説明

共通のサイトカイン受容体ガンマ鎖を操作することによるT細胞応答の変調方法

【課題】サイトカイン受容体γ鎖を発現するT細胞による増殖を刺激または阻害するための方法を提供すること。
【解決手段】サイトカイン受容体γ鎖に結合し、かつ、T細胞における細胞内シグナルを刺激する薬物(ただし、該薬物は、天然のインターロイキン−2からなってはいない)とT細胞とを接触させてT細胞増殖を生じさせることを含む、T細胞において通常不応答を生じる条件下で一次活性化シグナルを受けた、サイトカイン受容体γ鎖を発現するT細胞による増殖を刺激するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイトカイン受容体γ鎖を発現するT細胞による増殖を刺激または阻害するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原特異的T細胞応答の誘発は、T細胞上の細胞表面受容体と抗原提示細胞(APC)上のリガンドとの間の複数の相互作用に関係する。一次相互作用は、T細胞上のT細胞受容体(TCR)/CD3複合体と抗原提示細胞上の主要組織適合性複合体(MHC)分子/抗原性ペプチド複合体との間にある。この相互作用は、T細胞における一次抗原特異性活性化シグナルを誘発する。一次活性化シグナルに加えて、T細胞応答の誘発は、第2の共刺激シグナルを必要とする。適正な共刺激の不在下、TCRシグナリングは、T細胞においてアネルギーの状態を誘発することができる。次に、アネルギー性T細胞に対して抗原が適当に提示されても、適正な応答は誘起されない[非特許文献1]。
【0003】
共刺激シグナルは、CD28などのT細胞表面受容体を介してT細胞において誘発され得る。例えば、T細胞の最適下限ポリクローナル刺激(例えば、抗−CD3抗体またはホルボールエステルによる、いずれも一次活性化シグナルを提供することができる)は、CD28と抗−CD28抗体との架橋によって効力を増すことができる[非特許文献2、非特許文献3]。さらにまた、CD28の刺激は、T細胞クローンにおけるアネルギーの誘発を防止することができる[非特許文献4]。CD28に対する天然リガンドは、APC上で同定された。CD28リガンドとしては、B7−1(CD80)およびB7−2(B70)などのタンパク質のB7ファミリーのメンバーが挙げられる[非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10]。B7ファミリーのタンパク質が、CD28に加えて、CTLA4と称される、T細胞共刺激において役割を果たすCD28に関係するT細胞上の別の表面受容体に結合することが示された[非特許文献11、非特許文献8]。
【0004】
CD28/CTLA4とB7ファミリーのタンパク質との受容体:リガンド関係、および共刺激におけるこの相互作用の役割の解明により、共刺激分子を結合するT細胞上の表面受容体の細胞外相互作用の操作に関係する治療的アプローチが導かれた。例えば、B7−1およびB7−2の両方に結合し、それらのCD28/CTLA4との相互作用を遮断するCTLA4Ig融合タンパク質を用いて、同種異系および異種移植片の拒絶を阻害した[例えば、非特許文献12、非特許文献13を参照]。同様に、B7−1および/またはB7−2との反応性を有する抗体を用いて、インビトロでのT細胞増殖およびIL−2産生を阻害し、インビボでの抗原に対する一次免疫応答を阻害した[非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16、非特許文献17]。一緒に、これらの研究は、B7−1およびB7−2などの共刺激分子を結合するT細胞表面受容体によって媒介される共刺激経路が免疫応答を操作するための望ましい標的であることを示す。
【非特許文献1】Schwartz, R. H. (1990) Science 248: 1349
【非特許文献2】Linsley, P. S. ら (1991) J. Exp. Med. 173: 721
【非特許文献3】Gimmi, C. D. ら (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 6575
【非特許文献4】Harding, F. A. (1992) Nature 356: 607-609
【非特許文献5】Freedman, A. S. ら (1987) J, Immunol. 137: 3260-3267
【非特許文献6】Freeman, G. J. ら (1989) J. Immunol. 143: 2714-2722
【非特許文献7】Freeman, G. J. ら (1991) J. Exp. Med. 174: 625-631
【非特許文献8】Freeman, G. J. ら (1993) Science 262: 909-911
【非特許文献9】Azuma, M. ら (1993) Nature 366: 76-79
【非特許文献10】Freeman, G. J. ら (1993) J. Exp. Med. 178: 2185-2192
【非特許文献11】Linsley, P. S. (1991) J. Exp. Med. 174: 561-569
【非特許文献12】Turka, L. A. ら (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 11102-11105
【非特許文献13】Lenschow, D. J. ら (1992) Science 257: 789-792
【非特許文献14】Hathcock K. S. ら (1993) Science 262: 905-907
【非特許文献15】Azuma, M. ら (1993) Nature 366: 76-79
【非特許文献16】Powers, G. D. ら (1994) Cell. Immunol. 153: 298-311
【非特許文献17】Chen C. ら (1994) J. Immunol. 152: 2105-2114
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
CD28/B7相互作用を介する不可欠な共刺激なしでT細胞受容体(TCR)/CD3複合体を介して刺激した場合、T細胞は、抗原特異的不応答またはアネルギーの状態に入る。本発明は、少なくとも一部は、共通のサイトカイン受容体γ鎖(例えば、インターロイキン−2受容体、インターロイキン−4受容体、インターロイキン−7受容体)を介するシグナリングがT細胞アネルギーの誘発を防止するという発見に基づいている。このγ鎖は、(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって測定した場合)約116kDの分子量を有するJAKキナーゼと会合することが見いだされ、γ鎖を介するシグナリングは、JAKキナーゼのリン酸化を誘発する。本発明者らは、アネルギーを「γcシグナリングなしでTCR刺激により生じる不応答の状態」と定義することを提案する。
【0006】
したがって、本発明の1つの具体例は、T細胞において通常不応答を生じる条件下(すなわち、共刺激の欠乏)で一次活性化シグナルを受けた、サイトカイン受容体γ鎖を発現するT細胞による増殖を刺激するための方法に関係する。T細胞不応答またはアネルギーは、T細胞を、サイトカイン受容体γ鎖に結合してT細胞における細胞内シグナルを刺激する薬物と接触させて、T細胞増殖を生じさせることによって防止される。典型的には、該薬物は、受容体と架橋する能力を有する抗γ鎖抗体、またはインターロイキン−4もしくはインターロイキン−7などのγ鎖に結合する天然リガンドの可溶性形態である。別法としては、T細胞を、細胞内で作用して116kD JAKキナーゼのリン酸化を刺激する薬物と接触させることができる。インビボでウイルス、細菌または寄生虫などの病原体に対する免疫応答を誘発するために、病原体またはその成分を、サイトカイン受容体γ鎖に結合し、T細胞における細胞内シグナルを刺激する薬物と共に投与することができる。同様に、腫瘍免疫は、腫瘍抗原を発現する腫瘍細胞の存在下、対象体のT細胞をγ鎖刺激因子(例えば、架橋抗γ鎖抗体)と接触させることによってインビボまたはエキソビボで腫瘍担持宿主(tumor bearing host)において誘発されることができる。
【0007】
本発明のもう1つの具体例は、サイトカイン受容体γ鎖を発現するT細胞における抗原に対する不応答を誘発するための方法に関する。T細胞を、抗原の存在下、インビボまたはエキソビボで、サイトカイン受容体γ鎖を介するシグナルの伝達を阻害する薬物と接触させて抗原に対するT細胞不応答を生じさせる。かかる薬物は、細胞外で作用してγ鎖を介するシグナルの伝達を阻害することができ、例えば、阻害性もしくは遮断性抗γ鎖抗体、またはγ鎖の天然リガンドに結合してリガンドの該γ鎖への結合を阻害する薬物(例えば、抗−インターロイキン−2抗体、抗−インターロイキン−4抗体または抗−インターロイキン−7抗体)である。別法としては、薬物は、細胞内で作用してサイトカイン受容体γ鎖を介するシグナルの伝達を阻害することができ、例えば、γ鎖の116kD JAKキナーゼとの会合を阻害するか、または、γ鎖もしくはJAKキナーゼまたはその両方のリン酸化を阻害する薬物である。T細胞不応答を誘発する方法は、特に、移植片拒絶および移植片対宿主病の阻害ならびに自己免疫疾患の治療に有用である。
【0008】
T細胞上でサイトカイン受容体γ鎖を介するシグナルの伝達を刺激または阻害する薬物の同定方法もまた本発明の範囲内である。これらの具体例および本発明の他の具体例を本明細書にさらに詳細に説明する。
【0009】
本明細書で用いる場合、「共通のサイトカイン受容体ガンマ鎖」または「γc」なる用語は、ある種のサイトカイン受容体によって共有されているポリペプチドサブユニットを意味し、インターロイキン−2受容体(IL−2)、インターロイキン−4受容体(IL−4)およびインターロイキン−7受容体(IL−7)が挙げられる。ガンマ鎖は、中程度の親和性(βγサブユニット)および高い親和性(αβγサブユニット)のIL−2受容体に存在する。1つの具体例では、γcは、Takeshita, T ら (1992) Science 257: 379-382 に開示されているヌクレオチド配列によって、およびヒト染色体Xq13にマッピングされる遺伝子によってコードされるポリペプチドである。ヒトγcをコードする核酸を得るために用いることができるオリゴヌクレオチドプライマーは、Noguchi, M. ら (1993) Cell 73: 147-157;Puck, J. M. ら (1993) Hum. Mol. Genet. 2: 1099-1104;および DiSanto, J. P. ら (1994) Eur. J. Immunol. 24: 475-479 に開示されている。別の具体例では、γcは、約64kDのポリペプチドである。
【0010】
本発明の種々の態様は、以下のサブセクションにおいてさらに詳細に説明する。
【0011】
I.共通のサイトカイン受容体ガンマ鎖を介して刺激する薬物
A.サイトカイン
γcを介して刺激することができるサイトカインとしては、IL−2、IL−4およびIL−7が挙げられる。γcを利用する受容体に結合する別のサイトカインを用いて、γcを介して刺激することもできる。本明細書に記載するサイトカインは、市販のものである。例えば、IL−2、IL−4およびIL−7は、ジェンザイム・コーポレーション(Genzyme Corp.)から入手することができる。
