシハライドを含有する不活性雰囲気下で高温熱処理することにより架橋構造を形成させる方法、(下記特許文献3参照)、ハロゲン置換されたホスファゼンを含有する不活性雰囲気下で高温熱処理することにより架橋構造を形成させる方法(下記特許文献4参照)、高温空気の雰囲気下で繊維を長時間処理することにより酸化架橋を形成させる方法(下記特許文献5、6参照)などが提案されている。しかし、何れの場合も高温且つ長時間の工程を有するため、実質的に生産性が良くないという問題がある。また、全芳香族ポリアミド繊維を無機リン酸溶液に浸漬含浸させ架橋構造を形成させる方法(下記特許文献7参照)も提案されているが、上述の提案も含めて何れのケースも火炎暴露時の寸法安定性の改善については言及されているが、火炎暴露時に炭化を生じるとの記載があり、炭化による硬化現象は改善されていない。さらに、硫黄により架橋構造を有する全芳香族ポリアミド繊維を形成させる方法(下記特許文献8参照)、ポリベンズイミダゾールおよび全芳香族ポリアミド繊維に6価タングステンを含浸させ架橋構造を形成させる方法(下記特許文献9参照)が近年、提案されている。前者は機械強度の向上について言及し、後者は耐火性の向上を言及しているものの、いずれも炭化性改善に関しては一切言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭53−122817号公報
【特許文献2】特開平5−321026号公報
【特許文献3】特公昭47−5436号公報
【特許文献4】特開昭49−132398号公報
【特許文献5】特公昭46−419号公報
【特許文献6】特開昭49−35614号公報
【特許文献7】特開昭50−114473号公報
【特許文献8】特表2000−512694号公報
【特許文献9】特表平8−503504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のごとき従来技術の問題を解消するためになされたもので、その1つの目的は、機械的物性を損なうことがなく、高温時の寸法安定性に優れた全芳香族ポリアミド繊維(以下「全芳香族ポリアミド繊維」ともいう)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の構成は、全芳香族ポリアミドからなる繊維であって、分散粒子平均相当径が10〜200nmの範囲内にある無機粒子を、当該繊維中に5〜20重量%含有する全芳香族ポリアミド繊維である。
無機粒子の平均粒径を上記範囲内にすると、無機粒子自体が非常に細かいので、無機粒子の重量あたりの個数や表面積を大幅に増加させることができ、少ない配合量でも、得られる繊維に高い寸法安定性(低収縮性)を付与することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、無機を主成分とする粒子を少量添加した場合においても、高温時(500℃)の収縮率が5%以下の非常に優れた寸法安定性を示し、繊維の機械的特性を損なうことなく飛躍的に寸法安定性を向上させることができるため、寸法安定性に優れた各種繊維製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明における全芳香族ポリアミドは、溶液中でのジカルボン酸ジクロライド(以下「酸クロライド」ともいう)とジアミンとの低温溶液重合、または界面重合から得ることができる。具体的に本発明において使用されるジアミン成分としては、p−フェニレンジアミン、2−クロルp−フェニレンジアミン、2,5−ジクロルp−フェニレンジアミン、2,6−ジクロルp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
なかでもジアミン成分として、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンおよび3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましく、これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0014】
また、具体的に本発明において使用される酸クロライドとしては、例えばイソフタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、2−クロルテレフタル酸クロライド、2,5−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも、酸クロライドとして、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドが好ましい。従って、本発明における全芳香族ポリアミドの例としては、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、およびポリメタフェニレンテレフタルアミドなどを挙げることができる。
【0015】
全芳香族ポリアミドを重合する際の溶媒としては、具体的にN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。これらの溶媒は、単独あるいは2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。なお、上記溶媒は脱水されていることが望ましい。
