全血コリンの測定方法
【課題】全血中のコリンの測定方法及び測定用組成物を提供する。
【解決手段】コリンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び酸化発色剤を用いた全血中のコリンの測定方法であって、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程を含む方法。
【解決手段】コリンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び酸化発色剤を用いた全血中のコリンの測定方法であって、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全血中のコリンを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学検査では、通常、採取した全血から血球を除去し、血漿又は血清として試料とする。その理由として、(1)血球や血球成分による、特にヘモグロビンによる吸光が、光学系へ影響することを避けるため、(2)血球成分や血球細胞膜成分の、装置への非特異的な吸着や凝集による測定誤差を避けるため、(3)分析試薬の反応、例えば化学反応、酵素反応、免疫反応等が、血球成分により阻害されることを避けるため、等が挙げられる。すなわち、試料中に成分がより多く存在するほど、それらの干渉により、試料中の測定対象物質の特異的分析はより困難になるからである。
【0003】
通常、血球除去は遠心分離操作による。この操作には遠心分離機が必要で時間がかかり不便であるため、血球を除去しない全血をそのまま試料として測定する方法が既にいくつか提案されている。そのような測定方法は、(I)血球や血球成分が分析試薬に混入しない工夫を施す、(II)血球や血球成分の影響を受けないように分析試薬に工夫を施す、という2つの方法に大別される。
【0004】
(I)の方法には、(i)専用の装置や膜を用いて全血から血球を除く方法、(ii)血球の破壊を防ぐ工夫を分析試薬等に施し血球成分の分析への介入を回避する方法、等がある。
【0005】
(II)の方法には、(i)抗体を使用する方法(特許文献1)、(ii)血球成分である内因性アルカリフォスファターゼに特異的な阻害剤を用いる方法(特許文献2)、等がある。
【0006】
ところで、生化学検査の代表的な検査項目である、クレアチニン、尿酸、グルコース、コレステロール、中性脂肪、ヘモグロビンA1c、リン脂質等は、各々の測定対象物質に特異的な酸化酵素を用いて、過酸化水素を経由する測定方法、いわゆる酵素法で測定されることが多い。この測定方法において、全血をそのまま試料として測定すると、血球成分中の還元物質による誤差が発生することが知られている。従って、上記(II)の方法において、特に、血球や血球成分の影響を受けずに過酸化水素を検出するための測定方法及び測定用試薬への需要は高い。特許文献3は、溶血させた全血を用いる血中成分の測定方法及びそのキットであって、血球成分の影響を回避するために界面活性剤を使用することを含む、過酸化水素を検出(経由)する測定方法及びそのキットを開示する。
【0007】
上記の過酸化水素を経由する測定方法は、試料中の還元性物質が過酸化水素を還元するため、還元性物質の影響を受けやすい。全血と比べると微量ではあるが、血清や血漿にも還元性物質が存在し、この影響を回避する方法として、ホルマザン、イミダゾール、界面活性剤、スルホン酸化合物、ニトロ化合物等を用いる方法が提案されている(特許文献4〜6)。
【0008】
一方、全血中のコリンは、急性冠症候群等のバイオマーカーとして期待されている。非特許文献1は、全血中のコリンの測定方法として、LC/MSを用いた測定方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−180439
【特許文献2】特開2005−188987
【特許文献3】WO2010/010881
【特許文献4】WO2002/086151
【特許文献5】特開2007−147630
【特許文献6】WO2003/104815
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Clinica Chimica Acta、 383巻、 2007年、 103−109頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
血球を除去しない全血をそのまま試料として測定する際、上記(I)の、血球や血球成分が分析試薬に混入しない工夫を施す測定方法では、(a)血球は、採血時にも破壊される場合があるので、信頼できる測定結果を得るためには、試料や装置の適切な取り扱いが必須である、(b)採血時に血球が破壊した(溶血した)検体には対応できない、(c)血球成分を測定対象物質とすることができない、という問題がある。また、上記(II)の、血球や血球成分の影響を受けないように分析試薬に工夫を施す測定方法については、(i)の方法は、対象とする血球成分の種類だけ抗体が必要なので不経済であり、(ii)の方法は、アルカリフォスファターゼを分析試薬として用いる場合にのみ有効な方法である。
【0012】
全血中の測定対象物質を、過酸化水素を検出(経由)して測定する特許文献3の方法では、血球成分の影響を完全に除外できないために測定値の換算(計算式による補正)が必要である。例えば、全血中のコリンの測定方法として、全血中のコリンにコリンオキシダーゼ(COD)を作用させ、生じた過酸化水素を検出(経由)する測定方法を採用する場合、血球成分中の還元性物質(ヘモグロビンや還元型グルタチオン等)による測定誤差等が発生し、正確な測定ができないことが判明した。還元性物質による影響を回避するために、特許文献4〜6に記載の、血清や血漿中の微量還元性物質の影響を回避するための各化合物を検討したが、いずれの化合物も全血に存在する高濃度の還元性物質の影響回避には不十分な場合があった。また、特許文献1に記載されるような、LC/MSを用いたコリンの測定方法は、用いる測定機器が高額等の理由から、多数の試料中のコリンを同時に安価に測定するためには不向きであった。全血中のコリンは微量(数μM〜数十μM)であり、高感度の検出試薬も必要とされていた。
【0013】
従って、本発明が解決しようとする課題は、全血を試料として、全血中のコリンの濃度を過酸化水素経由で測定する方法において、血球や血球成分の影響を回避し、正確に全血中のコリンを測定することが出来る測定方法及び測定用組成物等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、まず、全血に存在する高濃度の還元性物質の影響回避のために、各種酸化剤の使用を検討し、ヨウ素酸カリウムにある程度効果があることを見出したが、全血に対して標準物質のコリンを添加して測定し、算出した添加回収率は最大52.8%だった。
【0015】
本発明者らはさらに検討を続けた結果、ヨウ素酸カリウムと同時に、還元剤として知られている塩酸ヒドロキシルアミンを使用することにより、意外にも高濃度の還元性物質の影響をさらに効果的に回避することができることを見出し、上記の添加回収率を最大80.3%にまで上げることに成功した。さらに本発明者らは、陽イオン界面活性剤も同時に使用することで、上記の添加回収率を最大90%以上にまで上げることに成功した。
【0016】
そして本発明者らは、これらの知見に基づき、汎用の自動分析機に適応可能な簡便な全血中のコリンの測定方法及びその測定用組成物等を創出して本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
〔1〕コリンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、及び酸化発色剤を用いて全血中のコリンの測定方法であって、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程を含むことを特徴とする該方法。
〔1−2〕全血中のコリンの測定方法であって、
溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程;
コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程;及び
過酸化水素の濃度を測定する工程;
を含む測定方法。
〔1−3〕前記反応させる工程が、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウムと、塩酸ヒドロキシルアミンとを共存させて反応させる工程である、前記〔1〕又は〔1−2〕に記載の測定方法。
〔1−4〕全血中のコリンの測定方法であって、
前記反応させる工程が、溶血させた全血中の還元性物質を、ヒドロキシルアミン又はその塩を含む溶液中で、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムにより酸化する工程である、前記〔1〕又は〔1−2〕に記載の測定方法。
を含む測定方法。
〔1−5〕前記反応させる工程が、溶血させた全血中の還元性物質を、塩酸ヒドロキシルアミンを含む溶液中で、ヨウ素酸カリウムにより酸化する工程である、前記〔1〕又は〔1−2〕に記載の測定方法。
〔1−6〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が33μmol/L以上であり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45mmol/L以上である、前記〔1〕〜〔1−5〕のいずれかに記載の測定方法。
〔1−7〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が33〜142μmol/Lであり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lである、前記〔1〕〜〔1−5〕のいずれかに記載の測定方法。
〔1−8〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が63〜92μmol/Lであり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lである、前記〔1〕〜〔1−5〕のいずれかに記載の測定方法。
〔1−9〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が63〜92μmol/Lであり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lであり、溶液に対する全血の希釈率が0.20〜2.45%である、前記〔1〕〜〔1−5〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2〕前記反応させる工程が、さらに陽イオン界面活性剤を共存させて反応させる工程である前記〔1〕〜〔1−9〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2−2〕前記反応させる工程が、溶血させた全血中の還元性物質を、ヒドロキシルアミン又はその塩と陽イオン界面活性剤とを含む溶液中で、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムにより酸化する工程である、前記〔1〕〜〔1−9〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2−3〕前記反応させる工程が、溶血させた全血中の還元性物質を、塩酸ヒドロキシルアミン及び陽イオン界面活性剤を含む溶液中で、ヨウ素酸カリウムにより酸化する工程である、前記〔1〕〜〔1−9〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2−4〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が63μmol/L以上であり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45mmol/L以上であり、陽イオン界面活性剤の濃度が0.031w/v%以上である、前記〔2〕〜〔2−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2−5〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が63〜92μmol/Lであり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lであり、陽イオン界面活性剤の濃度が0.031〜0.045w/v%である、前記〔2〕〜〔2−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2−6〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が63〜92μmol/Lであり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lであり、陽イオン界面活性剤の濃度が0.031〜0.045w/v%であり、溶液に対する全血の希釈率が0.20〜2.45%である、前記〔2〕〜〔2−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔3〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が33〜142μmol/Lである、前記〔1〕〜〔2−6〕のいずれかに記載の測定方法。
〔3−2〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が33〜142μmol/Lであり、溶液に対する全血の希釈率が0.20〜2.45%である、前記〔1〕〜〔2−6〕のいずれかに記載の測定方法。
〔4〕前記反応させる工程における溶液中のヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45mmol/L以上である、前記〔1〕〜〔3−2〕のいずれかに記載の測定方法。
〔4−2〕前記反応させる工程における溶液中のヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lである、前記〔1〕〜〔3−2〕のいずれかに記載の測定方法。
〔4−3〕前記反応させる工程における溶液中のヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lであり、溶液に対する全血の希釈率が0.20〜2.45%である、前記〔1〕〜〔3−2〕のいずれかに記載の測定方法。
〔5〕前記反応させる工程における溶液中の陽イオン界面活性剤の濃度が0.031w/v%以上である、前記〔2〕〜〔4−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔5−2〕前記反応させる工程における溶液中の陽イオン界面活性剤の濃度が0.027〜0.045w/v%である、前記〔2〕〜〔4−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔5−3〕前記反応させる工程における溶液中の陽イオン界面活性剤の濃度が0.027〜0.045w/v%であり、溶液に対する全血の希釈率が0.20〜2.45%である、前記〔2〕〜〔4−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔5−4〕前記陽イオン界面活性剤がヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドである、前記〔2〕〜〔5−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔6〕以下の工程(a)〜(e)を含む、全血中のコリンの測定方法;
(a)全血を溶血させる工程;
(b)溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程;
(c)工程(b)の溶液のpHを中性付近に調整する工程;
(d)コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程;、
(e)工程(d)で生成した過酸化水素の濃度を測定する工程。
〔6−2〕工程(b)が、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウムと、塩酸ヒドロキシルアミンとを共存させて反応させる工程である、前記〔6〕に記載の方法。
〔6−3〕工程(b)が、溶血させた全血中の還元性物質を、ヒドロキシルアミン又はその塩を含む溶液中で、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムにより酸化する工程である、前記〔6〕に記載の方法。
〔6−4〕工程(b)が、溶血させた全血中の還元性物質を、塩酸ヒドロキシルアミンを含む溶液中で、ヨウ素酸カリウムにより酸化する工程である、前記〔6〕に記載の方法。
〔6−5〕工程(b)の溶液が、さらに陽イオン界面活性剤を含む、前記〔6〕〜〔6−4〕のいずれかに記載の測定方法。
〔6−6〕工程(c)が、工程(b)の溶液のpHをpH6.5〜8.5に調整する工程である、前記〔6〕〜〔6−5〕のいずれかに記載の測定方法。
〔7〕前記〔1〕〜〔6−6〕のいずれかに記載の前血中のコリンの測定方法を用いる、急性心筋梗塞、安定狭心症又は非Q波(心内膜下)心筋梗塞の検査方法。
〔8〕以下の(1)〜(4)に記載の組成物を含む、全血中のコリンの測定用キット;
(1)ヒドロキシルアミン又はその塩を含有する組成物、
(2)ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムを含有する酸性の組成物、
(3)酸化発色剤を含有する中性付近の組成物、及び
(4)コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含有する組成物。
〔8−2〕以下の(1)、(2)及び(3’)に記載の組成物を含む、全血中のコリンの測定用キット;
(1)ヒドロキシルアミン又はその塩を含有する組成物、
(2)ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムを含有する酸性の組成物、及び
(3’)酸化発色剤、コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含有するpH6〜8.7の組成物。
〔8−3〕組成物(1)が塩酸ヒドロキシルアミンを含有する組成物であり、組成物(2)がヨウ素酸カリウムを含有する酸性の組成物である、前記〔8〕又は〔8−2〕に記載のキット。
〔8−4〕組成物(2)がさらに陽イオン界面活性剤を含有する、前記〔8〕〜〔8−3〕のいずれかに記載のキット。
〔8−5〕組成物(2)がpH3〜5の組成物である、前記〔8〕〜〔8−4〕のいずれかに記載のキット。
〔8−6〕組成物(3)がpH6.5〜8.5の組成物である、前記〔8〕及び〔8−3〕〜〔8−5〕のいずれかに記載のキット。
なお、上記の記載において、「前記〔1〕〜〔1−7〕」のように引用する項番号が範囲で示され、その範囲内に〔1−2〕等の枝番号を有する項が配置されている場合には、〔1−2〕等の枝番号を有する項も引用されることを意味する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、酵素法によって全血中に存在するコリンをより正確に測定する方法を提供することができる。また、そのような測定を行うための測定用組成物等も提供することができる。これらの測定方法及び測定用組成物等は、各種疾患の診断等にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の全血中のコリン測定方法の測定原理の一例を示す図である。
【図2】実施例3の試薬組成で、0.033、0.082、0.163及び0.326mmol/Lの各DA−67濃度で、試薬ブランクと100μmol/Lコリン溶液の吸光度を2重測定した平均値を示す。
【図3】実施例4の試薬組成で、主波長660nmに対して副波長700、750又は800nmの各波長を組み合わせ、試薬ブランクと100μmol/Lコリンの吸光度を2重測定した平均値を示す。
【図4】実施例5の試薬組成で、溶血させた全血と混合する際のヨウ素酸カリウム濃度が、0、49、98及び196mmol/Lの各濃度の場合の50μmol/Lコリンの添加回収率(%)を示す。
【図5】実施例6の試薬組成で、溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際のヨウ素酸カリウム濃度が45又は90mmol/Lの場合に、8つの異なる濃度の塩酸ヒドロキシルアミンを使用したときの、50μmol/Lコリンの添加回収率(%)を示す。
【図6】実施例7の試薬組成で、溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド濃度が、0、0.023、0.034及び0.045%の場合の50μmol/Lコリンの添加回収率(%)を示す。
【図7】実施例8の試薬組成で、溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際、90mmol/Lのヨウ素酸カリウム濃度に対して、8つの異なる濃度の塩酸ヒドロキシルアミンを使用したときの、50μmol/Lコリンの添加回収率(%)を示す。
【図8】実施例9の試薬組成で、5.0〜100.0μmol/Lのコリン溶液を測定して得た希釈直線性を示す。
【図9】実施例10において、±3SD法で最小検出感度(n=3)を求めるために、1.0〜10.0μmol/Lのコリン溶液を測定した結果を示す。
【図10】実施例14において、表4に示すa〜eの各検体を2重測定した平均値を示す。
【図11】実施例15において、表5に示す各干渉物質存在下で測定したコリン濃度を、対照の生理食塩水中での測定値を100%としたときの誤差%として示す。
【図12】実施例16における健常者の全血中のコリン濃度測定結果の分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について、具体的に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施の形態は、一態様において、コリンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び酸化発色剤を用いた全血中のコリンの測定方法であって、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程を含むことを特徴とする測定方法である。
本実施の形態は、一態様において、以下の工程(a)〜(e)を含む、全血中のコリンの測定方法に関する;
(a)全血を溶血させる工程(溶血工程);
(b)溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、及びヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程(反応工程);
(c)工程(b)の溶液のpHを中性付近に調整する工程(pH調整工程);
(d)コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程(過酸化水素生成工程);及び
(e)工程(d)で生成した過酸化水素の濃度を測定する工程(測定工程)。
【0021】
