説明

公差決定装置、公差決定方法、プログラム、および記録媒体

【課題】最適化計算を応用し、性能最小値が目標値に近づくように、効率良く公差決定を行うことが可能な公差決定装置、公差決定方法、プログラム、および記録媒体を提供する。
【解決手段】公差の重み係数を変数、性能最小値と公差制約条件を評価関数として最適化計算を行う処理装置16を有し、処理装置16は、性能最小値および公差制約条件の少なくとも一方を満足する公差を探索する。処理装置16は、公差と重み係数の制約条件に対する違反量を最適化評価関数とし、重み係数を変数として最適化を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計変数と評価値の関係が線形でない光学系の公差を決定する公差決定装置、公差決定方法、プログラム、および記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光学系の公差決定は、設計変数が光学性能に与える影響が複雑であることと評価する値が多いことから解析的に公差決定することが困難なため、設計者の経験に頼る部分が大きかった。
【0003】
公差決定の補助手段として誤差感度解析がある。これは単一設計変数に微小な変化を与えて、それに対する性能評価値の変動量を解析する手段であり。誤差に対する性能評価値の敏感度を知る手段となりえる。これにより、公差の相対的な大小関係を知ることができるが、公差の値を決定することができないという問題点がある。
【0004】
また、これに対して誤差逆感度解析と呼ばれる解析手段がある。これは設定された性能変化許容量に対応する単一設計変数変化量を解析する手段であり、単一設計変数に対する性能変化許容量を適切に設定できれば、公差を決定することができる。ただし設定値が適切かどうかを評価することが困難であるという問題点がある。
【0005】
このような問題に対して、無作為に設計変数を変動させて性能評価を行い、性能分布を統計的に知ることができるモンテカルロ法があり、性能の規格値に対する公差の妥当性を検証することが可能になった(たとえば、特許文献1〜4参照)。
【0006】
特許文献1には、欠陥数を乱数によって決定するモンテカルロ法による歩留まりシミュレータが開示されている。
このシミュレータは、欠陥から生じる不良の種類とその発生確率を保持する不良種テーブルと、各欠陥から生じる不良の種類を乱数によって決定する決定手段と、決定された不良を基に対象システムの歩留まりを求める演算手段と、を有している。
【0007】
特許文献2には、複雑な関数演算を含む散乱の計算において、散乱確率テーブルと逐次計算を併用し各粒子各散乱機構についてテーブル参照が可能かどうかを判断し、可能なものは散乱確率テーブルを使用してテーブル参照計算を行い、不可能なものは関数演算を行うモンテカルロシミュレーション方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、コンピュータで実行するのに適し、諸収差等の光学性能に加えて製造公差をも考慮したレンズ設計を効率良く行うことができるレンズ設計方法が開示されている。
【0009】
特許文献4には、コンピュータで実行するのに適し、諸収差等の光学性能に加えて製造公差をも考慮したズームレンズ設計を効率良く行うことができるレンズ設計方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5−40765号公報
【特許文献2】特開平5−89160号公報
【特許文献3】特開平11−223764号公報
【特許文献4】特開平11−223769号公報
【特許文献5】特願2006−134010号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図3に示すように、公差決定は妥当性検証結果に基づいて設計者が試行錯誤的に行う。具体的には、設計者が公差を入力して(ST31)、製造シミュレーションを行い(ST32)、性能の最小値を抽出し(ST33)、抽出した最小値と最小値目標値とを比較して評価し、その結果を満足するまで試行錯誤的に処理を繰り返す(ST34、ST35)。
このため、検討時間短縮のためには初期段階での公差設定が重要になる。
【0011】
そこで、本出願人は特許文献5において、設計変数が変動することにより性能が変動する系において、性能が所望の許容可能な最低限界値を示す誤差量、すなわち公差を近似的に算出する手法を提案した。
【0012】
しかしながら、特許文献5に開示したような近似的に算出された公差は最適なものとは言い難い。
従来は特許文献5による近似的な公差を元に、モンテカルロ法により性能分布を算出し、所望の歩留まりや最低性能保証値と比較して公差の妥当性を評価していた。公差による性能分布が所望の値を満たさない場合には、公差を試行錯誤的に変更して性能分布を再評価することを繰り返し、最適な公差を探索していた。
【0013】