この場合、溶解性を上げるために、重合前、途中、終了時に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩として例えば、塩化リチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0016】
本発明の全芳香族ポリアミドの製造において用いられる全芳香族ポリアミド溶液のポリマー濃度は、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。ポリマー濃度が0.5重量%未満では、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、ポリマー濃度が30重量%を超える場合、ノズルから吐出する際に流動が不安定になりやすく、安定的に紡糸することが困難となる。
【0017】
また、全芳香族ポリアミドを製造する際、これらのジアミンと酸クロライドは、ジアミン対酸クロライドのモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いるのが好ましい。
この全芳香族ポリアミドの末端は封止されていてもよい。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えばフタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
一般に用いられる酸クロライドとジアミンの反応においては、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩を併用できる。
反応の終了後、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを添加し中和反応する。
【0018】
反応条件は特別な制限を必要としない。酸クロライドとジアミンとの反応は、一般に急速であり、反応温度は例えば−25℃〜100℃好ましくは−10℃〜80℃である。
このようにして得られる全芳香族ポリアミドは、アルコール、水といった貧溶媒に投入して、沈澱させ、パルプ状にして取り出すことができる。これを再度他の溶媒に溶解して成形に供することができるが、重合反応によって得た溶液をそのまま成形用溶液として用いることもできる。再度溶解させる際に用いる溶媒としては、全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定されないが、上記全芳香族ポリアミドの重合に使用する溶媒が好ましい。
【0019】
本発明では、無機粒子、例えば二酸化チタンおよび二酸化ケイ素を主成分とし、分散粒子平均相当径が10〜200nmの複合粒子を当該繊維中に分散させることで、得られる繊維に一定の低収縮性を付与することができる。その際、繊維への複合粒子の配合量が少なくても、ある程度寸法安定性(低収縮性)が向上することが確認された。ここで、「二酸化チタンと二酸化ケイ素を主成分とする」とは、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素の含有量の合計が80重量%以上であることを指称し、後記するようなその他の金属酸化物が含まれていてもよい。このようにして、繊維の機械的特性を損なうことのない少ない配合量で、高温時においても十分な寸法安定性を付与することができる全芳香族ポリアミド繊維を提供することができる。
【0020】
なお、上記したような、繊維に対して少量の配合量で寸法安定性を向上させることのできる無機粒子としては、二酸化チタンからなる核と、その外面に形成された二酸化ケイ素の被覆層とを有する複合粒子が好適に用いられる。
【0021】
ここで、本発明の複合粒子を構成する二酸化チタンや二酸化ケイ素の出発原料としては、例えば対応する金属アルコキシドが挙げられるが、これに限定するものではない。
【0022】
上記二酸化チタンの原料としては、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトラ−i−プロポキシド(テトライソプロピルチタネート)、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトラ−sec−ブトキシド、チタンテトラ−tert−ブトキシド、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネートなどのチタンアルコキシドのほか、ジエトキシチタニウムビスアセチルアセトネート、ジプロポキシチタニウムビスアセチルアセトネート、ジブトキシチタニウムビスアセチルアセトネートなどのキレート化合物も挙げることができる。
【0023】
また、二酸化ケイ素の原料としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ジメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、アクリロイルプロピルトリメトキシシラン、メタアクリロイルプロピルトリメトキシシランなどのケイ素アルコキシドのほか、ポリメチルシロキサンなどのシリコンオイルも用いられる。