本実施の形態において、コリン(Choline、Cholin)とは、化学式(CH3)3N+CH2CH2OHで表される化合物であり、公知のコリン及びその塩を含む。塩化コリンなどで例示されるような塩である場合、対イオンによって限定されないが、全血などの生体中に通常存在する対イオンが望ましい。コリンは、細胞膜の構成成分であり、全血中に通常含まれていると予想される。本実施の形態の測定方法の測定対象は、全血中の遊離コリンである。
【0022】
本実施の形態において、「全血」とは、血球を分離していない血液である。本実施の形態の全血には、意図して溶血させた、又は意図せずに溶血した血球成分が含まれていてもよい。本実施の形態の全血は、採血管に含まれるエチレンジアミン四酢酸二カリウム塩又は二ナトリウム塩、ヘパリン、フッ化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、モノヨード酢酸等の抗凝固剤や解糖阻止剤を含んでもよく、採血の際に汎用されるという観点からエチレンジアミン四酢酸やヘパリン採血管で採血した全血が好ましい。採血管を使用せず、自己血糖測定等に用いられる穿刺器具等により採血した全血でもよい。穿刺部位は全血が得られる限り特に制限されないが、通常は指先、前腕、上腕、腹壁等であり、健康診断の場合は通常前腕である。採血量は、全血中のコリンを測定できる限り限定されず、使用する採血管の採血量(通常は概ね10mL以下)に合わせればよい。採血管を使用しない場合はそれ以上の採血が可能であるし、穿刺器具等を使用する場合は通常採血量は0.2mL以下である。
【0023】
本実施の形態の測定方法で測定するコリンは、通常は全血中に存在する。全血を比重、分離方法等によって、または成分の機能によって、例えば赤血球、白血球、血漿、血清等に区別する場合は、その全てに存在し得る。従って、本実施の形態の測定方法によれば、血液中の種々の成分、特に、赤血球由来の成分の存在下でも、全血中のコリンを測定することができるため、測定に使用する全血は赤血球中の成分が混在していてもよく、溶血した全血であってもよい。溶血した全血を測定に用いることにより、赤血球中に存在するコリンも測定することができる。
【0024】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法における全血は、コリンを含有すると予想される全血であってもよい。コリンが全血中に含まれているかの判断を、本実施の形態の測定方法を実施する前に行ってもよく、その際、例えば、LC/MS/MS等の従来技術の方法により判断してもよいし、本実施の形態の測定方法を用いて判断してもよい。
【0025】
本実施の形態の測定方法で測定するコリンが存在する全血の由来は限定しないが、例えば実験動物由来の場合はサル、イヌ、ミニブタ、ラット、マウス、モルモット、ウサギ等由来の全血が例示され、後述する疾患のモデル動物由来の全血であることが好ましい。本実施の形態の測定方法をヒトにおける各種疾患の検査に用いる場合、ヒト由来の全血が測定対象として好ましい。
【0026】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法において、全血は希釈してもよい。全血を希釈するとは、全血を全血以外の溶液(希釈液)と混合することを指し、例えば精製水、塩化ナトリウムを含む水溶液、後述の実施例で用いる組成物(試薬(R−1)、(R−2)、(DIL))を希釈液として用いてもよく、通常は精製水や塩化ナトリウムを用いる。全血の希釈は、以下に詳述する(a)溶血工程や、(b)反応工程の前、後又はいずれかの工程と同時に行ってもよいが、(a)溶血工程及び(b)反応工程の前に行うことが好ましい。一態様において、希釈液の種類によっては(a)溶血工程と同時に全血の希釈を行うことが好ましい。
【0027】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法に使用する全血(検体量)は使用する機器等によっても異なるが、例えば後述の実施例に示した手法に準じて測定を行う場合、1〜40μL程度、好ましくは2〜25μL程度である。全血を希釈する場合は、希釈液にて1.1〜100倍、好ましくは2〜50倍程度に全血を希釈する。全血を希釈した場合も、使用する希釈した全血は1〜40μL程度、好ましくは2〜25μL程度である。
【0028】
一態様において、本実施の形態の全血中のコリンの測定方法は、(a)全血を溶血させる工程(溶血工程)を含む。「全血を溶血させる」とは、全血中の赤血球や白血球を溶解すること、すなわち血球の細胞膜を破壊することを指し、例えば界面活性剤を含む溶液、サポニン類溶液又は低張液等の溶血剤と混合する方法により行ってもよいし、凍結融解、超音波処理、加圧処理などの物理的処理を含む方法により行ってもよい。好ましくは、本実施の形態の(a)溶血工程は、界面活性剤を含む溶液と混合することにより行う。界面活性剤はタンパク質変性作用があるため、溶血効果と同時にヘモグロビン変性が起こり、吸光光度法を利用してコリン濃度の測定を行う場合、吸光度の安定化効果も得ることができる。溶血の有無は、顕微鏡を用いて、全血中に公知の形状の赤血球が存在するかを観察することで確認することができる。好ましくは、(a)溶血工程は、顕微鏡にてほぼ全ての赤血球が観察されない程度にまで溶血させる。
【0029】
(a)溶血工程において界面活性剤を用いる場合、該界面活性剤は、全血中のコリン測定に影響せずに全血を溶血することができる限り限定されず、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれを用いてもよいが、酵素を共存させる場合は酵素が不安定化しにくいという観点から非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。非イオン性界面活性剤は1種を単独で用いることが好ましいが、複数種を同時に用いることもできる。
【0030】
(a)溶血工程において非イオン性界面活性剤を用いる場合、溶血効果を高めるという観点から、該非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられるが、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルにおけるアルキル基としては、オクチルやノニル等C7〜C10のアルキル基が好ましく、例えばノニオンHS210(日本油脂株式会社)、ノニルフェニルエーテル(和光純薬工業株式会社)、TritonX−100(和光純薬工業株式会社)、エマルゲン920(花王株式会社)等が挙げられ、特にTritonX−100が好ましい。その他の非イオン界面活性剤としては、オクチルグルコシド、ヘプチルチオグルコシド、デカノイル−N−メチルグルカミド、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプタメチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトールエステル等が挙げられる。
【0031】
(a)溶血工程において陽イオン界面活性剤を用いる場合、該陽イオン界面活性剤については後述の(b)反応工程において用いることができる陽イオン界面活性剤と同様のものを用いることができる。
【0032】
(a)溶血工程において陰イオン界面活性剤を用いる場合、該陰イオン界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシル−N−サルコシン酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム等が挙げられる。
【0033】
(a)溶血工程において両性界面活性剤を用いる場合、該両性界面活性剤としては、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸、パルミトイルリゾレシチン、ドデシル−N−ベタイン、ドデシル−β−アラニン等が挙げられる。
【0034】
(a)溶血工程において界面活性剤を使用する場合、その濃度は、全血中のコリンの測定に影響せず、全血を溶血することができる濃度であれば特に限定されず、溶血時の濃度の下限は0.0001(w/v)%以上であり、好ましくは0.001(w/v)%以上であり、更に好ましくは0.01(w/v)%以上である。上限は10(w/v)%以下であり、好ましくは5(w/v)%以下であり、更に好ましくは2(w/v)%以下である。複数の界面活性剤を用いる場合、好ましい界面活性剤濃度は変動することがあるが、通常はそれぞれについて上記の範囲である。
【0035】
(a)溶血工程には所望によりpH緩衝剤を用いることができる。pH緩衝剤を用いる場合、該pH緩衝剤は、全血中のコリン測定に影響せず、全血を溶血することができれば限定されない。(a)溶血工程と後述の(b)反応工程を同時に行う場合は、後述の(b)反応工程と同様の条件のpH緩衝剤の使用が好ましい。
【0036】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法は、(b)溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程(反応工程)を含む。この反応工程は、本実施の形態の全血中のコリンの測定方法において、全血中のコリンから過酸化水素を生成して測定する際の誤差を回避するために、測定に先立って行われる工程である。
【0037】
好ましい一態様において、上記の(b)反応工程は、溶血させた全血中の還元性物質を、ヒドロキシルアミン又はその塩を含む溶液中で、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムにより酸化する工程(酸化工程)である。血球中には種々の還元性物質が存在しており、還元性物質は、過酸化水素を還元する作用を有する。したがって、本実施の形態の全血中のコリンの測定方法において、コリンから過酸化水素を生成し、過酸化水素の濃度を測定する際、測定値に負誤差が生じる原因となる。この誤差を回避すべく、測定に先立って、溶血させた全血中の還元性物質をヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムによって酸化することができる。
【0038】
(b)反応工程で用いるヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムは、好ましくはヨウ素酸カリウムである。ヨウ素酸カリウム(Potassium Iodate)は、公知のヨウ素酸カリウムを含み、化学式KIO3で表される。また、ヨウ素酸ナトリウム(Sodium Iodate)は、公知のヨウ素酸ナトリウムを含み、化学式NaIO3で表される。(b)反応工程における溶液中のヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度は、コリンの測定値に対する全血中の還元性物質の影響を実質的に回避することができる限り特に限定されないが、下限としては10mmol/L以上が例示され、30mmol/L以上が好ましく、45mmol/L以上がより好ましく、50mmol/L以上がさらに好ましい。上限としては200mmol/L以下が例示され、150mmol/L以下が好ましく、90mmol/L以下がより好ましく、80mmol/L以下がさらに好ましい。
【0039】
なお、還元性物質の影響を「実質的に回避する」とは、本実施の形態において、全血中のコリンの測定値に実質的に影響を与えない程度に還元性物質の影響を回避することを意味する。具体例としては、例えば、全血中にコリンを添加し本実施の形態の測定方法を用いてコリンを測定した際、後述の実施例に記載の手法に準じて算出した全血中にコリンを添加した場合の添加回収率が50%以上であればよく、好ましくは80%以上であり、より好ましくは、90%以上である。また本実施の形態の全血中のコリンの測定方法を、疾患の検査に用いる場合、測定値に基づく疾患の診断上問題がない程度に還元性物質の影響を回避することが好ましく、より具体的には、疾患によって変動し得るが、後述の実施例に記載の手法に準じて算出した全血中にコリンを添加した場合の添加回収率が、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。
【0040】
(b)反応工程で用いるヒドロキシルアミン又はその塩としては、ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン又は硝酸ヒドロキシルアミンが例示され、好ましくは塩酸ヒドロキシルアミンである。塩酸ヒドロキシルアミンは塩化ヒドロキシルアンモニウム(Hydroxylammonium chloride)とも言い、化学式NH2OH・HClで表される。上記のヒドロキシルアミン又はその塩は、還元剤として一般的に利用される。本発明者らは、(b)反応工程が行われる溶液中にヒドロキシルアミン又はその塩が存在することにより、驚くべきことに、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムのみを用いた場合と比較して、血中に存在する還元性物質の影響を、より効率よく回避できることを見出した。(b)反応工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度は、全血中に存在する還元性物質の影響を実質的に回避することができる限り特に限定されないが、下限としては10μmol/L以上が例示され、33μmol/L以上が好ましく、63μmol/L以上がより好ましく、70μmol/L以上がさらに好ましくい。上限としては200μmol/L以下が例示され、142μmol/L以下が好ましく、92μmol/L以下がより好ましく、85μmol/L以下がさらに好ましい。
【0041】
一態様において、(b)反応工程における溶液は、さらに陽イオン界面活性剤を含む。理論に束縛されるものではないが、この陽イオン界面活性剤は、(b)反応工程で酸化された全血中の還元性物質(例えば、還元性物質であるメトヘモグロビンを酸化して得られた不安定なデオキシヘモグロビン)を安定化し、これにより、全血中に存在する還元性物質の影響を、さらに効率よく回避する働きを有すると考えられる。
【0042】
(b)反応工程に用いる陽イオン界面活性剤としては、溶血させた全血中に存在する還元性物質の影響を実質的に回避することができる限り特に限定されないが、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルアンモニウムブロミド、ドデシルピリジニウムクロリド、ヘキサデシルピリジニウムクロリド、ヘキサデシルピリジニウムブロミド、1−ラウリルピリジニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられ、全血中の還元性物質の影響をより効率よく回避するという観点から、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドが好ましい。
【0043】
(b)反応工程における溶液中の陽イオン界面活性剤濃度は、溶血させた全血中に存在する還元性物質の影響を実質的に回避することができる限り限定されないが、下限としては、0.027%以上であればよく、0.031%以上が好ましい。上限としては、該界面活性剤が溶解する限り特に限定されないが、0.045%以下が好ましい。
【0044】
本実施の形態の(b)反応工程に使用する溶血させた全血の量は使用する機器等によっても異なるが、例えば後述の実施例に示した手法に準じて測定を行う場合、1〜40μL程度、好ましくは2〜25μL程度である。全血は、溶血剤にて1.1〜100倍、好ましくは2〜50倍程度に希釈されていてもよく、この場合も、使用する希釈した溶血させた全血は1〜40μL程度、好ましくは2〜25μL程度である。
【0045】
(b)反応工程が行われる反応溶液中の試薬の量は、測定に使用する機器等によっても異なるが、例えば後述の実施例に示した手法に準じて測定を行う場合、50〜250μL、好ましくは100〜200μL程度である。従って、(b)反応工程が行われる溶液に対する全血の希釈率は、下限としては0.004%以上が例示され、0.04%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.4%以上がさらに好ましい。上限としては80%以下が例示され、25%以下が好ましく、2.45%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましい。(b)反応工程が行われる溶液全体の量としては、50〜500μLが例示され、好ましくは200〜400μLである。
【0046】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法において、上記の(a)溶血工程の後、(b)反応工程を行ってもよいし、(a)溶血工程と(b)反応工程を同時に行ってもよい。簡便性の観点からは、(a)溶血工程と(b)反応工程を同時に行うことが好ましい。使用する試薬によっては、(a)溶血工程の後(b)反応工程を行うことが好ましい別の態様もある。
【0047】
例えば、(b)反応工程における溶液がさらに陽イオン界面活性剤を含み、(a)溶血工程と(b)反応工程を同時に行う場合、(b)反応工程に用いる陽イオン界面活性剤を用いて全血を溶血させ、同時に(a)溶血工程を行うことが、簡便性の観点から好ましい。
【0048】
(b)反応工程は、全血中に存在する還元性物質の影響を回避する効果を高めるという観点から、適宜pH緩衝剤を含む溶液中で行うことが好ましい。緩衝剤の使用により、血色素を安定化するという効果も期待できる。pH緩衝剤は、目的のpHを保つことができれば限定されないが、グッドのpH緩衝液(MES、Bis−Tris、ADA、PIPES、ACES、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPS等)、Tris緩衝液、ジエタノールアミン緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン緩衝液、硼酸緩衝液、リン酸緩衝液、グリシルグリシン緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、マレイン酸緩衝液、トリスエタノールアミン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を例示することができる。これらの緩衝液は塩酸などの強酸やNaOHなどの強アルカリで緩衝剤として使用可能なpH範囲に調整して使用する。また、2種以上の緩衝剤を組み合わせて使用してもよい。全血中に存在する還元性物質の影響を回避する、血色素を安定化する、及び後述の(c)pH調整工程を容易に行うという観点から、(b)反応工程が行われる溶液中のpHは、下限としてはpH2.5以上、好ましくはpH3.0以上、更に好ましくはpH3.5以上が例示され、上限としてはpH5.5以下、好ましくはpH5.0以下、更に好ましくはpH4.5以下が例示される。また、pH緩衝剤の濃度は低い方が好ましく、下限としては3mmol/L以上、好ましくは5mmol/L以上、更に好ましくは10mmol/L以上が例示され、上限としては200mmol/L以下、好ましくは100mmol/L以下、更に好ましくは50mmol/L以下が例示される。
【0049】
一態様において、本実施の形態の全血コリンの測定方法は、(b)反応工程の後、(c)工程(b)の溶液のpHを中性付近に調整する工程(pH調整工程)を含む。(c)pH調整工程は、その後の(d)過酸化水素生成工程で、コリンオキシダーゼを用いたコリンからの過酸化水素生成を容易にする目的で実施される工程である。本実施の形態において、中性付近とは、強酸性でも強アルカリ性でもない状態を意味し、弱酸性や弱アルカリ性も含み、その後の(d)過酸化水素生成工程及び(d)測定工程を実施することができる限り限定されない。例えば、中性付近のpHとしては、下限としては、pH6.0以上が例示され、pH6.2以上が好ましく、pH6.5以上がより好ましく、pH6.8以上がさらに好ましい。上限としてはpH8.7以下が例示され、pH8.5以下が好ましく、pH8.2以下がより好ましく、pH7.8以下がさらに好ましく、pH7.5以下が特に好ましい。また、本実施の形態において、「溶液のpHを中性付近に調整する」こととしては、溶液のpHを調整前のpHよりもpH7に近づけることが挙げられる。
【0050】
(c)pH調整工程は、pH緩衝剤を用いてpHを調節することにより行うことができる。用いることのできるpH緩衝剤は、(b)反応工程に関連して記載したものと同様である。(c)pH調整工程で調整後の溶液のpHは、下限としてはpH6以上、好ましくはpH6.2以上、更に好ましくはpH6.5以上が例示され、上限としてはpH8.7以下、好ましくはpH8.5以下、更に好ましくはpH8.2以下が例示される。(c)pH調整工程で調整後の溶液中のpH緩衝剤の濃度は、下限としては20mmol/L以上、好ましくは50mmol/L以上、更に好ましくは100mmol/L以上が例示され、上限としては1M以下、好ましくは500mmol/L以下、更に好ましくは300mmol/L以下が例示される。
【0051】
一態様において、本実施の形態の全血コリンの測定方法は、(d)コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程(過酸化水素生成工程)を含む。(d)過酸化水素生成工程では、コリンオキシダーゼを作用させて全血中のコリンをベタイン及び/又はベタインアルデヒドと過酸化水素に分解する。
【0052】
(d)過酸化水素生成工程で使用するコリンオキシダーゼは(choline oxidase、CODと略す場合がある)は、EC 1.1.3.17と分類される酵素を含み、コリンから過酸化水素を生成する作用を有するものであれば特に限定されず、コリンをベタインアルデヒド及び/又はベタインと過酸化水素に酸化する作用を有するものが好ましい。CODの至適pHは7.5〜8.0であり、pH安定性は7.5〜9.0の間であり、至適温度は37℃で付近である。CODの二次構造、三次構造及び四次構造、性質、純度、由来、商品名及び価格は限定されない。CODの好適な例としてはArthrobacter globiformis由来COD(旭化成ファーマ株式会社(T−05))が挙げられる。(d)過酸化水素生成工程を行う際の溶液中のCODの濃度は、全血中のコリンが過酸化水素に変換され、その後の(e)測定工程を実施することができる限り特に限定されないが、下限としては1U/mL以上、好ましくは5U/mL以上、更に好ましくは10U/mL以上が例示され、上限は特に設けないが、200U/mL以下、好ましくは100U/mL以下、更に好ましくは80U/mL以下が例示される。使用する酵素の量は、試薬の安定性という観点からは多い方が好ましく、経済性の観点からは少ない方が好ましい。レートアッセイを行う場合には使用する酵素の濃度は低い方が好ましく、下限としては0.01U/mLが例示される。なお、酵素活性値は酵素活性測定方法により変動する場合がある。
【0053】
(d)過酸化水素生成工程は、CODの反応性を高めるという観点から、適宜pH緩衝剤を用いて実施することが好ましい。用いることのできるpH緩衝剤は、(b)反応工程に関連して記載したものと同様である。(d)過酸化水素生成工程を実施する際の溶液中のpHは、下限としてはpH6以上、好ましくはpH6.5以上、更に好ましくはpH7以上が例示され、上限としてはpH9.0以下、好ましくはpH8.5以下、更に好ましくはpH8以下が例示される。pH緩衝剤の濃度は目的のpHを保つことができる限り特に限定されないが、下限としては3mmol/L以上、好ましくは5mmol/L以上、更に好ましくは10mmol/L以上が例示され、上限としては500mmol/L以下、好ましくは200mmol/L以下、更に好ましくは100mmol/L以下が例示される。
【0054】
