説明

共振器及び共振器を動作させるための方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は共振器に関し、特に共振器が、テブナン等価同調回路として所望のモードで動作するような態様で、多数の容量性素子と分布インダクタンスとから成る該共振器への結合を可能にする結合構造に関する。
【0002】
【従来の技術】単一の容量性素子の電力取扱い能力は電力消費、電圧破壊、又は特にバラクタの場合は印加されるRF電圧に因る過度のキャパシタンスひずみによって制約されることがある。多くの共振器では多重容量性素子を単一のテブナン等価コンデンサへと結合して電力取扱い能力を高めることが望ましい。容量性素子とは個別(discrete)コンデンサ、電圧可変コンデンサ、基板上にエッチングされたコンデンサ又はそれらの組合せを意味することに留意されたい。高周波共振器では、幾つかのコンデンサを単一の個別インダクタと接続することは困難である。一般的な解決策は幾つかのコンデンサを分布インダクタンスに接続することである。
【0003】このような分布インダクタの論理構造の一つは図1に示すような短絡同軸線である。端板10が一端で外部導体14と内部導体12とを短絡させる。コンデンサ16は他端で外部導体と内部導体とを結合する。短絡された同軸共振器の利点は共振器のインダクタンスに影響を及ぼすことなく所望の数の径方向に接続されたコンデンサを収納するのに必要なだけ導体間の間隔を大きくできることである。短絡された同軸線のインダクタンスは次の方程式で表すことができる。
L=(Zμ/2π)*ln(b/a)
ここに、Zは線の長さ、μは自由空間の磁気透磁率、bは線の外部導体の半径、又、aは線の内部導体の半径である。インダクタンスは外部と内部の導体の半径比の関数であり、短絡された同軸線の直径の絶対値には左右されない。
【0004】分布共振器は全て多くの異なる周波数で共振する。所望の共振モードを支配的なモードとして確立することは例えば幾つかの周波数で動作される発振器のような用途では重要である。所望の共振モードは図2a及び2bに示すように短絡された同軸線の軸方向の横磁気波(TM)である。磁界線は波の伝播方向に対して垂直(横向き)である。電界線は径方向に対称であり、共振器の任意の横断面で大きさと符号が等しい。電界線が対称であるので、各々の径方向コンデンサの脚部は共振器電力の等しい分配を受ける。
【0005】この共振器はある側面では有利であるが、別の側面では欠点がある。共振器はその性質上、分布回路素子であるので、一般に分布結合技術が利用される。このような技術には、例えば電磁界を共振構造に伝播させる(米国特許明細書第3,735,286号に開示されているような)結合ループ、電極又は探針によって共振器に電磁的に結合することが含まれている。このような結合技術はテブナン等価共振器への高度な結合を必要とするある種の用途では欠点がある。
【0006】短絡された同軸共振器への結合の第2の欠点は所望の共振モードを確立することが困難な点である。一般的な結合記述は幾つかの異なる共振モードを励振するとがある。不都合なモードの一つは図3a及び3bに示すようなTE波モードである。電界は波の伝播方向に対して垂直(横方向)であり、どの横断面でも電界は径方向に分布されない。この波によってコンデンサには共振器電力が不均一に分割される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、個別型回路の結合が簡単で、かつ、所望の共振モードを確立することのできる分布共振器を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の好ましい実施例に従って、これらの欠点は多重コンデンサ、短絡同軸共振器への結合ポートを設けることによって解決される。このポートは第1の短絡同軸線の端にわたって第2の短絡同軸線を付加することによって形成される。線の外部導体は相互に接続される。第2の線の内部導体はワイヤ、円筒状素子又はコイルのようなリアクタンス素子で良い。第2の線の外部導体は円筒状の、又は製造を容易にするため六角形のカンのような類似の形状のカンで良い。2本の線の内部導体は直列に結合され、その全長に沿って、又は端部で、そこに個別型回路を接続できる結合用ギャップを形成する。本発明の好ましい実施例では、個別型回路は回路に電磁シールドを供給するために片方の内部導体の周囲内領域に配置される。共振器と結合器との径方向の対称性を保持することにより、支配的な共振モードはTM波となる。結合ポートは個別型回路に、短絡同軸線のインダクタンスと、並列な対称脚部のキャパシタンスとの合計から成るテブナン等価同調回路をもたらす。
【0009】
