説明

共重合ポリエステル及びそれを用いてなる繊維並びに共重合ポリエステルの製造方法

【課題】 重縮合触媒としてアンチモン化合物を用いずに製造することのできる、実質的にアンチモンを含まず、かつ、色調が良好で優れた発色性を有する、常圧染色可能なカチオン可染性ポリエステル繊維用に適した共重合ポリエステル及びそれを用いてなるポリエステル繊維、並びにそのような共重合ポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリエステルを構成する繰り返し単位が主にエチレンテレフタレート単位であり、スルホン酸塩基含有成分がポリエステルの全酸成分に対して0.5〜8.0モル%、炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸成分がポリエステルの全酸成分に対して0.5〜15.0モル%共重合されており、かつ、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体が100〜400ppm含有されていることを特徴とする共重合ポリエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常圧でカチオン染料に染色可能なポリエステル繊維用として好適な共重合ポリエステル及びそれを用いてなるポリエステル繊維、並びにそのような共重合ポリエステルを得るための製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)を主体とするポリエステルは、その優れた機械的特性と化学的特性のため、衣料用、産業用等の繊維のほか、磁気テープ用、コンデンサー用等のフィルムあるいはボトル等の成形物用樹脂として広く用いられている。しかしながら、単なるポリエステルを溶融紡糸して得られる繊維は、衣料用繊維として用いるには染色性が良好とはいえず、分散染料による染色が一般的であるため、染色物の鮮明さが劣るという問題があった。そこで、その問題を解決すべく、5−ナトリウムイソフタル酸に代表されるスルホン酸塩基含有成分を共重合した共重合ポリエステルが開発され、この共重合ポリエステルは、塩基性染料(以下、カチオン染料と称する)に可染性の衣料用ポリエステル繊維の成形用樹脂として多用されるに到っている。さらに、スルホン酸塩基含有成分に加えて、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分を共重合することにより、通常は染液の温度を120〜150℃とすべく加圧状態で染色を行うが、常圧(染液の温度100℃)での染色が可能なカチオン染料可染性ポリエステル繊維が提供されている。
【0003】
そのような共重合ポリエステルも含め、PETを主体とするポリエステルの製造における重縮合用触媒としては、優れた触媒活性を有しかつ安価であることから、三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物が広く用いられている。しかしながら、アンチモン化合物を重縮合触媒に用いて製造されたポリエステルには、重縮合時に金属アンチモンが析出する結果、得られたポリエステルに黒ずみや異物が発生するため、繊維に用いる場合には溶融紡糸の際に口金の孔周辺に異物が付着して毛羽が発生するといった生産上の問題点や、染色物の鮮明性が劣るという問題があった。また、近年環境面からアンチモンの安全性に対する問題が指摘されていることからも、アンチモンを含まないポリエステルが望まれている。
【0004】
重縮合触媒として、三酸化アンチモンを用いて、かつポリエステルの黒ずみや異物の発生を抑制する試みが行われている。例えば、重縮合触媒として三酸化アンチモンとビスマス及びセレンの化合物を用いることで、ポリエステル中の黒色異物の生成を抑制する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、重縮合触媒としてナトリウムと鉄の酸化物を含有する三酸化アンチモンを用いて、金属アンチモンの析出を抑制する方法が開示されている(特許文献2参照)。しかし、これらの重縮合触媒にはアンチモンが含まれているので、結局アンチモンを含まないポリエステルを得るという目的を達成することはできない。
【0005】
一方、アンチモン化合物に代わる重縮合触媒の検討も行われている。特に、テトラアルコキシチタネートがすでに提案されているが、これを用いて製造されたポリエステルは著しく着色する、熱分解を起こしやすい等の問題がある。
【0006】
アンチモンを含まないで、かつ、テトラアルコキシチタネートを用いたときのような問題点を克服する重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物が実用化されているが、この触媒は非常に高価であり、また、重合中に反応系から外へ洩出しやすいために反応系の触媒濃度が変化し、重合の制御が困難になるといった問題を有している。
【0007】
また、アルミニウム化合物とそれ以外の金属化合物とを組合わせることで、それらの触媒活性を足し合わせた以上の触媒活性を持たせることができるようにした重縮合触媒が提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第2666502号公報(特許請求の範囲、発明の効果)
【特許文献2】特開平9−291141号公報(特許請求の範囲、発明の効果)
