説明

共振器及び電子スピン共鳴分光装置

【課題】 ESR分光装置に用いるマイクロ波共振器をより高効率にすることで、ESR分光装置の検出感度を改善すること。
【解決手段】 コイルLとキャパシタCによる並列共振回路1は、平衡伝送線路4に直列に接続されたキャパシタC及びCを含む共振周波数調整回路2を介して、平衡伝送線路4の一端に接続される。平衡伝送線路4の他端は、平衡伝送線路4を駆動するための平衡不平衡変換器(バラン)5と接続される。キャパシタCを含むインピーダンス整合回路3は、バラン5との接続部に並列に接続されている。また、高周波線路6は、インピーダンス整合回路3の一端に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器及び電子スピン共鳴装置に係り、特に、電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance:ESR)分光装置(ESR測定装置)において、試料にマイクロ波を照射し、ESR現象による共鳴吸収スペクトルを測定するマイクロ波共振器及びその共振器を用いた電子スピン共鳴分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ESR法は、電子が有する磁気モーメントの運動を利用して、不対電子を持った原子や分子を直接検出することができる有効な測定方法である。ESR法には、主に、パルスESR法と連続波ESR法(Continuous Wave−ESR法、CW−ESR法)がある。
ESR法により測定するためのESR分光装置においては、計測対象である試料を内部に又は近接して配置することによりESR信号を計測するために、共振器が使用される。
生体を対象としたESR分光装置で使用するサーフェイスコイル共振器は、例えば、以下の非特許文献1、2に記載されているような共振器が知られている。さらに、非特許文献3、4、特許文献1に記載されているように、サーフェイスコイル及び平衡伝送線路を用いたサーフェイスコイル型の共振器が、ESR計測に使用されている。いずれも、一回か複数回巻きのコイルを試料表面に当てることにより、マイクロ波を試料に印加している。
また、非特許文献5には、円筒状のブリッジ・ループ・ギャップ共振器の片端に、試料の表面を接近させることにより、サーフェイスコイル同様に試料の表面付近を計測する共振器が報告されている。さらに、非特許文献6には、キャビティー共振器にピンホールを設け、そこからの漏洩マイクロ波を試料表面に印加する共振器が報告されている。また、非特許文献7には、核磁気共鳴(NMR)用のプローブ共振器が報告されている。さらに、非特許文献8には、ESR分光装置の自動周波数制御について開示されている。さらに、特許文献2には、共振器を駆動するためにバランを用いて平衡不平衡変換を行うことが有効であることが記載されている。
【0003】
【非特許文献1】Nishikawa, H. Fujii, L. J. Berliner, Helices and Surface Coils for Low−Field in Vivo ESR and EPR Imaging Applications, Journal of Magnetic Resonance, Vol. 62, pp. 79−86 (1985).
【非特許文献2】M. Ono, K. Ito, N. Kawamura, K. C. Hsieh, H. Hirata, N. Tsuchihashi, and H. Kamada, A Surface−Coil−Type Resonator for in Vivo ESR Measurements, Journal of Magnetic Resonance, Series B, Vol. 104, pp. 180−182 (1994).
【非特許文献3】H. Hirata, H. Iwai, and M. Ono, Analysis of a flexible surface−coil−type resonator for magnetic resonance measurements, Review of Scientific Instruments, Vol. 66, No. 9, pp. 4529−4534 (1995).
【非特許文献4】H. Hirata, T. Walczak, and H. M. Swartz, Electronically Tunable Surface−Coil−Type Resonator for L−band EPR Spectroscopy, Journal of Magnetic Resonance, Vol. 142, No. 1, pp. 159−167 (2000).
【非特許文献5】S. Petryakov, M. Chzhan, A. Samouilov, G. He, P. Kuppusamy, J. L. Zweier, Journal of Magnetic Resonance, Vol. 151, pp. 124−128 (2001).
【非特許文献6】三木俊克、池谷元伺、「走査型ESRイメージンング」, 大野桂一編著「ESRイメージング」(株式会社アイピーシー、平成2年5月20発行)第9章
【非特許文献7】J. Murphy−Boesch, A. P. Koretsky, Journal of Magnetic Resonance, Vol. 54, pp. 526−532 (1983).