【0012】
B.抗−γ−鎖抗体
γcに結合する抗体またはそのフラグメントの刺激性形態を用いて、γcを介して刺激することができる。抗γc抗体の「刺激性形態」とは、γcに結合した後にγcを介して細胞内シグナルを誘発する抗体の形態を意味する。1つの具体例では、抗γc抗体の刺激性形態は、例えば二次抗体によって、架橋される可溶性抗体である。別の具体例では、抗−γcの刺激性形態は、抗体の固定化形態、例えば、培養プレートまたはビーズなどの固体支持体に結合した抗体である。
【0013】
刺激性抗体は、ポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体であってもよい。γcを結合する抗体は、当該技術分野で知られている標準的な技術によって調製することができる。動物をγc「免疫原」で免疫化することができる。本明細書では、「免疫原」なる用語は、γcに対する抗体の調製のために用いられる活性成分としてγcペプチドまたはタンパク質を含有する組成物を示すために用いる。可溶性および膜結合γcタンパク質またはペプチドフラグメントは、共に、免疫原として用いるのに適している。例えば、γc免疫原は、γcを利用するサイトカイン受容体を発現する細胞であってもよい(例えば、IL−2R、IL−4RまたはIL−7Rのγc含有形態を発現する細胞系)。免疫原として用いるための好ましい細胞は、本質的にγcを発現するT細胞である。別法としては、免疫原は、精製したγcタンパク質またはγcペプチドフラグメントであってよい。γcタンパク質は、標準的な技術によって細胞から精製することができるか、または、γcをコードする核酸[例えば、Takeshita, T. ら (1992) Science 257: 379-382 に開示されているヌクレオチド配列を有する核酸]の宿主細胞における発現によって組換え的に産生することができる。γcペプチドフラグメントは、γcタンパク質の予想されるアミノ酸配列に基づいて化学的に合成することができる[例えば、前掲の Takeshita に開示されている]。γcタンパク質またはペプチドの単離形態は、それ自体、免疫原として直接用いることもできるが、別法としては、化学的カップリングによることを含む慣用の技術によって適切なキャリアタンパク質に結合することができる。単離したγcタンパク質を、免疫原性または可溶性を増強するように、脂質または炭水化物などの非タンパク質様物質で共有的または非共有的に修飾することもできる。別法としては、単離したγcタンパク質を、免疫原性を増強するために、ウイルス粒子、複製ウイルスまたは他の微生物と結合することができるか、または、その中に取り込むことができる。
【0014】
免疫原としてタンパク質またはペプチドを使用する代わりに、いわゆる遺伝的免疫化のための免疫原としてγcタンパク質またはペプチドをコードする核酸(例えば、DNA)を用いることができる。かくして、「免疫原」なる用語は、抗体を生じさせるべきであるタンパク質またはペプチドをコードする核酸を含むことも意図する。遺伝的免疫化により抗体を生じさせるために、目的のタンパク質(例えば、γcまたはそのペプチド)をコードする核酸を含有する発現ベクター構築物は、粒子(例えば、金の粒子)を該構築物で被覆し、該粒子を皮膚に注入することによって動物(例えば、マウス)の皮膚中に細胞内的に送達される。これにより、皮膚における抗原産生および特異的抗体応答の発生が生じる[例えば、Tang, D. C. ら (1992) Nature 356: 152-154;Eisenbraun, M. D. ら (1993) DNA Cell Biol. 12: 791-797;Wang, B. ら (1993) DNA Cell Biol. 12: 799-805 を参照]。
【0015】
γcに対するポリクローナル抗体は、一般に、標準的な方法によって動物において生じさせることができる。動物に、抗−γc力価安定期までブースター投与することができる。また、ミョウバンなどの凝集薬を用いて、免疫応答を増強することができる。次いで、抗体分子を哺乳動物から(例えば、血液から)回収し、プロテインAクロマトグラフィーなどのよく知られている方法によって単離して、IgG画分を得ることができる。抗体の特異性を増強するために、抗体は、固相付着免疫原を用いてイムノアフィニティークロマトグラフィーによって精製することができる。該抗体を、免疫原が抗体分子と免疫反応するのに十分な時間、固相付着免疫原と接触させて、固相付着免疫複合体を形成する。結合した抗体は、標準的な方法によって複合体から分離される。
【0016】
本明細書で用いる場合、「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」なる用語は、特定のエピトープと免疫反応する能力を有する抗原結合部位を1種のみ含有する抗体分子群を意味する。かくして、モノクローナル抗体組成物は、典型的には、免疫反応する特定のタンパク質に対する単一の結合親和性を示す。好ましくは、本発明の方法で用いるモノクローナル抗体は、さらに、ヒト由来のγcタンパク質と免疫反応するとして特徴付けられる。
【0017】
本発明の組成物および方法において有用なモノクローナル抗体は、γcのエピトープに指向される。γcのエピトープに対するモノクローナル抗体は、培養における連続細胞系による抗体分子の産生を提供する技術を用いることによって調製することができる。これらとしては、限定されないが、最初に Kohler および Milstein[1975, Nature 256: 495-497]によって開示されたハイブリドーマ法、ならびに最近の、ヒトB細胞ハイブリドーマ法[Kozbor ら (1983) Immunol Today 4: 72]、EBV−ハイブリドーマ法[Cole ら (1985) Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp.77-96]およびトリオーマ法が挙げられる。本発明において有用なモノクローナル抗体を有効に得ることができる他の方法としては、ファージディスプレー法[Marks ら (1992) J Biol Chem 16007-16010]が挙げられる。
【0018】
1つの具体例では、本発明の方法において適用される抗体調製物は、ハイブリドーマ細胞系によって産生されたモノクローナル抗体である。ハイブリドーマ融合法は、まず、Kohler および Milstein によって紹介された[Kohler ら, Nature (1975) 256: 495-97;Brown ら (1981) J. Immunol 127: 539-46;Brown ら (1980) J Biol Chem 255: 4980-83;Yeh ら (1976) PNAS 76: 2927-31;および Yeh ら (1982) Int. J. Cancer 29: 269-75]。かくして、本発明のモノクローナル抗体組成物は、以下の方法によって調製することができる:
【0019】
(a)γc免疫原により動物を免疫化する。好ましくは、ウサギ、ラットまたはマウスのような齧歯哺乳動物を用いる。次いで、該哺乳動物がγc免疫原と免疫反応する抗体分子を分泌する細胞を産生するのに十分な時間、該哺乳動物を維持する。このようにして産生した抗体分子を免疫原タンパク質の調製物との免疫反応性についてスクリーニングすることによって、かかる免疫反応を検出する。所望により、例えばγcの膜関連形態などのアッセイにおける抗体分子によって検出されるべきである形態のタンパク質の調製物で抗体分子をスクリーニングするのが望ましい。これらのスクリーニング法は、当業者によく知られており、例えば、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)および/またはフローサイトメトリーである。
【0020】
(b)次いで、望ましい抗体を分泌する各免疫化哺乳動物から取り出された抗体産生性細胞の懸濁液を調製する。十分な時間の後、該哺乳動物を殺し、体細胞抗体産生性リンパ球を得る。抗体産生性細胞は、感作された動物のリンパ節、脾臓および末梢血液から得られる。脾臓細胞が好ましく、当該技術分野においてよく知られている方法を用いて生理学的に許容できる培地中で個々の細胞に機械的に分離することができる。マウスリンパ球は、以下に記載するマウス骨髄腫との安定な融合を高いパーセンテージで与える。ラット、ウサギおよびカエルの体細胞を用いることもできる。所望の免疫グロブリンをコードする脾臓細胞染色体を、一般的にポリエチレングリコール(PEG)などの融合剤の存在下、脾臓細胞と骨髄腫細胞とを融合させることによって不死化させる。多くの骨髄腫細胞系のどれでも、標準的な方法に従って融合相手として用いることができる;例えば、P3−NS1/1−Ag4−1、P3−x63−Ag8.653またはSp2/O−Ag14骨髄腫株。これらの骨髄腫株は、メリーランド州ロックヴィルのアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(ATCC)から入手可能である。
【0021】
次いで、融合していない親の骨髄腫細胞またはリンパ球細胞が最終的には死滅するHAT培地のごとき選択培地にて、所望ハイブリドーマを含む得られた細胞を増殖させる。ハイブリドーマー細胞のみが生き残り、限界希釈条件下で増殖でき、単離コロニーが得られる。例えば、免疫に用いられた抗原を用いる免疫アッセイ法により、ハイブリドーマ上清を、所望特異性を有する抗体の存在に関してスクリーニングする。次いで、陽性クローンを限界希釈条件下でサブクローン化し、生じたモノクローナル抗体を単離することができる。他のタンパク質および他の汚染物質を含まないようにするためのモノクローナル抗体の単離および精製のための種々の慣用的方法が存在する。モノクローナル抗体精製に通常用いられる方法は、硫酸アンモニウム沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、およびアフィニティークロマトグラフィー(Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques And Applications, Hurell (編), 51〜52頁 (CRC Press 1982年)中、Zola ら記載部分参照)を包含する。これらの方法に従って得られたハイブリドーマを、当該分野で知られた方法を用いて、インビトロまたはインビボで(腹水中で)増殖させることができる。
【0022】
一般的には、個々の細胞系をインビトロで、例えば、研究室の培養容器で増殖させ、高濃度の単一の特異的モノクローナル抗体を含有する培地をデカンテーション、濾過または遠心分離により集めることができる。別法として、元の融合に用いた体細胞ならびに骨髄腫細胞を提供するために用いられるタイプの組織適合性動物中にハイブリドーマ試料を注射することによりモノクローナル抗体の収量を増大させることができる。注射された動物において、融合細胞ハイブリッドにより産生される特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍が発生する。腹水または血清のごとき動物の体液は、高濃度のモノクローナル抗体を提供する。ヒト・ハイブリドーマまたはEBV−ハイブリドーマを用いる場合、マウスのごとき動物中に注射された異種移植片に対する拒絶反応を回避する必要がある。免疫欠損マウスまたはヌードマウスを用いてもよく、あるいはハイブリドーマを先ず放射線照射されたヌードマウス中で固形皮下腫瘍として継代し、そしてインビトロ培養し、次いで、プリスタンでプライムされ放射線照射されたヌードマウスに腹腔内注射し、大量の特異的ヒト・モノクローナル抗体を分泌する腹水腫瘍を発生させてもよい。
