説明

共沸組成物または共沸様組成物

【課題】同一物質と見なせる共沸組成物もしくは、実質的に気相部と液相部の組成が同一の共沸様組成物となりうる、モノフルオロメタンとトリフルオロメタンとを含む組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
モノフルオロメタンとトリフルオロメタンからなる共沸組成物または共沸様組成物であって、モノフルオロメタンを15〜85mol%含む。特にはモノフルオロメタン62mol%およびトリフルオロメタン38mol%からなる共沸組成物である。この組成物は冷媒、半導体ガスなどとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノフルオロメタンおよびトリフルオロメタンを含む共沸組成物および共沸様組成物に関し、より詳しくは、モノフルオロメタンの製造中間物、冷媒、半導体ガス(半導体薄膜の製造工程で使用するエッチング剤またはチャンバーのクリーニング剤)などとして有用な共沸組成物または共沸様組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
モノフルオロメタンとトリフルオロメタンは、沸点がそれぞれ−78℃と−82℃の安定な気体であり冷媒等として有用な物質である。モノフルオロメタンは塩化メチルのフッ化水素を用いたフッ素化等により製造することができ(特許文献1)、トリフルオロメタンはクロロホルムを同様にフッ素化して製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−111611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非共沸の混合ガスを冷媒、半導体ガス(エッチング剤、クリーニング剤)等に用いた場合、使用中に組成が変化して性能に大きく影響を及ぼすことがある。そこで、本発明では、同一物質と見なせる共沸組成物もしくは、実質的に気相部と液相部の組成が同一の共沸様組成物となりうる、モノフルオロメタンとトリフルオロメタンとを含む組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者が鋭意検討した結果、モノフルオロメタンとトリフルオロメタンが特定の組成で共沸現象を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、次の通りである。
【0007】
[発明1]モノフルオロメタンとトリフルオロメタンからなる共沸組成物または共沸様組成物。
【0008】
[発明2]モノフルオロメタンを15〜85mol%含むことを特徴する、発明1の組成物。
【0009】
[発明3]モノフルオロメタンを50〜80mol%含むことを特徴する、発明1または発明2の組成物。
【0010】
[発明4]モノフルオロメタン62mol%、トリフルオロメタン38mol%からなる共沸組成物。
【0011】
[発明5]少なくとも発明1乃至発明4の何れかに記載された組成物を含む、冷媒、エッチング剤、またはクリーニングガス。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモノフルオロメタンとトリフルオロメタンとの共沸組成物または共沸様組成物は、オゾン層を破壊することがなく、組成変化をほとんど伴わない組成物であるので、冷媒、半導体薄膜製造工程におけるエッチング剤、チャンバーのクリーニング剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の共沸組成物のモノフルオロメタン/トリフルオロメタン気液平衡線図
【発明を実施するための形態】
【0014】
モノフルオロメタンとトリフルオロメタンの組成物において、モノフルオロメタンの含量が0.1mol%から99.9mol%のものは冷媒、半導体ガスとして有用である。本発明者は、2種類のフルオロアルカン即ちモノフルオロメタン62mol%とトリフルオロメタン38mol%が共沸点を有する組成物を形成すること、およびその前後の混合割合、即ち、モノフルオロメタンが15〜85mol%、トリフルオロメタンが85%〜15mol%の領域で、気相部と液相部の組成が実質的に同じである共沸様組成を形成し、冷媒や半導体ガスとして有用であることを見出し、本発明に至った。
【0015】
前記共沸組成物または共沸様組成物を調製するには、モノフルオロメタンとトリフルオロメタンは各々別々に製造したものを前記比率に混合することができ、任意組成のモノフルオロメタンとトリフルオロメタンの組成物へ、前記比率になるように一方の成分を添加することができ、または、両成分を含む組成物の蒸留によって得ることもできる。
【0016】
本発明による組成物および共沸様組成物には、冷媒として使用する際には、安定剤を併用することができる。
【0017】
安定剤としては、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、グリシドールなどのエポキシド類;ジメチルホスファイト、ジイソプロピルホスファイト、ジフェニルホスファイトなどのホスファイト類;トリラウリルトリチオホスファイトなどのチオホスファイト類;トリフェノキシホスフィンサルファイド、トリメチルホスフィンサルファイドなどのホスフィンサルファイド類;ホウ酸、トリエチルボレート、トリフェニルボレート、フェニルボロン酸、ジフェニルボロン酸などのホウ素化合物;2,6−ジ−tert−ブチルパラクレゾールなどのフェノール類;ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロアルカン類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル;その他ジオキサン、tert−ブタノール、ペンタエリスリトール、パライソプロペニルトルエン;などの安定剤を組成物の総質量の0.01〜5%程度添加することができる。