【非特許文献8】Hiroshi Hirata and Zhi−Wei Luo, Stability Analysis and Design of Automatic Frequency Control System for In Vivo EPR Spectroscopy, Magnetic Resonance in Medicine, Vol. 46, pp. 1209−1215 (2001).
【特許文献1】特許3443010号公報 「共振器及び電子スピン共鳴測定装置」(2003年6月20日登録)
【特許文献2】実開昭60−149263号公報 「核磁気共鳴装置の整合回路」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ESR分光装置では、試料にマイクロ波を照射し、試料中に存在する不対電子のESR現象による共鳴吸収スペクトルを測定している。生体を計測するESR分光法では、8mTから45mT程度の低磁場が用いられている。この磁場でESR現象が生じるマイクロ波の周波数は、例えば、250MHzから1200MHz程度である。低磁場を用いるESR分光装置は、分析化学用として広く用いられているXバンド ESR分光装置(磁場0.35T、マイクロ波周波数9.5GHz程度)に比べ、ゼーマン分裂のエネルギー・ギャップが小さいことから、高感度でスペルトルを検出することが容易ではない。そのため、分光装置の検出感度を向上し、より小さい信号でも検出できる分光装置の開発が望まれている。ESR分光装置の検出感度を支配する主な要因は、分光装置の雑音、マイクロ波電力、マイクロ波共振器の高周波磁場発生効率、共振器中にある不対電子の数などである。
本発明は、以上の点に鑑み、ESR分光装置に用いるマイクロ波共振器をより高効率にすることで、ESR分光装置の検出感度を改善することを目的とする。
また、これまで、ESR分光装置において用いられる、生体の表面を計測するサーフェイスコイル共振器は、サーフェイスコイル、伝送線路、共振回路の組み合わせにより構成されていた。従って、試料に接するサーフェイスコイル以外の部分にも高周波エネルギーが蓄えられていた。
そこで、本発明は、サーフェイスコイルに蓄える高周波エネルギーの割合を向上させることにより、ESR分光装置の検出感度を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の解決手段によると、
測定対象に近接又は接触して配置される一つまたは複数のコイルと、前記コイルと並列に接続された第1キャパシタとを有する並列共振回路と、
第1及び第2の一端及び第1及び第2の他端を有する平衡伝送線路と、
前記並列共振回路の両端と前記平衡伝送線路の第1の一端及び第2の一端とをそれぞれ直列に接続する第2及び第3キャパシタを有し、共振周波数を調整するための第1の共振周波数調整回路と、
前記平衡伝送線路の第1及び第2の他端に接続された平衡不平衡変換器と、
前記平衡伝送線路と前記平衡不平衡変換器との接続部で、前記平衡伝送線路の第1の他端と第2の他端との間に並列に接続された第4キャパシタを有し、インピーダンス整合をするためのインピーダンス整合回路と
を備え、
測定用信号が前記平衡伝送線路の第1又は第2の他端に入力されて前記並列共振回路から測定対象へ供給され、前記測定対象でのエネルギー吸収を前記並列共振回路により検出し前記平衡伝送線路の第1又は第2の他端の入力インピーダンスが変化することにより、電子スピン共鳴信号を測定するため共振器が提供される。
【0006】
また、本発明の第2の解決手段によると、
上述のような共振器と、
前記共振器の前記平衡伝送線路の第1又は第2の他端に測定用信号を入力し、電子スピン共鳴信号を出力するための高周波線路と
を備え、
前記高周波線路から入力された測定用信号を前記共振器の前記並列共振回路から、前記並列共振回路と近接又は接触した測定対象へ供給し、前記測定対象でのエネルギー吸収を前記並列共振回路により検出し前記高周波線路の入力インピーダンスが変化することにより、電子スピン共鳴信号を測定するための電子スピン共鳴分光装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、以下のような特有の効果を奏することができる。
(1) コイル部に高周波エネルギーが蓄えられる割合が大きな共振器を備えたESR分光装置を提供することができる。