【0023】
これらの組成物の製造に有用な培地および動物は、当該分野においてよく知られており、かつ市販されており、合成培地、近交系マウス等を包含する。典型的な合成培地は、4.5mg/lグルコース、20mMグルタミンおよび20%ウシ胎児血清で補充したダルベッコ(Dulbecco)の最小必須培地(DMEM;Dulbecco et al. (1959) Virol. 8: 396)である。典型的な近交系マウスはBalb/cである。
【0024】
非ヒト対象において産生された抗体をヒトにおいて治療的に用いる場合には、それらの抗体は種々の外来度として認識され、免疫応答が患者において生じるかもしれない。全身的な免疫抑制よりも望ましい、この問題を最小にするかまたは除去するための1のアプローチは、キメラ抗体誘導体、すなわち、非ヒト動物可変領域およびヒト不変領域を結合した抗体分子を作成することである。かかる抗体は、上記モノクローナルおよびポリクローナル抗体の同等物であるが、ヒトに投与された場合、より免疫原性が小さく、それゆえ、患者によって耐えられるものである可能性が大きい。
【0025】
γcと反応するキメラマウス−ヒト・モノクローナル抗体(すなわち、キメラ抗体)を、当該分野で知られた組換えDNA法により製造することができる。例えば、ネズミ(または他の種)の抗−ヒトγc抗体分子の不変領域をコードする遺伝子を、ヒト・不変領域をコードする遺伝子で置換する(Robinson et al. 国際特許出願PCT/US86/02269;Akira et al. 欧州特許出願第184,187号;Taniguchi, M., 欧州特許出願第171,496号;Morrison et al. 欧州特許出願第173,494号;Neuberger et al. PCT出願公開WO86/01533;Cabilly et al. 米国特許第4,816,567号;Cabilly et al. 欧州特許出願第125,023号;Better et al. (Science 240: 1041〜1043 (1988));Liu et al. (1987) PNAS 84: 3439〜3443;Liu et al. (1987) J. Immunol. 139: 3521〜3526;Sun et al. (1987) PNAS 84: 214〜218;Nishimura et al. (1987) Canc. Res. 47: 999〜1005;Wood et al. (1985) Nature 314: 446〜449;および Shaw et al. (1988) J. Natl. Cancer Inst. 80: 1553〜1559 参照)。
【0026】
抗原結合に必要とされない可変領域部分をヒト・可変領域由来の同等部分で置換することによりキメラ抗体をさらに「ヒト化」することができる。「ヒト化」キメラ抗体の一般的レビューは、Morrison, S. L. (1985) Science 229: 1202〜1207 および Oi et al. (1986) BioTechniques 4: 214 により提供される。それらの方法は、少なくとも1つの重鎖または軽鎖由来の免疫グロブリン可変領域の全部または一部をコードする核酸配列を単離し、操作し、発現させることを包含する。かかる核酸の供給源は当業者によく知られており、例えば、抗−γc抗体産生ハイブリドーマから得ることができる。次いで、キメラ抗体またはそのフラグメントをコードするcDNAを適当な発現ベクター中にクローン化することができる。別法として、CDRまたはCEA置換(Winter に付与された米国特許第5,225,539号;Jones et al. (1986) Nature 321: 552〜525;Verhoeyan et al. (1988) Science 239: 1534;および Beidler et al. (1988) J. Immunol. 141: 4053〜4060 参照)により適当な「ヒト化」抗体を得ることもできる。
【0027】
マウスまたは他の種由来のmAbをヒト化させることの代替手段として、ヒト・タンパク質に指向されたヒトmAbを得ることができる。ヒト・抗体レパートリーを担持しているトランスジェニックマウスが作成されており、ヒト・γcタンパク質またはγc発現ヒト・細胞で免疫することができる。次いで、これらの免疫トランスジェニックマウス由来の脾臓細胞を用いて、ヒト・γcと特異的に反応するヒトmAbを分泌するハイブリドーマを作成することができる(例えば、Wood et al. PCT公開WO91/00906、Kucherlapati et al. PCT公開WO91/10741;Lonberg et al. PCT公開WO92/03918;Kay et al. PCT公開WO92/03917;Lonberg, N. et al. (1994) Nature 368: 856〜859;Green, L. L. et al. (1994) Nature Genet. 7: 13〜21;Morrison, S. L. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 6851〜6855;Bruggeman et al. (1993) Year Immunol 7: 33〜40;Tuaillon et al. (1993) PNAS 90: 3720〜3724;Bruggeman et al. (1991) Eur J Immunol 21: 1323〜1326 参照)。
【0028】
組換えDNA法の当業者によく知られた他の方法によっても本発明モノクローナル抗体組成物を製造することができる。特定の抗原特異性を有する抗体フラグメントを同定し単離するために、「コンビナトリアル抗体ディスプレイ(combinatorial antibody display)」と言われる別法が開発されており、これを用いてモノクローナル抗−γc抗体を製造することができる(組み合わせ抗体ディスプレイの説明には、例えば、Sastry et al. (1989) PNAS 86: 5728;Huse et al. (1989) Science 246: 1275;および Orlandi et al. (1989) PNAS 86: 3833 参照)。上記のごとくγc免疫原で動物を免疫した後、得られるB細胞プールの抗体レパートリーをクローン化する。オリゴマープライマー混合物およびPCRを用いることにより、多様な集団の免疫グロブリン分子の可変領域のDNA配列を直接得る方法が一般的に知られている。例えば、5'リーダー(シグナルペプチド)配列および/またはフレームワーク1(FR1)配列に対応する混合オリゴヌクレオチドプライマー、ならびに、保存的な3'不変領域プライマーに対応するプライマーを、多くのネズミ抗体由来の重鎖および軽鎖可変領域のPCR増幅に用いることができる(Larrick et al. (1991) Biotechniques 11: 152〜156)。同様の方法を用いて、ヒト抗体由来のヒト・重鎖および軽鎖可変領域を増幅してもよい(Larrick et al. (1991) Methods: Companion to Methods in Enzymology 2: 106〜110)。
【0029】
実例となる具体例において、標準的プロトコール(例えば、米国特許第4,683,202号;Orlandi et al. PNAS (1989) 86: 3833〜3837;Sastry et al. PNAS (1989) 86: 5728〜5732;および Huse et al. (1989) Science 246: 1275〜1281)を用いて、活性化B細胞、例えば、末梢血細胞、骨髄または脾臓調製物からの活性化B細胞からRNAを単離する。重鎖ならびにκおよびλ軽鎖のそれぞれの不変領域に特異的なプライマー、ならびに、シグナル配列に特異的なプライマーを用いて第1鎖cDNAを合成する。可変領域PCRプライマーを用いて、重鎖および軽鎖の両方の可変領域を単独または一緒に増幅し、ディスプレイパッケージを得ることにおけるさらなる操作のための適当なベクター中に結合する。増幅プロトコールにおいて有用なオリゴヌクレオチドプライマーはユニークなものであってもよく、または縮重したものであってもよく、または縮重位置にイノシンを含むものであってもよい。制限エンドヌクレアーゼ認識配列をプライマー中に包含させて、発現のために前以て決定された読み枠中でベクター中に増幅フラグメントをクローン化することができる。
【0030】
ディスプレイパッケージの集団によって、好ましくは、繊維状ファージ由来のものによって、免疫により得られた抗体レパートリーからクローン化されたV−遺伝子ライブラリーを発現させて抗体ディスプレイライブラリーを形成することができる。理想的には、ディスプレイパッケージは、非常に大規模で多様な抗体ディスプレイライブラリーのサンプリング、各アフィニティー分離ラウンド後の迅速ソーティング、および精製ディスプレイパッケージからの抗体遺伝子の容易な単離を可能にする系からなる。ファージディスプレイライブラリーを得るための市販キット(例えば、Pharmacia Recombinant Phage Antibody System、カタログ番号27−9400−01;および Stratagene SurfZAP(登録商標)ファージ・ディスプレイ・キット、 カタログ番号240612)のほかに、多様な抗−γc抗体ディスプレイライブラリーの生成において特に都合のよい方法および試薬の例は、例えば、Ladner et al. 米国特許第5,223,409号;Kang et al. 国際公開WO92/18619;Dower et al. 国際公開WO91/17271;Winter et al. 国際公開WO92/20791;Markland et al. 国際公開WO92/15679;Breitling et al. 国際公開WO93/01288;McCafferty et al. 国際公開WO92/01047;Garrard et al. 国際公開WO92/09690;Ladner et al. 国際公開WO90/02809;Fuchs et al. (1991) Bio/Technology 9: 1370〜1372;Hay et al. (1992) Hum Antibod Hybridomas 3: 81〜85;Huse et al. (1989) Science 246: 1275〜1281;Griffiths et al. (1993) EMBO J 12: 725〜734;Hawkins et al (1992) J Mol Biol 226: 889〜896;Clackson et al. (1991) Nature 352: 624〜628;Gram et al. (1992) PNAS 89: 3576〜3580;Garrard et al. (1991) Bio/Technology 9: 1373〜1377;Hoogenboom et al. (1991) Nuc Acid Res 19: 4133〜4137;および Barbas et al. (1991) PNAS 88: 7978〜7982 において見いだすことができる。
【0031】
