説明

全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法、その方法によって製造された全芳香族液晶ポリエステル樹脂、及びその全芳香族液晶ポリエステル樹脂のコンパウンド

全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法、その方法によって製造された全芳香族液晶ポリエステル樹脂、及びその全芳香族液晶ポリエステル樹脂のコンパウンドに関する。その全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法は、単量体の縮重合による全芳香族液晶ポリエステル・プレポリマーの合成後、合成されたプレポリマーを含む反応器の内部を所定の減圧速度で減圧し、全芳香族液晶ポリエステル樹脂を合成する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法、その方法によって製造された全芳香族液晶ポリエステル樹脂、及びその全芳香族液晶ポリエステル樹脂のコンパウンドに関する。さらに詳細には、単量体の縮重合による全芳香族液晶ポリエステル・プレポリマーの合成後、その合成されたプレポリマーを含む反応器の内部を所定の減圧速度で減圧して全芳香族液晶ポリエステル樹脂を合成する段階を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法、その方法によって製造された全芳香族液晶ポリエステル樹脂、及びその全芳香族液晶ポリエステル樹脂のコンパウンドに関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、耐熱性に優れ、溶融時に流動性に優れ、精密射出成形材料として電子部品分野を中心に広く使われている。特に、寸法安定性と電気絶縁性とに優れ、電子材料用フィルム及び基板用素材として、その用途が拡大している。
【0003】
全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、縮重合によって製造される熱可塑性高分子の一種であり、合成時に縮重合反応が十分に進められず、樹脂中に未反応の単量体が残存する場合には、圧出による樹脂コンパウンドの製造時や射出による射出成形品の製造時、ガスが発生するあるいは射出成形品が炭化するという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一具現例は、単量体の縮重合による全芳香族液晶ポリエステル・プレポリマーの合成後、その合成されたプレポリマーを含む反応器の内部を所定の減圧速度で減圧して全芳香族液晶ポリエステル樹脂を合成する段階を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法を提供するものである。
【0005】
本発明の他の具現例は、前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法によって製造された全芳香族液晶ポリエステル樹脂を提供するものである。
【0006】
本発明のさらに他の具現例は、前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、少なくとも2種の単量体を縮重合することにより、全芳香族液晶ポリエステル・プレポリマーを合成する段階と、前記プレポリマーを含む反応器の内部を減圧して副産物及び未反応単量体を除去し、これによって、前記プレポリマーの縮重合をさらに進めて全芳香族液晶ポリエステル樹脂を合成する段階と、を含み、前記反応器内部の減圧速度は、前記反応器内部で反応器内容物の突沸現象が発生しないように、17〜20torr/minに調節された全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【0008】
前記反応器内部の減圧時、前記反応器の温度は350〜400℃であってもよい。
【0009】
前記反応器には、撹拌器が装着され、前記反応器内部の減圧維持時間は、前記撹拌器のトルク値によって調節される。
【0010】
前記反応器内部の減圧は、前記撹拌器のトルク値が5〜6N・mに達するときに解除される。
【0011】
本発明の他の側面は、前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法によって製造されたものであり、未反応単量体を含まない全芳香族液晶ポリエステル樹脂を提供する。本明細書で、「未反応単量体を含まない」ということは、未反応単量体を全く含まないということだけではなく、前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂で製造された樹脂コンパウンドの射出加工後、射出加工品の表面で炭化された痕跡が観察されないほどの、きわめて微量の未反応単量体を含むことも併せて意味する。
【0012】
本発明のさらに他の側面は、前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一具現例によれば、単量体の縮重合による全芳香族液晶ポリエステル・プレポリマーの合成後、前記合成されたプレポリマーを含む反応器の内部を所定の減圧速度で減圧して全芳香族液晶ポリエステル樹脂を合成する段階を含むことによって、副産物及び未反応単量体が十分に除去されて重合度が高まり、別途のプレポリマー重合段階が不要であり、圧出または射出のような後加工時のガス発生が減少し、射出成形時に射出成形品に炭化が起こらない全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法及び前記製造方法によって製造された全芳香族液晶ポリエステル樹脂が提供される。