【0024】
また、上記複合粒子は、シラン系カップリング剤やチタン系カップリング剤などのカップリング剤、または界面活性剤などの表面処理剤によって、さらに表面処理することが好ましい。ここでは、特にシラン系カップリング剤を用いると好適である。
この表面処理剤は、被覆層の表面に存在し、表面処理層を形成する。かくて、表面処理剤の種類を適切に選択することにより、複合粒子の表面処理層の表面状態が調整され、ポリマーとの親和性を向上させ、ポリマー中への複合粒子の分散性が良くなって、少量の配合量で十分な寸法安定性を付与することができる。
【0025】
ここで、シラン系カップリング剤としては、下記式(I)で表されるシラン系カップリングが挙げられる。
(R−Si−X(4−n) (I)
(R:炭素数1〜300からなる有機基であり、N、O、S、ハロゲンといったヘテロ原子を含んでも良い。X:ORといったアルコキシル基もしくは、ハロゲン原子であって、Rは炭素数1〜18の有機基である。)
として具体的には、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基など脂肪族アルキル基、シクロヘキシル基などの脂環族基、またフェニル基、トルイル基、ナフチル基といった芳香族基が挙げられる。また、これらにN,O,S、ハロゲンといったヘテロ原子を含んでよく、その場合、アミノ基、クロロ基、ブロモ基、シアノ基、酸無水物、エポキシ基、メルカプト基などが挙げられる。Xに含まれるORのRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。
【0026】
このような式(II)で示されるシラン系カップリング剤の具体的な化合物としては、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン,n−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン,n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン,n−ペンチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルルトリメトキシシラン,n−ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、トルイルトリメトキシシラン、トルイルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、P−アミノフェニルトリエトキシシラン、3−シアノエチルメチルジメトキシシラン、3−シアノエチルトリメトキシシラン、3−シアノメチルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシラン、3−(トリエトキシシリル)プロピルスクシン酸無水物、2−(3,4,−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2,3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5、6―エポキシヘキシルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、3−ニトロプロピルジメトキシメチルシラン、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン、11−ブロモウンデシルトリメトキシシラン、11−ブロモウンデシルトリクロロシラン、11−ブロモウンデシルジメチルクロロシラン、特開2006−124698号公報の段落「0079」−「0085」に記載されているイミダゾールシランなどのシラン系カップリング剤を挙げることができる。
これらのシラン系カップリング剤のうち、エポキシシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン、アルコキシシランが好ましい。
これらのシラン系カップリング剤は、2種以上を併用することができる。
【0027】
シラン系カップリング剤は、複合粒子の分散性を極めて良好にすることができるため、少量の配合量でも繊維に高い寸法安定性を付与させることができる。
【0028】
また、界面活性剤としては、イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤などを用いることができる。ここで、イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系、リン酸系などの陰イオン界面活性剤、アンモニウム系界面活性剤などの陽イオン系界面活性剤、カルボン酸系、リン酸エステル系などの両性イオン系界面活性剤を利用することができ、非イオン系界面活性剤としてはカルボン酸系、リン酸エステル系のものを使用することができる。
【0029】
なお、本発明に用いられる複合粒子の動的光散乱法で測定した平均粒径は、通常、10〜500nm、好ましくは10〜200nmである。ここで、平均粒径は、複合粒子が分散媒中に5重量%濃度で分散された状態で動的光散乱法により測定された値である。