一態様において、本実施の形態の全血コリンの測定方法は、(e)工程(d)で生成した過酸化水素の濃度を測定する工程(測定工程)を含む。過酸化水素の濃度の測定は、簡便性、正確性等の観点から、好ましくは定量分析に行うことができ、更に好ましくは、過酸化水素の定量分析を、酸化発色剤を用いて色素を生成させて吸光度を測定し、比色分析により行うことができる。例えば、コリンが含まれている可能性のある全血(測定対象)と、コリンを既知の濃度で含む試料(標準液)を、それぞれ個別に同様の工程で処理して、コリンから過酸化水素を生成させ、酸化発色剤を用いて色素の生成量(変化量)を検出する。測定対象における色素の生成量と、標準液における色素の生成量とを比較することにより、測定対象中のコリン濃度を定量することができる。
【0055】
一態様において、(e)測定工程は、過酸化水素をペルオキシダーゼ(POD)の存在下、酸化発色剤としてロイコ型色素を用いて発色させて行うことができる。ロイコ型色素の具体例としては、O−ジアニシジン、O−トリジン、3,3−ジアミノベンジジン、3,3,5,5−テトラメチルベンジジン(以上同人化学研究所社)、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4−ビス(ジメチルアミノ)ビフェニルアミン(DA64)、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(DA67)等が挙げられる。一態様において、特に全血中の血色素の測定への影響を回避するために、血色素の吸収波長と重複しない、600nm以上の波長を有する酸化発色剤を用いることが好ましい場合がある。そのような酸化発色剤として、例えば、DA67(極大吸収666nm)が挙げられる。
【0056】
(e)測定工程において、DA64やDA67などのロイコ型色素を使用する場合、紫外線や可視光線を吸収する効果のある色素を共存させる公知の方法(特開2008−201968等参照)を適応してロイコ型色素を安定化する事ができる。そのような安定化色素としてはオレンジG、オレンジII、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号が挙げられ、DA67の安定化効果が高いという観点からは、オレンジGが好ましい。安定化色素の濃度は、全血中のコリンの測定値に影響せず、ロイコ型色素を安定化できる限り限定されず、下限としては0.01mmol/L以上であり、好ましくは0.05mmol/L以上であり、更に好ましくは0.1mmol/L以上である。上限としては1mmol/L以下であり、好ましくは0.5mmol/L以下であり、更に好ましくは0.2mmol/L以下である。複数の安定化色素を用いる場合、好ましい濃度は変動することがあるが、通常はそれぞれについて上記の範囲である。
【0057】
(e)測定工程において、DA64やDA67などのロイコ型試薬を使用する場合、還元剤を共存させる公知の方法(特開2008−201968等参照)を適応してロイコ型色素を安定化する事ができる。そのような還元剤としてはシステイン、システアミン、N−アセチルシステイン、チオグリセロール、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウムが挙げられ、DA67の安定化効果が高いという観点からは、チオ硫酸ナトリウムが好ましい。還元剤の濃度は全血中のコリンの測定値に影響せず、ロイコ型色素を安定化できる限り限定されず、下限としては0.1mmol/L以上であり、好ましくは0.5mmol/L以上であり、更に好ましくは1mmol/L以上である。上限としては200mmol/L以下であり、好ましくは100mmol/L以下であり、更に好ましくは50mmol/L以下である。複数の還元剤を用いる場合、好ましい濃度は変動することがあるが、通常はそれぞれについて上記の範囲である。
【0058】
(e)測定工程において、酸化発色剤を用いる場合、例えば後述の実施例を参照し、当業者に公知の手法を用いて酸化発色剤に対応する主波長に加えて、適宜各測定に適切な副波長を選択して測定値の補正を行うことにより、より正確な測定を行うことができる。
【0059】
(e)測定工程において、ペルオキシダーゼ(peroxidase、PODと略す場合がある)を使用する場合、PODは、過酸化水素によって酸化発色剤を発色させることができる限り限定されないが、EC 1.11.1.7と分類される酵素が好ましい。PODの至適pHは6〜7であり、pH安定性は5〜10の間であり、至適温度は45℃付近である。PODの二次構造、三次構造及び四次構造、性質、純度、由来、商品名並びに価格等は限定されない。PODの好適な例としては西洋わさび等の植物由来(SIGMA(P8375等)、天野エンザイム(株))の汎用酵素が挙げられる。使用するPODの濃度は、(d)過酸化水素生成工程におけるCODの濃度に関する記載を参照して決定することができる。
【0060】
(e)測定工程は、過酸化水素をペルオキシダーゼ(POD)の存在下、酸化発色剤であるトリンダー試薬等の色原体と、カップラーとの酸化縮合により色素を生成させて定量することにより行うこともできる。この場合、酸化発色剤としては、フェノール誘導体、アニリン誘導体、トルイジン誘導体等が使用可能であり、具体例としてN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、2,4−ジクロロフェノール、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメチルアニリン(MAPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン(TOOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−m−アニシジン(ADPS)、N−エチル−N−スルホプロピルアニリン(ALPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(DAPS)、N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(HDAPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−m−トルイジン(TOPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−m−アニシジン(ADPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)アニリン(ALOS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−スルホプロピル−アニリン(HALPS)(以上同人化学研究所社)等が挙げられる。カップラーの例としては、4−アミノアンチピリン(4−AA)、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)等が挙げられる。
【0061】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法において、上記の各工程は、不連続又は同時に実施することができ、全血の由来、全血中のコリンの濃度、測定の目的、使用する装置等に応じて好ましい結果が得られるように各工程を実施する順序を決定し得る。すなわち、各工程は任意の順に行ってもよく、2つ以上を同時に行ってもよい。例えば、(a)溶血工程と(b)反応工程についての可能な態様は上述の通りであるし、(b)反応工程の後に(c)pH調整工程及び(d)過酸化水素生成工程を同時に行う態様;(b)反応工程の後に(c)pH調整工程、(d)過酸化水素生成工程及び(e)測定工程を同時に行う態様;(b)反応工程の後に(c)pH調整工程を行い、その後、(d)過酸化水素生成工程及び(e)測定工程を同時に行う態様;(b)反応工程の後に(c)pH調整工程を行い、その後、(d)過酸化水素生成工程を行い、その後、(e)測定工程を行う態様;並びにこれらの組み合わせの態様も可能である。
【0062】
好ましい態様としては、(a)溶血工程と(b)反応工程を同時に行い、次いで(c)pH調整工程を行い、その後、(d)過酸化水素生成工程を行い、その後、(e)測定工程を行う態様が挙げられる。
【0063】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法は、各工程をそれぞれ別異の反応槽(相)、で実施しても、同一反応槽(相)で実施してもよい。一態様において、全血を希釈して測定に用いる場合、全血の希釈のみ個別の反応槽(相)で実施することが好ましい。
【0064】
本実施の形態において、各工程の反応時間は、全血中のコリンを測定することができる限り限定されないが、それぞれ、下限が15秒以上、好ましくは1分以上、更に好ましくは3分以上である。上限は特に設けないが、好ましくは30分以下、更に好ましくは15分以下、特に好ましくは10分以下であり、各工程の反応時間は不均等であってもよい。各工程を実施する際の温度は、全血中のコリンを測定することができる限り限定されず、各工程の温度は不均等であってもよい。各工程に酵素を用いる場合には、使用する酵素の作用温度の範囲内で各工程を実施することが好ましく、下限は15℃以上、好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上が例示され、上限は70℃以下、好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下が例示され、好適には37℃付近で各工程を実施する。
【0065】
一態様において、本実施の形態の全血中のコリンの測定方法として好適な例は、全血2〜30μLと、少なくとも塩酸ヒドロキシルアミンを含む組成物50〜250μLとを混和する。次に該混合物2〜30μLと、少なくともヨウ素酸カリウム及び陽イオン界面活性剤を含むpH3〜5の組成物50〜250μLとを、別異の反応槽にて混和し、溶血させた全血、ヨウ素酸カリウム及び塩酸ヒドロキシルアミンを共存させる。次いで、少なくとも酸化発色剤を含むpH6.5〜8.5の組成物50〜250μLを同反応槽に加え、最後に少なくともPODとCODを含む組成物50〜250μLを同反応槽に加え、CODによりコリンから過酸化水素を生成し、この過酸化水素をPOD及び酸化発色剤で発色させる。
【0066】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法は、液相で実施する事が好ましいが、気相又は固相あるいはそれぞれの臨界面で実施してもよい。液相としては、溶液のほか、例えばゾル・ゲルが挙げられる。ゾル・ゲルとするためには、例えば、寒天等の多糖類を利用すればよい。ゾル・ゲルと乳濁液を区別する場合、乳濁液中で実施してもよい。乳濁液とするためには、例えば、有機溶媒等を利用すればよいし、両親媒性物質を利用すればミセルとして実施することもできる。いずれの場合も、pH緩衝剤を用いる場合は上記の記載を参照することができる。利便性という観点からは、本実施の形態の全血中のコリンの測定方法は、好ましくは水溶液中で実施する。
【0067】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法の測定原理の一例を図1に示した。CODの作用により1分子のコリンから2分子の過酸化水素が発生する。PODの作用で、この過酸化水素がDA−67を酸化し、生成したメチレンブルーの呈色を666nmの測定波長で比色定量する。
【0068】
本実施の形態は、一態様において、上記全血中のコリンの測定方法を用いる、急性心筋梗塞、安定狭心症及び非Q波(心内膜下)心筋梗塞の検査方法を含む。非特許文献1は、急性心筋梗塞、安定狭心症及び非Q波(心内膜下)心筋梗塞を含む有害心イベントと全血中のコリン濃度の関係を示す。非特許文献1によれば、全血中及び血漿中のコリンは、年齢、性別、心筋梗塞の既往や冠動脈リスク要因、心電図に依存しない主要有害心イベントの予測マーカーである。また、全血中のコリンはホスホリパーゼD(PLD)活性の増加、血小板の反応性亢進、冠動脈不安定プラークの脆弱性を反映し、不安定プラーク周辺の細胞浸潤や活性化における多くの重要な過程が、血液細胞内のコリン濃度変化としてあらわれる。そのため、全血中及び血漿中のコリンが組織の虚血に関わるが、全血コリンは特に冠動脈不安定プラークのリスクを検出するのに役立つ。不安定プラークによる早期の主要有害心イベントの検出のためには、血漿中のコリンよりも全血中のコリン濃度測定の意義が高い(Oliver Danneら、Clin.Chem、51巻、7号、1315−1317頁、2005年)。非特許文献1では、主要有害心イベントに対するカットオフ値は全血中のコリンで28.2μmol/Lである。血漿中のコリンのカットオフ値は決められていないが、99パーセンタイルのカットオフ値が25.0μmol/Lであり、低カットオフ値が18.5μmol/Lである。また高リスクの不安定狭心症に対する感度及び特異度は86%と報告された。従って、被験者由来の全血を測定対象として、本実施の形態の全血コリンの測定方法を実施することにより、被験者が上記の疾患に罹患しているか検査することができる。また、Martin Mockelら、Clinica. Chimica. Acta、393巻、103−109頁、2008年では、NT−proBNP、全血中のコリン及びリポタンパク質関連ホスホリパーゼA2(Lp−PLA2)の組み合わせが、早期リスク層別化に最適と報告されているため、本実施の形態の全血コリンの測定方法と組み合わせて、公知の手法を用いてLp−PLA2を測定することによって、さらに早期リスク層別化を行い得る。
【0069】
上記に詳しく説明したような本実施の形態の全血中のコリンの測定方法によれば、血球由来の各種還元性物質の混在する全血中のコリンであっても、非常に正確に、高感度に測定することができる。例えば、2μmol/Lという非常に微量のコリンであっても正確に測定することができる。従って、上記の疾患の検査に非常に有用である。
【0070】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法に用いられる組成物は、全血中のコリンの測定用組成物又は測定用キット(本明細書中において、「測定用組成物等」ともいう)とすることができる。
【0071】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用組成物は、好ましくは、少なくとも、ヒドロキシルアミン又はその塩、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウム、コリンオキシダーゼ、陽イオン界面活性剤、酸化発色剤及びペルオキシダーゼを含有し、より好ましくは、少なくとも、塩酸ヒドロキシルアミン、ヨウ素酸カリウム、コリンオキシダーゼ、陽イオン界面活性剤、酸化発色剤及びペルオキシダーゼを含有する。
【0072】
一態様において、本実施の形態は、(1)ヒドロキシルアミン又はその塩を含有する組成物、(2)ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムを含有する酸性の組成物、(3)酸化発色剤を含有する中性付近の組成物、及び(4)コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含有する組成物、を含む全血中のコリンの測定用キットに関する。
【0073】
このうち、(2)ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムを含有する酸性の組成物は、さらに陽イオン界面活性剤を含有するものであってもよい。該陽イオン界面活性剤としては、(b)反応工程に関連して上述した陽イオン界面活性剤が挙げられる。
【0074】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物に含まれる、ヒドロキシルアミン又はその塩、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウム、コリンオキシダーゼ、陽イオン界面活性剤、酸化発色剤及びペルオキシダーゼの種類と有効量、すなわち、該組成物が全血中のコリンの測定用キットとして使用可能な組成物となり得る為に有効な条件等については、上記の全血中のコリンの測定方法を参照することができる。なお、上記(2)の組成物のpHに関しては、上記(b)反応工程の行われる反応溶液のpHに関する記載を参照することができる。また、上記(3)の組成物のpHに関しては、上記(c)pH調整工程で調整後の溶液pHに関する記載を参照することができる。具体的には組成物(3)の中性付近のpHとしては、下限としては、pH6.0以上が例示され、pH6.2以上が好ましく、pH6.5以上がより好ましく、pH6.8以上がさらに好ましく、pH7.0以上が特に好ましく、上限としてはpH8.7以下が例示され、pH8.5以下が好ましく、pH8.2以下がより好ましく、pH8.0以下がさらに好ましい。
【0075】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物は、試薬の感度、正確性、再現性、安定性等の品質を向上する目的等で、前記組成物は、各種塩、各種糖及び/又はアジ化ナトリウムや抗生物質等の防腐剤を含有してもよい。
【0076】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物がNaCl、KCl、NH3Cl等の塩を含有する場合、それぞれの組成物中の該塩の量は、下限値は0.1mmol/L以上、好ましくは5mmol/L以上、更に好ましくは50mmol/L以上が例示され、上限値は特に制限されないが、好ましくは200mmol/L以下、更に好ましくは150mmol/L以下、特に好ましくは120mmol/L以下が例示される。これらの塩は酵素の安定化剤として機能し得る。
【0077】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物が糖を含有する場合、それぞれの組成物中の該糖の濃度は溶解可能な範囲内であれば限定されないが、例えばシュークロースを含有する場合、下限値は全組成物の0.05(w/v)%以上、好ましくは0.1(w/v)%以上、更に好ましくは0.3(w/v)%以上であり、上限値は全組成物の30(w/v)%以下、好ましくは10(w/v)%以下、更に好ましくは5(w/v)%以下である。例えばマンニトールを含有する場合、下限値は全組成物の0.05(w/v)%以上、好ましくは0.1(w/v)%以上、更に好ましくは0.3(w/v)%以上であり、上限値は全組成物の3(w/v)%以下、好ましくは2(w/v)%以下、更に好ましくは1(w/v)%以下である。その他の糖としてはトレハロースやシクロデキストリン等が挙げられる。これらの糖は、酵素や組成物の安定化剤として、また、組成物を凍結乾燥する場合は凍結乾燥賦型剤として、機能し得る。
【0078】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物が防腐剤を含有する場合、該防腐剤の種類や濃度は限定されないが、例えばアジ化ナトリウムの場合、下限値はそれぞれの組成物中の濃度として0.005(w/v)%以上、好ましくは0.01(w/v)%以上、更に好ましくは0.03(w/v)%以上であり、上限値は全組成物の1(w/v)%以下、好ましくは0.5(w/v)%以下、更に好ましくは0.1(w/v)%以下である。例えば抗生物質の場合、下限値は5μg/mL以上、好ましくは10μg/mL以上、更に好ましくは30μg/mL以上であり、上限値は100μg/mL以下、好ましくは75μg/mL以下、更に好ましくは60μg/mL以下である。
【0079】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物がEDTA等のキレート剤を含有する場合、その種類や濃度は限定されないが、例えばEDTAを含有する場合、それぞれの組成物中の濃度として通常は0.05mmol/L以上10mmol/L以下の範囲である。EDTA、EGTA、NAT等のキレート剤は、金属を活性発現に利用するプロテアーゼが組成物中に存在する場合、該活性を阻害する場合がある。
【0080】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物が、牛アルブミン、卵アルブミン、ヒトアルブミン、クリスタリン等のタンパク質を含有する場合、該タンパク質の種類や濃度は限定されないが、例えば牛アルブミンを含有する場合、それぞれの組成物中の濃度として通常は0.01(w/v)%以上5(w/v)%以下の範囲である。これらのタンパク質は、プロテアーゼの基質となるため、酵素の安定化剤となる場合がある。また、凍結乾燥に際しては凍結乾燥賦型剤となり得る。
【0081】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットは、更に少なくとも既知量のコリンを含むキャリブレーション試薬を、キットを構成する組成物として含んでもよい。
【0082】
本発明のキャリブレーション試薬は、少なくとも既知量のコリンを含む試薬であればよいが、好ましくはpH緩衝剤、アジ化ナトリウムや抗性物等の防腐剤、糖等の安定化剤を含む試薬であり、これらの種類や濃度等の条件等は上記の組成物の場合と同様である。キャリブレーション方法は、一点検量のほか、多点検量(折れ線やスプライン)や多点検量の直線回帰などを選択することができる。
【0083】
キャリブレーション試薬中のコリンの既知量は特に限定されず、全血中のコリンを正確に測定するために選択すればよい。また、複数の異なる既知量のコリンを含むキャリブレーション試薬を使用してもよい。コリンの場合、下限は1μmol/L以上、好ましくは3μmol/L以上、更に好ましくは5μmol/L以上、上限は80μmol/L以下、好ましくは50μmol/L以下、更に好ましくは30μmol/L以下である。この濃度は、全血中のコリンの測定用キットを用いる測定の目的(対象疾患等)に応じて変化し得る。概濃度は、コリンとコリン以外のキャリブレーション試薬を兼ねるマルチキャリブレーション試薬の場合も同様である。
【0084】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用組成物及びキャリブレーション試薬は、液状品、液状品の凍結品、液状品の凍結乾燥品、又は液状品の乾燥品(加熱乾燥、風乾及び/又は減圧乾燥等による)として提供できる。測定精度を考慮すれば、液状品、液状品の凍結品及び液状品の凍結乾燥品が好ましく、使用目的や保存方法、測定精度等に応じて、これらのそれぞれを好ましい形状として選択し得る。本実施の形態の全血中のコリンの測定用組成物は、一試薬の組成物としてもよいが、通常は二試薬以上に分離するのが好ましく、例えば、上記の測定用キットのように、4以上の試薬に分離することができる。また、例えば、ポイントオブケア装置のキャピラリーへの使用、又は酵素センサーとしての使用の場合、各成分の濃度は通常よりも濃い濃度が好ましく、例えば、固定化したり、紙や膜に染み込ませたり、ゲル・ゾル状組成物としたりして使用することが好ましい。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例等に限定して解釈されるものではない。
本実施例では、市販され容易に入手することができる任意の試薬類を使用することができる。試薬メーカー、純度、価格等は特に限定されず、必要に応じて当業者であれば適宜選択して用いることができる。また、以下に示した測定値等は、様々な条件、例えば、試薬の純度、測定の条件、使用機器の精度等、使用機器の置かれた温度や気圧等の雰囲気により変化し得るが、同条件で測定した場合には以下の実施例等で得られたものと同じ傾向を示す結果が得られることは当業者であれば容易に理解できるであろう。なお、実施例中の%は、特筆しない限りw/v%を意味する。