ある具体例において、フレキシブルリンカーにより結合された重鎖および軽鎖のV領域ドメインを同じポリペプチド上に発現させて単鎖Fvフラグメントを得ることができ、次いで、該scFV遺伝子を所望の発現ベクターまたはファージゲノム中にクローン化する。McCafferty et al., Nature (1990) 348: 552〜554 に一般的に記載されているように、フレキシブル(Gly4−Ser)3リンカーにより結合された抗体の完全なVHおよびVLドメインを用いて、ディスプレイパッケージを抗原アフィニティーに基づいて分離可能としうる単鎖抗体を作成することができる。次いで、γcと免疫反応する単離scFV抗体を、本発明方法に使用する医薬調製物中に処方することができる。
【0032】
ディスプレイパッケージ(例えば、繊維状ファージ)表面にディスプレイされたならば、抗体ライブラリーをγcタンパク質またはそのペプチドフラグメントでスクリーニングしてγcに対する特異性を有する抗体を発現するパッケージを同定し単離する。選択された抗体をコードしている核酸をディスプレイパッケージから(例えば、ファージゲノムから)回収し、標準的な組換えDNA法により他の発現ベクター中にサブクローン化することができる。
【0033】
C.他の刺激剤
ガンマ鎖を介して刺激を行うサイトカイン受容体の共通ガンマ鎖に対する天然リガンドのペプチドフラグメントまたは修飾形態も、本発明に包含される。例えば、γcを介する刺激能を保持しているIL−2、IL−4またはIL−7のペプチドフラグメントまたは修飾形態を用いることができる。さらに、γcに結合し、それを介して刺激を行うペプチド模倣物および他の小分子(例えば、薬剤)を用いてもよい。γcを介して刺激を行う修飾サイトカイン、ペプチドフラグメント、ペプチド模倣物または小分子を、本明細書記載のスクリーニングアッセイを用いて物質をスクリーニングすることにより同定することができる。別法として、合理的なドラッグデザインを用いてγcと相互作用する分子を設計することもできる。
【0034】
本発明により企図される別のタイプの刺激剤はγcに対する刺激リガンドをコードしている核酸である。例えば、T細胞応答を刺激し、アネルギー誘発を防止するための遺伝子治療として、抗−γc抗体(またはそのフラグメント)またはγcを含む受容体に結合するサイトカイン(例えば、IL−2、IL−4、IL−7)をコードしている核酸(例えば、DNA)をインビトロで細胞に導入することができるか、またはインビボで対象に投与することができる。細胞におけるタンパク質またはペプチド発現用の組換え発現ベクター(例えば、組換えウイルスベクター)、ならびにインビトロおよびインビボでの遺伝子治療に適した核酸送達メカニズムは当該分野においてよく知られている。可溶性かつ分泌形態の抗−γc抗体またはサイトカインをコードしている発現ベクターを用いてγcリガンドを細胞内で産生させ、次いで、それが細胞から分泌されて活性化T細胞(例えば、培養されたもの、またはインビボでのもの)上のγc含有表面サイトカイン受容体に結合してアネルギー誘発を防止することができる。
【0035】
別のタイプのγc刺激剤は、細胞内で作用してγcにより媒介されるシグナルの引き金を引くものである。かくして、この薬剤は、γcまたはγc含有受容体の細胞外部分に結合しないが、むしろ、γcの結合に関連した細胞内シグナル(例えば、第2メッセンジャー)を模倣するかまたは誘発する。1の具体例において、細胞内で作用してγcにより媒介されるシグナルの引き金を引く該薬剤は、γcのリン酸化を刺激する。もう1つの具体例において、該薬剤は116kDのJAKキナーゼのリン酸化を刺激する。
【0036】
II.共通のサイトカイン受容体γ鎖を介するシグナリングを阻害する薬剤
A.抗γ−鎖抗体
阻害形態または阻止形態の抗体またはそのフラグメントであって、γcに結合するがγcを介して刺激を行わないものを用いて、γcを介するシグナリングを阻害することができる。抗−γc抗体の「阻害形態」は、γcに結合するが、結合した場合にγcを介する細胞内シグナルを誘発しない形態の抗体をいう。そのうえ、好ましくは、阻害形態の抗−γc抗体は、γcのその天然リガンドとの相互作用を阻害または防止し、例えば、IL−2、IL−4またはIL−7によるγcを介するシグナリングを阻害または防止する。1の具体例において、阻害形態の抗−γc抗体は、γcと架橋しない可溶性抗体である。もう1つの具体例において、阻害形態の抗−γcは、γcに結合するが、γcを介するシグナルを誘発しないFabまたはFvフラグメントのごとき抗体フラグメントである。上記のような標準的方法論を用いて阻害抗−γc抗体およびそのフラグメントを製造することができる。
【0037】
B.抗−サイトカイン抗体
γcを含む受容体に結合するサイトカインを中和する抗体(例えば、IL−2、IL−4またはIL−7に対する中和抗体)またはそのフラグメントを用いてγcを介するシグナルを阻害することもできる。用語「中和抗体」は、サイトカインに結合し、T細胞上のその受容体との相互作用を阻害または防止する抗体をいう。IL−2、IL−4またはIL−7のごときサイトカインに対する抗体は市販されているか、または上記のような標準的方法論を用いて製造することができる。
【0038】
C.他の阻害剤
γ鎖を介するシグナリングを阻害するサイトカイン受容体の共通のγ鎖に対する天然リガンドのペプチドフラグメントまたは修飾形態も、本発明により包含される。例えば、γcに結合する能力を保持しているが、もはやγcを介する刺激を行うことのできない、IL−2、IL−4またはIL−7のペプチドフラグメントまたは修飾形態を用いることができる。さらに、それゆえ、γcに結合し、γcへの天然サイトカインリガンドの結合を阻害または防止するペプチド模倣物および他の小分子(例えば、薬剤)を用いてγcを介する細胞内シグナリングを阻害することができる。細胞内γcシグナリングを阻害する修飾サイトカイン、ペプチドフラグメント、ペプチド模倣物または小分子を、本明細書記載のスクリーニングアッセイを用いて物質をスクリーニングすることにより同定することができる。別法として、合理的なドラッグデザインを用いて、天然サイトカインリガンド(例えば、IL−2、IL−4またはIL−7)のγcとの結合をブロックする分子を設計することもできる。
【0039】
本発明によるもう1つのタイプの阻害剤は、γcをコードしている核酸に対してアンチセンスである核酸である(例えば、γc遺伝子のコーディングまたは調節領域に対してアンチセンス)。例えば、T細胞応答を阻害し、抗原特異的アネルギーを誘発するための遺伝子治療として、アンチセンス核酸(例えばDNA)をインビトロで細胞に導入するか、または対象にインビボ投与することができる。アンチセンス核酸は、γcアンチセンス核酸の発現を導く方向のγc cDNAもしくは遺伝子またはその一部を含んでいるオリゴヌクレオチドまたは組換え発現ベクターであってよい。当該分野で知られているインビトロまたはインビボでの遺伝子治療に適した送達メカニズムによってアンチセンス核酸をインビトロまたはインビボにおいてT細胞に導入することができる。
【0040】
もう1つの形態のγc阻害剤は、細胞内で作用してγcにより媒介されるシグナルを阻害するものである。かくして、この薬剤は、γc含有受容体の細胞外部分への天然サイトカインリガンドの結合をブロックしないが、むしろγcの結合に関する細胞内シグナル(例えば、第2メッセンジャー)を阻害する。1の具体例において、細胞内で作用してγcにより媒介されるシグナルを阻害する該薬剤は、γcのリン酸化を阻害する。もう1つの具体例において、該薬剤は、116kDのJAKキナーゼのリン酸化を阻害する。さらにもう1つの具体例において、該薬剤は、γcと116kDのJAKキナーゼとの間の相互作用または結合を阻害する。
【0041】
III.ガンマ鎖刺激剤の治療的使用
γcを介する細胞内シグナルを刺激する薬剤を用いて、T細胞における抗原特異的アネルギーの誘発を防止し、T細胞の増殖を刺激することにより、抗原に対するT細胞応答を刺激することができる。γcを介する刺激は、本来的にはT細胞アネルギーを誘発しうる条件下でT細胞に対する抗原の提示が起こる免疫応答を促進、延長および/または維持することに関して治療的に有用でありうる。例えば、腫瘍抗原に特異的なT細胞は、共刺激シグナルの不在下で腫瘍細胞表面上の腫瘍抗原でのT細胞の刺激によってアネルギー化しやすい可能性がある(例えば、B7−1またはB7−2のごとき共刺激分子を発現しない腫瘍細胞はT細胞をアネルギー化させる可能性があり、そのことにより、抗腫瘍応答をダウンモジュレートする)。したがって、腫瘍抗原特異的シグナルの存在下でγcを介して腫瘍抗原特異的T細胞を刺激することによって抗腫瘍応答を促進することができる。例えば、上記γc刺激剤を腫瘍を有する対象に投与することができる。別法として、腫瘍を有する対象由来のT細胞を腫瘍細胞およびγc刺激剤とインビトロで接触させ、次いで、対象に再投与することができる。
【0042】
さらに、病原体を有する対象に本明細書記載のγc刺激剤を投与することによりウイルス、細菌、真菌、寄生虫等のごとき病原体に対するT細胞応答を促進し延長することができる。γcを介するT細胞の刺激によってワクチン接種の効率を増大させることもできる。例えば、ワクチンをγc刺激剤と一緒に投与してワクチン接種物質に対する免疫応答を促進することができる。
【0043】
IV.γ鎖阻害剤の治療的使用
本発明のγc阻害剤を使用して抗原に対するT細胞応答を阻害することができ、さらには、再攻撃の際にT細胞が抗原に応答しないように、抗原特異的T細胞アネルギーを誘発することができる。T細胞応答を阻害し、アネルギーを誘発するためには、抗原特異的シグナルの存在下にて、T細胞をγc阻害剤と接触させる。抗原に対するT細胞の応答は、インビトロまたはインビボのいずれかの本発明の方法により阻害することができる。インビトロでT細胞を阻害するためには、T細胞への抗原提示細胞(例えば、アロ抗原特異的応答を阻害する同種異系細胞)とともにγc阻害剤をT細胞と接触させる。インビボでT細胞応答を阻害してアネルギーを誘発するためには、γc阻害剤を対象に投与する。この場合、T細胞は、インビボで内因性刺激(例えば、インビボで抗原提示細胞によって提示される自己抗原または外来抗原)によってTCR/CD3複合体を介して所望の抗原刺激を受ける。別法として、抗原刺激をγc阻害剤と同時投与することもできる(例えば、アレルゲン特異的アネルギーを誘発するためには、該アレルゲンをγc阻害剤と同時投与し得る)。さらに、γc阻害剤と一緒に抗−CD3抗体のごとき非−特異的試薬でTCR/CD3複合体を介してシグナルを伝達することによって、非特異的にT細胞応答を阻害し得る。
【0044】
加えてまたは別法として、対象においてT細胞応答を阻害してアネルギーを誘発するためには、インビボでT細胞がB7−1またはB7−2のいずれかとCD28との相互作用によって媒介される共刺激シグナルのごとき共刺激シグナルを受けることを阻害または防止することも有益であり得る。したがって、T細胞をγc阻害剤と接触させることに加えて、CD28、B7−1またはB7−2に結合する遮断分子のごとき、T細胞における共刺激シグナルの生成を阻害する他の薬剤とT細胞とを接触させることもできる。適当な遮断分子の例には、抗−CD28Fabフラグメント、抗−B7−1または抗−B7−2遮断抗体(すなわち、CD28−B7−1/B7−2相互作用を遮断するが、T細胞において共刺激シグナルを誘発しない抗体)およびCTLA4、CD28、B7−1またはB7−2の可溶化形(例えば、CTLA4Ig融合タンパク質)が含まれる。加えて、遮断分子の組合せ、例えば、抗B7−1抗体および抗B7−2抗体を用いることもできる。
【0045】
