説明

共振器

【課題】 電極間隔をローレンツ力によって変化させることにより、静電容量を変化させるときの可変領域を拡大し、性能を向上させる。
【解決手段】 基板2上には、支持部5と支持梁6とを介して可動部7を設け、この可動部7に設けた可動電極8と基板2上に設けた表面電極3,4とを対面させる。また、可動部7には、マグネット13によるY軸方向の磁界Hが作用する電流路11を設ける。そして、電流路11に電流I1,I2を通電することにより、X軸方向に延びた中間配線部11AにZ軸方向のローレンツ力F1,F2を生じさせ、可動部7をZ軸方向の一側または他側に変位させる。これにより、表面電極3,4と可動電極8との間の静電容量を非通電時よりも小さい値から大きい値まで広い範囲に亘って変化させることができ、コンデンサ1の性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電極間の静電容量を変化させるのに好適に用いられる可変容量コンデンサ、及び静電容量の変化に応じて共振周波数を可変に設定するのに好適に用いられる共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、可変容量コンデンサとしては、例えば静電引力(クーロン力)等を用いて可動電極を基板上で変位させることにより、この可動電極と基板側に設けられた表面電極との間の静電容量を変化させる構成としたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の従来技術による可変容量コンデンサは、導電性部材で形成された可動電極が支持梁等を介して基板上に支持されている。この結果、可動電極は、基板から所定の距離だけ離間した位置で基板に対して水平な方向に変位可能に保持される。また、基板上には、可動電極と対向して、表面電極が設けられる。さらに、可動電極と対向して基板上に固定電極が設けられる。可動電極と固定電極とにより、両者に電圧を印加した際に発生する静電力を用いて可動電極を水平方向に移動させる可動手段が形成される。
【0004】
そして、可動手段によって静電引力を発生させると、可動電極は静電引力により支持梁を介して水平方向に変位し、表面電極と可動電極との対向面積が変化する。このように、従来技術では、電極間の対向面積を静電引力の大きさに応じて増減し、これらの間での静電容量を変化させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−7890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来技術では、可動手段によって発生する静電引力は、電極間隔の2乗に反比例するため、例えば電極間隔が広くなり過ぎると、これらの間に静電引力を安定的に発生するのが難しくなる。また、例えば電極間隔が最大時の約1/3よりも小さくなると、静電引力が急激に増大して可動電極と固定電極が互いに接触する虞れがある。
【0007】
このため、従来技術では、可動電極と固定電極の間隔を一定の寸法範囲に保持する必要があった。これに伴って可動電極の変位量が制限されるため、静電容量の可変領域が狭くなり、コンデンサの性能を向上させるのが難しいという問題がある。
【0008】
また、例えば従来技術の可変容量コンデンサを共振器等の高周波回路に搭載し、その共振周波数を可動電極の変位量に応じて可変に設定する場合には、前述した理由により可動電極を広い範囲で変位させるのが難しいため、このような共振器を容易に実現できないという問題がある。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の第1の目的は、簡単な構造により静電容量を広い範囲で変化させることができ、可変領域等の性能を向上できるようにした可変容量コンデンサを提供することにある。
【0010】
また、本発明の第2の目的は、可動電極の変位量に応じて共振周波数を安定的に変化させることができ、可変容量コンデンサを用いて容易に実現できるようにした共振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために請求項1の発明に係る可変容量コンデンサは、基板と、該基板に設けられた固定電極と、該固定電極に対応する位置で前記基板に支持梁を介して支持されローレンツ力が発生したときに互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸のうち前記基板と垂直なZ軸方向に変位可能となった可動部と、該可動部に設けられ前記固定電極とZ軸方向の隙間を挟んで対面する可動電極と、前記可動部に設けられローレンツ力発生の要因となる電流がX軸方向に流れるようにX軸方向に延びた部位を有する電流路と、該電流路のX軸方向に延びた部位に対してローレンツ力発生の要因となるY軸方向の成分をもった磁界を形成する磁界発生手段とから構成を採用している。