本実施例等では、N−エチルマレイミド、L−アラニン、L−セリン、L−カルニチン、還元型グルタチオン、L(+)アスコルビン酸、尿酸、塩酸ヒドロキシルアミン(製品名:塩化ヒドロキシルアンモニウム)、ヨウ素酸カリウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、DA−67、塩化コリン、及びチオ硫酸ナトリウムは和光純薬工業株式会社から、クレアチニン一水和物は半井化学薬品から、TritonX−100、及びウシアルブミンはシグマアルドリッチ社(St.Louis、USA)から、オレンジGは関東化学から購入したものを使用した。その他の試薬類は、特に断らない限り、和光純薬工業株式会社、シグマアルドリッチ社等から購入したものを使用した。PODはオリエンタル酵母工業社製(わさび由来、POD−03)、CODは旭化成ファーマ株式会社社製(Arthrobacter gloobiformis由来、T−05)を使用した。
【0086】
<使用機器>
分析には日立分光光度計U−2810及び自動分析装置として日立7170形自動分析装置(日立ハイテクノロジーズ)を用いた。pHメーターは、ガラス電極式水素イオン濃度指示計(岩城硝子)を25℃で使用した。
【0087】
<測定試薬>
自動分析装置における測定試薬として、希釈液(DIL)、第一試薬(R−1)、第二試薬(R−2)、及び第三試薬(R−3)を作製した。(DIL)、(R−1)、(R−2)、及び(R−3)の組成は、必要に応じて各実施例に示した。
【0088】
<自動分析装置使用条件>
自動分析装置での反応は37℃で行った。
前希釈を行う場合(DILを使用する場合):測定用検体(全血、標準液等)17μLに(DIL)85μLを加えて、これを分析用検体とした。分析用検体から20μLを反応容器に分注し、(R−1)180μLと混和して1分25秒後に(R−2)90μLを混和し、さらに3分35秒後に(R−3)20μLを混和し、その1分2秒後に主波長660nm、副波長800nmの2ポイントエンド法にて比色定量を行った。
前希釈を行わない場合(DILを使用しない場合):測定用検体(全血、標準液等)より3.5μLを反応容器に分注し、その他の条件は「前希釈を行う場合」と同様の測定方法で測定した。
【0089】
<標準液>
塩化コリン147mgを精製水100mLに溶解し、これをコリンの標準原液とした。測定材料として使用する際に精製水で100倍希釈して100μmol/Lコリン標準液とした。
【0090】
<全血検体>
全血検体は、EDTA−2Na入りの採血管(テルモ株式会社、ベネディクトII真空採血管)で採血を行った検体を用いた。なお、全血検体はすべて、同意書により採血の同意の得られた検体を用いた。
【0091】
[実施例1]全血検体の溶血方法の検討
0.01mol/Lリン酸緩衝液を用いて、0.05%、0.1%、0.2%及び0.3%のTritonX−100溶液を作製し、これを「溶血液」とした。各「溶血液」180μLと全血3.5μLを混和し、顕微鏡下において溶血の有無を確認したところ、0.1%以上のTritonX−100濃度で完全溶血が確認できた。また界面活性剤はタンパク質変性作用があるため、TritonX−100を溶血液として使用することにより、溶血効果と同時にヘモグロビン変性による吸光度の安定化効果も得られた。
【0092】
[実施例2]酵素濃度の検討
共役酵素であるPOD量は、熊田至ら、「臨床検査に用いる試薬−汎用自動分析用・市販試薬の内容、性能一覧」(大阪府臨床衛生検査技師会・学術部・臨床化学検査部会・施設間差是正研究会,60−63頁、1996年)を参考にし、添加する酵素量を5.0U/mLとした。
【0093】
COD量は、CODのKm値(ASAHI KASEI Diagnostic Enzymes、2008年7月、16頁)及びミカエリス・メンテンの式より、1.3分以内にCODの酵素反応が終点に達するような酵素量を算出した。CODを4.0U/mL添加すれば、1.3分以内に酵素反応が終点に達すると算出された。
【0094】
[実施例3]酸化発色剤(DA−67)濃度の検討
各試薬組成を下に示した。(DIL)は使用しなかった。自動分析装置を用いて、精製水及び100μmol/Lのコリン標準液の吸光度を測定した。(R−2)のDA−67は、0.033、0.082、0.163及び0.326mmol/Lの4濃度を検討した。
【0095】
結果を図2に示した。図2の横軸は(R−2)中のDA−67の濃度である。すべてのDA−67濃度において試薬ブランクの吸光度は安定であった。0.082mmol/L以上のDA−67濃度((R−2)中)において、100μmol/Lコリンの吸光度が安定となったため、DA−67濃度として0.082mmol/L((R−2)中)を選択した。
【0096】
(R−1)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
(R−2)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.033〜0.326mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0097】
[実施例4]副波長の検討
各試薬組成を下に示した。(DIL)は使用しなかった。自動分析装置を用いて、精製水及び100μmol/Lコリン標準液の吸光度を測定した。主波長は660nmとし、副波長は700nm、750nm及び800nmを検討した。
【0098】
結果を図3に示した。副波長が800nmの時、100μmol/Lコリンの吸光度が最大で、高感度となったため、副波長は800nmとした。
【0099】
(R−1)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
(R−2)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0100】
[実施例5]ヨウ素酸カリウム濃度の検討
各試薬組成を下に示した。(DIL)は使用しなかった。(R−1)中のヨウ素酸カリウム濃度は、0、50、100及び200mmol/Lの4濃度を検討した。全血に50μmol/Lコリン標準液を添加したときの添加回収率(%)を測定することにより、全血に存在する高濃度の還元性物質の影響回避の評価を行った。<全血検体>と500μmol/Lコリン溶液を使用して、A(コリン溶液1容+健常者検体9容)、B(生理食塩水1容+健常者検体9容)、C(コリン溶液1容+生理食塩水9容)、D(生理食塩水1容+生理食塩水9容)をサンプルとして作成し、各サンプル中のコリン濃度を測定した。添加回収率(%)は、以下の式を用いて算出した。
添加回収率(%)=(A−B)/(C−D)×100
【0101】
結果を図4に示した。ヨウ素酸カリウムの濃度を増加させることにより、最大で52.8%の添加回収率が得られた。なお、本実施例において、溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際、全血9+コリン溶液(または生理食塩水)1で作成した検体3.5μLは(R−1)180μLと混和するので、溶液に対する全血の希釈率は0.9×{3.5/(3.5+180)}×100≒1.72%であり、その際ヨウ素酸カリウムの濃度は、180/(3.5+180)≒0.98倍になる。図4の横軸は溶血させた全血と混合する際のヨウ素酸カリウム濃度を示した。図4において、ヨウ素酸カリウム濃度は、それぞれ0、49、98及び196mmol/Lである。
【0102】
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
0〜200mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0103】
[実施例6]溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際のヨウ素酸カリウム及び塩酸ヒドロキシルアミン濃度の検討
各試薬組成を下に示した。(DIL)を使用した。(DIL)中の塩酸ヒドロキシルアミンの濃度は、0、0.25、0.50、0.75、1.00、1.25、1.50及び1.75mmol/Lの8濃度を検討し、(R−1)中のヨウ素酸カリウム濃度は50及び100mmol/Lの2濃度を検討した。全血に50μmol/Lコリン標準液を添加したときの添加回収率を測定することにより、全血に存在する高濃度の還元性物質の影響回避の評価を行った。<全血検体>と500μmol/Lコリン溶液を使用して、[実施例5]と同様の手法で添加回収率(%)を算出した。
【0104】
溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際、まず、全血9+コリン溶液(または生理食塩水)1で作成した検体17μLは(DIL)85μLを加えて分析用検体とし、分析用検体から20μLを反応容器に分注し、(R−1)180μLと混和するので、ヨウ素酸カリウムと混合する際の溶液に対する全血の希釈率は0.9×{17/(17+85)}×{20/(20+180)}×100=1.50%、また、ヨウ素酸カリウムと混合する際の溶液中の塩酸ヒドロキシルアミンの濃度は、{85/(17+85)}×{20/(20+180)}≒0.083倍に、ヨウ素酸カリウムの濃度は、180/(20+180)=0.9倍になる。図5の横軸は溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の塩酸ヒドロキシルアミンの濃度を示した。図5において、塩酸ヒドロキシルアミン濃度は、それぞれ0、20.83、41.67、62.50、83.33、104.17、125.00及び145.83μmol/Lである。ヨウ素酸カリウム45mmol/Lに対し塩酸ヒドロキシルアミン83.3μmol/Lを使用したときの添加回収率が83.5%、ヨウ素酸カリウム90mmol/Lに対し塩酸ヒドロキシルアミン62.5μmol/Lを使用したときの添加回収率が80.3%となり、塩酸ヒドロキシルアミンの使用により添加回収率が大幅に改善された。
【0105】
塩酸ヒドロキシルアミンの代わりにチオ尿素又はチオ硫酸ナトリウムを用いて、同様に添加回収率を算出した。塩酸ヒドロキシルアミンの代わりにチオ尿素を使用した場合、添加回収率は最大33.6%であった。塩酸ヒドロキシルアミンの代わりにチオ硫酸ナトリウムを使用した場合、添加回収率は最大30.5%であった。
【0106】
(DIL)
0〜1.75mmol/L 塩酸ヒドロキシルアミン
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
50又は100mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0107】
[実施例7]溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の陽イオン界面活性剤の濃度検討
各試薬組成を下に示した。(DIL)を使用した。陽イオン界面活性剤として一般的に用いられるヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドを用いた。(R−1)中のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドの濃度は、0、0.025、0.038及び0.05%の4濃度を検討した。全血に50μmol/Lコリン標準液を添加したときの添加回収率を測定することにより、全血に存在する高濃度の還元性物質の影響回避の評価を行った。<全血検体>と500μmol/Lコリン溶液を使用して[実施例5]と同様の手法で添加回収率(%)を算出した。
【0108】
溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の溶液中の全血の希釈率は[実施例6]と同様で1.50%、塩酸ヒドロキシルアミンの濃度は0.75×{85/(17+85)}×{20/(20+180)}=62.5μmol/L、ヨウ素酸カリウムの濃度は、100×180/(20+180)=90mmol/Lになる。図6の横軸は溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドの濃度を示した。図6において、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドの濃度は、それぞれ0.000、0.023、0.034及び0.045%である。ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドが0.045%の時に添加回収率が97.6%となり、添加回収率が大幅に改善された。
【0109】
(DIL)
0.75mmol/L 塩酸ヒドロキシルアミン
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
100mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
0〜0.05% ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0110】
[実施例8]溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の塩酸ヒドロキシルアミン濃度の検討2
(DIL)を使用した。(DIL)中の塩酸ヒドロキシルアミンの濃度は、0、0.25、0.50、0.75、1.00、1.25、1.50及び1.75mmol/Lの8濃度を検討した。[実施例5]と同様に添加回収率(%)を算出した。
溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の溶液に対する全血の希釈率は[実施例6]と同様で1.50%、塩酸ヒドロキシルアミンの濃度は[実施例6]と同様で0.083倍に、ヨウ素酸カリウムの濃度は[実施例7]と同様に90mmol/Lになる。図7の横軸は溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の塩酸ヒドロキシルアミンの濃度を示した。90mmol/Lのヨウ素酸カリウムに対し、62.5μmol/Lの塩酸ヒドロキシルアミンを使用した時、91.9%と最大の添加回収率が得られた。図7において、塩酸ヒドロキシルアミンの濃度はそれぞれ0.00、20.83、41.67、62.50、83.33、104.17、125.00及び145.83μmol/Lである。
【0111】
(DIL)
0〜1.75mmol/L 塩酸ヒドロキシルアミン
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
100mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
0.05% ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0112】
[実施例9]希釈直線性
各試薬組成を下に示した。(DIL)は使用しなかった。5.0、10.0、20.0、40.0、60.0、80.0及び100.0μmol/Lの7濃度のコリン溶液を用いてコリン濃度測定値の直線性を調べた。
結果を図8に示した。グラフ横軸は、測定したコリン溶液の濃度、縦軸はコリン標準液で検量後に自動分析装置により測定された、各コリン溶液中のコリン濃度の実際の測定値を示す。100μmol/Lのコリン濃度まで原点を通る直線性が得られた。
【0113】
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
100mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
0.05% ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0114】
[実施例10]最小検出感度
[実施例9]と同様の試薬を使用した。(DIL)は使用しなかった。1.0、2.0、2.5、5.0及び10.0μmol/Lの5濃度のコリン溶液を用いて±3SD法で最小検出感度(n=3)を求めた。
結果を図9に示した。グラフの横軸は測定したコリン溶液の濃度、縦軸は自動分析装置により実際に測定された各コリン溶液中のコリン濃度の平均値を示す。図9より最小検出感度は2μmol/Lであった。全血中のコリンの測定によって診断することが可能な主要有害心イベントに対する全血中のコリンのカットオフ値は28.2μmol/Lであるため、十分な検出感度であると考えられた。
【0115】
[実施例11]同時再現性試験と日差再現性試験
[実施例9]と同様の試薬を使用した。(DIL)は使用しなかった。10μmol/Lと100μmol/Lのコリン溶液を用いて同時再現性試験(n=20)を行った。
また、下に示した各試薬と(DIL)を使用して、<全血検体>を用いて日差再現性試験(n=20)を行った。
結果を表1に示した。再現性よく全血中のコリンが測定できた。
【表1】
【0116】
(DIL)
0.75mmol/L 塩酸ヒドロキシルアミン
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
100mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
0.05% ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0117】
[実施例12]特異性試験
[実施例9]と同様の試薬を使用した。(DIL)は使用しなかった。全血中に存在する含窒素成分、糖及びアミノ酸の中から化学構造がコリンに類似するエタノールアミン、クレアチニン、カルニチン、アラニン及びセリンを構造類似物質として選択した。50μmol/Lコリンの測定値(吸光度)を100%とした時の、50μmol/Lの各構造類似物質の反応比率(%)を表2に示した。いずれの物質ともほとんど反応性はみられず、本発明の全血中のコリンの測定方法はコリンに対する特異性が高いことが明らかになった。
【表2】
【0118】
[実施例13]添加回収試験
[実施例11]に示した各試薬と(DIL)を使用した。<全血検体>と、100μmol/L及び500μmol/Lコリン溶液を使用して、[実施例5]と同様の手法で添加回収率(%)を算出した。
結果を表3に示した。本発明の全血中のコリンの測定方法により、高い添加回収率が得られた。
【表3】
【0119】
[実施例14]検体希釈直線性試験
[実施例11]に示した各試薬と(DIL)を使用した。<全血検体>と500μmol/Lコリン溶液を使用して、a(生理食塩水1容+<全血検体>9容)とe(コリン溶液1容+<全血検体>9容)を作製し、表4に示すような濃度系列を作製した。a〜eの各検体のコリン濃度を2重測定した。
結果を、図10に示した。本発明の全血中のコリンの測定方法により、良好な希釈直線性が得られた。
【表4】
【0120】
[実施例15]全血内干渉物質の影響
[実施例9]の試薬を使用した。(DIL)は使用しなかった。全血に存在する還元性物質であるアスコルビン酸、アルブミン、還元型グルタチオン及び尿酸の5種類を干渉物質として選択し、表5に示す濃度の溶液を作製した。それぞれの干渉物質9容と、500μmol/Lコリン溶液1容を混合し、対照(生理食塩水)の濃度を100%としたときの、干渉物質存在下での誤差(%)を測定した。
【0121】
結果を図11に示した。いずれの干渉物質も、本発明の全血中のコリンの測定方法に影響しなかった。
【表5】
【0122】
[実施例16]健常者検体の測定
[実施例11]に示した各試薬と(DIL)を使用し、<全血検体>20例(20〜25歳、平均21歳、男13例、女16例)を測定した。全血中のコリン測定値の分布を図12に示した。測定値が25μmol/L以上の3例については、測定のために溶血させる前から肉眼で溶血が確認された。測定前の溶血のみられない26例について、全血中のコリン濃度の平均値は8.23μmol/L、標準偏差は4.06μmol/Lとなった。この標本の参考基準範囲を平均±2SDとすると、0.1〜16.3μmol/Lとなった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、全血中のコリンの測定方法及び測定用組成物が提供される。これにより、例えば、急性心筋梗塞、安定狭心症、非Q波(心内膜下)心筋梗塞等の疾患の検査が可能になるという産業上の利用可能性を有する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、全血中のコリンを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学検査では、通常、採取した全血から血球を除去し、血漿又は血清として試料とする。その理由として、(1)血球や血球成分による、特にヘモグロビンによる吸光が、光学系へ影響することを避けるため、(2)血球成分や血球細胞膜成分の、装置への非特異的な吸着や凝集による測定誤差を避けるため、(3)分析試薬の反応、例えば化学反応、酵素反応、免疫反応等が、血球成分により阻害されることを避けるため、等が挙げられる。すなわち、試料中に成分がより多く存在するほど、それらの干渉により、試料中の測定対象物質の特異的分析はより困難になるからである。
【0003】
通常、血球除去は遠心分離操作による。この操作には遠心分離機が必要で時間がかかり不便であるため、血球を除去しない全血をそのまま試料として測定する方法が既にいくつか提案されている。そのような測定方法は、(I)血球や血球成分が分析試薬に混入しない工夫を施す、(II)血球や血球成分の影響を受けないように分析試薬に工夫を施す、という2つの方法に大別される。
【0004】
(I)の方法には、(i)専用の装置や膜を用いて全血から血球を除く方法、(ii)血球の破壊を防ぐ工夫を分析試薬等に施し血球成分の分析への介入を回避する方法、等がある。
【0005】
(II)の方法には、(i)抗体を使用する方法(特許文献1)、(ii)血球成分である内因性アルカリフォスファターゼに特異的な阻害剤を用いる方法(特許文献2)、等がある。
【0006】
ところで、生化学検査の代表的な検査項目である、クレアチニン、尿酸、グルコース、コレステロール、中性脂肪、ヘモグロビンA1c、リン脂質等は、各々の測定対象物質に特異的な酸化酵素を用いて、過酸化水素を経由する測定方法、いわゆる酵素法で測定されることが多い。この測定方法において、全血をそのまま試料として測定すると、血球成分中の還元物質による誤差が発生することが知られている。従って、上記(II)の方法において、特に、血球や血球成分の影響を受けずに過酸化水素を検出するための測定方法及び測定用試薬への需要は高い。特許文献3は、溶血させた全血を用いる血中成分の測定方法及びそのキットであって、血球成分の影響を回避するために界面活性剤を使用することを含む、過酸化水素を検出(経由)する測定方法及びそのキットを開示する。
【0007】
上記の過酸化水素を経由する測定方法は、試料中の還元性物質が過酸化水素を還元するため、還元性物質の影響を受けやすい。全血と比べると微量ではあるが、血清や血漿にも還元性物質が存在し、この影響を回避する方法として、ホルマザン、イミダゾール、界面活性剤、スルホン酸化合物、ニトロ化合物等を用いる方法が提案されている(特許文献4〜6)。
【0008】
一方、全血中のコリンは、急性冠症候群等のバイオマーカーとして期待されている。非特許文献1は、全血中のコリンの測定方法として、LC/MSを用いた測定方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−180439
【特許文献2】特開2005−188987
【特許文献3】WO2010/010881