複合粒子の平均粒径を上記範囲内にすると、複合粒子自体が非常に細かいので、複合粒子の重量あたりの個数や表面積を大幅に増加させることができ、少ない配合量でも、得られる繊維に高い寸法安定性(低収縮性)を付与することができる。
【0030】
以下に、本発明の複合粒子について、説明する。
複合粒子は、二酸化チタンからなる核部分と、二酸化ケイ素からなる被覆層とを有する。
【0031】
上記核を構成する二酸化チタンは、ルチル型、アナターゼ型のいずれの結晶構造でもよい。ルチル型およびアナターゼ型の割合は、処理温度などによって異なり、一般には高温処理を行った場合にはルチル型の割合が多く、低温処理を行った場合にはアナターゼ型の割合が多くなる。なお、二酸化チタンは、ルチル型およびアナターゼ型の結晶構造のいずれか一方のみを含むものであってもよい。
【0032】
上記被覆層を構成する二酸化ケイ素は、特別な結晶構造を有してはおらずアモルファス状態で、二酸化チタンからなる核を被覆している。被覆層は、一個の二酸化チタンからなる核を完全に覆っているのが好ましい。ただし、一個の核を部分的にのみ覆っているものでもよく、また、複数個の核を覆っているのであってもよい。
【0033】
なお、本発明に用いられる複合粒子中には、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素からなる複合粒子以外にも、その他の金属酸化物が少量含まれていてもよい。例えば、酸化セシウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅などが含まれていてもよい。
【0034】
本発明に用いられる複合粒子は、表面処理層をさらに有する。この表面処理層は、例えばシラン系カップリング剤、チタン系カップリングなどの公知のカップリング剤で構成され、該カップリング剤は、被覆層の表面に存在し、表面処理層を形成している。カップリング剤としては、例えばチタネート系、シラン系などの公知のカップリング剤を用いることができる。なかでも、シラン系カップリング剤が特に好ましく、複合粒子の表面を疎水化して樹脂との間の親和性を向上させ、樹脂中への複合粒子の分散性を良好にすることができるなど、表面処理剤として好適である。上記シラン系カップリング剤としては、シランモノマー、ビニルシラン、アミノシラン、イソシアネートシランなどが挙げられる。
【0035】
本発明に用いられる複合粒子は、その平均粒径が10〜500nmである。ここで、上記平均粒径は、複合粒子が分散媒中に5重量%の濃度で分散された状態で、動的光散乱法により測定された値である。なお、分散媒中での複合粒子は、必ずしも一次粒子にまで分散されているとは限らず、凝集状態にあるものも存在する。この凝集状態にある複合粒子については、凝集塊の大きさを当該複合粒子の粒径として、平均粒径が求められる。つまり、本発明において、「平均粒径」とは、分散媒中における複合粒子の一次粒子または凝集塊の大きさの平均値を意味するものとする。このように、複合粒子を非常に細かく形成すれば、複合粒子の重量あたりの個数や表面積を大幅に増加させることができる。従って、樹脂に対して低収縮性を付与するための配合量を少なくすることが可能となる。さらに、平均粒径を10〜200nmとすれば、複合粒子の重量あたりの個数や表面積をいっそう増加させることができるので、より好ましい。
【0036】
本発明に用いられる複合粒子は、液相法、気相法のいずれの方法でも製造することができる。液相法としては、共沈法、加水分解法、アルコキシド法、ゾル−ゲル法、水熱合成法、重合法などの公知の方法を利用することができる。また、気相法としては、電気炉加熱法、燃焼法、プラズマ法、レーザー法などの公知の方法を利用することができる。
本発明では、その一例として、ホソカワミクロン(株)製の気相法装置であるナノクリエータを用いて製造することができる。この装置は、本発明における所望の粒子サイズでもって、二酸化チタンからなる核と、その外面に形成された二酸化ケイ素の被覆層とを有する複合粒子を製造するのには好適なものである。
【0037】
本発明では、製造された複合粒子に対して、さらにシラン系カップリング剤による表面処理がなされる。表面処理の方法としては、高精度な処理が可能となる湿式法が好適に利用される。この湿式法は、複合粒子が分散した溶媒中にシラン系カップリング剤を添加して複合粒子の表面にシラン系カップリング剤を結合させ、その後、溶媒を除去して乾燥させる方法である。なお、溶媒を用いない乾式法により、表面処理を行ってもよい。また、上記したような他の表面処理剤を用いて、表面処理を行ってもよい。
【0038】
以上、説明した本発明の複合粒子の繊維への配合量は、全芳香族ポリアミド繊維に対し、5〜20重量%、好ましくは7〜15重量%であり、このような少量の配合量で繊維に対して低収縮性を付与することができる。5重量%未満では、所定の寸法安定性(低収縮性)向上効果が発現しない。一方、20重量%を超えると、繊維の成形性が乏しくなり好ましくない。
なお、複合粒子の繊維への配合量を30〜50重量%とすることもできる。この場合は、繊維の機械的強度が多少犠牲になるが、低収縮性を大幅に向上させることができる。
【0039】