(2) インピーダンス整合を調整するキャパシタがコイルから離れた位置にあり、マグネットの中心部からは離れているため、手動でキャパシタの容量を調整することが容易である。また、試料から調整用のキャパシタの位置が離れているため、試料に印加される変調磁場に暴露される程度が低く、可変容量ダイオードに印加される逆バイアス電圧が変調磁場に影響されることを防ぐことができる。
(3) キャパシタを試料から離れた位置に設けることで、上記(2)に記載のインピーダンス整合の調整と同様に、試料から離れて共振周波数を調整することができる。さらに、可変容量コンデンサを用いることにより、共振周波数を電圧で調整できる共振器を提供することができる。
(4) 動物、生物等の測定対象を計測する際に、動物の動きによる共振周波数とインピーダンス整合の変化を補償することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
1.第1の実施の形態の共振器
図1に、共振器の第1の実施の形態の構成図を示す。
共振器は、並列共振回路1、共振周波数調整回路2、インピーダンス整合回路3、平衡伝送線路4、平衡・不平衡変換器(バラン)5、高周波線路6を備える。
第1の実施の形態の共振器は、並列共振回路を構成する一つまたは複数のコイルLと並列に接続されたキャパシタCを備える。コイルLとキャパシタCによる並列共振回路1は、平衡伝送線路4に直列に接続されたキャパシタC及びCを含む共振周波数調整回路2を介して、平衡伝送線路4の一端に接続される。平衡伝送線路4の他端は、平衡伝送線路4を駆動するための平衡不平衡変換器(バラン)5と接続される。キャパシタCを含むインピーダンス整合回路3は、バラン5の両端(バラン5と平衡伝送線路4との接続部)に並列に接続されている。また、高周波線路6は、インピーダンス整合回路3の一端に接続される。
並列共振回路1は共振時のインピーダンスが高く、そのままでは平衡伝送線路4とインピーダンス整合することが難しいため、並列共振回路1と平衡伝送線路4の間に直列にキャパシタC及びCを接続し、ある程度のインピーダンス整合を行う。平衡伝送線路4は、例えば、平行に配置された一対の同軸ケーブルを用いることができ、その長さを半波長あるいはその整数倍、あるいは任意の長さに設定することにより、インピーダンス整合を調整するキャパシタCを試料に印加される変調磁場から遠ざけることができる。コイルLとキャパシタCで構成する並列共振回路2はバランス回路のため、バランス駆動を実現するために平衡不平衡変換を行うバラン5を使用する。例えば、バラン5は同軸線路による半波長バランを用いることができる。
平衡伝送線路4に直列に接続されたキャパシタC及びCのみではインピーダンス整合が完全ではない又は十分ではないため、バラン5と平衡伝送線路4に接続されたキャパシタCにより、さらに、マイクロ波電力を供給する高周波線路6(同軸ケーブル、導波路等)とのインピーダンス整合を実現する。キャパシタCは、例えば、予め定められた固定容量のキャパシタ及びトリマキャパシタ及び可変容量ダイオードを組み合わせることにより、構成することができる。固定容量の場合、例えば、所定ESR装置を用いて、実際の測定やシミュレーション等により予め求めた所望の値に、その容量を予め設定することができる。
また、キャパシタC、C、Cの容量を調整することにより、共振周波数を調整することが可能である。このとき、例えば、キャパシタC、C、Cに可変容量ダイオードを接続するか、置き換え、各可変容量ダイオードの両端の電圧を調整する回路を設けて、その回路から各可変容量ダイオードに印加する電圧を変えることにより、共振周波数を調整することが可能となる。
【0009】
2.第2の実施の形態の共振器
図2に、共振器の第2の実施の形態の構成図を示す。
この実施の形態は、共振周波数及びインピーダンス整合を調整できる共振器である。この実施の形態は、第1の実施の形態に、さらに、バラン5と平衡伝送線路4間に直列に、キャパシタCT1及びCT2を含む共振周波数調整回路7を接続したものである。この実施の形態では、キャパシタCT1及びCT2の容量を調整すること等によっても共振周波数を調整することができる。その場合、共振周波数調整回路7は、キャパシタCT1及びCT2として、可変容量ダイオード、又は、トリマキャパシタと固定容量のキャパシタとの組み合わせ等により、共振周波数を変化させる範囲を調整することができる。
【0010】
3.共振周波数及びインピーダンス整合の調整
図3に、可変容量ダイオードを含む共振周波数チューニング回路とインピーダンスマッチング回路の構成図を示す。