【0012】
このように構成することにより、電流路のうちX軸方向に延びた部位には、電流路に通電する電流の方向と磁界の方向とに直交した方向のローレンツ力を発生でき、このローレンツ力により可動部をZ軸方向に変位させることができる。これにより、固定電極と可動電極との間の電極間隔を電流の方向に応じて増減でき、その間隔寸法を電流の大きさに比例した寸法として設定できるから、コンデンサの静電容量を電流に応じて容易に変化させることができる。
【0013】
また、請求項2の発明によると、固定電極と可動電極との間には該各電極間の静電容量を大きくする誘電体を設ける構成としている。
【0014】
これにより、固定電極と可動電極との間の誘電率を大きくすることができるから、これらの間の静電容量を増大できると共に、可動電極の変位に対する静電容量の変化率も増大させることができる。
【0015】
一方、請求項3の発明に係る共振器は、誘電体基板と、該誘電体基板の表面に設けられ主開口部と該主開口部の周縁に位置した切欠き開口部とが誘電体基板の表面を露出させた状態で形成された導体層と、該導体層の切欠き開口部の両側と対向して設けられた可動電極を有し該導体層に対して接近,離間するように変位可能となった可動部と、該可動部の可動電極を変位させることにより前記導体層の切欠き開口部の両側の静電容量を変化させて共振周波数を可変に設定する可動手段とから構成している。
【0016】
これにより、可動電極は、導体層のうち切欠き開口部を挟んで両側に位置する各部位と対向してコンデンサを形成でき、可動手段は、可動部(可動電極)を変位させることによってこれらの部位間の静電容量を変化させることができる。この結果、高周波信号等に対する切欠き開口部の影響を導体層の各部位間の静電容量に応じて変化させることができ、共振器の共振周波数を、例えば主開口部の形状等に応じて定められる1つの周波数値と、切欠き開口部の形状等により影響された他の周波数値との間で可変に設定することができる。
【0017】
また、請求項4の発明によると、可動部はローレンツ力が発生したときに互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸のうち前記誘電体基板と垂直なZ軸方向に変位可能に設け、前記可動手段は、該可動部に設けられローレンツ力発生の要因となる電流がX軸方向に流れるようにX軸方向に延びた部位を有する電流路と、該電流路のX軸方向に延びた部位に対してローレンツ力発生の要因となるY軸方向の成分をもった磁界を形成する磁界発生手段とから構成している。
【0018】
これにより、電流路に通電したときには、可動部をローレンツ力によりZ軸方向に変位させ、切欠き開口部の両側に位置する導体層の各部位間の静電容量を可動電極によって変化させることができる。この結果、電流路に通電するか否かに応じて高周波信号等に対する切欠き開口部の影響を変化させ、共振器の共振周波数を2つの周波数値間で可変に設定することができる。
【0019】
また、請求項5の発明によると、導体層には前記誘電体基板の裏面を前記主開口部と対向する位置で露出させる他の開口部を設ける構成としている。
【0020】
これにより、誘電体基板の表面側に配置した主開口部によって一定の共振周波数を設定でき、この周波数値における共振特性を裏面側の開口部によって向上させることができる。
【0021】
また、請求項6の発明によると、導体層と可動電極との対向部位間には該各部位間の静電容量を大きくする誘電体を設ける構成としている。
【0022】
これにより、導体層と可動電極との対向部位間の静電容量を大きく変化させることができ、共振周波数を安定的に切換えることができる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明によれば、基板上にZ軸方向に変位可能となった可動部を配置し、該可動部に設けた電流路のうちX軸方向に延びた部位に対して磁界発生手段によりY軸方向の成分をもった磁界を形成する構成としたので、電流路に一方向または逆方向の電流を通電したときには、可動電極をローレンツ力によって固定電極に接近または離間させることができ、コンデンサの静電容量を非通電時の容量よりも増大させたり、減少させることができる。しかも、可動部に加わるローレンツ力の大きさを電流に比例して常に適切に設定できるから、コンデンサの静電容量を非通電時の容量よりも小さな値から大きな値まで広い範囲に亘って変化させることができる。従って、簡単な構造で静電容量の可変領域を拡大でき、コンデンサの性能を向上させることができる。