なお、本発明において、物性を損なわない範囲で、本発明の複合粒子以外のフィラーを併用することができる。フィラーとしては、繊維状、もしくは板状、鱗片状、粒状、不定形状などの非繊維状の充填剤が使用でき、具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、全芳香族ポリアミド繊維以外の有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、二酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、マイカ、層状粘土鉱物、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、二酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどが挙げられる。また、上記のフィラーは、2種以上を併用して使用することもできる。
また、本発明の繊維中には、二酸化チタン微粒子、二酸化ケイ素微粒子などの単独の金属酸化物の微粒子が含まれていてもよい。
【0040】
本発明の繊維は、500℃の乾熱収縮率が5%以上以下、好ましくは4%以下であり、5%を超えると、寸法安定性に優れた全芳香族ポリアミド繊維としての特徴がなくなるため好ましくない。したがって、乾熱収縮率を5%以下にするには、本発明に用いられる無機粒子、好ましくは上記の複合粒子を繊維中に5重量%以上、配合すればよい。
【0041】
また、本発明の繊維中における無機粒子、好ましくは上記の複合粒子の分散粒子平均相当径は、10〜200nmである。好ましくは10〜100nmである。
複合粒子の分散粒子平均相当径を上記の範囲内(10〜200nm)にするには、本発明に用いられる複合粒子の平均粒径を上記範囲内(10〜500nm)とし、さらにこの複合粒子をビーズミル、などで微粉砕または分散し、ポリマーに配合することにより調整される。
なお、ここでいう複合粒子の分散粒子平均相当径とは、繊維を繊維長に対して直角方向に切断し、その繊維断面を電子顕微鏡により倍率10万倍で観察した際の25μmの観察断面積当りの平均粒子分散面積S(μm)としたとき、下記式により求められる値(Y)である。
Y(nm)=2×√(S/π)
【0042】
なお、本発明に用いるポリマーや得られる繊維には、そのほか、種々の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤などの劣化防止剤、滑剤、帯電防止剤、離型剤、可塑剤、顔料などの着色剤などを併用してもよい。上記添加剤の使用量は、得られる繊維本来の物性を損なわない範囲で、添加剤の種類に応じて適当に選択できる。
【0043】
本発明の繊維を製造するには、全芳香族ポリアミド溶液(全芳香族ポリアミド製造時の生成ポリマードープであってもよい)と、複合粒子分散液とを混合し、湿式紡糸あるいは乾式紡糸したのち、溶媒を除去することによって、繊維が得られる。
ここで、全芳香族ポリアミドと複合粒子の混合液は、均一な混合液として得られる。ここで、全芳香族ポリアミド溶液と複合粒子の分散液に用いられる溶媒としては、該全芳香族ポリアミドの上記溶媒を使用することができ、これらの溶媒は、単独あるいは2種以上を併用することができる。
紡糸上、全芳香族ポリアミド溶液と複合粒子の分散に用いられる溶媒は、同一であることが好ましい。
混合後の固形分濃度(全芳香族ポリアミドおよび複合粒子の合計の濃度)は、通常、1〜20重量%、好ましくは3〜15重量%程度である。
【0044】
このようにして得られるポリマー組成物である混合液を用いて、湿式法あるいは乾式法により、繊維に成形し、溶媒を除去することにより、本発明の低収縮繊維を製造することができる。また、得られた繊維を、延伸、熱処理などの後処理することにより、さらに得られる繊維の物性を向上させることができる。
【0045】
さらに、本発明の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法の具体例を以下に示す。
すなわち、以上の本発明の複合粒子を含有する全芳香族ポリアミド繊維を製造するには、上記全芳香族ポリアミドを有機溶媒に溶解させて等方性のドープとし、同じ有機溶媒に高濃度に分散させた複合粒子を添加して湿式紡糸する。ここで、ドープは、全芳香族ポリアミドが溶解している限り、溶液重合を行った後の有機溶媒ドープそのままでも、別途得られた全芳香族ポリアミドを有機溶媒に溶解させたものでもよい。ここでは、特に溶液重合反応を行った後の有機溶媒ドープそのままのものがより好ましい。
【0046】
この際、全芳香族ポリアミドへ高濃度に複合粒子を混合する際は、複合粒子の凝集を抑制する必要がある。全芳香族ポリアミド繊維用ドープを調製するに際し、その方法は特に限定されるものではないが、複合粒子分散液を一定の圧力で注入し、ダイナミックミキシングおよび/またはスタティックミキシングする方法が好ましい。しかし、複合粒子分散液では、複合粒子が凝集しやすいという問題がある。上記複合粒子分散液の凝集を抑制させるためには、全芳香族ポリアミド溶液を少量添加することが効果的である。すなわち、全芳香族ポリアミド溶液と、複合粒子の100重量部に対して好ましくは全芳香族ポリアミドを1〜5重量部含有する複合粒子分散液とを混合する。全芳香族ポリアミドが複合粒子の100重量部に対して1.0重量部未満の場合は、複合粒子の凝集を抑制することが困難となる。一方、全芳香族ポリアミドが複合粒子の100重量部に対して5.0重量部を超えると、複合粒子分散液の粘度が高くなり、配管輸送を必要とするプロセスでは取り扱いが困難となる。