【0014】
本発明の他の具現例によれば、前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一具現例による全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明の一具現例による全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法は、少なくとも2種の単量体を縮重合することにより、全芳香族液晶ポリエステル・プレポリマーを合成する段階、及び前記プレポリマーを含む反応器の内部を減圧して副産物及び未反応単量体を除去し、それによって、前記プレポリマーの縮重合をさらに進めて全芳香族液晶ポリエステル樹脂を合成する段階を含み、前記反応器内部の減圧速度は、前記反応器内部で反応器内容物の突沸現象が発生しないように、17〜20torr/minに調節される。前記減圧速度が17torr/min未満であるならば、前記反応器内容物に含まれた副産物及び未反応単量体が十分に除去されていない状態で縮重合反応が終了し、20torr/minを超えれば、前記反応器内容物に含まれた副産物及び未反応単量体が、前記反応器の外部に急激に流出し、前記反応器内容物の突沸現象が起き、重合度の低い全芳香族液晶ポリエステル樹脂が得られることになる。
【0017】
前記単量体は、芳香族ジオール、芳香族ジアミン及び芳香族ヒドロキシアミンからなる群から選択された少なくとも1種の化合物、及び芳香族ジカルボン酸を含んでもよい。また、前記単量体は、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/または芳香族アミノカルボン酸を追加して含んでもよい。
【0018】
前記縮重合法としては、溶液縮重合法、塊状縮重合法(bulk condensation polymerization)を使用してもよい。また、前記縮重合反応を促進させるために、アシル化剤(特に、アセチル化剤)のような化学物質で前処理されて反応性が上昇した単量体(すなわち、アシル化された単量体)を使用することができる。
【0019】
また、前記縮重合反応時に、反応促進のために金属触媒を使用することができる。このような金属触媒の例は、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、またはこのようなアルカリ金属の酸化物、水酸化物、塩化物などを含んでもよい。
【0020】
前記反応器内部の減圧は、反応器内容物中に含まれた酢酸などの副産物及び未反応単量体を除去するためである。すなわち、前記反応器内部の減圧によって副産物が除去されることにより、前記全芳香族液晶ポリエステル・プレポリマーの縮重合反応速度が速くなり、重合度が高い全芳香族液晶ポリエステル樹脂を得ることができ、固相縮重合のような別途のプレポリマー重合段階が不要になる。また併せて、前記反応器内部の減圧によって未反応単量体が除去されることにより、圧出または射出のような後加工時、前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂、または前記樹脂のコンパウンドに未反応単量体が残存する場合に生じる前記未反応単量体の昇華によるガス発生、または前記未反応単量体の炭化による炭化物の生成が抑制される。
【0021】
前記反応器内部の減圧は、真空ポンプによって行われる。具体的には、前記反応器の一側に、液体窒素などが充填された真空トラップを連結し、前記真空トラップの前記反応器と連結されていない部分に、前記真空ポンプを連結し、前記真空ポンプを所定の速度で作動させることによって、前記反応器内部を減圧させることができる。
【0022】
本明細書で、「突沸(bumping)現象」とは、液体が突然に爆発するように激烈に沸騰する現象を意味する。
【0023】
また、前記反応器内部の減圧時、前記反応器の温度は、350〜400℃であってもよい。前記反応器の温度が350℃未満の場合には、重縮合反応に必要な熱量が不十分で反応が進まず、未反応単量体が多量に存在する可能性がある。また、400℃を超えた場合には、反応器内部の重合体の劣化が生じる可能性がある。
【0024】
また、前記反応器には、トルク値測定が可能な撹拌器が装着され、前記反応器内部の減圧維持時間は、前記撹拌器のトルク値によって調節される。すなわち、全芳香族液晶ポリエステル樹脂の合成が進められ、その重合度が上昇するほど、前記樹脂の粘度が上昇し、前記撹拌器のトルク値が増大することになる。従って、前記重合度と粘度とトルク値との間には一定の相関関係が成立する。このような相関関係をあらかじめ把握し、所望する重合度に対応するトルク値に達する場合、前記撹拌器の作動を中断し、窒素のような不活性ガスを前記反応器内部に注入して前記反応器内部の減圧を解除した後、合成された全芳香族液晶ポリエステル樹脂を前記反応器の外部に排出させる。具体的には、前記反応器内部の減圧は、前記撹拌器のトルク値が5〜6N・mに達するときに解除される。前記トルク値が5N・mに達する以前に前記反応器内部の減圧を解除すれば、合成された全芳香族液晶ポリエステル樹脂に副産物及び未反応単量体が残留し、その重合度が低くなり、後加工時にガス発生などの問題が生じる可能性があるため望ましくなく、6N・mを超えた後に前記反応器内部の減圧を解除すれば、重合が過度に進み、反応器内部で重合体の固化が起きて排出が容易ではなくなる可能性があるため望ましくない。もし前記反応器内部の減圧時、前記反応器混合物に突沸現象が生じることになれば、前記撹拌器のトルク値が突然に上昇し、前記反応器内部の減圧を非正常的に解除させる場合がある。従って、その場合には、合成された全芳香族液晶ポリエステル樹脂の重合度が低くなるという問題点がある。