【0024】
また、請求項2の発明によれば、固定電極と可動電極との間には誘電体を設ける構成としたので、コンデンサの静電容量や静電容量の変化率を増大させることができ、容量変化の範囲をより広げることができる。
【0025】
また、請求項3の発明によれば、可動手段は、可動部を変位させることにより導体層の切欠き開口部の両側の静電容量を変化させて共振周波数を可変に設定する構成としたので、可動手段は、可動電極を介して導体層の各部位間の静電容量を確実に変化させることができ、共振周波数を、主開口部の形状等により定められる1つの周波数値と他の周波数値との間で安定的に切換えることができる。
【0026】
一方、請求項4の発明によれば、可動手段は、可動部に設けられた電流路と、該電流路のX軸方向に延びた部位に対してY軸方向の成分をもった磁界を形成する磁界発生手段とから構成したので、可動部をローレンツ力により大きく変位させることができ、切欠き開口部の両側に位置する導体層の各部位間の静電容量を広い範囲で変化させることができる。これにより、共振周波数を、主開口部の形状等により定められる1つの周波数値と他の周波数値との間で確実に切換えることができ、切換動作の安定した共振器を実現することができる。
【0027】
また、請求項5の発明によれば、導体層には誘電体基板の裏面を主開口部と対向する位置で露出させる他の開口部を設ける構成としたので、主開口部によって一定の共振周波数を設定でき、この周波数値における共振特性(Q値)を裏面側の開口部によって向上させることができる。
【0028】
また、請求項6の発明によれば、導体層と可動電極との間の静電容量を大きくする誘電体を設ける構成としたので、コンデンサの静電容量や静電容量の変化率を増大させることができ、共振周波数を安定的に切換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態による可変容量コンデンサを示す斜視図である。
【図2】図1中の矢示II−II方向からみた可変容量コンデンサの拡大断面図である。
【図3】図1中の矢示III−III方向からみた可変容量コンデンサの拡大断面図である。
【図4】可変容量コンデンサの等価回路を示す回路図である。
【図5】可動部をローレンツ力により基板側に変位させて静電容量を増大させた状態を示す拡大断面図である。
【図6】可動部を基板から離れる方向に変位させて静電容量を減少させた状態を示す拡大断面図である。
【図7】本発明の実施の形態による共振器を示す斜視図である。
【図8】図7中の矢示VIII−VIII方向からみた共振器の拡大断面図である。
【図9】図7中の矢示IX−IX方向からみた共振器の拡大断面図である。
【図10】本発明の変形例による可変容量コンデンサを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態による可変容量コンデンサ及び共振器を、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0031】
ここで、図1ないし図6を用いて、本発明による可変容量コンデンサを示す。
【0032】
図中、1は可変容量コンデンサ、2は該可変容量コンデンサ1の本体部分を構成する基板で、該基板2は、例えばシリコン材料、ガラス材料等により四角形の平板状に形成され、その表面側には、後述の表面電極3,4、支持部5、支持梁6、可動部7等が配置されている。なお、基板2は、図1に示すように、基板2の表裏面がX−Y軸平面と一致するように、また基板2の厚み方向がZ軸と一致するように、配置されている。
【0033】
3,4は基板2上に設けられた固定電極としての例えば2個の表面電極で、該表面電極3,4は、例えばスパッタ、蒸着等の手段により四角形状の金属膜として形成され、X軸方向に間隔をもって配置されている。また、表面電極3,4には、コンデンサ1の静電容量を出力する電極パッド3A,4Aが設けられている。
【0034】
5は可動部7を支持するために基板2上に設けられた支持部で、該支持部5は、例えばシリコン材料にエッチング処理を施すことにより、図1ないし図3に示す如く四角形の枠状体として形成され、表面電極3,4を取囲んでいる。
【0035】
6,6は基板2上に隙間をもって配置された2本の支持梁で、該各支持梁6は、Y軸方向に延びる細長い板材として形成され、互いにX軸方向に離間している。なお、各支持梁6のX−Z軸平面での断面形状は、横長の長方形に形成される。そして、各支持梁6は、基端側が支持部5に固着され、先端側が可動部7に固着されている。この結果、可動部7は、各支持梁6によってZ軸方向に撓み変形可能な状態で片持ち支持されている。
【0036】