抗原に対するT細胞応答を阻害し、抗原特異的アネルギーを誘発する本発明の方法は、以下のサブセクションでより詳細に記載するごとく、T細胞応答をダウンモジュレートすることが望ましい種々の臨床状況に適用し得る。
【0046】
A.器官移植/GVHD:T細胞アネルギーの誘発は、(例えば、移植片−対−宿主疾患(GVHD)を阻害するために)細胞、組織、皮膚および器官の移植の状況、ならびに骨髄移植に有用である。例えば、アロ反応性T細胞のアネルギー化は、組織移植における組織破壊を低下し、一般化された免疫抑制を必要とせずに長期の移植寛容を生じ得る。典型的に、組織移植においては、移植片の拒絶反応は、T細胞による外来としてのその認識につづく、移植片を破壊する免疫反応を通して始まる。γc阻害剤は、移植細胞と共に移植受容者に投与して、アロ抗原特異的T細胞不応答を誘発することができる。CTLA4IgのごときCD28/CTLA4Igを介する共刺激シグナルを阻害する薬剤は、γc阻害剤と同時投与し得る。
【0047】
前記したアプローチは、骨髄移植の状況に同様に適用して、ドナー骨髄からのアロ反応性T細胞を特異的にアネルギー化し得る。ドナー骨髄は、移植する前に、受容者からの細胞(例えば、造血細胞)およびγc阻害剤と一緒にインビトロでインキュベートし得る。T細胞における共刺激シグナルの生成を阻害するさらなる薬剤(例えば、抗B7−1および/または抗B7−2抗体、CTLA4Igなど)を、該インキュベーションに含ませることができる。ついで、処理した骨髄を受容者に投与し、その受容者をγc阻害剤単独、または共刺激シグナルを阻害する薬剤と組み合わせてインビボでさらに処理し得る。
【0048】
器官移植拒絶反応またはGVHDの予防における特定のγc阻害剤の効力は、ヒトにおける効力を予測させる動物モデルを使用して評価し得る。使用し得る適当な系の例には、ラットにおける同種異系心臓移植およびマウスにおける異種膵島細胞移植が含まれ、その双方を用いて、Lenschow ら,Science,257: 789-792 (1992) および Turka ら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,89: 11102-11105 (1992) における記載と同様にして、インビボでCTLA4Ig融合タンパク質の免疫抑制効果を測定することができる。加えて、GVHDのネズミモデル(Paul編, Fundamental Immunology, Raven Press社, New York, 1989, pp846-847)を用いて、その疾患の進展に対する、γc阻害剤を用いたT細胞不応答誘発の効果を測定することができる。
【0049】
B.自己免疫疾患:本発明の方法による抗原特異的T細胞不応答の誘発は、自己免疫疾患の治療にも治療的に有用であり得る。多くの自己免疫疾患は、自己の組織に対して反応性であり(すなわち、自己抗原に対して反応性であり)、その疾患の病理に関与するサイトカインおよび自己抗体の産生を促進するT細胞の不適当な活性化の結果である。したがって、自己反応性T細胞の活性化を予防することによって、疾患病徴を低下または除去し得る。γc阻害剤の投与を用いて、自己抗原に対するT細胞応答を阻害し得、さらにまた、自己抗原特異的アネルギーを誘発し得る。自己免疫疾患を治療するためには、治療を要する対象にγc阻害剤を投与する。別法として、公知の自己抗原による自己免疫疾患については、該自己抗原を該阻害剤と共に対象に同時投与し得る。
【0050】
この方法を用いて、真性糖尿病、(慢性関節リウマチ、若年性関節リウマチ、骨関節炎、乾癬性関節炎を含む)関節炎、多発性硬化症、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、自己免疫性甲状腺炎、(アトピー性皮膚炎および湿疹状皮膚炎を含む)皮膚炎、乾癬、シェーグレン症候群の二次乾性角結膜炎を含むシェーグレン症候群、円形脱毛症、節足動物口咬反応に起因するアレルギー反応、クローン病、アフタ性潰瘍、虹彩炎、結膜炎、角結膜炎、潰瘍性大腸炎、喘息、アレルギー性喘息、皮膚エリテマトーデス、強皮症、膣炎、直腸炎、薬疹、らい反転反応、らい性結節性紅斑、自己免疫性葡萄膜炎、アレルギー性脳脊髄炎、急性壊死性出血性脳障害、特発性両側性進行性感音難聴、無形成貧血、赤芽球ろう、特発性血小板減少症、多発性軟骨炎、ウェゲナー肉芽腫症、慢性活動性肝炎、スティーブンズ−ジョンソン症候群、特発性スプルー、偏平苔癬、クローン病、グレーブス眼症、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、後部葡萄膜炎、間質性肺線維症を包含する種々の自己免疫疾患および自己免疫成分を有する疾患を治療することができる。
【0051】
自己免疫疾患を予防し、または緩和することにおけるγc架橋剤の効力は、ヒト自己免疫疾患のよく特徴付けられた数多くの動物モデルを用いて測定し得る。例には、ネズミの実験的自己免疫性脳炎、MRL/lpr/lprマウスまたはNZBハイブリッドマウスにおける全身エリテマトーデス、ネズミ自己免疫性コラーゲン関節炎、NODマウスおよびBBラットにおける真性糖尿病、ならびにネズミ実験的重症筋無力症(Paul編, Fundamental Immunology, Raven Press社, New York, 1989, pp.840-856 参照)が包含される。
【0052】
C.アレルギー:アトピー性アレルギーにおけるIgE抗体応答は、非常にT細胞依存性であって、従って、アレルゲン特異的T細胞応答の阻害およびアレルゲン特異的アネルギーの誘発は、アレルギーおよびアレルギー反応の治療に治療的に有用となり得る。例えば、γc阻害剤は、アレルゲンに暴露したアレルギー性対象に投与して、アレルゲン特異的T細胞においてアポトーシスを誘発し、それによって該対象におけるアレルギー応答をダウンモジュレートすることができる。γc阻害剤のアレルギー性対象への投与は、アレルゲンへの環境的な暴露によってか、または該対象にアレルゲンを同時投与することによって行い得る。アレルギー反応はアレルゲンの侵入経路および肥満細胞または好塩基球へのIgEの沈着パターンに依存して天然には全身的または局所的であり得る。かくして、γc阻害剤を適当に投与することによって局所的または全身的にT細胞応答を阻害することが必要であり得る。例えば、1つの具体例において、γc阻害剤およびアレルゲンを同時にアレルギー性対象に皮下投与する。
【0053】
D.抗原−特異的アネルギーの誘発:T細胞不応答を誘発する本発明の方法は、実質的にいずれもの抗原(例えば、タンパク質)に適用して、対象中のその抗原に対してT細胞をアネルギー化し得る。かくして、T細胞がアネルギー化されるべきである目的の抗原をγc阻害剤と共に対象に投与し得る。該抗原は、可溶性形で、または担体もしくは支持体(例えば、ビーズ)に結合して投与し得る。この基本的なアプローチは、治療目的の潜在的な免疫原性分子を利用する治療用の補助として広範に適用されている。例えば、増加しつつある多種の治療アプローチは、臨床疾患治療用に、抗体、融合タンパク質などのごときタンパク質様分子を利用する。かかる分子の使用の治療的な制限は、それらが、治療する対象において治療分子に対して指向される免疫応答を誘起し得ることである(例えば、ヒト対象におけるネズミモノクローナル抗体の効力は、ヒト対象における抗体に対する免疫応答の誘発によって妨害される)。抗原特異的T細胞不応答を誘発する本発明の方法は、これらの治療状況に適用して、免疫応答を誘起することなく、対象において治療分子の長期使用を可能ならしめる。例えば、治療抗体(例えば、ヒト対象における抗体に対して特異的なT細胞を典型的に活性化するネズミmAb)に対して応答するT細胞をアネルギー化するためには、該治療抗体をγc阻害剤と共に対象(例えば、ヒト)に投与する。該方法には、さらに、CTLA4Igのごとき、CD28/CTLA4−媒介共刺激シグナルを阻害する薬剤の投与が含まれ得る。
【0054】
V.治療形のγ鎖刺激剤または阻害剤の投与
本発明の薬剤は、インビボでの医薬投与に適した生物学的適合形で対象に投与して、T細胞応答を刺激するか、または阻害する。「インビボでの投与に適した生物学的適合形」とは、いずれの毒性効果も薬剤の治療効果によって減殺される、投与すべき薬剤の形態を意味する。対象なる語は、免疫応答を誘起し得る生きている生物、例えば、哺乳動物を包含することを意図する。対象の例には、ヒト、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラットおよびそれらのトランスジェニック種が含まれる。本明細書に記載する本発明の薬剤の投与は、治療有効量のγc刺激剤または阻害剤単独、または他の治療分子(例えば、CD28に対する刺激または遮断抗体、B7−1またはB7−2遮断抗体、CTLA4Igなどのごとき、共刺激分子(例えば、B7−1および/またはB7−2)の受容体(例えば、CD28/CTLA4)を介するシグナルを刺激または阻害する薬剤)および医薬上許容し得る担体との組合せを包含するいずれの薬理学的形態とすることもできる。治療有効量の本発明の治療組成物の投与は、所望の結果を達成するのに要する投与量および期間で有効な量と規定する。例えば、治療有効量のγc刺激剤または阻害剤は、個人の疾病状態、年齢、性別および体重、ならびに該個人に所望の応答を誘起する薬剤の能力のごとき因子に従って変動し得る。投与量様式を調節して、最適な治療応答を供することができる。例えば、数回に分割した用量を毎日投与することができ、あるいは該用量は治療状況の緊急性に応じて減少させることができる。
【0055】
有効化合物は、注射(皮下、静脈内など)、経口投与、吸入、経皮適用または直腸投与によるごとき、慣用的様式で投与し得る。投与経路に依存して、該有効化合物を、該化合物を不活化し得る酵素、酸および他の天然条件の作用から該化合物を保護する物質でコートすることができる。
【0056】
非経口投与以外によって薬剤を投与するためには、該リガンドの不活化を防止する物質で該リガンドをコートするか、または該リガンドと同時投与することが必要であり得る。薬剤は、適当な担体または希釈剤中で個人に投与し得、酵素阻害剤と同時投与し得、あるいは、リポソームのごとき適当な担体中で投与し得る。医薬上許容し得る希釈剤には、生理食塩水および緩衝水溶液が包含される。酵素阻害剤には、膵臓トリプシンインヒビター、ジイソプロピルフルオロホスフェート(DEP)およびトラシロール(trasylol)が包含される。リポソームには、水中油中水型エマルション、および、慣用的なリポソーム(Strejan ら, (1984) J. Neuroimmunol. 7: 27)が包含される。
【0057】
また、有効化合物は、非経口または腹膜内でも投与し得る。また、分散物は、グリセリン、液体ポリエチレングリコールおよびその混合液中、ならびに油性物中でも調製し得る。通常の保存および使用条件下にて、これらの調製物は、保存料を含有して、微生物の増殖を防止し得る。
【0058】