試行錯誤的に公差を決める過程は、設計者の勘と経験に頼るため、経験のない新規な開発については公差決定の過程に多くの時間を費やしていた。
【0014】
本発明の目的は、最適化計算を応用し、性能最小値が目標値に近づくように、効率良く公差決定を行うことが可能な公差決定装置、公差決定方法、プログラム、および記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の観点の公差決定装置は、公差の重み係数を変数、性能最小値と公差制約条件を評価関数として最適化計算を行う処理装置を有し、前記処理装置は、性能最小値および公差制約条件の少なくとも一方を満足する公差を探索する。
【0016】
好適には、前記処理装置は、公差と重み係数の制約条件に対する違反量を最適化評価関数とし、重み係数を変数として最適化を行う。
【0017】
好適には、前記処理装置は、全評価関数の二乗和であるメリット関数を算出し、前記メリット関数を極小にするように重み係数を最適化し、重み係数から公差と性能最小値を算出する。
【0018】
好適には、公差の値に対する制約条件が、上限値、下限値の少なくともいずれか一方を限定する。
【0019】
好適には、公差の値に対する制約条件が、公差の二乗和またはその平方根の上限を限定するものを含む。
【0020】
好適には、重み係数の初期値が1である。
【0021】
好適には、前記処理装置は、下記式で表される重み係数に関する制約条件違反量評価関数Φとして最適化を行う。
Φ = | ( W1×W2×…×Wn) - 1 | (13)
【0022】
本発明の第2の観点の公差決定方法は、公差の重み係数を変数、性能最小値と公差制約条件を評価関数として最適化計算を行う処理ステップを有し、前記処理ステップは、性能最小値および公差制約条件の少なくとも一方を満足する公差を探索するステップを含む。
【0023】
本発明の第3の観点は、公差の重み係数を変数、性能最小値と公差制約条件を評価関数として最適化計算を行う処理ステップを有し、前記処理ステップは、性能最小値および公差制約条件の少なくとも一方を満足する公差を探索するステップを含む公差決定方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0024】
本発明の第4の観点は、公差の重み係数を変数、性能最小値と公差制約条件を評価関数として最適化計算を行う処理ステップを有し、前記処理ステップは、性能最小値および公差制約条件の少なくとも一方を満足する公差を探索するステップを含む公差決定方法をコンピュータに実行させるプログラムを記録した記録媒体である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、最適化計算を応用し、性能最小値が目標値に近づくように、効率良く公差決定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に関連付けて説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る公差決定装置の一構成例を示すブロック図である。
【0028】
本公差決定装置10は、入力装置11、ディスク制御装置12、ディスク装置13、LCD等の表示装置14、主記憶装置15、および中央処理装置16を有する。
【0029】
入力装置11は、キーボードやマウスでありプログラムを実行するためのコマンドや設定値を入力する装置である。
ディスク装置13には、計算プログラム、光学系データファイル、公差限界値ファイルが記憶されており、ディスク制御装置12を介して中央処理装置16からアクセスされ、データが読み出されたり、書き込まれたりする。
ディスク装置13から読み出されたデータは中央処理装置16により主記憶装置15に記録され、計算プログラムで用いられる。
中央処理装置16は、入力装置11から入力されたコマンドに対応した計算プログラムを、ディスク制御装置12を介して、ディスク装置13から呼び出し実行する。
プログラムにより計算された結果は、中央処理装置16によりディスク装置13に保存されるとともに、表示装置14に表示される。
【0030】
本実施形態において、処理装置16は、設計変数に対して設計性能を計算する機能と、設計変数の変動に対する設計性能の変化を算出する誤差感度算出機能と、設計性能と設計性能最小値の比率を算出する機能と、後で説明する(4)式を満たす等配分寄与率を算出する機能と、後で説明する(10)式を満足する重み係数Wiを算出する機能と、後で説明する(11)式により性能最小値を算出する機能と、後で説明する(6)式により公差を算出する機能と、公差の制約条件違反量評価関数を算出する機能と、算出された性能最小値とその目標値の差分を算出する機能と、全評価関数の二乗和であるメリット関数を算出する機能と、を有し、メリット関数を極小にするように重み係数を最適化し、重み係数から公差と性能最小値を算出する機能を含んで構成されている。