【0047】
ここで、重合溶媒あるいは有機の再溶解溶媒としては、一般に公知の非プロトン性有機極性溶媒を用いる。例を挙げると、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルブチルアミド、N,N−ジメチルイソブチルアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2、N,N’−ジメチルエチレン尿素、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N’,N’−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシドなどである。
【0048】
本発明における全芳香族ポリアミドの重合度は特に制限されないが、該ポリアミドが溶媒に溶けるならば、成形加工性を損なわない範囲内で重合度は大きい方が好ましい。本発明の全芳香族ポリアミドを溶液重合する場合、酸クロライドとジアミンの比は実質的に等モルで反応させるが、重合度制御のためいずれかの成分を過剰に用いることもできる。また、末端封鎖剤として単官能性の酸成分、アミン成分を使用しても良い。
【0049】
上記のごとくして得られる等方性のドープは、湿式紡糸される。この場合、上記ドープを凝固浴の中に直接吐出しても良いし、あるいはエアギャップを設けてもよい。凝固浴は、全芳香族ポリアミドの貧溶媒が用いられるが、全芳香族ポリアミドドープの溶媒が急速に抜け出して全芳香族ポリアミド繊維に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。一般には、貧溶媒としては水、良溶媒としては全芳香族ポリアミドドープ用の溶媒を用いるのが好ましい。良溶媒/貧溶媒の比は、全芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85〜40/60が一般的に好ましい。
【0050】
得られた繊維は、この段階では充分に配向していないので、この後、熱延伸して広角X線回折より求めた結晶配向度が89%以上、結晶化度が74%以上と高度に配向および結晶化させることが好ましい。これより、結晶配向度、結晶化度のどちらか一方または両方が低い場合には、熱(延伸)処理を施しても、得られる繊維の機械的物性が不充分となりやすい。熱延伸の温度は、全芳香族ポリアミドのポリマー骨格にもよるが、300℃以上550℃以下であることが好ましく、また、延伸倍率は10倍以上が好ましい。
【0051】
なお、得られる全芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は、0.5〜50dtexである。0.5dtex未満の場合は添加された複合粒子が糸欠陥として作用し製糸性が不安定となる場合がある。また、繊維の比表面積が大きくなるので耐光劣化を受け易い。一方、50dtexを超える場合は、繊維の比表面積は小さくなり、耐光劣化を受けにくい。反面、製糸工程で比表面積が小さいので凝固が不完全になりやすく、その結果、紡糸や延伸工程で工程調子が乱れやすく、物性も低下しやすい。
【0052】
強度は高い程好ましいが、複合粒子の濃度を上げるにつれて強度は低下の傾向があり、10cN/dtex未満では高強度繊維としての特長が不足する。さらに好ましくは、15cN/dtex以上である。
【0053】
さらに、伸度は、3.0%以上である。3.0%未満の場合は撚糸して使用する場合に撚り歪が大きくなり、撚糸コードの強力利用率が低下する。従って、耐光性が特に要求される屋外使用のロープやネットの場合、高強力耐久性が問題になる。伸度は、好ましくは3.5〜5.0%である。
【0054】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、繊維の引張り強さ(T)の、複合粒子を含有していないことを除き、その他は上記繊維と同一の繊維からなる比較繊維の引張り強度(To)に対する比(T/To)が0.7以上、好ましくは0.8以上である。上記比が0.7未満では、高強度性が失われる。この比を0.7以上にするには、繊維中に分散する分散粒子平均相当径を200nm以下にする必要がある。
【0055】
かくして得られる本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、織物、編物、不織布などの布帛のほか、組紐、ロープ、撚糸コード、ヤーン、綿などの繊維構造物を構成する。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
なお、実施例中の各特性値は、以下の方法で測定した。
【0057】
<複合粒子の平均粒径>
複合粒子を、5重量%のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散した状態で、NMP分散径として求めた。NMP分散径は、濃厚系粒径アナライザー「FPIR−1000」(大塚電子(株)製)を用いて、動的光散乱法により求めた。