注射用途に適した医薬組成物には、滅菌水溶液(水溶性である場合)または分散液、および滅菌注射溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末が包含される。すべての場合において、該組成物は、無菌でなければならず、容易な注射適性が存在する程度に流動性でなければならない。それは、製造および貯蔵の条件下にて安定でなければならず、細菌および真菌のごとき微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。担体は、溶媒、または例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセリン、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)およびその適当な混合物を含有する分散媒質であり得る。適当な流動性は、例えば、レシチンのごときコーティング剤の使用、分散液の場合には所望の粒子サイズの維持、および、界面活性剤の使用によって維持し得る。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成し得る。多くの場合、例えば、糖類、マンニトール、ソルビトールのごとき多価アルコール、塩化ナトリウムのような等張剤を組成物中に含ませるのが望ましい。注射組成物の長期吸収は、組成物中に吸収を遅延する薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含有させることによって行い得る。
【0059】
滅菌注射溶液は、前記に列挙した1つのまたは組合せた成分を入れた適当な溶媒中に必要な量の有効化合物を取り込ませ、所望により、つづいて濾過滅菌することによって調製し得る。一般的に、分散液は、有効化合物を、基本分散媒質および前記に列挙したものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに取り込ませることによって調製する。滅菌注射溶液調製用の滅菌粉末の場合においては、好ましい製法は、有効成分の粉末+さらなる所望の成分を、予め濾過滅菌したその溶液から産する真空乾燥および凍結乾燥である。
【0060】
前記のごとく、有効化合物を適当に保護する場合、該化合物は、例えば、不活性希釈剤または同化性の食用担体と共に、経口投与し得る。本明細書で用いる「医薬上許容し得る担体」には、分散媒質、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などのいずれかおよびすべての溶媒が包含される。医薬上有効な物質としてのかかる媒質および薬剤の使用は当該分野でよく知られている。有効化合物と不適合性であるいずれの慣用的媒質または薬剤の範囲を除いて、治療組成物におけるそれらの使用は予期される。補足の有効化合物も、該組成物に取り込ませ得る。
【0061】
投与の容易さおよび投与量の均一性のため、非経口組成物を投与単位形態に処方化することが特に有利である。本明細書で用いる投与単位形態とは、治療すべき哺乳動物対象用の単位投与量に適した物理学的分離単位をいい;各単位は、所望の治療効果を発揮するように算出された所定量の有効化合物を、必要とする医薬担体と一緒に含有する。本発明の投与単位形態の仕様は、(a)有効化合物の独特の特性および達成すべき特定の治療効果、ならびに(b)個人における感受性の治療のためのかかる有効化合物を調合する技術分野におけるの固有の制限によって指図され、それらに直接依存する。
【0062】
VI.スクリーニング分析
本発明のもう1つの態様はγcを介するシグナリングを阻害または刺激する薬剤の同定のためのスクリーニング分析に関する。1の具体例において、γcを介するシグナリングを阻害する薬剤の同定方法は、試験される物質の存在下または不在下で、一次活性化シグナルを刺激する第一の薬剤(例えば、抗−CD3抗体または抗原提示細胞によって提示される抗体)およびγcを介するシグナルを刺激する第二の薬剤(例えば、IL−2、IL−4もしくはIL−7などのサイトカイン、またはγcと架橋する抗体)とγcを含有するサイトカイン受容体(例えば、IL−2、IL−4R、IL−7R)を発現するT細胞とを接触させることを含有する。T細胞の増殖を測定し、γcを介するシグナリングを阻害する物質を、該物質のT細胞の増殖を阻害する能力に基いて同定する(すなわち、T細胞の増殖応答は、該物質の不在下における増殖応答と比較して、該物質の存在下において阻害される)。T細胞増殖は、トリチウム標識チミジンの取り込みのような標準的な分析によって測定できる。別法として、試験する物質の存在下および不在下での上記記載の第一および第二の薬剤でのT細胞の刺激に続き、γcと116kD JAKキナーゼとの間の会合、γcのリン酸化または116JAKキナーゼのリン酸化のような細胞内応答を測定できる。γcを介するシグナリングを阻害する物質は、該物質の、γcと116kD JAKキナーゼとの間の会合、γcのリン酸化、または116 JAKキナーゼのリン酸化を阻害する能力に基づき同定することができる。γcと116kD JAKキナーゼとの間の会合は、実施例3に記載されるように、免疫共沈降アッセイにより測定できる。γcおよび116 JAKキナーゼのリン酸化は、実施例3に記載されるように、抗−ホスホチロシン抗体を用いて分析できる。
【0063】
別法として、スクリーニング分析は、γcを介する細胞内シグナルを刺激する薬剤を同定するのに用いることができる。1の具体例において、このようなスクリーニング分析は、試験される物質の存在下および不在下で、CD28/CTLA4を介する共刺激シグナルを誘発せずに一次活性化シグナルを刺激する薬剤(例えば、抗−CD3抗原または抗原提示細胞によって提示される抗原)と、γcを含有するサイトカイン受容体(例えば、IL−2R、IL−4R、IL−7R)を発現するT細胞とを接触させ、次いでT細胞の増殖を測定することを包含する。一次活性化シグナルを刺激する薬剤のみでのT細胞の刺激はT細胞におけるアネルギーの誘発とT細胞増殖の欠如を引き起こす。γcを介するシグナルを刺激する物質は、T細胞におけるアネルギーの誘発を防止する能力に基づいて同定することができる。すなわち、刺激物質の存在下では、T細胞は、増殖し、再投与後に抗原に応答するであろう。別法として、γcまたは116kD JAKキナーゼのリン酸化のような細胞内応答が測定できる。γcを介して刺激する薬剤は、該物質の、γcまたは116kD JAKキナーゼのリン酸化を誘発する能力に基づいて同定できる。
【0064】
もう1つの具体例において、米国特許第5,283,173号およびPCT出願WO94/103002記載されるツーハイブリッド分析システムは、γcと116kD JAKキナーゼとの間の相互作用を阻害する薬剤を同定するのに用いられる。ツーハイブリッド分析システムを行うためのキットは、カリフォルニア州パロ・アルトのクロンテク(Clontech)から商業的に入手可能である。別法として、γcおよび/または116kD JAKキナーゼのグルタチオン−S−トランスフェラーゼ融合タンパク質を調製でき、これらを用いてγcと116kD JAKキナーゼとの間の相互作用を阻害する薬剤を同定することができる。例えば、1のタンパク質のGST融合を作り、試験される物質の存在下および不在下で他のタンパク質の標識調製物およびグルタチオン−アガロースで沈降したγc−116kD JAKキナーゼ複合体と一緒にインキュベートする。γcと116kD JAKキナーゼとの間の相互作用を阻害する物質はGST融合タンパク質と沈降する標識化されたタンパク質の量を減少させる基質の能力に基づき同定できる。
【0065】
本発明は以下の実施例によってさらに例示され、これは限定と解されるべきではない。本出願を通じて引用される全ての文献、特許および公開された特許出願の内容はここに引用して本明細書の一部とする。
【実施例】
【0066】
実施例1: IL−2、IL−4およびIL−7はT細胞におけるアネルギー誘発を防止する
実施例において、ヒト・アロ抗原特異的T細胞クローンモデルシステムを使用した。HLA−DR7アロ抗原特異的T細胞クローンであるTC−3およびTC−4(CD4+、CD8-、CD28+、B7-)を、標準的方法論により得た。さまざまな実験において、DR7−特異的T細胞クローンを、DR7+リンパ芽球腫細胞系(LBL−DR7)またはDR−7のみを発現するようトランスフェクトさせたNIH−3T3細胞(t−DR7)またはDR−7およびB7−1を発現するようトランスフェクトさせたNIH−3T3細胞(t−DR7/B7−1)と共に培養した。LBL−DR7はEBVでトランスフォームしたリンパ芽球腫B−細胞系であり、これはHLA−DR7にとって同種接合であって、B7−1、B7−2、LFA−1、LFA−3およびICAM−1を強力に発現する。NIH−3T3細胞トランスフェクタントはギンミ,シィ・ディ(Gimmi, C. D.)ら (1993)[プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ,ユー・エス・エイ(Proc.Natl. Acad. Sci. USA) 90: 6586]に記載されている。さまざまな実験において、異なるサイトカインまたは抗体を培養に添加した。それぞれの実験の前に、T細胞クローンを、アロ抗原による再刺激無しでIL−2中において10ないし14日休止させた。使用に先立ち、細胞は、刺激無しでまたはIL−2無しで一晩培養した。
【0067】
最初の一連の実験において、アロ抗原−特異的(すなわち、DR7−特異的)T細胞クローンを、初代培養において1)LBL−DR7、2)培地中でまたは様々なサイトカインの存在下でのLBL−DR7およびCTLA4−Ig、3)t−DR7/B7−1または4)培地中でまたは様々なサイトカインの存在下でのt−DR7とインキュベートする。実験で用いられるサイトカインおよび使用されるサイトカインの濃度は以下の通りである:IL−2(50U/ml);IL−4(5ng/ml)(マサチューセッツ州ケンブリッジのジェンザイム(Genzyme));IL−6(30ng/ml)(ジェンザイム(Genzyme));IL−7(10ng/ml)(ジェンザイム(Genzyme));IL−12(10U/ml)(マサチューセッツ州ケンブリッジのジェネティクス・インスティチュート(Genetics Institute);TNFα(500U/ml)(ジェンザイム(Genzyme));IFNγ(500U/ml)(マサチューセッツ州ケンブリッジのバイオジェン(Biogen))。使用に先立ち、LBL−DR7細胞およびNIH3T3トランスフェクタントをマイトマイシン−Cで処理した。いくつかの実験において、LBL−DR7細胞に放射線照射(9600rads)した。T細胞クローンは初代培養で24時間培養した。初代培養に続き、T細胞をフィコールによってLBL−DR7から、パーコールによってNIH 3T3トランスフェクタントから分離し、培地中IL−2無しで12時間再び培養した。それぞれの集団は二次培養においてLBL−DR7スティミュレーターを連続して再び投与した。試料を培養し、増殖を[3H]−チミジン(1μCi)の取り込みによって測定した。
【0068】
LBL−DR7で刺激したT細胞の結果を図1、パネルAに示す。NIH−3T3トランスフェクタントで刺激したT細胞の結果を図1、パネルBに示す。結果は再投与における応答を示し、三重培養の平均として表す。同一の結果がTC−3クローンおよびTC−4クローンの両方について得られた。HLA−DR7同種接合リンパ芽球腫細胞系(LBL−DR7)またはHLA−DR7およびB7−1共刺激分子を発現させるトランスフェクタント(t−DR7/B7−1)との初代培養に続き、HLA−DR7−特異的アロ反応性T細胞クローンはLBL−DR7細胞での二回目の再投与について顕著に増殖する。対照的に、T細胞クローンの初代培養が、B7ファミリー媒介の共刺激を阻害するためにCTLA4−Igの存在下でいずれかのLBL−DR7細胞と共にあるか、またはHLA−DR7のみを発現するトランスフェクタント(t−DR7)と共にある場合、それらは、アネルギー化され、LBL−DR7細胞での再投与に応答しなかった。IFN−γ、TNF−α、IL−6、IL−10、またはIL−12の変化する濃度を、初代培養に、LBL−DR7およびCTLA4−Igまたはt−DR7と共に添加することによっては、アネルギーの誘発を防止できなかった。これは幾分驚くべきである、なぜなら、IFN−γ、IL−6、IL−10およびIL−12はそれぞれそれ単独でT細胞クローンの増殖を誘発できるからである。対照的に、LBL−DR7およびCTLA4−Igまたはt−DR7との初代培養へのIL−2、IL−4またはIL−7の添加は、アネルギーの誘発を防止した。