【特許文献4】WO2002/086151
【特許文献5】特開2007−147630
【特許文献6】WO2003/104815
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Clinica Chimica Acta、 383巻、 2007年、 103−109頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
血球を除去しない全血をそのまま試料として測定する際、上記(I)の、血球や血球成分が分析試薬に混入しない工夫を施す測定方法では、(a)血球は、採血時にも破壊される場合があるので、信頼できる測定結果を得るためには、試料や装置の適切な取り扱いが必須である、(b)採血時に血球が破壊した(溶血した)検体には対応できない、(c)血球成分を測定対象物質とすることができない、という問題がある。また、上記(II)の、血球や血球成分の影響を受けないように分析試薬に工夫を施す測定方法については、(i)の方法は、対象とする血球成分の種類だけ抗体が必要なので不経済であり、(ii)の方法は、アルカリフォスファターゼを分析試薬として用いる場合にのみ有効な方法である。
【0012】
全血中の測定対象物質を、過酸化水素を検出(経由)して測定する特許文献3の方法では、血球成分の影響を完全に除外できないために測定値の換算(計算式による補正)が必要である。例えば、全血中のコリンの測定方法として、全血中のコリンにコリンオキシダーゼ(COD)を作用させ、生じた過酸化水素を検出(経由)する測定方法を採用する場合、血球成分中の還元性物質(ヘモグロビンや還元型グルタチオン等)による測定誤差等が発生し、正確な測定ができないことが判明した。還元性物質による影響を回避するために、特許文献4〜6に記載の、血清や血漿中の微量還元性物質の影響を回避するための各化合物を検討したが、いずれの化合物も全血に存在する高濃度の還元性物質の影響回避には不十分な場合があった。また、特許文献1に記載されるような、LC/MSを用いたコリンの測定方法は、用いる測定機器が高額等の理由から、多数の試料中のコリンを同時に安価に測定するためには不向きであった。全血中のコリンは微量(数μM〜数十μM)であり、高感度の検出試薬も必要とされていた。
【0013】
従って、本発明が解決しようとする課題は、全血を試料として、全血中のコリンの濃度を過酸化水素経由で測定する方法において、血球や血球成分の影響を回避し、正確に全血中のコリンを測定することが出来る測定方法及び測定用組成物等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、まず、全血に存在する高濃度の還元性物質の影響回避のために、各種酸化剤の使用を検討し、ヨウ素酸カリウムにある程度効果があることを見出したが、全血に対して標準物質のコリンを添加して測定し、算出した添加回収率は最大52.8%だった。
【0015】
本発明者らはさらに検討を続けた結果、ヨウ素酸カリウムと同時に、還元剤として知られている塩酸ヒドロキシルアミンを使用することにより、意外にも高濃度の還元性物質の影響をさらに効果的に回避することができることを見出し、上記の添加回収率を最大80.3%にまで上げることに成功した。さらに本発明者らは、陽イオン界面活性剤も同時に使用することで、上記の添加回収率を最大90%以上にまで上げることに成功した。
【0016】
そして本発明者らは、これらの知見に基づき、汎用の自動分析機に適応可能な簡便な全血中のコリンの測定方法及びその測定用組成物等を創出して本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
〔1〕コリンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、及び酸化発色剤を用いて全血中のコリンの測定方法であって、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程を含むことを特徴とする該方法。
〔1−2〕全血中のコリンの測定方法であって、
溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程;
コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程;及び
過酸化水素の濃度を測定する工程;
を含む測定方法。
〔1−3〕前記反応させる工程が、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウムと、塩酸ヒドロキシルアミンとを共存させて反応させる工程である、前記〔1〕又は〔1−2〕に記載の測定方法。
〔1−4〕全血中のコリンの測定方法であって、
前記反応させる工程が、溶血させた全血中の還元性物質を、ヒドロキシルアミン又はその塩を含む溶液中で、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムにより酸化する工程である、前記〔1〕又は〔1−2〕に記載の測定方法。
を含む測定方法。
〔1−5〕前記反応させる工程が、溶血させた全血中の還元性物質を、塩酸ヒドロキシルアミンを含む溶液中で、ヨウ素酸カリウムにより酸化する工程である、前記〔1〕又は〔1−2〕に記載の測定方法。
〔1−6〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が33μmol/L以上であり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45mmol/L以上である、前記〔1〕〜〔1−5〕のいずれかに記載の測定方法。
〔1−7〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が33〜142μmol/Lであり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lである、前記〔1〕〜〔1−5〕のいずれかに記載の測定方法。
〔1−8〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が63〜92μmol/Lであり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lである、前記〔1〕〜〔1−5〕のいずれかに記載の測定方法。
〔1−9〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が63〜92μmol/Lであり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lであり、溶液に対する全血の希釈率が0.20〜2.45%である、前記〔1〕〜〔1−5〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2〕前記反応させる工程が、さらに陽イオン界面活性剤を共存させて反応させる工程である前記〔1〕〜〔1−9〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2−2〕前記反応させる工程が、溶血させた全血中の還元性物質を、ヒドロキシルアミン又はその塩と陽イオン界面活性剤とを含む溶液中で、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムにより酸化する工程である、前記〔1〕〜〔1−9〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2−3〕前記反応させる工程が、溶血させた全血中の還元性物質を、塩酸ヒドロキシルアミン及び陽イオン界面活性剤を含む溶液中で、ヨウ素酸カリウムにより酸化する工程である、前記〔1〕〜〔1−9〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2−4〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が63μmol/L以上であり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45mmol/L以上であり、陽イオン界面活性剤の濃度が0.031w/v%以上である、前記〔2〕〜〔2−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2−5〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が63〜92μmol/Lであり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lであり、陽イオン界面活性剤の濃度が0.031〜0.045w/v%である、前記〔2〕〜〔2−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔2−6〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が63〜92μmol/Lであり、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lであり、陽イオン界面活性剤の濃度が0.031〜0.045w/v%であり、溶液に対する全血の希釈率が0.20〜2.45%である、前記〔2〕〜〔2−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔3〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が33〜142μmol/Lである、前記〔1〕〜〔2−6〕のいずれかに記載の測定方法。
〔3−2〕前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が33〜142μmol/Lであり、溶液に対する全血の希釈率が0.20〜2.45%である、前記〔1〕〜〔2−6〕のいずれかに記載の測定方法。
〔4〕前記反応させる工程における溶液中のヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45mmol/L以上である、前記〔1〕〜〔3−2〕のいずれかに記載の測定方法。
〔4−2〕前記反応させる工程における溶液中のヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lである、前記〔1〕〜〔3−2〕のいずれかに記載の測定方法。
〔4−3〕前記反応させる工程における溶液中のヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45〜90mmol/Lであり、溶液に対する全血の希釈率が0.20〜2.45%である、前記〔1〕〜〔3−2〕のいずれかに記載の測定方法。
〔5〕前記反応させる工程における溶液中の陽イオン界面活性剤の濃度が0.031w/v%以上である、前記〔2〕〜〔4−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔5−2〕前記反応させる工程における溶液中の陽イオン界面活性剤の濃度が0.027〜0.045w/v%である、前記〔2〕〜〔4−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔5−3〕前記反応させる工程における溶液中の陽イオン界面活性剤の濃度が0.027〜0.045w/v%であり、溶液に対する全血の希釈率が0.20〜2.45%である、前記〔2〕〜〔4−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔5−4〕前記陽イオン界面活性剤がヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドである、前記〔2〕〜〔5−3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔6〕以下の工程(a)〜(e)を含む、全血中のコリンの測定方法;
(a)全血を溶血させる工程;
(b)溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程;
(c)工程(b)の溶液のpHを中性付近に調整する工程;
(d)コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程;、
(e)工程(d)で生成した過酸化水素の濃度を測定する工程。
〔6−2〕工程(b)が、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウムと、塩酸ヒドロキシルアミンとを共存させて反応させる工程である、前記〔6〕に記載の方法。
〔6−3〕工程(b)が、溶血させた全血中の還元性物質を、ヒドロキシルアミン又はその塩を含む溶液中で、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムにより酸化する工程である、前記〔6〕に記載の方法。
〔6−4〕工程(b)が、溶血させた全血中の還元性物質を、塩酸ヒドロキシルアミンを含む溶液中で、ヨウ素酸カリウムにより酸化する工程である、前記〔6〕に記載の方法。
〔6−5〕工程(b)の溶液が、さらに陽イオン界面活性剤を含む、前記〔6〕〜〔6−4〕のいずれかに記載の測定方法。
〔6−6〕工程(c)が、工程(b)の溶液のpHをpH6.5〜8.5に調整する工程である、前記〔6〕〜〔6−5〕のいずれかに記載の測定方法。
〔7〕前記〔1〕〜〔6−6〕のいずれかに記載の前血中のコリンの測定方法を用いる、急性心筋梗塞、安定狭心症又は非Q波(心内膜下)心筋梗塞の検査方法。
〔8〕以下の(1)〜(4)に記載の組成物を含む、全血中のコリンの測定用キット;
(1)ヒドロキシルアミン又はその塩を含有する組成物、
(2)ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムを含有する酸性の組成物、
(3)酸化発色剤を含有する中性付近の組成物、及び
(4)コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含有する組成物。
〔8−2〕以下の(1)、(2)及び(3’)に記載の組成物を含む、全血中のコリンの測定用キット;
(1)ヒドロキシルアミン又はその塩を含有する組成物、
(2)ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムを含有する酸性の組成物、及び
(3’)酸化発色剤、コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含有するpH6〜8.7の組成物。
〔8−3〕組成物(1)が塩酸ヒドロキシルアミンを含有する組成物であり、組成物(2)がヨウ素酸カリウムを含有する酸性の組成物である、前記〔8〕又は〔8−2〕に記載のキット。
〔8−4〕組成物(2)がさらに陽イオン界面活性剤を含有する、前記〔8〕〜〔8−3〕のいずれかに記載のキット。
〔8−5〕組成物(2)がpH3〜5の組成物である、前記〔8〕〜〔8−4〕のいずれかに記載のキット。
〔8−6〕組成物(3)がpH6.5〜8.5の組成物である、前記〔8〕及び〔8−3〕〜〔8−5〕のいずれかに記載のキット。
なお、上記の記載において、「前記〔1〕〜〔1−7〕」のように引用する項番号が範囲で示され、その範囲内に〔1−2〕等の枝番号を有する項が配置されている場合には、〔1−2〕等の枝番号を有する項も引用されることを意味する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、酵素法によって全血中に存在するコリンをより正確に測定する方法を提供することができる。また、そのような測定を行うための測定用組成物等も提供することができる。これらの測定方法及び測定用組成物等は、各種疾患の診断等にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の全血中のコリン測定方法の測定原理の一例を示す図である。
【図2】実施例3の試薬組成で、0.033、0.082、0.163及び0.326mmol/Lの各DA−67濃度で、試薬ブランクと100μmol/Lコリン溶液の吸光度を2重測定した平均値を示す。
【図3】実施例4の試薬組成で、主波長660nmに対して副波長700、750又は800nmの各波長を組み合わせ、試薬ブランクと100μmol/Lコリンの吸光度を2重測定した平均値を示す。
【図4】実施例5の試薬組成で、溶血させた全血と混合する際のヨウ素酸カリウム濃度が、0、49、98及び196mmol/Lの各濃度の場合の50μmol/Lコリンの添加回収率(%)を示す。
【図5】実施例6の試薬組成で、溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際のヨウ素酸カリウム濃度が45又は90mmol/Lの場合に、8つの異なる濃度の塩酸ヒドロキシルアミンを使用したときの、50μmol/Lコリンの添加回収率(%)を示す。
【図6】実施例7の試薬組成で、溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド濃度が、0、0.023、0.034及び0.045%の場合の50μmol/Lコリンの添加回収率(%)を示す。
【図7】実施例8の試薬組成で、溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際、90mmol/Lのヨウ素酸カリウム濃度に対して、8つの異なる濃度の塩酸ヒドロキシルアミンを使用したときの、50μmol/Lコリンの添加回収率(%)を示す。
【図8】実施例9の試薬組成で、5.0〜100.0μmol/Lのコリン溶液を測定して得た希釈直線性を示す。
【図9】実施例10において、±3SD法で最小検出感度(n=3)を求めるために、1.0〜10.0μmol/Lのコリン溶液を測定した結果を示す。
【図10】実施例14において、表4に示すa〜eの各検体を2重測定した平均値を示す。
【図11】実施例15において、表5に示す各干渉物質存在下で測定したコリン濃度を、対照の生理食塩水中での測定値を100%としたときの誤差%として示す。
【図12】実施例16における健常者の全血中のコリン濃度測定結果の分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について、具体的に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施の形態は、一態様において、コリンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び酸化発色剤を用いた全血中のコリンの測定方法であって、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程を含むことを特徴とする測定方法である。
本実施の形態は、一態様において、以下の工程(a)〜(e)を含む、全血中のコリンの測定方法に関する;
(a)全血を溶血させる工程(溶血工程);
(b)溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、及びヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程(反応工程);
(c)工程(b)の溶液のpHを中性付近に調整する工程(pH調整工程);
(d)コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程(過酸化水素生成工程);及び
(e)工程(d)で生成した過酸化水素の濃度を測定する工程(測定工程)。
【0021】
本実施の形態において、コリン(Choline、Cholin)とは、化学式(CH3)3N+CH2CH2OHで表される化合物であり、公知のコリン及びその塩を含む。塩化コリンなどで例示されるような塩である場合、対イオンによって限定されないが、全血などの生体中に通常存在する対イオンが望ましい。コリンは、細胞膜の構成成分であり、全血中に通常含まれていると予想される。本実施の形態の測定方法の測定対象は、全血中の遊離コリンである。
【0022】
本実施の形態において、「全血」とは、血球を分離していない血液である。本実施の形態の全血には、意図して溶血させた、又は意図せずに溶血した血球成分が含まれていてもよい。本実施の形態の全血は、採血管に含まれるエチレンジアミン四酢酸二カリウム塩又は二ナトリウム塩、ヘパリン、フッ化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、モノヨード酢酸等の抗凝固剤や解糖阻止剤を含んでもよく、採血の際に汎用されるという観点からエチレンジアミン四酢酸やヘパリン採血管で採血した全血が好ましい。採血管を使用せず、自己血糖測定等に用いられる穿刺器具等により採血した全血でもよい。穿刺部位は全血が得られる限り特に制限されないが、通常は指先、前腕、上腕、腹壁等であり、健康診断の場合は通常前腕である。採血量は、全血中のコリンを測定できる限り限定されず、使用する採血管の採血量(通常は概ね10mL以下)に合わせればよい。採血管を使用しない場合はそれ以上の採血が可能であるし、穿刺器具等を使用する場合は通常採血量は0.2mL以下である。
【0023】
本実施の形態の測定方法で測定するコリンは、通常は全血中に存在する。全血を比重、分離方法等によって、または成分の機能によって、例えば赤血球、白血球、血漿、血清等に区別する場合は、その全てに存在し得る。従って、本実施の形態の測定方法によれば、血液中の種々の成分、特に、赤血球由来の成分の存在下でも、全血中のコリンを測定することができるため、測定に使用する全血は赤血球中の成分が混在していてもよく、溶血した全血であってもよい。溶血した全血を測定に用いることにより、赤血球中に存在するコリンも測定することができる。
【0024】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法における全血は、コリンを含有すると予想される全血であってもよい。コリンが全血中に含まれているかの判断を、本実施の形態の測定方法を実施する前に行ってもよく、その際、例えば、LC/MS/MS等の従来技術の方法により判断してもよいし、本実施の形態の測定方法を用いて判断してもよい。
【0025】
本実施の形態の測定方法で測定するコリンが存在する全血の由来は限定しないが、例えば実験動物由来の場合はサル、イヌ、ミニブタ、ラット、マウス、モルモット、ウサギ等由来の全血が例示され、後述する疾患のモデル動物由来の全血であることが好ましい。本実施の形態の測定方法をヒトにおける各種疾患の検査に用いる場合、ヒト由来の全血が測定対象として好ましい。
【0026】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法において、全血は希釈してもよい。全血を希釈するとは、全血を全血以外の溶液(希釈液)と混合することを指し、例えば精製水、塩化ナトリウムを含む水溶液、後述の実施例で用いる組成物(試薬(R−1)、(R−2)、(DIL))を希釈液として用いてもよく、通常は精製水や塩化ナトリウムを用いる。全血の希釈は、以下に詳述する(a)溶血工程や、(b)反応工程の前、後又はいずれかの工程と同時に行ってもよいが、(a)溶血工程及び(b)反応工程の前に行うことが好ましい。一態様において、希釈液の種類によっては(a)溶血工程と同時に全血の希釈を行うことが好ましい。
【0027】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法に使用する全血(検体量)は使用する機器等によっても異なるが、例えば後述の実施例に示した手法に準じて測定を行う場合、1〜40μL程度、好ましくは2〜25μL程度である。全血を希釈する場合は、希釈液にて1.1〜100倍、好ましくは2〜50倍程度に全血を希釈する。全血を希釈した場合も、使用する希釈した全血は1〜40μL程度、好ましくは2〜25μL程度である。