この図は、一例として、キャパシタCT1、CT2に、2つの固定容量コンデンサと可変容量ダイオードを含む可変容量コンデンサを用いた回路の例を示した。共振周波数調整回路(チューニング回路)7は、共振周波数調整用の電圧V1を変化させることにより共振周波数を調節できる。また、インピーダンス整合回路(マッチング回路)3は、インピーダンスマッチング用の電圧V2を変化させることによりインピーダンス整合を調整できる。なお、インピーダンス整合は、トリマコンデンサCによっても調節できる。図示のような構成を用いると、電圧により調整できることから、遠隔操作により周波数とインピーダンス整合を調整することができる。この場合、共振器の共振周波数及びマッチング制御を実行する自動制御回路を設けることで、自動にこれらを調整制御することができる(詳細は後述)。
なお、図1の共振周波数調整回路2についても、上述のような可変容量コンデンサを適用して、共振周波数を調整するようにしてもよい。
【0011】
4.電子スピン共鳴分光装置
図4に、電子スピン共鳴(ESR)分光装置の構成図を示す。
本ESR測定装置は、マイクロ波発振器101、共振器102、ブリッジ103、位相検波器105、コンピュータ107、低周波発振器109、自動周波数制御回路110、増幅器111、電源112、マグネット116、変調コイル117を備える。
ESR分光装置においては、搬送波周波数(例えば、連続波)が、高周波線路6(例えば、同軸ケーブル、導波管等)を介して共振器102本体に入射される。共振器102は、電子スピン共鳴が起こらないときにマッチングが取れている状態に調整しておく。このとき、共振器102のマッチングが取れていると反射は起こらない。一方、共振器102のサーフェイスコイルLに接している測定対象(試料)において電子スピン共鳴が起こると、共振器102の入力インピーダンスが変化する。すると、マッチングが崩れ、共振器102からの反射波が生じることになる。この反射波をESR分光装置で受信することにより、ESR信号の測定が行われる。
【0012】
以下、動作の詳細について説明する。
共振器102が、第1及び第2の実施の形態に示した共振器に相当する。マイクロ波発振器101から出力されたマイクロ波は、図1又は図2に示す高周波線路6を介してブリッジ103から共振器102に印加される。共振器102のインピーダンス整合は調整されており、反射したマイクロ波は共振器102から再びブリッジ103へ戻り、ブリッジ103内部で包落線検波される。低周波発振器109から出力された変調信号は増幅器111により増幅され変調コイル117に印加される。電子スピン共鳴現象が生じていると、変調コイル117により発生した変調磁場の摂動により、共振器102から反射されるマイクロ波は振幅変調される。包落線検波された信号を位相検波器105により検波することにより、電子スピン共鳴吸収曲線の一次微分スペクトルを得ることができる。コンピュータ107は、位相検波器105から一次部分スペクトルを取得するとともに、低周波発振器109の振幅やマグネット116に供給する電流を制御する電源112をコントロールする。
自動周波数制御回路110の内部にある発振器の正弦波信号をマイクロ波発振器101に印加し、マイクロ波発振器101から出力される信号を周波数変調する。この周波数変調によってもマイクロ波は共振器102で反射される。ブリッジ103の内部で検波された信号は自動周波数制御回路110へ送られ、位相検波される。自動周波数制御回路110内の位相検波回路の出力がマイクロ波発振器101に印加される変調信号(正弦波)に重畳される。マイクロ波周波数(マイクロ波発振器101の周波数)と共振器102の共振周波数の差が小さくなるように自動周波数制御回路110の位相を調整すると、ネガティブフィードバック制御が実現し、マイクロ波発振器101の周波数を共振器102の共振周波数に同期することができる。自動周波数制御の技術は公知のものであり、例えば、非特許文献8に記載されている。
【0013】
図5に、自動チューニング制御(ATC)と自動マッチング制御(AMC)を含む電子スピン共鳴(ESR)分光装置の構成図を示す。
このESR分光装置は、図4及びその説明箇所で示したESR分光装置に、さらに、自動チューニング制御回路121、自動マッチング制御回路122を備えたものである。自動チューニング制御回路121は、周波数調整用電圧V1を出力し、自動マッチング制御回路122は、マッチング調整用電圧V2を出力する。また、共振器102としては、例えば、図3に示したものを用いることができる。