【特許文献3】特開2000−302854号公報(課題を解決する手段)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、重縮合触媒としてアンチモン化合物を用いずに製造することのできる、実質的にアンチモンを含まず、かつ、色調が良好で優れた発色性を有する、常圧染色可能なカチオン可染性ポリエステル繊維用に適した共重合ポリエステル及びそれを用いてなるポリエステル繊維、並びにそのような共重合ポリエステルの製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、スルホン酸塩基含有成分及び脂肪族ジカルボン酸成分が共重合された共重合ポリエステルを製造するにあたり、上記した特許文献3の実施例を参考にして、重縮合触媒としてアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とを逐次的に添加する方法を試験してみたところ、十分な触媒効果が奏されはしたものの、得られた共重合ポリエステルの色調は満足できるものではなかった。そこで、鋭意検討を重ねた結果、重縮合触媒としてアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とを逐次的に添加するのではなく、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を用いることにより、色調の良好な共重合ポリエステルが得られることを見出し、また、その共重合ポリエステルから得た繊維を常圧でカチオン染料にて染色したところ、優れた発色を呈することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、次の通りである。
(1)ポリエステルを構成する繰り返し単位が主にエチレンテレフタレート単位であり、 スルホン酸塩基含有成分がポリエステルの全酸成分に対して0.5〜8.0モル% 、炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸成分がポリエステルの全酸成分に対して0 .5〜15.0モル%共重合されており、かつ、マグネシウム化合物とアルミニウ ム化合物とからなる固溶体が100〜400ppm含有されていることを特徴とす る共重合ポリエステル。
(2)上記(1)に記載の共重合ポリエステルを用いてなるポリエステル繊維。
(3)エチレンテレフタレートオリゴマー、炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸、及び スルホン酸塩基含有成分を出発原料に用い、マグネシウム化合物とアルミニウム化 合物とからなる固溶体を重縮合触媒に用いて重縮合反応を行なうことを特徴とする 共重合ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の共重合ポリエステルは、実質的にアンチモンを含まない環境負荷の少ないものであり、色調に優れていて常圧染色可能なカチオン可染性ポリエステル繊維用の樹脂として好適である。また、触媒残留物として含まれるマグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体は、その屈折率がPETに近いため、アンチモン化合物を含む場合と比較して、くすみがなく、繊維化して染色した際の発色性に優れる共重合ポリエステル樹脂である。
【0012】
また、本発明のポリエステル繊維は、本発明の共重合ポリエステルを用いたことに由来して、上記したような優れた特性を備えた衣料用に好適なポリエステル繊維である。
【0013】
また、本発明の製造方法は、重縮合触媒にマグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体を用いることにより、両化合物の複合的な効果として適度な重合活性が得られるため、アンチモン化合物を用いることなしに共重合ポリエステルを効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明の共重合ポリエステルは、ポリエステルを構成する繰り返し単位が主にエチレンテレフタレート単位であり、スルホン酸塩基含有成分及び脂肪族ジカルボン酸成分が共重合されてなるものである。
【0016】
本発明の共重合ポリエステルにおけるエチレンテレフタレート単位の割合としては、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。エチレンテレフタレート単位の割合が80モル%未満では、ポリエステルに特有の良好な物性が低下する傾向にあるので好ましくない。
【0017】
共重合されるスルホン酸塩基含有成分としては、ポリエステルと反応する官能基を有するスルホン酸塩基含有成分であれば特に限定されるものではないが、例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸などのジカルボン酸及びそのアルキル及び/又はヒドロキシアルキルエステル、また、ナトリウムスルホ安息香酸等のオキシカルボン酸及びそのアルキルエステル等が挙げられる。このうち、カチオン染料による発色性、溶融紡糸時の操業性及びコストの面から、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジエチレングリコールエステル及び5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルが特に好ましい。
【0018】
共重合成分であるスルホン酸塩基含有成分の共重合割合としては、ポリエステルの全酸成分に対して0.5〜8.0モル%の範囲内である。このスルホン酸塩基含有成分の共重合割合が0.5モル%未満であると、カチオン染料の染着座席が不足するため、繊維とした際の染色性が不十分なものとなる。一方、スルホン酸塩基含有成分の共重合割合が8.0モル%を超えると、共重合ポリエステルの溶融粘性が高くなるため、重合度を十分に上げることが困難となり、材料強度、例えば繊維としたときの糸強度が低下する。
【0019】
また、共重合される脂肪族ジカルボン酸成分としては、炭素数5〜10のジカルボン酸成分であることが必要である。脂肪族ジカルボン酸成分の炭素数が4以下であると、共重合ポリエステルの熱安定性が低下するため、重縮合反応中に共重合ポリエステルの色調が悪化し、また、溶融紡糸して繊維とした際には糸強度が低下する。また、脂肪族ジカルボン酸成分の分子鎖が短いため、共重合してもポリエステルの非晶構造に乱れを生じさせる効果が少なく、常圧染色時に良好な染色性を得ることができない。一方、炭素数が11以上であると、共重合ポリエステルのガラス転移温度を大きく低下させることになり、共重合ポリエステルのペレット同士がブロッキングして取り扱いが困難になる。また、脂肪族ジカルボン酸成分の長い分子鎖の部分は熱安定性が悪いため、重縮合反応中に共重合ポリエステルの色調が悪化し、また、溶融紡糸して繊維とした際には糸強度が低下する。本発明に用いることのできる炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸成分の具体例としては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