【0031】
また、入力装置11からは、たとえば公差の値に対する制約条件、目標とする設計性能の最小値、(10)式を満足する重み係数Wi、重み係数に関する制約条件等が入力される。
【0032】
公差決定は妥当性検証結果に基づいて設計者が試行錯誤的に行うため、検討時間短縮のためには初期段階での公差設定が重要になる。
図1の公差決定装置10における中央処理装置16は、公差の重み係数を変数、性能最小値と公差制約条件を評価関数として最適化計算を行い、性能最小値や公差制約条件を満足する公差を探索する。
【0033】
発明者は先に特許文献5で、所定の設計性能と許容可能な性能最小値と誤差感度計算結果から、所定の設計性能について近似的に公差を導く手法を報告している。その中で設計変数の公差が所定の性能変化に与える寄与率と、寄与率を各設計変数に対して分配するための重み係数を定義している。各設計変数に対する重み係数は、累積の値が1になる制約条件があるが、制約条件を満たす範囲で、その組合せは無限に存在する。
【0034】
本実施形態においては、処理装置16は、公差と重み係数の制約条件に対する違反量を最適化評価関数とし、重み係数を変数として最適化を行う。処理装置16は、全評価関数の二乗和であるメリット関数を算出し、前記メリット関数を極小にするように重み係数を最適化し、重み係数から公差と性能最小値を算出する。
これにより、所望の性能最小値と公差制約条件を満足する重み係数を導き出すことができ、重み係数の計算結果と等配分寄与率、誤差感度計算結果から公差を算出することができる。
また試行錯誤的な作業や、製造シミュレーションのように計算時間の長い過程を排除していることから、従来技術と比べて短時間で効率よく公差を導き出すことができる。
【0035】
また、本実施形態においては、公差の値に対する制約条件が、上限値、下限値の少なくともいずれか一方を限定している。
このように、公差決定装置10は、公差制約条件を、製造精度限界を考慮して設定することで、製造精度を考慮した公差を導くことができるように構成されている。
【0036】
また、本実施形態においては、公差の値に対する制約条件が、公差の二乗和またはその平方根の上限を限定するものを含む。
これにより、公差決定装置10は、たとえば部品の寸法公差の積み上げのような、分散の加法性が成り立つような誤差について制約条件を加えることができる。
【0037】
また、本実施形態の公差決定装置10においては、最適化結果は初期値に依存すること多いため、重み係数の最適化初期値を全て1とすることにより、寄与率がほぼ等しくなるような公差を導くことができるように構成されている。
【0038】
本実施形態の公差決定装置10においては、評価関数を(13)式のようにすれば、重み係数の累積値が1から離れることを抑制することができ、その結果、最適化した公差による性能最小値が所望の値から離れることを抑制することができる。
Φ = | ( W1×W2×…×Wn) - 1 | (13)
【0039】
以下、本実施形態に係る公差決定装置10の基本的な公差決定処理について説明する。
【0040】
[ 原理 ]
性能最小値Φ(LIM)を性能理想値Φoと変化率rの積で(1)式により表現し、さらに性能変化率を各設計変数の変動による性能変化寄与率Kiの積で(2)式のように近似する。
【0041】
r = Φ(LIM) / Φo (1)
Φ(LIM):所望の性能最小値
Φo:性能理想値
r = K1×K2×…×Kn (2)
【0042】
各変数の性能変化寄与率Kiは、変動量である公差Tiと誤差感度βiにより次式で表される。
【0043】
Ki = βi^Ti (3)
(^:べき乗記号)
【0044】
等配分寄与率を次に(4)式で定義する。
【0045】
K = r^(1/n) (nは設計変数の個数) (4)
【0046】
変数別の寄与率KiをKと重み係数Wiの積で表現する。
【0047】
Ki = K×Wi (5)
【0048】
重み係数Wiにより変数別寄与率Kiが決定すると次式により公差が決定する。
【0049】
Ti = Logβi[Ki] =Logβi[K×Wi] (6)
【0050】
(2)式より、次の関係が得られる。
【0051】
r = (K×W1)×(K×W2)×…×(K×Wn) (7)
r = K^n×(W1×W2×…×Wn) (8)
【0052】
(4)式よりK^n = rなので次の関係が得られる。
【0053】
R = r×(W1×W2×…×Wn) (9)
【0054】
よって、Wi(i=1,2,…,n)は以下の制約条件を満たす。
【0055】
W1×W2×…×Wn = 1 (10)
【0056】
よってWiを(10)式の制約条件下で最適化することで、(5)式により寄与率Kiが決まり、さらには(6)式により公差Tiが決定する。
さらに、重み係数Wiが決まることにより、性能最小値は(1)、(2)式より(7)式で算出される。
【0057】
Φ(LIM) = Φo×(K^n)×(W1×W2×…×Wn) (11)
