説明

共振タグ、共振回路の共振特性の可逆的変更方法及び容量性素子

【課題】 共振特性を可逆的に変更させることができる共振タグを提供する。
【解決手段】 容量性素子と誘導性素子とからなる共振回路を備えた共振タグにおいて、前記容量性素子が、前記共振回路に印加される電圧によって、静電容量値が可逆的に変化する条件と、前記共振回路に印加される電圧によって静電容量値が不可逆に変化する条件と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振タグ、共振回路の共振周波数を非接触で可逆的に変更するための方法及び容量性素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の共振タグは、コンデンサとコイルからなる共振回路で構成されており、次に示すような形で利用されている。一つには、商店などにおいて、多数の陳列された商品に貼付された共振タグであり、いわゆる万引き防止タグとして知られている。これは、商品が不当に店外に持出される場合には、ゲートと呼ばれる部分を通過する際にゲートからの送信電波を受けて商品に貼付された共振タグが共振し、同一周波数の電波を反射する。この結果、商品の不正持出しを検出し、万引きを防止するというものである。
【0003】
一方、商品が正規に購入された場合、万引き防止タグは、例えばレジスター等に設けられたタグ失効機により、共振機能が失効させられる。この結果、反射電波が発生しないため、ゲートを問題なく通過することができる。
【0004】
こうした共振タグの失効は共振タグにパルス波を与えたときに発生する高電圧あるいはそれに伴うジュール熱によってコンデンサの誘電層を絶縁破壊させ、共振回路配線の一部を短絡することにより行われる(例えば、特許文献1乃至3を参照。)。
【0005】
二つ目の利用形態には、プリペードカードなどの記録カードがある。具体例としては、特許文献4に開示されているような、共振回路の共振特性が変化することで情報を記録する磁気記録カードがある。これは、共振回路に配設された共振特性変更手段、具体的にはある照射電磁波の条件で切断されるヒューズ、あるいは、コンデンサのプレート間に配置された絶縁材料の絶縁破壊を利用したものである。
【0006】
また、特許文献5には、複数個のコンデンサとコイルを直列接続して形成される共振回路を含む共振タグにおいて、ある条件を満たす照射電磁波で各コンデンサを逐次絶縁破壊することにより、その合成キャパシタンスを変化させ、その共振周波数個々に割り当てられた情報を逐次書き込む方法が開示されている。また、特許文献6にはそうした共振回路を複数個配置したタグにおいて、共振特性の相対的な関係がある固有の情報を表すようにしたタグが提案されている。
【特許文献1】特開2002−185281号公報
【特許文献2】特開2003−217039号公報
【特許文献3】特開2002−288749号公報
【特許文献4】特開平11−306311号公報
【特許文献5】特開2002−245429号公報
【特許文献6】特開2003−271912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、以上の従来技術における情報の書き込み原理は共振回路に配置されたヒューズやコンデンサ内部の誘電層の完全な絶縁破壊といった不可逆な現象に基づくものである。そのため、情報の記録は一度きりのものでしかなく、共振機能の意図的な復活や共振周波数の可逆的な変化が生み出す利用形態、すなわち再利用可能な万引き防止タグや情報をリライタブルに記録可能な記録カードあるいはIDタグの製造という視点は欠落していた。
【0008】
したがって、本発明の課題は共振周波数などの共振特性を可逆的に変更させることができる共振タグ、共振特性の変更手段及び容量性素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本研究者は上記課題について研究を重ねた結果、静電容量が電圧の印加によって可逆的に変化する容量成分素子を含む共振回路から構成される共振タグを用いて、特定の電圧条件で、その静電容量と共振特性を可逆的に変化させることができる電圧印加手段を見出した。
【0010】