【0020】
共重合成分である炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸成分の共重合割合としては、ポリエステルの全酸成分に対して0.5〜15.0モル%の範囲内であることが必要であり、2.0〜10.0モル%の範囲内がより好ましい。この脂肪族ジカルボン酸成分の共重合割合が0.5モル%未満であると、共重合ポリエステルを繊維とした際の常圧染色下でのカチオン染料に対する染色性が不十分となる。一方、脂肪族ジカルボン酸成分の共重合割合量が15.0モル%を超えると、共重合ポリエステルの熱安定性が低下するため、重縮合反応中に共重合ポリエステルの色調が悪化することになり、また、共重合ポリエステルの結晶性が低下して配向しにくくなるため、繊維とした際に糸強度が低いものとなる。
【0021】
なお、本発明の共重合ポリエステルには、本発明の効果を損ねない範囲で、上記以外の共重合成分が共重合されていてもよい。そのような共重合成分の例としては、イソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等の脂肪族グリコール成分、1,4ーシクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール成分、ポリエチレングリコール等のポリアルキレンエーテル成分、ビスフェノールAやビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール成分、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸成分が挙げられる。
【0022】
本発明の共重合ポリエステルには、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体が100〜400ppm含有されている。このマグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体は、本発明の共重合ポリエステルの製造過程において重縮合触媒として使用されたものが残存している。すなわち、共重合ポリエステル中の含有量は使用量に応じた量となっている。また、本発明の共重合ポリエステルは、その製造過程において従来のアンチモン化合物を重縮合触媒として使用しないので、実質的にアンチモンを含まないものである。したがって、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体の含有量が100ppm未満の場合、重縮合触媒としての作用が不足するため、本発明の共重合ポリエステルの重合度が繊維化に適した範囲にまで高められていないものとなる。一方、400ppmを超えると、共重合ポリエステルの色調が悪化したり、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体が共重合ポリエステル中で凝集して粗大粒子となり、紡糸に用いた際にパック圧の上昇や糸切れといったトラブルの原因となる。
【0023】
なお、上記の繊維化に適した重合度については、極限粘度を指標とすることができる。すなわち、本発明の共重合ポリエステルの極限粘度としては、0.40〜0.80の範囲にあることが好ましく、0.45〜0.75の範囲にあることが特に好ましい。極限粘度が0.40未満であると、繊維としたときに強度が不足する傾向にあるので好ましくない。一方、0.80を超える範囲では、溶融紡糸が困難となるので好ましくない。
【0024】
本発明に用いられるアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体とは、それぞれの化合物が均一に溶け合った固体である。この固溶体において、アルミニウム元素とマグネシウム元素の物質量(モル)比としては、アルミニウム/マグネシウムの比が0.1〜10.0であることが好ましく、0.2〜5.0がさらに好ましい。
【0025】
上記した固溶体を構成するアルミニウム化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム等のカルボン酸塩が挙げられ、また、塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム等の無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn−プロポキサイド、アルミニウムn−ブトキサイド等のアルミニウムアルコキサイドが挙げられ、また、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテートまた、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物及びこれら有機アルミニウム化合物の部分加水分解物が挙げられ、また、酸化アルミニウム、金属アルミニウム等が挙げられる。これらのうちカルボン酸塩と無機酸塩が好ましく、これらの中でも水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウムが特に好ましい。
【0026】
一方、マグネシウム化合物としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、マグネシウムアセチルアセトネート、酢酸以外のカルボン酸等が挙げられ、中でも、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが特に好ましい。
【0027】
なお、本発明におけるアルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体としては、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物のいずれか一方もしくは両者において2種類以上が選択されて構成されたものであってもよい。
【0028】