【0028】
一態様において、本実施の形態の全血中のコリンの測定方法は、(a)全血を溶血させる工程(溶血工程)を含む。「全血を溶血させる」とは、全血中の赤血球や白血球を溶解すること、すなわち血球の細胞膜を破壊することを指し、例えば界面活性剤を含む溶液、サポニン類溶液又は低張液等の溶血剤と混合する方法により行ってもよいし、凍結融解、超音波処理、加圧処理などの物理的処理を含む方法により行ってもよい。好ましくは、本実施の形態の(a)溶血工程は、界面活性剤を含む溶液と混合することにより行う。界面活性剤はタンパク質変性作用があるため、溶血効果と同時にヘモグロビン変性が起こり、吸光光度法を利用してコリン濃度の測定を行う場合、吸光度の安定化効果も得ることができる。溶血の有無は、顕微鏡を用いて、全血中に公知の形状の赤血球が存在するかを観察することで確認することができる。好ましくは、(a)溶血工程は、顕微鏡にてほぼ全ての赤血球が観察されない程度にまで溶血させる。
【0029】
(a)溶血工程において界面活性剤を用いる場合、該界面活性剤は、全血中のコリン測定に影響せずに全血を溶血することができる限り限定されず、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれを用いてもよいが、酵素を共存させる場合は酵素が不安定化しにくいという観点から非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。非イオン性界面活性剤は1種を単独で用いることが好ましいが、複数種を同時に用いることもできる。
【0030】
(a)溶血工程において非イオン性界面活性剤を用いる場合、溶血効果を高めるという観点から、該非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられるが、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルにおけるアルキル基としては、オクチルやノニル等C7〜C10のアルキル基が好ましく、例えばノニオンHS210(日本油脂株式会社)、ノニルフェニルエーテル(和光純薬工業株式会社)、TritonX−100(和光純薬工業株式会社)、エマルゲン920(花王株式会社)等が挙げられ、特にTritonX−100が好ましい。その他の非イオン界面活性剤としては、オクチルグルコシド、ヘプチルチオグルコシド、デカノイル−N−メチルグルカミド、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプタメチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトールエステル等が挙げられる。
【0031】
(a)溶血工程において陽イオン界面活性剤を用いる場合、該陽イオン界面活性剤については後述の(b)反応工程において用いることができる陽イオン界面活性剤と同様のものを用いることができる。
【0032】
(a)溶血工程において陰イオン界面活性剤を用いる場合、該陰イオン界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシル−N−サルコシン酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム等が挙げられる。
【0033】
(a)溶血工程において両性界面活性剤を用いる場合、該両性界面活性剤としては、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸、パルミトイルリゾレシチン、ドデシル−N−ベタイン、ドデシル−β−アラニン等が挙げられる。
【0034】
(a)溶血工程において界面活性剤を使用する場合、その濃度は、全血中のコリンの測定に影響せず、全血を溶血することができる濃度であれば特に限定されず、溶血時の濃度の下限は0.0001(w/v)%以上であり、好ましくは0.001(w/v)%以上であり、更に好ましくは0.01(w/v)%以上である。上限は10(w/v)%以下であり、好ましくは5(w/v)%以下であり、更に好ましくは2(w/v)%以下である。複数の界面活性剤を用いる場合、好ましい界面活性剤濃度は変動することがあるが、通常はそれぞれについて上記の範囲である。
【0035】
(a)溶血工程には所望によりpH緩衝剤を用いることができる。pH緩衝剤を用いる場合、該pH緩衝剤は、全血中のコリン測定に影響せず、全血を溶血することができれば限定されない。(a)溶血工程と後述の(b)反応工程を同時に行う場合は、後述の(b)反応工程と同様の条件のpH緩衝剤の使用が好ましい。
【0036】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法は、(b)溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程(反応工程)を含む。この反応工程は、本実施の形態の全血中のコリンの測定方法において、全血中のコリンから過酸化水素を生成して測定する際の誤差を回避するために、測定に先立って行われる工程である。
【0037】
好ましい一態様において、上記の(b)反応工程は、溶血させた全血中の還元性物質を、ヒドロキシルアミン又はその塩を含む溶液中で、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムにより酸化する工程(酸化工程)である。血球中には種々の還元性物質が存在しており、還元性物質は、過酸化水素を還元する作用を有する。したがって、本実施の形態の全血中のコリンの測定方法において、コリンから過酸化水素を生成し、過酸化水素の濃度を測定する際、測定値に負誤差が生じる原因となる。この誤差を回避すべく、測定に先立って、溶血させた全血中の還元性物質をヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムによって酸化することができる。
【0038】
(b)反応工程で用いるヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムは、好ましくはヨウ素酸カリウムである。ヨウ素酸カリウム(Potassium Iodate)は、公知のヨウ素酸カリウムを含み、化学式KIO3で表される。また、ヨウ素酸ナトリウム(Sodium Iodate)は、公知のヨウ素酸ナトリウムを含み、化学式NaIO3で表される。(b)反応工程における溶液中のヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度は、コリンの測定値に対する全血中の還元性物質の影響を実質的に回避することができる限り特に限定されないが、下限としては10mmol/L以上が例示され、30mmol/L以上が好ましく、45mmol/L以上がより好ましく、50mmol/L以上がさらに好ましい。上限としては200mmol/L以下が例示され、150mmol/L以下が好ましく、90mmol/L以下がより好ましく、80mmol/L以下がさらに好ましい。
【0039】
なお、還元性物質の影響を「実質的に回避する」とは、本実施の形態において、全血中のコリンの測定値に実質的に影響を与えない程度に還元性物質の影響を回避することを意味する。具体例としては、例えば、全血中にコリンを添加し本実施の形態の測定方法を用いてコリンを測定した際、後述の実施例に記載の手法に準じて算出した全血中にコリンを添加した場合の添加回収率が50%以上であればよく、好ましくは80%以上であり、より好ましくは、90%以上である。また本実施の形態の全血中のコリンの測定方法を、疾患の検査に用いる場合、測定値に基づく疾患の診断上問題がない程度に還元性物質の影響を回避することが好ましく、より具体的には、疾患によって変動し得るが、後述の実施例に記載の手法に準じて算出した全血中にコリンを添加した場合の添加回収率が、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。
【0040】
(b)反応工程で用いるヒドロキシルアミン又はその塩としては、ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン又は硝酸ヒドロキシルアミンが例示され、好ましくは塩酸ヒドロキシルアミンである。塩酸ヒドロキシルアミンは塩化ヒドロキシルアンモニウム(Hydroxylammonium chloride)とも言い、化学式NH2OH・HClで表される。上記のヒドロキシルアミン又はその塩は、還元剤として一般的に利用される。本発明者らは、(b)反応工程が行われる溶液中にヒドロキシルアミン又はその塩が存在することにより、驚くべきことに、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムのみを用いた場合と比較して、血中に存在する還元性物質の影響を、より効率よく回避できることを見出した。(b)反応工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度は、全血中に存在する還元性物質の影響を実質的に回避することができる限り特に限定されないが、下限としては10μmol/L以上が例示され、33μmol/L以上が好ましく、63μmol/L以上がより好ましく、70μmol/L以上がさらに好ましくい。上限としては200μmol/L以下が例示され、142μmol/L以下が好ましく、92μmol/L以下がより好ましく、85μmol/L以下がさらに好ましい。
【0041】
一態様において、(b)反応工程における溶液は、さらに陽イオン界面活性剤を含む。理論に束縛されるものではないが、この陽イオン界面活性剤は、(b)反応工程で酸化された全血中の還元性物質(例えば、還元性物質であるメトヘモグロビンを酸化して得られた不安定なデオキシヘモグロビン)を安定化し、これにより、全血中に存在する還元性物質の影響を、さらに効率よく回避する働きを有すると考えられる。
【0042】
(b)反応工程に用いる陽イオン界面活性剤としては、溶血させた全血中に存在する還元性物質の影響を実質的に回避することができる限り特に限定されないが、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルアンモニウムブロミド、ドデシルピリジニウムクロリド、ヘキサデシルピリジニウムクロリド、ヘキサデシルピリジニウムブロミド、1−ラウリルピリジニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられ、全血中の還元性物質の影響をより効率よく回避するという観点から、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドが好ましい。
【0043】
(b)反応工程における溶液中の陽イオン界面活性剤濃度は、溶血させた全血中に存在する還元性物質の影響を実質的に回避することができる限り限定されないが、下限としては、0.027%以上であればよく、0.031%以上が好ましい。上限としては、該界面活性剤が溶解する限り特に限定されないが、0.045%以下が好ましい。
【0044】
本実施の形態の(b)反応工程に使用する溶血させた全血の量は使用する機器等によっても異なるが、例えば後述の実施例に示した手法に準じて測定を行う場合、1〜40μL程度、好ましくは2〜25μL程度である。全血は、溶血剤にて1.1〜100倍、好ましくは2〜50倍程度に希釈されていてもよく、この場合も、使用する希釈した溶血させた全血は1〜40μL程度、好ましくは2〜25μL程度である。
【0045】
(b)反応工程が行われる反応溶液中の試薬の量は、測定に使用する機器等によっても異なるが、例えば後述の実施例に示した手法に準じて測定を行う場合、50〜250μL、好ましくは100〜200μL程度である。従って、(b)反応工程が行われる溶液に対する全血の希釈率は、下限としては0.004%以上が例示され、0.04%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.4%以上がさらに好ましい。上限としては80%以下が例示され、25%以下が好ましく、2.45%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましい。(b)反応工程が行われる溶液全体の量としては、50〜500μLが例示され、好ましくは200〜400μLである。
【0046】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法において、上記の(a)溶血工程の後、(b)反応工程を行ってもよいし、(a)溶血工程と(b)反応工程を同時に行ってもよい。簡便性の観点からは、(a)溶血工程と(b)反応工程を同時に行うことが好ましい。使用する試薬によっては、(a)溶血工程の後(b)反応工程を行うことが好ましい別の態様もある。
【0047】
例えば、(b)反応工程における溶液がさらに陽イオン界面活性剤を含み、(a)溶血工程と(b)反応工程を同時に行う場合、(b)反応工程に用いる陽イオン界面活性剤を用いて全血を溶血させ、同時に(a)溶血工程を行うことが、簡便性の観点から好ましい。
【0048】
(b)反応工程は、全血中に存在する還元性物質の影響を回避する効果を高めるという観点から、適宜pH緩衝剤を含む溶液中で行うことが好ましい。緩衝剤の使用により、血色素を安定化するという効果も期待できる。pH緩衝剤は、目的のpHを保つことができれば限定されないが、グッドのpH緩衝液(MES、Bis−Tris、ADA、PIPES、ACES、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPS等)、Tris緩衝液、ジエタノールアミン緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン緩衝液、硼酸緩衝液、リン酸緩衝液、グリシルグリシン緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、マレイン酸緩衝液、トリスエタノールアミン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を例示することができる。これらの緩衝液は塩酸などの強酸やNaOHなどの強アルカリで緩衝剤として使用可能なpH範囲に調整して使用する。また、2種以上の緩衝剤を組み合わせて使用してもよい。全血中に存在する還元性物質の影響を回避する、血色素を安定化する、及び後述の(c)pH調整工程を容易に行うという観点から、(b)反応工程が行われる溶液中のpHは、下限としてはpH2.5以上、好ましくはpH3.0以上、更に好ましくはpH3.5以上が例示され、上限としてはpH5.5以下、好ましくはpH5.0以下、更に好ましくはpH4.5以下が例示される。また、pH緩衝剤の濃度は低い方が好ましく、下限としては3mmol/L以上、好ましくは5mmol/L以上、更に好ましくは10mmol/L以上が例示され、上限としては200mmol/L以下、好ましくは100mmol/L以下、更に好ましくは50mmol/L以下が例示される。
【0049】
一態様において、本実施の形態の全血コリンの測定方法は、(b)反応工程の後、(c)工程(b)の溶液のpHを中性付近に調整する工程(pH調整工程)を含む。(c)pH調整工程は、その後の(d)過酸化水素生成工程で、コリンオキシダーゼを用いたコリンからの過酸化水素生成を容易にする目的で実施される工程である。本実施の形態において、中性付近とは、強酸性でも強アルカリ性でもない状態を意味し、弱酸性や弱アルカリ性も含み、その後の(d)過酸化水素生成工程及び(d)測定工程を実施することができる限り限定されない。例えば、中性付近のpHとしては、下限としては、pH6.0以上が例示され、pH6.2以上が好ましく、pH6.5以上がより好ましく、pH6.8以上がさらに好ましい。上限としてはpH8.7以下が例示され、pH8.5以下が好ましく、pH8.2以下がより好ましく、pH7.8以下がさらに好ましく、pH7.5以下が特に好ましい。また、本実施の形態において、「溶液のpHを中性付近に調整する」こととしては、溶液のpHを調整前のpHよりもpH7に近づけることが挙げられる。
【0050】
(c)pH調整工程は、pH緩衝剤を用いてpHを調節することにより行うことができる。用いることのできるpH緩衝剤は、(b)反応工程に関連して記載したものと同様である。(c)pH調整工程で調整後の溶液のpHは、下限としてはpH6以上、好ましくはpH6.2以上、更に好ましくはpH6.5以上が例示され、上限としてはpH8.7以下、好ましくはpH8.5以下、更に好ましくはpH8.2以下が例示される。(c)pH調整工程で調整後の溶液中のpH緩衝剤の濃度は、下限としては20mmol/L以上、好ましくは50mmol/L以上、更に好ましくは100mmol/L以上が例示され、上限としては1M以下、好ましくは500mmol/L以下、更に好ましくは300mmol/L以下が例示される。
【0051】
一態様において、本実施の形態の全血コリンの測定方法は、(d)コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程(過酸化水素生成工程)を含む。(d)過酸化水素生成工程では、コリンオキシダーゼを作用させて全血中のコリンをベタイン及び/又はベタインアルデヒドと過酸化水素に分解する。
【0052】
(d)過酸化水素生成工程で使用するコリンオキシダーゼは(choline oxidase、CODと略す場合がある)は、EC 1.1.3.17と分類される酵素を含み、コリンから過酸化水素を生成する作用を有するものであれば特に限定されず、コリンをベタインアルデヒド及び/又はベタインと過酸化水素に酸化する作用を有するものが好ましい。CODの至適pHは7.5〜8.0であり、pH安定性は7.5〜9.0の間であり、至適温度は37℃で付近である。CODの二次構造、三次構造及び四次構造、性質、純度、由来、商品名及び価格は限定されない。CODの好適な例としてはArthrobacter globiformis由来COD(旭化成ファーマ株式会社(T−05))が挙げられる。(d)過酸化水素生成工程を行う際の溶液中のCODの濃度は、全血中のコリンが過酸化水素に変換され、その後の(e)測定工程を実施することができる限り特に限定されないが、下限としては1U/mL以上、好ましくは5U/mL以上、更に好ましくは10U/mL以上が例示され、上限は特に設けないが、200U/mL以下、好ましくは100U/mL以下、更に好ましくは80U/mL以下が例示される。使用する酵素の量は、試薬の安定性という観点からは多い方が好ましく、経済性の観点からは少ない方が好ましい。レートアッセイを行う場合には使用する酵素の濃度は低い方が好ましく、下限としては0.01U/mLが例示される。なお、酵素活性値は酵素活性測定方法により変動する場合がある。
【0053】
(d)過酸化水素生成工程は、CODの反応性を高めるという観点から、適宜pH緩衝剤を用いて実施することが好ましい。用いることのできるpH緩衝剤は、(b)反応工程に関連して記載したものと同様である。(d)過酸化水素生成工程を実施する際の溶液中のpHは、下限としてはpH6以上、好ましくはpH6.5以上、更に好ましくはpH7以上が例示され、上限としてはpH9.0以下、好ましくはpH8.5以下、更に好ましくはpH8以下が例示される。pH緩衝剤の濃度は目的のpHを保つことができる限り特に限定されないが、下限としては3mmol/L以上、好ましくは5mmol/L以上、更に好ましくは10mmol/L以上が例示され、上限としては500mmol/L以下、好ましくは200mmol/L以下、更に好ましくは100mmol/L以下が例示される。
【0054】
一態様において、本実施の形態の全血コリンの測定方法は、(e)工程(d)で生成した過酸化水素の濃度を測定する工程(測定工程)を含む。過酸化水素の濃度の測定は、簡便性、正確性等の観点から、好ましくは定量分析に行うことができ、更に好ましくは、過酸化水素の定量分析を、酸化発色剤を用いて色素を生成させて吸光度を測定し、比色分析により行うことができる。例えば、コリンが含まれている可能性のある全血(測定対象)と、コリンを既知の濃度で含む試料(標準液)を、それぞれ個別に同様の工程で処理して、コリンから過酸化水素を生成させ、酸化発色剤を用いて色素の生成量(変化量)を検出する。測定対象における色素の生成量と、標準液における色素の生成量とを比較することにより、測定対象中のコリン濃度を定量することができる。
【0055】
一態様において、(e)測定工程は、過酸化水素をペルオキシダーゼ(POD)の存在下、酸化発色剤としてロイコ型色素を用いて発色させて行うことができる。ロイコ型色素の具体例としては、O−ジアニシジン、O−トリジン、3,3−ジアミノベンジジン、3,3,5,5−テトラメチルベンジジン(以上同人化学研究所社)、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4−ビス(ジメチルアミノ)ビフェニルアミン(DA64)、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(DA67)等が挙げられる。一態様において、特に全血中の血色素の測定への影響を回避するために、血色素の吸収波長と重複しない、600nm以上の波長を有する酸化発色剤を用いることが好ましい場合がある。そのような酸化発色剤として、例えば、DA67(極大吸収666nm)が挙げられる。
【0056】
(e)測定工程において、DA64やDA67などのロイコ型色素を使用する場合、紫外線や可視光線を吸収する効果のある色素を共存させる公知の方法(特開2008−201968等参照)を適応してロイコ型色素を安定化する事ができる。そのような安定化色素としてはオレンジG、オレンジII、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号が挙げられ、DA67の安定化効果が高いという観点からは、オレンジGが好ましい。安定化色素の濃度は、全血中のコリンの測定値に影響せず、ロイコ型色素を安定化できる限り限定されず、下限としては0.01mmol/L以上であり、好ましくは0.05mmol/L以上であり、更に好ましくは0.1mmol/L以上である。上限としては1mmol/L以下であり、好ましくは0.5mmol/L以下であり、更に好ましくは0.2mmol/L以下である。複数の安定化色素を用いる場合、好ましい濃度は変動することがあるが、通常はそれぞれについて上記の範囲である。
【0057】
(e)測定工程において、DA64やDA67などのロイコ型試薬を使用する場合、還元剤を共存させる公知の方法(特開2008−201968等参照)を適応してロイコ型色素を安定化する事ができる。そのような還元剤としてはシステイン、システアミン、N−アセチルシステイン、チオグリセロール、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウムが挙げられ、DA67の安定化効果が高いという観点からは、チオ硫酸ナトリウムが好ましい。還元剤の濃度は全血中のコリンの測定値に影響せず、ロイコ型色素を安定化できる限り限定されず、下限としては0.1mmol/L以上であり、好ましくは0.5mmol/L以上であり、更に好ましくは1mmol/L以上である。上限としては200mmol/L以下であり、好ましくは100mmol/L以下であり、更に好ましくは50mmol/L以下である。複数の還元剤を用いる場合、好ましい濃度は変動することがあるが、通常はそれぞれについて上記の範囲である。
【0058】