【0069】
実施例2:IL−2、IL−4およびIL−7受容体の共通のγ−鎖の刺激はT細胞中におけるアネルギーを防止する。
外来性IL−2、IL−4、およびIL−7の添加のみはアロ抗原−特異的アネルギーの誘発を阻害し(実施例1参照)、これらのサイトカインはγcを共有するので、初代培養間のγcシグナリングはアネルギーの防止と関連するかを試験した。この問題を処理するために、特異的なmAbsを使用した。様々な抗体が、1)IL−2受容体のαまたはβ鎖(αIL−2RαおよびαIL−2Rβ)、2)IL−4またはIL−7の通常の受容体の鎖(αIL−4RおよびαIL−7R)、および3)IL−2、IL−4、およびIL−7受容体により共有される共通のγ鎖(αγc)に指向された。LBL−DR7およびCTLA4−Igまたはt−DR7とのT細胞クローンの初代培養は、ウサギ抗マウスIg(RaM)と架橋する上記mAbsのそれぞれと一緒であった。初代培養および再投与が実施例1に記載されるように行われた。IL−2Rαに対する抗体(IgG2a)(デイ・エイ・フォックス(D. A. Fox))ら (1984) ジェイ・イムノル(J. Immunol.)133: 1520)(コウルタ(Coulter))、IR−2Rβ(IgG)(エム・カミオ(M. Kamio)ら (1990) イント・イムノル(Int. Immunol.)2: 521)(コウルタ(Coulter))、IL−4R(IgG1)(ダブリュ・シィ・ファンスロウ(W. C. Fanslow)ら (1993) ブラッド(Blood)81: 2998)(ジェンザイム(Genzyme))、IL−7R(IgG1)(アール・ジー・ゴッドウィン(R. G. Goodwin)ら (1990) セル(Cell)60: 941)(ジェンザイム(Genzyme))またはγc(IgG1)(ティ・ナカライ(T. Nakarai))ら (1994) ジェイ・イクスプ・メド(J. Exp. Med.)180: 241)およびRaMが全て10μg/mlの濃度で用いられた。ビオチン化されたγc抗体が使用され、ストレプトアビジン(10μg/ml)との架橋が、ビオチンを含まないRPMI中で行われた。TC−3クローンおよびTC−4クローンの両方について同一の結果が得られた。
【0070】
LBL−DR7で刺激したT細胞の結果が、図2、パネルAに示される。t−DR7で刺激したT細胞の結果は図2、パネルBに示される。初代培養中のIL−2Rα、IL−2Rβ、IL−4RまたはIL−7Rの架橋はアネルギーの誘発を防止しなかった。対照的に、初代培養中のγcの架橋はアネルギーの誘発により防止し、再投与による増殖およびIL−2分泌の両方を引き起こし、これは、アネルギーを起こさない対照細胞で観察されるものに匹敵する。これらの結果は、TCRシグナリングの存在下では、共通のγ鎖架橋はアネルギーの誘発を防止するのに十分であることを示す。さらに、これらのデータは、アネルギーの誘発を防止するIL−2、IL−4およびIL−7の共通の効果が、γcシグナリング経路を通じて媒介されるという仮説を支持する。
【0071】
実施例3:T細胞におけるアネルギー誘発の防止は、116kD JAKキナーゼのリン酸化に関連する。
γcを介して媒介される共通のシグナリング経路がIL−2、IL−4およびIL−7刺激の後に同定され得るかを試験するために、T細胞クローンを、IL−2、IL−4またはIL−7を用いて培養し、細胞溶解物を抗γcmAbを用いて免疫沈降させた。アロ抗原特異的ヒトヘルパーT細胞クローンをIL−2を含まない無D−MEM血清培地中で12時間インキュベートし、次いで、培地IL−2、IL−4、IL−7、TNFα、またはIL−12を用いて15分間刺激した。細胞を、10mMトリス−HCl(pH7.6)、5mM EDTA、50mM NaCl、30mMピロリン酸ナトリウム、50mM NaFI、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、5μg/mlアプロチニン、1μg/mlペプスタチン、および2μg/mlダイズトリプシン阻害薬、1mMフェニルメチルスルホニルフルオリドおよび0.5%NP−40[シグマ(Sigma)]を含有する溶解緩衝液を用いて溶解させた。図3のパネルAにおいて示される実験のために、免疫沈降は、抗γc抗体を用いて行われ、プロテインA−セファロース上で免疫複合体を単離し、溶解緩衝液で3回洗浄し、6〜12%SDS−PAGE勾配液で分析した。ニトロセルロース膜に移動したタンパク質を、10%ウシ血清アルブミンを含有するTBST(20mMトリスHCl、pH7.6、137mM NaCl、0.1%トゥィーン−20)中で振盪することによって、室温で1時間ブロックした。ホスホチロシンタンパク質の検出のために、ブロットを、4G10抗ホスホチロシンモノクローナル抗体(1:2000)と一緒に室温で60分間インキュベートした。該ブロットを洗浄緩衝液(50mMトリス−HCl、pH7.6、200mM NaCl、0.1%トゥィーン−20)で3回洗浄し、次いで、ホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲートヒツジ抗マウスIgG(1:5000)[イリノイ州アーリントン・ハイツのアマーシャム(Amersham)]と一緒に60分間インキュベートした。ブロットを、洗浄緩衝液で3回洗浄し、次いで、増強したケミルミネッセンス基質[アマーシャム(Amersham)]と一緒にインキュベートし、X線フィルムに暴露し、現像した。ECLイムノデプレション(immunodepletion)の後、イムノブロットを、50℃で1時間、62.5mMトリス−HCl(pH6.8)、3%w/v SDSおよび100mMβ−メルカプトエタノール中でインキュベートすることによってストリッピングした。図3に示される他の実験のために、膜をブロックし、抗JAK(R80)(1:1000)抗体(パネルB)またはJAK1(パネルC)、JAK2(パネルD)およびTyk2(パネルE)に対するペプチド特異的mAbのいずれかと一緒に再プローブし、前記と同様に洗浄および検出した。
【0072】
図3のパネルAは、γcの64kDバンドが116kDのバンドと一緒に共沈することを示す。抗ホスホチロシンmAbを用いるウェスタンブロッティングは、チロシン残基上の64kDおよび116kDの両方のバンドのリン酸化を示した。これらの結果は、γcが物理的に116kD分子に関連しており、IL−2、IL−4またはIL−7によるT細胞の刺激によりγcと一緒に共リン酸化されることを示唆している。さらにまた、これらの結果は、IL−2R、IL−4RおよびIL−7Rシグナル伝達におけるγcの重要な役割を支持する。
【0073】
116kDリン酸化基質がプロテインキナーゼ(JAKキナーゼ)のヤーヌス(Janus)ファミリーのメンバーであったかを判定するために、JAKファミリーメンバーの機能性カルボキシ末端キナーゼドメイン(JH1)に対して指向するポリクローナル抗体(R80)を用いた。抗γcmAbを用いた免疫沈降の後、共通のJAKキナーゼ(R80)に対する抗体を用いたブロッティングは、γcと一緒に共沈した116kDバンドがR80によって認識されたことを示した(図3のパネルB)。対照的に、JAK1、JAK2およびTyk2に対するペプチド特異的mAbによるイムノブロットの再ブロッティングは、116kDバンドがこれらのmAbのいずれによっても認識されなかったことを示した(各々、図3のパネルC、DおよびE)。これらの結果は、γcシグナリングにより、JAK1、JAK2およびTyk2とは異なる116kD JAKキナーゼファミリーメンバーのリン酸化を生じることを示す。
【0074】
γ鎖シグナリングにより、116kD JAKキナーゼのリン酸化およびアネルギーの防止が生じるので、116kD JAKキナーゼのリン酸化が、アネルギーの誘発を防止した種々の条件下で誘発されたかが試験された。T細胞クローンを、t−DR7またはt−DR7/B7−1のいずれかの培地を用いて24時間培養した。培養後、T細胞を、パーコール(Percoll)勾配液によりトランスフェクタントから分離し、溶解し、次いで、R80を用いて免疫沈降させた。細胞溶解物を調製し、共通のJAK(R80)抗体を用いて免疫沈降させ、前記と同様に、4G10抗ホスホチロシンモノクローナル抗体(1:2000)を用いるイムノブロット分析法を行った。t−DR7/B7−1培養(非アネルギー化条件)により、116kDタンパク質の有意なリン酸化が生じた(図4のパネルA)。対照的に、t−DR7培養(アネルギー化条件)後は、培地対照と比較して116kDタンパク質のリン酸化の有意な増加はなかった。TNFαまたはIL−12の存在下ではなくIL−2、IL−4またはIL−7の存在下でのt−DR7細胞を用いるT細胞クローンの培養は、アネルギーの誘発を防止するだけではなく、116kdタンパク質のリン酸化を生じた(図4のパネルB)。
【0075】
前記の結果は、γcシグナリングがアネルギーの防止において重要な工程を表すことを示す。末端シグナリングメカニズムとは関係なく、γc架橋の機能的結果は、他の受容体鎖の架橋がこの機能的効果を誘発しないので、アネルギーの防止のために重要であると思われる。これらの結果は、T細胞生存および機能の調節におけるγcの中心的な役割を強調する。実質的には、すべてのネズミおよびヒト胸腺細胞は、γcを発現するので[Cao, X. ら (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. 90: 8464]、γcを介してシグナリングできるサイトカインの重複性がT細胞アネルギーおよび/またはクローン除去の誘発に対して宿主を保護することは、驚くべきことではない。CD28共刺激は、IL−2蓄積を誘発し、IL−2受容体発現を増強するので、この経路は、IL−2を介するアネルギーの誘発を防止する際に非常に有効であり、一方、γcを介するシグナリングの能力を有する他のサイトカインは、他の微小環境におけるアネルギーの誘発を防止するのに同等に有効である。例えば、骨髄間質細胞によるIL−7の産生[Henney, C. S. (1989) Immunol Today 10: 170]は、骨髄微小環境におけるアネルギーの誘発を防止するようなメカニズムを提供する。さらに、より最近開示された、IL−13およびIL−15を含むサイトカインもまた、γcを介してシグナリングでき、したがって、アネルギーの誘発を防止することができるサイトカインの能力範囲が広がる。
【0076】
等価