【0018】
また、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、本発明の組成物に他の化合物を混合することができる。この様な化合物としては、ジメチルエーテル、ペンタフルオロジメチルエーテルなどのエーテル類;パーフルオロエチルアミンなどのアミン類;ペンタフルオロエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,3,3,3-テトラフルオロプロパンなどのフルオロアルカン類;メタン、エタンなどのアルカン類などが例示される。
【0019】
本発明による組成物および共沸様組成物は半導体ガスとして有用である。すなわち、半導体薄膜の製造工程におけるシリコンウエハ、金属、ガラス、単結晶、多結晶などの基板上に堆積したW、WSi、Ti、TiN、Ta、Mo、Re、Ge、Si、Si、SiO等のエッチングまたは堆積室の壁面等に堆積したSiO、WSi、TiN、Ta、Si、SiB等の酸化物、窒化物、炭化物、ホウ素化物及びこれらの複合物のクリーニングに用いることができる。エッチングガスまたはクリーニングガスとして使用する場合、プラズマを利用したエッチングの手法が好ましく採用される。
【0020】
本発明による組成物および共沸様組成物は、N、He、Ar、Ne、Kr等の不活性ガス、O、O、CO、F、NF、Cl、Br、I、XF(X=Cl,I.Br,1≦n≦7)等の酸化性ガス、CH、C,C,C、C、C、C、HI、HBr、HCl、CO、NO、NH、H等の還元性ガスを含む組成物とすることができ、エッチングガスまたはクリーニングガスとして使用できる。
【0021】
この組成物は、各種のガスを含む組成においてもモノフルオロメタンとトリフルオロメタンは組成物または共沸様組成物として挙動するため、液相/気相の相変化を伴う使用状態においてもモノフルオロメタンとトリフルオロメタンの成分の間の組成の変動は少ない。
【0022】
本発明の組成物および共沸様組成物によるクリーニングは、熱分解法、光分解法、プラズマ法のいずれでも使用できるが、プラズマ法が好ましい。プラズマ法は、高周波またはマイクロ波を用いてチャンバー内で発生させてもよいが、チャンバー外で発生させてチャンバー内へ導入するリモートプラズマ法が好ましく採用される。本発明のクリーニング剤は、半導体デバイス、液晶デバイスなどの半導体装置、光デバイス、コーティング工具など製造プロセスにおいて薄膜をCVD法により形成する製膜装置やウイスカー、粉末などを製造する製造装置に適用できる。これらのうち、製膜装置への適用が特に好ましく、半導体デバイス、液晶デバイスなどのシリコン化合物を用いた半導体装置の製膜装置に使用するのがさらに好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に実施例をもって本発明を説明するが、実施態様はこれらに限られない。成分の分析は、ガスクロマトグラフ(検出器:FID)で行い、面積%をmol%に換算した数値を示した。
【0024】
[実施例1]
モノフルオロメタンとトリフルオロメタンとからなる組成物の0℃(設定温度)における気液平衡状態にある気相および液相中の各成分の測定を以下のようにして行なった。
【0025】
モノフルオロメタンとトリフルオロメタンをステンレス製容器(50cc)に各々表1記載の質量で仕込み、液体窒素で凝固させ真空ポンプで排気してから室温に戻す脱気操作を4回繰り返した後、設定温度0℃(実温度:±0.1℃)の恒温槽に浸漬した。2時間後に液相部分をサンプリングし、8時間後に気相部分をヘッドスペース法でサンプリングし、分析した結果を表1のCHF気液平衡組成(mol%)に示す。また、図1にモノフルオロメタン/トリフルオロメタン気液平衡線図を示す。
【表1】

【0026】
モノフルオロメタンが62mol%、トリフルオロメタンが38mol%の組成において、フルオロアルカン系組成物としては稀な最高共沸の共沸組成物であった。両者の組成物は全組成範囲にわたり共沸様であるので、冷媒、半導体ガス組成物として好適であることが示された。モノフルオロメタンが15〜85mol%、トリフルオロメタンが85%〜15mol%の領域、特にモノフルオロメタンが50〜80mol%、トリフルオロメタンが50%〜20mol%の領域が共沸様組成として好適である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の共沸組成物および共沸様組成物は、冷媒、半導体ガスとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノフルオロメタンとトリフルオロメタンからなる共沸組成物または共沸様組成物。
【請求項2】
モノフルオロメタンを15〜85mol%含むことを特徴する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
モノフルオロメタンを50〜80mol%含むことを特徴する、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
モノフルオロメタン62mol%、トリフルオロメタン38mol%からなる共沸組成物。
【請求項5】
少なくとも請求項1乃至請求項4の何れかに記載の組成物を含む、冷媒、エッチング剤またはクリーニングガス。

【図1】
image rotate