なお、可動部7は、例えばシリコン材料等により支持部5と支持梁6と一緒に加工され、四角形の平板状に形成されると共に、基板2に対して離間した位置で、X−Y軸平面に延びている。そして、可動部7は、後述の図5、図6に示す如く、電流路11の中間配線部11Aに作用するローレンツ力F1,F2を受けることにより、支持梁6を介してZ軸方向に変位し、基板2に対して接近、離間するものである。
【0037】
8は基板2に面して可動部7の裏面側に設けられた可動電極で、該可動電極8は、図1ないし図3に示す如く四角形状の金属膜等からなり、例えば酸化シリコン等の絶縁膜9を介して可動部7に設けられている。そして、可動電極8のうち図2中の左側に位置する部位は、一方の表面電極3とZ軸方向の隙間を挟んで対面し、これらの電極3,8は平行平板型のコンデンサCaを形成している。また、可動電極8の右側部位は他方の表面電極4と対面し、これらの電極4,8はコンデンサCbを形成している。なお、可動電極8は、例えばスパッタ、蒸着等の手段により形成される。
【0038】
また、コンデンサCa,Cbは、図4の等価回路に示す如く、可動電極8を介して互いに直列に接続されている。そして、可動部7がZ軸方向に変位すると、これに伴って表面電極3,4と可動電極8との間の電極間隔が変動してコンデンサCa,Cbの静電容量が変化する。これらの容量を直列に合成した静電容量は、コンデンサ1全体の静電容量として表面電極3,4の電極パッド3A,4Aから外部に出力される。
【0039】
10は可動電極8を覆って設けられた誘電体膜で、該誘電体膜10は、例えば多結晶シリコン、酸化シリコン等の誘電率が比較的大きな誘電体材料により形成されている。なお、誘電体膜10は、例えばスパッタ、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の手段により形成される。誘電体膜10は、表面電極3,4と可動電極8との間に配設され、これらの隙間を部分的に埋めることにより、コンデンサCa,Cbの静電容量及びこれらの静電容量の変化量を増大させるものである。
【0040】
11は可動部7の表面側に酸化シリコン等の絶縁膜12を介して設けられた電流路で、該電流路11は、例えば金属膜等により略コ字状に屈曲した細長い導体材料により形成されている。そして、電流路11は、その中間部位に位置するX軸方向に延びた直線状の中間配線部11Aと、該中間配線部11Aの左,右両側にそれぞれ接続され、Y軸方向に延びた左,右の延長配線部11B,11Cと、支持部5上に形成され、該延長配線部11B,11Cの端部側に接続された左,右の電極パッド11D,11Eとにより構成されている。なお、電流路11は、例えばスパッタ、蒸着等の手段により形成される。
【0041】
ここで、中間配線部11Aは、電極パッド3A,4A側の可動部7の周縁に沿って設けられている。このため、中間配線部11AにZ軸方向のローレンツ力F1,F2が作用するときには、支持梁6の基端側を固定端として自由端となる可動部7に大きな回転モーメントが加わるようになり、可動部7を大きく変位させることができる。
【0042】
そして、外部の通電回路(図示せず)等により電流路11に対してX軸の正方向に電流I1を通電すると、中間配線部11Aは、後述するマグネット13の磁界HによりZ軸の負方向にローレンツ力F1を受ける。また、電流路11に対してX軸の負方向に電流I2を通電したときには、中間配線部11AがZ軸の正方向にローレンツ力F2を受けるようになる。
【0043】
この場合、中間配線部11Aに加わるローレンツ力F1,F2の単位長さ当たりの大きさは、電流I1,I2と磁界Hの磁束密度Bとを用いて下記数1の式のように表すことができるから、コンデンサ1の作動時には、可動部7に対して電流I1,I2と比例するローレンツ力F1,F2を付加できるものである。
【0044】
【数1】

【0045】
13は基板2に付設された磁界発生手段としてのマグネットで、該マグネット13は、そのN極、S極と電流路11の中間配線部11AとがY軸方向に沿ってほぼ直線状に並ぶように配置され、N極はS極よりも可動部7に近い位置で中間配線部11Aに面している。そして、マグネット13は、N極から中間配線部11Aに向けてY軸方向にほぼ平行に延びる磁界Hを形成するものである。
【0046】
本実施の形態による可変容量コンデンサ1は上述の如き構成を有するもので、次にその動作について説明する。
【0047】
まず、例えば図1中で電流I1を電流路11に通電すると、この電流I1は中間配線部11Aを流れるときに、マグネット13による磁界Hを直交方向に横切るようになる。このため、中間配線部11Aには、X軸方向の電流I1とY軸方向の磁界Hとに対して直交するZ軸方向のローレンツ力F1が基板2に向けて加わる。
【0048】
