説明

六価鉄イオン溶液製造方法及びチタン合金の陽極酸化処理剤及び処理方法並びにチタン合金部材表面の陽極酸化処理方法。

【課題】本発明は、チタン合金等の部材の表面に装飾性付与等を目的とした彩色を施す手段として陽極酸化処理を行うための、新たな六価鉄イオン溶液による陽極酸化処理剤と陽極酸化処理方法を提供する。
【解決手段】陽イオン交換膜あるいはバイポーラ膜等からなる電解隔膜で仕切られた、電解槽の陽極側に所定のアルカリ性水溶液と陰極側に所定のアルカリ性水溶液を満たし、鉄からなる陽極を設置し、任意の導電性陰極からなる陰極を設置した後、直流電源から所定の電力を供給し、鉄から成る陽極を六価のイオンとして水溶液中に溶出することにより安定した六価鉄イオン溶液を得ることができる。
また、この安定した六価鉄イオンを含有する液剤14を陽極酸化処理槽に満たし、直流電源13と陰極として白金からなる電極12を、陽極としてチタン合金部材11を接続し、任意の条件で陽極酸化処理を行うことにより、装飾性の優れた、ゴールド・パープル・ブラック等の任意の外観化を有する陽極酸化処理被膜を有するチタン合金部材を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来使用されてきたチタン等の表面に装飾性を付与する目的で陽極酸化処理によってゴールド・パープル・ブラック等の色を呈する任意の彩色を行うための六価鉄イオン溶液製造方法及びチタン合金の陽極酸化処理剤及び処理方法並びにチタン合金部材表面の陽極酸化処理方法であり、特にチタン合金を外装品として用いる場合に、装飾性を付与するための陽極酸化処理方法として極めて有用なものである。
【背景技術】
【0002】
六価鉄イオン(フェレート)溶液は、強力な酸化作用を持つため、有機物の酸化分解処理剤として極めて有用なものである。しかしながら、これまで行われてきたフェレートに関する研究は、フェレートの持つ過マンガン酸カリウムより高い酸化力を利用した消毒や、ウイルスの減菌に使用した研究例がいくつかあるが、金属の化成処理に関する応用はあまり認められない。例えば、特許文献のような鉄酸アルカリの製造法も提案されている。本発明では新たに、チタン合金の陽極酸化処理に対するフェレートの利用を検討し、鋭意研究を重ねた。
【特許文献】特公昭57−19054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、これらの知見をもとにさらに鋭意研究を重ねた結果なされたものである。これまでの研究により、安定した強酸化性の六価鉄イオンの溶出方法と当該六価鉄イオン溶液の製造法及び当該六価鉄イオンの製造方法によって製造された有機材料の酸化分解処理剤を見出し、本発明者は特許出願(特願2006−116137)をしている。
【0004】
本発明は、さらにこれらフェレートの応用に関して鋭意研究を重ねた結果なされたものであり、本発明によれば、当該六価鉄イオン溶液の製造法及び当該六価鉄イオンの製造方法によって製造されたフェレート溶液によるチタン合金の陽極酸化化成処理技術を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、電気分解水槽に、1〜18mol/lに調整された水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ性水溶液と、電極の陰極側に白金等の耐アルカリ腐食性の高い電極と、電極の陽極側に純鉄から成る電極とを設置し、前記電極に0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を行うことにより、その後、鉄を六価イオンの状態で溶出させることを特徴としている。
【0006】
また、電気分解水槽に、1〜18mol/lに調整された水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ性水溶液と、電極の陰極側に白金等の耐アルカリ腐食性の高い電極と、電極の陽極側に純鉄から成る電極とを設置し、前記電極に0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を行い、六価鉄イオンを生成することにより、六価鉄イオンを含有する液剤を製造することを特徴としている。
【0007】
また、陽イオン交換膜あるいはバイポーラ膜で仕切られた電気分解水槽に、1〜18mol/lに調整された水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ性水溶液と、イオン交換膜の陰極側に白金等の耐アルカリ腐食性の高い電極と、