また、本発明におけるアルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体には、必要に応じて、マグネシウム、アルミニウム以外の金属(他の金属)の化合物が固溶していてもよいが、その場合には、当該固溶体の質量の70%以上がアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とで占められていることが好ましい。他の金属としては、亜鉛、チタン、錫、コバルト、マンガン、ニオブ、タンタル、タングステン、インジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、鉄、ニッケル、ガリウム等が挙げられる。
【0029】
本発明におけるアルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体のうち、特に好適なものとしては、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムとからなる固溶体が挙げられる。また、これに少量の酸化亜鉛が固溶したものも好適である。
【0030】
本発明の共重合ポリエステルには、酸化チタン粒子が添加されていてもよい。酸化チタンはポリエステルの艶消し剤や白色顔料として一般的に使用されているが、本発明の共重合ポリエステルに適量の酸化チタンが添加されていることにより、繊維とした際の白度が向上し、良好な色調の布帛を得ることができる点で好ましい。酸化チタンの添加量としては、共重合ポリエステル100質量部(酸化チタンの質量を含まない)に対して、0.005〜5.0質量部であることが好ましい。酸化チタンの添加量が0.005質量部より少ないと、白度を向上させる効果が得られ難く、一方、5.0質量部を超えると、共重合ポリエステルの外観が黄色味を帯びてくる傾向にあるのみならず、酸化チタン粒子の二次凝集が起こりやすく、粗大粒子により紡糸の際のパック圧上昇やガイド摩耗というトラブルが起こりやすく、溶融紡糸時の操業性が低下する傾向にあるので好ましくない。上記の酸化チタン粒子としては、平均粒径が1.0μm以下のものが好ましく、0.1〜0.6μmのものが特に好ましい。
【0031】
また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物のような抗酸化剤、コバルト化合物、蛍光剤、染料のような色調改良剤、酸化セリウムのような耐光剤等、各種の添加剤が本発明の共重合ポリエステルに添加されていてもよい。
【0032】
本発明の共重合ポリエステルは、常圧染色可能なカチオン可染性繊維用として好適なものであり、これを用いて通常の方法で溶融紡糸することにより、本発明のポリエステル繊維が得られる。例えば、本発明の共重合ポリエステルのペレットを常法により乾燥し、通常の溶融紡糸機台に供給して共重合ポリエステルの融点より20℃以上高い温度で溶融紡糸し、1000〜4000m/分の速度で、未延伸糸又は半未延伸糸としていったん捲き取るか、あるいは、捲き取ることなく、引き続いて1.5〜3.5倍に延伸し、80〜180℃で熱処理を行い目的の繊維を得ることができる。
【0033】
なお、本発明のポリエステル繊維は、本発明の共重合ポリエステル以外に他の樹脂を用いて複合繊維としてもよく、繊維の形態としては、長繊維でも短繊維でもよく、必要に応じて、捲縮加工、仮撚加工、薬液による処理等の後加工を施して用いることもできる。
【0034】
また、本発明のポリエステル繊維には、上記したような本発明の共重合ポリエステルに添加可能な酸化チタン粒子以外の各種の添加剤が含まれていてもよいことはいうまでもく、それらの各種添加剤は、溶融紡糸の際に添加されたものであってもよい。
【0035】
次に、上記のような共重合ポリエステルを製造することのできる本発明の製造方法について説明する。
【0036】
本発明の製造方法は、スルホン酸塩基含有成分及び脂肪族ジカルボン酸成分が共重合された共重合ポリエステルを製造するための方法であって、エチレンテレフタレートオリゴマー、炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸及びスルホン酸塩基含有成分を出発原料として重縮合を行うことにより所望の共重合ポリエステルを製造するものであり、その重縮合触媒として、上記したようなマグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体を用いて行うものである。本発明の製造方法では、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とを別個の触媒物質として系に添加するのではなく、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体を用いることによって、適度な重合活性が得られ、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とを逐次的に添加する場合に生じるような、共重合ポリエステル中に不溶な分解物等の微小な異物が発生したり、色調が優れないという問題が解決される。
【0037】
本発明の製造方法において、重縮合触媒としてのマグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体の使用量としては、重縮合して得られる共重合ポリエステルの全体量に対して、100〜400ppmであることが好ましい。この固溶体の使用量が100ppm未満では、重縮合触媒としての活性が不足して、共重合ポリエステルの重合度を十分に高めることが困難となり、繊維化に適した極限粘度を有する共重合ポリエステルが得られ難いので好ましくない。一方、400ppmを超える使用量とすると、得られる共重合ポリエステルの色調が悪化したり、あるいは、固溶体が共重合ポリエステル中で凝集して粗大粒子となり、溶融紡糸に用いた際のパック圧の上昇や糸切れといったトラブルの原因となることがあるので好ましくない。
【0038】
以下に、本発明の製造方法を、好ましい態様にもとづいてさらに詳細に説明する。
【0039】