すなわち、本発明の共振タグは、容量性素子と誘導性素子とからなる共振回路を備えた共振タグにおいて、前記容量性素子が、前記共振回路に印加される電圧によって静電容量値が可逆的に変化する条件と、前記共振回路に印加される電圧によって静電容量値が不可逆に変化する条件と、を有することを特徴とする共振タグである。なお、本発明の共振タグは、静電容量値が回路に印加される電圧によって、少なくとも二つの状態間で可逆的に変化する条件および不可逆に変化する条件を有する容量性素子と誘導性素子からなる共振回路を備えたことを特徴とするものであるということもできる。
【0011】
製造時における静電容量の調節と、短絡防止の観点から、前記容量素子がコンデンサであり、前記コンデンサは、絶縁性の基板上に設けられた第1の電極と、前記第1の電極上に設けられた誘電層と、前記弟1の電極および前記誘電層の少なくとも外周部を被覆するように設けられた絶縁樹脂層と、前記誘電層および前記絶縁樹脂層上に設けられた第2の電極と、からなることが好ましい。
【0012】
前記誘電層がアルミナ薄膜であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の共振回路の共振特性の可逆的変更方法は、容量性素子と誘導性素子とからなる共振回路の共振特性の可逆的変更方法であって、電圧印加により共振特性を初期状態から別の共振特性へ変化させる書き込み動作と、電圧印加によりその変化を初期状態に復元するリセット動作、および前記書き込み動作および前記リセット動作の印加電圧未満で実施される共振特性検出動作からなり、前記各印加電圧を前記容量性素子の静電容量値が可逆的に変化する値にすることを特徴とする共振回路の共振特性の可逆的変更方法である。なお、本発明の共振回路の共振特性の可逆的変更方法は、電圧印加により共振特性を初期状態から別の共振特性へ変化させる書き込み動作と、電圧印加によりその変化を初期状態に復元するリセット動作、および前記書き込み動作および前記リセット動作の印加電圧以下で実施される共振特性検出動作からなり、前記各印加電圧が特定の閾電圧値をこえないことを特徴とする少なくとも容量性素子と誘導性素子からなる共振回路の共振特性の可逆的変更方法であるということもできる。
【0014】
加えて、本発明の容量性素子は、印加される電圧によって静電容量値が可逆的に変化する条件と、印加される電圧によって静電容量値が不可逆に変化する条件と、を有することを特徴とする容量性素子である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、共振タグの共振特性、換言すれば、周波数あるいはピーク先鋭度それぞれに予め割り当てられた情報を可逆的に制御することが可能であるため、再利用可能な万引き防止タグや情報を非接触でリライタブルに記録可能な記録カードあるいはチップレスで安価なIDタグを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1の実施形態)
図1を参照して、一つのコイルと一つのコンデンサからなる共振タグを使用する実施形態を示す。まず、本実施形態の共振タグは絶縁性基板1の表面上にコンデンサ下部電極に対応する電極パターン2a、2b、およびコイル部分に対応する配線パターン3が形成される。ついで絶縁性基板1の裏面へ配線をまわす裏面導通パッド4、5が形成される。絶縁性基板1の裏面には、裏面導通パッド4、5と電気的に導通したパッド6、7が形成され、連結配線パターン8でそれらがさらに電気的に接続される。
【0017】
次に図2の断面図を用いてこの共振タグを説明する。絶縁性基板9上に配置された電極パターン10、11および裏面への配線接続のための導通VIA12が形成されている。図2に示されているように、絶縁性のレジスト層13をスクリーン印刷法にて積層する。この際、電極パターン10のレジスト層で被覆されない残存部面積がコンデンサの電極面積になるため、適宜これを調節することにより望みの静電容量をもつコンデンサとすることができる。また、このレジスト層13は電極パターンの外周部を被覆するという構成を有することにより、後工程である導電ペースト塗布時に電気的なショートの発生を抑制するという作用を奏する。その後、レジスト層を硬化させるため150℃の加熱処理を25分間行った。
【0018】