(e)測定工程において、酸化発色剤を用いる場合、例えば後述の実施例を参照し、当業者に公知の手法を用いて酸化発色剤に対応する主波長に加えて、適宜各測定に適切な副波長を選択して測定値の補正を行うことにより、より正確な測定を行うことができる。
【0059】
(e)測定工程において、ペルオキシダーゼ(peroxidase、PODと略す場合がある)を使用する場合、PODは、過酸化水素によって酸化発色剤を発色させることができる限り限定されないが、EC 1.11.1.7と分類される酵素が好ましい。PODの至適pHは6〜7であり、pH安定性は5〜10の間であり、至適温度は45℃付近である。PODの二次構造、三次構造及び四次構造、性質、純度、由来、商品名並びに価格等は限定されない。PODの好適な例としては西洋わさび等の植物由来(SIGMA(P8375等)、天野エンザイム(株))の汎用酵素が挙げられる。使用するPODの濃度は、(d)過酸化水素生成工程におけるCODの濃度に関する記載を参照して決定することができる。
【0060】
(e)測定工程は、過酸化水素をペルオキシダーゼ(POD)の存在下、酸化発色剤であるトリンダー試薬等の色原体と、カップラーとの酸化縮合により色素を生成させて定量することにより行うこともできる。この場合、酸化発色剤としては、フェノール誘導体、アニリン誘導体、トルイジン誘導体等が使用可能であり、具体例としてN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、2,4−ジクロロフェノール、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメチルアニリン(MAPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン(TOOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−m−アニシジン(ADPS)、N−エチル−N−スルホプロピルアニリン(ALPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(DAPS)、N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(HDAPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−m−トルイジン(TOPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−m−アニシジン(ADPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)アニリン(ALOS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−スルホプロピル−アニリン(HALPS)(以上同人化学研究所社)等が挙げられる。カップラーの例としては、4−アミノアンチピリン(4−AA)、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)等が挙げられる。
【0061】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法において、上記の各工程は、不連続又は同時に実施することができ、全血の由来、全血中のコリンの濃度、測定の目的、使用する装置等に応じて好ましい結果が得られるように各工程を実施する順序を決定し得る。すなわち、各工程は任意の順に行ってもよく、2つ以上を同時に行ってもよい。例えば、(a)溶血工程と(b)反応工程についての可能な態様は上述の通りであるし、(b)反応工程の後に(c)pH調整工程及び(d)過酸化水素生成工程を同時に行う態様;(b)反応工程の後に(c)pH調整工程、(d)過酸化水素生成工程及び(e)測定工程を同時に行う態様;(b)反応工程の後に(c)pH調整工程を行い、その後、(d)過酸化水素生成工程及び(e)測定工程を同時に行う態様;(b)反応工程の後に(c)pH調整工程を行い、その後、(d)過酸化水素生成工程を行い、その後、(e)測定工程を行う態様;並びにこれらの組み合わせの態様も可能である。
【0062】
好ましい態様としては、(a)溶血工程と(b)反応工程を同時に行い、次いで(c)pH調整工程を行い、その後、(d)過酸化水素生成工程を行い、その後、(e)測定工程を行う態様が挙げられる。
【0063】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法は、各工程をそれぞれ別異の反応槽(相)、で実施しても、同一反応槽(相)で実施してもよい。一態様において、全血を希釈して測定に用いる場合、全血の希釈のみ個別の反応槽(相)で実施することが好ましい。
【0064】
本実施の形態において、各工程の反応時間は、全血中のコリンを測定することができる限り限定されないが、それぞれ、下限が15秒以上、好ましくは1分以上、更に好ましくは3分以上である。上限は特に設けないが、好ましくは30分以下、更に好ましくは15分以下、特に好ましくは10分以下であり、各工程の反応時間は不均等であってもよい。各工程を実施する際の温度は、全血中のコリンを測定することができる限り限定されず、各工程の温度は不均等であってもよい。各工程に酵素を用いる場合には、使用する酵素の作用温度の範囲内で各工程を実施することが好ましく、下限は15℃以上、好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上が例示され、上限は70℃以下、好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下が例示され、好適には37℃付近で各工程を実施する。
【0065】
一態様において、本実施の形態の全血中のコリンの測定方法として好適な例は、全血2〜30μLと、少なくとも塩酸ヒドロキシルアミンを含む組成物50〜250μLとを混和する。次に該混合物2〜30μLと、少なくともヨウ素酸カリウム及び陽イオン界面活性剤を含むpH3〜5の組成物50〜250μLとを、別異の反応槽にて混和し、溶血させた全血、ヨウ素酸カリウム及び塩酸ヒドロキシルアミンを共存させる。次いで、少なくとも酸化発色剤を含むpH6.5〜8.5の組成物50〜250μLを同反応槽に加え、最後に少なくともPODとCODを含む組成物50〜250μLを同反応槽に加え、CODによりコリンから過酸化水素を生成し、この過酸化水素をPOD及び酸化発色剤で発色させる。
【0066】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法は、液相で実施する事が好ましいが、気相又は固相あるいはそれぞれの臨界面で実施してもよい。液相としては、溶液のほか、例えばゾル・ゲルが挙げられる。ゾル・ゲルとするためには、例えば、寒天等の多糖類を利用すればよい。ゾル・ゲルと乳濁液を区別する場合、乳濁液中で実施してもよい。乳濁液とするためには、例えば、有機溶媒等を利用すればよいし、両親媒性物質を利用すればミセルとして実施することもできる。いずれの場合も、pH緩衝剤を用いる場合は上記の記載を参照することができる。利便性という観点からは、本実施の形態の全血中のコリンの測定方法は、好ましくは水溶液中で実施する。
【0067】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法の測定原理の一例を図1に示した。CODの作用により1分子のコリンから2分子の過酸化水素が発生する。PODの作用で、この過酸化水素がDA−67を酸化し、生成したメチレンブルーの呈色を666nmの測定波長で比色定量する。
【0068】
本実施の形態は、一態様において、上記全血中のコリンの測定方法を用いる、急性心筋梗塞、安定狭心症及び非Q波(心内膜下)心筋梗塞の検査方法を含む。非特許文献1は、急性心筋梗塞、安定狭心症及び非Q波(心内膜下)心筋梗塞を含む有害心イベントと全血中のコリン濃度の関係を示す。非特許文献1によれば、全血中及び血漿中のコリンは、年齢、性別、心筋梗塞の既往や冠動脈リスク要因、心電図に依存しない主要有害心イベントの予測マーカーである。また、全血中のコリンはホスホリパーゼD(PLD)活性の増加、血小板の反応性亢進、冠動脈不安定プラークの脆弱性を反映し、不安定プラーク周辺の細胞浸潤や活性化における多くの重要な過程が、血液細胞内のコリン濃度変化としてあらわれる。そのため、全血中及び血漿中のコリンが組織の虚血に関わるが、全血コリンは特に冠動脈不安定プラークのリスクを検出するのに役立つ。不安定プラークによる早期の主要有害心イベントの検出のためには、血漿中のコリンよりも全血中のコリン濃度測定の意義が高い(Oliver Danneら、Clin.Chem、51巻、7号、1315−1317頁、2005年)。非特許文献1では、主要有害心イベントに対するカットオフ値は全血中のコリンで28.2μmol/Lである。血漿中のコリンのカットオフ値は決められていないが、99パーセンタイルのカットオフ値が25.0μmol/Lであり、低カットオフ値が18.5μmol/Lである。また高リスクの不安定狭心症に対する感度及び特異度は86%と報告された。従って、被験者由来の全血を測定対象として、本実施の形態の全血コリンの測定方法を実施することにより、被験者が上記の疾患に罹患しているか検査することができる。また、Martin Mockelら、Clinica. Chimica. Acta、393巻、103−109頁、2008年では、NT−proBNP、全血中のコリン及びリポタンパク質関連ホスホリパーゼA2(Lp−PLA2)の組み合わせが、早期リスク層別化に最適と報告されているため、本実施の形態の全血コリンの測定方法と組み合わせて、公知の手法を用いてLp−PLA2を測定することによって、さらに早期リスク層別化を行い得る。
【0069】
上記に詳しく説明したような本実施の形態の全血中のコリンの測定方法によれば、血球由来の各種還元性物質の混在する全血中のコリンであっても、非常に正確に、高感度に測定することができる。例えば、2μmol/Lという非常に微量のコリンであっても正確に測定することができる。従って、上記の疾患の検査に非常に有用である。
【0070】
本実施の形態の全血中のコリンの測定方法に用いられる組成物は、全血中のコリンの測定用組成物又は測定用キット(本明細書中において、「測定用組成物等」ともいう)とすることができる。
【0071】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用組成物は、好ましくは、少なくとも、ヒドロキシルアミン又はその塩、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウム、コリンオキシダーゼ、陽イオン界面活性剤、酸化発色剤及びペルオキシダーゼを含有し、より好ましくは、少なくとも、塩酸ヒドロキシルアミン、ヨウ素酸カリウム、コリンオキシダーゼ、陽イオン界面活性剤、酸化発色剤及びペルオキシダーゼを含有する。
【0072】
一態様において、本実施の形態は、(1)ヒドロキシルアミン又はその塩を含有する組成物、(2)ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムを含有する酸性の組成物、(3)酸化発色剤を含有する中性付近の組成物、及び(4)コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含有する組成物、を含む全血中のコリンの測定用キットに関する。
【0073】
このうち、(2)ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムを含有する酸性の組成物は、さらに陽イオン界面活性剤を含有するものであってもよい。該陽イオン界面活性剤としては、(b)反応工程に関連して上述した陽イオン界面活性剤が挙げられる。
【0074】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物に含まれる、ヒドロキシルアミン又はその塩、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウム、コリンオキシダーゼ、陽イオン界面活性剤、酸化発色剤及びペルオキシダーゼの種類と有効量、すなわち、該組成物が全血中のコリンの測定用キットとして使用可能な組成物となり得る為に有効な条件等については、上記の全血中のコリンの測定方法を参照することができる。なお、上記(2)の組成物のpHに関しては、上記(b)反応工程の行われる反応溶液のpHに関する記載を参照することができる。また、上記(3)の組成物のpHに関しては、上記(c)pH調整工程で調整後の溶液pHに関する記載を参照することができる。具体的には組成物(3)の中性付近のpHとしては、下限としては、pH6.0以上が例示され、pH6.2以上が好ましく、pH6.5以上がより好ましく、pH6.8以上がさらに好ましく、pH7.0以上が特に好ましく、上限としてはpH8.7以下が例示され、pH8.5以下が好ましく、pH8.2以下がより好ましく、pH8.0以下がさらに好ましい。
【0075】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物は、試薬の感度、正確性、再現性、安定性等の品質を向上する目的等で、前記組成物は、各種塩、各種糖及び/又はアジ化ナトリウムや抗生物質等の防腐剤を含有してもよい。
【0076】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物がNaCl、KCl、NH3Cl等の塩を含有する場合、それぞれの組成物中の該塩の量は、下限値は0.1mmol/L以上、好ましくは5mmol/L以上、更に好ましくは50mmol/L以上が例示され、上限値は特に制限されないが、好ましくは200mmol/L以下、更に好ましくは150mmol/L以下、特に好ましくは120mmol/L以下が例示される。これらの塩は酵素の安定化剤として機能し得る。
【0077】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物が糖を含有する場合、それぞれの組成物中の該糖の濃度は溶解可能な範囲内であれば限定されないが、例えばシュークロースを含有する場合、下限値は全組成物の0.05(w/v)%以上、好ましくは0.1(w/v)%以上、更に好ましくは0.3(w/v)%以上であり、上限値は全組成物の30(w/v)%以下、好ましくは10(w/v)%以下、更に好ましくは5(w/v)%以下である。例えばマンニトールを含有する場合、下限値は全組成物の0.05(w/v)%以上、好ましくは0.1(w/v)%以上、更に好ましくは0.3(w/v)%以上であり、上限値は全組成物の3(w/v)%以下、好ましくは2(w/v)%以下、更に好ましくは1(w/v)%以下である。その他の糖としてはトレハロースやシクロデキストリン等が挙げられる。これらの糖は、酵素や組成物の安定化剤として、また、組成物を凍結乾燥する場合は凍結乾燥賦型剤として、機能し得る。
【0078】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物が防腐剤を含有する場合、該防腐剤の種類や濃度は限定されないが、例えばアジ化ナトリウムの場合、下限値はそれぞれの組成物中の濃度として0.005(w/v)%以上、好ましくは0.01(w/v)%以上、更に好ましくは0.03(w/v)%以上であり、上限値は全組成物の1(w/v)%以下、好ましくは0.5(w/v)%以下、更に好ましくは0.1(w/v)%以下である。例えば抗生物質の場合、下限値は5μg/mL以上、好ましくは10μg/mL以上、更に好ましくは30μg/mL以上であり、上限値は100μg/mL以下、好ましくは75μg/mL以下、更に好ましくは60μg/mL以下である。
【0079】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物がEDTA等のキレート剤を含有する場合、その種類や濃度は限定されないが、例えばEDTAを含有する場合、それぞれの組成物中の濃度として通常は0.05mmol/L以上10mmol/L以下の範囲である。EDTA、EGTA、NAT等のキレート剤は、金属を活性発現に利用するプロテアーゼが組成物中に存在する場合、該活性を阻害する場合がある。
【0080】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットを構成する上記(1)〜(4)の組成物が、牛アルブミン、卵アルブミン、ヒトアルブミン、クリスタリン等のタンパク質を含有する場合、該タンパク質の種類や濃度は限定されないが、例えば牛アルブミンを含有する場合、それぞれの組成物中の濃度として通常は0.01(w/v)%以上5(w/v)%以下の範囲である。これらのタンパク質は、プロテアーゼの基質となるため、酵素の安定化剤となる場合がある。また、凍結乾燥に際しては凍結乾燥賦型剤となり得る。
【0081】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用キットは、更に少なくとも既知量のコリンを含むキャリブレーション試薬を、キットを構成する組成物として含んでもよい。
【0082】
本発明のキャリブレーション試薬は、少なくとも既知量のコリンを含む試薬であればよいが、好ましくはpH緩衝剤、アジ化ナトリウムや抗性物等の防腐剤、糖等の安定化剤を含む試薬であり、これらの種類や濃度等の条件等は上記の組成物の場合と同様である。キャリブレーション方法は、一点検量のほか、多点検量(折れ線やスプライン)や多点検量の直線回帰などを選択することができる。
【0083】
キャリブレーション試薬中のコリンの既知量は特に限定されず、全血中のコリンを正確に測定するために選択すればよい。また、複数の異なる既知量のコリンを含むキャリブレーション試薬を使用してもよい。コリンの場合、下限は1μmol/L以上、好ましくは3μmol/L以上、更に好ましくは5μmol/L以上、上限は80μmol/L以下、好ましくは50μmol/L以下、更に好ましくは30μmol/L以下である。この濃度は、全血中のコリンの測定用キットを用いる測定の目的(対象疾患等)に応じて変化し得る。概濃度は、コリンとコリン以外のキャリブレーション試薬を兼ねるマルチキャリブレーション試薬の場合も同様である。
【0084】
本実施の形態の全血中のコリンの測定用組成物及びキャリブレーション試薬は、液状品、液状品の凍結品、液状品の凍結乾燥品、又は液状品の乾燥品(加熱乾燥、風乾及び/又は減圧乾燥等による)として提供できる。測定精度を考慮すれば、液状品、液状品の凍結品及び液状品の凍結乾燥品が好ましく、使用目的や保存方法、測定精度等に応じて、これらのそれぞれを好ましい形状として選択し得る。本実施の形態の全血中のコリンの測定用組成物は、一試薬の組成物としてもよいが、通常は二試薬以上に分離するのが好ましく、例えば、上記の測定用キットのように、4以上の試薬に分離することができる。また、例えば、ポイントオブケア装置のキャピラリーへの使用、又は酵素センサーとしての使用の場合、各成分の濃度は通常よりも濃い濃度が好ましく、例えば、固定化したり、紙や膜に染み込ませたり、ゲル・ゾル状組成物としたりして使用することが好ましい。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例等に限定して解釈されるものではない。
本実施例では、市販され容易に入手することができる任意の試薬類を使用することができる。試薬メーカー、純度、価格等は特に限定されず、必要に応じて当業者であれば適宜選択して用いることができる。また、以下に示した測定値等は、様々な条件、例えば、試薬の純度、測定の条件、使用機器の精度等、使用機器の置かれた温度や気圧等の雰囲気により変化し得るが、同条件で測定した場合には以下の実施例等で得られたものと同じ傾向を示す結果が得られることは当業者であれば容易に理解できるであろう。なお、実施例中の%は、特筆しない限りw/v%を意味する。
本実施例等では、N−エチルマレイミド、L−アラニン、L−セリン、L−カルニチン、還元型グルタチオン、L(+)アスコルビン酸、尿酸、塩酸ヒドロキシルアミン(製品名:塩化ヒドロキシルアンモニウム)、ヨウ素酸カリウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、DA−67、塩化コリン、及びチオ硫酸ナトリウムは和光純薬工業株式会社から、クレアチニン一水和物は半井化学薬品から、TritonX−100、及びウシアルブミンはシグマアルドリッチ社(St.Louis、USA)から、オレンジGは関東化学から購入したものを使用した。その他の試薬類は、特に断らない限り、和光純薬工業株式会社、シグマアルドリッチ社等から購入したものを使用した。PODはオリエンタル酵母工業社製(わさび由来、POD−03)、CODは旭化成ファーマ株式会社社製(Arthrobacter gloobiformis由来、T−05)を使用した。
【0086】
<使用機器>
分析には日立分光光度計U−2810及び自動分析装置として日立7170形自動分析装置(日立ハイテクノロジーズ)を用いた。pHメーターは、ガラス電極式水素イオン濃度指示計(岩城硝子)を25℃で使用した。
【0087】
<測定試薬>
自動分析装置における測定試薬として、希釈液(DIL)、第一試薬(R−1)、第二試薬(R−2)、及び第三試薬(R−3)を作製した。(DIL)、(R−1)、(R−2)、及び(R−3)の組成は、必要に応じて各実施例に示した。
【0088】
<自動分析装置使用条件>
自動分析装置での反応は37℃で行った。
前希釈を行う場合(DILを使用する場合):測定用検体(全血、標準液等)17μLに(DIL)85μLを加えて、これを分析用検体とした。分析用検体から20μLを反応容器に分注し、(R−1)180μLと混和して1分25秒後に(R−2)90μLを混和し、さらに3分35秒後に(R−3)20μLを混和し、その1分2秒後に主波長660nm、副波長800nmの2ポイントエンド法にて比色定量を行った。
前希釈を行わない場合(DILを使用しない場合):測定用検体(全血、標準液等)より3.5μLを反応容器に分注し、その他の条件は「前希釈を行う場合」と同様の測定方法で測定した。
【0089】
<標準液>
塩化コリン147mgを精製水100mLに溶解し、これをコリンの標準原液とした。測定材料として使用する際に精製水で100倍希釈して100μmol/Lコリン標準液とした。
【0090】
<全血検体>
全血検体は、EDTA−2Na入りの採血管(テルモ株式会社、ベネディクトII真空採血管)で採血を行った検体を用いた。なお、全血検体はすべて、同意書により採血の同意の得られた検体を用いた。
【0091】
[実施例1]全血検体の溶血方法の検討
0.01mol/Lリン酸緩衝液を用いて、0.05%、0.1%、0.2%及び0.3%のTritonX−100溶液を作製し、これを「溶血液」とした。各「溶血液」180μLと全血3.5μLを混和し、顕微鏡下において溶血の有無を確認したところ、0.1%以上のTritonX−100濃度で完全溶血が確認できた。また界面活性剤はタンパク質変性作用があるため、TritonX−100を溶血液として使用することにより、溶血効果と同時にヘモグロビン変性による吸光度の安定化効果も得られた。
【0092】
[実施例2]酵素濃度の検討
共役酵素であるPOD量は、熊田至ら、「臨床検査に用いる試薬−汎用自動分析用・市販試薬の内容、性能一覧」(大阪府臨床衛生検査技師会・学術部・臨床化学検査部会・施設間差是正研究会,60−63頁、1996年)を参考にし、添加する酵素量を5.0U/mLとした。
【0093】
COD量は、CODのKm値(ASAHI KASEI Diagnostic Enzymes、2008年7月、16頁)及びミカエリス・メンテンの式より、1.3分以内にCODの酵素反応が終点に達するような酵素量を算出した。CODを4.0U/mL添加すれば、1.3分以内に酵素反応が終点に達すると算出された。