陽イオン交換膜あるいはバイポーラ膜等の電解隔膜の陽極側に純鉄から成る電極を設置し、前記電極に0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を行い、六価鉄イオンを生成するとことにより、六価鉄イオンを含有する液剤を製造することを特徴としている。
【0008】
さらに、前述の安定した六価鉄イオンを含有する液剤であるチタン合金等の陽極酸化処理剤を用いてチタン合金等を陽極酸化処理することを特徴としている。
【0009】
電気分解水槽に1〜18mol/lに調整した水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム等のアルカリ水溶液を充填し、陽イオン交換膜あるいはバイポーラ膜等からなる電解隔膜の陰極側に白金等の耐アルカリ腐食性の高い電極を、また、陽イオン交換膜の陽極側に純鉄から成る電極とを設置して、この陽極陰極間に直流電源から0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を開始すると、陽極の純鉄が水溶液中に六価鉄イオンとして溶出し六価鉄イオン水溶液が生成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記電解槽内で電気分解が開始されると、陽極の純鉄が六価のプラスイオンとなりアルカリ水溶液中に鉄を六価イオンの状態で溶出させることができる。
【0011】
また、本発明によれば、前記電解槽内で電気分解を行うことにより、陽極側では六価鉄イオンの溶出反応が進み、同時に陰極表面では水の電気分解反応がすすむ。これらの反応により陽極室に、六価鉄イオン溶液を得ることができる。
【0012】
また、本発明によれば、前記電解槽内で電気分解をおこなうことにより、陽極側で六価鉄イオンの溶出と同時に前記電気分解水槽に六価鉄イオンを含有する液剤からなるチタン合金等の陽極酸化処理剤を得ることができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、前記電解槽内で電気分解をおこなうことにより、六価鉄イオンの溶出と同時に前記電気分解水槽に六価鉄イオンを含有する水溶液を生成し、この六価鉄イオン水溶液を用いることによりチタン合金等の装飾性に優れ、ゴールド・パープル・ブラック等の任意の外観を呈する陽極酸化被膜とチタン合金等の陽極酸化処理剤を得ることができる。
【0014】
さらに、本発明で得られたチタン合金等の陽極酸化処理剤を用いてチタン合金等を陽極酸化処理することにより、ゴールド・パープル・ブラック等の外観を呈する装飾性に優れたチタン合金部材を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した六価鉄イオン溶出方法、六価鉄イオン製造方法とチタン合金等の陽極酸化処理剤および陽極酸化処理方法を説明する。
【0016】
図1は、本発明を適用した六価鉄イオン溶出方法、六価鉄イオン製造方法およびチタン合金陽極酸化処理液組成物並びにチタン合金等の表面陽極酸化処理溶剤製造装置の一例を示す説明図である。電気分解水槽1は、電気分解による六価鉄イオン水溶液製造に必要な諸設備を設けて電気分解作業を行う電解槽であって、電解隔膜2、陽極3、陰極4、直流安定化電源5、陰極電解溶液としてのアルカリ水溶液6、陽極電解溶液としてのアルカリ水溶液7、水溶液循環ポンプ8、電圧計9、など電解溶液製造に必要な設備を構成する。
【0017】
電極の陽極3としては、鉄から成る電極とスチールウールから構成し、鉄としては不純物元素が低い電解鉄板と表面積の広いスチールウールを用いたが、一般の鉄板や金網あるいは鉄粉を用いても良い。一方、電極の陰極4としては、白金を用いたが、他の耐アルカリ腐食性の高い電極を用いても良い。
【0018】
陰極電解溶液としてのアルカリ水溶液6としては、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液を用いたが他のアルカリ水溶液でも良い。また、陽極電解溶液としてのアルカリ水溶液7としては、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液を用いたが他のアルカリ水溶液でも良い。
【0019】
陽極3の電極は厚さ1mmの純鉄板を25mm×40mmに切断し、酸洗いをした後、電解隔膜との間にスチールウールを挟み込み固定する。つぎに、陰極4の電極に耐アルカリ腐食性の高い白金電極を用いて電解を行う。
【0020】
電気分解水槽1には1〜18mol/lに調整された陰極アルカリ水溶液6として水酸化ナトリウム水溶液を充填する。次に、1〜18mol/lに調整された陰極アルカリ水溶液6として水酸化ナトリウム水溶液を充填する。この状態で陽極3陰極4間に、直流電源5から0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を開始すると、陽極の鉄が水酸化ナトリウム水溶液中に六価鉄イオン(フェレート)として溶出される。