そして、可動部7は、図5に示す如く支持梁6がローレンツ力F1に応じて撓み変形することにより、非通電時の位置から基板2に近づくようにZ軸方向に変位し、表面電極3,4と可動電極8との間の電極間隔が狭くなる。この場合、可動部7は、柔軟な支持梁6を用いることによりローレンツ力F1に応じてほぼ線形的に変位するので、その変位量を電流I1の大きさに比例した寸法として調整でき、コンデンサCa,Cbの静電容量を増大させることができる。
【0049】
また、電流路11に電流I2を通電すると、中間配線部11Aには、図6に示す如く、ローレンツ力F1と逆向きのローレンツ力F2が加わる。これにより、可動部7は、非通電時の位置と比較して基板2から離れるようにZ軸方向に変位し、表面電極3,4と可動電極8との間の電極間隔は、電流I2の大きさに比例した寸法分だけ広くなるので、コンデンサCa,Cbの静電容量を減少させることができる。
【0050】
かくして、本実施の形態では、可変容量コンデンサ1を、可動部7、電極3,4,8、電流路11、マグネット13等を含んで構成し、電流路11に通電したときには、可動部7をローレンツ力F1,F2によりZ軸方向に変位させ、コンデンサCa,Cbの静電容量を変化させる構成としている。
【0051】
これにより、電流路11に電流I1を通電したときには、可動電極8を非通電時の位置よりも表面電極3,4に接近させることができ、コンデンサ1の静電容量を増大させることができる。また、電流路11に電流I2を通電したときには、可動電極8を非通電時の位置よりも表面電極3,4から離間させることができ、コンデンサ1の静電容量を減少させることができる。
【0052】
しかも、基板2に対する可動部7の位置に関係なく、電流I1,I2の電流量に比例するローレンツ力F1,F2の大きさを設定できるから、従来技術のようにクーロン力が適切な大きさとなる狭い範囲で可動電極を変位させる必要がなくなり、コンデンサ1の静電容量を非通電時の静電容量よりも小さな値から大きな値まで広い範囲に亘って変化させることができる。
【0053】
従って、簡単な構造で静電容量の可変領域を拡大できると共に、静電容量を電流I1,I2の大きさに応じて正確に調整でき、コンデンサ1の性能を向上させることができる。
【0054】
この場合、誘電体膜10を可動電極8に設けて表面電極3,4と可動電極8との間に配設したので、これらの間の誘電率を増大させることができる。これにより、コンデンサCa,Cbの静電容量を大きくできる上に、可動電極8の変位に対する静電容量の変化率も増大させることができ、容量変化の範囲をより広げることができる。
【0055】
また、可動部7を2本の支持梁6により片持ち支持するようにしたので、可動部7にローレンツ力F1,F2が加わるときには、支持梁6の基端側を固定端として自由端となる可動部7を大きく変位させることができ、このとき可動部7を各支持梁6によりX軸方向の2箇所で安定的に支持することができる。
【0056】
また、可動部7の表面側に電流路11を配設し、その裏面側に可動電極8を配設したので、可動電極8と電流路11とを可動部7の両面側に分けて配置でき、これらを容易にレイアウトできると共に、電流路11を可動部7の表面側から外部へと容易に引出すことができる。
【0057】
そして、この場合には、電流路11の延長配線部11B,11Cを各支持梁6を介して支持部5側に引出しているので、支持部5と可動部7との間に余分な配線等を接続する必要がなくなり、電流路11と外部の通電回路等とを容易に接続できると共に、その接続構造を簡素化することができる。
【0058】
次に、図7ないし図9を用いて、本発明による共振器を示す。本実施の形態の特徴は、上述した可変容量コンデンサを用いて共振器を構成したことにある。なお、本実施の形態では上述した実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0059】
21は誘電体材料により四角形の平板状に形成された誘電体基板である。
【0060】
22は例えば金属膜等により形成された導体層で、誘電体基板21は、後述の円形開口部23,24と切欠き開口部25とを除き、導体層22で覆われている。なお、導体層22は、例えばスパッタ、蒸着等の手段により形成された薄膜でもよく、またメッキ等の手段により形成された厚膜でもよい。
【0061】
23は誘電体基板21の表面21Aを露出させるため、導体層22に設けられた主開口部としての円形開口部である。該円形開口部23は、所定の円周長となるように直径が定められている。なお、円形開口部23の直径は、後述する可変容量コンデンサ26の電流路36に電流を流したときに、共振器の共振周波数が円形開口部23の円周長さに対応する基準の周波数値となるように設定される。