次に、コンデンサ1つを形成する場合は、メタルマスクを通して誘電膜14をスパッタリング法により所定の位置に製膜する。この際、誘電膜14の膜厚を適宜調節することにより上述の電極面積とあわせて望みの静電容量をもつコンデンサとすることができる。これによって、共振周波数を利用したい領域に設定することができる。なお、誘電膜の膜厚は1nm以上、1000nm以下が望ましい。さらに、好ましくは、5nm以上、100nm以下が膜厚としては最適である。これは、膜厚が薄すぎると不可逆な絶縁破壊が発生あるいはコンデンサ初期不良率が高くなり、また、厚すぎるとコンデンサの可逆的な静電容量の変化を誘起するのに必要な電圧が高くなるためである。また、絶縁性のレジスト塗布と誘電膜製膜の工程順序が逆になっても問題ない。
【0019】
最後に所定の位置に導電ペースト15をスクリーン印刷法にて積層し、コンデンサ部を形成する。結果としてコイルとコンデンサが配線で接続された図4の等価回路で示すようなLC共振回路が形成される。なお、導電ペーストの材料は金、銀、銅やカーボンなどを選択できるが、共振特性のQ値を良好に保つためになるべく低抵抗なものとすることが望ましい。
【0020】
こうして形成されたLC共振回路を含む共振タグの共振周波数の測定はヒューレットパッカード(株)製 ネットワークアナライザー(商品名 HP8753E)を用いて行った。実際には図4に示すような共振特性が典型的には観察される。また、共振タグの回路内部に誘導起電力を発生させるための電圧印加装置としては別途用意したアンテナコイルにパルスジェネレータを接続したものを用いた。この装置により、アンテナコイルから送信された電磁波が共振タグ側のアンテナと相互作用して誘導起電力が発生する。なお、以下に記した電圧とはパルスジェネレータからアンテナコイルへ出力される正弦波のピークトゥピーク値とした。
【0021】
次に図5で示すフローチャートに従って電圧印加実験を行い、共振タグの初期の共振周波数(f)、電圧印加の結果、シフトする共振周波数(f)、シフト時の電圧としてライト電圧(VW1)、共振周波数を初期状態に戻すためのリセット電圧(V)、共振周波数がもはや復元できなくなるライトワンス電圧(VBD)、そして共振タグの情報を読み出すのに使用するリード電圧(V)といった各パラメーターをそれぞれ決定した。実施結果は表1に要約した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1は誘電膜としてアルミナ、導電ペーストとして銀ペースト、絶縁性基板としてポリイミド基板、配線パターン材料は銅配線を用いた場合の実験結果である。表1から理解されるように、共振タグの初期の共振周波数は57.1MHzであるが、5Vのライト電圧(周波数52.5MHz)を印加するとコンデンサの静電容量が変化し、共振ピークが消失する。ついで、リセット電圧として10Vの電圧を印加すると共振ピークが再度観測され、その周波数は57.1MHzと初期状態に復元していた。したがって、この共振タグの情報を読むためのリード電圧はタグの情報書き込みが起こらない5V未満が妥当と決定できる。なお、16Vのライトワンス電圧を印加した場合は、共振ピークが消失後、もはや復元は不可能となることがわかった。したがって、図4にあるように例えば57.1MHz近傍を「0」、共振ピークが消失した状態を「1」と固有情報を割り当てておけば、書き込み動作によって「0」から「1」へリセット動作によって「1」から「0」へと請求項2に記したような情報の書換えが可能である。あるいは、共振ピークの先鋭度Q(=2πfL/R;f:共振周波数、L:リアクタンス、R:抵抗)も同様に変化するため、こちらのパラメーターを固有情報として使用しても良い。なお、ライトワンス電圧は、共振周波数がもはや復元できない(すなわち、不可逆的に共振特性を変化させる)電圧の最小値(閾値電圧)である。
【0024】
すなわち、本実施形態の場合、容量性素子の静電容量変化を不可逆なものとし、結果としてリセット動作が不可能となる特定の閾電圧値(ライトワンス電圧)は16Vである。なお、ライト時に照射する電磁波をタグの共振ピークの帯域範囲外にした場合には効率的に回路に起電力を誘導することができないため、数分程度の照射を続けても共振ピークの消失はみられなかった。そのため、実用に供するタグの情報書換えには照射電磁波の周波数が共振回路の有する特定の共振ピークの周波数帯域内にあることが好ましい。