<分散性(繊維中における複合粒子の分散粒子平均相当径)>
繊維を切断し、断面を電子顕微鏡により倍率10万倍で観察した際の25μmの観察断面積当りの平均粒子分散面積S(μm)としたとき、下記式により計算される(Y)を分散平均相当径とした。
Y(nm)=2×√(S/π)
【0058】
<繊度>
JIS−L−1015に準じ、測定した。
<繊維の引張り強度>
引張試験機(オリエンテック社製、商品名:テンシロン万能試験機、型式:RTC−1210A)を用いて、ASTM D885の手順に基づき、測定試料長500mm、チャック引張速度250mm/min、初荷重0.2cN/dtexの条件にて測定を実施した。
T/Toは、繊維の引張り強度(T)の、複合粒子を含有していないことを除き、その他は上記繊維と同じ繊維からなる比較繊維の引張り強度(To)に対する比として求めた。
<乾熱収縮率>
繊維の初期長をLoとし、当該繊維を500℃雰囲気の乾燥熱処理を10分間施した際の繊維長Lとしたとき、下記式により計算される(S)を乾熱収縮率とした。
S(%)=(Lo−L)/L×100
【0059】
実施例1
チタンを含有する原料液として、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート溶液、ケイ素を含有する原料液として、オクタメチルシクロテトラシロキサン溶液を準備し、これらを複合粒子形成後の二酸化チタンおよび二酸化ケイ素の含有量が80重量%および20重量%となるように混合した。この混合された原料液を用い、上記で説明したナノクリエータのプラズマ入力電力を7kW、捕集機温度を120℃に設定し、複合粒子を製造した。なお、この複合粒子の平均粒径は、137nmであった。
次に、複合粒子10gを純水500gで1時間、分散・撹拌し、その後、フェニルエトキシシランを4g添加して、さらに24時間、分散・撹拌を行った。次に、ろ過後の沈殿物を110℃で24時間乾燥し、乾燥後の凝集体を解砕して、その外表面に表面処理層を有する複合粒子を得た。
【0060】
このようにして得られた複合粒子を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に5重量%となるように、ビーズミル(淺田鉄工(株)製、Nano Grain Mill)を用いて分散させた。このとき、メディアとして、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。この分散液を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した固有粘度(IV)は3.4)の濃度6重量%のNMP溶液中に添加し、60℃で2時間、攪拌機の周速度が0.81m/sの条件で撹拌混合した(株式会社井上製作所製、トリミックスTX−50使用)。このとき、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドに対する複合粒子の配合量は、10重量%となるようにした。得られたドープを用い、孔数25ホールの紡糸口金から吐出し、エアギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出し凝固した後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度530℃下で10倍に延伸した後、巻き取ることにより複合粒子が良好に分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表1に示す。
【0061】
実施例2
複合粒子の含有量が5重量%となる以外は実施例1と同様の方法で複合粒子が良好に分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表1に示す。
【0062】
実施例3
複合粒子の含有量が20重量%となる以外は実施例1と同様の方法で複合粒子が良好に分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表1に示す。
【0063】
実施例4
分散液とコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの攪拌において攪拌機の周速度を0.54m/sとなる以外は、実施例1と同様の方法で複合粒子が良好に分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表1に示す。
【0064】
実施例5
分散液とコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの攪拌において攪拌機を栗本鐵工所製、KRCニーダー(S2)としの周速度を1.02m/sとなる以外は、実施例1と同様の方法で複合粒子が良好に分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表1に示す。
【0065】
実施例6