当業者は、本明細書に記載の本発明の特定の具体例についての多くの等価物を、慣用の実験法のみを用いて認識するか、または、確かめることができるであろう。かかる等価物は、特許請求の範囲によって包含される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1のA〜Bは、LBL−DR7による抗原投与後のDR7特異的T細胞の増殖のグラフ図であり、IL−2、IL−4およびIL−7がT細胞アネルギーの誘発を妨げることができることを示す。パネルAでは、T細胞に、CTLA4Igとの共刺激を遮断しつつ、抗原(LBL−DR7)による刺激によるアネルギー性シグナルを与えた。パネルBでは、T細胞に、共刺激シグナルの不在下、抗原単独(t−DR7)による刺激によるアネルギー性シグナルを与えた。
【図2】図2のA〜Bは、LBL−DR7による抗原投与後のDR7特異的T細胞の増殖のグラフ図であり、IL−2、IL−4およびIL−7受容体の共通のγ鎖の架橋がT細胞アネルギーの誘発を妨げることを示す。パネルAでは、T細胞に、CTLA4Igとの共刺激を遮断しつつ、抗原(LBL−DR7)による刺激によるアネルギー性シグナルを与えた。パネルBでは、T細胞に、共刺激シグナルの不在下、抗原単独(t−DR7)による刺激によるアネルギー性シグナルを与えた。
【図3】図3のA〜Eは、免疫沈降フィルターの写真であり、T細胞のIL−2、IL−4またはIL−7による刺激後のγcおよび116kDのJAKキナーゼの会合およびリン酸化を示す。パネルAは、抗−IL−2Rγ抗体による116kD JAKキナーゼとγcとの免疫共沈降、ならびに、抗ホスホチロシン抗体(4G10)の結合によるγcおよび116kD JAKキナーゼの両方のリン酸化を示す。116kDタンパク質は、抗−JAK抗体(R80)(パネルB)の結合によって示されるJAKキナーゼファミリーメンバーであるが、JAK1(パネルC)、JAK2(パネルD)またはTyk2(パネルE)に対する抗体を結合しない。
【図4】図4のAは、免疫沈降フィルターの写真であり、DR7特異的T細胞の、抗原性シグナルおよび抗原性シグナル単独(t−DR7)ではなく共刺激シグナル(t−DR7/B7−1)による刺激の後の116kD JAKキナーゼのリン酸化を示す。図4のBは、免疫沈降フィルターの写真であり、DR7特異的T細胞の、抗原性シグナル(t−DR7)およびIL−2、IL−4またはIL−7のいずれかによる刺激の後の116kD JAKキナーゼのリン酸化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイトカイン受容体γ鎖に結合し、かつ、T細胞における細胞内シグナルを刺激する薬物(ただし、該薬物は、天然のインターロイキン−2からなってはいない)とT細胞とを接触させてT細胞増殖を生じさせることを含む、T細胞において通常不応答を生じる条件下で一次活性化シグナルを受けた、サイトカイン受容体γ鎖を発現するT細胞による増殖を刺激するための方法。
【請求項2】
薬物がインターロイキン−4またはインターロイキン−7である請求項1記載の方法。
【請求項3】
薬物が抗γ鎖抗体である請求項1記載の方法。
【請求項4】
T細胞をインビボで薬物と接触させる請求項1記載の方法。
【請求項5】
さらに、T細胞における一次活性化シグナルを刺激する薬物、およびγ鎖に結合し、かつ、T細胞における細胞内シグナルを刺激する薬物の両方とT細胞とを接触させることを含む請求項1記載の方法。
【請求項6】
さらに、T細胞における共刺激シグナルを刺激する薬物とT細胞とを接触させることを含む請求項5記載の方法。
【請求項7】
T細胞における一次活性化シグナルを刺激する薬物が抗原である請求項5記載の方法。
【請求項8】
抗原がウイルス、細菌および寄生虫からなる群から選択される病原体である請求項7記載の方法。
【請求項9】
抗原が腫瘍抗原である請求項7記載の方法。
【請求項10】
T細胞をインビボで抗原と接触させる請求項7記載の方法。
【請求項11】
細胞内で作用してドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって測定した約116kDの分子量を有するJAKキナーゼのリン酸化を刺激する薬物とT細胞とを接触させてT細胞増殖を生じさせることを含む、T細胞において通常不応答を生じる条件下で一次活性化シグナルを受けた、サイトカイン受容体γ鎖を発現するT細胞による増殖を刺激するための方法。
【請求項12】
T細胞をインビボで薬物と接触させる請求項11記載の方法。
【請求項13】
さらに、T細胞における一次活性化シグナルを刺激する薬物、および細胞内で作用してドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって測定した場合に約116kDの分子量を有するJAKキナーゼのリン酸化を刺激する薬物の両方とT細胞とを接触させることを含む請求項11記載の方法。
【請求項14】
さらに、T細胞における共刺激シグナルを刺激する薬物とT細胞とを接触させることを含む請求項13記載の方法。
【請求項15】
T細胞における一次活性化シグナルを刺激する薬物が抗原である請求項14記載の方法。
【請求項16】
抗原がウイルス、細菌および寄生虫からなる群から選択される病原体である請求項15記載の方法。
【請求項17】
抗原が腫瘍抗原である請求項15記載の方法。
【請求項18】
T細胞をインビボで抗原と接触させる請求項15記載の方法。
【請求項19】
抗原の存在下、サイトカイン受容体γ鎖を介するシグナルの伝達を阻害する薬物とT細胞とを接触させて、抗原に対するT細胞不応答を生じさせることを含む、サイトカイン受容体γ鎖を発現するT細胞における抗原に対する不応答を誘発するための方法。
【請求項20】
薬物が細胞外で作用して、サイトカイン受容体γ鎖を介するシグナルの伝達を阻害する請求項19記載の方法。
【請求項21】
薬物がサイトカイン受容体γ鎖を介するT細胞における細胞内シグナルを刺激することなくサイトカイン受容体γ鎖に結合する請求項20記載の方法。
【請求項22】
薬物が抗γ鎖抗体である請求項21記載の方法。
【請求項23】
薬物がサイトカイン受容体γ鎖の天然リガンドに結合して、該リガンドのサイトカイン受容体γ鎖への結合を阻害する請求項20記載の方法。
【請求項24】
薬物が抗インターロイキン−2抗体、抗−インターロイキン−4抗体および抗−インターロイキン−7抗体からなる群から選択される請求項23記載の方法。
【請求項25】
薬物が細胞内で作用して、サイトカイン受容体γ鎖を介するシグナルの伝達を阻害する請求項19記載の方法。
【請求項26】
薬物が、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって測定した場合に約116kDの分子量を有するJAKキナーゼとサイトカイン受容体γ鎖との会合を阻害する請求項25記載の方法。
【請求項27】
薬物が、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって測定した場合に約116kDの分子量を有するJAKキナーゼのチロシンリン酸化を阻害する請求項25記載の方法。
【請求項28】
薬物がサイトカイン受容体γ鎖のチロシンリン酸化を阻害する請求項25記載の方法。
【請求項29】
薬物が、サイトカイン受容体γ鎖、およびドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって測定した場合に約116kDの分子量を有するJAKキナーゼの両方のチロシンリン酸化を阻害する請求項25記載の方法。
【請求項30】
T細胞をインビボで薬物と接触させる請求項19記載の方法。
【請求項31】
さらに、T細胞を抗原と接触させることを含む請求項19記載の方法。
【請求項32】
抗原がアロ抗原である請求項31記載の方法。
【請求項33】
抗原が自己抗原である請求項31記載の方法。
【請求項34】
T細胞をインビトロで抗原および薬物と接触させ、さらに、対象体にT細胞を投与することを含む請求項31記載の方法。
【請求項35】
抗原が同種異系細胞または異種細胞の表面上にあり、対象体が同種異系細胞または異種細胞のレシピエントである請求項34記載の方法。
【請求項36】
対象体が、自己免疫疾患または不適当もしくは異常な免疫応答に関連する障害に罹っている請求項34記載の方法。
【請求項37】
サイトカイン受容体γ鎖を発現するドナーT細胞を、レシピエント抗原を発現する細胞およびT細胞上でサイトカイン受容体γ鎖を介するシグナルの伝達を阻害する薬物と接触させて、レシピエント抗原を発現する細胞に対するドナーT細胞不応答を生じさせることを含む、骨髄移植レシピエントにおける移植片対宿主病の阻害方法。
【請求項38】
薬物が抗−γ鎖抗体である請求項37記載の方法。
【請求項39】
薬物がサイトカイン受容体γ鎖の天然リガンドと結合して、リガンドのサイトカイン受容体γ鎖への結合を阻害する請求項37記載の方法。
【請求項40】
薬物が抗−インターロイキン−2抗体、抗−インターロイキン−4抗体および抗−インターロイキン−7抗体からなる群から選択される請求項39記載の方法。
【請求項41】
薬物が、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって測定した場合に約116kDの分子量を有するJAKキナーゼとサイトカイン受容体γ鎖との会合を阻害する請求項39記載の方法。
【請求項42】
薬物がドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって測定した場合に約116kDの分子量を有するJAKキナーゼのチロシンリン酸化を阻害する請求項39記載の方法。
【請求項43】
薬物がサイトカイン受容体γ鎖のチロシンリン酸化を阻害する請求項39記載の方法。
【請求項44】
薬物が、サイトカイン受容体γ鎖、およびドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって測定した場合に約116kDの分子量を有するJAKキナーゼの両方のチロシンリン酸化を阻害する請求項39記載の方法。
【請求項45】
a)サイトカイン受容体γ鎖を発現するT細胞を、
(1)T細胞における一次活性化シグナルを刺激する第1薬物、
(2)サイトカイン受容体γ鎖を介する細胞内シグナルを刺激する第2薬物、および
(3)サイトカイン受容体γ鎖を介するシグナルの伝達を阻害する能力について試験されるべき第3薬物
と接触させること;および
b)T細胞増殖の存在を判断すること(ここで、T細胞増殖の阻害は、第3薬物がサイトカイン受容体γ鎖を介するT細胞へのシグナルの伝達を阻害することを示す)
を含む、T細胞上でサイトカイン受容体γ鎖を介するシグナルの伝達を阻害する薬物の同定方法。
【請求項46】
第2薬物がサイトカインである請求項45記載の方法。
【請求項47】
サイトカインがインターロイキン−2、インターロイキン−4およびインターロイキン−7からなる群から選択される請求項46記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−112815(P2007−112815A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14706(P2007−14706)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【分割の表示】特願平8−503948の分割
【原出願日】平成7年6月30日(1995.6.30)
【出願人】(591183991)ダナ−ファーバー キャンサー インスティテュート,インコーポレイテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】DANA−FARBER CANCER INSTITUTE, INCORPORATED
【Fターム(参考)】