【0062】
また、誘電体基板21の表面21Aの露出した領域と対向する領域には、誘電体基板21の裏面21Bを露出させる他の円形開口部24が設けられる。該円形開口部24は、基準の周波数値における共振特性(Q値)をより向上させるものである。
【0063】
25は導体層22の表面側部位に円形開口部23と連通して設けられた切欠き開口部である。該切欠き開口部25は、例えば円形開口部23の周縁部位を1箇所、半径方向に切欠くことにより、細長い四角形状に形成され、切欠き開口部25により誘電体基板21が露出している。そして、切欠き開口部25は、可変容量コンデンサ26の電流路36に電流を流していないときに、共振器の共振周波数が基準の周波数値と異なる他の周波数値となるように設定するものである。
【0064】
26は本実施の形態の共振器に用いられる可変容量コンデンサで、該可変容量コンデンサ26は、誘電体基板21と、後述の表面電極27,28、支持部29、支持梁31、可動部32、可動電極33、電流路36、マグネット38とを含んで構成されている。そして、これらの部位のうち支持部29、支持梁31、可動部32、可動電極33、電流路36及びマグネット38は、上述した可変容量コンデンサ1とほぼ同様に構成されている。
【0065】
27,28は導体層22の一部として誘電体基板21の表面21A側に設けられた2箇所の表面電極で、該表面電極27,28は、図7、図9に示す如く、導体層22のうち切欠き開口部25を挟んで左,右両側に位置する部位により構成されている。
【0066】
29は例えば酸化シリコン等の絶縁膜30を介して導体層22上に突設された支持部で、該支持部29は、例えばシリコン材料等により表面電極27,28を取囲む四角形の枠状体として形成されている。
【0067】
31,31は導体層22上に隙間をもって配置された例えば2本の支持梁で、該各支持梁31は、支持部29と可動部32との間をZ軸方向に撓み変形可能な状態で連結し、可動部7を片側で支持する片持ち支持梁として構成されている。
【0068】
32は導体層22に支持梁31等を介してZ軸方向に変位可能に支持された可動部で、該可動部32は四角形の平板状に形成され、誘電体基板21に対して離間した位置でほぼ水平に延びている。
【0069】
33は誘電体基板21に面して可動部32の裏面側に設けられた可動電極で、該可動電極33は、図9に示す如く、例えば酸化シリコン等の絶縁膜34を介して可動部32に固着されている。そして、可動電極33のうち図9中の左側に位置する部位は、一方の表面電極27とZ軸方向の隙間を挟んで対面し、これらの電極27,33はコンデンサCa′を形成している。また、可動電極33の右側部位は、他方の表面電極28との間にコンデンサCb′を形成し、これら2個のコンデンサCa,Cbは可動電極33を介して互いに直列に接続されている。
【0070】
35は可動電極33を覆って設けられた誘電体としての誘電体膜で、該誘電体膜35は、例えば多結晶シリコン、酸化シリコン等の誘電率が比較的大きな誘電体材料により形成され、コンデンサCa′,Cb′の静電容量及びこれらの静電容量の変化量を増大させるものである。
【0071】
36は絶縁膜37を介して可動部32の表面側に設けられた略コ字状の電流路で、該電流路36は、X軸方向に延びた中間配線部36Aと、該中間配線部36Aの両端側から支持梁31を介して支持部29の位置まで引出された左,右の延長配線部36B,36Cと、支持部29上に固着された電極パッド36D,36Eとにより構成されている。
【0072】
また、38は誘電体基板21上に配置された磁界発生手段としてのマグネットで、該マグネット38は、そのN極、S極と電流路36の中間配線部36AとがY軸方向に沿ってほぼ直線状に並ぶように配置され、N極はS極よりも可動部32に近い位置で中間配線部36Aに面している。そして、マグネット38は、N極から中間配線部36Aに向けてY軸方向にほぼ平行に延びる磁界Hを形成するものである。これにより、電流路36とマグネット38とは、後述の如く可動部32をローレンツ力F1により変位させる可動手段としてのローレンツ力発生機構39を構成している。
【0073】
本実施の形態による共振器は上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0074】
まず、可変容量コンデンサ26の電流路に電流を流していないときには、図9中に示す如く、可動部32が支持梁31等により誘電体基板21から離れた位置に保持されている。そして、コンデンサCa′,Cb′の電極間隔は広がった状態となり、これらの静電容量を合成した表面電極27,28間の静電容量は小さくなっているため、表面電極27,28は、高周波信号等に対して互いに絶縁された状態となっている。この結果、円形開口部23は、切欠き開口部25の影響により見かけ上の円周長さが長くなり、共振器の共振周波数は、円形開口部23による基準の周波数値と異なる他の周波数値に設定されている。