【0025】
(第2の実施形態)
図2を参照して一つのコイルと2つのコンデンサが直列接続された共振タグを使用する実施形態を示す。共振タグの作製は、コンデンサが2つ形成される点以外は第1の実施形態で説明した工程と同様であり詳細は省略する。
【0026】
コンデンサ2つを形成する工程のみ図2の右分岐を参照して説明する。
【0027】
コンデンサ2つを形成する場合は、メタルマスクを通して誘電膜(膜厚10nm)16をスパッタリング法により断面図に示すような所定の2つの位置に製膜する。
【0028】
続いて、所定の位置に導電ペースト17をスクリーン印刷法にて積層し、コンデンサ部を形成する。結果としてコイル2つとコンデンサが配線で直列接続された図6の等価回路で示すようなLC共振回路が形成される。
【0029】
次に図5で示すフローチャートに従って電圧印加実験を行い、実施の形態1と同様に各パラメーターをそれぞれ決定した。なお、コンデンサが2つの場合、共振周波数のシフトは二段階発生しうるので、二回目のシフト後の共振周波数をfとし、それに要するライト電圧をVW2とした。実施結果は表2に要約した。
【0030】
【表2】

【0031】
表2は誘電膜としてアルミナ、導電ペーストとして銀ペーストを用いた場合の実験結果である。表2から理解されるように、共振タグの初期の共振周波数は54.7MHzであるが、7Vのライト電圧(周波数52.5MHz)を印加するとコンデンサの静電容量が変化し、共振ピークが22.1MHzへシフトする。さらに、7Vのライト電圧(周波数22.1MHz)を再度印加するとコンデンサの静電容量が変化し、共振ピークが消失する。ついで、リセット電圧として9Vの電圧(周波数22.1MHz)を印加すると共振ピークが再度観測され、その周波数は53.5MHzと初期状態にほぼ復元していた。したがって、この共振タグの情報を読むためのリード電圧はタグの情報書き込みが起こらない7V未満が妥当と決定できる。なお、15Vのライトワンス電圧を印加した場合は、共振ピークが消失後、もはや復元は不可能となることがわかった。したがって、図6にあるように例えば54.7MHz近傍を「0」、22.1MHz近傍を「1」、共振ピークが消失した状態を「2」と固有情報を割り当てておけば、書き込み動作によって「0」から「1」、また、「1」から「2」へ、次にリセット動作によって「2」から「0」へと請求項2に記したような情報の書換えが可能である。
【0032】
すなわち、本実施形態の場合、コンデンサの静電容量変化を不可逆なものとしてしまう閾電圧値(ライトワンス電圧)は15Vである。また、照射電磁波の周波数が共振回路の有する共振ピークの周波数帯域外の場合、情報の書換えは起こらない。そのため、異なる共振周波数を有する共振回路を種々の基板上に複数個アレイ化する場合においても、それぞれの共振周波数に対応する電磁波を照射すればよいため独立した書き込みと消去が可能であった。
【0033】
(第1の比較例)
実施の形態1の電圧印加手段をとらず大気中にて1時間、24時間、48時間放置した場合の共振タグの特性および、共振周波数をライト電圧5V印加によってシフトさせた後、やはり大気中にて1時間、24時間、48時間放置した場合の共振タグの特性を測定した。最後に、共振周波数を初期化するリセット電圧10Vを印加した時の結果を表3に要約した。
【0034】
【表3】

【0035】
表3から理解されるように、共振タグの初期の共振周波数は57.1MHzであるが、大気中に1時間、24時間、48時間放置しただけでは、共振周波数のシフトは生じていない。次に、48時間の放置後、ライト電圧5V(周波数52.5MHz)を印加することで情報を書きこむ、すなわち共振ピークを消失させた後、大気中での放置実験を行った。1時間、24時間、48時間放置しても、共振ピークの自然的な復活は観察されなかった。しかし、書き込み後48時間の放置の終了後、リセット電圧10V(周波数22.1MHz)を印加すると、共振周波数57.0MHzの共振ピークの復活がみられた。
【0036】
この比較例1より、本発明の共振タグにおいて、情報の書き込み、消去を意図的かつ可逆的に実施するためには、本発明による電圧印加(リセット電圧の印加)が必要であることが明らかである。
【0037】
(第2の比較例)