【実施例】図4を参照すると、本発明の一実施例に基づく共振器22は2本の短絡同軸線24及び26を有している。第1の線24は外部導体30内に同軸に配置された内部導体28を備えている。これらの双方の導体はその第1端32、34で第1の導電性端部材36に接続されている。これらの導体は端部材36から延びて、第2端38、40のそれぞれにて終端している。
【0010】第2の短絡同軸線26は第2の外部導体44内に同軸に配置された第2の内部導体42を備えている。これらの導体はその第1端46、48で第2の導電性端部材50に接続され、そこから延び、第2端52、54でそれぞれ終端している。(好ましい実施例では第2の外部導体44の直径は第1の外部導体30の直径よりも大きいが、別の実施例ではこれらの直径の関係が異なる場合もある。)第1及び第2の短絡同軸線24、26の外部導体はその第2端40、54で接続されている。内部導体の第2端38、52は互いに接近しているが、相互接続はしない。代わりに、両者はギャップ56を形成し、そこに個別型回路が接続可能であり、共振器への単一点結合ができるようにされている。
【0011】 図5及び図6はプリント回路基板共振器56を示し、個別型回路が結合ギャップ56にわたって接続可能である構成例の一つを示している。この共振器では、第1の短絡同軸線24は第1と第2の表面62、64を有する厚さ1.6mm(0.062インチのFR4回路基板60を備えている。この基板を貫通して内部導体70の周囲を形成する第1の複数個のメッキされたバイア(via)68と、外部導体74の周囲を形成する第2の複数個のメッキされたバイア72とが延びている。第2の表面は内部導体70と外部導体74の表面との間で銅66でメッキされている。各々のバイアは基板の第2の表面64上で金属66と接続されている。第1の複数個のバイア68は他端で基板の第1の表面上の環状金属トレース76に接続され、第2の複数個のバイア72は他端で環状金属トレース78に接続されている。トレース76は内部導体の端を形成し、トレース78は外部導体の端を形成する。したがって、この実施例では短絡同軸線24の内部導体70と側壁をなす外部導体74の周囲は、互いに平行に配向され端部が互いに接続された複数の導体(バイア68、72)によって画定されている。
【0012】 これまで説明してきた構造は図4の共振器の第1の短絡同軸線24の端板36及び第1の内部及び外部導体28、30に対応する。基板の第2の表面上の金属メッキ66は端板として機能する。同心の内部及び外部導体はメッキされたバイアとそれらが終端する金属トレースとによって形成されたケージ状の有限素子構造である。この場合は第1の短絡同軸線は図4の共振器22で使用されている空気誘電体とは異なりFR4誘電体を有していることが理解されよう。この第1の同軸線の直線長さは僅か1.6mm(0.062インチであり、これは回路基板の厚さと等しい。
【0013】共振器58は基板の第1の表面62上に配置された折り返し(back−to−back)バラクタ80のような複数個の電圧可変キャパシタンス素子によって同調される。各々が約6から30ピコファラッドのキャパシタンス範囲を有する図示したバラクタは、内部と外部の導体端部76と78を(大型のバイパス・コンデンサ85を介して)結合する機能を有している。第1の金属回路基板のトレース82はバラクタの折り返し陽極を相互接続して共通の粗同調端子を提供する。第2の金属回路基板トレース83は外部導体に最も近接したバラクタの陰極を相互に接続して、共通の微同調端子を提供する。これらの陰極はコンデンサ85によって外部導体74の端を形成するトレース78に接続されている。一実施例では、プリント回路基板は多層板であり、同調トレース82、83への外部の接続は基板の中間層の一つの上に形成される。
【0014】第2の短絡同軸線26(図6)は導電性カン84と内部導体86とから成っている。このカンはこの第2の同軸線の外部導体として機能する円筒状の側壁88を備え、更に平坦な端壁90を備えている。円筒状の側壁はその周囲92で第1の線の外部導体の端部を形成する金属トレース78に接続されている。内部導体86はこのカンにより形成される空間内に配置されている。導体86は端壁90の中央部96に接続された第1端94と、第1の内部導体70の周囲の内側で回路基板の第1表面上の金属パッド100に接続する第2端98とを有している。パッド100とトレース76は共に共振器の結合ポート102を形成する。共振器への結合はこれらのポイント間に個別型回路を接続することによって行われる。