【0058】
[ 最適化評価関数 ]
以上により公差が算出されるが、公差は製造精度限界などによる、ある一定の制約条件を満足する必要がある。
最適化過程では、公差制約条件違反量を評価関数として評価関数を極小化することで、制約条件を満足する公差を導き出す。制約条件としては、加工や組立て精度による公差の下限値や、寸法公差の積み上げにより変化する全長の上下限値などがある。
また、(11)式により算出された性能最小値と目標値の差を評価関数として、所望の性能最小値になるように重み係数を最適化する。
評価関数が複数存在するため、評価関数値Φの二乗和によりメリット関数を定義しメリット関数φを極小化する。
【0059】
φ = ΣΦi^2 (12)
【0060】
[ 最適化初期値 ]
最適化は変数の初期値により結果が異なる。最適化変数Wiの初期値は、(10)式の制約条件下で設計者が任意に選択することができる。たとえば全ての変数の寄与率を等しくする場合は、Wi = 1( i=1,2,・・・,n )とすればよい。これにより最適化により寄与度のばらつきが大きくなることを抑制することができる。
【0061】
性能最小値を高精度に算出するにはモンテカルロ法により膨大な回数の演算を実行する必要があり、開発スピードが要求される場合は最適化には適さない方法である。
本実施形態の公差決定装置10では、性能最小値を近似的に算出しているため高速に演算することができる。本発明の近似的な計算による最適化の後に、モンテカルロ法による最適化を行えば、より高精度に性能分布と性能最低値を算出することができる。
また重み係数を最適化変数にすることにより、公差の値とともに公差が性能変動に与える寄与率を制御することができる利点がある。
【0062】
以下、具体的な実施例について説明する。
【0063】
<実施例>
[ 結像光学系 ]
結像光学系の公差解析を例に、本発明の実施形態を説明する。結像光学系とはレンズやミラーなどの光学素子を用いて被写体の像を拡大または縮小して、画面上に投影するものであり、カメラの撮像レンズやプロジェクターの投射レンズなどがそれに当たる。
【0064】
[ 光学素子 ]
結像光学系は、一つ以上の光学素子により構成され、光学素子には屈折作用を持つレンズやプリズム、反射作用を持つミラー、不要な光を遮断する作用を持つ絞りなどがある。屈折光学素子は表面形状や外形、面間隔、屈折率、分散の値によって、その作用が異なる。同様に反射光学素子は面形状や外形により作用が異なる。絞りは開口部に限定して光線を通過させるものであり、開口部の形状により作用が異なる。また全ての光学素子は、空間的な位置、角度により光学的な作用が異なる。以上より結像光学系の設計変数は、面形状、面間隔、屈折率、分散、外形、空間的な位置、角度などになる。
【0065】
[ 性能 ]
次に結像光学系の性能について説明する。光学的な性能には、解像度、歪曲、焦点距離、明るさなどがある。解像度を示す計算値の代表的なものにMTF(Modulation Transfer Function)がある。これは結像光学系のもつ空間周波数伝達関数であり画面上の任意の位置において計算、もしくは測定できる数値である。
歪曲は被写体の形状が歪んで結像される度合いを示す指標であり、光学的歪曲とTV歪曲がありそれぞれ定義が異なる。
焦点距離はレンズ固有の値であり、撮影画面の大きさと併せて撮影可能な範囲を示す指標であり、なおかつ被写体までの距離が分かる場合には結像の倍率を計算するための指標である。
明るさを表す性能は、画面全体の明るさの指標であるF値と、画面中心部と周辺部の差を表す指標である周辺光量比がある。
結像光学系はその用途により様々な性能指標があり、ここであげた性能はその一部に過ぎない。前記設計変数が与えられたとき、前記性能指標を算出するものは光学CADと呼ばれ、すでに多くのものが市販さえており一般的な技術となっている。
また光学的な性能以外にも、製品性能としては全長や外形、重量なども重要な性能であることは言うまでもない。所望の設計性能を満足するように設計変数を変更するのが設計の第1の過程である。
【0066】
[ 公差解析 ]
次に公差解析について説明する。第1の過程で決定した設計変数に対して公差を設定する場合、公差範囲内の誤差によって性能がどのように変化するか調べる必要がある。最終的には公差により変動する誤差によって、製品性能の最低保証値がどのようになるか調べる必要がある。
従来は設計者が決めた所定の公差について、モンテカルロ法により製造シミュレーションを行い性能分布の中から最低値を抽出していた。この方法は乱数によりランダムな誤差を多数回発生させて、その都度性能を計算するために膨大な時間を要していた。よって公差を試行錯誤的に決定する過程でその都度製造シミュレーションで性能最低値を評価することは、さらに膨大な時間と労力を要していた。
【0067】
次に、最適化手法を利用して公差を最適化する手法について図2に関連付けて具体的に説明する。