このようなESR分光装置において、ブリッジ103から分岐された検波信号は、自動チューニング制御回路121に入力される。自動チューニング制御回路121の利得及び位相特性は、共振器102の共振周波数がマイクロ波発信器101の周波数に同期するように調整されており、ネガティブフィードバック制御が実現する。同様にブリッジ103から分岐された検波信号は、自動マッチング制御回路122に入力され、共振器102のインピーダンスを伝送線路の特性インピーダンスに整合するように、ネガティブフィードバック制御が行われる。この際、自動チューニング制御回路121及び自動マッチング制御回路122から出力される電圧は、それぞれ、共振器102のチューニング回路7及びマッチング回路3の一部として使用される各可変容量ダイオードに印加される(図3及びその説明箇所等参照)。
【0014】
5.本発明・本実施の形態の有利性
本実施の形態によると、以下のような顕著な効果を奏する。
(1) コイル部に高周波エネルギーが蓄えられる割合が大きな共振器を備えたESR分光装置を提供することができる。直径10mmの一回巻のコイルを用いた共振器(共振周波数1180MHz、無負荷Q 380)、平衡伝送線路の長さを半波長として図1の構成で共振器を試作した。金属球による摂動法により高周波磁場の発生効率を求めたところ、126μT/W1/2の効率であった。また、非特許文献4に記載のサーフェイスコイル共振器(共振周波数1130MHz、無負荷Q 262、一回巻コイルの直径10mm)の効率を測定したところ、高周波磁場の発生効率は44μT/W1/2であった。高周波磁場の発生効率は約2.9倍改善された。ESRスペクトルの信号強度は、高周波磁場の発生効率の二乗に比例するので、8倍程度スペクトルの信号強度が大きくなることが予想される。この実験結果から、共振器の高効率化により、損失の少ない試料ではESR分光装置の検出感度が8倍程度改善されることを示している。
(2) インピーダンス整合を調整するキャパシタCがコイルから離れた位置にあり、マグネットの中心部からは離れているため、手動でキャパシタCの容量を調整することが容易である。キャパシタCあるいは、キャパシタCの一部として可変容量コンデンサを用いる場合には、試料からキャパシタCの位置が離れているため、試料に印加される変調磁場に暴露される程度が低く、可変容量ダイオードに印加される逆バイアス電圧が変調磁場に影響されることを防ぐことができる。
(3) キャパシタを試料から離れた位置に設けることで、上記に記載のインピーダンス整合の調整と同様に、試料から離れた位置で共振周波数を調整することができる。さらに、可変容量コンデンサを用いることにより、共振周波数を電圧で調整できる共振器を提供することができる。
(4) 動物等を計測する際に、動物の動きによる共振周波数とインピーダンス整合の変化を補償することが可能なESR分光装置を提供することができる。

次に、本発明の実施の形態と、非特許文献7に記載された核磁気共鳴(NMR)用のプローブ共振器とを、以下に比較する。非特許文献7に記載のプローブ共振器は、実施の形態はFig.1aに記載されており、その等価回路としてFig.3bとFig.3cが示されている。直列に接続されたキャパシタ(非特許文献Fig.3ではC)はインピーダンス整合の調整に用いられており、サンプルコイルLに並列に接続されたキャパシタCは共振周波数の調整に用いられている。一方、本実施の形態では、平衡伝送線路とバランの間に並列に接続されたキャパシタCを用いてインピーダンス整合の調整を行うところが、非特許文献7と異なる点である。
また、本願図2に示すキャパシタCT1とCT2は、共振周波数を調整する目的で平衡伝送線路を介してキャパシタC、Cに接続されている。非特許文献7に記載のプローブ回路では、サンプルコイルと並列に接続されたキャパシタを調整することで共振周波数の調整を行っている。電子スピン共鳴分光装置では、使用するマイクロ波周波数がNMRに比べ高いために、コイルに近接した場所で調整作業を行うと共振周波数及びインピーダンス整合に影響を与えてしまう。そのため、コイルから離れた場所で共振周波数とインピーダンス整合を調整できることが実用的に望ましい。特に図2に示す本発明の実施の形態の構成は、そのような問題を解決できる共振器を提供することができる。なお、図1に示す本発明の実施の形態の構成では、主に、インピーダンス整合をコイルから離れた場所で調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、VHF、UHF、SHF等を含むマイクロ波に適宜適用することができる。また、スピン共鳴信号を検出する際、磁場掃引又は周波数掃引を用いる場合等に、本発明を適用することができる。