【0015】図示した回路基板共振器58では、個別型回路はNEC21935発振器トランジスタ104であり、そのベース端子106はパット100に接続され、そのエミッタ端子107(図7)は0.1マイクロファラッドの結合コンデンサ108を介して内部導体トレース76に結合されている。エミッタのバイアス電流源は中間層上のトレースを介して外部接続されている。トランジスタのコレクタ端子110はパッド112に接続され、そこから120オームの電力抵抗114が共振器の外側へと延び、そこで共振器はバイアス回路/バッファ増幅器116に固定されている。発振器の概略図は図7に示してある。導体86は多くの形式のものが可能であるが、図示した実施例ではトランジスタ104のベースをRFアースから絶縁する20ナノヘンリーのコイル状に巻かれた直径が小さい導体である。
【0016】共振器のアースは第1短絡線の外部導体の径方向に分布されているので、トランジスタのベースがアースされるアースも同様に径方向に分布されなければならない。このような径方向に分布されたベース・アースは第2短絡同軸線の内部導体86をカン84の中心に接続することによって達成される。この結合方法によって共振器の支配的な共振モードがTM波であることが保証される。図示した発振器は約500−1000MHZの周波数範囲で動作する。テブナン等価同調回路は約0.6ナノヘンリーのインダクタンス118(図7)を有している。このインダクタンスは前述の方程式(1)で表されるとおり、第1短絡同軸線の寸法の関数である。
【0017】図示した構成によって従来の技術と比較して多くの利点が得られる。その主なものは、共振器が個別型回路を結合できる単一点結合ポートを備えたことである。このポートでの結合によって分布共振器はテブナン等価LC回路に変換される。このような構成によって更に不要な共振を抑制しつつ、所望のTM共振モードが励振される。図示した結合構造によって更に個別型回路を2本の短絡同軸線のうちの一つの内部導体内に配置することによって、前記回路をシールドすることができ、共振器の電磁界はこれらの線の内部と外部の導体の間に限定され、空洞を形成し、これを囲む導電性の壁によって外部の電磁界が排除される。
【0018】図示した共振器58は発振器の同調素子として利用されると、従来の発振器よりも20dB低い発振器位相ノイズしか発生しない。このような改善は共振器の電力取扱能力が高まったためである。共振器の電力が低いと発振器のノイズ・レベルが高まる。バラクタ同調キャパシタンス内の電力が大きすぎると、キャパシタンス歪みにより過度のAM−FMノイズ変換が生ずる。分布共振器は電力が幾つかの低電力部品間で配分されるので、個別型共振器よりも多くの電力を処理することができる。
【0019】本発明の原理を好ましい実施例に基づいて、図示し、説明してきたが、本発明はこのような原理から逸脱することなく構成と細部を修正できることは明白であろう。例えば、本発明はバラクタ同調の短絡同軸共振器に関連して説明してきたが、その原理は多様な他の共振器構成にも同様に応用できる。更に、本発明は結合ギャップが内部空洞導体に最も近接した第2内部導体の端部に形成される実施例について説明してきたが、別の実施例では、ギャップは導体の他端、すなわちコイルの端94と端壁90の中央領域96の間に形成してもよい。このような実施態様によって結合ポートは必要ならば図8に示すように共振器の外側からアクセスすることができる。
【0020】
【発明の効果】以上説明したように、本発明を用いることにより、個別型回路を簡単に結合することができるとともに、不要な共振モードを抑制して所望の共振モードを励振させることができる。また該個別型回路をシールドすることができ、さらに、発振器の同調素子として利用したときに、発振器位相ノイズを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の短絡同軸共振器の断面図である。
【図2】同軸共振器における横磁気波を示す図である。
【図3】同軸共振器における横電気波を示す図である。
【図4】本発明の一実施例による短絡同軸共振器の簡略断面図である。
【図5】本発明の一実施例によるプリント回路基板共振器に使用されるプリント回路基板の上面図である。
【図6】図5の線6−6における断面図である。
【図7】本発明による共振器が用いられる発振器の概略図である。
【図8】本発明の別の実施例を示す図である。
【符号の説明】
24:第1の短絡同軸線 26:第2の短絡同軸線
28:第1の内部導体 30:第1の外部導体
36:第1の端部材 42:第2の内部導体
44:第2の外部導体 50:第2の端部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】側壁と、第1および第2の端壁とによって画定された空洞と、前記空洞内に同軸状に配置され、第1端が前記第1の端壁に接続され、第2端は前記第2の端壁の手前で終端されている内部導体と、前記内部導体の前記第2端を前記側壁に結合する複数のコンデンサと、第1端が前記第2の端壁の中央部に直接接続され、第2端は前記内部導体に結合され、さらに、外部回路が結合することのできる結合ギャップを画定している誘導性導体と、を備えて成る共振器。