本発明の製造方法では、適当な反応容器内に、出発原料として、エチレンテレフタレートオリゴマーと炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸成分のグリコールスラリー、及びスルホン酸塩基含有成分を投入する。ここで、各出発原料を投入するタイミング及び方法としては、特に限定されるものではないが、炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸成分としては、予めグリコールスラリーとしておいて、エチレンテレフタレートオリゴマーの投入とほぼ同時に投入することが好ましい。
【0040】
また、スルホン酸塩基含有成分の分散性を良くするため、スルホン酸塩基含有成分の投入前に、エチレンテレフタレートオリゴマーを、エチレングリコール(以下、EGと略記する。)を用いて解重合しておくことが好ましい。この、エチレンテレフタレートオリゴマーを解重合する際に使用されるEGの量としては、エチレンテレフタレートオリゴマーが100質量部に対して、EGが1〜50質量部であることが好ましく、3〜30質量部であることがより好ましい。EGの使用量が1質量部未満であると、エチレンテレフタレートオリゴマーの解重合が不十分となりやすく、スルホン酸塩基含有成分由来の異物が発生しやすくなるので好ましくない。一方、50質量部を超えると、得られる共重合ポリエステル中のジエチレングリコール(以下、DEGと略記する。)の含有量が多くなる傾向にあり、その結果として、共重合ポリエステルの耐熱性が低下したり、また、繊維化した際には繊維が仮撚性に劣るものとなりやすいので好ましくない。なお、上記したように脂肪族ジカルボン酸成分をグリコールスラリーとするにあたっては、EGスラリーとすれば、解重合に使用されるEGと兼用できることになるので好ましい。
【0041】
上記のエチレンテレフタレートオリゴマーの解重合を行なうための温度としては、210〜260℃が好ましい。解重合温度が210℃未満では、エチレンテレフタレートオリゴマーが固化して解重合が行えなくなるので好ましくない。一方、解重合温度が260℃を超えると、得られる共重合ポリエステル中のDEGの含有量が多くなる傾向にあるので好ましくない。また、解重合を行う時間としては、5〜90分が好ましく、15〜60分間がより好ましい。解重合時間が5分未満であると、エチレンテレフタレートオリゴマーの解重合が不十分となりやすく、スルホン酸塩基含有成分由来の異物が発生しやすくなる傾向にあるので好ましくない。一方、90分を超えると、得られる共重合ポリエステル中のDEGの含有量が多くなる傾向にあるので好ましくない。
【0042】
上記で説明したように、好ましくは解重合されたエチレンテレフタレートオリゴマーと、炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸成分に加え、さらにスルホン酸塩基含有成分を出発原料として投入するのであるが、スルホン酸塩基含有成分を投入するに際しては、EG溶液もしくはスラリーの形で投入するのが好ましい。
【0043】
本発明の製造方法において、スルホン酸塩基含有成分の投入と同時もしくはそれ以前に、アルカリ金属化合物を添加すると、DEGの副生を抑制することが可能になり、高品質の共重合ポリエステルが得られるので好ましい。そのようなアルカリ金属化合物の例としては、水酸化物、有機カルボン酸塩、アルコラート、無機弱酸塩等があり、具体的にはナトリウム、カリウム、リチウムの水酸化物、蟻酸塩、酢酸塩等の脂肪族カルボン酸塩、メチラート、エチラート、ブチラート、炭酸塩、重炭酸塩、ホウ酸塩等を挙げることができる。中でも、酢酸ナトリウム及び酢酸リチウムはDEGの副生を抑制する効果が高いので、特に好ましく用いられる。
【0044】
上記のアルカリ金属化合物の添加量としては、ポリエステルの酸成分1モルに対して、5×10-4〜5×10-3とすることが好ましい。アルカリ金属化合物の添加量が、ポリエステルの酸成分1モルに対して5×10-4モル未満であると、反応中に副生するDEGの量が多くなるので好ましくない。一方、5×10-3モルを超えると、アルカリ金属原子に由来するポリエステルに不溶の成分が発生しやすくなるので好ましくない。
【0045】
なお、アルカリ金属化合物を添加する前にスルホン酸塩基含有成分を投入すると、反応中に副生するDEGの量が多くなる傾向にある。したがって、アルカリ金属化合物を添加するタイミングとしては、スルホン酸塩基含有成分の投入と同時もしくはそれより前に、アルカリ金属化合物を添加することが好ましいのである。
【0046】
上記のようにしてエチレンテレフタレートオリゴマー、炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸、及びスルホン酸塩基含有成分とを投入した後に、重縮合触媒であるアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を添加するのであり、その添加方法としては、特に限定されるものではないが、上記固溶体を分散媒中に分散させたスラリーとして添加することが好ましい。このとき、スラリー中の固溶体の含有量としては、0.5〜3.0質量%とするのが好ましい。0.5質量%未満では、スラリーの添加量が多くなり、重合時に多量の溜出物が生成し、コストアップにつながりやすいので好ましくない。一方、3.0質量%を超えると、系にスラリーを添加した際に、固溶体の凝集が起こりやすく、共重合ポリエステル中で固溶体が粗大粒子となり、ポリエステル繊維を紡糸する際にパック圧の上昇や糸切れといったトラブルを生じる原因となりやすいので好ましくない。
【0047】
上記した固溶体のスラリーに用いる分散媒としては、EG、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、DEG、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3ーブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等が挙げられ、これらの中でもEGが特に好ましい。
【0048】
また、固溶体が凝集して粗大粒子となることを防止するうえで、EG等の分散媒に所定量の固溶体を添加して撹拌混合した後、超音波処理を行うことが好ましい。このときの超音波の周波数は通常の周波数領域でよく、例えば、20kHz程度から100kHzの範囲での処理が採用できる。超音波を発生させる発振源としては、公知の手段でよく、例えば、水晶を用いた圧電振動子、ニッケルやフェライトを用いた電歪発振子等が挙げられる。また、超音波処理の時間としては、0.5〜5.0時間の範囲が好ましい。