【0025】
前記のような構成を有する本発明の一具現例による全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法によって製造された全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、副産物及び未反応単量体を含有しないので、圧出時にガスを発生させない。
【0026】
また、前記製造された全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、多様な反復単位を鎖内に含み、例えば、次のような反復単位を含む:
(1)芳香族ジオールから由来する反復単位:
−O−Ar−O−
(2)芳香族ジアミンから由来する反復単位:
−HN−Ar−NH−
(3)芳香族ヒドロキシアミンから由来する反復単位:
−HN−Ar−O−
(4)芳香族ジカルボン酸から由来する反復単位:
−OC−Ar−CO−
(5)芳香族ヒドロキシカルボン酸から由来する反復単位:
−O−Ar−CO−
(6)芳香族アミノカルボン酸から由来する反復単位:
−HN−Ar−CO−
【0027】
前記化学式で、Arは、フェニレン、ビフェニレン、ナフタレンまたは2個のフェニレンが、炭素または炭素ではない元素と結合された芳香族化合物;またはフェニレン、ビフェニレン、ナフタレンまたは2個のフェニレンが、炭素または炭素ではない元素と結合された芳香族化合物において、1個以上の水素が、他の元素で置換された芳香族化合物であってもよい。
【0028】
また、本発明の他の具現例は、前述の全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの製造方法を提供する。
【0029】
具体的には、前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの製造方法は、少なくとも2種の単量体を縮重合することにより、全芳香族液晶ポリエステル・プレポリマーを合成する段階、前記プレポリマーを含む反応器の内部を、17〜20torr/minの速度で減圧し、副産物及び未反応単量体を除去し、これによって、前記プレポリマーの縮重合をさらに進め、全芳香族液晶ポリエステル樹脂を合成する段階、及び前記合成された全芳香族液晶ポリエステル樹脂と添加剤を所定比率で混合して溶融混練し、全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドを製造する段階を含む。
【0030】
前記添加剤は、無機充填剤及び/または有機充填剤を含んでもよい。前記無機充填剤は、ガラスファイバ、滑石、炭酸カルシウム、雲母、粘土またはそれらのうち2以上の混合物を含み、前記有機充填剤は、炭素ファイバを含んでもよい。前記無機充填剤と有機充填剤は、前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの射出成形時、射出成形品の機械的強度を向上させる役割を行う。
【0031】
前記溶融混練のために、回分式混練器、二軸圧出器またはミキシングロールなどが使われもする。また、円滑な溶融混練のために、溶融混練時、滑剤を使用することができる。
【0032】
前記のような構成を有する本発明の一具現例による全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの製造方法によって製造された全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドは、未反応単量体を実質的に含有しないので、射出成形時にガスを発生させず、炭化物を生成させない。
【0033】
以下、実施例を挙げ、発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
実施例1
(1)全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造