【請求項2】前記結合ギャップが、前記内部導体の前記第2端と、それに隣接する前記誘導性導体の端部との間で画定されていることを特徴とする請求項1に記載の共振器。
【請求項3】前記側壁が、互いに平行に配向され端部が互いに接続された複数の導体によって画定されていることを特徴とする請求項1に記載の共振器。
【請求項4】側壁と、第1および第2の端壁とによって画定された空洞と、前記空洞内に同軸状に配置され、第1端が前記第1の端壁に接続され、第2端は前記第2の端壁の手前で終端されている内部導体と、前記内部導体の前記第2端を前記側壁に結合する複数のコンデンサと、前記第2の端壁の中央部を前記内部導体に結合し、一端が、さらに、外部回路が結合することのできる結合ギャップを画定している誘導性導体と、を備えて成り、前記内部導体は、互いに平行に配向され端部が互いに接続された複数の導体によって画定されていることを特徴とする共振器。
【請求項5】前記側壁が、互いに平行に配向され端部が互いに接続された複数の導体によって画定されていることを特徴とする請求項4に記載の共振器。
【請求項6】相対する第1、第2端を有する筒状の第1の外部導体と前記第1の外部導体内に同軸状に配置され、相対する第3、第4端を有するとともに前記第1の外部導体の直径より小さな直径を有する、前記第1の外部導体と同軸線を構成する柱状の第1の内部導体と、前記第1、第3端が接続される第1の導電性端部材と、前記第2、第4端間に放射状に配置された複数の容量性素子と、相対する第5、第6端を有する筒状の第2の外部導体と前記第2の外部導体内に同軸状に配置され、相対する第7、第8端を有するとともに前記第2の外部導体の直径より小さな直径を有する、前記第2の外部導体と同軸線を構成する柱状の第2の内部導体と、前記第6、第8端が接続される第2の導電性端部材と、を有し、前記第2端および前記第5端は相互接続され、前記第1および第2の内部導体は直列に結合されて前記第1および第2の導電性端部材を結合し、前記直列結合は、回路を単一点結合となるよう接続することのできるギャップを有していることを特徴とする共振器。
【請求項7】前記ギャップが前記第4端および前記第端間で画定されていることを特徴とする請求項6に記載の共振器。
【請求項8】前記第2の外部導体の直径は前記第1の外部導体の直径と異なり、前記第2端および前記第5端は導体を介して相互接続されることを特徴とする請求項6に記載の共振器。
【請求項9】側壁と、第1および第2の端壁とによって画定された空洞と、前記空洞内に同軸状に配置され、第1端は前記第1の端壁に接続され、第2端は前記第2の端部の手前で終端されている内部導体と、前記内部導体の前記第2端を前記側壁に結合する複数のコンデンサと、を有する共振器を用意するステップ、及び前記共振器と一緒に使用される回路の第1端子を前記共振器の前記内部導体の前記第2端に結合し、前記回路の第2端子を前記第2の壁の中央部に直接接続するステップを備えて成る共振器を動作させるための方法。
【請求項10】前記回路の第2端子を前記第2の壁の中央部に直接接続するのに代えて前記回路の前記第2端子を前記第2の端壁に第2の内部導体を介して結合するうにしたことを特徴とする請求項9に記載の共振器を動作させるための方法。
【請求項11】前記第2の内部導体がコイル状であることを特徴とする請求項10に記載の共振器を動作させるための方法。

【図1】
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【図4】
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【図3b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図8】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【特許番号】特許第3183677号(P3183677)
【登録日】平成13年4月27日(2001.4.27)
【発行日】平成13年7月9日(2001.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−190606
【出願日】平成3年7月4日(1991.7.4)
【公開番号】特開平4−348602
【公開日】平成4年12月3日(1992.12.3)
【審査請求日】平成10年7月3日(1998.7.3)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【参考文献】
【文献】特開 昭49−63302(JP,A)
【文献】実開 昭52−95328(JP,U)
【文献】実開 昭49−91242(JP,U)
【文献】特公 昭44−361(JP,B1)