実施の形態2の電圧印加手段をとらず大気中にて1時間、24時間、48時間放置した場合の共振タグの特性および、共振周波数を1回目のライト電圧7V印加によってシフトさせた後、やはり大気中にて1時間、24時間、48時間放置した場合の共振タグの特性を測定した。次に、2回目のライト電圧7V印加によってシフトさせた後、大気中にて1時間、24時間、48時間放置した場合の共振タグの特性を測定した。最後に、共振周波数を初期化するリセット電圧9Vを印加した時の結果を表4に要約した。
【0038】
【表4】

【0039】
表4から理解されるように、共振タグの初期の共振周波数は54.7MHzであるが、大気中に1時間、24時間、48時間放置しただけでは、共振周波数のシフトは生じていない。次に、48時間の放置後、ライト電圧7Vを印加することで情報を書きこむ、即ち共振周波数を22.1MHzへシフトさせ、大気中での放置実験を行った。1時間、24時間、48時間放置しても、共振周波数の初期状態への回帰は観察されなかった。さらに、2回目のライト電圧7Vを印加することで共振ピークを消失させたのち、大気中にて放置した。結果は同様であり、共振ピークの自然的な復活は観察されなかった。しかし、最後にリセット電圧9Vを印加すると、ただちに共振周波数54.4MHzの共振ピークの復活を観察することができた。
【0040】
この比較例2より、コンデンサが2つ直列接続され、情報が3値以上書き込める形態の共振タグにおいても、情報の書き込み、消去を意図的かつ可逆的に実施することが可能であった。また、そのためには、本発明による電圧印加(リセット電圧の印加)が必要であることが明らかとなった。
【0041】
(第3の実施形態)
第1および第2の実施形態においては、アンテナコイルから共振タグへ非接触で照射する電磁波の照射条件(より具体的には電磁波の電圧)を変化させる検討を行なった。それにより、共振タグの共振特性が可逆もしくは不可逆に変化させることが可能であることを示した。
【0042】
以下、本実施形態では、共振回路内の容量性素子であるコンデンサの電極両端に直接プローブを接触させて電圧を印加することによって、共振特性を変化させることを試みた。
【0043】
対象とした共振タグは第1の実施形態で作成したものと同様に作成したものであり、初期状態の共振周波数は58.0MHzであった。電圧印加装置としては、半導体パラメーターアナライザー(製品名 ヒューレットパッカード社製 HP4156C)を用いた。なお、半導体パラメーターアナライザーによる共振回路への直接的な電圧印加の後にタグの共振特性を調べるに際しては、第1の実施形態と同様にネットワークアナライザー(商品名 HP8753E)を用いた。
【0044】
実験は、振幅0.1Vから0.1V間隔で振幅(電圧)を増加させながら、80μsec幅のパルス(方形波)をコンデンサに順次印加した。すなわち、0V、0.1V、0.2Vの順で方形波を印加していった。なお、以下、わかりやすくするために、「電圧(を)印加(する)」という表現に代えて「方形波(を)印加(する)」という表現を用いる。そして、各方形波を印加するたびごとに、タグ(共振回路)の共振特性を測定した。結果は以下のとおりであった。印加する方形波の電圧が0.1Vから4.1Vまでは共振ピークが存在し、初期共振周波数58.0MHzを維持していた。一方、電圧4.2Vの方形波を印加した段階で共振ピークが消失した。この状態で48時間、大気中に放置しても共振ピークは観察されなかった。
【0045】
ついで、この共振タグ(共振ピークが消失した共振タグ)に再度、同様に方形波を順次印加していった。結果は以下のとおりであった。印加する方形波の電圧が0.1Vから2.9Vまでは共振ピークが消失したままであったが、電圧3.0Vの方形波を印加した段階で共振ピークが現れた。その共振周波数は初期共振周波数と同じ58.0MHzであった。すなわち、ライト電圧の下限は4.1V、リセット電圧の下限は3.0Vと決定することができる。なお、振幅(電圧)16Vの方形波を印加した場合は、その後再度方形波を印加しても共振ピークの復活は観察されなかった。すなわち、16Vがライトワンス電圧であるということができる。
【0046】