【0075】
また、可変容量コンデンサ26の電流路36に電流I1を通電したときには、その中間配線部36Aに対してマグネット38の磁界Hに応じたローレンツ力F1が作用するようになり、可動部32は、支持梁31を介して誘電体基板21に近づくようにZ軸方向に変位する。これにより、可動電極33を介して表面電極27,28間の静電容量が増大し、表面電極27,28は、高周波信号等に対して互いに短絡された状態となるので、共振周波数は、切欠き開口部25の影響が抑制されて円形開口部23による基準の周波数値に設定される。
【0076】
また、電流路36への通電を停止したときには、可動部32が誘電体基板21から離れてZ軸方向の初期位置に戻り、可動電極33を介して表面電極27,28間の静電容量が減少するので、共振周波数を、基準の周波数値から他の周波数値に切換えることができるものである。
【0077】
かくして、このように構成される本実施の形態では、可変容量コンデンサ26により共振器を構成したので、コンデンサ26の可動部32をローレンツ力により大きく変位させることができ、その変位量に応じて表面電極27,28間の静電容量を広い範囲で変化させることにより、共振周波数を基準の周波数値と他の周波数値との間で確実に切換えることができる。
【0078】
この場合、例えば表面電極27,28間の静電容量を増大させたときには、高周波信号等に対して切欠き開口部25の影響を抑制でき、共振周波数を円形開口部23により定められた基準の周波数値に設定することができる。また、表面電極27,28間の静電容量を減少させたときには、共振周波数を切欠き開口部25の形状等により影響された他の周波数値に切換えることができるから、切換動作の安定した共振器を容易に実現することができる。
【0079】
なお、前記各実施の形態では、可変容量コンデンサ1,26の可動部7,32を支持梁6,31により片側の2箇所で支持する構成としたが、本発明はこれに限らず、例えば図10に示す変形例のように構成してもよい。
【0080】
この場合、四角形の枠状に形成された支持部41の内側には、Y軸方向に延びる4本の支持梁42が可動部43の両側に2本ずつ設けられ、該各支持梁42は、可動部43をZ軸方向に変位可能に両持ち支持している。また、可動部43の裏面側には、前記実施の形態とほぼ同様に、基板2(または導体層22)とZ軸方向で対向する可動電極44と、誘電体膜(図示せず)とが設けられている。また、可動部43の表面側には、中間配線部45Aと左,右の延長配線部45B,45Cとにより略コ字状に形成された2つの電流路45が設けられ、該各電流路45の中間配線部45Aは、可動部43の両側に離間して配置され、X軸方向に沿って互いに平行に延びている。そして、マグネット46は、これらの中間配線部45Aの伸長方向と直交するY軸方向の磁界Hを形成している。
【0081】
このように構成することにより、例えば2つの電流路45に電流I1′,I1″を流したときには、その中間配線部45Aに作用するローレンツ力F1′,F1″を可動部43の両側2箇所に加えることができ、可動部43を大きな力でZ軸方向に変位させることができる。
【0082】
従って、これらの支持部41、支持梁42、可動部43等を基板2上に配置することにより、可動電極44と表面電極3,4との間で可変容量コンデンサ1′を構成した場合には、その静電容量を2箇所のローレンツ力F1′,F1″によって大きく変化させることができる。
【0083】
また、これらの可動部43等を導体層22上に配置することにより、可動電極44と導体層22の表面電極27,28との間で可変容量コンデンサ26′を構成して共振器に用いた場合には、可動部43を大きく変位させて共振器の共振周波数を安定的に切換えることができる。
【0084】
一方、実施の形態では、可動部7,32の表面側に電流路11,36を設け、その裏面側に可動電極8,33を設ける構成としたが、本発明はこれに限らず、可動電極と電流路の両方を可動部の裏面側に設ける構成としてもよい。
【0085】
また、実施の形態では、誘電体膜10,35を可動電極8,33に設ける構成としたが、本発明はこれに限らず、誘電体を固定電極側に設ける構成としてもよく、固定電極と可動電極との間に誘電体が介在する構成とすればよい。
【0086】
また、実施の形態では、磁界発生手段としてマグネット13,38を例に挙げて述べたが、本発明はこれに限らず、例えば電磁石(電磁コイル)等を含めた各種の磁界発生手段を用いることができる。
【0087】