分散液とコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの攪拌において攪拌機を栗本鐵工所製、KRCニーダー(S2)としの周速度を0.75m/sとなる以外は、実施例1と同様の方法で複合粒子が分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表1に示す。
【0066】
比較例1
無機粒子未添加のコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの繊維を得た。得られた繊維に対し、評価を行った結果を表2に示す。
【0067】
比較例2
複合粒子の含有量が1重量%となる以外は、実施例1と同様の方法で複合粒子が良好に分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表2に示す。
【0068】
比較例3
複合粒子の含有量が30重量%となる以外は、実施例1と同様の方法で複合粒子が良好に分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表2に示す。
【0069】
比較例4
分散液とコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの攪拌において攪拌機の周速度を0.20m/sとなる以外は、実施例1と同様の方法で複合粒子が良好に分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表2に示す。
【0070】
比較例5
分散液とコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの攪拌において攪拌機を栗本鐵工所製、KRCニーダー(S2)としの周速度を0.42m/sとなる以外は、実施例1と同様の方法で複合粒子が分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表2に示す。
【0071】
比較例6
分散液とコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの攪拌において攪拌機を淺田鉄鋼製、プラネタリーミキサー(PVM−5)としの周速度を0.30m/sとなる以外は実施例1と同様の方法で複合粒子が分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、高温時の寸法安定性に優れ、溶接防護衣、炉前服、工場やガソリンスタンドなどの耐熱性防護服の用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族ポリアミドからなる繊維であって、分散粒子平均相当径が10〜200nmの無機粒子を、当該繊維中に5〜20重量%含有することを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
上記無機粒子が、二酸化チタンと二酸化ケイ素とを主成分とし、二酸化チタンからなる核と、その外面に形成された二酸化ケイ素の被覆層とを有する複合粒子である請求項1に記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
上記全芳香族ポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1または2記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
上記全芳香族ポリアミド繊維が、500℃乾熱収縮率が5%以下である請求項1〜3いずれかに記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
上記全芳香族ポリアミド繊維が、下式を満たす請求項1〜4いずれかに記載の全芳香族ポリアミド繊維。
T / To ≧ 0.7
但し、式中
T は無機粒子含有全芳香族ポリアミド繊維の引張り強度、Toは上記粒子を含有していないことを除き、その他は上記繊維と同一の繊維からなる比較繊維の引張り強度とする。
【請求項6】
上記全芳香族ポリアミド繊維が、延伸配向されてなる、請求項1〜5いずれかに記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項7】
上記無機粒子が、表面処理剤にて表面処理された請求項1〜6のいずれかに記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項8】
上記表面処理剤が、シラン系カップリング剤からなる請求項7に記載の全芳香族ポリアミド繊維。

【公開番号】特開2011−149121(P2011−149121A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10586(P2010−10586)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構「ナノ構造ファイバーを適用した遮熱、耐熱、快適性に優れる先進消防服の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【出願人】(000113355)ホソカワミクロン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】