このように、本実施形態では、非接触の電磁波照射により共振タグ内に誘起される誘導起電力ではなく、直接、共振タグへ電圧を印加することでも共振特性を可逆的に変更できる条件及び不可逆に変更できる条件が存在することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】共振タグの配線パターンの一例
【図2】共振タグの一例を示す模式的な断面図
【図3】共振タグの完成図の一例
【図4】コンデンサ1個とコイル1個からなる共振タグの等価回路図の一例
【図5】書き込み電圧、リセット電圧、ライトワンス電圧、読み込み電圧の決定フローチャートの一例
【図6】コンデンサ2個とコイル1個からなる共振タグの等価回路図の一例
【符号の説明】
【0048】
1 絶縁性基板
2a,2b 電極パターン
3 配線パターン
4 裏面導通パッド
5 裏面導通パッド
6 パッド
7 パッド
8 連結配線パターン
9 基板
10 電極パターン
11 電極パターン
12 導通VIA
13 レジスト層
14 誘電膜
15 導電ペースト
16 誘電膜
17 導電ペースト
18 基板
19 配線パターン
20 裏面導通パッド
21 導電ペースト
22 レジスト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量性素子と誘導性素子とからなる共振回路を備えた共振タグにおいて、
前記容量性素子が、前記共振回路に印加される電圧によって、静電容量値が可逆的に変化する条件と、前記共振回路に印加される電圧によって静電容量値が不可逆に変化する条件と、を有することを特徴とする共振タグ。
【請求項2】
静電容量値の可逆的な変化に対応した前記共振回路の共振特性の値に固有情報を割り当て、共振特性の変化にともない、異なる固有情報を表現することを特徴とする請求項1記載の共振タグ。
【請求項3】
少なくとも一つの誘導性素子と静電容量が可逆的に変化する前記容量性素子が二個以上直列接続されていることを特徴とする請求項1に記載の共振タグ。
【請求項4】
前記容量素子がコンデンサであり、前記コンデンサは、
絶縁性の基板上に設けられた第1の電極と、
前記第1の電極上に設けられた誘電層と、
前記弟1の電極および前記誘電層の少なくとも外周部を被覆するように設けられた絶縁樹脂層と、
前記誘電層および前記絶縁樹脂層上に設けられた第2の電極と、
からなることを特徴とする請求項1に記載の共振タグ。
【請求項5】
前記誘電層がアルミナ薄膜であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の共振タグ。
【請求項6】
互いに異なる共振特性に対応させて作られた請求項1乃至5のいずれかに記載の共振タグがプラスチック、ガラス、紙からなる基板上に複数個配置されていることを特徴とした共振タグアレイ。
【請求項7】
容量性素子と誘導性素子とからなる共振回路の共振特性の可逆的変更方法であって、電圧印加により共振特性を初期状態から別の共振特性へ変化させる書き込み動作と、電圧印加によりその変化を初期状態に復元するリセット動作、および前記書き込み動作および前記リセット動作の印加電圧未満で実施される共振特性検出動作からなり、前記各印加電圧を前記容量性素子の静電容量値が可逆的に変化する値にすることを特徴とする共振回路の共振特性の可逆的変更方法。
【請求項8】
前記印加電圧が外部からの電磁波照射によって回路に発生する誘導起電力であり、その照射電磁波の周波数が共振回路の有する特定の共振ピークの周波数帯域内にあることを特徴とする請求項7に記載の共振特性の可逆的変更方法。
【請求項9】
前記印加電圧が電圧印加装置から回路のコンタクト部へ直接接触させることにより印加されることを特徴とする請求項7に記載の共振特性の可逆的変更方法。
【請求項10】
印加される電圧によって静電容量値が可逆的に変化する条件と、印加される電圧によって静電容量値が不可逆に変化する条件と、を有することを特徴とする容量性素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−221620(P2006−221620A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8810(P2006−8810)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】