【0049】
本発明の製造方法は、例えば次のように実施することができる。
【0050】
まず、準備段階として、出発原料となるエチレンテレフタレートオリゴマーを得るために、温度230〜250℃で窒素ガス制圧下、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートまたはその低重合体(エチレンテレフタレートオリゴマー)の存在するエステル化反応槽に、EGとテレフタル酸(以下、TPAと略記する。)からなり、両者の物質量(モル)比が1.1〜2.0のスラリーを添加し、滞留時間7〜8時間でエステル化反応物を連続的に得る。このようにして得られるエステル化反応物が、本発明にいう出発原料のうちのエチレンテレフタレートオリゴマーとなる。
【0051】
次に、このエステル化反応物すなわちエチレンテレフタレートオリゴマーを重合反応缶に移送し、エチレンテレフタレートオリゴマーが100質量部に対して、1〜50質量部のEG量となる範囲で調製した炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸のEGスラリーを添加し、15〜60分かけて解重合を行う。その後、アルカリ金属化合物を添加してから、スルホン酸塩基含有成分(EG溶液もしくはスラリー)を所定量添加し、重縮合触媒として、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体(EGスラリー)を添加した後、重合反応缶の温度を260〜280℃に昇温し、0.01〜13.3hPaの減圧下にて、所定の極限粘度となるまで重縮合反応を行う。
【0052】
本発明の製造方法において、例えば、スルホン酸塩基含有成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジエチレングリコールエステル(以下、SIPGと略記する。)に代表されるジアルキレングリコールエステルを使用する場合には、上記した如くエチレンテレフタレートオリゴマーを所定量のEGで解重合した後、アルカリ金属化合物を添加し、SIPGを30〜40質量%濃度のEG溶液の形にして系内に投入し、次いで、重縮合触媒である上記固溶体をEGスラリーの形で所定量投入し、減圧を開始するという手順で行うのが好ましい。また、例えば、スルホン酸塩基含有成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステル(以下、SIPMと略記する。)に代表されるジメチルエステルを使用する場合には、エチレンテレフタレートオリゴマーを所定量のEGで解重合した後、アルカリ金属化合物を添加し、SIPMを30〜40質量%濃度のEGスラリーの形にして系内に投入し、次いで、重縮合触媒である上記固溶体をEGスラリーの形で所定量投入し、減圧を開始するという手順で行うのが好ましい。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例と比較例中の特性値の測定法は、次のとおりである。ただし、(a)〜(f)は共重合ポリエステルのペレットについて、(g)及び(h)は共重合ポリエステルを用いて得られたポリエステル繊維について測定した。

(a)極限粘度([η])
フェノール/テトラクロロエタン=1/1(質量比)を溶媒とし、温度20℃で測定した。
(b) マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体の含有量
蛍光X線分析装置(リガク社製3270)を用いて、ポリエステル樹脂のアルミニウム元素の含有量を測定し、これを固溶体中のアルミニウム元素の比率から換算して、固溶体の含有量を求めた。
(c)ジエチレングリコールの含有量(D%)
得られた共重合ポリエステルをアルカリ加水分解した後、ガスクロマトグラフ(島津製作所製GC−9A)を用いてEGとDEG の物質量(モル数)を定量し、EG とDEGの物質量(モル数)の和に対するDEGの物質量(モル数)の割合(%)として求めた。
(d)共重合ポリエステルの色調
色差計(日本電色工業社製ND−Σ80型)を用いて測定した。色調の判定は、ハンターのLab表色系で行った。L値は明度(値が大きい程明るい)、a値は赤−緑系の色相(+は赤味、−は緑味)、b値は黄−青系の色相(+は黄味、−は青味)を表す。共重合ポリエステルの色調としては、L値が大きい程、a値が0に近い程、また極端に小さくならない限りb値が小さい程良好である。ここではL値とb値を測定した。なお、L値が65以上、b値が5.0以下を合格とした。
(e)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC−7)を用いて、昇温速度20℃/分で測定した。
(f)酸化チタンの含有量
蛍光X線分析装置(リガク社製3270)を用いて、チタン元素の含有量を測定し、共重合ポリエステル中のチタン元素が全て二酸化チタンの形で存在していると仮定して求めた。
(g)繊維の強度(cN/dtex)
ポリエステル繊維(フィラメントヤーン)を50cmの長さに切断したものを、万能試験機(オリエンティック社製テンシロンRTC−1210型)を用いて、50cm/分の速度にて引張試験を行い、そのストレス−ストレイン曲線から求めた。ここでは、2.5cN/dtex以上を合格とした。

(h)染色性(染色後L値)
ポリエステル繊維(フィラメントヤーン)を筒編みし、60℃で20分の精錬を行った後、下記の染色条件下、100℃で60分間の常圧染色をして風乾した。次に小型ピンテンターを用いて150℃で1分間の熱セットを行った後、4枚重ねのサンプル片を作成した。このサンプル片のL値を色彩色差計(ミノルタ社製CR−100)で測定し、染色性の評価を行った。このL値が低いほど繊維の色が濃いことを示し、染料が繊維中に多く吸尽されていることになる。したがって、L値が低いほど染色性が良いと判断し、染色後L値が35以下のものを合格とした。
(染色条件)
染料 アストラゾンブルー 0.5% o.m.f.