図2は、実施例に係る公差決定方法を説明するためのフローチャートである。
【0068】
ステップST1において、誤差のない理想状態での設計性能を算出し、これ以降の過程でこの値を利用する。たとえば、MTFや焦点距離など単一の設計性能でも複数でもよい。
ステップST2において、設計変数の微小変動に対する設計性能の変動を算出し、変動率と微小変動量の比率を誤差感度として算出する。
ステップST3において、所望の性能最小値を設計者が指定する。
ステップST4において、性能最小値と設計性能の比率(性能変動率)を算出する。
ステップST5において、前記性能変動率と設計変数の個数から(4)式に従い、等配分寄与率なる指標を算出する。
ステップST6において、重み係数なる設計変数別の指標を(10)式を満足するように設計者が入力する。また、全ての重み係数を1とすることで、全設計変数の公差による設計変動寄与率を等しくすることができる。
ステップST7において、(11)式に従い性能最小値を算出する。
ステップST8において、(6)式に従い、誤差感度と等配分寄与率、重み係数から公差を算出する。
【0069】
ステップST9において、公差の値に対する制約条件を入力する。ここでは、必要に応じて製造精度限界を考慮して公差の下限値を設定したり、必要以上に公差が大きくならないように上限値を設定したりする。
たとえば、レンズやミラーの面形状を表すニュートン本数や、レンズ面間隔は加工精度により制約を受けるため下限値を設定し、レンズの光軸に対する中心ずれや組込み時の角度ずれ鏡筒内径とレンズ外形のクリアランスなどにより制約を受けるため適切な上下限値を設定する。
また、たとえば公差の二乗和について制約条件を設定すれば、たとえばレンズ肉厚やレンズ間隔の公差により全長が所望の値より大きくなることを抑制することができる。
【0070】
ステップST10において、ステップST8で算出した公差からステップST9において設定した制約条件に対する違反量評価関数を算出する。
たとえば公差の上下限値が設定されている場合、上下限範囲内であれば違反量はゼロになり、下限値より小さければ下限値との差異の絶対値が違反量になり、上限値についても同様に違反量を算出することができる。二乗和に対する上限値を設定する場合は、対象となる公差の二乗和が上限を超える場合に限って、上限値との差分量が違反量になる。
【0071】
ステップST11において、重み係数に対する制約条件評価関数を設計者が入力する。たとえば、重み係数の積と1の差を制約条件に与えると、性能最小値が初期に設定した値から大きくずれることを抑制することができる。
ステップST12において、重み係数に関する制約条件違反量評価関数を設定する。たとえば、(13)式に示すような違反量を算出し最適化の過程で極小にすれば、初期に設定した値から性能最小値が大きくずれることを抑制することができる。
ステップST13において、性能最小値と、その目標値の差分を計算し、評価関数値とする。
ステップST14において、全評価関数値の二乗和を計算しメリット関数値とする。
ステップST15において、最適化の過程で更新されるメリット関数の変化率の下限値を設定する。変化率が下限値より大きい場合には、さらに改善が見込めるとして最適化を継続し、逆に下限値を下回った場合には改善率の変化が飽和したとみなして最適化を終了する。
【0072】
[ 最適化手法 ]
以下、最小二乗法による最適化について説明する。
全設計変数に対して公差微小変化に対する、性能最小値評価関数や公差、重み係数制約条件評価関数変化から、その比率を算出し微係数行列の要素とする。次に微係数行列の転置行列を算出する(ST16,ST17)。最小二乗法の正規方程式は次のようになる。
【0073】
AX=Af (14)
【0074】
Aは微係数行列で、行列要素aijは次式で与えられる。
【0075】
aij = Δfi / Δxj (15)
【0076】
Δfiはi番目の評価関数の変動量、Δxjはj番目の最適化変数の微小変動量、
はAの転置行列、Xは最適化変数の更新量ベクトル、fは所定の評価関数値ベクトルである。
そして、(14)式より次の関係が得られる。
【0077】
X= (AA)-1 (Af) (16)
【0078】
つまり、Aとfが分かれば、転置行列や逆行列を計算することで(16)式により最適化変数の更新量Xを算出できるのが最小二乗法の特徴である(ST18)。
具体的には、Xの成分xiは重み係数Wiの最適化における更新量であり、fの成分fiは性能最低値評価関数や重み係数、公差制約条件違反量である(ST19)。
(16)式に従い公差の値を更新し、その都度評価関数を再計算する(ST20)。値を極小化するメリット関数は、全評価関数の二乗和により(17)式で与えられる(ST21)。
【0079】
Φ =f1+f2+…+fm2 (17)
ここで、mは評価関数の個数である。
【0080】