【0021】
そして、陽極3の六価鉄イオン(フェレート)の溶出と同時に陰極4の表面では水の電気分解反応が進み水素ガスが発生する。この反応の継続により陽極溶液中の六価鉄イオン濃度が増大し、六価鉄イオン水溶液(フェレート溶液)が得られ、六価鉄イオン(フェレート)を含有する液剤からなるチタン合金の陽極酸化処理剤を得ることができる。
【0022】
六価鉄イオン水溶液(フェレート溶液)としては、水酸化ナトリウム水溶液のほか水酸化カリウム水溶液でも良く、同様に安定した六価鉄イオン水溶液(フェレート溶)を得ることができる。
【0023】
図2に、本発明により製造した、六価鉄イオン(フェレート)を含有する液剤からなるチタン合金等の陽極酸化処理剤を用いて、チタン合金等の部材に陽極酸化処理を施す際の、陽極酸化処理の模式図を示す。
【0024】
上述の安定した六価鉄イオン(フェレート)を含有する液剤からなるチタン合金等の陽極酸化処理剤を用いて、チタン合金等の部材に陽極酸化処理を施すとチタン部材表面が陽極酸化され酸化チタンに変化し、陽極酸化処理条件を選択することによりゴールド・パープル・ブラック等の任意の外観を呈する優れた装飾を形成することができる。
陽極酸化処理条件としては例えば、
(i)苛性ソーダ濃度が1〜18mol/lの範囲であり、
(ii)六価鉄イオン(フェレート)濃度が0.1〜10g/lの範囲であり、
(iii)陽極酸化処理温度が室温〜100℃の範囲であり、
(iv)陽極酸化処理時間が1秒〜100分の範囲であり、
(v)陽極酸化電圧が1V〜100Vの範囲で
の推奨される条件範囲で陽極酸化処理を施すことによって、装飾性の高チタン合金等の陽極酸化処理剤と陽極酸化処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】六価鉄イオン水溶液製造装置の概略図である。
【図2】チタン合金部材のフェレートによる陽極酸化処理の概略図である。
【符号の説明】
【0026】
1 電気分解槽
2 電解隔膜
3 陽極室アルカリ水溶液
4 陰極室アルカリ水溶液
5 陽極
6 陰極
7 直流電源
8 電圧計
9 循環ポンプ
10チタン合金陽極酸化処理槽
11チタン合金部材(陽極)
12白金電極(陰極)
13直流電源
14陽極酸化処理溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換膜あるいはバイポーラ膜等からなる電解隔膜で仕切られた電気分解水槽に、1〜18mol/lに調整された水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ性水溶液と、
電解槽の陰極側に白金等の耐アルカリ腐食性の高い電極と、
電解槽の陽極側に鉄から成る電極とを設置し、
前記電極に0.1V〜50Vの電圧を印加して電気分解を行うことにより、
鉄を六価イオンの状態で溶出させることを特徴とする六価鉄イオン溶液製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記六価鉄イオン組成物を含有する溶液を用いてチタン合金等の部材を陽極酸化処理することを特徴とするチタン合金部材の陽極酸化処理剤。
【請求項3】
請求項2において、
前記六価鉄イオン組成物を含有する溶液を用いてチタン合金等の部材を陽極酸化処理することを特徴とするチタン合金部材の陽極酸化処理方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記六価鉄イオン組成物を含有する溶液を用いてチタン合金等の部材を陽極酸化処理するチタン合金部材の陽極酸化処理方法であって、
(i)苛性ソーダ濃度が1〜18mol/lの範囲であり、
(ii)六価鉄イオン(フェレート)濃度が0.1〜10g/lの範囲であり、
(iii)陽極酸化処理温度が室温〜100℃の範囲であり、
(iv)陽極酸化処理時間が1秒〜100分の範囲であり、
(v)陽極酸化処理電圧が1V〜100Vの範囲で
あることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のチタン合金部材表面を陽極酸化処理する方法において、チタン合金部材が、純チタン、チタンに対してアルミニウム・バナジウムを含む合金、チタンに対してアルミニウム・ニオブを含む合金からなる群から選択されることを特徴とするチタン合金部材表面の陽極酸化処理方法。

【図1】
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【図2】
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