さらに、可変容量コンデンサ26を用いた共振器では、導体層22の表面側、裏面側に円形開口部23,24を設ける構成としたが、本発明はこれに限らず、非円形状の開口部を設ける構成としてもよい。また、表面側の開口部だけを設け、裏面側の開口部を省略する構成としてもよい。
【0088】
また、電流路36に電流I1を通電したときに、可動部32を誘電体基板21に接近させることにより、共振器の共振周波数を基準の周波数値に切換える構成としたが、本発明はこれに限らず、可動部32を誘電体基板21に近い位置に予め配置しておくことにより、電流路36への非通電時には、共振周波数を基準の周波数値に設定し、電流路36に逆向きの電流I2を通電したときには、可動部32を誘電体基板21から離間させることにより、共振周波数を他の周波数値に切換える構成としてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1,26 可変容量コンデンサ
2 基板
3,4,27,28 表面電極(固定電極)
3A,4A 電極パッド
5,29,41 支持部
6,31,42 支持梁
7,32,43 可動部
8,33,44 可動電極
9,12,30,34,37 絶縁膜
10,35 誘電体膜(誘電体)
11,36,45 電流路
11A,36A,45A 中間配線部
11B,11C,36B,36C,45B,45C 延長配線部
11D,11E,36D,36E 電極パッド
13,38,46 マグネット(磁界発生手段)
21 誘電体基板
21A 表面
21B 裏面
22 導体層
23,24 円形開口部(主開口部)
25 切欠き開口部
39 ローレンツ力発生機構(可動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板に設けられた固定電極と、該固定電極に対応する位置で前記基板に支持梁を介して支持されローレンツ力が発生したときに互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸のうち前記基板と垂直なZ軸方向に変位可能となった可動部と、該可動部に設けられ前記固定電極とZ軸方向の隙間を挟んで対面する可動電極と、前記可動部に設けられローレンツ力発生の要因となる電流がX軸方向に流れるようにX軸方向に延びた部位を有する電流路と、該電流路のX軸方向に延びた部位に対してローレンツ力発生の要因となるY軸方向の成分をもった磁界を形成する磁界発生手段とから構成してなる可変容量コンデンサ。
【請求項2】
前記固定電極と可動電極との間には該各電極間の静電容量を大きくする誘電体を設けてなる請求項1に記載の可変容量コンデンサ。
【請求項3】
誘電体基板と、該誘電体基板の表面に設けられ主開口部と該主開口部の周縁に位置した切欠き開口部とが誘電体基板の表面を露出させた状態で形成された導体層と、該導体層の切欠き開口部の両側と対向して設けられた可動電極を有し該導体層に対して接近,離間するように変位可能となった可動部と、該可動部の可動電極を変位させることにより前記導体層の切欠き開口部の両側の静電容量を変化させて共振周波数を可変に設定する可動手段とから構成してなる共振器。
【請求項4】
前記可動部はローレンツ力が発生したときに互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸のうち前記誘電体基板と垂直なZ軸方向に変位可能に設け、前記可動手段は、該可動部に設けられローレンツ力発生の要因となる電流がX軸方向に流れるようにX軸方向に延びた部位を有する電流路と、該電流路のX軸方向に延びた部位に対してローレンツ力発生の要因となるY軸方向の成分をもった磁界を形成する磁界発生手段とから構成してなる請求項3に記載の共振器。
【請求項5】
前記導体層には前記誘電体基板の裏面を前記主開口部と対向する位置で露出させる他の開口部を設けてなる請求項3または4に記載の共振器。
【請求項6】
前記導体層と可動電極との対向部位間には該各部位間の静電容量を大きくする誘電体を設けてなる請求項3,4または5に記載の共振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−101397(P2011−101397A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284206(P2010−284206)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【分割の表示】特願2001−242922(P2001−242922)の分割
【原出願日】平成13年8月9日(2001.8.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】