トルク値測定が可能な撹拌器が装着されており、真空トラップ及び真空ポンプが順に連結されており、温度調節の可能な10リットル容量の回分式反応器に、4−ヒドロキシベンゾ酸1,416g(10.25モル)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸195g(1.04モル)、4,4−ジヒドロキシジフェニル381g(2.05モル)、1,4−ベンゼンジカルボン酸482g(2.90モル)、p−アミノフェノール93g(0.85モル)、無水酢酸(acetic anhydride)1,850g(18.12モル)、及び触媒として酢酸カルシウム0.154g(単量体総量対比でカルシウムイオンが60wtppm)を投入し、前記反応器内部に窒素ガスを注入し、前記反応器の内部空間を不活性状態にした後、撹拌器で反応器内容物を撹拌しつつ、反応器温度を30分かけて150℃まで昇温させた後、その温度で2時間維持させ、前記単量体のアルコール基をアセチル化させた。次に、前記アセチル化反応で、副産物として生成された酢酸を凝縮させて除去しつつ、反応器温度を1℃/minの速度で300℃まで昇温させることにより、前記単量体の縮重合反応を進め、全芳香族液晶ポリエステル・プレポリマーを製造した。また、前記プレポリマー製造時に、副産物として酢酸が追加して生成されるが、この酢酸も、前記アセチル化反応で生成された酢酸と共に、前記プレポリマー製造の間連続して除去した。次に、真空ポンプを作動させ、前記反応器内部の圧力を17torr/minの速度で5torrまで減圧した後、この圧力(5torr)を維持し、前記撹拌器のトルク値が6N・mに達したとき、前記真空ポンプの動作を止め、前記反応器内部に窒素ガスを注入して減圧状態を解除させた。このとき、前記反応器の内部圧力が5torrに達してから、減圧が解除されるまで維持された時間は、20分だった。結果として、全芳香族液晶ポリエステル樹脂が得られた。次に、前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂を反応器から回収して冷却固化させた。
【0035】
(2)全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの製造
前記(1)で製造した全芳香族液晶ポリエステル樹脂及びガラスファイバ(直径が10μmであり、平均長が150μmである粉砕ガラスファイバ)を、重量基準で6:4の比率で混合し、二軸圧出器(L/D:40、直径:20mm)を使用して溶融混練することにより、全芳香族液晶ポリエステル樹脂のコンパウンドを製造した。前記樹脂コンパウンドの製造時、前記二軸圧出器に真空を加えて副産物を除去した。
【0036】
実施例2
前記反応器内部の減圧速度を20torr/minに変更したことを除いては、前記実施例1と同じ方法で全芳香族液晶ポリエステル樹脂及び前記樹脂のコンパウンドを製造した。このとき、前記反応器の内部圧力が5torrに達してから、減圧が解除されるまで維持された時間は22分であった。
【0037】
比較例1
前記反応器内部の減圧速度を、10torr/minに変更したことを除いては、前記実施例1と同じ方法で全芳香族液晶ポリエステル樹脂及び前記樹脂のコンパウンドを製造した。このとき、前記反応器の内部圧力が20torrに達したとき、前記撹拌器のトルク値が6N・mに達して減圧が解除された。
【0038】
比較例2
前記反応器内部の減圧速度を30torr/minに変更したことを除いては、前記実施例1と同じ方法で全芳香族液晶ポリエステル樹脂及び前記樹脂のコンパウンドを製造した。このとき、前記反応器の内部圧力が5torrに達してから減圧が解除されるまで維持された時間は13分であった。
【0039】
評価例
(反応器内部の減圧時における突沸現象発生の有無の観察)
前記実施例1,2及び比較例1,2で製造したそれぞれの全芳香族液晶ポリエステル樹脂を、反応器から完全に排出させた後、前記反応器を開放し、前記反応器内部で減圧時に突沸現象が発生したか否かを観察し、下記表1に示した。突沸現象が発生した場合は○で、突沸現象が発生していない場合は×で表示した。具体的には、前記撹拌器の下端部だけではなく、上端部まで反応器内容物が付いていれば、突沸現象が発生したと判断し、反応器内容物に浸されている撹拌器の下端部にのみ前記反応器内容物が付いていれば、突沸現象が発生していないと判断した。
【0040】
(溶融粘度の測定)
実施例1,2及び比較例1,2で製造したそれぞれの全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドに対して毛細管粘度計を使用し、380℃及び1,000/sの条件下で溶融粘度を測定し、下記表1に示した。
【0041】
(引張強度の測定)
実施例1,2及び比較例1,2で製造した各全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの引張強度をASTMD638によって測定し、下記表1に示した。
【0042】
(荷重たわみ温度の測定)
実施例1,2及び比較例1,2で製造した各全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの荷重たわみ温度(HDT:heat distortion temperature)をASTM D648によって測定し、下記表1に示した。
【0043】
(樹脂コンパウンドの射出時のガス発生の有無、及び射出成形品の炭化の有無の観察)
実施例1,2及び比較例1,2で製造したそれぞれの全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの引張強度及び荷重たわみ温度を測定するために、ASTMD638及びD648によって、前記各樹脂コンパウンドを射出成形機(FANUC ROBOSHOT2000i−50B)で射出し、それぞれの試験片を製作するとき、前記試験片の製作過程で、ガスが発生したか否か、及び前記製作された試験片(すなわち、射出成形品)が炭化されたか否かを肉眼で観察し、下記表1に示した。ガスが発生した場合は○で、発生していない場合は×で表示した。また、各試験片が炭化された場合は○で、炭化されていない場合は×で表示した。