均染剤 酢酸 0.2mL/L
酢酸ナトリウム 0.2g/L
浴比 1:50
【0054】
実施例1
エチレンテレフタレートオリゴマーの存在するエステル化反応缶にTPAとEGとの物質量(モル)比が1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.1MPa、滞留時間8時間の条件で、エステル化反応を行い、反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマーを連続的に得た。
【0055】
このエチレンテレフタレートオリゴマー46.5kgを重縮合反応缶に移送し、アジピン酸(以下、ADと略記する。)の濃度が25質量%に調製されたEGスラリー7.2kg(ポリエステルの酸成分1モルに対するADの量が5.0モル%となり、エチレンテレフタレートオリゴマー100質量部に対するEGの量が11.6質量部となる)を投入し、250℃にて60分間の解重合反応行った。次に、酸化チタン(チタン工業社製KA−30)の濃度が20質量%となるよう調製されたEGスラリー0.5kgを添加した後、酢酸リチウムの濃度が5質量%となるよう調製されたEG溶液0.8kg(ポリエステルの酸成分1モルに対する酢酸リチウムの量が1.5×10-3モルに相当する)を添加した。次いで、SIPGの濃度が30質量%となるよう調製されたEG溶液7.4kg(SIPGの共重合量がポリエステルを構成する全酸成分中2.5モル%に相当する)を投入し、さらに触媒として、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムとからなり、アルミニウム/マグネシウムの物質量(モル)比が0.4である固溶体(堺化学工業社製HT−P)の濃度が1.5質量%となるよう調製されたEGスラリー0.8kg(固溶体の使用量が得られる共重合ポリエステルの量に対し250ppmに相当する)を添加した。この後、昇温と並行して減圧を開始し、30分後には重縮合反応缶内の温度を270℃とし、60分後には圧力を1.2hPa以下とした。そして、この温度(270℃)及び減圧(1.2hPa以下)条件を保ちつつ、攪拌しながら2時間の重縮合反応を行い、常法により払い出してペレット化することにより、本発明の共重合ポリエステルをペレットの形態で得た。
【0056】
また、上記で得た共重合ポリエステルのペレットを常法により乾燥した後、これを用いて通常の溶融紡糸装置により紡糸した。このとき、紡糸温度を300℃、吐出量を39.6g/分として、ノズルパック内に装着された直径100mm、目開き2000メッシュ(アメリカ式)のフィルターで濾過し、直径(D)0.25mm、L/D=2の孔を36個有するノズルから紡出して3300m/分の速度で部分未延伸糸を捲き取った。次いで、この部分未延伸糸を延伸機に供給し、80℃で予熱した後、温度150℃のヒートプレートに接触させながら1.5倍に延伸、熱処理して捲き取ることにより、83dtex/36fのフィラメントヤーンとして本発明のポリエステル繊維を得た。
【0057】
実施例2、比較例1、2
SIPGの共重合量、酸化チタンの添加量及び重縮合触媒である固溶体の添加量をそれぞれ表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0058】
比較例3
脂肪族ジカルボン酸として、AD(炭素数6)に代えてコハク酸(炭素数4)を用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0059】
比較例4
脂肪族ジカルボン酸として、AD(炭素数6)に代えてドデカン二酸(炭素数12)を用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0060】
実施例3
実施例1と同様の方法で得られたエチレンテレフタレートオリゴマー49.6kgを重縮合反応缶に移送し、ADの濃度が25質量%に調製されたEGスラリー10.5kg(ポリエステルの酸成分1モルに対するADの量が9.5モル%となり、エチレンテレフタレートオリゴマー100質量部に対するEGの量が21.2質量部となる)を投入し、250℃にて60分間の解重合反応行った。次に、酸化チタン(チタン工業社製KA−30)の濃度が20質量%となるよう調製されたEGスラリー0.2kgを添加した後、酢酸リチウムの濃度が5質量%となるよう調製されたEG溶液0.8kg(ポリエステルの酸成分1モルに対する酢酸リチウムの量が1.5×10-3モルに相当する)添加した。次いで、SIPMの濃度が30質量%となるよう調製されたEGスラリー2.0kg(SIPMの共重合量がポリエステルを構成する全酸成分中0.8モル%に相当する)を投入し、さらに触媒として、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムとからなり、アルミニウム/マグネシウムの物質量(モル)比が0.4である固溶体(堺化学工業社製HT−P)の濃度が1.5質量%に調製されたEGスラリー0.5kg(固溶体の使用量が得られる共重合ポリエステルの量に対し150ppmに相当する)を添加した。この後、昇温と並行して減圧を開始し、30分後には重縮合反応缶内の温度を270℃とし、60分後には圧力を1.2hPa以下とした。そして、この温度(270℃)及び減圧(1.2hPa以下)条件を保ちつつ、攪拌しながら2時間の重縮合反応を行い、常法により払い出してペレット化することにより、本発明の共重合ポリエステルをペレットの形態で得た。また、実施例1と同様にして、上記の共重合ポリエステルのペレットを用いた本発明のポリエステル繊維を得た。
【0061】
比較例5〜8
SIPMの共重合量、ADの共重合量、酸化チタンの添加量及び重縮合触媒である固溶体の添加量をそれぞれ表1に示すように変更した以外は、実施例3と同様に実施した。
【0062】
実施例4
脂肪族ジカルボン酸として、AD(炭素数6)に代えてアゼライン酸(炭素数9)を用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0063】
実施例5