さらに、本発明は、化学、物理学、生物学、医学など広範囲のESR法の分野に応用することができる。また、パルスESR法及び連続波ESR法などの各種ESR法に、利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】共振器の第1の実施の形態の構成図。
【図2】共振器の第2の実施の形態の構成図。
【図3】可変容量ダイオードを含む共振周波数チューニング回路とインピーダンスマッチング回路の構成図。
【図4】電子スピン共鳴(ESR)分光装置の構成図。
【図5】自動チューニング制御と自動マッチング制御を含む電子スピン共鳴(ESR)分光装置の構成図。
【符号の説明】
【0017】
1 並列共振回路
2、7 共振周波数調整回路
3 インピーダンス整合回路
4 平衡伝送線路
5 平衡・不平衡変換機(バラン)
6 高周波線路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に近接又は接触して配置される一つまたは複数のコイルと、前記コイルと並列に接続された第1キャパシタとを有する並列共振回路と、
第1及び第2の一端及び第1及び第2の他端を有する平衡伝送線路と、
前記並列共振回路の両端と前記平衡伝送線路の第1の一端及び第2の一端とをそれぞれ直列に接続する第2及び第3キャパシタを有し、共振周波数を調整するための第1の共振周波数調整回路と、
前記平衡伝送線路の第1及び第2の他端に接続された平衡不平衡変換器と、
前記平衡伝送線路と前記平衡不平衡変換器との接続部で、前記平衡伝送線路の第1の他端と第2の他端との間に並列に接続された第4キャパシタを有し、インピーダンス整合をするためのインピーダンス整合回路と
を備え、
測定用信号が前記平衡伝送線路の第1又は第2の他端に入力されて前記並列共振回路から測定対象へ供給され、前記測定対象でのエネルギー吸収を前記並列共振回路により検出して前記平衡伝送線路の第1又は第2の他端の入力インピーダンスが変化することにより、電子スピン共鳴信号を測定するため共振器。
【請求項2】
前記インピーダンス整合回路は、第4キャパシタに並列に可変容量ダイオードをさらに有し、前記可変容量ダイオードに印加する電圧を調整することによりインピーダンスを整合する請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
前記第1の共振周波数調整回路の第2及び第3キャパシタの容量を調整することにより共振周波数を調整する請求項1又は2に記載の共振器。
【請求項4】
前記平衡伝送線路の他端と前記インピーダンス整合回路との間に直列に、共振周波数を調整するための第2の共振周波数調整回路をさらに備えた請求項1乃至3のいずれかに記載の共振器。
【請求項5】
前記第2の共振周波数調整回路は、可変容量ダイオードとコンデンサを含む可変容量キャパシタを有し、前記可変容量ダイオードに印加する電圧を調整することにより、前記可変容量キャパシタの容量を調整し、共振周波数を調整する請求項4に記載の共振器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の共振器と、
前記共振器の前記平衡伝送線路の第1又は第2の他端に測定用信号を入力し、電子スピン共鳴信号を出力するための高周波線路と
を備え、
前記高周波線路から入力された測定用信号を前記共振器の前記並列共振回路から、前記並列共振回路と近接又は接触した測定対象へ供給し、前記測定対象でのエネルギー吸収を前記並列共振回路により検出して前記高周波線路の入力インピーダンスが変化することにより、電子スピン共鳴信号を測定するための電子スピン共鳴分光装置。
【請求項7】
前記共振器の前記共振周波数調整回路を調整するための周波数調整用電圧を出力する自動チューニング制御回路をさらに備えた電子スピン共鳴分光装置。
【請求項8】
前記共振器の前記インピーダンス整合回路を調整するためのマッチング調整用電圧を出力する自動マッチング制御回路をさらに備えた電子スピン共鳴分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−180510(P2008−180510A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12153(P2007−12153)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(304036754)国立大学法人山形大学 (59)