【0044】
【表1】

【0045】
前記表1を参照すれば、実施例1,2で、全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造過程において、反応器内部の減圧時に突沸現象が発生しておらず、製造された樹脂コンパウンドの溶融粘度、引張強度及び荷重たわみ温度も、いずれも高くなり、樹脂コンパウンドの射出時にガスが発生しておらず、射出成形品の炭化も起こっていない。このような結果は、前記減圧時に、反応器内容物から副産物及び未反応単量体が十分に除去された状態で、縮重合反応が十分に進められ、重合度の高い全芳香族液晶ポリエステル樹脂が得られたためであると見られる。
【0046】
比較例1では、全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造過程において、反応器内部の減圧時に突沸現象が発生しなかったが、製造された樹脂コンパウンドの溶融粘度、引張強度及び荷重たわみ温度も、前記実施例1,2で製造された樹脂コンパウンドよりいずれも低くなり、樹脂コンパウンドの射出時にガスが発生し、射出成形品の炭化も起こっている。このような結果は、前記減圧が過度に遅い速度で進められ、反応器内容物から副産物及び未反応単量体が十分に除去されていない状態で縮重合反応が終了し、これにより製造された全芳香族液晶ポリエステル樹脂の重合度も低くなったためであると見られる。
【0047】
比較例2では、全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造過程において、反応器内部の減圧時に突沸現象が発生し、製造された樹脂コンパウンドの溶融粘度、引張強度及び荷重たわみ温度も、前記実施例1,2及び比較例1で製造された樹脂コンパウンドよりいずれも低くなり、樹脂コンパウンドの射出時にガスが発生し、射出成形品の炭化も起こっている。このような結果は、前記減圧が過度に速い速度で進められ、反応器内部で突沸現象が発生し、反応器内容物から副産物及び未反応単量体が十分に除去されず、縮重合が十分に進んでいない状態で縮重合反応が終了し、これにより製造された全芳香族液晶ポリエステル樹脂の重合度も低くなったためであると見られる。
【0048】
本発明は、実施例を参考にして説明したが、それらは例示的なものに過ぎず、本技術分野の当業者であるならば、それらから多様な変形及び均等な他の具現例が可能であるという点を理解することが可能であろう。従って、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決まるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種の単量体を縮重合することにより、全芳香族液晶ポリエステル・プレポリマーを合成する段階と、
前記プレポリマーを含む反応器の内部を減圧して副産物及び未反応単量体を除去し、これによって前記プレポリマーの縮重合をさらに進めて全芳香族液晶ポリエステル樹脂を合成する段階とを含み、
前記反応器内部の減圧速度は、17〜20torr/minである全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記反応器内部の減圧時、前記反応器の温度は350〜400℃である請求項1に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記反応器には撹拌器が装着され、前記反応器内部の減圧維持時間は、前記撹拌器のトルク値によって調節される請求項1に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記反応器内部の減圧は、前記撹拌器のトルク値が5〜6N・mに達するときに解除される請求項3に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂の製造方法によって製造されたものであり、未反応単量体を含まない全芳香族液晶ポリエステル樹脂。
【請求項6】
請求項5に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド。

【公表番号】特表2013−517347(P2013−517347A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548882(P2012−548882)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【国際出願番号】PCT/KR2011/000202
【国際公開番号】WO2011/087263
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(500323513)三星精密化学株式会社 (22)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG FINE CHEMICALS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】190 YEOCHEON−DONG, NAM−GU, ULSAN−CITY 680−090, REPUBLIC OF KOREA
【Fターム(参考)】