重縮合触媒として、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムとからなる実施例1記載の固溶体中に、酸化亜鉛が(亜鉛)/(アルミニウム+マグネシウム)の物質量(モル)比が0.05となるように固溶したものを使用し、その添加量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様に実施した。
【0064】
比較例9
重縮合触媒として、酢酸アルミニウムを得られる共重合ポリエステルに対し150ppmに相当する量と、酢酸マグネシウムをポリエステルに対し105ppmに相当する量で使用し、これらを逐次的に添加した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0065】
比較例10
重縮合触媒として、三酸化アンチモンを得られる共重合ポリエステルに対し250ppmとなる量で添加した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0066】
実施例1〜5及び比較例1〜10で得られた共重合ポリエステル並びにポリエステル繊維の特性値、評価結果を表1にまとめて示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、実施例1〜5では、色調が良好で、繊維化するのに適した極限粘度を有する共重合ポリエステルが得られた。これらの共重合ポリエステルを溶融紡糸した結果、強度が十分であり、かつ、常圧染色でカチオン染料にて染色した際の染色性が良好であるポリエステル繊維を得ることができた。
【0069】
一方、比較例1〜10では、次のような問題があった。
【0070】
比較例1は、スルホン酸塩基含有成分たるSIPGの共重合量が少なすぎたために、共重合ポリエステルを溶融紡糸して得られたポリエステル繊維は、カチオン染料で常圧染色した際の発色性が悪かった。
【0071】
比較例2は、スルホン酸塩基含有成分たるSIPGの共重合量が多すぎたために、十分な極限粘度を有する共重合ポリエステルを得ることができなかった。その結果、溶融紡糸時に糸切れが多発し、繊維を得ることができなかった。
【0072】
比較例3は、脂肪族ジカルボン酸成分として炭素数が4であるコハク酸を用いたために、得られた共重合ポリエステルの色調が悪くなった。また、この共重合ポリエステルを溶融紡糸して得られたポリエステル繊維は、強度が低く、カチオン染料で常圧染色した際の発色性も悪かった。
【0073】
比較例4は、脂肪族ジカルボン酸成分として炭素数が12のドデカン二酸を使用したために、得られた共重合ポリエステルの色調が悪くなった。また、溶融紡糸して得られたポリエステル繊維は、強度の低いものとなった。
【0074】
比較例5は、脂肪族ジカルボン酸成分たるADの共重合量が少なすぎたために、共重合ポリエステルを溶融紡糸して得られたポリエステル繊維は、カチオン染料で常圧染色した際の発色性が悪かった。

比較例6は、脂肪族ジカルボン酸成分たるADの共重合量が多すぎたために、得られた共重合ポリエステルの色調が悪くなった。また、溶融紡糸して得られたポリエステル繊維は、糸強度が低く、実用に値しないものであった。
【0075】
比較例7は、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体の含有量が少なすぎたために、十分な極限粘度を有する共重合ポリエステルを得ることができなかった。その結果、溶融紡糸して得たポリエステル繊維の強度が低くなり、実用に値しないものであった。
【0076】
比較例8は、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体の含有量が多すぎたために、得られた共重合ポリエステルの色調が悪くなった。また、固溶体に起因すると見られる粗大粒子のため、溶融紡糸時に糸切れが多発し、繊維を得ることができなかった。
【0077】
比較例9は、重縮合触媒として、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を用いたのではなく、別々のアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とを逐次的に添加して用いたため、得られた共重合ポリエステルの色調が悪くなった。その結果、溶融紡糸して得られたポリエステル繊維は、カチオン染料で染色した際の発色性に劣るものであった。
【0078】
比較例10は、重縮合触媒として三酸化アンチモンを用いたために、得られた共重合ポリエステルの色調が悪くなった。その結果、溶融紡糸して得られたポリエステル繊維は、カチオン染料で染色した際の発色性に劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを構成する繰り返し単位が主にエチレンテレフタレート単位であり、スルホン酸塩基含有成分がポリエステルの全酸成分に対して0.5〜8.0モル%、炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸成分がポリエステルの全酸成分に対して0.5〜15.0モル%共重合されており、かつ、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体が100〜400ppm含有されていることを特徴とする共重合ポリエステル。
【請求項2】
請求項1に記載の共重合ポリエステルを用いてなるポリエステル繊維。
【請求項3】
エチレンテレフタレートオリゴマー、炭素数5〜10の脂肪族ジカルボン酸、及びスルホン酸塩基含有成分を出発原料に用い、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物とからなる固溶体を重縮合触媒に用いて重縮合反応を行なうことを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法。


【公開番号】特開2006−63215(P2006−63215A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248413(P2004−248413)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】