次に、更新前後のメリット関数の比率を算出し、改善率を算出する(ST22)。改善率が前記設定した下限値より小さければこれ以上の改善は見込めないと判断し最適化を終了し、そうでなければ微分係数行列要素計算過程に戻る(ST23)。
これを改善率が設定値より小さくなるまで繰り返し計算する。これにより、公差制約条件、重み関数制約条件、性能最小値評価関数を極小化する公差を算出することが可能になる。
【0081】
なお、実施例では最小二乗法について示したが、本発明はメリット関数を設定し関数値を極小化する最適化計算であればその手法は問わない。
【0082】
以上説明したように、本実施形態によれば、従来のような試行錯誤的な手法がとられないことと、モンテカルロ法による製造シミュレーションに替わって近似的に性能最小値を算出して最適化することから、公差決定の効率が大幅に改善された。また重み係数を最適化変数として導入することにより、公差が性能劣化に与える寄与率を制御することが可能になった。
【0083】
なお、以上詳細に説明した公差決定方法は、上記手順に応じたプログラムとして形成し、CPU等のコンピュータで実行するように構成することも可能である。
また、このようなプログラムは、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、フロッピー(登録商標)ディスク等の記録媒体、図1ではディスク装置13に記録し、この記録媒体をセットしたコンピュータによりアクセスし上記プログラムを実行するように構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施形態に係る公差決定装置の一構成例を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る公差決定方法を具体的に説明するためのフローチャートである。
【図3】従来の公差決定方法を説明するためフローチャートである。
【符号の説明】
【0085】
10・・・公差決定装置、11・・・入力装置、12・・・ディスク制御装置、13・・・ディスク装置、14・・・表示装置、15・・・主記憶装置、16・・・中央処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
公差の重み係数を変数、性能最小値と公差制約条件を評価関数として最適化計算を行う処理装置を有し、
前記処理装置は、性能最小値および公差制約条件の少なくとも一方を満足する公差を探索する
公差決定装置。
【請求項2】
前記処理装置は、公差と重み係数の制約条件に対する違反量を最適化評価関数とし、重み係数を変数として最適化を行う
請求項1記載の公差決定装置。
【請求項3】
前記処理装置は、全評価関数の二乗和であるメリット関数を算出し、前記メリット関数を極小にするように重み係数を最適化し、重み係数から公差と性能最小値を算出する
請求項2記載の公差決定装置。
【請求項4】
公差の値に対する制約条件が、上限値、下限値の少なくともいずれか一方を限定する
請求項1から3のいずれか一に記載の公差決定装置。
【請求項5】
公差の値に対する制約条件が、公差の二乗和またはその平方根の上限を限定するものを含む
請求項1から3のいずれか一に記載の公差決定装置。
【請求項6】
重み係数の初期値が1である
請求項1から5のいずれか一に記載の公差決定装置。
【請求項7】
前記処理装置は、下記式で表される重み係数に関する制約条件違反量評価関数Φとして最適化を行う
請求項1から6のいずれか一に記載の公差決定装置。
Φ = | ( W1×W2×…×Wn) - 1 |
【請求項8】
公差の重み係数を変数、性能最小値と公差制約条件を評価関数として最適化計算を行う処理ステップを有し、
前記処理ステップは、性能最小値および公差制約条件の少なくとも一方を満足する公差を探索するステップを含む
公差決定方法。
【請求項9】
公差の重み係数を変数、性能最小値と公差制約条件を評価関数として最適化計算を行う処理ステップを有し、
前記処理ステップは、性能最小値および公差制約条件の少なくとも一方を満足する公差を探索するステップを含む
公差決定方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項10】
公差の重み係数を変数、性能最小値と公差制約条件を評価関数として最適化計算を行う処理ステップを有し、
前記処理ステップは、性能最小値および公差制約条件の少なくとも一方を満足する公差を探索するステップを含む
公差決定方法をコンピュータに実行させるプログラムを記録した記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−83083(P2008−83083A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259565(P2006−259565)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】