【0094】
[実施例3]酸化発色剤(DA−67)濃度の検討
各試薬組成を下に示した。(DIL)は使用しなかった。自動分析装置を用いて、精製水及び100μmol/Lのコリン標準液の吸光度を測定した。(R−2)のDA−67は、0.033、0.082、0.163及び0.326mmol/Lの4濃度を検討した。
【0095】
結果を図2に示した。図2の横軸は(R−2)中のDA−67の濃度である。すべてのDA−67濃度において試薬ブランクの吸光度は安定であった。0.082mmol/L以上のDA−67濃度((R−2)中)において、100μmol/Lコリンの吸光度が安定となったため、DA−67濃度として0.082mmol/L((R−2)中)を選択した。
【0096】
(R−1)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
(R−2)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.033〜0.326mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0097】
[実施例4]副波長の検討
各試薬組成を下に示した。(DIL)は使用しなかった。自動分析装置を用いて、精製水及び100μmol/Lコリン標準液の吸光度を測定した。主波長は660nmとし、副波長は700nm、750nm及び800nmを検討した。
【0098】
結果を図3に示した。副波長が800nmの時、100μmol/Lコリンの吸光度が最大で、高感度となったため、副波長は800nmとした。
【0099】
(R−1)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
(R−2)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0100】
[実施例5]ヨウ素酸カリウム濃度の検討
各試薬組成を下に示した。(DIL)は使用しなかった。(R−1)中のヨウ素酸カリウム濃度は、0、50、100及び200mmol/Lの4濃度を検討した。全血に50μmol/Lコリン標準液を添加したときの添加回収率(%)を測定することにより、全血に存在する高濃度の還元性物質の影響回避の評価を行った。<全血検体>と500μmol/Lコリン溶液を使用して、A(コリン溶液1容+健常者検体9容)、B(生理食塩水1容+健常者検体9容)、C(コリン溶液1容+生理食塩水9容)、D(生理食塩水1容+生理食塩水9容)をサンプルとして作成し、各サンプル中のコリン濃度を測定した。添加回収率(%)は、以下の式を用いて算出した。
添加回収率(%)=(A−B)/(C−D)×100
【0101】
結果を図4に示した。ヨウ素酸カリウムの濃度を増加させることにより、最大で52.8%の添加回収率が得られた。なお、本実施例において、溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際、全血9+コリン溶液(または生理食塩水)1で作成した検体3.5μLは(R−1)180μLと混和するので、溶液に対する全血の希釈率は0.9×{3.5/(3.5+180)}×100≒1.72%であり、その際ヨウ素酸カリウムの濃度は、180/(3.5+180)≒0.98倍になる。図4の横軸は溶血させた全血と混合する際のヨウ素酸カリウム濃度を示した。図4において、ヨウ素酸カリウム濃度は、それぞれ0、49、98及び196mmol/Lである。
【0102】
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
0〜200mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0103】
[実施例6]溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際のヨウ素酸カリウム及び塩酸ヒドロキシルアミン濃度の検討
各試薬組成を下に示した。(DIL)を使用した。(DIL)中の塩酸ヒドロキシルアミンの濃度は、0、0.25、0.50、0.75、1.00、1.25、1.50及び1.75mmol/Lの8濃度を検討し、(R−1)中のヨウ素酸カリウム濃度は50及び100mmol/Lの2濃度を検討した。全血に50μmol/Lコリン標準液を添加したときの添加回収率を測定することにより、全血に存在する高濃度の還元性物質の影響回避の評価を行った。<全血検体>と500μmol/Lコリン溶液を使用して、[実施例5]と同様の手法で添加回収率(%)を算出した。
【0104】
溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際、まず、全血9+コリン溶液(または生理食塩水)1で作成した検体17μLは(DIL)85μLを加えて分析用検体とし、分析用検体から20μLを反応容器に分注し、(R−1)180μLと混和するので、ヨウ素酸カリウムと混合する際の溶液に対する全血の希釈率は0.9×{17/(17+85)}×{20/(20+180)}×100=1.50%、また、ヨウ素酸カリウムと混合する際の溶液中の塩酸ヒドロキシルアミンの濃度は、{85/(17+85)}×{20/(20+180)}≒0.083倍に、ヨウ素酸カリウムの濃度は、180/(20+180)=0.9倍になる。図5の横軸は溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の塩酸ヒドロキシルアミンの濃度を示した。図5において、塩酸ヒドロキシルアミン濃度は、それぞれ0、20.83、41.67、62.50、83.33、104.17、125.00及び145.83μmol/Lである。ヨウ素酸カリウム45mmol/Lに対し塩酸ヒドロキシルアミン83.3μmol/Lを使用したときの添加回収率が83.5%、ヨウ素酸カリウム90mmol/Lに対し塩酸ヒドロキシルアミン62.5μmol/Lを使用したときの添加回収率が80.3%となり、塩酸ヒドロキシルアミンの使用により添加回収率が大幅に改善された。
【0105】
塩酸ヒドロキシルアミンの代わりにチオ尿素又はチオ硫酸ナトリウムを用いて、同様に添加回収率を算出した。塩酸ヒドロキシルアミンの代わりにチオ尿素を使用した場合、添加回収率は最大33.6%であった。塩酸ヒドロキシルアミンの代わりにチオ硫酸ナトリウムを使用した場合、添加回収率は最大30.5%であった。
【0106】
(DIL)
0〜1.75mmol/L 塩酸ヒドロキシルアミン
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
50又は100mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0107】
[実施例7]溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の陽イオン界面活性剤の濃度検討
各試薬組成を下に示した。(DIL)を使用した。陽イオン界面活性剤として一般的に用いられるヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドを用いた。(R−1)中のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドの濃度は、0、0.025、0.038及び0.05%の4濃度を検討した。全血に50μmol/Lコリン標準液を添加したときの添加回収率を測定することにより、全血に存在する高濃度の還元性物質の影響回避の評価を行った。<全血検体>と500μmol/Lコリン溶液を使用して[実施例5]と同様の手法で添加回収率(%)を算出した。
【0108】
溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の溶液中の全血の希釈率は[実施例6]と同様で1.50%、塩酸ヒドロキシルアミンの濃度は0.75×{85/(17+85)}×{20/(20+180)}=62.5μmol/L、ヨウ素酸カリウムの濃度は、100×180/(20+180)=90mmol/Lになる。図6の横軸は溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドの濃度を示した。図6において、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドの濃度は、それぞれ0.000、0.023、0.034及び0.045%である。ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドが0.045%の時に添加回収率が97.6%となり、添加回収率が大幅に改善された。
【0109】
(DIL)
0.75mmol/L 塩酸ヒドロキシルアミン
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
100mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
0〜0.05% ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0110】
[実施例8]溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の塩酸ヒドロキシルアミン濃度の検討2
(DIL)を使用した。(DIL)中の塩酸ヒドロキシルアミンの濃度は、0、0.25、0.50、0.75、1.00、1.25、1.50及び1.75mmol/Lの8濃度を検討した。[実施例5]と同様に添加回収率(%)を算出した。
溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の溶液に対する全血の希釈率は[実施例6]と同様で1.50%、塩酸ヒドロキシルアミンの濃度は[実施例6]と同様で0.083倍に、ヨウ素酸カリウムの濃度は[実施例7]と同様に90mmol/Lになる。図7の横軸は溶血させた全血とヨウ素酸カリウムを混合する際の塩酸ヒドロキシルアミンの濃度を示した。90mmol/Lのヨウ素酸カリウムに対し、62.5μmol/Lの塩酸ヒドロキシルアミンを使用した時、91.9%と最大の添加回収率が得られた。図7において、塩酸ヒドロキシルアミンの濃度はそれぞれ0.00、20.83、41.67、62.50、83.33、104.17、125.00及び145.83μmol/Lである。
【0111】
(DIL)
0〜1.75mmol/L 塩酸ヒドロキシルアミン
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
100mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
0.05% ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0112】
[実施例9]希釈直線性
各試薬組成を下に示した。(DIL)は使用しなかった。5.0、10.0、20.0、40.0、60.0、80.0及び100.0μmol/Lの7濃度のコリン溶液を用いてコリン濃度測定値の直線性を調べた。
結果を図8に示した。グラフ横軸は、測定したコリン溶液の濃度、縦軸はコリン標準液で検量後に自動分析装置により測定された、各コリン溶液中のコリン濃度の実際の測定値を示す。100μmol/Lのコリン濃度まで原点を通る直線性が得られた。
【0113】
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
100mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
0.05% ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0114】
[実施例10]最小検出感度
[実施例9]と同様の試薬を使用した。(DIL)は使用しなかった。1.0、2.0、2.5、5.0及び10.0μmol/Lの5濃度のコリン溶液を用いて±3SD法で最小検出感度(n=3)を求めた。
結果を図9に示した。グラフの横軸は測定したコリン溶液の濃度、縦軸は自動分析装置により実際に測定された各コリン溶液中のコリン濃度の平均値を示す。図9より最小検出感度は2μmol/Lであった。全血中のコリンの測定によって診断することが可能な主要有害心イベントに対する全血中のコリンのカットオフ値は28.2μmol/Lであるため、十分な検出感度であると考えられた。
【0115】
[実施例11]同時再現性試験と日差再現性試験
[実施例9]と同様の試薬を使用した。(DIL)は使用しなかった。10μmol/Lと100μmol/Lのコリン溶液を用いて同時再現性試験(n=20)を行った。
また、下に示した各試薬と(DIL)を使用して、<全血検体>を用いて日差再現性試験(n=20)を行った。
結果を表1に示した。再現性よく全血中のコリンが測定できた。
【表1】
【0116】
(DIL)
0.75mmol/L 塩酸ヒドロキシルアミン
(R−1)
0.01mol/L 酢酸緩衝液 pH4.0
100mmol/L ヨウ素酸カリウム
0.1% TritonX−100
0.05% ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド
(R−2)
0.2mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
0.082mmol/L DA−67
10mmol/L チオ硫酸ナトリウム
0.16mmol/L オレンジG
(R−3)
0.07mol/L リン酸緩衝液 pH7.5
77.5U/mL POD
60U/mL COD
【0117】
[実施例12]特異性試験
[実施例9]と同様の試薬を使用した。(DIL)は使用しなかった。全血中に存在する含窒素成分、糖及びアミノ酸の中から化学構造がコリンに類似するエタノールアミン、クレアチニン、カルニチン、アラニン及びセリンを構造類似物質として選択した。50μmol/Lコリンの測定値(吸光度)を100%とした時の、50μmol/Lの各構造類似物質の反応比率(%)を表2に示した。いずれの物質ともほとんど反応性はみられず、本発明の全血中のコリンの測定方法はコリンに対する特異性が高いことが明らかになった。
【表2】
【0118】
[実施例13]添加回収試験
[実施例11]に示した各試薬と(DIL)を使用した。<全血検体>と、100μmol/L及び500μmol/Lコリン溶液を使用して、[実施例5]と同様の手法で添加回収率(%)を算出した。
結果を表3に示した。本発明の全血中のコリンの測定方法により、高い添加回収率が得られた。
【表3】
【0119】
[実施例14]検体希釈直線性試験
[実施例11]に示した各試薬と(DIL)を使用した。<全血検体>と500μmol/Lコリン溶液を使用して、a(生理食塩水1容+<全血検体>9容)とe(コリン溶液1容+<全血検体>9容)を作製し、表4に示すような濃度系列を作製した。a〜eの各検体のコリン濃度を2重測定した。
結果を、図10に示した。本発明の全血中のコリンの測定方法により、良好な希釈直線性が得られた。
【表4】
【0120】
[実施例15]全血内干渉物質の影響
[実施例9]の試薬を使用した。(DIL)は使用しなかった。全血に存在する還元性物質であるアスコルビン酸、アルブミン、還元型グルタチオン及び尿酸の5種類を干渉物質として選択し、表5に示す濃度の溶液を作製した。それぞれの干渉物質9容と、500μmol/Lコリン溶液1容を混合し、対照(生理食塩水)の濃度を100%としたときの、干渉物質存在下での誤差(%)を測定した。
【0121】
結果を図11に示した。いずれの干渉物質も、本発明の全血中のコリンの測定方法に影響しなかった。
【表5】
【0122】
[実施例16]健常者検体の測定
[実施例11]に示した各試薬と(DIL)を使用し、<全血検体>20例(20〜25歳、平均21歳、男13例、女16例)を測定した。全血中のコリン測定値の分布を図12に示した。測定値が25μmol/L以上の3例については、測定のために溶血させる前から肉眼で溶血が確認された。測定前の溶血のみられない26例について、全血中のコリン濃度の平均値は8.23μmol/L、標準偏差は4.06μmol/Lとなった。この標本の参考基準範囲を平均±2SDとすると、0.1〜16.3μmol/Lとなった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、全血中のコリンの測定方法及び測定用組成物が提供される。これにより、例えば、急性心筋梗塞、安定狭心症、非Q波(心内膜下)心筋梗塞等の疾患の検査が可能になるという産業上の利用可能性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び酸化発色剤を用いた全血中のコリンの測定方法であって、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程を含むことを特徴とする測定方法。
【請求項2】
全血中のコリンの測定方法であって、
溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程;
コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程;及び
過酸化水素の濃度を測定する工程;
を含む測定方法。
【請求項3】
前記反応させる工程が、さらに陽イオン界面活性剤を共存させて反応させる工程である、請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が33〜142μmol/Lである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
前記反応させる工程における溶液中のヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45mmol/L以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項6】
前記反応させる工程における溶液中の陽イオン界面活性剤の濃度が0.031w/v%以上である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
以下の工程(a)〜(e)を含む、全血中のコリンの測定方法;
(a)全血を溶血させる工程;
(b)溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程;
(c)工程(b)の溶液のpHを中性付近に調整する工程;
(d)コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程;及び
(e)工程(d)で生成した過酸化水素の濃度を測定する工程。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の全血中のコリンの測定方法を用いる、急性心筋梗塞、安定狭心症又は非Q波(心内膜下)心筋梗塞の検査方法。
【請求項9】
以下の(1)〜(4)に記載の組成物を含む全血中のコリンの測定用キット:
(1)ヒドロキシルアミン又はその塩を含有する組成物、
(2)ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムを含有する酸性の組成物、
(3)酸化発色剤を含有する中性付近の組成物、及び
(4)コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含有する組成物。
【請求項1】
コリンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び酸化発色剤を用いた全血中のコリンの測定方法であって、溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程を含むことを特徴とする測定方法。
【請求項2】
全血中のコリンの測定方法であって、
溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程;
コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程;及び
過酸化水素の濃度を測定する工程;
を含む測定方法。
【請求項3】
前記反応させる工程が、さらに陽イオン界面活性剤を共存させて反応させる工程である、請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記反応させる工程における溶液中のヒドロキシルアミン又はその塩の濃度が33〜142μmol/Lである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
前記反応させる工程における溶液中のヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムの濃度が45mmol/L以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項6】
前記反応させる工程における溶液中の陽イオン界面活性剤の濃度が0.031w/v%以上である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
以下の工程(a)〜(e)を含む、全血中のコリンの測定方法;
(a)全血を溶血させる工程;
(b)溶液中で、溶血させた全血と、ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムと、ヒドロキシルアミン又はその塩とを共存させて反応させる工程;
(c)工程(b)の溶液のpHを中性付近に調整する工程;
(d)コリンオキシダーゼを用いて、全血中のコリンから過酸化水素を生成する工程;及び
(e)工程(d)で生成した過酸化水素の濃度を測定する工程。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の全血中のコリンの測定方法を用いる、急性心筋梗塞、安定狭心症又は非Q波(心内膜下)心筋梗塞の検査方法。
【請求項9】
以下の(1)〜(4)に記載の組成物を含む全血中のコリンの測定用キット:
(1)ヒドロキシルアミン又はその塩を含有する組成物、
(2)ヨウ素酸カリウム又はヨウ素酸ナトリウムを含有する酸性の組成物、
(3)酸化発色剤を含有する中性付近の組成物、及び
(4)コリンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼを含有する組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−24014(P2012−24014A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165457(P2010−165457)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月10日 国立大学法人九州大学主催の「平成21年度保健学専攻修士論文発表会(最終試験)」において「急性冠症候群の新たなマーカーとしての全血コリンの酵素的測定法の検討」に発表
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月10日 国立大学法人九州大学主催の「平成21年度保健学専攻修士論文発表会(最終試験)」において「急性冠症候群の新たなマーカーとしての全血コリンの酵素的測定法の検討」に発表
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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